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特許7513406エアマイクロメータを用いた測定システムおよび測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】エアマイクロメータを用いた測定システムおよび測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 13/00 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G01B13/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020039788
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021139839
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 和幸
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-114110(JP,A)
【文献】特開2008-151261(JP,A)
【文献】特開2002-036108(JP,A)
【文献】特開2010-071701(JP,A)
【文献】特開昭60-093306(JP,A)
【文献】特開2002-318112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 13/00-13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のワークをエアマイクロメータを用いて順次測定する測定システムにおいて、
測定対象のワークを測定する測定台と、次に測定するワークを保持する準備台とが併設され、
前記測定台は前記エアマイクロメータの測定ヘッドを構成し、
前記準備台は、前記測定台とワークの間の隙間寸法と同程度の隙間寸法をワークとの間に設定されており、
前記準備台は、前記ワークの測定面に空気を吹き付けるのに用いる複数の穴が形成され
前記準備台の個数は、前記ワークの1個あたりの測定に要する時間に対する、前記ワークの1個あたりの温度静定に要する時間以上の個数とされる、エアマイクロメータを用いた測定システム。
【請求項2】
前記測定ヘッドが前記測定面に空気を噴射して、前記測定が行われる、請求項1に記載の測定システム。
【請求項3】
前記準備台は、前記エアマイクロメータに空気を供給する空気供給源に配管を介して接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアマイクロメータを用いた測定システム。
【請求項4】
前記準備台は多孔質部材を含み、前記多孔質部材は、配管を介して前記空気供給源に接続されるとともに、前記エアマイクロメータを用いてワークを測定する位置に対応する位置であってワークに面する面に、前記空気供給源から供給された空気を噴出する前記複数の穴が形成されていることを特徴とする請求項3に記載のエアマイクロメータを用いた測定システム。
【請求項5】
前記準備台は、前記空気供給源に配管を介して接続され、前記エアマイクロメータを用いてワークを測定する位置に対応する位置であってワークに面する位置に前記複数の穴が形成されており、
前記複数の穴は前記空気供給源への接続部位との間に複数の内部流路を形成していることを特徴とする請求項3に記載のエアマイクロメータを用いた測定システム。
【請求項6】
複数個のワークをエアマイクロメータを用いて順次測定する測定方法において、
測定対象のワークを測定する測定台と、次に測定するワークを保持する準備台とが併設されている測定システムの前記準備台にワークを搬送するステップと、
前記準備台に形成された複数の穴から前記ワークの測定面へ空気供給源からの空気を噴出するステップと、
前記ワークを前記準備台から前記測定台へ移すステップと、前記準備台へ供給する空気の空気源と同じ空気源からの空気を前記測定台が構成するエアマイクロメータのヘッドに供給し、前記測定台でエアマイクロメータを用いて前記ワークを測定するステップと
を含み、
前記準備台の個数は、前記ワークの1個あたりの測定に要する時間に対する、前記ワークの1個あたりの温度静定に要する時間以上の個数とされる、エアマイクロメータを用いた測定方法。
【請求項7】
前記測定は、前記ヘッドが前記測定面に空気を噴射して行われる、請求項6に記載の測定方法。
【請求項8】
前記準備台は多孔質材料から構成されていることを特徴とする請求項6又は7に記載のエアマイクロメータを用いた測定方法。
【請求項9】
前記準備台は、前記準備台に形成された前記空気源への接続部と、前記準備台が前記ワークに面する面に形成されたワークに空気を吹き付けるための前記複数の穴とを接続する複数の内部流路を有することを特徴とする請求項6又は7に記載のエアマイクロメータを用いた測定方法。
【請求項10】
複数個のワークをエアマイクロメータを用いて順次測定する測定システムにおいて、
測定対象のワークを測定する測定台と、次に測定するワークを保持する準備台とが併設され、
前記測定台は前記エアマイクロメータの測定ヘッドを構成し、
前記準備台は、前記測定台とワークの間の隙間寸法と同程度の隙間寸法をワークとの間に設定されており、
前記準備台は、ワークに面する面にワークに空気を吹き付けるのに用いる複数の穴が形成され、
前記準備台は、前記エアマイクロメータに空気を供給する空気供給源に配管を介して接続され、
前記準備台は多孔質部材を含み、前記多孔質部材は、配管を介して前記空気供給源に接続されるとともに、前記エアマイクロメータを用いてワークを測定する位置に対応する位置であってワークに面する面に、前記空気供給源から供給された空気を噴出する前記複数の穴が形成され
前記準備台の個数は、前記ワークの1個あたりの測定に要する時間に対する、前記ワークの1個あたりの温度静定に要する時間以上の個数とされる、エアマイクロメータを用いた測定システム。
【請求項11】
複数個のワークをエアマイクロメータを用いて順次測定する測定システムにおいて、
測定対象のワークを測定する測定台と、次に測定するワークを保持する準備台とが併設され、
前記測定台は前記エアマイクロメータの測定ヘッドを構成し、
前記準備台は、前記測定台とワークの間の隙間寸法と同程度の隙間寸法をワークとの間に設定されており、
前記準備台は、ワークに面する面にワークに空気を吹き付けるのに用いる複数の穴が形成され、
前記準備台は、前記エアマイクロメータに空気を供給する空気供給源に配管を介して接続され、
前記準備台は、前記空気供給源に配管を介して接続され、前記エアマイクロメータを用いてワークを測定する位置に対応する位置であってワークに面する位置に前記複数の穴が形成されており、
前記複数の穴は前記空気供給源への接続部位との間に複数の内部流路を形成し
前記準備台の個数は、前記ワークの1個あたりの測定に要する時間に対する、前記ワークの1個あたりの温度静定に要する時間以上の個数とされる、エアマイクロメータを用いた測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアマイクロメータを用いた測定システムおよび測定方法に係り、特にバッチ方式で生産したワークを測定するのに好適なエアマイクロメータを用いた測定システムおよび測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアマイクロメータは、測定時間が短いこと、誰が測定しても同じ値が得られること、1μmの精度で加工現場でそのまま測定できること、非接触でありワークを傷つけないことの利点を有する。しかしながら、専用の測定具やマスタが必須であること、測定範囲が最大でも150μm程度であること、測定に用いる空気が清浄で安定した圧力・温度であることが求められるので、大量生産品または準大量生産品の生産において多用される。
【0003】
このような特徴を持つエアマイクロメータを用いた測定の従来例が、特許文献1~3に開示されている。特許文献1では、空気マイクロメータを用いて高精度に測定するために、空気源から供給される圧縮空気をレギュレータで一定圧力に調整し、A/E変換器内に設置された絞りを介してエアノズルからジェット噴射している。その際、空気源とレギュレータ間のエア配管を十分長くして、空気源から供給された圧縮空気の温度を、長い配管を通る間に室温と同じ程度まで低下もしくは上昇させている。これにより、圧縮空気の温度変化に基づくA/E変換器、ジェットおよびワークの熱変形を防止して、高精度な測定を可能にしている。
【0004】
特許文献2には、空気源の供給圧の変動に起因した測定精度の低下を抑制するエアマイクロメータが開示されている。具体的には、エアマイクロメータの本体は、空気配管と複数の圧力センサと計測演算処理装置を備え、空気配管は空気源から測定ヘッドのノズルに至る空気流路中に置かれ、一部にオリフィスが設けられている。一方の圧力センサがオリフィスより上流側の供給圧を検出し、他方の圧力センサがオリフィスよりも下流側の空気配管内の背圧を検出する。計測演算処理装置が、空気源の供給圧と背圧に基づき、ワークの内壁とノズルとの間の隙間寸法を算出処理している。
【0005】
簡便な操作で高い精度の寸法測定が可能なエアマイクロメータの他の例が、特許文献3に開示されている。この公報に記載のエアマイクロメータは、空気流路の上流側と下流側を多孔質部材で仕切った測定部と、測定部の上流側の空気圧力を検出する第1圧力センサと、測定部の下流側の空気圧力を検出する第2圧力センサと、測定部内の空気温度を検出する温度センサを備える。第1圧力センサと第2圧力センサの出力を取り込み、第2圧力センサの圧力が一定値になるように空気流路の制御バルブを制御する。第1、第2の圧力センサの出力差、第2圧力センサの出力、空気温度に基づいて測定ヘッドから噴出される空気の質量流量を算出し、算出した質量流量からワークの寸法を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-99634号公報
【文献】特開2015-87179号公報
【文献】特開2012-58213号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】藤沼 他、「インプロセス計測の研究-空気マイクロメータによる工作物寸法測定-」、茨城県工業技術センタ 平成2年度研究報告、第19号、第1~6頁、1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エアマイクロメータは、非特許文献1にその原理が記載されているように、供給空気源から供給される空気を一定圧に調整した後、背圧室を介して出口絞りから噴射するよう構成されている。そして、噴射口近辺に物体があると背圧室の圧力が変化するので、背圧室の圧力変化から噴射口と物体間の距離を測定する。高精度な測定を可能にするため、測定位置における空気の物性値を正確に把握すること、換言すれば物性値が知られている状態に安定させることが求められる。測定に使用する空気は、温度と圧力に依存してその物性値を変えることから、上記特許文献1~3に記載のように、温度と圧力を所定値に設定する試みがなされている。
【0009】
この中で上記特許文献1に記載の、測定に用いる加圧空気の温度を所定温度である室温に制御する方法は、長い配管と長い配管に起因する圧力低下の不便さはあるものの測定対象物付近における噴出空気温度を室温に保てる結果、温度変化に起因する測定誤差を低減できるという効果が期待される。
【0010】
しかしながら、エアマイクロメータから吹き出す空気温度は室温とほぼ同じであって、エアマイクロメータが設置された環境の影響は受けにくいものの、測定対象物であるワークが環境温度と同化しているわけではないので、測定対象物(以下ワークとも称す)の真の内径または外径を示すとは限らない。ワークは主に機械加工されて形成されるから、その温度は加工環境に依存し、また加工後に所定箇所に保管されていれば保管環境に依存する。そのため、温調された計測室に搬入されても、必ずしも計測室の室温には一致せず温度差が生じる。エアマイクロメータはμm以下の精度での測定をするものであるから、このような微小な温度差も測定精度の低下につながる。
【0011】
なお、ワーク温度が計測室の室温に静定するまで測定を待機させればこのような不具合は解消するが、測定を待つことで計測効率(時間当たりのスループット)が低下する。上述したように、エアマイクロメータは大量生産品または準大量生産品に用いて有効であるから、多数のワークが測定の待機状態になることは望ましくない。
【0012】
特許文献2には、背圧室内をオリフィスで2分し、背圧室内におけるオリフィス前後の空気圧を測定することにより、エアマイクロメータに供給される加圧空気の圧力変動に起因する測定誤差を低減している。しかしながら、エアマイクロメータの測定誤差の要因は圧力変動のみならず温度変動もあり、温度変動をも考慮したさらなる測定誤差の低減が要求されている。
【0013】
特許文献3には、特許文献2と同様にエアマイクロメータの背圧室を2分する構成が開示されている。ただし特許文献2の構成とは異なり、2分する手段としてオリフィスではなく多孔質部材を採用している。この特許文献3では、2分する手段として多孔質部材を用い、背圧室内の上流部と下流部間の背圧を一定に制御しているので、エアマイクロメータに供給される空気の圧力変動に起因する測定誤差を低下できると思われるが、測定環境や測定時のワークの温度の影響については十分には考慮されていない。
【0014】
本発明は、上記従来のエアマイクロメータの不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、単位時間当たりのワークの測定個数を減少させないでスループットを維持したまま、ワークの内径または外径等の幾何学的寸法を高精度に測定することにある。本発明の他の目的は、簡便な構成で上記目的を達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成する本発明の特徴は、複数個のワークをエアマイクロメータを用いて順次測定する測定システムにおいて、測定対象のワークを測定する測定台と、次に測定するワークを保持する準備台とが併設され、前記測定台は前記エアマイクロメータの測定ヘッドを構成し、前記準備台は、前記測定台とワークの間の隙間寸法と同程度の隙間寸法をワークとの間に設定されており、前記準備台は、ワークに面する面にワークに空気を吹き付けるのに用いる複数の穴が形成されていることにある。
【0016】
そしてこの特徴において、前記準備台は、前記エアマイクロメータに空気を供給する空気供給源に配管を介して接続されているのが好ましく、前記準備台は多孔質部材を含み、前記多孔質部材は、配管を介して前記空気供給源に接続されるとともに、前記エアマイクロメータを用いてワークを測定する位置に対応する位置であってワークに面する面に、前記空気供給源から供給された空気を噴出する前記複数の穴が形成されるのが望ましい。また、前記準備台は、前記空気供給源に配管を介して接続され、前記エアマイクロメータを用いてワークを測定する位置に対応する位置であってワークに面する位置に前記複数の穴が形成されており、前記複数の穴は前記空気供給源への接続部位との間に複数の内部流路を形成していることが好ましい。
【0017】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、複数個のワークをエアマイクロメータを用いて順次測定する測定方法において、測定対象のワークを測定する測定台と、次に測定するワークを保持する準備台とが併設されている測定システムの前記準備台にワークを搬送するステップと、前記準備台に形成された複数個の穴から前記ワークへ空気供給源からの空気を噴出するステップと、前記ワークを前記準備台から前記測定台へ移すステップと、前記準備台へ供給する空気の空気源と同じ空気源からの空気を前記測定台が構成するエアマイクロメータのヘッドに供給し、前記測定台でエアマイクロメータを用いて前記ワークを測定するステップとを含むことにある。
【0018】
そしてこの特徴において、前記準備台は多孔質材料から構成されていることが好ましく、前記準備台は、前記準備台に形成された前記空気源への接続部と、前記準備台が前記ワークに面する面に形成された、ワークに空気を吹き付けるための複数の穴と、を接続する複数の内部流路を有することも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、たとえ空調された環境内での測定であっても、測定環境に搬送されたワークに対して測定前にワークを測定環境温度に合わせるように、エアマイクロメータが吹き出す空気温度と実質的に同じ温度の空気をワークに吹きつける準備台を設ける。これにより、測定時にはワーク表面がエアマイクロメータが吹き出す温度と実質的に同じになり、エアマイクロメータよる寸法測定において、温度が静定するまで待機することなく即座に測定できる。したがって、単位時間当たりのワークの測定個数が減らずスループットを維持したまま、ワークの内径または外径等の寸法測定を高精度に実行できる。さらに、空気の吹き付けでは、エアマイクロメータで使用するものと同じ空気源からの空気を用い、それを多孔質材を通してまたは複数の流路を介して複数の穴から吹き出すだけであり、構成が簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る測定システムが設置される計測室の一例の斜視図である。
図2】本発明に係る測定システムの一実施例の図であり、(a)はその上面図であり、(b)はその正面図である。
図3図2に用いる準備台の一実施例の図であり、(a)は内径測定用、(b)は外径測定用の準備台の図である。
図4】本発明に係る準備台の他の実施例の、要部正面斜視図および断面図である。
図5】本発明に係る準備台のさらに他の実施例の、要部正面斜視図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、エアマイクロメータを用いた測定システム50の一実施例を、図面を用いて説明する。図1は、本発明に係る、エアマイクロメータを用いた測定システム50を含む、標準状態である約20℃前後に温度調節された測定室10の一実施例の斜視図である。測定室10は一例として、工場の機械加工設備近傍にパーティション等で区画されて設けられている。
【0022】
測定室10の両側面には、ワークを搬送するためのドア20が設けられ、一方のドアから加工を終えたワーク200が所定個数ずつパレット190に載置されて図示しないリフター等で搬送される。他方のドア20からは本測定室10で測定を終えたワーク210が所定個数ずつまとめてパレット190に載置されて、リフター等で次工程部署へ搬送される。図から分かるように、ワーク200、210は準大量生産品であり、バッチ方式で測定室10に持ち込まれる。
【0023】
測定室10の一方の壁面近傍には、測定テーブル30が設けられている。測定テーブル30には、詳細を後述する準備台100と、内径測定用の測定台110と、直角度測定用の測定台120が並んで配置されて、測定システム50を構成する。測定対象のワーク200、202、204、206、210は円筒状をしており、例えば軸に嵌合されるスリーブである。本例では、ワーク202が準備台100に挿入されており、ワーク202、204がそれぞれ測定台110、120に挿入されている。なお、本実施例では測定対象ワーク200~210を、内径を測定するワークとしているが、後に例を示すように外径を測定するワークであってもよいし、テーパ度や平行度、深さ、高さを測定するワークであってもよい。
【0024】
準備台100と測定台110、120には、測定テーブル30を挟んで下方から圧縮空気が導かれている。圧縮空気は、例えば工場空気源から導かれた圧縮空気であり、また例えば測定室10用に専用配置された小容量の圧縮機で生産された数百kPaの圧縮空気である。圧縮空気は、壁面側の供給配管152、測定テーブル30の下の供給配管153を介して、準備台100と測定台110、120を連結する配管に流入する。
【0025】
その後準備台100へは、空気配管(接続部)155を介して、一方測定台110、120へはレギュレータ160で測定圧に調整された後、空気配管158を介して圧縮空気は流入する。なお図示を省略したが必要に応じてエアフィルタを設けてもよく、準備台100側の空気配管155にもレギュレータ160を設けてもよい。さらに、レギュレータ160は、測定台110、120ごとにそれぞれの配管158に設けてもよい。
【0026】
測定台110、120に付設された図示しないエアマイクロメータの出力は、測定テーブル30の近傍に配置されたコンソール型の制御・演算装置140に入力される。本実施例ではコンソール型の制御・演算装置140を例示したが、制御・演算装置140はパソコン等の可搬式の手段であってもよい。制御・演算装置140で、レギュレータ160の測定圧を調整するようにしてもよいし、加工の合否を決定するようにしてもよい。またLAN等を用いて次工程への作業指示を発行する機能を有していてもよい。
【0027】
図2に、図1に示した測定システム50の詳細を示す。図2(a)は、測定システム50の上面図であり、詳細を後述する分岐流路182が形成された高さ位置での断面図である。図2(b)は測定システム50の側面図の模式図であり、測定台110、120および準備台100をその軸心を含む面で切断した断面図である。ワーク202~206は同一形状のワークであり、本例では底なしの円筒である。なお、図面を分かり易くするため、ワーク202~206を準備台100および測定台110、120へ挿入する際の案内となるガイド部材の図示を省略している。
【0028】
本測定システムでは、初めに円筒部材であるワーク202~206の内径を測定台110に設けた、実質的に同一高さの2箇所の測定点における隙間から測定し、次いでワーク202~206の直角度を高さを変えた2箇所の測定点における隙間から測定する。そして本発明の特徴である準備台100では、それらの測定が始まる前に測定点高さ位置に相当する準備台100の位置に、測定台110、120に供給されるのと同じ空気源168からの圧縮空気が配管152、153、155を介して供給される。
【0029】
ここで、準備台100は多孔質材料製であり、例えば焼結金属製または樹脂製である。準備台100が多孔質材料製であるから、空気源から導かれた圧縮空気は準備台100の中に形成される内部流路を通って表面にほぼ均一に分散し、噴射される。そして準備台100の外側に配置された円筒形のワーク202内面は、準備台100の外周面から噴出された圧縮空気に曝される。一般に、圧縮空気が噴射して放出されると、噴射口に対面する部材は圧縮空気の断熱膨張により冷却される。本実施例ではワーク202が圧縮空気の噴射口に対向しているので、ワーク202が冷却される。なおワーク220と準備台100の間には、ワーク220と測定台110、120の間に形成される隙間と同程度の隙間が形成されている。
【0030】
同様のことが、測定台110、120でも起こる。測定台110では、空気源168からフィルタ162、空気供給配管152を介して測定台110に導かれる空気が、測定台用空気配管158に介在させたレギュレータ160で測定に要する所定圧に調節される。その後、エアマイクロメータの本体である空圧/電気変換器300を通って、測定台110が載置されるテーブル30の下方から、測定台110に導かれる。測定台110は金属製であって円柱形状をしており、その軸心部には、下面から高さ方向中間位置まで上下方向に中央流路180が形成されている。中央流路180の高さ方向中間位置には、測定台110の半径方向外側に外周まで延びる複数、本実施例では2個の分岐流路182が180度位相を変えて形成されている。分岐流路182は、エアマイクロメータのヘッド部を構成する。
【0031】
このように形成された本実施例の測定台110では、空気源168から供給された圧縮空気が、中央流路180および分岐流路182を通ってワーク204に噴出される。ここで圧縮空気は、レギュレータ160で例えば150kPaに調整されれば、中央流路180および分岐流路182で圧力降下があっても、レギュレータ160の調整圧力に近い圧力でワーク204に噴射する。ワーク204と測定台110の間の隙間は、圧縮空気が噴射されない状態では大気圧であるから、圧縮空気の噴射により圧縮空気は断熱膨張し、ワーク204を冷却する。
【0032】
したがって常温または室温内に保持されたワーク202~206をその状態のままで計測を開始すると、測定位置における圧縮空気の噴射により、ワークが冷却され、エアマイクロメータのヘッド部が検出するデータが変動する。このデータ変動は過渡現象であり、圧縮空気の冷却量とワークからの放熱量がバランスすればデータは一定値を示し始める。エアマイクロメータを用いてワークの測定をする従来の場合には、測定温度が安定するまでの静定時間を必要とし、この静定時間は測定のスループットを低下させていた。
【0033】
本発明ではこの不具合を解消するために、予め準備台100において、ワーク202~206の測定台110、120における測定位置に相当する場所を、測定台110、120での測定状態に近い温度で熱慣らししている。すなわち、測定台110、120で噴射される圧縮空気の断熱冷却を考慮した温度までワーク202~206を、一般的には温度低下、場合によっては温度上昇させている。測定台110における内径測定がほぼ完了するタイミングで、準備台100からワーク202を取り出し、測定台110に移すことにより、上記測定温度の静定時間を短縮する。
【0034】
直角度を測定する測定台120は、エアマイクロメータのヘッド部を構成する分岐流路180が中央流路の高さ方向中間部であって、上下に分かれて配置されている点が測定台110とは異なっているが、その他は測定台110と同様の構成である。測定台120では、測定台110におけるワーク204、206の測定が、測定台110における準備台100と同様の作用で、ワーク204、206測定箇所を温度慣らししている。したがって、測定台110での測定を終えたワーク204、206を測定完了後速やかに測定台120に移せば、ワーク204、206は測定台110で測定温度まで予冷または予熱されているので、温度静定時間が短縮される。このように、準備台100を設ければ、エアマイクロメータを用いた連続測定の効率化が図られる。
【0035】
なお、準備台100の個数は、ワーク1個当たりの測定に要する時間と、ワーク1個あたりの温度静定に要する時間との関係から定めれば良い。例えば、ワーク1個あたりの測定に要する時間が1minであり、温度静定に要する時間が3minであれば、準備台100を3個以上備えれば確実に測定効率を向上できる。このような測定環境の場合に、準備台の個数が2個以下であっても、もちろん温度が静定する時間は短縮できる。
【0036】
図3図5に、準備台の他の実施例を示す。図3は、準備台の他の例の断面正面図であり、図3(a)は内径測定用の準備台102の場合であり、図3(b)は外径測定用準備台104の場合である。準備台102、104は、ともに焼結金属やプラスチック等の多孔質材料製である。
【0037】
準備台102の上面には、ワーク220を準備台102に設定する際に適正な隙間が得られるように、ガイド部材106が設けられている。ワーク220を上方からガイド部材106を案内にして降下させると、ワーク220と準備台102の間には、ワーク220と測定台110、120の間に形成される隙間と同程度の隙間が形成される。したがって、ワーク220と準備台102の間に形成される隙間に、空気配管155を接続金具308で接続して導いた圧縮空気を、測定テーブル31に設けた供給流路170から導くことにより、測定台110、120での測定状態とほぼ同じ状態を実現できる。すなわち、ワーク220の測定箇所の温度状態を測定台110、120における測定状態に近づけることができ、測定時の温度静定時間を短縮できる。
【0038】
外径測定の場合には、準備台104は円筒状になる。測定テーブル32と一体でまたは別体で準備台104を囲む部材33が設けられている。部材33は、空気源から導かれた圧縮空気が、ワーク222に面する側以外へ漏れ出すのを防止するために設けられている。内径測定の場合と同様に、ガイド部材108が部材33の上面に設けられている。ガイド部材108に設けられた穴にワーク、この場合は丸棒222を通すことにより、ワーク222の外周面と準備台104の間に適正な隙間が形成され、測定台(図示せず)での測定とほぼ同じ状態を構築でき、同様の温度状態とすることができる。これにより、上記実施例と同様の理由で外径測定のスループットを向上できる。
【0039】
図4に、本発明による準備台のさらに他の実施例を示す。図4(a)は、内径測定用の準備台330の模式斜視図であり、図4(b)はその断面正面図である。準備台330は上記各実施例と異なり、多孔質材料の代わりに、金属製の円柱に円柱軸に垂直であって円柱の外周面から内側に延びる、多数の放射状穴が形成されている。円柱軸に垂直な多数の放射状穴は分岐(内部)流路312を構成し、分岐流路312は円柱の軸心部に設けられた中央流路310に連通している。中央流路は接続金具308を介して連結配管304に接続し、開閉弁306を介在させた空気配管155にさらに連結されている。
【0040】
本実施例では、放射状の分岐流路312を上下に2列形成しているが、分岐流路の数および配置は、対象となるワークに応じて適宜設定可能である。ただし、分岐流路の一部はエアマイクロメータのヘッドの測定部に対向する部分を冷却するので、少なくとも2個は必要である。なお、準備台330の外径φDpは、測定対象のワークの内径よりわずかに小さな値で、分岐流路312の外周側端部である吹出し口302から圧縮空気を吹き出したときに、十分な断熱冷却が生じる隙間になるように設定する。
【0041】
図5に、本発明による外径測定用の準備台の他の実施例を示す。図5(a)は準備台332の模式斜視図であり、図5(b)はその断面正面図である。準備台332は円筒状をしており、その外周面から内面に向けて、円筒軸にほぼ直角に放射状に、複数の吹出し(内部)流路313が貫通して形成されている。複数の吹出し流路313の外周側は、段付きに形成されており、吹出し用金具315がその穴に取付けられる。吹出し用金具315は、準備台332の外周部を囲んで設けられた、金属製または柔軟なホース製の環状流路部材322に一端側が連通して固定されている。環状流路部材322は、その両端部でT字状の接続金具324に接続されている。接続金具324の一方の端部は連結配管326に接続され、開閉弁328を介して空気源に連通する空気配管155に接続されている。
【0042】
本実施例においても、複数形成された放射状の吹出し流路313の内周側端部である吹出し口302から噴出する圧縮空気の断熱冷却で、外径測定をする対象ワークの測定面が冷却される。圧縮空気の断熱冷却を効果的に行うために、準備台332の内径φDpは、ワークの外径よりわずかに大きく、ワークとの間に適正な隙間が生じる値に設定される。
【0043】
以上説明したように、本発明の各実施例によれば、準備台において予め測定対象ワークに、測定に使用する圧縮空気と同じ空気源からの空気を測定状態とほぼ同じ状態で吹き付けるようにしたので、準備台において、測定台での測定とほぼ同じ温度状態をワークに実現できる。これにより、測定台における測定に要する時間を短縮できる。これまでは、特に加工直後のワークであれば表面温度が測定温度より高くなっていて、測定温度が一定になるまでの静定時間が多大であった。一方上記各実施例によれば、測定台においてエアマイクロメータの測定ヘッドから噴射される圧縮空気により断熱冷却が生じていても、これと同様の断熱冷却の状態を予め準備台で実現しているので、測定台での温度静定に要する時間をほぼ必要とせず、計測のスループットが向上する。
【符号の説明】
【0044】
10…測定室、20…ドア、30、31、32…測定テーブル、33…部材、50…測定システム、100、102、104…準備台、106、108…ガイド部材、110…(第1の)測定台、120…(第2の)測定台、140…(測定用)制御・演算装置(コンソール)、152、153…空気供給配管、155…(準備台用)空気配管、158…(測定台用)空気配管、160…レギュレータ、162…フィルタ、168…空気源、170…供給流路、180…中央流路、182…分岐流路、190…パレット、200…(測定前)ワーク、202、204、206…(内径測定)ワーク、210…(測定後)ワーク、220、222…ワーク、300…エアマイクロメータ本体(空圧/電気変換器)、302…吹出し口、304…連結配管、306…開閉弁、308…接続金具、310…中央流路、312…分岐流路、313…吹出し流路、315…吹出し用金具、322…環状流路部材、324…接続金具、326…連結配管、328…開閉弁、330、332…準備台、Dp…準備台外径または内径
図1
図2
図3
図4
図5