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特許7513158半導体基板の洗浄方法、加工された半導体基板の製造方法、及び、剥離及び溶解用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】半導体基板の洗浄方法、加工された半導体基板の製造方法、及び、剥離及び溶解用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240702BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20240702BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20240702BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 622J
H01L21/304 622Q
C11D7/26
C11D7/32
C11D7/50
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023083161
(22)【出願日】2023-05-19
(62)【分割の表示】P 2023524112の分割
【原出願日】2022-09-13
(65)【公開番号】P2024015474
(43)【公開日】2024-02-02
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2021151098
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(72)【発明者】
【氏名】柳生 雅文
(72)【発明者】
【氏名】奥野 貴久
(72)【発明者】
【氏名】新城 徹也
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/106460(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/100651(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/166702(WO,A1)
【文献】特開2017-11279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 7/26
C11D 7/32
C11D 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上の接着層を、剥離及び溶解用組成物を用いて膨潤剥離及び溶解する工程を含む、半導体基板の洗浄方法であって、
前記剥離及び溶解用組成物が、
[I]成分:第四級アンモニウム塩、
[II]成分:アミド系溶媒、
[III]成分:下記式(L)で表される溶媒、及び
[IV]成分:下記式(T)または下記式(G)で表される溶媒を含み、
前記第四級アンモニウム塩が、含ハロゲン第四級アンモニウム塩であり、
前記アミド系溶媒が、下記式(Z)で表される酸アミド誘導体、または下記式(Y)で表される化合物であり、
前記剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒100質量%における前記[II]成分のアミド系溶媒の含有量が、20~50質量%である、
ことを特徴とする半導体基板の洗浄方法。
【化1】
(式中、L及びLは、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキル基を表し、Lは、O又はSを表す。)
【化2】
(式中、X 及びX は、それぞれ独立して、アルキル基、またはアシル基(X -C(=O)-)を表し、X は、アルキレン基を表し、nは、2または3を表す。X は、アルキル基を表す。)
【化3】
(式中、L 11 及びL 12 は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、L 11 のアルキル基の炭素数とL 12 のアルキル基の炭素数の合計は、7以下である。)
【化4】
(式中、R は、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R 及びR は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【化5】
(式中、R 101 は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R 102 は炭素数1~6のアルキレン基又は下記式(Y1)で表される基を表す。)
【化6】
(式中、R 103 は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R 104 は炭素数1~5のアルキレン基を表し、*1は式(Y)中の炭素原子に結合する結合手を表し、*2は式(Y)中の窒素原子に結合する結合手を表す。)
【請求項2】
前記L1及びLが、同一の基である、請求項1に記載の半導体基板の洗浄方法。
【請求項3】
前記接着層が、シロキサン系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリスチレン系接着剤、ポリイミド接着剤及びフェノール樹脂系接着剤から選ばれる少なくとも1種を含む接着剤成分(S)を含む接着剤組成物を用いて得られる膜である、請求項1に記載の半導体基板の洗浄方法。
【請求項4】
前記接着剤成分(S)が、シロキサン系接着剤を含む、請求項3に記載の半導体基板の洗浄方法。
【請求項5】
前記シロキサン系接着剤が、ヒドロシリル化反応により硬化するポリオルガノシロキサン成分(A’)を含む、請求項4に記載の半導体基板の洗浄方法。
【請求項6】
前記剥離及び溶解する工程が、剥離された接着層を取り除く工程を含む、請求項1に記載の半導体基板の洗浄方法。
【請求項7】
前記剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒100質量%における前記[III]成分の式(L)で表される溶媒の含有量が30質量%以上である、請求項1に記載の半導体基板の洗浄方法。
【請求項8】
前記剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒100質量%における前記[III]成分の式(L)で表される溶媒と前記[IV]成分の式(T)または式(G)で表される溶媒とを足し合わせた含有量が、40~90質量%である、請求項7に記載の半導体基板の洗浄方法。
【請求項9】
半導体基板と、支持基板と、接着剤組成物から得られる接着層とを備える積層体を製造する第1工程、
得られた積層体の半導体基板を加工する第2工程、
支持基板から、半導体基板及び接着層を分離する第3工程、及び
半導体基板上の接着層を剥離及び溶解用組成物を用いて膨潤剥離及び溶解して除去する第4工程
を含む、加工された半導体基板の製造方法において、
前記剥離及び溶解用組成物が、
[I]成分:第四級アンモニウム塩、
[II]成分:アミド系溶媒、
[III]成分:下記式(L)で表される溶媒、及び
[IV]成分:下記式(T)または下記式(G)で表される溶媒を含み、
前記第四級アンモニウム塩が、含ハロゲン第四級アンモニウム塩であり、
前記アミド系溶媒が、下記式(Z)で表される酸アミド誘導体、または下記式(Y)で表される化合物であり、
前記剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒100質量%における前記[II]成分のアミド系溶媒の含有量が、20~50質量%である、
ことを特徴とする加工された半導体基板の製造方法。
【化7】
(式中、L及びLは、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキル基を表し、Lは、O又はSを表す。)
【化8】
(式中、X 及びX は、それぞれ独立して、アルキル基、またはアシル基(X -C(=O)-)を表し、X は、アルキレン基を表し、nは、2または3を表す。X は、アルキル基を表す。)
【化9】
(式中、L 11 及びL 12 は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、L 11 のアルキル基の炭素数とL 12 のアルキル基の炭素数の合計は、7以下である。)
【化10】
(式中、R は、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R 及びR は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【化11】
(式中、R 101 は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R 102 は炭素数1~6のアルキレン基又は下記式(Y1)で表される基を表す。)
【化12】
(式中、R 103 は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R 104 は炭素数1~5のアルキレン基を表し、*1は式(Y)中の炭素原子に結合する結合手を表し、*2は式(Y)中の窒素原子に結合する結合手を表す。)
【請求項10】
前記L1及びLが、同一の基である、請求項9に記載の加工された半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記接着層が、シロキサン系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリスチレン系接着剤、ポリイミド接着剤及びフェノール樹脂系接着剤から選ばれる少なくとも1種を含む接着剤成分(S)を含む接着剤組成物を用いて得られる膜である、請求項9に記載の加工された半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記接着剤成分(S)が、シロキサン系接着剤を含む、請求項11に記載の加工された半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記シロキサン系接着剤が、ヒドロシリル化反応により硬化するポリオルガノシロキサン成分(A’)を含む、請求項12に記載の加工された半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記剥離及び溶解して除去する第4工程が、剥離された接着層を取り除く工程を含む、請求項9に記載の加工された半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒100質量%における前記[III]成分の式(L)で表される溶媒の含有量が30質量%以上である、請求項9に記載の加工された半導体基板の製造方法。
【請求項16】
前記剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒100質量%における前記[III]成分の式(L)で表される溶媒と前記[IV]成分の式(T)または式(G)で表される溶媒とを足し合わせた含有量が、40~90質量%である、請求項15に記載の加工された半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の洗浄方法、加工された半導体基板の製造方法、及び、剥離及び溶解用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来2次元的な平面方向に集積してきた半導体ウエハーは、より一層の集積化を目的に平面を更に3次元方向にも集積(積層)する半導体集積技術が求められている。この3次元積層はシリコン貫通電極(TSV:through silicon via)によって結線しながら多層に集積していく技術である。多層に集積する際に、集積されるそれぞれのウエハーは形成された回路面とは反対側(即ち、裏面)を研磨によって薄化し、薄化された半導体ウエハーを積層する。
【0003】
薄化前の半導体ウエハー(ここでは単にウエハーとも呼ぶ)が、研磨装置で研磨するために支持体に接着される。その際の接着は研磨後に容易に剥離されなければならないため、仮接着と呼ばれる。この仮接着は支持体から容易に取り外されなければならず、取り外しに大きな力を加えると薄化された半導体ウエハーは、切断されたり変形したりすることがあり、そのようなことが生じない様に、容易に取り外される。しかし、半導体ウエハーの裏面研磨時に研磨応力によって外れたりずれたりすることは好ましくない。従って、仮接着に求められる性能は研磨時の応力に耐え、研磨後に容易に取り外されることである。例えば研磨時の平面方向に対して高い応力(強い接着力)を持ち、取り外し時の平面方向に交差する方向、すなわち、縦方向に対して低い応力(弱い接着力)を有する性能が求められる。また、加工工程で150℃以上の高温になることがあり、更に、耐熱性も求められる。
【0004】
このような事情の下、半導体分野においては、仮接着剤として、これらの性能を備え得るポリシロキサン系接着剤が主に用いられる。そして、ポリシロキサン系接着剤を用いたポリシロキサン系接着では、薄化した基板を剥離した後に基板表面に接着剤残留物が残存することがよくあるが、その後の工程での不具合を回避するために、この残留物を除去し、半導体基板表面の洗浄を行うための洗浄剤組成物に開発がなされてきている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1には、極性非プロトン性溶剤と第四級アンモニウム水酸化物とを含むシロキサン樹脂の除去剤が開示され、特許文献2には、フッ化アルキル・アンモニウムを含む硬化樹脂除去剤が開示されている。しかしながら、昨今の半導体分野では、新たな洗浄剤組成物への要望が常に存在し、効果的な洗浄剤組成物や洗浄方法への要望は常に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/092022号
【文献】米国特許第6818608号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2に記載の洗浄剤組成物は、基板表面上の接着剤残留物を溶解することにより、基板表面上から接着剤残留物を除去しようとしているが、このように、溶解により接着剤残留物を基材表面上から取り除こうとすると、除去に長時間要することがわかった。
【0007】
ところで、本発明者らは、洗浄剤組成物について検討した結果、特定の成分を含有する組成物を用いると、接着層を膨潤させて接着層を基板から剥離できることを見出した。この特定の成分を含有する組成物を用いると、接着層を基板から短時間で除去できる。
ただし、基板表面上から接着剤残留物を、簡便な操作で、より短時間にかつよりきれいに除去するという観点からは改良の余地があり、より効果的な洗浄方法を求めて、新たな洗浄方法やその洗浄方法に用いる組成物の開発が進められている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、例えばシロキサン系接着剤を用いて得られる接着層をその表面に有する半導体基板上から、簡便な操作で、より短時間にかつよりきれいに除去(洗浄)することができる、半導体基板の洗浄方法、そのような洗浄方法を含む加工された半導体基板の製造方法、及びそのような洗浄方法に用いられる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、半導体基板上の接着層を、特にヒドロシリル化反応により硬化するポリオルガノシロキサン成分(A’)を含むシロキサン系接着剤から得られる硬化膜である接着層を、特定の成分を含有する組成物を用いて洗浄することで、接着層に対し、膨潤させ剥離することと溶解することを一つの洗浄操作で一緒に行い、半導体基板から接着層を取り除くことで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を包含するものである。
[1]半導体基板上の接着層を、剥離及び溶解用組成物を用いて剥離及び溶解する工程を含む、半導体基板の洗浄方法であって、
前記剥離及び溶解用組成物が、
[I]成分:第四級アンモニウム塩、
[II]成分:アミド系溶媒、及び
[III]成分:下記式(L)で表される溶媒
を含むことを特徴とする半導体基板の洗浄方法。
【化1】
(式中、L及びLは、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキル基を表し、Lは、O又はSを表す。)
[2]前記剥離及び溶解用組成物が、さらに[IV]成分:下記式(T)または下記式(G)で表される溶媒を含む、[1]に記載の半導体基板の洗浄方法。
【化2】
(式中、X及びXは、それぞれ独立して、アルキル基、またはアシル基(X-C(=O)-)を表し、Xは、アルキレン基を表し、nは、2または3を表す。Xは、アルキル基を表す。)
【化3】
(式中、L11及びL12は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、L11のアルキル基の炭素数とL12のアルキル基の炭素数の合計は、7以下である。)
[3]前記第四級アンモニウム塩が、含ハロゲン第四級アンモニウム塩である、[1]または[2]に記載の半導体基板の洗浄方法。
[4]前記アミド系溶媒が、下記式(Z)で表される酸アミド誘導体、または下記式(Y)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の半導体基板の洗浄方法。
【化4】
(式中、Rは、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【化5】
(式中、R101は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R102は炭素数1~6のアルキレン基又は下記式(Y1)で表される基を表す。)
【化6】
(式中、R103は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R104は炭素数1~5のアルキレン基を表し、*1は式(Y)中の炭素原子に結合する結合手を表し、*2は式(Y)中の窒素原子に結合する結合手を表す。)
[5]前記L1及びLが、同一の基である、[1]~[4]のいずれかに記載の半導体基板の洗浄方法。
[6]前記接着層が、シロキサン系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリスチレン系接着剤、ポリイミド接着剤及びフェノール樹脂系接着剤から選ばれる少なくとも1種を含む接着剤成分(S)を含む接着剤組成物を用いて得られる膜である、[1]~[5]のいずれかに記載の半導体基板の洗浄方法。
[7]前記接着剤成分(S)が、シロキサン系接着剤を含む、[6]に記載の半導体基板の洗浄方法。
[8]前記シロキサン系接着剤が、ヒドロシリル化反応により硬化するポリオルガノシロキサン成分(A’)を含む、[7]に記載の半導体基板の洗浄方法。
[9]前記剥離及び溶解する工程が、剥離された接着層を取り除く工程を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の半導体基板の洗浄方法。
[10]半導体基板と、支持基板と、接着剤組成物から得られる接着層とを備える積層体を製造する第1工程、
得られた積層体の半導体基板を加工する第2工程、
支持基板から、半導体基板及び接着層を分離する第3工程、及び
半導体基板上の接着層を剥離及び溶解用組成物を用いて剥離及び溶解して除去する第4工程
を含む、加工された半導体基板の製造方法において、
前記剥離及び溶解用組成物が、
[I]成分:第四級アンモニウム塩、
[II]成分:アミド系溶媒、及び
[III]成分:下記式(L)で表される溶媒
を含むことを特徴とする加工された半導体基板の製造方法。
【化7】
(式中、L及びLは、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキル基を表し、Lは、O又はSを表す。)
[11]前記剥離及び溶解用組成物が、さらに[IV]成分:下記式(T)または下記式(G)で表される溶媒を含む、[10]に記載の加工された半導体基板の製造方法。
【化8】
(式中、X及びXは、それぞれ独立して、アルキル基、またはアシル基(X-C(=O)-)を表し、Xは、アルキレン基を表し、nは、2または3を表す。Xは、アルキル基を表す。)
【化9】
(式中、L11及びL12は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、L11のアルキル基の炭素数とL12のアルキル基の炭素数の合計は、7以下である。)
[12]前記第四級アンモニウム塩が、含ハロゲン第四級アンモニウム塩である、[10]または[11]に記載の加工された半導体基板の製造方法。
[13]前記アミド系溶媒が、下記式(Z)で表される酸アミド誘導体、または下記式(Y)で表される化合物である、[10]~[12]のいずれかに記載の加工された半導体基板の製造方法。
【化10】
(式中、Rは、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【化11】
(式中、R101は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R102は炭素数1~6のアルキレン基又は下記式(Y1)で表される基を表す。)
【化12】
(式中、R103は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R104は炭素数1~5のアルキレン基を表し、*1は式(Y)中の炭素原子に結合する結合手を表し、*2は式(Y)中の窒素原子に結合する結合手を表す。)
[14]前記L1及びLが、同一の基である、[10]~[13]のいずれかに記載の加工された半導体基板の製造方法。
[15]前記接着層が、シロキサン系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリスチレン系接着剤、ポリイミド接着剤及びフェノール樹脂系接着剤から選ばれる少なくとも1種を含む接着剤成分(S)を含む接着剤組成物を用いて得られる膜である、[10]~[14]のいずれかに記載の加工された半導体基板の製造方法。
[16]前記接着剤成分(S)が、シロキサン系接着剤を含む、[15]に記載の加工された半導体基板の製造方法。
[17]前記シロキサン系接着剤が、ヒドロシリル化反応により硬化するポリオルガノシロキサン成分(A’)を含む、[16]に記載の加工された半導体基板の製造方法。
[18]前記剥離及び溶解して除去する第4工程が、剥離された接着層を取り除く工程を含む、[10]~[17]のいずれかに記載の加工された半導体基板の製造方法。
[19]半導体基板を洗浄する際に前記半導体基板上の接着層を剥離及び溶解して除去するために用いられる剥離及び溶解用組成物であって、
前記剥離及び溶解用組成物が、
[I]成分:第四級アンモニウム塩、
[II]成分:アミド系溶媒、及び
[III]成分:下記式(L)で表される溶媒
を含み、
前記剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒100質量%における前記[III]成分の含有量が30質量%以上であることを特徴とする剥離及び溶解用組成物。
【化13】
(式中、L及びLは、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキル基を表し、Lは、O又はSを表す。)
[20]前記剥離及び溶解用組成物が、さらに[IV]成分:下記式(T)または下記式(G)で表される溶媒を含む、[19]に記載の剥離及び溶解用組成物。
【化14】
(式中、X及びXは、それぞれ独立して、アルキル基、またはアシル基(X-C(=O)-)を表し、Xは、アルキレン基を表し、nは、2または3を表す。Xは、アルキル基を表す。)
【化15】
(式中、L11及びL12は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、L11のアルキル基の炭素数とL12のアルキル基の炭素数の合計は、7以下である。)
[21]前記第四級アンモニウム塩が、含ハロゲン第四級アンモニウム塩である、[19]または[20]に記載の剥離及び溶解用組成物。
[22]前記アミド系溶媒が、下記式(Z)で表される酸アミド誘導体、または下記式(Y)で表される化合物である、[19]~[21]のいずれかに記載の剥離及び溶解用組成物。
【化16】
(式中、Rは、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【化17】
(式中、R101は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R102は炭素数1~6のアルキレン基又は下記式(Y1)で表される基を表す。)
【化18】
(式中、R103は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R104は炭素数1~5のアルキレン基を表し、*1は式(Y)中の炭素原子に結合する結合手を表し、*2は式(Y)中の窒素原子に結合する結合手を表す。)
[23]前記L1及びLが、同一の基である、[19]~[22]のいずれかに記載の剥離及び溶解用組成物。
[24]前記接着層が、シロキサン系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリスチレン系接着剤、ポリイミド接着剤及びフェノール樹脂系接着剤から選ばれる少なくとも1種を含む接着剤成分(S)を含む接着剤組成物を用いて得られる膜である、[19]~[23]のいずれかに記載の剥離及び溶解用組成物。
[25]前記接着剤成分(S)が、シロキサン系接着剤を含む、[24]に記載の加工された剥離及び溶解用組成物。
[26]前記シロキサン系接着剤が、ヒドロシリル化反応により硬化するポリオルガノシロキサン成分(A’)を含む、[25]に記載の剥離及び溶解用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、接着層をその表面に有する半導体基板上から、簡便な操作で、より短時間にかつよりきれいに除去(洗浄)することができる、半導体基板の洗浄方法、そのような洗浄方法を含む加工された半導体基板の製造方法、及びそのような洗浄方法に用いられる組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0013】
(半導体基板の洗浄方法)
本発明の半導体基板の洗浄方法は、半導体基板上の接着層を、剥離及び溶解用組成物を用いて剥離及び溶解する工程を含む。
剥離及び溶解用組成物は、
[I]成分:第四級アンモニウム塩、
[II]成分:アミド系溶媒、及び
[III]成分:下記式(L)で表される溶媒を含む。
【0014】
【化19】
(式中、L及びLは、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキル基を表し、Lは、O又はSを表す。)
【0015】
剥離及び溶解用組成物は、さらに
[IV]成分:下記式(T)または下記式(G)で表される溶媒を含んでもよい。
【0016】
【化20】
(式中、X及びXは、それぞれ独立して、アルキル基、またはアシル基(X-C(=O)-)を表し、Xは、アルキレン基を表し、nは、2または3を表す。Xは、アルキル基を表す。)
【0017】
【化21】
(式中、L11及びL12は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、L11のアルキル基の炭素数とL12のアルキル基の炭素数の合計は、7以下である。)
【0018】
<半導体基板>
半導体基板全体を構成する主な材質としては、この種の用途に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、シリコン、シリコンカーバイド、化合物半導体などが挙げられる。
半導体基板の形状は、特に限定されないが、例えば、円盤状である。なお、円盤状の半導体基板は、その面の形状が完全な円形である必要はなく、例えば、半導体基板の外周は、オリエンテーション・フラットと呼ばれる直線部を有していてもよいし、ノッチと呼ばれる切込みを有していてもよい。
円盤状の半導体基板の厚さは、半導体基板の使用目的などに応じて適宜定めればよく、特に限定されないが、例えば、500~1,000μmである。
円盤状の半導体基板の直径としては、半導体基板の使用目的などに応じて適宜定めればよく、特に限定されないが、例えば、100~1,000mmが挙げられる。
【0019】
半導体基板は、例えば、ウエハーであり、その具体例としては、直径300mm、厚さ770μm程度のシリコンウエハー等が挙げられるが、これに限定されない。
【0020】
<接着層>
半導体基板上の接着層は、例えば、接着剤成分(S)を含む接着剤組成物から得られる膜である。
このような接着剤成分(S)は、この種の用途に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、シロキサン系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリスチレン系接着剤、ポリイミド接着剤、フェノール樹脂系接着剤等が挙げられる。
これらの中でも、ウエハー等の加工時は好適な接着能を示し、加工の後は好適に剥離可能であり、更に耐熱性にも優れることから、接着剤成分(S)としては、シロキサン系接着剤が好ましい。
【0021】
<<接着剤組成物>>
好ましい態様においては、本発明で用いる接着剤組成物は、接着剤成分として、ヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)を含む。
また、本発明で用いる接着剤組成物は、好ましい態様においてポリオルガノシロキサンを含有する。
成分(A)は、ヒドロシリル化反応によって硬化する成分であってもよいし、ヒドロシリル化反応によって硬化するポリオルガノシロキサン成分(A’)であってもよい。
他の好ましい態様においては、成分(A)は、例えば、成分(A’)の一例としての、ケイ素原子に結合した炭素数2~40のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン(a1)と、Si-H基を有するポリオルガノシロキサン(a2)と、白金族金属系触媒(A2)と、を含有する。ここで、炭素数2~40のアルケニル基は置換されていてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アリール基、ヘテロアリール基等が挙げられる。
他の好ましい態様においては、ヒドロシリル化反応によって硬化するポリオルガノシロキサン成分(A’)は、SiOで表されるシロキサン単位(Q単位)、RSiO1/2で表されるシロキサン単位(M単位)、RSiO2/2で表されるシロキサン単位(D単位)及びRSiO3/2で表されるシロキサン単位(T単位)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の単位を含むポリシロキサン(A1)と、白金族金属系触媒(A2)とを含み、ポリシロキサン(A1)は、SiOで表されるシロキサン単位(Q’単位)、R’R’R’SiO1/2で表されるシロキサン単位(M’単位)、R’R’SiO2/2で表されるシロキサン単位(D’単位)及びR’SiO3/2で表されるシロキサン単位(T’単位)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の単位を含むとともに、M’単位、D’単位及びT’単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むポリオルガノシロキサン(a1’)と、SiOで表されるシロキサン単位(Q”単位)、R”R”R”SiO1/2で表されるシロキサン単位(M”単位)、R”R”SiO2/2で表されるシロキサン単位(D”単位)及びR”SiO3/2で表されるシロキサン単位(T”単位)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の単位を含むとともに、M”単位、D”単位及びT”単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むポリオルガノシロキサン(a2’)とを含む。
なお、(a1’)は、(a1)の一例であり、(a2’)は、(a2)の一例である。
【0022】
~Rは、ケイ素原子に結合する基又は原子であり、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基又は水素原子を表す。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アリール基、ヘテロアリール基等が挙げられる。
【0023】
’~R’は、ケイ素原子に結合する基であり、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアルケニル基を表すが、R’~R’の少なくとも1つは、置換されていてもよいアルケニル基である。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アリール基、ヘテロアリール基等が挙げられる。
【0024】
”~R”は、ケイ素原子に結合する基又は原子であり、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル基又は水素原子を表すが、R”~R”の少なくとも1つは、水素原子である。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アリール基、ヘテロアリール基等が挙げられる。
【0025】
アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましく、その炭素数は、特に限定されるものではないが、通常1~40であり、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、より一層好ましくは10以下である。
【0026】
置換されていてもよい直鎖状又は分岐鎖状アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、ターシャリーブチル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、n-ヘキシル基、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基、1-エチル-2-メチル-n-プロピル基等が挙げられるが、これらに限定されず、その炭素数は、通常1~14であり、好ましくは1~10、より好ましくは1~6である。中でもメチル基が特に好ましい。
【0027】
置換されていてもよい環状アルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、1-メチル-シクロプロピル基、2-メチル-シクロプロピル基、シクロペンチル基、1-メチル-シクロブチル基、2-メチル-シクロブチル基、3-メチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロプロピル基、2,3-ジメチル-シクロプロピル基、1-エチル-シクロプロピル基、2-エチル-シクロプロピル基、シクロヘキシル基、1-メチル-シクロペンチル基、2-メチル-シクロペンチル基、3-メチル-シクロペンチル基、1-エチル-シクロブチル基、2-エチル-シクロブチル基、3-エチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロブチル基、1,3-ジメチル-シクロブチル基、2,2-ジメチル-シクロブチル基、2,3-ジメチル-シクロブチル基、2,4-ジメチル-シクロブチル基、3,3-ジメチル-シクロブチル基、1-n-プロピル-シクロプロピル基、2-n-プロピル-シクロプロピル基、1-i-プロピル-シクロプロピル基、2-i-プロピル-シクロプロピル基、1,2,2-トリメチル-シクロプロピル基、1,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、2,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、1-エチル-2-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-1-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-2-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-3-メチル-シクロプロピル基等のシクロアルキル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等のビシクロアルキル基等が挙げられるが、これらに限定されず、その炭素数は、通常3~14であり、好ましくは4~10、より好ましくは5~6である。
【0028】
アルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、その炭素数は、特に限定されるものではないが、通常2~40であり、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、より一層好ましくは10以下である。
【0029】
置換されていてもよい直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等が挙げられるが、これらに限定されず、その炭素数は、通常2~14であり、好ましくは2~10、より好ましくは1~6である。中でも、エテニル基、2-プロペニル基が特に好ましい。
置換されていてもよい環状アルケニル基の具体例としては、シクロペンテニル、シクロヘキセニル等が挙げられるが、これらに限定されず、その炭素数は、通常4~14であり、好ましくは5~10、より好ましくは5~6である。
【0030】
前述の通り、ポリシロキサン(A1)は、ポリオルガノシロキサン(a1’)とポリオルガノシロキサン(a2’)を含むが、ポリオルガノシロキサン(a1’)に含まれるアルケニル基と、ポリオルガノシロキサン(a2’)に含まれる水素原子(Si-H基)とが白金族金属系触媒(A2)によるヒドロシリル化反応によって架橋構造を形成し硬化する。その結果、硬化膜が形成される。
【0031】
ポリオルガノシロキサン(a1’)は、Q’単位、M’単位、D’単位及びT’単位からなる群から選ばれる1種又は2種以上の単位を含むとともに、M’単位、D’単位及びT’単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである。ポリオルガノシロキサン(a1’)としては、このような条件を満たすポリオルガノシロキサンを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0032】
Q’単位、M’単位、D’単位及びT’単位からなる群から選ばれる2種以上の好ましい組み合わせとしては、(Q’単位とM’単位)、(D’単位とM’単位)、(T’単位とM’単位)、(Q’単位とT’単位とM’単位)、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
また、ポリオルガノシロキサン(a1’)に包含されるポリオルガノシロキサンが2種以上含まれる場合、(Q’単位とM’単位)と(D’単位とM’単位)との組み合わせ、(T’単位とM’単位)と(D’単位とM’単位)との組み合わせ、(Q’単位とT’単位とM’単位)と(T’単位とM’単位)との組み合わせが好ましいが、これらに限定されない。
【0034】
ポリオルガノシロキサン(a2’)は、Q”単位、M”単位、D”単位及びT”単位からなる群から選ばれる1種又は2種以上の単位を含むとともに、M”単位、D”単位及びT”単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである。ポリオルガノシロキサン(a2’)としては、このような条件を満たすポリオルガノシロキサンを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0035】
Q”単位、M”単位、D”単位及びT”単位からなる群から選ばれる2種以上の好ましい組み合わせとしては、(M”単位とD”単位)、(Q”単位とM”単位)、(Q”単位とT”単位とM”単位)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
ポリオルガノシロキサン(a1’)は、そのケイ素原子にアルキル基及び/又はアルケニル基が結合したシロキサン単位で構成されるものであるが、R’~R’で表される全置換基中におけるアルケニル基の割合は、好ましくは0.1~50.0モル%、より好ましくは0.5~30.0モル%であり、残りのR’~R’はアルキル基とすることができる。
【0037】
ポリオルガノシロキサン(a2’)は、そのケイ素原子にアルキル基及び/又は水素原子が結合したシロキサン単位で構成されるものであるが、R”~R”で表される全ての置換基及び置換原子中における水素原子の割合は、好ましくは0.1~50.0モル%、より好ましくは10.0~40.0モル%であり、残りのR”~R”はアルキル基とすることができる。
【0038】
成分(A)が(a1)と(a2)とを含む場合、本発明の好ましい態様においては、ポリオルガノシロキサン(a1)に含まれるアルケニル基とポリオルガノシロキサン(a2)に含まれるSi-H結合を構成する水素原子とのモル比は、1.0:0.5~1.0:0.66の範囲である。
【0039】
ポリオルガノシロキサン(a1)、ポリオルガノシロキサン(a2)等のポリシロキサンの重量平均分子量は、特に限定されないが、それぞれ、通常500~1,000,000であり、本発明の効果を再現性よく実現する観点から、好ましくは5,000~50,000である。
なお、本発明において、ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量及び数平均分子量並びに分散度は、例えば、GPC装置(東ソー(株)製EcoSEC,HLC-8320GPC)及びGPCカラム(東ソー(株)TSKgel SuperMultiporeHZ-N, TSKgel SuperMultiporeHZ-H)を用い、カラム温度を40℃とし、溶離液(溶出溶媒)としてテトラヒドロフランを用い、流量(流速)を0.35mL/分とし、標準試料としてポリスチレン(昭和電工(株)製、Shodex)を用いて、測定することができる。
【0040】
ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリオルガノシロキサン(a2)の粘度は、特に限定されないが、それぞれ、通常10~1000000(mPa・s)であり、本発明の効果を再現性よく実現する観点から、好ましくは50~20000(mPa・s)である。なお、ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリオルガノシロキサン(a2)の粘度は、25℃においてE型回転粘度計で測定した値である。
【0041】
ポリオルガノシロキサン(a1)とポリオルガノシロキサン(a2)は、ヒドロシリル化反応によって、互いに反応して膜となる。従って、その硬化のメカニズムは、例えばシラノール基を介したそれとは異なり、それ故、いずれのシロキサンも、シラノール基や、アルキルオキシ基のような加水分解によってシラノール基を形成する官能基を含む必要は無い。
【0042】
本発明の好ましい態様においては、接着剤組成物は、ポリオルガノシロキサン成分(A’)とともに、白金族金属系触媒(A2)を含む。
このような白金系の金属触媒は、ポリオルガノシロキサン(a1)のアルケニル基とポリオルガノシロキサン(a2)のSi-H基とのヒドロシリル化反応を促進するための触媒である。
【0043】
白金系の金属触媒の具体例としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒が挙げられるが、これらに限定されない。
白金とオレフィン類との錯体としては、例えばジビニルテトラメチルジシロキサンと白金との錯体が挙げられるが、これに限定されない。
白金族金属系触媒(A2)の量は、特に限定されないが、通常、ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリオルガノシロキサン(a2)の合計量に対して、1.0~50.0ppmの範囲である。
【0044】
ポリオルガノシロキサン成分(A’)は、ヒドロシリル化反応の進行を抑制する目的で、重合抑制剤(A3)を含んでもよい。
重合抑制剤は、ヒドロシリル化反応の進行を抑制できる限り特に限定されるものではなく、その具体例としては、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、1,1-ジフェニル-2-プロピオン-1-オール等のアルキニルアルコール等が挙げられる。
重合抑制剤の量は、特に限定されないが、ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリオルガノシロキサン(a2)の合計量に対して、通常、その効果を得る観点から1000.0ppm以上であり、ヒドロシリル化反応の過度な抑制を防止する観点から10000.0ppm以下である。
【0045】
本発明で用いる接着剤組成物は、剥離剤成分(B)を含んでいてもよい。このような剥離剤成分(B)を、本発明で用いる接着剤組成物に含めることで、得られる接着層を再現性よく好適に剥離することができるようになる。
このような剥離剤成分(B)として、典型的には、ポリオルガノシロキサンが挙げられる。ある好ましい態様においては、その具体例としては、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン、メチル基含有ポリオルガノシロキサン、フェニル基含有ポリオルガノシロキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、その他の好ましい態様においては、剥離剤成分(B)としては、ポリジメチルシロキサンが挙げられ、当該ポリジメチルシロキサンは変性されていてもよい。変性されていてもよいポリジメチルシロキサンとしては、例えば、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、無変性のポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
剥離剤成分(B)であるポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、特に限定されないものの、通常100,000~2,000,000であり、本発明の効果を再現性よく実現する観点から、好ましくは200,000~1,200,000、より好ましくは300,000~900,000である。また、その分散度は、特に限定されないものの、通常1.0~10.0であり、好適な剥離を再現性よく実現する観点等から、好ましくは1.5~5.0、より好ましくは2.0~3.0である。なお、重量平均分子量及び分散度は、ポリシロキサンに関する前述の方法で測定することができる。
剥離剤成分(B)であるポリオルガノシロキサンの複素粘度は、25℃でレオメータ(例えば、アントンパール(株)製 レオメータMCR-302)を用いて測定することができる。
【0047】
エポキシ基含有ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、R1112SiO2/2で表されるシロキサン単位(D10単位)を含むものが挙げられる。
【0048】
11は、ケイ素原子に結合する基であり、アルキル基を表し、R12は、ケイ素原子に結合する基であり、エポキシ基又はエポキシ基を含む有機基を表し、アルキル基の具体例としては、前述の例示を挙げることができる。
エポキシ基を含む有機基におけるエポキシ基は、その他の環と縮合せずに、独立したエポキシ基であってもよく、1,2-エポキシシクロヘキシル基のように、その他の環と縮合環を形成しているエポキシ基であってもよい。
エポキシ基を含む有機基の具体例としては、3-グリシドキシプロピル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明において、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサンの好ましい一例としては、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサンを挙げることができるが、これに限定されない。
【0049】
エポキシ基含有ポリオルガノシロキサンは、前述のシロキサン単位(D10単位)を含むものであるが、D10単位以外に、Q単位、M単位及び/又はT単位を含んでもよい。
本発明の好ましい態様においては、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、D10単位のみからなるポリオルガノシロキサン、D10単位とQ単位とを含むポリオルガノシロキサン、D10単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D10単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D10単位とQ単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D10単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D10単位とQ単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0050】
エポキシ基含有ポリオルガノシロキサンは、エポキシ価が0.1~5であるエポキシ基含有ポリジメチルシロキサンが好ましい。また、その重量平均分子量は、特に限定されないものの、通常1,500~500,000であり、接着剤中での析出抑制の観点から、好ましくは100,000以下である。
【0051】
エポキシ基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、式(E1)~(E3)で表されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
【化22】
(m及びnは、各繰り返し単位の数を示し、正の整数である。)
【0053】
【化23】
(m及びnは、各繰り返し単位の数を示し、正の整数であり、Rは、炭素数1~10のアルキレン基である。)
【0054】
【化24】
(m、n及びoは、各繰り返し単位の数を示し、正の整数であり、Rは、炭素数1~10のアルキレン基である。)
【0055】
メチル基含有ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、R210220SiO2/2で表されるシロキサン単位(D200単位)を含むもの、好ましくはR2121SiO2/2で表されるシロキサン単位(D20単位)を含むものが挙げられる。
【0056】
210及びR220は、ケイ素原子に結合する基であり、それぞれ独立して、アルキル基を表すが、少なくとも一方はメチル基であり、アルキル基の具体例としては、前述の例示を挙げることができる。
21は、ケイ素原子に結合する基であり、アルキル基を表し、アルキル基の具体例としては、前述の例示を挙げることができる。中でも、R21としては、メチル基が好ましい。
本発明において、メチル基含有ポリオルガノシロキサンの好ましい一例としては、ポリジメチルシロキサンを挙げることができるが、これに限定されない。
【0057】
メチル基含有ポリオルガノシロキサンは、前述のシロキサン単位(D200単位又はD20単位)を含むものであるが、D200単位及びD20単位以外に、Q単位、M単位及び/又はT単位を含んでもよい。
【0058】
本発明のある態様においては、メチル基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、D200単位のみからなるポリオルガノシロキサン、D200単位とQ単位とを含むポリオルガノシロキサン、D200単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D200単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D200単位とQ単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D200単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D200単位とQ単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【0059】
本発明の好ましい態様においては、メチル基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、D20単位のみからなるポリオルガノシロキサン、D20単位とQ単位とを含むポリオルガノシロキサン、D20単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D20単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D20単位とQ単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D20単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D20単位とQ単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【0060】
メチル基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、式(M1)で表されるものが挙げられるが、これに限定されない。
【0061】
【化25】
(nは、繰り返し単位の数を示し、正の整数である。)
【0062】
フェニル基含有ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、R3132SiO2/2で表されるシロキサン単位(D30単位)を含むものが挙げられる。
【0063】
31は、ケイ素原子に結合する基であり、フェニル基又はアルキル基を表し、R32は、ケイ素原子に結合する基であり、フェニル基を表し、アルキル基の具体例としては、前述の例示を挙げることができるが、メチル基が好ましい。
【0064】
フェニル基含有ポリオルガノシロキサンは、前述のシロキサン単位(D30単位)を含むものであるが、D30単位以外に、Q単位、M単位及び/又はT単位を含んでもよい。
【0065】
本発明の好ましい態様においては、フェニル基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、D30単位のみからなるポリオルガノシロキサン、D30単位とQ単位とを含むポリオルガノシロキサン、D30単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D30単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D30単位とQ単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D30単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D30単位とQ単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【0066】
フェニル基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、式(P1)又は(P2)で表されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
【化26】
(m5及びn5は、各繰り返し単位の数を示し、正の整数である。)
【0068】
【化27】
(m6及びn6は、各繰り返し単位の数を示し、正の整数である。)
【0069】
剥離剤成分(B)であるポリオルガノシロキサンは、市販品であってもよいし、合成したものであってもよい。
ポリオルガノシロキサンの市販品としては、例えば、ワッカーケミ社製の製品であるWACKERSILICONE FLUID AK シリーズ(AK50、AK 350、AK 1000、AK 10000、AK 1000000)やGENIOPLAST GUM、信越化学工業(株)製 ジメチルシリコーンオイル(KF-96L、KF-96A、KF-96、KF-96H、KF-69、KF-965、KF-968)、環状ジメチルシリコーンオイル(KF-995);ゲレスト社製 エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(商品名CMS-227、ECMS-327)、信越化学工業(株)製 エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(KF-101、KF-1001、KF-1005、X-22-343)、ダウコーニング社製 エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(BY16-839);ゲレスト社製 フェニル基含有ポリオルガノシロキサン(PMM-1043、PMM-1025、PDM-0421、PDM-0821)、信越化学工業(株)製 フェニル基含有ポリオルガノシロキサン(KF50-3000CS)、MOMENTIVE社製 フェニル基含有ポリオルガノシロキサン(TSF431、TSF433)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
本発明で用いる接着剤組成物は、硬化する成分(A)とともに、剥離剤成分(B)を含み、より好ましい態様においては、剥離剤成分(B)として、ポリオルガノシロキサンが含まれる。
【0071】
本発明で用いる接着剤組成物の一例は、硬化する成分(A)と剥離剤成分(B)とを、任意の比率で含むことができるが、接着性と剥離性のバランスを考慮すると、硬化する成分(A)と剥離剤成分(B)との比率は、質量比〔(A):(B)〕で、好ましくは99.995:0.005~30:70、より好ましくは99.9:0.1~75:25である。
すなわち、ヒドロシリル化反応によって硬化するポリオルガノシロキサン成分(A’)が含まれる場合、成分(A’)と剥離剤成分(B)との比率は、質量比〔(A’):(B)〕で、好ましくは99.995:0.005~30:70、より好ましくは99.9:0.1~75:25である。
【0072】
本発明で用いる接着剤組成物は、粘度の調整等を目的に、溶媒を含んでいてもよく、その具体例としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
より具体的には、溶媒としては、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、イソドデカン、メンタン、リモネン、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、MIBK(メチルイソブチルケトン)、酢酸ブチル、ジイソブチルケトン、2-オクタノン、2-ノナノン、5-ノナノン等が挙げられるが、これらに限定されない。このような溶媒は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0074】
本発明で用いる接着剤組成物が溶媒を含む場合、その含有量は、所望の組成物の粘度、採用する塗布方法、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、組成物全体に対して、10~90質量%程度の範囲である。
【0075】
本発明で用いる接着剤組成物の粘度は、特に限定されないが、25℃で、通常500~20,000mPa・sであり、好ましくは1,000~5,000mPa・sである。本発明で用いる接着剤組成物の粘度は、用いる塗布方法、所望の膜厚等の各種要素を考慮して、用いる溶媒の種類やそれらの比率、膜構成成分濃度等を変更することで調整可能である。
本発明において、膜構成成分とは、組成物に含まれる溶媒以外の成分を意味する。
【0076】
本発明で用いる接着剤組成物の一例は、成分(A)と、剥離剤成分(B)と、用いる場合には溶媒とを混合することで製造できる。
その混合順序は特に限定されるものではないが、容易にかつ再現性よく剥離用接着剤組成物を製造できる方法の一例としては、例えば、成分(A)と剥離剤成分(B)を溶媒に溶解させる方法や、成分(A)と剥離剤成分(B)の一部を溶媒に溶解させ、残りを溶媒に溶解させ、得られた溶液を混合する方法が挙げられるが、これらに限定されない。なお、接着剤組成物を調製する際、成分が分解したり変質したりしない範囲で、適宜加熱してもよい。
本発明においては、異物を除去する目的で、接着剤組成物を製造する途中で又は全ての成分を混合した後に、用いる溶媒や溶液等をフィルター等を用いてろ過してもよい。
【0077】
接着層の厚さは、特に限定されるものではないが、良好な剥離効果を再現性よく得るための観点から、好ましくは10~100μmであり、より好ましくは20~50μmである。
【0078】
<剥離及び溶解用組成物>
剥離及び溶解用組成物は、半導体基板から接着層を取り除くため、半導体基板の洗浄方法に用いられる組成物である。
剥離及び溶解用組成物には、接着層に対し膨潤させ半導体基板から接着層を剥離するための成分と、接着層を溶解させるための成分が含まれている。
具体的には、剥離及び溶解用組成物は、
[I]成分:第四級アンモニウム塩、
[II]成分:アミド系溶媒、及び
[III]成分:下記式(L)で表される溶媒を含む。
【0079】
【化28】
(式中、L及びLは、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキル基を表し、Lは、O又はSを表す。)
【0080】
剥離及び溶解用組成物は、さらに
[IV]成分:下記式(T)または下記式(G)で表される溶媒を含んでもよい。
【0081】
【化29】
(式中、X及びXは、それぞれ独立して、アルキル基、またはアシル基(X-C(=O)-)を表し、Xは、アルキレン基を表し、nは、2または3を表す。Xは、アルキル基を表す。)
【0082】
【化30】
(式中、L11及びL12は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、L11のアルキル基の炭素数とL12のアルキル基の炭素数の合計は、7以下である。)
【0083】
<<[I]成分:第四級アンモニウム塩>>
第四級アンモニウム塩は、第四級アンモニウムカチオンと、アニオンとから構成されるものであって、この種の用途に用いられるものであれば特に限定されるものではない。
第四級アンモニウム塩は、接着層を溶解させるための成分として有効である。
このような第四級アンモニウムカチオンとしては、典型的には、テトラ(炭化水素)アンモニウムカチオンが挙げられる。一方、それと対を成すアニオンとしては、水酸化物イオン(OH);フッ素イオン(F)、塩素イオン(Cl)、臭素イオン(Br)、ヨウ素イオン(I)等のハロゲンイオン;テトラフルオロホウ酸イオン(BF );ヘキサフルオロリン酸イオン(PF )等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
第四級アンモニウム塩は、好ましくは含ハロゲン第四級アンモニウム塩であり、より好ましくは含フッ素第四級アンモニウム塩である。
第四級アンモニウム塩中、ハロゲン原子は、カチオンに含まれていても、アニオンに含まれていてもよいが、好ましくはアニオンに含まれる。
【0085】
好ましい一態様においては、含フッ素第四級アンモニウム塩は、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムである。
フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムにおける炭化水素基の具体例としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。
より好ましい一態様においては、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムは、フッ化テトラアルキルアンモニウムを含む。
フッ化テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラプロピルアンモニウム、フッ化テトラブチルアンモニウム(テトラブチルアンモニウムフルオリドともいう)等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、フッ化テトラブチルアンモニウムが好ましい。
【0086】
フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウム等の第四級アンモニウム塩は、水和物を用いてもよい。また、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウム等の第四級アンモニウム塩は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
第四級アンモニウム塩の量は、剥離及び溶解用組成物に含まれる溶媒に溶解する限り特に制限されるものではないが、少量含有させる方が、後述する洗浄工程におけるダイシングテープのダメージの問題を有効に防止することができるため、好ましい。具体的には、例えば、剥離及び溶解用組成物に対して、通常0.1~5質量%である。
【0087】
<<[II]成分:アミド系溶媒>>
【0088】
アミド系溶媒は、第四級アンモニウム塩を良好に溶解させて、均一性に優れる剥離及び溶解用組成物を得るための成分として有効である。
アミド系溶媒は、窒素原子上に活性水素を有さない炭素原子数4以上のN-置換アミド化合物であることが好ましい。
アミド系溶媒の好適な一例としては、下記式(Z)で表される酸アミド誘導体が挙げられる。
【0089】
【化31】
【0090】
式中、Rは、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、エチル基、イソプロピル基が好ましく、エチル基がより好ましい。R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基を表す。炭素数1~4のアルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基等が挙げられる。これらのうち、R及びRとしては、メチル基又はエチル基が好ましく、ともにメチル基又はエチル基がより好ましく、ともにメチル基がより一層好ましい。
【0091】
式(Z)で表される酸アミド誘導体としては、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチルプロピオンアミド、N-エチル-N-メチルプロピオンアミド、N,N-ジメチル酪酸アミド、N,N-ジエチル酪酸アミド、N-エチル-N-メチル酪酸アミド、N,N-ジメチルイソ酪酸アミド、N,N-ジエチルイソ酪酸アミド、N-エチル-N-メチルイソ酪酸アミド等が挙げられる。これらのうち、特に、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミドが好ましく、N,N-ジメチルプロピオンアミドがより好ましい。
【0092】
式(Z)で表される酸アミド誘導体は、対応するカルボン酸エステルとアミンの置換反応によって合成してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0093】
好ましいアミド系溶媒の他の一例としては、例えば、ラクタム化合物等を含む式(Y)で表される化合物が挙げられる。
【0094】
【化32】
【0095】
式(Y)において、R101は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R102は炭素数1~6のアルキレン基又は下記式(Y1)で表される基を表す。
【0096】
【化33】
【0097】
102の炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等が挙げられ、炭素数1~6のアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
式(Y1)において、R103は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R104は炭素数1~5のアルキレン基を表し、*1は式(Y)中の炭素原子に結合する結合手を表し、*2は式(Y)中の窒素原子に結合する結合手を表す。
【0099】
式(Y)で表されるラクタム化合物の具体例としては、α-ラクタム化合物、β-ラクタム化合物、γ-ラクタム化合物、δ-ラクタム化合物等を挙げることができ、これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0100】
好ましい一態様においては、式(Y)で表されるラクタム化合物は、1-アルキル-2-ピロリドン(N-アルキル-γ-ブチロラクタム)を含み、より好ましい一態様においては、N-メチルピロリドン(NMP)又はN-エチルピロリドン(NEP)を含み、より一層好ましい一態様においては、N-メチルピロリドン(NMP)を含む。
また、式(Y)で表される化合物の好ましい一態様として、例えば、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンも挙げられる。
【0101】
[II]成分中、化学物質への使用に関する規制に基づく作業上の制約を考慮すると、式(Z)で表される酸アミド誘導体を用いることがより好ましい。
【0102】
剥離及び溶解用組成物中におけるアミド系溶媒の含有量としては、剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、70質量%以下とすることができる。
また、アミド系溶媒の含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、10~55質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましく、20~45質量%がさらに好ましく、20~40質量%が特に好ましい。
尚、本発明では、混合する溶媒の含有量は、水酸基(-OH)を持たない溶媒である非プロトン性溶媒を100質量%としたときの割合で規定する。
これにより、水、メタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のプロトン性溶媒は、含有割合の基準に含めない。
非プロトン性溶媒とは、本発明では、例えば、N,N-ジメチルプロピオンアミド、ジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、酢酸ブチルなどをいい、これらの合計量をもとに混合割合を求めることができる。
【0103】
<<[III]成分:式(L)で表される溶媒>>
下記式(L)で表される溶媒は、接着層を膨潤させ、半導体基板から接着層を剥離させるための成分として有効である。
【0104】
【化34】
【0105】
上記式(L)中、L及びLは、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキル基を表し、Lは、O又はSを表す。
及びLは、同一の基であっても、異なる基であってもよいが、入手性の観点から、同一の基であることが好ましい。
【0106】
炭素数2~5のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、短時間での接着層の剥離を再現性よく実現する観点等から、好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、より好ましくは直鎖状である。
【0107】
直鎖状又は分岐鎖状アルキル基の具体例としては、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
環状アルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、1-メチル-シクロプロピル基、2-メチル-シクロプロピル基、シクロペンチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
短時間での接着層の剥離を再現性よく実現から、炭素数2~5のアルキル基は、好ましくは、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基であり、より好ましくは、エチル基、n-プロピル基又はn-ブチル基である。
【0110】
より短時間での接着層の剥離を再現性よく実現する観点、化合物の入手容易性の観点等から、L1及びLは、同一の基であることが好ましい。
【0111】
より短時間での接着層の剥離を再現性よく実現する観点、化合物の入手容易性の観点等から、式(L)で表される有機溶媒の好ましい例としては、ジ(n-ブチル)エーテル、ジエチルエーテル、ジ(n-ペンチル)エーテル、ジ(n-プロピル)スルフィド等が挙げられる。
【0112】
剥離及び溶解用組成物中における式(L)で表される溶媒の含有量としては、剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、30質量%以上とすることができる。
剥離及び溶解用組成物中における式(L)で表される溶媒の含有量としては、剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、30質量%以上が好ましく、31質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、式(L)で表される溶媒の含有量としては、剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、30~90質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。
なお、剥離及び溶解用組成物中に下記式(T)または下記式(G)で表される[IV]成分の溶媒を任意量含有させ、式(L)で表される[III]成分の溶媒と混合させることができるが、その場合、[III]成分と[IV]成分とを足し合わせた含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、30~90質量%であることが好ましい。
また、剥離及び溶解用組成物中に下記式(T)または下記式(G)で表される[IV]成分の溶媒を含有させる場合、特に[IV]成分が式(G)で表される成分であると、[IV]成分を含有させることによる[II]成分と[III]成分との相溶性を向上させるという効果に加え、接着剤の剥離効果をより高めることができるため、剥離及び溶解用組成物中に[III]成分である式(L)で表される成分が30質量%以上含有されていれば、[I]成分、[II]成分、[III]成分、及び式(G)で表される[IV]成分を含む剥離及び溶解用組成物は、本発明の効果を良好に示す組成物となる。
【0113】
<<[IV]成分:式(T)または式(G)で表される溶媒>>
下記式(T)または下記式(G)で表される溶媒は、上記[I]成分である第四級アンモニウム塩を含有する剥離及び溶解用組成物において、上記[II]成分であるアミド系溶媒と上記[III]成分である上記式(L)で表される溶媒の相溶性を高めるための調整成分として有効である。
【0114】
【化35】
【0115】
式(T)中、X及びXは、それぞれ独立して、アルキル基、またはアシル基(X-C(=O)-)を表し、Xは、アルキレン基を表し、nは、2または3を表す。Xは、アルキル基を表す。
【0116】
及びXで示すアルキル基としては、例えば、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
で示すアルキレン基としては、例えば、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,2-プロピレン基等が挙げられる。
で示すアルキル基としては、例えば、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、XやXと同様なアルキル基が挙げられる。
【0117】
式(T)で表される溶媒の好ましい例としては、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0118】
【化36】
【0119】
式(G)中、L11及びL12は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、L11のアルキル基の炭素数とL12のアルキル基の炭素数の合計は、7以下である。
【0120】
上記式(G)中、L11及びL12は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表すが、L11のアルキル基の炭素数とL12のアルキル基の炭素数の合計は、7以下である。このような炭素数とすることで、短時間での接着層の剥離を再現性よく実現できる。
【0121】
アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、より好ましくは、直鎖状アルキル基である。
【0122】
直鎖状又は分岐鎖状アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、n-ヘキシル、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基、1-エチル-2-メチル-n-プロピル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0123】
環状アルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、1-メチル-シクロプロピル基、2-メチル-シクロプロピル基、シクロペンチル基、1-メチル-シクロブチル基、2-メチル-シクロブチル基、3-メチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロプロピル基、2,3-ジメチル-シクロプロピル基、1-エチル-シクロプロピル基、2-エチル-シクロプロピル基、シクロヘキシル基、1-メチル-シクロペンチル基、2-メチル-シクロペンチル基、3-メチル-シクロペンチル基、1-エチル-シクロブチル基、2-エチル-シクロブチル基、3-エチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロブチル基、1,3-ジメチル-シクロブチル基、2,2-ジメチル-シクロブチル基、2,3-ジメチル-シクロブチル基、2,4-ジメチル-シクロブチル基、3,3-ジメチル-シクロブチル基、1-n-プロピル-シクロプロピル基、2-n-プロピル-シクロプロピル基、1-i-プロピル-シクロプロピル基、2-i-プロピル-シクロプロピル基、1,2,2-トリメチル-シクロプロピル基、1,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、2,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、1-エチル-2-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-1-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-2-メチル-シクロプロピル、2-エチル-3-メチル-シクロプロピル基等のシクロアルキル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
より短時間での接着層の剥離を再現性よく実現する観点から、上記L11は、好ましくはメチル基であり、また、上記L12は、好ましくはブチル基またはペンチル基である。
【0125】
より短時間での接着層の剥離を再現性よく実現する観点、化合物の入手容易性の観点等から、式(G)で表される有機溶媒の好ましい例としては、酢酸ブチル、酢酸ペンチル等が挙げられる。
【0126】
剥離及び溶解用組成物中における式(T)または式(G)で表される溶媒の含有量としては、剥離及び溶解用組成物中、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、0.1~60質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましく、5~35質量%がさらに好ましく、5~31質量%以下がさらにより好ましく、5~30質量%以下が特に好ましい。
【0127】
なお、剥離及び溶解用組成物が、式(T)または式(G)で表される[IV]成分を含有する場合、[III]成分と[IV]成分とを足し合わせた含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、上述したように30~90質量%であることが好ましいが、さらに詳しく述べると、40~90質量%がより好ましく、45~90質量%がさらに好ましく、50~80質量%がさらにより好ましく、55~80質量%が特に好ましく、60~80質量%が特により好ましい。
【0128】
<<剥離及び溶解する工程>>
本発明においては、半導体基板上の接着層に対して、剥離及び溶解用組成物を継続的に接触させる。この洗浄操作を行うことで、該接着層を膨潤させて剥離することと該接着層を溶解させることが一緒に行われる。1つの洗浄用組成物を用いた洗浄操作で、接着層の膨潤及び剥離と溶解とが一緒に行われることで、簡単な洗浄操作で、より短時間にかつよりきれいに、半導体基板から接着層を除去(洗浄)することができる。
なお、本発明において、除去(洗浄)するとは、半導体基板から接着層が取り除かれることをいい、接着層が膨潤し半導体基板から剥離される場合も、接着層が溶解し溶液中に溶けて半導体基板から無くなる場合も、「除去(洗浄)」に含まれる。
半導体基板上の接着層を剥離及び溶解用組成物に継続的に接触させる方法は、半導体基板上の接着層が、剥離及び溶解用組成物に時間的継続性をもって接触する限り特に限定されるものではなく、この時間的継続性には、接着層が常に剥離及び溶解用組成物に接触している場合だけでなく、例えば、接着層と有機溶媒との接触を一定時間行った後、当該接触を一度休止し、再度当該接触を行う場合やこれを繰り返す場合も含まれ、また、半導体基板上の接着層全体が剥離及び溶解用組成物に接触している場合だけでなく、接着層の一部が剥離及び溶解用組成物に接触している場合も含まれるが、より効果的な洗浄を再現性よく実現する観点から、半導体基板上の接着層が、剥離及び溶解用組成物に常に接触している態様が好ましく、また、半導体基板上の接着層全体が、剥離及び溶解用組成物に接触している態様が好ましい。
【0129】
従って、本発明の好ましい態様においては、半導体基板上の接着層を、上記接着層を剥離及び溶解用組成物に浸漬させることによって膨潤及び溶解させて、半導体基板から除去する又は半導体基板上の接着層を、上記接着層上に継続的に剥離及び溶解用組成物を供給することによって膨潤及び溶解させて、半導体基板から除去する。
【0130】
半導体基板上の接着層を剥離及び溶解用組成物に浸漬するためには、例えば、接着層が付いた半導体基板を剥離及び溶解用組成物に浸漬すればよい。
浸漬時間は、接着層の膨潤及び溶解が起こり、接着層が半導体基板から剥離するまでの時間とし、特に限定されるものではないが、より効果的な洗浄を再現性よく実現する観点から、5秒以上であり、プロセス上のスループットの観点から、5分以下である。
【0131】
半導体基板上の接着層を剥離及び溶解用組成物に浸漬させる際、剥離及び溶解用組成物中で接着層が付いた半導体基板を動かす、剥離及び溶解用組成物を対流させる、超音波によって剥離及び溶解用組成物を振動させる等して、接着層の除去(洗浄)を促進してもよい。
【0132】
剥離及び溶解用組成物中で接着層が付いた半導体基板を動かすためには、例えば、揺動洗浄機、パドル式洗浄機等を用いればよく、このような洗浄機を用いれば、接着層が付いた半導体基板を乗せた台が上下若しくは左右に動き又は回転することによって、半導体基板上の接着層が相対的に対流を受け、或いはその動き又は回転によって生まれた対流を半導体基板上の接着層が受け、半導体基板上の接着層の膨潤及び溶解だけでなく、半導体基板からの接着層の剥離及び溶解が促進される。
【0133】
剥離及び溶解用組成物を対流させるためには、上述の揺動洗浄機やパドル式洗浄機のほか、例えば、典型的には、接着層が付いた半導体基板はステージ等に固定された状態で、その周りの剥離及び溶解用組成物が撹拌機によって対流している状態を実現できる対流洗浄機を用いればよい。
【0134】
超音波によって剥離及び溶解用組成物を振動させるためには、超音波洗浄機や超音波プローブを用いればよく、その条件は、通常、20kHz~5MHzである。
【0135】
半導体基板上の接着層上に継続的に剥離及び溶解用組成物を供給するためには、半導体基板上の接着層に向かって剥離及び溶解用組成物を継続的に当てればよい。一例を挙げれば、半導体基板上の接着層が上を向いている場合であれば、例えば、半導体基板上の接着層の上方(斜め上方を含む)から、洗浄装置のノズル等によって、棒状又は霧状の、好ましくは棒状の剥離及び溶解用組成物を半導体基板上の接着層の上に時間的継続性をもって供給する。この場合における時間的継続性も、半導体基板上の接着層の上に剥離及び溶解用組成物が常に供給される場合だけでなく、例えば、剥離及び溶解用組成物の供給を一定時間行った後、当該供給を一度休止し、再度当該供給を行う場合やこれを繰り返す場合も含まれるが、より効果的な洗浄を再現性よく実現する観点から、剥離及び溶解用組成物は、半導体基板上の接着層の上に常に供給されることが好ましい。
【0136】
半導体基板上の接着層の上に剥離及び溶解用組成物を棒状で供給する際、その流量は、通常200~500mL/分である。
【0137】
本発明のある態様においては、剥離及び溶解用組成物に常に接触している状態を実現するため、例えば蒸気洗浄機を用いて、半導体基板上の接着層を剥離及び溶解用組成物の蒸気と接触させてもよい。
【0138】
本発明の半導体の洗浄方法を用いると、上述したように、接着層の膨潤及び剥離と溶解とが一緒に行われることで、簡単な洗浄操作で、より短時間にかつよりきれいに、半導体基板から接着層を除去(洗浄)することができる。しかし、その効果以外にも、本発明の半導体の洗浄方法を用いると、洗浄工程におけるダイシングテープのダメージを防止することができる。
例えば、半導体ウエハーは研磨され薄化された後、該薄化後の半導体ウエハーはダイシングテープにマウントされ、その後半導体ウエハーと支持体は分離(剥離)される。支持体が分離(剥離)された後、半導体ウエハー側に残存した接着層は、半導体ウエハー上から取り除かれるため洗浄剤組成物で洗浄される。その際、洗浄剤組成物として、上記特許文献1及び2の洗浄剤組成物のような接着剤残留物を溶解して取り除こうとするタイプの洗浄剤組成物を用いると、ダイシングテープの表面が変化し、ダイシングテープがダメージを受ける(下記実施例の欄に記載の[比較例2-1]の結果参照)。
しかし、本発明の剥離及び溶解用組成物を用いて接着層付き半導体基板を洗浄すると、接着層の大半を短時間で剥離することができ、剥離後に少量残った接着層も、剥離及び溶解用組成物中の溶解成分により溶解されることから、接着層を取り除く全体の除去(洗浄)時間は短くて済み、洗浄工程におけるダイシングテープのダメージを有効に防止することができる。また、本発明の剥離及び溶解用組成物中には、接着層を溶解させるための成分だけでなく、接着層を膨潤させ剥離させるための成分も含まれているが、それにより、組成物中における溶解成分、つまり[I]成分(第四級アンモニウム塩)の占める割合が少なくて済み、それもダイシングテープのダメージを生じさせないことに有効に寄与している。
本発明の剥離及び溶解用組成物を用いて接着層の除去工程を行うと、ダイシングテープのダメージを有効に防止することができる(下記実施例の欄に記載の[実施例3-1]の結果参照)。
【0139】
本発明の半導体基板の洗浄方法は、剥離した接着層を取り除く工程を含んでいてもよい。
剥離した接着層を取り除く方法は、半導体基板の上から剥離した接着層が除去される限り特に限定されるものではなく、接着層が付いた半導体基板を剥離及び溶解用組成物に浸漬する場合には、剥離及び溶解用組成物から半導体基板を取り出すことなく、剥離及び溶解用組成物中に存在する剥離された接着層を取り除いてもよい。或いは、剥離及び溶解用組成物から半導体基板を取り出して、剥離した接着層から半導体基板を引き離すことにより剥離した接着層を取り除いてもよい。この際、単に剥離及び溶解用組成物から半導体基板を取り出すことで、剥離した接着層が自然に剥離及び溶解用組成物中に残り、その大部分を取り除くことができる場合もある。
【0140】
剥離した接着層を取り除く方法の具体例としては、例えば、装置を用いて吸着又は吸引して剥離した接着層を取り除く、エアガン等の気体で吹き飛ばして剥離した接着層を取り除く、半導体基板を上下若しくは左右に動かし又は回転させることによる遠心力等により剥離した接着層を取り除く等の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
半導体基板から剥離した接着層を除去した後、必要であれば、定法に従い、半導体基板の乾燥等を行う。
【0142】
(剥離及び溶解用組成物)
本発明の半導体基板の洗浄方法に用いる剥離及び溶解用組成物も、本発明の対象である。
本発明の剥離及び溶解用組成物は、半導体基板上の接着層を当該半導体基板から除去(洗浄)するために用いられるものであって、好ましい態様や諸条件については、上述の通りである。本発明の剥離及び溶解用組成物は、当該組成物を構成する溶媒を必要があれば任意の順序で混合することで製造することができる。その際、必要があればろ過等をしてもよい。
【0143】
本発明の剥離及び溶解用組成物における式(L)で表される溶媒の含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、30質量%以上であることが特徴である。
このように剥離及び溶解用組成物において、接着層を膨潤させ剥離させることに寄与する、[III]成分(式(L)で表される溶媒)の含有割合が高いことで、本発明の剥離及び溶解用組成物を接着層に接触させた際、接着層を膨潤させ剥離させることと接着層を溶解させることが一緒に行われる。
例えば、国際公開第2020/080060号(以下、公報Aという)には、半導体基板上の接着剤を洗浄する方法、及びその洗浄方法に使用する洗浄剤組成物について記載されている。しかし、公報Aで記載されている接着剤は、本発明で対象とするような洗浄用の組成物により膨潤・剥離できるような種類の接着剤ではない。したがって、公報Aには、接着剤の除去手段として、接着層を膨潤させて剥離するという発想はそもそもなく、公報Aに記載の洗浄剤組成物は、接着層を溶解させて接着層を除去することしか意図していない。実際、公報Aの実施例に記載されている溶媒割合で洗浄用の組成物を作製したところ(下記実施例の欄で記載する[比較例1-1~1-6]の洗浄用組成液参照)、[III]成分(式(L)で表される溶媒)が一定量以上含有されていないと、接着層は剥離されないことがわかった(下記実施例の欄に記載の[4]剥離時間の計測の結果参照)。
本発明の剥離及び溶解用組成物は、[III]成分(式(L)で表される溶媒)の含有割合が高く、[II]成分及び[III]成分の占める割合([IV]成分が含有されている場合には、[II]成分、[III]成分及び[IV]成分の占める割合)は高いため、剥離及び溶解用組成物において、[I]成分(第四級アンモニウム塩)の占める含有量は比較的少ない。[I]成分の含有量を抑えることで、洗浄工程におけるダイシングテープのダメージを少なくすることができる。
【0144】
本発明の剥離及び溶解用組成物の好ましい一実施態様として、剥離及び溶解用組成物が[I]成分、[II]成分、及び[III]成分を含む([IV]成分は含んでも含まなくてもよい)場合、非プロトン性溶媒100質量%としたとき、[III]成分は35質量%以上含む組成物が挙げられる。
また、本発明の剥離及び溶解用組成物の好ましい他の一実施態様として、剥離及び溶解用組成物が[I]成分、[II]成分、及び[III]成分を含む([IV]成分は含んでも含まなくてもよい)場合、非プロトン性溶媒100質量%としたとき、[III]成分は40質量%以上含む組成物が挙げられる。
また、本発明の剥離及び溶解用組成物の好ましい他の一実施態様として、剥離及び溶解用組成物が[I]成分、[II]成分、[III]成分、及び[IV]成分を含む場合、非プロトン性溶媒100質量%としたとき、[III]成分は30質量%以上、もしくは[IV]成分は31質量%以下、を含む組成物、または[III]成分は30質量%以上、かつ[IV]成分は31質量%以下、を含む組成物が挙げられる。
また、本発明の剥離及び溶解用組成物の好ましい他の一実施態様として、剥離及び溶解用組成物が[I]成分、[II]成分、[III]成分、及び[IV]成分を含む場合、非プロトン性溶媒100質量%としたとき、[III]成分は35質量%以上、もしくは[IV]成分は35質量%以下、を含む組成物、または[III]成分は35質量%以上、かつ[IV]成分は35質量%以下、を含む組成物が挙げられる。
特に、剥離及び溶解用組成物が[I]成分、[II]成分、[III]成分、及び[IV]成分を含む場合であって、[IV]成分が、式(G)で表される溶媒である場合には、非プロトン性溶媒100質量%としたとき、[III]成分は30質量%以上、を含む組成物が好ましく挙げられる。
また、剥離及び溶解用組成物が[I]成分、[II]成分、[III]成分、及び[IV]成分を含む場合であって、[IV]成分が、式(G)で表される溶媒である場合には、非プロトン性溶媒100質量%としたとき、[III]成分は30質量%以上、又は[IV]成分は35質量%以下、もしくは31質量%以下、もしくは30質量%以下、を含む組成物が好ましく挙げられる。
あるいは、剥離及び溶解用組成物が[I]成分、[II]成分、[III]成分、及び[IV]成分を含む場合であって、[IV]成分が、式(G)で表される溶媒である場合には、非プロトン性溶媒100質量%としたとき、[III]成分は30質量%以上、かつ[IV]成分は35質量%以下、もしくは31質量%以下、もしくは30質量%以下、を含む組成物が好ましく挙げられる。
【0145】
(加工された半導体基板の製造方法)
上記説明した本発明の半導体基板の洗浄方法を用いることで、半導体基板の基板上の接着層、特にヒドロシリル化反応により硬化するポリオルガノシロキサン成分(A’)を含むシロキサン系接着剤から得られる硬化膜である接着層を効率的に取り除くことが可能となり、高効率で良好な半導体素子の製造を期待できる。
【0146】
本発明の加工された半導体基板の製造方法は、例えば、半導体ウエハーが研磨され薄化された後、加工された該薄化後の半導体ウエハーから支持体を分離(剥離)した後、半導体ウエハー側に残存した接着層を、本発明の半導体基板の洗浄方法を用いて除去(洗浄)することにより、残存した接着層のない表面がきれいな加工された半導体基板を製造することができる。
このように半導体プロセスにおける本発明の半導体基板の洗浄方法の使用例としては、TSV等の半導体パッケージ技術に用いられる薄化等の加工された半導体基板の製造方法における使用が挙げられる。
【0147】
本発明の洗浄方法の洗浄対象である半導体基板は、上述したシリコンウエハー等のシリコン半導体基板のほか、例えば、ゲルマニウム基板、ガリウム-ヒ素基板、ガリウム-リン基板、ガリウム-ヒ素-アルミニウム基板、アルミメッキシリコン基板、銅メッキシリコン基板、銀メッキシリコン基板、金メッキシリコン基板、チタンメッキシリコン基板、窒化ケイ素膜形成シリコン基板、酸化ケイ素膜形成シリコン基板、ポリイミド膜形成シリコン基板、ガラス基板、石英基板、液晶基板、有機EL基板等の各種基板をも含む。
【0148】
本発明の加工された半導体基板の製造方法の好ましい実施態様として、
第1工程:半導体基板と、支持基板と、接着剤組成物から得られる接着層とを備える積層体を製造する工程、
第2工程:得られた積層体の半導体基板を加工する工程、
第3工程:支持基板から、半導体基板及び接着層を分離する工程、及び
第4工程:半導体基板上の接着層を剥離及び溶解用組成物を用いて剥離及び溶解して除去する工程
を含む、加工された半導体基板の製造方法が挙げられる。
ここで、剥離及び溶解用組成物は、上記<剥離及び溶解用組成物>の欄で説明したとおりである。
上記第4工程において、本発明の半導体基板の洗浄方法が使用される。
以下、各工程について、詳しく説明する。
【0149】
<第1工程>
第1工程において接着層を形成するために用いられる接着剤組成物としては、上述の各種接着剤を使用し得るが、本発明の半導体基板の洗浄方法は、ポリシロキサン系接着剤から得られる接着層を取り除くために効果的であり、ヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)を含むポリシロキサン系接着剤から得られる接着層を取り除くためにより効果的である。
従って、以下、ポリシロキサン系接着剤(接着剤組成物)を用いて得られる接着層を用いて加工された半導体基板を製造する際に、当該接着層を本発明の洗浄方法によって取り除く例について説明するが、本発明は、これに限定されるわけではない。
【0150】
半導体基板と、支持基板と、接着剤組成物から得られる接着層とを備える積層体を製造する第1工程について、以下説明する。
【0151】
ある態様においては、かかる第1工程は、半導体基板又は支持基板の表面に接着剤組成物を塗布して接着剤塗布層を形成する工程と、半導体基板と支持基板とを接着剤塗布層を介して合わせ、加熱処理及び減圧処理の少なくとも一方を実施しながら、半導体基板及び支持基板の厚さ方向の荷重をかけて密着させ、その後、後加熱処理を実施することにより、積層体とする工程とを含む。
その他の態様においては、かかる第1工程は、例えば、半導体基板のウエハーの回路面に接着剤組成物を塗布し、それを加熱して接着剤塗布層を形成する工程と、支持基板の表面に剥離剤組成物を塗布し、それを加熱して剥離剤塗布層を形成する工程と、半導体基板の接着剤塗布層と、支持基板の剥離剤塗布層とを、加熱処理及び減圧処理の少なくとも一方を実施しながら、半導体基板及び支持基板の厚さ方向の荷重をかけて密着させ、その後、後加熱処理を実施することにより、積層体とする工程とを含む。なお、接着剤組成物を半導体基板に、剥離剤組成物を支持基板にそれぞれ塗布し、加熱したが、いずれか一方の基板に、接着剤組成物及び剥離剤組成物の塗布及び加熱をそれぞれ順次行ってもよい。
上記各態様において、加熱処理、減圧処理、両者の併用のいずれの処理条件を採用するかは、接着剤組成物の種類や剥離剤組成物の具体的組成、両組成物から得られる膜の相性、膜厚、求める接着強度等の各種事情を勘案した上で決定される。
【0152】
ここで、例えば、半導体基板がウエハーであり、支持基板が支持体である。接着剤組成物を塗布する対象は、半導体基板と支持基板のいずれか一方でも又は両方でもよい。
【0153】
ウエハーとしては、例えば直径300mm、厚さ770μm程度のシリコンウエハーやガラスウエハーが挙げられるが、これらに限定されない。
特に、本発明の半導体基板の洗浄方法は、バンプ付き半導体基板に対しても効果的に基板の洗浄が行える。
このようなバンプ付き半導体基板の具体例としては、ボールバンプ、印刷バンプ、スタッドバンプ、めっきバンプ等のバンプを有するシリコンウエハーが挙げられ、通常、バンプ高さ1~200μm程度、バンプ径1~200μm、バンプピッチ1~500μmという条件から適宜選択される。
めっきバンプの具体例としては、SnAgバンプ、SnBiバンプ、Snバンプ、AuSnバンプ等のSnを主体とした合金めっき等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0154】
支持体(キャリア)は、特に限定されるものではないが、例えば直径300mm、厚さ700μm程度のシリコンウエハーを挙げることができるが、これに限定されない。
【0155】
剥離剤組成物としては、この種の用途に用いられる剥離剤成分を含む組成物が挙げられる。
【0156】
塗布方法は、特に限定されるものではないが、通常、スピンコート法である。なお、別途スピンコート法などで塗布膜を形成し、シート状の塗布膜を貼付する方法を採用してもよく、これも塗布又は塗布膜という。
【0157】
塗布した接着剤組成物の加熱温度は、接着剤組成物が含む接着剤成分の種類や量、溶媒が含まれるか否か、所望の接着層の厚さ等に応じて異なるため一概に規定できないが、通常80~150℃、その加熱時間は、通常30秒~5分である。
【0158】
塗布した剥離剤組成物の加熱温度は、架橋剤、酸発生剤、酸等の種類や量、溶媒が含まれるか否か、所望の剥離層の厚さ等に応じて異なるため一概に規定できないが、好適な硬化を実現する観点から、120℃以上であり、過度の硬化を防ぐ観点から、好ましくは260℃以下であり、その加熱時間は通常1~10分である。
加熱は、ホットプレート、オーブン等を用いて行うことができる。
【0159】
接着剤組成物を塗布し、それを加熱して得られる接着剤塗布層の膜厚は、通常5~500μmである。
【0160】
剥離剤組成物を塗布し、それを加熱して得られる剥離剤塗布層の膜厚は、通常5~500μmである。
【0161】
加熱処理は、接着剤塗布層を軟化させて剥離剤塗布層との好適に貼り合せを実現する観点、剥離剤塗布層の好適な硬化を実現する観点等を考慮して、通常20~150℃の範囲から適宜決定される。特に、接着剤成分や剥離剤成分の過度の硬化や不要な変質を抑制・回避する観点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは90℃以下であり、その加熱時間は、接着能や剥離能を確実に発現させる観点から、通常30秒以上、好ましくは1分以上であるが、接着層やその他の部材の変質を抑制する観点から、通常10分以下、好ましくは5分以下である。
【0162】
減圧処理は、半導体基板、接着剤塗布層及び支持基板を、又は半導体基板、接着剤塗布層、剥離剤塗布層及び支持基板を、10~10,000Paの気圧下にさらせばよい。減圧処理の時間は、通常1~30分である。
【0163】
本発明の好ましい態様においては、基板と塗布層とは又は塗布層同士は、好ましくは減圧処理によって、より好ましくは加熱処理と減圧処理の併用によって、貼り合せられる。
【0164】
半導体基板及び支持基板の厚さ方向の荷重は、半導体基板及び支持基板とそれらの間の層に悪影響を及ぼさず、且つこれらをしっかりと密着させることができる荷重である限り特に限定されないが、通常10~1000Nの範囲内である。
【0165】
後加熱温度は、十分な硬化速度を得る観点から、好ましくは120℃以上であり、基板、接着剤成分、剥離剤成分等の変質を防ぐ観点から、好ましくは260℃以下である。加熱時間は、硬化によるウエハーの好適な接合を実現する観点から、通常1分以上であり、さらに接着剤の物性安定化の観点等から、好ましくは5分以上であり、過度の加熱による接着層への悪影響等を回避する観点から、通常180分以下、好ましくは120分以下である。加熱は、ホットプレート、オーブン等を用いて行うことができる。
なお、後加熱処理の一つの目的は、接着剤成分(S)をより好適に硬化させることである。
【0166】
<第2工程>
次に、以上説明した方法で得られた積層体の半導体基板を加工する第2工程について説明する。
本発明で用いる積層体に施される加工の一例としては、半導体基板の表面の回路面とは反対の裏面の加工が挙げられ、典型的には、ウエハー裏面の研磨によるウエハーの薄化が挙げられる。このような薄化されたウエハーを用いて、シリコン貫通電極(TSV)等の形成を行い、次いで支持体から薄化ウエハーを剥離してウエハーの積層体を形成し、3次元実装化される。また、それに前後してウエハー裏面電極等の形成も行われる。ウエハーの薄化とTSVプロセスには支持体に接着された状態で250~350℃の熱が付加されるが、本発明で用いる積層体が含む接着層は、その熱に対する耐熱性を有している。
例えば、直径300mm、厚さ770μm程度のウエハーは、表面の回路面とは反対の裏面を研磨して、厚さ80~4μm程度まで薄化することができる。
【0167】
<第3工程>
加工した半導体基板及び接着層と支持基板とを分離する第3工程について説明する。
第3工程では、加工された半導体基板及び接着層と、支持基板とを分離する。この際、剥離層が積層体に含まれる場合は、通常、支持基板とともに、剥離層も取り除く。
加工された半導体基板及び接着層と、半導体基板とを分離する方法は、接着層とそれと接する剥離層又は支持基板との間で剥離すればよく、そのような剥離方法としては、レーザー剥離、鋭部を有する機材による機械的な剥離、マニュアルで引きはがす剥離等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0168】
<第4工程>
次に、加工した半導体基板の上の接着層を除去し、加工した半導体基板を洗浄する第4工程について説明する。
第4工程は、半導体基板上の接着層を、本発明の半導体基板の洗浄方法により取り除く工程であり、具体的には、例えば、薄化基板上の接着層を本発明の洗浄方法によって短時間できれいに取り除く。この際の諸条件は、上述した通りである。
【0169】
上述したように、本発明の剥離及び溶解用組成物を用いて洗浄操作を行うだけで、接着層に対し膨潤と溶解が同時に作用するため、第4工程では、短時間でかつよりきれいに半導体基板上の接着層を除去することができる。
【0170】
本発明の加工された半導体基板の製造方法は、上述の第1工程から第4工程までを備えるものであるが、これらの工程以外の工程を含んでいてもよい。また、第1工程から第4工程に関する上記構成要素及び方法的要素については、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々変更しても差し支えない。
【実施例
【0171】
以下、本発明の内容および効果を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。なお、使用した装置は以下のとおりである。
[装置]
(1)撹拌機A:(株)シンキー製 自転公転ミキサー ARE-500
(2)撹拌機B:アズワン(株)製 ミックスローター VMR-5R
(3)粘度計:東機産業(株)製 回転粘度計TVE-22H
(4)光学顕微鏡:オリンパス(株)製 半導体/FPD検査顕微鏡 MX61L
【0172】
[1]接着剤組成物1の調製
[実施例1]
撹拌機A専用の600mL撹拌容器に、前述の成分(a1)としてポリシロキサン骨格とビニル基とを有するMQ樹脂(ワッカーケミ社製)のp-メンタン溶液(濃度80.6質量%)99.12g、前述の成分(B)として前述の式(M1)で表されるポリオルガノシロキサン(複素粘度6000Pa・s、重量平均分子量642,000(分散度2.6)、ワッカーケミ社製、商品名GENIOPLAST GUM)22.12g、p‐メンタン(日本テルペン化学(株)製)48.89g及びn-デカン(三協化学(株)製)5.43gを加え、撹拌機Aによる5分間の撹拌を、途中に小休止を挟み合計8回繰り返し、混合物(I)を得た(撹拌時間合計40分)。
得られた混合物(I)に、前述の成分(a2)として粘度100mPa・sのSiH基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)15.98g、及び前述の成分(a1)として粘度200mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)23.35gを加え、混合物(II)を得た。
前述の成分(A3)として1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール(東京化成工業(株)製)0.31g、前述の成分(A3)として1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ワッカーケミ社製)0.31g、及びp‐メンタン(日本テルペン化学(株)製)0.61gを撹拌機Bで60分間撹拌して、混合物(III)を得た。
得られた混合物(III)のうち1.23gを混合物(II)に加え、撹拌機Aで5分間撹拌し、混合物(IV)を得た。
前述の成分(A2)として白金触媒(ワッカーケミ社製)0.074g、前述の成分(a1)として粘度1000mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)7.37gを撹拌機Aで5分間撹拌し、混合物(V)を得た。
得られた混合物(V)のうち3.72gを混合物(IV)に加え、撹拌機Aで5分間撹拌し、混合物(VI)を得た。
最後に、得られた混合物(VI)をナイロンフィルター300メッシュでろ過し、接着剤組成物を得た。なお、得られた接着剤組成物の粘度は、2700mPa・sであった。
【0173】
[2]洗浄用組成物の調製
[実施例2-1]
テトラブチルアンモニウムフルオリド3水和物(関東化学製)0.59gに、N-メチル-2-ピロリドン8.08gと、ジブチルエーテル8.50g、ジプロピレングリコールジメチルエーテル2.55gを加え撹拌し、洗浄用組成物を得た。
【0174】
[実施例2-2]~[実施例2-12]、[実施例2-26]、[比較例1-1]~[比較例1-6]
表1~表3(表1~3をまとめて表1等ともいう)の組成になるように調整した以外は、実施例2-1と同様の手順で洗浄用組成物を得た。
【0175】
[実施例2-13]~[実施例2-17]
第II成分のN-置換アミド化合物として、N-メチル-2-ピロリドンの代わりにN-エチル-2-ピロリドンを用い、表1等の組成になるように調整した以外は、実施例2-1と同様の手順で洗浄用組成物を得た。
【0176】
[実施例2-18]~[実施例2-20]
第II成分のN-置換アミド化合物として、N-メチル-2-ピロリドンの代わりにN,N-ジメチルプロピオンアミドを用い、表1等の組成になるように調整した以外は、実施例2-1と同様の手順で洗浄用組成物を得た。
【0177】
[実施例2-21]~[実施例2-22]
第II成分のN-置換アミド化合物として、N-メチル-2-ピロリドンの代わりに1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを用い、表1等の組成になるように調整した以外は、実施例2-1と同様の手順で洗浄用組成物を得た。
【0178】
[実施例2-23]~[実施例2-25]
第IV成分として、ジプロピレングリコールジメチルエーテルの代わりに酢酸ブチルを用い、表1等の組成になるように調整した以外は、実施例2-1と同様の手順で洗浄用組成物を得た。
【0179】
[比較例1-7]
テトラブチルアンモニウムフルオリド3水和物(関東化学製)1.3gに、N,N-ジメチルプロピオンアミド24.70gを加え撹拌し、洗浄用組成物を得た。
【0180】
[3]評価用基板の作製
[製造例1]
デバイス側のウエハーとしての4cm×4cmのシリコンウエハー(厚さ775μm)に、実施例1で得られた接着剤組成物をスピンコートで塗布し、110℃で1.5分間加熱(前加熱処理)することにより、ウエハー上の残留溶媒を除去しウエハー上に厚さが約40μmの薄膜を形成し、接着層付きウエハーを得た。
【0181】
[4]剥離時間の計測
製造例1で作製した接着層付きウエハーを実施例2-1~実施例2-26、比較例1-1~比較例1-7で得られた各洗浄用組成物7mLに浸漬させた。ウエハー上から接着層が完全に剥離するまでの時間を剥離時間とした。結果を下記表1~下記表3に示す。
【0182】
[5]剥離後の残渣の有無の確認
製造例1で作製した接着層付きウエハーを、実施例2-1~実施例2-26、比較例1-1~比較例1-7で得られた各洗浄用組成物7mLに浸漬した。洗浄用組成物に浸漬後、1分以内に接着層が剥離した場合はピンセットで剥離した接着層を除去した。浸漬開始から1分間放置した後に、基板をイソプロパノールと超純水で洗浄し、光学顕微鏡で基板上の残渣の有無を確認した。結果を下記表1~下記表3に示す。尚、比較例1-1~1-7は、上記[4]の試験において、300秒後も剥離しなかったため、[5]の試験は行っていない(表中、「N.A.」と表記)。
【0183】
[6]テープダメージの確認
[実施例3-1]
ダイシングテープとして、DU-300(日東電工製)を4×4cmに切断し、実施例2-1の洗浄用組成液7mLに浸漬し、5分間放置した後に、ダイシングテープをイソプロパノールと超純水で洗浄し、光学顕微鏡でテープ表面を観察した。その結果、浸漬前後でテープ表面上に変化は見られなかった。
また、実施例2-1の洗浄用組成液を実施例2-2~2-5の洗浄用組成液にそれぞれ変えて同様の実験を行ったが、実施例2-1の洗浄用組成液を使用した場合の結果と同様、浸漬前後でテープ表面上に変化は見られなかった。
【0184】
[比較例2-1]
ダイシングテープとして、DU-300(日東電工製)を4×4cmに切断し、比較例1-7の洗浄用組成液7mLに浸漬し、5分間放置した後に、ダイシングテープをイソプロパノールと超純水で洗浄し、光学顕微鏡でテープ表面を観察した。その結果、浸漬後の基板ではテープ表面に凹凸の形状が見られ、テープダメージが確認された。
【0185】
本発明の剥離及び溶解用組成物を用いて接着層付き半導体基板を洗浄すると、実施例2-1~実施例2-26で示すように、短時間で半導体基板から接着層を除去(洗浄)できることがわかった。本発明では、短時間で接着層の大半を剥離することができるため、たとえ剥離後に少量の接着層が残ったとしても、係る接着剤残渣は、剥離及び溶解用組成物中の溶解成分により溶解され、きれいに取り除かれる。そのことも実施例2-1~実施例2-26の結果で示されており、実施例2-1~実施例2-26で示すように、1分という短い時間、本発明の剥離及び溶解用組成物中に半導体基板を浸漬させただけで、半導体基板上の接着層をきれいに取り除くことができた。
つまり、本発明の半導体基板の洗浄方法を用いると、接着層をその表面に有する半導体基板上から、簡便な操作で、より短時間にかつよりきれいに除去(洗浄)することができる。
また、本発明の半導体基板の洗浄方法を用いると、[実施例3-1]で示すように、接着層の除去工程においてダイシングテープのダメージは生じなかった。
【0186】
【表1】
【0187】
【表2】
【0188】
【表3】