(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】熱伝導性フィルム
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20240628BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240628BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20240628BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20240628BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H01L23/36 M
C08K3/013
C08L83/07
C08L91/06
C09K5/14 E
(21)【出願番号】P 2021157215
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】石原 靖久
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 絵美
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-203457(JP,A)
【文献】特開2013-86433(JP,A)
【文献】特開2010-18646(JP,A)
【文献】特開2017-61613(JP,A)
【文献】特開2004-75760(JP,A)
【文献】特開2001-291807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/373
C08K 3/013
C08L 83/07
C08L 91/06
C09K 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)または(2)
D
mT
φ
pD
Vi
n (1)
(式中、Dは(CH
3)
2SiO
2/2、T
φは(C
6H
5)SiO
3/2、D
Viは(CH
3)(CH
2=CH)SiO
2/2で示されるシロキサン単位であり、mは35~55の整数、nは30~60の整数、pは40~70の整数であって、かつ、(m+n)/m=1.0~4.0、(m+n)/p=0.25~4.0である。)
M
LD
xT
φ
qD
Vi
y (2)
(式中、Mは(CH
3)
3SiO
1/2であり、D、T
φ、D
Viは前記と同じであり、Lは10~30の整数、xは15~35の整数、yは40~60の整数、qは45~55の整数であって、かつ、L/(x+y)=0.001~0.4、(x+y)/x=1.0~4.0、(x+y)/q=0.25~4.0である。)
から選ばれる1種以上の25℃で非流動性を有するシリコーン樹脂:100質量部
(B)JIS K7121:2012に準拠して示差走査熱量測定装置で測定した融点が20~60℃であるワックス:5~300質量部
(C)熱伝導性充填材:(A)成分100質量部に対して1,000~6,000質量部
を含むものであることを特徴とする熱伝導性フィルム。
【請求項2】
前記(A)成分のJIS K2207:1996に準拠し、軟化点測定装置を用いて測定した軟化点が、30~65℃であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項3】
前記(B)成分のワックスが、パラフィンワックス、エステルワックス、シリコーンワックスから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項4】
前記(C)成分の熱伝導性充填材が、銀、アルミニウム、アルミナ、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、マグネシア、酸化亜鉛から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品の冷却に好適な熱伝導性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器等において電子部品の温度上昇を抑える方法として、熱伝導率の高い金属を用いたヒートシンクに直接伝熱する方法がある。このヒートシンクは、電子部品から発生する熱を伝導し、その熱を外気との温度差によって表面から放出する。電子部品から発生する熱をヒートシンクに効率よく伝えるために、ヒートシンクと電子部品を空隙なく密着させる必要がある。そのため、柔軟性を有する低硬度熱伝導性シートや熱伝導性グリースが電子部品とヒートシンクとの間に介装されている。
【0003】
しかし、低硬度熱伝導性シートは取扱い作業性には優れるが、厚さを薄くすることが難しい。また、電子部品やヒートシンク表面の微細な凹凸に追従できないので、接触熱抵抗が大きくなり、効率よく熱を伝えられないという問題がある。
【0004】
一方、熱伝導性グリースは厚さを薄くできるので、電子部品とヒートシンクの距離を小さくすることができ、さらに表面の微細な凹凸を埋めることで大幅に熱抵抗を低減できる。しかし、熱伝導性グリースは取扱い性が悪く周囲を汚染し、ヒートサイクルにより、グリース中のオイル分が分離(ポンピングアウト)して熱特性が低下する問題がある。
【0005】
近年、低硬度熱伝導性シートの取扱い性と、熱伝導性グリースの低熱抵抗性の両方の特性を有する熱伝導性部材として、熱軟化性材料が多数提案されている。これは、室温では取扱い性のよい固体状であり、電子部品から発生する熱により軟化または溶融することを特徴とする。
【0006】
特許文献1では、アクリル系感圧粘着剤とα-オレフィン系熱可塑剤と熱伝導性充填材からなる熱伝導性材料、あるいはパラフィン系蝋と熱伝導性充填材からなる熱伝導性材料が提案されている。特許文献2では、熱可塑性樹脂、ワックス、熱伝導性フィラーからなる熱伝導性組成物が提案されている。特許文献3では、アクリル等のポリマーと、炭素原子数12~16のアルコール、石油ワックス等の融点成分と熱伝導性充填材からなる熱仲介材料が提案されている。特許文献4では、ポリオレフィンと熱伝導性充填材からなる熱軟化性放熱シートが提案されている。
しかし、これらはいずれも有機物をベースとしたもので、高温での劣化が懸念される。
【0007】
一方、耐熱性、耐候性、難燃性に優れる材料として、シリコーンが知られており、シリコーンをベースにした同様の熱軟化性材料も多数提案されている。
【0008】
特許文献5では、熱可塑性シリコーン樹脂とワックス状変性シリコーン樹脂と熱伝導性フィラーからなる組成物が提案されている。特許文献6では、シリコーンゲル等のバインダ樹脂とワックスと熱伝導性充填材からなる熱伝導性シートが提案されている。特許文献7では、シリコーン等の高分子ゲルと、変性シリコーンやワックス等、加熱すると液体になる化合物と、熱伝導性フィラーとからなる熱軟化放熱シートが提案されている。
しかし、これらの実施例にある熱伝導性充填材の添加量では本願が規定するような高い熱伝導率を達成することは難しい。
【0009】
また、特許文献8では、シリコーン樹脂をベースに含まれる熱伝導性充填材の粒径や篩上分率を規定し、薄膜化を達成している。だが、実施例によると熱伝導率が5W/m・K程度であり、6W/m・K以上の高熱伝導領域ではフィルムの取り扱い性や柔軟性が困難になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2000-509209号公報
【文献】特開2000-336279号公報
【文献】特開2001-089756号公報
【文献】特開2002-121332号公報
【文献】特開2000-327917号公報
【文献】特開2001-291807号公報
【文献】特開2002-234952号公報
【文献】特開2007-059877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術では、高熱伝導領域ではフィルムの取り扱い性と柔軟性の両立が困難になるといった問題がある。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、熱伝導率が6W/m・Kを超えるような高熱伝導領域であっても、常温ではフィルム状で取り扱い性がよい上に、熱によって軟化する熱伝導性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、(A)下記式(1)または(2)
DmTφ
pDVi
n (1)
(式中、Dは(CH3)2SiO2/2、Tφは(C6H5)SiO3/2、DViは(CH3)(CH2=CH)SiO2/2で示されるシロキサン単位であり、mは35~55の整数、nは30~60の整数、pは40~70の整数であって、かつ、(m+n)/m=1.0~4.0、(m+n)/p=0.25~4.0である。)
MLDxTφ
qDVi
y (2)
(式中、Mは(CH3)3SiO1/2であり、D、Tφ、DViは前記と同じであり、Lは10~30の整数、xは15~35の整数、yは40~60の整数、qは45~55の整数であって、かつ、L/(x+y)=0.001~0.4、(x+y)/x=1.0~4.0、(x+y)/q=0.25~4.0である。)
から選ばれる1種以上の25℃で非流動性を有するシリコーン樹脂:100質量部
(B)JIS K7121:2012に準拠して示差走査熱量測定装置で測定した融点が20~60℃であるワックス:5~300質量部
(C)熱伝導性充填材:(A)成分100質量部に対して1,000~6,000質量部
を含むものであることを特徴とする熱伝導性フィルムを提供する。
【0013】
このような本発明の熱伝導性フィルムであれば、熱伝導率が6W/m・Kを超えるような高熱伝導領域で、常温ではフィルム状で取り扱い性がよい上に、熱によって軟化して電子部品やヒートシンク表面の微細な凹凸に追従でき、接触熱抵抗が小さくなり、効率よく熱を伝えることができる。
【0014】
この場合、前記(A)成分のJIS K2207:1996に準拠し、軟化点測定装置を用いて測定した軟化点が、30~65℃であることが好ましい。
【0015】
このような本発明の熱伝導性フィルムであれば、フィルム状に成型したときに、常温における柔軟性に優れ、取り扱い性が容易であり、形状維持性が良好で、取り扱い性にも優れる。
【0016】
また、前記(B)成分のワックスが、パラフィンワックス、エステルワックス、シリコーンワックスから選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0017】
このようなワックスを含む熱伝導性フィルムは、耐熱性が良好なものとなる。
【0018】
そして、本発明の熱伝導性フィルムは、前記(C)成分の熱伝導性充填材が、銀、アルミニウム、アルミナ、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、マグネシア、酸化亜鉛から選ばれる1種以上であるものが好ましい。
【0019】
本発明では、このような熱伝導性充填材を好適に含むことができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の熱伝導性フィルムであれば、熱伝導率が6W/m・Kを超えるような高熱伝導領域であっても、常温ではフィルム状で取り扱い性がよい上に、熱によって軟化することができる。
また、本発明の熱伝導性フィルムは、熱によって軟化するため発熱素子および冷却部材の微細な凹凸に追従し、かつ、厚さを薄くすることができ、良好な放熱性能を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述のように、高熱伝導領域であってもフィルムの取り扱い性と柔軟性を両立することができる熱伝導性フィルムの開発が求められていた。
【0022】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、特定のシロキサン単位を有する非流動性のシリコーン樹脂と、特定範囲の融点を有するワックスと、熱伝導性充填材を特定の割合で含む熱伝導性フィルムであれば、高熱伝導領域であっても取り扱い性と柔軟性を両立することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
即ち、本発明は、(A)下記式(1)または(2)
DmTφ
pDVi
n (1)
(式中、Dは(CH3)2SiO2/2、Tφは(C6H5)SiO3/2、DViは(CH3)(CH2=CH)SiO2/2で示されるシロキサン単位であり、mは35~55の整数、nは30~60の整数、pは40~70の整数であって、かつ、(m+n)/m=1.0~4.0、(m+n)/p=0.25~4.0である。)
MLDxTφ
qDVi
y (2)
(式中、Mは(CH3)3SiO1/2であり、D、Tφ、DViは前記と同じであり、Lは10~30の整数、xは15~35の整数、yは40~60の整数、qは45~55の整数であって、かつ、L/(x+y)=0.001~0.4、(x+y)/x=1.0~4.0、(x+y)/q=0.25~4.0である。)
から選ばれる1種以上の25℃で非流動性を有するシリコーン樹脂:100質量部
(B)JIS K7121:2012に準拠して示差走査熱量測定装置で測定した融点が20~60℃であるワックス:5~300質量部
(C)熱伝導性充填材:(A)成分100質量部に対して1,000~6,000質量部
を含むものであることを特徴とする熱伝導性フィルムである。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の熱伝導性フィルムは、特定のシロキサン単位を有する非流動性のシリコーン樹脂の(A)成分、特定の融点を有するワックスの(B)成分、及び熱伝導性充填材の(C)成分を含むものであることを特徴とする。これら必須成分の他に、任意成分を含んでもよい。以下、熱伝導性フィルムを構成する成分について説明する。
【0026】
[(A)非流動性のシリコーン樹脂]
本発明の(A)成分は、25℃で非流動性を有するシリコーン樹脂であり、本発明の熱伝導性フィルム(放熱部材)のマトリックスを形成する。(A)成分は、放熱部材が熱軟化を起こす因子の一つであり、放熱部材に熱伝導性を付与する充填材に加工性や作業性をあたえるバインダとしての役割も果たす。(A)成分としては、一定温度以上、発熱性電子部品の発熱による最高到達温度以下の温度範囲において、熱軟化、低粘度化または融解して流動化するものであることが好ましい。
【0027】
具体的には、本発明の(A)成分は、下記式(1)または(2)
DmTφ
pDVi
n (1)
(式中、Dは(CH3)2SiO2/2、Tφは(C6H5)SiO3/2、DViは(CH3)(CH2=CH)SiO2/2で示されるシロキサン単位であり、mは35~55の整数、nは30~60の整数、pは40~70の整数であって、かつ、(m+n)/m=1.0~4.0、(m+n)/p=0.25~4.0である。)
MLDxTφ
qDVi
y (2)
(式中、Mは(CH3)3SiO1/2であり、D、Tφ、DViは前記と同じであり、Lは10~30の整数、xは15~35の整数、yは40~60の整数、qは45~55の整数であって、かつ、L/(x+y)=0.001~0.4、(x+y)/x=1.0~4.0、(x+y)/q=0.25~4.0である。)
から選ばれる1種以上の25℃で非流動性を有するシリコーン樹脂である。
【0028】
ここで、「非流動性」とは、流動性を持たない状態を言い、より具体的には、静置した状態で形状の変化が起こらないか、例えば8時間程度の長時間経過しても形状を保持できている状態をいう。
【0029】
また、前記(A)成分の軟化点は、好ましくは、30~65℃であり、より好ましくは45~60℃である。軟化点が65℃以下であれば、フィルム状に成型したときに、常温における柔軟性に優れ、取り扱い性が容易である。また、軟化点が30℃以上であると、フィルム状に成型した時の常温における形状維持性が良好であり取り扱い性にも優れる。
【0030】
なお、本発明において軟化点は、JIS K2207:1996に準拠して軟化点測定装置(第一理化株式会社製)を用いて測定した値を指すものとする。(A)成分が複数のシリコーン樹脂からなる場合は、その軟化点は混合物について測定した値を指すものとする。
【0031】
式(1)(DmTφ
pDVi
n)で表されるシリコーン樹脂は、2官能性構造単位(D単位)及び3官能性構造単位(T単位)を特定組成で有する非流動性シリコーン樹脂である。式(1)において、Dは(CH3)2SiO2/2、Tφは(C6H5)SiO3/2、DViは(CH3)(CH2=CH)SiO2/2で示されるシロキサン単位である。mは35~55の整数であり、35~45が好ましく、nは30~60の整数であり、30~50が好ましく、pは40~70の整数であり、40~60が好ましい。
【0032】
前記式(1)において、(m+n)/pのモル比は、0.25~4.0であり、0.8~3.0が好ましい。また、(m+n)/mのモル比は、1.0~4.0であり、1.0~3.0が好ましい。
【0033】
式(1)で表される25℃で非流動性のシリコーン樹脂としては、以下のものを例示することができる。
D45Tφ
55DVi
55
D40Tφ
40DVi
40
【0034】
式(2)(MLDxTφ
qDVi
y)で表されるシリコーン樹脂は、1官能性構造単位(M単位)、2官能性構造単位(D単位)及び3官能性構造単位(T単位)を特定組成で有する非流動性シリコーン樹脂である。式(2)において、Mは(CH3)3SiO1/2であり、D、Tφ、DViは前記と同じであり、Lは10~30の整数で、好ましくは10~20であり、xは15~35の整数であり、15~25が好ましく、yは40~60の整数であり、40~50が好ましく、qは45~55の整数であり、45~50が好ましい。
【0035】
前記式(2)において、(x+y)/qのモル比は0.25~4.0であり、0.8~3.0が好ましい。また、(x+y)/xのモル比は、1.0~4.0であり、1.0~3.0が好ましい。さらに、L/(x+y)のモル比は、0.001~0.4であり、0.1~0.4が好ましい。
【0036】
式(2)で表される25℃で非流動性のシリコーン樹脂としては、以下のものを例示することができる。
M20D25Tφ
55DVi
50
M15D20Tφ
45DVi
40
【0037】
(A)成分が上記式(1)または式(2)で示されるシリコーン樹脂以外(例えば、M単位とQ単位からなるMQレジン)であると、熱伝導性フィルムは柔軟性に乏しく、取り扱い性が悪くなる
【0038】
また、本発明の(A)成分は前記式(1)または式(2)で示されるシリコーン樹脂をそれぞれ単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0039】
[(B)ワックス]
本発明の(B)成分は、融点が20~60℃であるワックスである。前記融点は、好ましくは20~40℃である。融点が60℃を超えると、フィルム状に成型した時に常温における柔軟性に欠け、取り扱いが困難になる。また、融点が20℃未満であると、フィルム状に成型した時に常温における形状維持性に欠け、取り扱いが困難になる。
【0040】
(B)成分は、融点が20~60℃のワックスであれば特に限定されないが、本発明の熱伝導性フィルムの耐熱性を考慮すると、前記ワックスとしては、パラフィンワックス、エステルワックス、シリコーンワックスから選ばれる1種以上であることが好ましく、2種以上の混合物や組み合わせ(共重合体など)とすることもできる。このようなワックスとしては、シリコーンワックスがより好ましく、アクリルポリマーとポリシロキサンとのグラフト共重合体ワックスが更に好ましい。
【0041】
例えば、パラフィンワックスとしては、パラフィンワックス115、パラフィンワックス120、パラフィンワックス125、パラフィンワックス130、パラフィンワックス135(以上、日本精蝋株式会社製)など、エステルワックスとしては、炭素数6以上のカルボン酸とアルコールのエステル、炭素数6以上のモノカルボン酸と多価アルコールのエステル、炭素数6以上の多価カルボン酸と炭素数6以上のモノアルコールのエステルなど、シリコーンワックスとしては、アルキル変性シリコーンワックス、アクリルポリマーとポリシロキサンとのグラフト共重合体ワックスなどが挙げられ、アクリルポリマーとポリシロキサンとのグラフト共重合体ワックスとしては、KP-561P(ステアリル変性アクリレートシリコーン、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0042】
なお、本発明において融点は、JIS K7121:2012に準拠して示差走査熱量測定装置で測定した値を指すものとする。
【0043】
(B)成分は(A)成分100質量部に対して5~300質量部であり、10~200質量部が好ましく、より好ましくは10~100質量部である。5質量部より少ないと、フィルム状に成型した時に常温における柔軟性に欠け、生産性、取り扱い性が困難になる。また300質量部を超えると、フィルム状に成型した時に常温における形状維持性に欠け、取り扱いが困難になる。
【0044】
[(C)熱伝導性充填材]
本発明の(C)成分は、熱伝導性充填材である。具体的には、非磁性の銅やアルミニウム等の金属、アルミナ、シリカ、マグネシア、ベンガラ、ベリリア、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化硼素等の金属窒化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、人工ダイヤモンドあるいは炭化珪素等が挙げられる。中でも、銀、アルミニウム、アルミナ、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、マグネシア、酸化亜鉛が好ましい。また、前記熱伝導性充填材の平均粒径は0.1~200μmが好ましく、1種単独でも、2種以上を複合して用いても良い。2種以上を複合して用いる場合、異種の熱伝導性充填材を複合してもよく、同種で平均粒径の異なる熱伝導性充填材を複合してもよい。
【0045】
また、熱伝導性充填材の形状は、球状や擬球状、破砕状、鱗片状、繊維状など様々な形状が存在するが特に限定されるものではない。
【0046】
もちろん熱伝導性充填材の粒径や篩上分率を規定して、圧着後の熱伝導性フィルムの厚さを制御してもよい。
【0047】
上記平均粒径は、マイクロトラック・ベル(株)製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXを用い、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)により測定した体積基準の累積平均粒径(メディアン径)の値である。
【0048】
熱伝導性充填材は(A)成分100質量部に対して、1,000~6,000質量部であり、1,000~4,000質量部が好ましい。より好ましくは1,000~3,000質量部である。1,000質量部より少ないと十分な熱伝導率を発揮できない。また6,000質量部を超えると充填自体が困難になる。
【0049】
[その他添加剤]
(A)、(B)、(C)の必須成分の他に、難燃付与剤、潤滑剤、耐熱向上剤、可塑剤、シランカップリング剤等の表面処理剤などの添加剤を目的に応じて添加してもよい。
【0050】
[熱伝導性フィルム]
本発明の熱伝導性フィルムは、上記(A)~(C)成分を含み、低硬度熱伝導性シートの取扱い性と、熱伝導性グリースの低熱抵抗性の両方の特性を有する熱伝導性部材であり、室温では取扱い性のよい固体状であり、電子部品から発生する熱により軟化するという特徴を有する。
そしてこの特徴により、従来技術の問題、即ち、低硬度熱伝導性シートにおける、取扱い作業性には優れるが、厚さを薄くすることが難しく、電子部品やヒートシンク表面の微細な凹凸に追従できないので、接触熱抵抗が大きくなり、効率よく熱を伝えられないという問題を解消するものである。
【0051】
[熱伝導性フィルムの製造方法]
本発明の熱伝導性フィルムの製造方法は特に限定されず、公知の方法によればよい。例えば、本発明の熱伝導性フィルムを与える熱軟化性熱伝導性組成物は、上記の各成分をドウミキサー(ニーダー)、ゲートミキサー、プラネタリーミキサーなどのゴム練機を用いて配合および混練することによって、容易に製造できる。
次いで上記熱軟化性熱伝導性組成物をフィルム状に成形する。ここで、フィルム状とは、シート状、テープ状を包含する意味で用いられる。フィルム状に成形する方法としては、例えば、上記混練り後の組成物を押し出し成型、カレンダー成型、ロール成型、プレス成型等の方法で成形する方法、溶剤に溶解させた該組成物を塗工する方法等が挙げられる。
【0052】
このようにして製造される熱伝導性フィルムの厚さは、好ましくは20~200μm、より好ましくは20~100μm、特に好ましくは30~80μmである。該厚さがこの範囲内にあると、取扱い性および放熱性能を良好に維持しやすい。
【0053】
本発明の熱伝導性フィルムは、以下のようにして製造することができる。
(A)シリコーン樹脂や(B)ワックス、(C)熱伝導性充填材などの成分をプラネタリーミキサーまたはニーダーのような混錬装置を用い、熱伝導性組成物を調製する。熱伝導性組成物にトルエンまたはキシレンなどの有機溶剤を添加しさらに混錬し塗工液を調製し、離型フィルム上に塗工する。(A)成分は上記有機溶剤に予め溶解して所定の不揮発分を含む溶液としてもよい。塗工方法はバーコート、スピンコートなどで塗工した後に、有機溶剤を揮発させることで、目的の熱伝導性フィルムを得る。
【0054】
[熱伝導率]
前記熱伝導性フィルムの熱伝導率は6W/m・K以上が好ましい。より好ましくは7W/m・Kである。6W/m・K以上の熱伝導率であれば、近年増加傾向にある放熱性の要求に対応することができるので好ましい。
【0055】
熱伝導率は、以下のようにして求めることができる。
二枚の円板状の標準アルミニウムプレート(純度:99.99%、直径:約12.7mm、厚み:約1.0mm)に上で作製した熱伝導性フィルムを挟み、圧力と温度を掛けて圧着し、次に、二枚の標準アルミニウムプレートごと厚みを測定し、予め分かっている標準アルミニウムプレートの厚みを差し引くことによって、圧着後の熱伝導性フィルムの厚みを測定する。なお、厚さ測定には、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、型式番号:M820-25VA)を用いることができる。また、上記の標準アルミプレートに挟まれた状態での熱抵抗をマイクロフラッシュ測定機(ネッチゲレイテバウ社製)を用いて測定し、アルミプレート分の熱抵抗を差し引くことで熱伝導性フィルムの熱抵抗を算出することがきる。そして事前に測定した熱伝導性フィルム厚みを熱抵抗で割ることで熱伝導性フィルムの熱伝導率を算出する。
【0056】
以上のように、本発明の熱伝導性フィルムであれば、熱伝導率が6W/m・Kを超えるような高熱伝導領域であるにもかかわらず、常温ではフィルム状で取り扱い性がよい上に、熱によって軟化することができ、発熱素子および冷却部材の微細な凹凸に追従し、かつ、厚さを薄くすることができ、接触熱抵抗が小さく、効率よく熱を伝えることから良好な放熱性能を発揮することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下に示す動粘度は、JIS Z8803:2011に記載の方法で測定した25℃におけるキャノンフェンスケ型粘度計による測定値であり、また、不揮発分とは、6cmΦのアルミシャーレに試料10gを精秤し、150℃×3時間加熱した前後の質量から下記式によって計算した値である。
不揮発分(%)=[1-{(加熱前の秤量値(g)-加熱後の秤量値(g))/加熱前の秤量値(g)}]/100
【0058】
以下に示す平均粒径は、マイクロトラック・ベル(株)製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXを用い、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)により測定した体積基準の累積平均粒径(メディアン径)の値である。また、以下に示す融点は、JIS K7121:2012に準拠して示差走査熱量測定装置で測定した値である。
【0059】
[(A)非流動性のシリコーン樹脂]
(A-1)
DmTφ
pDVi
n (1)
m=45、n=55、p=55
軟化点;50℃
のトルエン溶液(不揮発分85%:動粘度500mm2/s)
(A-2)
MLDxTφ
qDVi
y (2)
L=20、x=25、y=50、q=55
軟化点;60℃
のトルエン溶液(不揮発分85%:動粘度700mm2/s)
(A-3)
M単位とQ単位のみからなるシリコーンレジン(M/Qモル比は1.15)のトルエン溶液(不揮発分70%:動粘度30mm2/s)
軟化点;120℃以上
【0060】
[(B)ワックス]
(B-1)
KP-561P(ステアリル変性アクリレートシリコーン、信越化学工業株式会社製)
融点;30℃
(B-2)
パラフィンワックス115(日本精蝋株式会社製)
融点;48℃
(B-3)
パラフィンワックス155(日本精蝋株式会社製)
融点;70℃
【0061】
[(C)熱伝導性充填材]
(C-1)平均粒径10μm 球状アルミニウム粉
(C-2)平均粒径1μm 球状アルミニウム粉
(C-3)平均粒径0.5μm 酸化亜鉛粉
(C-4)平均粒径45μm 球状アルミナ粉
(C-5)平均粒径10μm 球状アルミナ粉
(C-6)平均粒径1μm 破砕状アルミナ粉
【0062】
[その他添加剤]
(D)KBM-3103(3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製)
(E)KF-54(メチルフェニルシリコーンオイル、信越化学工業株式会社製)
【0063】
[実施例1-8、比較例1-4]
以下のようにして熱伝導性組成物を調製し、実施例1-8、比較例1-4の熱伝導性フィルムを得た。得られた熱伝導性フィルムそれぞれについて下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
[調製方法]
上記成分を表1に記載された割合でプラネタリーミキサーに仕込み、攪拌し均一化させ、熱伝導性組成物を得た。そこに希釈後の粘度が1,000~5,000Pa・sの間になるように適量トルエンを添加し、さらに攪拌し均一化させ、塗工液を得た。
上記塗工液をフッ素離型フィルム上にコンマコーターで塗工し、80℃/15分続いて100℃/10分で含まれている溶剤を揮発させて、熱伝導性フィルムを得た。さらに熱伝導性フィルム上にフッ素離型フィルムをラミネーター装置を用いて80℃/0.3MPa/1m/minの条件で熱圧着させた。
フッ素離型フィルムを差し引いて、フィルムの厚さが250μmとなるように熱伝導性フィルムを成型した。
なお、上記希釈後の粘度(絶対粘度)は、JIS K7117-1:1999に記載の方法に準拠して回転粘度計により測定した25℃における値である。
【0065】
[評価方法]
(熱伝導率)
二枚の円板状の標準アルミニウムプレート(純度:99.99%、直径:約12.7mm、厚さ:約1.0mm)に上で作製した熱伝導性フィルムを挟み、圧力と温度を掛けて圧着し、次に、二枚の標準アルミニウムプレートごと厚さを測定し、予め分かっている標準アルミニウムプレートの厚さを差し引くことによって、圧着後の熱伝導性フィルムの厚さを測定した。なお、厚さ測定には、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、型式番号:M820-25VA)を用いた。また、上記の標準アルミプレートに挟まれた状態での熱抵抗をマイクロフラッシュ測定機(ネッチゲレイテバウ社製)で測定し、アルミプレート分の熱抵抗を差し引くことで熱伝導性フィルムの熱抵抗を算出した。そして事前に測定した熱伝導性フィルム厚さを熱抵抗で割ることで熱伝導性フィルムの熱伝導率を算出した。
【0066】
(取り扱い性)
得られた熱伝導性フィルムを20×50mmの形状に切り出し、片面のフッ素離型フィルム剥がし、アルミプレートに2kgfゴムローラーを500mm/sの速度で2回押し当てた後に、熱伝導性フィルムがアルミプレートに密着し且つ、残った反対面のフッ素離型フィルムを剥がすことができるかどうか評価した。
【0067】
【0068】
上記表中の(A)成分の量は、各ポリマー溶液中のポリマー純分の量である。
比較例1-3は、フィルムの熱伝導率測定ができなかった。
比較例4は、フィルム成型ができず、熱伝導率と取り扱い性の評価をしていない。
【0069】
表1から明らかなように、本発明の熱伝導性フィルム(実施例1-8)であれば、熱伝導率が6W/m・Kを超えることができ、このような高熱伝導領域であっても、常温ではフィルム状で取り扱い性がよい上に、熱によって軟化する。特に、(C)熱伝導性充填材が(A)成分100質量部に対して1,100~1,300質量部程度の少ない量であっても7W/m・Kを超える熱伝導性を達成することができ(実施例4,5)、6,000質量部近くの高充填であっても良好な取り扱い性を維持したまま10W/m・Kを超える高熱伝導性を達成することができる(実施例7)。
【0070】
一方、比較例1のように(B)成分が過剰に添加された場合、フィルム形状に成型できるものの、形状維持性に乏しく、取り扱い性が不合格となり、熱伝導率の評価も困難であった。比較例2のように(A)成分が前記式(1)または(2)以外のものを用いると、フィルム形状に成型はできるものの、柔軟性に乏しく、取り扱い性が不合格となり、熱伝導率の測定も困難であった。比較例3のように(B)成分の融点が60℃を超えると、フィルム状に成型はできるものの柔軟性に乏しく、取り扱い性が不合格となり、熱伝導率の測定も困難であった。比較例4のように熱伝導性充填材の充填量が6,000質量部を超えると、そもそも充填が困難でフィルム成型に至らなかった。
【0071】
以上述べてきたように、本発明の熱伝導性フィルムは、25℃では非流動性のシリコーン樹脂と融点が20℃~60℃にあるワックスをポリマー成分として、熱伝導性充填材を充填し、熱伝導率が6W/m・K以上であるにも関わらず、取り扱い性に優れる。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。