(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】アレルゲン検出用マーカーおよびそれを用いたアレルゲン検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20240702BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20240702BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20240702BHJP
C12Q 1/37 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
G01N30/88 J
G01N30/06 E
G01N30/72 C
C12Q1/37 ZNA
(21)【出願番号】P 2021542605
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2020026896
(87)【国際公開番号】W WO2021039147
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2019158119
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597128004
【氏名又は名称】国立医薬品食品衛生研究所長
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】穐山 浩
(72)【発明者】
【氏名】菊地 博之
(72)【発明者】
【氏名】関 友輔
(72)【発明者】
【氏名】有本 千里
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/16551(WO,A1)
【文献】特表2014-525588(JP,A)
【文献】特開2006-126083(JP,A)
【文献】国際公開第2003/66079(WO,A2)
【文献】JIRA, W., MUNCH,S.,A sensitive HPLC-MS/MS screening method for the simultaneous detection of barley, maize, oats, rice, tye and wheat proteins in meat ptoducts,Food Chemistry,2019年,Vol.275,pp.214-223
【文献】MARTINEZ-ESTESO, M. J. et al.,Defining the wheat gluten peptide fingerprint via a discovery and targeted proteomics approach,Journal of Proteomics,2016年,Vol.147,pp.156-168
【文献】YOSHIOKA, H. et al.,Expression and epitope analysis of the major allergenic protein Fag e 1 from buckwheat,Journal of Plant Physiology,2004年,Vol.161,pp.761-767
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/06
G01N 30/72
G01N 30/88
C12Q 1/37
G01N 27/62
G01N 33/10
G01N 33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のアレルゲンを検出する方法であって、
試料をタンパク質分解酵素で処理すること、および
クロマトグラフィー分離を利用した分析により、該酵素処理した試料中におけるアレルゲン由来ポリペプチドの存在の有無を検出することを含み、
該アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号1、2、5、6および7のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、
方法。
【請求項2】
前記クロマトグラフィー分離を利用した分析が液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アレルゲンが小麦であり、前記アレルゲン由来ポリペプチドが配列番号1および2のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号3および4のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項3又は4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記アレルゲンがソバであり、前記アレルゲン由来ポリペプチドが配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項7】
前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号8~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記アレルゲンが小麦およびソバであり、前記アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号1~2のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上とを含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項9】
前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号3および4のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号8~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項8~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号1、2、5、6および7のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、請求項8記載の方法。
【請求項13】
配列番号1または2のアミノ酸配列からなる小麦アレルゲン検出用マーカー。
【請求項14】
配列番号5、6または7のアミノ酸配列からなるソバアレルゲン検出用マーカー。
【請求項15】
配列番号67~70のいずれかのアミノ酸配列からなる小麦アレルゲン検出用マーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のアレルゲンを検出するためのマーカーおよびそれを用いたアレルゲン検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食物アレルギーは食品中のアレルゲン(アレルギー性物質)に対する過剰な免疫応答により引き起こされる。アレルゲンを含む食品の喫食による健康被害事例が多数報告されている。我が国では、食物アレルギーの発症数、症状の重篤性が高い特定原材料7品目(卵、乳、小麦、落花生、エビ、ソバ、カニ)について、食品における表示が義務付けられている。
【0003】
現在、アレルゲン性タンパク質を分析する方法として、ELISA法、ウエスタンブロット法、PCR法が公定試験法として使用されている。しかし、ELISA法は、抗体の特異性や交差反応性に起因する偽陰性や偽陽性が出ることがある。ウエスタンブロット法は、検査法が煩雑である。またPCR法は、DNAを含まない食材には適用できない。これらの既存の試験法の欠点を克服できる迅速、簡便かつ頑健性の高い新たなアレルゲン検出方法の開発が求められている。
【0004】
近年、LC-MSによるアレルゲンの分析が、高感度で選択性の高いアレルゲンの検出手法として開発されている。特許文献1には、オボアルブミン、リゾチーム、カゼイン、ラクトグロブリン、高分子量グルテニン、低分子量グルテニン、コムギタンパク質、ライムギタンパク質、カラスムギタンパク質、オオムギタンパク質、カラシナタンパク質、ゴマタンパク質、マカダミアナッツタンパク質、ピスタチオナッツタンパク質、ブラジルナッツタンパク質、クルミタンパク質、ラッカセイタンパク質およびヘーゼルナッツタンパク質からなる群より選択されるアレルゲンを酵素分解して得られる特定の配列のペプチドをLC-MS/MSで検出する、試料中の上記アレルゲンを検出する方法が記載されている。特許文献2には、試料組成物からアレルゲンを含む抽出液を形成し、該抽出液中のアレルゲンの量をLC-UV/MSまたはLC-MSを使用して測定する、組成物中のアレルゲン含有量を測定する方法が記載されている。特許文献3には、LC-MS/MSを使用して試料中のソバ、甲殻類、乳、卵またはラッカセイ由来のアレルゲンポリペプチドを検出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-525588号公報
【文献】特表2013-539039号公報
【文献】国際公開公報第2018/016551号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食品等の試料中におけるアレルゲンをより簡便かつ高感度に検出できる方法が求められている。特に、小麦由来アレルゲンである低分子量(LMW)グルテニンについては、従来感度、特異性ともに充分な検出法が見つかっていなかったため、これを高感度に検出する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、小麦グルテニンまたはソバに含まれる特定のアミノ酸配列が、小麦またはソバ由来アレルゲンのマーカーとして使用できること、したがって、当該アミノ酸配列を検出することにより、アレルゲンである小麦またはソバを高感度に検出できることを見出した。
【0008】
一実施形態において、本発明は、以下を提供する。
〔1〕試料中のアレルゲンを検出する方法であって、
試料をタンパク質分解酵素で処理すること、および
クロマトグラフィー分離を利用した分析により、該酵素処理した試料中におけるアレルゲン由来ポリペプチドの存在の有無を検出することを含み、
該アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号1、2、5、6および7のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、
方法。
〔2〕前記クロマトグラフィー分離を利用した分析が液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)である、〔1〕記載の方法。
〔3〕前記アレルゲンが小麦であり、前記アレルゲン由来ポリペプチドが配列番号1および2のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号3および4のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、〔3〕記載の方法。
〔5〕前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、〔3〕又は〔4〕記載の方法。
〔6〕前記アレルゲンがソバであり、前記アレルゲン由来ポリペプチドが配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔7〕前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号8~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、〔6〕記載の方法。
〔8〕前記アレルゲンが小麦およびソバであり、前記アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号1~2のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上とを含む、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔9〕前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号3および4のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、〔8〕記載の方法。
〔10〕前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、〔8〕又は〔9〕記載の方法。
〔11〕前記アレルゲン由来ポリペプチドが、さらに配列番号8~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を含む、〔8〕~〔10〕のいずれか1項記載の方法。
〔12〕前記アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号1、2、5、6および7のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、〔8〕記載の方法。
〔13〕配列番号1または2のアミノ酸配列からなる小麦アレルゲン検出用マーカー。
〔14〕配列番号5、6または7のアミノ酸配列からなるソバアレルゲン検出用マーカー。
〔15〕配列番号67~70のいずれかのアミノ酸配列からなる小麦アレルゲン検出用マーカー。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、食品等の試料中における微量のアレルゲン(小麦またはソバ)の存在を検出することができる、高感度なアレルゲン検出方法を提供する。特に、本発明によれば、これまで高感度検出が困難であったLMWグルテニンの検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】8種類の小麦試料から検出された配列番号1のペプチドのピークを示すクロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、試料中のアレルゲンを検出する方法を提供する。本発明において、アレルゲン検出に供する対象物の例としては、食品、化粧品、医薬品、それらの原材料、それらの製造工程で使用する機器類、などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの対象物を、通常の前処理、例えば粉砕、溶解、懸濁、抽出等、もしくはそれらの組み合わせにかけたものを、本発明の方法の試料として用いることができる。あるいは、対象物が機器類の場合、その洗浄液やふき取り検体など、またはそれらを粉砕、溶解、懸濁、抽出等、もしくはそれらの組み合わせにかけたものを、本発明の方法の試料として用いることができる。なお、本発明の方法に用いる試料の調製方法は、上記に限定されず、次に述べるタンパク質分解酵素処理のための試料の調製に用いることができるあらゆる方法を包含し得る。
【0012】
本発明の方法においては、調製した試料を、タンパク質分解酵素で処理する。本発明の方法で用いられるタンパク分解酵素の例としては、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、テルモリシンなどが挙げられ、好ましくはトリプシンまたはキモトリプシンである。例えば、全ての試料をトリプシンもしくはキモトリプシンのいずれかで処理してもよく、またはトリプシン処理した試料とキモトリプシン処理した試料をそれぞれ調製してもよい。より好ましくは、後述する配列番号1~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドを検出する場合にはトリプシンが用いられ、一方、後述する配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドを検出する場合にはキモトリプシンが用いられる。処理の条件は、酵素の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えばトリプシンの場合、酵素濃度1000~20000U、25~45℃、pH7~9程度で4~24時間が好ましい。キモトリプシンの場合も同様の条件が好ましい。当該酵素処理は、標的のアレルゲンのタンパク質分子を分解して、該アレルゲンに由来するポリペプチドを生成する。したがって、試料中に標的のアレルゲンが含まれていれば、上記酵素処理後の試料は、標的アレルゲンに由来するポリペプチドを含む。一方、試料中に標的のアレルゲンが含まれていなければ、上記酵素処理後の試料は、標的アレルゲンに由来するポリペプチドを含まない。
【0013】
したがって、上記タンパク分解酵素で処理した試料中における1種以上の標的アレルゲン由来ポリペプチドの存在の有無を検出することにより、該試料中における標的アレルゲンの存在の有無を判定することができる。本発明の方法で検出する標的アレルゲンとしては、小麦およびソバが挙げられる。
【0014】
標的アレルゲンが小麦の場合、本発明の方法においては、γ-グリアジン、低分子量(LMW)グルテニン、および高分子量(HMW)グルテニンのいずれか1種以上の分解産物をアレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。本発明の方法の一実施形態においては、下記に示す配列番号1のアミノ酸配列からなるLMWグルテニン由来ポリペプチドおよび配列番号2のアミノ酸配列からなるHMWグルテニン由来ポリペプチドの一方または両方を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。好ましくは、少なくとも配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドを、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。さらに、配列番号1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドに加えて、下記に示す配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドおよび配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上をアレルゲン由来ポリペプチドとして検出してもよい。したがって、本発明において、配列番号1~4のポリペプチドの各々は、小麦アレルゲンを検出するためのポリペプチドマーカーとして使用され得る。
QIPEQSR (配列番号1):LMWグルテニン由来ポリペプチド
GGSFYPGETTPPQQLQQR(配列番号2):HMWグルテニン由来ポリペプチド
SVAVSQVAR (配列番号3):HMWグルテニン由来ポリペプチド
ELQELQER (配列番号4):HMWグルテニン由来ポリペプチド
【0015】
標的アレルゲンが小麦の場合、本発明の方法の別の一実施形態においては、下記に示す配列番号67のアミノ酸配列からなるγ-グリアジン由来ポリペプチドおよび配列番号68~70のアミノ酸配列からなるLMWグルテニン由来ポリペプチドからなる群より選択される少なくとも1種を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。好ましくは、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドの2種以上、より好ましくは全部が、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出される。したがって、本発明において、配列番号67~70のポリペプチドの各々は、小麦アレルゲンを検出するためのポリペプチドマーカーとして使用され得る。
EGIRSL (配列番号67):γ-グリアジン由来ポリペプチド
ARSQML (配列番号68):LMWグルテニン由来ポリペプチド
EAIRAIIY (配列番号69):LMWグルテニン由来ポリペプチド
VQQQIPVVQPSIL(配列番号70):LMWグルテニン由来ポリペプチド
【0016】
あるいは、配列番号1~4のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上と、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を組み合わせて、小麦アレルゲン由来ポリペプチドとして検出してもよい。組み合わせの例としては、配列番号1~2のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上と、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上との組み合わせ;配列番号1~2のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上と、配列番号3~4のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上と、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上との組み合わせ;配列番号1および2のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ;配列番号1~4および67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドの組み合わせ、などが挙げられる。
【0017】
標的アレルゲンがソバの場合、本発明の方法においては、11Sグロブリンおよび/または13Sグロブリンの分解産物をアレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。より詳細には、下記に示す配列番号5のアミノ酸配列からなる11Sグロブリンおよび13Sグロブリン由来ポリペプチド、配列番号6のアミノ酸配列からなる11Sグロブリンおよび13Sグロブリン由来ポリペプチド、ならびに配列番号7のアミノ酸配列からなる13Sグロブリン由来ポリペプチドからなる群より選択される1種以上を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。好ましくは、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てを、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。さらに、配列番号5、6または7のアミノ酸配列からなるポリペプチドに加えて、下記に示す配列番号8~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種以上を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出してもよい。したがって、本発明において、配列番号5~10のポリペプチドの各々は、ソバアレルゲンを検出するためのポリペプチドマーカーとして使用され得る。
NAIIGPR (配列番号5):11Sグロブリン/13Sグロブリン由来ポリペプチド
NAILGPR (配列番号6):11Sグロブリン/13Sグロブリン由来ポリペプチド
ADVFNPR (配列番号7):13Sグロブリン由来ポリペプチド
GFIVQAR (配列番号8):13Sグロブリン由来ポリペプチド
SVFDDNVQR(配列番号9):13Sグロブリン由来ポリペプチド
VQVVGDEGR(配列番号10):13Sグロブリン由来ポリペプチド
【0018】
一実施形態において、標的アレルゲンが小麦およびソバの場合、検出されるアレルゲン由来ポリペプチドは、好ましくは配列番号1~2のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上とを含み、より好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上とを含み、さらに好ましくは、配列番号1、2、5、6および7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てを含む。検出されるアレルゲン由来ポリペプチドには、さらに配列番号3~4のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上が含まれていてもよい。例えば、本発明の方法の標的アレルゲンが小麦およびソバの場合、検出されるアレルゲン由来ポリペプチドの好ましい例としては、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上との組み合わせ;配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ;配列番号1~2のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ;配列番号1~4のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ;配列番号1~2のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号5~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ、などが挙げられ、より好ましい例は、配列番号1~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てである。
【0019】
別の一実施形態において、標的アレルゲンが小麦およびソバの場合、検出されるアレルゲン由来ポリペプチドは、好ましくは配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上とを含み、より好ましくは、配列番号67~70、5、6および7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てを含む。例えば、本発明の方法の標的アレルゲンが小麦およびソバの場合、検出されるアレルゲン由来ポリペプチドの好ましい例としては、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上との組み合わせ;配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ;配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号5~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ、などが挙げられ、より好ましい例は、配列番号67~70および5~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てである。
【0020】
さらに別の一実施形態において、標的アレルゲンが小麦およびソバの場合、検出されるアレルゲン由来ポリペプチドは、好ましくは配列番号1~2のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上とを含み、より好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上を含み、さらに好ましくは、配列番号1、2、67~70、5、6および7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てを含む。検出されるアレルゲン由来ポリペプチドには、さらに配列番号3~4のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上が含まれていてもよい。例えば、本発明の方法の標的アレルゲンが小麦およびソバの場合、検出されるアレルゲン由来ポリペプチドの好ましい例としては、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上との組み合わせ;配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、配列番号3~4のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上との組み合わせ;配列番号1~2のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上との組み合わせ;配列番号1~2のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号3~4のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上との組み合わせ;配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ;配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、配列番号67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ;配列番号1~2および67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ;配列番号1~4および67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号5~7のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ;配列番号1~2および67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てと、配列番号5~10のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てとの組み合わせ;配列番号1~10および67~70のアミノ酸配列からなるポリペプチドの全て、などが挙げられる。
【0021】
本発明の方法では、上記配列番号1~10および67~70から選択されるポリペプチド以外の他の小麦またはソバ由来ポリペプチドを、標的アレルゲン由来ポリペプチドとしてさらに検出してもよい。そのような他のポリペプチドの例としては、小麦については、特許文献1に開示されるコムギタンパク質に特異的なポリペプチド(本明細書において配列番号11~62のアミノ酸配列からなるポリペプチドとして開示される)から選択される1種以上が挙げられ、ソバについては、特許文献3に開示されるソバタンパク質に特異的なポリペプチド(本明細書において配列番号63~66のアミノ酸配列からなるポリペプチドとして開示される)から選択される1種以上が挙げられる。
【0022】
さらに本発明の方法においては、小麦およびソバに加えて、他のアレルゲンを標的アレルゲンとしてさらに検出してもよい。そのような他のアレルゲンの好ましい例としては、カニ、エビなどの甲殻類、乳、卵、および落花生が挙げられる。
【0023】
カニ、エビなどの甲殻類については、トロポミオシンの分解産物を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出することができる。検出すべきポリペプチドの例としては、特許文献3に配列番号8~12として開示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドから選択される1種以上が挙げられる。
【0024】
乳については、カゼインまたはβラクトグロブリンの分解産物を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出することができる。検出すべきポリペプチドの例としては、特許文献1に配列番号12~29として開示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドから選択される1種以上、ならびに特許文献3に配列番号13~17として開示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドから選択される1種以上が挙げられる。
【0025】
卵については、オボアルブミンの分解産物を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出することができる。検出すべきポリペプチドの例としては、特許文献1に配列番号1~7として開示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドから選択される1種以上、ならびに特許文献3に配列番号18~21として開示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドから選択される1種以上が挙げられる。
【0026】
ラッカセイについては、Ara h1-3の分解産物を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出することができる。検出すべきポリペプチドの例としては、特許文献1に配列番号182~187として開示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドから選択される1種以上、ならびに特許文献3に配列番号22~24として開示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドから選択される1種以上が挙げられる。
【0027】
上記タンパク分解酵素で処理した試料中における標的アレルゲン由来ポリペプチドの存在の有無を検出する手段としては、クロマトグラフィー分離を利用した分析が好適である。クロマトグラフィー分離を利用した分析としては、液体クロマトグラフィー質量分析、例えば、液体クロマトグラフィータンデム型質量分析(LC-MS/MS)、液体クロマトグラフィー飛行時間型質量分析(LC-TOF/MS)などが挙げられる。測定精度(S/N比)が高くかつ複数ペプチドを一度に検出できることから、LC-MS/MSを用いた多重反応モニタリング(MRM)が好ましい。
【0028】
本発明の方法において、標的アレルゲン由来ポリペプチドの検出に用いるクロマトグラフィーとしては、液体クロマトグラフィー(LC)が好ましく、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)がより好ましい。また好ましくは、該LCは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)であり、さらに好ましくはRP-HPLCである。RPLC用の担体としては、シリカゲルやポリマーゲル基材に炭化水素鎖(好ましくはオクタデシル基)を結合した充填剤を有する担体、例えばC18カラム、C8カラムなどが挙げられる。該LCの移動相(溶離液)は、目的の各アレルゲン由来ポリペプチドを個別に分離することができるものであればよく、例えば、ギ酸水溶液(A)とギ酸/アセトニトリル水溶液(B)との100:0~0:100(体積比)グラジエント溶液が挙げられるが、これに限定されない。
【0029】
液体クロマトグラフィー質量分析においては、上記LCの溶出物を質量分析(MS/MS、TOF/MS等)にかける。質量分析は、タンデム四重極型質量分析装置、飛行時間型質量分析装置等の公知の質量分析装置を用いて、ペプチドの検出に用いられる通常の条件に従って実施することができる。例えば、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)または大気圧化学イオン化法(APCI)を用いた多重反応モニタリング(MRM)が好ましい。質量分析では、溶出物中の各ポリペプチドは、質量数/電荷(m/z)に従って分離される。例えば、目的のポリペプチドのm/z値を予めデータベース化しておくことにより、測定されたm/z値に基づいて、試料中における目的のポリペプチドの有無を検出することができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(試薬)
トリプシン(シグマアルドリッチ、分子生物学研究用)
キモトリプシン(MP Biomedicals、ブタ膵臓由来、生化学分析用)
ヨードアセトアミド(IA)(シグマアルドリッチ、分子生物学研究用)
ジチオスレイトール(DTT)(シグマアルドリッチ、分子生物学研究用)
炭酸水素ナトリウム(純正化学 特級)
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)(富士フイルム和光純薬、特級)
尿素(富士フイルム和光純薬、特級)
トリフルオロ酢酸(TFA)(純正化学、特級)
アセトニトリル(富士フイルム和光純薬、HPLC用)
メタノール(富士フイルム和光純薬、HPLC用)
ギ酸(関東化学、LC/MS用)
【0032】
(LC-MS/MS装置)
HPLC:Nexera X2(島津製作所)
MS/MS:QTRAP 5500(SCIEX)
(HPLC条件)
カラム:Kinetek C18(2.1×150mm、粒径2.6μm;Phenomenex)
カラム温度:50℃
カラム流速:0.3mL/min
注入量2μL
移動相:溶離液A 0.1vol%ギ酸
溶離液B 0.1vol%ギ酸/アセトニトリル
グラジエント:A:B=99:1(0min)→99:1(4min)→40:60(16.5min)→5:95(20min)→5:95(25min)→99:1(25.1min)→99:1(35min)
(質量分析条件)
測定モード:sMRM
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法
極性:ポジティブ
スプレー電圧:4.5kV
ターボガス温度:500℃
カーテンガス:20psi
ネブライザーガス:50psi
ターボガス:80psi
コリジョンガス:窒素
【0033】
(試験溶液の調製)
試料0.5gに4mol/L尿素および0.1mol/L DTTを含む100mmol/Lトリス緩衝液(pH8.2)を5mL加え、37℃で3時間加温した。加温した溶液を遠心し(1,500×g、5分間)、得られた上清0.5mLに40mg/mL IA溶液50μLを添加して37℃で30分間反応させ、タンパク質をアルキル化した。反応液は、10mg/mLトリプシン0.1mLおよび50mmol/L炭酸水素ナトリウム溶液0.5mLを加えて一晩消化した。消化後の溶液を、TFA0.02mLを添加して遠心分離し(6,000×g、5分間)、上清を回収した。Oasis HLBミニカラム(Waters)は、予めメタノール2mLおよび水5mLでコンディショニングした。該カラムに上清を負荷し、4mLの0.5%TFAで2回洗浄した後、6mLの70%アセトニトリル溶液で溶出した。溶出液をエバポレーターで濃縮し、5%アセトニトリル溶液0.5mLに溶解させて試験溶液を得た。
【0034】
(LC-MS/MS分析)
得られた試験溶液を0.22μmフィルターでろ過した後、LC-MS/MS分析にかけた。
【0035】
実施例1 LC-MS/MS分析による小麦およびソバアレルゲン検出法の構築
1)MRMトランジッション条件の最適化
小麦については、HMWグルテニン(UniProt No:P10387およびP10388)およびLMWグルテニン(UniProt No:P10385およびP10386)を検出すべき標的タンパク質とした。ソバについては、13S グロブリン(UniProt No:O23878)および11Sグロブリン(UniProt No:A9NJG2)を標的タンパク質とした。ワシントン大学で開発されたプロテオーム解析用ソフトウェア「Skyline」を用いて、LC-MS/MSの測定条件の最適化を行った。具体的には、上記標的タンパク質をトリプシン消化して得られるペプチドについて、多重反応モニタリング(MRM)のトランジッション条件を求め、また該MRMにより検出されるペプチドから構築され得るタンパク質を調べることで、標的タンパク質を検出できる最適なトランジッション条件の候補を抽出した。各標的タンパク質について見出されたトランジッション条件の候補を表1に示す。
【0036】
【0037】
2)検量線の作成
表1に示した小麦およびソバのペプチドの標準溶液を用いて検量線を作成し、その直線性および定量限界濃度を評価した。検量線は、1、2、5、10、20、50および100ppb(配列番号2のみ10~500ppb)の範囲で作成した。その結果、表2~3に示すとおり、全ての検量線において、決定係数R2が0.990以上の良好な直線性が認められた。各検量線の最小点の検量溶液から得られたピークのS/N比を指標として定量限界濃度を推定したところ、HMWグルテニン由来のペプチドGGSFYPGETTPPQQLQQR(配列番号2)(定量限界濃度:10ppb)を除き、1ppbの定量が可能と判断された。以上のことから、表1に示すペプチドが、極微量の小麦またはソバ由来標的タンパク質の検出を可能にすることが示された。さらに、配列番号1、2のペプチドは、これまで小麦アレルゲンの検出に用いられていない新規小麦アレルゲンマーカーであることが明らかになった。また配列番号5、6および7のペプチドは、これまでソバアレルゲンの検出に用いられていない新規ソバアレルゲンマーカーであることが明らかになった。
【0038】
【0039】
【0040】
実施例2 検出特異性の評価
試料として、小麦8種類((1) 1CW、(2) HRW、(3) WW、(4) ASW、(5) フランス産小麦(FBW)、(6) 春よ恋、(7) きたほなみ(HKH)、(8) シロガネ)、ソバ5種類((1) キタワセ、(2) 中国産在来、(3) ジクーリ、(4) マンカン、(5) 北海3号)、および穀類7種類(米、ひえ、あわ、ライ麦、大麦、燕麦、はと麦)を用いた。実施例1で構築した方法を用いて、試料中における配列番号1~10の小麦またはソバ由来ペプチドの有無を調べた。結果を表4~5に示す。また、小麦試料についてのクロマトグラムの一例を
図1に示す。
図1には、配列番号1のペプチドのピークが示されている。
【0041】
【0042】
【0043】
実施例3 市販食品への適用
実施例1で構築した方法の市販食品への適用性を検証した。試料として市販の食品12種(製品番号A~L)を用いた。試料とした食品の種類および該食品に表示されている含有アレルゲンを表6に、食品試料からの配列番号1~10の小麦またはソバ由来ペプチドの検出結果を表7に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
表7に示すとおり、配列番号1~4の小麦由来ペプチドは、小麦の含有が表示されていない製品A~Fからは検出されなかった一方で、小麦を含む食品G~I、KおよびLからは検出された。配列番号5~10のソバ由来ペプチドは、ソバを含むことが表示されている食品J~Lからのみ検出された。製品Jは、ソバを含む食品であるが、小麦の混入が否定されていない。本実施例では、製品Jからは、調べた全てのソバ由来ペプチドのピークが検出されたが、小麦由来ペプチドについての一つのトランジッションでもピークが検出され、これは、製品に表示されている通り、製品Jへの極微量の小麦タンパクの混入を示唆した。以上の結果から、配列番号1~10の小麦またはソバ由来ペプチドをLC-MS/MSで検出することによって、食品に含まれる小麦およびソバアレルゲンの存在を高精度かつ高感度で検出できることが示された。
【0047】
実施例4 LC-MS/MS分析による小麦アレルゲン検出法の構築-2
γ-グリアジン(UniProt No.P21292)およびLMWグルテニン(UniProt No.P10385およびNo.P10386)を検出すべき標的タンパク質とした。該標的タンパク質をキモトリプシン消化して得られるペプチドについて、実施例1と同様の手順でLC-MS/MSの測定条件の最適化を行った。各標的タンパク質について見出されたトランジッション条件の候補を表8に示す。表8記載の配列番号67~70のペプチドが小麦の検出を可能にすることが示された。さらに、配列番号67~70のペプチドは、これまで小麦アレルゲンの検出に用いられていない新規小麦アレルゲンマーカーであった。
【0048】
【0049】
実施例5 検出特異性の評価
実施例2と同じ試料を用いて、実施例4で構築した方法により、試料中における配列番号67~70の小麦由来ペプチドの有無を調べた。結果を表9に示す。
【0050】
【0051】
実施例6 市販食品への適用
実施例4で構築した方法の市販食品への適用性を検証した。試料として実施例3で用いた市販の食品のうち11種を用いた。該食品試料からの配列番号67~70の小麦由来ペプチドの検出結果を表10に示す。
【0052】
【0053】
以上の結果から、配列番号67~70の小麦由来ペプチドをLC-MS/MSで検出することによって、食品に含まれる小麦アレルゲンの存在を検出できることが示された。
【配列表】