(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ポリペプチドの分離方法、ポリペプチドの製造方法及びポリペプチドの精製装置
(51)【国際特許分類】
C07K 1/22 20060101AFI20240702BHJP
C07K 1/34 20060101ALI20240702BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20240702BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20240702BHJP
B01D 15/08 20060101ALI20240702BHJP
B01D 15/36 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C07K1/22
C07K1/34
C07K1/18
B01D61/14 500
B01D15/08
B01D15/36
(21)【出願番号】P 2020527657
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2019025701
(87)【国際公開番号】W WO2020004583
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018123981
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 晋也
(72)【発明者】
【氏名】竹原 潤
(72)【発明者】
【氏名】倉本 亮子
(72)【発明者】
【氏名】小原 祥平
(72)【発明者】
【氏名】田代 佳也
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-067108(JP,A)
【文献】特開2017-018095(JP,A)
【文献】特表2001-526960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/22
C07K 1/34
C07K 1/18
C12M 1/00
B01D 61/14
B01D 15/08
B01D 15/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程A及び工程Bを含み、ポリペプチドがモノクローナル抗体であ
り、リガンドがプロテインAである、ポリペプチドの分離方法。
工程A:液体中でポリペプチドとリガンドとを混合して、ポリペプチドとリガンドとの複合体を形成し、前記複合体を含む液体を得る工程であって、
前記リガンド1molに対して前記ポリペプチドを1.8mol以上混合し、
前記複合体が、前記リガンド1分子に対して前記ポリペプチド2分子以上が複合化したものを70%以上含み、前記リガンド1分子に対して前記ポリペプチド1分子が複合化したものを30%以下含む、工程。
工程B:前記工程Aで得た前記複合体を含む液体を濾過する工程。
【請求項2】
前記工程Aにおいて、前記リガンド1molに対して前記ポリペプチドを2.1mol以上混合する、請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
前記工程Bの濾過に用いる膜の分画分子量が10,000~250,000である、請求項1
又は2に記載の分離方法。
【請求項4】
更に、以下の工程Cを含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の分離方法。
工程C:前記工程Bで分離された複合体をポリペプチドとリガンドとにさらに分離する工程。
【請求項5】
前記工程Cにおいて、前記分離された複合体をポリペプチドとリガンドとに解離させた後に、濾過又は液体クロマトグラフィーによりさらに分離する、請求項
4に記載の分離方法。
【請求項6】
前記工程Cにおけるさらなる分離を、イオン交換クロマトグラフィーにより行う、請求項
4又は
5に記載の分離方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の分離方法を用いた精製工程を含む、ポリペプチドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリペプチドの分離方法、ポリペプチドの製造方法及びポリペプチドの精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生理活性物質、特に、タンパク質、ペプチド、核酸等の生体由来物質に基づく生物医薬品の製造には、実プロセススケールでこれらの分子を製造し、精製することが必要とされる。特に、生理活性物質の代表例であるモノクローナル抗体(mAb)の需要の高まりは、高い発現レベルを伴う細胞培養技術の開発を促進し、結果として細胞培養液からのモノクローナル抗体のより効率的な精製プロセスについての需要が高まっている。
【0003】
このような培養液からのモノクローナル抗体の精製方法として、例えば、特許文献1には、アフィニティ分離剤を用いる方法が開示されている。また、特許文献2には、濾過膜を用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/199196号
【文献】日本国特開2009-221137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される精製方法は、ポリペプチドのアフィニティ分離剤への吸着量に限界があり、精製したポリペプチドの生産性に劣るという課題を有する。また、アフィニティ分離剤自体の生産性が高くなく、担体の製造及び固定化にエネルギーを要し、固定化したリガンドの離脱等を抑制するために厳しい条件でアフィニティ分離剤を保存しなければならず、アフィニティ分離剤そのものにも多くの課題を有する。
【0006】
また、特許文献2に開示される精製方法は、単純な濾過であるため、精製したいポリペプチドと分子量が近い不純物がそのまま残存するという課題を有する。また、そのような不純物を残存させないようにするためには、厳しい濾過の条件設定が必要となるという課題を有する。
【0007】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、工業化スケールにおいても適用可能な高効率のポリペプチドの分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従前、培養液からポリペプチドを高効率に得る方法として、アフィニティ分離剤を用いる方法や濾過膜を用いる方法等、種々検討されてきたが、更なる高効率のポリペプチドの分離方法が要求されている。本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、工業化スケールにおいても適用可能な高効率のポリペプチドの分離方法を見出した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]以下の工程A及び工程Bを含み、ポリペプチドがモノクローナル抗体である、ポリペプチドの分離方法。
工程A:液体中でポリペプチドとリガンドとを混合して、ポリペプチドとリガンドとの複合体を形成し、前記複合体を含む液体を得る工程。
工程B:前記工程Aで得た前記複合体を含む液体を濾過する工程。
[2]前記複合体が、前記リガンド1分子に対して前記ポリペプチド2分子以上が複合化したものである、前記[1]に記載の分離方法。
[3]前記工程Aにおいて、前記リガンド1molに対して前記ポリペプチドを2.1mol以上混合する、前記[1]又は[2]に記載の分離方法。
[4]前記リガンドがプロテインAである、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の分離方法。
[5]前記工程Bの濾過に用いる膜の分画分子量が10,000~250,000である、前記[1]~[4]のいずれか1に記載の分離方法。
[6]更に、以下の工程Cを含む、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の分離方法。
工程C:前記工程Bで分離された複合体をポリペプチドとリガンドとにさらに分離する工程。
[7]前記工程Cにおいて、前記分離された複合体をポリペプチドとリガンドとに解離させた後に、濾過又は液体クロマトグラフィーによりさらに分離する、前記[6]に記載の分離方法。
[8]前記工程Cにおけるさらなる分離を、イオン交換クロマトグラフィーにより行う、前記[6]又は[7]に記載の分離方法。
[9]前記[1]~[8]のいずれか1に記載の分離方法を用いた精製工程を含む、ポリペプチドの製造方法。
[10]被精製物の供給タンク、希釈液の供給タンク、濾過器及び検出器を含む、ポリペプチドの精製装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリペプチドの分離方法は、濾過の条件を緩和することができ、工業化スケールにおいても適用可能で、ポリペプチドの生産性に優れる。
また、本発明のポリペプチドの製造方法は、濾過の条件を緩和することができ、工業化スケールにおいても適用可能で、ポリペプチドの生産性に優れる。
更に、本発明のポリペプチドの精製装置は、工業化スケールにおいても適用可能な高効率のポリペプチドの分離や製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係るポリペプチドの精製装置の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】
図2は、参考例1~9で得られた各液体のクロマトグラムである。
【
図3】
図3は、実施例1で得られた各液体のクロマトグラムである。
【
図4】
図4は、比較例1で得られた各液体のクロマトグラムである。
【
図5】
図5は、実施例2で得られた各液体のクロマトグラムである。
【
図6】
図6は、比較例2で得られた各液体のクロマトグラムである。
【
図7】
図7は、実施例3で得られた各液体のクロマトグラムである。
【
図8】
図8は、実施例4で得られた各液体のクロマトグラムである。
【
図9】
図9は、参考例10及び比較対象として得られた各液体のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」、「メタクリル」又はその両者をいい、「(メタ)アクリロニトリル」とは、「アクリロニトリル」、「メタクリロニトリル」又はその両者をいう。
【0013】
(ポリペプチドの分離方法)
本発明に係るポリペプチドの分離方法は、ポリペプチドがモノクローナル抗体であり、以下の工程A及び工程Bを含む。
工程A:液体中でポリペプチドとリガンドとを混合して、ポリペプチドとリガンドとの複合体を形成し、前記複合体を含む液体を得る工程。
工程B:前記工程Aで得た前記複合体を含む液体を濾過する工程。
【0014】
また、本発明に係るポリペプチドの分離方法は、以下の工程Cをさらに含むことが好ましい。
工程C:前記工程Bで分離された複合体をポリペプチドとリガンドとにさらに分離する工程。
【0015】
(工程A)
工程Aは、液体中でポリペプチドとリガンドとを混合して、ポリペプチドとリガンドとの複合体を形成し、前記複合体を含む液体を得る工程である。
工程Aを有することで、不純物より遥かに大きい、ポリペプチドとリガントとの複合体(以下、単に「複合体」と称することがある。)を形成することができる。この複合体を形成することで、不純物とのサイズ差が大きくなり、後述する工程Bにおける濾過の条件を緩和することができ、好ましい。
【0016】
モノクローナル抗体は、ポリペプチドの中でも分子量やサイズの分布が小さい。そこで、モノクローナル抗体と不純物とのサイズ差があれば、モノクローナル抗体と不純物とを濾過により分離することが可能となる。したがって、本発明に係る分離方法は、ポリペプチドがモノクローナル抗体である場合に極めて有効なものである。
【0017】
複合体を含む液体を得るに際し、ポリペプチドやリガンドの性状は特に限定されず、固体でも液体でもよい。液体中でポリペプチドとリガンドとを混合する方法としては、例えば、ポリペプチドを含む液体にリガンドを添加して混合する方法、リガンドを含む液体にポリペプチドを添加して混合する方法、ポリペプチドを含む液体とリガンドを含む液体とを混合する方法、液体にポリペプチドとリガンドとを添加して混合する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、ポリペプチドを含む液体にリガンドを添加して混合する方法、ポリペプチドを含む液体とリガンドを含む液体とを混合する方法が好ましい。
【0018】
液体としては、例えば、水、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液等が挙げられる。これらの液体の中でも、リン酸緩衝液が好ましい。
【0019】
ポリペプチドを含む液体とは、ポリペプチドを含んでいれば特に限定されないが、本発明の効果に顕著に優れることから、ポリペプチドと不純物を含む液体が好ましく、細胞培養液がより好ましい。
本明細書において、不純物とは、ポリペプチドの製造過程で副生する副生物をいう。
【0020】
ポリペプチドの質量平均分子量は、10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、また、300,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましい。ポリペプチドの質量平均分子量が10,000以上であると、より高次構造をとることができ、機能性に優れる。また、ポリペプチドの質量平均分子量が300,000以下であると、体内の患部への浸透性に優れる。
本明細書において、ポリペプチドの質量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー法により測定した値とする。ただし、ポリペプチドの種類等によってサイズ排除クロマトグラフィー法で質量平均分子量を測定するのが困難な場合には、分画ゲルによる電気泳動法や、高速液体クロマトグラフィーと質量分析計とを組み合せた方法で測定した値を用いてもよい。
【0021】
不純物の質量平均分子量は、得たいポリペプチドとの分離性に優れることから、10以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、また、300,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましい。
本明細書において、不純物の質量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー法で測定した値とする。
【0022】
本明細書において、リガンドとは、ポリペプチドとの吸着相互作用を有する物質をいう。吸着相互作用を有するとは、分子間で引き合う力を有する状態のことをいう。
【0023】
リガンドとしては、例えば、プロテインA、プロテインG、プロテインL、Fc結合タンパク、アビジン等のタンパク質;インシュリン等のペプチド;モノクローナル抗体等の抗体;酵素;ホルモン;DNA;RNA;ヘパリン、ルイスX、ガングリオシド等の糖質等が挙げられる。これらのリガンドの中でも、分子認識選択性に優れることから、タンパク質、ペプチドが好ましく、タンパク質がより好ましく、プロテインA、プロテインG、プロテインL、それらの改変体が更に好ましく、プロテインAが特に好ましい。
尚、ペプチドとは、10~50のアミノ酸が鎖状に結合した化合物をいう。また、タンパク質とは、51以上のアミノ酸が鎖状に結合した化合物をいい、高次構造をとっていてもよい。
【0024】
リガンドの質量平均分子量は、10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、また、100,000以下が好ましく、80,000以下がより好ましい。リガンドの質量平均分子量が10,000以上であると、ポリペプチドとリガンドとの吸着性に優れる。また、リガンドの質量平均分子量が100,000以下であると、ポリペプチドとリガンドとの分離が容易で、リガンドの特性に優れる。
本明細書において、リガンドの質量平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィー法により測定した値とする。ただし、リガンドの種類等によってサイズ排除クロマトグラフィー法では質量平均分子量を測定するのが困難な場合には、分画ゲルによる電気泳動法や、高速液体クロマトグラフィーと質量分析計とを組み合せた方法で測定した値を用いてもよい。
【0025】
ポリペプチドとリガンドとの混合により得られる複合体は、リガンドとのサイズ差をより大きくすることができ、濾過の条件を大きく緩和することができる(例えば、用いる濾過膜の選択肢を増やすことができる、濾過の回数を削減することができる等)ことから、リガンド1分子に対して、前記ポリペプチド2分子以上が複合化したものであることが好ましい。また、ポリペプチドとリガンドとの混合により得られる複合体は、複合体の形成が容易であることから、リガンド1分子に対して、ポリペプチドは3分子以下が好ましい。
【0026】
ポリペプチドとリガンドの混合割合は、リガンド1molに対してポリペプチドが2.1mol以上が好ましく、2.5mol以上がより好ましく、また、3.1mol以下が好ましく、2.9mol以下がより好ましい。ポリペプチドの割合が2.1mol以上であると、リガンド1分子に対してポリペプチド2分子以上が複合化した複合体を多く含み、リガンドとのサイズ差をより大きくすることができ、濾過の条件を大きく緩和することができる。また、ポリペプチドの割合が3.1mol以下であると、リガンドと複合化しないポリペプチドを少なくすることができ、工程Bにおいて濾液に含まれるポリペプチドを少なくすることができる。
【0027】
リガンド1分子に対してポリペプチド2分子以上が複合化した複合体の存在率は、リガンドとのサイズ差をより大きくすることができ、濾過の条件を大きく緩和することができることから、70%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましい。
リガンド1分子に対してポリペプチド1分子が複合化した複合体の存在率は、リガンドとのサイズ差をより大きくすることができ、濾過の条件を大きく緩和することができることから、30%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましい。
リガンドと複合化していないポリペプチドの存在率は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましい。
尚、本明細書において、(i)リガンド1分子に対してポリペプチド2分子以上が複合化した複合体、(ii)リガンド1分子に対してポリペプチド1分子が複合化した複合体及び(iii)リガンドと複合化していないポリペプチド、のそれぞれの存在率は、工程(A)で得られた複合体を含む液体を液体クロマトグラフィーで測定したときの、クロマトグラムの3種のピークの面積の合計に対する各ピークの面積とする。前記3種のピークとは、前記(i)、(ii)及び(iii)に起因したピークである。
【0028】
液体中でポリペプチドとリガンドとを混合して複合体を形成し、前記複合体を含む液体を得るときの温度は、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、また、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。温度が5℃以上であると、ポリペプチドとリガンドとの吸着性に優れる。また、温度が50℃以下であると、ポリペプチドやリガンドの変性を抑制することができ、ポリペプチドとリガンドとの吸着性の悪化を抑制することができる。
【0029】
ポリペプチドとリガンドとを混合するときのpHは、生理活性物質であるポリペプチドが安定した構造をとることから、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、また、10以下が好ましく、9以下がより好ましい。
【0030】
(工程B)
工程Bは、工程Aで得た前記複合体を含む液体を濾過する工程である。
工程Bを有することで、ポリペプチドとリガントとの複合体を含む液体を、ポリペプチドとリガントとの複合体と、不純物とに分離することができる。工程Aにより複合体を形成させることにより、当該複合体と不純物とのサイズ差が大きくなり、その結果濾過の条件を緩和することができるため好ましい。
本明細書において、濾過とは、濾材を介して液体中の分子を分離することをいう。濾過では、サイズが大きいものが上清に含まれ、サイズが小さいものが濾液に含まれる。
【0031】
濾材としては、例えば、濾過膜、濾紙、濾過板、フェルト、マット等が挙げられる。これらの濾材の中でも、化学的安定性、精密濾過性に優れることから、濾過膜が好ましい。
【0032】
濾過膜(濾過に用いる膜)は、孔径が小さ過ぎず、不純物の多くを濾液に含ませることができ、濾過の効率に優れることから、分画分子量は10,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましい。また、孔径が大き過ぎず、複合体の多くを上清に含ませることができることから、分画分子量は250,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましい。
本明細書において、濾過膜の分画分子量は、その濾過膜で90%以上保持できる分子量のことをいい、5種類の分子量が既知である標準物質に対する濾過膜の阻止率から算出した値を用いる。
【0033】
濾過膜の材質としては、例えば、親水性スルホン系高分子膜、親水性芳香族エーテル系高分子膜、親水性フッ素系高分子膜、親水性オレフィン系高分子膜、セルロース系膜、(メタ)アクリル系高分子膜、(メタ)アクリロニトリル系高分子膜、ビニルアルコール系高分子膜等が挙げられる。これらの濾過膜の材質の中でも、親水性に優れることから、親水性スルホン系高分子膜、セルロース系膜が好ましく、親水性スルホン系高分子膜がより好ましい。
【0034】
濾過の回数は、1回でもよく、複数回でもよいが、複合体と不純物との分離性に優れることから、複数回が好ましい。
【0035】
濾過の方法としては、例えば、遠心法等の濾材に対し垂直に圧力をかけて液体を流して濾過する方法、タンジェンシャルフロー法等が挙げられる。これらの濾過の方法の中でも、ポリペプチドを安定に取り扱うことができ、工業化スケールにおいても濾過性能に優れることから、タンジェンシャルフロー法が好ましい。
【0036】
(工程C)
工程Cは、前記工程Bで分離された複合体をポリペプチドとリガンドとにさらに分離する工程である。
工程Cを有することで、工程Bで分離して得られた複合体を、ポリペプチドとリガンドとにさらに分離することとなり、精製されたポリペプチドを得ることができることから、好ましい。
【0037】
工程Cは、リガンドを回収して再利用することができ、環境負荷を抑制することができることから、工程Bで分離された複合体をポリペプチドとリガンドとに解離させた後に、ポリペプチドとリガンドとにさらに分離することが好ましい。
【0038】
複合体をポリペプチドとリガンドとに解離させる方法としては、例えば、pHを下げる等のpHの調整、温度を上げる等の温度の調整、塩濃度を上げる等の塩濃度の調整等が挙げられる。これらの解離方法の中でも、工業化スケールにおいても適用が容易であることから、pHの調整、温度の調整が好ましく、pHの調整がより好ましい。ポリペプチドとしてモノクローナル抗体、リガンドとしてプロテインAを用いる場合、解離方法は、工業化スケールにおいても適用が容易であることから、pHの調整が好ましい。
【0039】
解離したポリペプチドとリガンドとを分離する方法としては、例えば、濾過、液体クロマトグラフィー、電気泳動等が挙げられる。これらの分離方法の中でも、分離性、効率性に優れることから、濾過、液体クロマトグラフィーが好ましく、液体クロマトグラフィーがより好ましい。
【0040】
濾材としては、例えば、濾過膜、濾紙、濾過板、フェルト、マット等が挙げられる。これらの濾材の中でも、化学的安定性、精密濾過性に優れることから、濾過膜が好ましい。
【0041】
濾過膜の材質としては、例えば、親水性スルホン系高分子膜、親水性芳香族エーテル系高分子膜、親水性フッ素系高分子膜、親水性オレフィン系高分子膜、セルロース系膜、(メタ)アクリル系高分子膜、(メタ)アクリロニトリル系高分子膜、ビニルアルコール系高分子膜等が挙げられる。これらの濾過膜の材質の中でも、親水性に優れることから、親水性スルホン系高分子膜、セルロース系膜が好ましく、親水性スルホン系高分子膜がより好ましい。
【0042】
濾過の回数は、1回でもよく、複数回でもよいが、ポリペプチドとリガンドとの分離性に優れることから、複数回が好ましい。
【0043】
濾過の方法としては、例えば、遠心法等の濾材に対し垂直に圧力をかけて液体を流して濾過する方法、タンジェンシャルフロー法等が挙げられる。これらの濾過の方法の中でも、ポリペプチドを安定に取り扱うことができ、工業化スケールにおいても濾過性能に優れることから、タンジェンシャルフロー法が好ましい。
【0044】
液体クロマトグラフィーのモードとしては、例えば、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー等が挙げられる。これらの液体クロマトグラフィーのモードの中でも、ポリペプチドとリガンドの双方を安定的に回収することができることから、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーが好ましく、効率性に優れることから、イオン交換クロマトグラフィーがより好ましい。
【0045】
(ポリペプチドの製造方法)
本発明に係るポリペプチドの製造方法は、本発明の分離方法を用いた精製工程を含む。
【0046】
ポリペプチドの製造方法は、工業生産の観点から、前記分離方法を用いた精製工程以外にも、生物培養又は合成工程、製剤工程を含むことが好ましい。
【0047】
生物培養とは、細胞等を人工的に培養し、ポリペプチドを産生させる工程である。
合成工程とは、アミノ酸や短鎖のポリペプチドを原料とし、有機合成反応を用いてポリペプチドを生成する工程である。
生物培養又は合成工程は、特に限定されず、公知の生物培養又は合成工程を用いることができる。
【0048】
製剤工程とは、精製したポリペプチドに必要な成分を配合し、成形する工程である。
製剤工程は、特に限定されず、公知の製剤工程を用いることができる。
【0049】
前記分離方法を用いた精製工程は、省エネルギー化することができ、効率性に優れることから、以下の精製装置を用いて行うことが好ましい。
【0050】
(ポリペプチドの精製装置)
本発明に係るポリペプチドの精製装置は、被精製物の供給タンク、希釈液の供給タンク、濾過器及び検出器を含む。
【0051】
図1は、本発明に係るポリペプチドの精製装置の一実施形態を示す模式図である。以下、ポリペプチドの精製装置について図面を用いながら説明するが、本発明は、この図面に限定されるものではない。
【0052】
図1に示す精製装置は、被精製物の供給タンク10、希釈液の供給タンク20、濾過器30及び検出器40を含む。希釈液の供給タンク20は、被精製物の供給タンク10に希釈液を供給できるように接続されている。被精製物の供給タンク10と濾過器30とは、循環して複数回精製できるように接続されている。検出器40は、被精製物の供給タンク10から濾過器30までの間と、濾過器30から被精製物の供給タンク10までの間とに、各々接続されている。
【0053】
被精製物の供給タンク10は濾過器30に被精製物を供給するためのタンクであり、ポリペプチドとリガンドとを含む。ポリペプチドとリガンドは複合体を形成した液体状態で被精製物の供給タンク10に含まれており、これを濾過器30に通すことで、ポリペプチドとリガントとの複合体(上清)と、不純物(濾液)とに、分離することができる。複合体と不純物との分離性に優れることから、被精製物を循環させて複数回濾過器30に通すことが好ましい。
【0054】
被精製物の供給タンク10から濾過器30に被精製物を安定的に供給するため、被精製物の供給タンク10の出口付近に供給ポンプを接続することが好ましい。
【0055】
被精製物の供給タンク10の材質は、ポリペプチドやリガントと非特異吸着を起こさないことから、親水性の材質が好ましく、表面を親水化した樹脂がより好ましい。
【0056】
希釈液の供給タンク20は、被精製物の供給タンク10に希釈液を供給するためのタンクである。
被精製物を濾過器30に通すことで被精製物が濃縮され、徐々に濾過の効率性が下がるが、希釈液の供給タンク20から希釈液を供給することで、濾過の効率性の低減を抑制することができる。
希釈の度合いは、適宜設定すればよいが、液体中の複合体の濃度が一定になるように希釈液を供給することが好ましい。
【0057】
液体中の複合体の濃度は、1g/L以上が好ましく、5g/L以上がより好ましく、また、300g/L以下が好ましく、200g/L以下がより好ましい。液体中の複合体の濃度が1g/L以上であると、分離を短時間で完了することができる。また、液体中の複合体の濃度が300g/L以下であると、複合体の析出を抑制することができる。
【0058】
濾過器30は、被精製物を精製、即ち、複合体と不純物とを分離するためのものである。
【0059】
濾材としては、例えば、濾過膜、濾紙、濾過板、フェルト、マット等が挙げられる。これらの濾材の中でも、化学的安定性、精密濾過性に優れることから、濾過膜が好ましい。
【0060】
濾過膜の材質としては、例えば、親水性スルホン系高分子膜、親水性芳香族エーテル系高分子膜、親水性フッ素系高分子膜、親水性オレフィン系高分子膜、セルロース系膜、(メタ)アクリル系高分子膜、(メタ)アクリロニトリル系高分子膜、ビニルアルコール系高分子膜等が挙げられる。これらの濾過膜の材質の中でも、親水性に優れることから、親水性スルホン系高分子膜、セルロース系膜が好ましく、親水性スルホン系高分子膜がより好ましい。
【0061】
検出器40は、精製装置の系内を安定に保つために設置することが好ましい。
検出器40としては、例えば、圧力検出器、濃度検出器、質量検出器、流量検出器、温度計等が挙げられる。これらの検出器40の中でも、圧力耐久性が低い濾過膜を有する精製装置の系内の安定性に優れることから、流量検出器と圧力検出器とを併用することが好ましい。
【0062】
(用途)
本発明のポリペプチドの分離方法及び本発明のポリペプチドの製造方法は、工業化スケールにおいても適用可能で、ポリペプチドの生産性に優れる。また、本発明のポリペプチドの精製装置は、工業化スケールにおいても適用可能な高効率のポリペプチドの分離や製造が可能である。
【0063】
本発明の分離方法で得られたポリペプチド、本発明の製造方法で得られたポリペプチド、本発明の精製装置を用いて得られたポリペプチドは、例えば、医療用医薬品、機能性食品、高付加価値化合物合成の中間体等に好適に用いることができ、健康状態の改善効果に優れることから、特に医療用医薬品に好適に用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0065】
[参考例1~9]
10g/Lのモノクローナル抗体水溶液、50g/LのStaphylococcus aureus由来のプロテインA水溶液及びリン酸緩衝液(0.0027mol/L塩化カリウム、0.137mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/Lリン酸、pH7.4)を、表1に記載の配合量で2mLポリプロピレン製チューブに添加して撹拌し、20℃で2時間静置させ、ポリペプチドとリガンドとの複合体を含む液体を得た。
得られたポリペプチドとリガンドとの複合体を含む液体中の成分の分画状況を、サイズ排除クロマトグラフィーにより確認した。サイズ排除クロマトグラフィーの条件は、下記の条件とした。
カラム:「TSKゲル G3000 SWXL」(商品名、内径8mm、長さ300mm)
移動相:リン酸緩衝液(0.0027mol/L塩化カリウム、0.137mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/Lリン酸、pH7.4)
流速:1.0mL/分
検出波長:280nm
サンプル量:0.01mL
【0066】
得られたクロマトグラムを、まとめて
図2に示す。
標準物質のピーク位置から、保持時間約6分に存在するピークが次の(i)に起因したピーク、保持時間約7分に存在するピークが次の(ii)に起因したピーク、保持時間約9分に存在するピークが次の(iii)に起因したピークであることを確認することができた。
また、得られたクロマトグラムより、次の(i)~(iii)に起因したピークから、各々の複合体又はポリペプチドの存在率を算出した。
(i)リガンド1分子に対してポリペプチド2分子以上が複合化した複合体
(ii)リガンド1分子に対してポリペプチド1分子が複合化した複合体
(iii)リガンドと複合化していないポリペプチド
結果を、表2に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
[実施例1]
10g/Lのモノクローナル抗体水溶液、50g/LのStaphylococcus aureus由来のプロテインA水溶液及びリン酸緩衝液(0.0027mol/L塩化カリウム、0.137mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/Lリン酸、pH7.4)を、表1の参考例9の配合量で2mLポリプロピレン製チューブ中に添加して撹拌し、20℃で2時間静置させ、ポリペプチドとリガンドとの複合体を含む液体を得た。
得られた複合体を含む液体を、膜濾過デバイス「アミコンウルトラ-0.5」(商品名、メルク社製、ウルトラセル、分画分子量100,000)に注入し、下記(1)~(9)の手順にて遠心濾過を行い、上清と濾液を得た。遠心分離の条件は、いずれも15,000(×g)で3分間とした。
(1)遠心分離にて濾過し、上清と濾液を得る。濾液は、全量を膜濾過デバイスから採取し、別に保存する。
(2)(1)で得られた上清に、リン酸緩衝液を添加する。
(3)遠心分離にて濾過し、上清と濾液を得る。濾液は、全量を膜濾過デバイスから採取し、別に保存する。
(4)(3)で得られた上清に、リン酸緩衝液を添加する。
(5)遠心分離にて濾過し、上清と濾液を得る。濾液は、全量を膜濾過デバイスから採取し、別に保存する。
(6)(5)で得られた上清に、リン酸緩衝液を添加する。
(7)遠心分離にて濾過し、上清と濾液を得る。濾液は、全量を膜濾過デバイスから採取し、別に保存する。
(8)(7)で得られた上清に、リン酸緩衝液を添加する。
(9)遠心分離にて濾過し、上清と濾液を得る。濾液は、全量を膜濾過デバイスから採取し、別に保存する。
前記(1)の濾過前の液体、前記(9)で得られた上清、前記(1)で得られた濾液、前記(5)で得られた濾液及び前記(9)で得られた濾液について、サイズ排除クロマトグラフィーにより、各液体中の成分の分画状況を確認した。サイズ排除クロマトグラフィーの条件は、参考例9と同様とした。
得られたクロマトグラムを、
図3にまとめて示す。
【0070】
[比較例1]
50g/LのStaphylococcus aureus由来のプロテインA水溶液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に操作し、各液体中の成分の分画状況を確認した。
得られたクロマトグラムを、
図4にまとめて示す。
【0071】
実施例1で得られたクロマトグラムから、リガンド1分子に対してポリペプチド2分子以上が複合化した複合体及びリガンド1分子に対してポリペプチド1分子が複合化した複合体の多くを、濾過膜を通過させることなく上清に残すことができたことが確認された。また、不純物をより除去するために濾過を複数回行ったとしても、複合体の多くを、濾過膜を通過させることなく上清に残すことができたことが確認された。
一方、比較例1で得られたクロマトグラムから、リガンドと複合化していないポリペプチドの一部が濾過膜を通過したことが確認された。
【0072】
[実施例2]
膜濾過デバイスを「アミコンウルトラ-0.5」から「Apollo 7ml」(商品名、Orbital Biosciences社製、分画分子量150,000)へ変更したこと以外は、実施例1と同様に操作し、各液体中の成分の分画状況を確認した。
得られたクロマトグラムを、
図5にまとめて示す。
【0073】
[比較例2]
50g/LのStaphylococcus aureus由来のプロテインA水溶液を添加しなかったこと以外は、実施例2と同様に操作し、各液体中の成分の分画状況を確認した。
得られたクロマトグラムを、
図6にまとめて示す。
【0074】
実施例2で得られたクロマトグラムから、リガンド1分子に対してポリペプチド2分子以上が複合化した複合体及びリガンド1分子に対してポリペプチド1分子が複合化した複合体の多くを、濾過膜を通過させることなく上清に残すことができたことが確認された。また、不純物をより除去するために濾過を複数回行ったとしても、複合体の多くを、濾過膜を通過させることなく上清に残すことができたことが確認された。
一方、比較例2で得られたクロマトグラムから、リガンドと複合化していないポリペプチドの多くが濾過膜を通過したことが確認された。
【0075】
[実施例3]
表1の参考例9の配合量を参考例3の配合量に変更した以外は、実施例1と同様に操作し、各液体中の成分の分画状況を確認した。
得られたクロマトグラムを、
図7にまとめて示す。
【0076】
実施例3で得られたクロマトグラムから、リガンド1分子に対してポリペプチド2分子以上が複合化した複合体の多くを、濾過膜を通過させることなく上清に残すことができたことが確認された。また、不純物をより除去するために濾過を複数回行ったとしても、複合体の多くを、濾過膜を通過させることなく上清に残すことができたことが確認された。
一方、比較例1で得られたクロマトグラムから、リガンドと複合化していないポリペプチドの一部が濾過膜を通過したことが確認された。
【0077】
[実施例4]
表1の参考例9の配合量を参考例3の配合量に変更した以外は、実施例2と同様に操作し、各液体中の成分の分画状況を確認した。
得られたクロマトグラムを、
図8にまとめて示す。
【0078】
実施例4で得られたクロマトグラムから、リガンド1分子に対してポリペプチド2分子以上が複合化した複合体の多くを、濾過膜を通過させることなく上清に残すことができたことが確認された。また、不純物をより除去するために濾過を複数回行ったとしても、複合体の多くを、濾過膜を通過させることなく上清に残すことができたことが確認された。
一方、比較例2で得られたクロマトグラムから、リガンドと複合化していないポリペプチドの多くが濾過膜を通過したことが確認された。
【0079】
[参考例10]
10g/Lのモノクローナル抗体水溶液200μL、50g/LのStaphylococcus aureus由来のプロテインA水溶液200μL及びリン酸緩衝液(0.0027mol/L塩化カリウム、0.137mol/L塩化ナトリウム、0.01mol/Lリン酸、pH7.4)100μLを、2mLポリプロピレン製チューブ中で攪拌し、ポリペプチドとリガンドとの複合体を含む液体を得た。得られた液体を20℃で2時間静置させ、その後、静置した液体を1.0mol/L酢酸水溶液でpH4.5に調製した。
比較対象として、モノクローナル抗体水溶液200μL及びリン酸緩衝液300μLを混和したポリペプチドを含む液体、並びに、プロテインA水溶液200μL及びリン酸緩衝液300μLを混和したリガンドを含む液体を調製した。
【0080】
調製した3種類の液体を、カチオン交換クロマトグラフィーにより、分画状況を確認した。カチオン交換クロマトグラフィーの条件は、下記の条件とした。
カラム:「ChromSpeed S103」(商品名、三菱ケミカル株式会社製、内径5mm、長さ100mm)
移動相:20mmol/L酢酸ナトリウム水溶液(pH4.5)
流速:1.0mL/分
検出波長:280nm
サンプル量:0.01mL
得られたクロマトグラムを、
図9にまとめて示す。
【0081】
図9から、参考例10のようなpHの調整を行うことで、ポリペプチド(モノクローナル抗体)とリガンド(プロテインA)との複合体をポリペプチドとリガンドとに解離することができ、次ぐカチオン交換クロマトグラフィーによりポリペプチドとリガンドとを分離できることを確認することができた。
【0082】
これらの実施例・比較例・参考例の結果から、煩雑な再生処理を必要とするアフィニティ分離剤を用いることなく、工業化スケールにおいても適用可能で、pH4以上という抗体にダメージを与えない温和なpH条件のもと、ポリペプチドを高純度で回収し、リガンドをも高純度で回収できることを確認することができた。
【0083】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2018年6月29日出願の日本特許出願(特願2018-123981)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のポリペプチドの分離方法及び本発明のポリペプチドの製造方法は、工業化スケールにおいても適用可能で、ポリペプチドの生産性に優れる。また、本発明のポリペプチドの精製装置は、工業化スケールにおいても適用可能な高効率のポリペプチドの分離や製造が可能である。
本発明の分離方法で得られたポリペプチド、本発明の製造方法で得られたポリペプチド、本発明の精製装置を用いて得られたポリペプチドは、例えば、医療用医薬品、機能性食品、高付加価値化合物合成の中間体等に好適に用いることができ、健康状態の改善効果に優れることから、特に医療用医薬品に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
10 被精製物の供給タンク
20 希釈液の供給タンク
30 濾過器
40 検出器