(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】加熱部材、加熱装置、定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240702BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G03G15/20 515
H05B3/00 335
(21)【出願番号】P 2020129396
(22)【出願日】2020-07-30
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】島田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】染矢 幸通
(72)【発明者】
【氏名】古市 祐介
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-324584(JP,A)
【文献】特開平05-027619(JP,A)
【文献】特開平09-297478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部と、相手部材が潤滑剤を介して相対的に摺動する摺動面と、を有する加熱部材であって、
前記摺動面は、前記発熱部が設けられた部分で凸となる凸部を有し、
前記凸部は、前記相手部材の摺動方向に向かって凹む凹部を有
し、
前記凹部は、前記相手部材の摺動方向に渡って複数設けられ、
前記摺動方向に渡って異なる位置に設けられる前記凹部同士は、前記摺動面に沿って前記摺動方向とは交差する方向に互いにずれて配置される加熱部材。
【請求項2】
前記凹部は、前記相手部材の摺動方向に対して傾斜する傾斜部を有する請求項1に記載の加熱部材。
【請求項3】
前記凹部は、前記相手部材の摺動方向に向かって互いに接近するように傾斜する一対の傾斜部を有する請求項2に記載の加熱部材。
【請求項4】
前記発熱部は、一定の幅で伸びる曲線状、又は折れ線状、あるいは曲線と折れ線とを組み合わせた形状に形成される請求項1から3のいずれかに記載の加熱部材。
【請求項5】
回転可能な無端状のベルト部材と、
前記ベルト部材の外周面に接触する対向部材と、
前記ベルト部材の内周面に潤滑剤を介して接触し、回転する前記ベルト部材に対して相対的に摺動する請求項1から4のいずれかに記載の加熱部材と、
を備える加熱装置。
【請求項6】
請求項5に記載の加熱装置を用いて記録媒体上の画像を定着する定着装置。
【請求項7】
請求項5に記載の加熱装置、又は請求項6に記載の定着装置を備える画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱部材、加熱装置、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタなどの画像形成装置に搭載される加熱装置の一例として、用紙上のトナー画像を熱により定着させる定着装置が知られている。
【0003】
また、定着装置には、無端状のベルト部材の内側にセラミックヒータなどの加熱部材が配置されたものがある。この種の定着装置においては、ベルト部材が回転すると、ベルト部材がその内側に配置された加熱部材に対して摺動するため、ベルト部材と加熱部材との間に摺動抵抗(摩擦)が発生する。このような摺動抵抗は、ベルト部材の回転トルク増大や、ベルト部材の摩耗促進の要因となる。そのため、摺動抵抗を低減する対策として、ベルト部材の内周面にグリスやオイルなどの潤滑剤を塗布することが一般的に行われている。
【0004】
しかしながら、ベルト部材と加熱部材の間に介在する潤滑剤の量は経時的に少なくなる傾向にあるため、潤滑剤の量が少なくなると良好な摺動抵抗低減効果が得られなくなる。斯かる問題に対して、特許文献1(特開2003-77621号公報)では、加熱部材(セラミックヒータ)の表面を研磨して微小な凹部(研磨目)を複数形成し、この凹部内に潤滑剤が保持されることにより、潤滑剤による摩擦抵抗低減効果を長期に亘って維持できるようにする方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に提案されている方法では、加熱部材の表面を研磨するなどの追加加工が必要となるため、コストが高くなるといった課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、発熱部と、相手部材が潤滑剤を介して相対的に摺動する摺動面と、を有する加熱部材であって、前記摺動面は、前記発熱部が設けられた部分で凸となる凸部を有し、前記凸部は、前記相手部材の摺動方向に向かって凹む凹部を有し、前記凹部は、前記相手部材の摺動方向に渡って複数設けられ、前記摺動方向に渡って異なる位置に設けられる前記凹部同士は、前記摺動面に沿って前記摺動方向とは交差する方向に互いにずれて配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、追加加工を行わなくても、加熱部材の摺動面に凹部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【
図2】本実施形態に係る定着装置の概略構成図である。
【
図3】本実施形態に係る定着装置を
図2における上方から見た図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るヒータの断面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係るヒータの平面図である。
【
図6】ヒータと定着ベルトの接触部分を拡大して示す断面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るヒータの平面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係るヒータの平面図である。
【
図9】傾斜部を有しない凹部を拡大して示す平面図である。
【
図10】傾斜部を有する凹部を拡大して示す平面図である。
【
図11】本発明の第4実施形態に係るヒータの平面図である。
【
図12】長手方向に渡って凹部がずれて配置された発熱部を拡大して示す平面図である。
【
図13】長手方向に渡って凹部が同じ位置に配置された発熱部を拡大して示す平面図である。
【
図14】本発明の第5実施形態に係るヒータの平面図である。
【
図18】さらに別の定着装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材や構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【0011】
図1に示す画像形成装置100は、画像形成部200と、転写部300と、定着部400と、記録媒体供給部500と、記録媒体排出部600と、を備えている。
【0012】
画像形成部200には、4つの作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkと、露光装置6と、が設けられている。各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、画像形成装置本体に対して着脱可能に構成されている。また、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色の現像剤を収容している以外、基本的に同様の構成である。具体的に、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、表面に画像を担持する像担持体である感光体2と、感光体2の表面を帯電させる帯電手段である帯電ローラ3と、感光体2上にトナー画像を形成する現像手段である現像装置4と、感光体2の表面をクリーニングするクリーニング手段であるクリーニングブレード5と、を備えている。露光装置6は、画像情報に基づいて感光体2の帯電面を露光して静電潜像を形成する潜像形成手段である。
【0013】
転写部300には、記録媒体である用紙に画像を転写する転写装置8が設けられている。なお、画像が形成(転写)される記録媒体は、紙(普通紙、厚紙、薄紙、コート紙、ラベル紙、封筒などを含む)のほか、OHPシートなどの樹脂製のシートであってもよい。転写装置8は、中間転写ベルト11と、4つの一次転写ローラ12と、二次転写ローラ13と、を有している。中間転写ベルト11は、表面に画像を担持してその画像を用紙に転写する転写部材であり、無端状のベルト部材で構成されている。各一次転写ローラ12は、中間転写ベルト11を介してそれぞれ別の感光体2に接触している。これにより、中間転写ベルト11と各感光体2との間に、中間転写ベルト11と各感光体2とが接触する一次転写ニップが形成されている。一方、二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11を介して中間転写ベルト11を張架する複数のローラの1つに接触し、中間転写ベルト11との間に二次転写ニップを形成している。
【0014】
定着部400には、用紙を加熱する加熱装置であって、熱により用紙上の画像を定着させる定着装置9が設けられている。
【0015】
記録媒体供給部500には、用紙Pを収容する給紙カセット14と、給紙カセット14から用紙Pを送り出す給紙ローラ15と、が設けられている。
【0016】
記録媒体排出部600には、用紙を画像形成装置外に排出する一対の排紙ローラ17と、排紙ローラ17によって排出された用紙を載置する排紙トレイ18と、が設けられている。
【0017】
次に、
図1を参照しつつ本実施形態に係る画像形成装置100の印刷動作について説明する。
【0018】
印刷動作開始の指示があると、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkの感光体2、及び中間転写ベルト11が回転を開始する。また、給紙ローラ15が回転することにより、給紙カセット14から用紙Pが送り出される。送り出された用紙Pは、一対のタイミングローラ16に接触して一旦停止される。
【0019】
各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkでは、まず、帯電ローラ3によって感光体2の表面が均一な高電位に帯電される。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント画像情報に基づいて、露光装置6が各感光体2の表面(帯電面)に露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して各感光体2の表面に静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4からトナーが供給され、各感光体2上にトナー画像が形成される。各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達すると、回転する中間転写ベルト11上に順次重なり合うように転写される。かくして、中間転写ベルト11上にフルカラーのトナー画像が形成される。また、感光体2から中間転写ベルト11へトナー画像が転写された後、各感光体2上に残留するトナーやその他の異物はクリーニングブレード5によって除去され、感光体2は次の静電潜像の形成に備えられる。
【0020】
中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送され、タイミングローラ16によって搬送されてきた用紙P上に転写される。そして、トナー画像が転写された用紙Pは、定着装置9へと搬送され、定着装置9によって用紙Pにトナー画像が定着される。その後、用紙Pは排紙ローラ17によって排紙トレイ18へ排出され、一連の印刷動作が完了する。
【0021】
以上の印刷動作の説明は、フルカラー画像を形成するときの動作についてであるが、4つの作像ユニットのうち、いずれか1つを使用して単色画像を形成したり、2つ又は3つの作像ユニットを使用して、2色又は3色の画像を形成したりすることも可能である。
【0022】
続いて、本実施形態に係る定着装置9の構成について説明する。
【0023】
図2に示すように、本実施形態に係る定着装置9は、定着ベルト20と、加圧ローラ21と、ヒータ22と、ヒータホルダ23と、ステー24と、温度センサ19と、を備えている。
【0024】
定着ベルト20は、用紙Pの未定着トナー担持面に接触して用紙Pにトナー画像を定着させる定着部材としての回転部材(第1回転部材)である。定着ベルト20は、例えば、外径が25mmで厚みが40~120μmの筒状基材を有する無端状のベルト部材で構成される。基材の材料は、ポリイミドのほか、PEEKなどの耐熱性樹脂やニッケル、SUSなどの金属材料であってもよい。また、耐久性を高めると共に離型性を確保するため、基材の外周面に、PFAやPTFEなどのフッ素樹脂から成る離型層が設けられてもよい。また、基材と離型層との間に、ゴムなどから成る弾性層が設けられてもよい。さらに、基材の内周面に、ポリイミドやPTFEなどから成る摺動層が設けられてもよい。
【0025】
定着ベルト20は、一対の側板29に設けられた回転保持部材としての一対のベルト保持部材28(
図3参照)によって回転可能に保持される。各ベルト保持部材28は、例えばフランジ状に形成されており、定着ベルト20の長手方向Zの両端に余裕をもって挿入される。このため、定着ベルト20は、その両端に一対のベルト保持部材28が挿入された非回転状態で、基本的に周方向の張力が付与されない状態、いわゆるフリーベルト方式で保持される。
【0026】
加圧ローラ21は、定着ベルト20の外周面に対向するように配置された対向部材としての回転部材(第2回転部材)である。加圧ローラ21は、例えば、外径が25mmであって、鉄製の芯金と、この芯金の外周面に設けられたシリコーンゴム製の弾性層と、弾性層の外周面に設けられたフッ素樹脂製の離型層とを有するローラで構成される。
【0027】
加圧ローラ21は、バネなどの付勢部材によって定着ベルト20に対して加圧(圧接)され、定着ベルト20と加圧ローラ21との間にニップ部Nが形成される。加圧ローラ21が定着ベルト20へ加圧された状態で、加圧ローラ21が回転駆動すると、その回転駆動力がニップ部Nにおいて定着ベルト20に伝達され、定着ベルト20が従動回転する。そして、
図2に示すように、未定着画像を担持する用紙Pが、回転する定着ベルト20と加圧ローラ21との間(ニップ部N)に進入すると、定着ベルト20と加圧ローラ21とによって用紙Pが加熱されると共に加圧され、未定着画像が用紙Pに定着される。
【0028】
ヒータ22は、定着ベルト20を加熱する板状の加熱部材である。ヒータ22は、定着ベルト20の内側に配置され、定着ベルト20の内周面に接触している。なお、ヒータ22は、定着ベルト20の外周面に接触するように配置されてもよい。しかしながら、その場合、ヒータ22との接触により定着ベルト20の外周面が傷付くと、定着画像の画質が低下する虞がある。そのため、画質の低下を回避するには、ヒータ22を定着ベルト20の内周面に接触させる方が好ましい。
【0029】
具体的に、ヒータ22は、板状の基材50と、基材50上に設けられた第1絶縁層51と、第1絶縁層51上に設けられた導体層52と、導体層52を被覆する第2絶縁層53と、基材50の第1絶縁層51が設けられた面とは反対側の面に設けられた第3絶縁層54によって構成されている。導体層52は、給電により発熱する発熱部60を有している。また、導体層52は、発熱部60のほか、発熱部60に給電するための複数の電極部や、電極部と発熱部60とを接続する給電線(導電部)を有している。各電極部に給電部材としてのコネクタが接続され、コネクタを介して画像形成装置本体の電源から発熱部60へ電力が供給されることにより、発熱部60が発熱する。
【0030】
また、定着ベルト20が回転した際のヒータ22に対する定着ベルト20の摺動抵抗を低減するため、定着ベルト20とヒータ22との摺動面間には、グリスやオイルなどの潤滑剤を介在させている。潤滑剤としては、シリコーンオイル、又は基油がシリコーンオイルであるシリコーングリス、フロロシリコーンオイル、又は基油がフロロシリコーンオイルであるフロロシリコーングリス、フッ素オイル、又は基油がフッ素オイルであるフッ素グリスのいずれか1種、又はこれらの組み合わせを含む液状の潤滑剤が好ましい。
【0031】
ヒータホルダ23は、定着ベルト20の内側でヒータ22を保持する保持部材である。ヒータホルダ23は、ヒータ22の熱によって高温になりやすいため、耐熱性の材料で構成されることが望ましい。特に、ヒータホルダ23が、LCPやPEEKなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂で構成される場合は、ヒータホルダ23の耐熱性を確保しつつ、ヒータ22からヒータホルダ23への伝熱が抑制されるので、効率的に定着ベルト20を加熱することが可能である。
【0032】
ステー24は、定着ベルト20の内側に配置される補強部材である。ステー24によってヒータホルダ23のニップ部N側の面とは反対の面が支持されることにより、ヒータホルダ23が加圧ローラ21の加圧力によって撓むのが抑制される。これにより、定着ベルト20と加圧ローラ21との間に均一な幅のニップ部Nが形成される。ステー24は、その剛性を確保するため、SUSやSECCなどの鉄系金属材料によって形成されることが好ましい。
【0033】
温度センサ19は、ヒータ22の温度を検知する温度検知手段である。温度センサ19の検知結果に基づいてヒータ22の出力が制御されることにより、定着ベルト20の温度が所望の温度(定着温度)となるように維持される。温度センサ19としては、サーモパイル、サーモスタット、サーミスタ、NCセンサなどの公知のセンサを適用可能である。
【0034】
図4及び
図5は、本発明の第1実施形態に係るヒータ22の断面図及び平面図である。
【0035】
図4及び
図5において、矢印Aで示される方向は、ヒータ22に対して定着ベルト20が相対的に摺動する摺動方向(ベルト回転方向)である。すなわち、定着ベルト20が回転すると、定着ベルト20はヒータ22に対して矢印A方向に移動し摺動する。本実施形態では、ヒータ22の第2絶縁層53が、相手部材である定着ベルト20の内周面に潤滑剤を介して接触するため(
図2参照)、定着ベルト20に対する第2絶縁層53の接触面(
図4における上面)が、定着ベルト20が相対的に摺動する摺動面Sとなる。本明細書中では、この摺動面Sに沿って定着ベルト20の摺動方向Aと交差する方向B(
図5参照)を、ヒータ22の「長手方向」と称し、また、この長手方向B及び定着ベルト20の摺動方向Aの両方向に対して交差する方向C(
図4参照)をヒータ22の「厚さ方向」を称して、以下、ヒータ22の構成について詳しく説明する。
【0036】
図4に示すように、ヒータ22は、基材50、発熱部60(導体層52)、及び各絶縁層51,53,54が、厚さ方向Cに積層されて構成されている。
【0037】
基材50は、例えば、ステンレス(SUS)や鉄、アルミニウムなどの金属材料で構成される。また、基材50の材料として、金属材料のほか、セラミック、ガラスなどを用いることも可能である。基材50にセラミックなどの絶縁材料を用いた場合は、基材50と導体層52との間の第1絶縁層51を省略することが可能である。一方、金属材料は、急速加熱に対する耐久性に優れ、加工もしやすいため、低コスト化を図るのに好適である。金属材料の中でも、特にアルミニウムや銅は熱伝導性が高く、温度ムラが発生しにくい点で好ましい。また、ステンレスはこれらに比べて安価に製造できる利点がある。
【0038】
導体層52が有する発熱部60は、厚さ1μm~5μm程度の抵抗発熱体によって構成される。抵抗発熱体は、例えば、銀パラジウム(AgPd)やガラス粉末などを調合したペーストを、スクリーン印刷などの方法により基材50又は第1絶縁層51に塗工し、その後、焼成することによって形成される。また、抵抗発熱体の材料として、銀合金(AgPt)や酸化ルテニウム(RuO2)の抵抗材料を用いてもよい。
【0039】
各絶縁層51,53,54は、例えば、耐熱性ガラスなどの絶縁性を有する材料で構成される。また、これらの材料として、セラミックあるいはポリイミドなどを用いてもよい。各絶縁層51,53,54を厚くすれば絶縁性を高めることができる。しかしながら、これらを厚くし過ぎると、発熱部60から定着ベルト20への熱伝導率が低下したり、コストが高くなったりするので、各絶縁層51,53,54の厚さは、10μm~300μmが好ましく、30μm~150μmがより好ましい。
【0040】
ここで、
図4に示すように、発熱部60の上に第2絶縁層53をコーティングすると、発熱部60が一定の厚さを有しているため、発熱部60が設けられている部分において第2絶縁層53の表面が凸となり、発熱部60の厚さ程度(例えば、1μm~5μm程度)の段差が形成される。すなわち、第2絶縁層53の摺動面Sは、発熱部60が設けられた部分で厚さ方向Cに凸となる凸部30を有する。
【0041】
このように、本実施形態においては、発熱部60の形状に倣って凸部30が形成されるため、この凸部30を利用して下記のような潤滑剤溜りを形成している。
【0042】
すなわち、発熱部60に、あらかじめ定着ベルト20の摺動方向Aに向かって凹む矩形状の凹部61(
図5参照)を形成し、この発熱部60の上に第2絶縁層53をコーティングする。これにより、発熱部60の形状に倣って、凹部40を有する凸部30が第2絶縁層53に形成される。凹部40が設けられた部分においては、第2絶縁層53の表面が厚さ方向Cに低い段差となっている。このため、
図6に示すように、定着ベルト20がヒータ22の摺動面Sに接触すると、定着ベルト20と凹部40との間に隙間Gが形成される。
【0043】
そして、この隙間G(凹部40)に潤滑剤70が保持されることにより、定着ベルト20とヒータ22との間に潤滑剤70が良好に介在し、摺動抵抗を低減させることができる。さらに、凹部40は摺動方向Aに向かって凹むように形成されているため、定着ベルト20が回転した際に、潤滑剤が回転方向の力を受けても、潤滑剤は凹部40内に収容される方向に移動する。このため、凹部40内で潤滑剤を良好に保持することができる。
【0044】
このように、本実施形態においては、ヒータ22の摺動面Sに、定着ベルト20の摺動方向Aに向かって凹む凹部40が形成されていることにより、定着ベルト20とヒータ22との間で潤滑剤を長期に亘って良好に保持することができ、摺動抵抗に起因する定着ベルト20の摩耗や回転トルクの上昇などを効果的に抑制できるようになる。さらに、本実施形態においては、このような凹部40を、発熱部60の形状を変更するだけで形成することができるので、凹部40を形成するためにヒータの表面を研磨加工するなどの追加加工が不要となる。このため、本実施形態に係る構成によれば、潤滑剤を長期に亘って良好に保持可能な構成を低コストで実現できるようになる。
【0045】
続いて、上述の第1実施形態とは異なる実施形態について説明する。なお、以下の説明においては、主に第1実施形態とは異なる部分について説明し、それ以外の部分については基本的に同様の構成であるので適宜説明を省略する。
【0046】
図7は、本発明の第2実施形態に係るヒータ22の平面図である。
【0047】
図7に示すヒータ22においては、潤滑剤溜りとしての凹部40が、ヒータ22の長手方向B(摺動面Sに沿って摺動方向Aとは交差する方向)に渡って複数設けられている。
【0048】
このように、第2実施形態では、凹部40が長手方向Bに渡って複数設けられることにより、広い範囲に渡って潤滑剤を保持できるようになる共に、潤滑剤保持量を多くすることが可能である。このため、摺動抵抗をより効果的に低減できるようになる。
【0049】
図8は、本発明の第3実施形態に係るヒータ22の平面図である。
【0050】
図8に示すヒータ22においては、凹部40が台形状又は三角形状に形成されている。このため、凹部40は、定着ベルト20の摺動方向Aに向かって互いに接近する一対の傾斜部41を有している。
【0051】
このように、第3実施形態では、凹部40が一対の傾斜部41を有していることにより、上述の第1及び第2実施形態に係るヒータに比べて、定着ベルト20の摩耗を抑制できるようになる。
【0052】
すなわち、
図9に示すように、傾斜部41を有しない凹部40においては、互いに対向する一対の側面40a,40bが定着ベルト20の摺動方向Aに伸びているため、定着ベルト20が回転すると、各側面40a,40bのエッジ(段差部)が定着ベルト20の同じ箇所に集中して当たり、定着ベルト20の摩耗が生じやすい。これに対して、
図10に示すように、傾斜部41を有する凹部40においては、一対の側面40a,40bがそれぞれ摺動方向Aに対して傾斜しているため、各側面40a,40bのエッジが定着ベルト20の特定部位に集中して接触するのを回避できる。これにより、定着ベルト20の特定部位における摩耗促進を抑制でき、定着ベルト20の耐久性を向上させることが可能である。また、凹部40が一対の傾斜部41を有していることにより、定着ベルト20が回転すると、潤滑剤が各傾斜部41に沿って凹部40の中央に案内されるため、凹部40内に潤滑剤を集めて保持しやすくなる。
【0053】
摺動方向Aに対する各傾斜部41の傾斜角度は、互いに同じ角度である場合に限らず、異なる角度の場合であってもよい。また、傾斜部41は、直線(平面)である以外に、曲線(曲面)であってもよい。
【0054】
ところで、上述の各実施形態のように、発熱部60に凹部61を形成すると、発熱部60の幅が長手方向Bに渡って変化するため、凹部61が形成された部分とそれ以外の部分とで発熱部60の抵抗値にばらつきが発生する。そして、これに伴って発熱量も変化するため、ヒータ22の発熱分布に長手方向Bに渡るばらつきが発生する。そして、このような発熱分布のばらつきは、画像の光沢ムラの発生など、定着品質に影響を及ぼす虞がある。
【0055】
そこで、
図11に示す本発明の第4実施形態では、ヒータ22の発熱分布のばらつきを抑制するため、発熱部60を摺動方向Aに渡って2列になるように設け、図の上側の発熱部60が有する各凹部61と、図の下側の発熱部60が有する各凹部61とを、長手方向B(摺動面Sに沿って摺動方向Aとは交差する方向)に互いにずらしている。すなわち、
図12に示すように、ヒータ22の長手方向Bにおいて、図の上側の各凹部61の中央部α同士の間に、図の下側の凹部61の中央部βが位置するようにしている。なお、この例では、下側の凹部61の中央部βが、隣り合う上側の各凹部61の中央部αから同じ距離離れた中間位置に配置されているが、下側の凹部61の位置は中間位置からずれた位置であってもよい。
【0056】
このように、摺動方向Aに渡って互いに異なる位置に設けられる凹部61同士(上側の凹部61と下側の凹部61)が長手方向Bにずれて配置されていることにより、一方の発熱部60の幅の大きい部分に対して他方の発熱部60の幅の小さい部分が対応して配置される。すなわち、一方の発熱部60の発熱量が高い部分に対応して、他方の発熱部60の発熱量が低い部分が配置されるため、長手方向Bに渡る発熱分布のばらつきを抑制できるようになる。また、この場合、潤滑剤溜りとして機能する凹部40同士も長手方向Bに互いにずれて配置されるため、潤滑剤を広い範囲に渡って分散して保持できるようになり、摺動抵抗をより効果的に低減できるようになる。また、本実施形態において、発熱部60を、摺動方向Aに渡って3列以上(複数)設けてもよい。
【0057】
一方、
図13に示す例は、上記
図12に示す例とは異なり、図の上側の凹部61と図の下側の凹部61とが、長手方向Bの同じ位置に配置された例である。ヒータ22の発熱分布のばらつきを抑制する観点からすれば、
図12に示す例を採用することが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。温度分布のばらつきが許容できる程度であれば、
図13に示す例を採用することも可能である。
【0058】
また、ヒータ22の温度分布のばらつきに対する別の対策として、
図14に示す本発明の第5実施形態のように、発熱部60を、一定の幅で伸びる波形などの曲線状に形成してもよい。この場合、ヒータ22の長手方向Bに渡って発熱部60の抵抗値が変化しないため、温度分布のばらつきが生じない。
【0059】
従って、発熱部60を一定幅の曲線状とすることにより、発熱分布のばらつきを生じさせず、潤滑剤溜りとして機能する凹部40を形成することが可能である。また、
図14に示す例の場合、凹部40が摺動方向Aに対して傾斜する傾斜部41を有するため、上述の第3実施形態(
図8参照)と同様に、定着ベルト20の特定部位に凹部40のエッジが集中して当たるのを回避できると共に、傾斜部41によって凹部40内に潤滑剤を集めやすくなる。
【0060】
なお、発熱部60の形状は、曲線状以外の形状であってもよい。例えば、
図15に示す例のように、発熱部60は、向きの異なる複数の直線を繋いだ折れ線状であってもよい。また、発熱部60形状は、曲線と折れ線とを組み合わせた形状であってもよい。
【0061】
以上、本発明の実施形態及び各実施例について説明したが、本発明は、上述の実施形態又は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0062】
また、本発明は、
図2に示すような定着装置に限らず、
図16~
図18に示すような定着装置にも適用可能である。
【0063】
図16に示す定着装置9は、
図2に示す定着装置とは異なり、用紙Pを通過させるニップ部Nと、ヒータ22によって定着ベルト20を加熱する部分が、それぞれ別の位置に設定されている。具体的には、定着ベルト20の回転方向における互いに180°反対側に、ヒータ22とニップ形成部材90が配置され、それぞれに対して各加圧ローラ91,92が定着ベルト20を介して押し当てられている。
【0064】
図17に示す定着装置9は、
図16に示すヒータ22側の加圧ローラ92が省略され、さらに、ヒータ22が定着ベルト20の曲率に合わせて円弧状に形成された例である。それ以外は、
図16に示す構成と同様である。この場合、ヒータ22が円弧状に形成されていることにより、定着ベルト20とヒータ22とのベルト回転方向の接触長さを確保し、定着ベルト20を効率良く加熱することが可能である。
【0065】
図18に示す定着装置9は、ローラ93の両側にそれぞれベルト94,95が配置された例である。この場合も、
図16及び
図17に示す例と同様、用紙Pを通過させるニップ部Nと、ヒータ22による加熱部分が、それぞれ別の位置に設定されている。すなわち、ローラ93に対して、図の右側で一方のベルト94を介してニップ形成部材90が接触し、これとは反対側で、他方のベルト95を介してヒータ22が接触している。
【0066】
このような、
図16~
図18に示すような定着装置においても、本発明を適用することにより、追加加工を行わなくても潤滑剤溜りとして機能する凹部40をヒータ22に形成することができ、潤滑剤を長期に亘って良好に保持できるようになる。
【0067】
また、本発明は、
図3に示すような定着ベルト20がフリーベルト方式で保持される構成に限らず、定着ベルトが複数のローラなどによって張架される構成にも適用可能である。
【0068】
また、上述の各実施形態では、加熱装置の一例である定着装置に本発明を適用した場合を例に説明したが、本発明は定着装置に適用される場合に限らない。例えば、インクジェット式の画像形成装置において、用紙を加熱して用紙上のインク(液体)を乾燥させる乾燥装置などの加熱装置にも本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
9 定着装置(加熱装置)
20 定着ベルト(ベルト部材)
21 加圧ローラ(対向部材)
22 ヒータ(加熱部材)
30 凸部
40 凹部
41 傾斜部
60 発熱部
70 潤滑剤
100 画像形成装置
A 摺動方向
P 用紙(記録媒体)
S 摺動面
【先行技術文献】
【特許文献】
【0070】