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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/356 20140101AFI20240701BHJP
   B23K 26/146 20140101ALI20240701BHJP
【FI】
B23K26/356
B23K26/146
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020572314
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2020005629
(87)【国際公開番号】W WO2020166670
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019023641
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「マイクロチップレーザーの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】平等 拓範
(72)【発明者】
【氏名】佐野 雄二
(72)【発明者】
【氏名】鄭 麗和
(72)【発明者】
【氏名】林 桓弘
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/135082(WO,A1)
【文献】特開2011-064503(JP,A)
【文献】米国特許第06057003(US,A)
【文献】特開2010-248634(JP,A)
【文献】特開2015-93284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0161930(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工領域に液体を介してパルスレーザ光を照射することによって、前記加工領域をレーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理するためのレーザ加工装置であって、
前記パルスレーザ光を出力するレーザ発振器を有するレーザ照射部と、
前記液体を前記加工領域に噴射する噴射口を有しており、前記レーザ発振器を有する前記レーザ照射部を収容する水噴射部と、
を備え、
前記パルスレーザ光のパルス幅は、200ps~2nsであり、
前記レーザ発振器から出力された前記パルスレーザ光は、前記噴射口から噴射される液体内を通って前記加工領域に照射される、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記レーザ照射部は、前記レーザ発振器で生成された前記パルスレーザ光を前記加工領域に集光する集光部を有する、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記パルスレーザ光は、偏光状態が非定常なレーザ光である、
請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記パルスレーザ光は、楕円偏光若しくは無偏光のレーザ光またはマルチモードのレーザ光である、
請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザを用いた加工方法として、レーザピーニング処理を用いた加工方法が知られている(特許文献1参照)。レーザピーニング処理は、液体(例えば水)中に配置された被加工物の加工領域又は液膜(例えば水膜)で覆われた被加工物の加工領域に高強度のパルスレーザを照射したときの衝撃力を利用して上記加工領域の表面を強化する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-246468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザピーニング処理では、被加工物の加工領域に液体を介して高強度のパルスレーザを照射する。そのため、加工領域上の液体とパルスレーザ光の電場との相互作用によって液中に音響格子が形成される場合があった。このように音響格子が形成されると、誘導ブリルアン散乱(SBS: Stimulated Brillouin Scattering)が生じ、その結果、レーザ光を有効に利用できないという問題点がある。ここでは、レーザピーニング処理に着目して説明したが、被加工物の加工領域に液体を介して高強度のパルスレーザ光を照射して、上記加工領域にレーザフォーミング処理を施す場合も同様の問題が生じる。
【0005】
本発明は、レーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理においてレーザ光のエネルギーを有効に利用可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、パルスレーザ光のパルス幅が2ns以下であれば、SBSの影響を低減できる点を見いだして本発明に至った。
【0007】
本発明の一側面に係るレーザ加工装置は、被加工物の加工領域に液体を介してパルスレーザ光を照射することによって、上記加工領域をレーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理するためのレーザ加工装置であって、上記パルスレーザ光を出力するレーザ発振器を有するレーザ照射部と、上記液体を上記加工領域に噴射する噴射口を有しており、上記レーザ照射部を収容する収容部と、を備え、上記パルスレーザ光のパルス幅は、200ps~2nsであり、上記レーザ発振器から出力された上記パルスレーザ光は、上記噴射口から噴射される液体内を通って上記加工領域に照射される。
【0008】
上記構成では、収容部の噴射口から液体を噴射しながら加工領域にパルスレーザ光を照射できるので、加工領域にレーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理を施せる。パルスレーザ光のパルス幅が200ps~2nsであることから、液体を介して加工領域にパルスレーザ光を照射してもSBSの影響を低減できる。その結果、レーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理においてパルスレーザ光のエネルギーを有効に利用可能である。更に、上記レーザ発振器から出力された上記パルスレーザ光は、上記噴射口から噴射される液体内を通って上記加工領域に照射される。そのため、例えばパルスレーザ光が、加工領域上に形成された液膜に大気を介して入射する場合とは異なり、上記液膜と大気との境界における屈折・反射が生じない。この点でも、パルスレーザ光のエネルギーを有効に利用可能である。
【0009】
上記レーザ照射部は、上記レーザ発振器で生成された上記パルスレーザ光を上記加工領域に集光する集光部を有してもよい。これにより、加工領域でレーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理に必要なレーザ強度をより確実に確保可能である。
【0010】
上記パルスレーザ光は、偏光状態が非定常なレーザ光であってもよい。パルスレーザ光の偏光状態が非定常であれば、偏光状態が定常な直線偏光の場合に比べて、加工領域に噴射された液体中に音響格子が形成されにくい。よって、SBSの影響を一層低減できる。本明細書において、偏光状態が非定常なレーザ光とは、偏光状態が時間的及び空間的の少なくとも一方において変化するレーザ光を意味する。偏光状態が非定常なレーザ光としては、楕円偏光又は無偏光なレーザ光、光渦、ベクトルビームなどである。
【0011】
本発明の他の側面に係るレーザ加工方法は、被加工物の加工領域に液体を介してパルスレーザ光を照射することによって、上記加工領域をレーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理するレーザ加工方法であって、上記パルスレーザ光のパルス幅は、200ps~2nsであり、上記パルスレーザ光は偏光状態が非定常なレーザ光である。
【0012】
上記方法では、パルスレーザ光のパルス幅が200ps~2nsであることから、液体を介して加工領域にパルスレーザ光を照射してもSBSの影響を低減できる。パルスレーザ光の偏光状態が非定常であれば、例えば直線偏光の場合に比べて、液体中に音響格子が形成されにくい。上記方法で使用するパルスレーザ光の偏光状態は非定常であることから、この点でもSBSの影響を低減できる。したがって、上記方法では、レーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理においてパルスレーザ光のエネルギーを有効に利用可能である。
【0013】
上記レーザ加工方法の一実施形態において、パルスレーザ光は、マルチモードのレーザ光であってもよい。マルチモードのレーザ光は、シングルモードのレーザ光より液体中に音響格子が形成されにくい。したがって、パルスレーザ光が、マルチモードのレーザ光である場合、SBSの影響を一層低減できる。
【0014】
本発明に係るレーザ加工方法の他の例(以下、「他のレーザ加工方法」とも称す)は、被加工物の加工領域に液体を介してパルスレーザ光を照射することによって、上記加工領域をレーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理するレーザ加工方法であって、上記パルスレーザ光のパルス幅は、200ps~2nsであり、上記パルスレーザ光は、マルチモードのレーザ光である。
【0015】
上記他のレーザ加工方法では、パルスレーザ光のパルス幅が200ps~2nsであることから、液体を介して加工領域にパルスレーザ光を照射してもSBSの影響を低減できる。パルスレーザ光がマルチモードのレーザ光である点でも、SBSの影響を低減できる。したがって、上記他のレーザ加工方法では、レーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理においてパルスレーザ光のエネルギーを有効に利用可能である。
【0016】
本発明に係るレーザ加工装置の他の例(以下、「他のレーザ加工装置」とも称す)は、被加工物の加工領域に液体を介してパルスレーザ光を照射することによって、上記加工領域をレーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理するためのレーザ加工装置であって、上記パルスレーザ光を出力するレーザ照射部を備え、上記パルスレーザ光のパルス幅は、200ps~2nsであり、上記パルスレーザ光は、偏光状態が非定常なレーザ光である。
【0017】
上記他のレーザ加工装置では、パルスレーザ光のパルス幅が200ps~2nsであることから、液体を介して加工領域にパルスレーザ光を照射してもSBSの影響を低減できる。上記他のレーザ加工装置のパルスレーザ光の偏光状態は非定常である点でもSBSの影響を低減できる。したがって、上記他のレーザ加工装置では、レーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理においてパルスレーザ光のエネルギーを有効に利用可能である。
【0018】
上記他のレーザ加工装置の一実施形態では、上記パルスレーザ光は、マルチモードのレーザ光であってもよい。この場合、SBSの影響を一層低減可能である。
【0019】
上記他のレーザ加工装置の一実施形態では、上記パルスレーザ光は、楕円偏光又は無偏光であり、上記レーザ照射部は、上記パルスレーザ光を出力するレーザ発振器を有してもよい。この場合も、SBSの影響を一層低減可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、レーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理においてレーザ光のエネルギーを有効に利用可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図面である。
図2図2は、図1に示したレーザ加工装置が有するレーザ照射部の一例の概略構成を示す図面である。
図3図3は、レーザ加工装置の他の例の概略構成を示す図面である。
図4図4は、レーザ加工装置の更に他の例の概略構成を示す図面である。
図5図5は、レーザ加工装置の更に他の例の概略構成を示す図面である。
図6図6は、図2に示したレーザ照射部の他の例の概略構成を示す図面である。
図7図7は、レーザ発振器の他の例の概略構成を示す図面である。
図8図8は、図7に示したレーザ発振器から出力されるパルスレーザ光の一例を示す模式図である。
図9図9は、図7に示したレーザ発振器の第1変形例の概略構成を示す図面である。
図10図10は、図7に示したレーザ発振器の第2変形例の概略構成を示す図面である。
図11図11は、図7に示したレーザ発振器の第3変形例の概略構成を示す図面である。
図12図12は、図7に示したレーザ発振器の第3変形例の他の例の概略構成を示す図面である。
図13図13図7に示したレーザ発振器の第5変形例の略構成を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。以下、本明細書において「楕円偏光」の意味には、楕円偏光の一形態である「円偏光」も含む。
【0023】
図1に示したレーザ加工装置1は、被加工物100の加工領域A(破線で囲んだ領域)にパルスレーザ光Lを照射して加工領域Aにレーザピーニング処理を施すための装置である。被加工物100は、例えば3次元形状を有する構造物である。レーザ加工装置1は、水噴射部(収容部)2と、レーザ照射部3とを備える。
【0024】
水噴射部2は、水4を噴射する噴射口2aが一端に形成された中空体である。水噴射部2は、例えば水噴射ノズルである。水噴射部2は、水噴射部2のパイプ接続部2bに接続されたパイプ(水流路)Pから供給される水4を加工領域Aに噴射口2aから噴射する。パイプPの水噴射部2側と反対側の端は、水供給源に接続されていればよい。
【0025】
レーザ照射部3は、水噴射部2内に収容されている。レーザ照射部3は、レーザ発振器10と、集光レンズ(集光部)5と、筐体6とを有する。
【0026】
レーザ発振器10は、楕円偏光のパルスレーザ光Lを出力する。レーザ発振器10は、共振器、共振器内に配置されるレーザ媒質、及びパルスレーザ光Lを生成するためのパルス生成部(例えばQスイッチ素子)を有する。レーザ発振器10が生成するパルスレーザ光Lのパルス幅は、200ps~2nsである。上記パルス幅は、たとえば、400ps~2nsであってもよい。パルス幅の上限は、1.5nsでもよい。パルスレーザ光Lの強度の例は、レーザピーニング処理に要する強度であればよいが、例えば被加工物の加工領域で5TW/m以上である。パルスレーザ光Lの強度の上限は、例えば被加工物の加工領域で100TW/mである。レーザ発振器10は、マルチモードのパルスレーザ光Lを出力してもよい。
【0027】
レーザ発振器10は、水噴射部2の外部に配置された励起部7から光ファイバFを介して励起光L0(図2参照)が供給されることによって、楕円偏光のパルスレーザ光Lを生成する。励起部7は、励起光源(例えば、レーザダイオードといった半導体レーザ素子)、その励起光源を駆動するドライバ及び励起光源からの励起光L0を光ファイバFに入射するための光学系を有すればよい。図2を利用して、レーザ発振器10の一例を説明する。
【0028】
レーザ発振器10は、複数のヒートシンク(透明伝熱体)14と複数のレーザ媒質15とが交互に積層された積層体11と、パルス生成部であるQスイッチ素子12と、レーザ発振器10における共振器の一部を構成するミラー13と、偏光状態を調整する偏光調整素子19を有する。
【0029】
説明の便宜のため、ヒートシンク14及びレーザ媒質15の積層方向をX方向と称し、X方向に直交する2つの方向をY方向及びZ方向と称す。Y方向及びZ方向は直交する。レーザ発振器10では、X方向に沿って、積層体11、Qスイッチ素子12、ミラー13及び偏光調整素子19がこの順に配置されている。
【0030】
一例として、レーザ発振器10では、波長808nmの連続発振の励起光L0が、X方向における一端側(図2中右側)からX方向に沿って入力されると、X方向における他端側(図2中左側)からパルスレーザ光Lが出力される。
【0031】
積層体11が有する複数のヒートシンク14と複数のレーザ媒質15は交互にX方向に沿って積層されている。換言すれば、ヒートシンク14とレーザ媒質15とはX方向において交互に並んでいる。図2に示した積層体11では、X方向において、積層体11の一端側はヒートシンク14であり、他端側はレーザ媒質15である。
【0032】
ヒートシンク14及びレーザ媒質15は、X方向を厚さ方向とする板状を呈する。例えばヒートシンク14は、厚さが1mm、縦寸法が10mm、横寸法が10mmの平板状を呈する。例えばレーザ媒質15は、厚さが1mm、縦寸法が8mm、横寸法が8mmの平板状を呈する。ヒートシンク14とレーザ媒質15とは、接着剤を介さずに接合(換言すると、直接接合)されている。本実施形態では、ヒートシンク14とレーザ媒質15とは、常温接合されている。
【0033】
ヒートシンク14及びレーザ媒質15は、レーザ発振器10が出力するパルスレーザ光Lに対して透明である。本明細書において、ある光(以下、本明細書において「特定光」と称す場合もある)に対して透明(以下、単に「透明」ともいう)とは、特定光が透過することを意味し、具体的には、特定光が強度を維持して通過することを意味する。例えば透明とは、ここでは、特定光に対する透過率(Fresnel損失分を差し引いた正味の透過率)が95%以上をいい、具体的には、97%以上であることをいう。このことは、以下の「透明」において同様である。ヒートシンク14及びレーザ媒質15の少なくとも一方は酸化物を有する。
【0034】
ヒートシンク14は、レーザ媒質15の熱を放熱する機能を有する。ヒートシンク14の材料は、レーザ媒質15に比較し熱伝導率が同程度か又は高い物質である。ヒートシンク14の材料の例は、サファイア、ダイアモンド及び無添加YAGを含む。ヒートシンク14は酸化物を含んでいてもよい。
【0035】
レーザ媒質15は、励起状態において増幅が吸収を上回る反転分布を形成し、誘導放出を利用して光を増幅させる物質である。レーザ媒質15は、利得媒質とも称される。レーザ媒質15には、既知の種々のレーザ媒質が利用可能である。
【0036】
レーザ媒質15の材料の例は、発光中心となる希土類イオンを添加した酸化物から形成される光利得材料、発光中心となる遷移金属イオンを添加した酸化物から形成される光利得材料、カラーセンターとなる酸化物から形成される光利得材料等を含む。
【0037】
上記希土類イオンの例は、Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybを含む。遷移金属イオンの例は、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuを含む。母体材料の例は、YAG,YSAG,YGAG,YSGG,GGG,GSGG,LuAGなどのガーネット系、YLF,LiSAF,LiCAF,MgF,CaFなどのフッ化系、YVO,GdVO,LuVOなどのバナデート系、FAP,sFAP,VAP,sVAPなどのアパタイト系、Al、BeAlなどのアルミナ系、Y,Sc,Luなどの二三酸化物系、KGW,KYWなどのタングステート系を含む。母体材料は、単結晶であってもよいし多結晶セラミック材料であってもよい。母体材料は、非晶質の各種ガラスなどでもよい。
【0038】
積層体11において、ヒートシンク14とレーザ媒質15との屈折率差が大きい(例えば屈折率差が9%以上)場合には、ヒートシンク14及びレーザ媒質15において互いに対向する面の少なくとも一方には、屈折率差を低減するための中間層を形成してもよい。
【0039】
本実施形態において、ヒートシンク14の材料はサファイアであり、レーザ媒質15の材料はNd:YAGである。この場合、上記中間層は不要である。
【0040】
積層体11が有する複数のヒートシンク14のうち、X方向における一端側(Qスイッチ素子12と反対側、図2中右端)のヒートシンク14の一端側の表面には、第1コーティング層16が形成されている。第1コーティング層16は、誘電多層膜であり、励起光L0の波長に対しては無反射で、且つ、パルスレーザ光Lの波長に対しては高反射の反射特性を有する。第1コーティング層16が形成されたヒートシンク14は、ミラー13とともに共振器を構成する。換言すれば、第1コーティング層16が形成されたヒートシンク14はミラー13と対を為すミラーとしても機能する。
【0041】
ヒートシンク14及びレーザ媒質15には、ヒートシンク14及びレーザ媒質15の各界面での反射特性を所望に調整するために種々のコーティング層が設けられてもよい。
【0042】
上記積層体11は、例えば次のようにして製造され得る。まず、複数のヒートシンク14及び複数のレーザ媒質15を用意する。複数のヒートシンク14のうちの一つのヒートシンク14の表面に第1コーティング層16を成膜する。当該成膜には、公知の種々の成膜手法を採用できる。次に、複数のヒートシンク14及び複数のレーザ媒質15を、それらが交互に並ぶように積層(複数配置)しつつ、ヒートシンク14及びレーザ媒質15を、接着剤を介さずに互いに接合する。これによって、積層体11が得られる。複数のヒートシンク14及び複数のレーザ媒質15を積層する際には、第1コーティング層16が成膜されたヒートシンク14を一端に配置し、他端にレーザ媒質15を配置する。ヒートシンク14及びレーザ媒質15との接合は、表面活性化常温接合を用いることができる。表面活性化常温接合(以下、単に「常温接合」ともいう)は、真空中で接合する材料の接合面の酸化膜又は表面付着物をイオンビーム照射又はFAB(中性原子ビーム)照射によって除去し、平坦で構成原子の露出した接合面同士を接合するという手法である。常温接合は、分子間結合を利用した直接接合である。
【0043】
Qスイッチ素子12は、X方向において、積層体11とミラー13との間に配置されている。Qスイッチ素子12は、Qスイッチ素子12に入射する光強度が増大すると吸収能力が飽和する特性を有する可飽和吸収体である。Qスイッチ素子12は、パルスレーザ発振に使用されるQスイッチ素子であればよい。よって、Qスイッチ素子12の材料は、パルスレーザ発振に使用されるQスイッチ素子の材料でよい。本実施形態においてQスイッチ素子12の材料はCr:YAGである。
【0044】
ミラー13は、ヒートシンク14と、ヒートシンク14の一表面に形成された第2コーティング層17を有する。ヒートシンク14は、第2コーティング層17を支持する基板としても機能する。第2コーティング層17は、共振器の一部として機能するように構成された誘電体多層膜である。第2コーティング層17を支持する基板は透明基板であれば、ヒートシンク14である必要はない。第2コーティング層17は、第1コーティング層16の場合と同様にして成膜され得る。図2では、Qスイッチ素子12に臨む表面に第2コーティング層17が形成されているが、反対側の表面に形成されていてもよい。
【0045】
偏光調整素子19は、ミラー13に対してQスイッチ素子12と反対側に配置されている。偏光調整素子19は、ミラー13を通過したパルスレーザ光を所望の偏光状態に変換するための素子である。本実施形態の偏光調整素子19は、λ/4板である。例示した本実施形態の構成では、ミラー13を通過したパルスレーザ光の偏光状態は直線偏光であるため、偏光調整素子19によって、楕円偏光に変換されて出力される。
【0046】
図2に例示したレーザ発振器10では、高出力で且つ楕円偏光のパルスレーザ光Lを出力しながら、例えば人の手に載る程度の小型化(例えば、図2のX方向の長さが200mm以下、Y方向の長さが100mm以下、Z方向の長さが100mm以下である大きさ)を実現できる。
【0047】
複数のヒートシンク14と複数のレーザ媒質15の積層構造を備えており且つ楕円偏光のパルスレーザ光Lを出力するレーザ発振器10の構成は、図2に示した形態に限定されない。上記積層構造を備えたレーザ発振器10は、上記積層構造の他、Qスイッチ素子12といったパルス生成部と、共振器とを有していればよい。例えば、図2に示した積層体11においてQスイッチ素子12と対向するレーザ媒質15に第2コーティング層17が形成されたヒートシンク14が更に積層されていてもよい。この場合、ミラー13は不要である。図2に示した構成では、第1コーティング層16及び第2コーティング層17が実質的に共振器として機能する。第1コーティング層16及び第2コーティング層17は、それらの間に一定の共振器長が得られるように配置されていればよい。ヒートシンク14及びレーザ媒質15の数は、図2に示した数に限定されない。
【0048】
レーザ発振器10は、図2に示したように筐体18を有してもよい。筐体18の材料の例は、アルミニウム合金である。筐体18は、筒状部18aと、筒状部18aの一方の開口を塞ぐ端壁18bとを有する。複数のヒートシンク(透明伝熱体)14と積層体11とQスイッチ素子12と偏光調整素子19は、パルスレーザ光Lの出射側(図2に示した構成では偏光調整素子19側)が、筒状部18aにおける他方の開口側(端壁18bと反対側)に位置するように筐体18内に配置される。この場合、例えば、図2に示したように、端壁18bに光ファイバFを挿通し、積層体11に励起光L0を供給する。
【0049】
筒状部18aの大きさは、例えば、複数のヒートシンク14が筒状部18aの内面に接する大きさであって、且つ、筒状部18aの外面が筐体6に接する大きさであってもよい。この場合、レーザ媒質15で発生した熱は効率よくヒートシンク14、筐体18及び筐体6を介して水4に伝わる。そのため、レーザ発振器10を、水噴射部2内の水4によって効率的に冷却できる。
【0050】
筒状部18aをX方向からみた形状(筒状部18aの軸線に直交する断面の形状)は、例えば、ヒートシンク14の形状と同じとし得る。筒状部18aをX方向からみた形状の例は、四角形(矩形状、正方形状など)、円形等を含む。以下の説明では、断らない限り、レーザ発振器10が筐体18を有する形態では、ヒートシンク14は、筐体18の内面に接している。
【0051】
図1に示した筐体6は、レーザ発振器10を収容する中空体である。筐体6の材料の例は、アルミニウム合金である。筐体6は、水噴射部2内に配置される。そのため、水噴射部2内の水4が筐体6内に浸入しないように密閉されている。
【0052】
集光レンズ5は、筐体6の前壁(噴射口2a側の壁)に取り付けられている。集光レンズ5は、本実施形態において、レーザ発振器10から出力されるパルスレーザ光Lを集光する集光部である。図1には、集光レンズ5が筐体6の前壁に取り付けられている形態を例示しているが、例えば、集光レンズ5は、筐体6内に収容されており、前壁に、パルスレーザ光Lに対して透明な部材が配置されていてもよい。
【0053】
図1では、水噴射部2は、被加工物100にクランプ101を介して取り付けられたマニピュレータ102に保持されており、マニピュレータ102で被加工物100における加工領域Aと相対位置関係が調整される。
【0054】
図1に示したレーザ加工装置1を利用した加工領域Aの加工方法を説明する。マニピュレータ102の操作により、水噴射部2から水4が加工領域Aに向けて噴射されるように水噴射部2を配置する。その後、パイプPを通して水噴射部2内に水4を供給しながら、噴射口2aから水4を加工領域Aに向けて噴射する。このように水4を噴射しつつ、励起部7からの励起光L0をレーザ発振器10に供給することによって、レーザ発振器10からパルスレーザ光Lを出力する。パルスレーザ光Lは、集光レンズ5によって集光されるとともに、噴射口2aから噴射される水4の中を通って加工領域Aに照射される。加工領域Aには水4が噴射されているので、水4で覆われた加工領域Aにパルスレーザ光Lが照射される。これにより、パルスレーザ光Lの照射によって加工領域Aに生じる高圧のプラズマの膨張が加工領域Aを覆う水で妨げられる。その結果、上記プラズマの高圧状態が維持され、その高圧プラズマによって加工領域Aが加工される。すなわち、レーザピーニング処理が加工領域Aに施される。
【0055】
レーザピーニング処理は、上述したように水を通して加工領域Aに高強度のパルスレーザ光Lを照射することによって加工領域Aを加工する処理である。本願発明者らは、パルスレーザ光の強度がある強度(例えば1TW/m)を超えてくると、水分子とレーザ光との相互作用により音響格子が水中に形成され、その結果、パルスレーザ光の誘導ブリルアン散乱(SBS: Stimulated Brillouin Scattering)が生じ、パルスレーザ光のエネルギーを有効に利用できないという知見を得た。そして、パルスレーザ光のエネルギーを有効利用する点を鋭意研究し、上記音響格子が形成されるには、一定の時間を要することからパルスレーザ光のパルス幅を2ns以下とすることによって、上記SBSの影響を低減できるという知見を得た。
【0056】
一方、レーザピーニング処理を行うためには、被加工物100の加工領域Aを塑性変形させる必要があり、有意な処理を行うためにはパルスレーザ光Lのエネルギーに、ある下限値が存在する。パルスレーザ光Lのエネルギーが一定の場合、パルス幅とピーク強度は反比例の関係にあるため、パルス幅を短くしていくとパルスレーザ光Lのピーク強度が高くなりパルスレーザ光Lによる電場が大きくなる。その結果、水の絶縁破壊が生じて水のプラズマが発生し、パルスレーザ光Lが散乱されてエネルギーが有効利用できない状況が生じる。パルスレーザ光Lのパルス幅がたとえば200ps以上であれば、パルスレーザ光Lの電場を低減し、上記水の絶縁破壊の影響を低減可能である。
【0057】
レーザ加工装置1では、レーザ発振器10からパルス幅が200ps~2nsのパルスレーザ光Lを出力する。そのため、上記SBSの影響を低減できるので、パルスレーザ光Lのエネルギーを有効に利用してレーザピーニング処理を行える。
【0058】
更に、上記音響格子は、直線偏光の光より偏光状態が非定常(例えば楕円偏光又は無偏光のような非直線偏光)の光の方が形成されにくい。これは偏光状態が非定常の光では、レーザの電場方向が時間的及び空間的の少なくとも一方において変化するため水分子の振動方向が乱されやすいからである。レーザ発振器10は、楕円偏光のパルスレーザ光Lを出力可能である。そのため、レーザ発振器10から出力されるパルスレーザ光Lを使用することで、上記SBSの影響を一層低減できる。その結果、パルスレーザ光Lのエネルギーをより有効に利用してレーザピーニング処理を行える。
【0059】
音響格子の形成を抑制(その結果、SBSの影響を抑制)する観点からはパルス幅は短い方がよい。しかしながら、パルス幅が短かすぎると、レンズ、ミラーといった光学部品が損傷を受ける場合がある。これに対して、レーザ加工装置1でレーザピーニング処理に利用するパルスレーザ光Lのパルス幅は、たとえば200ps以上であるため、上記レンズといった光学部品の損傷などを防止しながら、レーザピーニング処理を加工領域Aに施せる。特に、パルスレーザ光Lが、音響格子がより形成されにくい楕円偏光であることから、パルス幅を長くし易く、結果として、上述した光学部品の損傷をより確実に防止可能である。
【0060】
パルスレーザ光Lがマルチモードのレーザ光である場合、音響格子が形成されにくい。これは、種々のモードによって水分子の振動方向が乱されやすいからである。よって、パルスレーザ光Lがマルチモードのレーザ光である実施形態では、SBSが一層低減され、結果として、パルスレーザ光Lのエネルギーを有効に利用できる。この場合も、パルス幅を長くし易く、結果として、レンズといった光学部品の損傷をより確実に防止可能である。
【0061】
レーザ加工装置1では、水噴射部(収容部)2内にレーザ照射部3が配置されており、水噴射部2から噴射される水4の中を通ってパルスレーザ光Lが加工領域Aに照射される。この点の作用効果を、レーザ照射部が水噴射部の外部に配置されている場合と比較して説明する。
【0062】
レーザ照射部が水噴射部の外部に配置されている場合、加工領域Aに水噴射部からの水噴射又はその他の方法により、加工領域Aを水で覆いながら、加工領域Aを覆う水の外側(大気側)から上記水を介してパルスレーザ光を加工領域Aに照射する。そのため、水と大気との境界で生じるパルスレーザ光の屈折・反射の影響で、パルスレーザ光のエネルギーを有効利用できない。
【0063】
これに対して、図1に示したように、水噴射部2内にレーザ照射部3が配置されている場合、水噴射部2から噴射される水4の中をパルスレーザ光Lが加工領域Aに向けて伝搬する。この場合、上述した大気と水との間の境界での光の屈折・反射が生じないことから、パルスレーザ光Lのエネルギーを一層有効利用できる。
【0064】
レーザピーニング処理を行うレーザ加工装置として、例えば、パルスレーザ光を光ファイバ内で伝搬させた後、光ファイバの出射端から出力されるパルスレーザ光を加工領域Aに照射する装置も考えられる。光ファイバから出力されるパルスレーザ光は拡散光であることから、光ファイバの出射端から出力されるパルスレーザ光の広がり角は20度~30度(NAが0.2なら23度)になる。更に、光ファイバ内を伝搬するパルスレーザ光の強度を大きくすると光ファイバが損傷を受ける場合がある。したがって、光ファイバの損傷を避けながらレーザピーニング処理に必要な強度を加工領域Aで得るためには、光ファイバから出力されたパルスレーザ光を加工領域Aに縮小投影する必要がある。よって、上記のように光ファイバを使用する際には、光ファイバの出射端及び縮小投影光学系を含むレーザ照射ヘッドを使用する。この場合、ワークディスタンス(レーザ照射ヘッドと加工領域Aまでの距離)が、パルスレーザ光を縮小するための縮小投影光学系が有する凸レンズ又は凹面鏡の直径と同程度と小さくなる。その結果、複雑な被加工物(例えば3次元的な被加工物)100の加工領域Aをレーザピーニング処理する際にはレーザ照射ヘッドの配置が困難になる。更に、縮小投影する際には、短い焦点距離(大きな入射角度)でパルスレーザ光を加工領域Aに入射するので、焦点裕度(焦点深度)が小さくなり、複雑な被加工物に対してレーザピーニング処理を施しにくい。
【0065】
これに対して、図1に示したレーザ加工装置1では、レーザ発振器10から出力されるパルスレーザ光Lを、光ファイバを利用して伝搬させずに、集光レンズ5によって集光している。この場合、光ファイバの損傷を考慮する必要がないため、レーザ発振器10からより高強度のパルスレーザ光Lを出力可能である。そのため、縮小投影光学系を必要とせず、レーザ照射ヘッドを小型化できる。また、パルスレーザ光Lを光ファイバ内で伝搬させる場合に比べて、長い焦点距離(大きなワークディスタンス)でパルスレーザ光Lを加工領域Aに照射できる。その結果、複雑な被加工物100のレーザピーニング処理も行い易い。
【0066】
レーザ発振器10が、図2を利用して説明した構成を有する場合、高強度且つ楕円偏光のパルスレーザ光Lを出力可能でありながらレーザ発振器10の小型化が図られている。更に、例えば図2を利用して説明した構成では、共振器長を短くできるので、2ns以下のパルス幅のパルスレーザ光Lを実現し易い。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0068】
例えば、図3に示したレーザ加工装置1Aのように、水噴射部(収容部)2が有するパイプ接続部2bは、噴射口2aを有する前壁側(具体的には、レーザ発振器10と前壁との間)に設けられてもよい。レーザ照射部3は、図3に示したように、筐体6の外面が水噴射部2の内面に接する大きさを有し得る。この場合、パイプPから水噴射部2に供給された水4は、レーザ照射部3と、噴射口2aを有する上記前壁との間の空間を満たし、噴射口2aから外部に噴射される。この場合、水噴射部2の構造が簡素になり、レーザ加工装置1Aの製造コストの低減が図れる。
【0069】
図4に示したレーザ加工装置1Bのように、水噴射部(収容部)2は、水4の噴射口2a側の第1部分2Aと、レーザ照射部3が配置される第2部分2Bとを有してもよい。第1部分2Aの第2部分2B側の開口は光学窓Wで塞がれており、パイプ接続部2bは、第1部分2Aに設けられる。光学窓Wの材料は、パルスレーザ光Lが透過可能な材料であり、例えば、パルスレーザ光Lに対して透明な材料である。第1部分2Aと第2部分2Bとは、取り外し可能であってもよい。この場合、レーザ照射部3(特にレーザ発振器10)の調整、取り替え、修理などといったメンテナンスを容易に実施できる。
【0070】
図5に示したレーザ加工装置1Cのように、水噴射部(収容部)2は、水噴射部2を構成する壁部内にパイプPから供給される水を流す流路2cが形成されていてもよい。例えば、図5に示したように、噴射口2aと反対側にパイプ接続部2bが設けられている形態では、流路2cは、パイプ接続部2bから噴射口2a近傍に水4を流すように形成され得る。この場合において、レーザ照射部3が有する筐体6の外面が水噴射部2の内面に接する大きさを有する形態では、水4は、筐体6内のレーザ発振器10の冷却に使用された後、噴射口2aから加工領域Aに供給される。そのため、レーザ発振器10の冷却を効率的に行うことができる。このように流路2cを流れる水4でレーザ発振器10を冷却する場合、レーザ発振器10は、図2に示した筐体18であって筐体6の内面に接する筐体18を有すること、または、ヒートシンク14が筐体6の内面に接するように配置されていることが好ましい。
【0071】
図1に示したように、液体を噴射可能な収容部内にレーザ照射部が配置された実施形態では、例えば、レーザ加工装置は、レーザ照射部からのパルスレーザ光が、液体を噴射する噴射口を有する収容部から噴射される液体内を通って被加工物の加工領域に照射されるように構成されていればよい。
【0072】
本発明は、被加工物の加工領域に水を通してパルスレーザ光を照射して、レーザフォーミング処理する場合にも適用可能である。レーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理に利用する液体として水を例示したが、パルスレーザ光が加工領域に照射されて生じるプラズマの高圧を閉じ込め、レーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理を可能とする液体であればよい。
【0073】
被加工物の加工領域にレーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理を施すレーザ加工方法に使用されるレーザ光は、レーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理に対して必要な強度を有し、以下の条件1を満せばSBSを抑制でき、効率的にレーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理を実施可能である。さらに条件2及び条件3の少なくとも一方を満たせば、より効率的にSBSを抑制できる。
条件1:パルスレーザ光のパルス幅が200ps~2nsである。
条件2:パルスレーザ光の偏光状態が非定常なレーザ光である。
条件3:パルスレーザ光がマルチモードのレーザ光である。
上記偏光状態が非定常なレーザ光は、偏光状態が時間的及び空間的の少なくとも一方において変化するレーザ光である。偏光状態が非定常なレーザ光としては、楕円偏光又は無偏光なレーザ光、光渦、ベクトルビームなどが例示される。
【0074】
したがって、パルスレーザ光が上記条件1を満たせば、または、条件1を満たすとともに、条件2及び条件3の少なくとも一方を満たせば、レーザ照射部は、水噴射部の外部に配置されていてもよい。更に、レーザピーニング処理又はレーザフォーミング処理を施すためのレーザ加工装置は、上記条件1を満たせばよく、条件2及び条件3の少なくとも一方を満たすパルスレーザ光を出力可能なレーザ照射部を備えていれば、さらに効果的である。例えばレーザ照射部が、図2に示したように偏光調整素子19を有する場合、偏光調整素子19はλ/4板に限定されない。例えば偏光調整素子19は、直線偏光のレーザ光を無偏光のレーザ光に変換する素子でもよいし、直線偏光のレーザ光を光渦又はベクルトルビームに変換するための位相制御素子(例えば、位相板、LCOS(Liquid crystal on silicon)など)でもよい。逆に、図2に示したレーザ発振器10の構成において、例えば積層体11自体が楕円偏光、無偏光といった非定常なレーザ光を生成可能な場合、レーザ照射部3は、偏光調整素子19を備えなくてもよい。偏光調整素子19の配置位置は、レーザ照射部3から偏光状態が非定常なパルスレーザ光Lを出力できれば、図2に示した位置に限定されない。マルチモードのパルスレーザ光を出力する場合も同様である。
【0075】
図2に示したレーザ発振器10の代わりに、図6に示したレーザ発振器20を使用してもよい。レーザ発振器20は、積層体21と、Qスイッチ素子(パルス生成部)12と、偏光調整素子19とを有する。図6のレーザ発振器20は、レーザ発振器10が備えるミラー13(Qスイッチ素子12からみて積層体11と反対側に配置されたミラー13)は不要である。図6を利用してレーザ発振器20を説明する。図6の説明においても図2の説明に使用したX方向、Y方向及びZ方向を使用する場合もある。
【0076】
積層体21は、複数のヒートシンク14と複数のレーザ媒質15とが交互に且つ中間層22を介して常温接合されて積層されている点、及び、X方向において両端にヒートシンク14が配置され且つQスイッチ素子12に面するヒートシンク14の表面に第2コーティング層17が形成されている点で、主に積層体11と相違する。上記相違点を中心にして積層体21を説明する。
【0077】
中間層22は、ヒートシンク14とレーザ媒質15との間に介在されている緩衝層である。中間層22の一部は、ヒートシンク14及びレーザ媒質15と一体化されている。中間層22の一部は、X方向から見た場合における中央部分である。中間層22の一部は、透明である。中間層22の他部は、着色されている。中間層22の他部は、X方向から見た場合における外縁部分(周縁部分)である。中間層22の他部は、不透明(上述した透明ではない状態)である。例えばある光(特定光)に対して不透明とは、ここでは、特定光に対する透過率が77%未満であることをいう。
【0078】
中間層22は、耐薬品性及び耐食性が高く、且つ、ガスバリヤ性も高い層である。透明でヒートシンク14及びレーザ媒質15と一体の中間層22の一部は、ヒートシンク14のバウンダリーである接合側部分の構成元素を含む化合物、及び、レーザ媒質15のバウンダリーである接合側部分の構成元素を含む化合物のうちの少なくとも何れかを含む。中間層22の他部は、ヒートシンク14及びレーザ媒質15の少なくとも一方の構成元素と置換可能な元素で形成されている。
【0079】
中間層22の一部は、ヒートシンク14の構成元素と、レーザ媒質15の構成元素と、中間層22の他部の構成元素と、の混晶である。中間層22の一部は、中間層22の他部の構成元素が相転移して成る部位である。ヒートシンク14及びレーザ媒質15と一体化した中間層22の一部の存在は、中間層22の構成元素(中間層22の他部の元素)の濃度が高まっていることで把握可能である。
【表1】
【0080】
ここで、
RE=Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb等の添加希土類元素
TM=Mg,Ca,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Cr,Ti,Te,Nb,V等の添加遷移金属元素
コーティング最終層:ヒートシンク14のレーザ媒質15側、及び、レーザ媒質15のヒートシンク14側の少なくとも何れかに1又は複数のコーティング層を設けている場合において、最も相手側(レーザ媒質15側又はヒートシンク14側)に近い側である最表面側に位置するコーティング層。
【0081】
積層体21は、例えば次のようにして製造され得る。まず、複数のヒートシンク14及び複数のレーザ媒質15を用意する。第1コーティング層16及び第2コーティング層17をヒートシンク14に適宜成膜する。当該成膜には、公知の種々の成膜手法を採用できる。次に、ヒートシンク14及びレーザ媒質15それぞれに中間層22を形成する。中間層22は例えばスパッタリング法、蒸着法で形成され得る。この段階での中間層22の材料は、ヒートシンク14及びレーザ媒質15の少なくとも一方の構成元素と置換可能な元素を含み、且つ着色されている。用いるヒートシンク14、レーザ媒質15及び中間層22のそれぞれの材料としては、上記表1における「ヒートシンク」、「レーザ媒質」、及び、「中間層の他の部分(着色部分)」のそれぞれで示した材料が挙げられる。
【0082】
その後、ヒートシンク14及びレーザ媒質15の間に中間層22を配置した状態で、ヒートシンク14及びレーザ媒質15が交互に並ぶように積層(複数配置)しつつ、ヒートシンク14及びレーザ媒質15を、接着剤を介さずに互いに接合する。ヒートシンク14及びレーザ媒質15との接合は、表面活性化常温接合を用いることができる。
【0083】
続いて、中間層22にジャイアントパルスレーザ光を照射し、当該ジャイアントパルスレーザ光を中間層22に吸収させる。これにより、中間層22に衝撃波が発生し、この衝撃波がヒートシンク14とレーザ媒質15とにより押し戻され、中間層22に瞬間的な高温且つ高圧力状態が引き起こされる。その結果、中間層22の一部である中央部は、接合母材であるヒートシンク14及びレーザ媒質15中に拡散ないし相転移してヒートシンク14及びレーザ媒質15と一体化し、透明化する。一方、中間層22の他部である外縁部は、着色されたままとなる。
【0084】
ジャイアントパルスレーザ光は、衝撃波が発生可能なレーザ光である。ジャイアントパルスレーザ光は、サブナノ秒のパルス幅を有するレーザ光である。ジャイアントパルスレーザ光は、マイクロレーザ及びそのシステムを利用して得られる。ジャイアントパルスレーザ光は、例えばパルス幅が10ns以下で1ps以上の領域(特に、1ns以下で10ps以上)のレーザ光である。
【0085】
上記積層体21では、レーザ光が出力されるので、上記積層体21はレーザ素子として機能する。レーザ発振器20では、積層体21から出力されるレーザ光が、可飽和吸収体であるQスイッチ素子12によってパルス化されパルスレーザ光Lとして出力される。
【0086】
レーザ発振器20も、図6に示したように、筐体18を有してもよい。筐体18の構成並びに積層体21及びQスイッチ素子12の筐体18内の配置状態は、レーザ発振器10が有する筐体18の場合と同様とし得る。
【0087】
レーザ発振器は、不安定共振器を用いたレーザ発振器でもよい。不安定共振器を用いたレーザ発振器は、たとえば、次のような第1レーザ発振器または第2レーザ発振器である。
【0088】
第1レーザ発振器は、第1波長の光を透過するとともに、上記第1波長とは異なる第2波長の光を反射する第1反射部と、上記第1反射部とともに不安定共振器を形成しており、一方向において、上記第1反射部と離間して配置されており上記第2波長の光を反射する第2反射部と、上記第1反射部と上記第2反射部との間に配置されており、上記第1波長の光の入射により上記第2波長の光を放出するレーザ媒質と、上記一方向において上記レーザ媒質からみて上記第1反射部と反対側に配置されており、光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部と、を備える。第1レーザ発振器において、上記第1反射部は、上記レーザ媒質と反対側に上記第1波長の光が入射される入射面を有し、上記一方向からみて、上記第2反射部の大きさは上記第1反射部の大きさより小さく、上記可飽和吸収部の上記レーザ媒質と反対側の面の少なくとも一部は、上記レーザ媒質側に向けて湾曲した湾曲領域を有し、上記第2反射部は、上記湾曲領域の表面に設けられた誘電体多層膜である。
【0089】
第2レーザ発振器は、第1波長の光を透過するとともに、上記第1波長とは異なる第2波長の光を反射する第1反射部と、上記第1反射部とともに不安定共振器を形成しており、一方向において、上記第1反射部と離間して配置されており上記第2波長の光を反射する第2反射部と、上記第1反射部と上記第2反射部との間に配置されており、上記第1波長の光の入射により上記第2波長の光を放出するレーザ媒質と、上記一方向において上記レーザ媒質からみて上記第1反射部と反対側に配置されており、光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部と、上記第2反射部を支持するとともに、上記第2波長の光を透過する支持体と、を備える。第2レーザ発振器において、上記第1反射部は、上記レーザ媒質と反対側に上記第1波長の光が入射される入射面を有し、上記一方向からみて、上記第2反射部の大きさは上記第1反射部の大きさより小さく、上記支持体の上記可飽和吸収部側の面の少なくとも一部は、上記可飽和吸収部側に湾曲した湾曲領域であり、上記第2反射部は、上記湾曲領域の表面に設けられた誘電体多層膜である。一実施形態において、上記支持体は、平凸レンズであってもよい。
【0090】
上記一方向からみて、上記可飽和吸収部の大きさは上記レーザ媒質の大きさよりも小さくてもよい。上記一方向からみて、上記可飽和吸収部の周囲に、第1波長の光の入射により第2波長の光を放出するレーザ媒質が設けられていてもよい。上記第1反射部は、平面鏡であってもよい。上記第1反射部は、湾曲していてもよい。上記第1反射部は、上記レーザ媒質と反対側に湾曲していてもよい。上記第1反射部のうち上記一方向からみて上記第2反射部と重なる領域の少なくとも一部に、第2波長を有するレーザ光を通すための開口が形成されていてもよい。
【0091】
一実施形態において、上記レーザ媒質は、セラミック製または単結晶であり、上記可飽和吸収部は、セラミック製または単結晶の可飽和吸収体を含み、上記レーザ媒質及び上記可飽和吸収部は、接合されており、上記第1反射部は、上記レーザ媒質に設けられていてもよい。このような形態では、上記レーザ媒質及び上記可飽和吸収部の接合体における上記レーザ媒質及び上記可飽和吸収部の接合方向の長さは10mmより小さくてもよい。
【0092】
或いは、一実施形態において、上記レーザ媒質及び上記可飽和吸収部は、接合されており、上記レーザ媒質及び上記可飽和吸収部の接合体における上記レーザ媒質及び上記可飽和吸収部の接合方向の長さは10mmより小さい、または上記第1反射部と上記第2反射部との間の距離より小さくてもよい。
【0093】
上記第2反射部の曲率半径は、10mm~100mmでもよい。上記第2反射部の直径は1mm~3mmでもよい。
【0094】
一実施形態において、第1レーザ発振器および第2レーザ発振器それぞれは、上記第2反射部からみて上記第1反射部と反対側に配置されており、上記不安定共振器から出力される光を平行化するレンズを備えてもよい。この場合、上記レンズの焦点距離は、たとえば、30mm~200mmであってもよい。
【0095】
上記第1反射部と上記第2反射部との間の距離は15mmより小さくてもよい。
【0096】
次に、図7から図13を参照して、不安定共振器を用いたレーザ発振器の例を詳細に説明する。図7図8図13における右側(パルスレーザ光Lの出力側)は、たとえば、図2における左側に相当する。
【0097】
図7に示したように、レーザ発振器(第1レーザ発振器)30は、たとえば、第1反射部31と、第2反射部32と、レーザ媒質33と、Qスイッチ素子(可飽和吸収部)34とを有する。第1反射部31と、第2反射部32と、レーザ媒質33と、Qスイッチ素子34は、x軸に沿って、第1反射部31、レーザ媒質33、Qスイッチ素子34、第2反射部32の順に配置されている。上記x軸の方向は、図1に示したX方向に相当する。
【0098】
レーザ発振器30は、励起部7(図1参照)から供給される励起光L0が第1反射部31に入射されることによって、パルスレーザ光Lを第2反射部32側(図7中の右側)から出力する。励起光L0の波長(第1波長)は、例えば、レーザ媒質33がNd:YAGであれば波長808nmまたは波長885nmであり、レーザ媒質33がYb:YAGであれば波長940nmまたは波長968nm)である。パルスレーザ光Lの波長(第2波長)は、たとえば、レーザ媒質33がNd:YAGであれば波長1064nm、レーザ媒質33がYb:YAGであれば波長1030nmである。励起光L0の波長を第1波長と称し、パルスレーザ光Lの波長を第2波長と称する場合もある。
【0099】
レーザ発振器30は、図1に示した光ファイバFから出力された励起光L0を集光して、第1反射部31に入射させる入射光学系を有してもよい。この入射光学系によって、励起光L0は、例えば平行光もしくは実質的に平行光に近い緩い集光光として第1反射部31に入射されてもよい。
【0100】
[第1反射部]
第1反射部31は、レーザ媒質33の第1端面33aに設けられている。第1反射部31は、第1波長の励起光L0を透過する一方、第2波長の光を反射する誘電体多層膜である。第1波長の励起光L0に対する第1反射部31の透過率は80%以上(望ましくは95%以上)であり、第2波長の光に対する第1反射部31の反射率は90%以上(望ましくは99%以上)である。第1反射部31は、例えば第1波長の励起光L0に対してARコートとして機能し、第2波長の光に対してHRコートとして機能する誘電体多層膜である。第1反射部31は、薄膜形成技術によって第1端面33aに形成され得る。
【0101】
第1反射部31は、励起光L0が入射される第1面(入射面)31aと、第2面31b(光の伝搬するx軸の方向において第1面31aと反対側の面)とを有する。第1面31a及び第2面31bは、x軸に直交している平面である。よって、第1反射部31は、上述した透過特性及び反射特性を有する平面鏡である。しかし、第1反射部31は、曲率を有する鏡(湾曲した鏡)でもよく、例えば凹面鏡であってもよい。
【0102】
第2反射部32は、x軸の方向(一方向)において、第1反射部31と離間して配置されている。第2反射部32は、Qスイッチ素子34の第2端面34bに設けられている。第2反射部32は、第2波長の光を反射する誘電体多層膜である。第2波長の光に対する第2反射部32の反射率は80%以上(望ましくは99%以上)である。第2反射部32は、例えば第2波長の光に対してHRコートとして機能する誘電体多層膜である。第2反射部32は、薄膜形成技術によって第2端面34bに形成され得る。
【0103】
第2反射部32は、第1反射部31とともに、不安定共振器を形成している。図7に示した実施形態において、第1反射部31及び第2反射部32によって形成される不安定共振器の光軸は、x軸と一致している。x軸の方向からみた場合、第2反射部32の大きさは、第1反射部31の大きさより小さい。更に、第2反射部32は、第1反射部31側に向けて湾曲している。第2反射部32が上記のように湾曲していることから、第2反射部32は、第2波長の光を発散させる。よって、第1反射部31及び第2反射部32とは拡大光学系を形成している。
【0104】
第1反射部31及び第2反射部32が上記のような不安定共振器であることから、レーザ発振器30からは、図8に示したように、ドーナツ状(ドーナツモード)のパルスレーザ光Lが出力される。パルスレーザ光Lの内径をaとし、パルスレーザ光Lの外径をbとし、拡大率mをb/aで定義した場合、拡大率mは、例えば、21/2以上且つ3以下である。拡大率mは、1.2以上3以下でもよい。
【0105】
第2反射部32のうち第1反射部31に最も近い部分(第2反射部32の頂部)と、第1反射部31の第2面31bとの間の距離(以下、「共振器長d」とも称す)の例は、約4~50mmである。共振器長dは、15mmより小さくてもよい。x軸の方向からみた場合、第2反射部32は円形または多角形であり、その直径または対角の長さの例は、1~20mmである。第2反射部32の直径または対角の長さは、1mm~3mmであってもよい。第2反射部32の曲率半径の例は10mm~2mである。第2反射部32の曲率半径の例は10mm~100mmであってもよい。
【0106】
[レーザ媒質]
レーザ媒質33の材料の例は、レーザ媒質15と同様である。レーザ媒質33の形状の例は、板状及び柱状を含む。図7に示した実施形態において、レーザ媒質33の中心軸はx軸に一致する。レーザ媒質33は、第1端面33aと、第2端面33b(x軸の方向において第1端面33aと反対側の面)とを有する。第1端面33a及び第2端面33bはx軸に直交している。x軸の方向に沿ったレーザ媒質33の長さの例は、0.2~26mmである。
【0107】
x軸からみたレーザ媒質33の形状(平面視形状)の例は、円形、矩形又は正方形、多角形を含む。上記レーザ媒質33の平面視形状が円形の場合、直径の例は1.4~100mmである。上記レーザ媒質33の平面視形状が矩形又は正方形の場合、およその対角の長さの例は1.9~140mmである。
【0108】
以下では、x軸からある要素をみた場合のその要素の形状を上記のように「平面視形状」とも称す。
【0109】
Qスイッチ素子34は、Qスイッチ素子12と同様の可飽和吸収体である。Qスイッチ素子34は、第2波長の光の吸収に伴って透過率が増加する。Qスイッチ素子34は、レーザ媒質33と同軸に配置され得る。Qスイッチ素子34は、第2端面33bに接合されてもよい。
【0110】
x軸の方向からみた場合、Qスイッチ素子34の大きさは、レーザ媒質33より小さい。Qスイッチ素子34の形状の例は、板状及び柱状を含む。Qスイッチ素子34は、レーザ媒質33側の第1端面34aと、第2端面34b(x軸の方向において第1端面34aと反対側の面)とを有する。第1端面34aはx軸に直交している。第2端面34bには第2反射部32が設けられている。第2反射部32が第1反射部31側に湾曲していることから、第2端面34bも同様に湾曲している。第2端面34bの曲率半径と第2反射部32の曲率半径は同じである。
【0111】
x軸の方向に沿ったQスイッチ素子34の長さの例は、0.1~10mmである。
【0112】
レーザ発振器30のように、第2端面34bの全面に第2反射部32が設けられている場合、Qスイッチ素子34の平面視形状の例は、円形または多角形であり、その等価的直径の例は、1~20mmである。
【0113】
第2反射部32は、第2端面34bの一部に設けられていてもよい。すなわち、第2端面34bに第2反射部32が部分コーティングされていてもよい。この場合、第2端面34bがその一部に第1反射部31側に湾曲した湾曲領域を有し、その湾曲領域に第2反射部32が設けられる。第2反射部32が、第2端面34bの一部に設けられる実施形態では、Qスイッチ素子34の平面視形状の例は、円形、矩形又は正方形、多角形でもよい。Qスイッチ素子34の平面視形状が矩形又は正方形の場合、等価的対角の長さの例は、1~20mmである。
【0114】
Qスイッチ素子34の材料は、入射する第2波長の光の強度が増大すると吸収能力が飽和する特性を有する可飽和吸収体の材料でよい。不安定共振器を用いたレーザ発振器の説明において、Qスイッチ素子34の材料はCr:YAGセラミックであるが、単結晶でも良い。
【0115】
Qスイッチ素子34は、第2端面34bの全面またはその一部が湾曲した状態で製造されてもよいし、第2端面34bが平面のQスイッチ素子34を製造した後に、第2端面34bを全面またはその一部が湾曲するように加工することによって製造されてもよい。
【0116】
レーザ媒質33及びQスイッチ素子34がともにセラミック製である場合、例えば、レーザ媒質33とQスイッチ素子34とは、表面活性化接合されていてもよい。表面活性化接合は、真空中で接合する材料の接合面の酸化膜又は表面付着物をイオンビーム照射又はFAB(中性原子ビーム)照射によって除去し、平坦で構成原子の露出した接合面同士を接合するという手法である。上記接合は、分子間結合を利用した直接接合である。表面活性接合であれば、レーザ媒質をセラミックスに限定すること無く、単結晶同士、またはそれらのハイブリッドが可能なだけでなく、励起光反射コーティングなどを施した上での接合が可能になる。レーザ媒質33とQスイッチ素子34とが接合されることによって接合体を形成している場合、その接合体におけるレーザ媒質33とQスイッチ素子34の接合方向の長さ(x軸方向の長さに相当)は、例えば、10mmより小さい。
【0117】
レーザ媒質33の第2端面33b及びQスイッチ素子34の第1端面34aの少なくとも一方には、第2端面33b及び第1端面34aにおける反射特性(例えば第2波長の光の反射特性)を調整するコーティング層が設けられてもよい。このようなコーティング層が第2端面33b及び第1端面34aの少なくとも一方に設けられている場合、例えばレーザ媒質33及びQスイッチ素子34は、上記コーティング層を介して上記のように接合され得る。Qスイッチ素子34の第1端面34a及び第2端面34bの少なくとも一方には、第1波長の励起光L0に対してHRコートとして機能し、第2波長の光に対してARコートとして機能するコーティング層が設けられてもよい。このようなコーティング層は、可飽和吸収部の一部であってもよい。すなわち、可飽和吸収部は、可飽和吸収体(図7のQスイッチ素子34)の他、上記コーティング層を有してもよく、コーティング層が可飽和吸収体の端面に設けられている場合、コーティング層の端面が可飽和吸収部の端面に相当する。
【0118】
レーザ発振器30において、レーザ媒質33及びQスイッチ素子34のx軸の方向の長さ並びに第2反射部32の形状など(特に、第2反射部32の大きさ及び曲率半径など)は、共振器長d、利得などを考慮して、所望のドーナツ形状のパルスレーザ光Lが得られるように設定されていればよい。例えば、上記拡大率mが、21/2以上であり且つ3以下又は1.2以上であり且つ3以下であるように、レーザ媒質33及びQスイッチ素子34のx軸の方向の長さ並びに第2反射部32の形状が設定されていればよい。
【0119】
上記レーザ発振器30では、励起光L0が第1反射部31の第1面31aに入射されると、励起光L0は、第1反射部31を透過して、レーザ媒質33に供給される。これにより、レーザ媒質33が励起され、第2波長の光が放出される。レーザ媒質33から放出された第2波長の光は、第2反射部32によって、第1反射部31側に反射される。第1反射部31は第2波長の光を反射する。これにより、第2波長の光がレーザ媒質33を複数回通過する。第2波長の光がレーザ媒質33を通過する際の誘導放出によって第2波長の光は増幅され、Qスイッチ素子34の作用によってパルスレーザ光Lとして出力される。
【0120】
第2反射部32は、第2波長の光を反射することから、第2波長の光は実質的に第2反射部32を透過しない。第2反射部32は、第1反射部31側に湾曲していることから、第2反射部32で反射された第2波長の光は発散する。そのため、x軸の方向からみて、第2反射部32の外側からパルスレーザ光Lが出力される。その結果、パルスレーザ光Lの形状(強度分布)は、図8に示したようなドーナツ形状である。すなわち、レーザ発振器30は、ドーナツ状のパルスレーザ光Lを出力できる。
【0121】
第2反射部32で反射された第2波長の光は発散する。そのため、第1反射部及び第2反射部がともに平面鏡である場合に比べて、レーザ媒質33のより広い領域を第2波長の光が通過する。これによって、レーザ媒質33から多くの誘導放出が生じ易いので、同じ励起面積であれば、第1反射部及び第2反射部がともに平面鏡である場合に比べて、高い出力のパルスレーザ光Lを得られる。この場合、パルスレーザ光Lの出力を上げているものの、積極的にドーナツ状のビームを選択し、ドーナツモードより高次のモードへの利得移行を無くすことで、ビーム品質(M)の劣化を抑制しながら、パルスレーザ光Lの出力向上を図れる。すなわち、レーザ発振器30では、ビーム品質の劣化を抑制しながら出力向上を実現可能である。したがって、レーザピーニング処理に有効である。
【0122】
レーザ発振器30では、第1反射部31は平面鏡として機能することから、第2反射部32からの第2波長の光は第1反射部31で反射する際にも発散し易い。しかしながら、レーザ発振器30のように端面励起の場合、励起に伴う量子欠損に起因した熱レンズ効果が生じる。そのため、第2反射部32で反射され、更に第1反射部31で反射された第2波長の光を、上記熱レンズ効果によって、熱レンズ効果が無い場合より閉じ込め可能である。したがって、第1反射部31が平面鏡であっても、第1反射部31と第2反射部32とで不安定共振器が形成され、レーザ発振が可能である。よって、レーザ発振器30におけるレーザ媒質33及びQスイッチ素子34のx軸の方向の長さ並びに第2反射部32の形状などは、励起光L0によるレーザ媒質33内の熱レンズ効果も考慮して設定され得る。
【0123】
第1反射部31が第1端面33aに設けられており且つ第1反射部31が平面鏡である実施形態では、第1端面33aも平面でよいことから、レーザ媒質33の加工が容易である。更に、上記熱レンズ効果を利用することで、パルスレーザ光Lの発散を抑制可能であり、例えば、平行光として出力可能である。
【0124】
第2反射部32が誘電体多層膜であることから、高強度の第2波長の光が第2反射部32に入射しても第2反射部32の損傷を防止できる。その結果、安定して、高出力のパルスレーザ光Lを出力可能である。
【0125】
第1反射部31はレーザ媒質33の第1端面33aに設けられており、第2反射部32は、Qスイッチ素子34の第2端面34bに設けられている。そのため、共振器長dを短くできるので、レーザ発振器30及びそれを含むレーザ照射部3の小型化及び短パルス化を図れている。
【0126】
レーザ媒質33及びQスイッチ素子34はセミラック製であり、それらを接合している場合、共振器長dを短くできる。その結果、レーザ発振器30及びそれを含むレーザ照射部3の小型化が可能である。更に、上述したように高出力(または高いエネルギー)のパルスレーザ光Lを出力可能である。よって、レーザピーニング処理に有効である。
【0127】
第1反射部31及び第2反射部32が形成する不安定共振器は、拡大光学系であることから、レーザ発振器30から出力されるパルスレーザ光Lの拡大率mを、図8に示したように、b/aで定義した場合、拡大率mは、例えば、21/2以上である。拡大率mが大きすぎるとレーザ発振閾値が大きくなり、レーザ発振が生じにくい。よって、レーザ発振器30は、拡大率mが3以下となるように、例えば、第2反射部32の大きさ及び曲率半径などが設定されていることが好ましい。拡大率mが3以下であれば、第1反射部31及び第2反射部32が形成する不安定共振器が拡大光学系であっても、レーザ発振閾値を下げることが可能である。1-m-2は、共振器における往復損失を示す。例えば、m=21/2である場合、往復損失は50%である。
【0128】
励起光L0を出力するLD18Aが準連続波発振され、励起光L0がパルス光である実施形態では、高出力の励起光L0を利用してパルスレーザ光Lの高出力化を図りながら、レーザ媒質33の発熱を抑制できる。
【0129】
次に、レーザ発振器30の種々の変形例を説明する。
【0130】
(第1変形例)
第1変形例に係るレーザ発振器30Aは、図9に示したように、Qスイッチ素子34の周囲にレーザ媒質33Aが更に設けられている点で、レーザ発振器30と主に相違する。上記相違点を中心にして、レーザ発振器30を説明する。
【0131】
レーザ媒質33Aは、x軸の方向からみて、Qスイッチ素子34の周囲を囲んでいる。レーザ媒質33Aの材料は、レーザ媒質33の材料と同じである。よって、レーザ媒質33Aは、励起光L0の入射により第2波長の光を放出する。
【0132】
レーザ媒質33Aは、Qスイッチ素子34と接合されていてもよい。この場合、レーザ媒質33の第2端面33b側に、レーザ媒質33とQスイッチ素子34との複合部品が配置されている実施形態に相当する。或いは、レーザ媒質33Aがレーザ媒質33と同じ材料であることから、レーザ媒質33Aとレーザ媒質33とが一つの部材であってもよい。この場合、一つのレーザ媒質において第1反射部31と反対側の端面に凹部が設けられ、その凹部にQスイッチ素子34が収容されている実施形態に相当する。
【0133】
レーザ発振器30Aは、レーザ発振器30と少なくとも同じ作用効果を有する。レーザ発振器30Aが有するレーザ媒質33Aは、x軸の方向からみて、Qスイッチ素子34の周囲を囲んでいる。そのため、パルスレーザ光Lは、レーザ媒質33Aを更に通過する。励起光L0を第1反射部31に入射する際に、レーザ媒質33Aにも励起光L0が入射されるように励起光L0を第1反射部31に入射すれば(例えば、第1面31aのほぼ全面に励起光L0を入射すれば)、レーザ媒質33Aも励起光L0で励起されている。そのため、パルスレーザ光Lがレーザ媒質33Aを通過する際に、パルスレーザ光Lは、更に増幅される。その結果、レーザ発振器30Aでは、出力が一層向上する。
【0134】
(第2変形例)
第2変形例に係るレーザ発振器30Bは、図10に示したように、第1反射部31が外側(レーザ媒質33と反対側)に向けて湾曲している点で、レーザ発振器30と相違する。この相違点を中心にして、レーザ発振器30Bを説明する。
【0135】
第1反射部31は、外側に向けて湾曲している。第1反射部31の曲率半径は、励起光L0によるレーザ媒質33内の熱レンズ効果、共振器長d、利得、並びに、第2反射部32の大きさ及び曲率半径などを考慮して、所望のドーナツ形状が得られるように設定されればよい。例えば、上記拡大率mが、21/2以上であり且つ3以下であるように、第1反射部31の曲率半径が設定されていればよい。第1反射部31の曲率半径の例は、1.4~9mmである。
【0136】
第1反射部31は、レーザ媒質33の第1端面33aに設けられていることから、レーザ発振器30Bでは、第1端面33aも第1反射部31と同様に湾曲している。第1端面33aの曲率半径は、第1反射部31の曲率半径と同様である。
【0137】
レーザ発振器30Bは、レーザ発振器30と少なくとも同じ作用効果を有する。レーザ発振器30Bでは、第1反射部31が外側に湾曲しているので、第2反射部32で反射された第2波長の光に対して第1反射部31は凹面鏡として機能する。すなわち、第1反射部31は、第2反射部32で反射された第2波長の光に対して集光機能を有する。よって、第2波長の光を、不安定共振器内に閉じ込めやすい。第1反射部31が上記のように集光機能を有することから、パルスレーザ光Lの発散を抑制し易く、例えば、パルスレーザ光Lを平行光として出力し易い。
【0138】
(第3変形例)
第3変形例に係るレーザ発振器30Cは、図11に示したように、第1反射部31が開口31cを有する点で、レーザ発振器30と相違する。上記相違点を中心にして、レーザ発振器30Cを説明する。
【0139】
第1反射部31は、第2波長を有する注入レーザ光L1をレーザ媒質33に注入するための開口31cを有する。開口31cは、x軸の方向からみた場合に、第2反射部32と重複する領域の少なくとも一部に形成される。図5に示したように、開口31cは、x軸上に配置され得る。
【0140】
注入レーザ光L1は、注入同期するためのレーザ光である。注入レーザ光L1の進行方向に直交する断面の大きさは、例えば、開口31cの大きさ以下であり得る。この場合、注入レーザ光L1は、第1反射部31で反射されずに、開口31cを通過してレーザ媒質33に入射され得る。
【0141】
注入レーザ光L1は、励起光L0の場合と同様に、注入レーザ光L1を供給する注入レーザ光供給部から光ファイバを介して供給され得る。注入レーザ光供給部は、注入レーザ光L1を、注入同期のための注入タイミングで出力可能であればよい。
【0142】
図11に示したように、x軸に沿って励起光L0を伝搬させた後、第1反射部31に励起光L0を入射させる実施形態では、注入レーザ光L1は、励起光L0の光路上(図11では、x軸上)に配置されている反射鏡35によって反射され、開口31cに入射されればよい。反射鏡35は、励起光L0の一部の伝搬を阻害することから、反射鏡35は、小さい方がよい。
【0143】
図11に示した実施形態では、反射鏡35が、例えば、励起光L0を透過する一方、注入レーザ光L1を反射する波長選択性を有する場合、反射鏡35の大きさは限定されない。
【0144】
図12に示したように、注入レーザ光L1を、x軸に沿って伝搬させた後、開口31cに入射させる一方、励起光L0を反射鏡35で反射させた後に、第1反射部31に入射させてもよい。図12に示した実施形態では、反射鏡35は、励起光L0を反射するとともに、注入レーザ光L1を通すための開口35aを有する。開口35aの大きさの例は、注入レーザ光L1に直交する断面の大きさとほぼ同じか、若干大きい程度である。これにより、励起光L0を有効に利用してレーザ媒質33を励起できる。図12に示した実施形態において、反射鏡35が、例えば、励起光L0を反射する一方、注入レーザ光L1を透過する波長選択性を有する場合、反射鏡35の大きさは限定されない。
【0145】
レーザ発振器30Cは、レーザ発振器30と少なくとも同様の作用効果を有する。レーザ発振器30Cでは、注入レーザ光L1をレーザ媒質33に注入することで注入同期を図れる。その結果、レーザ発振器30Cのジッターを制御可能であり、例えば外部機器との同期、複数のQスイッチ型のレーザ発振器との同期を図れる。
【0146】
レーザ発振器30Cの第2反射部32は、第2波長の光を反射し、実質的に第2波長の光を透過しない。レーザ発振器30Cは、図11及び図12に示したように、第1反射部31に開口31cを設けている。そのため、注入レーザ光L1をレーザ媒質33に注入し易い構成である。レーザ発振器30Cは、ビーム品質の劣化を抑制しながら、高出力が可能であるとともに、ジッター制御が容易な構成を有する。
【0147】
第3変形例では、反射鏡35もレーザ発振器30Cの一部でもよい。
【0148】
(第4変形例)
x軸の方向からみた場合、Qスイッチ素子34の大きさは、レーザ媒質33の大きさと同じであってもよい。この場合、第2端面34bは、その一部(例えば中央部)に、第1反射部31側に湾曲した湾曲領域を有し、その湾曲領域に第2反射部32が設けられていればよい。すなわち、第2端面34bに第2反射部32が部分コーティングされていてもよい。第4変形例に係るレーザ発振器もレーザ発振器30と少なくとも同様の作用効果を有する。
【0149】
(第5変形例)
図13を利用して、第5変形例に係るレーザ発振器30D(第2レーザ発振器)を説明する。レーザ発振器30Dは、第2反射部32が、Qスイッチ素子34の第2端面34bに設けられていない点で、レーザ発振器30と相違する。この相違点を中心にして、レーザ発振器30Dを説明する。
【0150】
レーザ発振器30Dは、第2反射部32を支持する支持体36を有する。支持体36は、第2波長の光(パルスレーザ光L)を透過する。第2波長の光に対する支持体36の透過率は、90%以上である。支持体36の材料の例は、ガラスを含む。
【0151】
支持体36のQスイッチ素子34側の面36aは、Qスイッチ素子34側に湾曲している湾曲領域である。支持体36の面36aの曲率半径は、第2反射部32の曲率半径と同様である。支持体36のQスイッチ素子34と反対側の面36bは平面であり得る。支持体36の例は、平凸レンズである。湾曲した面36aには、第2波長の光に対するARコートが施されていてもよい。このようなARコートも支持体36の一部でもよい。
【0152】
第2反射部32は、支持体36の面36aの頂部(x軸と面36aとの交点部分)に設けられている。すなわち、面36aに第2反射部32が部分コーティングされている。第2反射部32は、薄膜形成技術によって形成され得る。
【0153】
Qスイッチ素子34は、第2端面34bが平面である点以外は、レーザ発振器30の場合と同様の構成を有する。第1反射部31及びレーザ媒質33は、レーザ発振器30の場合と同様の構成を有する。
【0154】
レーザ発振器30Dにおいても、第1反射部31及び第2反射部32は、レーザ発振器30の場合と同様に、不安定共振器を構成する。よって、レーザ発振器30Dは、レーザ発振器30と少なくとも同様の作用効果を有する。
【0155】
第2反射部32が誘電体多層膜であることから、高強度の第2波長の光が第2反射部32に入射しても第2反射部32の損傷を防止できる。その結果、安定して、高出力のパルスレーザ光Lを出力可能である。
【0156】
支持体36が平凸レンズである場合、支持体36は、パルスレーザ光Lに対して集光機能を有する。よって、支持体36に入射するパルスレーザ光Lが発散している場合でも、その発散を抑制でき、例えば、支持体36の作用によってパルスレーザ光Lを平行光として出力できる。
【0157】
レーザ発振器30Dに対しても、第1~第3変形例と同様の変形を適用可能である。すなわち、第1変形例の場合と同様に、x軸の方向からみた場合、Qスイッチ素子34が、レーザ媒質33A(図9参照)で囲まれていてもよい。第2変形例の場合と同様に、第1反射部31は、Qスイッチ素子34と反対側に湾曲していてもよい(図10参照)。第3変形例の場合と同様に、第1反射部31は、注入レーザ光L1をレーザ媒質33に入射するための開口31c(図11及び図12参照)を有してもよい。レーザ発振器30Dに対して、第1~第3変形例と同様の変形を適用した場合、各変形例が適用されたレーザ発振器は、第1~第3変形例の場合と同様に、各変形に伴う作用効果を有する。
【0158】
支持体36は、図13を利用して説明した形状に限定されない。例えば、支持体36は、第2波長の光を透過可能な平板であり、Qスイッチ素子34側の面の一部にQスイッチ素子34側に湾曲した湾曲領域を有していてもよい。この場合、上記湾曲領域に第2反射部32が設けられる。
【0159】
第5変形例においても、第4変形例と同様に、x軸の方向からみた場合、Qスイッチ素子34の大きさは、レーザ媒質33の大きさと同じでもよい。この場合、例えば、レーザ媒質33とQスイッチ素子34との位置調整が容易である。レーザ媒質33とQスイッチ素子34が接合されることによって一つの部品(以下、説明の便宜のため、「光部品」と称す)を形成している場合、x軸の方向からみて、Qスイッチ素子34の大きさが、レーザ媒質33の大きさと同じであれば、複数の光部品を容易に製造し易い。例えば、複数の光部品は、次のようにして製造される。各光部品のサイズより大きなサイズのレーザ媒質とQスイッチ素子とを接合することによって、レーザ媒質とQスイッチ素子の積層体を製造する。その後、上記積層体から所望のサイズの光部品を切り出すことによって、複数の光部品が得られる。この場合、上記光部品を大量生産できるので、レーザ発振器の製造が容易であるとともに、製造コストの低減を図れる。第2反射部32とQスイッチ素子34とは接していてもよい。
【0160】
例示した不安定共振器を用いた種々のレーザ発振器は、偏光調整素子19(図2参照)を更に有してもよい。例示した不安定共振器を用いた種々のレーザ発振器は、筐体18(図2参照)を更に有してもよい。例示した不安定共振器を用いた種々のレーザ発振器は、不安定共振器から出力された光を平行化するためのレンズを有してもよい。
【0161】
これまで説明した種々の実施形態及び変形例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0162】
1,1A,1B,1C…レーザ加工装置、2…水噴射部(収容部)、2a…噴射口、3…レーザ照射部、4…水(液体)、5…集光レンズ(集光部)10,30,30A,30B,30C,30D…レーザ発振器、L…パルスレーザ光。
図1
図2
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図10
図11
図12
図13