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  • 特許-同位体分離装置の再起動方法 図1
  • 特許-同位体分離装置の再起動方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】同位体分離装置の再起動方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 59/04 20060101AFI20240701BHJP
   F25J 3/02 20060101ALI20240701BHJP
   B01D 3/14 20060101ALI20240701BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B01D59/04
F25J3/02 Z
B01D3/14 Z
C01B13/02 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021153280
(22)【出願日】2021-09-21
(65)【公開番号】P2023045084
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣海 豪
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-132418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 59/00-59/50
F25J 1/00- 5/00
B01D 1/00- 8/00
C01B 13/00-13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カスケードに構成した複数の蒸留塔を備える同位体分離装置において熱媒体流体の供給が不可能になった場合の同位体分離装置の再起動方法であって、
前記蒸留塔は第1塔~第n塔までn塔あり、
前記同位体分離装置は、複数成分よりなる気体又は液体を蒸留分離する装置であって、前記蒸留塔の塔頂部から取り出した気体を凝縮させて液体にし、同じ前記蒸留塔の塔頂部に還流させるための凝縮器と、
当該凝縮器に熱媒体流体を供給する配管と、
前記蒸留塔の塔底部から取り出した液体を蒸発させて気体にし、同じ前記蒸留塔の塔底部に還流させるための蒸発器と、を備え、
第k塔(但し、1≦k≦(n-1))の下部の気体又は液体を、第k+1塔に導入する経路と、
第k+1塔の上部の気体を、第k塔に導入する経路と、を備え、
前記カスケードに構成した蒸留塔の上流側の蒸留塔が保持する液を塔底部から放出し、前記液を放出した蒸留塔をガスバッファタンクとして用いる、同位体分離装置の再起動方法。
【請求項2】
前記液は、カスケードの上流側の蒸留塔から1塔ずつ順に、又はカスケードの上流側の蒸留塔の複数をまとめて、放出される、請求項1に記載の同位体分離装置の再起動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同位体分離装置の再起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素、窒素、酸素などの天然にはわずかしかない安定同位体を分離濃縮する方法として、複数の蒸留塔を直列に接続するカスケードプロセスがある。このプロセスは1つの連続した蒸留プロセスを複数の分割した蒸留塔で実施するものであり、原料中のある特定の成分を連続的に濃縮することが可能である。これにより分離係数が1に近く、非常に大きな理論段数が必要な分離困難な同位体を蒸留によって分離することが可能となる。
【0003】
特許文献1には、カスケードに構成した複数の蒸留塔(第1塔~第n塔)を用いて、複数成分よりなる気体又は液体を蒸留分離する装置であって、第k塔(1≦k≦(n-1))の塔底部あるいは該塔底部付近に設けた蒸発器の出口と、第(k+1)塔の塔頂部あるいは該塔頂部付近に設けた凝縮器の入口または該塔の中間部とを連結する導入経路と、第(k+1)塔の凝縮器出口と、第k塔の塔底部付近に設けた蒸発器の入口あるいは該塔の塔底部または該塔の中間部とを連結する返送経路を設け、該返送経路に、第(k+1)塔の凝縮器出口からの凝縮液を、凝縮液自身の自重で第k塔へ返送するための弁を設けたことを特徴とする蒸留装置、並びに、酸素同位体重成分を含む原料酸素を、複数の蒸留塔(第1塔~第n塔)で構成するカスケードプロセスにより濃縮するに際し、第k塔(1≦k≦(n-1))の塔底部あるいは該塔塔底部付近に設けた蒸発器出口のガスの少なくとも一部を、第(k+1)塔の塔頂部あるいは塔頂部付近に設けた凝縮器入口あるいは該塔の中間部に供給し、且つ、第(k+1)塔の塔頂部または該塔の凝縮器出口の液体の少なくとも一部を、返送液として凝縮液自身の自重で第k塔の蒸発器入口あるいは塔底部あるいは塔の中間部に返送することにより酸素同位体重成分を含む酸素分子1617O、1618O、1717O、1718O、及び1818Oのうち少なくとも一種を濃縮することを特徴とする酸素同位体の濃縮方法が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載された蒸留装置では、蒸留塔A~Aの各塔塔頂にコンデンサB~Bが備わっており、寒冷源である液化ガス(例えば液化窒素)を供給することにより各塔の圧力を一定に保っている(図1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-110759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のカスケードプロセスは、装置停止時に各同位体蒸留塔のカスケード接続を切ることにより孤立させ、塔頂のコンデンサに液化ガスを供給し続けることで圧力を保持し、同位体が濃縮した液を保持していた。しかし、コンデンサに液化ガスを供給することが困難な状況に陥った場合、同位体蒸留塔の圧力を保持出来なくなるため、濃縮している液体を即座に全量放出する必要があった。同位体分離装置の常温からの起動(液が完全にない状態からの起動)には数ヶ月~数年単位の長い時間が必要であるため、同位体蒸留塔内の同位体ガスを全量放出した状態から再度起動する場合には同じだけの時間がかかってしまう。
【0007】
本発明は、冷却源が供給不可能になった場合に装置内の濃縮同位体の損失を抑え、再起動時間を短縮することができる同位体分離装置の再起動方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] カスケードに構成した複数の蒸留塔を備える同位体分離装置において熱媒体流体の供給が不可能になった場合の同位体分離装置の再起動方法であって、
前記蒸留塔は第1塔~第n塔までn塔あり、
前記同位体分離装置は、複数成分よりなる気体又は液体を蒸留分離する装置であって、前記蒸留塔の塔頂部から取り出した気体を凝縮させて液体にし、同じ前記蒸留塔の塔頂部に還流させるための凝縮器と、
当該凝縮器に熱媒体流体を供給する配管と、
前記蒸留塔の塔底部から取り出した液体を蒸発させて気体にし、同じ前記蒸留塔の塔底部に還流させるための蒸発器と、を備え、
第k塔(但し、1≦k≦(n-1))の下部の気体又は液体を、第k+1塔に導入する経路と、
第k+1塔の上部の気体を、第k塔に導入する経路と、を備え、
前記カスケードに構成した蒸留塔の上流側の蒸留塔が保持する液を塔底部から放出し、前記液を放出した蒸留塔をガスバッファタンクとして用いる、同位体分離装置の再起動方法。
[2] 前記液は、カスケードの上流側の蒸留塔から1塔ずつ順に、又はカスケードの上流側の蒸留塔の複数をまとめて、放出される、[1]に記載の同位体分離装置の再起動方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却源が供給不可能になった場合に装置内の濃縮同位体の損失を抑え、再起動時間を短縮することができる同位体分離装置の再起動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、特許文献1に記載された蒸留装置の実施形態例を示す概略構成図である。
図2図2は、本実施形態に係る蒸留装置(同位体濃縮時)の一例を示す概略構成図である。
図3図3は、本実施形態に係る蒸留装置(再起動前の待機時)の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0012】
図2は、本発明の実施形態に係る蒸留装置の概略構成図である。ここに示す蒸留装置は、カスケードに構成したn基の蒸留塔、すなわち蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aを備えている。なお、蒸留塔をカスケードに構成するとは、一つの蒸留塔A(ここで、kは1≦k≦(n-1)を満たす整数である。)で濃縮された製品を、さらに次の蒸留塔Ak+1で濃縮することができるように蒸留塔を接続することをいい、このように構成された蒸留塔全体をカスケードプロセスという。
【0013】
これら蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの塔頂部付近には、それぞれ蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの塔頂部から導出されたガスの少なくとも一部を冷却し液化させるコンデンサB、コンデンサB、・・・コンデンサBが設けられている。コンデンサB、コンデンサB、・・・コンデンサBは、それぞれ蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの塔頂部から導出されたガス(導出ガス)が導入される第1流路5a、7a、・・・(2n+3)aと、熱媒体流体が流通する第2流路5b、7b、・・・(2n+3)bと、を有し、上記導出ガスを熱媒体流体と熱交換させることにより冷却し液化させることができるようになっている。コンデンサB、コンデンサB、・・・コンデンサBとしては、プレートフィン型熱交換器を用いることが好ましい。なお、図示例ではB、コンデンサB、・・・コンデンサBを蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの外部に設けたが、蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの塔頂部内部に設けてもよい。
【0014】
蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの塔底部付近には、それぞれ蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの塔底部から導出された液の少なくとも一部を加熱し気化させるリボイラC、リボイラC、・・・リボイラCが設けられている。リボイラC、リボイラC、・・・リボイラCは、それぞれ蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの塔底部から導出された液(導出液)が導入される第1流路6a、8a、・・・(2n+4)aと、熱媒体流体が流通する第2流路6b、8b、・・・(2n+4)bを有し、上記導出液を熱媒体流体と熱交換させることにより加熱し気化させることができるようになっている。リボイラC、リボイラC、・・・リボイラCとしては、プレートフィン型熱交換器を用いることが好ましい。また、これらのリボイラの取り付け位置は、液ホールドアップを低減するために各蒸留塔下部の液溜の液量が運転可能な範囲で最小となるような位置とする。なお、図示例ではリボイラC、リボイラC、・・・リボイラCを蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの外部に設けたが、蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの塔底部内部に設けてもよい。この場合はコイル式熱交換器としてもよい。
【0015】
本実施形態例の蒸留装置では、蒸留塔Aの下部と、蒸留塔Ak+1の上部とが、導入経路Dで接続されている。導入経路DにはバルブVが設けられている。導入経路Dは、コンデンサBk+1を通っており、導入経路Dを流通する流体とコンデンサBk+1の第2流路(2k+5)bを流通する熱媒体流体と熱交換させられるようになっている。なお、kは1≦k≦(n-1)を満たす整数である。
【0016】
また、コンデンサBk+1の第1流路(2k+5)aの出口と、蒸留塔Aの下部とは、バルブUを介して返送経路Eで接続されている。バルブUの取り付け位置は、返送経路Eの上方部(コンデンサBk+1の近く)で、複数塔のカスケード連結における蒸留塔Aと蒸留塔Ak+1の圧力差が、このカスケードシステムが作動するような各塔間の圧力差になるようなヘッド圧が得られる位置に設ける。なお、kは1≦k≦(n-1)を満たす整数である。
【0017】
蒸留塔A、蒸留塔A、・・・蒸留塔Aの内部には、規則充填物11が充填されている。規則充填物11としては、非自己分配促進型規則充填物及び自己分配促進型規則充填物のいずれも用いることができる。
【0018】
非自己分配促進型規則充填物は、蒸留塔内を下降する液流と蒸留塔内を上昇するガス流がその表面に沿って対向して流れ、かつ塔軸に垂直な断面方向の液流とガス流の混合が促進されずに気液接触が行われる形状及び構造を有する充填物である。非自己分配促進型規則充填物としては、例えば、アルミニウム、銅、アルミニウムと銅の合金、ステンレススチール、各種プラスチック等からなる多数の板状物又は管等を主流れ方向(塔軸方向)に平行に配置したものを挙げることができる。ここで、主流れとは蒸留塔内で塔軸方向に沿って下降する液流及び上昇するガス流を示すもので、充填材表面における液流とガス流の界面(すなわち境界層)で生じる物質移動の流れに対しての塔軸方向の流れを指すものである。
【0019】
自己分配促進型規則充填物は、蒸留塔内を下降する液流と蒸留塔内を上昇するガス流とを、規則充填物の主として表面において気液接触させ、この際、液流とガス流が規則充填物の表面上を塔軸方向に沿う主流れ方向に互いに対向して流れると同時に、主流れ方向に対し直角方向に液流及び/又はガス流の混合が促進されつつ気液接触が行われる形状及び構造を有する充填物である。自己分配促進型規則充填物としては、例えば、アルミニウム、銅、アルミニウムと銅の合金、ステンレススチール、各種プラスチック等の薄板を各種規則形状に成形し、これを積層構造のブロック状にしたものを挙げることができる。自己分配促進型規則充填物は、構造化充填物とも称される。
【0020】
<酸素同位体重成分の濃縮方法>
以下、本実施形態の蒸留装置を用いた酸素同位体重成分の濃縮方法の例を説明する。
まず、蒸留塔Aの中間部(高さ方向中間部)に接続されたフィード部である経路20を通して、原料酸素ガスを原料Fとして蒸留塔A内に供給する。原料酸素ガスとしては、高純度酸素を用いることが望ましい。高純度酸素としては、予めアルゴン、炭化水素類、クリプトン、キセノン、弗素化合物(パーフルオロカーボン等)等の不純物を除去し、純度を99.999%以上となるまで高めたものを用いることができる。特に炭化水素が除去された原料酸素を用いることが安全上好ましい。
【0021】
蒸留塔A内に供給された原料酸素ガスは、蒸留塔A内を上昇し規則充填物11を通過する際に、後述の還流液(下降液)と気液接触し蒸留される。原料酸素ガス中、同位体重成分を含む酸素分子(1617O、1618O、1717O、1718O、及び1818O)は、高沸点であるため凝縮しやすく、気液接触の過程で、下降液中の同位体重成分濃度は増加し、上昇ガス中の同位体重成分濃度は減少する。重成分濃度が減少し塔頂部に達した上昇ガスは、経路21を通して蒸留塔Aから導出された後、二分され、一方はコンデンサBの第1流路5aに導入され、ここで第2流路5b内を流れる熱媒体流体と熱交換して凝縮し還流液として蒸留塔Aの上部に戻され、他方は経路22を通して排ガスWとして系外に排出される。
【0022】
蒸留塔Aの塔頂部に戻された還流液は、規則充填物11の表面を下降液となって流下しつつ蒸留塔A内を上昇する原料酸素ガス、及び後述の上昇ガスと気液接触し、蒸留塔Aの塔底部に到達する。この気液接触の過程において、下降液中には液化しやすい酸素同位体重成分を含む酸素分子(1617O、1618O、1717O、7O18O、及び1818O)が濃縮される。
【0023】
蒸留塔Aの塔底部に達した下降液(以下、各塔の塔底部に溜まった液を塔底部液という)は、経路24を通して蒸留塔Aから導出され、リボイラCの第1流路6aに導入され、ここで第2流路6b内を流れる熱媒体流体と熱交換して気化した後、酸素同位体重成分が濃縮した濃縮物である導出ガスとしてリボイラCから導出される。
【0024】
リボイラCから導出された導出ガスは、経路24を通して蒸留塔Aの下部に戻されて蒸留塔A内を上昇する上昇ガスとなる。
蒸留塔A内の酸素同位体重成分が濃縮されたガスは、蒸留塔Aの下部から導入経路Dを通してコンデンサBに導入され、ここで凝縮され、蒸留塔Aの上部に導入される。本実施形態例の方法では、コンデンサBを経た凝縮液のうち一部は、自身の重量(ヘッド圧)で、返送経路Eを経由して蒸留塔Aの下部へ導入される。これにより、蒸留塔A内の塔頂部の圧力を蒸留塔Aの底部の圧力より低くすることができる。かくして蒸留塔A内の酸素同位体重成分が濃縮されたガスを、導入経路Dを通して蒸留塔Aに送ることができる。
【0025】
コンデンサBから導出され二分された凝縮液のうち他方は経路25を通して還流液として蒸留塔A上部に供給され、下降液となって蒸留塔A内の上昇ガスと気液接触しつつ蒸留塔Aの塔底部に到達する。この気液接触の過程において、上昇ガス中の同位体重成分濃度が減少するとともに、下降液中にはさらに酸素同位体重成分が濃縮される。
【0026】
重成分濃度が減少し塔頂部に達した上昇ガスは、経路28を通して蒸留塔Aから導出され、コンデンサB2で凝縮され、経路25を通じて蒸留塔Aの上部に戻される。
【0027】
酸素同位体重成分が濃縮された濃縮物である蒸留塔Aの塔底部液は、経路26を通して蒸留塔Aから導出され、リボイラCの第1流路8aに導入され、ここで第2流路8b内を流れる熱媒体流体と熱交換して気化した後、酸素同位体重成分が濃縮した濃縮物である導出ガスとしてリボイラCから導出される。
【0028】
リボイラCから導出された導出ガスは経路26を通して蒸留塔Aの下部に戻されて蒸留塔A内を上昇する上昇ガスとなる。
蒸留塔A内の酸素同位体重成分が濃縮されたガスは、蒸留塔Aの下部から導入経路Dを通してコンデンサBに導入され、ここで凝縮され、蒸留塔Aの上部に導入される。本実施形態例の方法では、コンデンサBを経た凝縮液のうち一部は、自身の重量(ヘッド圧)で、返送経路Eを経由して蒸留塔Aの下部へ導入される。これにより、蒸留塔A内の塔頂部の圧力を蒸留塔Aの底部の圧力より低くすることができる。かくして蒸留塔A内の酸素同位体重成分が濃縮されたガスを、導入経路Dを通して蒸留塔Aに送ることができる。
【0029】
蒸留塔A、・・・蒸留塔A、・・・蒸留塔Aで酸素同位体重成分の濃縮が進行し、蒸留塔Aの下部から経路32を通して酸素同位体重成分を濃縮した濃縮物である製品ガスPが回収される。
【0030】
<酸素同位体分離装置の再起動方法>
本実施形態の蒸留装置を用いた再起動方法の例を説明する。
コンデンサBに熱媒体流体(液化ガス)を供給することが困難な状況に陥った場合を想定する。このとき、まず蒸留塔間のカスケード接続を維持したまま蒸留塔の上流側から順に(例えば、A、A、A・・・An-1)、液を塔底から排出する。次に液の排出が完了した塔に下流側の塔からカスケード接続で用いられる配管を経由してガスを自然に生じる圧力差により送ガスする。
これにより、上流側の塔がガスバッファとなり、上記方法を取らない場合と比べて急激な圧力上昇を抑えることができる。また、同位体酸素が濃縮したガスを蒸留塔内部に保持することが可能となる。
塔底部から液を放出する蒸留塔は、装置内の液体が全て気化して発生するガス量と保持可能な圧力を考慮して決定し、上流側から順に放出する。特に、濃縮装置において上流側の塔は下流側の塔よりも塔径が大きく、容積が大きいため圧力上昇を抑えるバッファタンクとして機能させることができる。
保持したガスは、コンデンサに再度液化ガスを供給できる状態になった後、装置の再起動の際に再液化される。その後、通常の蒸留運転を行い濃度分布が形成されるまで待機する「起動運転」を行う必要があるが、本実施形態の再起動方法では、常温起動の場合と比較して、起動時間を短縮することができる。例えば18Oの場合、同位体ガスを全量放出して常温起動する場合は半年程度の起動時間が必要となるが、本実施形態の再起動方法により18Oが濃縮した液を50%以上残留した状態で再起動すると、2か月程度で製品中の18O濃度を定常状態の値まで濃縮させることができる。すなわち、従来の再起動方法に比べ、本実施形態の再起動方法では、4ヶ月の起動時間短縮の効果を得ることができる。
【0031】
<作用効果>
本発明の同位体分離装置の再起動方法では、カスケードに構成した蒸留塔の上流側の蒸留塔が保持する液を塔底部から放出し、前記液を放出した蒸留塔をガスバッファタンクとして用いることにより、急激な圧力の上昇を防ぎ、蒸留塔内部に濃縮した同位体ガスを多く残留させることができる。このため、装置内の濃縮同位体の損失を抑え、より短時間で定常状態に到達することができる。
【符号の説明】
【0032】
5a,7a,…(2n+3)a 第1流路
5b,7b,…(2n+3)b 第2流路
6a,8a,…(2n+4)a 第1流路
6b,8b,…(2n+4)b 第2流路
11 規則充填物
21,22,24,24A,25,26,26A,28,29,30,33 経路
20,22,32 経路
101 第1塔フィード
110,P 製品ガス
,A,…A 蒸留塔
,B,…B 凝縮器(コンデンサ)
,C,…C 蒸発器(リボイラ)
,D,…Dn-1 導入経路
,E,…En-1 返送経路
F 原料
W 排ガス
,V,・・・Vn-1 バルブ
,U,・・・Un-1 バルブ
,X,・・・Xn-1 バルブ
図1
図2
図3