(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】情報コード付き透明基材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20240702BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20240702BHJP
G06K 19/06 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C23C14/08 K
C23C14/58 C
G06K19/06 140
G06K19/06 037
(21)【出願番号】P 2020048453
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】大上 秀晴
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-117353(JP,A)
【文献】特開2003-192393(JP,A)
【文献】特開2020-002459(JP,A)
【文献】特開2002-356097(JP,A)
【文献】特開平02-225347(JP,A)
【文献】特開平06-234288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/08
C23C 14/58
G06K 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、
透明基材の少なくとも一面に設けられた複合タングステン酸化物
の皮膜を備え、
上記複合タングステン酸化物
の皮膜には、可視光領域の観察では認識できず、赤外線照射により表示される情報コードが設けられていることを特徴とする情報コード付き透明基材。
【請求項2】
上記透明基材が、板ガラスまたは樹脂で構成されることを特徴とする請求項1に記載の情報コード付き透明基材。
【請求項3】
上記複合タングステン酸化物
の皮膜が、タングステンとM元素(M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素)と酸素とで構成される複合タングステン酸化物の皮膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の情報コード付き透明基材。
【請求項4】
上記M元素とタングステンの原子比(M:W)が1:2~1:4であることを特徴とする請求項3に記載の情報コード付き透明基材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の情報コード付き透明基材を製造する方法において、
タングステンとM元素と酸素から成るスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングガスに酸素を添加すると共に、透明基材を加熱しない条件でスパッタリング成膜して上記透明基材の少なくとも一面に可視光領域と赤外線領域に透過性を有する複合タングステン酸化物
の皮膜を形成する皮膜形成工程と、
可視光領域と赤外線領域に透過性を有する上記複合タングステン酸化物
の皮膜に対し不活性雰囲気または還元雰囲気下でレーザを照射し、300℃以上に加熱してレーザ照射部位を還元させ、還元されて赤外線領域に吸収性を有するように変化したレーザ照射部位と赤外線領域に透過性を有するレーザ非照射部位とで構成される情報コードを複合タングステン酸化物
の皮膜に描画するレーザ照射工程、
を具備することを特徴とする情報コード付き透明基材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の情報コード付き透明基材を製造する方法において、
タングステンとM元素と酸素から成るスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングガスに酸素を添加すると共に、透明基材を300℃以上に加熱する条件でスパッタリング成膜して上記透明基材の少なくとも一面に可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する複合タングステン酸化物
の皮膜を形成する皮膜形成工程と、
可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する上記複合タングステン酸化物
の皮膜に対し酸素を含む雰囲気下でレーザを照射し、450℃以上に加熱してレーザ照射部位を酸化させ、酸化されて赤外線領域に透過性を有するように変化したレーザ照射部位と赤外線領域に吸収性を有するレーザ非照射部位とで構成される情報コードを複合タングステン酸化物
の皮膜に描画するレーザ照射工程、
を具備することを特徴とする情報コード付き透明基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域の観察では認識されず、赤外線照射により表示(認識)される情報コードが付された透明基材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明基材である板ガラスは、建築物、鉄道車両や自動車等の窓材として広く用いられている。これ等窓材に用いられる板ガラスには、製造者、寸法、製品仕様、製造年月に係る製品情報等の情報コードが板ガラス下方の端部に目視可能に表示されている。鉄道車両用安全ガラスでは、JIS3213-2008により製造者等の情報を表記することが求められ、自動車用安全ガラスでは、JIS3211-2015により製造者等の情報を表記することが求められている。これ等情報の表記は、板ガラスにレーザ印字等で描画されている。また、特許文献1には、建築用板ガラスの寸法、品種、構成等の製品情報が表示された建築用板ガラスについて開示されている。
【0003】
ところで、これ等情報コードの表記は、JIS等の規格により表記が求められている表記の他、破損時における交換等の便宜のために表記されているものもある。しかし、窓材が配置される位置やその大きさによっては、維持管理の便宜のために付された情報コードが視覚の妨げになってしまう問題が存在した。
【0004】
また、自動車の盗難防止の観点から、車体や窓ガラスに製造番号や車台番号等の固体認識番号を視認できるように付されている。しかし、自動車が盗難された場合、車体に付された個体認識番号は削り取って虚偽の製造番号を付け直すことが可能なため防犯上の問題が存在した。他方、個体認識番号が自動車の窓ガラスに付されている場合、窓ガラスを交換しない限り個体認識番号の変更はできず、窓ガラスを交換するには大掛かりな作業を要するため、防犯上好ましかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-192393号公報
【文献】特許第4096205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窓材に使用される板ガラスは、上述したように窓材が配置される位置やその大きさによって板ガラスに付された情報コードが視覚の妨げになる問題があり、また、防犯上の情報に関しては目視で視認できないことが望ましい。
【0007】
本発明はこのような問題点に着眼してなされたもので、その課題とするところは、可視光領域の観察では認識されず、赤外線照射により表示(認識)される情報コードが付された透明基材とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者は、建築物や自動車用窓材として広く利用されている熱線遮蔽材料(熱線遮蔽膜が成膜された板ガラス等)に着目し、情報コードを板ガラスに描画する従来法に代えて熱線遮蔽膜に描画する方法について研究を試みたところ、可視光領域に透過性を有し赤外線領域に透過性若しくは吸収性を有する複合タングステン酸化物の皮膜を使用することで解決できることを見出すに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
情報コード付き透明基材において、
透明基材と透明基材の少なくとも一面に設けられた複合タングステン酸化物の皮膜を備え、
上記複合タングステン酸化物の皮膜には、可視光領域の観察では認識できず、赤外線照射により表示される情報コードが設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る第2の発明は、
第1の発明に記載の情報コード付き透明基材において、
上記透明基材が、板ガラスまたは樹脂で構成されることを特徴とし、
第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載の情報コード付き透明基材において、
上記複合タングステン酸化物の皮膜が、タングステンとM元素(M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素)と酸素とで構成される複合タングステン酸化物の皮膜であることを特徴とし、
第4の発明は、
第3の発明に記載の情報コード付き透明基材において、
上記M元素とタングステンの原子比(M:W)が1:2~1:4であることを特徴とするものである。
【0011】
次に、本発明に係る第5の発明は、
第1の発明~第4の発明のいずれかに記載の情報コード付き透明基材を製造する方法において、
タングステンとM元素と酸素から成るスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングガスに酸素を添加すると共に、透明基材を加熱しない条件でスパッタリング成膜して上記透明基材の少なくとも一面に可視光領域と赤外線領域に透過性を有する複合タングステン酸化物の皮膜を形成する皮膜形成工程と、
可視光領域と赤外線領域に透過性を有する上記複合タングステン酸化物の皮膜に対し不活性雰囲気または還元雰囲気下でレーザを照射し、300℃以上に加熱してレーザ照射部位を還元させ、還元されて赤外線領域に吸収性を有するように変化したレーザ照射部位と赤外線領域に透過性を有するレーザ非照射部位とで構成される情報コードを複合タングステン酸化物の皮膜に描画するレーザ照射工程、
を具備することを特徴とし、
また、第6の発明は、
第1の発明~第4の発明のいずれかに記載の情報コード付き透明基材を製造する方法において、
タングステンとM元素と酸素から成るスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングガスに酸素を添加すると共に、透明基材を300℃以上に加熱する条件でスパッタリング成膜して上記透明基材の少なくとも一面に可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する複合タングステン酸化物の皮膜を形成する皮膜形成工程と、
可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する上記複合タングステン酸化物の皮膜に対し酸素を含む雰囲気下でレーザを照射し、450℃以上に加熱してレーザ照射部位を酸化させ、酸化されて赤外線領域に透過性を有するように変化したレーザ照射部位と赤外線領域に吸収性を有するレーザ非照射部位とで構成される情報コードを複合タングステン酸化物の皮膜に描画するレーザ照射工程、
を具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る情報コード付き透明基材は、
透明基材の少なくとも一面に設けられた複合タングステン酸化物の皮膜に、可視光領域の観察では認識できず、赤外線照射により表示される情報コードが設けられていることを特徴としている。
【0013】
そして、情報コードが設けられた複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域に透過性を有していることから、可視光領域の観察で情報コードを認識できないため透明基材に付された情報コードが視覚の妨げになる問題が解消され、更に、可視光領域の観察で情報コードを認識できないため防犯上の上記課題も解決することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(A)は本発明に係る情報コード付き透明基材の平面図、
図1(B)は
図1(A)のI-I面断面図。
【
図2】
図2(A)は赤外線照射により情報コードを表示させる方法の説明図、
図2(B)は赤外線照射により表示された情報コードの説明図。
【
図3】本発明方法に係る透明基材と円筒形ロータリーターゲットの配置関係を示す説明図。
【
図4】本発明に係る情報コード付き透明基材を製造するスパッタリング成膜ユニットの一例を示す説明図。
【
図5】可視光領域と赤外線領域に透過性を有する複合タングステン酸化物
の皮膜に情報コードを描画する際のレーザ描画条件と描画後における透過率の変化を示す(描画前が実線、描画後が破線)グラフ図に係り、
図5(A)は表2のレーザ描画条件(1)による透過率の変化を示すグラフ図、
図5(B)は表2のレーザ描画条件(2)による透過率の変化を示すグラフ図、
図5(C)は表2のレーザ描画条件(3)による透過率の変化を示すグラフ図、
図5(D)は表2のレーザ描画条件(4)による透過率の変化を示すグラフ図。
【
図6】可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する複合タングステン酸化物
の皮膜に情報コードを描画する際のレーザ描画条件と描画後における透過率の変化を示す(描画前が実線、描画後が破線)グラフ図に係り、
図6(A)は表2のレーザ描画条件(5)による透過率の変化(描画前後で透過率の変化なし)を示すグラフ図、
図6(B)は表2のレーザ描画条件(6)による透過率の変化(描画前後で透過率の変化なし)を示すグラフ図、
図6(C)は表2のレーザ描画条件(7)による透過率の変化を示すグラフ図、
図6(D)は表2のレーザ描画条件(8)による透過率の変化(描画前後で透過率の変化なし)を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(1)情報コード付き透明基材
本発明に係る情報コード付き透明基材10は、
図1(A)(B)に示すように透明基材1と、透明基材1の少なくとも一面に設けられた複合タングステン酸化物
の皮膜2を備え、複合タングステン酸化物
の皮膜2には、可視光領域の観察では認識できず、赤外線照射により表示される情報コード3が設けられていることを特徴とする。
【0017】
透明基材1には、板ガラス、樹脂基板を用いることができる。樹脂基板は、耐熱性を備えることが望ましく、例えば透明ポリイミド基板を用いることができる。
【0018】
複合タングステン酸化物の皮膜2は、透明基材1の少なくとも一面に設けられ、透明基材1が矩形状板材である場合、板材の表面、側面、裏面等の少なくとも一面に設けられる。また、複合タングステン酸化物の皮膜2は、情報コード3が設けられる個所のみに形成してもよいし、情報コードが設けられる透明基材1の表裏全面若しくは側面全面に設けてもよい。
【0019】
情報コード3は、複合タングステン酸化物の皮膜2にレーザ描画により形成される。情報コード3は複合タングステン酸化物の皮膜の熱処理条件により、レーザ照射により描画された箇所(レーザ照射部位)が赤外線を透過し、その周囲(レーザ非照射部位)が赤外線を吸収(遮蔽)する形態と、レーザ照射により描画された箇所(レーザ照射部位)が赤外線を吸収(遮蔽)し、その周囲(レーザ非照射部位)が赤外線を透過する形態の2種類をとることができる。
【0020】
(2)複合タングステン酸化物の皮膜
本出願人による複合タングステン酸化物粒子を用いた赤外線遮蔽(熱線遮蔽)に係る技術は特許文献2に詳細が示されており、特許文献2に記載された組成範囲の複合タングステン酸化物を主成分とすることが、可視光領域の高い透過性(透明性)と赤外線領域の吸収性(遮蔽性)を有する膜とするためには必要となる。
【0021】
複合タングステン酸化物の皮膜が有する基本的な光学特性は、理論的に算出されたM元素(M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種類以上の元素)とタングステンWおよび酸素Oの原子配置に由来する。具体的には、複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過性が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。また、複合タングステン酸化物微粒子が結晶質であっても非晶質であっても構わない。
【0022】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、タングステン1に対して0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。複合タングステン酸化物がM0.33WO3となることで、添加元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0023】
ところで、複合タングステン酸化物の皮膜は、熱処理条件で、可視光線を透過して赤外線遮蔽機能を備える。以下、複合タングステン酸化物の皮膜の形成方法について説明する。
【0024】
(3)複合タングステン酸化物の皮膜の形成方法(皮膜形成工程)
複合タングステン酸化物の皮膜は、タングステン化合物とM元素化合物の溶液から得る「湿式の方法」とスパッタリング等の「乾式の方法」で得ることができる。
【0025】
(3-1)タングステン化合物とM元素化合物の溶液から得る「湿式の方法」
タングステン化合物とM元素化合物を、タングステンとM元素の所望とする原子比(例えばタングステン1に対してM元素0.2以上0.5以下)で配合した溶液を透明基材に塗布し、500℃以上の温度で熱処理すると赤外線を吸収する複合タングステン酸化物の皮膜が得られる。
【0026】
更に、複合タングステン酸化物の皮膜の熱処理時に還元雰囲気下で行うと、得られる複合タングステン酸化物の皮膜は、波長400nm~700nmの可視光領域を透過して赤外線を遮蔽する(可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する)機能を備える。一方、還元条件で熱処理しなければ、可視光線も赤外線も透過する(可視光領域と赤外線領域に透過性を有する)。
【0027】
すなわち、「湿式の方法」により、可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する複合タングステン酸化物の皮膜、および、可視光領域と赤外線領域に透過性を有する複合タングステン酸化物の皮膜を透明基材上に形成することができる。
【0028】
例えば、タングステン化合物であるタングステン酸アンモニウムと、M元素(例えばセシウム)化合物である炭酸セシウムを、合成したいセシウムタングステン複合酸化物のタングステンとセシウムの原子比となるように配合した水溶液を用意し、該水溶液を板ガラスに塗布し、500℃から700℃の温度で数時間熱処理すれば、ガラス基板上にセシウムタングステン複合酸化物の皮膜を得ることができる。更に3%~30%のH2を含有するN2ガス雰囲気下で、500℃から700℃の温度で数時間熱処理すれば、可視光線を透過して赤外線を遮蔽する(可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する)セシウムタングステン複合酸化物の皮膜を得ることができる。
【0029】
(3-2)スパッタリング等の「乾式の方法」
本発明に係る下記実施例において、ガラス基板若しくは耐熱性樹脂基板にスパッタリング成膜法で形成したセシウムとタングステンの原子比が1:2~4、望ましくは、セシウムとタングステンの原子比が1:3である酸化膜が使用される。上記原子比を満たしていれば、特にターゲット材料は限定されず、セシウムとタングステンの各酸化物、あるいは、セシウムとタングステンの酸化物や窒化物の混合物、セシウムの酸化物や窒化物とタングステンの酸化物や窒化物による2元スパッタリング等も利用できる。ターゲットに酸素や窒素が含まれていても、スパッタリング時に分解されてガスとなり、排気されてしまうので問題ない。
【0030】
本発明の複合タングステン酸化の皮膜に含まれる酸素量は、ターゲットに含まれる酸素量ではなく、成膜中にスパッタリングガスとして導入するアルゴンに添加された酸素量で決定される。成膜雰囲気の酸素量により複合タングステン酸化物の皮膜の可視光や赤外線の光学特性は影響される。可視光を透過する複合タングステン酸化物の皮膜を得るには、スパッタリングガスに酸素を加えることが望ましい。
【0031】
スパッタリングターゲットには平板形状と円筒形状がある。平板ターゲットは比較的容易に製造できる反面、全面がスパッタリングされず、スパッタリングされない非エロ-ジョン部分に異物が堆積し、この異物が異常放電のきっかけになることもあり、更には上記異物が製品に付着してしまうこともある。近年、大型ターゲットは、
図3に示す円筒ターゲット(ロータリーターゲット)21、22、23、24が主流になっている。製造が難しい反面、全面がスパッタリングされるので平板ターゲットのような前述の欠点がなく、更には、平板ターゲットの3倍近い使用効率が得られる。この円筒ターゲット(ロータリーターゲット)は、主に2つの方法で製造される。その一つは、平板ターゲットと同様、冷間静水加圧法により加圧成形した後に焼成し、円筒研削した後にバッキングチューブ(図示せず)に差してインジウム等でボンディングする方法である。もう一つは、直接上記バッキングチューブに粉体を溶射する方法である。
【0032】
下記実施例において、CWO粉(住友金属鉱山株式会社の登録商標:セシウムとタングステンの原子比が1:3の酸化物粉)を用いた溶射円筒ターゲットが使用されている。
【0033】
図3に示すように移動する基板20に対し平行に配置された2本の円筒ターゲット21、22、23、24に、中周波電源(20kHz~200kHz)を利用して交互に電力を与えるデュアルマグネトロンスパッタリングが一般的であるが、通常のパルス電源や大電圧パルス電源(HiPMS)を利用することも可能である。
【0034】
実際に使用したスパッタリング成膜ユニットは、
図4に示すように接続室30、32と成膜室31とで構成され、それぞれに基板20を搬送する搬送ローラ39が連続配置されている。成膜ガス圧を保つデュアルマグネトロンユニット33、34には、1組の円筒ターゲット21、22、23、24を装着したロータリーマグネトロンカソード(図示せず)が配置されている。円筒ターゲット21、22と円筒ターゲット23、24はそれぞれ中周波電源に接続され、交互に電力が印加される。ロータリーマグネトロンカソードは円筒ターゲット21、22、23、24の基板20側にのみスパッタリング35、36、37、38が生ずるようにマグネットが配置されている。搬送ローラ39の間には近赤外線ランプ40が配置され、基板20を加熱することができる。酸素ガスはそれぞれのデュアルマグネトロンユニット33、34に導入され、電源のインピーダンス変化が設定値になるよう制御する「インピーダンス制御」、あるいは、特定波長のプラズマ発光強度が設定値になるよう制御するプラズマエミッションモニター(PEM)制御が用いられる。
【0035】
スパッタリング成膜時に、スパッタリングガスのアルゴンに酸素を添加し、基板20を300℃以上の温度に加熱すると、得られる複合タングステン酸化物の皮膜は、可視光線を透過して赤外線を遮蔽する(可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する)機能を備える。一方、スパッタリング成膜時における基板20の温度が室温であると、得られる複合タングステン酸化物の皮膜は、可視光線も赤外線も透過する(すなわち、可視光領域と赤外線領域に透過性を有する)。
【0036】
すなわち、「乾式の方法」により、可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する複合タングステン酸化物の皮膜、および、可視光領域と赤外線領域に透過性を有する複合タングステン酸化物の皮膜を透明基材上に形成することができる。
【0037】
(4)情報コードの描画(レーザ照射工程)
図1(A)(B)に示す情報コード3はレーザ照射により描画される。
【0038】
情報コード3は、複合タングステン酸化物の皮膜2の熱処理条件により、レーザ照射により描画された箇所(レーザ照射部位)が赤外線を透過し、その周囲(レーザ非照射部位)が赤外線を吸収(遮蔽)する形態と、レーザ照射により描画された箇所(レーザ照射部位)が赤外線を吸収(遮蔽)し、その周囲(レーザ非照射部位)が赤外線を透過する形態の2種類をとることができる。レーザ照射により描画された箇所(レーザ照射部位)とその周囲(レーザ非照射部位)における透過率の差が20%以上あれば、情報コードの読み取りは可能である。
【0039】
また、いずれの形態でも描画に用いるレーザの発振波長帯は、複合タングステン酸化物の皮膜に少しでも吸収があれば、適宜選択できる。例えば、発振波長1064nmのNd:YAGレーザおよびこの高調波レーザ、808nmの半導体レーザ、エキシマレーザ等、炭酸ガスレーザ等、発振波長532nmのNd:YAGの第2高調波レーザが使用可能である。これ等の内、可視光域のレーザを用いた場合、複合タングステン酸化物の皮膜の吸収による透過率の変化が小さいため、情報コードを描画する際の照射時間やレーザ出力の制御を容易にすることが可能となることがある。
【0040】
(4-1)レーザ照射により描画された箇所(レーザ照射部位)が赤外線を透過し、その周囲(レーザ非照射部位)が赤外線を吸収(遮蔽)する情報コード
複合タングステン酸化物の皮膜は、酸化物の還元状態により、可視光線を透過し、赤外線を吸収(遮蔽)することができる。
【0041】
複合タングステン酸化物の皮膜(可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有する)を上記「乾式の方法」で形成する場合、タングステンとM元素と酸素から成るスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングガスに酸素を添加すると共に、透明基材を300℃以上に加熱する条件でスパッタリング成膜することにより得ることができる。
【0042】
得られた複合タングステン酸化物の皮膜に対し酸素を含む雰囲気下でレーザを照射し、レーザ照射の熱により描画される個所の複合タングステン酸化物の酸化が進み、赤外線を吸収(遮蔽)する機能が失われて赤外線領域に透過性を有するように変化する。他方、レーザ照射を受けていないレーザ非照射部位(周囲部)の複合タングステン酸化物は赤外線を吸収(遮蔽)する機能を維持している。結果として、赤外線の照射を受けると描画された箇所(レーザ照射部位)は赤外線を透過し、その周囲(レーザ非照射部位)は赤外線を吸収(遮蔽)するので、赤外線照射により描画された情報コードを判読することができる。
【0043】
レーザを用いるため、描画されるスポットのみの温度が上昇する。描画の際のレーザ光を受けた透明基板(基材)のスポット温度は、450℃以上で、かつ、透明基板(基材)が溶融しない温度以下が望ましい。スポット温度が450℃未満では、複合タングステン酸化物の酸化が進まず、赤外線を吸収(遮蔽)することなる。
【0044】
赤外線照射を受けた場合に描画された箇所(レーザ照射部位)が赤外線を透過し、その周囲(レーザ非照射部位)が赤外線を吸収(遮蔽)する情報コードを設けた透明基材を窓材に用いた場合、この窓材は、可視光を透過して赤外線を遮蔽する。このため、室内に赤外線が入らないため、日射等による室温上昇の抑制が可能となる。更に、窓材の情報コードは、可視光領域の観察では認識できないため目視の妨げにならない。
【0045】
(4-2)レーザ照射により描画された箇所(レーザ照射部位)が赤外線を吸収(遮蔽)し、その周囲(レーザ非照射部位)が赤外線を透過する情報コード
複合タングステン酸化物は、還元状態により赤外線を遮蔽する。
【0046】
複合タングステン酸化物の皮膜(可視光領域と赤外線領域に透過性を有する)を「乾式の方法」で形成する場合、タングステンとM元素と酸素から成るスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングガスに酸素を添加すると共に、透明基材を加熱しない条件でスパッタリング成膜することにより得ることができる。
【0047】
得られた複合タングステン酸化物の皮膜(可視光領域と赤外線領域に透過性を有する)に対し不活性雰囲気または還元雰囲気下でレーザを照射し、レーザ照射の熱により描画される個所の複合タングステン酸化物が還元され、赤外線を透過する機能が失われて赤外線領域に吸収(遮蔽)性を有するように変化する。他方、レーザ照射を受けていないレーザ非照射部位(周囲部)の複合タングステン酸化物は赤外線を透過する機能を維持している。結果として、赤外線の照射を受けると描画された箇所(レーザ照射部位)は赤外線を吸収(遮蔽)し、その周囲(レーザ非照射部位)は赤外線を透過するので、赤外線照射により描画された情報コードを判読することができる。
【0048】
レーザを用いるため、描画されるスポットのみの温度が上昇する。描画の際のレーザ光を受けた透明基板(基材)のスポット温度は、300℃以上で、かつ、透明基板(基材)が溶融しない温度以下が望ましい。スポット温度が300℃未満では、複合タングステン酸化物の還元が進まず、赤外線を透過するすることなる。
【0049】
(5)情報コードの読み取り装置
情報コードを読み取る装置は、
図2(A)に示すように赤外線(近赤外線)光源5と、該光源5の対向側に設けられた画像撮像素子6とで構成される装置が例示される。
【0050】
そして、上記光源5と画像撮像素子6との空間部に情報コード付き透明基材10を挟み込み、光源5から情報コード付き透明基材10に向け赤外線(近赤外線)を照射することで、透明基材10に設けられた
図2(B)に示す情報コード3を画像撮像素子6で読み取ることが可能となる。
【0051】
また、光源5または画像撮像素子6のいずれかに波長800nm以下の光を遮光するフィルターを備えることが望ましい。光源には公知のハロゲンランプの他、波長808nm、1064nm、1320nm、1550nmのレーザを用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0053】
(1)複合タングステン酸化物の皮膜の形成(皮膜形成工程)
ターゲットの原料にはセシウムタングステン複合酸化物(Cs0.33WO3)粉を用い、外径160mm、長さ1000mmのチタン製バッキングチューブの中央部800mm領域に、該バッキングチューブを回転させながら溶射法によりセシウムタングステン複合酸化物(Cs0.33WO3)を堆積させて厚さ10mmの溶射膜(ターゲット膜)とした後、該溶射膜(ターゲット膜)を研磨加工してロータリーターゲットを作製した。このターゲットは原材料のセシウムタングステン複合酸化物(Cs0.33WO3)よりも溶射法により酸素が不足することもあるが、スパッタリング成膜中に反応性スパッタリングにより酸素を膜中に供給するので問題とはならない。
【0054】
同様の溶射法により4本のロータリーターゲットを製作し、
図4に示すスパッタリング成膜ユニットのデュアルマグネトロンカソードユニット33、34内に2本ずつロータリーターゲット21、22、23、24を組み込み、次いで、ロータリーターゲット21、22、23、24が装着された図示外のロータリーマグネトロンカソードに50kWの40kHz中周波スパッタリング電源を接続した。
【0055】
上記デュアルマグネトロンカソードユニット33、34内にはスパッタガスのアルゴンに加えて反応性ガスである酸素を導入している。導入する酸素量は、スパッタ電源のインピーダンスを測定して、設定されたインピーダンスになるようピエゾバルブにて酸素量をフィードバック制御している。
【0056】
尚、電力Wは、電力W=IxIxR、または、電力W=VxV/Rから求められるため、インピーダンスに代えて電圧若しくは電流を制御用のパラメータにしてもよい。また、インピーダンス制御に代えて、特定プラズマ発光波長強度を測定してフィードバック制御するプラズマエミッションモニター(PEM)による制御の適用も可能である。
【0057】
また、酸素量で直接制御していない理由は以下の通りである。すなわち、反応性スパッタには「メタルモード」、「遷移モード」、「酸化物モード」があり、高速成膜が可能なのは「遷移モード」である。この「遷移モード」は、ガス流量増加時と減少時の成膜レートが異なるため、上述したフィードバック制御を行わない場合、成膜速度がホップし安定しないためである。すなわち、デュアルマグネトロンカソードユニット33、34内に導入する酸素量の制御は、上述したよう「インピーダンス制御」が採られている。
【0058】
そして、表1の成膜符号(a)~(d)に示す条件(スパッタリング成膜中の酸素濃度、基板温度)で成膜を行った。
【0059】
尚、ガラス基板(透明基材)には1400mm角のソーダライムガラスを用いた。
【0060】
【0061】
まず、成膜室および基板ストッカー室を5×10-4Pa以下まで真空排気し、然る後、それぞれのデュアルマグネトロンカソードユニットには酸素を混合できるアルゴンガスを800sccm導入した。基板ストッカー室および成膜室にはガラス基板を加熱するヒータが設けられている。ヒータには、近赤外線ヒータ、カーボンヒータ、シースヒータ等が使用できるが、今回は近赤外線ランプ40を採用している。
【0062】
そして、スパッタリング成膜中の酸素濃度が、表1の成膜符号(a)~(d)に示す条件になるように略調整した後、インピーダンス制御に切り替えて酸素量を微調整している。
【0063】
デュアルマグネトロンカソードユニット一組のロータリーカソードには40kWを印加し、ガラス基板の搬送速度は酸化膜の膜厚が400nmになるよう1.0m/minとした。また、基板ストッカー室と成膜室に前処理室を設け、前処理室でプラズマあるいはイオンビーム等でガラス基板表面をトリートメント(クリーニング、エッチング)することが望ましい。
【0064】
(2)描画前の複合タングステン酸化物の皮膜に係る分光透過特性の測定
表1の成膜符号(a)~(d)に示す条件で成膜した複合タングステン酸化物の皮膜について、自記分光光度計により分光透過特性を測定した。
【0065】
スパッタリング成膜中の酸素濃度が0%である成膜符号(a)(b)に係る複合タングステン酸化物の皮膜は、可視光領域(波長400~550nm)における透過率が50%未満であり、透明性が著しく劣るため本発明の目的に整合しない(合否は「否」)。
【0066】
他方、可視光領域(波長400~550nm)における透過率が50%以上である成膜符号(c)(d)に係る複合タングステン酸化物の皮膜は、本発明の目的に整合する透明性を有するため合格とした(合否は「合」)。
【0067】
尚、成膜符号(c)に係る複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域と赤外線領域に透過性を有し、成膜符号(d)に係る複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性(遮蔽性)を有している。
【0068】
(3)情報コードの描画(レーザ照射工程)
そこで、表2の成膜符号(c)(d)に係る複合タングステン酸化物の皮膜にレーザで情報コードを描画した。このレーザ照射は、レーザアニールに相当する工程である。予め、レーザパワーとレーザ照射時間(レーザ移動速度)を調整し、レーザにより情報コードを描画したときの複合タングステン酸化物の皮膜の温度を薄膜熱電対で測定しておいた。
【0069】
ここで、レーザ波長は、成膜符号(c)(d)に係る複合タングステン酸化物の皮膜に少しでも吸収があるタイプでなくてはならず、発振波長1064nmのNd:YAGレーザおよびこの高調波レーザ、808nmの半導体レーザ、エキシマレーザ等、炭酸ガスレーザ等が使用可能である。そして、今回は発振波長532nmのNd:YAGの第2高調波レーザを用いた。また、レーザヘッド周囲からアニール雰囲気をつくるためにシールドガスを吹きかけている。
【0070】
そして、表2のレーザ描画条件(1)~(8)に示す条件(レーザ描画温度、雰囲気)で描画を行った。
【0071】
【0072】
(4)描画後の複合タングステン酸化物の皮膜に係る分光透過特性の測定
表2のレーザ描画条件(1)~(8)に示す条件で描画した複合タングステン酸化物の皮膜について、自記分光光度計により分光透過特性を測定した。
【0073】
(4-1)レーザ描画条件(1)
描画前の複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域と赤外線領域に透過性を有し、かつ、レーザ描画温度が300℃、空気雰囲気で描画された複合タングステン酸化物の皮膜も可視光領域と赤外線領域に透過性を有している。
【0074】
すなわち、レーザ照射部位における赤外線領域の光学特性(赤外線領域の吸収性)は、表1、表2および
図5(A)に示すように描画前(波長1064nmの透過率80%、波長1320nmの透過率90%、波長1550nmの透過率90%)と描画後(波長1064nmの透過率70%、波長1320nmの透過率70%、波長1550nmの透過率70%)で大きな違いが確認されないため、不合格とした(合否は「否」)。
【0075】
(4-2)レーザ描画条件(2)
描画前の複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域と赤外線領域に透過性を有しているのに対し、レーザ描画温度が300℃、窒素雰囲気で描画された複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性(遮蔽性)を有している。
【0076】
すなわち、レーザ照射部位における赤外線領域の光学特性(赤外線領域の吸収性)は、表1、表2および
図5(B)に示すように描画前(波長1064nmの透過率80%、波長1320nmの透過率90%、波長1550nmの透過率90%)と描画後(波長1064nmの透過率20%、波長1320nmの透過率20%、波長1550nmの透過率20%)で大きな違いが確認され、合格とした(合否は「合」)。
【0077】
(4-3)レーザ描画条件(3)
描画前の複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域と赤外線領域に透過性を有し、かつ、レーザ描画温度が500℃、空気雰囲気で描画された複合タングステン酸化物の皮膜も可視光領域と赤外線領域に透過性を有している。
【0078】
すなわち、レーザ照射部位における赤外線領域の光学特性(赤外線領域の吸収性)は、表1、表2および
図5(C)に示すように描画前(波長1064nmの透過率80%、波長1320nmの透過率90%、波長1550nmの透過率90%)と描画後(波長1064nmの透過率70%、波長1320nmの透過率70%、波長1550nmの透過率70%)で大きな違いが確認されないため、不合格とした(合否は「否」)。
【0079】
(4-4)レーザ描画条件(4)
描画前の複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域と赤外線領域に透過性を有しているのに対し、レーザ描画温度が500℃、窒素雰囲気で描画された複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性(遮蔽性)を有している。
【0080】
すなわち、レーザ照射部位における赤外線領域の光学特性(赤外線領域の吸収性)は、表1、表2および
図5(D)に示すように描画前(波長1064nmの透過率80%、波長1320nmの透過率90%、波長1550nmの透過率90%)と描画後(波長1064nmの透過率20%、波長1320nmの透過率20%、波長1550nmの透過率20%)で大きな違いが確認され、合格とした(合否は「合」)。
【0081】
(4-5)レーザ描画条件(5)
描画前の複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有しており、かつ、レーザ描画温度が300℃、空気雰囲気で描画された複合タングステン酸化物の皮膜も可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有している。
【0082】
すなわち、レーザ照射部位における赤外線領域の光学特性(赤外線領域の吸収性)は、表1、表2および
図6(A)に示すように描画前(波長1064nmの透過率20%、波長1320nmの透過率20%、波長1550nmの透過率20%)と描画後(波長1064nmの透過率20%、波長1320nmの透過率20%、波長1550nmの透過率20%)が同一のため、不合格とした(合否は「否」)。
【0083】
(4-6)レーザ描画条件(6)
描画前の複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有しており、かつ、レーザ描画温度が300℃、窒素雰囲気で描画された複合タングステン酸化物の皮膜も可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有している。
【0084】
すなわち、レーザ照射部位における赤外線領域の光学特性(赤外線領域の吸収性)は、表1、表2および
図6(B)に示すように描画前(波長1064nmの透過率20%、波長1320nmの透過率20%、波長1550nmの透過率20%)と描画後(波長1064nmの透過率20%、波長1320nmの透過率20%、波長1550nmの透過率20%)が同一のため、不合格とした(合否は「否」)。
【0085】
(4-7)レーザ描画条件(7)
描画前の複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有しているのに対し、レーザ描画温度が500℃、空気雰囲気で描画された複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域と赤外線領域に透過性を有している。
【0086】
すなわち、レーザ照射部位における赤外線領域の光学特性(赤外線領域の吸収性)は、表1、表2および
図6(C)に示すように描画前(波長1064nmの透過率20%、波長1320nmの透過率20%、波長1550nmの透過率20%)と描画後(波長1064nmの透過率60%、波長1320nmの透過率60%、波長1550nmの透過率60%)で大きな違いが確認され、合格とした(合否は「合」)。
【0087】
(4-8)レーザ描画条件(8)
描画前の複合タングステン酸化物の皮膜は可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有しており、かつ、レーザ描画温度が500℃、窒素雰囲気で描画された複合タングステン酸化物の皮膜も可視光領域に透過性を有し赤外線領域に吸収性を有している。
【0088】
すなわち、レーザ照射部位における赤外線領域の光学特性(赤外線領域の吸収性)は、表1、表2および
図6(D)に示すように描画前(波長1064nmの透過率20%、波長1320nmの透過率20%、波長1550nmの透過率20%)と描画後(波長1064nmの透過率20%、波長1320nmの透過率20%、波長1550nmの透過率20%)が同一のため、不合格とした(合否は「否」)。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係る情報コード付き透明基材によれば、可視光領域の観察で情報コードを認識できないため視覚の妨げにならず、かつ、可視光領域の観察で情報コードが認識されないため防犯上の問題も解消される。このため、建築物、鉄道車両や自動車等の窓材に用いられる産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0090】
1 透明基材
2 複合タングステン酸化物の皮膜
3 情報コード
5 赤外線(近赤外線)光源
6 画像撮像素子
10 情報コード付き透明基材
20 基板
21 円筒ターゲット(ロータリーターゲット)
22 円筒ターゲット(ロータリーターゲット)
23 円筒ターゲット(ロータリーターゲット)
24 円筒ターゲット(ロータリーターゲット)
30 接続室
31 成膜室
32 接続室
33 デュアルマグネトロンユニット
34 デュアルマグネトロンユニット
35 スパッタリング
36 スパッタリング
37 スパッタリング
38 スパッタリング
39 搬送ローラ
40 近赤外線ランプ