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特許7511839量子シミュレータおよび量子シミュレーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】量子シミュレータおよび量子シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 3/00 20060101AFI20240701BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G02F3/00
G02F1/01 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020145826
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040896
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-04-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、科学技術試験研究委託事業「量子情報処理に関するネットワーク型研究拠点」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】酒井 寛人
(72)【発明者】
【氏名】大森 賢治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 太郎
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァン ド レゼルック
(72)【発明者】
【氏名】富田 隆文
(72)【発明者】
【氏名】素川 靖司
(72)【発明者】
【氏名】大竹 良幸
(72)【発明者】
【氏名】豊田 晴義
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-180179(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0081687(US,A1)
【文献】M. ROBERT-DE-SAINT-VINCENT et al.,“Anisotropic 2D Diffusive Expansion of Ultracold Atoms in a Disordered Potential”,Physical Review Letters,2010年06月02日,Vol. 104, No. 22,pp.220602-1-220602-4,DOI: 10.1103/PhysRevLett.104.220602
【文献】E. SCHONBRUN et al.,“3D interferometric optical tweezers using a single spatial light modulator”,Optics Express,2005年,Vol. 13, No. 10,pp.3777-3786,DOI: 10.1364/OPEX.13.003777
【文献】L. A. SHAW et al.,“Scanning holographic optical tweezers”,Optics Letters,2017年07月17日,Vol. 42, No. 15,pp.2862-2865,DOI: 10.1364/OL.42.002862
【文献】T. A. HAASE et al.,“A versatile apparatus for two-dimensional atomtronic quantum simulation”,Review of Scientific Instruments,2017年11月01日,Vol. 88, No. 11,pp.113102-1 -113102-6,DOI: 10.1063/1.5009584
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
Scopus
Scitation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓部を有するチャンバーと、
前記窓部から前記チャンバーの内部へ光を入射させて、前記チャンバーの内部の像面上において原子を捕捉するための複数の集光スポットを1次元状または2次元状に規則配列して形成する光ビーム発生装置と、
前記チャンバーの内部において前記集光スポットに捕捉された原子の状態を検出する検出装置と、
を備え、
前記光ビーム発生装置は、
第1方向または第2方向に平行な辺を有する長方形形状の複数の画素が2次元配列されている変調面に入力された光を空間的に位相変調または振幅変調して出力する空間光変調器を含み、その変調後の光を前記窓部から前記チャンバーの内部へ入射させ、
前記複数の集光スポットそれぞれによる原子捕捉領域のサイズをdとし、前記チャンバーの内部へ入射させる光の波長をλとし、前記チャンバーの内部へ光を入射させる光学系の開口数をNAとして、d/2+λ/(2NA) なる式で求められる値を非重複距離とし、
前記像面上において、前記第1方向に平行なx軸と前記第2方向に平行なy軸とからなるxy座標系を設定したときに、前記複数の集光スポットそれぞれの中心位置のx座標値の差の最小値δxminおよびy座標値の差の最小値δymin前記非重複距離より長くなるように、前記複数の集光スポットを形成する、
量子シミュレータ。
【請求項2】
前記光ビーム発生装置は、捕捉する原子の熱振動幅に基づいて前記複数の集光スポットそれぞれによる原子捕捉領域のサイズdを設定する、
請求項に記載の量子シミュレータ。
【請求項3】
前記光ビーム発生装置は、前記像面上において前記複数の集光スポットを矩形格子状、正方格子状、三角格子状、カゴメ格子状または六角格子状に規則配列して形成する、
請求項1または2に記載の量子シミュレータ。
【請求項4】
前記窓部から前記チャンバーの内部へ入射させた光により前記チャンバーの内部の原子に刺激を与える光刺激付与装置を更に備える、
請求項1~の何れか1項に記載の量子シミュレータ。
【請求項5】
前記チャンバーの内部へ原子ガスを供給する原子ガス供給装置を更に備える、
請求項1~の何れか1項に記載の量子シミュレータ。
【請求項6】
チャンバーの窓部から前記チャンバーの内部へ光を入射させて、前記チャンバーの内部の像面上において原子を捕捉するための複数の集光スポットを1次元状または2次元状に規則配列して形成する光捕捉ステップと、
前記チャンバーの内部において前記集光スポットに捕捉された原子の状態を検出する検出ステップと、
を備え、
前記光捕捉ステップにおいて、
第1方向または第2方向に平行な辺を有する長方形形状の複数の画素が2次元配列されている変調面に入力された光を空間的に位相変調または振幅変調して出力する空間光変調器を用いて、その変調後の光を前記窓部から前記チャンバーの内部へ入射させ、
前記複数の集光スポットそれぞれによる原子捕捉領域のサイズをdとし、前記チャンバーの内部へ入射させる光の波長をλとし、前記チャンバーの内部へ光を入射させる光学系の開口数をNAとして、d/2+λ/(2NA) なる式で求められる値を非重複距離とし、
前記像面上において、前記第1方向に平行なx軸と前記第2方向に平行なy軸とからなるxy座標系を設定したときに、前記複数の集光スポットそれぞれの中心位置のx座標値の差の最小値δxminおよびy座標値の差の最小値δymin前記非重複距離より長くなるように、前記複数の集光スポットを形成する、
量子シミュレーション方法。
【請求項7】
前記光捕捉ステップにおいて、捕捉する原子の熱振動幅に基づいて前記複数の集光スポットそれぞれによる原子捕捉領域のサイズdを設定する、
請求項に記載の量子シミュレーション方法。
【請求項8】
前記光捕捉ステップにおいて、前記像面上において前記複数の集光スポットを矩形格子状、正方格子状、三角格子状、カゴメ格子状または六角格子状に規則配列して形成する、
請求項6または7に記載の量子シミュレーション方法。
【請求項9】
前記窓部から前記チャンバーの内部へ入射させた光により前記チャンバーの内部の原子に刺激を与える光刺激付与ステップを更に備える、
請求項6~8の何れか1項に記載の量子シミュレーション方法。
【請求項10】
前記チャンバーの内部へ原子ガスを供給する原子ガス供給ステップを更に備える、
請求項6~9の何れか1項に記載の量子シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子シミュレータおよび量子シミュレーション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子レベルのミクロな領域での物質の挙動は量子力学に従っていることが知られている。このようなミクロな領域での現象は、その距離スケールが現実世界のスケールと大きくかけ離れていることもあって、我々の目に直接触れる形で現れることは多くない。しかし、近年の科学技術の発展に伴い、量子力学的効果を利用する有効な技術が生み出されてきている。例えば、超電導、通信用素子、薬剤開発、新機能物質(特殊な電気伝導物質や強力な磁石など)など、その応用範囲は広範囲に亘っており、量子の挙動を知ることは新たな技術を生み出すための第一歩として、重要となりつつある。
【0003】
現実の物質内において、上記のような量子力学的効果は、多数の粒子が互いに相互作用を及ぼし合いながら生み出されている。このような状況でも量子力学によって現象を記述することは原理的には可能なはずであるが、複数の粒子からなる量子力学(量子多体問題)は極めて複雑であり、理論的・数値的にその挙動を予言することは、現実の系から大きく乖離した理想形を除いて、現実的には不可能といっていい。
【0004】
量子シミュレータは、このような複雑な量子力学的多体問題を研究するための手法として、近年注目を集めている。量子シミュレータでは、研究対象が持つ物理的特徴を備えたモデル系を準備して、そのモデル系を実際に動かして如何なる現象が起こるかを観測する。たとえば、結晶中での量子力学的現象を研究する場合には、適当な原子を結晶構造に応じた空間配置に従って配列したモデル系を準備する。現実の結晶では原子間隔が小さく、その挙動を追うことは困難であるが、原子をマイクロメートル程度の間隔で配列することで、量子現象を制御および観測しやすいサイズのモデル系を構築することができる。
【0005】
量子シミュレータは、配列された原子の位置を制御したり、配列された各原子に何らかの刺激を与えたりすることにより、系全体に現れる影響を検出することができる。量子シミュレータにおいて原子を配列する手段として、光を集光して当該集光スポットに原子を捕捉する光トラップ技術が用いられる(特許文献1参照)。また、量子シミュレータにおいて原子に刺激を与える手段としては、所定の形状を持つ光パターンを生成し、配列された原子に照射する技術が用いられる。同条件下での検出プロセスを複数回数くり返すことで、例えば解析に重要な電子の存在確率を知ることができるので、原子を配列する手段および原子に刺激を与える手段の双方において、優れた制御性および再現性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-180179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光トラップ技術により複数の原子を規則配列する場合、空間光変調器を利用することができる。空間光変調器により光を空間的に位相変調または振幅変調することで、その変調後の光により像面上において複数の集光スポットを1次元状または2次元状に規則配列して形成することができる。また、空間光変調器を用いれば、複数の集光スポットを形成する変調パターンに、光源から像面までの間の収差を補正する変調パターンを加算することにより、複数の集光スポットそれぞれの光強度の均一化、複数の集光スポットの配置の歪みの低減、および、複数の集光スポットそれぞれの形状の歪みの低減が可能となる。
【0008】
しかしながら、空間光変調器により像面上に複数の集光スポットを形成すると、各集光スポットの周辺にノイズとなるサイドローブが形成され、このサイドローブが他の集光スポットと重なる場合がある。このようにサイドローブと集光スポットとが重なった場合、複数の原子の規則配列に影響が及ぶことになって、量子シミュレーションの精度が低下する可能性がある。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、複数の原子の規則配列を高精度に行うことができる量子シミュレータおよび量子シミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の量子シミュレータは、(1) 窓部を有するチャンバーと、(2) 窓部からチャンバーの内部へ光を入射させて、チャンバーの内部の像面上において原子を捕捉するための複数の集光スポットを1次元状または2次元状に規則配列して形成する光ビーム発生装置と、(3) チャンバーの内部において集光スポットに捕捉された原子の状態を検出する検出装置と、を備える。光ビーム発生装置は、第1方向または第2方向に平行な辺を有する長方形形状の複数の画素が2次元配列されている変調面に入力された光を空間的に位相変調または振幅変調して出力する空間光変調器を含み、その変調後の光を窓部からチャンバーの内部へ入射させ、像面上において、第1方向に平行なx軸と第2方向に平行なy軸とからなるxy座標系を設定したときに、複数の集光スポットそれぞれの中心位置のx座標値の差の最小値δxminおよびy座標値の差の最小値δyminが非重複距離より長くなるように、複数の集光スポットを形成する。
【0011】
本発明の一側面において、光ビーム発生装置は、複数の集光スポットそれぞれによる原子捕捉領域のサイズをdとし、チャンバーの内部へ入射させる光の波長をλとし、チャンバーの内部へ光を入射させる光学系の開口数をNAとしたとき、d/2+λ/(2NA) なる式で求められる非重複距離よりδxminおよびδyminが長くなるように、複数の集光スポットを形成するのが好適である。光ビーム発生装置は、捕捉する原子の熱振動幅に基づいて複数の集光スポットそれぞれによる原子捕捉領域のサイズdを設定するのが好適である。また、光ビーム発生装置は、像面上において複数の集光スポットを矩形格子状、正方格子状、三角格子状、カゴメ格子状または六角格子状に規則配列して形成するのが好適である。
【0012】
本発明の一側面において、量子シミュレータは、窓部からチャンバーの内部へ入射させた光によりチャンバーの内部の原子に刺激を与える光刺激付与装置を更に備えるのが好適であり、また、チャンバーの内部へ原子ガスを供給する原子ガス供給装置を更に備えるのが好適である。
【0013】
本発明の量子シミュレーション方法は、(1) チャンバーの窓部からチャンバーの内部へ光を入射させて、チャンバーの内部の像面上において原子を捕捉するための複数の集光スポットを1次元状または2次元状に規則配列して形成する光捕捉ステップと、(2) チャンバーの内部において集光スポットに捕捉された原子の状態を検出する検出ステップと、を備える。光捕捉ステップにおいて、第1方向または第2方向に平行な辺を有する長方形形状の複数の画素が2次元配列されている変調面に入力された光を空間的に位相変調または振幅変調して出力する空間光変調器を用いて、その変調後の光を窓部からチャンバーの内部へ入射させ、像面上において、第1方向に平行なx軸と第2方向に平行なy軸とからなるxy座標系を設定したときに、複数の集光スポットそれぞれの中心位置のx座標値の差の最小値δxminおよびy座標値の差の最小値δyminが非重複距離より長くなるように、複数の集光スポットを形成する。
【0014】
本発明の一側面において、光捕捉ステップにおいて、複数の集光スポットそれぞれによる原子捕捉領域のサイズをdとし、チャンバーの内部へ入射させる光の波長をλとし、チャンバーの内部へ光を入射させる光学系の開口数をNAとしたとき、d/2+λ/(2NA) なる式で求められる非重複距離よりδxminおよびδyminが長くなるように、複数の集光スポットを形成するのが好適である。光捕捉ステップにおいて、捕捉する原子の熱振動幅に基づいて複数の集光スポットそれぞれによる原子捕捉領域のサイズdを設定するのが好適である。また、光捕捉ステップにおいて、像面上において複数の集光スポットを矩形格子状、正方格子状、三角格子状、カゴメ格子状または六角格子状に規則配列して形成するのが好適である。
【0015】
本発明の一側面において、量子シミュレーション方法は、窓部からチャンバーの内部へ入射させた光によりチャンバーの内部の原子に刺激を与える光刺激付与ステップを更に備えるのが好適であり、また、チャンバーの内部へ原子ガスを供給する原子ガス供給ステップを更に備えるのが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の原子の規則配列を高精度に行うことができ、量子シミュレーションの精度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、量子シミュレータ100の構成を示す図である。
図2図2は、量子シミュレータ100の動作の一例および量子シミュレーション方法の一例を説明する図である。
図3図3は、光ビーム発生装置4の構成例を示す図である。
図4図4は、光ビーム発生装置4の他の構成例を示す図である。
図5図5は、光ビーム発生装置4の空間光変調器44の変調面における複数の画素の2次元配列を説明する図である。
図6図6は、像面46における複数の集光スポットの配列を説明する図である。
図7図7は、像面46における複数の集光スポットの配列を更に詳細に説明する図である。
図8図8は、像面46上において複数の集光スポットそれぞれの中心位置のx座標値の差の最小値δxminおよびy座標値の差の最小値δyminが非重複距離Dより長くなるようにすることができる角度θを求める処理のフローチャートである。
図9図9は、実施例で用いた矩形格子配列、正方格子配列、正三角格子配列、カゴメ格子配列および六角格子配列を纏めた表である。
図10図10は、実施例1でθ=0°としたときの複数の集光スポットの矩形格子配列を示す図である。
図11図11は、実施例1でδxmin>D 且つδymin>D を満たす角度θの範囲においてδxminの値およびδyminの値を示す図である。
図12図12は、実施例2でθ=0°としたときの複数の集光スポットの正方格子配列を示す図である。
図13図13は、実施例2でδxmin>D 且つδymin>D を満たす角度θの範囲においてδxminの値およびδyminの値を示す図である。
図14図14は、実施例3でθ=0°としたときの複数の集光スポットの正三角格子配列を示す図である。
図15図15は、実施例3でδxmin>D 且つδymin>D を満たす角度θの範囲においてδxminの値およびδyminの値を示す図である。
図16図16は、実施例4でθ=0°としたときの複数の集光スポットのカゴメ格子配列を示す図である。
図17図17は、実施例4でδxmin>D 且つδymin>D を満たす角度θの範囲においてδxminの値およびδyminの値を示す図である。
図18図18は、実施例5でθ=0°としたときの複数の集光スポットの六角格子配列を示す図である。
図19図19は、実施例5でδxmin>D 且つδymin>D を満たす角度θの範囲においてδxminの値(○印)およびδyminの値(+印)を示す図である。
図20図20は、図3に示される光ビーム発生装置4Aの構成において像面46上に複数の集光スポットを正方格子配列(θ=0°)する場合に空間光変調器44に提示される位相変調分布の一例を示す図である。
図21図21は、図3に示される光ビーム発生装置4Aの構成において像面46上に複数の集光スポットを正方格子配列(θ=12°)する場合に空間光変調器44に提示される位相変調分布の一例を示す図である。
図22図22は、図4に示される光ビーム発生装置4Bの構成において像面46上に複数の集光スポットを正方格子配列(θ=12°)する場合に空間光変調器44に提示される位相変調分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0019】
先ず、量子シミュレータおよび量子シミュレーション方法について説明する。その後に、本実施形態において原子を捕捉して規則配列するための集光スポットを形成する光ビーム発生装置の詳細について説明する。
【0020】
図1は、量子シミュレータ100の構成を示す図である。量子シミュレータ100は、光刺激付与装置1、チャンバー2、原子ガス供給装置3、光ビーム発生装置4、光検出装置5および原子数検出装置6を備える。
【0021】
チャンバー2は、外部と内部との間で光を透過させる窓部(第1窓部21および第2窓部22)を有する。第1窓部21は光ビーム発生装置4と光学的に接続されている。第2窓部22は光刺激付与装置1と光学的に接続されている。なお、第1窓部と第2窓部とは共通の窓部によって構成されていてもよい。チャンバー2は、真空排気系により内部の気体を排気するための排気用開口23を有し、ポンプによる排気やゲッターによるガスの吸着などによって内部を超高真空の状態に維持することができる。チャンバー2は、原子ガス供給装置3から供給される原子ガスを内部に導入するための原子ガス導入用開口24を有する。また、チャンバー2は、光と磁場の作用により原子を捕捉するためのMOT用磁気回路を含む。MOTとは「Magneto-Optical Trap」の略語であり、光と磁場の作用により原子集団を捕捉する技術である。
【0022】
原子ガス供給装置3は、チャンバー2の内部へ原子ガスを供給する。原子ガス供給装置3は、真空ガラスセルの内部または周辺に配置された、所望の金属原子あるいは所望の原子を含む化合物などを加熱して気体状の原子を発生するヒータ、および、電流を加えることにより磁場を生成するコイルなどを有する磁気回路を含む。原子ガス供給装置3は、ヒータにより金属原子を加熱して原子ガスを生成し、真空ガラスセルに照射したレーザ光の光圧および光と磁場の作用により金属ガスを捕捉する。そして、原子ガス供給装置3は、その捕捉した原子ガスを別のレーザ光の照射による光圧で所定の位置に輸送して、チャンバー2の原子ガス導入用開口24からチャンバー2の内部へ原子ガスを供給する。
【0023】
光ビーム発生装置4は、第1窓部21からチャンバー2の内部へ光を入射させて、チャンバー2の内部の原子を捕捉するための集光スポットを形成する。光ビーム発生装置4から第1窓部21を経てチャンバー2の内部に入射される光ビームはレーザ光であるのが好適である。このレーザ光の光圧および光と磁場の作用によりチャンバー2の内部の原子を捕捉する。また、その捕捉した原子を他のレーザ光の光圧により所定の位置に輸送または配列してもよい。更に他のレーザ光および電波発生源からの電波により原子を励起してもよい。光ビーム発生装置4は、これらのレーザ光を発生させ、また、電波をも発生させる。光ビーム発生装置4による複数の集光スポットの形成についての詳細は後述する。
【0024】
光刺激付与装置1は、第2窓部22からチャンバー2の内部へ光を入射させて、チャンバー2の内部の集光スポットに捕捉された原子に光刺激を与える。この光刺激付与装置1は、例えば、特許文献1に記載されているように、擬似スペックルパターンを光刺激パターンとして生成してもよい。光刺激付与装置1は、制御部10、光源11、ビームエキスパンダ12、空間光変調器15およびレンズ16を含む。
【0025】
光源11は光を出力する。ビームエキスパンダ12は、光源11と光学的に接続され、光源11から出力される光のビーム径を拡大して出力する。空間光変調器15は、位相変調型のものであって、設定可能な位相の変調分布を有する。空間光変調器15は、ビームエキスパンダ12と光学的に接続され、光源11から出力されてビームエキスパンダ12によりビーム径を拡大された光を入力し、その入力した光を変調分布に応じて空間的に変調して、その変調後の光を出力する。
【0026】
レンズ16は、空間光変調器15と光学的に接続され、好適には高NAを有する対物レンズである。レンズ16は、空間光変調器15から出力された光を入力して、その光を第2窓部22からチャンバー2の内部へ入射させる。レンズ16は、チャンバー2の内部へ入射させた光によりチャンバー2の内部において光刺激パターンを再生する再生光学系である。制御部10は、2次元擬似乱数パターンに基づいて(好適には更に相関関数にも基づいて)得られる計算機ホログラムを空間光変調器15の変調分布として設定してもよい。
【0027】
空間光変調器15とレンズ16との間の光路上にダイクロイックミラー51が挿入されている。ダイクロイックミラー51は、光源11から出力される光を透過させ、チャンバー2の内部の原子で発生する蛍光等の光を透過させる。光検出装置5は、チャンバー2の内部の原子で発生する蛍光等の光のうち第2窓部22を透過してダイクロイックミラー51で反射された光を受光する。光検出装置5は、受光した光の強度を検出してもよいし、受光した光のスペクトル(例えば蛍光スペクトルや吸収スペクトル)を検出してもよい。また、光検出装置5は、これらの2次元画像を検出することができるCCDカメラであってもよい。
【0028】
原子数検出装置6は、チャンバー2の内部に設けられたイオン化電極61およびイオン検出器62を含む。原子数検出装置6は、イオン化電極61が形成する電場、もしくは適当な波長を有するひとつ以上のパルス光を外部から照射することにより、所定の状態にある原子をイオン化させ、そのイオンの個数をイオン検出器62により計数する。光検出装置5および原子数検出装置6それぞれは、イオン化条件を変化させながら生成イオン数を計測することにより、チャンバー2の内部において光刺激が原子に与える影響を検出することができる。
【0029】
上記のような構成を有する量子シミュレータ100を用いた量子シミュレーション方法は、原子ガス供給ステップ、光捕捉ステップ、光刺激付与ステップおよび検出ステップを含む。
【0030】
原子ガス供給ステップでは、真空状態とされたチャンバー2の内部へ原子ガス供給装置3により原子ガスを供給する。光捕捉ステップでは、チャンバー2の内部の原子を捕捉する光ビームを光ビーム発生装置4により発生させ、その光ビームを第1窓部21からチャンバー2の内部へ入射させて集光スポットを形成する。この集光スポットに原子を捕捉し、原子を輸送または配列し、または、原子を励起する。
【0031】
光刺激付与ステップでは、光刺激付与装置1により、第2窓部22からチャンバー2の内部へ入射させた光によりチャンバー2の内部の原子に光刺激を与える。この光刺激付与ステップでは、設定可能な位相の変調分布を有する空間光変調器15により、光源11から出力されてビームエキスパンダ12によりビーム径を拡大された光を変調分布に応じて空間的に変調して、その変調後の光を出力する。そして、空間光変調器15から出力された光を入力するレンズ16により、光刺激パターンをチャンバー2の内部において再生する。また、制御部10により、2次元擬似乱数パターンに基づいて(好適には更に相関関数にも基づいて)得られる計算機ホログラムを空間光変調器15の変調分布として設定してもよい。
【0032】
検出ステップでは、チャンバー2の内部において光刺激が原子に与える影響を検出装置(光検出装置5または原子数検出装置6)により検出する。光刺激付与後から検出までの時間差を変化させながら検出することで、光刺激が原子に与える影響を検出することができる。
【0033】
測定手段としては以下の3つの態様が可能である。測定手段1では、原子ガス供給装置3によりチャンバー2の内部に供給された原子を光ビーム発生装置4により規則性の有無を問わず配列させ、その原子の状態を光検出装置5または原子数検出装置6により測定する。測定手段2は、原子ガス供給装置3によりチャンバー2の内部に供給された原子を光ビーム発生装置4により規則性の有無を問わず配列させ、光刺激付与装置1により原子に光刺激を与え、所定時間が経過した後に原子の状態を光検出装置5または原子数検出装置6により測定する。また、測定手段3では、原子ガス供給装置3によりチャンバー2の内部に供給された原子を光ビーム発生装置4により規則性の有無を問わず配列させ、光刺激付与装置1による光刺激パターンの照射により原子を不規則に再配列させ、その再配列後の原子の状態を光検出装置5または原子数検出装置6により測定する。
【0034】
計測値としては以下の2つが可能である。計測値1は、光検出装置5による蛍光スペクトルまたは吸収スペクトルの計測値である。計測値2は、原子数検出装置6によるイオン数の計測値である。
【0035】
測定対象としては以下の4つの態様が可能である。測定対象1は、原子ガス供給装置3により供給された原子集団そのままである。測定対象2は、チャンバー2の内部に設けられたイオン化電極61によりイオン化された原子のイオン集団である。測定対象3はボーズアインシュタイン凝縮体(BEC: Bose-Einstein Condensation)である。BECは、光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部に導入された原子の捕捉の為のレーザ光の強度を徐々に弱くしたときに運動量の小さい原子のみを選択的に捕捉(蒸発冷却)することで生成される。測定対象4はリュードベリ原子(Rydberg atom)集団である。リュードベリ原子は、原子種に応じて適切に選択した1つ以上の波長のレーザ光または適切に選択した1つ以上の周波数の電波を光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部の原子に対して多段階に照射することで生成され、電子が主量子数10以上の軌道に励起された高励起状態の原子である。
【0036】
測定対象に対する光学操作としては以下の2つの態様が可能である。光学操作1は、光の定在波による光の格子パターンに基づく測定対象の操作である。光学操作2は、ホログラムの再生による光パターンに基づく測定対象の操作である。これらは、光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部に入射される光ビームにより行われる。
【0037】
測定対象に対する配列手段としては以下の7つの態様が可能である。配列手段1は、チャンバー2の内部においてMOTにより測定対象を配列させる。配列手段2は、チャンバー2の内部においてMOTにより測定対象を配列させた状態を維持し、別のレーザ光の照射による光圧で測定対象を所定の位置に配列させる。配列手段3は、チャンバー2の内部においてMOTにより測定対象を配列させた後にMOTを中断して、別のレーザ光の照射による光圧で測定対象を所定の位置に配列させる。配列手段4は、チャンバー2の内部においてMOTにより測定対象を配列させた状態を維持し、別のレーザ光の照射に光学操作1を施した光圧で測定対象を所定の位置に配列させる。配列手段5は、チャンバー2の内部においてMOTにより測定対象を配列させた後にMOTを中断して、別のレーザ光の照射に光学操作1を施した光圧で測定対象を所定の位置に配列させる。配列手段6は、チャンバー2の内部においてMOTにより測定対象を配列させた状態を維持し、別のレーザ光の照射に光学操作2を施した光圧で測定対象を所定の位置に配列させる。配列手段7は、チャンバー2の内部においてMOTにより測定対象を配列させた後にMOTを中断して、別のレーザ光の照射に光学操作2を施した光圧で測定対象を所定の位置に配列させる。
【0038】
上記の量子シミュレータ100および量子シミュレーション方法では、これらの測定手段1~3、計測値1,2、測定対象1~4、光学操作1,2および配列手段1~7を様々に組み合わせることにより、結晶構造の特徴を表すモデルを構築して、その結晶構造を研究することができる。すなわち、原子ガス供給ステップでは、原子ガス供給装置3からチャンバー2の内部へ原子ガスを供給し、光捕捉ステップでは、光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部へ光ビームを照射して、配列手段1~7の何れかによりチャンバー2の内部の原子を配列させる。また、光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部へ光ビームまたは電波を照射して、その配列させた原子を測定対象1~4の何れかに転化する。その後、光刺激付与ステップでは、光刺激付与装置1により、チャンバー2の内部の原子に光刺激を与えて、チャンバー2の内部の原子を再配列させたり揺らぎを与えたりする。そして、検出ステップでは、光検出装置5または原子数検出装置6を用いて、測定手段1~3の何れかにより、計測値1,2の何れかを取得する。これにより、無秩序性が測定対象または測定対象の配列に与える影響を解明することができる。
【0039】
より具体的な量子シミュレータ100の動作の一例および量子シミュレーション方法の一例は以下のとおりである。図2は、量子シミュレータ100の動作の一例および量子シミュレーション方法の一例を説明する図である。原子ガス供給装置3からチャンバー2の内部へ原子ガスを供給した後、光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部へ光ビームを照射して、例えば配列手段7によりチャンバー2の内部の原子を5行5列に2次元配列させる。さらに、光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部へポンプ光を照射して、その配列させた原子を測定対象4に転化する。ポンプ光を照射した時刻tをt=0とする。時刻t=tのタイミングで、光刺激付与装置1により、チャンバー2の内部に光刺激パターンを生成する。t=t以降の所定の時刻t=tにおいて、光ビーム発生装置4からチャンバー2内部の被測定地点へプローブ光を照射して、測定手段2により計測値2を取得する。ここで、プローブ光照射に対して、当該被測定地点における電子の存在確率に応じてイオンが生成されるため、原子ガスの供給から計測値2の取得までの手続きを複数回繰り返すことで、電子の存在確率を知ることが可能となる。さらに、プローブ光を照射する被測定地点の位置を変化させるとともに、プローブ光照射時刻t=tを時刻t=tなど様々な時刻に変化させつつ計測値2を蓄積することで、無秩序性が測定対象または測定対象中の電子分布に与える影響の空間および時間的な変化を追跡することができる。
【0040】
本実施形態の量子シミュレータ100または量子シミュレーション方法においては、光ビーム発生装置4は、入力された光を空間的に位相変調または振幅変調して出力する空間光変調器を用いて、チャンバー2の内部の像面上において原子を捕捉するための複数の集光スポットを1次元状または2次元状に規則配列して形成するものであって、これら複数の集光スポットの配列の仕方に特徴を有する。この光ビーム発生装置4は、例えばリュードベリ原子を規則配列させるのに好適なものである。
【0041】
図3は、光ビーム発生装置4の構成例を示す図である。この構成例の光ビーム発生装置4Aは、光源41、ビームエキスパンダ42、空間光変調器44およびレンズ45を備え、チャンバー2の内部の像面46上において原子を捕捉するための複数の集光スポットを1次元状または2次元状に規則配列して形成する。
【0042】
光源41は光を出力する。光源41はレーザ光源であるのが好適である。ビームエキスパンダ42は、光源41と光学的に接続され、光源41から出力される光のビーム径を拡大して空間光変調器44へ出力する。
【0043】
空間光変調器44は、ビームエキスパンダ42と光学的に接続されている。空間光変調器44は、光源41から出力されてビームエキスパンダ42によりビーム径を拡大された光を入力し、その入力した光を変調分布に応じて空間的に変調して、その変調後の光を出力する。空間光変調器44は、複数の画素が2次元配列されている変調面に入力された光を空間的に位相変調または振幅変調して出力する。変調面上の複数の画素それぞれは、一般に、第1方向または第2方向に平行な辺を有する長方形(正方形を含む。)の形状を有しており、第1方向および第2方向それぞれに沿って一定周期で配列されている。変調面における位相または振幅の変調分布は設定可能である。
【0044】
レンズ45は、空間光変調器44と光学的に接続されている。レンズ45は、空間光変調器44から出力された光を入力して、チャンバー2の内部の像面46上に原子を捕捉するための複数の集光スポットを1次元状または2次元状に規則配列して形成する。空間光変調器44は、このように像面46上において複数の集光スポットを規則配列して形成するための変調分布が設定される。
【0045】
図4は、光ビーム発生装置4の他の構成例を示す図である。図3に示される構成例の光ビーム発生装置4Aと比較すると、図4に示される構成例の光ビーム発生装置4Bは、レンズ45を備えていない点で相違する。光ビーム発生装置4Bの空間光変調器44に設定される変調分布は、光ビーム発生装置4Aにおいて空間光変調器44に設定される変調分布(複数の集光スポットを規則配列して形成するための変調分布)に、光ビーム発生装置4Aにおけるレンズ45の機能を実現する変調分布(フレネルレンズパターン)を加えたものである。
【0046】
図5は、光ビーム発生装置4の空間光変調器44の変調面における複数の画素の2次元配列を説明する図である。この図では、図示の簡便化の為に、実際より少ない8×8個の画素が示されている。この図に示されるように、空間光変調器44の変調面上の複数の画素それぞれは、一般に、第1方向(図中でu軸方向)または第2方向(図中でv軸方向)に平行な辺を有する概略長方形(正方形を含む。)の形状を有しており、第1方向(u軸方向)および第2方向(v軸方向)それぞれに沿って一定周期で配列されている。
【0047】
図6は、像面46における複数の集光スポットの配列を説明する図である。この図に示されるように、像面46において複数の集光スポットは規則配列されている。この図は、9×9個の集光スポットが正方格子状に配列されている例を示している。各集光スポットの光強度分布は、一般に、強度が最大である中心位置から離れるに従って強度が次第に小さくなり、例えばガウシアン分布で近似することができる。各集光スポットによる原子捕捉領域のサイズdは、例えば、量子シミュレーションを行う際に捕捉する原子の熱振動幅に基づいて設定される。
【0048】
図6中に示された像面46上のxy座標系のx軸,y軸は、図5中に示された空間光変調器44の変調面上のu軸,v軸が像面46上に投影されたものに平行である。像面46上のx軸は変調面上のu軸に平行であり、像面46上のy軸は変調面上のv軸に平行である。図6に示されるように、像面46における複数の集光スポットの規則配列は、基本ベクトルaおよび基本ベクトルbで表される基本軸を有する。基本ベクトルa,bそれぞれの方向は、x軸方向およびy軸方向の何れとも平行ではない。基本ベクトルa,bそれぞれの方向は、互いに直交している場合もあり、互いに直交していない場合もある。基本ベクトルa,bそれぞれの長さは、互いに等しい場合もあり、互いに異なる場合もある。一方の基本ベクトルaがx軸方向に対してなす角度をθとする。
【0049】
像面46における複数の集光スポットそれぞれの中心位置は、上記の基本ベクトルa,b、全体の平行移動を表すベクトルc、および、各集光スポットを識別する整数m,nを用いて、ma+nb+cの形式でベクトル表示することができる。図6では、c=0としている。基本ベクトルa,bおよび整数m,nは、複数の集光スポットの規則配列の態様によって異なる。規則配列の態様として、矩形格子配列、正方格子配列、三角格子配列、カゴメ格子配列および六角格子配列が例示される。
【0050】
図7は、像面46における複数の集光スポットの配列を更に詳細に説明する図である。この図では、像面46上の複数の集光スポットのうちの任意の二つの集光スポット47,48が示されている。空間光変調器44の各画素の形状に起因して、集光スポット47の周辺にノイズとなるサイドローブ47aが形成され、このとき、集光スポット47およびサイドローブ47aそれぞれの中心位置はx座標値またはy座標値が互いに等しい。このサイドローブ47aが他の集光スポット48と重なると、集光スポット48により捕捉しようとした原子の位置(または領域)は、サイドローブ47aの領域まで拡がることになる。これにより、複数の原子の規則配列が意図したものにならず、量子シミュレーションの精度が低下する可能性がある。
【0051】
このような問題点を解消する為に、本実施形態では、光ビーム発生装置4は、像面46上において複数の集光スポットを形成する際に、複数の集光スポットそれぞれの中心位置のx座標値の差の最小値δxminおよびy座標値の差の最小値δyminが非重複距離より長くなるようにする。
【0052】
すなわち、複数(K個)の集光スポットのうちの第k1の集光スポットの中心位置の座標値を(xk1,yk1)とし、第k2の集光スポットの中心位置の座標値を(xk2,yk2)として、これら二つの中心位置のx座標値の差δx=|xk1-xk2|およびy座標値の差δy=|yk1-yk2|を求める。複数の集光スポットのうちから選択される二つの集光スポットの組合せについて中心位置のx座標値の差δxを求めて、これらのうちの最小値δxminを求める。同様にして最小値δyminを求める。δxminは、或る集光スポットの中心位置と他の集光スポットの中心位置との間のx軸方向の距離の最小値を表す。δyminは、或る集光スポットの中心位置と他の集光スポットの中心位置との間のy軸方向の距離の最小値を表す。ここで複数の集光スポットのうちから選択される二つの集光スポットの組合せは、一方の集光スポットのサイドローブが他方の集光スポットに重なったときに原子の捕捉に影響を与える可能性がある組合せを少なくとも含み、全ての二つの集光スポットの組合せを含んでもよい。
【0053】
非重複距離は、或る集光スポットのサイドローブが他の集光スポットによる原子の捕捉に干渉しない(影響を与えない)ようにする為に必要な両者の中心位置の間隔である。具体的には、各集光スポットによる原子捕捉領域のサイズd、光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部へ入射させる光の波長λ、および、光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部へ光を入射させる光学系の開口数NAを用いて、非重複距離Dは、D=d/2+λ/(2NA) なる式で表すことができる。この式の右辺の第2項は、サイドローブの半径を表している。
【0054】
図8は、像面46上において複数の集光スポットそれぞれの中心位置のx座標値の差の最小値δxminおよびy座標値の差の最小値δyminが非重複距離Dより長くなるようにすることができる角度θを求める処理のフローチャートである。ステップS1では、角度θを初期値の0°として、複数の集光スポットの中心位置を所望の態様の格子状に規則配列する。ステップS2では、複数の集光スポットのうちから選択される二つの集光スポットの組合せについて中心位置のx座標値の差δxおよびy座標値の差δyを求める。ステップS3では、δxのうちの最小値δxminが非重複距離Dより長いか否かを判定するとともに、δyのうちの最小値δyminが非重複距離Dより長いか否かを判定して、δxmin>D且つ δymin>D を満たす場合の角度θを記憶する。ステップS4では、角度θが90°以上であるか否かを判断する。ステップS4で角度θが90°以上でないと判断された場合には、ステップS5で角度θをδθだけ大きくして、その新たな角度θについてステップS2以降の処理を繰り返す。ステップS4で角度θが90°以上であると判断された場合には、処理を終了する。
【0055】
次に、複数の集光スポットの規則配列を矩形格子配列、正方格子配列、正三角格子配列、カゴメ格子配列および六角格子配列それぞれとした場合の実施例について説明する。図9は、実施例で用いた矩形格子配列、正方格子配列、正三角格子配列、カゴメ格子配列および六角格子配列を纏めた表である。この表には、それぞれの格子配列について、基本ベクトルaと基本ベクトルbとがなす角、θ=0およびθ=αそれぞれとした場合の基本ベクトルa、θ=0およびθ=αそれぞれとした場合の基本ベクトルb、ならびに、整数m,nの集合が示されている。基本ベクトルa,bの長さ比βは、実施例1の矩形格子配列では1.2とし、実施例2の正方格子配列では1とした。表中のLは、各集光スポットの中心位置の最小間隔である。
【0056】
実施例1では、複数の集光スポットの規則配列を矩形格子配列とした。実施例2では、複数の集光スポットの規則配列を正方格子配列とした。実施例3では、複数の集光スポットの規則配列を正三角格子配列とした。実施例4では、複数の集光スポットの規則配列をカゴメ格子配列とした。実施例5では、複数の集光スポットの規則配列を六角格子配列とした。実施例1~5の何れにおいても、各集光スポットによる原子捕捉領域のサイズdを0.2μmとし、各集光スポットの中心位置の最小間隔Lを10μmとし、光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部へ入射させる光の波長λを0.9μmとし、光ビーム発生装置4からチャンバー2の内部へ光を入射させる光学系の開口数NAを0.5とし、非重複距離Dを1.0μmとした。
【0057】
図10は、実施例1でθ=0°としたときの複数の集光スポットの矩形格子配列を示す図である。図11は、実施例1でδxmin>D 且つ δymin>D を満たす角度θの範囲においてδxminの値およびδyminの値を示す図である。
【0058】
図12は、実施例2でθ=0°としたときの複数の集光スポットの正方格子配列を示す図である。図13は、実施例2でδxmin>D 且つ δymin>D を満たす角度θの範囲においてδxminの値およびδyminの値を示す図である。
【0059】
図14は、実施例3でθ=0°としたときの複数の集光スポットの正三角格子配列を示す図である。図15は、実施例3でδxmin>D 且つ δymin>D を満たす角度θの範囲においてδxminの値およびδyminの値を示す図である。
【0060】
図16は、実施例4でθ=0°としたときの複数の集光スポットのカゴメ格子配列を示す図である。図17は、実施例4でδxmin>D 且つ δymin>D を満たす角度θの範囲においてδxminの値およびδyminの値を示す図である。
【0061】
図18は、実施例5でθ=0°としたときの複数の集光スポットの六角格子配列を示す図である。図19は、実施例5でδxmin>D 且つ δymin>D を満たす角度θの範囲においてδxminの値およびδyminの値を示す図である。
【0062】
図10図12図14図16および図18それぞれにおいて、図中の丸印は像面上における集光スポットを示している。図11図13図15図17および図19それぞれにおいて、横軸は角度θであり、縦軸はδxmin,δyminであり、δxminの値を丸印で示し、δyminの値を+印で示している。
【0063】
これらの図から分かるように、実施例1~5の何れにおいても、δxmin>D且つ δymin>D を満たす角度θの範囲は、θ=0°~90°の間で不連続に複数存在し、また、θ=45°を中心として対称に存在する。角度θの設定の精度が低い場合であっても、δxmin>D 且つ δymin>D を連続して満たす角度θの範囲が広く、この範囲の中心角度付近に設定すれば、δxmin>D 且つ δymin>D を確実に満たすことができる。例えば、図10および図11に示される実施例1(矩形格子配列)では、大凡θ=6°~14°の角度範囲で連続してδxmin>D 且つ δymin>D を満たすので、この範囲の中心角度であるθ=10°付近に設定するのが好ましい。
【0064】
図20は、図3に示される光ビーム発生装置4Aの構成において像面46上に複数の集光スポットを正方格子配列(θ=0°)する場合に空間光変調器44に提示される位相変調分布の一例を示す図である。図21は、図3に示される光ビーム発生装置4Aの構成において像面46上に複数の集光スポットを正方格子配列(θ=12°)する場合に空間光変調器44に提示される位相変調分布の一例を示す図である。図22は、図4に示される光ビーム発生装置4Bの構成において像面46上に複数の集光スポットを正方格子配列(θ=12°)する場合に空間光変調器44に提示される位相変調分布の一例を示す図である。図22の変調分布は、レンズ機能を実現する変調分布(フレネルレンズパターン)を図21の変調分布に加えたものである。これらの図は、空間光変調器44の変調面の各画素における位相変調の大きさを濃淡で示している。何れの場合も、像面46上において複数の集光スポットを正方格子配列することができる。
【0065】
以上のとおり、本実施形態では、光ビーム発生装置4は、像面46上において複数の集光スポットを形成する際に、複数の集光スポットそれぞれの中心位置のx座標値の差の最小値δxminおよびy座標値の差の最小値δyminが非重複距離Dより長くなるようにする。これにより、或る集光スポットのサイドローブが他の集光スポットによる原子の捕捉に干渉しない(影響を与えない)ようにすることができるので、複数の原子の規則配列を高精度に行うことができ、量子シミュレーションの精度を改善することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…光刺激付与装置、10…制御部、11…光源、12…ビームエキスパンダ、15…空間光変調器、16…レンズ。
2…チャンバー、21…第1窓部(窓部)、22…第2窓部(窓部)、23…排気用開口、24…原子ガス導入用開口。
3…原子ガス供給装置。
4,4A,4B…光ビーム発生装置、41…光源、42…ビームエキスパンダ、44…空間光変調器、45…レンズ、46…像面。
5…光検出装置、51…ダイクロイックミラー。
6…原子数検出装置、61…イオン化電極、62…イオン検出器。
100…量子シミュレータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
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図22