IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特許7512849透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法
<>
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図1
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図2
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図3
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図4
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図5
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図6
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図7
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図8
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図9
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図10
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図11
  • 特許-透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20240702BHJP
   G01N 1/32 20060101ALI20240702BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01N1/28 F
G01N1/28 G
G01N1/32 B
H01J37/317 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020185022
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2021089275
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019211590
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治朗
【審査官】寺田 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-214056(JP,A)
【文献】特開2005-114578(JP,A)
【文献】特開2017-187387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0319849(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28- 1/32
H01J 37/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過電子顕微鏡観察用試料であって、被観察対象である薄片化された試料面を有し、
前記試料面の両端部には柱状構造を有し、さらに、前記両柱状構造を繋ぐ橋状構造を有し、
前記試料面と前記橋状構造との間に開口を有することを特徴とする透過電子顕微鏡観察用試料。
【請求項2】
前記柱状構造と前記橋状構造とにより、前記薄片化された試料面の変形が抑止されていることを特徴とする請求項1に記載の透過電子顕微鏡観察用試料。
【請求項3】
前記薄片化された試料面の厚みが100nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の透過電子顕微鏡観察用試料。
【請求項4】
前記薄片化された試料面上に、擁護柱構造または擁護板構造を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料の製造方法であって、
一のイオンビームにより、前記橋状構造を形成する工程と、
他のイオンビームにより、前記柱状構造と前記橋状構造と、を残しながら、薄片化された試料面を形成する工程とを有し、
前記橋状構造を形成する工程において、前記試料面と前記橋状構造との間に開口を形成することを特徴とする透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項6】
請求項4に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の製造方法であって、
一のイオンビームにより、前記橋状構造を形成する工程と、
他のイオンビームにより、前記柱状構造と、前記橋状構造と、前記擁護柱構造または擁護板構造とを残しながら、薄片化された試料面を形成する工程とを有し、
前記橋状構造を形成する工程において、前記試料面と前記橋状構造との間に開口を形成することを特徴とする透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項7】
前記イオンビームがGaイオンビームであることを特徴とする請求項5または6に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:本発明において「TEM」と記載する場合がある。)にて、試料を観察する際に用いられる透過電子顕微鏡観察用試料と、当該透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業の発達により、当該分野で使用される各種の材料についてもその物性、変化の状態等について精密な情報が求められるようになった。こうした情報を得る手段としてTEMによる観察は有効な手段であると考えられている。
【0003】
TEMは薄片化前処理を施した試料に対し、超高電圧にて加速した電子線を透過させ、得られた各種信号(透過電子、散乱電子、X線等)を解析して、試料の局所領域(>サブnm)の形状観察、結晶構造解析、元素分析、化学結合状態等の解析を行う分析手法である。
【0004】
TEM観察に用いる試料は、電子線が透過する部分の厚みを予め、例えば100nm以下に薄くする、薄片化前処理を実施しておく必要がある。当該薄片化前処理の方法としては様々な手法が用いられている。
【0005】
当該薄片化前処理方法の一つとして、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:本発明において「FIB」と記載する場合がある。)加工観察装置を用いた手法がある。FIBを用いた加工においては、Ga等のイオンビームを集束して試料に照射することで、試料をスパッタリングして加工する方法であり、試料の中の狙いの領域を薄片化前処理して、薄片化された試料を形成する。
【0006】
この薄片化前処理方法における従来の技術に係る一例を、図面を参照しながら説明する。
図3は、被測定対象の試料からTEM観察を行う狙いの領域を加工片11として抜き出し、XYZ座標系に置いた模式図である。
まず加工片11のX軸に平行な長さ12を数10μm程度、加工片11のY軸に平行な長さ13を20μm程度、加工片11のZ軸に平行な厚み14を2~3μm程度に加工する。当該加工された加工片11をTEM観察用の固定台(メッシュ)に固定する。
【0007】
この加工片11が固定された固定台をFIB加工観察装置内に設置し、加工片11へイオンビームを照射し、加工片11の厚みを削減し薄片化する。そして、最終的には図4に示す、薄片化された試料21の厚み24が例えば100nm以下である試料を作製する。そして、当該薄片化された試料21をTEM観察する時は、Z軸方向からTEMの電子線を入射させ、被測定対象部分の観察等を行う(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-214056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
TEMによる観察像や分析データの品質を左右する重要な要素として、薄片化された試料21の厚み24がある。
薄片化された試料21の厚み24は100nm以下であると上述したが、この厚みが薄いほど、薄片化された試料21内での電子線の散乱の影響が小さくなり、高空間分解能のTEM観察像を得ることが出来る。さらに、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy:本発明において「EELS」と記載する場合がある。)を用いて薄片化された試料21を分析する場合は、より高い透過電子線強度を得ることが出来、感度が向上する。
【0010】
したがって、薄片化された試料21の厚み24がより薄い試料を作製する技術が必要となる。しかし、より薄く薄片化された試料21を作製する際の阻害要因として、薄片化前処理中の薄片化された試料21の変形がある。当該薄片化された試料21における変形例の模式図を図5、6に示す。図5は、薄片化された試料21がX軸方向に沿って変形した場合の模式的な斜視図であり、図6は、薄片化された試料21がY軸方向に沿って変形した場合の模式的な斜視図である。実際には、図5、6に示す変形が重畳する場合もある。
【0011】
図5、6に示す変形みは、イオンビームの照射によって発生する熱、非晶質化、帯電の影響によって生じると考えられる。そして、薄片化された試料21が変形し、X軸方向やY軸方向に対する並行性が損なわれると、それ以上イオンビームの照射によって、薄片化することが困難となる。
【0012】
上述した薄片化された試料21における変形を抑制する為、加工片11へイオンビームを照射する際、図7に示すように柱状構造32、33を形成し、薄片化された試料31とする構成が考えられる。
柱状構造32、33のZ軸に沿った部分の厚み34が大きいので、薄片化された試料31の厚み35が薄くなっても、図6に示す薄片化された試料21のように、Y軸に沿った変形を起こすことを抑止することが出来た。しかしながら薄片化された試料31であっても、図5に示す薄片化された試料21のように、X軸に沿った変形を抑止することは出来なかった。
【0013】
ここで、加工片11へイオンビームを照射する際、図8に示すように柱状構造42、43、46を残し、薄片化された試料41とする構成が考えられる。柱状構造42、43のZ軸に沿った部分の厚み44が大きいことに加え、柱状構造46が存在するので、図7に示す薄片化された試料31のようなX軸に沿った変形を抑制出来るのではないかと考えられた。
【0014】
しかしながら本発明者らの検討によると、イオンビーム加工により柱状構造46を有する薄片化された試料41を、実際に作製することは困難であることが判明した。
即ち、薄片化された試料41において柱状構造46を形成するためには、加工片11に対するイオンビームの照射を、何らかの形(パワー、照射時間等の制御)で抑制することが必要である。ところがイオンビームの照射を抑制すると、薄片化された試料41の厚み45を十分に薄くすることが困難になってしまうのである。だからと言って、当該薄片化された試料41の厚み45を十分に薄くしようとすると、柱状構造46もイオンビームの照射を受けて切削され、柱状構造を維持することが困難になる。この結果、上述した薄片化された試料31と同様に、X軸に沿った変形を抑制することが困難になってしまったのである。
【0015】
本発明は当該状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、より薄い薄片化された試料を作製しながらも、イオンビーム加工中における当該薄片化された試料の変形を抑止する手法、および、イオンビーム加工中における変形が抑止された薄片化された試料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決する為、本発明者らは研究を行った。そして、イオンビーム加工によりTEM観察用試料を作製する際、薄片化された試料面の両端面に柱状構造を残し、さらに当該両柱状構造を繋ぐ橋状構造を残すことにより、イオンビーム加工中における試料の変形を抑止する構成に想到した。
【0017】
本発明は、上述の構成により為されたものであり、その第1の発明は、
透過電子顕微鏡観察用試料であって、被観察対象である薄片化された試料面を有し、
前記試料面の両端部には柱状構造を有し、さらに、前記両柱状構造を繋ぐ橋状構造を有することを特徴とする透過電子顕微鏡観察用試料である。
第2の発明は、
前記柱状構造と前記橋状構造とにより、前記薄片化された試料面の変形が抑止されていることを特徴とする第1の発明に記載の透過電子顕微鏡観察用試料である。
第3の発明は、
前記薄片化された試料面の厚みが100nm以下であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の透過電子顕微鏡観察用試料である。
第4の発明は、
前記薄片化された試料面上に、擁護柱構造または擁護板構造を有することを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料である。
第5の発明は、
第1から第3の発明のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料の製造方法であって、
一のイオンビームにより、前記橋状構造を形成する工程と、
他のイオンビームにより、前記柱状構造と前記橋状構造とを残しながら、薄片化された試料面を形成する工程とを有することを特徴とする透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
第6の発明は、
第4の発明に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の製造方法であって、
一のイオンビームにより、前記橋状構造を形成する工程と、
他のイオンビームにより、前記柱状構造と、前記橋状構造と、前記擁護柱構造または擁護板構造とを残しながら、薄片化された試料面を形成する工程とを有することを特徴とする透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
第7の発明は、
前記イオンビームがGaイオンビームであることを特徴とする第5または第6の発明に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、透過電子顕微鏡観察用試料のイオンビーム加工中において、薄片化される試料面の変形を抑止することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料の模式的な斜視図である。
図2】本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料作製に用いる切断片の模式的な斜視図である。
図3】従来の技術に係る透過電子顕微鏡観察用試料作製に用いる切断片の模式的な視図である。
図4】従来の技術に係る透過電子顕微鏡観察用試料の模式的な斜視図である。
図5】従来の技術に係る透過電子顕微鏡観察用試料がX軸に沿って変形した際の模式的な斜視図である。
図6】従来の技術に係る透過電子顕微鏡観察用試料がY軸に沿って変形した際の模式的な斜視図である。
図7】従来の技術に係る柱状構造を有する透過電子顕微鏡観察用試料の模式的な斜視図である。
図8】従来の技術に係る異なる柱状構造を有する透過電子顕微鏡観察用試料の模式的な斜視図である。
図9】本発明に係るFIB装置の構成例である。
図10】本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料の作製工程例である。
図11】本発明の異なる実施の形態に係る透過電子顕微鏡観察用試料の模式的な斜視図である。
図12】本発明の異なる実施の形態に係る透過電子顕微鏡観察用試料の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料101の模式的な斜視図である。そして説明の便宜の為、本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料101の各頂点へa~zの符号を付与した。そして、透過電子顕微鏡観察用試料101の辺ghにおいて、最もuに近い部分へ符号αを、最もvに近い部分へ符号βを付与した。
本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料とその作製方法について図面を参照しながら、1.本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料の構造の説明、2.本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法、の順に説明する。
【0021】
1.本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料の構造の説明
当該本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料101は、図2に示す四角錘台に切出された加工片111へ、後述する加工を施して作成されたものである(本発明において、当該四角錘台における比較して小さな面積を有する側の四角平面を「小平面」、比較して大きな面積を有する側の四角平面を「大平面」と記載する場合がある。)。
図2に示すように、加工片111は、符号a、b、c、dで示される小平面と、符号e、f、g、hで示される大平面とを有する四角錘台である。
【0022】
尚、本発明を実施するための形態欄においては、加工片111として、後述する橋状構造を形成する観点から便宜な四角錘台を用いた場合を例として説明する。しかしながら、加工片111の形状は四角錘台に限定されることはなく、加工片111の形状が四角錘台以外の形状であっても本発明を実施することは可能であり、後述の構成を実施するものは本発明の範囲である。
【0023】
図1に示す、本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料101において、ijkl-mnopの部分は薄片化された試料面(本発明において「薄片部」と記載する場合がある。)である。
awsd-ezβhの部分、および、xbct-yfgαの部分はそれぞれ柱状構造である。そしてqruv-qrαβの部分は、前述した2本の柱状構造を繋ぐ橋状構造である。
【0024】
また、当該薄片部に向かって右側のijtrqs-lkuvの部分は、透過電子顕微鏡観察用試料101において切削されて抉られた部分であって、lkuvの部分は下方に向かって開口している。また、当該薄片部に向かって左側のwxmn-zyopの部分も、透過電子顕微鏡観察用試料101において切削されて抉られた部分である。
【0025】
上述した、awsd-ezβhの部分、および、xbct-yfgαの部分からなる2本の柱状構造は、加工片111の抉り残された部分であって、上述した薄片部のY軸に沿った変形の発生を抑止する効果を発揮しているものである。
そして、上述した2本の柱状構造を繋ぎ、当該2本の柱状構造を互いに固定しているqruv-qrαβの部分である当該橋状構造は、2本の柱状構造を互いに固定することにより、上述した薄片部のX軸に沿った変形の発生を抑止する効果を発揮しているものである。
【0026】
薄片部は、TEM観察に適した厚みになる迄、切削され十分に薄片化(例えば、厚み100nm以下)された部分である。そして、本発明に係る薄片部は上述した構成により、X軸やY軸に沿った変形の発生が抑止されたものである。
【0027】
しかしながら、透過電子顕微鏡観察用試料を構成する材料の種類によっては、上述した2本の柱状構造と、それらを繋ぐ橋状構造とをもってしても、薄片化された際に変形を発生するものがある。そのような場合は2本の柱状構造の間隔を狭め、薄片部におけるnokj-mpliの間隔を狭めて変形の発生を抑止することが出来る。しかし、これでは、1個の透過電子顕微鏡観察用試料101において、観察出来る面積も狭まってしまうこととなる。
【0028】
そこで、薄片化された際に変形を発生する材料である場合の透過電子顕微鏡観察用試料101において、観察出来る面積を広く保ったまま変形の発生を抑止する方法を、図11、12を参照しながら説明する。
図11は、本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料101の模式的な斜視図である図1において、薄片部のijklへ、さらに擁護柱構造イロハニ-ホヘトチを設けた場合の斜視図である。
【0029】
当該擁護柱構造イロハニ-ホヘトチは、後述する「透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法」において、イオンビームを照射して加工片111を切削加工する際、当該擁護柱構造部分を切削し残すことにより作製する。
この結果、薄片部の上面ijnmと、擁護柱構造部分の上面イロハニとは同一の平面になり、薄片部の下面lkopと、擁護柱構造部分の上面ホヘトチとは同一の平面になる。そして、上述したawsd-ezβhの部分、および、xbct-yfgαの部分からなる2本の柱状構造と並立した擁護柱構造となる。
【0030】
当該擁護柱構造イロハニ-ホヘトチの横幅イロ(ホヘ)が、薄片部の横幅ij(lk)に占める割合は10%以上20%以下であることが好ましい。当該割合が10%以上であれば、透過電子顕微鏡観察用試料を構成する材料が変形し易いものであっても、当該柱状構造が薄片部における変形の発生を抑止することが出来る。しかし、当該薄片部において擁護柱構造設けられた部分は、透過電子顕微鏡観察が出来なくなるので、当該観点からはこの割合は小さい方が好ましい。結局、当該割合が薄片部の横幅に占める割合は20%以下であることが好ましい。
【0031】
一方、当該擁護柱構造イロハニ-ホヘトチの縦幅イニ(ロハ、ホチ、ヘト)は、薄片部の縦幅mi(nj、pl、ok)と合計して300nmあることが好ましい。当該擁護柱構造と薄片部との縦幅の合計が300nm以上あることで、透過電子顕微鏡観察用試料を構成する材料が変形し易いものであっても、当該擁護柱構造が薄片部における変形の発生を抑止することが出来る。
【0032】
ここで、当該擁護柱構造イロハニ-ホヘトチの縦幅イニ(ロハ、ホチ、ヘト)をさらに延長して、上述した橋状構造であるqruv-qrαβの部分と一体化し、擁護板構造としても良い。この状態を図12に示す。図12は、本発明の異なる実施の形態に係る透過電子顕微鏡観察用試料101の模式的な斜視図であって、擁護板構造イニヲヌホ-ロハルリヘが、薄片部のijklからqruv-qrαβの部分に渡って設けられた場合の斜視図である。当該擁護板構造が薄片部における変形の発生を抑止することが出来、機械的にも強固な構造である。
【0033】
上述した擁護柱構造や擁護板構造は、薄片部の中央部分に設けられている(ijの中点とイロの中点とが一致している、lkの中点とホヘの中点とが一致している。)ことが、薄片部の変形防止の観点からは好ましい。
一方、上述した擁護柱構造や擁護板構造が設けられた部分の薄片部は、透過電子顕微鏡観察が出来なくなるというデメリットがある。しかし、それ以外の大部分の薄片部は透過電子顕微鏡観察が出来るので、大方の場合、当該デメリットは限定的である。しかし、特に観察したい部分が薄片部の中央部に存在し、擁護柱構造や擁護板構造に掛かってしまう場合は、擁護柱構造や擁護板構造の設置位置を、薄片部の中央部分からずらす等、の操作により対応することが出来る。
【0034】
2.本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法
当該本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料101は、図2に示す四角錘台に切出された加工片111をFIB装置内に設置し、イオンビームを照射して加工片111を切削することによって作製されたものである。
【0035】
一のイオンビームを、図1に示すijtrqsで示される部分へ向けて照射を開始し、当該イオンビームがlkuvで示される部分へ抜けるように照射を行う。当該イオンビームの照射によりijtrqs-lkuvで示される部分が切削されて抉られることで、薄片部の一部であるijkl、および、橋状構造が形成される。
【0036】
他のイオンビームを、図1に示すwxmnで示される部分へ向けて照射を開始し、当該イオンビームがzyopで示される部分へ抜けるように照射を行う。当該イオンビームの照射によりwxmn-zyopで示される部分が切削されて抉られることで、薄片部の一部であるmnop、柱状構造の一部が形成される。
さらに、薄片化される試料面上に、擁護柱構造イロハニ-ホヘトチ、または、擁護板構造イニヲヌホ-ロハルリヘを設ける場合は、当該構造部分を残すようにイオンビームの照射を制御し、擁護柱構造または擁護板構造が残るように切削する。
【0037】
この結果、薄片部の右側および左側にある抉られた部分には、上述した一および他のイオンビームが通過し、薄片部の薄片化が進められる。このとき、薄片部の向かって右側にある橋状構造は、イオンビームに曝されること無く存続し、上述した2本の柱状構造を互いに固定し続ける。
この結果、イオンビームにより薄片部の薄片化が進められている間、薄片部のX軸およびY軸に沿った変形の発生は抑止され続けることとなる。
さらに、薄片化される試料面上に、擁護柱構造または擁護板構造が設けられた場合は、これらの構造も薄片部の変形を効果的に抑制する。
【0038】
尚、薄片部の左側にも橋状構造を設け、左右両側の2本の橋状構造により2本の柱状構造を繋ぐ構成としても良く、さらに薄片部の左側にも擁護柱構造または擁護板構造を設けても良い。尤も、作業工程の簡素化の観点からは、左右どちらかの橋状構造により2本の柱状構造を繋げたり、左右どちらかに擁護柱構造または擁護板構造を設ければ、本発明の効果を得ることが出来る。
【0039】
上述した一および他のイオンビームによる切削によって、薄片部の厚み(im-jn-lp-ko)が所望の厚みになったら、イオンビームの照射を完了し、加工が完了した透過電子顕微鏡観察用試料101をFIB装置から取り出す。そして、加工が完了した透過電子顕微鏡観察用試料101をTEMに装填し、薄片部に電子線を照射して、所定の観察、測定を実施する。
【実施例
【0040】
FIB装置として、日本エフイー・アイ株式会社製 Sciosを準備した。
FIB装置の設定条件は、加速電圧:30kV、仕上げ加工電流値:30pA、作動距離(WD):19mmとした。
被加工試料としてSiウェハーを準備し、当該SiウェハーからFIB装置を用いて四角錘台形状の加工片を作製した。
【0041】
(実施例1)
作製された角錘台形状の加工片から、実施例1に係る透過電子顕微鏡観察用試料を作製する工程について、図9図10を参照しながら説明する。
図9は、FIB装置内における、加工片に対するSEM装置のコイル位置、SIM装置のコイル位置、Gaイオンビーム照射位置の模式図を示す。
図10は、FIB装置を用いた本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料の作製工程の例におけるSEM像(上段)、当該SEM像に係る試料のA矢視によるBB断面図の模式図(中段)、および、SIM像である。尚、SEM観察条件は、加速電圧:5kV、電流値:0.1nA、作動距離(WD):7mmとした。
【0042】
(1)FIB装置内への加工片設置
図9に模式的に示すように、SEM観察可能なFIB装置内に、固定台へ接着された加工片を設置する。
このとき、SEM像観察は、図2にて説明した加工片111のcghdの面に相対して実施し(図10におけるSEM像欄に当該SEM像を示す。)、SIM像観察はabcdの面に相対して実施した(図10におけるSIM像欄に当該SIM像を示す。)。
尚、図9においてSEM WDとは、Working Distance:対物レンズ中心から試料面までの距離のことである。
【0043】
(2)イオンビーム照射(柱状構造、橋状構造形成)
図10(2)イオンビーム照射:断面模式図に示すように、加工片の斜め上方から一のイオンビームを照射した。このとき加工片に、薄片部および柱状構造の一部、および、橋状構造が形成される(残される)ようにイオンビームの動きを制御しながら加工片を切削した。
図10(2)イオンビーム照射:SEM像・SIM像より、イオンビーム照射完了時、加工片に、薄片部および柱状構造の一部、および、橋状構造が形成されている(残されている)ことが観察出来た。
【0044】
(3)イオンビーム照射(薄膜化)
図10(3)イオンビーム照射:断面模式図に示すように、加工片の上方から他のイオンビームも照射した。このとき加工片に、薄片部および柱状構造の一部が形成される(残される)ようにイオンビームの動きを制御しながら加工片を掘削した。
そして、一のイオンビームおよび他のイオンビームにより、薄片部が所望の厚みになる迄、薄片化を進行した。このとき、薄片部が柱状構造および橋状構造によって機械的に支えられており、イオンビーム照射による加熱にも拘らず変形することが抑止されていることが、図10(3)イオンビーム照射:SEM像・SIM像より観察出来た。
【0045】
(4)透過電子顕微鏡観察用試料
薄片部が所望の厚みとなったので、一のイオンビームおよび他のイオンビームの照射を完了した。当該イオンビーム照射完了時において、図10(4)透過電子顕微鏡観察用試料:断面模式図に示すように、加工片の薄片部は透過電子顕微鏡観察用試料として十分に薄膜化(例えば、100nm程度)され、本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料を得ることが出来た。
このとき、本発明に係る透過電子顕微鏡観察用試料において、図10(4)透過電子顕微鏡観察用試料:SEM像・SIM像より、透過電子顕微鏡観察用試料として十分に薄膜化された薄片部は、柱状構造および橋状構造によって機械的に支えられ、変形の発生が抑止されていることが観察出来た。
【符号の説明】
【0046】
11:加工片
12:加工片11のX軸に平行な長さ
13:加工片11のY軸に平行な長さ
14:加工片11のZ軸に平行な厚み
21:薄片化された試料
24:薄片化された試料21の厚み
31:薄片化された試料
32:柱状構造
33:柱状構造
34:柱状構造32、33のZ軸に沿った部分の厚み
35:薄片化された試料31の厚み
41:薄片化された試料
42:柱状構造
43:柱状構造
44:柱状構造42、43のZ軸に沿った部分の厚み
45:薄片化された試料41の厚み
46:柱状構造
101:透過電子顕微鏡観察用試料
111:加工片
a~z、イ~ヲ:透過電子顕微鏡観察用試料101の各頂点
α:透過電子顕微鏡観察用試料101の辺ghにおいて、最もuに近い部分
β:透過電子顕微鏡観察用試料101の辺ghにおいて、最もvに近い部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12