(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】冷却塔システム
(51)【国際特許分類】
F28C 1/14 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
F28C1/14
(21)【出願番号】P 2023117715
(22)【出願日】2023-07-19
【審査請求日】2024-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】永井 直宏
(72)【発明者】
【氏名】吉野 貴紀
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6394174(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第103292611(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0011107(US,A1)
【文献】中国実用新案第217424042(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第111397394(CN,A)
【文献】実開昭51-049758(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28C 1/00 - 1/16
F28F 25/00 - 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却塔及び該冷却塔の排気ファンからの排気を冷却するための熱交換器を有する冷却塔システムであって、
該熱交換器は、前記排気ファンが作動することによって冷却塔内に誘引される空気と、前記排気ファンからの排気とを熱交換させて該排気を冷却するものである冷却塔システム。
【請求項2】
前記熱交換器は、前記冷却塔の側面の大気取入部に向って誘引される空気が通過するように該大気取入部に対面して配置されている請求項1の冷却塔システム。
【請求項3】
前記熱交換器は、複数の、平盤状で中空のチャンバボックスを、相互間に間隔をあけて平行に配列したものであり、
該チャンバボックスは、上端面と下端面とが開放しており、1対の側辺は閉じられており、
前記排気は、各チャンバボックスの上端面の開放口から該チャンバボックス内に流入し、下端面の開放口から流出し、
各チャンバボックス同士の間のスペースを前記空気が通過する請求項2の冷却塔システム。
【請求項4】
前記熱交換器に誘引される前記空気を冷却するための大気冷却器を有する請求項2の冷却塔システム。
【請求項5】
前記大気冷却器は、水の蒸発による気化熱によって、空気を冷却する気化冷却装置である請求項4の冷却塔システム。
【請求項6】
前記熱交換器を通過した前記排気を、低温流体と熱交換させてさらに冷却する排気冷却器を有する請求項1~5のいずれかの冷却塔システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却塔と、該冷却塔の排気中の水分を回収する水回収機構とを有する冷却塔システムに関する。
【背景技術】
【0002】
開放式の冷却塔にあっては、塔頂のファンを作動させると共に、塔内に配置された充填材に散水することにより、充填材を伝わり落ちる水が気化熱によって冷却される。充填材間を通り抜けた空気は、塔頂のファンによって上方へ排出される。
【0003】
この冷却塔排気中には、水蒸気等の水分が大量に含まれており、冬季などにあっては、水蒸気が凝縮して白煙が生じることがある。
【0004】
かかる白煙を防止するための機構を備えた冷却塔として、特許文献1には冷却塔内の上部に空冷式の熱交換器を設け、塔内を上昇する水蒸気含有空気を冷却して水蒸気を凝縮させることにより、冷却塔排気中の水分量を減少させることが記載されている。熱交換器の低温流体通路には大気又はそれよりも温度の低い空気が通気される。
【0005】
特許文献2には、冷却塔のファン出口側にコロナ放電式水滴除去装置を設置し、コロナ放電によって水滴を帯電させて電極に吸着させ、排気中から水滴を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2006-502365号公報
【文献】特開平8-49989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、空冷式の熱交換器を冷却塔内に設置するため、冷却塔の塔体が大型化する。また、既設の冷却塔を改装して空冷式の熱交換器を冷却塔内に設置することは困難である。
【0008】
特許文献2の冷却塔にあっては、冷却塔排気中の水滴はコロナ放電式水滴除去装置によって排気中から除去され得るが、凝縮していない水蒸気については除去されないので、夏場など気温の高い時期では水滴があまり回収されず、水回収率が低い。また、コロナ放電式水滴除去装置により電力が消費されるので、電力コストが高くなる。
【0009】
本発明は、新たな送風装置等の動力装置を設置することなく、冷却塔排気中の水分を高回収率にて回収することができ、また既設の冷却塔にも適用することができ、電力コストも低い冷却塔システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の冷却塔システムは、冷却塔及び該冷却塔の排気ファンからの排気を冷却するための熱交換器を有する冷却塔システムであって、該熱交換器は、前記排気ファンが作動することによって冷却塔内に誘引される空気と、前記排気ファンからの排気とを熱交換させて該排気を冷却するものである。
【0011】
本発明の一態様では、前記熱交換器は、前記冷却塔の側面の大気取入部に向って誘引される空気が通過するように該大気取入部に対面して配置されている。
【0012】
本発明の一態様では、前記熱交換器は、複数の、平盤状で中空のチャンバボックスを、相互間に間隔をあけて平行に配列したものであり、該チャンバボックスは、上端面と下端面とが開放しており、1対の側辺は閉じられており、前記排気は、各チャンバボックスの上端面の開放口から該チャンバボックス内に流入し、下端面の開放口から流出し、各チャンバボックス同士の間のスペースを前記空気が通過する。
【0013】
本発明の一態様では、前記熱交換器に誘引される前記空気を冷却するための大気冷却器を有する。
【0014】
本発明の一態様では、前記大気冷却器は、水の蒸発による気化熱によって、空気を冷却する気化冷却装置である。
【0015】
本発明の一態様では、前記熱交換器を通過した前記排気を、低温流体と熱交換させてさらに冷却する排気冷却器を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の冷却塔システムにあっては、冷却塔の排気を、冷却塔のファンの送風力を利用して熱交換器に通気する。また、該ファンに誘引されて該冷却塔に流入しようとする空気を該熱交換器に流通させ、該排気と熱交換させる。このように、熱交換器に対して排気及び空気のいずれも冷却塔のファンの送風力及び誘引力によって通気されるので、ファン以外に新たな送風装置を設置することが不要である。そのため、設備コストが低いと共に、電力コストも低い。
【0017】
本発明では、熱交換器は、冷却塔の塔外に配置される。そのため、既設の冷却塔を本発明の冷却塔システムに容易に改装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係る冷却塔システムの構成図である。
【
図3】別の実施の形態に係る冷却塔システムの構成図である。
【
図4】別の実施の形態に係る冷却塔システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0020】
図1は第1の実施の形態に係る冷却塔システムの構成図であり、冷却塔を概略的な縦断面として示している。
【0021】
この冷却塔1は、ケーシング(塔体)2を備え、該ケーシング2の底部に、冷却水を貯留するための下部水槽(ピット)4が設けられている。ケーシング2の対向する2側面に大気取入部としてルーバー3が設けられている。ケーシング2内に充填材5が設置され、充填材5の上側に上部水槽6が設置されている。上部水槽6の底板は多数の小孔を有した散水板6aにて構成されている。ケーシング2の中央部(平面視における中央部)に空室7が設けられ、この空室7の上方にファン8が設けられている。
【0022】
下部水槽4の底部にポンプ9の吸引側が接続され、冷却ポンプ9の吐出側は、冷却水の往配管10を介して熱交換器等の被冷却体12の一端に連結されている。熱交換器等の被冷却体12の他端は冷却水の戻り配管13を介して冷却塔1の上部水槽6に接続されている。
【0023】
図示は省略するが、下部水槽4には、補給水(地下水、水道水、工業用水など)の給水配管が接続されたボールタップが設けられ、下部水槽4の水位を設定範囲に保持するようになっている。また、下部水槽4にはブロー弁(又はブローポンプ)を有したブロー配管と、オーバーフロー管とが設けられている。
【0024】
ファン8の側周囲は、筒形のシュラウド20によって囲まれている。
【0025】
このシュラウド20の上端にダクト21の一端が接続されており、該ダクト21の他端が熱交換器22に接続されている。この熱交換器22は、ケーシング(塔体)2の外側に配置されており、ケーシング2の一方の側面のルーバー3に対面して配置されている。
【0026】
熱交換器22は、
図2の通り、複数の、平盤状で中空のチャンバボックス22aを、相互間に間隔をあけて平行に配列したものである。チャンバボックス22aは、上端面と下端面とが開放しており、1対の側辺は閉じられている。チャンバボックス22aの上端面の開放口からファン8の排気が該チャンバボックス22a内に流入し、下端面の開放口から流出する。各チャンバボックス22a同士の間のスペースを空気(大気)が通過し、ルーバー3を通ってケーシング2内に流入する。
【0027】
チャンバボックス22aは、アルミニウム、銅などの熱伝導率の高い材料よりなる略方形板状材の一対の側辺同士を結合し、上辺同士及び下辺同士を結合しないようにして構成されたものである。各チャンバボックス22aは、その板面(盤面)がルーバー3に向かう方向となるように平行に配列されている。
【0028】
この冷却塔システムにあっては、ファン8をモータ(図示略)によって回転駆動すると共に、ポンプ9を作動させ、上部水槽6の散水板6aから充填材5に散水する。
【0029】
ファン8の誘引力によって、空気(大気)が熱交換器22、ルーバー3及び充填材5を通過する。そして、高湿度となった空気が空室7からファン8を通ってダクト21へ排出される。
【0030】
充填材5を伝わり落ちる水が蒸発時の気化熱によって低温の水となり、下部水槽4に落下する。下部水槽4内の水は、ポンプ9、配管10、被冷却体12、配管13を流れて上部水槽6に流入し、再び充填材5に散水される。
【0031】
ファン8の送風力によってダクト21に排出された高湿度排気は、熱交換器22を通過し、該熱交換器22で空気と熱交換して降温する。そして、該排気中に含まれていた水蒸気が凝縮して凝縮水となる。
【0032】
この凝縮水は、熱交換器22の下側に設けられた集水器(図示略)を経て排水配管22bに流出する。排水配管22bからの水は、回収水再利用設備に送水され、冷却塔の冷却水やボイラ給水等として利用される。
【0033】
熱交換器22で降温した排気は、ダクト23を経て大気放出される。この排気は、ファン排気中の水蒸気のかなりの部分が除去されたものであるので、大気放出されても白煙を生じさせることが防止ないし抑制される。
【0034】
この冷却塔システムにあっては、冷却塔1のファン8を作動させることにより、大気が誘引され、熱交換器22に低温側流体としての空気が流れると共に、ファン8の送風力により、熱交換器22の被冷却流体流路にファン8からの排気が通気される。そのため、熱交換器22への通気のための別途の(即ち、ファン8以外の)動力装置が不要である。
【0035】
この冷却塔システムにあっては、ダクト21及び熱交換器22はケーシング2外に配置されているので、既設の冷却塔においてもダクト21及び熱交換器22を取り付けることにより本発明の冷却塔システムの構成とすることができる。
【0036】
なお、
図1では、一方のルーバー3の外側にのみ熱交換器22を設置しているが、各ルーバー3の外側に熱交換器22を設置し、各熱交換器22にファン8の排気を通気するようにしてもよい。
【0037】
図1では、空気として大気が熱交換器22を通過するものとしているが、大気よりも低温の空気が熱交換器22に供給されてもよい。
【0038】
本発明では、熱交換器22を通過する大気の温度を下げ、より効率的な蒸発水回収を実現するために、著しく通風を阻害しない範囲において、
図3のように、熱交換器22の吸気側に大気冷却器24を設置してもよい。
【0039】
大気冷却器24としては、気化冷却装置、蓄熱材、熱交換器などを用いることができる。気化冷却装置とは、水の蒸発による気化熱を利用し空気を冷やす装置のことである。気化冷却装置としては、気化熱を利用し空気を冷やす機構によるものであれば特に限定されず、冷却用に散布される水と、熱交換器22に取り込まれる空気が接触するものであればよく、接触を効率的に実施するために水を噴霧したり、熱交換器22の吸気側に充填材を設置し、該充填材に水を散水する機構のものであってもよい。
【0040】
気化冷却装置に利用する水は、特に限定されず、工業用水、水道水、井水、排水回収水、冷却水、凝縮水などを用いることができる。
【0041】
別の場所や別の時間において得られる冷熱を用いて空気を冷却するために、大気冷却器24に蓄熱材を用いることができる。蓄熱材の種類としては、潜熱蓄熱材や顕熱蓄熱材などがあるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明では、
図4の通り、熱交換器22のファン排気流の下流側に、低温流体により排気をさらに冷却するための排気冷却器26を設置し、蒸発水のさらなる回収を行うようにしてもよい。
【0043】
排気冷却器26で排気の冷却に用いる低温流体としては特に限定されず、工業用水、水道水、井水、排水回収水、冷却水、凝縮水、ブライン、プロセス流体などを用いることができる。
図4では、冷却液を配管27,28によって排気冷却器26に通液している。
【0044】
ただし、排気冷却器26は、冷熱を用いて排気を冷却するものであり、冷熱源は液体に限らず、気体でもよい。
【0045】
本発明では、
図3の大気冷却器24と
図4の排気冷却器26の双方を設置してもよい。
【0046】
本発明では、
図5,6に示すものなど、その他の構成の熱交換器を用いてもよい。
【0047】
図5の熱交換器30は、仕切板31で隔てられた2つのガス流通部32,33を有しており、一方のガス流通部に排気が通気され、他方のガス流通部に逆方向に大気が通気される。
【0048】
図6の熱交換器40は、プレートフィン型熱交換器であり、仕切板を介して複数のコルゲートフィン(波板)41を多段に、かつ1段毎に波条方向が直交方向となるように積層配置したものである。奇数段目のコルゲートフィン41に沿って排気を流通させ、偶数段目のコルゲートフィン41に沿って大気を流通させるか、又は、偶数段目のコルゲートフィン41に沿って排気を流通させ、奇数段目のコルゲートフィン41に沿って大気を流通させる。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
冷却塔を備えた保有水量0.1m
3の冷却塔設備にダクト21及び熱交換器22を
図1の通り外付けにて設置して冷却塔システムを構成した。熱交換器22としては、HEATEX社製熱交換器(チャンバボックス22aの大きさ:H600×W300×t600mm、チャンバボックス22aの間隔:12mm、チャンバボックス22aの数:12個)を用いた。
【0050】
この冷却塔システムを以下の条件で稼働させた。
【0051】
冷却水の循環流量:19.6L/min
被冷却体12の冷却水入口温度:30℃
被冷却体12の冷却水出口温度:37℃(ΔT=7℃に設定)
冷却塔のファン動力:100W
補給水量:0.217L/min
蒸発水量:0.217L/min
ノンブロー
外気温:28℃
【0052】
5時間運転したときの蒸発水回収量及び回収率を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
ダクト21,23及び熱交換器22を設置しなかったこと以外は実施例1と同一条件として運転を行った。
【0054】
5時間運転したときの蒸発水回収量及び回収率を表1に示す。
【0055】
[比較例2]
比較例1において、ファン排気をコロナ放電ミストコレクター(ミドリ安全エア・クオリティ株式会社製 MCH-08A)に通気するようにしたこと以外は実施例1と同一条件として運転を行った。
【0056】
5時間運転したときの蒸発水回収量及び回収率を表1に示す。
【0057】
【0058】
表1の通り、実施例1によると、比較例1,2よりも高回収率にて蒸発水を回収することができる。また、比較例2のコロナ放電ミストコレクターでは、水の回収率は殆ど増加しないことが認められた。
【符号の説明】
【0059】
1 冷却塔
3 ルーバー(大気取入部)
4 下部水槽
5 充填材
6 上部水槽
6a 散水板
8 排気ファン
12 被冷却体
21 ダクト
22 熱交換器
22b 排水配管
24 大気冷却器
26 排気冷却器
【要約】
【課題】新たな送風装置等の動力装置を設置することなく、冷却塔排気中の水分を高回収率にて回収することができ、また既設の冷却塔にも適用することができ、電力コストも低い冷却塔システムを提供する。
【解決手段】冷却塔1は、側面にルーバー3を有し、頂部に排気ファン8を有し、下部に下部水槽4を有した塔体2と、該塔体2内に配置され、上方から水が注ぎかけられる充填材5とを有する。排気ファン8からの排気を冷却するための熱交換器22は、排気ファン8が作動することによってルーバー3に誘引される空気と、排気ファン8からの排気とを熱交換させて該排気を冷却する。
【選択図】
図1