(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ヒドロキシビオチン誘導体及びビニルビオチン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 495/04 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
C07D495/04 103
(21)【出願番号】P 2024509140
(86)(22)【出願日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2023036919
【審査請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2022164625
(32)【優先日】2022-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】森 博志
(72)【発明者】
【氏名】林 達
(72)【発明者】
【氏名】松浦 圭介
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-191665(JP,A)
【文献】特開2022-22594(JP,A)
【文献】国際公開第2022/202982(WO,A1)
【文献】HUANG, Jian et al.,Total synthesis of (+)-biotin via a quinine-mediated asymmetric alcoholysis of meso-cyclic anhydride,Tetrahedron: Asymmetry,2008年,19巻,1436-1443頁
【文献】LEE, H.L. et al.,SYNTHESIS OF D-BIOTIN FROM CYSTEINE,Tetrahedron,1987年,vol.43,4887-4903頁
【文献】瀧本 真徳,亜鉛を用いる有機合成反応,化学と教育,62巻,2014年,136-139頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/04
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅触媒存在下、下記式(1)で表されるチオラクトン誘導体と下記式(2)で表される亜鉛試薬とを接触させて、下記式(3)で表されるヒドロキシビオチン誘導体を得る工程を含む、ヒドロキシビオチン誘導体の製造方法:
【化1】
式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、
【化2】
式(2)において、
Xは、臭素原子又は塩素原子であり、
R
3は、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基であり、
R
4は、-C(=O)OR
5で表される1価の基又はシアノ基であり、
R
5は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、
【化3】
式(3)において、R
1及びR
2は、前記式(1)と同義であり、R
3及びR
4は、前記式(2)と同義である。
【請求項2】
25℃における比誘電率が15以上の極性溶媒を含む溶媒中、前記式(1)で表されるチオラクトン誘導体と前記式(2)で表される亜鉛試薬とを接触させることを特徴とする、請求項1に記載のヒドロキシビオチン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒における前記極性溶媒の容量比率が15%以上であることを特徴とする、請求項2に記載のヒドロキシビオチン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記極性溶媒が、N,N-ジメチルアセトアミドである、請求項2又は3に記載のヒドロキシビオチン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記式(1)で表されるチオラクトン誘導体及び前記銅触媒を前記溶媒中に分散させた後に前記式(2)で表される亜鉛試薬をさらに混合する、又は、前記式(1)で表されるチオラクトン誘導体及び前記式(2)で表される亜鉛試薬を前記溶媒に分散させた後に前記銅触媒をさらに混合することを特徴とする、請求項2又は3に記載のヒドロキシビオチン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記銅触媒が、1価の銅化合物である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のヒドロキシビオチン誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記1価の銅化合物が、ハロゲン原子を含有する銅ハロゲン化物である、請求項6に記載のヒドロキシビオチン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記式(1)で表されるチオラクトン誘導体1モルに対して、前記銅触媒を0.01モル以上10モル以下使用することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のヒドロキシビオチン誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記式(1)で表されるチオラクトン誘導体1モルに対して、前記式(2)で表される亜鉛試薬を1.0モル以上2.0モル以下使用することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のヒドロキシビオチン誘導体の製造方法。
【請求項10】
前記式(1)で表されるチオラクトン誘導体と前記式(2)で表される亜鉛試薬とを、-10℃以上50℃以下の温度範囲で接触させることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のヒドロキシビオチン誘導体の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法により前記式(3)で表されるヒドロキシビオチン誘導体を製造した後、得られたヒドロキシビオチン誘導体を脱水することにより、下記式(4)で表されるビニルビオチン誘導体を得ることを含む、ビニルビオチン誘導体の製造方法:
【化4】
式(4)において、R
1及びR
2は、前記式(1)と同義であり、R
3及びR
4は、前記式(2)と同義である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビオチンの合成中間体として有用なヒドロキシビオチン誘導体及びビニルビオチン誘導体の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビオチンは、種々の医薬品、食品添加物、飼料添加剤等に用いられる有用な化合物である。ビオチンは、以下のような製造方法で合成されている。
【0003】
【0004】
すなわち、先ず、前記式(1A)で示される(3aS,6aR)-1,3-ジベンジルテトラヒドロ-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-2,4-ジオン(以下、単に「チオラクトン誘導体」とする場合もある)と前記式(2A)で示される(5-エトキシ-5-オキソペンチル)ジンクハライド(以下、単に「亜鉛試薬」とする場合もある)とをカップリング反応に付することで、前記式(3A)で示されるエチル 5-[(3aS,6aR)-1,3-ジベンジル-4-ヒドロキシ-2-オキソヘキサヒドロ-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-4-イル]ペンタノエート(以下、単に「ヒドロキシビオチン誘導体」とする場合もある)を製造する。なお、前記式(2A)において、Xは、ハロゲン原子である。次いで、該ヒドロキシビオチン誘導体を脱水し、前記式(4A)で示されるエチル 5-[(3aS,6aR)-1,3-ジベンジル-2-オキソヘキサヒドロ-4H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-4-イリジン]ペンタノエート(以下、単に「ビニルビオチン誘導体」とする場合もある)へと誘導する。その後、還元、脱保護、加水分解の各反応を経て、ビオチンを製造する。
【0005】
当該製造方法において、ヒドロキシビオチン誘導体はビオチンの重要な合成中間体であり、その合成法に関する研究が多くなされている。
【0006】
例えば、非特許文献1には、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド触媒存在下、チオラクトン誘導体とXがヨウ素で構成される亜鉛試薬とを反応させることでヒドロキシビオチン誘導体を合成する方法が記載されている。しかしながら、当該製造方法においては、亜鉛試薬として高価なヨウ素を含む試薬が必要であり、且つ、金属触媒として高価なパラジウムが必要であることからコスト面で改善の余地があった。
【0007】
そのため、高価なヨウ素を含む亜鉛試薬の使用を回避した製法に関する研究も活発に行われている。非特許文献2、3には、パラジウム触媒存在下、チオラクトン誘導体とXが臭素で構成される亜鉛試薬とを反応させることでヒドロキシビオチン誘導体を合成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Tetrahedron Letters 41,2000,5099-5101
【文献】Advanced Synthesis and Catalysis2008,350,1635-1641
【文献】Tetrahedron Asymmetry 21,2010,665-669
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献2及び3に係る従来技術において、Xが臭素で構成される亜鉛試薬を用いたヒドロキシビオチン誘導体の製造では、以下の点で改善の余地があることが分かった。
【0010】
非特許文献3では、パラジウム炭素触媒存在下、30℃で30時間反応を行うことでヒドロキシビオチン誘導体を製造する方法が記載されている。しかしながら、当該製法においてはチオラクトン誘導体に対して2.8当量の亜鉛試薬を用いているにも関わらず、反応後のヒドロキシビオチン誘導体の収率は75%と低い値であった。
【0011】
これに対して、非特許文献2では、2.0当量の亜鉛試薬を用いて、35℃で10時間反応することにより、収率85%でヒドロキシビオチン誘導体が得られることが記載されている。しかしながら、本反応においては独自に調製した特殊なナノパラジウム触媒が必要であり、工業的に利用するには課題が多くあった。また、非特許文献2、3に記載の方法ではいずれも高価なパラジウムが必要であり、より安価な金属触媒を用いた反応の開発が望まれていた。
【0012】
したがって、本発明の目的は、安価な金属触媒を用いて、チオラクトン誘導体とヨウ素以外のハロゲン原子(例えば、臭素)を含む亜鉛試薬とのカップリング反応を円滑に行うことにある。加えて、高効率にヒドロキシビオチン誘導体及びビニルビオチン誘導体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、驚くべきことに、銅触媒存在下、チオラクトン誘導体と亜鉛試薬とを接触させることで、高い転化率でヒドロキシビオチン誘導体を合成できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第一態様は、銅触媒存在下、下記式(1)で表されるチオラクトン誘導体と下記式(2)で表される亜鉛試薬とを接触させて、下記式(3)で表されるヒドロキシビオチン誘導体を得る工程を含む、ヒドロキシビオチン誘導体の製造方法に関する:
【0015】
【0016】
式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、
【0017】
【0018】
式(2)において、Xは、臭素原子又は塩素原子であり、R3は、置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基であり、R4は、-C(=O)OR5で表される1価の基又はシアノ基であり、R5は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、
【0019】
【0020】
式(3)において、R1及びR2は、前記式(1)と同義であり、R3及びR4は、前記式(2)と同義である。
【0021】
本発明の第二態様は、本発明の第一態様に係る方法により前記式(3)で表されるヒドロキシビオチン誘導体を製造した後、得られたヒドロキシビオチン誘導体を脱水することにより、下記式(4)で表されるビニルビオチン誘導体を得る工程を含む、ビニルビオチン誘導体の製造方法に関する:
【0022】
【0023】
式(4)において、R1及びR2は、前記式(1)と同義であり、R3及びR4は、前記式(2)と同義である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第一態様に係る方法によれば、より安価な金属である銅触媒を用いて高い転化率でヒドロキシビオチン誘導体を製造することができる。本発明の第二態様に係る方法によれば、本発明の第一態様に係る方法によりヒドロキシビオチン誘導体を製造した後、得られたヒドロキシビオチン誘導体の脱水処理を行うことで簡便且つ効率的にビニルビオチン誘導体へと変換することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
≪本発明の第一態様≫
本発明の第一態様は、銅触媒存在下、チオラクトン誘導体と亜鉛試薬とを接触させて、ヒドロキシビオチン誘導体を製造する方法に関する。
【0026】
以下、順を追って本発明の第一態様の一実施形態(以下、「本実施形態」ともいう)の詳細について説明する。
【0027】
<チオラクトン誘導体>
本実施形態において、使用するチオラクトン誘導体は、下記式(1)で示される化合物である。
【0028】
【0029】
前記式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基である。R1及びR2は、互いに同一の官能基であってもよく、互いに異なる種類の官能基であってもよい。
【0030】
(R1及びR2)
以下、R1又はR2がそれぞれ独立してアルキル基である場合について説明する。
アルキル基は、直鎖状、分岐状のどちらであってもよい。アルキル基の炭素数は、例えば1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、より一層好ましくは1~3、特に好ましくは1又は2である。アルキル基は、置換基を有していてもよい。アルキル基が有し得る置換基としては、例えば、炭素数6~22(好ましくは6~14、より好ましくは6~10)のアリール基、炭素数1~6(好ましくは1~3、より好ましくは1又は2)のアルコキシ基、ハロゲン基等が挙げられる。アリール基は、単環式であってもよいし、多環式(例えば、二環式又は三環式)であってもよい。多環式は、縮合環式であってもよい。アリール基は、フェニル基であることが特に好ましい。アルコキシ基は、直鎖状、分岐状のどちらであってもよい。ハロゲン基としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。アルキル基が有し得る置換基としては、炭素数6~14のアリール基が好ましく、炭素数6~10のアリール基がより好ましく、フェニル基が特に好ましい。アルキル基が置換基を有する場合、置換基の数は、1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1又は2であることが特に好ましい。
【0031】
以下、R1及びR2がそれぞれ独立してアラルキル基である場合について説明する。
アラルキル基は、1つのアリール基を有するアルキル基を意味する。すなわち、アラルキル基は、アルキル基の水素原子の1つがアリール基で置換されたものである。アルキル基は、直鎖状、分岐状のどちらであってもよい。アルキル基の炭素数は、例えば1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~3、より一層好ましくは1又は2である。アリール基の炭素数は、例えば6~22、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。アリール基は、単環式であってもよいし、多環式(例えば、二環式又は三環式)であってもよい。多環式は、縮合環式であってもよい。アリール基は、フェニル基であることが特に好ましい。アラルキル基としては、炭素数7~11のアラルキル基が好ましい。好適なアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。アラルキル基は、置換基を有していてもよい。アラルキル基が有し得る置換基としては、例えば、炭素数1~6(好ましくは1~3、より好ましくは1又は2)のアルキル基、炭素数1~6(好ましくは1~3、より好ましくは1又は2)のアルコキシ基、カルボキシル基、ハロゲン基等が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基はそれぞれ、直鎖状、分岐状のどちらであってもよい。ハロゲン基としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。アラルキル基が置換基を有する場合、置換基の数は、1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。アラルキル基が置換基を有する場合、アラルキル基のアルキル部分及びアリール部分のいずれか一方が置換基を有していてもよいし、両方が置換基を有していてもよいが、少なくともアリール部分が置換基を有することが好ましい。
【0032】
以下、R1又はR2がそれぞれ独立してアリール基である場合について説明する。
アリール基は、単環式であってもよいし、多環式(例えば、二環式又は三環式)であってもよい。多環式は、縮合環式であってもよい。アリール基の炭素数は、例えば6~22、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。アリール基は、フェニル基であることが特に好ましい。アリール基は、置換基を有していてもよい。アリール基が有し得る置換基としては、例えば、炭素数1~6(好ましくは1~3、より好ましくは1又は2)のアルキル基、炭素数1~6(好ましくは1~3、より好ましくは1又は2)のアルコキシ基、カルボキシル基、ハロゲン基等が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基はそれぞれ、直鎖状、分岐状のどちらであってもよい。ハロゲン基としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。アリール基が置換基を有する場合、置換基の数は、1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0033】
なお、R1及びR2は、最終的に脱保護すること等を考慮すると、アラルキル基であることが好ましく、ベンジル基であることが特に好ましい。
【0034】
≪好適なチオラクトン誘導体≫
前記式(1)で表されるチオラクトン誘導体としては、その有用性を考慮すると、下記式(1A)で表されるチオラクトン誘導体((3aS,6aR)-1,3-ジベンジルテトラヒドロ-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-2,4-ジオン)が好適なものとして挙げられる。下記式(1A)中、「Bn」は、ベンジル基を表す。下記式(1A)で表されるチオラクトン誘導体は、前記式(1)で表されるチオラクトン誘導体において、R1及びR2がともにベンジル基である化合物である。
【0035】
【0036】
<亜鉛試薬>
本実施形態において、使用する亜鉛試薬は、下記式(2)で示される化合物である。
【0037】
【0038】
前記式(2)において、Xは塩素原子又は臭素原子であり、R3は置換基を有してもよい炭素数1以上8以下のアルキレン基であり、R4は、-C(=O)OR5で表される1価の基又はシアノ基であり、R5は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基である。なお、R5における置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、及び置換基を有してもよいアリール基は、それぞれ、上記R1及びR2において説明したものと同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0039】
(R3)
R3は、両末端に-ZnX及び-R4を有するアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、1~8が好ましく、2~6であることが特に好ましい。アルキレン基は、置換基を有していてもよい。アルキレン基が有し得る置換基としては、例えば、炭素数6~22(好ましくは6~14、より好ましくは6~10)のアリール基、炭素数1~6(好ましくは1~3、より好ましくは1又は2)のアルコキシ基、ハロゲン基等が挙げられる。アリール基は、単環式であってもよいし、多環式(例えば、二環式又は三環式)であってもよい。多環式は、縮合環式であってもよい。アリール基は、フェニル基であることが特に好ましい。アルコキシ基は、直鎖状、分岐状のどちらであってもよい。ハロゲン基としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。アルキレン基が置換基を有する場合、置換基の数は、1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1又は2であることが特に好ましい。但し、本実施形態におけるR3は、置換基を有していないアルキレン基であることが最も好ましい。
【0040】
(R4及びR5)
R4は、反応性及びビオチンへの変換のし易さから、シアノ基、又は、前記の1価の基としてのカルボキシル基(R5=水素原子)若しくはエステル基(R5=置換基を有してもよいアルキル基)であることが好ましく、これらの中でも、カルボキシル基(R5=水素原子)、又はエステル基(R5=置換基を有してもよいアルキル基)であることが特に好ましい。
【0041】
≪好適な亜鉛試薬≫
前記式(2)で示される亜鉛試薬としては、下記式(2A)で表される亜鉛試薬((5-エトキシ-5-オキソペンチル)ジンクハライド)が好適である。なお、下記式(2A)中の「Et」は、エチル基を表す。以下、同様の説明は、省略する場合がある。Xは、前記式(2)と同義である。下記式(2A)で表される亜鉛試薬は、前記式(2)で示される亜鉛試薬において、R3が炭素数4の置換基を有していないアルキレン基(すなわち、n-ブチレン基)であり、R4がエステル基(R5がエチル基)である化合物である。
【0042】
【0043】
前記式(2A)で表される亜鉛試薬の中でも、下記式(2Aa)で表される亜鉛試薬((5-エトキシ-5-オキソペンチル)ジンクブロマイド)、又は下記式(2Ab)で表される亜鉛試薬((5-エトキシ-5-オキソペンチル)ジンククロライド)がより好適であり、この中でも下記式(2Aa)で表される亜鉛試薬が特に好適である。下記式(2Aa)で表される亜鉛試薬は、前記式(2A)で示される亜鉛試薬において、Xが臭素原子である化合物であり、下記式(2Ab)で表される亜鉛試薬は、前記式(2A)で示される亜鉛試薬において、Xが塩素原子である化合物である。
【0044】
【0045】
本実施形態における亜鉛試薬の使用量は特に制限されるものではないが、後処操作の煩雑さを回避するため、チオラクトン誘導体1モルに対して、1.0~2.0モルの範囲であることが好ましく、1.2~1.8モルの範囲であることが特に好ましい。本実施形態においては反応効率が大幅に改善されており、前記範囲内の亜鉛試薬でも十分に反応が進行する。
【0046】
<亜鉛試薬の製造方法>
本実施形態における亜鉛試薬は、特に制限されるものではなく、公知の方法で製造したものを使用することができる。例えば、非特許文献2、3に記載の方法で製造したもの、及び精製したものを使用することができる。具体的には、以下の反応式に従って、製造することができる。
【0047】
【0048】
つまり、対応するハロゲン化物(2’)と亜鉛とを接触させることにより、亜鉛試薬を簡便に調整することができる。なお、対応するハロゲン化物におけるX、R3及びR4は、それぞれ上記亜鉛試薬の説明に記載したものと同様である。
【0049】
(亜鉛末)
上記反応に使用する亜鉛には単体の亜鉛を用い、粉末状、削り状、短冊状等、その形態は制限されるものではない。前記亜鉛の使用量は、前記ハロゲン化物の種類によって適宜決定すればよく、例えば、前記ハロゲン化物1モルに対して1~5モルを使用し、好ましくは、1~3モルを使用する。
【0050】
(活性化剤)
前記ハロゲン化物と亜鉛との接触は、活性化剤の存在下で行うことが好ましい。亜鉛の活性化剤を例示すると、臭素、ヨウ素、1,2-ジブロモエタン、トリメチルシリルクロリド、テトラ-n-ブチルアンモニウムヨージド(TBAI)、テトラメチルアンモニウムヨージド(TMAI)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロリド(TBAC)、テトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)、テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化セシウム(CsI)等が挙げられる。この中でも、反応性の点を考慮すると、活性化剤は、TBAI、TMAI等の四級アンモニウム塩及びNaI、KI等のヨウ化アルカリ金属塩から選択することが好ましく、安全性や価格面等も考慮すると、活性化剤は、NaI及びKIから選択することが特に好ましい。当該活性化剤は、例えば、前記亜鉛1モルに対して0.01~1.5モルを使用し、好ましくは、0.05~0.8モルを使用する。
【0051】
(溶媒)
前記亜鉛試薬の調製は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、トルエン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、tert-ブチルメチルエーテル(TBME)、ジイソプロピルエーテル(IPE)、ジグライム等が挙げられる。この中でも、反応の進行性、次工程への影響等を考慮すると、25℃における比誘電率が15以上の極性溶媒であることが特に好ましい。具体的には、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)(比誘電率=37.78)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(比誘電率=36.71)、N,N-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)(比誘電率=37.6)等が該当する。以上例示した有機溶媒は、1種類で使用することもできるし、2種類以上の混合物を使用することもできる。
【0052】
前記有機溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、前記ハロゲン化物1gに対して0.1~20mLを使用し、好ましくは、0.5~10mLを使用する。有機溶媒として混合物を使用する場合には、使用する量の基準は、混合物全量を対象とする。
【0053】
(ハロゲン化物と亜鉛との接触方法)
前記ハロゲン化物と亜鉛との接触温度は、使用する溶媒に応じて適宜決定すればよいが、例えば、20~120℃であり、好ましくは30~80℃である。また、接触時間は、例えば、0.1~15時間であり、好ましくは1~8時間である。
【0054】
前記亜鉛試薬の調製は次の方法で行うことが好ましい。先ず、前記溶媒と亜鉛とを混合した後、活性化剤を加えて亜鉛の活性化を行う。次いで、前記ハロゲン化物を添加して混合することで亜鉛試薬を調製することができる。なお、得られた亜鉛試薬は、分離精製することなく、溶液のままヒドロキシビオチン誘導体の製造に使用することができる。当然のことながら、純度を高めるために分離精製した亜鉛試薬を使用することもできる。
【0055】
以上のような条件で反応することにより、前記亜鉛試薬を効率的かつ簡便に調製することができる。なお、前記反応において得られる亜鉛試薬は、特に制限されるものではないが、純度80.0~95.0%のものとすることができる。また、余剰分の亜鉛を含んだ反応後の溶液を後処理することなく、次のカップリング反応を実施することもできる。
【0056】
反応の雰囲気は、特に制限されないが、例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行ってもよい。
【0057】
<銅触媒>
本発明の最大の特徴は、銅触媒存在下で、式(1)で表されるチオラクトン誘導体と式(2)で表される亜鉛試薬とを接触させる点にある。銅触媒下、前記チオラクトン誘導体と前記亜鉛試薬とを接触することでカップリング反応を円滑に進行することができ、効率的にヒドロキシビオチン誘導体へと変換することが可能となる。
【0058】
本実施形態において使用する銅触媒は特に制限されず、1価、2価のいずれの銅化合物も銅触媒として使用することができる。具体的な銅触媒を例示すると、塩化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(I)、臭化銅(II)、シアン化銅(I)、3-メチルサリチル酸銅(I)、メシチレン銅(I)、イソプロポキシ銅(I)、ヨウ化銅(I)、ヨウ化銅(II)、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、ピバル酸銅(I)、ピバル酸銅(II)等が挙げられる。本反応における銅触媒は1価の銅化合物であることが好ましく、ハロゲン原子を含有する1価の銅ハロゲン化物であることがより好ましい。
【0059】
銅触媒の使用量は、適宜決定すればよいが、チオラクトン誘導体に対して0.01~10モル使用することが好ましく、0.1~8モル使用することがより好ましく、1.0~5モル使用することが特に好ましい。なお、当然のことながら前記銅触媒は反応の進行具合に応じて、後から追加することもできるし、反応の進行具合を確認しながら分割して添加していくこともできる。
【0060】
<反応溶媒>
式(1)で表されるチオラクトン誘導体と式(2)で表される亜鉛試薬との接触は、溶媒中で行うことが好ましい。該チオラクトン誘導体と該亜鉛試薬との反応に用いる溶媒は、特に制限されず、反応を阻害しない溶媒から適宜選択することができる。具体的には、トルエン、ベンゼン、ジエチルエーテル、クロロホルム等の無極性溶媒、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。中でも、25℃における比誘電率が15以上の極性溶媒を含む溶媒を本実施形態における反応溶媒として使用することが好ましい。比誘電率とは、有機溶媒の凡その極性を示すパラメータであり、換言すれば、高極性の溶媒中で反応させることが好ましいといえる。本理由は定かではないが、反応に使用する亜鉛試薬や銅触媒の溶解性が向上することで、カップリング反応が加速されるものと考えられる。25℃における比誘電率が15以上の極性溶媒を例示すると、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)(比誘電率=37.78)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(比誘電率=36.71)、N,N-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)(比誘電率=37.6)、アセトニトリル(比誘電率=37.5)、N-メチルピロリドン(NMP)(比誘電率=32.0)、ジメチルスルホキシド(DMSO)(比誘電率=48.9)、スルホラン(比誘電率=43.3)等が挙げられる。中でも、反応速度の面から、DMAC、DMF及びDMIから選択されるものを用いることが好ましく、DMACを用いることが最も好ましい。換言すれば、該反応に用いる溶媒としては、25℃における比誘電率が35以上40以下のものを用いることが好ましい。なお、以上例示した溶媒は、1種類で使用することもできるし、2種類以上の混合物を使用することもできる。
【0061】
ただし、2種類以上の混合物を使用する場合、前記溶媒における前記極性溶媒の容積比率を15%以上とすることがより好ましい。反応溶媒における極性溶媒の比率を高めることで、より効率的かつ効果的に反応が進行し、短時間で反応を完結することができる。反応速度を考慮すると、前記極性溶媒の容積比率は30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、100%とすることが最も好ましい。なお、前記極性溶媒の容積比率を100%にすることとは、前記の極性溶媒の他に当該溶媒に不可避的に入り込む不純物の混入を完全に排除するものではない点に留意されたい。
【0062】
本実施形態において、溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、反応の後処理等を考慮すると、前記のチオラクトン誘導体1gに対して、0.1~20mLを使用し、好ましくは、0.5~10mLを使用し、より好ましくは、1mL~7mLを使用する。溶媒として前記の極性とそれ以外の溶媒とを含む混合物を使用する場合には、使用する量の基準は、混合物全量を対象とする。
【0063】
なお、溶媒は、上述した亜鉛試薬の調製に用いる溶媒と同一の溶媒を用いることが好ましい。同一の溶媒を用いることにより、溶媒の入れ替えに伴う操作を不要とすることができる。
【0064】
<ヒドロキシビオチン誘導体の製造方法>
本実施形態では、銅触媒存在下、チオラクトン誘導体と亜鉛試薬とを接触させて、これらを反応させて、ヒドロキシビオチン誘導体を製造することができる。この際、各成分が十分に接触できるよう混合すればよい。本実施形態に係る方法は、常圧、減圧、加圧のいずれの状態でも実施可能である。本実施形態に係る方法は、酸素、大気等の酸素存在下だけでなく、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性気体雰囲気下でも実施することができる。各成分の混合方法は、特に制限されるものではない。例えば、すべての成分を同時に反応装置に投入して混合してもよい。1成分を予め混合しておき、残りの成分を順次添加して混合してもよい。各成分は、溶媒で希釈して反応装置等へ供給することもできる。中でも、副生物をより低減し、ヒドロキシビオチン誘導体の純度を高めるためには、チオラクトン誘導体及び銅触媒を溶媒中に分散させた後、亜鉛試薬を混合する方法、又は、チオラクトン誘導体及び亜鉛試薬を溶媒中に分散させた後、銅触媒を混合する方法を採用することが好ましい。当該方法を採用することで、亜鉛試薬の急激な分解を抑制し、円滑に反応を進行させることができる。当該方法は、不活性気体雰囲気下で行うことができる。
【0065】
本実施形態において、反応温度(ここで、「反応温度」とは、全成分が混合された後の反応系内の温度をいう。)は、特に制限されるものではないが、-10~50℃の範囲で実施することができる。中でも、反応速度、得られるビオチン誘導体の純度等を考慮すると-5~35℃で反応することが好ましい。当該範囲内で反応を行うことにより、短時間且つ効率的にヒドロキシビオチン誘導体へと変換することができる。また、反応時間も制限されるものではなく、下記の実施例に記載した反応転化率を確認しながら適宜決定すればよい。ただし、前記の反応条件であれば、反応時間は、1~30時間が好ましく、1~20時間がより好ましい。なお、この反応時間は、前記チオラクトン誘導体を、亜鉛試薬及び銅触媒存在下、必要に応じて加えた溶媒中で設定した反応温度において混合する時間を指すものである。
【0066】
<ヒドロキシビオチン誘導体>
本実施形態において、得られるヒドロキシビオチン誘導体は、下記式(3)で示される化合物である。
【0067】
【0068】
なお、前記式(3)中、R1及びR2は、前記式(1)と同義であり、R3及びR4は、前記式(2)と同義である。
【0069】
≪本発明の第二態様≫
本発明の第二態様は、本発明の第一態様に係る方法により前記式(3)で表されるヒドロキシビオチン誘導体を製造した後、得られたヒドロキシビオチン誘導体を脱水することにより、下記式(4)で表されるビニルビオチン誘導体を製造する得る工程を含む、ビニルビオチン誘導体の製造方法に関する。
【0070】
【0071】
なお、前記式(4)中、R1及びR2は、前記式(1)と同義であり、R3及びR4は、前記式(2)と同義である。
【0072】
ヒドロキシビオチン誘導体の脱水方法としては、例えば、酸処理又は加熱処理が挙げられるが、生成物の純度等を考慮すると酸処理にて行うことが好ましい。酸処理はヒドロキシビオチン誘導体と酸触媒とを接触させることを含む。なお、用いるヒドロキシビオチン誘導体は前記方法にて得た反応液をそのまま使用することもできる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸、のいずれも使用することができる。
【0073】
これら酸触媒は、1種類を使用することもできるし、複数種類の酸を組み合わせて使用することもできる。複数種類の酸を使用する場合には、基準となる酸の量は、複数種類の酸の合計量である。酸の使用量は、使用する酸の種類により適宜決定すればよいが、ヒドロキシビオチン誘導体1モルに対して、例えば1~1000モル、好ましくは20~200モルである。酸処理する際の温度も特に制限されないが、通常0~100℃、好ましくは10~60℃である。また、反応時間は、例えば0.1~15時間程度であり、好ましくは1~10時間である。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、具体例であって、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、製造例及び実施例における亜鉛試薬の純度評価及び濃度算出は、以下のガスクロマトグラフィー(GC)を用いた方法にて、実施例における反応転化率の算出及び純度評価は、以下の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法で行った。
【0075】
<GC測定条件>
亜鉛試薬(2Aa)の純度は、反応液を一部とり、クロロホルムに溶解させ、10%塩酸水を加えて亜鉛試薬(2Aa)を完全に吉草酸エチルへと変換した後、分液し、得られた有機層中の吉草酸エチル純度をガスクロマトグラフィーで分析した。亜鉛試薬(2Aa)から吉草酸エチルへの変換は100%進行するものとした。なお、下記条件において、ハロゲン化物(2A’)は約15.7分、吉草酸エチルは約10.0分にピークが確認される。
【0076】
装置:ガスクロマトグラフィー(GC)
機種:7820A(アジレント・テクノロジー社製)
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
カラム:HP-5、内径0.32mm、長さ30m、膜厚0.25μm(アジレント・テクノロジー社製)
カラム温度:50℃付近の一定温度で注入後、5分間維持し、10℃/分で150℃まで昇温する。次いで、20℃/分で250℃まで昇温した後、250℃で5分間維持した。
注入口温度:300℃
検出器温度:300℃
キャリアガス:ヘリウム
カラム圧力:5.35psi
【0077】
<HPLC測定条件>
HPLC分析の分析条件は、以下のとおりである。
装置:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
機種:2695-2489-2998(ウォーターズ社製)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:XBridge-C18、内径4.6mm、長さ15cm(粒子径:5μm)(ウォーターズ社製)
カラム温度:30℃一定
サンプル温度:25℃一定
移動層A:アセトニトリル
移動層B:0.25%酢酸水溶液
移動層の送液:移動層A及び移動層Bの混合比を次の表1のように変えて濃度勾配制御する。
流速:0.6mL/分
測定時間:40分
【0078】
【0079】
上記HPLCの測定条件において、チオラクトン誘導体(1A)(R1、R2=Bn)は約20.7分、ヒドロキシビオチン誘導体(3A)(R1、R2=Bn、R3=CH2CH2CH2CH2、R3=CO2Et)は約25.5分、ビニルビオチン誘導体(4A)(R1、R2=Bn、R3=CHCH2CH2CH2、R4=-CO2Et)は約28.5分にそれぞれピークが確認される。なお、実施例において、ヒドロキシビオチン誘導体(3A)及びビニルビオチン誘導体(4A)の各純度は、それぞれ、上記条件で測定される全ピークの面積値(溶媒由来のピークを除く)の合計に対するヒドロキシビオチン誘導体(3A)及びビニルビオチン誘導体(4A)のピーク面積値の割合である。また、反応転化率とは、生成したヒドロキシビオチン誘導体(3A)又はビニルビオチン誘導体(4A)のHPLC面積値の、チオラクトン誘導体(1A)及びヒドロキシビオチン誘導体(3A)又はビニルビオチン誘導体(4A)のHPLC面積値の合計値に対する百分率で算出した値である。
【0080】
<製造例1:亜鉛試薬1の合成>
下記反応式に示すように、式(2A’)で表されるハロゲン化物から、式(2Aa)で表される亜鉛試薬を合成した。なお、式中の「Et」は、エチル基を表す。
【0081】
【0082】
直径2.5cmのスターラーピースを備えた100mL三つ口フラスコに、窒素雰囲気下、亜鉛末23.5g(358.71mmol)、テトラヒドロフラン37.5mL、N,N-ジメチルアセトアミド12.5mLを加え、25℃で混合攪拌した。30℃以下を保持しながら、ヨウ化ナトリウム5.4g(35.87mmol)を加え、80℃まで昇温した。次いで、5-ブロモ吉草酸エチル(2A’)50g(239.14mmol)を0.5時間以上かけて滴下し、同温度で6時間攪拌した。反応液を30℃まで冷却し、セライト濾過により余剰の亜鉛等を除去することで亜鉛試薬(2Aa)の溶液を得た。なお、反応液を一部とり、GCで分析した結果、純度は89.3%であり、亜鉛試薬(2Aa)の溶液の濃度は4.27モル/L(溶媒の容量比=テトラヒドロフラン:N,N-ジメチルアセトアミド=3:1)であることを確認した。
【0083】
<実施例1:ヒドロキシビオチン誘導体の合成>
下記反応式に示すように、式(1A)で表されるチオラクトン誘導体及び式(2Aa)で表される亜鉛試薬から、式(3A)で表されるヒドロキシビオチン誘導体を合成した。なお、式中の「Bn」はベンジル基、「Et」はエチル基を表す。
【0084】
【0085】
直径2.5cmのスターラーピースを備えた50mL三つ口フラスコに、窒素雰囲気下、チオラクトン誘導体(1A)2.5g(7.39mmol)、N,N-ジメチルアセトアミド6mLを加え、25℃で攪拌しながら溶解した。次いで、製造例1で調製した亜鉛試薬(2Aa)2.9mL(12.56mmol)(4.27モル/L溶液)を加え、0℃まで冷却した。塩化銅(I)1.83g(18.47mmol)を加えた後、0℃で10時間攪拌した。前記高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて確認したところ、反応転化率は98.2%であった。なお、反応溶媒の組成比はテトラヒドロフラン:N,N-ジメチルアセトアミド=2.2:6.7であり、反応溶媒における極性溶媒であるN,N-ジメチルアセトアミド(比誘電率=37.78)の容積比率は75.3%であった。
【0086】
<実施例2>
反応温度を0℃から30℃へと変更した以外は実施例1と同様の方法にて反応を行った。結果を表2に示した。
【0087】
<実施例3>
塩化銅(I)の代わりにシアン化銅(I)を使用した以外は実施例1と同様の方法にて反応を行った。結果を表2に示した。
【0088】
<実施例4~5>
溶媒の使用量及び溶媒における極性溶媒の比率を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法にて反応を行った。結果を表2に示した。
【0089】
<実施例6>
塩化銅の量を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法にて反応を行った。結果を表2に示した。
【0090】
<実施例7:ヒドロキシビオチン誘導体の合成>
下記反応式に示すように、亜鉛試薬(2Aa)を合成した後、式(1A)で表されるチオラクトン誘導体を加えてカップリング反応を行うことで、式(3A)で表されるヒドロキシビオチン誘導体を合成した。なお、式中の「Bn」はベンジル基、「Et」はエチル基を表す。
【0091】
【0092】
直径2.5cmのスターラーピースを備えた100mL三つ口フラスコに、窒素雰囲気下、亜鉛末2.35g(35.87mmol)、N,N-ジメチルアセトアミド5mLを加え、25℃で混合攪拌した。30℃以下を保持しながら、ヨウ化ナトリウム0.54g(3.59mmol)を加え、50℃まで昇温した。次いで、5-ブロモ吉草酸エチル(2A’)5g(23.91mmol)を0.5時間以上かけて滴下し、同温度で6時間攪拌した。反応液を30℃まで冷却し、亜鉛試薬(2Aa)の溶液を得た。なお、反応液を一部とり、GCで分析した結果、純度は90.8%であり、亜鉛試薬(2Aa)の溶液の濃度は4.34モル/Lであることを確認した。
【0093】
前記亜鉛試薬(2Aa)のN,N-ジメチルアセトアミド溶液(21.71mmol;4.34モル/L)にチオラクトン誘導体(1A)4.28g(12.66mmol)及びN,N-ジメチルアセトアミド10mLを加え、0℃で混合攪拌した。次いで、塩化銅(I)3.10g(31.30mmol)を添加し、0℃で10時間攪拌した。前記高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて確認したところ、反応転化率は99.0%であった。なお、反応溶媒における極性溶媒であるN,N-ジメチルアセトアミド(比誘電率=37.78)の容積比率は100%であった。
【0094】
反応液をセライト濾過し、余剰分の金属を除去した後、得られたろ液を減圧濃縮し、5.9gのヒドロキシビオチン誘導体(3A)を得た(収率=100%)。
【0095】
<実施例8:ビニルビオチン誘導体の合成>
下記反応式に示すように、式(3A)で表されるヒドロキシビオチン誘導体を脱水して、ビニルビオチン誘導体(4A)を合成した。なお、式中の「Bn」はベンジル基、「Et」はエチル基を表す。
【0096】
【0097】
直径2.5cmのスターラーピースを備えた100mL三つ口フラスコに、実施例7で合成したヒドロキシビオチン誘導体(3A)5.9g(12.66mmol)、酢酸30mL(475.79mmol)を加え、50℃で5時間攪拌した前記高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて確認したところ、反応転化率は100%であった。
【0098】
反応液をセライト濾過した後、得られたろ液を減圧濃縮した。残渣に酢酸エチル42mLを加えて抽出した後、30%塩化アンモニウム水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、10%食塩水の順で分液洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮することで5.14gのビニルビオチン誘導体(4A)を得た(収率=90.1%)。
【0099】
【要約】
本発明は、安価な金属触媒を用いて、チオラクトン誘導体とヨウ素以外のハロゲン原子を含む亜鉛試薬とのカップリング反応を円滑かつ高効率に行うことができるヒドロキシビオチン誘導体及びビニルビオチン誘導体の製造方法を提供することを課題とし、下記式(1)で表されるチオラクトン誘導体と下記式(2)で表される亜鉛試薬とを接触させて、下記式(3)で表されるヒドロキシビオチン誘導体を得る工程を含む、ヒドロキシビオチン誘導体の製造方法を提供する。
[化1]
[化2]
[化3]