(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】空気液化分離装置の前処理設備の運転方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/04 20060101AFI20240702BHJP
F25J 3/04 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B01D53/04 230
F25J3/04 Z
(21)【出願番号】P 2019055888
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-02-03
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸一郎
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】増山 淳子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-262151(JP,A)
【文献】特開平8-42964(JP,A)
【文献】特開2006-258302(JP,A)
【文献】特開2014-113594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/02-53/12
F25J1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤を充填した複数の吸着塔を温度変動吸着法により吸着工程と再生工程とに順次切り換え使用する精製器によって、少なくとも、原料空気中の水分及び二酸化炭素を除去して空気液化分離装置に導入する原料空気を精製する空気液化分離装置の前処理設備の運転方法において、前記吸着工程及び前記再生工程を一定の時間間隔に基づいて複数の運転ステップに分割し、一つの運転ステップの長さ及び再生ガスの流量を、前回の運転ステップ中にあらかじめ設定された間隔で測定した前記精製器の入口における原料空気の流量、温度及び圧力のそれぞれから
各ステップにおける移動平均値を算出し、移動平均値が前のステップで採用した値に比較して上昇しているときには、前のステップに対する上昇割合に基づいて、次のステップの時間を短縮するとともに吸着塔の再生ガスの流量を増加させ、逆に前のステップで採用した値に比較して下降しているときには、下降割合に基づいて、次のステップの時間を延長するとともに吸着塔の再生ガスの流量を減少させるように、それぞれから推算した運転ステップの長さ中で
、最も短い運転ステップの長さを次の運転ステップの長さとし、
それぞれから推算した再生ガスの流量の中で
、最も多い再生ガスの流量を次の運転ステップの再生ガスの流量と
し、再生ガスの流量と運転ステップの長さの積が一定となるようにすることを特徴とする空気液化分離装置の前処理設備の運転方法。
【請求項2】
吸着剤を充填した複数の吸着塔を温度変動吸着法により吸着工程と再生工程とに順次切り換え使用する精製器によって、少なくとも、原料空気中の水分及び二酸化炭素を除去して空気液化分離装置に導入する原料空気を精製する空気液化分離装置の前処理設備の運転方法において、前記吸着工程及び前記再生工程を一定の時間間隔に基づいて複数の運転ステップに分割し、一つの運転ステップの長さ及び再生ガスの流量を、前回の運転ステップ中にあらかじめ設定された間隔で測定した前記精製器の入口における原料空気の流量、温度、圧力及び二酸化炭素濃度のそれぞれから
各ステップにおける移動平均値を算出し、前のステップで採用した値に比較して上昇しているときには、前のステップに対する上昇割合に基づいて、次のステップの時間を短縮するとともに吸着塔の再生ガスの流量を増加させ、逆に前のステップで採用した値に比較して下降しているときには、下降割合に基づいて、次のステップの時間を延長するとともに吸着塔の再生ガスの流量を減少させるように、それぞれから推算した運転ステップの長さ中で
、最も短い運転ステップの長さを次の運転ステップの長さとし、
それぞれから推算した再生ガスの流量の中で
、最も多い再生ガスの流量を次の運転ステップの再生ガスの流量と
し、再生ガスの流量と運転ステップの長さの積が一定となるようにすることを特徴とする空気液化分離装置の前処理設備の運転方法。
【請求項3】
吸着剤を充填した複数の吸着塔を温度変動吸着法により吸着工程と再生工程とに順次切り換え使用する精製器によって、少なくとも、原料空気中の水分及び二酸化炭素を除去して空気液化分離装置に導入する原料空気を精製する空気液化分離装置の前処理設備の運転方法において、前記吸着工程及び前記再生工程を一定の時間間隔に基づいて複数の運転ステップに分割し、一つの運転ステップの長さ及び再生ガスの流量を、前回の運転ステップ中にあらかじめ設定された間隔で測定した前記精製器の入口における原料空気の流量、温度、圧力、二酸化炭素濃度、炭化水素濃度及び亜酸化窒素濃度の
それぞれから各ステップにおける移動平均値を算出し、前のステップで採用した値に比較して上昇しているときには、前のステップに対する上昇割合に基づいて、次のステップの時間を短縮するとともに吸着塔の再生ガスの流量を増加させ、逆に前のステップで採用した値に比較して下降しているときには、下降割合に基づいて、次のステップの時間を延長するとともに吸着塔の再生ガスの流量を減少させるように、それぞれから推算した運転ステップの長さ中で
、最も短い運転ステップの長さを次の運転ステップの長さとし、
それぞれから推算した再生ガスの流量の中で
、最も多い再生ガスの流量を次の運転ステップの再生ガスの流量と
し、再生ガスの流量と運転ステップの長さの積が一定となるようにすることを特徴とする空気液化分離装置の前処理設備の運転方法。
【請求項4】
吸着剤を充填した複数の吸着塔を温度変動吸着法により吸着工程と再生工程とに順次切り換え使用する精製器によって、少なくとも、原料空気中の水分及び二酸化炭素を除去して空気液化分離装置に導入する原料空気を精製する空気液化分離装置の前処理設備の運転方法において、前記吸着工程及び前記再生工程を一定の時間間隔に基づいて複数の運転ステップに分割し、一つの運転ステップの長さ及び再生ガスの流量を、前回の運転ステップ中にあらかじめ設定された間隔で測定した前記精製器の入口における原料空気の流量、温度、圧力、二酸化炭素濃度、炭化水素濃度及び亜酸化窒素濃度の少なくとも一つから
各ステップにおける移動平均値を算出し、前のステップで採用した値に比較して上昇しているときには、前のステップに対する上昇割合に基づいて、次のステップの時間を短縮するとともに吸着塔の再生ガスの流量を増加させ、逆に前のステップで採用した値に比較して下降しているときには、下降割合に基づいて、次のステップの時間を延長するとともに吸着塔の再生ガスの流量を減少させるように、それぞれから推算した運転ステップの長さ中で
、最も短い運転ステップの長さを次の運転ステップの長さとし、
それぞれから推算した再生ガスの流量の中で
、最も多い再生ガスの流量を次の運転ステップの再生ガスの流量と
し、再生ガスの流量と運転ステップの長さの積が一定となるようにすることを特徴とする空気液化分離装置の前処理設備の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気液化分離装置の前処理設備の運転方法に関し、詳しくは、空気液化分離装置に供給される原料空気中の水分及び二酸化炭素をはじめとする不純物成分を温度変動吸着法により吸着除去して原料空気を精製する空気液化分離装置の前処理設備の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気液化分離装置における深冷部の前段には、複数の吸着塔を吸着工程と再生工程とに順次切り換え使用する吸着装置を用いた前処理設備を設置し、吸着塔に充填した吸着剤に原料空気中の水分や二酸化炭素、炭化水素類、窒素酸化物のような不純物成分を吸着除去させて原料空気を精製するようにしている。この前処理設備における吸着装置の運転方法として、吸着工程にある吸着塔に流入する原料空気の温度を測定し、測定した原料空気温度に応じて吸着工程と再生工程との切替時間を変更することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。また、吸着塔に導入する原料空気中の二酸化炭素の積算量から切替時間を変更することも行われている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-258302号公報
【文献】特開2014-113594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の方法では、一つの吸着工程中の原料空気の温度や二酸化炭素の積算量といった条件に基づいて切替時間を変更しているため、例えば、一つ前の条件に基づいて切替時間を長くし、長時間の再生工程を行っているときに、何らかの外的要因で原料空気の温度上昇や二酸化炭素量の増加が発生した場合、吸着工程中の吸着塔で水分や二酸化炭素を確実に除去するためには、切替時間を短くして吸着工程時間を短縮させる必要があり、再生工程の時間を十分にとれなくなるおそれがある。また、製品ガス使用量の変動によって原料空気量が大きくかつ急激に変動した場合も、対応が困難になるおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、原料空気の条件が変動しても前処理設備の運転を最適化できる空気液化分離装置の前処理設備の運転方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の空気液化分離装置の前処理設備の運転方法は、第1の構成として、吸着剤を充填した複数の吸着塔を温度変動吸着法により吸着工程と再生工程とに順次切り換え使用する精製器によって、少なくとも、原料空気中の水分及び二酸化炭素を除去して空気液化分離装置に導入する原料空気を精製する空気液化分離装置の前処理設備の運転方法において、前記吸着工程及び前記再生工程を一定の時間間隔に基づいて複数の運転ステップに分割し、一つの運転ステップの長さ及び再生ガスの流量を、前回の運転ステップ中にあらかじめ設定された間隔で測定した前記精製器の入口における原料空気の流量、温度及び圧力のそれぞれから各ステップにおける移動平均値を算出し、移動平均値が前のステップで採用した値に比較して上昇しているときには、前のステップに対する上昇割合に基づいて、次のステップの時間を短縮するとともに吸着塔の再生ガスの流量を増加させ、逆に前のステップで採用した値に比較して下降しているときには、下降割合に基づいて、次のステップの時間を延長するとともに吸着塔の再生ガスの流量を減少させるように、それぞれから推算した運転ステップの長さ中で、最も短い運転ステップの長さを次の運転ステップの長さとし、それぞれから推算した再生ガスの流量の中で、最も多い再生ガスの流量を次の運転ステップの再生ガスの流量とし、再生ガスの流量と運転ステップの長さの積が一定となるようにすることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の第2の構成は、前記吸着工程及び前記再生工程を一定の時間間隔に基づいて複数の運転ステップに分割し、一つの運転ステップの長さ及び再生ガスの流量を、前回の運転ステップ中にあらかじめ設定された間隔で測定した前記精製器の入口における原料空気の流量、温度、圧力及び二酸化炭素濃度のそれぞれから各ステップにおける移動平均値を算出し、前のステップで採用した値に比較して上昇しているときには、前のステップに対する上昇割合に基づいて、次のステップの時間を短縮するとともに吸着塔の再生ガスの流量を増加させ、逆に前のステップで採用した値に比較して下降しているときには、下降割合に基づいて、次のステップの時間を延長するとともに吸着塔の再生ガスの流量を減少させるように、それぞれから推算した運転ステップの長さ中で、最も短い運転ステップの長さを次の運転ステップの長さとし、それぞれから推算した再生ガスの流量の中で、最も多い再生ガスの流量を次の運転ステップの再生ガスの流量とし、再生ガスの流量と運転ステップの長さの積が一定となるようにすることを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の第3の構成は、前記吸着工程及び前記再生工程を一定の時間間隔に基づいて複数の運転ステップに分割し、一つの運転ステップの長さ及び再生ガスの流量を、前回の運転ステップ中にあらかじめ設定された間隔で測定した前記精製器の入口における原料空気の流量、温度、圧力、二酸化炭素濃度、炭化水素濃度及び亜酸化窒素濃度のそれぞれから各ステップにおける移動平均値を算出し、前のステップで採用した値に比較して上昇しているときには、前のステップに対する上昇割合に基づいて、次のステップの時間を短縮するとともに吸着塔の再生ガスの流量を増加させ、逆に前のステップで採用した値に比較して下降しているときには、下降割合に基づいて、次のステップの時間を延長するとともに吸着塔の再生ガスの流量を減少させるように、それぞれから推算した運転ステップの長さ中で、最も短い運転ステップの長さを次の運転ステップの長さとし、それぞれから推算した再生ガスの流量の中で、最も多い再生ガスの流量を次の運転ステップの再生ガスの流量とし、再生ガスの流量と運転ステップの長さの積が一定となるようにすることを特徴としている。
【0009】
加えて、本発明の第4の構成は、前記吸着工程及び前記再生工程を一定の時間間隔に基づいて複数の運転ステップに分割し、一つの運転ステップの長さ及び再生ガスの流量を、前回の運転ステップ中にあらかじめ設定された間隔で測定した前記精製器の入口における原料空気の流量、温度、圧力、二酸化炭素濃度、炭化水素及び亜酸化窒素の少なくとも一つから各ステップにおける移動平均値を算出し、前のステップで採用した値に比較して上昇しているときには、前のステップに対する上昇割合に基づいて、次のステップの時間を短縮するとともに吸着塔の再生ガスの流量を増加させ、逆に前のステップで採用した値に比較して下降しているときには、下降割合に基づいて、次のステップの時間を延長するとともに吸着塔の再生ガスの流量を減少させるように、それぞれから推算した運転ステップの長さ中で、最も短い運転ステップの長さを次の運転ステップの長さとし、それぞれから推算した再生ガスの流量の中で、最も多い再生ガスの流量を次の運転ステップの再生ガスの流量とし、再生ガスの流量と運転ステップの長さの積が一定となるようにすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の空気液化分離装置の前処理設備の運転方法によれば、精製器に導入される原料空気の条件に応じて精製器の運転状態を的確に制御できるので、原料空気の精製を確実に行うことができ、運転コストの低減を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明方法を適用可能な前処理設備を備えた空気液化分離装置の一例を示す系統図である。
【
図2】基本的な運転サイクルの一例を示す説明図である。
【
図3】本発明方法の運転制御手順を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至
図4は、本発明における空気液化分離装置の前処理設備の運転方法を説明するためのもので、
図1は、本発明方法を適用可能な前処理設備を備えた空気液化分離装置の一例を示す系統図である。
図1に示す空気液化分離装置は、原料空気を圧縮、精製するための前処理設備11と、原料空気を冷却して液化分離する深冷部12とを備えている。
【0013】
前処理設備11は、空気濾過器13で塵埃を除去した原料空気を圧縮機14で所定圧力に圧縮し、予冷設備15で圧縮熱を除去した後、精製器16で原料空気中の不純物、例えば、水分、二酸化炭素、炭化水素、亜酸化窒素といった不純物を除去するもので、精製器16には、前記不純物を除去可能な吸着剤を充填した複数の吸着塔17を吸着工程と再生工程とに順次切り替えて原料空気の精製を連続して行える温度変動吸着法を採用した吸着装置が用いられている。この吸着装置には、吸着塔17の一端側及び他端側に複数の切替弁が設けられており、これらの切替弁を所定の順序で切替開閉することにより、各吸着塔が吸着工程と再生工程とに切り替えられる。
【0014】
また、吸着装置には、再生工程を行っている吸着塔に加熱ガスと冷却ガスとを切替供給するための再生ガス供給部18が設けられており、再生工程における加熱段階では、深冷部から導出した低温の排ガスを加熱器18aで所定温度に加熱して加熱段階を行っている吸着塔に導入し、加熱段階後の冷却段階では、低温の排ガスをバイパス経路18bを通して低温のまま冷却段階を行っている吸着塔に導入するように各弁が切替開閉される。
【0015】
図2は、基本的な運転サイクルの一例を示すもので、本例では、吸着工程と再生工程との切替時間を240分に設定して1サイクルを形成しており、再生工程は、圧縮空気の導入により加圧された塔内の圧力を大気圧に下げる脱圧段階を10分、加熱器18aで加熱された加熱再生ガスを塔内に流通させて吸着剤を加熱再生する加熱段階を90分、低温再生ガスを塔内に流通させて吸着剤を吸着工程に適した温度に冷却する冷却段階を116分、塔内に精製原料空気の一部を導入して塔内を吸着工程圧力に昇圧する充圧段階を24分の各段階に区分けされている。
【0016】
本発明方法では、前記1サイクルを複数の運転ステップ(以下、ステップという。)に区分けし、各ステップごとに得た情報に基づいて制御するようにしている。例えば、流量変更時の応答性を考慮して60秒を基本的な1ステップの時間とすると、1サイクルは、吸着工程が240ステップ、再生工程では、脱圧段階が10ステップ、加熱段階が90ステップ、冷却段階が116ステップに区分けされる。
【0017】
また、各ステップで得る情報としては、精製器16の入口における原料空気の流量、温度、圧力のほか、二酸化炭素濃度、炭化水素濃度、亜酸化窒素濃度といった吸着剤で吸着除去可能な不純物成分であり、原料空気中の水分量は、予冷設備15から導出した原料空気中に飽和量の水分が含まれているとして、原料空気の流量、温度及び圧力に基づいて容易に算出できる。これらの情報は、精製器16の入口部に、各情報に対応した流量計、温度計、圧力計、各種分析計を配置することで容易に得ることができる。
【0018】
さらに、各情報の値は、あらかじめ設定された間隔、例えば、1秒間隔、5秒間隔などの間隔で測定した測定値の移動平均で算出するようにしている。例えば、5秒間隔で測定値を採取していて1ステップが60秒であるときには、60秒間で測定した12(60/5)回の測定値の和を12で除した移動平均の値を、制御用に使用する値として採用する。そして、各ステップにおける最後の測定値を含めて移動平均を求め、ここから採用した値が、前のステップで採用した値に比較して上昇しているときには、前のステップに対する上昇割合に基づいて次のステップの時間を短縮するとともに、吸着塔の再生ガスを増加させ、逆に前のステップで採用した値に比較して下降しているときには、下降割合に基づいて次のステップの時間を延長するとともに、再生ガスを減少させる。また、一つの移動平均の値が上昇し、他の移動平均の値が下降したときでも、同様に演算処理することにより、次のステップの条件を算出すればよい。
【0019】
例えば、
図3に示すように、1サイクル中のn番目のステップ(ステップn)におけるステップの時間及び再生ガスの流量は、一つ前のステップ、すなわち、ステップn-1での最終の測定結果を含めた移動平均に基づいて決定され、次のステップであるステップn+1におけるステップの時間及び再生ガスの流量は、ステップnでの最終の測定結果を含めた移動平均によって決定される。
【0020】
ここで、
図4に示すように、工程切替時の原料空気の流量が10000Nm
3/h、1ステップの時間が60秒、再生ガス流量が1600Nm
3/hである設計条件で運転しているときに、工程切替後に原料空気の流量が次第に減少して精製器負荷が減少するような場合、5秒間隔で測定した原料空気の流量が次第に変化し、ステップn-1の終了直前に測定した流量を含めた12回分の移動平均が9873Nm
3/hとなり、流量が10000Nm
3/hから減少、すなわち、原料空気量の減少に伴って精製器負荷が低下していると判断した場合は、再生ガスの流量を1600Nm
3/hから1580Nm
3/h(1600*(9873/10000))に減少させるとともに、次のステップnの時間を60秒から61秒((60/9873)*10000)に延長する。
【0021】
同様に、ステップn+1は、ステップnの終了直前に測定した流量の移動平均に基づいて再生ガスの流量及びステップn+1の時間が設定される。例えば、流量の移動平均が9550Nm3/hになったときには、再生ガスの流量を1580Nm3/hから1528Nm3/h(1580*(9550/9873))に減少させるとともに、次のステップn+1の時間を61秒から63秒((61/9550)*9873)に延長する。一方、後半で原料空気の流量が次第に増加して精製器負荷が増大するような場合は、移動平均で求めた値が1より大きくなるので、次のステップにおける再生ガスの流量が増加するとともに、ステップの時間が短縮されることになる。
【0022】
このように、前回のステップで算出した移動平均の変化に応じて今回のステップの長さ及び再生ガスの流量を変化させることにより、精製器16を負荷に応じた最適な条件で運転することができ、各回の吸着工程において吸着剤で吸着する不純物量を略一定量に制御でき、原料空気中の不純物を確実に除去できるとともに、吸着剤の再生も、略一定の加熱再生ガスによって確実に行うことができる。特に、ステップの長さ及び再生ガスの流量を変化させるための値を移動平均によって算出しているので、測定値をそのまま制御用に用いる場合に比べて、測定値のばらつきや誤差を吸収することができ、例えば、再生ガスの流量を変化させるための弁が頻繁に作動することがなくなる。
【0023】
通常の大気条件では、原料空気中の各不純物成分の濃度はほとんど変化せず、原料空気の圧力や温度もほとんど変化しないので、深冷部12で分離した製品ガスの使用量の変動に伴う原料空気の流量変化を測定するだけでも十分な制御を行うことが可能である。特に、製鉄所向けの空気液化分離装置のように、製品ガスの需要変動が大きいときに極めて有効である。
【0024】
また、周辺に工場が多く、二酸化炭素が増減するおそれのあるときには、原料空気中の二酸化炭素濃度を制御用の情報として加えることにより、二酸化炭素の濃度が上昇したときでも、二酸化炭素を吸着剤で確実に除去できるとともに二酸化炭素を吸着した吸着剤の再生も確実に行うことができる。さらに、周囲に化学コンビナートや製鉄所がある場合、あるいは、化学コンビナートや製鉄所の敷地内に配置された空気液化分離装置の場合は、吸着剤で除去可能な炭化水素や亜酸化窒素も制御用の情報に加えることにより、より確実な運転を行うことができる。また、通常の運転では、最大負荷を想定した設計条件に比べて吸着塔の切替間隔が長くなるので、例えば一日あたり6サイクルの切替運転を5サイクル以下にすることができ、吸着塔の再生に要するエネルギーを削減することができる。
【0025】
実際の空気液化分離装置の運転では、必要な製品流量の減少によって原料空気の流量が減少し、その結果、次のステップにおける再生ガスの流量を減少させ、ステップの時間を長くすることが必要な場合でも、前記精製器16の入口における原料空気中の二酸化炭素濃度が一時的に上昇し、その二酸化炭素濃度の上昇からは、次のステップにおける再生ガスの流量の増加と、ステップの時間の短縮が必要となる場合がある。
【0026】
すなわち、前記精製器の入口における原料空気の流量、温度、圧力、原料空気中の二酸化炭素濃度、炭化水素濃度又は亜酸化窒素濃度といった条件は、基本的に独立してステップの長さ、再生ガスの流量に影響を及ぼす要素である。本発明では、各要素から求められた最も短いステップの長さを採用するとともに、最も多い再生ガスの流量を採用するようにしているので、原料空気の条件に応じた最適なステップの長さ及び再生ガスの流量を設定することができる。したがって、各条件に応じて吸着工程及び再生工程を最適化できるので、各種不純物の除去及び吸着剤の再生を確実に行うことができる。
【0027】
また、本発明では、前記精製器の入口における原料空気の流量、温度、圧力、原料空気中の二酸化炭素濃度、炭化水素濃度及び亜酸化窒素濃度といった各種条件の内、任意の要素の一つだけを採用してもよい。しかし、より多くの場合にも前記精製器の適切な運転を担保するためには、前記精製器の入口における原料空気の流量、温度及び圧力を基に単位時間あたりの移動平均を算出する方法、前記精製器の入口における原料空気の流量、温度、圧力及び前記精製器の入口における原料空気中の二酸化炭素濃度を基に単位時間あたりの移動平均を算出する方法、又は、前記精製器の入口における原料空気の流量、温度、圧力及び前記精製器の入口における原料空気中の二酸化炭素濃度、炭化水素又は亜酸化窒素の濃度を基に単位時間あたりの移動平均を算出する方法を採用することが望ましい。
【0028】
さらに、本発明では、特定のステップの長さと再生ガスの流量とを対応させることが可能である。つまり、前のステップから求められた次のステップの運転ステップの長さが10%長くなった場合、単純に再生ガスの流量を10%減少させることができる。つまり、各ステップにおいて、運転ステップの長さと再生ガスの流量との積の値を一定とすることができる。このような制御方法を採用すると、各制御方法において、各要素からステップの長さのみを演算すればよく、再生ガスの流量は簡単に決めることができる。
【0029】
なお、1ステップの時間は任意に設定することができ、測定間隔も任意に設定することができる。また、空気液化分離装置の起動時などの特別+な場合は、運転状態が安定するまで制御を行わないように設定することができる。
【符号の説明】
【0030】
11…前処理設備、12…深冷部、13…空気濾過器、14…圧縮機、15…予冷設備、16…精製器、17…吸着塔、18…再生ガス供給部、18a…加熱器、18b…バイパス経路