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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】接合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20240702BHJP
   C30B 33/06 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01L21/02 B
C30B33/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020057921
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158248
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇志
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-117533(JP,A)
【文献】特開2006-344865(JP,A)
【文献】特開2019-210162(JP,A)
【文献】特開2019-210161(JP,A)
【文献】特表2010-522426(JP,A)
【文献】特開平09-082588(JP,A)
【文献】特開2018-083294(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0133347(US,A1)
【文献】国際公開第2020/022015(WO,A1)
【文献】特開2010-263073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
C30B 33/06
H01L 27/12
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンドギャップ半導体基板とハンドル基板とが積層した接合基板を得る、接合基板の製造方法において、
前記バンドギャップ半導体基板の接合面と、前記ハンドル基板の接合面とを接合する、接合工程を含み、
前記バンドギャップ半導体基板の接合面、および、前記ハンドル基板の接合面の少なくとも一方は、真空度1×10-4Pa以下の真空下において10nm~280nmの波長の紫外線が照射された面であり、
前記接合工程における、前記バンドギャップ半導体基板および前記ハンドル基板の温度が200℃~400℃であり、
前記バンドギャップ半導体基板および前記ハンドル基板が、いずれも、炭化ケイ素基板であり、
前記バンドギャップ半導体基板が単結晶基板であり、前記ハンドル基板が多結晶基板である、
接合基板の製造方法。
【請求項2】
前記接合工程の前に、前記バンドギャップ半導体基板の接合面、および、前記ハンドル基板の接合面の少なくとも一方に、真空度1×10-4Pa以下の真空下において10nm~280nmの波長の紫外線を照射する、活性化処理工程をさらに含む、請求項1に記載の接合基板の製造方法。
【請求項3】
前記活性化処理工程と前記接合工程との間の時間が、1分以下である、請求項2に記載の接合基板の製造方法。
【請求項4】
前記活性化処理工程において、前記紫外線の波長が170nm~260nmである、請求項2または3に記載の接合基板の製造方法。
【請求項5】
前記活性化処理工程において、前記バンドギャップ半導体基板の接合面、および、前記ハンドル基板の接合面に質量を有する粒子を照射しない、請求項2~4のいずれか1項に記載の接合基板の製造方法。
【請求項6】
前記活性化処理工程および前記接合工程は、1つの接合装置を用いて行う工程であり、
前記接合装置は、内部が処理室となる筐体と、前記筐体の内部を加熱するヒーターと、前記バンドギャップ半導体基板を設置する第一設置部と、前記ハンドル基板を設置する第二設置部と、前記バンドギャップ半導体基板にUVを照射する第一UVランプと、前記ハンドル基板にUVを照射する第二UVランプと、前記筐体の外に設けられた、前記筐体の内部を真空にする真空ポンプと、を備える、請求項2~5のいずれか1項に記載の接合基板の製造方法。
【請求項7】
前記接合工程では、前記活性化処理工程と同じ真空条件のまま、前記ヒーターで前記筐体の内部を加熱して、前記バンドギャップ半導体基板および前記ハンドル基板の温度を200℃~400℃に加熱し、その後、前記バンドギャップ半導体基板の前記接合面と、前記ハンドル基板の前記接合面とを接合する、請求項6に記載の接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、ケイ素と炭素で構成される、化合物半導体材料である。炭化ケイ素は、絶縁破壊電界強度がケイ素の10倍で、バンドギャップがケイ素の3倍であり、半導体材料として優れている。さらに、デバイスの作製に必要なp型、n型の制御が広い範囲で可能であることなどから、ケイ素の限界を超えるパワーデバイス用材料として期待されている。
【0003】
また、炭化ケイ素は、より薄い厚さでも高い耐電圧が得られるため、薄く構成することにより、ON抵抗が小さく、低損失の半導体が得られることが特徴である。
【0004】
しかしながら、炭化ケイ素半導体は、従来広く普及しているケイ素半導体と比較して、大面積の炭化ケイ素単結晶基板を得ることが難しく、製造工程も複雑である。これらの理由から、炭化ケイ素半導体は、ケイ素半導体と比較して大量生産が難しく、高価であった。
【0005】
これまでにも、炭化ケイ素半導体のコストを下げるために、様々な工夫が行われてきた。例えば、特許文献1には、炭化ケイ素基板の製造方法であって、少なくとも、マイクロパイプの密度が30個/cm以下の炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板を準備し、前記炭化ケイ素単結晶基板と前記炭化ケイ素多結晶基板とを貼り合わせる(接合する)工程を行い、その後、単結晶基板を薄膜化する工程を行い、多結晶基板上に単結晶層を形成した基板を製造することが記載されている。
【0006】
更に、特許文献1には、単結晶基板と多結晶基板とを貼り合わせる工程の前に、単結晶基板に水素イオン注入を行って水素イオン注入層を形成する工程を行い、単結晶基板と多結晶基板とを貼り合わせる工程の後、単結晶基板を薄膜化する工程の前に、350℃以下の温度で熱処理を行い、単結晶基板を薄膜化する工程を、水素イオン注入層にて機械的に剥離する工程とする炭化ケイ素基板の製造方法が記載されている。
【0007】
このような方法により、1つの炭化ケイ素単結晶インゴットからより多くの炭化ケイ素貼り合わせ基板が得られるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-117533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された炭化ケイ素ウェハの製造方法は、水素イオン注入を行って薄いイオン注入層の形成された炭化ケイ素単結晶基板と、炭化ケイ素多結晶基板と、を貼り合わせたのちに加熱して剥離することによって製造されている。
【0010】
炭化ケイ素単結晶基板等のバンドギャップ半導体基板と炭化ケイ素多結晶基板等のハンドル基板との貼り合わせでは、常温接合と呼ばれる方法によって、基板を接合させている。一般的には、まず、高真空雰囲気下で、アルゴン(Ar)イオンや、中性のアルゴン粒子をそれぞれの基板の接合面に照射することにより、基板の接合面にある酸素、水素、ヒドロキシル基(OH基)等の界面終端成分を除去して、表面を活性化させる。その後、活性化された接合面同士を接触させることで、それぞれの基板を接合させる方法である。
【0011】
従来、前述のように、表面活性化処理には、アルゴンイオンや、中性のアルゴン粒子を照射することで実施していた。しかしながら、これらの粒子の照射では、質量を有する粒子によるアタックであるため、原理的にスパッタリング現象が起きる。このため照射の際には、(1)スパッタではじかれた基板や真空チャンバーから飛び出した粒子が凝集してパーティクルとなること、また、基板や真空チャンバーから飛び出した粒子がチャンバーの壁面に付着したのち剥離してパーティクルとなることによるパーティクルの発生、(2)真空チャンバー内の物質の金属コンタミ(コンタミネーション)の発生の2つの問題が起こりうる。
【0012】
さらに、発生したパーティクルが接合面に挟み込まれることにより、貼り合わせ後の接合面において空隙(ボイド)となることがある。また、スパッタリング現象により基板や真空チャンバーより飛び出した粒子によるコンタミは、貼り合わせた基板の不純物として不良原因となりうることが確認されている。このことから、これらの問題を抑制することが、大きな課題となっていた。
【0013】
よって、本発明は、バンドギャップ半導体基板の接合面と、ハンドル基板の接合面とを接合して、前記バンドギャップ半導体基板と前記ハンドル基板とが積層した接合基板を得る、接合基板の製造方法において、接合基板におけるボイドおよびコンタミを低減した、接合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の接合基板の製造方法は、バンドギャップ半導体基板とハンドル基板とが積層した接合基板を得る、接合基板の製造方法において、前記バンドギャップ半導体基板の接合面と、前記ハンドル基板の接合面とを接合する、接合工程を含み、前記バンドギャップ半導体基板の接合面、および、前記ハンドル基板の接合面の少なくとも一方は、真空度1×10-4Pa以下の真空下において10nm~280nmの波長の紫外線が照射された面である。
【0015】
本発明の接合基板の製造方法において、前記接合工程における、前記バンドギャップ半導体基板および前記ハンドル基板の温度が200℃~400℃であってもよい。
【0016】
本発明の接合基板の製造方法において、前記接合工程の前に、前記バンドギャップ半導体基板の接合面、および、前記ハンドル基板の接合面の少なくとも一方に、真空度1×10-4Pa以下の真空下において10nm~280nmの波長の紫外線を照射する、活性化処理工程をさらに含んでいてもよい。
【0017】
本発明の接合基板の製造方法において、前記活性化処理工程と前記接合工程との間の時間が、1分以下であってもよい。
【0018】
本発明の接合基板の製造方法において、前記活性化処理工程において、前記紫外線の波長が170nm~260nmであってもよい。
【0019】
本発明の接合基板の製造方法において、前記活性化処理工程において、前記バンドギャップ半導体基板の接合面、および、前記ハンドル基板の接合面に質量を有する粒子を照射しなくてもよい。
【0020】
本発明の炭化ケイ素単結晶基板の製造方法において、バンドギャップ半導体基板が単結晶基板であり、ハンドル基板が多結晶基板であってもよい。
【0021】
本発明の接合基板の製造方法において、前記バンドギャップ半導体基板および前記ハンドル基板が、いずれも、炭化ケイ素基板、シリコン基板、および、窒化ガリウム基板のいずれかであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の接合基板の製造方法であれば、ハンドル基板の接合面と、バンドギャップ半導体基板の接合面とを接合して、前記ハンドル基板と前記バンドギャップ半導体基板とが積層した接合基板を得る、接合基板の製造方法において、接合基板におけるボイドおよびコンタミを低減した、接合基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態にかかる接合基板の製造方法において用いることができる接合装置を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる接合基板の製造方法の各工程における、バンドギャップ半導体基板、ハンドル基板、および、接合基板を模式的に示す、側面断面図である。
図3図3(A)はボイドが発生した接合基板を模式的に示す平面図であり、図3(B)は接合基板を1mm角に切断して評価する方法を模式的に説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態にかかる接合基板の製造方法について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
本実施形態の接合基板の製造方法は、図1図2に示すように、バンドギャップ半導体基板とハンドル基板とが積層した接合基板を得る、接合基板の製造方法に適用することができる。
【0026】
本実施形態の接合基板の製造方法は、バンドギャップ半導体基板100の接合面110、および、ハンドル基板200の接合面210の少なくとも一方に、真空度1×10-4Pa以下の真空下において10nm~280nmの波長の紫外線を照射して活性化する、活性化処理工程と、活性化処理工程の後に、バンドギャップ半導体基板100の接合面110と、ハンドル基板200の接合面210とを接合する、接合工程と、を含むものである。
【0027】
すなわち、本実施形態の接合基板の製造方法の活性化処理工程においては、従来行われてきたAr等の質量を有する粒子の照射をしないことが好ましく、質量を有する粒子の照射に替えて、UVを照射することによりバンドギャップ半導体基板100の接合面110とハンドル基板200の接合面210の活性化が行われる。
【0028】
また、本実施形態の接合基板の製造方法は、バンドギャップ半導体基板100として単結晶基板を用いて、ハンドル基板200として多結晶基板を用いることができる。また、バンドギャップ半導体基板100およびバンドギャップ半導体基板100が、いずれも、炭化ケイ素(SiC)基板、シリコン(Si)基板、および、窒化ガリウム(GaN)基板のいずれかである、接合基板500を製造する場合に、好適に適用することができる。
【0029】
具体的には、例えば、接合基板500として炭化ケイ素基板を得る場合には、バンドギャップ半導体基板100として炭化ケイ素単結晶基板を用いて、ハンドル基板200として炭化ケイ素多結晶基板を用いることができる。
【0030】
バンドギャップ半導体基板100として用いる炭化ケイ素単結晶基板は、例えば、昇華法により作成した炭化ケイ素のバルク単結晶から加工して得た、4H-SiC単結晶基板や、化学的気相蒸着法により単結晶ウェハにエピタキシャル成長させて得た4H-SiC単結晶基板を用いることができる。なお、バンドギャップ半導体基板100として用いる炭化ケイ素単結晶基板は、窒素やアルミニウム等のドーパントを含んでいてもよい。
【0031】
また、ハンドル基板200として用いる炭化ケイ素多結晶基板は、例えば、化学的気相蒸着法により炭化ケイ素多結晶を成膜して得た3C-SiC多結晶基板を用いることができる。
【0032】
バンドギャップ半導体基板100、ハンドル基板200の形状としては、例えば円形の平行平板状とすることができる。また、バンドギャップ半導体基板100、ハンドル基板200の厚さは、特に限定されず、例えば、それぞれ200μm~500μm程度とすることができる。
【0033】
また、活性化処理工程に供する前に、予め、バンドギャップ半導体基板100、ハンドル基板200の接合面110、210の鏡面研磨および洗浄を行っておくことが好ましい。
【0034】
また、本実施形態の接合基板の製造方法においては、例えば、図1に示した接合装置1000を用いることができる。以下においては、接合装置1000を用いた製造方法について説明する。
【0035】
接合装置1000は、内部が処理室となる筐体1100と、筐体1100内部を加熱するヒーター1200と、バンドギャップ半導体基板100を設置する第一設置部1300と、ハンドル基板200を設置する第二設置部1400と、バンドギャップ半導体基板100にUVを照射する第一UVランプ1510と、ハンドル基板200にUVを照射する第二UVランプ1520と、筐体1100外に設けられた、筐体1100内部を真空にする真空ポンプ(不図示)と、を備える。
【0036】
また、第一設置部1300は、軸1310と、第一ステージ1320と、を有している。また、軸1310は、第一ステージ1320を図1の矢印A方向に移動する移動手段(不図示)と、第一ステージ1320に設置されたバンドギャップ半導体基板100と第二設置部1400に設置されたハンドル基板200とを重ねた状態で、第一ステージ1320から第二設置部1400方向に、すなわち図1の矢印B方向に加圧する加圧手段(不図示)と、を有する。
【0037】
なお、活性化処理工程、接合工程は、例えば接合装置1000を用いて1つの装置を用いて行ってもよいし、活性化処理工程と接合工程を別の装置を用いて行ってもよい。活性化処理工程により活性化された接合面110、210の活性化状態を維持したまま接合工程を行うために、活性化処理工程-接合工程間の時間が短いほうが好ましいことから、1つの装置を用いることがより好ましい。
【0038】
(活性化処理工程)
次に、活性化処理工程について説明する。
【0039】
活性化処理工程は、バンドギャップ半導体基板100の接合面110、および、ハンドル基板200の接合面210の少なくとも一方に、真空下において10nm~280nm、すなわち、VUV(10nm~200nm)からUV-C(200~280nm)の波長範囲の紫外線を照射して活性化する工程である。
【0040】
ここで、接合面110、210の活性化とは、バンドギャップ半導体基板100とハンドル基板200の接合面110、210にある酸素、水素、ヒドロキシル基(OH基)等の界面終端成分、酸化膜を除去して、ダングリングボンドを形成することを指す。
【0041】
活性化処理工程において接合面110、210に紫外線を照射するための光源は、特に限定されず、例えば、低圧水銀ランプ(254nm、185nm)、Xeエキシマランプ(172nm)等を用いることができる。
【0042】
また、活性化処理工程における紫外線の波長は、10nm~280nmの範囲において照射源となるランプが入手しやすい170nm~260nmとすることができる。紫外線の波長が260nmよりも大きい場合には、エネルギー量が小さく、表面の活性化を促すために十分なエネルギーを接合面110、210に与えることができない場合がある。
【0043】
活性化処理工程において、紫外線を照射する活性化処理時間は、接合面110、210に十分なエネルギーを付与することができる時間であればよい。エネルギー量は紫外線の強度と照射時間との積であることから、照射に必要な時間は、照射する紫外線の強度から算出することができる。具体的には、照射する紫外線の強度が例えば5mW/cmである場合には、2分程度以上とすることができる。
【0044】
また、活性化処理工程において、真空度は、1×10-4Pa(N/m)以下の真空とし、さらに好ましくは、1×10-6Pa以下の超高真空(JIS Z 8126-1)とすることができる。活性化処理工程における真空度が低い場合は、紫外線を照射したのちの活性面(接合面110、210)の活性量が低くなることがあり、接合工程において十分な接合強度を得ることができないことがある。
【0045】
次に、接合装置1000を用いた活性化処理工程の手順を説明する。活性化処理工程においては、図1図2(A)に示すように、まず、バンドギャップ半導体基板100の接合面110を第一設置部1300の第一ステージ1320に設置して、ハンドル基板200を第二設置部1400に設置して、バンドギャップ半導体基板100の接合面110とハンドル基板200の接合面210とが相対するように設置する。
【0046】
さらに、筐体1100内部を真空ポンプにより所定の真空度(例えば、5×10-6Pa)まで真空引きしたのち、第一UVランプ1510、第二UVランプ1520によりバンドギャップ半導体基板100の接合面110、ハンドル基板200の接合面210にUVを所定の強度(例えば、172nmの紫外線を10mW/cm)、所定時間(例えば、2分間)照射する。以上により、活性化処理工程が終了する。
【0047】
なお、本実施形態においては、バンドギャップ半導体基板100の接合面110とハンドル基板200の接合面210の両方に紫外線を照射する例を示したが、紫外線の照射は、バンドギャップ半導体基板100の接合面110およびハンドル基板200の接合面210の少なくとも一方に行えばよい。
【0048】
(接合工程)
次に、接合工程について説明する。
【0049】
接合工程は、活性化処理工程の後に、バンドギャップ半導体基板100の接合面110と、ハンドル基板200の接合面210とを接合して、接合基板500を得る工程である。本実施形態の接合工程において、バンドギャップ半導体基板100の接合面110、および、ハンドル基板200の接合面210は、活性化処理工程において紫外線が照射された面である。
【0050】
なお、接合面110、210の活性化状態が維持されている間に、バンドギャップ半導体基板100とハンドル基板200とを接合することが好ましく、活性化処理工程と接合工程との間の時間は、1分以内程度とすることが好ましい。なお、本実施形態においては、通常、活性化処理工程後、数秒程度で接合工程が行われる。
【0051】
また、接合工程における前記接合工程における、バンドギャップ半導体基板100およびハンドル基板の温度は、バンドギャップ半導体基板100とハンドル基板200との種類や組み合わせによって最適の条件は異なるが、例えば、200℃~400℃程度とすることができる。
【0052】
接合工程におけるバンドギャップ半導体基板100およびハンドル基板の温度が、200℃より低温等の低すぎる場合には、バンドギャップ半導体基板100とハンドル基板200との十分な接合強度を得ることができず、ボイドの発生の低減が十分でないことがある。接合工程におけるバンドギャップ半導体基板100およびハンドル基板の温度が、400℃より高温等の高すぎる場合には、バンドギャップ半導体基板100とハンドル基板200との間にひずみが入ることがあり、接合工程後の冷却時に、いずれか一方あるいは両方の基板が割れることがある。
【0053】
また、接合工程において、バンドギャップ半導体基板100とハンドル基板200とに加える圧力は、50kgf~500kgf(0.49kN~4.90kN)とすることができる。
【0054】
また、接合工程における筐体1100内の真空度は、活性化処理工程と同様の条件とすることができる。
【0055】
また、接合工程における処理時間は、バンドギャップ半導体基板100とハンドル基板200とが十分に接合されれば特に限定されず、例えば、10秒~5分とすることができる。
【0056】
次に、接合装置1000を用いた接合工程の手順を説明する。以下の説明においては、前述した、接合装置1000を用いた活性化処理工程に続けて接合工程を行うものとする。
【0057】
活性化処理工程が終了したのち、筐体1100内の温度を接合工程の所定温度(例えば、300℃)まで昇温したのち、第一設置部1300の軸1310を稼働させて、図2(B)に示すように、バンドギャップ半導体基板100をハンドル基板200に向けて図2(B)の矢印C方向に移動する。
【0058】
図2(C)に示すように、バンドギャップ半導体基板100とハンドル基板200を接触するまでバンドギャップ半導体基板100を移動させて、筐体1100内部を所定圧力(例えば、100kgf(0.98kN))、に加圧する。所定時間(例えば、3分間)保持して、バンドギャップ半導体基板100とハンドル基板200とを接合させる。以上により整合工程が終了し、図2(D)に示す、バンドギャップ半導体基板100とハンドル基板200が接合した、接合基板500が得られる。
【0059】
(従来の接合基板の製造方法との比較)
従来の接合基板の製造方法においては、接合面を活性化するために、アルゴン(Ar)イオンや、中性のアルゴン粒子をそれぞれの基板の接合面に照射することにより、基板の接合面にある酸素、水素、ヒドロキシル基(OH基)等の界面終端成分を除去して、表面を活性化させていた。
【0060】
しかしながら、アルゴンイオンやアルゴン粒子の照射は質量を有する粒子によるアタックであり、原理的にスパッタリング現象が起きることから、(1)スパッタではじかれた粒子に由来するパーティクルの発生、(2)真空チャンバー内の物質の金属コンタミの発生が問題となっていた。また、質量を有する粒子による貼り合わせ面におけるスパッタリング現象により、接合面が不均一な凹凸面となり、これが原因となって貼り合わせ後の接合面において空隙(ボイド、例えば、図3(A)の接合基板700におけるボイドV)の原因となる。また、スパッタリング現象により基板や真空チャンバーより飛び出した粒子によるコンタミは接合基板における不良の原因となっていた。
【0061】
なお、接合基板に発生したボイドは、光学顕微鏡、または、レーザー顕微鏡等を用いて観察することができる。
【0062】
本発明者らは、バンドギャップ半導体基板とハンドル基板の接合面に紫外線を照射することによって接合面を活性化することで、アルゴン粒子等のスパッタ粒子によるパーティクルや金属コンタミを生じさせずに、活性化した接合面が得られることを見出した。
【0063】
本実施形態の接合基板の製造方法であれば、アルゴン等の質量を有する粒子を用いることなく、バンドギャップ半導体基板100の接合面110とハンドル基板200の接合面210を活性化することができることから、ボイドおよびコンタミを低減した、接合基板500を得ることができる。
【0064】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の工程等を含み、前述した実施形態の変形等も本発明に含まれる。
【0065】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質等を限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質等の限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例
【0066】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されることはない。
【0067】
本実施例においては、バンドギャップ半導体基板として炭化ケイ素単結晶基板を用いて、ハンドル基板として炭化ケイ素多結晶基板を用いて、炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板とが接合した、炭化ケイ素複合基板を製造した。また、接合装置として、前述した実施形態の接合装置1000を用いた。接合装置1000は、第一UVランプ1510、第二UVランプ1520として、Xeエキシマランプを備える。
【0068】
[実施例1]
(炭化ケイ素接合基板の製造)
炭化ケイ素単結晶基板として、昇華法によって作製された、直径寸法が4インチの4H-SiC単結晶基板を用いた。また、炭化ケイ素多結晶基板として、化学的気相蒸着法により炭化ケイ素多結晶を成膜して得た、直径寸法が4インチの3C-SiC多結晶基板を用いた。
【0069】
まず、活性化処理工程の前に、炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板の接合面について、鏡面研磨加工および洗浄を行った。次に、活性化処理工程として、鏡面研磨加工、洗浄した炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板の接合面に、Arイオン、Ar粒子は照射せずに、紫外線を照射した。
【0070】
すなわち、第一設置部1300、第二設置部1400に炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板を設置して、筐体1100内を真空度が5×10-6Pa以下の超高真空雰囲気とした。さらに、Xeエキシマランプ(第一UVランプ1510、第二UVランプ1520)により、炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板の接合面に、波長172nmの紫外線を10mW/cmの強度で2分間、照射した。
【0071】
次に、接合工程を行った。炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板とを、活性化された接合面同士が接触するように重ねて、活性化処理工程と同じ真空条件のまま、筐体1100内を300℃として、炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板とを重ねたものに100kgf(0.98kN)の圧力を加えて、3分間保持した。以上により、炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板との接合基板を得た。さらに、筐体1100内を常温まで温度を下げたのち、筐体1100内を大気圧まで復圧して、接合基板を取り出して、接合基板の評価を行った。
【0072】
(炭化ケイ素接合基板の評価)
得られた接合基板の評価を行った。評価は、ボイドの有無の確認、コンタミの有無の確認、および、接合強度の確認とした。
【0073】
ボイドの有無の確認は、光学顕微鏡を用いて顕微鏡観察を行い、得られた接合基板にボイドが発生したか否かを確認した。接合基板にボイドが発生している場合、図3に示す接合基板700のように、点状のボイドVを確認することができる。
【0074】
また、接合基板を蛍光X線解析に供することにより、接合基板に不純物が含まれているか否かを確認して、コンタミの有無を評価した。蛍光X線解析装置として、NANOHUNTERII(リガク製)を用いた。
【0075】
また、接合強度は、得られた接合基板を5mm角のチップ状に切断して、炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板との剥離の有無を確認して、剥離がない場合には接合強度が十分であり、剥離がある場合には接合強度が不十分であると評価した。
【0076】
なお、接合基板の接合強度が十分であっても、図3(B)に示す接合基板800のように接合基板にボイドVが発生している場合、ボイドVが含まれないチップ(例えば、図3(B)のチップ810)は良品であるが、ボイドVが含まれるチップ(例えば、図3(B)のチップ820、830、840)は後工程に用いると不良の原因となり得る。よって、ボイドVが含まれるチップが多いほど歩留まりが低いと評価することができる。
【0077】
接合基板を評価した結果、ボイドの発生は確認されず、また、金属不純物の測定においても検収限界以下であり、コンタミは確認されなかった。また、接合基板を270個の5mm角のチップ状に切断したところ、剥離は確認されず、接合強度は十分であると判断した。
【0078】
[実施例2]
実施例2として、接合装置1000のXeエキシマランプを低圧水銀ランプに替えて、活性化処理工程におけるUVの波長を254nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、接合基板の製造および接合基板の評価を行った。得られた接合基板を評価した結果、ボイドの発生は確認されず、また、金属不純物の測定においては検収限界以下であり、コンタミは確認されなかった。また、接合基板を5mm角のチップ状に切断したところ、剥離は確認されず、接合強度は十分であると判断した。
【0079】
[比較例1]
比較例1として、接合装置1000のXeエキシマランプをAr FABガンに替えて、すなわち紫外線は照射せずに、Arビームを用いて接合面の活性化処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして、接合基板の製造および接合基板の評価を行った。Arビームの条件は、ビーム電圧1.5kV、ビーム電流20mA、照射時間2.5分とした。
【0080】
得られた接合基板を評価した結果、ボイドの有無を確認したところ、多数の(32個の)ボイドが観察された。5mm角サイズにカットしたチップを想定すると、32個/270個の不良に相当し、これらのチップは後工程に用いることはできないため、ボイドが含まれるチップの分だけ歩留まりが低くなる結果となった。また、金属不純物の測定においては検収限界以下であり、コンタミは確認されなかった。また、接合基板を5mm角のチップ状に切断したところ、剥離は確認されず、接合強度は十分であると判断した。
【0081】
[比較例2]
比較例2として、接合装置1000のXeエキシマランプをArイオンガンに替えて、すなわち紫外線は照射せずに、Arイオンを用いて接合面の活性化処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして、接合基板の製造および接合基板の評価を行った。イオンソ-ス動作条件は、ビーム電圧1.5kV、ビーム電流20mA、照射時間3分とした。
【0082】
得られた接合基板を評価した結果、ボイドの有無を確認したところ、比較例1より少ないものの、多数の(20個の)ボイドが観察された。また、金属不純物の測定においては接合装置の内壁の構成物質ある、Fe、Cr等の金属が優位差をもって検出され、比較例2により得られた接合基板には不純物が含まれており、コンタミが生じていることが分かった。このコンタミにより、デバイス化のためのプロセスを実施することはできず、基板としては、不良と考えられた。また、接合基板を5mm角のチップ状に切断したところ、剥離は確認されず、接合強度は十分であると判断した。
【0083】
[比較例3]
比較例3として、接合装置1000のXeエキシマランプをキセノンランプに替えて、活性化処理工程におけるUVの波長を350nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、接合基板の製造および接合基板の評価を行った。その結果、接合工程において、炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板とが接合されず、接合基板が得られなかった。
【0084】
本発明の例示的態様である実施例1、実施例2において、Ar等の質量を有する粒子の照射を行わずに、バンドギャップ半導体基板とハンドル基板の接合面にUV照射することで、接合面の活性化を行うことにより、アルゴン粒子等のスパッタ粒子によるパーティクルや金属コンタミを生じさせずに、接合基板におけるボイドおよびコンタミを低減した、接合基板が得られることが示された。
【符号の説明】
【0085】
100 バンドギャップ半導体基板
110 バンドギャップ半導体基板の接合面
200 ハンドル基板
210 ハンドル基板の接合面
500 接合基板
図1
図2
図3