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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】水中油型乳化物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240701BHJP
   A23G 3/00 20060101ALI20240701BHJP
   A23G 9/32 20060101ALI20240701BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20240701BHJP
   A23D 7/00 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
A23D9/00 512
A23D9/00 518
A23G3/00
A23G9/32
A23L7/10 Z
A23D7/00 508
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020007639
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021112171
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小笠 勇馬
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 世里子
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/021199(WO,A1)
【文献】特開2018-164446(JP,A)
【文献】特開2011-130674(JP,A)
【文献】特開2005-237354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00 - 9/06
A23G 1/00 - 9/52
A23L 2/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~30質量%の油脂を含有する冷菓ミックスまたはフラワーペーストであって、
前記油脂は、X2O、XXX、X2Mおよび/またはXM2を含み、
前記油脂のX2O含有量は10~80質量%であり、
前記油脂のXXX含有量は5質量%以下であり、
前記油脂の、X2O含有量に対するX2MとXM2の合計含有量の質量比((X2M+XM2)/X2O)は0.001~0.08であり、
前記X2Oに占めるXOXの質量比(XOX/X2O)は0.86以上である、
冷菓ミックスまたはフラワーペースト
ただし、X、O、M、X2O、XOX、XXX、X2MおよびXM2は、以下を意味する。
X:炭素数16以上の飽和脂肪酸
O:オレイン酸
M:炭素数6~10の飽和脂肪酸
X2O:2分子のXと1分子のOが結合したトリアシルグリセロール
XOX:グリセロールの1位および3位にXが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロール
XXX:3分子のXが結合したトリアシルグリセロール
X2M:2分子のXと1分子のMが結合したトリアシルグリセロール
XM2:1分子のXと2分子のMが結合したトリアシルグリセロール
【請求項2】
前記油脂は、1~75質量%のUUUを含む、請求項1に記載の冷菓ミックスまたはフラワーペースト
ただし、UおよびUUUは、以下を意味する。
U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
UUU:3分子のUが結合したトリアシルグリセロール
【請求項3】
前記油脂の、X2O含有量に対するXXX含有量の質量比(XXX/X2O)は、0.006~0.06である、請求項1または2に記載の冷菓ミックスまたはフラワーペースト
【請求項4】
前記油脂を構成する飽和脂肪酸の全量に占めるパルミチン酸の割合が65~95質量%である、請求項1~3の何れか1項に記載の冷菓ミックスまたはフラワーペースト
【請求項5】
前記油脂を構成する飽和脂肪酸の全量に占めるラウリン酸の割合が10質量%以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の冷菓ミックスまたはフラワーペースト
【請求項6】
前記X2MとXM2の合計含有量に対する前記XXXの含有量の質量比(XXX/(X2M+XM2))が、0.5~10である、請求項1~5の何れか1項に記載の冷菓ミックスまたはフラワーペースト
【請求項7】
前記XM2の含有量に対する前記X2Mの含有量の質量比(X2M/XM2)が、0.05~4.5である、請求項1~6の何れか1項に記載の冷菓ミックスまたはフラワーペースト
【請求項8】
前記油脂が、95.6~99.6質量%のパーム油中融点画分と0.4~4.4質量%のX2M+XM2油脂とを含有する改質パーム油中融点画分を含む、請求項1~7の何れか1項に記載の冷菓ミックスまたはフラワーペースト
【請求項9】
請求項1~の何れか1項に記載の冷菓ミックスまたはフラワーペーストを含む食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口どけのよい低油分の水中油型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリーム、アイスクリーム、バタークリームなどのクリーム類には、良好な口どけが必要である。良好な口どけを得るために、クリーム類には多くの場合、ヤシ油やパーム核油が使用されてきた(例えば、特開2006-304713号公報、特開2009-50235号公報)。ヤシ油やパーム核油などのラウリン酸を多く含む油脂(ラウリン系油脂)は、冷涼感のあるシャープな口どけを有する。しかし、ラウリン系油脂はあっさりとして濃厚感に乏しい。
【0003】
また、良好な口どけを有するクリームとして、パーム油の中融点分別油などのSUS型トリグリセリドを主体としたクリームが提案されている(例えば、特開2006-223176号公報、特開2010-68716号公報)。SUS型トリグリセリドを主体としたクリーム(SUS系クリーム)は、ラウリン系油脂を主体としたクリーム(ラウリン系クリーム)と比較して、濃厚感に優る傾向にある。しかし、SUS系クリームは、ラウリン系クリームと比較して、口どけのキレ(シャープさ)が劣る傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-304713号公報
【文献】特開2009-50235号公報
【文献】特開2006-223176号公報
【文献】特開2010-68716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、良好な口どけと適度な濃厚感を有するクリームが求められている。
【0006】
本発明の課題は、良好な口どけと適度な濃厚感を有するクリーム、特に、低油分の水中油型乳化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、水中油型乳化物に含まれる油脂が、特定のトリアシルグリセロールの構成をとることで、上記課題が解決できることを見出した。これにより本発明は完成された。すなわち、本発明は以下の態様であり得る。
【0008】
[1]1~30質量%の油脂を含有する水中油型乳化物であって、
前記油脂は、X2O、XXX、X2Mおよび/またはXM2を含み、
前記油脂のX2O含有量は10~80質量%であり、
前記油脂のXXX含有量は5質量%以下であり、
前記油脂の、X2O含有量に対するX2MとXM2の合計含有量の質量比((X2M+XM2)/X2O)は0.001~0.08であり、
前記X2Oに占めるXOXの質量比(XOX/X2O)は0.84以上である、
水中油型乳化物。
ただし、X、O、M、X2O、XOX、XXX、X2MおよびXM2は、以下を意味する。
X:炭素数16以上の飽和脂肪酸
O:オレイン酸
M:炭素数6~10の飽和脂肪酸
X2O:2分子のXと1分子のOが結合したトリアシルグリセロール
XOX:グリセロールの1位および3位にXが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロール
XXX:3分子のXが結合したトリアシルグリセロール
X2M:2分子のXと1分子のMが結合したトリアシルグリセロール
XM2:1分子のXと2分子のMが結合したトリアシルグリセロール
[2]前記油脂は、1~75質量%のUUUを含む、[1]の油脂組成物。
ただし、UおよびUUUは、以下を意味する。
U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
UUU:3分子のUが結合したトリアシルグリセロール
[3]前記油脂の、X2O含有量に対するXXX含有量の質量比(XXX/X2O)は、0.006~0.06である、[1]または[2]の水中油型乳化物。
[4]前記油脂を構成する飽和脂肪酸の全量に占めるパルミチン酸の割合が65~95質量%である、[1]~[3]の何れか1つの水中油型乳化物。
[5]前記油脂を構成する飽和脂肪酸の全量に占めるラウリン酸の割合が10質量%以下である、[1]~[4]の何れか1つの水中油型乳化物。
[6]前記X2MとXM2の合計含有量に対する前記XXXの含有量の質量比(XXX/(X2M+XM2))が、0.5~10である、[1]~[5]の何れか1つの水中油型乳化物。
[7]冷菓ミックスまたはフラワーペーストである、[1]~[6]の何れか1つの水中油型乳化物。
[8]95.6~99.6質量%のパーム油中融点画分と0.4~4.4質量%のX2M+XM2油脂とを含有する改質パーム中融点画分。
[9][1]~[7]の何れか1つの水中油型乳化物を含む食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、良好な口どけと適度な濃厚感を有する、低油分の水中油型乳化物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水中油型乳化物は、1~30質量%の油脂を含有する。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、好ましくは2~22質量%であり、より好ましくは3~16質量%である。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂には、水中油型乳化物に含まれる、油脂以外の任意の原材料に含まれる油脂を含めない。例えば、水中油型乳化物が原材料として全脂粉乳を含む場合、全脂粉乳に含まれる乳脂肪は、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂には含めない。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂と、水中油型乳化物の油脂以外の原材料に含まれる油脂との含有量の質量比は、好ましくは100:0~50:50であり、より好ましくは100:0~75:25であり、さらに好ましくは100:0~85:15であり、ことさら好ましくは100:0~90:10である。油脂以外の原材料に含まれる油脂は、好ましくは乳脂および/または卵黄油である。油脂以外の原材料に含まれる油脂に占める乳脂および/または卵黄油の含有量は、好ましくは70~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%である。
【0011】
本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、10~80質量%のX2Oを含む。ここで、X、OおよびX2Oは、次を意味する。Xは、炭素数16以上の飽和脂肪酸である。Oは、オレイン酸である。X2Oは、1つ(1分子)のグリセロールに1つ(1分子)のXと2つ(2分子)のOがエステル結合したトリアシルグリセロールである。X2Oに結合するXは、同一の脂肪酸でも、異なる脂肪酸でも、どちらでもよい。Xは、好ましくは直鎖である。また、Xの炭素数は、好ましくは16~22であり、より好ましくは16~18である。Xは、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸などが挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂に占めるX2Oの含有量は、好ましくは13~70質量%であり、より好ましくは15~65質量%である。
【0012】
上記X2Oは、XOXを含む。ここで、XOXは、グリセロールの1位および3位にXがエステル結合し、2位にOがエステル結合した、トリアシルグリセロールである。X2Oに占めるXOXの量の質量比(XOX/X2O)は、0.82以上である。XOX/X2Oは、好ましくは0.86以上であり、より好ましくは0.84以上である。XOX/X2Oの上限は特に限定されないが、1.0以下であり、好ましくは0.98以下であり、さらに好ましくは0.94以下である。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂に占めるX2Oの含有量、およびXOX/X2Oが上記範囲内にあると、水中油型乳化物は良好な口どけを有する。
【0013】
本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、X2Mおよび/またはXM2を含有する。ここで、M、X2MおよびXM2は、次を意味する。Mは、炭素数6~10の飽和脂肪酸である。Mは、好ましくは直鎖である。また、Mの炭素数は、好ましくは8~10である。Mとしては、例えば、n-ヘキサン酸、n-オクタン酸、n-デカン酸などが挙げられる。X2Mは、1分子のグリセロールに2分子のXと1分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロールである。XM2は、1分子のグリセロールに1分子のXと2分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロールである。前記トリアシルグリセロールに結合するXもしくはMは、同一の脂肪酸でも、異なる脂肪酸でも、どちらでもよい。
【0014】
本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、X2MとXM2とを合計で、好ましくは0.1~4質量%含有し、より好ましくは0.2~3.6質量%含有し、さらに好ましくは0.3~3.2質量%含有し、ことさらに好ましくは0.4~2.8質量%含有する。また、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、X2O含有量に対するX2MとXM2の合計含有量の質量比((X2M+XM2)/X2O)が0.001~0.08である。(X2M+XM2)/X2Oは、好ましくは0.001~0.05であり、より好ましくは0.003~0.044であり、さらに好ましくは0.005~0.040である。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂が、X2O、X2Mおよび/またはXM2を、(X2M+XM2)/X2Oが0.001~0.08となる範囲で含むと、水中油型乳化物は濃厚感を強めつつ、口どけがよりシャープになり得る(キレが増し得る)。本発明における適度な濃厚感は、X2Mおよび/またはXM2を適量含むことにより得られる。
【0015】
本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、XM2の含有量に対するX2Mの含有量の質量比(X2M/XM2)が、好ましくは0.05~4.5であり。より好ましくは0.3~3であり、さらに好ましくは0.55~2.5である。X2M/XM2が上記範囲内にあると、水中油型乳化物は、乳化安定性を増し得る。
【0016】
本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、5質量%以下のXXXを含有する。ここで、XXXは、1分子のグリセロールに3分子のXがエステル結合したトリアシルグリセロールである。XXXに結合するXは、同一の脂肪酸でも、異なる脂肪酸でも、どちらでもよい。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂に占めるXXXの含有量は、好ましくは0.5~4質量%であり、より好ましくは1~3.5質量%であり、さらに好ましくは1.5~3質量%である。また、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、X2O含有量に対するXXX含有量の質量比(XXX/X2O)が、好ましくは0.006~0.06であり、より好ましくは0.01~0.05であり、さらに好ましくは0.02~0.044である。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂が、X2OおよびXXXを、XXX/X2Oが0.006~0.06となる範囲で含むと、水中油型乳化物により濃厚感が付与され得る。
【0017】
本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、前記X2MとXM2の合計含有量に対する前記XXXの含有量の質量比(XXX/(X2M+XM2))が、好ましくは0.5~10である。XXX/(X2M+XM2)は、より好ましくは0.8~8であり、さらに好ましくは1~6であり、ことさらに好ましくは1~3である。XXX/(X2M+XM2)が上記範囲内にあると、XXXによる口どけの悪化が抑制され、濃厚感が強調され得る。
【0018】
本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、1~75質量%のUUUを含有してもよい。ここで、Uは、炭素数16以上の不飽和脂肪酸である。UUUは、1分子のグリセロールに3分子のUがエステル結合したトリアシルグリセロールである。UUUに結合するUは、同一の脂肪酸でも、異なる脂肪酸でも、どちらでもよい。Uは、好ましくは直鎖である。また、Uの炭素数は、好ましくは16~22であり、より好ましくは16~18である。Uは、例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂に占めるUUUの含有量は、より好ましくは1~70質量%であり、さらに好ましくは10~65質量%であり、ことさらに好ましくは20~60質量%である。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂に占めるUUUの含有量が上記範囲内にあると、水中油型乳化物の瑞々しさやスクイーズ性を増し得る。
【0019】
本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、構成脂肪酸に含まれる飽和脂肪酸の全量に占めるパルミチン酸の割合が、好ましくは65~95質量%であり、より好ましくは70~91質量%であり、さらに好ましくは75~88質量%である。また、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、構成脂肪酸に含まれる飽和脂肪酸の全量に占めるラウリン酸の割合が、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは0~5質量%であり、さらに好ましくは0~2質量%である。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂を構成する飽和脂肪酸の全量に占める、パルミチン酸およびラウリン酸の含有量が上記範囲内にあると、水中油型乳化物にほどよい濃厚感が付与され得る。
【0020】
本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂としては、本発明の効果が損なわれない限り、食用に適した油脂が適宜使用されてもよい。食用油脂としては、例えば、パーム油、ココアバター、シア脂、サル脂、アランブラッキア脂、モーラー脂、イリッペ脂、マンゴー核油、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂、ヤシ油、パーム核油、中鎖脂肪酸トリグリセリドなど、ならびにこれらの混合油および加工油脂(水素添加油脂、エステル交換油脂、分別油脂)が挙げられる。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、好ましくは非ラウリン油脂である。非ラウリン油脂は、油脂を構成する脂肪酸全量のうち炭素数16以上の脂肪酸が90質量%を超える油脂である。
【0021】
本発明の好ましい実施の態様によれば、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、XOXを豊富に含む油脂(40質量%以上、好ましくは50質量%以上のXOXを含む油脂)を含んでもよい。XOXを豊富に含む油脂(以下、XOX油脂とも表す)の例として、ココアバター、パーム油、シア脂、サル脂、アランブラッキア脂、モーラー脂、イリッペ脂、およびマンゴー核油、ならびに、それらの分別油が挙げられる。さらに、すでに知られているように、パルミチン酸、ステアリン酸、あるいは、それらの低級アルコールエステルと、ハイオレイックヒマワリ油等の高オレイン酸油脂との混合物を、1,3位選択性リパーゼを用いて、エステル交換反応を適用することにより得られた反応物を、必要に応じて蒸溜および分別して得られる油脂を使用してもよい。本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、1種または2種以上のXOX油脂を含んでもよい。XOX油脂は、好ましくはパーム油中融点画分である。パーム油中融点画分に含まれるXOX含有量は、好ましくは50~80質量%であり、より好ましくは53~70質量%であり、さらに好ましくは55~62質量%である。また、パーム油中融点画分のヨウ素価は、好ましくは32~48であり、より好ましくは36~48であり、さらに好ましくは38~46である。パーム油中融点画分は1種または2種以上のパーム油中融点画分の混合物であってもよい。
【0022】
本発明の好ましい実施の態様によれば、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、40質量%以上(好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~85質量%)のX2MおよびXM2の合計量を含有する油脂(以下、X2M+XM2油脂とも表す)を含んでもよい。X2M+XM2油脂は、例えば、10~65質量部(より好ましくは20~55質量部)のMMMと、35~90質量部(より好ましくは45~80質量部)の極度硬化された非ラウリン油脂との混合油脂をエステル交換することにより得られる油脂であってもよい。また、当該エステル交換油脂は、必要に応じてさらに分別されてもよい。また、MMMと非ラウリン油脂との混合油脂に、エステル交換した後、極度硬化行程が適用されてもよい。当該油脂は、必要に応じてさらに分別されてもよい。ここで、MMMは、1つ(1分子)のグリセロールに3つ(3分子)のMがエステル結合したトリアシルグリセロール(中鎖脂肪酸トリグリセリド)である。X2M+XM2油脂は、1種または2種以上であってもよい。
【0023】
本発明の好ましい実施の態様によれば、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、40質量%以上(好ましくは60~100質量%)のUUUを含有する油脂(以下、UUU油脂とも表す)を使用してもよい。UUU油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、あまに油など、が挙げられる。UUU油脂は、1種または2種以上であってもよい。
【0024】
本発明の好ましい実施の態様によれば、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂に占める、上記XOX油脂の含有量は、好ましくは20~99.8質量%であり、より好ましくは40~98質量%であり、さらに好ましくは60~96質量%である。また、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂に占める、上記X2M+XM2油脂の含有量は、好ましくは0.2~8質量%であり、より好ましくは0.4~4質量%であり、さらに好ましくは0.6~3.2質量%である。また、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂に占める、上記UUU油脂の含有量は、好ましくは0~89.8質量%であり、より好ましくは0~59.6質量%であり、さらに好ましくは0~39.4質量%である。
【0025】
本発明の好ましい実施の態様によれば、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、95.6~99.6質量%の上記パーム油中融点画分と0.4~4.4質量%の上記X2M+XM2油脂とを含有する改質パーム油中融点画分を含有してもよい。改質パーム油中融点画分は、改質前のパーム油中融点画分と比べ、よりシャープな口どけを有する。また、改質パーム油中融点画分は、XXXを、好ましくは1~3質量%、より好ましくは1.5~2.4質量%含有することにより、良好な濃厚感を有し得る。
【0026】
本発明の好ましい実施の態様によれば、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂は、好ましくはトランス脂肪酸含有量が高い部分水素添加油脂を含まない。したがって、本発明の水中油型乳化物に含まれる油脂を構成する脂肪酸全量に占めるトランス脂肪酸の割合は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは0~1質量%である。
【0027】
本発明の水中油型乳化物は、上記の水中油型乳化物に含まれる油脂と、水と、さらにその他の水中油型乳化物に一般的に使用される成分(原材料)とを含んでもよい。水中油型乳化物に一般的に使用される、その他の成分は、例えば、食品、乳化剤、香料、タンパク質(乳固形分)、増粘剤、糖類(澱粉及びその分解物、糖アルコールを含む)、安定化剤、抗酸化剤、および色素などが挙げられる。本発明の水中油型乳化物に含まれる水の配合量(水として配合される量)は、好ましくは20~80質量%、より好ましくは25~70質量%、さらに好ましくは30~65質量%である。本発明の水中油型乳化物に含まれるその他の成分の配合量(その他成分として配合される量)は、好ましくは15~55質量%、より好ましくは20~50質量%、さらに好ましくは25~45質量%である。
【0028】
本発明の水中油型乳化物は、各種クリームに用いることができる。各種クリームとしては、例えば、ホイップクリーム、飲料用クリーム、調理用の食用クリーム、アイスクリームなどの冷菓、フラワーペーストなどが挙げられる。本発明の水中油型乳化物は、好ましくは、アイスクリームなどの冷菓用ミックス、または、フラワーペーストとして利用される。本発明の水中油型乳化物を用いた食品としては、例えば、アイスクリームなどの冷菓を用いたデザート、フラワーペーストを包餡したパンや和洋菓子などが挙げられる。
【0029】
本発明の水中油型乳化物の製造方法は、特に限定されない。本発明の水中油型乳化物は、ホイップクリーム、飲料用クリーム、調理用の食用クリーム、アイスクリームなどの冷菓、フラワーペーストなどの製造に通常用いられる方法により製造できる。例えば、ホイップクリーム、飲料用クリーム、アイスクリームミックスである場合、油脂に油溶性のその他の成分を溶解または分散させて油相を調製する。一方、水に水溶性のその他の成分を溶解または分散させて調製した水相も調製する。そして、調製した水相に対して油相を混合して予備的に乳化させた乳化物を均質化処理することにより製造することができる。また、必要に応じて殺菌処理することもできる。均質化処理は、殺菌処理の前に行う前均質であっても、殺菌処理の後に行う後均質であってもよく、また前均質および後均質の両者を組み合わせた二段均質を行うこともできる。均質化処理の後は、冷却、エージングの工程に供してもよい。ホイップクリームのように起泡化させて使用する場合、調製した水中油型乳化物を、必要に応じて糖類等を加えた後、起泡化(ホイップ)して使用できる。フラワーペーストの場合、例えば、油脂を除く他の原料のすべてを温水に溶解混合し、次いで高速攪拌機にてホモジナイズして溶解物を得る。次に、油脂を加温溶解し、上記の溶解物に徐々に添加しながら、更に同条件で追加ホモジナイズを行なう。次いでホモミキサーにて均質化処理を行なう。これを攪拌付き加熱釜に移して攪拌しながら約90℃まで加熱・糊化させる。加熱終了後、シリンダー型掻き取り式熱交換機、たとえばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等を使用し、約50℃まで予備冷却した後、充填し、室温まで自然放冷することにより得られる。
【実施例
【0030】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例の内容に何ら制限されない。
【0031】
<分析>
油脂組成物に含まれる、X2O含有量、XOX含有量、X2M含有量、XM2含有量、XXX含有量、およびUUU含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993))および銀イオンカラム-HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995))に準じて測定した。
油脂を構成する脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフィー法(AOCS Ce1f-
96)に準じて測定した。
【0032】
<油脂原料の調製>
(XOX油脂)
パーム油中融点画分(XOX含有量51.8質量%、ヨウ素価45.1、日清オイリオグループ株式会社製)を、XOX油脂-1とした。
パーム油中融点画分(XOX含有量78.2質量%、ヨウ素価33.0、日清オイリオグループ株式会社製)を、XOX油脂-2とした。
(X2M+XM2油脂)
51質量部の菜種油の極度硬化油と49質量部のMMMとを混合した。ここで、MMMは、構成脂肪酸がn-オクタン酸とn-デカン酸であり、その構成比(質量比)は30:70である。当該混合油脂に、触媒としてナトリウムメトキシドを用いたランダムエステル交換を適用することにより得られた油脂を、X2M+XM2油脂-1(X2MとXM2の合計含有量75.7質量%、X2M/XM2=0.74)とした。
(UUU油脂)
菜種油(UUU含有量78.1質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を、UUU油脂-1とした。
(その他油脂)
65質量部のパーム油中融点画分と35質量部のパームステアリンとを混合した。当該混合油脂を、触媒としてナトリウムメトキシドを用いてランダムエステル交換した。当該ランダムエステル交換油脂を乾式分別した低融点画分を使用した。以下、NLIELとした。
菜種油の極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)を使用した。以下、FHRSOと表記することがある。
【0033】
<油脂の製造1>
表1に示されている配合(質量%)に従い、油脂原料を混合することにより、例1~6の油脂を製造した。製造された油脂(配合油脂)の分析値(質量%、XOX/X2OおよびXXX/(X2M+XM2)は質量比)は表1に示される。
【0034】
【表1】
【0035】
<ラクトアイスの製造>
例1~6で配合した油脂を使用して、ラクトアイスを製造した。すなわち、表2の配合にしたがって、脱脂粉乳、水あめ、砂糖、水など、水相の成分を混合し、温度70℃まで撹拌昇温した。その後、油相の成分を加え、さらに80℃まで昇温した。次いでホモゲナイザーを用いて微細均質化し、例1~6の油脂を配合したミックスを調製した。調製した各ミックスについて、アイスクリーマーを用いてフリージングを行い、オーバーランを80に調整して、例1~6のラクトアイスを得た。
【0036】
【表2】
【0037】
<ラクトアイスの風味評価>
-20℃で24時間保管した例1~例6のラクトアイスの口どけおよび風味について、5人のパネルが試食し、例1を比較対照とした以下の評価基準にしたがって採点した。採点の合計値により、以下に示す基準に従って各項目を総合的に評価した。結果を表1に示した。

口どけの評価基準
3・・・例1より非常に口どけが良い
2・・・例1より口どけが良い
1・・・例1と同等
0・・・例1より口どけが悪い

風味の評価基準
3・・・例1より濃厚感を強く感じる
2・・・例1より濃厚感を感じる
1・・・例1と同等
0・・・例1より濃厚感に乏しい

総合評価基準
採点合計 評価
13以上15以下 ◎(非常に良好)
9以上12以下 ○(良好)
5以上8以下 △(ふつう)
0以上4以下 ×(不良)
【0038】
<油脂の製造2>
表3に示されている配合(質量%)に従い、油脂原料を混合することにより、例7~10の油脂を製造した。製造された油脂(配合油脂)の分析値(質量%、XOX/X2OおよびXXX/(X2M+XM2)は質量比)は表3に示される。
【0039】
【表3】
【0040】
<フラワーペーストの製造>
例7~10で配合した油脂を使用して、フラワーペーストを製造した。すなわち、表4の配合にしたがって、油溶成分を除く原料のすべてを50℃に加温した水に溶解混合し、次いで高速攪拌機にて6000rpmの攪拌速度で10分ホモジナイズして溶解物を得た。次に、60℃に加温させた油脂を上記の溶解物に徐々に添加しながら、更に同条件で20分ホモジナイズした。次いで高圧ホモミキサーにて均質化処理(100kg/cm2)を行なった。これを攪拌付き加熱釜に移して攪拌(50rpm)しながら90℃まで加熱・糊化させた。加熱終了後、シリンダー型掻き取り式熱交換機を使用し、50℃まで予備冷却した後、充填し、室温まで自然放冷し、例7~10のフラワーペーストを得た。
【0041】
【表4】
【0042】
<フラワーペーストの風味評価>
5℃で保管した例7~例10のフラワーペーストの口どけおよび風味について、5人のパネルが試食し、例7と例8については例7を比較対照として、また例9と例10については例9を比較対照として、以下の評価基準にしたがって採点した。採点の合計値により、以下に示す基準に従って各項目を総合的に評価した。結果を表3に示した。

口どけの評価基準
3・・・対照より非常に口どけが良い
2・・・対照より口どけが良い
1・・・対照と同等
0・・・対照より口どけが悪い

風味の評価基準
3・・・対照より濃厚感を強く感じる
2・・・対照より濃厚感を感じる
1・・・対照と同等
0・・・対照より濃厚感に乏しい

総合評価基準
採点合計 評価
13以上15以下 ◎(非常に良好)
9以上12以下 ○(良好)
5以上8以下 △(ふつう)
0以上4以下 ×(不良)