(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】窓ガラスシステム
(51)【国際特許分類】
B60S 1/02 20060101AFI20240628BHJP
B60H 3/00 20060101ALI20240628BHJP
B60J 1/02 20060101ALI20240628BHJP
B60K 35/235 20240101ALI20240628BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20240628BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240628BHJP
H10K 59/00 20230101ALI20240628BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240628BHJP
H10K 59/40 20230101ALI20240628BHJP
H10K 59/90 20230101ALI20240628BHJP
H10K 59/95 20230101ALI20240628BHJP
【FI】
B60S1/02 310
B60H3/00 B
B60J1/02 Z
B60K35/235
G02B27/01
H05B33/14 A
H10K50/10
H10K59/00
H10K59/10
H10K59/40
H10K59/90
H10K59/95
(21)【出願番号】P 2021563773
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2020039571
(87)【国際公開番号】W WO2021117352
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019224052
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】入江 哲司
(72)【発明者】
【氏名】御法川 匠
(72)【発明者】
【氏名】林 英明
(72)【発明者】
【氏名】森永 さよこ
(72)【発明者】
【氏名】定金 駿介
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/195295(WO,A1)
【文献】特表2013-508112(JP,A)
【文献】特開昭62-006851(JP,A)
【文献】特表2008-531376(JP,A)
【文献】実開昭60-020449(JP,U)
【文献】特開2004-025930(JP,A)
【文献】特開平06-320954(JP,A)
【文献】特開2017-106983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00
B60K 35/00
B60S 1/00
H05B 3/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に取り付けられる窓ガラスと、
前記窓ガラスに設けられ、有機材料製の有機素子を含むデバイスと、
前記窓ガラスの温度を検出する温度センサと、
前記移動体の車室内の温度及び湿度を検出する温湿度センサと、
前記温度センサによって検出されるガラス温度と、前記温湿度センサによって検出される車室内の温度及び湿度とに基づいて、前記ガラス温度が露点温度を超えているかどうかを判定し、前記ガラス温度が露点温度以下であると判定すると、前記窓ガラスに取り付けられる電熱線もしくは電熱膜又はデフロスタを通電状態にし、前記温度センサによって検出されるガラス温度が所定温度を超えると、前記電熱線もしくは前記電熱膜を非通電状態にする、又は前記デフロスタをオフにする回路を有する制御部と
、
前記窓ガラスの一方の面に設けられる防曇膜と
を含
み、
前記制御部は、前記ガラス温度が露点温度を超えていると判定すると、前記温度センサによって検出されるガラス温度と、前記温湿度センサによって検出される車室内の温度及び湿度とに基づいて前記防曇膜に曇りが生じるまでの所要時間Tsを推測し、推測した所要時間Tsに基づいて、前記窓ガラスに取り付けられる電熱線もしくは電熱膜を通電状態にするか又はデフロスタをオンにし、前記温度センサによって検出されるガラス温度が所定温度を超えると、前記電熱線もしくは前記電熱膜を非通電状態にする、又は前記デフロスタをオフにする回路を有する、窓ガラスシステム。
【請求項2】
前記所定温度は、40℃である、請求項1記載の窓ガラスシステム。
【請求項3】
前記電熱線に印加される電圧は、10V以下である、請求項1又は2記載の窓ガラスシステム。
【請求項4】
前記電熱線もしくは前記電熱膜の電力密度は、400W/m
2以下である、請求項1又は2記載の窓ガラスシステム。
【請求項5】
前記デバイスがOLED(Organic Light Emitting Diode)を含む場合、又は、前記デバイスがヘッドアップディスプレイの光学装置である場合、前記電熱線もしくは前記電熱膜に印加される電圧は、7V以下であり、かつ、前記電熱線もしくは前記電熱膜の電力密度は、400W/m
2以下である、請求項1又は2記載の窓ガラスシステム。
【請求項6】
前記電熱線もしくは前記電熱膜が通電状態である場合、前記電熱線もしくは前記電熱膜に流れる電流が周期的に変動する、請求項1乃至5のいずれか一項記載の窓ガラスシステム。
【請求項7】
前記電熱線もしくは前記電熱膜に流れる電流は、周期的に非通電状態となる、請求項6に記載の窓ガラスシステム。
【請求項8】
前記移動体の外部の情報を取得する情報取得装置と、
前記情報取得装置を前記窓ガラスに固定する取り付け部材と
をさらに含み、
前記窓ガラスと前記取り付け部材との間に隙間が存在する、又は、前記取り付け部材は開口部を有する、請求項1乃至
7のいずれか一項記載の窓ガラスシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓ガラスシステム、及び、窓ガラス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、第1の合成樹脂製の窓材(グレージング)、ポリマー材料から作製された第1の積層中間層、ポリマー材料から作製された第2の積層中間層、可撓性のOLED(Organic Light Emitting Diode)要素又はスクリーン、ポリマー材料から作製された第3の積層中間層、及び第2の合成樹脂製の窓材を積層した輸送乗物用の窓構造がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、厳冬期や寒冷地などにおいて、汽車、電車、トラック、乗用車などの車両の窓ガラス、あるいは建物の窓ガラスに、積雪、着氷、着霜あるいは曇りなどが生じ、視界が妨げられるなどの問題がある。そのため、窓ガラスの加熱手段として、通電加熱ガラスや加熱された空気を送風するデフロスタが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の輸送乗物用の窓構造に含まれるOLED要素は、ある程度温度が高い高温環境下では安定的な表示等の素子特性を得ることが難しくなるおそれがある。
【0006】
しかしながら、従来の輸送乗物用の窓構造は、窓ガラスの加熱手段を有しているものの、特に温度の管理を行っていない。なお、このような高温環境下での問題は、OLEDに限らずに有機材料製の有機素子についても同様である。
【0007】
そこで、窓ガラスの加熱手段を有していても有機素子の安定的な素子特性が得られる窓ガラスシステム、及び、窓ガラス装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施の形態の窓ガラスシステムは、移動体に取り付けられる窓ガラスと、前記窓ガラスに設けられ、有機材料製の有機素子を含むデバイスと、前記窓ガラスの温度を検出する温度センサと、前記移動体の車室内の温度及び湿度を検出する温湿度センサと、前記温度センサによって検出されるガラス温度と、前記温湿度センサによって検出される車室内の温度及び湿度とに基づいて、前記ガラス温度が露点温度を超えているかどうかを判定し、前記ガラス温度が露点温度以下であると判定すると、前記窓ガラスに取り付けられる電熱線もしくは電熱膜又はデフロスタを通電状態にし、前記温度センサによって検出されるガラス温度が所定温度を超えると、前記電熱線もしくは前記電熱膜を非通電状態にする、又は前記デフロスタをオフにする回路を有する制御部とを含む。
【発明の効果】
【0009】
窓ガラスの加熱手段を有していても有機素子の安定的な素子特性が得られる窓ガラスシステム、及び、窓ガラス装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1の窓ガラスシステムを搭載した車両を示す図である。
【
図2】実施の形態1の窓ガラスシステムを示す図である。
【
図3】制御部が実行する処理を表すフローチャートを示す図である。
【
図4】OLEDディスプレイの位置の変形例を示す図である。
【
図5】OLEDディスプレイの位置の変形例を示す図である。
【
図6】OLEDディスプレイの位置の変形例を示す図である。
【
図9】実施の形態2の窓ガラスシステムの一例を示す図である。
【
図10】制御部が実行する処理を表すフローチャートの一例を示す図である。
【
図11】情報取得装置をガラス本体に取り付けるブラケット及び筐体の構造を示す図である。
【
図12】情報取得装置をガラス本体に取り付けるブラケット及び筐体の構造を示す図である。
【
図13】情報取得装置をガラス本体に取り付けるブラケット及び筐体の構造を示す図である。
【
図14】実施の形態2の変形例によるブラケットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の窓ガラスシステム、及び、窓ガラス装置を適用した実施の形態について説明する。
【0012】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1の窓ガラスシステム100を搭載した車両10の一例を示す図である。窓ガラスシステム100は、一例としてフロントガラスとして車両10に取り付けられる。車両10は、一例としてデフロスタ20を含む。デフロスタ20は、作動状態にされると、エアコンによって除湿されるとともに加熱された空気を窓ガラスシステム100に向かって送風し、曇りを除去する装置である。
【0013】
ここで、車両10は、例えば、EV(Electric Vehicle)車、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)車、HV(Hybrid Vehicle)車、ガソリン車、又はディーゼル車等の自動車である。また、車両10は、電車や汽車であってもよい。車両10は、乗員を運んで移動する移動体の一例である。
【0014】
また、ここでは、窓ガラスシステム100が車両10に取り付けられる形態について説明するが、窓ガラスシステム100は、車両10以外の移動体(例えば、航空機やヘリコプター等)に取り付けてもよい。
【0015】
図2は、実施の形態1の窓ガラスシステム100の一例を示す図である。
図2は、窓ガラスシステム100を車両10(
図1参照)側から見た構成を示す。窓ガラスシステム100は、窓ガラス110、OLEDディスプレイ120、電熱線130、スイッチ140、制御ユニット150(温度センサ150A、温湿度センサ150B、制御部150C)を含む。電熱線130には電源160Hが接続されており、制御ユニット150には電源160LとECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)170が接続されている。また、窓ガラスシステム100から制御ユニット150(温度センサ150A、温湿度センサ150B、制御部150C)を除いたものは、窓ガラス装置の一例である。
【0016】
ここでは、窓ガラスシステム100が窓ガラス110を含む形態について説明する。しかしながら、窓ガラスシステム100は、窓ガラス110の代わりに窓ガラス110以外のガラスを含んでいてもよい。
【0017】
以下では、車両10に取り付けられた状態における窓ガラスシステム100の上下の関係を用いて説明する。
【0018】
窓ガラス110は、ガラス本体111を有する。窓ガラス110は、さらにセラミック層112を有していてもよい。ガラス本体111は、中間膜が封入された合わせガラスであってもよい。セラミック層112は、ガラス本体111の車室内(車両10の室内)側の表面において、ガラス本体111の周囲に沿って設けられていることが好ましい。
【0019】
セラミック層112は、一例として、暗色セラミックペーストの焼成体であり、ガラス本体111が車両10に接着された状態で接着剤が紫外線により劣化するのを防止する目的と、車両10の外側からガラス本体111と車体との接続部分が見えないよう見栄えを良くするために形成されている。なお、セラミック層112が設けられていないガラス本体111の中央部111Aは、透明な部分である。また、ガラス本体111が合わせガラスである場合、セラミックス層は、中間膜と接するように設けられるか、ガラス本体111の車室内側の表面に設けられることが好ましい。
【0020】
OLEDディスプレイ120は、一例として、運転席の正面の下側に位置するように設けられている。ここでは一例として、車両10(
図1参照)が右ハンドル車であることとするため、OLEDディスプレイ120は、車両10を前から見てガラス本体111の左側の下側に位置する。前から見た車両10の左側は、進行方向における車両10の右側である。車両10が左ハンドル車である場合には、車両10を前から見てガラス本体111の右側の下側にOLEDディスプレイ120を設ければよい。ガラス本体111が合わせガラスである場合、OLEDディスプレイ120は、中間膜に挟まれて設けられることが好ましい。OLEDディスプレイ120は、一例として、運転手に車速や車両10の状態を表す情報を表示する。なお、OLEDディスプレイ120はこのような形態に限られず、例えば、種々の画像を表示するものであってもよい。また、OLEDディスプレイ120の位置及びサイズは、
図2に示すものに限られず、ガラス本体111のどの位置にあってもよく、ガラス本体111の略全面に設けられていてもよい。
【0021】
電熱線130は、ガラス本体111の中央部111Aの車室内側の表面に設けられていることが好ましい。電熱線130は、一例としてタングステン製の導線であり、端子131に接続される。電熱線130は、銀製の導線であってもよい。端子131は、一例として銀(Ag)を印刷した銀箔製のバスバーである。電熱線130は、
図2において破線で示す範囲の全体にわたって設けられている。
図2に破線で示す電熱線130が設けられる範囲は、電熱線130によって加熱される加熱領域の一例である。
【0022】
一方の端子131(図中左)はスイッチ140に接続され、他方の端子131(図中右)は電源160Hに接続されている。
【0023】
ガラス本体111が合わせガラスである場合、電熱線130は、2枚のガラスの間に存在し、両ガラスを接着する中間膜に挟まれて設けられることが好ましい。電熱線130は、セラミック層112の上に設けられていてもよい。
【0024】
実施の形態1の窓ガラスシステム100において、電熱線130を電熱膜に代えてもよい。電熱膜は、ガラス本体111の中央部111Aに設けられることが好ましい。電熱膜は、一例としてITO(Indium Tin Oxide)膜であり、端子131に接続すればよい。
【0025】
スイッチ140は、ガラス本体111の車室内側の表面において、セラミック層112の上に設けられていてもよい。スイッチ140は、電熱線130又は電熱膜に接続される一方の端子と車両10のグランド電位点との間に直列に挿入される。スイッチ140のオン/オフは、制御ユニット150によって切り替えられる。なお、スイッチ140を設けず、制御ユニット150が、窓ガラス110に取り付けられる電熱線130又は電熱膜を、通電状態(オン)又は非通電状態(オフ)にしてもよい。
【0026】
制御ユニット150は、ガラス本体111の中央部111Aの車室内側の表面に設けられていてもよい。制御ユニット150は、制御部150Cと温度センサ150Aと温湿度センサ150Bとを有する。制御部150Cは、窓ガラス110に取り付けられる電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)又は非通電状態(オフ)にする。温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは、窓ガラス110の一方の面に設けられることが好ましい。温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは、窓ガラス110の一方の面に施されているセラミック層112の上に設けられることが好ましい。温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは、ガラス本体111の下部に設けられることが好ましい。また、温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは、ガラス本体111の中央部111Aのうち下部側でセラミック層112との境界の近くに設けられることが好ましい。また、温度センサ150Aについては、
図2に破線で示す電熱線130が設けられる範囲(加熱領域)内に設けられることが好ましい。電熱線130によって加熱されているガラス本体111の温度を測定するためである。
【0027】
制御ユニット150は、筐体151をさらに有していてもよい。筐体151は、制御部150C、温度センサ150A及び温湿度センサ150Bを、内部に収納する。制御部150C、温度センサ150A及び温湿度センサ150Bには、電源160Lから電力が供給される。なお、制御ユニット150は、セラミック層112の上に固定されていてもよい。この場合には筐体151をセラミック層112の上に固定すればよい。
【0028】
制御部150Cは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及び内部バス等を含むコンピュータ(回路)によって実現される。制御部150Cは、温度センサ150Aによって検出されるガラス本体111の温度と、温湿度センサ150Bによって検出される車室内の温度及び湿度に基づいて、ガラス本体111の温度が露点温度に達しているかどうかを判定し、ガラス本体111の温度が露点温度に達すると電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にし、ガラス本体111の温度が所定温度を超えると非通電状態(オフ)にする制御を行う。なお、以下では、温度センサ150Aによって検出されるガラス本体111の温度をガラス温度と称す。また、制御部150Cによる制御の内容等については後述する。
【0029】
制御部150Cは、ECU170を介して、車両10に搭載される複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)のうちのいずれかにネットワークを介して接続されていてもよい。例えば、制御部150CをECU170を介してエアコン用のECUに接続しておけば、エアコンと連携して窓ガラスシステム100を作動させることができる。また、窓ガラスシステム100全体の電源のオン/オフは、エアコン等の操作部で行えるようになっていてもよい。
【0030】
温度センサ150Aは、ガラス温度を検出する。温度センサ150Aは、ガラス本体111に接触していることが好ましい。温湿度センサ150Bは、移動体の車室内の温度及び湿度を検出する。温湿度センサ150Bは、ガラス本体111上に設けられていてもよいが、ガラス本体111から離れていることがより好ましい。温湿度センサ150Bとしては、温度センサと湿度センサとが1つのチップとして一体化されたものを用いることができる。温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは制御部150Cに接続されており、検出したガラス温度、車室内の温度、及び車室内の湿度を表すデータを制御部150Cに出力する。
【0031】
なお、温湿度センサ150Bの代わりに別々の温度センサと湿度センサを用いてもよい。車室内の温度を検出する温度センサとしては、例えば熱電対を用いることができる。車室内の湿度を検出する湿度センサとしては、例えば、湿度の変化に応じて変化する素子の抵抗値を出力するセンサ、又は、湿度の変化により変化する素子の静電容量を出力するセンサを用いることができる。
【0032】
電源160Hは、電熱線130に接続される他方の端子131と、車両10のバッテリ及び/又は発電機との間に接続されており、バッテリ及び/又は発電機から供給される電力を電熱線130又は電熱膜に供給する。電源160Hの出力電圧は、電源160Lの出力電圧よりも高い。電源160Hは、一例として電圧が12Vの電力を電熱線130に供給する。
【0033】
電源160Lは、制御ユニット150と、車両10のバッテリ及び/又は発電機との間に接続されており、バッテリ及び/又は発電機から供給される電力を制御ユニット150に供給する。電源160Lの出力電圧は、電源160Hの出力電圧よりも低く、一例として5Vである。
【0034】
次に、制御部150Cによる電熱線130又は電熱膜の通電状態(オン)/非通電状態(オフ)の制御について説明する。
【0035】
図3は、制御部150Cが実行する処理を表すフローチャートの一例を示す図である。
【0036】
制御部150Cは、ECU170によって電源が投入されると処理をスタートする。
【0037】
制御部150Cは、温度センサ150A及び温湿度センサ150Bによって検出されるガラス温度、車室内の温度及び湿度に基づいて、ガラス温度が露点温度を超えているかどうかを判定する(ステップS1)。
【0038】
ガラス温度が露点温度を超えているかどうかは、ガラス温度と飽和水蒸気圧との関係を示す曲線を表すデータを制御部150Cの内部メモリに格納しておき、ガラス温度と、車室内の温度及び湿度から求まる飽和水蒸気圧とに基づいて、ガラス温度が露点温度を超えているかどうかを判定すればよい。
【0039】
制御部150Cは、ガラス温度が露点温度を超えている(S1:YES)と判定すると、ステップS1の処理を繰り返し実行する。制御部150Cは、ガラス温度が露点温度を超えていない(S1:NO)と判定すると、電熱線130もしくは電熱膜を通電状態にする、又はデフロスタ20をオンにする(ステップS2)。ガラス本体111の曇りを除去して視界が良好な状態にするとともに、OLEDディスプレイ120の視認性を良好な状態にするためである。
【0040】
制御部150Cは、温度センサ150Aによって検出されるガラス温度が温度Tαを超えたかどうかを判定する(ステップS3)。制御部150Cは、ガラス温度が温度Tαを超えるまでステップS3の判定を繰り返し行う。
【0041】
温度Tαは、一例として40℃である。温度Tαは、OLEDを熱から保護するためのガラス温度の上限であり、OLEDが晒される上限温度である。OLEDディスプレイ120は、有機材料製の有機素子であるOLEDを発光部に含むので、安定的な素子特性を得るためにガラス温度が40℃を超えないように制御することとしたものである。
【0042】
制御部150Cは、ガラス温度が温度Tαを超えた(S3:YES)と判定すると、電熱線130もしくは電熱膜を非通電状態にする、又はデフロスタ20をオフにする(ステップS4)。ガラス温度が温度Tαを超えないようにするために、電熱線130、電熱膜又はデフロスタ20を非通電状態(オフ)にすることとしたものである。
【0043】
なお、制御部150Cは、ガラス温度が温度Tαを超えていない(S3:NO)と判定すると、ガラス温度が温度Tαを超えるまでステップS3の処理を繰り返し実行する。
【0044】
以上で一連の処理が終了する。窓ガラスシステム100の電源がオンにされている間は、制御部150Cは、ステップS1からS4の処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0045】
以上のように、実施の形態によれば、ガラス温度、車室内の温度及び湿度に基づき、ガラス本体111の温度が露点温度に達しているかどうかを判定し、ガラス本体111の温度が露点温度に達すると電熱線130もしくは電熱膜を通電状態にする、又はデフロスタ20をオンにし、ガラス本体111の温度が所定温度を超えると非通電状態又はオフにする制御を行う。
【0046】
このため、OLEDディスプレイ120の安定的な素子特性が得られるようにガラス温度の上昇を抑制することができる。
【0047】
したがって、有機素子の一例であるOLEDを含むOLEDディスプレイ120の安定的な素子特性が得られる窓ガラスシステム100を提供することができる。
【0048】
また、ガラス本体111の温度が露点温度に達すると電熱線130もしくは電熱膜を通電状態にする、又はデフロスタをオンにすることにより、ガラス本体111の曇りの発生を未然に抑制してガラス本体111の視界が良好で、かつ、OLEDディスプレイ120の視認性が良好な状態にすることができる。
【0049】
なお、電熱線130と電源160Hとの間に電圧変換部を設け、電熱線130に供給される電圧を10V以下に抑えてもよい。ガラス温度の上昇を緩やかにして、ガラス温度が例えば40℃に達して電熱線130を非通電状態(オフ)にする際に、ガラス温度が下がりやすくするためである。これは、電熱線130の代わりに電熱膜を用いる場合も同様である。電熱膜の場合は、供給される電圧を40V以下に抑えてもよい。
【0050】
また、電熱線130の電力密度を400W/m2以下に抑えてもよい。ガラス温度の上昇を緩やかにして、ガラス温度が例えば40℃に達して電熱線130を非通電状態(オフ)にする際に、ガラス温度が下がりやすくするためである。これは、電熱線130の代わりに電熱膜を用いる場合も同様である。なお、電熱線130の電力密度とは、単位面積あたりの電熱線130に供給される電力である。電熱膜の場合は、単位面積あたりの電熱膜に供給される電力である。
【0051】
また、窓ガラスシステム100が有機素子を含むデバイスとしてOLEDディスプレイ120又はHUD(Head Up Display:ヘッドアップディスプレイ)の光学装置を含む場合、電熱線130に印加される電圧を7V以下にして、かつ、電熱線130の電力密度を400W/m2以下に抑えてもよい。ガラス温度の上昇を緩やかにして、ガラス温度が例えば40℃に達して電熱線130を非通電状態(オフ)にする際に、ガラス温度が下がりやすくするためである。これは、電熱線130の代わりに電熱膜を用いる場合も同様である。
【0052】
また、ガラス本体111に電熱線130が設けられている場合、電熱線130同士の間隔は3mm以上に設定してもよい。電熱線130同士の間隔を広めに取ることにより、ガラス温度が上昇しすぎないようにするためである。
【0053】
ガラス本体111に電熱線130が設けられている場合は、電熱線130の線幅は、25μm以上に設定してもよい。電熱線130の線幅を太めにすることにより、電熱線130の電気抵抗を小さくしてガラス温度が上昇しすぎないようにするためである。
【0054】
さらに、ガラス本体111に設けられた電熱線130又は電熱膜が通電状態(オン)である場合、電熱線130又は電熱膜に流れる電流が周期的に変動してもよい。電流が所定時間比率で周期的に変動することにより、ガラス温度の上昇を緩やかにして、ガラス温度が例えば40℃に達して電熱線130又は電熱膜を非通電状態(オフ)にする際に、ガラス温度が下がりやすくなる。特に、電流が周期的に非通電状態となることが好ましい。一例として、5秒毎に通電状態(オン)と非通電状態(オフ)を繰り返すようにすることで、電流が周期的に非通電状態になるようにすればよい。
【0055】
また、以上では、車両10のフロントガラスとして用いられる窓ガラスシステム100にOLEDディスプレイ120が含まれる形態について説明した。しかしながら、OLEDディスプレイ120は、フロントガラスに限られず、サイドガラス、リアガラス、ガラス製のルーフパネル、又は、ガラス製のサンルーフ等に取り付けられて表示等を行うように構成されていてもよい。
【0056】
また、以上では、窓ガラスシステム100が有機素子の一例としてOLEDを含む形態について説明した。しかしながら、窓ガラスシステム100に含まれる有機素子は、OLEDに限られず、例えば、液晶素子、調光素子、ホログラム、LEDフィルム等であってもよい。すなわち、OLEDディスプレイ120の代わりに、有機材料製のディスプレイ部等を含むLCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)、調光ディスプレイ、HUD、透明スクリーン等を用いてもよい。
【0057】
LCDは、OLEDの代わりに液晶素子を含む表示装置として用いることができ、ガラス本体111の一部や、サイドガラス、リアガラス、ガラス製のルーフパネル、又は、ガラス製のサンルーフ等に設けてもよい。
【0058】
調光ディスプレイは、電圧の印加によって透過率を変更することで、車外の光の車内への透過量を調整可能な調光素子を含んでいればよく、ガラス本体111の一部や、サイドガラス、リアガラス、ガラス製のルーフパネル、又は、ガラス製のサンルーフ等に設けてもよい。調光素子としては、懸濁粒子素子や液晶素子が挙げられる。
【0059】
また、HUDは、有機素子を含む表示装置としてガラス本体111の一部等に設けることができる。有機素子を構成する材料としては、ホログラムとして用いられる重クロム酸ゼラチン、フォトポリマ―の他、液晶素子、PETやPENを用いた樹脂積層膜、厚さが略漸減したポリビニルブチラール樹脂膜が挙げられる。有機素子は、ガラス本体111の一部や、サイドガラス、リアガラス、ガラス製のルーフパネル、又は、ガラス製のサンルーフ等に設けてもよい。また、有機素子は、PETやPENを用いた樹脂積層膜、厚さが略漸減したポリビニルブチラール樹脂膜であってもよい。
【0060】
また、透明スクリーンは、ガラス本体111の一部や、サイドガラス、リアガラス、ガラス製のルーフパネル、又は、ガラス製のサンルーフ等に設け、透過率をある程度低くした状態で、プロジェクタ等から出力される画像を投影できるように構成されていればよい。透明スクリーン用有機素子としては、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゾルゲル法により得られるシリカや有機無機ハイブリッド材料が挙げられる。具体的には、ポリエステル樹脂(PET、ポリエチレンナフタレート等)、ポリカーボネート樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、凹凸構造を有するアクリル樹脂である。
【0061】
また、LEDフィルムは有機素子を含む発光装置としてガラス本体111の一部等に設けることができる。PETやPENを用いた樹脂積層膜等にUV硬化樹脂等でLEDを固定構成が例として挙げられる。
【0062】
また、OLEDディスプレイ120は、
図2に示すように運転席の正面の下側に位置するように設ける形態に限らず、
図4乃至
図6に示す位置に設けてもよい。
図4乃至
図6は、OLEDディスプレイ120の位置の変形例を示す図である。
【0063】
図4乃至
図6では、一例として、ガラス本体111の中央部111Aを上下方向において3つの領域50A~50Cに分割している。領域50Aは、3つの領域50A~50Cのうちの上下方向における中央に位置し、領域50Bは上側に位置し、領域50Cは下側に位置する。領域50Aと領域50Cを合わせた領域は、運転者の運転視界領域になる領域である。ここで、一例として、運転視界領域は、ガラス本体111の中央部111Aのうち、平均的な運転者の車両10の走行中における視界に含まれる範囲にある領域であり、意図的に視線を逸らして見る範囲は含まれない。
【0064】
領域50Aは、ガラス本体111の中央部111Aから、運転中には殆ど見ることがない領域50Bと、運転視界領域のうち、最も下方の帯状の領域50Cとを除いた部分に相当する。
【0065】
領域50Bは、ガラス本体111の中央部111Aのうちの最も上側において左右方向に延在する帯状の領域である。領域50Bは、一例として車両10が走行中の場合には運転者が意図的に視野を上方に向けることで視認できる領域である。領域50Bは、凹部51Bを有する。凹部51Bは、中央部111Aの凹部111A0に対応して設けられている。凹部111A0は、中央部111Aの上端で左右方向における中央部に設けられ、ルームミラーや、自動ブレーキ又は自動運転等のために車両10の前方の画像を取得するカメラを避けるために、中央部111Aの上端が下方に凹んだ部分である。凹部51Bは、領域50Bの上側において、左右方向の中央部に設けられ、領域50Bの上端が下側に凹んだ領域である。
【0066】
また、領域50Cは、ガラス本体111の中央部111Aのうちの最も下側において左右方向に延在する帯状の領域である。領域50Cは、一例として車両10が走行中の場合には運転者が意図的に視野を下方に向けることで視認できる領域である。なお、車両10の種類によってガラス本体111の上下方向と左右方向のサイズは異なる。また、車両10の種類によってガラス本体111と運転席の位置関係は異なる。このため、領域50A~50Cは、車両10の種類によって異なるが、上側から下側にかけて領域50B、領域50A、領域50Cの順に並んでいる。領域50Aは、領域50A~50Cのうち上下方向における真ん中に位置する領域である。
【0067】
図4では、OLEDディスプレイ120は、ガラス本体111の上側の領域50B内に設けられている。ガラス本体111が合わせガラスである場合、OLEDディスプレイ120は、中間膜に挟まれて設けられることが好ましい。領域50Bに設けられるOLEDディスプレイ120には、例えば、運転者を含む乗員のために、交通標識、信号の表示、ガラス本体111を通じて乗員が見ることができる山の名称や標高等の情報、又は、現在位置に関する情報等を表示することができる。また、車両10の外部に抜けて表示可能なように領域50BにOLEDディスプレイ120を設ける場合には、「どうぞわたってください」等の歩行者向けのメッセージを表示してもよい。
【0068】
図5では、OLEDディスプレイ120は、ガラス本体111の下側の領域50C内に設けられている。ガラス本体111が合わせガラスである場合、OLEDディスプレイ120は、中間膜に挟まれて設けられることが好ましい。領域50Cに設けられるOLEDディスプレイ120には、例えば、運転者を含む乗員のために、ナビゲーションシステムの進行方向等の少なくとも一部の表示や、交通標識、信号の表示、又は、現在位置に関する情報等を表示することができる。
【0069】
図6には、4つのOLEDディスプレイ120を示す。4つのOLEDディスプレイ120は、ガラス本体111の中央部111Aの端に沿って設けられている。より具体的には、
図6では、中央部111Aの下端の部分111A1、右端のうちの下方の部分111A2、上端のうちの右側の部分111A3、中央部111Aの外側の部分111Eに設けられている。部分111Eは、中央部111Aの外側に位置し、中央部111Aの凹部111A0に相当する部分である。4つのOLEDディスプレイ120は、ガラス本体111が合わせガラスである場合、中間膜に挟まれて設けられることが好ましい。
【0070】
4つのOLEDディスプレイ120には、例えば、運転者を含む乗員のために、ナビゲーションシステムの進行方向等の少なくとも一部の表示や、交通標識、信号の表示、又は、現在位置に関する情報等を表示することができる。なお、部分111A1~111A3及び111Eに、4つのOLEDディスプレイ120を設けなくてもよく、部分111A1~111A3及び111Eのうちの少なくとも1つにOLEDディスプレイ120を設ける構成であってもよい。また、4つの部分111A1~111A3及び111Eは、右ハンドル車と左ハンドル車で車両10の幅方向における中心を前後方向に貫く軸を対称軸として線対称であってもよいし、同一の位置に設けられていてもよい。
【0071】
また、
図4乃至
図6では、OLEDディスプレイ120の配置について説明したが、OLEDディスプレイ120の代わりに透明スクリーンを設けてもよい。また、
図6のような複数の部分111A1~111A3及び111EにOLEDディスプレイ120と透明スクリーンを設けてもよい。また、
図4及び
図5において、OLEDディスプレイ120又は透明スクリーンは、領域50A~50Cを跨いで設けられていてもよく、
図6においても同様である。
【0072】
図7及び
図8は、HUD180の配置を示す図である。
図7及び
図8では、領域50B及び50Dを用いて説明する。領域50Bは、
図4乃至
図6に示す領域50Bと同一である。領域50Dは、
図4乃至
図6に示す領域50Aと領域50Cとを合わせた領域である。すなわち、領域50Dは、運転視界領域である。
【0073】
図7に示すように、HUD180は、領域50Dの全体に設けられてもよく、
図8に示すように、領域50Dのうちの左右方向における約半分の領域に設けてもよい。HUD180は、運転者の座席の前方に位置するため、
図8に示すHUD180は、一例として左ハンドル車のための配置である。HUD180には、一例として、運転者を含む乗員のために、ナビゲーションシステムの進行方向等の少なくとも一部の表示や、交通標識、信号の表示、又は、現在位置に関する情報等を表示することができる。
【0074】
また、以上では、制御ユニット150は、ガラス本体111の車室内側の表面に設けられている形態について説明したが、制御ユニット150は、ガラス本体111の車室内側のセラミック層112の上に設けられていてもよい。この場合は、温湿度センサ150Bによって検出される温度が黒いセラミック層112の影響を受けるので、検出される温度をセラミック層112が存在しない中央部111Aの値に換算すればよい。換算には、例えば換算式を用いればよい。
【0075】
また、以上では、制御部150Cが制御ユニット150に含まれ、ガラス本体111の中央部111Aの車室内側の表面に設けられている形態について説明したが、制御部150Cが設けられる位置はこのような位置に限られるものではない。例えば、制御部150Cは、温湿度センサ150Bにケーブルを介して接続されていて、ガラス本体111には設けられていなくてもよい。また、制御部150Cは、温湿度センサ150B又はスイッチ140と、車両10のECUとを接続するケーブルの途中に設けられていてもよい。
【0076】
また、以上では、制御部150Cが温湿度センサ150Bによって検出される温度及び湿度に基づいて電熱線130を通電状態(オン)にする形態について説明したが、電熱線130の代わりに、又は、電熱線130に加えて車両10のデフロスタ20を作動させてもよい。
【0077】
<実施の形態2>
図9は、実施の形態2の窓ガラスシステム200の一例を示す図である。窓ガラスシステム200は、窓ガラス110、OLEDディスプレイ120、電熱線130、スイッチ140、制御ユニット250(温度センサ150A、温湿度センサ150B、制御部250C)、防曇膜220を含む。
【0078】
実施の形態2の窓ガラスシステム200は、実施の形態1の窓ガラスシステム100に防曇膜220を追加するとともに、制御ユニット150の代わりに制御ユニット250を含む構成を有する。このため、実施の形態1の窓ガラスシステム100の構成要素と同様の構成要素については同一符号を用いて説明を省略する。また、以下では相違点を中心に説明する。
【0079】
防曇膜220は、窓ガラス110の一方の面に設けられる。防曇膜220は、ガラス本体111の中央部111Aの車室内(車両10の室内)側の表面に設けられていることが好ましい。防曇膜220は、吸水性を有する。防曇膜220は、高い吸水性を実現するため、吸水性高分子又は親水性高分子を含むことが好ましい。防曇膜220は、粘着剤層を有するフィルムを介して窓ガラス110に取り付けられていてもよい。防曇膜220は、一例として、平面視で、OLEDディスプレイ120および電熱線130と重なる位置に設けられている。
【0080】
制御ユニット250は、ガラス本体111の中央部111Aの車室内側の表面に設けられていてもよい。制御ユニット250は、制御部250Cと温度センサ150Aと温湿度センサ150Bとを有する。制御部250Cは、窓ガラス110に取り付けられる電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)又は非通電状態(オフ)にする。温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは、窓ガラス110の一方の面に設けられることが好ましい。温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは、窓ガラス110の一方の面に施されているセラミック層112の上に設けられることが好ましい。温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは、ガラス本体111の下部に設けられることが好ましい。また、温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは、平面視で、防曇膜220の外側に設けられていることが好ましい。例えば、温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは、ガラス本体111の中央部111Aのうち下部側でセラミック層112との境界の近くに設けられることが好ましい。
【0081】
制御ユニット250は、セラミック層112の上に固定される筐体151をさらに有していてもよい。筐体151は、制御部250C、温度センサ150A及び温湿度センサ150Bを、内部に収納する。制御部250C、温度センサ150A及び温湿度センサ150Bには、電源160Lから電力が供給される。
【0082】
制御部250Cは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及び内部バス等を含むコンピュータ(回路)によって実現される。
【0083】
制御部250Cは、実施の形態1の制御部150Cと同様に、ガラス本体111の温度が露点温度に達しているかどうかを判定し、ガラス本体111の温度が露点温度に達すると電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にし、ガラス本体111の温度が所定温度を超えると非通電状態(オフ)にする制御を行う。
【0084】
また、制御部250Cは、上述の制御に加えて、さらに以下の制御を行う。制御部250Cは、温度センサ150Aによって検出されるガラス本体111の温度と、温湿度センサ150Bによって検出される車室内の温度及び湿度に基づいて、電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にし、所定時間経過後に非通電状態(オフ)にする制御を行う。
【0085】
次に、制御部250Cが電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にするタイミングを求める方法について説明する。
【0086】
防曇膜220は、温度と湿度に応じて吸水できる量(吸水性能が飽和する量(飽和吸水量))が変動する。防曇膜220は、吸水量が飽和吸水量を超えると曇り始める。すなわち、防曇膜220は、防曇膜220が設けられていない窓ガラスに比べて、曇りが生じるタイミングを遅らせることができる。
【0087】
また、制御部250Cは、電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にしてから所定の時間が経過すると、電熱線130又は電熱膜を非通電状態(オフ)にする制御を行う。電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にしてガラス温度を上昇させると、防曇膜220に含まれる水分が蒸発して防曇膜220の吸水量が低下する。
【0088】
このため、制御部250Cが電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にしてから非通電状態(オフ)にするまでの所定時間は、例えば、防曇膜220の吸水量が電熱線130を通電状態(オン)にする前の所定割合以下(例えば70%以下)になるような時間に設定することができる。
【0089】
また、例えば、防曇膜220の吸水量が最大量である場合に、電熱線130を通電状態(オン)にする前の所定割合以下(例えば70%以下)になるような時間に設定すれば、どのような吸水量である場合においても、当分の間防曇膜220に曇りが生じない状況にすることができる。
【0090】
次に、防曇膜220の曇りの発生を推測する方法について説明する。防曇膜220の曇りの発生を推測するには、防曇膜220全体の吸水状態を指標とするよりも、防曇膜220の最表面における相対吸水率FRHを指標とした方が、急激な温度及び湿度の変化による過渡応答条件や、低温下で水分吸収速度が遅くなっている条件でも、曇りが生じるタイミングをより正確に推測できる。
【0091】
防曇膜220の材料中の水分拡散係数は、温度の関数であり、ガラス基板が低温になると拡散係数は小さくなる。
【0092】
水分拡散係数は、材料中の水分の活性化エネルギーの関数であり、JIS7209-2000(ISO62-1999)プラスチック-吸水率の求め方などの計測方法により、複数の異なる温度での拡散係数を求めることができる。
【0093】
防曇膜220の最表面における水分吸収速度は、ある温度と湿度とを有する空気の水蒸気圧と、ある温度と吸水率とを有する防曇膜220の最表面の水蒸気圧との差によって決まる。
【0094】
防曇膜220を備えない通常のガラスでは、単純に、ガラス温度が、ある温度と湿度とを有する空気の露点以下になると曇りが生じる。これに対して、防曇膜220では、車室内の空気から防曇膜220の最表面に向かう水分吸収速度の方が、防曇膜220の最表面から内部に向かう水分拡散速度より大きい場合は、防曇膜220が吸水飽和していなくても表の最表面が飽和してしまうことで曇りが生じる。
【0095】
防曇膜220が曇っている状態では、防曇膜220の最表面の相対吸水率FRHがほぼ100%に到達しているものの、膜内の相対吸水率FRHが100%に達しておらず、水分を吸収する余地が残っていることが一般的である。また、防曇膜220が乾燥する過程では、防曇膜220の最表面が乾燥状態になっているが、防曇膜220の膜内の相対吸水率FRHが最表面の相対吸水率FRHよりも高い状態であることが一般的である。
【0096】
車両10に多人数が乗り込んで車内の湿度が急激に上昇した条件や、低温のため飽和水蒸気圧が低くて防曇膜220の水分吸収速度が低い条件では、防曇膜220の最表面に曇りが生じても、膜内の相対吸水率FRHが70%程度である場合がある。
【0097】
車両10に乗員が乗り込む直前は、防曇膜220の相対吸水率FRHは、車室内の空気の湿度と平衡状態になっている。すなわち防曇膜220の水蒸気圧は、車室内の水蒸気圧と等しい。また、防曇膜220の最表面から最深部まで等しい水蒸気圧になっている。ガラス温度と車室内の温度とが異なる場合でも、そのガラス温度における膜内水蒸気圧は、室温での水蒸気圧と等しく平衡になっている。
【0098】
以上の考え方により、防曇膜220の最表面、膜中(膜内)、最深部における、Δt時間後の水分濃度分布をフィックの法則(濃度勾配の拡散方程式)で予測する。同条件(ガラス温度と車室内の温度及び湿度とが変化しない状態)が例えば10分間続いた場合の10分先までの水分濃度分布を計算する。
【0099】
防曇膜220の最表面の相対吸水率FRHをモニターして100%になったところを曇り発生と判断する。ここで、防曇膜220の最表面の相対吸水率FRHは、吸水質量濃度FDを飽和吸水質量濃度FWで除算することで得られる。
【0100】
曇りが発生すると予想される時点までの残り時間をあらかじめ設定した残り時間(例えば30秒)に設定し、残り時間がゼロになった時点で、電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にする、又は、エアコンの外気導入を行うことで、防曇膜220を乾燥するモードにする。
【0101】
電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にすると、残り時間は例えば10分以上になるので、防曇膜220の最表面の相対吸水率FRHがあらかじめ設定した相対吸水率(例えば80%)になるまで電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にし、最表面の相対吸水率FRHが80%未満になった時点で電熱線130又は電熱膜を非通電状態(オフ)にする。これは、エアコンの外気導入を行う場合も同様である。
【0102】
次に、車室内の空気と防曇膜220の最表面との界面における曇りの発生について説明する。車室内の空気と防曇膜220の最表面との界面での水蒸気の流れは次の手順で計算する。
【0103】
ここで、水蒸気の分子量を18として、水蒸気の1モルあたりの気体定数(8.3144598[J/K/mol])を1キログラムあたりに換算すると、気体定数Rは461.5149[J/K/kg]である。水の比熱Cwを1007[J/K/kg]、室温で無風の自然対流状態における水蒸気の熱伝達係数Hを4.2[W/m2/K]、室温Troom[℃]、車内の雰囲気中の水蒸気圧ES[Pa]とする。
【0104】
空気密度ρairは次式で表される。
ρair=(1.2923/(1+0.00366×T))×((101325-0.378×ES)/101325)[kg/m3]
大気圧における空気の水拡散係数Dairの実験式は次式で表される。
Dair=0.241×((Troom+273.15)/288)1.75×10-4[m2/s]
空気の熱拡散係数TDairは次式で表される。
TDair=(0.1356×Troom+18.51)×10-6[m2/s]
熱伝達率から換算した無風状態の水面上の蒸気圧差に応じた水分蒸発速度Hwaterは次式で表される。
Hwater=H×(Dair/TDair)(2/3)/(R×Cw×(Troom+273.15)×Dair)[kg/s/m2/Pa]
ある相対湿度の空気と平衡状態にある防曇膜220の相対吸水率FRHは、空気の相対湿度とほぼ等しい。空気の飽和水蒸気圧は、低温になると大幅に低下するが、防曇膜220の飽和吸水質量濃度FWはほぼ一定で水蒸気圧だけ低下する。
【0105】
ここで、空気の相対湿度RH[%]、飽和水蒸気圧EW[Pa]を用いると、車室内の空気の水蒸気圧ES[Pa]は次式で表される。
ES=EW×RH
また、防曇膜220の吸水質量濃度FD[kg/m3]、防曇膜220の飽和吸水質量濃度FW[kg/m3]を用いると、防曇膜220の最表面の相対吸水率FRH[%]は次式で表される。
FRH=FD/FW
また、ガラス本体111のある温度における空気の飽和水蒸気圧EWF[Pa]とすると、防曇膜220の水蒸気圧Fsは次式で表される。
Fs=EWF×FRH[Pa]
防曇膜220の最表面での水分移動量FWS(Flow Water Surface)[kg/m2/s]は次式で表される。
FWS=(ES-FS)×Hwater
防曇膜220の膜内の水分拡散吸収D[m2/s]は次のように求めることができる。防曇膜220の最表面での水蒸気の拡散活性化係数α、気体定数R(=461.5149)[J/K/kg]、膜内の水分活性化エネルギーeFilm(=2.8×106)[J]、ガラス温度Tg[K]とすると、水分拡散係数Dは次式で表される。
D=α×Exp(-eFilm/R/(Tg+273.15))
防曇膜220の吸水質量濃度分布FD(x,t)[kg/m3]の非定常解析を、以下の拡散方程式を用いて差分法で解析する。
∂FD(x)/∂t=D×∂2FD(x)/∂x2+FWS (x=0)
∂FD(x)/∂t=D×∂2FD(x)/∂x2 (0<x<d)
∂FD(x)/∂x=0 (x=d)
非定常解析は、無次元の吸水体積濃度U(x,t)で解く。防曇膜220の吸水質量濃度FD(x,t)は、下式で与えられる。ここでCは水の密度であり1000[kg/m3]とする。
FD(x,t)=U(x,t)×C[kg/m3]
また、非定常解析は、膜厚xが0[m]~d[m]の範囲で行う。防曇膜220を厚さ方向に等分割して取り扱う。例えば、防曇膜220の膜厚が20μmである場合、厚さ方向に最上層~最下層まで2μmおきに10分割する。FD(x=0,t)は、防曇膜220の空気と接する最上層における吸水質量濃度である。FD(x=d,t)は、防曇膜220のガラス本体111と接する最下層における吸水質量濃度である。差分解析では、例えば、防曇膜220の最上層における吸水質量濃度FD(x=0,t)について、一定時間評価する。また、時間t=0[s]は、防曇膜220の最上層における吸水質量濃度を予測する時刻を表す。
【0106】
非定常解析は、最初に解析を開始した後、継続的に実施することが好ましい。
【0107】
この偏微分方程式である拡散方程式を解くには、途中で膜の吸水飽和によって最上層に曇りが発生する、解析的に不連続なポイントがあるため、時間に関して前進差分、空間に関して中心差分で、陽解法で計算するのが適切である。
【0108】
時刻t=0における初期条件の吸水体積濃度U(x,0)[kg/m3]はU(x,0)=U0(0≦x≦d)である。また、境界条件は、最上層での吸水体積濃度の変化U(0,t)、最下層での吸水体積濃度の変化U(d,t)である。なお、U0は膜中の初期の均一な平衡吸水体積濃度[kg/m3]である。
【0109】
陽解法の解の安定性の公式から時間前進差分のdtの制限範囲は下記となる。
dt<dx2/2/(Hwater×dx+D)×C×ρ[s]
なお、dx:膜厚を分割する厚さ[m]、Hwater:水分蒸発速度[kg/s/m2/Pa]、D:膜中拡散係数[m2/s]、C:水の密度1000[kg/m3]、ρ:水の比熱[J/kg/K]である。
【0110】
防曇膜220の最表面における吸水体積濃度の時刻t+dtにおけるU(x=0,t+dt)は次式で表される。
U(0,t+dt)=Hwater/C/ρ×(ES-FW)×dt×dx+(1-D/C/ρ×(dt/dx2))×U(0,t)+D/C/ρ×(dt/dx2)×U(dx,t)
防曇膜220の膜中(表面から深さxの位置)における吸水体積濃度の時刻t+dtにおけるU(x,t+dt)は次式で表される。
U(x,t+dt)=D/C/ρ×(dt/dx2)×U(x-dx,t)+(1-2×D/C/ρ×(dt/dx2))×U(x,t)+D/C/ρ×(dt/dx2)×U(x+dx,t)
防曇膜220の最下層(x=d)における吸水体積濃度の時刻t+dtにおけるU(x=d,t+dt)は次式で表される。
U(x=d,t+dt)=D/C/ρ×(dt/dx2)×U(d-dx,t)+(1-D/C/ρ×(dt/dx2))×U(dt)
以上より、防曇膜220に曇りが生じないようにするために、次のように制御ユニット250で制御すればよい。
【0111】
防曇膜220の飽和吸水質量濃度FW[kg/m3]と、防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(x=0)との比較で、FD(x=0)<FWである場合、曇りは生じない。FD(x=0)≧FWになった段階で、防曇膜220の飽和吸水質量濃度FW以上の凝縮水は曇りとなって表面に析出する。
【0112】
FD(x=0)≧FWとなって、防曇膜220に曇りが生じるまでの所要時間Ts(防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(x=0)を予測した時刻から、曇りが発生すると予想される時刻までの所要時間)を求め、所要時間Tsが例えば30秒以下(Ts≦30[s])、好ましくは所要時間Tsが10秒以下(Ts≦10[s])になったときに乾燥モードを始動させるようにスイッチ140をオンにして制御部250Cが電熱線130を通電状態(オン)にする。
【0113】
F(x=0)≧FWとなって、防曇膜220に曇りが生じるまでの所要時間Tsは、以下のように所定時間(例えば10分)に至るまでの防曇膜220の最表面の吸水質量濃度を予測することにより、算出する。
【0114】
算出時点から10分(600[s])先までの吸水質量濃度FD(x=0)を予測する計算の、i番目の計算ステップにおける時間ステップdtiは可変であるが、ここでは説明の便宜上一定であることとする。
【0115】
各時刻ステップt=0、1×dt、2×dt、3×dt、4×dt、5×dt、…、(n-1)×dt、n×dt、(n+1)×dt、…、600[s]において、逐次、防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(x=0)[kg/m3]を算出する。
【0116】
(n-1)ステップの時刻Tn-1=Σdti(Ii=1~n-1)において、防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(0,Tn-1)と飽和吸水質量濃度FWには次の関係が成り立つ。
FD(0,Tn-1)[kg/m3]<FW[kg/m3]
nステップの時刻Tn=Σdti(i=1~n)において、防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(0,Tn)と飽和吸水質量濃度FWに次式が成り立つ。防曇膜220の最上層の吸水質量濃度(x=0)を予測した時刻から、時刻Tnまでの所要時間を、防曇膜220に曇りが生じるまでの所要時間Tsとする。
FD(0,Tn)[kg/m3]≧FW[kg/m3]
すなわち、Tsが例えば30秒以下(Ts≦30[s])、好ましくは所要時間Tsが10秒以下(Ts≦10[s])となった時に、制御部250Cが電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にする。
【0117】
そして、計算上、防曇膜220の最表面の相対吸水率FRH(x=0)が例えば80%以下(FRH(x=0)≦80%)になった時点で制御部250Cが電熱線130又は電熱膜を非通電状態(オフ)にする。
【0118】
なお、ここでは、一例として防曇膜220を乾燥させるために、電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にする形態について説明したが、電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にすることの代わりに、又は、電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にすることに加えて、デフロスタ20をオンにすること、エアコンの内気循環モードを外気導入モードに切り替えること、又は、加湿器を停止させること等を行ってもよい。
【0119】
また、防曇膜220に曇りが発生するまでの所要時間Tsは、最初に解析を開始した後、所定期間毎に算出されることが好ましい。所定期間は、制御周期の整数倍の期間であればよい。すなわち、所要時間Tsは、最初に解析を開始した後、所定の周期で算出されることが好ましい。
【0120】
図10は、制御部250Cが実行する処理を表すフローチャートの一例を示す図である。
図10に示すフローのうち、ステップS1~S3は、
図3に示す実施の形態1のステップS1~S3と同様である。
【0121】
制御部250Cは、ECUによって電源が投入されると処理をスタートする。
【0122】
制御部250Cは、温度センサ150A及び温湿度センサ150Bによって検出されるガラス温度、車室内の温度及び湿度に基づいて、ガラス温度が露点温度を超えているかどうかを判定する(ステップS1)。
【0123】
制御部250Cは、ガラス温度が露点温度を超える条件ではない(S1:NO)と判定すると、電熱線130、電熱膜又はデフロスタ20を通電状態(オン)にする(ステップS2)。
【0124】
次いで、制御部250Cは、温度センサ150Aによって検出されるガラス温度が温度Tαを超えたかどうかを判定する(ステップS3)。制御部250Cは、ガラス温度が温度Tαを超えるまでステップS3の判定を繰り返し行う。温度Tαは、一例として40℃である。
【0125】
制御部250Cは、ガラス温度が温度Tαを超えた(S3:YES)と判定すると、電熱線130もしくは電熱膜を非通電状態にする、又はデフロスタ20をオフにする(ステップS19)。ガラス温度が温度Tαを超えないようにするために、電熱線130もしくは電熱膜を非通電状態にする、又はデフロスタ20をオフにすることとしたものである。ステップS19の処理は、実施の形態1におけるステップS4の処理と同様である。
【0126】
なお、制御部250Cは、ガラス温度が温度Tαを超えていない(S3:NO)と判定すると、ガラス温度が温度Tαを超えるまでステップS3の処理を繰り返し実行する。
【0127】
制御部250Cは、ガラス温度が露点温度を超える条件である(S1:YES)と判定すると、ガラス温度、車室内の温度及び湿度によって特定される例えば10分後までの吸水質量濃度FD(x)の算出を開始する(ステップS13)。10分のカウントは、吸水質量濃度FD(x)を算出した時刻から行う。
【0128】
制御部250Cは、10分後までの防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(x=0)が、予め設定した値以上であるかどうかを判定する(ステップS14)。
【0129】
制御部250Cは、10分後までの吸水質量濃度FD(x=0)が、予め設定した値以上でない(S14:NO)と判定すると、ステップS15には進まず、ステップS14の処理を繰り返し実行する。
【0130】
制御部250Cは、10分後までの吸水質量濃度FD(x=0)が、予め設定した値以上である(S14:YES)と判定すると、防曇膜220に曇りが生じるまでの所要時間Ts(残り時間)を求める(ステップS15)。所要時間Tsは、制御部250Cが上述した方法で求めればよい。
【0131】
制御部250Cは、ステップS15で求めた所要時間Tsが、予め設定した時間以下であるかどうかを判定する(ステップS16)。
【0132】
制御部250Cは、所要時間Tsが、予め設定した時間を超えている場合は、ステップS17には進まず、ステップS16の処理を繰り返し実行する。
【0133】
制御部250Cは、所要時間Tsが、予め設定した時間以下になった(S16:YES)と判定すると、電熱線130もしくは電熱膜を通電状態にする、又はデフロスタ20をオンにする(ステップS17)。
【0134】
制御部250Cは、継続して算出している10分後までの吸水質量濃度FD(x=0)が、予め設定した値以下であるかどうかを判定する(ステップS18)。制御部250Cは、例えば10分後までの吸水質量濃度FD(x=0)が、予め設定した値を超えている場合は、ステップS19には進まず、ステップS18の処理を繰り返し実行する。
【0135】
制御部250Cは、10分後までの吸水質量濃度FD(x=0)が、予め設定した値以下に到達した(S18:YES)と判定すると、電熱線130、電熱膜又はデフロスタ20を非通電状態(オフ)にする(ステップS19)。
【0136】
以上で一連の処理が終了する。窓ガラスシステム200の電源が通電状態(オン)にされている間は、制御部250Cは、ステップS1からS19の処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0137】
以上のように、実施の形態によれば、ガラス温度、車室内の温度及び湿度に基づき、吸水質量濃度FD(x=0)を予測した時点から例えば10分後までの防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(x=0)を算出し、防曇膜220の最上層に曇りが生じるまでの所要時間Tsを求める。
【0138】
そして、所要時間Tsが例えば30秒以下(Ts≦30[s])、好ましくは所要時間Tsが10秒以下(Ts≦10[s])になったときに乾燥モードを始動させて電熱線130もしくは電熱膜を通電状態にする、又はデフロスタ20をオンにする。
【0139】
このため、窓ガラス110の防曇膜220に曇りが生じることを未然に抑制することができる。
【0140】
また、実施の形態2では、実施の形態1と同様に、ガラス本体111の温度が露点温度に達しているかどうかを判定し、ガラス本体111の温度が露点温度に達すると電熱線130又は電熱膜を通電状態(オン)にし、ガラス本体111の温度が温度Tαを超えると非通電状態(オフ)にする制御を行う。
【0141】
したがって、有機素子の一例であるOLEDを含むOLEDディスプレイ120の安定的な素子特性が得られるとともに、防曇性能を改善した窓ガラスシステム200を提供することができる。
【0142】
なお、以上では、ステップS1でガラス温度が露点温度を超えている(S1:YES)と判定された場合にステップS13~S18の処理を行い、ステップS1でガラス温度が露点温度以下である(S1:NO)と判定された場合にステップS2及びS3の処理を行う形態について説明した。
【0143】
しかしながら、ステップS17とS18の間において、又は、ステップS18でNOと判定した場合に、ステップS3と同様の判定処理を行ってもよい。
【0144】
より具体的には、前者の場合は、ステップS17の処理の後にステップS3と同様の判定処理を行い、ガラス温度が温度Tαを超えていたらフローをステップS19に進行させ、ガラス温度が温度Tα以下であればフローをステップS18に進行させればよい。この場合に、ステップS18でNOと判定した場合には、ステップS17の次に挿入したステップS3と同様の判定処理にフローをリターンすればよい。
【0145】
また、ステップS18でNOと判定し、ステップS3と同様の判定処理を行う場合は、ガラス温度が温度Tαを超えていたらフローをステップS19に進行させ、ガラス温度が温度Tα以下であれば、フローをステップS18の処理を繰り返すためにフローをステップS18にリターンすればよい。
【0146】
また、窓ガラス110は、
図11乃至
図13に示すように、移動体の外の情報を取得する情報取得装置270を備えてもよい。
図11乃至
図13は、情報取得装置270をガラス本体111に取り付けるブラケット280及び筐体290の構造を示す図である。
図11は、
図12におけるA-A矢視断面を示す図であり、
図12は正面図である。ここでは、
図11に示すように情報取得装置270、ブラケット280、及び筐体290がガラス本体111に取り付けられた状態における上下方向を用いて説明する。また、
図11における左方向が車両の前方であり、右方向が車両の後方である。また、図面を貫通する方向が横方向(側方)であり、図面を表から裏に貫通する方向が右方向であり、図面を裏から表に貫通する方向が左方向である。左と右は、車両10(
図1参照)の進行方向に対する左と右である。以下では、前後方向と横方向(側方)を用いて説明する。
図11及び
図13には、前後左右の方向を示し、
図12には、左右の方向を示す。
【0147】
また、
図11では、ガラス本体111は、ガラス板111B、111Dの間に中間膜111Cが封入された合わせガラスである。ガラス板111Bの車室内側の表面には、セラミック層112、防曇膜220、温度センサ150A、温湿度センサ150B、及び風速センサ250Dが取り付けられている。
【0148】
セラミック層112は、ブラケット280が取り付けられる部分に、ガラス本体111を正面から見て矩形環状に取り付けられている。
【0149】
防曇膜220は、ガラス本体111のガラス板111Bの車室内側の表面における、セラミック層112で囲まれた領域内の上端側を除いた部分に形成されている。防曇膜220は、情報取得装置270の情報取得部271の正面に位置しており、情報取得部271の正面におけるガラス本体111の曇りの発生を抑制するために設けられている。
【0150】
温度センサ150A、温湿度センサ150B、及び風速センサ250Dは、ガラス本体111のガラス板111Bの車室内側の表面における、セラミック層112で囲まれた領域内で、防曇膜220を避けて設けられている。一例として、温度センサ150A、温湿度センサ150B、及び風速センサ250Dは、防曇膜220よりも上側に設けられている。風速センサとしては、例えば、熱線式風速計や超音波式風速計を用いればよい。
【0151】
情報取得装置270としては、カメラなどの撮像装置、及び、レーダー又は光ビーコン等の信号を受信する受光装置等が挙げられる。情報取得装置270は、ブラケット280及び筐体290を介して窓ガラス110に固定される。ブラケット280及び筐体290は、取り付け部材の一例である。情報取得装置270は、情報取得部271を有し、情報取得部271で画像や、レーダー又は光ビーコン等の信号を取得することで、車両10の前方の情報を取得する。ガラス本体111のうち、情報取得部271の正面の領域は、情報取得領域の一例である。防曇膜220は、少なくとも窓ガラス110の情報取得領域に設けられることになる。
【0152】
ブラケット280は、矩形環状の枠状の部材であり、前方の上面側に凹部281を有する。凹部281の部分は、ブラケット280の厚さが薄くなっている。ブラケット280は、凹部281以外の部分の厚さは略一定である。ブラケット280は、一例として樹脂製である。
【0153】
筐体290は、
図13に示すように、矩形板状の底部291、三角板状の側壁292、及び矩形板状の背面壁293を有する。側壁292は、底部291の側方から上方向に延在しており、背面壁293は、底部291の後方から上方向に延在している。底部291、側壁292、及び背面壁293で囲まれた空間は、収納部294であり、背面壁293の前側の表面に固定される情報取得装置270は、収納部294内に位置する。筐体290は、一例として樹脂製である。
【0154】
このような筐体290は、底部291の前端と、側壁292及び背面壁293の上端とがブラケット280の下面に接着され、さらにブラケット280が接着層285を介してガラス本体111のガラス板111Bの車室内側の表面にあるセラミック層112に貼り付けられている。接着層285は、ブラケット280の矩形環形状に沿って分断されており、また、ブラケット280の凹部281の部分には設けられていない。
【0155】
筐体290が接着されたブラケット280を接着層285でガラス板111Bの車室内側の表面に取り付けると、ブラケット280の凹部281とガラス板111Bの車室内側の表面との間には隙間が生じる。また、ブラケット280の凹部281以外の部分とガラス板111Bの車室内側の表面との間には、接着層285で接着されていない区間において、隙間が生じる。
【0156】
このような隙間から筐体290の収納部294には、車室内側の空気が流入する。特に、凹部281の部分の隙間は大きく、前方の斜め下方向を向いているため、デフロスタ20をオンにすると、収納部294には、デフロスタ20で除湿された空気が流入する。
【0157】
このため、風速センサ250Dで、デフロスタ20による風の風速又はエアコンによる風の風速を検出することができる。
【0158】
また、温度センサ150Aで、ガラス本体111の近くにおける温度を検出でき、温湿度センサ150Bでガラス本体111の近くにおける温度及び湿度を検出できる。
【0159】
また、デフロスタ20で除湿された空気は、凹部281から収納部294内に流入し、防曇膜220に吹き付けられ、凹部281以外の隙間から流出するため、防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(x=0)が効率的に下がり、デフロスタ20の稼働時間を短くできる。
【0160】
温度センサ150A及び温湿度センサ150Bは、接着層285が分断された区間の隙間の近傍に設けられることが好ましい。温度センサ150A及び温湿度センサ150Bが接着層285が分断された区間の隙間の近傍に設けられることで、防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(x=0)を正しく算出できる。温度センサ150A及び温湿度センサ150Bが設けられる位置は、隙間から平面視で半径50mm以内であることが好ましく、40mm以内であることがより好ましく、30mm以内であることが特に好ましい。
【0161】
また、風速センサ250Dを用いれば、熱伝達率Hを求める式を、車室内の風速V[m/s]を考慮して熱伝達率Hを求める以下の式に置き換えて、防曇膜220に曇りが生じるまでの所要時間Tsを算出することができる。
H=5.8+4.2V [W/m2/K]
風速センサ250Dは、デフロスタ20で除湿された空気又はエアコンで調温された空気が通過する部分に設けられることが好ましい。このため、ここでは一例として、風速センサ250Dは、温度センサ150A及び温湿度センサ150Bよりもブラケット280の凹部281に近い側に設けられている。また、風速センサ250Dは、接着層285が分断された区間の隙間の近傍に設けられている。
【0162】
風速センサが隙間の近傍に設けられることで、防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(x=0)をさらに正しく算出できる。風速センサが設けられる位置は、接着層285が分断された区間の隙間から平面視で半径100mm以内であることが好ましく、80mm以内であることがより好ましく、50mm以内であることが特に好ましい。
【0163】
なお、
図11乃至
図13に示すブラケット280の代わりに、
図14に示すブラケット280Mを用いてもよい。
図14は、実施の形態2の変形例によるブラケット280Mを示す図である。
【0164】
ブラケット280Mは、開口部281Mを有する。このようなブラケット280Mを用いれば、ブラケット280M及び筐体290で囲まれる空間内に、デフロスタ20で乾燥された空気が流入するので、
図11乃至
図13に示すブラケット280を用いる場合と同様に、防曇膜220の最上層の吸水質量濃度FD(x=0)が効率的に下がり、デフロスタ20の稼働時間を短くできる。また、風速センサ250Dを用いれば、熱伝達率Hを求める式を、車室内の風速V[m/s]を考慮して熱伝達率Hを求める以下の式に置き換えて、防曇膜220に曇りが生じるまでの所要時間Tsを算出することができる。
【0165】
以上、本発明の例示的な実施の形態の窓ガラスシステム、及び、窓ガラス装置について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0166】
本国際出願は2019年12月11日に出願した日本国特許出願2019-224052号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2019-224052号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0167】
100、200 窓ガラスシステム
110 窓ガラス
111 ガラス本体
111A 中央部
112 セラミック層
120 OLEDディスプレイ
130 電熱線
140 スイッチ
150、250 制御ユニット
150A 温度センサ
150B 温湿度センサ
150C、250C 制御部
160H 電源
160L 電源
220 防曇膜
250D 風速センサ