(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】塑性加工における破壊予測方法
(51)【国際特許分類】
B21J 5/00 20060101AFI20240702BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20240702BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20240702BHJP
【FI】
B21J5/00 Z
G06F30/10
G06F30/23
(21)【出願番号】P 2020146808
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石田 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 順
(72)【発明者】
【氏名】向瀬 レミ
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-223613(JP,A)
【文献】特開2010-131621(JP,A)
【文献】特開2006-231377(JP,A)
【文献】特開平10-099930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 5/00
G06F 30/10
G06F 30/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性加工における破壊の発生位置を予測する塑性加工における破壊予測方法であって、
前記塑性加工の対象である被加工材の固有破壊閾値を特定し、当該固有破壊閾値と前記塑性加工の際の破壊要因の対応関係を示す固有破壊閾値-破壊要因対応関係を特定し、
前記塑性加工の工程を複数の区分に分割し、
前記複数の区分それぞれにおける、前記塑性加工により発生する前記被加工材に対する状態を示す状態情報を用いて、区分破壊値を算出し、
前記固有破壊閾値-破壊要因対応関係を用いて、前記複数の区分それぞれにおける、前記被加工材の区分破壊閾値を算出し、
前記区分破壊値および前記区分破壊閾値を用いて、前記工程における各区分の破壊効果を積算して、積算破壊効果を算出し、
算出された前記積算破壊効果を用いて、前記被加工材に破壊が発生するかを判断することを特徴とする塑性加工における破壊予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塑性加工における破壊予測方法であって、
前記被加工材について、
有限要素法に基づく複数の要素に分割し、
前記区分破壊値を、前記複数の要素ごとに算出することを特徴とする塑性加工における破壊予測方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の塑性加工における破壊予測方法であって、
予め実行された破壊試験における試験片が破壊されたタイミングに対応する区分までの各区分における前記区分破壊値に基づいて、前記区分破壊閾値を特定することを特徴とする塑性加工における破壊予測方法。
【請求項4】
請求項3に記載の塑性加工における破壊予測方法であって、
前記破壊要因は、前記試験片に対する加工温度であることを特徴とする塑性加工における破壊予測方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の塑性加工における破壊予測方法であって、
前記積算破壊効果が予め定められた値以上となった区分を、前記破壊が発生したタイミングとして特定することを特徴とする塑性加工における破壊予測方法。
【請求項6】
コンピュータに対して、塑性加工における破壊の発生位置を予測する塑性加工における破壊予測方法であって、
前記塑性加工の対象である被加工材の固有破壊閾値を特定させ、当該固有破壊閾値と前記塑性加工の際の破壊要因の対応関係を示す固有破壊閾値-破壊要因対応関係を特定させ、
前記塑性加工の工程を複数の区分に分割させ、
前記複数の区分それぞれにおける、前記塑性加工により発生する前記被加工材に対する状態を示す状態情報を用いて、区分破壊値を算出させ、
前記固有破壊閾値-破壊要因対応関係を用いて、前記複数の区分それぞれにおける、前記被加工材の区分破壊閾値を算出させ、
前記区分破壊値および前記区分破壊閾値を用いて、前記工程における各区分の破壊効果を積算して、積算破壊効果を算出させ、
算出された前記積算破壊効果を用いて、前記被加工材に破壊が発生するかを判断させるコンピュータプログラム。
【請求項7】
請求項1乃至
5のいずれかに記載の塑性加工における破壊予測方法を実行する破壊予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性加工工程における欠陥の予測方法に関する。なお、塑性加工には、鍛造加工、圧延加工などの熱間加工が含まれる。また、破壊には、加工対象物である被加工材の割れ、亀裂、欠陥、破断などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
従来の塑性加工による製品、例えば、航空機エンジンや発電用ガスタービンに用いられる超耐熱合金は、低温で脆化する特性を持つ。このため、例えば、金型によって押圧して成形する熱間鍛造工程において、素材の加熱温度や金型温度が適切でないときに、加熱炉からプレスへの搬送中の空冷と、金型との接触による表面温度の低下により割れが発生することがある。金型温度が高いほど鍛造品の表面温度は高くなり、鍛造品の表面割れの発生リスクは軽減する一方で金型は損傷しやすくなる。このため、金型寿命を確保しつつ表面割れを抑制するには、割れの発生位置を予測して金型と素材温度を適切に設定するプロセス設計が必要である。
【0003】
従来から、欠陥の一例である割れを予測する方法として有限要素法によって破壊を評価する指標を算出して、閾値と比較する手法が一般的に知られている。例えば、特許文献1では、熱間自由鍛造における被鍛造材の熱連成変形解析により、被鍛造材の応力およびひずみから破壊条件式を用いて被鍛造材の破壊パラメータを算出する。そして、この破壊パラメータを破壊閾値と比較することによって被鍛造材の鍛造割れ発生を予測する手法が開示されている。また、特許文献2では、素材の有限要素モデルの各方向の応力成分とひずみ増分成分とを計算し、同一方向の応力成分とひずみ増分成分とを乗算して方向毎に算出された予測値を利用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-131621号公報
【文献】特開2015-223613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1では、破壊パラメータを試験温度および引張り速度をそれぞれ変化させて取得した破壊閾値と比較することで、鍛造温度とひずみ速度の影響を考慮している。但し、特許文献1では、被鍛造材の破壊閾値の加工中の変化については記載されていない。
【0006】
また、特許文献2では、破壊閾値は鍛造成形における温度と対応付けられていることが明記されているが、破壊閾値の加工中の変化についての記載はない。
【0007】
以上のように、特許文献1および2では、塑性加工中の破壊閾値の変化については、記載されていなかった。つまり、特許文献1および2では、塑性加工のおける破壊の条件や状況の推移は把握されていなかった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、塑性加工を行う場合における、割れなどの破壊の条件や状況を考慮して、その発生位置を予測することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。
【0010】
塑性加工における破壊の発生位置を予測する塑性加工における破壊予測方法であって、前記塑性加工の対象である被加工材の固有破壊閾値を特定し、当該固有破壊閾値と前記塑性加工の際の破壊要因の対応関係を示す固有破壊閾値-破壊要因対応関係を特定し、前記塑性加工の工程を複数の区分に分割し、前記複数の区分それぞれにおける、前記塑性加工により発生する前記被加工材に対する状態を示す状態情報を用いて、区分破壊値を算出し、前記固有破壊閾値-破壊要因対応関係を用いて、前記複数の区分それぞれにおける、前記被加工材の区分破壊閾値を算出し、前記区分破壊値および前記区分破壊閾値を用いて、前記工程における各区分の破壊効果を積算して、積算破壊効果を算出し、算出された前記積算破壊効果を用いて、前記被加工材に破壊が発生するかを判断する塑性加工における破壊予測方法である。
【0011】
また、本発明には、塑性加工における破壊予測方法を実行するためのコンピュータプログラムやそのための装置が含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塑性加工におけるより精度の高い欠陥予測を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態における割れ予測方法の全体処理を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態における予測モデルの概要を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態を適用可能な供試材の公称合金成分を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態を適用した場合における高温引張試験で得られた破断伸びと破断絞りを示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態を適用した塑性加工シミュレーションの解析結果を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態を適用した塑性加工シミュレーションによって得られた結果をまとめた図である。
【
図7】本発明の一実施形態の鍛造割れ予測装置の構成を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態で用いられる被鍛造材特性情報を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態で用いられる鍛造条件情報を示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態における鍛造割れの判定ステップの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。本実施態では、塑性加工の欠陥として、鍛造割れを例に説明するが、本発明は、この実施形態に限られるものではない。このため、本実施形態の被鍛造材についても、各種被加工材ないし素材を用いることができる。
<システム構成>
まず、
図7に、本実施形態での鍛造割れを予測する鍛造割れ予測装置100の構成を示す。鍛造割れ予測装置100は、いわゆるコンピュータで実現できる。このため、鍛造割れ予測装置100は、CPUの如き演算装置で実現できる処理部1100を有する。処理部1100は、メモリ1200に格納された鍛造加工シミュレーションプログラム1210に従って、各種演算を実行する。この内容は、後述する。また、鍛造加工シミュレーションプログラム1210は、図示しないネットワークを介して配信されたり、これを格納した記憶媒体を介して鍛造割れ予測装置100に格納することが可能である。
【0015】
また、鍛造割れ予測装置100は、利用者へ情報を提供する出力部1300を有する。これは、表示モニタなどで実現できる。さらに、鍛造割れ予測装置100は、利用者からの操作を受け付ける入力部1400を有する。これは、キーボードやマウス等のポインティングデバイスなどで実現できる。ここで、出力部1300や入力部1400は、鍛造割れ予測装置100と別筐体の端末装置で実現してもよい。この場合、端末装置は、PCの他、タブレットやスマートフォンなどで実現できる。
【0016】
さらに、鍛造割れ予測装置100は、各種情報を記憶する記憶装置を備える。記憶装置には、被鍛造材特性情報1001、鍛造条件情報1002やシミュレーション結果情報1003が記憶されている。これらの内容は、後述する。なお、記憶装置については、鍛造割れ予測装置100と別筐体のファイルシステムなどで実現してもよい。
<割れ予測方法>
図1は、本実施形態の鍛造割れ予測方法の全体の流れを示すフローチャートである。以下、
図1に従って、鍛造割れ予測方法について説明する。なお、この際、各処理の主体を処理部1100として記載するが、これは、上述のように鍛造加工シミュレーションプログラム1210に従った処理となる。
【0017】
まず、
図1のフローチャート全体の概要を説明し、次に、各ステップの詳細を説明する。ステップS1において、処理部1100は、鍛造加工の対象とする材料の一例である被鍛造材の被鍛造材特性を求める。このために、本実施形態では、被鍛造材の試験片に対して、破壊試験を実行している。
【0018】
次に、ステップS2において、処理部1100は、対象とする被鍛造材について、破壊閾値C0を求める。
【0019】
次に、ステップS3において、処理部1100は、所定の加工方法を再現する塑性加工シミュレーションを実施する。そして、処理部1100は、被鍛造材に対する割れの発生の有無を判定する。この判定のために、処理部1100は、時間t(i)に対応する区分における区分破壊閾値C0(i)として取得し、割れ予測モデルを用いて割れの発生を判定する。
【0020】
次に、ステップS4において処理部1100は、加工中の温度Tと脆化温度(TC)を比較して低温での脆化に起因している割れが発生する部位を特定する。
【0021】
そして、ステップS5において、処理部1100は、ステップS4で特定された割れを抑制できる加工温度を特定する。つまり、処理部1100は、どの程度、加工温度を上昇させれば、割れを抑止できるかを判断する。
<<S1:被鍛造材特性の特定>>
まず、本ステップを実行する際もしくはこれ以前に、図示しない試験装置を用いて、被鍛造材の試験片に対して、破壊試験を実行する。具体的には、試験装置は、試験片に対して、予め設定された複数の温度それぞれに保持した状態で変形を付与し、評価基準とする被鍛造材特性を求める。本実施形態では、試験装置は、高温引張試験を行って得られる、破断伸び、あるいは破断絞りを用いる。但し、目的に応じて任意の被鍛造材特性、例えば破壊靭性値、衝撃値等を用いても良い。ここで、被鍛造材特性が大きく変化する、例えば延性が急激に低下する温度を、脆化温度(TC)と定義する。なお、延性が急激に低下する温度とは、予め定められた基準以上に低下する温度を示す。なお、この破壊試験に際しては、実際の熱間加工工程で想定される温度変化を事前に鍛造シミュレーション等で求め、それを模擬した温度履歴を与えてから破壊試験を行うことも可能である。また、この破壊試験である高温引張試験により、破断伸びも特定される。
【0022】
この破壊試験の結果、つまり、脆化温度(TC)および破断伸びについては、鍛造割れ予測装置100の入力部1400を介して、記憶装置の被鍛造材特性情報に、その被鍛造材と対応付けて記憶される。この被鍛造材特性情報1001を
図8に示す。
図8に示すように、被鍛造材特性情報1001は、被鍛造材ごとに、脆化脆化温度(TC)および破断伸びが対応付けられて記憶されている。さらに、被鍛造材特性情報1001には、被鍛造材ごとに、その形状、金型形状、その応力ひずみ曲線や熱物性が記憶されている。
【0023】
以上の破壊試験を実行すると、ステップS1において、処理部1100は、被鍛造材特性として、入力部1400を介して指定される被鍛造材に対応する脆化温度(TC)を、被鍛造材特性情報1001から特定する。
<<S2:固有破壊閾値と加工温度の固有破壊閾値-加工温度対応関係の特定>>
ステップS2では、処理部1100は、破壊試験である高温引張試験を行って得られた対象となる被鍛造材の破断伸びを、被鍛造材特性情報1001から特定する。次に、処理部1100は、この破断伸びを用いて、当該被鍛造材の固有破壊閾値C0を計算する。そして、処理部1100は、固有破壊閾値C0と加工温度の対応関係を示す破壊閾値-加工温度対応関係を求める。
【0024】
具体的には、以下の処理を実行する。まず、処理部1100は、高温引張試験と同じ条件で有限要素法により試験片の変形解析を行う。そして、処理部1100は、変形解析による伸びが破壊試験での試験片の破断伸びと同じ値になった場合の破壊、つまり、割れた部位における最大主応力σ_max_f、ミーゼスの相当応力σ_eff_f、および相当塑性ひずみεfの履歴を特定する。処理部1100は、これらを用いて、固有破壊閾値C0を算出する。このために、処理部1100は、(数1)に示す一般化されたCockroft&Lathamの式を用いる。なお、同じ値とは、その差が一定範囲内である場合を含む。
【0025】
そして、処理部1100は、破壊試験での試験片で破断伸びを発生した際の加工温度を特定する。このことで、処理部1100は、固有破壊閾値C0と加工温度の関係である固有破壊閾値-加工温度対応関係を特定する。なお、本実施形態では、破壊要因として、加工温度を用いるため、状態―加工温度対応関係を用いる。但し、破壊要因には、加工温度以外のひずみ速度などを用いることが可能である。このため、固有破壊閾値-破壊要因対応関係を用いることも可能である。
【0026】
【0027】
本実施形態では、対応関係として、Cockroft&Lathamの式を用いるが、一般的に提唱されている別の破壊条件式、例えば大矢根の式で求めても良い。この大矢根の式の利用の詳細については、後述する。
<<S3:鍛造割れ判定>>
ステップS3では、処理部1100は、以下に述べるように割れ予測モデルにより鍛造割れの発生を判定する。ここで、ステップS2での固有破壊閾値-加工温度対応関係を求める手法は、試験片を等温に保持した高温引張試験を元にしたものである。一方、通常の鍛造加工を含む塑性加工では、素材(被鍛造材)と治具との間に生じる熱伝達や、素材内部から生じる加工発熱によって、素材(表面や内部)の温度が時間変化する。よって、本ステップS3では、温度の時間変化を伴う塑性加工プロセスに、試験片を等温に保持した引張試験から導出した温度と固有破壊閾値C0の関係を適用する。このため、例えば、鍛造割れ判定のステップS3を、
図10に示すフローチャートに従った予測モデルにより実行する。
【0028】
まず、ステップS3001において、処理部1100は、被鍛造材の鍛造前の形状と、金型形状を、被鍛造材特性情報1001から読み込む。
【0029】
次に、ステップS3002において、処理部1100は、被鍛造材の応力ひずみ曲線と熱物性を、被鍛造材特性情報1001から読み込む。なお、前記熱物性として、被鍛造材の密度、熱伝導率、放射率など用いることができる。
【0030】
次に、ステップS3003において、処理部1100は、ステップS2で求めた固有破壊閾値-加工温度対応関係を読み込む。なお、この対応関係は、処理部1100により、メモリ1200に格納されているものとする。
【0031】
次に、ステップS3004において、処理部1100は、鍛造条件情報1002から当該被鍛造材の鍛造条件を読み込む。この鍛造条件情報を、
図9に示す。
図9に示すように、鍛造条件には、被鍛造材の加熱温度、被鍛造材を加熱炉から取り出してから鍛造プレスに設置するまでの時間、鍛造時の圧下速度、圧下量などを用いることができる。なお、本実施形態では、鍛造条件として、これらのうち、少なくとの1つを用いることが可能である。
【0032】
次に、ステップS3005において、処理部1100は、ステップS3001にて読み込んだ被鍛造材の形状と金型形状を、それぞれ有限要素法の各要素に分割する。
【0033】
次に、ステップS3006において、処理部1100は、鍛造加工時間を複数の区分に分割する。例えば、鍛造加工時間を10秒として、100区分に分割すると、区分iが示す時間(区間)は、t=0.1x i以上、0.1 x (i+1)である。
【0034】
次に、ステップS3007において、処理部1100は、ステップS3001~S3005で読み込んだ各情報に基づいて、有限要素法によって最大主応力σ_max、ミーゼスの相当応力σ_eff、および相当塑性ひずみεを計算する。そして、処理部1100は、これら結果である状態情報を記憶装置もしくはメモリ1200に記憶する。
【0035】
次に、ステップS3008において、処理部1100は、ステップS3006で分割された各区分i(iは0≦i≦n-1の正の整数、nはシミュレーションの最終ステップ番号)における被鍛造材の温度T(i)を算出する。このために、
図2(a)に示すような加工時間-温度対応関係を用いる。ここで、本実施形態では、加工時間t(i)とt(i+1)(iは0≦i≦n-1の正の整数)の間の被鍛造材の温度は、T(i)一定であると近似する。また、t(i)に対する温度T(i)の変化は、必ずしも単調減少または単調増加である必要はない。つまり、被鍛造材と治具との間に生じる熱伝達や、被鍛造材内部から生じる加工発熱によって、任意に増減してよい。なお、加工時間-温度対応関係は、上述した破壊試験の結果を用いることが可能である。
【0036】
次に、ステップS3009において、処理部1100は、ステップS3007にて計算した状態情報を用いて、ステップS3006で分割された指定した各区分iにおける区分破壊値C1(i)を算出する。
【0037】
つまり、処理部1100は、状態情報である最大主応力σ_max(i)、ミーゼスの相当応力σ_eff(i)、および相当塑性ひずみε(i)を、以下の(数2)に適用する。この結果、算出される破壊値区分C1(i)を、グラフ化した例を
図2(b)に示す。なお、この区分破壊値C1は、一般化されたCockroft&Lathamの式の被積分関数で求められる。なお、この区分破壊値C1は、有限要素法における要素ごとに算出してもよい。さらに、試験片が破壊されたタイミングに対応する区分までの各区分について、区分破壊値C1を求めてもよい。
【0038】
【0039】
次に、ステップS3010において、処理部1100は、ステップS3003で読み込んだ固有破壊閾値-温度対応関係を用いて、各区分の区分破壊閾値C0(i)を算出する。つまり、ステップS3006で分割された各ステップiについて、
図2(c)に示すような温度T(i)と破壊閾値C0(i)の関係を特定する。なお、温度T(i)に対応する破壊閾値C0がステップS3003で読み込まれていない場合、処理部1100は、ステップS3003で読み込まれた固有破壊閾値C0の値から補間または補外によって区分破壊閾値C0(i)を求める。
【0040】
次に、ステップS3011において、処理部1100は、加工時間t(i)とt(i+1)の間の区分で蓄積される割れの効果である破壊効果ΔD(i)を、以下の(数3)を用いて計算する。そして、処理部1100は、時間t(0)からt(i)の間に蓄積される割れの効果の総和である積算破壊効果D(i)を、以下の(数4)で計算する。
【0041】
【0042】
【0043】
この(数3)(数4)の計算結果に対応する、
図2(d)に、
図2(a)(b)(c)から求めた時間t(i)とD(i)の関係を示す。この
図2(d)では、
図2(c)でC1(3)<0よりΔD(3)=0となっているため、D(2)=D(3)である。このため、処理部1100は、D(i)が1を超えた時点で、割れが発生すると判定する。
図2(d)では、時間t(s0)に対応する区分で鍛造割れが発生すると判定される。
【0044】
なお、ステップS3008~S3011の処理は、以下のとおり実行してもよい。それは、ステップS3007において各区分に対する有限要素法による計算が終わった後、次の区分の計算を行う前に当該ステップS3007における最大主応力σ_max、ミーゼスの相当応力σ_eff、および相当塑性ひずみεを取得して実行する。また、ステップS3007の各区分の計算が全区分について完了したあとに、データベースに格納された最大主応力σ_max、ミーゼスの相当応力σ_eff、および相当塑性ひずみεを対象に処理を実行しても良い。
【0045】
以上のように、ステップS4およびステップS5を実施する前にステップS3001~3011の各ステップを実行し、ステップS3の処理を終了する。なお、処理部1100の処理により、ステップS3001~3011の各ステップの結果を、記憶装置ないしメモリ1200にデータとして保持することが望ましい。
【0046】
但し、ステップS3001~3011の各ステップ必ずしも結果はデータとして記憶していなくともよい。この場合、その都度これらの処理、つまり、シミュレーション結果を作成してもよい。
<<ステップS3のバリエーション>>
ここで、ステップS4以降の詳細を説明する前に、ステップS3の変形例、つまり、バリエーションについて、説明する。上述のステップS3では、(数2)と(数3)として、一般化されたCockroft&Lathamの式を用いた予測モデルで処理を実行している。但し、一般的に提唱されている別の破壊条件式を用いて、割れ予測を実行することも可能である。例えば、パラメータaと平均応力σ_mを用いて、(数1)を以下の(数5)に、(数3)を以下の(数6)に差し替えることによって、一般的に提唱されている破壊条件式である、大矢根の式を元にした割れ予測モデルを構築できる。よって、割れの予測モデルには、対象とする鍛造割れの現象を最も良く表現できる破壊条件式を採用すればよい。なお、(数4)は、上述のものを利用する。
【0047】
【0048】
【0049】
以上で、ステップS3の説明を終了し、以下、ステップS4以降について説明する。
<<S4:鍛造割れが発生した部位の特定および原因判断>>
次に、ステップS4では、処理部1100は、ステップS3により鍛造割れが発生したと判定された部位を特定し、鍛造割れの原因が鍛造割れかを判断する。このために、処理部1100は、被鍛造材の各部位について、加工温度Tを脆化温度TCと比較する。加工温度Tが脆化温度TCを下回ることがある場合、延性が低下した温度領域における区分破壊閾値C0(i)が延性をもつ温度領域と比較して小さいため、破壊効果ΔD(i)は大きくなる。
【0050】
したがって、加工温度Tが一度でも脆化温度TCを下回って鍛造割れが発生すると判定された場合、低温での脆化が少なくとも割れの発生に寄与する可能性が高い。一方、加工温度Tが脆化温度TCを上回っているにも関わらず、鍛造割れが判定された場合、鍛造割れの発生は低温での脆化に無関係と推測される。
【0051】
このため、処理部1100は、鍛造割れが発生したと判定された部位について、一度でも加工温度Tが脆化温度TCを下回った部位がある場合(Yes)、この部位を特定する。そして、出力部1300が、このことを出力する。また、ステップS4からステップS5へ処理が遷移する。なお、出力部1300は、鍛造割れが発生した部位と低温脆化以外での鍛造割れが発生した部位を区別して出力してもよい。このため、鍛造割れ予測装置100の利用者は、低温脆化による鍛造割れが発生する部位を確認できる。
【0052】
また、鍛造割れが発生したと判定された各部位について、加工温度Tが脆化温度TCを下回る部位がない場合(No)、出力部1300がその旨を出力し、処理を終了する。このため、鍛造割れ予測装置100の利用者は、低温脆化による鍛造割れが発生していないことを確認できる。
【0053】
なお、処理部1100は、本ステップでYes、Noのいずれと判定しても、鍛造割れの部位およびその原因を含むシミュレーション結果情報1003を、記憶装置に記憶する。
<<S5:鍛造割れを抑制できる加工温度の特定>>
そして、ステップS5において、まず、処理部1100は、低温脆化による鍛造割れが発生したと判定され部位について、加工温度Tと脆化温度TCとの温度差ΔTの最大値を特定する。温度差ΔTは加工時間tの関数として、以下の(数7)で算出される。
【0054】
【0055】
ここで、加工中の温度Tが一度でも脆化温度TCを下回ると、T-TC<0となる時刻が存在する。そこで、処理部1100は、これを用いて、ΔTの加工開始から加工終了までの最大値ΔTmaxを求める。
【0056】
また、ステップS4により、鍛造割れが発生したと判定された部位において、低温脆化を抑制するには、ΔTが最大であるΔTmaxとなる時刻ないし区分において、TをΔTmax以上増加させる必要がある。そこで、処理部1100が、鍛造割れが発生したと判断し一度でも加熱温度Tが脆化温度TCを下回った各部位について、ΔTmaxを特定する。そして、出力部1300がこの結果を表示する。このことによって、利用者に低温脆化の抑制に必要な温度の増加量を部位ごとに示すことができる。
【0057】
そして、処理部1100は、温度の増加量に基づいて、鍛造加工の加工条件の変更内容を特定する。これを受け、出力部1300が、当該変更内容を出力する。この加工条件の変更内容は、例えば被鍛造材の加熱温度の増加であっても良い。また、金型の加熱温度、あるいは圧下速度であっても良い。また、低温での脆化に起因して割れが発生した要素と接触する部分で断熱材を厚くする、金型表面をバーナーで加熱するなど、局部的に温度の低下を抑える手段であっても良い。このために、鍛造割れ予測装置100は、記憶装置に、温度の増加量と加工条件の変更内容を対応付けた情報を記憶しておき、処理部1100はこれを用いて、変更内容を特定する。
【0058】
また、処理部1100は、本ステップでの処理結果を、シミュレーション結果情報1003として、記憶装置に記憶する。
<破壊パラメータの変形例>
本実施形態では、破壊要因として、加工温度を用いた。但し、被鍛造材には、固有破壊閾値C0が例えば、ひずみ速度など別の要因に依存するものがある。この場合、処理部1100は、破壊要因として、ひずみ速度などの別の要因を用いて、上述した処理を実行する。この際、
図2(a)と
図2(d)で示される情報に関し、その縦軸を、温度から別の要因に差し替えることで、対象とする要因が固有破壊閾値C0に与える依存性を考慮した割れの予測モデルを構築することができる。
【0059】
さらに、固有破壊閾値C0がN個(Nは2以上の自然数)の複数の要因に依存する被鍛造材には、
図2(a)および
図2(b)で示される情報に関し、以下のとおり処理することで、鍛造割れの予測が可能になる。まず、
図2(a)の縦軸を、各要因の項目に差し替えたN個の時間履歴のグラフとする。また、
図2(d)をN個の要因と固有破壊閾値C0の関係を表した(N+1)次元のグラフとする。このことで、処理部1100は、各区分(i)での被鍛造材の区分破壊閾値C0(i)を決定することができる。
<被鍛造材の適用例>
本実施形態は、
図3に例示する各供試材に対して適用可能である。このうち、
熱間加工性の温度依存性が例示した供試材内では比較的大きいNi基合金について、本実施形態へ適用した例を示す。
【0060】
図3に示す公称成分のNi基合金インゴットを、真空誘導溶解、エレクトロスラグ再溶解を用いて作製した後、熱間鍛造を行って、丸棒形状の中間素材(ビレット)を得た。中間素材から引張試験片(平行部:直径8mm、長さ24mm)を採取して、高温引張試験を行ったところ、
図4に示す破断伸びと破断絞りが得られた。この試験では、製品の鍛造中に生じる温度低下を想定して、初期保持温度1050℃から、5℃/secで冷却して試験温度に到達した時点で引張荷重を付与するものとした。
図4に示すように、試験温度の低下とともに破断伸びと破断絞りが急激に低下し、脆化温度(TC)約950℃を求めることができた。
【0061】
また、
図3に示した公称成分のNi基合金インゴットの変形抵抗を考慮して、前記高温引張試験における試験片の変形解析を行った。つまり、伸びが
図4に示した値と同じ値となる場合の破断部における最大主応力σ_max_f、ミーゼスの相当応力σ_eff_f、および相当塑性ひずみεfから一般化されたCockroft&Lathamの式によって固有破壊閾値C0を求めた。次に、前記Ni基合金インゴットと同じ公称成分の被鍛造材1を1000℃に加熱した後、
図5に示す円錐台状の上金敷2上金敷2と平坦な下金敷3で圧下するプロセスの塑性加工シミュレーションによって割れの発生を判定した。
【0062】
加工終了の際における被鍛造材1の上面の中心P1、上金敷2の角部との接触点P2、被鍛造材1の外周角部P3を対象に割れの発生を判定し、加工中の温度Tを脆化温度TCと比較した結果を
図6に示す。P1およびP3では、加工終了時刻における積算破壊効果Dは1を下回る、割れは発生しない。一方、P2において、加工終了時刻において積算破壊効果Dは1を上回り、加工中の温度は脆化温度TCを下回る、低温での脆化に起因した割れが発生する。また、P2について、脆化温度との温度差の最大値ΔTmaxは300℃である。
【0063】
上記の判断を、例えばサブルーチンの実行によって被鍛造材1の各部位について実施することにより、鍛造割れの発生位置の予測と、低温での脆化に起因した割れの部位の明確化が可能となる。また、低温での脆化の抑制に必要な温度の増加量を部位ごとに示すことも可能である。
【0064】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態のある構成の一部を別の構成に置き換えることが可能である。本実施形態の構成に、他の構成を加えることも可能である。つまり、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0065】
以上の本発明の一実施形態によれば、その区分ごとの温度変化を考慮した破壊パラメータが算出されるため、被鍛造材の温度の変化が大きいプロセスであっても鍛造品の割れを正確に予測することができる。また、加工温度Tが脆化温度TCを一度でも下回る要素を抽出することにより低温での脆化に起因している割れの発生位置を特定することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 被鍛造材、2 上金敷、3 下金敷、100 鍛造割れ予測装置、1100 処理部、1200 メモリ、1210 鍛造加工シミュレーションプログラム、1300 出力部、1400 入力部、1001 被鍛造材特性情報、1002 鍛造条件情報、1003 シミュレーション結果情報