(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】基板保持装置、及び導電膜付き基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240702BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01L21/68 N
C23C14/34 J
(21)【出願番号】P 2023545456
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2022031468
(87)【国際公開番号】W WO2023032721
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2021139521
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】仲村 壮太郎
(72)【発明者】
【氏名】滝川 淳平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 沙弥
(72)【発明者】
【氏名】秋庭 一樹
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-092025(JP,A)
【文献】特開2015-175865(JP,A)
【文献】特開2006-328518(JP,A)
【文献】特開2011-214034(JP,A)
【文献】特表2016-519778(JP,A)
【文献】特開2008-235294(JP,A)
【文献】特開平08-313856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの主面上に薄膜が形成される基板を位置決めして保持する基板保持装置であって、
前記主面中の成膜領域を規定する開口部を有し、第1方向において前記開口部が前記主面と対向する位置に配置されるマスク部材と、
前記第1方向に沿って前記基板を前記マスク部材側に付勢する付勢器と、
前記マスク部材と一体化され、前記基板の外縁部と接触する接触部材と、を有し、
前記接触部材は、
前記第1方向にて前記マスク部材に近付くにつれて、前記第1方向と交差する第2方向において前記マスク部材の内側に向かうように傾斜した傾斜面と、
前記第1方向にて前記傾斜面より前記マスク部材側に位置し、前記第1方向に沿って延出した延出面と、
前記第1方向にて前記延出面より前記マスク部材側に位置し、前記第1方向において前記基板の外縁部と当接する当接面と、を備え、
前記基板の外縁部は、平坦面である前記主面と連続し、前記主面に対して傾斜した外縁面を有し、
前記当接面は、前記外縁面に沿うように傾斜した面であり、前記外縁面に当接し、
前記付勢器により付勢された状態の前記基板、及び前記マスク部材を前記第1方向において互いに近接させて、前記傾斜面に沿って前記基板の外縁部を前記当接面側へ案内した後に、前記当接面を前記基板の外縁部と当接させることで前記基板を位置決めする、基板保持装置。
【請求項2】
一つの主面上に薄膜が形成される基板を位置決めして保持する基板保持装置であって、
前記主面中の成膜領域を規定する開口部を有し、第1方向において前記開口部が前記主面と対向する位置に配置されるマスク部材と、
前記第1方向に沿って前記基板を前記マスク部材側に付勢する付勢器と、
前記マスク部材と一体化され、前記基板の外縁部と接触する接触部材と、を有し、
前記接触部材は、
前記第1方向にて前記マスク部材に近付くにつれて、前記第1方向と交差する第2方向において前記マスク部材の内側に向かうように傾斜した傾斜面と、
前記第1方向にて前記傾斜面より前記マスク部材側に位置し、前記第1方向に沿って延出した延出面と、
前記第1方向にて前記延出面より前記マスク部材側に位置し、前記第1方向において前記基板の外縁部と当接する当接面と、を備え、
前記接触部材を構成する材料が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール樹脂、フッ素樹脂、フッ素ゴム、及びエラストマー材料のうちの少なくとも一つを含み、
前記付勢器により付勢された状態の前記基板、及び前記マスク部材を前記第1方向において互いに近接させて、前記傾斜面に沿って前記基板の外縁部を前記当接面側へ案内した後に、前記当接面を前記基板の外縁部と当接させることで前記基板を位置決め
し、
複数の前記付勢器が設けられており、
前記第1方向から前記基板を見た際の前記基板の形状が多角形である場合、
前記基板の外縁部が有する複数の角部分のそれぞれにおいて、前記付勢器が、前記薄膜が形成される前記主面とは反対側に位置する他の主面に接して前記基板を前記マスク部材側に付勢する、基板保持装置。
【請求項3】
前記接触部材は、前記マスク部材の前記基板と対向する側の面に固定された複数の接触部材によって構成され、
前記複数の接触部材は、それぞれ、前記傾斜面、前記延出面及び前記当接面を有し、前記基板の外縁部と接触する、請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項4】
前記第1方向から前記基板を見た際の前記基板の形状が多角形である場合に、前記複数の接触部材の各々は、前記基板の外縁部の角部分に接触する、請求項3に記載の基板保持装置。
【請求項5】
前記接触部材は、前記第1方向から見て屈曲した形状を有し、
前記接触部材の内壁面は、屈曲箇所にて互いに交差する二つの領域に分かれ、
前記二つの領域の各々は、前記傾斜面、前記延出面及び前記当接面を有し、
前記接触部材において前記二つの領域が交差する部分には、前記接触部材の外側に向かって形成された凹部が設けられており、
前記二つの領域の各々の前記延出面が前記凹部を挟んで並んでおり、前記二つの領域の各々の前記当接面が前記凹部を挟んで並んでいる、請求項4に記載の基板保持装置。
【請求項6】
前記凹部は、前記接触部材の内壁面が前記接触部材の外側に向かって湾曲することで形成され、
前記基板が前記基板保持装置により保持された状態では、前記基板の外縁部の角部分が前記凹部内に入り込み、且つ、前記接触部材の内壁面から離れている、請求項5に記載の基板保持装置。
【請求項7】
前記第1方向から前記基板を見た際の前記基板の形状が多角形である場合に、前記複数の接触部材のうちの少なくとも一つは、前記基板の外縁をなす辺の中央部分にて前記基板の外縁部に接触する、請求項3に記載の基板保持装置。
【請求項8】
複数の前記付勢器が設けられており、
前記第1方向から前記基板を見た際の前記基板の形状が多角形である場合、
前記基板の外縁部が有する複数の角部分のそれぞれにおいて、前記付勢器が、前記薄膜が形成される前記主面とは反対側に位置する他の主面に接して前記基板を前記マスク部材側に付勢する、請求項1
、3、4、5、6及び7のいずれか一項に記載の基板保持装置。
【請求項9】
各々の前記付勢器は、先端にて前記他の主面と接する本体部と、前記本体部の先端を前記他の主面に押し付ける弾性力を前記本体部に対して付与する弾性体と、を有し、
前記弾性体は、前記付勢器毎に設けられている、請求項8に記載の基板保持装置。
【請求項10】
前記本体部及び前記弾性体は、前記第1方向において前記基板の前記他の主面よりも前記主面から離れた位置に配置される、請求項9に記載の基板保持装置。
【請求項11】
基板における一つの主面に導電膜を形成する導電膜付き基板の製造方法であって、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の基板保持装置を用いて前記基板を位置決めし、
前記基板の位置決め後に、乾式成膜法によって、前記一つの主面に前記導電膜を形成し、
前記基板を位置決めする際には、前記付勢器により前記基板を前記第1方向において前記マスク部材側に付勢し、前記付勢器により付勢された状態の前記基板、及び前記マスク部材を前記第1方向において互いに近接させて、前記接触部材の前記傾斜面に沿って前記基板の外縁部を前記接触部材の当接面側へ案内した後に、前記当接面を前記基板の外縁部と当接させる、導電膜付き基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に膜を形成する際に基板を保持する基板保持装置、及び、基板保持装置を用いた導電膜付き基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンビームスパッタリング法及びマグネトロンスパッタリング法を用いて基板の主面上に薄膜を形成する際、基板は保持される。基板の保持手段には機械的手段が含まれ、その一例としては、特許文献1に記載の装置が挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載の装置は、基板を載置する基板台と、基板台上の基板の主表面と直交する端面を支持する端面支持手段と、基板を基板台側に付勢する基板付勢手段と、を備える。端面支持手段は、基板において対向位置にある少なくとも一組の端面と当接する。この構成によれば、成膜工程中、基板面方向における基板の移動を抑えながら基板を保持できる。
【0004】
また、特許文献1に記載の装置は、上面プレートを備える。上面プレートは、平面視で基板より小さい開口窓を有するマスク部材として機能し、開口窓から露出した基板の表面に対してスパッタ成膜がなされる。また、上面プレートは、基板面に対して垂直な方向において上昇位置と下降位置との間を移動可能である。上面プレートが下降位置に向けて移動すると、端面支持手段が追従して、基板の端面と当接する位置まで移動する。上面プレートが下降位置に至ると、上面プレートと基板主表面との間に間隔が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機械式の基板保持装置に関しては、特許文献1に記載の装置を含む従来の装置に比べて、より簡易な構造にて、基板の主面中の成膜領域が正しく露出するように基板を位置決めできるものが求められている。
【0007】
また、特許文献1に記載の装置のように、位置決め後の基板と、基板の上方に配置されたマスク部材との間には、通常、間隔が設けられる。この間隔は、成膜に影響を及ぼすことがあるので一定に維持される必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の装置では、基板面に対して垂直な方向において、マスク部材である上面プレートが基板に対して固定されていないので、上記の間隔が変動する可能性がある。
特に、各基板の厚さがばらつく場合には、そのバラツキ量が、そのまま、マスク部材と基板との間隔のバラツキ量に付加されてしまう。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、基板の主面中の成膜領域が正しく露出するように基板を位置決めし、且つ、基板とマスク部材との間隔(詳しくは基板の主面とマスク部材との間隔)を一定に維持できる基板保持装置の提供を課題とする。
また、本発明は、上記の基板保持装置を用いて基板の主面に導電膜を形成する導電膜付き基板の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、本発明の基板保持装置、及び導電膜付き基板の製造方法を用いれば、所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1] 一つの主面上に薄膜が形成される基板を、位置決めして保持する基板保持装置であって、主面中の成膜領域を規定する開口部を有し、第1方向において開口部が主面と対向する位置に配置されるマスク部材と、第1方向に沿って基板をマスク部材側に付勢する付勢器と、マスク部材と一体化され、基板の外縁部と接触する接触部材と、を有し、接触部材は、第1方向にてマスク部材に近付くにつれて、第1方向と交差する第2方向においてマスク部材の内側に向かうように傾斜した傾斜面と、第1方向にて傾斜面よりマスク部材側に位置し、第1方向に沿って延出した延出面と、第1方向にて延出面よりマスク部材側に位置し、第1方向において基板の外縁部と当接する当接面と、を備え、付勢器により付勢された状態の基板、及びマスク部材を第1方向において互いに近接させて、傾斜面に沿って基板の外縁部を当接面側へ案内した後に、当接面を基板の外縁部と当接させることで基板を位置決めする、基板保持装置。
[2] 前記接触部材は、前記マスク部材の前記基板と対向する側の面に固定された複数の接触部材によって構成され、複数の接触部材は、それぞれ、傾斜面、延出面及び当接面を有し、基板の外縁部と接触する、[1]に記載の基板保持装置。
[3] 第1方向から基板を見た際の基板の形状が多角形である場合に、複数の接触部材の各々は、基板の外縁部の角部分に接触する、[2]に記載の基板保持装置。
[4] 接触部材は、第1方向から見て屈曲した形状を有し、接触部材の内壁面は、屈曲箇所にて互いに交差する二つの領域に分かれ、二つの領域の各々は、傾斜面、延出面及び当接面を有し、接触部材において二つの領域が交差する部分には、接触部材の外側に向かって形成された凹部が設けられており、二つの領域の各々の延出面が凹部を挟んで並んでおり、二つの領域の各々の当接面が凹部を挟んで並んでいる、[3]に記載の基板保持装置。
[5] 凹部は、接触部材の内壁面が接触部材の外側に向かって湾曲することで形成され、基板が基板保持装置により保持された状態では、基板の外縁部の角部分が凹部内に入り込み、且つ、接触部材の内壁面から離れている、[4]に記載の基板保持装置。
[6] 第1方向から基板を見た際の基板の形状が多角形である場合に、複数の接触部材のうちの少なくとも一つは、基板の外縁をなす辺の中央部分にて基板の外縁部に接触する、[2]に記載の基板保持装置。
[7] 基板の外縁部は、平坦面である主面と連続し、主面に対して傾斜した外縁面を有し、当接面は、外縁面に沿うように傾斜した面であり、外縁面に当接する、[1]乃至[6]のいずれかに記載の基板保持装置。
[8] 複数の付勢器が設けられており、第1方向から基板を見た際の基板の形状が多角形である場合、基板の外縁部が有する複数の角部分のそれぞれにおいて、付勢器が、薄膜が形成される主面とは反対側に位置する他の主面に接して基板をマスク部材側に付勢する、[1]乃至[7]のいずれかに記載の基板保持装置。
[9] 各々の付勢器は、先端にて他の主面と接する本体部と、本体部の先端を他の主面に押し付ける弾性力を本体部に対して付与する弾性体と、を有し、弾性体は、付勢器毎に設けられている、[8]に記載の基板保持装置。
[10] 本体部及び弾性体は、第1方向において基板の他の主面よりも主面から離れた位置に配置される、[9]に記載の基板保持装置。
[11] 接触部材を構成する材料が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール樹脂、フッ素樹脂、フッ素ゴム、及びエラストマー材料のうちの少なくとも一つを含む、[1]乃至[10]のいずれかに記載の基板保持装置。
[12] 基板における一つの主面に導電膜を形成する導電膜付き基板の製造方法であって、[1]乃至[11]のいずれかに記載の基板保持装置を用いて基板を位置決めし、基板の位置決め後に、乾式成膜法によって、一つの主面に前記導電膜を形成し、基板を位置決めする際には、付勢器により基板を第1方向においてマスク部材側に付勢し、付勢器により付勢された状態の基板、及びマスク部材を第1方向において互いに近接させて、接触部材の傾斜面に沿って基板の外縁部を接触部材の当接面側へ案内した後に、当接面を基板の外縁部と当接させる、導電膜付き基板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基板の主面中の成膜領域が正しく露出するように基板を位置決めし、且つ、基板とマスク部材との間隔を一定に維持できる基板保持装置が提供される。また、本発明の基板保持装置を用いて基板を適切に位置決めして保持した状態で基板の主面に導電膜を形成することにより、導電膜付き基板を適切に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る基板保持装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係る基板保持装置の機器構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施形態に係る接触部材の斜視図であり、接触部材を下側から見た図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施形態に係る接触部材の平面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1実施形態に係る接触部材の側面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1実施形態に係る接触部材の底面図である。
【
図7】
図7は、マスク部材に対する接触部材の配置位置を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の第1実施形態に係る付勢器の構成を示す部分断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第1実施形態に係る接触部材によって基板を位置決めする手順を示す図である(その1)。
【
図11】
図11は、本発明の第1実施形態に係る接触部材によって基板を位置決めする手順を示す図である(その2)。
【
図12】
図12は、本発明の第1実施形態に係る接触部材によって基板を位置決めする手順を示す図である(その3)。
【
図13】
図13は、本発明の第1実施形態に係る接触部材によって基板を位置決めする手順を示す図である(その4)。
【
図14】
図14は、本発明の第2実施形態におけるマスク部材に対する接触部材の配置位置を示す図である。
【
図15】
図15は、本発明の第2実施形態に係る接触部材の底面図である。
【
図16】
図16は、本発明の第3実施形態に係る接触部材の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の具体的な実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明の理解を容易にするために挙げた一例にすぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施形態から変更又は改良され得る。
また、本発明を実施するために用いられる各機器の材質及び形状等は、本発明の用途及び本発明の実施時点での技術水準等に応じて任意に設定し得る。また、本発明には、その等価物が含まれる。
【0014】
本発明における用語の意味は、以下の通りである。
本明細書中の「直交」、「垂直」、「鉛直」、「平行」及び「水平」は、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。
本明細書中の「方形」には、長方形及び正方形が含まれる。
【0015】
本発明の一実施形態の基板保持装置は、一つの主面上に薄膜が形成される基板を位置決めして保持する基板保持装置であって前記主面中の成膜領域を規定する開口部を有し、第1方向において前記開口部が前記主面と対向する位置に配置されるマスク部材と、前記第1方向に沿って前記基板を前記マスク部材側に付勢する付勢器と、前記マスク部材と一体化され、前記基板の外縁部と接触する接触部材と、を有し、前記接触部材は、前記第1方向にて前記マスク部材に近付くにつれて、前記第1方向と交差する第2方向において前記マスク部材の内側に向かうように傾斜した傾斜面と、前記第1方向にて前記傾斜面より前記マスク部材側に位置し、前記第1方向に沿って延出した延出面と、前記第1方向にて前記延出面より前記マスク部材側に位置し、前記第1方向において前記基板の外縁部と当接する当接面と、を備え、前記付勢器により付勢された状態の前記基板、及び前記マスク部材を前記第1方向において互いに近接させて、前記傾斜面に沿って前記基板の外縁部を前記当接面側へ案内した後に、前記当接面を前記基板の外縁部と当接させることで前記基板を位置決めすることを特徴とする。
【0016】
<<本発明の第1実施形態について>>
本発明の第1実施形態について説明する。以下では、互いに直交する三つの方向をX、Y、Z方向と呼ぶこととする。Z方向は、本実施形態の第1方向に該当し、後述するマスク部材10の厚さ方向と一致する。X及びY方向は、本実施形態の第2方向に該当し、Z方向と交差(直交)する方向であり、Z方向が鉛直方向である場合には水平方向である。なお、以下の説明中、「平面視で見たとき」とは、Z方向から見たときである。
【0017】
[基板について]
基板保持装置の説明に先立ち、基板保持装置が保持する基板(以下、基板B)について説明する。基板Bは、平面視で見たときの形状が多角形、詳しくは方形であるガラス板であり、基板Bの厚さ方向における両端位置に主面を有する。基板Bが有する一つの主面には薄膜(導電膜)が形成される。以下、薄膜が形成される主面を「成膜面Sa」と呼び、成膜面Saとは反対側に位置する他の主面を「裏面Sb」と呼ぶこととする。
【0018】
第1実施形態では、成膜面Saが平坦面であり、基板Bの外縁部の成膜面Sa側が面取りされている。つまり、基板Bの外縁部は、成膜面Saと連続し、且つ成膜面Saに対して傾斜した外縁面Scを有する。ここで、基板Bの外縁部とは、基板Bの側端面(外周面)、及びその周辺部分を意味する。また、基板Bの外縁部が有する四つの角は、それぞれ、角張った形状でもよく、若しくは丸みを有するR形状でもよい。
【0019】
[第1実施形態に係る基板保持装置の基本構成]
第1実施形態に係る基板保持装置(以下、基板保持装置1)の基本構成について、
図1及び2を参照しながら説明する。
基板保持装置1は、導電膜付き基板を製造するために用いられ、成膜に際して基板BをXYZの各方向にて位置決めし、成膜中、基板Bを位置決めされた状態で保持する。
【0020】
基板保持装置1は、
図1に示すように、一つのマスク部材10、複数の接触部材20、複数の付勢器30、及びベースユニット40を有する。マスク部材10、接触部材20、付勢器30、及びベースユニット40は、Z方向においてこの順に並んで配置されている。
【0021】
基板保持装置1は、
図2に示すように、Z方向においてマスク部材10と付勢器30との間に基板Bを挟み込んで基板Bを保持し、より詳しくは接触部材20と付勢器30との間に基板Bを挟み込む。
【0022】
また、基板保持装置1は、基板Bを保持した状態の基板保持装置1の姿勢を転換する不図示の姿勢転換機構を備える。姿勢転換機構の動作により、基板保持装置1を構成する上記の部材が並ぶ方向、すなわちZ方向が、鉛直方向と交差方向との間で切り替わる。交差方向とは、鉛直方向に対して交差する方向であり、例えば水平方向、あるいは鉛直方向及び水平方向のそれぞれに対して傾いた方向である。基板保持装置1の姿勢転換により、基板Bの成膜面が水平面から変化し、具体的には、不図示のターゲット側を向くように起立する。
【0023】
マスク部材10は、金属製の円板からなり、中央部分に方形の開口部12を有する。開口部12は、成膜面Sa中の成膜領域を規定する貫通穴である。基板保持装置1において、マスク部材10は、Z方向にて開口部12が成膜面Saと対向する位置に配置される。また、平面視で見たときの開口部12のサイズは、基板Bのサイズよりも僅かに小さい。
【0024】
複数の接触部材20は、本実施形態の接触部材を構成し、第1実施形態では、基板Bの外縁部が有する角と同数、すなわち四つの接触部材20である。基板保持装置1が基板Bを保持した状態では、複数の接触部材20の各々が基板Bの外縁部と接触する。また、複数の接触部材20は、マスク部材10と一体化されており、詳しくは、マスク部材10の基板Bと対向する側の面(以下、底面)に固定される。
接触部材20の構成については、後に詳しく説明することとする。
【0025】
複数の付勢器30は、それぞれ、基板BをZ方向に付勢し、具体的には、基板Bの裏面Sbに接して基板Bをマスク部材10側に付勢する。第1実施形態では、基板Bの外縁部が有する角と同数の、すなわち四つの付勢器30が設けられている。各付勢器30は、マスク部材10における開口部12の縁部分のうち、角部周辺とZ方向に重なる位置に配置されている。
付勢器30の構成については、後に詳しく説明することとする。
【0026】
ベースユニット40は、基板保持装置1の底部をなし、付勢器30の基端を固定する固定台42と、固定台42よりマスク部材10側に位置するハウジング44と、マスク部材10を支持する支持アーム46と、支持アーム46の基端を固定する可動台48とを有する。また、Z方向において固定台42と可動台48との間には昇降機50が設けられている。
【0027】
昇降機50は、不図示のエアシリンダが駆動することで昇降し、昇降機50の昇降動作に伴って、可動台48が固定台42に対してZ方向に相対移動する。これに伴って、支持アーム46、及び、支持アーム46に支持されたマスク部材10が可動台48と同じ方向に移動する。この結果、マスク部材10及び複数の接触部材20が、付勢器30の先端に載せられた基板Bに対して相対的に移動し、具体的には、基板Bに対して近接したり離間したりする。
【0028】
[接触部材の詳細構成]
接触部材20の構成について、
図3~8を参照しながら改めて説明する。なお、基板保持装置1が備える複数の接触部材20の各々は、いずれも同じ構成であるため、以下では、一つの接触部材20の構成を説明することとする。
【0029】
また、以下に説明する接触部材20の位置及び姿勢等は、特に断る場合を除き、接触部材20がマスク部材10に固定された状態での位置及び姿勢等であることとする。また、以下では、説明の便宜上、接触部材20から見てマスク部材10が位置する側を「上側」と呼び、その反対側を「下側」と呼ぶこととする。
【0030】
接触部材20は、
図3~6に示す形状に成形されたブロック型の樹脂成型品である。接触部材20は、種々の材料によって構成可能であるが、成型性の観点で考えると、接触部材20を構成する材料は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール(PBI)樹脂、フッ素樹脂、フッ素ゴム等の樹脂材料、及びエラストマー材料であるとよい。これらのうち、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、及びフッ素ゴムがより好ましく、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が特に好ましい。
なお、エラストマー材料としては、エステル系、アミド系、オレフィン系等が挙げられる。
【0031】
接触部材20は、
図3及び6に示すように、平面視で見たときにL状に屈曲した形状を有する。接触部材20は、内壁面及び外壁面を有し、内壁面にて基板Bと接触する。接触部材20の内壁面は、屈曲箇所にて互いに交差する二つの領域に分かれる。二つの領域は、互いに略直交する面であり、一方の領域は、X方向に沿って延出し、もう一方の領域は、Y方向に沿って延出する。
【0032】
それぞれの領域は、
図3及び5に示すように、接触部材20の下側から傾斜面21、延出面22、当接面23及び頂上面24を有する。傾斜面21は、Z方向にてマスク部材10に近付くにつれて(つまり上側に向かうにつれて)、Z方向に交差する方向であるX又はY方向においてマスク部材10の内側に向かうように傾斜した面である。ここで、マスク部材10の内側とは、開口部12の中央を向く側である。
【0033】
なお、Z方向に対する傾斜面21の傾斜角度は、後述する手順によって基板Bを位置決めする上では、0°以上、且つ30°以下であることが好ましく、また、10°以上、且つ20°以下であることがより好ましい。ここで、0°以上であることが好ましく、10°以上であることがより好ましく、また、30°以下であることが好ましく、20°以下であることがより好ましい。
【0034】
延出面22は、Z方向において傾斜面21よりも上側(すなわち、マスク部材10側)で傾斜面21と連続しており、Z方向に沿って延出した面である。Z方向における延出面22の長さは、特に限定されないが、基板Bの厚さを踏まえて基板Bを位置決めするのに好適な長さに設定されるのが好ましい。具体的には、基板Bの厚さをT(MM)とした場合、Z方向における延出面22の長さは、0.2T以上であることが好ましく、0.5T以上であることがより好ましい。
【0035】
当接面23は、Z方向において延出面22よりも上側(すなわち、マスク部材10側)で延出面22と連続しており、基板Bの位置決め時にZ方向において基板Bの外縁部、詳しくは外縁面Scに当接する面である。
【0036】
当接面23は、Z方向にてマスク部材10に近付くにつれて、X又はY方向においてマスク部材10の内側に向かうように傾斜しており、詳しくは、外縁面Scに沿うように傾斜した面である。つまり、Z方向に対する当接面23の傾斜角度は、基板Bの厚さ方向(すなわち、Z方向)に対する外縁面Scの傾斜角度と略同じ大きさである。ここで、略同じとは、完全に同一の値に限定されるものでなく、設計上の誤差を許容する意味である。具体的には、当接面23の傾斜角度と外縁面Scの傾斜角度の差が±10%以内であることを意味する。
【0037】
頂上面24は、接触部材20の内壁面の上端部をなし、Z方向において当接面23よりも上側(マスク部材10側)で当接面23と連続しており、Z方向に沿って延出した面である。
【0038】
第1実施形態では、
図3及び4に示すように、接触部材20の屈曲部分、すなわち内壁面において二つの領域が交差する部分に凹部25が設けられている。この凹部25は、X及びY方向において接触部材20の外側(開口部12から離れる側)に向かって形成されており、接触部材20の内壁面が接触部材20の外側に向かって弓なりに湾曲することで形成されている。凹部25は、平面視で略半円状に形成されており、その曲率は、丸みを有する場合の基板Bの角の曲率よりも小さい。接触部材20の屈曲部分に凹部25が設けられていることで、屈曲部分にゴミ及び埃等の異物が溜まるのを抑えることができる。
【0039】
また、接触部材20の内壁面における二つの領域の各々の延出面22は、凹部25を挟んで並んでいる。同様に、二つの領域の各々の当接面23は、凹部25を挟んで並んでおり、二つの領域の各々の頂上面24は、凹部25を挟んで並んでいる。
【0040】
図3~6に示すように、接触部材20の外壁面からは舌状部分28が外側に向かって突出している。舌状部分28には穴が形成され、ボルト締結等によってマスク部材10に対して位置決めされてマスク部材10の底面に固定される。なお、接触部材20の固定位置については、特に限定されるものではなく、接触部材20が基板Bと好適に接触するように接触部材20を固定できれば、任意の固定位置であってもよい。
【0041】
第1実施形態では、マスク部材10における開口部12の縁部分に沿って接触部材20が固定され、詳しくは、
図7に示すように、開口部12の縁の角部分に接触部材20の内壁面が沿うように接触部材20が固定されている。これにより、基板Bが位置決めされた際には、マスク部材10に固定された複数(具体的には四つ)の接触部材20が、それぞれ、基板Bの外縁部の角部分に接触するようになる。
【0042】
また、接触部材20がマスク部材10に固定された状態では、
図8に示すように、当接面23及び頂上面24が開口部12の縁(
図8中、破線にて示す)よりも内側にある。なお、開口部12の縁の寸法は基板Bの外縁の寸法より小さく、基板Bがマスク部材10に対して位置決めされた状態では、延出面22が、基板Bの外縁よりも外側に位置する。
【0043】
[付勢器の構成の詳細構成]
付勢器30の構成について、
図1及び9を参照しながら改めて説明する。なお、基板保持装置1が備える複数の付勢器30の各々は、いずれも同じ構成であるため、以下では、一つの付勢器30の構成を説明することとする。
【0044】
付勢器30は、
図9に示すように、Z方向に延びた本体部31と、本体部31に装着されたバネ体32とによって構成されており、本体部31の先端にて基板Bの裏面Sbと接し、また、バネ体32にて本体部31の先端を裏面Sbに押し付ける弾性力を本体部31に対して付与する。本体部31は、ベースユニット40の固定台42から垂直に立ち上がった芯棒部分33が筒状部分34内に挿入されることで構成されている。
【0045】
筒状部分34は、芯棒部分33に対してZ方向に移動自在な状態で芯棒部分33に支持されている。また、筒状部分34の先端部、すなわちマスク部材10側の端部は、閉じて閉塞端をなし、さらに、先端には半球状の突起35がZ方向に突出して設けられている。
【0046】
バネ体32は、弾性体であり、詳しくは例えばコイルバネであり、筒状部分34内に収容され、芯棒部分33と筒状部分34との間に配置されている。つまり、第1実施形態では、バネ体32がそれぞれの付勢器30に対して個別に設けられ、換言すると、付勢器30毎に設けられている。
なお、バネ体32は、付勢器30により基板Bを付勢しながら安定して保持するのに好適なバネ力に設定されるのが好ましく、例えばバネ力が、保持される基板Bの重量の5倍以上、且つ10倍以下程度に相当する力になるようにバネ定数と押し込み量を調整するとよい。
【0047】
各付勢器30において、バネ体32の一端は、筒状部分34の内壁面に対して固定され、バネ体32の他端は、芯棒部分33に対して固定されている。これにより、筒状部分34が芯棒部分33に対してZ方向に移動すると、それに伴ってバネ体32が伸縮する。そして、筒状部分34がZ方向において固定台42側(下側)に移動すると、バネ体32が縮んで弾性力が発生し、その弾性力が筒状部分34に作用する。このとき、突起35上に基板Bが載っていると、突起35の頂点がバネ体32の弾性力を受けて基板Bの裏面Sbに押し付けられる。
【0048】
第1実施形態では、複数(具体的には四つ)の付勢器30の各々が、XY方向においてマスク部材10の開口部12の角部分と同じ位置に配置されている。より詳しく説明すると、各付勢器30は、Z方向において接触部材20の内壁面の少なくとも一部分と重なるように配置されている。これにより、各付勢器30は、基板Bの外縁部が有する角部分のそれぞれにおいて、各付勢器30が基板Bの裏面Sbに接して基板Bをマスク部材10側に付勢する。
【0049】
換言すると、基板Bは、その角の周辺位置にて、付勢器30の先端に設けられた突起35と点接触し、付勢器30によってマスク部材10側に付勢される。この結果、基板Bのガタツキを抑え、基板Bをバランスよく保持できる。また、付勢器30と基板Bとの接触が点接触であるため、基板Bとの接触面積を極力小さくできる。仮に付勢器30が基板Bの裏面Sbと面接触する場合には、付勢器30の接触面が裏面Sbに対して傾いていると基板Bにガタツキが生じるが、第1実施形態では、点接触であるため、そのようなガタツキの発生が抑えられる。
【0050】
また、第1実施形態では、付勢器30を構成する本体部31及びバネ体32が、Z方向において基板Bの裏面Sbよりも成膜面Saから離れた位置に配置されている。このようにバネ体32を成膜面Saからより離して配置することで、成膜面Saの汚染を効果的に抑制できる。すなわち、バネ体32の伸縮によって発塵する可能性があるが、発塵源となり得るバネ体32を成膜面Saから離すことで、成膜面Saの汚染リスクを軽減できる。
【0051】
[第1実施形態に係る基板の位置決め方法]
次に、基板保持装置1による基板Bの位置決め方法について、
図10~13を参照しながら説明する。
【0052】
基板Bの位置決めに際して、Z方向が鉛直方向に設定され、基板Bが不図示のロボットアームによって把持される。ロボットアームは、把持した基板Bを複数の付勢器30の上方位置に搬送し、基板Bにおける四つの角部分を複数の付勢器30の先端に載せる。このとき、マスク部材10は、昇降機50の動作により、Z方向において固定台42から最も離れた位置(以下、上方位置)にある。
【0053】
基板Bを複数の付勢器30の先端に載せた後、昇降機50が下降して可動台48が下方移動する。これに伴い、マスク部材10が下降し、この結果、複数の付勢器30によって付勢された状態の基板Bと、マスク部材10とがZ方向において互いに近接するようになる。
【0054】
マスク部材10が下降すると、やがて、マスク部材10の底面に固定された複数の接触部材20の各々が、
図10に示すように、基板Bの外縁部と隣り合うようになる。このとき、基板Bの配置位置がXY方向において正規の位置(すなわち、位置決め後の位置)からズレていると、
図10に示すように、基板Bの外縁面Scが接触部材20の傾斜面21に当接する。
【0055】
詳しく説明すると、開口部12の対角線上に位置する二つの接触部材20(以下、対をなす一組の接触部材20)のうち、一方の接触部材20の傾斜面21に基板Bの外縁面Scが当接する。
【0056】
なお、基板Bの外縁部と当接する接触部材20の内壁面には、互いに交差する二つの傾斜面21が存在しているが、一方の傾斜面21が外縁面Scに当接してもよく、あるいは、両方の傾斜面21が外縁面Scに当接してもよい。
【0057】
マスク部材10が下降し続けると、
図10に示すように、傾斜面21に接した外縁面Scが傾斜面21上を摺動する。これにより、基板Bの外縁部が、傾斜面21に沿って上方(すなわち、当接面23側)に案内される。この際、基板Bの外縁部のうち、傾斜面21と接する側の部分が正規の位置よりも外側にズレていれば、その部分が、X又はY方向において傾斜面21によって押されてマスク部材10の内側に向かって移動する。
【0058】
その後、マスク部材10がさらに下降すると、
図11及び12に示すように、傾斜面21に接する外縁面Scが傾斜面21を乗り越え、基板Bの側端面(外縁)が接触部材20の延出面22と接するようになる。
【0059】
詳しく説明すると、対をなす一組の接触部材20のうち、傾斜面21が基板Bの外縁面Scと当接した方の接触部材20の延出面22が基板Bの側端面と当接する。このとき、もう一方の接触部材20の延出面22は、基板Bの側端面と当接してもよいし、当接しなくてもよい。
【0060】
上記の状態からマスク部材10がさらに下降することで、基板Bの側端面と接する延出面22が当該側端面に沿いながら下降し、換言すると、基板Bが延出面22に沿ってマスク部材10側に略垂直に移動する。そして、マスク部材10のさらなる下降により、
図13に示すように、Z方向において基板Bの外縁部が接触部材20の当接面23に当接する。
【0061】
詳しく説明すると、対をなす一組の接触部材20のうち、傾斜面21が基板Bの外縁面Scと当接した方の接触部材20の当接面23が外縁面Scと当接する。このとき、もう一方の接触部材20の当接面23は、外縁面Scと当接してもよいし、当接しなくてもよい。
【0062】
なお、接触部材20の内壁面には、凹部25を介して互いに交差する二つの当接面23が存在しているが、一方の当接面23が外縁面Scに当接してもよく、あるいは、両方の当接面23が外縁面Scに当接してもよい。
【0063】
以上の手順により、基板Bは、XY方向において位置決めされる。つまり、第1実施形態では、付勢器30により基板Bをマスク部材10側に付勢しながら、付勢された状態の基板B及びマスク部材10をZ方向において互いに近接させる。
【0064】
その過程において、基板Bの外縁部が接触部材20の傾斜面21に当接すると、傾斜面21に沿って基板Bの外縁部が接触部材20の当接面23側に案内される。この際、XY方向において基板Bが正規の配置位置からズレている場合、基板Bが傾斜面21によってマスク部材10の内側に押されて基板Bの位置が規正される。この結果、基板Bは、成膜面Sa中の成膜領域が開口部12を通じて正しく露出するように位置決めされる。
【0065】
なお、第1実施形態では、四つの接触部材20が設けられているが、基板Bを安定して保持する観点では、少なくとも二つ以上の接触部材20が基板Bの外縁部と接触するのが好ましく、三つ以上の接触部材20が接触するのがより好ましく、四つすべての接触部材20が接触するのが特に好ましい。
【0066】
当接面23が基板Bの外縁部、詳しくは外縁面Scと当接した状態で、マスク部材10が固定台42に最も接近した位置(以下、下降位置)まで下降すると、複数の付勢器30に対して基板Bの重力(自重)が作用する。これにより、各付勢器30の筒状部分34がZ方向において固定台42側(下側)に移動し、筒状部分34内のバネ体32が縮んで弾性力が発生する。この弾性力は、筒状部分34を介して基板Bに作用する。
【0067】
つまり、基板Bは、Z方向において、接触部材20と付勢器30との間に挟まれ、付勢器30の付勢力(弾性力)によってマスク部材10側に押さえ付けられる。この結果、Z方向におけるマスク部材10と基板Bとの間隔、詳しくはマスク部材10と基板Bの主面との間隔が、当接面23からマスク部材10までの長さに応じた間隔、つまりは一定の大きさの間隔となる。したがって、基板Bの厚さにバラツキがあったとしても、上記の間隔は影響を受けないことになる。
【0068】
以上により、Z方向において、基板Bとマスク部材10との間隔の大きさが所定値となるように基板Bを位置決めできる。詳しく説明すると、接触部材20とマスク部材10とが一体化しているので、基板Bの外縁部が付勢器30によってマスク部材10側に付勢された当接面23に接することで、Z方向においてマスク部材10に対する基板Bの位置が決まる。これにより、それ以降は、基板Bの成膜面Saとマスク部材10との間隔が一定に維持される。
なお、基板Bとマスク部材10との間隔は、マスク部材10と接触部材20との間にシムスペーサ(不図示)を介在させることで調整できる。
【0069】
接触部材20と付勢器30との間に挟まれた基板Bは、付勢器30の付勢力によって位置決め後の位置に安定して保持される。そして、成膜のために基板保持装置1の姿勢が転換されて、基板Bが水平姿勢から起立した場合にも、付勢器30の付勢力によって基板Bの保持状態が良好に維持される。
【0070】
また、基板Bが位置決め後の位置にて保持された状態では、基板Bの外縁部の角部分が接触部材20の凹部25内に入り込み、且つ、接触部材20の内壁面から離れている(
図8参照)。このような構成によれば、基板Bの外縁部の角部分が接触部材20に接触して擦れるのを抑えることができる。
【0071】
[第1実施形態に係る導電膜付き基板の製造方法について]
次に、第1実施形態に係る導電膜付き基板の製造方法について説明する。
先ず、上記の本実施形態の基板保持装置1を用いて基板BをXYZの各方向において位置決めして保持する。具体的には、Z方向を鉛直方向に設定し、マスク部材10が上方位置にあるときに、基板Bを不図示のロボットアームによりピックアップする。その後、基板保持装置1の側方から基板Bをマスク部材10と複数の付勢器30との間のスペースに挿し込み、各付勢器30の先端上に載せる。これにより、基板Bが、Z方向において複数の付勢器30によってマスク部材10側に付勢される。
【0072】
その後、昇降機50によってマスク部材10を下降させ、付勢器30によって付勢された状態の基板Bとマスク部材10とを、Z方向において互いに近接させる。その過程において、基板Bの外縁部を接触部材20の傾斜面21に当接させ、傾斜面21に沿って接触部材20の当接面23側に案内する。そして、マスク部材10をさらに下降させることで、当接面23を基板Bの外縁部、詳しくは外縁面Scに当接させる。これにより、基板Bの成膜面Sa中の成膜領域がマスク部材10の開口部12を通じて正しく露出するように、基板BがXY方向において位置決めされる。
【0073】
最終的にマスク部材10が下方位置まで下降すると、各付勢器30のバネ体32が縮んで弾性力が発生する。その弾性力によって、基板Bが接触部材20と付勢器30との間に挟まれてマスク部材10側に押さえ付けられる。以上までの工程により、基板BがXYZ方向に位置決めされて、それ以降、基板Bが位置決め後の位置に保持される。
【0074】
その後、姿勢転換機構により、Z方向が鉛直方向に対して傾くように基板保持装置1の姿勢が転換される。これにより、基板Bの成膜面Saのうち、開口部12を通じて露出された成膜領域が不図示のターゲットに面するようになる。
【0075】
その後、乾式成膜法により、成膜領域に導電膜が形成される。乾式成膜法としては、公知の成膜法、例えば、マグネトロンスパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法、CVD(CHEMICAL VAPOR DEPOSITION)法、並びに真空蒸着法等が利用できる。
【0076】
上述の成膜法を利用する場合、基板保持装置1の接触部材20を構成する材料には、成膜容器内の真空雰囲気下においてガス成分を放出しないものを利用するのが好ましい。また、成膜装置では基板Bが熱を持つ場合があるため、接触部材20は、少なくとも約150℃程度まで化学的及び物理的に耐熱性を有することが好ましい。
【0077】
なお、成膜時には、基板保持装置1を回転させてもよい。本実施形態によれば、接触部材20の延出面22により、基板保持装置1の回転によって生じる遠心力にも対応できる。
【0078】
以上までに説明した導電膜付き基板の製造方法は、半導体製造等に使用されるEUV(EXTREME ULTRAVIOLET)リソグラフィ用反射型マスクブランクス(以下、EUVマスクブランクスという)の製造、若しくはEUVマスクブランクス用の機能膜付き基板の製造に有効である。
【0079】
<<他の実施形態について>>
以上までに、本発明の基板保持装置、及び導電膜付き基板の製造方法について、一つの具体例を挙げて説明してきたが、上述の実施形態は、あくまでも一例に過ぎず、以下に説明するように、他の実施形態も考え得る。
【0080】
[第2実施形態]
第1実施形態では、複数の接触部材20の各々が、平面視でL字状に屈曲した形状であり、マスク部材10における開口部12の縁の角部付近に固定されていることとした。また、第1実施形態では、基板保持装置1が基板Bを保持する際、各接触部材20が基板Bの外縁部の角部分に接触することとした。ただし、この構成とは異なる第2実施形態が考えられる。以下では、
図14及び15を参照して、第2実施形態のうち、第1実施形態と相違する点を主として説明する。
【0081】
なお、
図14及び15は、第2実施形態についての説明図であって、
図14は、
図7と対応する図であり、
図15は、
図6と対応する図である。また、
図14及び15に示す部材のうち、第1実施形態と共通するものには、第1実施形態と同じ符号を付している。
【0082】
第2実施形態では、
図14に示すように、四つの接触部材20Xの各々が、平面視で直線状に延びた形状を有し、開口部12の縁をなす各辺の中央部分に固定されている。また、各接触部材20Xの内壁面は、
図15に示すように、傾斜面21、延出面22、当接面23及び頂上面24を有する。それぞれの面の形状は、第1実施形態と同様の形状である。
【0083】
そして、第2実施形態では、基板保持装置1が基板Bを保持する際、四つの接触部材20Xの少なくとも一つが、基板Bの外縁をなす辺の中央部分にて基板Bの外縁部に接触する。このような構成であっても、第1実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、第2実施形態に係る接触部材20Xを用いた場合にも、成膜面Sa中の成膜領域が正しく露出するように基板Bを位置決めし、且つ、基板Bとマスク部材10との間隔を一定に維持できる。
【0084】
なお、第2実施形態では、四つの接触部材20Xのうち、二つ以上の接触部材20Xが基板Bに接触し、特に、基板Bの外縁における対辺の各々の中央部分に接触するのが好ましい。また、基板Bをより安定して保持する観点では、三つ以上の接触部材20Xが基板Bに接触するのがより好ましく、四つの接触部材20Xすべてが基板Bに接触するのが特に好ましい。
【0085】
[第3実施形態]
第1実施形態では、各接触部材20の内壁面における屈曲箇所に凹部25が設けられており、凹部25は、内壁面が接触部材20の外側に向かって湾曲することで形成されることとした。ただし、凹部の形状が上記の形状とは異なる第3実施形態が考えられる。以下では、
図16を参照して、第3実施形態のうち、第1実施形態と相違する点を主として説明する。
【0086】
なお、
図16は、第3実施形態についての説明図であって、
図6と対応する図であり、
図16に示す接触部材の各部位のうち、第1実施形態と共通する部位には、第1実施形態と同じ符号を付している。
【0087】
第3実施形態に係る接触部材20Yは、
図16に示すように平面視で見たときにL字形状をなしている。また、接触部材20Yは、屈曲部分に形成されたスリット状の凹部26が形成されている。つまり、接触部材20Yは、スリットである凹部26によって二つの断片(以下、接触部材断片27)に分かれている。なお、
図16に示す例では、二つの接触部材断片27が互いに分離されているが、これらの一部が繋がっていてもよい。二つの接触部材断片27は、凹部26を介して互いに交差(詳しくは直交)する位置に配置され、各々の接触部材断片27の内壁面は、傾斜面21、延出面22、当接面23及び頂上面24を有する。それぞれの面の形状は、第1実施形態と同様の形状である。
【0088】
第3実施形態に係る接触部材20Yでは、凹部26が設けられていることにより、接触部材20Yの角部においてゴミ及び埃等の異物を凹部26から排出できる。また、基板Bが基板保持装置1によって保持された状態では、基板Bの外縁部の角部分が凹部26内に入り込む。凹部26は、前述したようにスリットであるため、基板Bの外縁部の角部分が接触部材20Yと接触して擦れるのを抑えることができる。
【0089】
[その他の実施形態]
以上までに説明してきた実施形態以外の構成も考えられ、例えば、基板Bの外縁部の成膜面Sa側は、面取りされておらず、外縁面Scが成膜面Saを延長させた面、すなわち水平面であってもよい。この場合、接触部材20、20X、20Yの各々の内壁面が備える当接面23は、基板Bの外縁面Scと良好に当接する観点から、延出面22に対して垂直な面、すなわち水平面であるとよい。
【0090】
また、付勢器30が例えば板ばね等によって構成されており、基板Bの裏面Sbと面接触することとしてもよい。ただし、前述したように、バランスよく付勢する観点では、付勢器30が点接触にて裏面Sbと当接する方がより好ましい。
【0091】
また、接触部材20,20X,20Yが、マスク部材10とは別部材とせず、マスク部材10と同一部材によって構成されたものでもよい。すなわち、接触部材20,20X,20Yと、マスク部材10とが一部品として一体成形されてもよい。
【0092】
また、本発明は、マスク部材10が固定されていて基板Bが可動である態様、すなわち、基板Bをマスク部材10に対して移動させる構成にも適用できる。
【0093】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2021年8月30日出願の日本特許出願(特願2021-139521)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0094】
1 基板保持装置
10 マスク部材
12 開口部
20,20X,20Y 接触部材
21 傾斜面
22 延出面
23 当接面
24 頂上面
25,26 凹部
27 接触部材断片
28 舌状部分
30 付勢器
31 本体部
32 バネ体(弾性体)
33 芯棒部分
34 筒状部分
35 突起
40 ベースユニット
42 固定台
44 ハウジング
46 支持アーム
48 可動台
50 昇降機
B 基板
Sa 成膜面(一つの主面)
Sb 裏面(他の主面)
Sc 外縁面