IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】アンテナ装置及び位相制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/18 20060101AFI20240628BHJP
   H01P 3/08 20060101ALI20240628BHJP
   H01Q 3/32 20060101ALI20240628BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20240628BHJP
   H01Q 21/08 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H01P1/18
H01P3/08 100
H01Q3/32
H01Q13/08
H01Q21/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021530688
(86)(22)【出願日】2020-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2020026417
(87)【国際公開番号】W WO2021006244
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019127933
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐山 稔貴
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 修
(72)【発明者】
【氏名】陳 強
(72)【発明者】
【氏名】長江 眞平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘康
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-211327(JP,A)
【文献】特開2012-222556(JP,A)
【文献】米国特許第05905462(US,A)
【文献】特開昭63-296402(JP,A)
【文献】特表2005-506788(JP,A)
【文献】特開2015-139067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00-11/00
H01Q 1/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有する第1誘電体と、
前記第1面に設けられる複数の信号線と、
前記複数の信号線のうち、対応する信号線に接続される複数のアンテナ素子と、
前記第1面と前記第2面とのうち少なくとも一方の面に設けられる接地導体と、
前記複数の信号線に対して前記第2面の側に位置し且つ比誘電率が前記第1誘電体と異なる第2誘電体のうち、前記複数の信号線に平面視で重複する複数の誘電体部分をそれぞれ異なる大きさに変化させる制御部と
信号源の接続先を切り替えるスイッチ回路と、を備え、
前記複数の信号線は、基準位置から第1配列方向に配列される複数の第1信号線と、前記基準位置から前記第1配列方向とは反対向きの第2配列方向に配列される複数の第2信号線とを含み、
前記複数の第1信号線に対して前記第2面の側に位置する前記第2誘電体は、前記基準位置から前記第1配列方向に離れるほど大きく又は小さく、
前記複数の第2信号線に対して前記第2面の側に位置する前記第2誘電体は、前記複数の第1信号線に対して前記第2面の側に位置する前記第2誘電体が前記基準位置から前記第1配列方向に離れるほど大きい場合には、前記基準位置から前記第2配列方向に離れるほど大きく、前記複数の第1信号線に対して前記第2面の側に位置する前記第2誘電体が前記基準位置から前記第1配列方向に離れるほど小さい場合には、前記基準位置から前記第2配列方向に離れるほど小さく、
前記スイッチ回路は、前記信号源の接続先を、前記複数の第1信号線又は前記複数の第2信号線に切り替える、アンテナ装置。
【請求項2】
前記接地導体は、前記第1誘電体を介して前記複数のアンテナ素子と対向する、請求項1に記載のアンテナ装置
【請求項3】
前記制御部は、前記第1誘電体の一部又は全体を移動させて、前記誘電体部分の大きさを変化させる、請求項2に記載のアンテナ装置
【請求項4】
前記第1誘電体は、前記第1面を有する第1層と、前記第2面を有する第2層と、前記第1層と前記第2層との間に配置される第3層とを有し、
前記制御部は、前記第1面に平行な方向に前記第3層の一部又は全体を移動させて、前記誘電体部分の大きさを変化させる、請求項3に記載のアンテナ装置
【請求項5】
前記第2誘電体は、前記第1面と前記第2面との間に位置する、請求項1から4のいずれか一項に記載のアンテナ装置
【請求項6】
前記第2誘電体は、前記信号線に沿った方向に延びて存在する、請求項5に記載のアンテナ装置
【請求項7】
前記第2誘電体は、前記第1誘電体に形成される空隙に存在する、請求項5又は6に記載のアンテナ装置
【請求項8】
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有する第1誘電体と、前記第1面に設けられる複数の信号線と、前記第1面と前記第2面とのうち少なくとも一方の面に設けられる接地導体とを備える伝送線路を通る信号の位相を制御する方法であって、
前記複数の信号線に対して前記第2面の側に位置し且つ比誘電率が前記第1誘電体と異なる第2誘電体のうち、前記複数の信号線に平面視で重複する複数の誘電体部分をそれぞれ異なる大きさ変化させる方法であって、
前記複数の信号線は、基準位置から第1配列方向に配列される複数の第1信号線と、前記基準位置から前記第1配列方向とは反対向きの第2配列方向に配列される複数の第2信号線とを含み、
前記複数の第1信号線に対して前記第2面の側に位置する前記第2誘電体は、前記基準位置から前記第1配列方向に離れるほど大きく又は小さく、
前記複数の第2信号線に対して前記第2面の側に位置する前記第2誘電体は、前記複数の第1信号線に対して前記第2面の側に位置する前記第2誘電体が前記基準位置から前記第1配列方向に離れるほど大きい場合には、前記基準位置から前記第2配列方向に離れるほど大きく、前記複数の第1信号線に対して前記第2面の側に位置する前記第2誘電体が前記基準位置から前記第1配列方向に離れるほど小さい場合には、前記基準位置から前記第2配列方向に離れるほど小さく、
信号源の接続先を、前記複数の第1信号線又は前記複数の第2信号線に切り替える、位相制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移相器、アンテナ装置及び位相制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、信号源が発生した信号を分配する分配回路と、分配回路が分配した信号を移相し、複数のアンテナ素子から放射される電磁波の指向方向を変更する複数の移相器とを備える、フェーズドアレイアンテナが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/225824号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、複数のアンテナ素子に入力されるRF(Radio Frequency)信号のような高周波信号の位相を互いにずらすことによって、電波等の電磁波を放射する方向(ビーム方向)を変えるビームフォーミングの開発が進んでいる。このビームフォーミングの開発において、高周波信号の位相をより容易に調整することが求められている。
【0005】
そこで、本開示は、高周波信号の位相を容易に調整可能な、移相器、アンテナ装置及び位相制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有する第1誘電体と、
前記第1面に設けられる信号線と、
前記第1面と前記第2面とのうち少なくとも一方の面に設けられる接地導体と、
前記信号線に対して前記第2面の側に位置し且つ比誘電率が前記第1誘電体と異なる第2誘電体のうち、前記信号線に平面視で重複する誘電体部分の大きさを変化させる制御部とを備える、移相器を提供する。
【0007】
また、本開示は、
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有する第1誘電体と、
前記第1面に設けられる複数の信号線と、
前記複数の信号線のうち、対応する信号線に接続される複数のアンテナ素子と、
前記第1面と前記第2面とのうち少なくとも一方の面に設けられる接地導体と、
前記複数の信号線に対して前記第2面の側に位置し且つ比誘電率が前記第1誘電体と異なる第2誘電体のうち、前記複数の信号線に平面視で重複する複数の誘電体部分をそれぞれ異なる大きさに変化させる制御部とを備える、アンテナ装置を提供する。
【0008】
また、本開示は、
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有する第1誘電体と、
前記第1面に設けられる信号線と、
前記信号線により直列又は並列に接続される複数のアンテナ素子と、
前記第1面と前記第2面とのうち少なくとも一方の面に設けられる接地導体と、
前記信号線に対して前記第2面の側に位置し且つ比誘電率が前記第1誘電体と異なる第2誘電体のうち、前記信号線に平面視で重複する少なくとも一つの誘電体部分の大きさを変化させる制御部とを備える、アンテナ装置を提供する。
【0009】
また、本開示は、
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有する第1誘電体と、前記第1面に設けられる信号線と、前記第1面と前記第2面とのうち少なくとも一方の面に設けられる接地導体とを備える伝送線路を通る信号の位相を制御する方法であって、
前記信号線に対して前記第2面の側に位置し且つ比誘電率が前記第1誘電体と異なる第2誘電体のうち、前記信号線に平面視で重複する誘電体部分の大きさを変化させる、位相制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の技術によれば、高周波信号の位相を容易に調整可能な、移相器、アンテナ装置及び位相制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。
図2】第1の実施形態におけるアンテナ装置の動作イメージを示す図である。
図3】第1の実施形態におけるアンテナ装置の動作イメージを示す図である。
図4】移相器の第1の構成例を示す断面図である。
図5】第2誘電体の位置と位相変化量との関係の一例を示す図である。
図6】複数の移相器を示す平面図である。
図7】複数の移相器の動作イメージを示す断面図である。
図8】第2誘電体の大きさの違いによる、第2誘電体の位置と位相のずれ量との関係の一例を示す図である。
図9】複数の移相器によるビームチルトの計算結果の一例を示す図である。
図10】第2の実施形態におけるアンテナ装置の動作イメージを示す図である。
図11】第2の実施形態におけるアンテナ装置の動作イメージを示す図である。
図12】第3の実施形態におけるアンテナ装置の動作イメージを示す図である。
図13】第3の実施形態におけるアンテナ装置の動作イメージを示す図である。
図14】第3の実施形態におけるアンテナ装置の動作イメージを示す図である。
図15】移相器の第2の構成例を示す平面図である。
図16】移相器の第2の構成例を示す断面図である。
図17】移相器の第3の構成例を示す平面図である。
図18】移相器の第3の構成例を示す断面図である。
図19】移相器の第4の構成例を示す平面図である。
図20】移相器の第4の構成例を示す断面図である。
図21】移相器の第5の構成例を示す平面図である。
図22】移相器の第5の構成例を示す断面図である。
図23】移相器の第6の構成例を示す平面図である。
図24】移相器の第6の構成例を示す断面図である。
図25】移相器の第7の構成例を示す断面図である。
図26】第4の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。
図27】第5の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。
図28】第6の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本開示に係る実施形態について説明する。なお、平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、本発明の効果を損なわない程度のずれが許容される。また、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を表す。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。XY平面、YZ平面、ZX平面は、それぞれ、X軸方向及びY軸方向に平行な仮想平面、Y軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面、Z軸方向及びX軸方向に平行な仮想平面を表す。
【0013】
本開示の一実施形態におけるアンテナ装置は、マイクロ波やミリ波等の高周波帯(例えば、1GHz超~300GHz)の電波の送受に好適である。本開示の一実施形態におけるアンテナ装置は、例えば、V2X通信システム、第5世代移動通信システム(いわゆる、5G)、車載レーダーシステムなどに適用可能であるが、適用可能なシステムはこれらに限られない。
【0014】
図1は、第1の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。なお、図1に示すアンテナ装置101は、複数のアンテナ素子60~67のそれぞれから放射される電磁波の位相が移相器11~17により変化することで所望の特性を提供するものであり、以下の図や説明においても同様である。
【0015】
アンテナ装置101は、複数のアンテナ素子に入力される高周波信号の位相を互いにずらすことによって、電波等の電磁波を放射する方向(ビーム方向90)を変えるビームフォーミングが可能なフェーズドアレイアンテナ装置である。図1に示すアンテナ装置101は、平面アンテナ201と、制御部53とを備える。図1において、上図は、Z軸方向からの平面視で平面アンテナ201を示す平面図であり、下図は、ZX平面での断面視で平面アンテナ201を示す断面図である。なお、ビーム方向90は、図示の都合上、XY平面に平行に描画されているが、ZX平面内でアンテナ利得が最大になる方向を表す。
【0016】
平面アンテナ201は、誘電体を主成分とする誘電積層体40と、誘電積層体40の一方の表面に設けられる複数のアンテナ素子60~67と、誘電積層体40を介して複数のアンテナ素子60~67と対向する接地導体20と、複数のアンテナ素子60~67に給電する複数の伝送線路30~37とを備える。平面アンテナ201は、パッチアレイアンテナ又はマイクロストリップアレイアンテナとも称される。なお、図1における複数のアンテナ素子の個数は、8個だが、これに限定されるものではない(後述の他の実施形態についても、同様)。
【0017】
複数の伝送線路30~37は、それぞれ、X軸方向に配列された複数のアンテナ素子60~67のうち対応するアンテナ素子に接続される信号線を有するマイクロストリップ線路である。例えば、伝送線路30は、対応するアンテナ素子60に接続される信号線70を有し、伝送線路31は、対応するアンテナ素子61に接続される信号線71を有する。X軸方向に配列された複数の伝送線路30~37は、それぞれ、Y軸方向に延びている。
【0018】
複数のアンテナ素子60~67は、互いに同形状に形成されており、図1に示す形態では、方形状に形成されたパッチ導体である。複数のアンテナ素子60~67は、その表面がXY平面に平行な導体パターンである。複数のアンテナ素子60~67は、第1主面41に形成される導体パターンであり、第1主面41に配置される導体シート又は導体基板により形成されてもよい。複数のアンテナ素子60~67に使用される導体の材料として、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、白金、クロムなどが挙げられる。なお、複数のアンテナ素子60~67は、図1に示す形態に限られない。
【0019】
複数の信号線70~77は、不図示の共通の信号源が接続される第1の端部70a~77aと、複数のアンテナ素子60~67が接続される第2の端部70b~77bとを有する。複数の信号線70~77は、互いに同形状に形成されており、X軸方向の幅とY軸方向の長さとZ軸方向の厚さとが互いに等しい。
【0020】
図1に示す形態では、複数の信号線70~77は、マイクロストリップ線路のストリップ導体であり、その表面がXY平面に平行な導体パターンである。複数の信号線70~77は、第1主面41に形成される導体パターンであり、第1主面41に配置される導体シート又は導体基板により形成されてもよい。複数の信号線70~77に使用される導体の材料として銅を挙げたが、他にも、金、銀、白金、アルミニウム、クロムなどが使用でき、また、これらの材料に限られない。図1に示す形態では、複数の信号線70~77は、複数のアンテナ素子60~67と一体的に形成されている。
【0021】
接地導体20は、その表面がXY平面に平行な導体パターンである。接地導体20は、第2主面42に形成される導体パターンであり、第2主面42に配置される導体シート又は導体基板により形成されてもよい。接地導体20に使用される導体の材料として銅を挙げたが、他にも、金、銀、白金、アルミニウム、クロムなどが使用でき、また、これらの材料に限られない。
【0022】
誘電積層体40は、第1主面41と、第1主面41とは反対側の第2主面42とを有する。誘電積層体40の第1主面41に、複数のアンテナ素子60~67及び複数の信号線70~77が設けられ、誘電積層体40の第2主面42に、接地導体20が設けられる。複数のアンテナ素子60~67及び複数の信号線70~77は、誘電積層体40を介して接地導体20に対向する。誘電積層体40は、第1誘電体の一例である。第1主面41は、第1面の一例である。第2主面42は、第2面の一例である。
【0023】
誘電積層体40は、誘電体を主成分とする板状の基材が重なり合うデバイスである。第1主面41及び第2主面42は、いずれも、XY平面に平行である。誘電積層体40は、例えば、誘電体基板である。誘電積層体40の材料は、例えば、石英ガラス等のガラス、セラミックス、樹脂などが挙げられる。
【0024】
図1に示す形態では、誘電積層体40は、複数の層から形成されている。誘電積層体40は、第1主面41を有する第1層43と、第2主面42を有する第2層44と、誘電積層体40の厚さ方向において第1層43と第2層44との間に配置される第3層45とを有する。第1層43、第2層44及び第3層45は、一枚の誘電体基板を分割して形成されてもよいし、複数の誘電体基板を積層して形成されてもよい。
【0025】
誘電積層体40には、第1主面41と第2主面42との間に位置し、且つ、比誘電率が誘電積層体40とは異なる誘電体Qを収容する複数のスリット81~87が形成されている。図1に示す形態では、複数のスリット81~87は、第1主面41と第2主面42との間に位置する第3層45に形成されている。複数のスリット81~87のそれぞれに収容される誘電体Q(例えば、空気などの気体)は、第2誘電体の一例であり、比誘電率が誘電積層体40とは異なる固体又は液体でもよい。
【0026】
複数のスリット81~87は、複数の信号線71~77のうち対応する信号線に沿った方向に延びて存在する空隙である。例えば、スリット81は、対応する信号線71に沿って形成されており、スリット82は、対応する信号線72に沿って形成されている。なお、図1に示す形態では、信号線70に対応するスリットが形成されていないが、信号線70に対応するスリットが形成されてもよい。複数のスリット81~87は、X軸方向に配列されており、Y軸方向に延伸する。なお、図1における複数のスリットや複数の信号線の本数は、8本だが、これに限定されるものではない(後述の他の実施形態についても、同様)。
【0027】
図1に示す形態では、複数のスリット81~87は、Y軸方向での長さ及びZ軸方向の長さが、互いに等しい。また、複数のスリット81~87の各々のX軸方向の長さ(スリット幅)は、信号線70が存在する基準位置から正のX軸方向に離れるほど、大きな寸法で形成されている。
【0028】
制御部53は、複数のスリット81~87のそれぞれに収容される誘電体Qのうち、複数の信号線70~77に平面視で重複する複数の誘電体部分(以下、誘電体部分Pとも称する)をそれぞれ異なる大きさに変化させる。図1に示す形態では、制御部53は、誘電積層体40の一部である第3層45の全体を第1主面41に平行な方向に駆動部50により移動させて、複数の誘電体部分Pをそれぞれ異なる大きさに変化させる。駆動部50は、外部からの制御信号51に従って、第1層43及び第2層44に対して第3層45の全体を第1主面41に平行な方向に相対的に変位させる荷重52を出力する。駆動部50の具体例として、アクチュエータ、モータなどが挙げられる。
【0029】
図2,3は、アンテナ装置101の動作イメージを示す図である。図2に示すように、複数のスリット81~87のそれぞれに収容される誘電体Qのうち、複数の信号線70~77に平面視で重複する複数の誘電体部分Pは、存在しない。図2に示す状態では、Z軸方向からの平面視で透過的に見たとき、複数の信号線70~77に重複する複数の誘電体部分は、いずれも、誘電積層体40の部分(比誘電率が誘電積層体40と同じ部分)である。したがって、複数の伝送線路30~37の実効比誘電率εreffは、互いにほぼ等しくなる。また、共通の高周波信号が第1の端部70a~77aに同位相で入力されたとき、第2の端部70bから出力される高周波信号の位相に対する、第2の端部71b~77bから出力される高周波信号の位相のずれ量ΔPも、互いほぼ等しくなる。よって、ZX平面においてアンテナ利得がピークになるビーム方向90は、Z軸方向にほぼ一致する。
【0030】
ここで、上述の制御部53は、負のX軸方向に第3層45の全体を徐々に変位させる。これにより、複数のスリット81~87のそれぞれに収容される誘電体Qのうち、複数の信号線70~77に平面視で重複する複数の誘電体部分Pは、それぞれ徐々に大きくなり、それぞれ異なる大きさに変化する。例えば、複数のスリット81~87のそれぞれに収容される誘電体Qの比誘電率が、誘電積層体40の比誘電率よりも小さい場合、図3に示す状態では、複数の伝送線路30~37の実効比誘電率εreffは、誘電体部分Pが大きな伝送線路ほど、小さくなる。よって、実効比誘電率εreffが小さい伝送線路ほど、その長さは、高周波信号からは短く見えるので、高周波信号の位相のずれ量ΔPは、大きくなる(つまり、位相が進む)。
【0031】
したがって、第3層45を図2の状態から図3の状態に負のX軸方向にスライドさせることで、ZX平面においてアンテナ利得がピークになるビーム方向90を、Z軸方向に対して傾けることができる。逆に、第3層45を図3の状態から図2の状態に正のX軸方向にスライドさせることで、ZX平面においてアンテナ利得がピークになるビーム方向90を、Z軸方向に平行な方向に近づけることができる。
【0032】
このように、複数の誘電体部分Pの大きさを制御部53によりそれぞれ異なる大きさに変化させることで、図1に示す複数の伝送線路31~37を、それぞれ、複数の移相器11~17として機能させることができる。
【0033】
図4は、移相器の第1の構成例における信号線71の部分拡大図である。図4に示す移相器11は、図1~3に示す移相器と同じ構成を有する。
【0034】
図5は、図4に示す移相器において、誘電体Qの位置(言い換えれば、スリット81の位置)と位相変化量との関係の一例を示す図である。図5において、横軸は、図4における信号線71の中心からスリット81の中心までのX軸方向での距離dを表し、縦軸は、移相器11の第2の端部から出力される高周波信号の位相∠S21を表す。図5に示すように、距離d(つまり、第3層45をスライドさせる量)に応じて、移相器11から出力される高周波信号の位相を変化させることができる。また、スリット81の大きさを変えることによって、距離dに対する位相∠S21の傾きを変えることができ、スリット81の大きさを大きくすることによって、距離dに対する位相∠S21の変化率を大きくすることができる。
【0035】
なお、図5に示すデータの計算時において、図4に示す各部の寸法は、単位をmmとすると、
:3.5
:0.6
:0.3
である。また、高周波信号の周波数は、12GHzであり、誘電体Qは、空気である。
【0036】
図6は、複数の移相器を示す平面図である。図6に示す複数の移相器11~17は、図1~3に示す移相器と同じ構成を有する。図7は、図6に示す複数の移相器の動作イメージを示す断面図である。図8は、図6,7に示す複数の移相器11~17において、第2誘電体の位置と位相のずれ量ΔPとの関係の一例を示す図である。スリット81~87の各々のスリット幅wは、1.0mm、1.5mm、2.0mm、2.5mm、3.0mm、3.5mm、4.0mmに設定されている。
【0037】
図8に示すように、距離d(つまり、第3層45をスライドさせる量)に対する位相の変化量をスリットサイズで調整できる。また、同じ距離dにおいて、複数の伝送線路31~37(複数の移相器11~17)のそれぞれから異なる位相の高周波信号を出力させることができる。
【0038】
なお、図8のデータの計算時において、図6,7に示す各部の特性は、表1に示す。εは、誘電積層体40の比誘電率、tanδは、誘電積層体40の誘電正接を表す。また、波長λの高周波信号の周波数は、12GHzであり、誘電体Qは、空気である。
【0039】
【表1】
【0040】
図9は、図1に示すアンテナ装置101において、複数の移相器によるビームチルトの計算結果の一例を示す図である。図9において、横軸は、ZX平面におけるビーム方向90を表し、Z軸方向を0°とする。縦軸は、ZX平面におけるビーム方向90でのアンテナ利得を表す。第3層45の全体をX軸方向に移動させることにより各スリットも同じX軸方向に移動する。よって、各伝送線路から各アンテナ素子に入力される高周波信号の位相が互いにずれるので、ビーム方向90を連続的に変えることができる。
【0041】
図10,11は、第2の実施形態におけるアンテナ装置の動作イメージを示す図である。上述の実施形態と同様の構成及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで、省略又は簡略する。図10,11において、下図は、Z軸方向からの平面視で平面アンテナ202を示す平面図であり、上図は、ZX平面での断面視で平面アンテナ202を示す断面図である。
【0042】
図10,11に示すアンテナ装置102は、平面アンテナ202及び制御部53(図1参照。図10,11では記載を省略する)に加えて、信号源110の接続先を切り替えるスイッチ回路112を更に備える。
【0043】
平面アンテナ202は、誘電体を主成分とする誘電積層体40と、誘電積層体40の一方の表面に設けられる複数のアンテナ素子60,61A~67A,61B~67Bと、誘電積層体40を介して複数のアンテナ素子60,61A~67A,61B~67Bと対向する接地導体20と、複数のアンテナ素子60,61A~67A,61B~67Bに給電する複数の伝送線路30,31A~37A,31B~37Bとを備える。
【0044】
複数の信号線は、信号線70が存在する基準位置Pbから正のX軸方向に配列される複数の第1信号線71A~77Aと、基準位置Pbから負のX軸方向に配列される複数の第2信号線71B~77Bとを含む。正のX軸方向は、第1配列方向の一例であり、負のX軸方向は、第1配列方向とは反対向きの第2配列方向の一例である。
【0045】
図10,11に示す形態では、複数の第1信号線71A~77Aに対して第2主面42の側に位置する複数のスリット81A~87Aのそれぞれに収容される誘電体Qの体積は、基準位置Pbから正のX軸方向に離れるほど大きい。この例では、複数のスリット81A~87AのX軸方向の長さ(スリット幅)が、基準位置Pbから正のX軸方向に離れるほど大きく形成されている。同様に、複数の第2信号線71B~77Bに対して第2主面42の側に位置する複数のスリット81B~87Bのそれぞれに収容される誘電体Qの体積は、基準位置Pbから負のX軸方向に離れるほど大きい。この例では、複数のスリット81B~87BのX軸方向の長さ(スリット幅)が、基準位置Pbから負のX軸方向に離れるほど大きく形成されている。
【0046】
なお、複数の第1信号線71A~77Aに対して第2主面42の側に位置する複数のスリット81A~87Aのそれぞれに収容される誘電体Qの体積は、基準位置Pbから正のX軸方向に離れるほど小さくてもよい。例えば、複数のスリット81A~87AのX軸方向の長さ(スリット幅)が、基準位置Pbから正のX軸方向に離れるほど小さく形成される。同様に、複数の第2信号線71B~77Bに対して第2主面42の側に位置する複数のスリット81B~87Bのそれぞれに収容される誘電体Qの体積は、基準位置Pbから負のX軸方向に離れるほど小さくてもよい。例えば、複数のスリット81B~87BのX軸方向の長さ(スリット幅)が、基準位置Pbから負のX軸方向に離れるほど小さく形成される。
【0047】
スイッチ回路112は、図10,11に示すように、高周波信号を発生させる信号源110の接続先を、複数の第1信号線71A~77A又は複数の第2信号線71B~77Bに選択的に切り替える。信号線70は、図10,11のいずれの状態でも、高周波信号を発生させる信号源110に接続されている。
【0048】
図10は、信号源110の接続先がスイッチ回路112により複数の第1信号線71A~77Aに切り替えられた状態を示す。図10に示す状態において、制御部53が第3層45の全体を正のX軸方向に徐々にスライドさせることで、ZX平面でのビーム方向90を、正のZ軸方向に対して負のX軸方向の側に傾いている状態から正のZ軸方向に近づけることができる。図10に示す状態において、制御部53が第3層45の全体を負のX軸方向に徐々にスライドさせても、ZX平面でのビーム方向90を、正のZ軸方向に対して負のX軸方向の側に傾いている状態から正のZ軸方向に近づけることができる。
【0049】
一方、図11は、信号源110の接続先がスイッチ回路112により複数の第2信号線71B~77Bに切り替えられた状態を示す。図11に示す状態において、制御部53が第3層45の全体を正のX軸方向に徐々にスライドさせることで、ZX平面でのビーム方向90を、正のZ軸方向に対して正のX軸方向の側に傾いている状態から正のZ軸方向に近づけることができる。図11に示す状態において、制御部53が第3層45の全体を負のX軸方向に徐々にスライドさせても、ZX平面でのビーム方向90を、正のZ軸方向に対して正のX軸方向の側に傾いている状態から正のZ軸方向に近づけることができる。
【0050】
このように、複数の誘電体部分Pの大きさを制御部53によりそれぞれ異なる大きさに変化させることで、複数の伝送線路31A~37Aを複数の移相器11A~17Aとして、複数の伝送線路31B~37Bを複数の移相器11B~17Bとして、それぞれ、機能させることができる。
【0051】
図12~14は、第3の実施形態におけるアンテナ装置の動作イメージを示す図である。上述の実施形態と同様の構成及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで、省略又は簡略する。
【0052】
図12~14に示すアンテナ装置103は、平面アンテナ203及び制御部53(図1参照。図12~14では記載を省略する)を備える。図12~14において、上図は、Z軸方向からの平面視で平面アンテナ203を示す平面図であり、下図は、ZX平面での断面視で平面アンテナ203を示す断面図である。平面アンテナ203は、複数の信号線70~77の長さが互いに異なる点で、図1に示す平面アンテナ201と相違する。図12~14において、複数の信号線71~77のうち、信号線70が存在する基準位置Pbから離れる信号線ほど、Y軸方向での延伸長さが長くなっている。また、図12~14では、複数の第1信号線71~77に対して第2主面42の側に位置する複数のスリット81~87のそれぞれに収容される誘電体Qの大きさ(つまり、複数のスリット81~87のそれぞれの体積)は、基準位置Pbから正のX軸方向に離れるほど大きい。
【0053】
制御部53が第3層45の全体を正のX軸方向に徐々にスライドさせることで、ZX平面でのビーム方向90を、正のZ軸方向に対して負のX軸方向の側に傾いている状態から正のZ軸方向に近づけることができる(図12,13参照)。制御部53が第3層45の全体を正のX軸方向に更に徐々にスライドさせることで、ZX平面でのビーム方向90を、正のZ軸方向から、正のZ軸方向に対して正のX軸方向の側に傾いている状態に近づけることができる(図13,14参照)。これは、第3層45の位置が図12,13,14と順に遷移すると、基準位置Pbから離れる伝送線路ほど、実効比誘電率εreffの増大量が大きいので、高周波信号の位相を遅らせる度合いが高くなるからである。
【0054】
なお、図12~14に示すアンテナ装置103は、複数の信号線71~77のうち、信号線70が存在する基準位置Pbから離れる信号線ほど、Y軸方向での延伸長さが短くなる形態でもよい。この形態の場合、複数の第1信号線71~77に対して第2主面42の側に位置する複数のスリット81~87のそれぞれに収容される誘電体Qの大きさは、基準位置Pbから正のX軸方向に離れるほど小さい。
【0055】
図15は、移相器の第2の構成例を示す平面図で、図16は、移相器の第2の構成例を示す断面図である。上述の移相器と同様の構成についての説明は、省略する。図15,16に示す移相器111は、信号線71を有する伝送線路131と、移相器111の一部を移動させて誘電体部分Pの大きさを変化させる制御部53とを有する。
【0056】
誘電体46は、第1誘電体の一例であり、誘電体を主成分とする単層の板状部である。誘電体46は、第1主面41と、第1主面41とは反対側の第2主面42とを有する。誘電体46の第1主面41に、信号線71が設けられ、誘電体46の第2主面42に、接地導体20が設けられる。信号線71は、誘電体46を介して接地導体20に対向する。
【0057】
誘電体46には、第1主面41と第2主面42との間に位置し、且つ、比誘電率が誘電体46とは異なる誘電体Qを収容するスリット181aが形成されている。スリット181aに存在する誘電体Q(例えば、空気などの気体)は、第2誘電体の一例であり、比誘電率が誘電体46とは異なる固体又は液体でもよい。スリット181aの全体は、平面視で、信号線71と重複している。
【0058】
制御部53は、スリット181aに存在する誘電体Qのうち、信号線71に平面視で重複する誘電体部分Pの大きさ(体積)を変化させる。移相器111では、制御部53は、誘電体46の一部であるロッド181を第1主面41に平行なX軸方向に駆動部50により移動させて、誘電体部分Pの大きさ(体積)を変化させる。ロッド181は、Y軸方向に延在する部材であり、X軸方向にスライド自在にスリット181a内に設置されている。ロッド181は、誘電体46と同じ比誘電率を有する。例えば、制御部53は、ロッド181を正のX軸方向に移動させることで、スリット181aのうちロッド181に対して負のX軸方向側のスリット部分を大きくする。これにより、ロッド181に対して負のX軸方向側の当該スリット部分(誘電体部分Pに相当)が大きくなり、伝送線路131の実効比誘電率が変わるので、伝送線路131から出力される高周波信号の位相を調整できる。
【0059】
図17は、移相器の第3の構成例を示す平面図で、図18は、移相器の第3の構成例を示す断面図である。上述の移相器と同様の構成についての説明は、省略する。図17,18に示す移相器211は、信号線71を有する伝送線路231と、移相器211の一部を移動させて誘電体部分Pの大きさを変化させる制御部53とを有する。
【0060】
誘電体46には、第1主面41と第2主面42との間に位置し、且つ、比誘電率が誘電体46とは異なる誘電体Qを収容するスリット281aが形成されている。スリット281aに存在する誘電体Q(例えば、空気などの気体)は、第2誘電体の一例であり、比誘電率が誘電体46とは異なる固体又は液体でもよい。スリット281aの一部は、平面視で、信号線71からはみ出ている。移相器211は、上述のロッド181と同様のロッド281を有する。
【0061】
制御部53は、ロッド281を正のX軸方向に移動させることで、スリット281aのうちロッド281に対して負のX軸方向側のスリット部分を大きくする。これにより、ロッド281に対して負のX軸方向側の当該スリット部分(誘電体部分Pに相当)が大きくなり、伝送線路231の実効比誘電率が変わるので、伝送線路231から出力される高周波信号の位相を調整できる。
【0062】
図19は、移相器の第4の構成例を示す平面図で、図20は、移相器の第4の構成例を示す断面図である。上述の移相器と同様の構成についての説明は、省略する。図19,20に示す移相器311は、信号線71を有する伝送線路331と、移相器311の一部を移動させて誘電体部分Pの大きさを変化させる制御部53とを有する。
【0063】
誘電体46には、第1主面41と第2主面42との間に位置し、且つ、比誘電率が誘電体46とは異なる誘電体Qを収容する複数のスリット381Aa,381Baが形成されている。制御部53は、ロッド381Aを正のX軸方向に移動させることで、スリット381Aaのうちロッド381Aに対して負のX軸方向側のスリット部分を大きくする。これにより、ロッド381Aに対して負のX軸方向側の当該スリット部分(誘電体部分Pに相当)が大きくなり、伝送線路231の実効比誘電率が変わるので、伝送線路231から出力される高周波信号の位相を調整できる。同様に、制御部53は、ロッド381Bを負のX軸方向に移動させることで、スリット381Baのうちロッド381Bに対して正のX軸方向側のスリット部分を大きくする。これにより、ロッド381Bに対して正のX軸方向側の当該スリット部分(誘電体部分Pに相当)が大きくなり、伝送線路331の実効比誘電率が変わるので、伝送線路331から出力される高周波信号の位相を調整できる。
【0064】
図21は、移相器の第5の構成例を示す平面図で、図22は、移相器の第5の構成例を示す断面図である。上述の移相器と同様の構成についての説明は、省略する。図21,22に示す移相器411は、信号線71を有する伝送線路431と、移相器411の一部を移動させて誘電体部分Pの大きさを変化させる制御部53とを有する。
【0065】
誘電体46には、第1主面41と第2主面42との間に位置し、且つ、比誘電率が誘電体46とは異なる多角形の誘電体プレート481が配置されている。誘電体プレート481は、第2誘電体の一例である。多角形の誘電体プレート481の少なくとも2辺は、平面視で、信号線71と重複している。
【0066】
制御部53は、誘電体プレート481のうち、信号線71に平面視で重複する誘電体部分Pを異なる大きさに変化させる。移相器411では、制御部53は、誘電体46とは別部材の誘電体プレート481を第1主面41に平行なX軸方向に駆動部50により移動させて、誘電体部分Pを異なる大きさに変化させる。誘電体プレート481は、X軸方向にスライド自在に誘電体46内に形成された空間内に設置されている。
【0067】
例えば、制御部53は、誘電体プレート481を正のX軸方向に移動させることで、誘電体プレート481のうち、信号線71に平面視で重複する誘電体部分Pを小さくする。これにより、伝送線路431の実効比誘電率が変わるので、伝送線路431から出力される高周波信号の位相を調整できる。
【0068】
図23は、移相器の第6の構成例を示す平面図で、図24は、移相器の第6の構成例を示す断面図である。上述の移相器と同様の構成についての説明は、省略する。図23,24に示す移相器511は、信号線71を有する伝送線路531と、移相器511の一部を移動させて誘電体部分Pの大きさを変化させる制御部53とを有する。
【0069】
誘電積層体47は、第1誘電体の一例であり、複数の層から形成されている。誘電積層体47は、第1主面41を有する第1層43と、第2主面42を有する第2層44とを有する。誘電積層体47には、第1主面41と第2主面42との間に位置し、且つ、比誘電率が誘電積層体47とは異なる誘電体Qが存在する隙間581が形成されている。隙間581に存在する誘電体Q(例えば、空気などの気体)は、第2誘電体の一例である。
【0070】
制御部53は、隙間581に存在する誘電体Qのうち、信号線71に平面視で重複する誘電体部分Pを異なる大きさに変化させる。移相器511では、制御部53は、第1層43と第2層44との少なくとも一方(つまり、誘電積層体47の一部に相当する部分)を、第1主面41に垂直なZ軸方向に駆動部50により移動させて、誘電体部分Pを異なる大きさに変化させる。例えば、制御部53は、第1層43を正のZ軸方向に移動させることで、又は、第2層44を負のZ軸方向に移動させることで、誘電体部分Pを大きくする。これにより、隙間581に存在する誘電体Qのうち信号線71に平面視で重複する誘電体部分Pの体積が大きくなり、伝送線路531の実効比誘電率が変わるので、伝送線路531から出力される高周波信号の位相を調整できる。
【0071】
図25は、移相器の第7の構成例を示す断面図である。上述の移相器と同様の構成についての説明は、省略する。図25に示す移相器611は、信号線71を有する伝送線路631と、移相器611の一部を移動させて誘電体部分Pの大きさを変化させる制御部53(図1参照。図25では、図示省略)とを有する。平面視は、図1等に示す上述の移相器11と同様である。
【0072】
誘電積層体48は、第1誘電体の一例であり、複数の層から形成されている。誘電積層体48は、第1主面41を有する誘電体層48aと、第2主面42を有する誘電体層48bとを有する。誘電積層体48には、第1主面41と第2主面42との間に位置し、且つ、比誘電率が誘電積層体48とは異なる誘電体Qが存在するスリット681が形成されている。誘電体層48aに形成されたスリット681に存在する誘電体Q(例えば、空気などの気体)は、第2誘電体の一例である。制御部53は、誘電体層48aをX軸方向に移動させることで、誘電体Qのうち、信号線71に平面視で重複する誘電体部分Pの大きさを変化させる。これにより、伝送線路631の実効比誘電率が変わるので、伝送線路631から出力される高周波信号の位相を調整できる。
【0073】
なお、図25に示す形態において、スリット681が形成された誘電体層48aと、誘電体層48aと重なる誘電体層48bとが、積層方向(Z軸方向)で入れ替わってもよい。また、図25に示す形態から誘電体層48bを無くして、接地導体20を誘電体層48aの下面(つまり、信号線71が接触する表面とは反対側の表面)に接触させてもよい。
【0074】
図26は、第4の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。上述の実施形態と同様の構成及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで、省略又は簡略する。図26において、左上図は、Z軸方向からの平面視で平面アンテナ204を示す平面図であり、右上図は、YZ平面での断面視で平面アンテナ204を示す断面図であり、左下図は、ZX平面での断面視で平面アンテナ204を示す断面図である。
【0075】
図26に示すアンテナ装置104は、平面アンテナ204及び制御部53(図1参照。図26では記載を省略する)を備える。
【0076】
平面アンテナ204は、誘電体を主成分とする誘電積層体40と、誘電積層体40の一方の表面に設けられる複数のアンテナ素子61~68と、誘電積層体40を介して複数のアンテナ素子61~68と対向する接地導体20と、複数のアンテナ素子61~68に給電する伝送線路38とを備える。
【0077】
伝送線路38は、Y軸方向に配列された複数のアンテナ素子61~68に接続される信号線78を有するマイクロストリップ線路である。複数のアンテナ素子61~68は、アンテナ素子61から端部78aまでY軸方向に延びる信号線78により直列に接続される。信号線78は、第1主面41に設けられ、端部78aは、不図示の信号源が接続される。
【0078】
誘電積層体40には、第1主面41と第2主面42との間に位置し、且つ、比誘電率が誘電積層体40とは異なる誘電体Qを収容する複数のスリット81~87が形成されている。図26に示す形態では、複数のスリット81~87は、第1主面41と第2主面42との間に位置する第3層45に形成されている。複数のスリット81~87のそれぞれに収容される誘電体Q(例えば、空気などの気体)は、第2誘電体の一例であり、比誘電率が誘電積層体40とは異なる固体又は液体でもよい。
【0079】
複数のスリット81~87は、複数のアンテナ素子61~68のうち隣り合う2つのアンテナ素子の間において信号線78と平面視で重複する各部分に、互いに同じ形状で形成されている。図26に示す形態では、制御部53は、誘電積層体40の一部である第3層45の全体を第1主面41に平行な方向に駆動部50により移動させて、複数の誘電体部分Pのそれぞれの大きさを変化させる。
【0080】
制御部53は、アンテナ素子61~68を同位相で励振するように第3層45をX軸方向にスライドさせることで、YZ平面においてアンテナ利得がピークになるビーム方向90を、Z軸方向に平行な方向に近づけることができる。一方、制御部53は、第3層45をX軸方向にスライドさせてアンテナ素子61~68の位相を互いに異ならせることで、YZ平面においてアンテナ利得がピークになるビーム方向90を、Z軸方向に対して傾けることができる。
【0081】
このように、複数の誘電体部分Pのそれぞれの大きさを制御部53により変化させることで、伝送線路38を移相器として機能させることができる。
【0082】
図27は、第5の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。上述の実施形態と同様の構成及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで、省略又は簡略する。図27に示すアンテナ装置105は、平面アンテナ205及び制御部53(図1参照。図27では記載を省略する)を備える。平面アンテナ205は、第3層45に一本のスリット80が形成されている点で、平面アンテナ204と異なる。一つのスリット80は、複数のアンテナ素子61~68に平面視で重複する複数の部分と、複数のアンテナ素子61~68のうち隣り合う2つのアンテナ素子の間において信号線78と平面視で重複する複数の部分とが、直列につながるように形成されている。スリット80に収容される誘電体Q(例えば、空気などの気体)は、第2誘電体の一例であり、比誘電率が誘電積層体40とは異なる固体又は液体でもよい。
【0083】
図27に示す形態も、図26に示す形態と同様に、第3層45の全体を第1主面41に平行なX軸方向にスライドさせることで、誘電体部分Pの大きさが変化するので、ビーム方向90をYZ平面において変えることができる。
【0084】
図28は、第6の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。上述の実施形態と同様の構成及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで、省略又は簡略する。図28に示すアンテナ装置106は、平面アンテナ206及び制御部53(図1参照。図28では記載を省略する)を備える。平面アンテナ206は、複数のアンテナ素子61~68が信号線78により並列に接続されている点で、平面アンテナ205と異なる。信号線78は、アンテナ素子61から端部78aにY軸方向に延びる信号線部分と、当該信号線部分から分岐する複数の分岐線部分とを有する。複数の分岐線部分の先端部は、それぞれ、複数のアンテナ素子61~68のうち、対応するアンテナ素子に接続されている。一つのスリット80は、信号線78におけるY軸方向に延びる当該信号線部分に平面視で重複する部分に形成されている。スリット80に収容される誘電体Q(例えば、空気などの気体)は、第2誘電体の一例であり、比誘電率が誘電積層体40とは異なる固体又は液体でもよい。
【0085】
図28に示す形態も、図26,27に示す形態と同様に、第3層45の全体を第1主面41に平行なX軸方向にスライドさせることで、誘電体部分Pの大きさが変化するので、ビーム方向90をYZ平面において変えることができる。
【0086】
以上、移相器、アンテナ装置及び位相制御方法を実施形態により説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【0087】
例えば、誘電体、信号線、接地導体、アンテナ素子のうち、一部又は全部は、可視光を透過する透明な部材が好ましく、「透明」には、半透明が含まれる。可視光の透過によって、平面アンテナ越しの視野の遮りを抑制できる。
【0088】
また、複数のアンテナ素子に給電する伝送線路は、マイクロストリップ線路とは異なる種類の伝送線路でもよい。伝送線路のその他の例として、ストリップ線路、コプレーナ線路、グランド付きコプレーナ線路(Conductor Back Coplanar Wave Guide;CBCPW)、SIW(Substrate Integrated Waveguide)、PWW(Post Wall Waveguide)、CPS(Coplanar Strip;平行二線型のライン)、スロットラインなどがある。コプレーナ線路の場合、信号線70~77と同じ第1主面41に接地導体20が設けられる。
【0089】
また、通常のマイクロストリップライン構造を有する移相器(図16に示す移相器からロッド181及びスリット181aを無くした形態)において、制御部53は、誘電体46の全体を信号線71と共に正のZ軸方向に移動させて、接地導体20と第2主面42との間に形成される誘電体部分Pの大きさを変化させてもよい。これにより、伝送線路の実効比誘電率が変化するので、高周波信号の位相を変化させることができる。
【0090】
また、通常のマイクロストリップライン構造を有する移相器(図16に示す移相器からロッド181及びスリット181aを無くした形態)において、制御部53は、当該移相器の一部である信号線71の全体を正のZ軸方向に移動させて、信号線71と第1主面41との間に形成される誘電体部分Pの大きさを変化させてもよい。これにより、伝送線路の実効比誘電率が変化するので、高周波信号の位相を変化させることができる。
【0091】
本国際出願は、2019年7月9日に出願した日本国特許出願第2019-127933号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2019-127933号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0092】
11~17 移相器
20 接地導体
30~38 伝送線路
40,47,48 誘電積層体
46 誘電体
50 駆動部
53 制御部
60~68 アンテナ素子
70~78 信号線
80~87 スリット
90 ビーム方向
101,102,103,104,105,106 アンテナ装置
111,211,311,411,511,611 移相器
112 スイッチ回路
201,202,203,204,205,206 平面アンテナ
481 誘電体プレート
Q 誘電体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28