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特許7512205ポリビニルアルコールフィルム及びそれを用いた偏光フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム及びそれを用いた偏光フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240701BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240701BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20240701BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G02B5/30
C08L29/04 Z
C08K3/00
B29C55/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020562408
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051114
(87)【国際公開番号】W WO2020138286
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2018248304
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 洋平
(72)【発明者】
【氏名】浜島 功
(72)【発明者】
【氏名】中井 慎二
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/039303(WO,A1)
【文献】特開2006-219637(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C08L 29/04
C08K 3/00
B29C 55/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール(A)、炭素数9~30のアニオン系界面活性剤(B)及び炭素数0~8の電解質(C)を含有するポリビニルアルコールフィルムであって、
アニオン系界面活性剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.04~0.40質量部であり、
電解質(C)が、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム及びクエン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、
電解質(C)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.04~0.25質量部であるポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
フィルム幅が1.5m以上である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
フィルムの長さが3000m以上である、請求項1または2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
フィルム厚みが10~70μmである、請求項1~3のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルムを染色する工程及び延伸する工程を有する、偏光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学欠陥及び活性剤凝集物数が少なく、ヘイズの値が低く、剥離性が良好なポリビニルアルコールフィルム、及びそれを用いた偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)フィルムは、透明性、光学特性、機械的強度、水溶性などに関するユニークな性質を利用して様々な用途に使用されている。特に、その優れた光学特性を利用して、液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である偏光板を構成する偏光フィルムの製造原料(原反フィルム)としてPVAフィルムが使用されており、その用途が拡大している。LCD用偏光板には高い光学性能が求められ、その構成要素である偏光フィルムに対しても高い光学性能が要求される。
【0003】
偏光板は、一般的に、原反のPVAフィルムに染色、一軸延伸、および必要に応じてホウ素化合物等による固定処理等を施して偏光フィルムを製造した後、当該偏光フィルムの表面に三酢酸セルロース(TAC)フィルムなどの保護膜を貼り合わせることによって製造される。そして、原反のPVAフィルムは、一般的に、キャスト製膜法等のPVAを含む製膜原液を乾燥させる方法によって製造される。
【0004】
これまでにPVAフィルムやその製造方法に関する多くの技術が知られている。特許文献1には、アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤を含むポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用いて、キャスト法によりポリビニルアルコール系フィルムを製膜する工程からなることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムの製造方法が記載されている。これによれば、光学特性に加え、無色透明性に優れたポリビニルアルコール系フィルムの製造方法を提供できるとされている。しかしながら、アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤を単独使用したポリビニルアルコール系フィルムでは、フィルムを製膜する際の剥離性に問題がある場合があった。そして、剥離性を改善するために、アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤に更にノニオン系界面活性剤を使用した場合には、活性剤凝集物の個数が多く、ヘイズの値が高く、偏光フィルムに加工した際の偏光性能が劣る場合があり、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-193694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、光学欠陥及び活性剤凝集物数が少なく、ヘイズの値が低く、剥離性が良好であり、偏光フィルムに加工した際の偏光性能に優れたPVAフィルム、及びそれを用いた偏光フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、ポリビニルアルコール(A)、炭素数9~30のアニオン系界面活性剤(B)及び炭素数0~8の電解質(C)を含有するポリビニルアルコールフィルムであって、
アニオン系界面活性剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.04~0.40質量部であり、
電解質(C)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.04~0.40質量部であるポリビニルアルコールフィルムを提供することによって解決される。
【0008】
このとき、電解質(C)が、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属スルホン酸塩、アルカリ金属リン酸塩及びアルカリ金属カルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好適である。
【0009】
フィルム幅が1.5m以上であることが好適であり、フィルムの長さが3000m以上であることが好適である。また、フィルム厚みが10~70μmであることも好適である。
【0010】
また、上記課題は、上記ポリビニルアルコールフィルムを染色する工程及び延伸する工程を有する偏光フィルムの製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のPVAフィルムは、光学欠陥及び活性剤凝集物数が少なく、ヘイズの値が低く、剥離性が良好であるため工程通過性に優れる。したがって、当該PVAフィルムを原反として用いることによって、偏光性能が良好な偏光フィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のPVAフィルムは、PVA(A)、炭素数9~30のアニオン系界面活性剤(B)及び炭素数0~8の電解質(C)を含有する。
【0013】
本発明者らは、PVA(A)、アニオン系界面活性剤(B)及び電解質(C)をそれぞれ一定量含有するPVAフィルムであることにより、光学欠陥及び活性剤凝集物の個数が少なく、ヘイズの値が低く、剥離性が良好なPVAフィルムが得られることを見出した。そして、このようなPVAフィルムを用いることにより、偏光性能に優れた偏光フィルムが得られることが明らかとなった。本発明者らは、PVA(A)、アニオン系界面活性剤(B)及び電解質(C)の含有量が一定範囲にない場合、品質と剥離性が良好なPVAフィルムが得られなかったことを確認している。また、本発明者らは、電解質(C)の代わりに、ノニオン系界面活性剤を使用した場合、活性剤凝集物の個数が多く、ヘイズの値が高く、偏光フィルムに加工した際の偏光性能が劣ることを確認している。
【0014】
したがって、本発明のように、PVA(A)、アニオン系界面活性剤(B)及び電解質(C)をそれぞれ一定量含有するPVAフィルムであることが重要である。このような構成を満たすことにより、光学欠陥及び活性剤凝集物の個数が少なく、ヘイズの値が低く、剥離性が良好であり、偏光フィルムに加工した際の偏光性能に優れたPVAフィルムを得ることができる。
【0015】
[PVA(A)]
PVA(A)としては、ビニルエステルを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよいが前者が好ましい。入手性、コスト、PVA(A)の生産性などの観点からビニルエステルとして酢酸ビニルが好ましい。
【0016】
ビニルエステルと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。これらの他のモノマーは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、他のモノマーとして、エチレンおよび炭素数3~30のオレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0017】
前記ビニルエステル系重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合に特に制限はないが、ビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0018】
PVA(A)の重合度に必ずしも制限はないが、重合度が下がるにつれてフィルム強度が低下する傾向があることから200以上であることが好ましく、より好適には300以上、更に好適には400以上、特に好適には500以上である。また、重合度が高すぎるとPVA(A)の水溶液あるいは溶融したPVA(A)の粘度が高くなり、製膜が難しくなる傾向があることから、10,000以下であることが好ましく、より好適には9,000以下、更に好適には8,000以下、特に好適には7,000以下である。ここでPVA(A)の重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、PVA(A)を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。
重合度 = ([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0019】
PVA(A)のけん化度に特に制限はなく、例えば60モル%以上のPVA(A)を使用することができるが、偏光フィルム等の光学フィルム製造用の原反フィルムとして使用する観点から、PVA(A)のけん化度は95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることが更に好ましい。ここでPVA(A)のけん化度とは、PVA(A)が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル系モノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)を意味する。PVA(A)のけん化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0020】
PVA(A)は、1種のPVAを単独で用いてもよいし、重合度、けん化度、変性度などが異なる2種以上のPVAを併用してもよい。但し、PVAフィルムが、カルボキシル基、スルホン酸基等の酸性官能基を有するPVA;酸無水物基を有するPVA;アミノ基等の塩基性官能基を有するPVA;これらの中和物など、架橋反応を促進させる官能基を有するPVAを含有すると、PVA分子間の架橋反応によって当該PVAフィルムの二次加工性が低下することがある。したがって、光学フィルム製造用の原反フィルムのように、優れた二次加工性が求められる場合においては、PVA(A)における、酸性官能基を有するPVA、酸無水物基を有するPVA、塩基性官能基を有するPVAおよびこれらの中和物の含有量はそれぞれ0.1質量%以下であることが好ましく、いずれも含有しないことがより好ましい。
【0021】
前記PVAフィルムにおけるPVA(A)の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが更に好ましい。PVA(A)の含有率は、通常、90質量%以下である。
【0022】
[炭素数9~30のアニオン系界面活性剤(B)]
本発明で用いられるアニオン系界面活性剤(B)としては、炭素数9~30を満たすものであれば特に限定されず、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型及びリン酸エステル塩型からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。炭素数としては、10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。一方、炭素数としては、26以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、16以下であることが更に好ましい。
【0023】
前記硫酸エステル塩型としては、アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸カリウム、アルキル硫酸アンモニウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。前記アルキルとしては、炭素数8~20のアルキルが好ましく、炭素数10~16のアルキルがより好ましい。
【0024】
前記スルホン酸塩型としては、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸カリウム、アルキルスルホン酸アンモニウム、アルキルスルホン酸トリエタノールアミン、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸二ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム等が挙げられる。前記アルキルとしては、炭素数8~20のアルキルが好ましく、炭素数10~16のアルキルがより好ましい。
【0025】
前記リン酸エステル塩型としては、アルキルリン酸エステルナトリウム、アルキルリン酸エステルカリウム、アルキルリン酸エステルアンモニウム、アルキルリン酸エステルトリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルナトリウムが挙げられる。前記アルキルとしては、炭素数8~20のアルキルが好ましく、炭素数10~16のアルキルがより好ましい。
【0026】
上記の界面活性剤は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、活性剤凝集物の個数が少なく、ヘイズの値が低くなる観点から、アニオン系界面活性剤(B)がスルホン酸塩型であることが好ましい。
【0027】
本発明のPVAフィルムにおいて、アニオン系界面活性剤(B)の含有量は、PVA(A)100質量部に対して0.04~0.40質量部である。アニオン系界面活性剤(B)の含有量が0.04質量部未満の場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生するとともに剥離性が悪くなる、という問題が発生する。アニオン系界面活性剤(B)の含有量は、0.05質量部以上であることが好ましく、0.06質量部以上であることがより好ましい。一方、アニオン系界面活性剤(B)の含有量が0.40質量部を超える場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生する。アニオン系界面活性剤(B)の含有量は、0.35質量部以下であることが好ましく、0.25質量部以下であることがより好ましく、0.15質量部以下であることが更に好ましく、0.1質量部以下であることが特に好ましい。
【0028】
[炭素数0~8の電解質(C)]
本発明で用いられる電解質(C)としては、炭素数0~8を満たすものであれば特に限定されず、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属スルホン酸塩、アルカリ金属リン酸塩及びアルカリ金属カルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。アルカリ金属カルボン酸塩の炭素数としては、1~8であることが好ましく、2~7であることがより好ましく、3~6であることが更に好ましい。アルカリ金属カルボン酸塩としては、乳酸、マロン酸、グリセリン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、グルコン酸、アジピン酸等のカルボン酸のアルカリ金属塩が挙げられる。中でも、酒石酸、クエン酸及びグルコン酸からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸のアルカリ金属塩が好適に用いられる。
【0029】
上記アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ナトリウム及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。すなわち、電解質(C)としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、カルボン酸ナトリウム及びカルボン酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種がより好適に用いられる。カルボン酸としては、前述のものを好適に用いることができる。
【0030】
本発明のPVAフィルムにおいて、電解質(C)の含有量は、PVA(A)100質量部に対して0.04~0.40質量部である。電解質(C)の含有量が0.04質量部未満の場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生する。電解質(C)の含有量は、0.05質量部以上であることが好ましく、0.06質量部以上であることがより好ましい。一方、電解質(C)の含有量が0.40質量部を超える場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生する。電解質(C)の含有量は、0.35質量部以下であることが好ましく、0.25質量部以下であることがより好ましく、0.15質量部以下であることが更に好ましく、0.1質量部以下であることが特に好ましい。
【0031】
[PVAフィルム]
PVAフィルムに柔軟性を付与させることができる観点から、本発明のPVAフィルムは可塑剤を含有することが好ましい。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体的には、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらは1種の可塑剤のみを用いてもよいし、2種以上の可塑剤を併用してもよい。中でも、PVA(A)との相溶性や入手性などの観点から、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましい。
【0032】
可塑剤の含有量は、PVA(A)100質量部に対して1~30質量部の範囲内であることが好ましい。可塑剤の含有量が1質量部以上であると衝撃強度などの機械的物性や二次加工時の工程通過性に問題が生じ難い。一方、可塑剤の含有量が30質量部以下であるとフィルムが適度に柔軟になり、取り扱い性が向上する。
【0033】
本発明のPVAフィルムは、PVA(A)、アニオン系界面活性剤(B)、電解質(C)および可塑剤以外の他の成分を、必要に応じて更に含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤、充填剤(無機物粒子・デンプン等)、防腐剤、防黴剤、上記した成分以外の他の高分子化合物などが挙げられる。PVAフィルム中の他の成分の含有量は10質量%以下が好ましい。
【0034】
本発明のPVAフィルムの幅に特に制限はない。近年幅広の偏光フィルムが求められていることから、当該幅は1.5m以上であることが好ましい。また、PVAフィルムの幅があまりに広すぎると、PVAフィルムを製膜するための製膜装置の製造費用が増加したり、更には、実用化されている製造装置で光学フィルムを製造する場合において均一に延伸することが困難になったりすることがあることから、通常、PVAフィルムの幅は7.5m以下である。
【0035】
本発明のPVAフィルムの形状は特に制限されないが、より均一なPVAフィルムを連続して円滑に製造することができる点や、光学フィルム等を製造する際に連続して使用する点などから、長尺のフィルムであることが好ましい。長尺のフィルムの長さ(流れ方向の長さ)は特に制限されず、適宜設定することができる。フィルムの長さは、3000m以上であることが好ましい。一方、フィルムの長さは、30000m以下であることが好ましい。長尺のフィルムはコアに巻き取るなどしてフィルムロールとすることが好ましい。
【0036】
本発明のPVAフィルムの厚みは特に制限されず、適宜設定することができる。偏光フィルム等の光学フィルム製造用の原反フィルムとして使用する観点から、フィルムの厚みは、10~70μmであることが好ましい。なお、PVAフィルムの厚みは、任意の10ヶ所において測定された値の平均値として求めることができる。
【0037】
本発明のPVAフィルムのヘイズ及び活性剤凝集物の個数は、下記の実施例に記載の方法により測定される。かかるヘイズの値は、0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることが更に好ましく、0.15以下であることが特に好ましい。また、かかる活性剤凝集物の個数は、150個以下であることが好ましく、90個以下であることがより好ましく、75個以下であることが更に好ましく、65個以下であることが特に好ましい。
【0038】
本発明のPVAフィルムの製造方法は特に限定されないが、PVA(A)、アニオン系界面活性剤(B)及び電解質(C)を含有するPVAフィルムの製造方法であって、PVA(A)、アニオン系界面活性剤(B)及び電解質(C)を配合して製膜原液を調製する工程と、当該製膜原液を用いて製膜する工程とを有するPVAフィルムの製造方法であることが好ましい。
【0039】
製膜原液を調製する工程において、液体媒体をさらに配合することもできる。このときの液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷が小さいことや回収性の点から水が好ましい。
【0040】
本発明のPVAフィルムの製造方法において、例えば、PVA(A)、アニオン系界面活性剤(B)、電解質(C)、液体媒体、および必要に応じて更に上記した可塑剤やその他の成分を含有する製膜原液を用いて、流延製膜法や溶融押出製膜法など公知の方法を採用することができる。なお、製膜原液は、PVA(A)が液体媒体に溶解してなるものであってもよいし、PVA(A)が溶融したものであってもよい。
【0041】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合)は製膜方法、製膜条件等によっても異なるが、50~90質量%の範囲内であることが好ましく、55~80質量%の範囲内であることがより好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなりすぎず製膜が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が90質量%以下であることにより、製膜原液の粘度が低くなりすぎず得られるPVAフィルムの厚み均一性が向上する。
【0042】
上記の製膜原液を用いて、流延製膜法や溶融押出製膜法によって本発明のPVAフィルムが好適に製造される。このときの具体的な製造方法に特に制限はなく、例えば、当該製膜原液をドラムやベルト等の支持体上に膜状に流延または吐出し、当該支持体上で乾燥させることにより得ることができる。得られたフィルムに対し、必要に応じて、乾燥ロールや熱風乾燥装置により更に乾燥したり、熱処理装置により熱処理を施したり、調湿装置により調湿したりしてもよい。製造されたPVAフィルムは、コアに巻き取るなどしてフィルムロールとすることが好ましい。また、製造されたPVAフィルムの幅方向の両端部を切り取ってもよい。
【0043】
本発明のPVAフィルムは、偏光フィルム、位相差フィルム、特殊集光フィルム等を製造するための原反フィルムとして好適に使用することができる。本発明により、光学性能に優れ、品質が高いPVAフィルムを得ることができる。したがって、光学用PVAフィルムであることが本発明の好適な実施態様である。
【0044】
前記PVAフィルムを染色する工程と延伸する工程とを有する偏光フィルムの製造方法が本発明の好適な実施態様である。当該製造方法が更に固定処理工程、乾燥処理工程、熱処理工程等を有していてもよい。染色と延伸の順序は特に限定されず、延伸処理の前に染色処理を行ってもよいし、延伸処理と同時に染色処理を行ってもよいし、または延伸処理の後に染色処理を行ってもよい。また、延伸、染色などの工程は複数回繰り返してもよい。特に延伸を2段以上に分けると均一な延伸を行いやすくなるため好ましい。
【0045】
PVAフィルムの染色に用いる染料としては、ヨウ素または二色性有機染料(例えば、DirectBlack 17、19、154;DirectBrown 44、106、195、210、223;DirectRed 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;DirectBlue 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;DirectViolet 9、12、51、98;DirectGreen 1、85;DirectYellow 8、12、44、86、87;DirectOrange 26、39、106、107などの二色性染料)などを使用することができる。これらの染料は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。染色は、通常、上記染料を含有する溶液中にPVAフィルムを浸漬することにより行うことができるが、その処理条件や処理方法は特に制限されるものではない。
【0046】
PVAフィルムを延伸する方法として、一軸延伸方法および二軸延伸方法が挙げられ、前者が好ましい。PVAフィルムを流れ方向(MD)等に延伸する一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法のいずれで行ってもよいが、得られる偏光フィルムの性能および品質の安定性の観点から湿式延伸法が好ましい。湿式延伸法としては、PVAフィルムを、純水、添加剤や水溶性の有機溶媒等の各種成分を含む水溶液、または各種成分が分散した水分散液中で延伸する方法が挙げられる。湿式延伸法による一軸延伸方法の具体例としては、ホウ酸を含む温水中で一軸延伸する方法、前記染料を含有する溶液中や後述する固定処理浴中で一軸延伸する方法などが挙げられる。また、吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で一軸延伸してもよいし、その他の方法で一軸延伸してもよい。
【0047】
一軸延伸する際の延伸温度は特に限定されないが、湿式延伸する場合は好ましくは20~90℃、より好ましくは25~70℃、更に好ましくは30~65℃の範囲内の温度が採用され、乾熱延伸する場合は好ましくは50~180℃の範囲内の温度が採用される。
【0048】
一軸延伸処理の延伸倍率(多段で一軸延伸を行う場合は合計の延伸倍率)は、偏光性能の点からフィルムが切断する直前までできるだけ延伸することが好ましく、具体的には4倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、5.5倍以上であることが更に好ましい。延伸倍率の上限はフィルムが破断しない限り特に制限はないが、均一な延伸を行うためには8.0倍以下であることが好ましい。
【0049】
偏光フィルムの製造にあたっては、一軸延伸されたPVAフィルムへの染料の吸着を強固にするために、固定処理を行うことが好ましい。固定処理としては、一般的なホウ酸および/またはホウ素化合物を添加した処理浴中にPVAフィルムを浸漬する方法等を採用することができる。その際に、必要に応じて処理浴中にヨウ素化合物を添加してもよい。
【0050】
一軸延伸処理、または一軸延伸処理と固定処理を行ったPVAフィルムを次いで乾燥処理や熱処理を行うことが好ましい。乾燥処理や熱処理の温度は30~150℃が好ましく、特に50~140℃であることが好ましい。温度が低すぎると、得られる偏光フィルムの寸法安定性が低下しやすくなる。一方、温度が高すぎると染料の分解などに伴う偏光性能の低下が発生しやすくなる。
【0051】
上記のようにして得られた偏光フィルムの両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にすることができる。その場合の保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、保護膜を貼り合わせるための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などが一般に使用されており、そのうちでもPVA系接着剤が好ましく用いられる。
【0052】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系などの粘着剤を被覆した後、ガラス基板に貼り合わせて液晶ディスプレイ装置の部品として使用することができる。偏光板をガラス基板に貼り合わせる際に、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルムなどを同時に貼り合わせてもよい。
【実施例
【0053】
以下に、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
[PVAフィルム製造の工程通過性]
(剥離性)
4000m以上の長尺フィルムの製膜において、キャストドラムから膜を剥離する際に、問題なく剥離できたものをA、ドラムへの付着で剥離できなかったものをBとして評価した。
【0055】
[PVAフィルムの品質]
(光学欠陥の評価方法)
PVAフィルム上の製膜時の流れ方向(MD方向)に平行に存在するスジ状の欠点と鮫肌状の欠点を目視で観察して評価した。具体的には以下の実施例、比較例で得られたPVAフィルムから切り出したサンプル片をMD方向が垂直になるように吊り下げ、その背後に30Wの直管状蛍光灯を垂直に置いて点灯し、光学欠陥について、以下の基準で評価した。
A:スジ状と鮫肌状の欠陥が全くなく製品に最も適したレベル。
B:スジ状または鮫肌状の欠陥が所々あるが製品として使用可能なレベル。
C:スジ状または鮫肌状の欠陥が多数あり製品に適さないレベル。
【0056】
(ヘイズの測定方法)
測定対象となるPVAフィルムロールの表層側から10mの領域を切り出し、更に任意の位置からMD50mm×TD50mmの正方形(厚み60μm)のサンプル片を3枚採取した。採取したサンプルをスガ試験機株式会社製のヘーズメーター「HZ-2」を用いて、JIS K7136に準じて、前記PVAフィルムの中央部のヘイズを各3回測定し、その平均値を求めた。
【0057】
(活性剤凝集物の個数測定方法)
測定対象となるPVAフィルムロールの表層側から10mの領域を切り出し、更に任意の位置からMD50mm×TD50mm(厚み60μm)のサンプル片を採取した。採取したサンプルをキーエンス株式会社製のマイクロスコープVHX6000(倍率は1000倍)を用いてフィルム厚み方向に約1μm間隔の位置の画像を撮影し、撮影した画像に映る活性剤凝集物の個数を数えた。
【0058】
[偏光フィルムの作製]
測定対象となるPVAフィルムロールからMD100mm×TD50mmのサイズにサンプルを採取し、サンプルの中央部に長さ50mmの標線を記入した。標線を記入したサンプル4枚を延伸治具に取り付け、当該サンプルを温度30℃の水中に1分間浸漬している間に元の長さの2.0倍に長さ方向(MD)に一軸延伸(1段目延伸)した。次いで当該サンプルを、ヨウ素を0.03~0.05質量%およびヨウ化カリウムを1.0質量%の濃度で含有する温度32℃の染色浴に2分間浸漬している間に元の長さの2.5倍まで長さ方向(MD)に一軸延伸(2段目延伸)した。
【0059】
次いで当該サンプルを、ホウ酸を2.6質量%の濃度で含有する温度32℃の架橋浴に2分間浸漬している間に元の長さの3.6倍まで長さ方向(MD)に一軸延伸(3段目延伸)した。さらに当該サンプルを、ホウ酸を1.5質量%およびヨウ化カリウムを5.0質量%の濃度で含有する温度57℃の延伸浴に浸漬している間に元の長さの6.0倍まで長さ方向(MD)に一軸延伸(4段目延伸)した。次いで当該サンプルを、温度60℃の乾燥機で水分を除去し、偏光フィルムとした。なお、染色浴のヨウ素濃度を調整することで、偏光度Vが99.995%の偏光フィルムを作製した。
【0060】
[偏光フィルムの偏光性能]
(a)透過率Tsの測定
実施例または比較例で得られたPVAフィルムを用いて作製された偏光フィルムからMD20mm×TD20mmの正方形のサンプルを2枚採取し、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製「V7100」)を用いて、JIS Z8722:2009(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2°視野の可視光領域の視感度補正を行い、1枚のサンプルについて、長さ方向に対して45°傾けた場合の光の透過率と-45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts1(%)を求めた。もう1枚のサンプルについても同様にして、45°傾けた場合の光の透過率と-45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts2(%)を求めた。下記式(1)によりTs1とTs2を平均し、偏光フィルムの透過率Ts(%)とした。
Ts=(Ts1+Ts2)/2 (1)
(b)偏光度Vの測定
上記透過率Tsの測定で採取した2枚のサンプルを、その長さ方向が平行になるように重ねた場合の光の透過率T∥(%)、および、長さ方向が直交するように重ねた場合の光の透過率T⊥(%)を、上記「(a)透過率Tsの測定」の場合と同様にして測定し、下記式(2)により偏光度V(%)を求めた。
V = {(T∥-T⊥)/(T∥+T⊥)}1/2×100 (2)
(c)光透過性
染色浴のヨウ素濃度を調整することにより作製した透過率Tsが43.0%から44.0%の偏光子について、透過率Tsと偏光度Vの関係から、偏光度Vが99.995%における透過率Tsを算出し、光透過性の指標とした。
【0061】
実施例1
PVA(A)として重合度2400、けん化度99.9モル%のPVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物)のチップを用いた。当該PVAのチップ100質量部を35℃の蒸留水2500質量部に浸漬させた後、遠心脱水を行い、揮発分率60質量%のPVA含水チップを得た。
【0062】
当該PVA含水チップ250質量部(乾燥PVAは100質量部)に対して、蒸留水25質量部、グリセリン12質量部、アニオン系界面活性剤(B)0.08質量部、電解質(C)0.08質量部混合した後、得られた混合物を二軸押出機で加熱溶融(最高温度130℃)して製膜原液とした。このとき用いたアニオン系界面活性剤(B)は、アルキルスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数が15)であった。また、電解質(C)はクエン酸ナトリウムであった。
【0063】
この製膜原液を熱交換器で100℃に冷却した後、180cm幅のコートハンガーダイから表面温度が90℃であるドラム上に押出製膜して、さらに熱風乾燥装置を用いて乾燥し、次いで、製膜時のネックインにより厚くなったフィルムの両端部を切り取ることにより、膜厚60μm、幅165cmのPVAフィルムを連続的に製造した。製造過程のPVAフィルムについて上記した方法により剥離性を評価した。次いで、製造されたPVAフィルムのうちの長さ4000m分を円筒状のコアに巻き取ってフィルムロールとした。得られたPVAフィルムについて上記した方法により光学欠陥、ヘイズ、活性剤凝集物の個数を評価した。また、得られたPVAフィルムを使用して偏光フィルムを製造し、偏光性能として偏光度99.995%における透過率を評価した。結果を表1に示す。
【0064】
実施例2~7、比較例1~4
アニオン系界面活性剤(B)、電解質(C)の種類及び使用量を表1に示されるとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてPVAフィルムを製造してそれを評価した。なお、実施例2~4、7及び比較例1~3で使用したアニオン系界面活性剤(B)は、実施例1で使用したスルホン酸型と同じものである。実施例5及び比較例4で使用したアニオン系界面活性剤(B)は、硫酸エステル型のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(ポリオキシエチレン鎖数が3、アルキル鎖の炭素数が12)であり、実施例6で使用したアニオン系界面活性剤(B)は、リン酸エステル型のポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル硫酸カリウム(ポリオキシエチレン鎖数が6、アルキル鎖の炭素数が13)である。また、比較例4では、電解質(C)を使用せず、ノニオン系界面活性剤である3級アミド型のラウリン酸ジエタノールアミド0.07質量部を使用した。結果を表1に示す。
【0065】
表1に示す通り、実施例1~7のPVAフィルムは、剥離性に優れ、光学欠陥及び活性剤凝集物の個数が少なく、ヘイズの値も低く、品質が良好で製品として使用可能であった。また、実施例1~7のPVAフィルムは、偏光性能にも優れていた。一方、電解質(C)の含有量が少ない比較例1のPVAフィルムは光学欠陥が多数発生した。アニオン系界面活性剤(B)の含有量が少ない比較例2のPVAフィルムは、剥離性が良好ではなく、光学欠陥が多数発生した。アニオン系界面活性剤(B)と電解質(C)の含有量が多い比較例3のPVAフィルムは、光学欠陥が多数発生した。電解質(C)を使用せず、ノニオン系界面活性剤としてラウリン酸ジエタノールアミドを使用した比較例4では、活性剤凝集物の個数が多く、ヘイズの値も高かった。また、偏光性能も良好ではなかった。
【0066】
【表1】