(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】分散液の製造方法および分散液
(51)【国際特許分類】
C08J 3/11 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
C08J3/11 CEW
(21)【出願番号】P 2020118484
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-123256(JP,A)
【文献】特開平06-346017(JP,A)
【文献】特開2006-045490(JP,A)
【文献】特開2001-026416(JP,A)
【文献】特公昭48-033021(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/131805(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137828(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/163525(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/208707(WO,A1)
【文献】特開2017-088861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
C08L
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン系ポリマーの
体積基準累積50%径が0.1μm以上8μm以下であるパウダーと、表面張力が30mN/m以下の
アルコールおよびケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の液状化合物とを混合して混合物を得、該混合物と
フッ素系界面活性剤以外の界面活性剤を含む液状分散媒とを
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー100質量部に対して前記液状分散媒が100質量部超で混合する
、フッ素系界面活性剤を実質的に添加しない分散液の製造方法。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー100質量部に対して前記液状化合物が100質量部以下である
、請求項1に記載の分散液の製造方法。
【請求項3】
前記液状分散媒が水、アミドおよび炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の液状分散媒である
、請求項1
または2に記載の分散液の製造方法。
【請求項4】
前記混合物をさらに混練した後、前記液状分散媒と混合する
、請求項1から
3のいずれか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項5】
無機フィラーおよび芳香族ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに混合する
、請求項1から
4のいずれか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項6】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位またはヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマーである
、請求項1から
5のいずれか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項7】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、酸素含有極性基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである
、請求項1から
6のいずれか1項に記載の分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含有する分散液の製造方法、およびテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含有する分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは、電気絶縁性、撥水撥油性、耐薬品性、耐熱性等の物性に優れており、そのパウダーが水や油性溶剤中に分散した分散液は、レジスト、接着剤、電気絶縁層、潤滑剤、インク、塗料等を形成するための材料として有用である。しかし、テトラフルオロエチレン系ポリマーは表面エネルギーが低く、そのパウダー同士は凝集しやすいため、分散安定性に優れた、分散液を得ることは難しい。
特許文献1には、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーの非水系分散体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1記載の分散液も分散安定性という点では未だ充分ではない。
また特許文献1の分散体は非水系分散体に限定されている。
【0005】
本発明者らは、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含有する、分散安定性に優れた分散液を得るべく、かかる分散液の製造方法を検討し、本発明の完成に至った。
【0006】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーおよび表面張力が低い液状化合物を含む分散液の製造方法、およびテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー、液状化合物および液状分散媒を含有する分散液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]
テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、表面張力が30mN/m以下の液状化合物とを混合して混合物を得、該混合物と液状分散媒とを混合する分散液の製造方法。
[2]
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー100質量部に対して前記液状化合物が100質量部以下である前記[1]に記載の分散液の製造方法。
[3]
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー100質量部に対して前記液状分散媒が100質量部超である前記[1]または[2]に記載の分散液の製造方法。
[4]
前記液状化合物がアルコールおよびケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の液状化合物である前記[1]から[3]のいずれかに記載の分散液の製造方法。
[5]
前記液状分散媒が水、アミドおよび炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の液状分散媒である前記[1]から[4]のいずれかに記載の分散液の製造方法。
[6]
前記混合物をさらに混練した後、前記液状分散媒と混合する前記[1]から[5]のいずれかに記載の分散液の製造方法。
[7]
無機フィラーおよび芳香族ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに混合する前記[1]から[6]のいずれかに記載の分散液の製造方法。
[8]
フッ素系界面活性剤を実質的に添加しない、前記[1]から[7]のいずれかに記載の分散液の製造方法。
[9]
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位またはヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマーである前記[1]から[8]のいずれかに記載の分散液の製造方法。
[10]
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、酸素含有原子団を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである前記[1]から[9]のいずれかに記載の分散液の製造方法。
[11]
テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、アルコールおよびケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、かつ表面張力が30mN/m以下の液状化合物と、アミドおよび炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、かつ表面張力が20mN/m以上50mN/m以下の液状分散媒または水とを含み、固形分量が25質量%以上である分散液
[12]
無機フィラーおよび芳香族ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む前記[11]に記載の分散液。
[13]
固形分量が50質量%以上である前記[11]または[12]に記載の分散液。
[14]
粘度が1000から100000mPa・sである前記[11]から[13]のいずれかに記載の分散液。
[15]
フッ素系界面活性剤を実質的に含有しない、前記[11]から[14]のいずれかに記載の分散液。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含有する、分散安定性に優れた分散液が製造できる。また本発明の分散液は分散性が改良され、分散安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「テトラフルオロエチレン系ポリマー」とは、テトラフルオロエチレンに基づく単位を含有するポリマーであり、単に「Fポリマー」とも記す。
「ポリマーのガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「ポリマーの溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度である。
「D50」は、粒子の平均粒子径であり、レーザー回折・散乱法によって求められる粒子の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒子の粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「D90」は、粒子の累積体積粒径であり、「D50」と同様にして求められる粒子の体積基準累積90%径である。
「分散液の粘度」は、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下でパウダー分散液について測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「モノマーに基づく単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0010】
本発明の製造方法(以下、本法とも記す)は、Fポリマーのパウダー(以下、本パウダーとも記す)、および表面張力が30mN/m以下の液状化合物(以下、液状化合物(1)とも記す)を混合して混合物を得て、前記混合物と液状分散媒(以下、液状分散媒(1)とも記す)を混合して分散液(以下、本分散液(1)とも記す)を得る方法である。本分散液(1)は、本パウダーが粒子状に分散した分散液である。
また本発明の分散液(以下、本分散液(2)とも記す)は、本パウダーと、アルコールおよびケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、かつ表面張力が30mN/m以下の液状化合物(以下、液状化合物(2)とも記す)と、アミドおよび炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、かつ表面張力が20mN/m以上50mN/m以下の液状分散媒または水(以下、両者を総称して液状分散媒(2)とも記す)とを含み、固形分量が25質量%以上である分散液である。本分散液(2)は、本パウダーが粒子状に分散した分散液である。
【0011】
本法によると、分散安定性とハンドリング性とに優れた、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含む分散液が得られる。また、本分散液(1)および本分散液(2)からは、電気特性等の、テトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく物性および表面平滑性等の塗膜物性に優れた成形物を容易に形成できる。
その理由は必ずしも明確ではないが、混合により表面張力が低いFポリマーと表面張力の低い液状化合物(1)との親和が亢進し、高度に濡れたFパウダーが形成されるため、液状分散媒(1)との混合におけるFパウダーの凝集が抑制され、本分散液(1)の分散安定性とハンドリング性が向上したと考えられる。
【0012】
本法におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとも記す)に基づく単位(以下、TFE単位とも記す)を含むポリマーである。
Fポリマーのフッ素含有量は、70から76質量%であるのが好ましい。かかるフッ素含有量が高いFポリマーは、Fポリマーの電気物性等の物性に優れる反面、表面張力が低いため、分散媒との親和性も低い。そのため分散液を調製した際に、その分散性がさらに低下する。本法によれば、かかる分散液においても、全体のFポリマーの物性が損なわれず、分散性に優れた分散液が得られる。
【0013】
Fポリマーの溶融温度は、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、260℃以上がさらに好ましい。Fポリマーの溶融温度は、325℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。Fポリマーの溶融温度は、180℃以上325℃以下が特に好ましい。
Fポリマーのガラス転移点は、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。Fポリマーのガラス転移点は、150℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましい。
【0014】
Fポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)、TFE単位とフルオロアルキルエチレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とクロロトリフルオロエチレンに基づく単位とを含むポリマーが挙げられ、PFAまたはFEPが好ましく、PFAがより好ましい。前記ポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3またはCF2=CFOCF2CF2CF3(以下、PPVEとも記す)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0015】
Fポリマーは、酸素原子を含む原子団を有するのが好ましい。かかる原子団に基づくFポリマーは物性に優れ、さらに本法によればFポリマーの物性を十分に発現できる、分散安定性にすぐれた分散液が得られる。
前記原子団は、Fポリマー中のモノマー単位に含まれていてもよく、ポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として前記原子団を有するFポリマーが挙げられる。
酸素原子を含む原子団は、水酸基含有基またはカルボニル基含有基が好ましく、カルボニル基含有基が特に好ましい。
【0016】
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CF2CH2OHまたは-C(CF3)2OHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボニル基(>C(O))を含む基であり、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)またはカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
【0017】
Fポリマーの好適な態様としては、TFE単位およびPAVE単位を含み、酸素原子を含む原子団を有するポリマー(1)、または、TFE単位およびPAVE単位を含み、全モノマー単位に対してPAVE単位を2.0から5.0モル%含み、酸素原子を含む原子団を有さないポリマー(2)が挙げられる。これらのポリマーは、成形物中において微小球晶を形成するため、成形物の特性が向上しやすい。
【0018】
ポリマー(1)は、TFE単位と、PAVE単位と、水酸基含有基またはカルボニル基含有基を有するモノマーとを含むポリマーが好ましい。ポリマー(1)は、全単位に対して、TFE単位を90から99モル%、PAVE単位を0.5から9.97モル%、および前記モノマーに基づく単位を0.01から3モル%、それぞれ含むのが好ましい。前記モノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸または5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)が好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0019】
ポリマー(2)は、TFE単位およびPAVE単位のみからなり、全モノマー単位に対して、TFE単位を95.0から98.0モル%、PAVE単位を2.0から5.0モル%含有するのが好ましい。
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全モノマー単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
なお、ポリマー(2)が酸素原子を含む原子団を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×106個あたりに対して、ポリマーが有する酸素原子を含む原子団の数が、500個未満であることを意味する。酸素原子を含む原子団の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。酸素原子を含む原子団の数の下限は、通常、0個である。
【0020】
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として酸素原子を含む原子団を生じない重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造されてもよく、酸素原子を含む原子団を有するFポリマーをフッ素化処理して製造されてもよい。フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0021】
本パウダーは、Fポリマーを含有するパウダーであり、パウダー中のFポリマーの量は、80質量%以上であるのが好ましく、100質量%であるのがより好ましい。
本パウダーのD50は、20μm以下であるのが好ましく、8μm以下であるのがより好ましい。本パウダーのD50は、0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましい。また、本パウダーのD90は、50μm以下であるのがより好ましい。本パウダーのD50およびD90が、かかる範囲にあれば、その表面積が大きくなり、本パウダーの分散性が一層改良されやすい。
【0022】
本パウダーは、Fポリマーと異なる他の樹脂または無機物を含有してもよい。
他の樹脂の例としては、芳香族ポリマーのワニスが挙げられる。芳香族ポリマーは、芳香族ポリイミド、芳香族マレイミド、スチレンエラストマーのような芳香族エラストマー、芳香族ポリアミック酸が挙げられる。
無機物の例としては、酸化物、窒化物、金属単体、合金およびカーボンが好ましく、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、およびメタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)が挙げられ、シリカおよび窒化ホウ素が好ましく、シリカがさらに好ましい。
他の樹脂または無機物を含む本パウダーは、Fポリマーをコアとし、他の樹脂または無機物をシェルに有するのが好ましい。
【0023】
液状化合物(1)は表面張力が30mN/m以下の液状化合物である。なお液状化合物(1)とは、25℃で粘度が10mPa・s以下の化合物である(以下、「液状」とは同様に25℃で粘度が10mPa・s以下の状態を表す)。
前記表面張力は、例えば、表面張力計により測定することができる。表面張力計を用い、25℃においてウィルヘルミー法で測定する方法が挙げられる。
【0024】
液状化合物(1)の表面張力は、28mN/m以下が好ましく、25mN/m以下がより好ましい。液状化合物(1)の表面張力は、10mN/m以上が好ましい。
液状化合物(1)の例として、表面張力が30mN/m以下のアルコール、エステル、ケトン、エーテル、または炭化水素が挙げられる。これらはフッ素化されていてもされていなくてもよい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノールが好ましい。炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレンが好ましい。ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。エステルとしては酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチルが好ましい。
これら化合物のなかでもアルコールおよびケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、イソプロパノールまたはメチルエチルケトンがさらに好ましい。
前記液状化合物(1)は1種でも2種以上の混合物でもよい。液状化合物(1)は、本分散液(1)を用いて得られる成形物の成分分布の均一性の低下や空隙の抑制の観点から、脱気されているのが好ましい。
【0025】
本法において、前記本パウダーおよび前記液状化合物(1)を混合して混合物を得る。
本パウダーと液状化合物(1)との混合比は、本パウダー100質量部に対して、液状化合物(1)は100質量部以下が好ましい。本パウダーより少ない質量の液状化合物(1)を混合することで、本パウダーの表面が液状化合物(1)により濡らされ、後述する液状分散媒(1)と混合した際に、より分散安定性に優れた分散液が得られる。
本パウダーと液状化合物(1)との混合比は、本パウダー100質量部に対して、液状化合物(1)が80質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。
また本パウダーと液状化合物(1)との混合比は、本パウダー100質量部に対して、液状化合物(1)が5質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましい。
【0026】
本パウダーと液状化合物(1)の混合の方法は、本パウダーと液状化合物(1)を一緒に混合する方法、本パウダーに液状化合物(1)を順次添加しながら混合する方法が挙げられる。例えば、液状化合物(1)に本パウダーを一括して添加して混合する方法、液状化合物(1)に本パウダーを連続的にまたは間欠的に添加しながら混合する方法等が挙げられる。
混合に用いる混合機は攪拌翼によるミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、揺動型混合機、振動型混合機等が挙げられる。
【0027】
前記得られた混合物は、さらに混練により均一な液状組成物としてもよい。混練は前記混合の後で行ってもよく、混合と混練とを同時に行ってもよい。
混練する場合、閉鎖系で混練するのが好ましい。混練中に液状化合物(1)の液状分が蒸発しない様に混練するのが好ましい。その結果、本パウダーと液状化合物(1)とが均一に混練され、高度に脱泡された混合物が得られる。
混練する場合、撹拌槽と、一軸あるいは多軸の撹拌羽根を備えた混練機を使用するのが好ましい。撹拌羽根の数は、高い混練作用を得るためには二つ以上の撹拌羽根のものが好ましい。混練の方法はバッチ式、連続式いずれでもよい。
【0028】
バッチ式混練に用いられる混練機は、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサーまたはプラネタリーミキサーが好ましく、プラネタリーミキサーがより好ましい。プラネタリーミキサーは、互いに自転と公転を行う2軸の撹拌羽根を有し、撹拌槽中の混練物を撹拌、混練する構造を有している。そのため、撹拌槽中に撹拌羽根の到達しないデッドスペースが少なく、羽根の負荷を軽減して、高度に液状組成物を混練できる。また、混練終了後、得られた混合物にそのまま分散媒を添加して、そのまま分散液を製造できる。
【0029】
前記本パウダーおよび前記液状化合物(1)を混合して得られた混合物と液状分散媒(1)を混合して本分散液(1)を得る。
液状分散媒(1)とは、前記液状化合物(1)と同様、25℃で粘度が10mPa・s以下の分散媒である。
【0030】
前記液状分散媒(1)は液状化合物(1)と同一であってもよく、異なっていてもよい。前記液状分散媒(1)は液状化合物(1)と異なるのが好ましい。液状分散媒(1)は、1種類でも、2種以上の混合分散媒であってもよい。液状分散媒(1)は、本分散液(1)を用いて得られる成形物の成分分布の均一性の低下や空隙の抑制の観点から、脱気されているのが好ましい。
【0031】
用いる液状分散媒(1)は、Fポリマーと反応しない分散媒である。液状分散媒(1)の沸点は、75℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。また液状分散媒(1)の沸点は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。
液状分散媒(1)は、水であってもよく、非水系分散媒であってもよい。非水系分散媒としては、アミド、ケトン、エステル、炭化水素、グリコール、グリコールエーテルまたはグリコールアセテートが挙げられ、より具体的には、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、グリコールモノアルキルエーテル、グリコールモノアリールエーテル、グリコールモノアルキルエーテルアセテートまたはグリコールモノアリールエーテルアセテートが挙げられる。
液状分散媒(1)としては水、アミド、ケトン、炭化水素が好ましく、水、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、ジメチルアセトアミドがより好ましい。液状分散媒(1)は単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0032】
液状分散媒(1)の表面張力は20mN/m以上が好ましく、30mN/m以上がより好ましく、100mN/m以下が好ましく、80mN/m以下がより好ましく、50mN/m以下がさらに好ましい。かかる場合、本分散液(1)は後述する第三成分とのブレンド性に優れやすい。
液状化合物(1)がプロトン性である場合、液状分散媒(1)もプロトン性であるのが好ましい。この場合、液状分散媒(1)の表面張力は、50から100mN/mであるのが好ましい。
液状化合物(1)が非プロトン性である場合、液状分散媒(1)も非プロトン性であるのが好ましい。この場合、液状分散媒(1)の表面張力は20から60mN/mであるのが好ましい。
【0033】
本パウダーと前記液状分散媒(1)との混合比は、本パウダー100質量部に対して、前記液状分散媒(1)は100質量部超が好ましい。本パウダーより多い質量の本液状分散媒(1)を混合することで、前記液状化合物(1)により表面が濡らされた本パウダーは、より分散安定性に優れた分散液が得られる。
本パウダーと前記液状分散媒(1)との混合比は、本パウダー100質量部に対して、液状分散媒(1)が120質量部以上がより好ましく、130質量部以上がさらに好ましい。
また本パウダーと液状分散媒(1)との混合比は、本パウダー100質量部に対して、液状分散媒(1)が1000質量部以下がより好ましく、300質量部以下がさらに好ましい。
【0034】
前記混合物と液状分散媒(1)との混合は、得られる本分散液(1)の分散性と分散安定性の観点から、超音波ホモジナイザードベイントシェーカー、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイク ミルまたはアジテーターミル等のメディアを使用する分散機、超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機等のメディアを使用しない分散機を用いるのが好ましく、メディアを使用した分散機を用いるのがより好ましい。
【0035】
また、衝突式分散機を用いて混合すると分散安定性が向上するので、衝突式分散機を用いるのが好ましい。衝突式分散機とは、加圧した前記分散媒を前記混合物に衝突させ、その衝撃力等によって分散を行う分散機である。かかる分散機は、前記混合物と前記分散媒のそれぞれを加圧して衝突させる分散機、前記混合物に加圧した前記分散媒を衝突させる分散機のいずれを使用してもよい。前者の分散機としては、ナノマイザー、ジーナスPY、アルティマイザー、Aqua、マイクロフルイダイザーが挙げられ、後者の分散機としては、ホモゲナイザーが挙げられる。
【0036】
また、前記混合物と前記液状分散媒(1)とを混合する方法は、上述の本パウダーと液状化合物(1)との混合方法と同じ方法が挙げられる。本パウダーと液状化合物(1)とを混合後、さらに混錬する場合、混練機から前記混合物を取り出し、前記液状分散媒(1)と混合してもよいし、混練機中に前記液状分散媒(1)を添加し、引続き、前記混合物と前記液状分散媒(1)を混合してもよい。
【0037】
Fポリマーは表面エネルギーが低く、そのパウダー同士は凝集しやすいため、分散性を改良するために一般にフッ素系界面活性剤を分散液に添加する場合がある。なお、フッ素系界面活性剤とは、水酸基、カルボキシル基、スルホ基、これらの基から誘導される基を有する親水部位と、含フッ素有機基を有する疎水部位とを有する化合物を意味する。
本法によればこのようなフッ素系界面活性剤を実質的に添加することなく液状分散媒(1)と混合しても、分散性が損なわれることなく、分散安定性に優れた本分散液(1)が得られる。
なお、フッ素系界面活性剤を実質的に添加しないとは、分散液中のフッ素系界面活性剤の濃度が1質量%を超える量を添加しない、ということであり、得られる分散液中のフッ素系界面活性剤の量は1質量%以下ということであり、フッ素系界面活性剤の量は0.5質量%以下が好ましく、0質量%がより好ましい。
【0038】
本法において、本パウダーと液状化合物(1)との混合、および前記混合物と液状分散媒(1)との混合の温度は、本パウダーが均一に分散する限り、特に制限はないが、通常、20℃以上で行われる。また液状化合物(1)または液状分散媒(1)の低い方の沸点より低い温度で混合は行われ、100℃以下で混合を行うのが好ましい。
【0039】
本法において、無機フィラーおよび芳香族ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも一種(以下、第三成分とも記す)をさらに混合してもよい。
無機フィラーを混合する場合、本分散液(1)から形成される成形物が、電気特性および低線膨張性に優れやすい。
芳香族ポリマーを混合する場合、本分散液(1)から形成される成形物が、接着性およびUV加工性に優れやすい。
前記の観点から、無機フィラーは、窒化物フィラーまたは無機酸化物フィラーが好ましく、窒化ホウ素フィラー、窒化アルミニウムフィラー、ベリリアフィラー(ベリリウムの酸化物のフィラー)、シリカフィラー、ウォラストナイトフィラー、タルクフィラー等のケイ酸塩フィラー、または酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物フィラーがより好ましく、シリカフィラーがさらに好ましい。
無機フィラーは、シランカップリング剤で表面処理されているのが好ましい。
【0040】
無機フィラーのD50は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。D50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
無機フィラーの形状は、粒状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよい。無機フィラーの具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられる。
【0041】
無機フィラーの好適な具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン(登録商標)」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX(登録商標)」シリーズ等)、球状溶融シリカ(デンカ社製の「SFP(登録商標)」シリーズ等)、多価アルコールおよび無機物で被覆処理された酸化チタン(石原産業社製の「タイペーク(登録商標)」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタン(テイカ社製の「JMT(登録商標)」シリーズ等)、中空状シリカフィラー(太平洋セメント社製の「E-SPHERES」シリーズ、日鉄鉱業社製の「シリナックス」シリーズ、エマーソン・アンド・カミング社製「エココスフイヤー」シリーズ等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)、ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、窒化ホウ素フィラー(昭和電工社製の「UHP」シリーズ、デンカ社製の「デンカボロンナイトライド」シリーズ(「GP」、「HGP」グレード)等)が挙げられる。
【0042】
芳香族ポリマーは、芳香族ポリイミド、芳香族マレイミド、スチレンエラストマーのような芳香族エラストマーまたは芳香族ポリアミック酸が好ましく、芳香族ポリイミド、芳香族マレイミド、ポリフェニレンエーテル、スチレンエラストマーのような芳香族エラストマーがより好ましく、芳香族ポリイミドまたは芳香族ポリアミック酸がさらに好ましい。芳香族ポリイミドは、熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよい。熱可塑性のポリイミドとは、イミド化が完了した、イミド化反応がさらに生じないポリイミドを意味する。
【0043】
芳香族ポリイミドの具体例としては、「ネオプリム(登録商標)」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア(登録商標)」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON(登録商標)」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド(登録商標)」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)、「ユピア(登録商標)-AT」シリーズ(宇部興産社製)が挙げられる。
【0044】
スチレンエラストマーとしては、スチレン-ブタジエン共重合体、水添-スチレン-ブタジエン共重合体、水添-スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物、およびスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物等が挙げられる。
【0045】
前記第三成分を混合する場合、混合方法は上述の本パウダーと液状化合物(1)との混合方法と同じ方法が挙げられる。
前記第三成分を混合する場合、前記第三成分は本法のいずれかの段階で添加すればよい。例えば、第三成分を予め、本パウダーおよび/または液状化合物(1)と混合しておいてもよいし、本パウダーと液状化合物(1)とを混合する時に第三成分を添加してもよい。また前記混合物と液状分散媒(1)とを混合する時に第三成分を添加して一緒に混合してもよいし、分散液を得た後に分散液に第三成分を添加してもよい。添加は一括でも分割で行ってもよいし、連続的または間欠的に添加してもよい。
【0046】
また本法において、分散安定性とハンドリング性とを更に向上させる観点からフッ素系界面活性剤以外の界面活性剤を添加してもよい。フッ素系界面活性剤以外の界面活性剤はノニオン性が好ましい。
フッ素系界面活性剤以外の界面活性剤の親水部位は、オキシアルキレン基またはアルコール性水酸基を有するのが好ましい。
オキシアルキレン基は、1種から構成されていてもよく、2種以上から構成されていてもよい。後者の場合、種類の違うオキシアルキレン基は、ランダム状に配置されていてもよく、ブロック状に配置されていてもよい。
オキシアルキレン基は、オキシエチレン基が好ましい。
【0047】
フッ素系界面活性剤以外の界面活性剤の疎水部位は、アセチレン基、ポリシロキサン基を有するのが好ましい。換言すれば、界面活性剤は、アセチレン系界面活性剤またはシリコーン系界面活性剤が好ましい。
フッ素系界面活性剤以外の界面活性剤を含有する場合、本法により得られる分散液中の含有量は、1から15質量%が好ましい。この場合、成分間の親和性が増し、本法により得られる分散液の分散安定性がより向上しやすい。
【0048】
本法において、熱硬化性樹脂をさらに混合してもよい。熱硬化性樹脂を混合する場合、窒化アルミニウムフィラーをさらに混合するのが好ましい。熱硬化性樹脂および窒化アルミニウムフィラーをさらに含有する本分散液(1)から形成される成形物は、放熱性および低吸水性に優れやすい。熱硬化性樹脂としては、熱硬化性ポリイミド、ポリイミド前駆体、エポキシ樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、ビスマレイミド樹脂および熱硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂が挙げられる。
【0049】
本法で得られる本分散液(1)は、前記本パウダー、前記液状化合物(1)および前記液状分散媒(1)を含有した液状状態にある。
本分散液(1)の固形分は、前記本パウダーを含有し、前記第三成分を含有する場合は、これら第三成分も固形分に含まれる。また分散液の固形分には、前記本パウダー以外の本分散液(1)中の不溶な他の成分も含まれる。固形分の濃度は分散液の全質量を100質量%として、25質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。また本分散液(1)の分散性の観点から、固形分濃度は80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。固形分中の本パウダーの量は、固形分の全質量を100質量%として、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また固形分中の本パウダーの量は、99質量%以下が好ましい。
【0050】
また本法において液状化合物として液状化合物(2)を、液状分散媒として液状分散媒(2)を用い、固形分量を25質量%とすることで本分散液(2)が得られる。液状化合物(2) はアルコールおよびケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の液状化合物であり、表面張力は30mN/m以下である。また液状分散媒(2)は、表面張力は20mN/m以上50mN/m以下の、アミドおよび炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の液状分散媒または水である。液状化合物および液状分散媒の液状とは上述のとおりである。液状化合物(2)は単独でも2種以上の混合物であってもよい。液状分散媒(2)は単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0051】
本分散液(2)は上述の第三成分を含有してもよい。
本分散液(2)中の固形分は上述のとおり本パウダーであり、上述の第三成分または本分散液(2)中の不溶な他の成分を含む場合は、本パウダーと第三成分および不溶な他の成分との合計量である。本分散液(2)の全質量を100質量%として、前記固形分量が25質量%以上となるように、本法において添加量を調製することで固形分量を制御することができる。固形分量は50質量%以上が好ましい。
【0052】
本分散液(2)の粘度は、1000mPa・s以上が好ましく、2500mPa・s以上がより好ましい。本分散液(2)の粘度は、100000mPa・s以下が好ましく、50000mPa・sがより好ましい。かかる高粘性の範囲にあっても、本分散液(2)はハンドリング性に優れる。
【0053】
本分散液(2)のチキソ比は、1.0から2.2が好ましい。かかるチキソ比を有する本分散液(2)は塗工性と均質性に優れる。なお、チキソ比は、回転数が30rpmの条件で測定される本分散液(2)の粘度を、回転数が60rpmの条件で測定される本分散液(2)の粘度で除して算出される。
本分散液(2)から得られる成形物の成分分布の均一性の低下や空隙の抑制の観点から、本分散液(2)中の泡沫体積比率は、10%未満が好ましく、5%未満がより好ましい。泡沫体積比率は、0%以上が好ましい。
なお、泡沫体積比率は、標準大気圧かつ20℃における本分散液(2)の体積(VN)と、それを0.003MPaまで減圧した際の泡を合わせた体積(VV)とを測定し、以下の算出式で求められる値である。
泡沫体積比率[%]=100×(VV-VN)/VNである。
【0054】
本分散液(2)はフッ素系界面活性剤を実質的に含有していなくても分散性が損なわれることなく、分散安定性に優れた分散液である。
なお、フッ素系界面活性剤を実質的に含有しないとは、上述と同様、本分散液(2)中のフッ素系界面活性剤の量が1質量%以下ということであり、フッ素系界面活性剤の量は、0.5質量%以下が好ましく、0質量%がより好ましい。
【0055】
本分散液(1)または本分散液(2)(以下、両者を総称して本分散液とも記す)を、基材の表面に塗布し、加熱して、Fポリマーからなる層(以下、「F層」とも記す)を形成すれば、基材とF層とを有する積層体が製造できる。積層体の好適な態様としては、金属箔とその少なくとも一方の表面に形成されたF層とを有する金属張積層体、樹脂フィルムとその少なくとも一方の表面に形成されたF層とを有する多層フィルムが挙げられる。
金属張積層体における金属箔は、銅箔であるのが好ましい。かかる金属張積層体は、プリント基板材料として特に有用である。
多層フィルムにおける樹脂フィルムは、ポリイミドフィルムであるのが好ましい。かかる多層フィルムは、電線被覆材料、プリント基板材料として有用である。
【0056】
前記積層体の製造においては、基材の表面の少なくとも片面にF層が形成されればよく、基材の片面のみにF層が形成されてもよく、基材の両面にF層が形成されてもよい。基材の表面は、シランカップリング剤等により表面処理されていてもよい。本分散液の塗布に際しては、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法の塗布方法を使用できる。
【0057】
F層は、加熱により前記液状化合物(1)または液状化合物(2)(以下、両者を総称して本化合物とも記す)、および、液状分散媒(1)または液状分散媒(2)(以下、両者を総称して本分散媒とも記す)を除去した後に、さらに加熱によりポリマーを焼成して形成するのが好ましい。本化合物および本分散媒の除去の温度は、本化合物または本分散媒の低い方の沸点以下の温度が好ましく、沸点より50℃から150℃低い温度がより好ましい。例えば沸点が約200℃のN-メチル-2-ピロリドンを用いた場合、150℃以下、好ましくは100から120℃で加熱することが好ましい。分散媒を除去する工程で空気を吹き付けるのが好ましい。
【0058】
本化合物および本分散媒を除去後、基材をポリマーが焼成する温度領域に加熱して形成するのが好ましく、例えば300から400℃の範囲でポリマーを焼成するのが好ましい。F層は、Fポリマーの焼成物を含むのが好ましい。
F層は、上述のとおり本分散液の塗布、乾燥、焼成の工程を経て形成される。これら工程は1回でも2回以上でもよい。例えば、前記本分散液を塗布し、加熱により本分散媒を除去し膜を形成する。形成した膜の上にさらに前記本分散液を塗布して加熱により前記本分散媒を除去し、さらに加熱によりFポリマーを焼成して形成してもよい。平滑性に優れた厚い膜を得やすい観点から、本分散液の塗布、乾燥、焼成の工程を2回行ってもよい。
F層の厚さは、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。厚さの上限は、200μmである。この範囲において、耐クラック性に優れたF層を容易に形成できる。
F層と基材層との剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましい。前記剥離強度は、100N/cm以下が好ましい。本分散液を用いれば、F層におけるFポリマーの物性を損なわずに、かかる積層体を容易に形成できる。
F層の空隙率は、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。空隙率は、0.1%以上が好ましい。なお、空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察される成形物の断面におけるSEM写真から、画像処理にてF層の空隙部分を判定し、空隙部分が占める面積をF層の面積で除した割合(%)である。空隙部分が占める面積は空隙部分を円形と近似して求められる。
【0059】
基材の材質としては、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等の金属基板、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド等の樹脂フィルム、繊維強化樹脂基板の前駆体であるプリプレグが挙げられる。基材の形状としては、平面状、曲面状、凹凸状が挙げられ、さらに、箔状、板状、膜状、繊維状のいずれであってもよい。積層体の具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にF層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にF層を有する多層フィルムが挙げられる。これらの本積層体は、電気特性等の諸物性に優れており、プリント基板材料等として好適である。具体的には、かかる本積層体は、フレキシブルプリント基板やリジッドプリント基板の製造に使用できる。
【0060】
F層と他の基材との積層体の構成としては、金属基板/F層/他の基材層/F層/金属基板、金属基板層/他の基材層/F層/他の基材層/金属基板層等が挙げられる。それぞれの層には、さらに、ガラスクロスやフィラーが含まれていてもよい。
かかる積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、塗料、化粧品等として有用であり、具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材として有用である。
【0061】
本分散液を、織布に含浸させ、加熱により乾燥させれば、Fポリマーが織布に含浸された含浸織布が得られる。含浸織布は、織布がF層で被覆された被覆織布とも言える。織布は、ガラス繊維織布、カーボン繊維織布、アラミド繊維織布または金属繊維織布が好ましく、ガラス繊維織布またはカーボン繊維織布がより好ましい。本分散液を織布に含浸させる方法は、本分散液に織布を浸漬する方法、本分散液を織布に塗布する方法が挙げられる。
【0062】
本分散液を、繊維に含浸させ、加熱により乾燥させれば、Fポリマーが繊維に含浸された含浸繊維が得られる。繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維等の高強度かつ低伸度の繊維が挙げられる。
【0063】
上述のとおり本法によれば分散性と分散安定性に優れた本分散液(1)が得られる。また本法において液状化合物として本液状化合物(2) を、液状分散媒として液状分散媒(2)を用い、固形分量を25質量%以上とすることで分散性と分散安定性に優れた本分散液(2)が得られる。
【0064】
以上、本法および本分散液について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本法は、前記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。また本分散液は前記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fパウダー]
Fパウダー1:TFE単位、NAH単位およびPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、極性官能基を有するポリマーからなるパウダー(D50:2.1μm)
【0066】
[芳香族ポリマー]
ワニス1:熱可塑性の芳香族ポリイミド(PI1)をNMPに溶解したワニス
[界面活性剤]
界面活性剤1:トリエチレングリコールモノメチルエーテル
[液状化合物]
IPA:イソプロパノール(表面張力:20mN/m)
MEK:メチルエチルケトン(表面張力:25mN/m)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン(表面張力:41mN/m)
[液状分散媒]
IPA:イソプロパノール(表面張力:20mN/m)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン(表面張力:41mN/m)
水(表面張力:72mN/m)
【0067】
2.分散液の製造例
[例1]
まず、ポットに、パウダー1と、液状化合物としてIPAとを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、パウダー1(80質量部)とIPA(20質量部)を含む混合物を調製した。さらに、ワニス1(10質量部)と、液状分散媒としてNMP(40質量部)を投入し、150rpmにて1時間、ポットを転がし、パウダー1(40質量部)、PI1(2質量部)IPA(10質量部)およびNMP(48質量部)を含む分散液1(粘度:8000mPa・s)を得た。なお、分散液1中のNMP48質量部のうち、8質量部はワニス1に由来する。
【0068】
[例2から例6]
液状化合物、液状分散媒の種類を表1に記載のとおり変更した以外は、分散液1と同様にして分散液2から6を調製した。なお、分散液5では炭化水素系界面活性剤として、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを5質量部添加し、例1のNMP40質量部に替えて水を35質量部用いた。
【0069】
前記で得られた分散液1から6の成分を表1にまとめて示した。また、分散液1から6を下記評価基準に従って評価した結果、および、それぞれの分散液から下記の方法で得た成形物を下記評価基準に従って評価した結果も併せて表1にまとめた。
【0070】
3.成形物の製造例
長尺の銅箔(厚さ18μm)の表面に、バーコーターを用いて分散液1を塗布して、ウェット膜を形成した。次いで、このウェット膜が形成された金属箔を、120℃にて5分間、乾燥炉に通し、加熱により乾燥させて、ドライ膜を得た。その後、窒素オーブン中で、ドライ膜を380℃にて3分間、加熱した。これにより、金属箔と、その表面にFパウダー1の溶融焼成物およびPI1を含む、成形物としてのポリマー層(厚さ5μm)とを有する積層体1を製造した。
分散液1を、分散液2から6のそれぞれに変更した以外は、積層体1と同様にして、積層体2から6をそれぞれ製造した。
【0071】
4.評価
4-1.分散液の分散安定性の評価
それぞれの分散液を容器中に25℃にて保管保存後、その分散性を目視にて確認し、下記の基準に従って分散安定性を評価した。
【0072】
[評価基準]
〇:凝集物が視認されない。
×:容器側壁に細かな凝集物の付着が視認される。
【0073】
4-2.積層体の表面平滑性の評価
それぞれのポリマー層について、その表面の平滑性を目視にて確認し、下記の基準に従って表面平滑性を評価した。
【0074】
[評価基準]
〇:ポリマー層の表面全体が平滑である。
△:凝集物またはパウダーの欠落による凹凸が、ポリマー層の表面の縁部に視認される。
×:凝集物またはパウダーの欠落による凹凸が、ポリマー層の表面の全体に視認される。
【0075】
【産業上の利用可能性】
【0076】
前記結果から明らかなように、本法で作成した本分散液(1)および本分散液(2)は分散性、分散安定性に優れている。本分散液(1)または本分散液(2)から形成される積層体は成分分布の均一性に優れ、Fポリマーの性質を高度に発現すると考えられる。また、かかる積層体は、表面平滑性に優れる。