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  • 特許-スパッタリングターゲット材 図1
  • 特許-スパッタリングターゲット材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20240701BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240701BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240701BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20240701BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240701BHJP
   C22C 1/04 20230101ALN20240701BHJP
   C22C 33/02 20060101ALN20240701BHJP
   B22F 1/00 20220101ALN20240701BHJP
   B22F 3/10 20060101ALN20240701BHJP
   B22F 3/15 20060101ALN20240701BHJP
   B22F 3/14 20060101ALN20240701BHJP
   B22F 3/20 20060101ALN20240701BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
G11B5/738
C23C14/34 A
C23C14/06 T
C22C19/07 C
C22C38/00 303S
C22C1/04 B
C22C33/02 A
C22C33/02 B
B22F1/00 Y
B22F3/10 E
B22F3/10 F
B22F3/15 G
B22F3/14 D
B22F3/14 101B
B22F3/20 C
B22F9/08 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020083622
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021180057
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越智 亮介
(72)【発明者】
【氏名】井本 未由紀
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070994(JP,A)
【文献】特開2015-036453(JP,A)
【文献】特許第5946974(JP,B1)
【文献】特開2006-294090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
G11B 5/84 - 5/858
C23C 14/34
C23C 14/06
C22C 19/07
C22C 38/00
C22C 1/04
C22C 33/02
B22F 1/00
B22F 3/10
B22F 3/15
B22F 3/14
B22F 3/20
B22F 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その材質が、Co及び/又はFeと、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、不可避的不純物とを含む合金であり、この合金中の、Co、Fe及び元素Mの組成が、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Mで示され、この式中、Xが0以上100以下であり、Yが4以上28以下であり、
その断面に存在する長径0.1μm以上の酸化物粒子を4個以上含む酸化物集合体の数が、100mmあたり1.5個以下である、スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングターゲット材にスパッタリングを施して軟磁性層を得る工程を含む、軟磁性層の製造方法。
【請求項3】
軟磁性層が組み込まれた垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
請求項1に記載のスパッタリングターゲット材にスパッタリングを施して、上記軟磁性層を得る工程を含む、垂直磁気記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット材に関する。詳細には、本発明は、磁気記録媒体の軟磁性層の製造に用いるスパッタリングターゲット材及びその製造に用いる合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドライブの大容量化のために、記録密度の高い磁気記録媒体が求められている。高記録密度の磁気記録媒体として、従来普及していた面内磁気記録媒体に代わり、垂直磁気記録方式の媒体(垂直磁気記録媒体)が実用化されている。
【0003】
垂直磁気記録方式とは、磁化容易軸を、磁性膜中の媒体面に対して垂直方向に配向させる方式である。垂直磁気記録媒体は、高記録密度に適している。記録感度を高めた磁気記録層と軟磁性層とを有する2層構造の垂直磁気記録媒体が、開発されている。磁気記録層には、通常、CoCrPt-SiO系合金が用いられている。
【0004】
特開2006-294090号公報(特許文献1)には、Fe及びCoを有し、さらに、Si、Ni、Ta、Nb、Zr、Ti、Cr、Mo又はBsの内のいずれか2種以上を含む軟磁性層が開示されている。この軟磁性層の膜構造は、微結晶又はアモルファスである。
【0005】
その材質がFe-Co系合金である軟磁性層は、対応するFe-Co系合金からなるターゲット材を用いたスパッタリングにより形成される。スパッタリング時に、パーティクルが発生しないターゲット材が求められている。特開2015-36453号公報(特許文献2)では、M元素としてNb、Ta、Mo、Wの1種又は2種以上を含有し、残部がFeとCoの1種又は2種及び不可避的不純物からなり、FeとCoの1種又は2種とM元素からなる金属間化合物相をネット状に成長させたミクロ組織を有するスパッタリングターゲット材が提案されている。特開2002-226970号公報(特許文献3)には、粉末焼結ターゲットであって、Bを含有し、酸素量が100ppm以下であるCo系ターゲットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-294090号公報
【文献】特開2015-36453号公報
【文献】特開2002-226970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スパッタリングターゲット材の製造方法として、粉末冶金法が知られている。粉末冶金法では、原料である各種金属粉末が混合、成形及び焼結される。原料粉末は、その外周部に酸化被膜を有する場合がある。本発明者らの知見によれば、原料粉末の酸化被膜に由来する酸化物が、スパッタリング時のパーティクル発生要因の一つであると推定される。
【0008】
特許文献2では、ターゲット材のミクロ組織を調整して、金属間化合物に起因するパーティクルの発生が抑制されている。特許文献3では、脱酸素効果を有する元素Bの添加により、磁気記録特性に影響する酸素量の低減が図られている。しかし、原料粉末の酸化被膜に起因するパーティクルの発生を低減する技術は、未だ提案されていない。
【0009】
本発明の目的は、スパッタリング時のパーティクル発生が低減され、かつ、物性に優れた軟磁性層を得ることができるスパッタリングターゲット材及びその製造に用いる合金粉末の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、アトマイズタワー内の酸素濃度をコントロールすることで、粉末の外周部酸素値を低減することに成功し、スパッタリングターゲット材において、所定のサイズを有する酸化物の集合体の数を低減することにより、脱酸素効果を有する元素(Al、Ti、B等)を必須成分として添加することなく、パーティクルの発生数が低減されることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明に係るスパッタリングターゲット材は、その材質が、Co及び/又はFeと、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、不可避的不純物と、を含む合金である。この合金中の、Co、Fe及び元素Mの組成は、一般式(Co-Fe100-X100-Y-Mで示される。この式中、Xは0以上100以下であり、Yは4以上28以下である。このスパッタリングターゲット材では、その断面に存在する長径0.1μm以上の酸化物粒子を4個以上含む酸化物集合体の数は、100mmあたり1.5個以下である。
【0012】
本発明に係る軟磁性層は、前述したいずれかのスパッタリングターゲット材を用いたスパッタリングにより得られる。本発明に係る垂直磁気記録媒体は、この軟磁性層を有している。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るスパッタリングターゲット材を用いたスパッタリングでは、パーティクルの発生が少ない、又はパーティクルが発生しない。このターゲット材によれば、物性に優れた軟磁性層が得られうる。このターゲット材は、軟磁性層を有する垂直磁気記録媒体の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、酸化物集合体の一例を示す光学顕微鏡画像である。
図2図2は、外周部の酸素値Osの算出方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお、本願明細書において、特に記載がない限り、「平均粒子径」は、レーザー回折散乱法により得られる体積基準の累積カーブにおいて、累積体積が50%である点の粒子径D50(メジアン径)である。「ppm」は「質量ppm」であり、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0016】
本発明に係るスパッタリングターゲット材の材質は、Co及び/又はFeと、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、不可避的不純物とを含む合金である。本発明の効果が阻害されない限り、この合金は、任意成分として他の金属元素を含みうる。不可避的不純物としては、O、S、C、N等が例示される。
【0017】
この合金中の、Co、Fe及び元素Mの組成は、下記一般式で示される。
(Co-Fe100-X100-Y-M
【0018】
上記一般式において、Xは、この合金におけるCoとFeとの合計に対するCoの比率(質量%)である。Xは、0以上100以下の範囲で適宜選択することができる。得られる軟磁性層の物性向上の観点から、Xは、20以上が好ましく、25以上がより好ましい。Xは、80以下が好ましく、75以下がより好ましい。
【0019】
上記一般式において、Yは、Co、Fe及び元素M(即ち、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選択された元素の総含有量)の合計に対する、元素Mの比率(質量%)である。Yは、4以上28以下の範囲で設定される。元素Mは、得られる軟磁性層のアモルファス化を促進することにより、その磁気性能の向上に寄与する。この観点から、好ましいYは10以上であり、より好ましいYは15以上である。
【0020】
Yが28を超える合金の融点は、高い。この合金からなるターゲット材の原料の融点も、高い。この原料を得るためには、高温処理が必要である。高温処理により、原料中の酸素含有量が増加する。酸素含有量の多い原料から得られるターゲット材は、後述する酸化物集合体を含み、パーティクルを発生する場合がある。パーティクル低減の観点から、好ましいYは25以下であり、より好ましいYは23以下である。
【0021】
このターゲット材では、光学顕微鏡を用いてその断面が観察され、ターゲット材に含まれる酸化物集合体の数が計測される。本願明細書において、酸化物集合体とは、長径0.1μm以上の酸化物粒子を4個以上含む集合体を意味する。酸化物粒子は、主として、合金をなす各元素の酸化物に由来する。
【0022】
光学顕微鏡で撮影された酸化物集合体の一例が、図1に示されている。図1中、不均一な形状の複数の黒点が、それぞれ、酸化物粒子である。この酸化物集合体では、4個以上の酸化物粒子が、略円弧状に配列されている。略円弧状に配列された酸化物集合体は、スパッタリング時に粗大なパーティクルを発生させる。この酸化物集合体は、後述する合金粒子の表面近傍の酸素(外周部の酸素値)に起因して生成すると考えられる。
【0023】
本発明者らは、このターゲット材中の酸化物集合体が、スパッタリング時のパーティクル発生要因のひとつであることを見出した。本発明に係るターゲット材では、前述の光学顕微鏡観察において、縦10mm、横20mmの観察面で計測される酸化物集合体の数は、100mmあたり1.5個以下である。本願明細書において、酸化物集合体の数は、一つのターゲット材につき5つの観察面にて計測した結果を平均し、小数点以下を四捨五入して得られる値として定義される。この酸化物集合体の数が1.5個以下であるターゲット材を用いたスパッタリングでは、パーティクルが発生しないか、その発生数が顕著に低減される。この酸化物集合体の数は、少ないほど好ましく、理想的には、ゼロである。
【0024】
このスパッタリングターゲット材は、その材質及び酸化物集合体の数が前述した条件を満たす限り、粉末冶金法で得られたものであってもよく、鋳造法により得られたものであってもよい。適正なミクロ組織が形成されるとの観点から、粉末冶金法で得られたターゲット材が好ましい。
【0025】
例えば、粉末冶金法では、原料である粉末を高圧下で加熱して固化成形することにより焼結体を形成する。この焼結体を、機械的手段等で適正な形状に加工することにより、ターゲット材が得られる。
【0026】
原料粉末には、ターゲット材の材質に対応する合金粉末が用いられる。合金粉末は、多数の粒子の集合体である。各粒子の材質は、Co及び/又はFeと、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、不可避的不純物とを含む合金である。この合金粒子におけるCo、Fe及び元素Mの組成は、下記一般式で示される。
(Co-Fe100-X100-Y-M
この一般式において、Xは、0以上100以下であり、Yは、4以上28以下である。
【0027】
得られる軟磁性層の物性向上の観点から、Xは、20以上が好ましく、25以上がより好ましい。Xは、80以下が好ましく、75以下がより好ましい。
【0028】
得られる軟磁性層の磁気性能向上の観点から、Yは10以上が好ましく、15以上がより好ましい。パーティクル低減の観点から、Yは25以下が好ましく、23以下がより好ましい。
【0029】
合金粉末は、不可避的不純物として酸素を含んでいる。酸素の一部は、合金成分の金属元素の酸化物として存在している。金属酸化物の一部は、合金粒子の外周部に被膜を形成している。本発明者らの知見によると、各合金粒子が有する酸化物被膜に起因して、ターゲット材中に酸化物集合体が形成される。
【0030】
酸化物集合体の数が低減されるとの観点から、外周部の酸素値Osが150ppmm以下である合金粉末を原料として得られるターゲット材が好ましい。本願明細書において、外周部の酸素値Osは、各合金粒子の表面近傍の酸素含量を示す指標である。この酸素値Osが150ppm以下の合金粉末を用いて得られるターゲット材では、酸化物集合体の形成が少ないか、酸化物集合体が形成されない。このターゲット材を用いたスパッタリングでは、酸化物集合体に起因するパーティクルの発生が低減される。この観点から、外周部の酸素値Osは、100ppm以下がより好ましく、50ppm以下がさらに好ましく、理想的にはゼロである。
【0031】
外周部の酸素値Osは、合金粉末の総酸素値Otと、内部酸素値Oiとの差(Ot-Oi)として定義される。総酸素値Otは、合金粉末に含まれる全酸素量であり、例えば、酸素・窒素分析装置(堀場製作所製の商品名「EMGA-920」)を用いて測定される。内部酸素値Oiは、合金粉末を少なくとも3種類の粒度に分級した後、粒度毎にその平均粒子径D50及び酸素含有量を測定し、各酸素含有量を、各平均粒子径D50から算出した表面積Sの逆数1/Sに対してプロットしたとき、最小二乗法により得られる線形近似曲線の切片として求められる。この線形近似曲線の一例が、図2に示されている。
【0032】
図2の横軸が表面積Sの逆数1/S(mm-2)であり、縦軸が酸素含有量O(ppm)である。図2には、5種類(45μm未満、45μm以上63μm未満、65μm以上75μm未満、75μm以上150μm未満、150μm以上500μm未満)の粒度に篩分級された合金粉末の、各粒度について測定された酸素含有量Oと、表面積Sの逆数1/Sとがプロットされている。このプロットから、最小二乗法により得られた線形近似曲線が、破線で示されている。線形近似曲線の切片は、表面積が無限大(即ち、1/Sが0)である合金粉末の酸素含有量であり、合金粉末の内部酸素値Oiに近似される。
【0033】
適正な線形近似曲線が得られる限り、合金粉末を分級する方法及び条件は、特に限定されない。分級後の各粒度における酸素含有量は、前述の酸素・窒素分析装置(堀場製作所製の商品名「EMGA-920」)を用いて測定される。各粒度における表面積Sは、平均粒子径dから、下記式により求められる。
S=4×π×(d/2)
なお、各粒度における平均粒子径dは、粉末の全体積を100%として累積カーブが求められたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径(メジアン径)である。
【0034】
好ましくは、平均粒子径D50が20μm以上80μm以下の合金粉末を原料として得られるターゲット材が好ましい。平均粒子径D50が20μm以下の合金粉末では、外周部の酸素値Osが低減され、パーティクルの発生が低減される。平均粒子径D50が80μm以下の合金粉末を用いて得られるターゲット材では、結晶粒子径の粗大化による強度低下が抑制される。このターゲット材によれば、スパッタリング時の割れが回避されうる。
【0035】
合金粉末の平均粒子径D50は、粉末の全体積を100%として累積カーブが求められたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径(メジアン径)である。合金粉末の平均粒子径D50及び前述した各粒度における平均粒子径dは、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置により測定される。この装置のセル内に、粉末が純水と共に流し込まれ、粒子の光散乱情報に基づいて、累積カーブが作成され、平均粒子径が求められる。この装置の一例として、日機装社の「マイクロトラックMT3000」が挙げられる。
【0036】
本発明の効果が得られる限り、ターゲット材を得るための合金粉末の製造方法は、特に限定されない。例えば、合金粉末の製造方法として、アトマイズ法が知られている。アトマイズ法の種類は特に限定されず、ガスアトマイズ法であってもよく、水アトマイズ法であってもよく、遠心力アトマイズ法であってもよい。アトマイズ法の実施に際しては、既知のアトマイズ装置が適宜選択されて用いられる。
【0037】
例えば、ガスアトマイズ法では、各種金属原料を溶解して溶湯を形成し、この溶湯を、アトマイズにより急冷することにより合金粉末が製造される。詳細には、合金粉末は、原料であるCo及び/又はFeと、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選択された元素Mと、必要に応じて他の任意成分と、を所定の組成となるように坩堝に投入して溶解し、坩堝の流出口(小孔又はノズル)からアトマイズタワー内に流出した溶湯流に、高圧のガスを吹き付けて分散・凝固させることにより製造される。
【0038】
アトマイズ法によれば、凝固した合金粒子表面に位置する金属元素と、アトマイズタワー内の酸素(以下、タワー内酸素と称する場合がある)とが反応することにより、各合金粒子に金属酸化物の被膜が形成されると考えられる。得られるターゲット材において、前述した方法で計測される酸化物集合体を低減させる目的から、好ましくは、粒子表面の金属元素と酸素との反応が抑制されるような製造条件が好ましく、タワー内の酸素濃度を1000ppm以下となるようにするのが好ましい。より好ましくは、外周部の酸素値Osが150ppm以下となるように、アトマイズ時の製造条件が設定される。
【0039】
合金粉末の外周部の酸素値Osに影響する製造条件としては、合金組成、出湯時の温度、アトマイズガス中の酸素濃度、ガス噴霧圧力等が挙げられる。例えば、出湯時温度の低減、タワー内酸素濃度の低減により、金属元素と酸素との反応が抑制され、外周部の酸素値Osが低い合金粉末が得られる。この合金粉末を用いて得られるターゲット材では、前述した酸化物集合体の数が低減される。
【0040】
ターゲット材の製造に際し、原料粉末を固化成形する方法及び条件は、特に限定されない。例えば、HIP成形(熱間等方圧プレス)、ホットプレス、放電プラズマ焼結(SPS法)、熱間押出等が適宜選択される。また、固化成形して得られた焼結体を加工する方法も、特に限定されず、既知の機械的加工手段が用いられ得る。
【0041】
例えば、HIP成形(熱間等方圧プレス)の場合、好ましい温度は1000~1200℃であり、好ましい圧力は90~150MPaであり、好ましい保持時間は5~10時間である。この製造条件下でのHIP成形によれば、ターゲット材に、パーティクル低減に寄与するミクロ組織が効率的に形成される。
【0042】
好ましくは、原料粉末は、固化成形前に篩分級される。この篩分級の目的は、焼結を阻害する粒子径500μm以上の粒子(粗粉)を除去することにある。この原料粉末によれば、粗粉除去以外の粒度調整をしない場合でも、本発明の効果が得られる。
【0043】
本発明に係るターゲット材にスパッタリングが施されることで、このターゲット材の成分と同じ成分を有する軟磁性層が得られる。垂直磁気記録媒体には、この軟磁性層が組み込まれる。このターゲット材を用いたスパッタリングでは、パーティクルの発生が顕著に低減される。このターゲット材を用いて得られる軟磁性層は、物性に優れている。この軟磁性層が組み込まれた垂直磁気記録媒体は、高品質である。
【実施例
【0044】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0045】
[原料粉末の製造]
表1-3に示される組成となるように、各原料を秤量して、耐火物からなる坩堝に投入して、減圧下、Arガス雰囲気又は真空雰囲気で、誘導加熱により溶解した。次に、アトマイズタワー内を表1-3に示される酸素濃度(ppm)に調整した後、溶解した溶湯を、坩堝下部に設けられた小孔(直径8mm)から流出させ、高圧のArガスを用いてガスアトマイズすることにより、Fe-Co系合金粉末を得た。得られた合金粉末を篩分級して、直径500μm以上の粗粉を除去することにより、ターゲット材製造用の原料粉末を得た。各原料粉末の平均粒子径D50(μm)及び外周部の酸素値Os(ppm)が、表1-3に示されている。
【0046】
[スパッタリングターゲット材の製造]
各原料粉末を用いて、以下の手順によりNo.1-47のターゲット材(実施例)及びNo.48-59のターゲット材(比較例)を製造した。
【0047】
始めに、篩分級後の原料粉末を、炭素鋼で形成された缶(直径250mm、長さ50mm)に充填して真空脱気した後、温度1000~1200℃、圧力90~150MPa、保持時間5~10時間の条件でHIP成形(熱間等方圧プレス)して、成形体を作製した。次に、得られた成形体を、ワイヤーカット、旋盤加工及び平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工して、スパッタリングターゲット材とした。
【0048】
[光学顕微鏡観察]
No.1-47のターゲット材(実施例)及びNo.48-59のターゲット材(比較例)について、それぞれ試験片を採取して、各試験片の断面を研磨した。各試験片の断面を光学顕微鏡(倍率:400倍)で観察し、面積100mmの観察面に存在する酸化物集合体(長径0.1μm以上の酸化物粒子を4個以上含む集合体)の数を計測した。各ターゲット材につき5個の試験片で計測した結果の平均を求め、小数点以下を四捨五入して得られた値が、酸化物集合体の数として、下表1-3に示されている。
【0049】
[パーティクル評価]
No.1-47のターゲット材(実施例)及びNo.48-59のターゲット材(比較例)を用いて、DCマグネトロンスパッタにて、スパッタリングをおこなった。スパッタリング条件は、以下の通りである。
基板:アルミ基板(直径95mm、厚み1.75mm)
チャンバー内雰囲気:アルゴンガス
チャンバー内圧:圧力0.9Pa
スパッタリング後、光学測定器(Optical Surface Analyzer)にて、直径95mmのアルミ基板上に付着した直径0.1μm以上のパーティクルを計数した。パーティクル数10個以下を○(良好)、10個超を×(不良)と評価した。結果が下表1-3に示されている。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表1-2に示すNo.1-47(実施例)は、いずれも、面積100mmの観察面で計測された酸化物集合体の数が、1.5個以下であった。これらのターゲット材を用いたスパッタリングで発生したパーティクルの数は、いずれも、10個以下と少なかった。
【0054】
表3に示すNo.48-53(比較例)は、アトマイズタワー内の酸素濃度が高い条件で製造され、外周部の酸素値Osが増加した原料粉末から得られたターゲット材である。また、No.54-59(比較例)は、平均粒子径D50が小さく、表面積が大きいことにより、外周部の酸素値Osが増加した原料粉末から得られたターゲット材である。これらのターゲット材では、いずれも2.0個以上の酸化物集合体が計測され、その結果、スパッタリング時に多くのパーティクルが発生した。
【0055】
表1-3に示される通り、本発明に係るターゲット材では、長径0.1μm以上の酸化物粒子を4個以上含む酸化物集合体の数を、100mmあたり1.5個以下にすることで、スパッタリング時のパーティクルの発生が顕著に低減された。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明されたスパッタリングターゲット材及び合金粉末は、種々の用途における磁性層の製造に適用されうる。
図1
図2