(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】液柱分離デバイス、システム、及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20240701BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2023500175
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2021005855
(87)【国際公開番号】W WO2022176049
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】徐 若棋
(72)【発明者】
【氏名】竹中 啓
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 満
(72)【発明者】
【氏名】塚田 修大
(72)【発明者】
【氏名】花崎 洋平
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 伸朗
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/217330(WO,A1)
【文献】特表2019-536981(JP,A)
【文献】特表2016-539343(JP,A)
【文献】特開2015-031520(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0019224(US,A1)
【文献】岡洸祐 他,基板上に固定した液滴アレイの電気的結合と分裂,日本機械学会第6回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集,2014年,20pm3-PM018
【文献】J. CHI et al.,Generating Microdroplet Array on Photonic Pseudo-paper for Absolute Quantification of Nucleic Acids,ACS Appl. Mater. Interfaces,2018年,10,pp.39144-39150
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 - C12M 3/10
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
G01N 33/48 - G01N 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液柱分離デバイスであって、
第1基材と、前記第1基材と所定の間隔を隔てて対向するように配置された第2基材と、前記第1基材と前記第2基材の間に2つ以上の流体を供給する送液手段と、を備え、
前記第1基材の前記第2基材と対向する表面は、疎水性の疎水性領域の中に、複数の親水性の親水性領域が配列したパターンを有し、前記親水性領域の代表長さが前記所定の間隔より大きく、
前記第1基材と前記第2基材の間に、前記送液手段により2つ以上の非相溶流体を流すことにより、
ナノポアと電極との間に前記第1基材及び前記第2基材と接する液柱を作製する、
ことを特徴とする液柱分離デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の液柱分離デバイス
であって、
前記第1基材の前記親水性領域は前記疎水性領域より前記第2基材との距離が近い、
ことを特徴する液柱分離デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載の液柱分離デバイス
であって、
前記第1基材の、任意の隣り合う前記親水性領域の間に、前記第1基材と前記第2基材と連結する柱状物がある、
ことを特徴する液柱分離デバイス。
【請求項4】
請求項1に記載の液柱分離デバイス
であって、
前記第1基材は、前記親水性領域内に配置された複数の独立電極を有する、
こと特徴する液柱分離デバイス。
【請求項5】
請求項1に記載の液柱分離デバイス
であって、
前記第2基材は、前記第1基材の前記親水性領域との対向位置に、親水性領域を持つ、
ことを特徴する液柱分離デバイス。
【請求項6】
請求項1に記載の液柱分離デバイス
であって、
前記第1基材の前記親水性領域は、シリコン酸化物、またはガラスである、
ことを特徴とする液柱分離デバイス。
【請求項7】
請求項1に記載の液柱分離デバイス
であって、
前記第1基材の前記親水性領域に温調機構を備える、
ことを特徴とする液柱分離デバイス。
【請求項8】
第1基材と、前記第1基材と所定の間隔を隔てて対向するように配置された第2基材と、前記第1基材と前記第2基材の間に2つ以上の流体を供給する送液手段と、を備え、前記第1基材の前記第2基材と対向する表面は、疎水性の疎水性領域の中に、複数の親水性の親水性領域が配列したパターンを有し、前記親水性領域の代表長さが前記所定の間隔より大きく、前記第1基材と前記第2基材の間に、前記送液手段により2つ以上の非相溶流体を流すことにより、前記第1基材及び前記第2基材と接する液柱を作製し、前記第1基材は前記親水性領域に電気的に独立した第1電極を有し、前記第2基材は前記液柱に接するナノポアを有するメンブレンを有する液柱分離デバイスと、
前記メンブレンに接する電解質溶液を含むチャンバと、
前記チャンバに接する第2電極と、
前記第2電極に接続される測定部と、
前記測定部の測定結果に従い、両電極に印加する電圧を制御する制御部と
を備え、
前記液柱には、生体分子が導入され、前記ナノポアを通過させ、両電極間に流れるイオン電流の時間変化を計測することで、前記生体分子の通過を検出し、前記生体分子の構造的な特徴を解析する、
ことを特徴とする液柱分離システム。
【請求項9】
請求項8に記載の液柱分離システム
であって、
前記第1基材の前記親水性領域は前記疎水性領域より前記第2基材との距離が近い、
ことを特徴する液柱分離システム。
【請求項10】
請求項8に記載の液柱分離システム
であって、
前記第1基材の、任意の隣り合う前記親水性領域の間に、前記第1基材と前記第2基材と連結する柱状物がある、
ことを特徴する液柱分離システム。
【請求項11】
液柱分離方法であって、
第1基材と、前記第1基材と所定の間隔を隔てて対向するように配置された第2基材と、前記第1基材と前記第2基材の間に2つ以上の流体を供給する送液手段と、を備え、前記第1基材の前記第2基材と対向する表面は、疎水性の疎水性領域の中に、複数の親水性の親水性領域が配列したパターンを有し、前記親水性領域の代表長さが前記所定の間隔より大きい構成の液柱分離デバイスの前記第1基材と前記第2基材の間に、前記送液手段により2つ以上の非相溶流体を流すことにより、
ナノポアと電極との間に前記第1基材及び前記第2基材と接する液柱を作製する、
ことを特徴とする液柱分離方法。
【請求項12】
請求項11に記載の液柱分離方法
であって、
前記第1基材の前記親水性領域は前記疎水性領域より前記第2基材との距離が近い、
ことを特徴する液柱分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液柱生成方法、特にバイオ計測に関連する技術である液柱分離デバイス、システム、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA(deoxyribonucleic acid)やタンパク質などの生体分子を分析する生体試料分析装置シーケンスにおける新規技術として、生体分子と同程度の大きさの細孔を利用したナノポアDNAシーケンサの開発が進められている。
【0003】
ナノポアDNAシーケンサは、細孔を有するメンブレンと、メンブレンの上下に配置された電極を有するチャンバから構成される。メンブレン上の細孔であるナノポアは、メンブレンにより二層に分かれているチャンバを連結する唯一の流路である。この構成にて電極により電圧が印加されると、電気力線が細孔を通過するような電場がチャンバ内に生じるため、生体分子は電場から力を受け、ナノポアを通過する。生体分子がナノポアを通過する際に、生体分子の構造に由来するインピーダンスの変化が生じるため、両電極間に流れる電流値の変化を計測することで生体分子の構造特定が可能になる。
【0004】
このナノポアDNAシーケンサの読み取りのスループットを向上するためには、複数のナノポアで並行して計測することが重要となる。そのため、各ナノポア間は電気的に絶縁する必要があるが、ナノポア間を電気的に絶縁する隔壁の他、電極や配線などの周辺構成を備えた構造を微細化することは非常に困難である。
【0005】
そのため、発明者らは、チャンバの代わりに、ナノポアを備えたメンブレンに電極を備えた基板を対向させ、ナノポアと電極間に柱状の液滴(以下、液柱と称す)を構成することで、各ナノポアを電気的に絶縁するデバイスを検討している。
【0006】
デバイス内で微小な液滴を作製する技術として、特許文献1に、生体分子解析用のデバイスで、デバイス内に複数の微小液滴をアレイ化する方法が開示されている。特許文献1のデバイスは、蛍光色素の一分子観測を行うためのデバイスである。本デバイスは、疎水性表面の中に複数の微小親水性ウェルを備える第一の基板に、第二の基板を平行に対向させた構造である。基板間に蛍光色素を含む試料液を送液した後、油性封止液を送液すると、基板間は油性封止液で満たされるが、複数のウェル内に試料が残るため、第一の基板上のウェルは独立した反応室となる。1つの反応室に入る蛍光色素分子が1つ以下になるような試料液を用いると、シグナルが得られた反応室の数をカウントすることで、検出分子の濃度を正確に調べることが可能である。
【0007】
特許文献2には、電極に電位を印加するとその表面の濡れ性が変化する現象であるエレクトロウェッティングを利用し、2つの基板間に挟まれた液滴を動作させることができるデバイスが開示されている。電極がある基板側は、撥水膜だが、対面する基板には親水膜があり、親水膜の位置で液滴が保持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-121634号公報
【文献】特表2016-539343
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、発明者らは、ナノポアと電極間に液柱を構成することで、各ナノポアを電気的に絶縁するデバイスを検討している。しかしながら、これまで報告されてきた方法は、デバイス内で、液柱を生成する条件についての検討が不十分である。特許文献1は、蛍光色素の一分子観測が目的であるため、観察領域である反応室以外に蛍光色素を含む試料液が残らないようにする必要がある。反応室の外に試料液が残った場合、反応室内の蛍光色素の一分子観察する際に、反応室の外に残った試料液からの蛍光が背景光となるため、蛍光色素の一分子観察は阻害される。したがって、試料液がウェルを含む基板と、対向する基板に接する液柱状になることは好ましくない。そのため、液柱状にならない条件を検討する必要があるが、特許文献1ではその条件について言及されていない。また、ウェルのみに試料液が残るデバイスでは、液滴はナノポアもしくは電極に接触できないため、ナノポアDNAシーケンサに使用することはできない。
【0010】
また、特許文献2のエレクトロウェッティングを利用したデバイスでは、多数の電極及び配線を設ける必要があるため、複雑な工程が必要になる。さらに、液滴の移動には、デバイス内の電極に電位を印加する必要があるため、微小電流の変化を測定するナノポアDNAシーケンサにすること不向きと考える。
【0011】
本発明の目的は、上述のような課題を解決し、高密度の液柱アレイを生成する液柱分離デバイス、システム、及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明においては、液柱分離デバイスであって、第1基材と、第1基材と所定の間隔を隔てて対向するように配置された第2基材と、第1基材と第2基材の間に2つ以上の流体を供給する送液手段と、を備え、第1基材の第2基材と対向する表面は、疎水性の疎水性領域の中に、複数の親水性の親水性領域が配列したパターンを有し、親水性領域の代表長さが上記の所定の間隔より大きく、第1基材と第2基材の間に、送液手段により2つ以上の非相溶流体を流すことにより、ナノポアと電極との間に第1基材及び第2基材と接する液柱を作製する液柱分離デバイスを提供する。
【0013】
また、上記の目的を達成するため、本発明においては、第1基材と、第1基材と所定の間隔を隔てて対向するように配置された第2基材と、第1基材と第2基材の間に2つ以上の流体を供給する送液手段と、を備え、第1基材の第2基材と対向する表面は、疎水性の疎水性領域の中に、複数の親水性の親水性領域が配列したパターンを有し、親水性領域の代表長さが上記所定の間隔より大きく、第1基材と第2基材の間に、送液手段により2つ以上の非相溶流体を流すことにより、第1基材及び第2基材と接する液柱を作製し、第1基材は親水性領域に電気的に独立した第1電極を有し、第2基材は液柱に接するナノポアを有するメンブレンを有する液柱分離デバイスと、メンブレンに接する電解質溶液を含むチャンバと、チャンバに接する第2電極と、当該第2電極に接続される測定部と、測定部の測定結果に従い、両電極に印加する電圧を制御する制御部と、を備え、液柱には、生体分子が導入され、ナノポアを通過させ、両電極間に流れるイオン電流の時間変化を計測することで、生体分子 の通過を検出し、生体分子の構造的な特徴を解析する液柱分離システムを提供する。
【0014】
更にまた、上記の目的を達成するため、本発明においては、液柱分離方法であって、第1基材と、第1基材と所定の間隔を隔てて対向するように配置された第2基材と、第1基材と第2基材の間に2つ以上の流体を供給する送液手段と、を備え、第1基材の第2基材と対向する表面は、疎水性の疎水性領域の中に、複数の親水性の親水性領域が配列したパターンを有し、親水性領域の代表長さが所定の間隔より大きい液柱分離デバイスの第1基材と第2基材の間に、送液手段により2つ以上の非相溶流体を流すことにより、ナノポアと電極との間に第1基材及び第2基材と接する液柱を作製する液柱分離方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、2つ以上非相溶流体以上を送液することで、第1基材の親水性領域に対向な第2基材に接する独立液柱を生成することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1の液柱分離デバイスの一構成例を示す説明図である。
【
図2】実施例1に係る、液柱の生成過程を示す説明図である。
【
図3】実施例1に係る、液滴と液柱生成条件の解析結果を示すグラフ図である。
【
図4】実施例1に係る、液滴と液柱を示す図である。
【
図5】実施例1の液柱分離デバイスの変形例を示す図である。
【
図6】実施例1の液柱分離デバイスの変形例を示す図である。
【
図7】実施例1の液柱分離デバイスの変形例であって、親水性領域に抵抗体を入れた構造を示す図である。
【
図8】変形例に係る、第1基材の親水性領域の上に疎水性領域を作製するプロセスを示す図である。
【
図9】変形例に係る第2基材にピラーを作製するプロセスを示す図である。(レジストとは、樹脂(ポリマー)、感光剤、添加剤、溶剤を主成分とする混合物)
【
図10】実施例2に係る、ナノポアデバイスの構成を示す模式図である。
【
図11】実施例3に係る、ナノポアデバイスの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面に従い順次、本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0018】
実施例1は、第1基材と第2基材を連結する液柱を分離する液柱分離デバイス、システム、及び方法の実施例である。まず、液柱分離デバイス100の構成について、
図1を用いて説明する。
図1(a)は液柱分離デバイス100の斜視図であり、同図(b)は斜視図のA-A’断面での断面図である。液柱分離デバイス100は、第1基材101と第2基材102で、周縁部材105を挟むように構成され、液柱分離デバイス100内に液体を注入するための注入口106と液体を排出するための排出口107を備える。
【0019】
また、第1基材101は親水性領域103と疎水性領域104を備える。本実施例では、第1基材101は親水性領域103の表面に疎水性領域104の膜が構成されている。
【0020】
親水性領域103は、親水性の固体材料であり、例えばガラス、酸化シリコンを用いる。疎水性領域104は疎水性の物質で構成される。例えば、シラン化合物、フッ素樹脂、炭化水素化合物である。フッ素系高分子樹脂としては、例えばアモルファスフッ素樹脂等が挙げられる。アモルファスフッ素樹脂は、高い疎水性を有し、かつ、生体試料に対する毒性が、低いという利点がある。
【0021】
第1基材101において、疎水性領域104に覆われていない部分は親水性領域103が露出しているため、親水性になる。疎水性領域104に覆われていない親水性領域103の形状は、例えば円形状、多角形形状等であってもよい。本実施例では親水性領域103の上に疎水性領域104を作製したが、反対に疎水性領域の上に親水性領域を設けても良い。
【0022】
第2基材102は親水性の基材を使用した。例えば、ガラス、酸化膜を持つシリコンウェハであり、また親水化の表面処理した疎水性材料や、親水シートを張り合わせた樹脂を使用してもよい。第1基材101と第2基材102との間の隙間は周縁部材105で支持する。周縁部材105の材質に特に制限はないが、例えばテフロン(登録商標)シート、シリコンシート、両面粘着テープ、ジメチルポリシロキサン(dimethylpolysiloxane、PDMS)等が挙げられる。
【0023】
図1(c)では液柱分離デバイスの使用方式の一例を示した。チューブ108を用いて、注入口106と送液手段109を繋ぎ、送液手段109から溶液を送液する。送液手段はシリンジポンプやダイアフラムポンプなどのポンプの他、シリンジやピペッターを用い手操作で送液してもよい。
【0024】
図2は本実施例の液柱分離デバイス100で液柱112を作製するプロセスを示す。親水性第1溶液110を分散相、疎水性の第2溶液111を連続相とする 。始めに、注入口106から親水性の第1溶液110を液柱分離デバイス100内に流す。余分な第一溶液110は排出口107より流出する。次に、疎水性の第2溶液111を注入口106から液柱分離デバイス100内に流す。この時に後述する条件を満たすとき、疎水性領域104に覆われていない親水性領域103上に液柱112が生成される。
【0025】
本実施例で使用する親水性の液体は、検出対象である生体分子を含有する電解質溶液であるが、液柱の作製の観点では、生体分子の有無は関係無く、親水性の液体であることが重要である。また、親水性の液体中は界面活性剤などを含んでもよいが、例えば、生体分子の構造を破壊しない非イオン性の界面活性剤であるTween20、Triron-X100が好ましい。また、本実施例で使用する疎水性液体はシリコーンオイル、ミネラルオイル、またはフッ素系オイルが好ましい。例えば、フッ素系液体としてはNovec(登録商標)、パーフルオロカーボン構造を有するポリマー、フロリナート(登録商標)FC-40、フロリナート(登録商標)FC-43等を使用する。
【0026】
上記液柱112の生成原理を説明する。微小流路内では、体積に対し、界面積の占める割合が大きくなるので、流速による慣性力(体積力)に比べ、親水性溶液である第一溶液110と疎水性溶液である第二溶液111の界面に働くせん断力や界面張力(面積力)が支配的となる。二液の界面にはせん断力が発生し、疎水性領域104に覆われていない親水性領域103上の第一溶液110のみ液柱分離デバイス100内に留まる。次に、疎水性領域104に覆われていない親水性領域103上の第一溶液110が液柱112となる条件について説明する。
【0027】
図3は、親水性領域の代表長さをD、第1基材の親水性表面と第2基材の間隔、すなわち本実施例では周縁部材105の高さをHとしたときの液柱生成条件を示すグラフ図であり、作成には流体解析を用いた。グラフは、断面アスペクト比A(=D/H)をX軸に、送液流速と親水性領域の中心距離(ピッチ)の比率をY軸にする。
【0028】
図3に示すように、(i)断面アスペクト比Aが1未満は、基材に接する液柱ができない条件である。次に、(ii)断面アスペクト比Aが1以上、2未満の条件は液柱の生成が不安定な条件である。最後に、(iii)Aが2以上の条件は、液柱が安定的に生成される条件である。したがって、液柱112が生成される必要条件は、断面アスペクト比(A=D/H)が、1以上になることである。
【0029】
図4(a)、(b)は生成された液柱112、あるいは液滴113のイメージ図である。次に、液柱分離デバイス100より、液柱が生成しやすいデバイス構造を示す。
【0030】
図5は本実施例の液柱分離デバイスのその他の形状例である。
図1に示した第2基材102の親水性表面103は、液体が表面に広がるため、隣接する液柱と分離できない可能性がある。そこで
図5に示すように、第2基材102の表面に接する液柱の範囲を拘束するため、第1基材101のように第2基材102の表面も疎水性領域104‘を作製する。この疎水性領域の形状は必ず第1基材の疎水性領域と同じとは限らない。
【0031】
また、先述したように、液柱ができる十分条件は、断面アスペクト比A(=D/H)が2以上であるため、親水性領域が小さいほど、周縁部材105の高さも小さくする必要がある。しかしながら、その場合は2つの基板の間隔が狭くなるため、第1溶液や第2溶液を流す際の圧力損失が高くなり、液体が流れにくくなる。
【0032】
図6で示すデバイス構造で、この問題を解決することができる。すなわち、基材表面の凸構造103‘の部分を親水性領域にした構造を備える。凸構造103‘の親水性領域の表面と対向の基材との間隔は狭くなるが、凸構造以外の親水性領域の表面と対向する基材の間隔は大きくすることが可能なため、圧力損失の増加を抑制することができる。凸構造103‘のの親水性領域の製作方法は、例えば、シリコンウェハに熱処理して、親水性シリコン酸化物層を生成し、前記微細加工技術のフォトリソグラフィー、エッチングなどの技術を用いて、親水性領域を作製することができる。親水性シリコン酸化物層をエッチングした部分はシリコンが露出するため疎水性となる。
【0033】
また隣り合う液柱は結合する可能性があるので、
図7(a)に示したように親水性領域の間に抵抗体114を入れることで、液柱の結合を防止することが可能になる。また、流路内では、管の壁面近くの流速は低く、流路中央付近の流速は高い。そのため、
図7(b)のように、第1基材と第2基材を組み合わせによって、親水性領域の間に抵抗体114‘を入れることで、流速を均一化することができる。
【0034】
抵抗体114´の微細構造パターンは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)をはじめとするシリコンゴム、天然ゴム、フッ素ゴムなどのゴム材料、各種プラスチック類を用いることができる。また、石英ガラス、フロートガラス、フッ化カルシウム、シリコンカーバイド、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ダイヤモンド等の透明材料、または、セラミックス、アルミニウム、ステンレスなどの金属を含む不透明な硬質材料を用いることができる。
【0035】
図8、
図9に本変形例に係る、第1基材の親水性領域の上に疎水性領域を作製するプロセス、及びを第2基材にピラーを作製するプロセスの一例を示した。
図8(a)~(h)に示すように、第1基材の親水性領域の上に疎水性領域を作製するプロセスは、第1基材101上で、シランカップリングコーティング、疎水性コーティング、表面処理、レジストコーティング、露光、現像、ドライエッチング、レジスト除去を行い、親水性領域を形成する。
【0036】
また、
図9(a)~(e)に示すように、第2基板102上にレジストをコーティングし(同図(a)、(b))、露光(同図(c))の後、レジスト除去(同図(d))を行って抵抗体114を形成し、
図8の第1基板101と組み合わせることにより(同図(e))、
図7に示した親水性領域に抵抗体を入れることができる。ここで、レジストとは、樹脂(ポリマー)、感光剤、添加剤、溶剤を主成分とする混合物である。
【0037】
以上説明したように、本実施例は、表面に特定の物質を計測するための機能を備えた第一基板と、表面に親水、疎水性のパターンを備えた第2基材を対向させた液柱分離デバイスであり、基板間に流体を供給するための供給孔と、流体を排出するための排出口を備え、第一基板上の特定物質を計測するための機能と、第二基板上の親水性のパターンは対面位置にあり、親水性領域の代表長さは第1基材と第2基材の間隔より大きくすることにより、第1基材の親水性領域に対向な第2基材に接する独立液柱を生成することができる。
【実施例2】
【0038】
実施例2は、ナノポアデバイスと液柱分離デバイスを組み合わせたナノポアDNAシーケンサを用いた測定工程の実施例である。
図10を用いて実施例2の概略を説明する。
図10は、液柱分離デバイス100とナノポアデバイス200の構成を示す模式図である。
【0039】
本実施例における液柱分離デバイス100は実施例1と同様のデバイスを使用し、第2基材として、ガラス基板の代わりにナノポアデバイス200を用いた。ナノポアデバイス200は、メンブレン201、メンブレン付き基板202を備える。メンブレン201は絶縁体としての性質が必要であり、本実施例ではシリコン窒化膜を用いたが、シリコン酸化膜、有機物質、又は高分子材料などを用いてもよい。電極は銀-塩化銀を用いたが、白金、金などであってもよい。チャンバ203は、その内部に電解質溶液204を満たすことが可能に構成されている。本実施例の測定装置は、第2電極205a、ナノポアデバイス200の対向位置に第1基材の各親水性領域の中、独立する第1電極205bが設置され、配線206、並びに電源及び制御・検出データ取得ユニット207を有する。電源及び制御・検出データ取得ユニット207は、図示を省略した高出力電源と、プロセッサと、メモリと、記憶部を備える。
【0040】
次に、測定工程について説明する。測定工程はナノポア形成、試料分析の2つの工程からなる。はじめに、ナノポアの形成は以下の流れで行われる。チャンバ203内には電解質溶液204が充填される。次に、液柱分離デバイス100で、実施例1に示す手順でメンブレン201と第1電極205bと接する水溶液の液柱を生成する。
【0041】
液柱生成する際に使用した第1溶液110とチャンバ内の電解質溶液204には、KCl水溶液を用いた。KCl水溶液の他に、LiCl、NaCl、CaCl2、MgCl2、CsCl等の水溶液でもよい。このとき第1電極205bは第1溶液110に接触し、第2電極205aは電解質溶液204に接触する。電極205a及び205bに電圧を印加するとメンブレン201にナノメートルサイズの細孔(ナノポア)208が形成される。
【0042】
次に、試料分析工程について説明する。液柱分離デバイス100内に再度液柱を作製する前に、洗浄液で液柱分離デバイス100内を洗浄し、チャンバ203と共に電解質溶液で充填される。次に、実施例1の手順に沿って、生体分子(DNA鎖等)を含む電解質溶液の液柱を作製する。チャンバ203内の第2電極205aと液柱と接する独立する第1電極205bの間に電圧を印加する。電圧を印加することにより、ナノポアの周辺に電場が発生し、生体分子は電場によって静電力を受ける。静電力により、生体分子はナノポアを通過する。生体分子がナノポアを通過する際に、生体分子により、ナノポアが一部封鎖され、ナノポアの抵抗値が変化するため、両電極205a、205b間で検出される電流値は変化する。電流値の変化量から、生体分子の構造を分析する。以上の工程により、ナノポア形成、及び生体試料分析が実現される。
【実施例3】
【0043】
液柱分離デバイスと温調機構を組み合わせた実施例を示す。
図11(a)は、実施例2のデバイスをもとに、第1基材の外側にペルチェ素子、ヒートブロック等の温度サイクルの制御ができる温調機構209を設けたデバイスである。温調機構を入れることで、液柱分離デバイス100で生成した生体分子を含む液柱に温度制御ができ、PCR反応(ポリメラーゼ連鎖反応、Polymerase Chain Reaction)で必要な3温度域の変化を素早く加熱・冷却し、既定温度を保持し、さらに規定数までの反復を繰り返すことができる。また、
図11(b)に示すデバイスのように、第1基材の親水性ウェルごとに温調機構209‘を分けることで、液柱毎に温度制御をおこなってもよい。本実施例のデバイスを用いることで、PCR反応で増幅された遺伝子を直接にナノポアで計測することが可能である。
【0044】
続いて、上述した既定温度、規定数の一具体例を示す。PCRによるDNA合成の各サイクルは、熱変性(denaturation)、アニーリング(annealing)、伸長(extention)の3ステップで構成される。この3ステップによるPCRサイクルを何度か繰り返すことにより、ターゲットDNA配列が合成される。ここで、DNAポリメラーゼの特性、PCR緩衝液の種類、およびテンプレートDNAの複雑性は、これら反応条件のセットアップにすべて影響を与える。
【0045】
下記にPCR反応の一例を示した。
(0)最初の熱変性:95 °C 5分。加熱することにより、テンプレートの2本鎖DNAが分かれて1本鎖になる。
(1)熱変性:95 °C、30秒。
(2)アニーリング:60 °C、 60秒。プライマーがテンプレートに結合する。
(3)伸長:72 °C 、60秒。DNAポリメラーゼによって結合したプライマー部分からDNAが伸長する。
(1)(2)(3)の三つのステップを40サイクルで繰り返すことにより、目的領域のターゲットは指数的に増加する。
【0046】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
100:液柱アレイデバイス、101:第1基材、102:第2基材、103、103‘:親水性領域、104、104‘:疎水性領域、105:周縁部材、106:注入口、107:排出口、108:チューブ、109:送液手段、110:第1溶液、111:第2溶液、112:液柱、113:液滴、114、114’:抵抗体、200:ナノポアデバイス、201:メンブレン、202:メンブレン付き基板、203:チャンバ、204:電解質溶液、205a:電極、205b:電極、206:配線、207:電源及び制御・検出データ取得ユニット、208:細孔、209、209‘:温調機構、
D:親水性領域の代表長さ
H、H‘:第1基材と親水性表面と第2基材の間隔
A:断面アスペクト比。