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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】固相担体を用いた核酸増幅方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20240628BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALN20240628BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20240628BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20240628BHJP
【FI】
C12N15/10 110Z
C12Q1/6806 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021530747
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020027123
(87)【国際公開番号】W WO2021006353
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019129017
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松島 綱治
(72)【発明者】
【氏名】上羽 悟史
(72)【発明者】
【氏名】七野 成之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】青木 寛泰
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0312276(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0251825(US,A1)
【文献】国際公開第2014/031954(WO,A1)
【文献】PETERSON, Vanessa M. et al.,Multiplexed quantification of proteins and transcripts in single cells,Nat. Biotechnol.,2017年,Vol. 35,pp. 936-939, Supplementary Information
【文献】STOECKIUS, Marlon et al.,Simultaneous epitope and transcriptome measurement in single cells,Nat. Methods,2017年,Vol. 14,pp. 865-868, Supplementary Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/68-1/6897
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相担体上に結合した標的捕捉用核酸を介して、mRNAを含む標的核酸を固相担体上に捕捉する、標的核酸捕捉工程;
固相担体上に捕捉された標的核酸より、cDNAを含む、標的核酸と相補的なDNA鎖を合成する、相補鎖合成工程;
標的核酸を捕捉していない固相担体上の標的捕捉用核酸をエキソヌクレアーゼ処理により分解除去する、エキソヌクレアーゼ処理工程;
RNA分解酵素によりmRNAを分解する、mRNA分解工程;
dCTP又はdGTPと、連鎖停止CTP又は連鎖停止GTPである連鎖停止ヌクレオチド三リン酸との存在下でターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼによる反応を行ない、前記相補的なDNA鎖の末端にポリC又はポリGであるヌクレオチドホモポリマーを付加する、ホモポリマー付加工程;
前記ヌクレオチドホモポリマーに対し相補的なホモポリマー部分を含む第2鎖合成用プライマーを用いて、固相上に結合した前記相補的なDNA鎖に対し第2鎖合成を行なう、第2鎖合成工程;及び
固相担体上に合成されたDNA2本鎖を鋳型として核酸増幅反応を行なう、核酸増幅工程
を含む、固相担体を用いた核酸増幅方法であって、ホモポリマー付加工程における連鎖停止CTPとdCTP、又は連鎖停止GTPとdGTPの添加比率が1:15~1:40であり、第2鎖合成用プライマーにおける相補的ホモポリマー部分の鎖長が6~13塩基である、方法。
【請求項2】
連鎖停止ヌクレオチド三リン酸が、ddNTP、ddNTPの誘導体、又は3'-dNTP(NはC又はG)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ddNTPの誘導体が、OH基を有しない原子団で3'位が修飾されたddNTPである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
連鎖停止ヌクレオチド三リン酸がddNTP(NはC又はG)である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
mRNA分解工程とホモポリマー付加工程が同時に実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
標的捕捉用核酸が、ポリT部分を含む核酸を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
標的捕捉用核酸が、ポリT部分の5'側に第1のアダプター部分を含む、請求項記載の方法。
【請求項8】
固相担体がビーズであり、標的捕捉用核酸が、第1のアダプター部分とポリT部分の間にビーズ識別バーコード部分を含む、請求項記載の方法。
【請求項9】
固相担体がプレートであり、標的捕捉用核酸がプレートの複数箇所の区画に固定化され、第1のアダプター部分とポリT部分の間に区画識別バーコード部分を含む、請求項記載の方法。
【請求項10】
第2鎖合成用プライマーが、相補的ホモポリマー部分の5'側に第2のアダプター部分を含むプライマーを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
第2鎖合成用プライマーが、第2のアダプター部分と相補的ホモポリマー部分の間に分子バーコード部分を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
核酸増幅工程において、第1のアダプター部分を標的とするプライマーと、第2のアダプター部分を標的とするプライマーとを用いて核酸増幅反応を行なう、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
固相担体がビーズであり、標的核酸捕捉工程が、微小ウェル又は微小液滴中で実施される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
核酸増幅工程において、T細胞受容体定常領域を標的とするプライマーと、第2のアダプター部分を標的とするプライマーとを用いて核酸増幅反応を行ない、T細胞受容体可変領域をコードするcDNA領域を増幅する、請求項10又は11記載の方法。
【請求項15】
標的核酸が、mRNAと、特異結合分子に結合したオリゴ核酸とを含み、標的捕捉用核酸が、mRNAを捕捉するためのmRNA捕捉配列を含む核酸と、前記オリゴ核酸を捕捉するためのオリゴ核酸捕捉領域を含む核酸を含み、前記オリゴ核酸が、オリゴ核酸捕捉領域と相補的な配列の被捕捉領域を含み、相補鎖合成工程において、mRNAからの逆転写反応によるcDNA合成と前記オリゴ核酸からの相補鎖合成が行なわれる、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記被捕捉領域がポリAであり、標的捕捉用核酸が、mRNA捕捉領域を含む核酸及びオリゴ核酸捕捉領域を含む核酸として、ポリT部分を含む核酸を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
特異結合分子が、細胞表面分子に直接、又は特異結合パートナー分子を介して間接的に結合する少なくとも1種の分子である、請求項15又は16記載の方法。
【請求項18】
特異結合分子が、細胞表面分子に対する少なくとも1種の抗体又は抗体断片である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
特異結合分子がアビジン類であり、特異結合パートナー分子がビオチン類であり、標的核酸捕捉工程の前に、細胞を含むサンプルをビオチン類で処理して細胞表面分子全般を標識し、次いで、オリゴ核酸で標識されたアビジン類と反応させることにより、オリゴ核酸で標識されたアビジン類を細胞表面に間接的に結合させる工程と、細胞を溶解させる工程とを含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
標的核酸捕捉工程の前に、細胞を含むサンプルと、前記オリゴ核酸で標識された特異結合分子を接触させることにより、該特異結合分子を細胞表面に直接又は間接的に結合させる工程、及び、細胞を溶解させる工程を含む、請求項1518のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記オリゴ核酸が、被捕捉領域の5'側に共通配列を含み、標的捕捉用核酸が、ポリT部分の5'側に第1のアダプター部分を含む、請求項1520のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記オリゴ核酸が、共通配列と被捕捉領域の間に特異結合分子識別バーコード部分を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
第2鎖合成用プライマーが、相補的ホモポリマー部分の5'側に第2のアダプター部分を含むプライマーと、前記共通配列を含むプライマーとを含む、請求項21又は22記載の方法。
【請求項24】
核酸増幅工程において、第1のアダプター部分を標的とするプライマーと、第2のアダプター部分を標的とするプライマーと、共通配列を含むプライマーとを用いて核酸増幅反応を行なうことにより、cDNAとオリゴ核酸を同時に増幅し、次いで、増幅産物のサイズ分画を行ない、増幅されたcDNAとオリゴ核酸を分離する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
核酸増幅工程において、T細胞受容体定常領域を標的とするプライマーと、第1のアダプター部分を標的とするプライマーと、第2のアダプター部分を標的とするプライマーと、共通配列を含むプライマーとを用いて核酸増幅反応を行ない、T細胞受容体可変領域をコードするcDNA領域及びオリゴ核酸から合成された相補鎖を増幅する、請求項23記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相担体を用いた核酸増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、個々の1細胞など、微量サンプルを用いた網羅的遺伝子発現解析が行われるようになってきている。このような技術は数百~万の単位の個々の細胞の性質を網羅的に捉えるsingle-cell RNA-seq解析(single cell transcriptome(SCT)解析)を可能とし、細胞集団内の多様性の有無や、新たな細胞亜集団の同定、病態と相関した特殊な細胞集団の同定につながり、ヒトにおける1細胞レベルのアトラスを作ろうとする国際プロジェクトが2016年よりスタートしている(非特許文献1)など、これまでにない解像度での生物学の理解を推し進める原動力となっている。
【0003】
その他代表的な微量サンプルとしては、がん患者の診断目的で採取される原発巣・転移巣のバイオプシー検体に含まれる腫瘍浸潤T細胞が挙げられる。抗PD-1抗体などの免疫療法の本質であるCTLの実態がCD8+ T細胞という観点から、がん抗原特異的な認識能を有するCD8+ T細胞がどの程度誘導されているかを測定する方法に注目が集まっている(非特許文献2)。その測定方法の一つとして、CD8+ T細胞上のT細胞受容体(T Cell Receptor; TCR)の配列を解析して、TCRレパトア(クローンの種類と各クローンの存在頻度)を決定し、腫瘍特異的なクローンの応答を論じるものがあり、実際にTCRレパトア変動と抗CD4抗体のがんに対する治療効果が相関することも報告されている(非特許文献3)。しかしながら、腫瘍浸潤T細胞の細胞の大半はがん細胞や組織細胞であり、T細胞の含有量が極めて少ない場合がほとんどである。そのため、SCT解析やがん部位における頑健なTCRレパトア解析のためには、検体より抽出したmRNAや、検体由来の個々のT細胞由来mRNAを高感度かつ高スループットに増幅する方法の開発の重要性はいや増している。
【0004】
微量サンプルからのmRNA増幅法としては、96 wellプレートに個々の細胞や微量mRNAを分注して増幅を行うSmart-Seq2などの液相系や(特許文献1、非特許文献4)、マイクロ流路を用いてdropletを形成し、各dropletに1細胞を捉える10X Genomics社のChromiumなどのdroplet系(特許文献2)、固相ビーズを用いて個々のサンプルのmRNAを捉える方法などがある。Smart-Seq2は高感度であるが、96 wellまたは384 wellプレートに個々の細胞をフローサイトメーターによりソーティングを行うので、スループットが低くコストが高い。一方で、10X Chromiumなどのdroplet系は、スループットは高いがSmart-Seq2に比して感度が大幅に劣るのが問題点である(非特許文献5)。また、液相系・droplet系の両者ともに、反応液の持ち込みが生じるため、細胞溶解のための試薬として、強いタンパク質変性作用のある界面活性剤が使用できず、RNA分解酵素の多い細胞などは解析困難な点が問題として存在する。
【0005】
ビーズへの固相化を介したmRNA/cDNA増幅法は、基質cDNAを大幅に失うことなく反応ステップ間の反応液置換を容易に行えるため、タンパク質変性作用の強い界面活性剤を使用できるなど、液相系と比べてより多様な反応条件に互換性を有している。さらに、固相ビーズ担体として磁性ビーズを用いることで、マグネットスタンドおよび自動分注ワークステーションを用いた工程の自動化・半自動化が可能になるため、ハイスループットなSCT, TCR解析において有用な技術である。実際に、神原らは磁性ビーズを用いることで微量や1細胞由来cDNAを増幅できることを示している(特許文献3、非特許文献6)。しかしながら、上記過去技術は、terminal deoxynucleotidyl transferase(TdT)によるポリA付加反応パラメータ(磁性ビーズ上のDNA基質と酵素の量比、反応時間、温度など)の厳密なコントロールが必要である。例えば、磁性ビーズ上のプライマー密度が高いと、TdTによるプライマー由来反応副産物が多量に生成し、cDNAの増幅効率が大幅に低下する(非特許文献7)。また、TdTの反応時間が長いと、プライマー由来副産物の伸長が過剰となり、cDNAと当該副産物を分離できなくなる(非特許文献8)。すなわち、TdTの酵素活性のロット間の差異、反応系中のプライマー含有量やcDNA含有量の差異、自動分注システムの操作タイムラグなどに大きく影響されることが問題点として存在する。さらに、ビーズを用いた包括的な1細胞由来mRNA解析技術では、未反応の細胞バーコードを含むプライマーを除去するためにExonuclease Iが広く用いられているが、上記神原らの高感度増幅法では、DNA基質分子数とTdT酵素の量比を変えてしまうため、Exonuclease I処理を行えないという問題点もある。
【0006】
昨今、各々のタンパク質を特異的に認識する抗体をオリゴDNAで標識することにより、各1細胞上に発現している数十のタンパク質の発現量を、各1細胞トランスクリプトームと同時に定量する手法が開発され、Biolegend社等より市販されている(https://www.biolegend.com/en-us/totalseq)。本手法では各タンパク質の発現量を、シーケンス解析による各抗体のDNAタグの発現量として解析する。さらに、様々な細胞種において広範に発現するタンパク質を標的とし、DNAタグの種類を変えることで、複数のサンプルが混在した1細胞トランスクリプトームデータのサンプルごとの分離にも使用でき、コスト削減やバッチエフェクトの低減、biological replicateの解析等に用いることができる(https://www.biolegend.com/en-us/bio-bits/new-cell-hashtag-reagents-for-single-cell-analysis)。このようにDNAラベル抗体による細胞標識を組み合わせた1細胞トランスクリプトーム解析は様々な応用可能性があるものの、DNAタグは、オリゴDNAではあるが長さは84塩基対以上と比較的長く、1細胞トランスクリプトームに用いる細胞バーコードと合わせると145塩基対以上の長さとなる。一方で、従来のTdT法では、126塩基対以上のプライマーなど、cDNAと比べれば短いものの比較的長さのあるDNA断片が存在する場合、cDNAとそれら産物をうまく分離できないことが報告されている(非特許文献9)。一般にタンパク質の発現量はmRNAの発現量と比べて大幅に高いため、タンパク質を検出するためのDNAタグ産物と増幅cDNAの分離は、従来のTdT法では困難であった。
【0007】
Beckton Dickinson社はBD Rhapsodyシステムという、固相磁性ビーズとマイクロウェルを用いたSCT解析系を上市しているが(特許文献4)、Beckton Dickinson社のRNA解析法は500遺伝子ほどの限られた数の遺伝子解析パネルか、もしくは10X Genomics社Chromiumと同程度の効率しか有しない低感度の増幅系の提供にとどまっており、研究者のニーズを満たすには至っていない。その他の固相ビーズを用いたSCT解析法としてはDrop-seq法(非特許文献10), Seq-well法(非特許文献11)などがあるが、これらもTdT法と比較して効率の低いSMART法を用いており、感度の低さが問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO 2015/027135 A1
【文献】WO 2015/200893 A2
【文献】WO 2013/145431 A1
【文献】US 2018/0258500 A1
【非特許文献】
【0009】
【文献】Regev A., et al. The Human Cell Atlas. eLife 2017;e27041.
【文献】Zaretsky JM, Garcia-Diaz A, Shin DS, et al. Mutations Associated with Acquired Resistance to PD-1 Blockade in Melanoma. N Engl J Med 2016;375:819-2.
【文献】Aoki H., et al. TCR Repertoire Analysis Reveals Mobilization of Novel CD8+ T Cell Clones Into the Cancer-Immunity Cycle Following Anti-CD4 Antibody Administration. Front Immunol. 2019 Jan; 9(3185).
【文献】Picelli S., et al. Full-length RNA-seq from single cells using Smart-seq2. Nat Protoc. 2014 Jan;9(1):171-81.
【文献】Single-cell transcriptomics of 20 mouse organs creates a Tabula Muris. Nature. 2018 Oct;562(7727):367-372.
【文献】Matsunaga H, Goto M, Arikawa K, et al. A highly sensitive and accurate gene expression analysis by sequencing ("bead-seq") for a single cell. Anal Biochem 2015;471:9-16.
【文献】Huan Huang, Mari Goto, Hiroyuki Tsunoda, Lizhou Sun, Kiyomi Taniguchi, Hiroko Matsunaga, Hideki Kambara. Non-biased and efficient global amplification of a single-cell cDNA library. Nucleic Acid Research 2013.
【文献】Sasagawa Y, Nikaido I, Hayashi T, Danno H, Uno KD, Imai T, Ueda HR. Quartz-Seq: a highly reproducible and sensitive single-cell RNA sequencing method, reveals non-genetic gene-expression heterogeneity. Genome Biol 2013.
【文献】Yohei Sasagawa, Hiroki Danno, Hitomi Takada, Masashi Ebisawa, Kaori Tanaka, Tetsutaro Hayashi, Akira Kurisaki, and Itoshi Nikaido. Quartz-Seq2: a high-throughput single-cell RNA-sequencing method that effectively uses limited sequence reads. Genome Biol 2018.
【文献】Macosko EZ et al. Highly Parallel Genome-wide Expression Profiling of Individual Cells Using Nanoliter Droplets. Cell 2015;161(5):1202-1214.
【文献】Gierahn TM et al. Seq-Well: portable, low-cost RNA sequencing of single cells at high throughput. Nat Methods 2017;14(4):395-398.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ごく微量の細胞サンプルからもmRNAを高い効率で網羅的に増幅できる、固相担体を用いたcDNA等の核酸の増幅方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
臨床現場で可能なことは、末梢血中のCD8+ T細胞のTCRレパトアから、CD8+ TILのTCRレパトア応答を議論する方法である。残念ながら、本願発明者らによる検討の結果、末梢血CD8+ T細胞の解析だけでは腫瘍免疫応答を反映した情報は得られないことも判明した。従って臨床現場で適用可能な手段は、TILの分離無しにCD8+ TILのレパトア変動を解析できるかという一点にかかっている。言い換えれば、組織生検検体そのものをそのまま解析することで、すなわち、TILの分離なしで解析に供することで十分な腫瘍免疫応答の情報が得られることを示せば、少量の組織であっても、貴重な情報が得られることになる。臨床サイドではその情報が、治療方針決定に重要な情報となる。また、固相担体を用いた代表的なSCT解析プラットフォームとして、BD Rhapsodyシステムがあるが、1回の解析に要する費用は実費で数十万円と極めて高額である。このような貴重なサンプルを対象とする場合、感度と頑健性の両者を高いレベルで保つことが広く臨床応用する上では重要である。残念ながら、本願発明者らによる検討の結果、試薬ロットの違いや実験者の手技の差異などに対し、ビーズ担体を用いた既存の増幅法は脆弱性を有することが判明した。
【0012】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、固相担体上で合成したcDNAへのヌクレオチドホモポリマー付加反応において、連鎖停止ヌクレオチド三リン酸によるchain-terminating reactionを用いることにより、固相上のDNA基質と酵素の量比の超過、反応時間の超過、試薬ロットの差異によらず安定して微量cDNAを高効率に増幅できることを見出した。さらに、本法は、Exonuclease I処理と併用することで副産物量の大幅な低減とcDNA増幅効率の増大を達成できることを見出した。さらに、本法は、オリゴDNA標識抗体等のオリゴDNAラベルに由来する、cDNAよりは短いが比較的長さのあるDNA産物が含まれていても、未反応プライマー由来の副産物、それらオリゴDNA標識抗体由来の増幅産物とcDNA増幅産物をそれらの鎖長の違いに基づき明確に分離できることを見出し、本願発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、ビーズ等の固相担体上にmRNAを含む標的核酸を捕捉して固相上で相補鎖合成を行ない、固相上の未反応の標的捕捉用核酸を分解除去した後にmRNA分解および連鎖停止ヌクレオチド三リン酸存在下でのTdT反応によるホモポリマー付加を行なうことを含む、固相担体を用いた核酸増幅法であって、以下の態様を包含する。
【0014】
(1) 固相担体上に結合した標的捕捉用核酸を介して、mRNAを含む標的核酸を固相担体上に捕捉する、標的核酸捕捉工程;
固相担体上に捕捉された標的核酸より、cDNAを含む、標的核酸と相補的なDNA鎖を合成する、相補鎖合成工程;
標的核酸を捕捉していない固相担体上の標的捕捉用核酸をエキソヌクレアーゼ処理により分解除去する、エキソヌクレアーゼ処理工程;
RNA分解酵素によりmRNAを分解する、mRNA分解工程;
dATP、dTTP、dCTP又はdGTPと連鎖停止ヌクレオチド三リン酸との存在下でターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼによる反応を行ない、前記相補的なDNA鎖の末端にヌクレオチドホモポリマーを付加する、ホモポリマー付加工程;
前記ヌクレオチドホモポリマーに対し相補的なホモポリマー部分を含む第2鎖合成用プライマーを用いて、固相上に結合した前記相補的なDNA鎖に対し第2鎖合成を行なう、第2鎖合成工程;及び
固相担体上に合成されたDNA2本鎖を鋳型として核酸増幅反応を行なう、核酸増幅工程
を含む、固相担体を用いた核酸増幅方法。
(2) 連鎖停止ヌクレオチド三リン酸が、ddNTP、ddNTPの誘導体、3'-dNTP、又は3'-デオキシ-5-メチルウリジン-5'-三リン酸である、(1)記載の方法。
(3) ddNTPの誘導体が、OH基を有しない原子団で3'位が修飾されたddNTPである、(2)記載の方法。
(4) 連鎖停止ヌクレオチド三リン酸がddNTPである、(1)記載の方法。
(5) mRNA分解工程とホモポリマー付加工程が同時に実施される、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) ホモポリマー付加工程において、ポリC付加又はポリG付加を行なう、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7) 標的捕捉用核酸が、ポリT部分を含む核酸を含む、(1)~(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) 標的捕捉用核酸が、ポリT部分の5'側に第1のアダプター部分を含む、(7)記載の方法。
(9) 固相担体がビーズであり、標的捕捉用核酸が、第1のアダプター部分とポリT部分の間にビーズ識別バーコード部分を含む、(8)記載の方法。
(10) 固相担体がプレートであり、標的捕捉用核酸がプレートの複数箇所の区画に固定化され、第1のアダプター部分とポリT部分の間に区画識別バーコード部分を含む、(8)記載の方法。
(11) 第2鎖合成用プライマーが、相補的ホモポリマー部分の5'側に第2のアダプター部分を含むプライマーを含む、(1)~(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12) 第2鎖合成用プライマーが、第2のアダプター部分と相補的ホモポリマー部分の間に分子バーコード部分を含む、(11)記載の方法。
(13) 核酸増幅工程において、第1のアダプター部分を標的とするプライマーと、第2のアダプター部分を標的とするプライマーとを用いて核酸増幅反応を行なう、(8)~(12)のいずれか1項に記載の方法。
(14) 固相担体がビーズであり、標的核酸捕捉工程が、微小ウェル又は微小液滴中で実施される、(13)記載の方法。
(15) 核酸増幅工程において、cDNA中の所望の領域を標的とするプライマーと、第2のアダプター部分を標的とするプライマーとを用いて核酸増幅反応を行なう、(11)又は(12)記載の方法。
(16) 標的核酸が、mRNAと、特異結合分子に結合したオリゴ核酸とを含み、標的捕捉用核酸が、mRNAを捕捉するためのmRNA捕捉配列を含む核酸と、前記オリゴ核酸を捕捉するためのオリゴ核酸捕捉領域を含む核酸を含み、前記オリゴ核酸が、オリゴ核酸捕捉領域と相補的な配列の被捕捉領域を含み、相補鎖合成工程において、mRNAからの逆転写反応によるcDNA合成と前記オリゴ核酸からの相補鎖合成が行なわれる、(1)~(15)のいずれか1項に記載の方法。
(17) 前記被捕捉領域がポリAであり、標的捕捉用核酸が、mRNA捕捉領域を含む核酸及びオリゴ核酸捕捉領域を含む核酸として、ポリT部分を含む核酸を含む、(16)記載の方法。
(18) 特異結合分子が、細胞表面分子に直接、又は特異結合パートナー分子を介して間接的に結合する少なくとも1種の分子である、(16)又は(17)記載の方法。
(19) 特異結合分子が、細胞表面分子に対する少なくとも1種の抗体又は抗体断片である、(18)記載の方法。
(20) 特異結合分子がアビジン類であり、特異結合パートナー分子がビオチン類である、(18)記載の方法。
(21) 標的核酸捕捉工程の前に、細胞を含むサンプルと、前記オリゴ核酸で標識された特異結合分子を接触させることにより、該特異結合分子を細胞表面に直接又は間接的に結合させる工程、及び、細胞を溶解させる工程を含む、(16)~(20)のいずれか1項に記載の方法。
(22) 前記オリゴ核酸が、被捕捉領域の5'側に共通配列を含み、標的捕捉用核酸が、ポリT部分の5'側に第1のアダプター部分を含む、(16)~(21)のいずれか1項に記載の方法。
(23) 前記オリゴ核酸が、共通配列と被捕捉領域の間に特異結合分子識別バーコード部分を含む、(22)記載の方法。
(24) 第2鎖合成用プライマーが、相補的ホモポリマー部分の5'側に第2のアダプター部分を含むプライマーと、前記共通配列を含むプライマーとを含む、(22)又は(23)記載の方法。
(25) 核酸増幅工程において、第1のアダプター部分を標的とするプライマーと、第2のアダプター部分を標的とするプライマーと、共通配列を含むプライマーとを用いて核酸増幅反応を行なう、(24)記載の方法。
(26) 核酸増幅工程において、cDNA中の所望の領域を標的とするプライマーと、第1のアダプター部分を標的とするプライマーと、第2のアダプター部分を標的とするプライマーと、共通配列を含むプライマーとを用いて核酸増幅反応を行なう、(24)記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の増幅法では、固相担体上で合成したcDNAへのヌクレオチドホモポリマー付加反応において、ddNTP等の連鎖停止ヌクレオチド三リン酸によるchain-terminating reactionを用いる。これにより、固相上のDNA基質に対する酵素の量比の超過、反応時間の超過、試薬ロットの差異によらず、微量のサンプルからもcDNAを安定して高効率に増幅できる。
【0016】
従来技術では、実験者の習熟度の差異(習熟度が低いと、実験操作のタイムラグを生じ、反応時間の超過をもたらしやすい)や、試薬ロットの違いなどにより影響され、感度と頑健性の両者を高いレベルで保つことが困難であったが、本発明の方法によれば、1細胞や腫瘍バイオプシー検体を始めとする扱いの難しい微量サンプルであっても、実験者の習熟度や試薬ロットの違いなどにより影響されることなく、頑健かつ高感度にmRNAを網羅してcDNAを増幅できる。
【0017】
実験者の習熟や自動化に要するコストを下げることができるので、普及へのハードルも低下させることができる。
【0018】
神原ら(特許文献3、非特許文献6)の方法は、磁性ビーズを用いて高感度にcDNAを増幅できる方法であるが、TdTによるホモポリマー付加反応のパラメータ(磁性ビーズ上のDNA基質と酵素の量比、反応時間、温度など)の厳密なコントロールが必要である。Exonuclease I処理は固相上のDNA基質とTdT酵素の量比を変えてしまうため、神原らの増幅法では、Exonuclease Iによる未反応プライマーの除去が行えないという問題点がある。一方、連鎖停止ヌクレオチド三リン酸によるchain-terminating reactionを用いた本発明の方法では、TdTによるホモポリマー付加反応のパラメータを厳密にコントロールする必要がないので、Exonuclease Iによる未反応プライマーの除去が可能である。
【0019】
本発明の増幅法によれば、検体が微量であっても発現解析やTCR解析が可能になるので、例えば、発現解析やTCR解析を利用した治療効果判定の精度を大幅に向上でき、医療資源の浪費の抑制などに貢献できる。
【0020】
オリゴDNAタグで標識した抗体を用いて、各1細胞プロテオーム解析と各1細胞トランスクリプトーム解析を同時に行なう技術が開発されており、様々な応用可能性があるものの、従来のTdT法ではオリゴDNAタグに由来する増幅産物とcDNA増幅産物の分離が困難であることから、DNA標識抗体を併用する解析技術の応用の自由度は低かった。これに対し、本発明の増幅法では、オリゴDNAタグに由来するDNA増幅産物とmRNAに由来するcDNA増幅産物を明確に分離することができるので(実施例、図13参照)、本発明によれば、DNA標識抗体等の、オリゴ核酸で標識された特異結合分子を用いた解析と転写物の解析を同時に行なう技術の応用範囲を広げることができる。
【0021】
本発明の増幅法において、複数のタンパク質に対するオリゴ核酸標識抗体を併用することで、各1細胞のタンパク質とmRNAの発現解析を同時に高感度に実施できる。また、解析対象の細胞で安定して発現している細胞表面分子に対するオリゴ核酸標識抗体や、細胞表面分子全般を非特異的に標識できる、オリゴ核酸で標識された特異結合分子及びそのパートナー分子を併用することで、複数サンプルの同時解析(マルチプレックス解析)が可能となるので、cDNAライブラリー作成に要する費用を、同時解析するサンプル数に比例して削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ビーズ固相担体からの全cDNA増幅方法の概略である(SCT解析への利用の一例)。
図2】ビーズ固相担体からのTCR cDNA増幅方法の概略である(TCRレパトア解析への利用の一例)。
図3】Nx1-seqにおける、ddNTP・Exonuclease Iを用いない場合のTdT法・SMART法による全cDNA増幅産物のアガロースゲル電気泳動の結果である。TdT法はSMART法と比較して増幅cDNAの収量が多いが、DNAサイズの小さい副産物の生成もまた認められる。
図4】ddNTPを用いない場合の、TdT法の副産物生成に対するExonuclease I処理の影響。Exonuclease Iの処置を実施しても、サイズの小さいフリープライマー由来の副産物の量の低減は認められない。また、副産物の鎖長のExonuclease I処理による伸長が認められる。
図5】ddATPの添加によるTdT法の副産物生成の抑制。ddATPを一定量添加することでフリープライマー由来の副産物の過剰な伸長が抑制される。
図6】ddATP/ddCTPの添加によるTdT法の副産物生成の抑制。ddATP・ddCTPの両者ともに、TdT反応に一定量添加することでフリープライマー由来の副産物の過剰な伸長が抑制される。また、ddCTPのほうが短鎖長のフリープライマー由来の副産物の長さがより短く抑えられる。
図7】ddCTPの添加によるTdT法の副産物生成の抑制効果における反応時間の影響。ddCTPを添加しない場合はフリープライマー由来の副産物が、反応時間を5分から30分に延長することにより伸長するのに対し(lane 2及びLane 6)、ddCTPの添加により反応時間が5分から30分に延長しても、フリープライマー由来の副産物の長さは一定の短い鎖長にとどまっている。反応時間の多寡による副産物伸長への影響がddCTPの添加により低減されていることが見て取れる。
図8】ddATP/ddCTPの添加によるTdT法のcDNA増幅パターンの比較、およびRNase If, 第二鎖合成反応におけるmultiple annealing法の影響。第2鎖合成時にMultiple annealingを実施するとdATP, dCTP法の両者でcDNA収量が増加する一方、RNase Ifは負の影響がある。ddATP法は収量が多い一方で、フリープライマー由来の副産物の伸長抑制にはddCTP法の方がより優れていることが見て取れる。
図9】ddCTP-TdT法とExonucleaseI処理の併用効果。ddCTP-TdT法に対し、Exonuclease I処理を施すことで、フリープライマー由来の副産物が大幅に減少し、ddNTP非使用時に認められたフリープライマー由来の副産物の伸長も認められず、なおかつ増幅cDNAの収量増加が、様々な逆転写反応条件の如何にかかわらず認められる。
図10】本発明の方法によるビーズ固相担体からの全cDNA増幅を、ビーズ固相担体を用いるSCT解析プラットフォームの一つであるBD Rhapsodyシステムと併用する場合の方法の概略である。右に増幅cDNA, シーケンスライブラリーのDNAサイズ分布をAgilent Bioanalyzerで解析した結果を示す。
図11】本発明の方法によるビーズ固相担体からの全cDNA増幅とBD Rhapsodyシステムとを組み合わせたSCT解析結果と、既存のSCT解析方法とのパフォーマンスの比較。定常状態マウス肺より調製した単細胞(single cells)において比較した(既存プラットフォームのデータはTabula Murisコンソーシアムのデータを利用)。本発明による全cDNA増幅方法とBD Rhapsodyシステムの組み合わせは、1細胞あたりの遺伝子検出感度(10X Genomics ChromiumおよびSmart-Seq2と比較)・同一シーケンスリードあたりの遺伝子検出数(シーケンスリードの利用効率、Smart-Seq2と比較)・各細胞間の遺伝子発現の差異を捉える解像度(総検出遺伝子数およびSeurat analysisによるhighly-variable geneの数の多寡にて評価、図11下)のすべての面で、既存方法を上回っている。
図12】本発明の方法によるビーズ固相担体からの全cDNA増幅とBD Rhapsodyシステムを組み合わせたSCT解析法による、ブレオマイシン誘導肺線維症マウスモデルの経時的解析結果。投与後0,3,7,10日目のマウス肺のデータを用い、Seuratソフトウェアにより解析を行った。肺の様々な細胞集団が網羅的に同定され、それぞれの細胞集団を特徴づけるマーカー遺伝子もまた同定された。
図13】本発明の方法によるビーズ固相担体からの全cDNA増幅とBD Rhapsodyシステム、DNA標識抗体を組み合わせたSCT解析法による、colon26皮下移植腫瘍マウスモデル由来CD45+白血球の14検体のマルチプレックス解析結果。全cDNA増幅に本発明の方法を用いることで、サンプル識別のためのDNAラベル抗体由来の2本鎖DNAと、cDNA由来の2本鎖DNAが明確に分離できた。さらに、SCTデータに含まれる各細胞の由来を、標識に用いたDNA標識抗体由来のシグナル(リード数)の大きさに基づき分離できており、かつ各検体において多くの遺伝子が均等に検出できていることが認められた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において、標的捕捉用核酸、特異結合分子に結合したオリゴ核酸(以下、単に「オリゴ核酸」といった場合には、特異結合分子に結合したオリゴ核酸を意味する)、プライマー、アダプター、ヌクレオチドホモポリマー等の塩基配列を構成するA、T、G、Cには、DNAを構成するデオキシリボヌクレオチド(DNAのA、T、G、C)のみならず、RNAを構成するリボヌクレオチド(RNAのA、T、G、C)も包含され、さらには、対応するヌクレオチドアナログ(例えば、LNA, ENA, PNAなどの架橋化核酸(bridged nucleic acid)や、Super T (5-hydroxybutynl-2’-deoxyuridine), Super G (8-aza-7-deazaguanosine), deoxyinosine, 5-methyl dC, deoxyuridine, 2,6-diaminopurine, 2-aminopurine, 2-Amino-dATPなどの修飾塩基など)も包含される。すなわち、標的捕捉用核酸(例えば、ポリT部分、第1のアダプター部分、バーコード部分、オリゴ核酸捕捉領域、及びこれら以外の部分のうちのいずれかの部分)、ヌクレオチドホモポリマー、第2鎖合成用プライマー(例えば、相補的ホモポリマー部分、第2のアダプター部分、分子バーコード部分、及びこれら以外のうちのいずれかの部分)、オリゴ核酸(例えば、被捕捉領域、共通配列、特異結合分子識別バーコード部分、及びこれら以外の部分のうちのいずれかの部分)、並びに、核酸増幅工程において使用する各プライマーには、リボヌクレオチド及びヌクレオチドアナログから選択される1個以上(例えば1~15個程度、1~12個程度、又は1~数個程度)のモノマーが含まれていてもよい。
【0024】
また、本発明において、ある領域Xを標的とするプライマーといった場合、この領域X又はその相補鎖に特異的にハイブリダイズするプライマーを意味する。領域Xを標的とするプライマーには、領域Xと同一の配列又はこれと相補的な配列を含むプライマーが包含される。領域Xに設定したプライマーという語も同様であり、領域X又はその相補鎖に特異的にハイブリダイズするプライマーを意味し、領域Xと同一の配列又はこれと相補的な配列を含むプライマーが包含される。
【0025】
本発明の核酸増幅方法は、標的核酸捕捉工程、相補鎖合成工程、エキソヌクレアーゼ処理工程、mRNA分解工程、ホモポリマー付加工程、第2鎖合成工程、及び核酸増幅工程を含む。以下、適宜図1及び図2を参照しながら各工程を説明する。
【0026】
<標的核酸捕捉工程>
標的核酸捕捉工程では、固相担体上に結合した標的捕捉用核酸を介して、固相担体上に標的核酸を捕捉する(図1図2のStep 1)。標的核酸は、mRNAを含む核酸であり、mRNAのみを標的としてもよいし、mRNA以外の核酸も併せて標的としてもよい。mRNA以外の標的核酸の一例として、特異結合分子に結合したオリゴ核酸を挙げることができる。なお、図1及び図2では、固相担体としてビーズを用いる態様が示されており、便宜的に、1個のビーズ担体上に1分子のmRNAを捕捉した様子が示されているが、実際には1個のビーズ担体上に多数のmRNA分子が捕捉される。図1のStep 1には、mRNA及びオリゴ核酸を標的核酸とする場合の態様を示しており、ここでも1個のビーズ担体上に1分子のオリゴ核酸を捕捉した様子が示されているが、実際には、1個のビーズ担体上に多数のオリゴ核酸分子が捕捉される。
【0027】
固相担体は、ビーズでもよいし、スライドグラス等のプレートでもよい。固相ビーズを用いた単一細胞解析システムとしては、例えば、Drop-seq法(非特許文献10、WO 2016/040476 A1)、Nx1-seq法(WO 2015/166768 A1; Hashimoto et al. Scientific Reports 2017 Oct 27;7(1):14225. doi: 10.1038/s41598-017-14676-3.)、Seq-well法(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5376227/)、BD Rhapsodyシステム等が知られている。固相担体としてプレートを用いた解析方法としては、例えば、スライドグラス上に固相化したオリゴ核酸を用いた空間トランスクリプトーム法(spatical transcriptomics, https://spatialtranscriptomics.com/products/)が知られている。本発明の核酸増幅法はこれらのいずれにも適用可能である。
【0028】
ビーズの材質は特に限定されず、核酸解析キットの核酸捕捉担体やイムノアッセイキットの固相粒子担体に用いられる種々の材質を採用できる。ビーズの材質の例として、ポリスチレン、ポリプロピレン等の樹脂製のビーズ等の有機ポリマー製ビーズ、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、酸化亜鉛(ZnO)等の半導体材料でできた量子ドット(半導体ナノ粒子)等の半導体製ビーズ、金等の金属製ビーズ、シリカ製ビーズなどの重合体ビーズ等を挙げることができる。具体例として、セルロース、セルロース誘導体、アクリル樹脂、ガラス、シリカゲル、ポリスチレン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ビニルおよびアクリルアミドの共重合体、ジビニルベンゼン架橋ポリスチレン等(Merrifield Biochemistry 1964,3,1385-1390参照)、ポリアクリルアミド、ラテックスゲル、ポリスチレン、デキストラン、ゴム、シリコン、プラスチック、ニトロセルロース、セルロース、天然海綿、シリカゲル、ガラス、金属プラスチック、セルロース、架橋デキストラン(例えばSephadex(商品名))およびアガロースゲル(Sepharose(商品名))等の材質のビーズを挙げることができる。非磁性体、磁性体のいずれでも良いが、取扱いがより容易な磁性ビーズを好ましく用いることができる。
【0029】
プレートの材質も特に限定されず、例えば、マイクロアレイの基板に用いられる種々の材質を採用できる。使用可能な材質の代表的な例としてガラスが挙げられるが、その他、シリコン、プラスチック等も使用できる。固相担体がプレートの場合、標的捕捉用核酸は、通常、プレート上の複数箇所の区画に固定化(典型的には、スポット状に整列固定化)される。
【0030】
mRNAが由来する細胞は特に限定されず、例えば、マウス個体由来の細胞、各種培養細胞、健常人由来の細胞、がん患者由来の細胞、各種疾患患者由来の細胞など、種々の細胞が対象となる。がん患者由来の細胞は、がん免疫療法を受けているがん患者に由来する細胞であってもよい。健常人や患者に由来する細胞は、末梢血や病変部(例えば腫瘍)から採取された細胞であってよい。
【0031】
オリゴ核酸をmRNAと共に標的核酸とする場合、オリゴ核酸で標識される特異結合分子は、好ましくは、細胞表面分子に直接、又は特異結合パートナー分子を介して間接的に結合する少なくとも1種の分子である。
【0032】
細胞表面分子に直接特異的に結合する特異結合分子の典型的な例として、細胞表面分子に対する抗体を挙げることができる。抗体は、抗原としての細胞表面分子に抗原抗体反応により特異的に結合する結合能を有していればよく、Fab、F(ab')2、scFv(single chain fragment of variable region、単鎖抗体)等の抗体断片(抗原結合性断片)を用いることもできる。「細胞表面分子に対する抗体断片」という語は、抗原としての細胞表面分子に抗原抗体反応により特異的に結合する結合能を有する抗体断片を意味する。mRNA発現とタンパク質発現の同時解析を行なう場合には、所望の1種又は2種以上のタンパク質に対する抗体又は抗体断片を特異結合分子として用いればよい。複数サンプルの同時解析(マルチプレックス解析)を行なう場合には、解析対象の細胞において安定して発現している細胞表面分子に対する抗体又は抗体断片を特異結合分子として用いればよい。
【0033】
特異結合分子及びその結合パートナーである特異結合パートナー分子の好ましい例として、アビジン類及びビオチン類をそれぞれ挙げることができる。具体的には、特異結合分子としてはアビジン、ストレプトアビジン又はニュートラアビジン等のアビジン類を好ましく用いることができ、特異結合パートナー分子としてはビオチン又はデスチオビオチン等のビオチン類を好ましく用いることができる。細胞表面分子に対し、特異結合パートナー分子を介して間接的に結合する特異結合分子を用いる場合には、特異結合パートナー分子で細胞を処理して細胞表面分子全般を標識しておき、次いで、オリゴ核酸で標識された特異結合分子と反応させればよい。例えば、Biotin-Sulfo-OSu, Biotin-SS-Sulfo-OSuなどの親水性ビオチン標識試薬を用い、PBS中に該試薬と細胞を添加して4℃で10-30分程度インキュベートすることにより、細胞表面に存在する細胞表面分子を非特異的にビオチン標識できる。特異結合分子-パートナー分子を用いた間接標識法は、細胞表面分子の発現の有無、発現パターンなどに影響されず、細胞表面分子全般を非特異的に標識できるため、マルチプレックス解析に適した手法である。
【0034】
細胞表面分子は特に限定されず、各種のCD分子や主要組織適合抗原、細胞表面受容体等の様々な細胞表面分子が包含される。
【0035】
オリゴ核酸は、典型的には一本鎖DNAであり、鎖長は通常数十塩基~150塩基程度、例えば60塩基~100塩基程度である。該オリゴ核酸の3'側(特異結合分子と結合していない末端側)には、標的捕捉用核酸により捕捉されるための被捕捉領域が含まれる。標的捕捉用核酸中で被捕捉領域とハイブリダイズする領域を便宜的に「オリゴ核酸捕捉領域」と呼ぶと、被捕捉領域は、オリゴ核酸捕捉領域と相補的な配列を有する。被捕捉領域の好ましい例としてポリAを挙げることができるが、これに限らず、ポリAではない任意の配列からなっていてもよい。捕捉領域の融解温度がポリA配列よりも高く、かつ、G又はCが連続して5個以上出現しない配列を、ポリAではない任意の配列として好ましく採用することができる。オリゴ核酸の5'側(特異結合分子と結合している末端側)、すなわち被捕捉領域の5'上流側には、第2鎖合成時のプライマーや核酸増幅工程で用いるプライマーを設定するための共通配列が含まれる。共通配列と被捕捉領域との間には、特異結合分子を識別するための特異結合分子識別バーコードが含まれていてよい。サンプル数に応じた種類の特異結合分子識別バーコードを利用することで、最終的に増幅された核酸がどのサンプルに由来するかを識別することができる。
【0036】
標的核酸捕捉工程の実施態様の1つとして、病変部組織検体や細胞懸濁液等の細胞試料よりmRNA試料を調製し、標的捕捉用核酸が結合した固相担体とmRNA試料を接触させることにより、固相上にmRNAを捕捉する態様を挙げることができる。mRNA試料の調製は、まず細胞試料よりtotal RNAを抽出してからmRNAの抽出を行なってもよいし、細胞試料からtotal RNAの抽出を経ず直接的にmRNAを抽出してもよい。
【0037】
標的核酸捕捉工程の別の実施態様として、固相ビーズを用いたsingle cell transcriptome(SCT)解析プラットフォームを用いて、微小ウェルや微小液滴中で個々の1細胞からRNAを抽出し、標的捕捉用核酸が結合したビーズ担体と接触させることにより、微小ウェル又は微小液滴中でビーズ上に標的核酸としてのmRNAを捕捉する態様を挙げることができる。微小ウェル、微小液滴という用語における「微小」という語は、典型的にはボリュームが5~100pl程度であることを意味する。固相ビーズを用いたSCT解析プラットフォームの一般的な手法の一例として、微小ウェルを有するプレートを用いたBeckton Dickinson社のBD Rhapsodyシステム(特許文献4)、Seq-wellシステム(非特許文献11)、及びNx1-seqシステム(WO 2015/166768 A1; Hashimoto et al. Scientific Reports 2017 Oct 27;7(1):14225. doi: 10.1038/s41598-017-14676-3.)や、微小液滴中でmRNAを捕捉するDrop-seq法(非特許文献10)を挙げることができ、本発明においてはこれらの一般的手法を好ましく用いることができる。
【0038】
核酸捕捉工程のさらに別の実施態様として、空間トランスクリプトーム法のプラットフォームを用いて、標的捕捉核酸固定化プレート上で組織サンプルを透過処理し、組織標本の各細胞より出てきたmRNAをプレート上に整列固定化された捕捉核酸にて捕捉する態様を挙げることができる。
【0039】
標的捕捉用核酸としては、ポリT部分を含む核酸を好ましく用いることができる。固相担体上には、標的捕捉用核酸として、ポリT部分を含む核酸の他、ポリT部分を含まない核酸も追加で固相化されていてもよい。本発明の方法においては、標的捕捉用核酸として、mRNAを捕捉する核酸が固相担体上に固定化されているが、mRNA以外の標的核酸を捕捉する核酸も併せて固定化されていてもよい。例えば、上述したように、オリゴ核酸を捕捉する核酸が標的捕捉用核酸としてさらに固相担体上に固定化されていてもよい。本発明の増幅方法にオリゴ核酸標識特異結合分子を併用する場合の態様は後に詳述するが、固相担体上に固定化される、mRNAを捕捉するための標的捕捉用核酸と、オリゴ核酸を捕捉するための標的捕捉用核酸は、同一の場合もあるし、異なる場合もある。
【0040】
標的捕捉用核酸は、ポリT部分の5'側、すなわち固相担体側に第1のアダプター部分を含んでいてよい。図1及び図2中でUniversal 1として示されている部分が第1のアダプター部分である。第1のアダプター部分は、核酸増幅工程においてプライマーの一方を設定する領域となる。
【0041】
また、標的捕捉用核酸は、第1のアダプター部分とポリT部分の間に、個々の固相担体ないしは固相担体上の位置を識別するためのバーコード部分を含んでいてよい。このバーコード部分とは、固相担体がビーズである場合にはビーズ識別バーコードであり、固相担体がプレートである場合には、プレート上のどの区画に固定化されているかを識別するための区画識別バーコードである。そのようなバーコード部分を含む態様においては、核酸増幅工程で増幅される、cDNAを含む核酸には、識別バーコード部分に由来するバーコード配列が含まれることになる。ビーズ識別バーコード部分は、同一のビーズ上では同一の配列であり、ビーズごとに異なる配列を有する。これにより、同じビーズ上に捕捉されたmRNAに由来するcDNAを、他のビーズ上に捕捉されたmRNAに由来するcDNAと区別することができる。SCT解析においては、同じ細胞に由来するcDNAを、他の細胞に由来するcDNAと区別することができる。そのようなビーズ識別バーコード部分を含む、固相化されたmRNA捕捉用核酸は、公知の方法で調製することができる(例えば、WO 2015/166768 A1など参照)。また、区画識別バーコード部分は、プレート上の同一の区画(スポット)内では同一の配列であり、区画(スポット)ごとに異なる配列を有する。これにより、例えばサンプルが組織標本である場合に、組織のどの部位でどのようなmRNAが発現しているかを把握することができる。
【0042】
<相補鎖合成工程>
相補鎖合成工程では、固相担体上に捕捉された標的核酸から、これと相補的なDNA鎖を合成する。標的核酸がmRNAの場合には、逆転写反応によりcDNAが合成される。標的核酸がmRNA以外の核酸、例えば特異結合分子に結合したオリゴDNAを含む場合、相補鎖合成工程では、mRNAからのcDNAの逆転写反応と、DNAポリメラーゼを用いたオリゴDNAからの相補鎖合成反応とが行われる。この工程により、固相担体上に捕捉された、mRNAを含む標的核酸から、cDNAを含む、標的核酸と相補的なDNA鎖が合成される。標的核酸捕捉工程の後、固相担体を回収し、固相担体上に標的核酸が捕捉された状態で逆転写反応等を行なう(図1及び図2のStep 1)。標的mRNAからの逆転写反応及び標的DNAからの相補鎖合成反応自体は常法通りに行なうことができる。相補鎖合成後、固相担体を洗浄して次の工程に進む。
【0043】
<エキソヌクレアーゼ処理工程>
エキソヌクレアーゼ処理工程では、標的核酸を捕捉していない固相担体上の標的捕捉用核酸をエキソヌクレアーゼ処理により分解除去する(図1及び図2のStep 2; 図中のRT primersは標的捕捉用核酸を意味している)。一本鎖DNAを特異的に分解する一般的なエキソヌクレアーゼの例として、Exonuclease IやExonuclease Tを挙げることができる。本発明ではそのような一般的なエキソヌクレアーゼの少なくとも1種を用いることができる。エキソヌクレアーゼ処理後、固相担体を洗浄して次の工程に進む。
【0044】
<mRNA分解工程>
mRNA分解工程では、固相担体上に結合しているmRNA-cDNAハイブリッドのmRNAをRNA分解酵素で分解する(図1図2のStep 3)。RNase Hなどの一般的なRNA分解酵素を利用できる。RNAの分解後は、固相担体を洗浄、回収してからホモポリマー付加工程に進んでもよいし、洗浄せずにそのままホモポリマー付加工程に進んでもよい。後述するように、mRNA分解工程とホモポリマー付加工程を同時に行なうこともできる。
【0045】
<ホモポリマー付加工程>
ホモポリマー付加工程では、dATP、dTTP、dCTP、又はdGTPと連鎖停止ヌクレオチド三リン酸(連鎖停止NTP)との存在下でターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)による反応を行ない、固相上に合成されたDNA鎖の末端にヌクレオチドホモポリマーを付加する(図1図2のStep 3; 図にはポリCの例を示す)。連鎖停止NTP(連鎖停止ATP、連鎖停止TTP、連鎖停止CTP、又は連鎖停止GTP)とは、この分野で周知の通り、ヌクレオチドの3'位のOH基が、他のヌクレオチド分子の5'-リン酸部分との間でリン酸エステル結合を形成できないように修飾ないし改変されたヌクレオチドであり、3'位のOH基を有しない(3'位に結合する原子団にOH基を含まない)ヌクレオチド三リン酸ともいうことができる。本発明においても使用可能な一般的な連鎖停止NTPの具体例として、ジデオキシヌクレオチド三リン酸(ddNTP)(ddATP, ddCTP, ddGTP, ddTTP, ddUTP), ddNTPの誘導体(典型的には、OH基を有しない原子団で3'位が修飾されたddNTPであり、例えば、3'-Azido-ddATP, 3'-Azido-ddCTP, 3'-Azido-ddGTP, 3'-Azido-ddTTP, 3'-Azido-ddUTP, 3'-Amino-ddATP, 3'-Amino-ddCTP, 3'-Amino-ddGTP, 3'-Amino-ddTTP等の、アジド基若しくはアミノ基で3'位が修飾されたddNTP), 3'-デオキシヌクレオチド三リン酸(3'-dNTP)(3’-dATP, 3’-dCTP, 3’-dGTP, 3’-dTTP, 3’-dUTP) , 3'-デオキシ-5-メチルウリジン-5'-三リン酸が挙げられ、例えばddNTP、又はアジド基で3'位が修飾されたddNTP、特にddNTPであってよいが、これらに限定されない。使用する連鎖停止NTP及びホモポリマーを形成する基質(dNTP)は、両者の塩基鎖を揃えることが望ましい。第2鎖合成反応に必要な最低ホモポリマー長、第2鎖合成に用いるプライマーの3’末端ホモポリマー部分の必要長、フリープライマー由来副産物の鎖長を特に望ましく抑えられることから、例えばddCTP等の連鎖停止CTP+dCTP、又はddGTP等の連鎖停止GTP+dGTPの組み合わせにより、ポリC付加又はポリG付加を行なうことが特に好ましい。
【0046】
連鎖停止NTPの添加量は、例えばddNTPを用いる場合、dNTP(dATP、dTTP、dCTP、又はdGTP)に対する比率でddNTP:dNTP=1:10~1:100程度であればよく、例えば1:10~1:80、1:10~1:60、1:10~1:40、1:15~1:80、1:15~1:60、又は1:15~1:40の比率で用いることができる。他の連鎖停止NTPもこの比率に準じて使用量を設定できる。連鎖停止NTPの非共存下でTdT反応を行なう場合、ホモポリマーの鎖長を制御するために、酵素のロット間の活性の違いや、プライマーやcDNAなど基質の量の差異に応じて反応時間を厳密に制御する必要がある。一方、本発明では、連鎖停止NTPの共存下でTdTによるホモポリマー付加反応を行なうことにより、確率論的に連鎖停止NTPが取り込まれてホモポリマー伸長反応が停止するので、TdTによる反応時間延長の許容量が大幅に増大する。
【0047】
TdTによるホモポリマー付加反応は、一般に、2価カチオンの存在下で行なわれる。使用可能な2価カチオンとしては、Zn2+、Cu2+、Ni2+、Co2+、Mn2+、Mg2+などの2価金属カチオンが挙げられ、例えばCo2+又はMn2+であってよいが、これらに限定されない。
【0048】
連鎖停止NTP添加により、TdTによる反応時間延長の許容量が大幅に増大するため、TdT反応液にRNase Hを添加してmRNA分解反応とホモポリマー付加反応を同時に行うことができる。従って、本発明の1つの態様において、mRNA分解工程とホモポリマー付加工程は同時に実施される。
【0049】
<第2鎖合成工程>
ホモポリマー付加反応の後、固相担体を洗浄して第2鎖合成工程に進む。第2鎖合成工程では、cDNAを含む相補的なDNA鎖の末端に付加されたヌクレオチドホモポリマーに対して相補的なホモポリマー部分を含むプライマーを含む第2鎖合成用プライマーを用いて、固相担体上に結合した相補的DNA鎖に対し第2鎖合成を行なう(図1図2のStep 4)。mRNAに加えて、特異結合分子に結合したオリゴ核酸も標的核酸とした場合には、第2鎖合成用プライマーは、上記した相補的ホモポリマー部分を含むプライマーと、オリゴ核酸中の部分領域(後述する共通配列)を含むプライマーとを含んでいてよい。
【0050】
相補的ホモポリマー部分は、第2鎖合成用プライマーの3'末端側に存在する。相補的ホモポリマー部分の鎖長は、相補的DNA鎖に付加されたホモポリマーテイルがポリC又はポリGである場合には通常6~20塩基程度、例えば6~13塩基程度、7~15塩基程度、又は7~11塩基程度であり、ホモポリマーテイルがポリA又はポリTである場合には通常15~30塩基程度、例えば18~25塩基程度である。また、相補的ホモポリマー部分は、その3'末端に1~2塩基程度のアンカー配列が付加されていてもよい。アンカー配列を付加することで、TdTによりcDNAに付加されたホモポリマーテイルの開始点に第2鎖合成用プライマーがアニーリングする確率を高めることができる。アンカー配列は、相補的ホモポリマー部分がポリGの場合はHまたはHN (H = A, T又はC; N = any base (A, T, C又はG))、ポリCの場合はDまたはDN(D = A, T又はG; N = any base (A, T, C又はG))、ポリAの場合はBまたはBN(B = T, G又はC; N = any base (A, T, C又はG))、ポリTの場合はVまたはVN(V = A, G又はC; N = any base (A, T, C又はG))を用いることができる。
【0051】
第2鎖合成工程では、サーマルサイクリング反応により第2鎖合成用プライマーのアニーリング/伸長の工程を複数回実施してよい。また、1度のサイクリングにより第2鎖合成を実施したのち、Bst DNA polymerase等の鎖置換活性のあるポリメラーゼにより後追い反応を実施してもよい。このような処理により、第2鎖合成効率を高めることができる。
【0052】
第2鎖合成用プライマーは、相補的ホモポリマー部分の5'側に第2のアダプター部分を含んでいてよい。図1のStep 4でUniversal 2、図2のStep 4でtrP1として示されている部分が第2のアダプター部分である。第2のアダプター部分は、核酸増幅工程においてプライマーの一方を設定する領域となる。
【0053】
第2鎖合成用プライマーは、第2のアダプター部分と相補的ホモポリマー部分の間に分子バーコード部分を含んでいてよい。この態様の第2鎖合成用プライマーは、5'側から[第2のアダプター]-[分子バーコード]-[相補的ホモポリマー]の順序に各部分が連結した構造を有する。分子バーコードはランダムな塩基配列を有しており、後の核酸増幅工程で増幅されたDNA分子は、同一の2本鎖cDNAに由来するDNAであれば同一の分子バーコードを有し、別の2本鎖cDNAに由来するDNAであれば互いに異なる分子バーコードを有することになる。異なる分子バーコードを有するDNAのみを数えることで、出発時のcDNA分子数の推定や、異なるcDNA間のPCR増幅効率の差の補正が可能となる。分子バーコードの鎖長は特に限定されないが、典型的には12塩基~30塩基程度である。分子バーコードは、シークエンスエラーに耐性を持たせるため、ランダム塩基配列中に特定の固定配列が挿入された構成にしてもよい。
【0054】
<核酸増幅工程>
第2鎖合成後、固相担体を洗浄して、又は洗浄せずに核酸増幅工程に進む。核酸増幅工程では、固相担体上に合成されたDNA2本鎖を鋳型として核酸増幅反応を行なう(図1図2のStep 5、Step 6)。この核酸増幅反応では高い正確性が求められるため、一般に高正確性PCR酵素として知られているポリメラーゼを用いることが望ましい。高正確性PCR酵素は種々のものが市販されている。本工程では、固相担体を洗浄せずに核酸増幅反応液を追加添加することにより、そのまま核酸増幅反応を実施してもよい。
【0055】
第1のアダプターと第2のアダプターを採用する態様では、それらのアダプターに設定したプライマーのセットでPCRを行なうことができる。SCT解析の場合は(図1)、各細胞中で発現しているmRNAを網羅的に逆転写して増幅するので、第1及び第2のアダプターを標的とするプライマーセットで全cDNA増幅を行なうのが一般的である。この場合のプライマーセットは、典型的には、第1のアダプター配列からなるプライマーと、第2のアダプター配列からなるプライマーとのセットであるが、5'側に任意の付加配列やビオチン等による修飾を含んでいても差し支えない。図1に示した例では、第1のアダプター配列からなるプライマー(Universal 1 primer)と第2のアダプター配列からなるプライマー(Universal 2 primer)を用いたPCRを2回行なっているが、これはSCT解析において本発明の核酸増幅方法を利用する場合の一例であり、SCT解析に利用する態様がこの一例に限定されるものではない。
【0056】
mRNAに加えて、特異結合分子に結合したオリゴ核酸も標的核酸とした場合は、第1のアダプターを標的とするプライマー及び第2のアダプターを標的とするプライマーに加え、オリゴ核酸中の部分領域(後述する共通配列)を含むプライマーを用いて、cDNAとオリゴ核酸を同時に増幅する。得られた増幅産物は、磁気ビーズ等を用いてサイズ分画を行ない、増幅されたcDNAとオリゴ核酸を分離し、2回目のPCRにおいて各々を独立に増幅することができる。
【0057】
TCRレパトア解析におけるTCR可変領域ライブラリーの調製で本発明を実施する場合は(図2)、固相担体上で合成されたcDNA分子のうちでTCR可変領域をコードするcDNA領域を増幅できればよい。そのため、この場合の核酸増幅工程では、第1のアダプターを標的とするプライマーの代わりに、TCR定常領域を標的とするプライマーを用いることができる。もっとも、図1と同様に、第1のアダプターと第2のアダプターを標的とするプライマーセットを用いて全cDNA増幅を行なった後、全cDNA増幅産物を鋳型として、TCR定常領域を標的とするプライマーと第2のアダプターを標的とするプライマーを用いてTCR可変領域cDNAを増幅してもよい。
【0058】
以下、本発明の核酸増幅方法の利用例として、SCT解析への利用例、TCRレパトア解析への利用例、及びオリゴ核酸標識特異結合分子を用いた解析との併用例を説明する。もっとも、本発明の核酸増幅方法の利用はこれらの解析法への利用に限定されるものではなく、ビーズやプレート等の固相担体からのcDNA増幅のステップを含む様々な技術に利用することができる。
【0059】
<SCT解析への利用例(図1)>
SCT解析に本発明の核酸増幅方法を利用する場合の一例を図1に基づいて説明する。もっとも、SCT解析への利用例はこの一例に限定されるものではない。
【0060】
Step 1~Step 4は、上述した標的核酸捕捉工程~第2鎖合成工程の通りに行なえばよい。第2鎖合成用プライマーは、第2のアダプター部分と相補的ホモポリマー部分の間に分子バーコード部分は含んでいなくても良い。
【0061】
核酸増幅工程は、2回の増幅反応(1st PCR、2nd PCR)として実施できる。どちらも第1のアダプターを標的とするプライマーと第2のアダプターを標的とするプライマーを用いる。1st PCR(図1のStep 5)は数サイクルのPCRとし、1st PCRの増幅産物のサイズセレクション及び精製を行なう。次いで、2nd PCRを行ない全cDNAをさらに増幅し(図1のStep 6)、再びサイズセレクションおよび精製を行なうことにより、全cDNAの増幅産物を得る。後のステップで配列解析対象の断片を回収する便宜のため、2nd PCRでは、両プライマーの5'末端にビオチンやアミン等のスペーサーを結合させたものを用いてもよい。
【0062】
得られた全cDNAの増幅産物は、次世代シークエンサーによるシークエンシングに供するために、断片化、末端修復、A-tailing、シークエンス用アダプターの付加等の加工を行なう。これらの加工により、シークエンス用コンストラクトに加工されたcDNAのライブラリーが得られる。断片化手段としては、超音波や酵素を用いることができる。シークエンス用コンストラクトの作成は、一般的に用いられる試薬を用いることができ、酵素法の代表的なものとしてはNew England Biolabs社のNEBNext UltraII FS kitや、KAPA Biosystems社のKAPA HyperPlus kit、超音波断片化装置としてはCovarisやBioruptorなどの機械を用いることができるが、その他の同等品でも使用可能である。シークエンス用アダプターは、使用する次世代シークエンサーに応じて適当なアダプターを用いればよい。
【0063】
ライブラリーのシークエンシングは、一般に次世代シークエンサーと呼ばれるシークエンサーを用いて実施すればよい。好ましく使用できる次世代シークエンサーの具体例としては、イルミナ社のNovaseq 6000システム、Hiseqシステム、Nextseqシステム、MiSeqシステム、サーモフィッシャーサイエンティフィック社のIon Protonシステム、同社のIon S5/Ion S5 XLシステム等が挙げられる。
【0064】
<TCRレパトア解析への利用例(図2)>
TCRレパトア解析に本発明の核酸増幅方法を利用する場合の一例を図2に基づいて説明する。もっとも、TCRレパトア解析への利用例はこの一例に限定されるものではない。
【0065】
Step 1~Step 4は、上述した標的核酸捕捉工程~第2鎖合成工程の通りに行なえばよいが、第2のアダプターとして、配列解析に使用する次世代シークエンサーに適したシークエンス用アダプター(図2、Step 4のtrP1)を用いる。第2鎖合成用プライマーは、分子バーコード部分を含むものが好ましく用いられる。
【0066】
核酸増幅工程は、2回の増幅反応(1st PCR、2nd PCR)として実施できる。1st PCRでは、TCR定常領域に設定したプライマー(図2、Step 5のTRAc and/or TRBc external primer(s))と、第2のアダプターを標的とするプライマー(図2のtrP1 primer)を用いる。TCRレパトア解析の解析対象がβ鎖である場合には、β鎖定常領域を標的とするプライマー(TRBc external primer)と、第2のアダプターを標的とするプライマーを使用すればよい。解析対象がα鎖である場合には、β鎖定常領域を標的とするプライマーに代えて、α鎖定常領域を標的とするプライマー(TRAc external primer)を使用すればよい。β鎖定常領域を標的とするプライマーとα鎖定常領域を標的とするプライマーの両者を混合し(TRAc and/or TRBc external primers)、第2のアダプターを標的とするプライマーとセットで用いれば、β鎖可変領域とα鎖可変領域の両方を増幅できる。
【0067】
Step 5の1st PCRは、nested PCRにより行なってもよい。この場合、第2のアダプターを標的とするプライマーと組み合わせるプライマーは、nested PCRの1回目と2回目のいずれも、定常領域内に設定すればよい。なお、このように、一方のプライマーが1回目と2回目で同一である場合、semi-nested PCRと呼ぶことがある。このステップにおいても、アダプターに設定したプライマーと定常領域に設定したプライマーのセットを用いることで、PCRバイアスをかけることなくTCRのcDNAを増幅することができる。
【0068】
1st PCRの増幅産物のサイズセレクション及び精製を行なってから、2nd PCRを行なう(図2のStep 6)。2nd PCRでは、第2のアダプター配列からなるプライマー(trP1 primer)と、TCR cDNA断片上の定常領域を標的とするプライマー(A-BC-TRC primer)を用いる。TCR定常領域を標的とするA-BC-TRC primerは、第2のシークエンス用アダプター(lonA)の配列を5'末端に有する。この2nd PCRにより、両末端にシークエンシングのためのアダプターが付加された500~600 bp程度のサイズのDNA断片で構成されるTCR可変領域ライブラリーを得ることができる。2nd PCRで用いるTCR定常領域を標的とするプライマーA-BC-TRC primerは、第2のシークエンス用アダプター(lonA)の配列とTCR定常領域標的配列との間に分子バーコード配列(BC)を有する。分子バーコードは、同じサンプルから調製した同じライブラリーに対して同一の分子バーコードを使用し、ライブラリーごとに異なる分子バーコードを用いる。これにより、次世代シークエンサーによる配列大量解析後に、あるTCR可変領域配列がどのライブラリーに由来するかを識別することができる。
【0069】
TCR可変領域ライブラリーのシークエンシングは、一般に次世代シークエンサーと呼ばれるシークエンサーを用いて実施すればよい。好ましく使用できる次世代シークエンサーの具体例としては、サーモフィッシャーサイエンティフィック社のIon S5/Ion S5 XLシステム、イルミナ社のMiSeqシステム、Novaseq 6000システム等が挙げられる。
【0070】
<オリゴ核酸標識特異結合分子を用いた解析との併用例(図1)>
オリゴ核酸標識特異結合分子と本発明の増幅法を併用する場合の一例を、図1に基づいて説明する。図1は本発明の増幅法をSCT解析に利用した場合の例であるが、オリゴ核酸標識特異結合分子と本発明の増幅法の併用例はこれに限定されず、TCRレパトア解析とも併用できるし、それ以外にも、ビーズやプレート等の固相担体からのcDNA増幅のステップを含む様々な技術と併用できる。
【0071】
オリゴ核酸標識特異結合分子と併用する場合、mRNAとオリゴ核酸が標的核酸となる。固相担体上に固定化する標的捕捉用核酸には、mRNAを捕捉するためのmRNA捕捉領域を含む核酸と、前記オリゴ核酸を捕捉するためのオリゴ核酸捕捉領域を含む核酸が含まれるが、両者は同一の場合もあるし、異なっている場合もある。オリゴ核酸が有する被捕捉領域がポリAである場合、標的捕捉核酸が有するオリゴ核酸捕捉領域としてはポリTを利用できるが、この場合には、2種の標的核酸のどちらも、ポリT部分を含む1種類の標的捕捉用核酸により捕捉することができる。ポリAではない任意の配列を被捕捉領域としてオリゴ核酸に持たせた場合には、当該任意の配列と相補的な配列のオリゴ核酸捕捉領域を含む核酸を、特異結合分子が結合したオリゴ核酸を捕捉するための標的捕捉用核酸として用いることができ、ビーズ担体上には、mRNA捕捉領域としてポリTを含む標的捕捉用核酸と、オリゴ核酸捕捉領域として上記任意の配列と相補的な配列を含む標的捕捉用核酸の2種類が固定化される。
【0072】
Step 1の標的核酸捕捉工程に先立ち、細胞を含むサンプルと、オリゴ核酸標識特異結合分子を接触させることにより、オリゴ核酸標識特異結合分子を細胞表面に結合させる工程、及び、細胞を溶解させる工程を実施する。特異結合分子及びそのパートナー分子を用いる間接標識の場合には、上述したように、まず特異結合パートナー分子(ビオチン類など)で細胞を処理して細胞表面分子全般を非特異的に標識しておき、次いで、この細胞を含むサンプルを、オリゴ核酸で標識された特異結合分子(アビジン類など)と接触させて反応させればよい。つまり、間接標識の場合には、特異結合パートナー分子と細胞サンプルを接触させることにより、細胞表面に存在する細胞表面分子に特異結合パートナー分子を結合させる工程を行ってから、オリゴ核酸標識特異結合分子を細胞表面に結合させる工程を実施すればよい。SCT解析との併用の場合には、オリゴ核酸標識特異結合分子を反応させた細胞を、SCT解析のプラットフォームにロードして、微小ウェル又は微小液滴内で細胞を溶解すればよい。
【0073】
Step 1では、mRNAとオリゴ核酸がビーズ担体上に捕捉され、逆転写反応によるmRNAからのcDNA合成と、DNAポリメラーゼによるオリゴ核酸からの相補鎖合成が行われる。
【0074】
Step 2は、上述したエキソヌクレアーゼ処理工程の通りに行なえばよい。
【0075】
Step 3は、上述したmRNA分解工程及びホモポリマー付加工程の通りに行なえばよい。mRNAから逆転写されたcDNA、及びオリゴ核酸から合成された相補的DNA鎖の両者の末端にホモポリマーが付加される。mRNA分解により、ビーズ担体上のcDNAは一本鎖の状態となるが、オリゴ核酸はその相補鎖と2本鎖を形成した状態でビーズ担体上に捕捉されている。この2本鎖は、ホモポリマー付加反応の前に熱変性させることで、特異結合分子が結合したオリゴ核酸鎖を解離させてもよいし、ホモポリマー付加反応後に熱変性させて解離させてもよい。
【0076】
Step 4では、第2鎖合成用プライマーとして、相補的ホモポリマー部分の5'側に第2のアダプター部分を含むプライマーと、共通配列を含むプライマーを用いる。前者が、mRNAより合成されたcDNAに対して第2鎖を合成するためのプライマーであり、後者が、オリゴ核酸より合成された相補鎖に対して第2鎖を合成するためのプライマーである。SCT解析との併用の場合には、前者の第2鎖合成用プライマーは、第2のアダプター部分と相補的ホモポリマー部分の間に分子バーコード部分は含んでいなくても良く、TCRレパトア解析との併用の場合には、分子バーコードを含む第2鎖合成用プライマーが好ましく用いられる。
【0077】
Step 5では、第1のアダプター部分を標的とするプライマーと、第2のアダプター部分を標的とするプライマーと、共通配列を含むプライマーとを用いて、核酸増幅工程のうちの1st PCRを行なう。第1のアダプターを標的とするプライマー及び第2のアダプターを標的とするプライマーのセットにより、mRNAから合成されたcDNAが増幅される。第1のアダプターを標的とするプライマー及び共通配列を含むプライマーのセットにより、オリゴ核酸が増幅される。
【0078】
あるいは、Step 5において、cDNA中の所望の領域を標的とするプライマー(便宜的にプライマーXとする)をさらに組み合わせて用いてもよい。TCRレパトア解析との併用の場合には、プライマーXとして、TCR定常領域を標的とするプライマーを用いる。プライマーX及び第2のアダプターを標的とするプライマーのセットにより、TCR可変領域が増幅され、第1のアダプターを標的とするプライマー及び共通配列を含むプライマーのセットにより、オリゴ核酸から合成された相補鎖が増幅される。
【0079】
1st PCRにより得られた増幅産物は、磁気ビーズ等を用いてサイズ分画を行ない、増幅されたcDNAとオリゴ核酸を分離し、Step 6の2nd PCRにおいて、cDNAとオリゴ核酸を別個独立に増幅する。
【実施例
【0080】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0081】
1.SMART法と従来のTdT法の比較(図3
Nx1-seq法(WO 2015/166768 A1; Hashimoto et al. Scientific Reports 2017 Oct 27;7(1):14225. doi: 10.1038/s41598-017-14676-3.)により調製した、固相ビーズ上にトラップされたシングルセルトランスクリプトームライブラリーを、SMART法および従来のTdT法を用いて増幅した(ddNTPならびにExonuclease Iは非使用)。使用したプライマーの配列は下記表1に示す。
【0082】
上記ライブラリーの調製には、標的捕捉用核酸として、ユニバーサルアダプター部分、ビーズ識別バーコード部分及びポリT部分を有する核酸(LibA-BC-linker-UMI-dT27VN)を非磁気ビーズ上に固相化し、これらのビーズを1個ずつウェルに充填したマイクロウェルプレートを用いた。マウス肺単細胞懸濁液由来の細胞が、各ウェルの大半で1個または0個入るように細胞をロードし、それら個々の細胞由来のmRNA分子を標的核酸として1個のビーズ上に捕捉したものを、シングルセルトランスクリプトームライブラリーとして用いた。
【0083】
SMART法は、上記のmRNA捕捉ビーズを非特許文献4に記載の通りの手法にて逆転写反応液(Superscript II逆転写酵素, Betain, First-strand buffer, RNase Inhibitor, MgCl2, Biosg-LibB-TSO primerを含む)を調製し逆転写、cDNAの2本鎖化を行い、cDNAの両側に付加されたLibB/LibA配列に対するプライマー(Biosg-LibA-primer, Biosg-LibB-primer)を用いたPCRにて全cDNAを増幅した。
【0084】
従来のTdT法は、Superscript IVにて逆転写、RNaseHにてmRNAを分解、ビーズを洗浄後、dATPおよびCoCl2を用いてTdT反応を50秒実施した。EDTAを用いて反応を直ちに停止、熱でTdTを不活化、ビーズを洗浄後、第2鎖合成反応をLibB-dT25VN-primerを用いて1回のアニーリングにて行った。ビーズを洗浄後、SMART法と同様にcDNAの両側に付加されたLibB/LibA配列に対するプライマー(Biosg-LibA-primer, Biosg-LibB-primer)を用いたPCRにて全cDNAを増幅した。
【0085】
結果を図3に示す。従来のTdT法はSMART法と比較してより多くのcDNAが得られている一方、サイズの小さい領域に、mRNA捕捉用核酸由来の副産物の混入が認められる。
【0086】
【表1】
【0087】
2.Exonuclease I処理のTdT法への影響(図4
Nx1-seq法で用いる固相ビーズを、mRNAトラップ・cDNA合成を行わずに、Exonuclease Iで処置し、TdT反応を行い、副産物の生成パターンを比較した。Exonuclease I処理を行ったにも関わらず、副産物の量の低減が認められず、その長さは逆に長くなっていることが認められる(図4)。
【0088】
3.ddNTPのTdT法における副産物生成への影響(図5、6、7)
Dynabeads M270 streptavidin(Thermo Fisher Scientific)に標的(mRNA)捕捉用核酸としてBioEcoP-dT25-adapterを固相化した。このビーズを用いて、TdT反応における、ddNTPの副産物生成に対する抑制効果を検証した。第2鎖合成には5’WTA-dT25 primerまたは5’WTA-dG9 primerを用い、cDNA増幅は5’WTA primer/3’WTA primerを用いて実施した。TdT反応でdATPを用いる場合(ポリAテール付加)はddATPを、dCTPを用いる場合(ポリCテール付加)はddCTPを、ddNTP:dNTP=1:20~1:100の比率で添加し、TdT反応を20分実施した(添加比率は図中に記載)。TdT反応時間が過剰であっても、ddATP、ddCTPともに副産物の伸長が完全に抑制されることが認められた(図5、6)。また、ddCTPを用いた場合のTdT反応が5分と30分の場合を比較したところ、ddCTP未添加群は反応時間が5分の時点にて1kbpを超えるプライマー由来の副産物の生成が認められ、その長さは30分でさらに拡大したのに対し、ddCTP添加群は反応時間5分と30分の両者においてプライマー由来副産物の長さは100bp付近にとどまり、顕著な伸長は認められなかった(図7)。さらに、Co2+添加群のほうがMg2+添加群よりも効率よく第二鎖が合成されており、それら副産物はExo I処理でほぼ完全な消失が認められた(図7 lane 10)。
【0089】
プライマー由来副産物が過剰に伸長してしまうと、目的とするcDNA増幅産物とサイズが近くなることで副産物とcDNA増幅産物の分離が困難となり、その結果cDNA増幅が阻害されてしまうという問題が生じる。本実験で明らかになったように、ddNTP添加してTdT反応を行なうことで、酵素のロットの違いや実験者の手技の違い等によりTdT反応が過剰に実施された場合でもプライマー由来副産物の過剰な伸長が起こらないため、伸長した副産物によるcDNA増幅の阻害を防止することができる。
【0090】
【表2】
【0091】
4.ddNTP法によるcDNA増幅と、第2鎖合成反応における複数回アニーリングの影響(図8
上記3.で作製した標的捕捉用核酸を固相化したビーズを用いて、標的核酸であるmRNAを捕捉、逆転写し、ddNTP-TdT法(ddNTP共存下でTdT反応を行なう方法)によりcDNAを増幅した。ddNTP法としては、ポリAテールを付加するddATP法と、ポリCテールを付加するddCTP法を行なった。第2鎖合成反応時に、複数回プライマーアニーリング反応を行うことで、cDNAの収量がddATP法、ddCTP法の両者ともに増加することが見出された。その一方で、ddATP法の場合、わずかながらサイズの小さい、mRNA捕捉用核酸由来の副産物の生成が認められた。これより、収量を高く保ちつつ頑健にcDNAを増幅するためにはddATP法よりもddCTP法の方がより優れていることが確認された。一方で、1本鎖RNA分解酵素であるRNase Ifの反応系への添加は、わずかばかりcDNA量を減少させる影響が認められた。
【0092】
5.ddCTP法によるcDNA増幅と、Exonuclease Iの併用効果(図9
上記3.で作製した標的捕捉用核酸を固相化したビーズを用いて、標的核酸であるmRNAを捕捉、様々な条件にて逆転写した。逆転写後のビーズを半量にわけ、一方をExonuclease I処理に供した。その後ddCTP-TdT法により全cDNAを増幅した。その結果、Exonuclease I処理により、標的捕捉用核酸由来の副産物が減少するとともに、cDNA収量が2-4倍程度増加することが見出された。
【0093】
6.本発明を、固相磁性ビーズを用いたシングルセルトランスクリプトーム解析プラットフォームに適用した場合の効果
本発明の方法による、ビーズに固相化されたcDNAの頑健・高感度な増幅法は、固相ビーズを用いた包括的single-cell RNA-seq法、例えばDrop-seq法(非特許文献10、WO 2016/040476 A1)、Nx1-seq法(WO 2015/166768 A1; Hashimoto et al. Scientific Reports 2017 Oct 27;7(1):14225. doi: 10.1038/s41598-017-14676-3.)、Seq-well法(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5376227/)、BD Rhapsodyシステムなどや、ビーズ以外の固相担体としてスライドグラス上の固相オリゴを用いた空間トランスクリプトーム法(spatical transcriptomics社, https://spatialtranscriptomics.com/products/)など、プラットフォームを問わず固相担体を用いる系において広く適用可能である。シングルセルトランスクリプトーム解析における本発明の有用性を検証するため、一例として、BD Rhapsodyシステムに本増幅法を適用し、定常状態マウス肺、およびブレオマイシン傷害マウス肺(投与後3日目、7日目、10日目)の全細胞のシングルセルトランスクリプトーム解析を実施した。
【0094】
8週齢のマウス肺を還流後摘出し、カミソリで細切り後、Liberase TMおよびDNase Iを用いて酵素消化し、全肺の単細胞懸濁液を得た。死細胞・赤血球をPercollを用いた密度勾配遠心により除去し、フローサイトメーターで細胞をカウント、Rhapsodyの仕様書に従いマイクロウェルカートリッジに適切な密度で細胞・ビーズをロードし、細胞を溶解、各々1つの細胞由来mRNAを1つのビーズ上(mRNA捕捉用核酸として、Rhapsody universal adapterを含む)でトラップした(mRNA捕捉工程)。メーカー推奨の通りに逆転写反応を行ない(cDNA合成工程)、その後、Exonuclease I処理により、ビーズ上の未反応のmRNA捕捉用核酸を除去した(エキソヌクレアーゼ処理工程)。なお、ビーズ上に固相化されたRhapsody universal adapterは、下記の構造を有するDNAであり、CLS1(cell label section 1)~CLS3には、9塩基からなる各96種の既知固有配列、合計288種が採用されており、全体で約90万通りのビーズ識別バーコード部分を構成している。配列表の配列番号11には、CLS1~CLS3をNNNNNNNNNとして示す。
<Rhapsody universal adapterの構造>
ACACGACGCTCTTCCGATCT-(CLS1)-ACTGGCCTGCGA-(CLS2)-GGTAGCGGTGACA-(CLS3)-NNNNNNNNTTTTTTTTTTTTTTTTTT(配列番号11)
【0095】
Exonuclease I処理後、ビーズ半量(およそ3000-4000細胞分)を用い、本発明の増幅法に従い全cDNAを増幅した。mRNA分解工程とホモポリマー付加工程は、RNase HとTdTを反応液に添加して同時に進行させた。ホモポリマー付加工程では、Tris-HCl, (NH4)2SO4, KCl, K-phosphate, MgSO4, CoCl2, TritonX-100, glycerolを含む反応液中で、ddCTPをddCTP:dCTP=1:20~1:40の量で使用してTdT反応を行なうことにより、磁気ビーズ上のcDNA末端に長さが制限される形でポリCテールを付加した。ビーズを洗浄後、LibA-dG9プライマーおよび高正確性PCR酵素であるKAPA HiFi Hotstart Readymixを用い、第2鎖合成反応を実施した。アニーリング回数は16回行った。ビーズを洗浄後、NH2-LibAプライマーおよびNH2-universalプライマー、KAPA HiFi Hotstart Readymixを用いて1st PCRを行った。0.65倍濃度のAmPure XPビーズで2回精製後、NH2-LibAプライマーおよびNH2-universalプライマー、KAPA HiFi Hotstart Readymixを用いて2nd PCRを行った。DNA濃度およびサイズ分布をAgilent Bioanalyzerを用いて確認したところ、合計17 cycleのPCRにより、1-1.5kbをピークとするおよそ1 μgのcDNAが得られた(図10)。各ステップにおいて用いたプライマー配列は表3の通りである。得られたcDNAをNEBNext UltraII FSキットを用いて、キットのプロトコールに従い断片化、アダプター付加、PCRによるillumina用シーケンスアダプター・バーコードの付加を行いシーケンス解析用ライブラリーを構築した(図10)。得られたライブラリーをKAPA Library quantification kit for Illuminaを用いて定量、サイズ分布をAgilent Bioanalyzerを用いて確認し、Illumina Novaseq 6000にてシーケンスを実施した。シーケンス解析用ライブラリーの作成に用いたアダプター・プライマー配列は表4の通りである。
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
得られたシングルセルトランスクリプトームデータを、既存のSCT解析方法(Smart-Seq2法、及び10X Genomics社のChromiumシステム)による定常状態マウス肺細胞の解析データと比較した。既存の解析方法のデータは、Tabula Murisコンソーシアムのデータを利用した。その結果、シークエンスの量はSmart-seq2法の1/10であるにも関わらず、BD Rhapsodyと本発明のcDNA増幅法の組み合わせは、総検出遺伝子数、1細胞あたりの検出遺伝子数で、既存の2つの方法を上回ることが見出された(図11)。各シングルセルトランスクリプトームデータがどの程度の解像度にて細胞間の遺伝子発現差異を捉えているかを、Seuratソフトウェアにより検出されるhighly-variable gene(細胞ごとに大きく発現変動している遺伝子)の数にて評価したところ、BD Rhapsodyと本発明のcDNA増幅法の組み合わせは、既存の2つの方法を上回る解像度を有していることが見出された(図11)。さらに、ブレオマイシン傷害マウス肺を含んだ経時的(day0, day3, day7, day10)データのSeuratソフトウェアによる解析により、肺の様々な性質の異なる細胞集団が網羅的に同定され、その細胞集団それぞれ特異的に発現するマーカー遺伝子もまた同定された(図12)。これより、本発明の増幅法の、シングルセルトランスクリプトーム解析における有用性が示された。
【0099】
7.オリゴ核酸標識抗体を併用するシングルセルトランスクリプトーム解析における本発明の効果
オリゴ核酸標識抗体を併用するシングルセルトランスクリプトーム解析の1例として、colon26 マウス皮下移植腫瘍モデル由来のCD45陽性白血球の解析例を示す。オリゴ核酸標識抗体として、14種類の異なる1本鎖DNAで抗体(抗CD45抗体および抗MHC class I抗体の混合物:商品名Biolegend Totalseq Hashtag-A:https://www.biolegend.com/en-us/totalseq)が標識されたDNA標識抗体を用いた。標識DNAは、下記の構造を有するDNAであり、バーコード部分には15塩基からなる14種の既知固有配列が採用されている。配列表の配列番号25には、バーコード部分をNNNNNNNNNNNNNNNとして示す。被捕捉領域としてポリAを有するDNAであり、mRNAと同様に、ポリT部分を有する標的捕捉核酸によって捕捉することができる。
<Biolegend Hashtag Totalseq-Aの標識DNA構造>
GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCT-NNNNNNNNNNNNNNN-BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA*A*A(配列番号25)*はホスホロチオエート結合を示す。
【0100】
マウスより皮下腫瘍を摘出、Liberase TM及びDNase Iで酵素消化、単細胞懸濁液を調製後、CD45陽性細胞をマグネットビーズによる磁気分離(MACS)により分取した。得られた異なるマウス由来の14サンプルの各々を、14種類の異なる1本鎖DNAで標識された上記のDNA標識抗体で染色し、細胞をFACS bufferで洗浄した。抗体により標識された細胞を、フローサイトメーターで細胞をカウント後、等比率になるようにプールし、BD Rhapsodyシステムを用いて、Rhapsodyの仕様書に従いマイクロウェルカートリッジに適切な密度で細胞・ビーズをロードし、細胞を溶解、各々1つの細胞由来mRNA及び該細胞に結合した抗体に結合している標識1本鎖DNAを1つのビーズ上(標的捕捉用核酸として、Rhapsody universal adapterを含む)でトラップした(標的核酸捕捉工程)。メーカー推奨の通りに逆転写反応および抗体標識1本鎖DNAの相補鎖合成を行ない(相補鎖合成工程)、その後、Exonuclease I処理により、ビーズ上の未反応の標的捕捉用核酸を除去した(エキソヌクレアーゼ処理工程)。
【0101】
エキソヌクレアーゼ処理後、ビーズ半量(およそ9000-10000細胞分)を用い、本発明の増幅法に従い全cDNAを増幅した。mRNA分解工程とホモポリマー付加工程は、RNase HとTdTを反応液に添加して同時に進行させた。ホモポリマー付加工程では、Tris-HCl, (NH4)2SO4, KCl, K-phosphate, MgSO4, CoCl2, TritonX-100, glycerolを含む反応液中で、ddCTPをddCTP:dCTP=1:20~1:40の量で使用してTdT反応を行なうことにより、磁気ビーズ上のcDNA末端に長さが制限される形でポリCテールを付加した。
【0102】
ビーズを洗浄後、5’BDWTA-dG9プライマーおよび高正確性PCR酵素であるKAPA HiFi Hotstart Readymixを用い、第2鎖合成反応を実施した。アニーリング回数は16回行った。
【0103】
ビーズを洗浄後、NH2-5’BDWTAプライマー・NH2-universalプライマーおよびHashtag Commonプライマー、KAPA HiFi Hotstart Readymixを用いて1st PCRを行った。PCR反応液50μLに対しAmPure XPビーズ溶液32.5μLを添加(ビーズ濃度0.65倍)して混合し、ビーズをマグネットで回収して洗浄・溶出することにより、鎖長が400bp以上のcDNA画分を取得した。さらに上清に対して0.65倍濃度のAmPure XPビーズ溶液を添加(終濃度1.3倍)して同様に精製することで、鎖長が150bp~400bpの抗体標識DNA画分を取得した。精製後、cDNA画分はNH2-5’BDWTAプライマーおよびNH2-universalプライマー、KAPA HiFi Hotstart Readymixを用いて2nd PCRを行った。抗体標識DNA画分はHashtag commonプライマーおよびNH2-universalプライマー、KAPA HiFi Hotstart Readymixを用いて2nd PCRを行った。
【0104】
2nd PCR反応液のDNA濃度およびサイズ分布をAgilent Bioanalyzerを用いて確認したところ、cDNA画分は1kbpを中心とするスメアなバンドが得られ、また一定鎖長の抗体標識DNA画分はシングルピークのDNAが得られた(図13)。各ステップにおいて用いたプライマー配列は表5の通りである。得られたcDNAをNEBNext UltraII FSキットを用いて、キットのプロトコールに従い断片化、アダプター付加、PCRによるillumina用シーケンスアダプター・バーコードの付加を行いシーケンス解析用ライブラリーを構築した。DNA標識抗体に関しては、PCRによるillumina用シーケンスアダプター・バーコードの付加を行いシーケンス解析用ライブラリーを構築した。得られたライブラリーをKAPA Library quantification kit for Illuminaを用いて定量、サイズ分布をAgilent Bioanalyzerを用いて確認し、Illumina Novaseq 6000にてシーケンスを実施した。シーケンス解析用ライブラリーの作成に用いたアダプター・プライマー配列は表6の通りである。
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
得られたシングルセルトランスクリプトームデータを、各細胞の抗体標識DNA由来のタグカウントの多寡に基づきクラスタリングを実施したところ、各細胞の由来サンプルを抗体標識DNAの発現量に基づき分類可能であることが見出され、また得られた各細胞の細胞数はほぼ一定であった(図13)。また、DNA標識抗体由来のタグが2種類以上十分に検出された細胞がダブレットとして同定された(図13)。さらに、各サンプルにおける各細胞の検出遺伝子数をプロットしたところ、14サンプルがほぼ均一に遺伝子が検出されており、ダブレットサンプルはそれらよりも検出遺伝子数が多いことが見出された(図13)。これより、本発明の増幅法の、DNA標識抗体を併用することによる、複数サンプルの同時シングルセルトランスクリプトーム解析における有用性が示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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