(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】蒸着材料、下地層付き基材の製造方法、撥水撥油層付き基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240702BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20240702BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240702BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C23C14/24 E
B05D3/10 E
B05D5/00 Z
B05D7/24 302L
B05D7/24 302Y
(21)【出願番号】P 2020563261
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2019050402
(87)【国際公開番号】W WO2020137990
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018242750
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 万江美
(72)【発明者】
【氏名】徳永 能仁
(72)【発明者】
【氏名】小平 広和
(72)【発明者】
【氏名】石関 健二
(72)【発明者】
【氏名】小林 大介
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-296036(JP,A)
【文献】特開平05-005177(JP,A)
【文献】国際公開第2009/066630(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
B05D 3/10
B05D 5/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、ホウ素、ガリウム、リン、アンチモン、および、ビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、を含む酸化物を含む粒子から構成され、
粒径0.5~22.4mmの前記粒子の質量割合が、全粒子合計質量に対して、90質量%以上である、蒸着材料。
【請求項2】
前記元素が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ホウ素、ガリウム、リン、アンチモン、および、ビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である、請求項1に記載の蒸着材料。
【請求項3】
蒸着材料を構成する前記粒子の体積基準の粒度分布において、累積粒子数10%の時の粒径をD10、累積粒子数90%の時の粒径をD90と規定したとき、前記D10に対する、前記D90の比(D90/D10)が、6以下である、請求項2に記載の蒸着材料。
【請求項4】
含水率が2.0質量%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の蒸着材料。
【請求項5】
焼結体または溶融体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の蒸着材料。
【請求項6】
ケイ素と、リチウム、ナトリウム、カリウム
、カルシウム、バリウム、ホウ素
、ガリウム、リン、アンチモン、および、ビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、を含む酸化物を含む粒子から構成され、粒径0.5~22.4mmの前記粒子の質量割合が、全粒子合計質量に対して、90質量%以上である蒸着材料を用いた蒸着によって、基材上に、前記ケイ素と前記元素とを含む酸化物を含む下地層を形成する、下地層付き基材の製造方法。
【請求項7】
前記元素が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ホウ素、ガリウム、リン、アンチモン、および、ビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である、請求項6に記載の下地層付き基材の製造方法。
【請求項8】
前記基材の材料が、ガラスである、請求項6または7に記載の下地層付き基材の製造方法。
【請求項9】
人の指または手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する機器用である下地層付き基材を製造する、請求項6~8のいずれか1項に記載の下地層付き基材の製造方法。
【請求項10】
ケイ素と、リチウム、ナトリウム、カリウム
、カルシウム、バリウム、ホウ素
、ガリウム、リン、アンチモン、および、ビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、を含む酸化物を含む粒子から構成され、粒径0.5~22.4mmの前記粒子の質量割合が、全粒子合計質量に対して、90質量%以上である蒸着材料を用いた蒸着によって、基材上に、前記ケイ素と前記元素とを含む酸化物を含む下地層を形成し、
次いで、前記下地層上に、反応性シリル基を有する含フッ素化合物の縮合物からなる撥水撥油層を形成する、撥水撥油層付き基材の製造方法。
【請求項11】
前記元素が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ホウ素、ガリウム、リン、アンチモン、および、ビスマスからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である、請求項10に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
【請求項12】
前記含フッ素化合物をドライコーティング方法またはウェットコーティング方法で前記下地層上に塗布して縮合させる、請求項10または11に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
【請求項13】
前記反応性シリル基が下式(2)で表される基である、請求項10~12のいずれか1項に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
-Si(R)
nL
3-n ・・・(2)
ただし、Rは1価の炭化水素基、Lは加水分解性基または水酸基、nは0~2の整数である。
【請求項14】
前記含フッ素化合物が、反応性シリル基を2個以上有する含フッ素化合物である、請求項10~13のいずれか1項に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
【請求項15】
前記含フッ素化合物が、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖および反応性シリル基を有する含フッ素エーテル化合物である、請求項10~14のいずれか1項に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
【請求項16】
前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖が、オキシペルフルオロアルキレン基を主とするポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖である、請求項15に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
【請求項17】
前記基材の材料が、ガラスである、請求項10~16のいずれか1項に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
【請求項18】
人の指または手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する機器用である撥水撥油層付き基材を製造する、請求項10~17のいずれか1項に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着材料、下地層付き基材の製造方法、撥水撥油層付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に撥水撥油性、指紋汚れ除去性、潤滑性(指で触った際の滑らかさ)等を付与するために、反応性シリル基を有する含フッ素化合物を用いた表面処理によって、基材の表面に含フッ素化合物の縮合物からなる撥水撥油層を形成することが知られている。
【0003】
また、基材と撥水撥油層との間の接着性等を改善するために、これらの間に下地層を設けることがある。特許文献1の段落[0204]、特許文献2の段落[0076]には、基材と撥水撥油層との間に酸化ケイ素からなる下地層を設けることが記載されている。これらの下地層は、蒸着によって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-218639号公報
【文献】特開2012-72272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、下地層を形成するための蒸着材料の種類によっては、下地層上に反応性シリル基を有する含フッ素化合物の縮合物からなる撥水撥油層を形成しようとすると、下地層上に撥水撥油層が均一に形成されない場合があった。撥水撥油層が均一に形成されないとは、下地層上に撥水撥油層が形成されない欠陥領域が生じる場合、撥水撥油層中に異物が観察される場合、下地層中に異物が観察される場合等を意味する。
また、蒸着材料を用いて下地層を形成する際には、真空蒸着装置内に複数の基材を配置して、複数枚のサンプルを作製する場合がある。このように複数枚のサンプルを作製するに際して、得られるサンプル間において下地層の組成のバラツキが生じる場合があった。下地層の組成のバラツキがあると、サンプル間において撥水撥油層の形成のしやすさの違いが生じ、性能差が生じるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、反応性シリル基を有する含フッ素化合物の縮合物からなる撥水撥油層を均一に形成することができる下地層を形成でき、複数枚の下地層付き基材を作製した際にサンプル間における下地層の組成のバラツキが抑制される、蒸着材料を提供することを課題とする。
また、本発明は、下地層付き基材の製造方法、撥水撥油層付き基材の製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
[1] ケイ素と、周期表の第1族元素、第2族元素、第13族元素、第15族元素、および、遷移金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、を含む酸化物を含む粒子から構成され、
粒径0.5~22.4mmの前記粒子の質量割合が、全粒子合計質量に対して、90質量%以上である、蒸着材料。
【0009】
[2] 蒸着材料を構成する前記粒子の体積基準の粒度分布において、累積粒子数10%の時の粒径をD10、累積粒子数90%の時の粒径をD90と規定したとき、前記D10に対する、前記D90の比(D90/D10)が、6以下である、[1]に記載の蒸着材料。
[3] 含水率が2.0質量%未満である、[1]または[2]に記載の蒸着材料。
[4] 焼結体または溶融体である、[1]~[3]のいずれかに記載の蒸着材料。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の蒸着材料を用いた蒸着によって、基材上に、前記ケイ素と前記元素とを含む酸化物を含む下地層を形成する、下地層付き基材の製造方法。
【0010】
[6] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の蒸着材料を用いた蒸着によって、基材上に、前記ケイ素と前記元素とを含む酸化物を含む下地層を形成し、
次いで、前記下地層上に、反応性シリル基を有する含フッ素化合物の縮合物からなる撥水撥油層を形成する、撥水撥油層付き基材の製造方法。
[7] 前記含フッ素化合物をドライコーティング方法またはウェットコーティング方法で前記下地層上に塗布して縮合させる、[6]に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
[8] 前記反応性シリル基が下式(2)で表される基である、[6]または[7]に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
-Si(R)nL3-n ・・・(2)
ただし、Rは1価の炭化水素基、Lは加水分解性基または水酸基、nは0~2の整数である。
[9] 前記含フッ素化合物が、反応性シリル基を2個以上有する含フッ素化合物である、[6]~[8]のいずれかに記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
[10] 前記含フッ素化合物が、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖および反応性シリル基を有する含フッ素エーテル化合物である、[6]~[9]のいずれかに記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
[11] 前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖が、オキシペルフルオロアルキレン基を主とするポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖である、[10]に記載の撥水撥油層付き基材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反応性シリル基を有する含フッ素化合物の縮合物からなる撥水撥油層を均一に形成することができる下地層を形成でき、複数の下地層付き基材を作製した際にサンプル間における下地層の組成のバラツキが抑制される、蒸着材料を提供できる。
また、本発明によれば、下地層付き基材の製造方法、撥水撥油層付き基材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の方法により得られる下地層付き基材の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の方法により得られる撥水撥油層付き基材の一例を示す断面図である
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
【0014】
本明細書において、式(1)で表される単位を「単位(1)」と記す。他の式で表される単位も同様に記す。式(2)で表される基を「基(2)」と記す。他の式で表される基も同様に記す。式(3)で表される化合物を「化合物(3)」と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書において、「アルキレン基がA基を有していてもよい」という場合、アルキレン基は、アルキレン基中の炭素-炭素原子間にA基を有していてもよいし、アルキレン基-A基-のように末端にA基を有していてもよい。
【0015】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「2価のオルガノポリシロキサン残基」とは、下式で表される基である。下式におけるRxは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10)、または、フェニル基である。また、g1は、1以上の整数であり、1~9の整数が好ましく、1~4の整数が特に好ましい。
【0016】
【0017】
「シルフェニレン骨格基」とは、-Si(Ry)2PhSi(Ry)2-(ただし、Phはフェニレン基であり、Ryは1価の有機基である。)で表される基である。Ryとしては、アルキル基(好ましくは炭素数1~10)が好ましい。
「ジアルキルシリレン基」は、-Si(Rz)2-(ただし、Rzはアルキル基(好ましくは炭素数1~10)である。)で表される基である。
化合物の「数平均分子量」は、1H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出される。
【0018】
蒸着材料中の各元素の含有量は、特に断りのない限り、湿式分析によって測定した値である。湿式分析で与えられる各元素の含有量は質量パーセント濃度(質量%)である。周期表の第1族元素の測定には原子吸光法、それ以外の元素の測定には誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法またはICP質量分析法を用い、検量線(マトリックスマッチング)法により定量する。なお、湿式分析によって得られた各元素の質量%と各元素の原子量(g/mol)から、各元素同士のモル濃度の比を求めることができる。
図1~
図2における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0019】
[蒸着材料]
本発明の蒸着材料は、ケイ素と、周期表の第1族元素、第2族元素、第13族元素、第15族元素、および、遷移金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下、「元素I」と記す。)と、を含む酸化物を含む粒子から構成され、粒径0.5~22.4mmの粒子の質量割合が、全粒子質量に対して、90質量%以上である。
本発明において、蒸着材料とは、蒸着に使用する材料を意味する。本発明の蒸着材料は、後述する撥水撥油層付き基材における下地層の形成に好適に使用される。
【0020】
本発明者らは、まず、下地層上に撥水撥油層が均一に形成されない理由として、下地層の形成状態が寄与していることを知見している。より具体的には、蒸着材料を用いた蒸着により下地層を形成する際に、蒸着材料の塊が基材上に付与されて下地層の一部を形成し、この領域において撥水撥油層が形成しづらくなっていることを知見している。さらに、このような蒸着材料の塊が蒸着時に生じる理由として、蒸着材料中の粒子の分布状態が関連していることを知見している。より具体的には、粒径0.5mm未満の粒子は蒸着時に塊として飛散しやすく、このような粒径の小さい粒子の割合を減らすことにより、所望の効果が得られることを知見している。
また、下地層の組成のバラツキは、粒径22.4mm超の粒子の割合が多く、かつ、蒸着材料に酸素以外の2種以上の元素が含まれる場合により生じやすいことを知見している。より具体的には、まず、ハースに蒸着材料を充填する際に、蒸着材料の粒径が大きいと、充填された蒸着材料によって形成される表面に凹凸が生じやすい。そして、蒸着材料の酸素以外の2種以上の元素が含まれると、蒸着時に元素によって蒸発のしやすさが異なる。上記凹凸および元素の蒸発のしやすさの違いによって、真空蒸着装置内の基材の配置位置に応じて、元素の付着しやすさが異なり、結果としてサンプル間における下地層の組成のバラツキに繋がることを知見している。そこで、所定の粒径の粒子の質量割合を増やすことにより、粒径22.4mm超の粒子の割合を減らし、上記課題を解決している。
【0021】
蒸着材料は、後述する所定の酸化物を含む粒子から構成されている。つまり、蒸着材料は、所定の粒子が複数集合して構成されている。
蒸着材料において、粒径0.5~22.4mmの粒子の質量割合は、全粒子合計質量に対して、90質量%以上であり、下地層上に反応性シリル基を有する含フッ素化合物の縮合物からなる撥水撥油層(以後、単に「撥水撥油層」ともいう。)をより均一に形成できる点、または、サンプル間での下地層の組成のバラツキがより抑制される点から、95質量%以上が好ましい。上限は、100質量%が挙げられる。
なお、上記粒子の粒径とは、各粒子それぞれの大きさに該当し、長径を意味する。
粒子の粒径の測定方法としては、以下の通りである。
JIS Z8801-1規格の試験用ふるい-金属製網ふるいの公称目開き500μm(0.5mm)と22.4mmを用いて、粒子全数をふるった後に各粒度分布の質量を測定し、全質量に対する各粒径の質量の割合を算出する。
【0022】
蒸着材料を構成する粒子の体積基準の粒度分布において、累積粒子数10%の時の粒径をD10、累積粒子数90%の時の粒径をD90と規定したとき、D10に対する、D90の比(D90/D10)は、6.0以下が好ましく、5.0以下が特に好ましい。上記比が上記範囲内であれば、粒子の作製時の粒子間の組成ばらつきが小さくなる知見がある。
上記比は、2.0以上が好ましい。
上記粒度分布は、以下の方法によって測定される。
JIS Z8801-1規格の試験用ふるい-金属製網ふるいの公称目開き300μm、500μm、1.0mm、4.75mm、9.5mm、22.4mmを用いて粒子全数をふるった後に各粒度分布の質量を測定し、粒度分布曲線を作成してD90/D10を算出する。
【0023】
上記粒径および粒度分布の調整方法としては、蒸着材料を製造する際の製造条件を調整する方法、所定の大きさの目の篩にかける方法が挙げられる。
より具体的には、たとえば、後述する焼結体の大きさの調整方法を一例として以下に述べる。まず、焼結体を得る方法としては、例えば、ケイ素を含む粉体と、元素Iの粉体と、水と、を混合した混合物を乾燥させた後、乾燥後の混合物またはこれをプレス成形した成形体を焼成して、焼結体を得る方法が挙げられる。この方法において、上記混合の際の撹拌速度および撹拌時間を調整することにより、最終的に得られる焼結体の大きさを調整できる。
【0024】
蒸着材料の含水率は、下地層上に撥水撥油層を欠陥なくより均一に形成できる点から、2.0質量%未満が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が特に好ましい。
蒸着材料の含水率の下限値としては、10質量ppm以上が挙げられ、下地層に対する撥水撥油層の密着性がより優れる点から、50質量ppm以上が好ましく、100質量ppm以上がより好ましく、200質量ppm以上が特に好ましい。
蒸着材料の含水率の測定方法は、以下の通りである。
蒸着材料を300℃の環境に置いて、出てくる水蒸気の量をカールフィッシャー法(電量滴定法)で定量する。
【0025】
蒸着材料の含水率の調整方法としては、後述する蒸着材料の製造方法時における加熱条件(たとえば、加熱温度)を調整する方法、蒸着材料を所定の温度および湿度の環境下にて静置する方法が挙げられる。
【0026】
周期表の第1族元素(以下、「第1族元素」ともいう。)とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムを意味し、下地層上に撥水撥油層を欠陥なくより均一に形成できる点、または、サンプル間での下地層の組成のバラツキがより抑制される点から、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、ナトリウム、カリウムが特に好ましい。第1族元素は、1種のみが含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
周期表の第2族元素(以下、「第2族元素」ともいう。)とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムを意味し、下地層上に撥水撥油層を欠陥なくより均一に形成できる点、または、サンプル間での下地層の組成のバラツキがより抑制される点から、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好ましく、マグネシウム、カルシウムが特に好ましい。第2族元素は、1種のみが含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
周期表の第13族元素(以下、「第13族元素」ともいう。)とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムを意味し、下地層上に撥水撥油層を欠陥なくより均一に形成できる点、または、サンプル間での下地層の組成のバラツキがより抑制される点から、ホウ素、アルミニウム、ガリウムが好ましく、ホウ素、アルミニウムが特に好ましい。第13族元素は、1種のみが含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
周期表の第15族元素(以下、「第15族元素」ともいう。)とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスを意味し、下地層上に撥水撥油層を欠陥なくより均一に形成できる点、または、サンプル間での下地層の組成のバラツキがより抑制される点から、リン、アンチモン、ビスマスが好ましく、リン、ビスマスが特に好ましい。第15族元素は、1種のみが含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
遷移金属元素とは、周期表の第3族元素から第11族元素の間に存在する元素を意味する。
【0027】
蒸着材料に含まれる酸化物は、上記元素(ケイ素、元素I)単独の酸化物の混合物(たとえば、酸化ケイ素と、元素Iの酸化物との混合物)であってもよいし、上記元素を2種以上含む複合酸化物であってもよいし、上記元素単独の酸化物と複合酸化物との混合物であってもよい。
【0028】
蒸着材料中の酸化物の含有量は、蒸着材料の全質量に対して、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる点から、80質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%(蒸着材の全てが酸化物であること)が特に好ましい。
蒸着材料中の酸素の含有量は、蒸着材料中の全元素に対する酸素のモル濃度(モル%)として、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる点から、40~70モル%が好ましく、50~70モル%がより好ましく、60~70モル%が特に好ましい。蒸着材料中の酸素の含有量は、蒸着材料を十分に粉砕し、ペレット化したものについて、XPS分析などによって測定される。
【0029】
蒸着材料中のケイ素の含有量は、蒸着材料中の酸素を除く全元素に対するケイ素のモル濃度(モル%)として、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる点から、10~99.8モル%が好ましく、15~99.8モル%がより好ましく、20~99.7モル%が特に好ましい。
蒸着材料中のケイ素の含有量は、蒸着材料中の酸素を除く全元素に対するケイ素の質量パーセント濃度(質量%)として、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる点から、10~99.9質量%が好ましく、20~99.9質量%がより好ましく、30~99.8質量%が特に好ましい。
【0030】
蒸着材料中のケイ素のモル濃度に対する、元素Iの合計モル濃度の比は、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる点から、0.003~9.0が好ましく、0.003~2.0がより好ましく、0.003~0.5が特に好ましい。
蒸着材料中の元素Iの含有量が上記範囲であれば、蒸着法によって基材の表面に下地層を安定して形成でき、蒸着材料の飛散による欠点が下地層中に生じにくい。その結果、下地層と撥水撥油層との接着性に優れ、撥水撥油層の耐摩耗性に優れるので好ましい。
【0031】
蒸着材料中の元素Iの含有量の合計は、酸化物基準の質量%表示で、蒸着材料全質量に対して、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が特に好ましい。元素Iの含有量が上記範囲であれば、蒸着法によって基材の表面に下地層を安定して形成でき、蒸着材料の飛散による欠点が下地層中に生じにくい。その結果、下地層と撥水撥油層との接着性に優れ、撥水撥油層の耐摩耗性に優れるので好ましい。上限は、95質量%が挙げられる。
【0032】
蒸着材料中の元素Iの含有量の合計は、蒸着材料中の酸素を除く全元素に対する元素Iの合計質量パーセント濃度(質量%)として、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる点から、0.001~90質量%が好ましく、0.001~80質量%がより好ましく、0.001~70質量%が特に好ましい。
蒸着材料中の元素Iの含有量が上記範囲であれば、下地層においてSi-O-Si結合が充分に形成され、下地層の機械特性が充分に確保され、撥水撥油層の耐摩耗性に優れるので好ましい。
【0033】
蒸着材料は、元素Iとして、上記した元素を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、2種以上の元素の合計含有量が上記範囲を満たす。
【0034】
蒸着材料の形態の具体例としては、粉体、溶融体、焼結体、造粒体、破砕体が挙げられ、含水率の調整がしやすい点から、焼結体および溶融体が好ましい。
ここで、焼結体とは、蒸着材料の粉体を焼成して得られた固形物を意味し、必要に応じて、蒸着材料の粉体の代わりに、粉体をプレス形成して成形体を用いてもよい。溶融体とは、蒸着材料の粉体を高温で溶融させた後、冷却固化させて得られた固形物を意味する。造粒体とは、蒸着材料の粉体と液状媒体(たとえば、水、有機溶媒)とを混錬して粒子を得た後、粒子を乾燥させて得られた固形物を意味する。
【0035】
蒸着材料は、たとえば、以下の方法で製造できる。
・ケイ素の酸化物の粉体と、元素Iの酸化物の粉体とを混合して、蒸着材料の粉体を得る方法。
・上記蒸着材料の粉体および水を混錬して粒子を得た後、粒子を乾燥させて、蒸着材料の造粒体を得る方法。
造粒時の収率を上げるために、また造粒体中の元素分布を均一化させるために、原料の酸化ケイ素粉体の直径は0.1μm~100μmが好ましい。100μm以上の酸化ケイ素粉体を原料とする場合、粉砕してから使用することが好ましい。造粒体の強度を上げるために、また焼結体を得る際の焼成時の固着を避けるために、乾燥温度は60℃以上が好ましい。一方、水分を完全に除去するために減圧状態(絶対圧力が50kPa以下)での乾燥が好ましい。
・ケイ素を含む粉体(たとえば、ケイ素の酸化物からなる粉体、珪砂、シリカゲル)と、元素Iの粉体(たとえば、元素Iの酸化物の粉体)と、水と、を混合した混合物を乾燥させた後、乾燥後の混合物、この混合物をプレス成形した成形体、または前記造粒体を焼成して、焼結体を得る方法。
焼成後の焼結体の吸湿性を下げるために、焼成温度は900℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましい。焼結体運搬時、搬送容器(包装袋)の破損を防ぎ、容器由来の汚染を防ぐために、突起部が無い粒子が好ましく、球状粒子がより好ましい。突起部を除去するために突起部除去プロセスの追加が好ましい。
・ケイ素を含む粉体(たとえば、ケイ素の酸化物からなる粉体、珪砂、シリカゲル)と、元素Iの粉体(たとえば、元素Iの酸化物の粉体)と、を高温で溶融させた後、溶融物を冷却固化して、溶融体を得る方法。
【0036】
上述した方法における製造条件は、蒸着材料中の含水率が上述した範囲となるように適宜調整される。
たとえば、焼結体を得る方法において、焼成する際の焼成温度としては、300℃以上が好ましく、500℃以上が特に好ましい。焼成温度の上限としては、2000℃以下が挙げられる。
【0037】
[下地層付き基材の製造方法]
本発明の下地層付き基材の製造方法は、本発明の蒸着材料を用いた蒸着法によって、基材上に、ケイ素と元素Iとを含む酸化物を含む下地層を形成する方法である。
【0038】
蒸着材料を用いた蒸着法の具体例としては、真空蒸着法が挙げられる。真空蒸着法は、蒸着材料を真空槽内で蒸発させ、基材の表面に付着させる方法である。
蒸着時の温度(たとえば、真空蒸着装置を用いる際には、蒸着材料を設置するボートの温度)は、100~3000℃が好ましく、500~3000℃が特に好ましい。
蒸着時の圧力(たとえば、真空蒸着装置を用いる際には、蒸着材料を設置する槽内の圧力)は、1Pa以下が好ましく、0.1Pa以下が特に好ましい。
蒸着材料を用いて下地層を形成する場合、1つの蒸着材料を用いてもよいし、異なる元素を含む2つ以上の蒸着材料を用いてもよい。
【0039】
蒸着材料の蒸発方法の具体例としては、高融点金属製抵抗加熱用ボート上で蒸着材料を溶融し、蒸発させる抵抗加熱法、電子ビームを蒸着材料に照射し、蒸着材料を直接加熱して表面を溶融し、蒸発させる電子銃法が挙げられる。蒸着材料の蒸発方法としては、局所的に加熱できるため高融点物質も蒸発できる点、電子ビームが当たっていないところは低温であるため容器との反応や不純物の混入のおそれがない点から、電子銃法が好ましい。
蒸着時に、蒸着されることが望ましくない領域や部分(たとえば基材の裏面等)の汚染を防止するために、当該蒸着されることが望ましくない領域や部分を保護フィルムでカバーする方法が挙げられる。
蒸着後、膜質向上の観点から加湿処理の追加が好ましい。加湿処理時の温度は25~160℃が好ましい、相対湿度は40%以上が好ましい、処理時間は1時間以上が好ましい。
【0040】
図1は、本発明の方法により製造される下地層付き基材の一例を模式的に示す断面図である。下地層付き基材10は、基材12と、基材12の一方の表面に形成された下地層14と、を有する。
図1の例では、基材12と下地層14とが接しているが、これに限定されず、下地層付き基材は、基材12と下地層14との間に、図示しない他の層を有していてもよい。
図1の例では、基材12の一方の表面の全体に下地層14が形成されているが、これに限定されず、基材12の一部の領域のみに下地層14が形成されていてもよい。
図1の例では、基材12の一方の面のみに、下地層14が形成されているが、これに限定されず、基材12の両面に下地層14が形成されていてもよい。
【0041】
(基材)
基材としては、撥水撥油性の付与ができるので、撥水撥油性の付与が求められている基材が特に好ましい。基材の材料の具体例としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、および、これらの複合材料が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。
基材としては、タッチパネル用基材、ディスプレイ用基材が好ましく、タッチパネル用基材が特に好ましい。タッチパネル用基材は、透光性を有するのが好ましい。「透光性を有する」とは、JIS R3106:1998(ISO 9050:1990)に準じた垂直入射型可視光透過率が25%以上であるのを意味する。タッチパネル用基材の材料としては、ガラスおよび透明樹脂が好ましい。
また、基材としては、下記の例が挙げられる。建材、装飾建材、インテリア用品、輸送機器(たとえば、自動車)、看板・掲示板、飲用器・食器、水槽、観賞用器具(たとえば、額、箱)、実験器具、家具、アート・スポーツ・ゲームに使用する、ガラス製品または樹脂製品。携帯電話(たとえば、スマートフォン)、携帯情報端末、ゲーム機、リモコン等の機器における外装部分(表示部を除く)に使用する、ガラス製品または樹脂製品。
基材の形状は、板状、フィルム状でもよい。
【0042】
基材は、一方の表面または両面が、コロナ放電処理、プラズマ処理、プラズマグラフト重合処理等の表面処理が施された基材であってもよい。表面処理が施された表面は、基材と下地層の接着性がより優れ、その結果、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる。そのため、基材の下地層と接する側の表面に表面処理を施すことが好ましい。
【0043】
(下地層)
下地層は、ケイ素と元素Iとを少なくとも含む酸化物を含む。
下地層に含まれる酸化物は、元素Iとして、上記した元素を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
【0044】
下地層に含まれる酸化物は、上記元素(ケイ素と元素I)単独の酸化物の混合物(たとえば、酸化ケイ素と、元素Iの酸化物と、の混合物)であってもよいし、上記元素を含む複合酸化物であってもよいし、上記元素単独の酸化物と複合酸化物との混合物であってもよい。
【0045】
下地層は、含まれる成分が均一に分布する層(以下、「均質層」ともいう。)であっても、含まれる成分が不均一に分布する層(以下、「不均質層」ともいう。)であってもよい。不均質層の具体例としては、層中で成分の濃度勾配(層が形成する面の水平方向または垂直方向)が生じている場合(グラデーション構造)、連続的に存在する成分中に不連続的に他の成分が存在している場合(海島構造)が挙げられる。
下地層は、単層であっても複層であってもよいが、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる点から、単層が好ましい。
【0046】
下地層の厚みは、1~100nmが好ましく、1~50nmがより好ましく、2~20nmが特に好ましい。下地層の厚みが上記下限値以上であれば、下地層による撥水撥油層の接着性がより向上して、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる。下地層の厚みが上記上限値以下であれば、下地層自体の耐摩耗性が優れる。
下地層の厚みは、透過電子顕微鏡(TEM)による下地層の断面観察によって測定される。
【0047】
[撥水撥油層付き基材の製造方法]
本発明の撥水撥油層付き基材の製造方法は、本発明の下地付き基材の製造方法に記載したように、本発明の蒸着材料を用いた蒸着法によって、基材上に、ケイ素と元素Iとを含む酸化物を含む下地層を形成し、次いで、下地層上に、反応性シリル基を有する含フッ素化合物の縮合物からなる撥水撥油層を形成する方法が挙げられる。
【0048】
撥水撥油層は、含フッ素化合物または含フッ素化合物と液状媒体とを含む組成物(以下、「組成物」ともいう。)を用いて、ドライコーティングおよびウェットコーティングのいずれの製造方法でも形成できる。
組成物に含まれる液状媒体の具体例としては、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、フッ素系有機溶媒および非フッ素系有機溶媒が挙げられる。有機溶媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
フッ素系有機溶媒の具体例としては、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコールが挙げられる。
フッ素化アルカンは、炭素数4~8の化合物が好ましく、たとえば、C6F13H(AC-2000:製品名、AGC社製)、C6F13C2H5(AC-6000:製品名、AGC社製)、C2F5CHFCHFCF3(バートレル:製品名、デュポン社製)が挙げられる。
フッ素化芳香族化合物の具体例としては、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンが挙げられる。
フルオロアルキルエーテルは、炭素数4~12の化合物が好ましく、たとえば、CF3CH2OCF2CF2H(AE-3000:製品名、AGC社製)、C4F9OCH3(ノベック-7100:製品名、3M社製)、C4F9OC2H5(ノベック-7200:製品名、3M社製)、C2F5CF(OCH3)C3F7(ノベック-7300:製品名、3M社製)が挙げられる。
フッ素化アルキルアミンの具体例としては、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミンが挙げられる。
フルオロアルコールの具体例としては、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノールが挙げられる。
【0050】
非フッ素系有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物、および、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましく、具体的には、炭化水素系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、エステル系有機溶媒、アルコール系有機溶媒が挙げられる。
炭化水素系有機溶媒の具体例としては、ヘキサン、へプタン、シクロヘキサンが挙げられる。
ケトン系有機溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられる。
エーテル系有機溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
エステル系有機溶媒の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。
アルコール系有機溶媒の具体例としては、イソプロピルアルコール、エタノール、n-ブタノールが挙げられる。
【0051】
組成物中の含フッ素化合物の含有量は、組成物の全質量に対して、0.01~50.00質量%が好ましく、1.0~30.00質量%が特に好ましい。
組成物中の液状媒体の含有量は、組成物の全質量に対して、50.00~99.99質量%が好ましく、70.00~99.00質量%が特に好ましい。
【0052】
撥水撥油層は、たとえば、以下の方法で製造できる。
・含フッ素化合物を用いたドライコーティング法によって下地層の表面を処理して、下地層の表面に撥水撥油層を形成する方法。
・ウェットコーティング法によって組成物を下地層の表面に塗布し、乾燥させて、下地層の表面に撥水撥油層を形成する方法。
【0053】
ドライコーティング法の具体例としては、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法が挙げられる。これらの中でも、含フッ素化合物の分解を抑える点、および、装置の簡便さの点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着時には、鉄や鋼等の金属多孔体に含フッ素化合物を担持させた、または組成物を含浸させ乾燥させた、ペレット状物質を使用してもよい。
【0054】
ウェットコーティング法の具体例としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法が挙げられる。
【0055】
撥水撥油層の耐摩耗性を向上させるために、必要に応じて、反応性シリル基を有する含フッ素化合物と下地層との反応を促進するための操作を行ってもよい。該操作としては、加熱、加湿、光照射等が挙げられる。たとえば、水分を有する大気中で撥水撥油層が形成された下地層付き基材を加熱して、反応性シリル基のシラノール基への加水分解反応、シラノール基の縮合反応によるシロキサン結合の生成、下地層の表面のシラノール基と含フッ素化合物のシラノール基との縮合反応等の反応を促進できる。
表面処理後、撥水撥油層中の化合物であって他の化合物や酸化ケイ素層と化学結合していない化合物は、必要に応じて除去してもよい。具体的な方法としては、たとえば、撥水撥油層に溶媒をかけ流す方法、溶媒をしみ込ませた布でふき取る方法、撥水撥油層表面を酸洗浄する方法等が挙げられる。
【0056】
図2は、本発明の方法により製造される撥水撥油層付き基材の一例を模式的に示す断面図である。撥水撥油層付き基材20は、基材22と、基材22の一方の表面に形成された下地層24と、下地層24の表面に形成された撥水撥油層26と、を有する。
また、
図2の例では、下地層24の表面の全体に撥水撥油層26が形成されているが、これに限定されず、下地層24の一部の領域のみに撥水撥油層26が形成されていてもよい。
図2の例では、基材22の一方の面のみに、下地層24および撥水撥油層26が形成されているが、これに限定されず、基材22の両面に下地層24および撥水撥油層26が形成されていてもよい。
【0057】
(撥水撥油層)
撥水撥油層は、反応性シリル基を有する含フッ素化合物の縮合物からなる。
反応性シリル基とは、加水分解性シリル基およびシラノール基(Si-OH)を意味する。加水分解性シリル基の具体例としては、後述の式(2)で表される基のLが加水分解性基である基が挙げられる。
加水分解性シリル基は、加水分解反応によりSi-OHで表されるシラノール基となる。シラノール基は、さらにシラノール基間で脱水縮合反応してSi-O-Si結合を形成する。また、シラノール基は、下地層に含まれる酸化物に由来するシラノール基と脱水縮合反応してSi-O-Si結合を形成できる。すなわち、反応性シリル基の少なくとも一部が加水分解性シリル基である場合、撥水撥油層は、含フッ素化合物の反応性シリル基が加水分解反応および脱水縮合反応した縮合物を含む。反応性シリル基のすべてがシラノール基である場合は、撥水撥油層は、含フッ素化合物のシラノール基が脱水縮合反応した縮合物を含む。含フッ素化合物が有する反応性シリル基としては、その少なくとも一部が加水分解性シリル基であることが好ましい。
【0058】
撥水撥油層の厚みは、1~100nmが好ましく、1~50nmが特に好ましい。撥水撥油層の厚みが下限値以上であれば、撥水撥油層による効果が充分に得られる。撥水撥油層の厚みが上記上限値以下であれば、利用効率が高い。
撥水撥油層の厚みは、薄膜解析用X線回折計を用いて、X線反射率法(XRR)によって反射X線の干渉パターンを得て、この干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0059】
<反応性シリル基を有する含フッ素化合物>
反応性シリル基を有する含フッ素化合物は、撥水撥油層の撥水撥油性が優れる点から、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖および反応性シリル基を有する含フッ素エーテル化合物が好ましい。
【0060】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖は、式(1)で表される単位を複数含む。
(OX) ・・・(1)
【0061】
Xは、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキレン基である。
フルオロアルキレン基の炭素数は、撥水撥油層の耐候性および耐食性がより優れる点から、2~6が好ましく、2~4が特に好ましい。
フルオロアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、本発明の効果がより優れる点から、直鎖状が好ましい。
フルオロアルキレン基におけるフッ素原子の数としては、撥水撥油層の耐食性がより優れる点から、炭素原子の数の1~2倍が好ましく、1.7~2倍が特に好ましい。
フルオロアルキレン基は、フルオロアルキレン基中のすべての水素原子がフッ素原子に置換された基(ペルフルオロアルキレン基)であってもよい。
【0062】
単位(1)の具体例としては、-OCHF-、-OCF2CHF-、-OCHFCF2-、-OCF2CH2-、-OCH2CF2-、-OCF2CF2CHF-、-OCHFCF2CF2-、-OCF2CF2CH2-、-OCH2CF2CF2-、-OCF2CF2CF2CH2-、-OCH2CF2CF2CF2-、-OCF2CF2CF2CF2CH2-、-OCH2CF2CF2CF2CF2-、-OCF2CF2CF2CF2CF2CH2-、-OCH2CF2CF2CF2CF2CF2-、-OCF2-、-OCF2CF2-、-OCF2CF2CF2-、-OCF(CF3)CF2-、-OCF2CF2CF2CF2-、-OCF(CF3)CF2CF2-、-OCF2CF2CF2CF2CF2-、-OCF2CF2CF2CF2CF2CF2-が挙げられる。
【0063】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖中に含まれる単位(1)の繰り返し数mは2以上であり、2~200の整数がより好ましく、5~150の整数がさらに好ましく、5~100の整数が特に好ましく、10~50の整数が最も好ましい。
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖は、2種以上の単位(1)を含んでいてもよい。2種以上の単位(1)としては、たとえば、炭素数の異なる2種以上の単位(1)、炭素数が同じであっても側鎖の有無や側鎖の種類が異なる2種以上の単位(1)、炭素数が同じであってもフッ素原子の数が異なる2種以上の単位(1)が挙げられる。
2種以上の(OX)の結合順序は限定されず、ランダム、交互、ブロックに配置されてもよい。
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖は、指紋汚れ除去性の優れた膜とするために、オキシペルフルオロアルキレン基である単位(1)を主とするポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖であることが好ましい。(OX)mで表されるポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖において、単位(1)の全数m個に対するオキシペルフルオロアルキレン基である単位(1)の数の割合は、50~100%であることが好ましく、80~100%であることがより好ましく、90~100%が特に好ましい。
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖としては、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖、および、片末端または両末端に水素原子を有するオキシフルオロアルキレン単位をそれぞれ1個または2個有するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖がより好ましい。
【0064】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖が有する(OX)mとしては、(OCHmaF(2-ma))m11(OC2HmbF(4-mb))m12(OC3HmcF(6-mc))m13(OC4HmdF(8-md))m14(OC5HmeF(10-me))m15(OC6HmfF(12-mf))m16が好ましい。
maは0または1であり、mbは0~3の整数であり、mcは0~5の整数であり、mdは0~7の整数であり、meは0~9の整数であり、mfは0~11の整数である。
m11、m12、m13、m14、m15およびm16は、それぞれ独立に、0以上の整数であり、100以下が好ましい。
m11+m12+m13+m14+m15+m16は2以上の整数であり、2~200の整数がより好ましく、5~150の整数がより好ましく、5~100の整数がさらに好ましく、10~50の整数が特に好ましい。
なかでも、m12は2以上の整数が好ましく、2~200の整数が特に好ましい。
また、C3HmcF(6-mc)、C4HmdF(8-md)、C5HmeF(10-me)およびC6HmfF(12-mf)は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、撥水撥油層の耐摩擦性がより優れる点から直鎖状が好ましい。
【0065】
なお、上記式は単位の種類とその数を表すものであり、単位の配列を表すものではない。すなわち、m11~m16は単位の数を表すものであり、たとえば、(OCHmaF(2-ma))m11は、(OCHmaF(2-ma))単位がm11個連続したブロックを表すものではない。同様に、(OCHmaF(2-ma))~(OC6HmfF(12-mf))の記載順は、その記載順にそれらが配列していることを表すものではない。
上記式において、m11~m16の2以上が0でない場合(すなわち、(OX)mが2種以上の単位から構成されている場合)、異なる単位の配列は、ランダム配列、交互配列、ブロック配列およびそれら配列の組合せのいずれであってもよい。
さらに、上記各単位も、また、その単位が2以上含まれている場合、それらの単位は異なっていてもよい。たとえば、m11が2以上の場合、複数の(OCHmaF(2-ma))は同一であっても異なっていてもよい。
【0066】
反応性シリル基としては、式(2)で表される基が好ましい。
-Si(R)nL3-n ・・・(2)
【0067】
含フッ素エーテル化合物が有する基(2)の数は、1個以上であり、撥水撥油層の耐摩擦性がより優れる点で、2個以上が好ましく、2~10個がより好ましく、2~5個がさらに好ましく、2または3個が特に好ましい。
基(2)が1分子中に複数ある場合、複数ある基(2)は、同じであっても異なっていてもよい。原料の入手容易性や含フッ素エーテル化合物の製造容易性の点からは、互いに同じであることが好ましい。
【0068】
Rは、1価の炭化水素基であり、1価の飽和炭化水素基が好ましい。Rの炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
【0069】
Lは、加水分解性基または水酸基である。
加水分解性基は、加水分解反応により水酸基となる基である。すなわち、Si-Lで表される加水分解性を有するシリル基は、加水分解反応によりSi-OHで表されるシラノール基となる。シラノール基は、さらにシラノール基間で反応してSi-O-Si結合を形成する。また、シラノール基は、下地層に含まれる酸化物に由来するシラノール基と脱水縮合反応して、Si-O-Si結合を形成できる。
【0070】
加水分解性基の具体例としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、イソシアナート基(-NCO)が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。アリールオキシ基としては、炭素数3~10のアリールオキシ基が好ましい。ただしアリールオキシ基のアリール基としては、ヘテロアリール基を含む。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。アシル基としては、炭素数1~6のアシル基が好ましい。アシルオキシ基としては、炭素数1~6のアシルオキシ基が好ましい。
Lとしては、含フッ素エーテル化合物の製造がより容易である点から、炭素数1~4のアルコキシ基およびハロゲン原子が好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、含フッ素エーテル化合物の保存安定性がより優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、含フッ素エーテル化合物の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0071】
nは、0~2の整数である。
nは、0または1が好ましく、0が特に好ましい。Lが複数存在することによって、撥水撥油層の密着性がより強固になる。
nが1以下である場合、1分子中に存在する複数のLは同じであっても異なっていてもよい。原料の入手容易性や含フッ素エーテル化合物の製造容易性の点からは、互いに同じであることが好ましい。nが2である場合、1分子中に存在する複数のRは同じであっても異なっていてもよい。原料の入手容易性や含フッ素エーテル化合物の製造容易性の点からは、互いに同じであることが好ましい。
【0072】
含フッ素エーテル化合物としては、撥水撥油層の撥水撥油性および耐摩擦性により優れる点で、式(3)で表される化合物が好ましい。
[A-(OX)m-O-]jZ[-Si(R)nL3-n]g ・・・(3)
【0073】
Aは、ペルフルオロアルキル基または-Q[-Si(R)nL3-n]kである。
ペルフルオロアルキル基中の炭素数は、撥水撥油層の耐摩擦性がより優れる点から、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
ただし、Aが-Q[-Si(R)nL3-n]kである場合、jは1である。
【0074】
ペルフルオロアルキル基としては、CF3-、CF3CF2-、CF3CF2CF2-、CF3CF2CF2CF2-、CF3CF2CF2CF2CF2-、CF3CF2CF2CF2CF2CF2-、CF3CF(CF3)-等が挙げられる。
ペルフルオロアルキル基としては、撥水撥油層の撥水撥油性がより優れる点から、CF3-、CF3CF2-、CF3CF2CF2-が好ましい。
【0075】
Qは、(k+1)価の連結基である。後述するように、kは1~10の整数である。よって、Qとしては、2~11価の連結基が挙げられる。
Qとしては、本発明の効果を損なわない基であればよく、たとえば、エーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有していてもよいアルキレン基、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子、2~8価のオルガノポリシロキサン残基、および、基(g2-1)~基(g2-9)および基(g3-1)~基(g3-9)が挙げられる。
【0076】
R、L、n、Xおよびmの定義は、上述の通りである。
【0077】
Zは、(j+g)価の連結基である。
Zは、本発明の効果を損なわない基であればよく、たとえば、エーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有していてもよいアルキレン基、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子、2~8価のオルガノポリシロキサン残基、および、基(g2-1)~基(g2-9)および基(g3-1)~基(g3-9)が挙げられる。
【0078】
jは、1以上の整数であり、撥水撥油層の撥水撥油性がより優れる点から、1~5の整数が好ましく、化合物(3)を製造しやすい点から、1が特に好ましい。
gは、1以上の整数であり、撥水撥油層の耐摩擦性がより優れる点から、2~4の整数が好ましく、2または3がより好ましく、3が特に好ましい。
【0079】
化合物(3)としては、撥水撥油層の初期水接触角および耐摩擦性により優れる点から、化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)が好ましい。これらの中でも、化合物(3-11)および化合物(3-21)は撥水撥油層の初期水接触角に特に優れ、化合物(3-31)は、撥水撥油層の耐摩擦性に特に優れる。
【0080】
Rf1-(OX)m-O-Y11[-Si(R)nL3-n]g1 ・・・(3-11)
[Rf2-(OX)m-O-]j2Y21[-Si(R)nL3-n]g2 ・・・(3-21)
[L3-n(R)nSi-]k3Y32-(OX)m-O-Y31[-Si(R)nL3-n]g3 ・・・(3-31)
【0081】
式(3-11)中、X、m、R、nおよびLはそれぞれ、式(3)におけるX、m、R、nおよびLの定義と同義である。
Rf1は、ペルフルオロアルキル基であり、ペルフルオロアルキル基の好適態様および具体例は上述の通りである。
Y11は、(g1+1)価の連結基であり、その具体例は式(3)中のZと同じである。
g1は、2以上の整数であり、撥水撥油層の耐摩擦性がより優れる点から、2~15の整数が好ましく、2~4の整数がより好ましく、2または3がさらに好ましく、3が特に好ましい。
【0082】
式(3-21)中、X、m、R、nおよびLはそれぞれ、式(3)におけるX、m、R、nおよびLの定義と同義である。
Rf2は、ペルフルオロアルキル基であり、ペルフルオロアルキル基の好適態様および具体例は上述の通りである。
j2は、2以上の整数であり、2~6の整数が好ましく、2~4の整数がより好ましい。
Y21は、(j2+g2)価の連結基であり、その具体例は式(3)中のZと同じである。
g2は、2以上の整数であり、撥水撥油層の耐摩擦性がより優れる点から、2~15の整数が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、4が特に好ましい。
【0083】
式(3-31)中、X、m、R、nおよびLはそれぞれ、式(3)におけるX、m、R、nおよびLの定義と同義である。
k3は、1以上の整数であり、1~4の整数が好ましく、2または3がより好ましく、3が特に好ましい。
Y32は、(k3+1)価の連結基であり、その具体例は式(3)中のQと同じである。
Y31は、(g3+1)価の連結基であり、その具体例は式(3)中のZと同じである。
g3は、1以上の整数であり、1~4の整数が好ましく、2または3がより好ましく、3が特に好ましい。
【0084】
式(3-11)におけるY11は、基(g2-1)(ただし、d1+d3=1(つまり、d1またはd3が0である。)、g1=d2+d4、d2+d4≧2である。)、基(g2-2)(ただし、e1=1、g1=e2、e2≧2である。)、基(g2-3)(ただし、g1=2である。)、基(g2-4)(ただし、h1=1、g1=h2、h2≧2である。)、基(g2-5)(ただし、i1=1、g1=i2、i2≧2である。)、基(g2-7)(ただし、g1=i3+1である。)、基(g2-8)(ただし、g1=i4、i4≧2である。)、または、基(g2-9)(ただし、g1=i5、i5≧2である。)であってもよい。
式(3-21)におけるY21は、基(g2-1)(ただし、j2=d1+d3、d1+d3≧2、g2=d2+d4、d2+d4≧2である。)、基(g2-2)(ただし、j2=e1、e1=2、g2=e2、e2=2である。)、基(g2-4)(ただし、j2=h1、h1≧2、g2=h2、h2≧2である。)、または、基(g2-5)(ただし、j2=i1、i1=2、g2=i2、i2=2である。)であってもよい。
また、式(3-31)におけるY31およびY32はそれぞれ独立に、基(g2-1)(ただし、g3=d2+d4、k3=d2+d4である。)、基(g2-2)(ただし、g3=e2、k3=e2である。)、基(g2-3)(ただし、g3=2、k3=2である。)、基(g2-4)(ただし、g3=h2、k3=h2である。)、基(g2-5)(ただし、g3=i2、k3=i2である。)、基(g2-6)(ただし、g3=1、k3=1である。)、基(g2-7)(ただし、g3=i3+1、k3=i3+1である。)、基(g2-8)(ただし、g3=i4、k3=i4である。)、または、基(g2-9)(ただし、g3=i5、k3=i5である。)であってもよい。
【0085】
【0086】
(-A1-)e1C(Re2)4-e1-e2(-Q22-)e2 ・・・(g2-2)
-A1-N(-Q23-)2 ・・・(g2-3)
(-A1-)h1Z1(-Q24-)h2 ・・・(g2-4)
(-A1-)i1Si(Re3)4-i1-i2(-Q25-)i2 ・・・(g2-5)
-A1-Q26- ・・・(g2-6)
-A1-CH(-Q22-)-Si(Re3)3-i3(-Q25-)i3 ・・・(g2-7)
-A1-[CH2C(Re4)(-Q27-)]i4-Re5 ・・・(g2-8)
-A1-Za(-Q28-)i5 ・・・(g2-9)
【0087】
ただし、式(g2-1)~式(g2-9)においては、A1側が(OX)mに接続し、Q22、Q23、Q24、Q25、Q26、Q27およびQ28側が[-Si(R)nL3-n]に接続する。
【0088】
A1は、単結合、アルキレン基、または炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-OC(O)O-、-NHC(O)O-、-NHC(O)NR6-、-O-または-SO2NR6-を有する基であり、各式中、A1が2以上存在する場合、2以上のA1は同一であっても異なっていてもよい。アルキレン基の水素原子は、フッ素原子に置換されていてもよい。
Q22は、アルキレン基、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-または-O-を有する基、アルキレン基のSiに接続しない側の末端に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-または-O-を有する基、または炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-または-O-を有しかつSiに接続しない側の末端に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-または-O-を有する基であり、各式中、Q22が2以上存在する場合、2以上のQ22は同一であっても異なっていてもよい。
Q23は、アルキレン基、または炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-または-O-を有する基であり、2個のQ23は同一であっても異なっていてもよい。
Q24は、Q24が結合するZ1における原子が炭素原子の場合、Q22であり、Q24が結合するZ1における原子が窒素原子の場合、Q23であり、各式中、Q24が2以上存在する場合、2以上のQ24は同一であっても異なっていてもよい。
Q25は、アルキレン基、または炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-または-O-を有する基であり、各式中、Q25が2以上存在する場合、2以上のQ25は同一であっても異なっていてもよい。
Q26は、アルキレン基、または炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-または-O-を有する基である。
R6は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基またはフェニル基である。
Q27は、単結合またはアルキレン基である。
Q28は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
【0089】
Z1は、A1が直接結合する炭素原子または窒素原子を有しかつQ24が直接結合する炭素原子または窒素原子を有するh1+h2価の環構造を有する基である。
【0090】
Re1は、水素原子またはアルキル基であり、各式中、Re1が2以上存在する場合、2以上のRe1は同一であっても異なっていてもよい。
Re2は、水素原子、水酸基、アルキル基またはアシルオキシ基である。
Re3は、アルキル基である。
Re4は、水素原子またはアルキル基であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。各式中、Re4を2以上存在する場合、2以上のRe4は同一であっても異なっていてもよい。
Re5は、水素原子またはハロゲン原子であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
【0091】
d1は、0~3の整数であり、1または2が好ましい。d2は、0~3の整数であり、1または2が好ましい。d1+d2は、1~3の整数である。
d3は、0~3の整数であり、0または1が好ましい。d4は、0~3の整数であり、2または3が好ましい。d3+d4は、1~3の整数である。
d1+d3は、Y11またはY21においては1~5の整数であり、1または2が好ましく、Y11、Y31およびY32においては1である。
d2+d4は、Y11またはY21においては2~5の整数であり、4または5が好ましく、Y31およびY32においては3~5の整数であり、4または5が好ましい。
e1+e2は、3または4である。e1は、Y11においては1であり、Y21においては2~3の整数であり、Y31およびY32においては1である。e2は、Y11またはY21においては2または3であり、Y31およびY32においては2または3である。
h1は、Y11においては1であり、Y21においては2以上の整数(2が好ましい)であり、Y31およびY32においては1である。h2は、Y11またはY21においては2以上の整数(2または3が好ましい)であり、Y31およびY32においては1以上の整数(2または3が好ましい)である。
i1+i2は、Y11においては3または4であり、Y12においては4であり、Y31およびY32においては3または4である。i1は、Y11においては1であり、Y21においては2であり、Y31およびY32においては1である。i2は、Y11においては2または3であり、Y12においては2であり、Y31およびY32においては2または3である。
i3は、2または3である。
i4は、Y11においては2以上(2~10の整数が好ましく、2~6の整数が特に好ましい)であり、Y31およびY32においては1以上(1~10の整数が好ましく、1~6の整数が特に好ましい)である。
i5は、2以上であり、2~7の整数であることが好ましい。
【0092】
Q22、Q23、Q24、Q25、Q26、Q27、Q28のアルキレン基の炭素数は、化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)を製造しやすい点、および撥水撥油層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~4が特に好ましい。ただし、炭素-炭素原子間に特定の結合を有する場合のアルキレン基の炭素数の下限値は2である。
【0093】
Z1における環構造としては、上述した環構造が挙げられ、好ましい形態も同様である。なお、Z1における環構造にはA1やQ24が直接結合するため、環構造にたとえばアルキレン基が連結して、そのアルキレン基にA1やQ24が連結することはない。
Zaは、(i5+1)価のオルガノポリシロキサン残基であり、下記の基が好ましい。ただし、下式におけるRaは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10)、または、フェニル基である。
【0094】
【0095】
Re1、Re2、Re3またはRe4のアルキル基の炭素数は、化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)を製造しやすい点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1~2が特に好ましい。
Re2のアシルオキシ基のアルキル基部分の炭素数は、化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)を製造しやすい点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1~2が特に好ましい。
h1は、化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)を製造しやすい点、ならびに、撥水撥油層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性がさらに優れる点から、1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が特に好ましい。
h2は、化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)を製造しやすい点、ならびに、撥水撥油層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性がさらに優れる点から、2~6が好ましく、2~4がより好ましく、2または3が特に好ましい。
【0096】
Y11の他の形態としては、基(g3-1)(ただし、d1+d3=1(つまり、d1またはd3が0である。)、g1=d2×r1+d4×r1である。)、基(g3-2)(ただし、e1=1、g1=e2×r1である。)、基(g3-3)(ただし、g1=2×r1である。)、基(g3-4)(ただし、h1=1、g1=h2×r1である。)、基(g3-5)(ただし、i1=1、g1=i2×r1である。)、基(g3-6)(ただし、g1=r1である。)、基(g3-7)(ただし、g1=r1×(i3+1)である。)、基(g3-8)(ただし、g1=r1×i4である。)、基(g3-9)(ただし、g1=r1×i5である。)が挙げられる。
Y21の他の形態としては、基(g3-1)(ただし、j2=d1+d3、d1+d3≧2、g2=d2×r1+d4×r1である。)、基(g3-2)(ただし、j2=e1、e1=2、g2=e2×r1、e2=2である。)、基(g3-4)(ただし、j2=h1、h1≧2、g2=h2×r1である。)、基(g3-5)(ただし、j2=i1、i1は2または3、g2=i2×r1、i1+i2は3または4である。)が挙げられる。
Y31およびY32の他の形態としては、基(g3-1)(ただし、g3=d2×r1+d4×r1、k3=d2×r1+d4×r1である。)、基(g3-2)(ただし、g3=e2×r1、k3=e2×r1である。)、基(g3-3)(ただし、g3=2×r1、k3=2×r1である。)、基(g3-4)(ただし、g3=h2×r1、k3=h2×r1である。)、基(g3-5)(ただし、g3=i2×r1、k3=i2×r1である。)、基(g3-6)(ただし、g3=r1、k3=r1である。)、基(g3-7)(ただし、g3=r1×(i3+1)、k3=r1×(i3+1)である。)、基(g3-8)(ただし、g3=r1×i4、k3=r1×i4である。)、基(g3-9)(ただし、g3=r1×i5、k3=r1×i5である。)が挙げられる。
【0097】
【0098】
(-A1-)e1C(Re2)4-e1-e2(-Q22-G1)e2 ・・・(g3-2)
-A1-N(-Q23-G1)2 ・・・(g3-3)
(-A1-)h1Z1(-Q24-G1)h2 ・・・(g3-4)
(-A1-)i1Si(Re3)4-i1-i2(-Q25-G1)i2 ・・・(g3-5)
-A1-Q26-G1 ・・・(g3-6)
-A1-CH(-Q22-G1)-Si(Re3)3-i3(-Q25-G1)i3 ・・・(g3-7)
-A1-[CH2C(Re4)(-Q27-G1)]i4-Re5 ・・・(g3-8)
-A1-Za(-Q28-G1)i5 ・・・(g3-9)
【0099】
ただし、式(g3-1)~式(g3-9)においては、A1側が(OX)mに接続し、G1側が[-Si(R)nL3-n]に接続する。
【0100】
G1は、基(g3)であり、各式中、G1が2以上存在する場合、2以上のG1は同一であっても異なっていてもよい。G1以外の符号は、式(g2-1)~式(g2-9)における符号と同じである。
-Si(R8)3-r1(-Q3-)r1 ・・・(g3)
ただし、式(g3)においては、Si側がQ22、Q23、Q24、Q25、Q26、Q27およびQ28に接続し、Q3側が[-Si(R)nL3-n]に接続する。R8は、アルキル基である。Q3は、アルキレン基、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-または-O-を有する基、または-(OSi(R9)2)p-O-であり、2以上のQ3は同一であっても異なっていてもよい。r1は、2または3である。R6は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基またはフェニル基である。R9は、アルキル基、フェニル基またはアルコキシ基であり、2個のR9は同一であっても異なっていてもよい。pは、0~5の整数であり、pが2以上の場合、2以上の(OSi(R9)2)は同一であっても異なっていてもよい。
【0101】
Q3のアルキレン基の炭素数は、化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)を製造しやすい点、ならびに、撥水撥油層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~4が特に好ましい。ただし、炭素-炭素原子間に特定の結合を有する場合のアルキレン基の炭素数の下限値は2である。
R8のアルキル基の炭素数は、化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)を製造しやすい点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1~2が特に好ましい。
R9のアルキル基の炭素数は、化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)を製造しやすい点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1~2が特に好ましい。
R9のアルコキシ基の炭素数は、化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)の保存安定性に優れる点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1~2が特に好ましい。
pは、0または1が好ましい。
【0102】
化合物(3-11)、化合物(3-21)および化合物(3-31)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。下式の化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、撥水撥油層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、耐薬品性、耐光性および耐薬品性がより優れ、なかでも耐光性が特に優れる点から好ましい。下式の化合物におけるRfは、上述した式(3-11)におけるRf1-(OX)m-O-または式(3-21)におけるRf2-(OX)m-O-と同様であり、好適態様も同様である。下式の化合物におけるQfは、式(3-31)における-(OX)m-O-と同様であり、好適態様も同様である。
【0103】
Y11が基(g2-1)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0104】
【0105】
Y11が基(g2-2)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0106】
【0107】
Y21が基(g2-2)である化合物(3-21)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0108】
【0109】
Y11が基(g2-3)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0110】
【0111】
Y11が基(g2-4)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0112】
【0113】
Y11が基(g2-5)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0114】
【0115】
Y11が基(g2-7)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0116】
【0117】
Y11が基(g3-1)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0118】
【0119】
Y11が基(g3-2)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0120】
【0121】
Y11が基(g3-3)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0122】
【0123】
Y11が基(g3-4)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0124】
【0125】
Y11が基(g3-5)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0126】
【0127】
Y11が基(g3-6)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0128】
【0129】
Y11が基(g3-7)である化合物(3-11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0130】
【0131】
Y21が基(g2-1)である化合物(3-21)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0132】
【0133】
Y31およびY32が基(g2-1)である化合物(3-31)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0134】
【0135】
Y31およびY32が基(g2-2)である化合物(3-31)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0136】
【0137】
Y31およびY32が基(g2-3)である化合物(3-31)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0138】
【0139】
Y31およびY32が基(g2-4)である化合物(3-31)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0140】
【0141】
Y31およびY32が基(g2-5)である化合物(3-31)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0142】
【0143】
Y31およびY32が基(g2-6)である化合物(3-31)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0144】
【0145】
Y31およびY32が基(g2-7)である化合物(3-31)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0146】
【0147】
Y31およびY32が基(g3-2)である化合物(3-31)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0148】
【0149】
含フッ素エーテル化合物としては、膜の撥水撥油性および耐摩擦性により優れる点で、式(3X)で表される化合物もまた好ましい。
[A-(OX)m]jZ’[-Si(R)nL3-n]g ・・・(3X)
【0150】
化合物(3X)は、撥水撥油層の撥水撥油性がより優れる点から、式(3-1)で表される化合物が好ましい。
A-(OX)m-Z31 ・・・(3-1)
式(3-1)中、A、Xおよびmの定義は、式(3)中の各基の定義と同義である。
【0151】
Z’は(j+g)価の連結基である。
Z’は、本発明の効果を損なわない基であればよく、たとえば、エーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有していてもよいアルキレン基、酸素原子、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子、2~8価のオルガノポリシロキサン残基、および、式(3-1A)、式(3-1B)、式(3-1A-1)~(3-1A-6)からSi(R)nL3-nを除いた基が挙げられる。
【0152】
Z31は、基(3-1A)または基(3-1B)である。
-Qa-X31(-Qb-Si(R)nL3-n)h(-R31)i ・・・(3-1A)
-Qc-[CH2C(R32)(-Qd-Si(R)nL3-n)]y-R33 ・・・(3-1B)
【0153】
Qaは、単結合または2価の連結基である。
2価の連結基としては、たとえば、2価の炭化水素基、2価の複素環基、-O-、-S-、-SO2-、-N(Rd)-、-C(O)-、-Si(Ra)2-および、これらを2種以上組み合わせた基が挙げられる。ここで、Raは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10)、または、フェニル基である。Rdは、水素原子またはアルキル基(好ましくは炭素数1~10)である。
上記2価の炭化水素基としては、2価の飽和炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられる。2価の飽和炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよく、たとえば、アルキレン基が挙げられる。2価の飽和炭化水素基の炭素数は1~20が好ましい。また、2価の芳香族炭化水素基は、炭素数5~20が好ましく、たとえば、フェニレン基が挙げられる。アルケニレン基としては、炭素数2~20のアルケニレン基が好ましく、アルキニレン基としては、炭素数2~20のアルキニレン基が好ましい。
なお、上記これらを2種以上組み合わせた基としては、たとえば、-OC(O)-、-C(O)N(Rd)-、エーテル性酸素原子を有するアルキレン基、-OC(O)-を有するアルキレン基、アルキレン基-Si(Ra)2-フェニレン基-Si(Ra)2が挙げられる。
【0154】
X31は、単結合、アルキレン基、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子または2~8価のオルガノポリシロキサン残基である。
なお、上記アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有していてもよい。アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基およびジアルキルシリレン基からなる群から選択される基を複数有していてもよい。
X31で表されるアルキレン基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10が特に好ましい。
2~8価のオルガノポリシロキサン残基としては、2価のオルガノポリシロキサン残基、および、後述する(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基が挙げられる。
【0155】
Qbは、単結合または2価の連結基である。
2価の連結基の定義は、上述したQaで説明した定義と同義である。
【0156】
R31は、水酸基またはアルキル基である。
アルキル基の炭素数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1が特に好ましい。
【0157】
X31が単結合またはアルキレン基の場合、hは1、iは0であり、
X31が窒素原子の場合、hは1~2の整数であり、iは0~1の整数であり、h+i=2を満たし、
X31が炭素原子またはケイ素原子の場合、hは1~3の整数であり、iは0~2の整数であり、h+i=3を満たし、
X31が2~8価のオルガノポリシロキサン残基の場合、hは1~7の整数であり、iは0~6の整数であり、h+i=1~7を満たす。
(-Qb-Si(R)nL3-n)が2個以上ある場合は、2個以上の(-Qb-Si(R)nL3-n)は、同一であっても異なっていてもよい。R31が2個以上ある場合は、2個以上の(-R31)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0158】
Qcは、単結合、または、エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基であり、化合物を製造しやすい点から、単結合が好ましい。
エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0159】
R32は、水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
アルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0160】
Qdは、単結合またはアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。化合物を製造しやすい点から、Qdは、単結合または-CH2-が好ましい。
【0161】
R33は、水素原子またはハロゲン原子であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
【0162】
yは、1~10の整数であり、1~6の整数が好ましい。
2個以上の[CH2C(R32)(-Qd-Si(R)nL3-n)]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0163】
基(3-1A)としては、基(3-1A-1)~(3-1A-6)が好ましい。
-(X32)s1-Qb1-SiRnL3-n ・・・(3-1A-1)
-(X33)s2-Qa2-N[-Qb2-Si(R)n3L3-n]2 ・・・(3-1A-2)
-Qa3-G(Rg)[-Qb3-Si(R)nL3-n]2 ・・・(3-1A-3)
-[C(O)N(Rd)]s4-Qa4-(O)t4-C[-(O)u4-Qb4-Si(R)nL3-n]3 ・・・(3-1A-4)
-Qa5-Si[-Qb5-Si(R)nL3-n]3 ・・・(3-1A-5)
-[C(O)N(Rd)]v-Qa6-Za’[-Qb6-Si(R)nL3-n]w ・・・(3-1A-6)
なお、式(3-1A-1)~(3-1A-6)中、R、L、および、nの定義は、上述した通りである。
【0164】
X32は、-O-、または、-C(O)N(Rd)-である(ただし、式中のNはQb1に結合する)。
Rdの定義は、上述した通りである。
s1は、0または1である。
【0165】
Qb1は、アルキレン基である。なお、アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有していてもよい。アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基およびジアルキルシリレン基からなる群から選択される基を複数有していてもよい。
なお、アルキレン基が-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有する場合、炭素原子-炭素原子間にこれらの基を有することが好ましい。
【0166】
Qb1で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0167】
Qb1としては、s1が0の場合は、-CH2OCH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2OCH2CH2CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2-が好ましい。(X32)s1が-O-の場合は、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2OCH2CH2CH2-が好ましい。(X32)s1が-C(O)N(Rd)-の場合は、炭素数2~6のアルキレン基が好ましい(ただし、式中のNはQb1に結合する)。Qb1がこれらの基であると化合物が製造しやすい。
【0168】
基(3-1A-1)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0169】
【0170】
X33は、-O-、-NH-、または、-C(O)N(Rd)-である。
Rdの定義は、上述した通りである。
【0171】
Qa2は、単結合、アルキレン基、-C(O)-、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-もしくは-NH-を有する基である。
Qa2で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。
Qa2で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-または-NH-を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0172】
Qa2としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2-、-CH2NHCH2CH2-、-CH2CH2OC(O)CH2CH2-、-C(O)-が好ましい(ただし、右側がNに結合する。)。
【0173】
s2は、0または1(ただし、Qa2が単結合の場合は0である。)である。化合物を製造しやすい点から、0が好ましい。
【0174】
Qb2は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に、2価のオルガノポリシロキサン残基、エーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基である。
Qb2で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb2で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に、2価のオルガノポリシロキサン残基、エーテル性酸素原子または-NH-を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0175】
Qb2としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2OCH2CH2CH2-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0176】
2個の[-Qb2-Si(R)nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0177】
基(3-1A-2)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0178】
【0179】
Qa3は、単結合、または、エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基であり、化合物を製造しやすい点から、単結合が好ましい。
エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0180】
Gは、炭素原子またはケイ素原子である。
Rgは、水酸基またはアルキル基である。Rgで表されるアルキル基の炭素数は、1~4が好ましい。
G(Rg)としては、化合物を製造しやすい点から、C(OH)またはSi(Rga)(ただし、Rgaはアルキル基である。アルキル基の炭素数は1~10が好ましく、メチル基が特に好ましい。)が好ましい。
【0181】
Qb3は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
Qb3で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb3で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb3としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2-が好ましい。
【0182】
2個の[-Qb3-Si(R)nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0183】
基(3-1A-3)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0184】
【0185】
式(3-1A-4)中のRdの定義は、上述した通りである。
s4は、0または1である。
Qa4は、単結合、または、エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基である。
エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
t4は、0または1(ただし、Qa4が単結合の場合は0である。)である。
-Qa4-(O)t4-としては、化合物を製造しやすい点から、s4が0の場合は、単結合、-CH2O-、-CH2OCH2-、-CH2OCH2CH2O-、-CH2OCH2CH2OCH2-、-CH2OCH2CH2CH2CH2OCH2-が好ましく(ただし、左側が(OX)mに結合する。)、s4が1の場合は、単結合、-CH2-、-CH2CH2-が好ましい。
【0186】
Qb4は、アルキレン基であり、上記アルキレン基は-O-、-C(O)N(Rd)-(Rdの定義は、上述した通りである。)、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有していてもよい。
なお、アルキレン基が-O-またはシルフェニレン骨格基を有する場合、炭素原子-炭素原子間に-O-またはシルフェニレン骨格基を有することが好ましい。また、アルキレン基が-C(O)N(Rd)-、ジアルキルシリレン基または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する場合、炭素原子-炭素原子間または(O)u4と結合する側の末端にこれらの基を有することが好ましい。
Qb4で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0187】
u4は、0または1である。
-(O)u4-Qb4-としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2CH2CH2CH2-、-OCH2CH2CH2-、-OSi(CH3)2CH2CH2CH2-、-OSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2Si(CH3)2PhSi(CH3)2CH2CH2-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0188】
3個の[-(O)u4-Qb4-Si(R)nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0189】
基(3-1A-4)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0190】
【0191】
Qa5は、エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基である。
エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qa5としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2OCH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2OCH2CH2CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0192】
Qb5は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
Qb5で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb5で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb5としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2OCH2CH2CH2-が好ましい(ただし、右側がSi(R)nL3-nに結合する。)。
【0193】
3個の[-Qb5-Si(R)nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0194】
基(3-1A-5)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0195】
【0196】
式(3-1A-6)中のRdの定義は、上述の通りである。
vは、0または1である。
【0197】
Qa6は、エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基である。
エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qa6としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2OCH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2OCH2CH2CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-が好ましい(ただし、右側がZa’に結合する。)。
【0198】
Za’は、(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基である。
wは、2以上であり、2~7の整数であることが好ましい。
(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基としては、前述した(i5+1)価のオルガノポリシロキサン残基と同じ基が挙げられる。
【0199】
Qb6は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
Qb6で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb6で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb6としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-が好ましい。
【0200】
w個の[-Qb6-Si(R)n3L3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0201】
化合物(3X)は、撥水撥油層の撥水撥油性がより優れる点から、式(3-2)で表される化合物もまた好ましい。
[A-(OX)m-Qa-]j32Z32[-Qb-Si(R)nL3-n]h32 ・・・(3-2)
式(3-2)中、A、X、m、Qa、Qb、R、およびLの定義は、式(3-1)中および式(3-1A)中の各基の定義と同義である。
【0202】
Z32は、(j32+h32)価の炭化水素基、または、炭化水素基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する炭素数2以上で(j32+h32)価の炭化水素基である。
Z32としては、1級の水酸基を有する多価アルコールから水酸基を除いた残基が好ましい。
Z32としては、原料の入手容易性の点から、式(Z-1)~式(Z-5)で表される基が好ましい。ただし、R34は、アルキル基であり、メチル基またはエチル基が好ましい。
【0203】
【0204】
j32は2以上の整数であり、撥水撥油層の撥水撥油性がより優れる点から、2~5の整数が好ましい
h32は1以上の整数であり、撥水撥油層の耐摩擦性がより優れる点から、2~4の整数が好ましく、2または3がより好ましい。
【0205】
含フッ素エーテル化合物の具体例としては、たとえば、下記の文献に記載のものが挙げられる。
特開平11-029585号公報および特開2000-327772号公報に記載のパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン、
特許第2874715号公報に記載のケイ素含有有機含フッ素ポリマー、
特開2000-144097号公報に記載の有機ケイ素化合物、
特表2002-506887号公報に記載のフッ素化シロキサン、
特表2008-534696号公報に記載の有機シリコーン化合物、
特許第4138936号公報に記載のフッ素化変性水素含有重合体、
米国特許出願公開第2010/0129672号明細書、国際公開第2014/126064号、特開2014-070163号公報に記載の化合物、
国際公開第2011/060047号および国際公開第2011/059430号に記載のオルガノシリコン化合物、
国際公開第2012/064649号に記載の含フッ素オルガノシラン化合物、
特開2012-72272号公報に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー、
国際公開第2013/042732号、国際公開第2013/121984号、国際公開第2013/121985号、国際公開第2013/121986号、国際公開第2014/163004号、特開2014-080473号公報、国際公開第2015/087902号、国際公開第2017/038830号、国際公開第2017/038832号、国際公開第2017/187775号、国際公開第2018/216630号、国際公開第2019/039186号、国際公開第2019/039226号、国際公開第2019/039341号、国際公開第2019/044479号、国際公開第2019/049753号、国際公開第2019/163282号および特開2019-044158号公報、に記載の含フッ素エーテル化合物、
特開2014-218639号公報、国際公開第2017/022437号、国際公開第2018/079743号および国際公開第2018/143433号に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル含有シラン化合物、
国際公開第2018/169002号に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、
国際公開第2019/151442号に記載のフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、
国際公開第2019/151445号に記載の(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、
国際公開第2019/098230号に記載のパーフルオロポリエーテル基含有化合物、
特開2015-199906号公報、特開2016-204656号公報、特開2016-210854号公報および特開2016-222859号公報に記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン、
国際公開第2019/039083号および国際公開第2019/049754号に記載の含フッ素化合物。
【0206】
含フッ素エーテル化合物の市販品としては、信越化学工業社製のKY-100シリーズ(KY-178、KY-185、KY-195等)、AGC社製のAfluid(登録商標)S550、ダイキン工業社製のオプツール(登録商標)DSX、オプツール(登録商標)AES、オプツール(登録商標)UF503、オプツール(登録商標)UD509等が挙げられる。
【実施例】
【0207】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例1~5は実施例であり、例6~7は比較例である。
【0208】
[評価]
(塗膜均一性)
LEDライト照射条件下で、100枚の10cm×10cmの撥水撥油層付きガラス基材を目視で検査した。検査した基材の中、欠点が一つも存在しない基材の比率が全枚数中、90%以上の場合を「○」、欠点が一つも存在しない基材の比率が全枚数中、90%未満の場合を「×」とした。
なお、欠点とは、下地層上に撥水撥油層が形成されない欠陥領域、撥水撥油層中に観察される異物、及び、下地層中に観察される異物を意味する。
【0209】
(組成バラツキ)
後述する下地層付き基材を製造する際に、真空蒸着装置内に40枚のガラス基材を配置して、40枚のサンプル(下地層付き基材)を作製した。
得られた40枚のサンプル中の下地層の組成をX線光電子分光分析によりそれぞれ分析して、各サンプルにおけるケイ素に対する元素Iのモル比を求め、40枚のサンプルの内の上記比率の最大値と最小値との差が0.3未満の場合を「○」、0.3以上の場合を「×」とした。
【0210】
[含フッ素化合物の合成]
国際公開第2014/126064号に記載の化合物(ii-2)の製造方法を参考にして、化合物(3A)を得た。
化合物(3A):CF3CF2-OCF2CF2-(OCF2CF2CF2CF2OCF2CF2)n-OCF2CF2CF2-C(O)NH-CH2CH2CH2-Si(OCH3)3
繰り返し単位数nの平均値:13、化合物(3A)の数平均分子量:4,920。
【0211】
(例1)
アイリッヒインテンシブミキサーEL-1(日本アイリッヒ社製)に、ソーダ灰(ソーダアッシュジャパン社製)の17.36g、シリカ粒子SC5500-SQ(商品名、アドマテックス社製)の243.66gを添加し、2400rpmで30秒間撹拌混合した。撹拌速度を4800rpmに変更し、撹拌しながら蒸留水40.2gを加え、さらに4800rpmで60秒間撹拌した。最後に1200rpmで60秒間撹拌した。得られた粒子をEL-1から取り出して、150℃で30分間乾燥した後、1,150℃で1時間焼成して焼結体1を得た。焼結体1についてSiとNaとの元素含有量をICP発光分光分析(日立ハイテクサイエンス社製SPS5520)で測定し、各元素含有量を酸化物換算し、これらの合計質量に対する質量%を求めた。結果を表1に示す。
次に、焼結体1を25℃、湿度50%の恒温恒湿槽に7日間放置した後、含水率を測定した。なお、上記放置処理を実施した後、別途乾燥処理は実施しなかった。
真空蒸着装置(アルバック機工社製VTR-350M)内のモリブデン製ボートに、下地層の蒸着源として、焼結体1の10g、撥水撥油層の蒸着源の含フッ素エーテル化合物として、化合物(3A)の0.5gをそれぞれ配置した。真空蒸着装置内にガラス基材(AGC社製Dragontrail(登録商標))を配置し、真空蒸着装置内を5×10-3Pa以下の圧力になるまで排気した。
造粒体1を載せたボートを1,000℃になるまで加熱し、ガラス基材に真空蒸着させ、厚み10nmの下地層を形成し、下地層付きガラス基材を得た。
化合物(3A)を載せたボートを700℃になるまで加熱し、下地層に化合物(3A)の縮合物を真空蒸着させ、厚み10nmの撥水撥油層を形成後、140℃30分間熱処理し、撥水撥油層付きガラス基材を得た。
【0212】
(例2~7)
使用する原料、水添加量を表1に記載の条件に変更し、さらに、例1の1200rpmで60秒間撹拌を表1に記載の条件に変更した以外は、例1と同様の手順に従って、撥水撥油層付きガラス基材を得た。
【0213】
表1中の「水添加量」とは、シリカ粒子の質量に対して添加する水の質量割合を表す。
表1中の「質量割合」欄は、得られた蒸着材料中の全粒子合計質量に対する、粒径0.5mm未満の粒子、粒径0.5~22.4mmの粒子、粒径22.4mm超の粒子のそれぞれの含有量を表す。
表1中の「D90/D10」欄は、蒸着材料を構成する粒子の体積基準の粒度分布において、累積粒子数10%の時の粒径をD10、累積粒子数90%の時の粒径をD90と規定したとき、D10に対する、D90の比(D90/D10)を表す。
表1中の「元素I/ケイ素(モル比)」欄は、蒸着材料中のケイ素のモル濃度に対する、元素Iの合計モル濃度の比を表す。
表1中の「含水率」欄は、蒸着材料の含水率を表す。
【0214】
【0215】
本発明の蒸着材料であれば、所望の効果が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0216】
本発明の撥水撥油層付き基材は、撥水撥油性の付与が求められている各種の用途に用いることができる。たとえば、タッチパネル等の表示入力装置、透明なガラス製または透明なプラスチック製部材、メガネ用等のレンズ、キッチン用防汚部材、電子機器、熱交換器、電池等の撥水防湿部材や防汚部材、トイレタリー用防汚部材、導通しながら撥液が必要な部材、熱交換機の撥水・防水・滑水用部材、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦用部材等に用いることができる。より具体的な使用例としては、ディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板、あるいはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの、携帯電話(たとえば、スマートフォン)、携帯情報端末、ゲーム機、リモコン等の機器のタッチパネルシートやタッチパネルディスプレイ等の人の指または手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する各種機器(たとえば、表示部等に使用するガラスまたはフィルム、ならびに、表示部以外の外装部分に使用するガラスまたはフィルム)が挙げられる。上記以外にも、トイレ、風呂、洗面所、キッチン等の水周りの装飾建材、配線板用防水部材、熱交換機の撥水・防水・滑水用部材、太陽電池の撥水部材、プリント配線板の防水・撥水用部材、電子機器筐体や電子部品用の防水・撥水用部材、送電線の絶縁性向上用部材、各種フィルタの防水・撥水用部材、電波吸収材や吸音材の防水用部材、風呂、厨房機器、トイレタリー用の防汚部材、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦用部材、機械部品、真空機器部品、ベアリング部品、自動車等の輸送機器用部品、工具等の表面保護用部材が挙げられる。
なお、2018年12月26日に出願された日本特許出願2018-242750号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0217】
10 下地層付き基材
12 基材
14 下地層
20 撥水撥油層付き基材
22 基材
24 下地層
26 撥水撥油層