(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】親水膜の製造方法及びパターン形成体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 37/14 20060101AFI20240702BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240702BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20240702BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240702BHJP
B05D 3/04 20060101ALI20240702BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B32B37/14
B32B27/00 101
B32B27/16
B05D7/24 302Y
B05D3/04 C
B05D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2020065848
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】竹山 さなえ
(72)【発明者】
【氏名】竹山 俊輔
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-067873(JP,A)
【文献】特開平10-037688(JP,A)
【文献】特開2006-189819(JP,A)
【文献】特開2011-003926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 37/14
B32B 27/00
B32B 27/16
B05D 7/24
B05D 3/04
B05D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の被処理面に、水の接触角が20°以下である親水膜を製造する方法であって、
前記被処理面にシリコーン系離型剤を塗布し、シリコーン系離型剤(ただし、光触媒を含む場合を除く)
を硬化させ、シリコーン系離型剤を含む層を形成する工程と、
前記シリコーン系離型剤を含む層は、水の静的接触角が100°以上の撥水膜であり、
前記シリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、前記親水膜を形成する工程と、を有する、親水膜の製造方法。
【請求項2】
前記親水膜は水の接触角が10°以下の超親水膜である、請求項
1に記載の親水膜の製造方法。
【請求項3】
前記放電処理はコロナ放電処理である、請求項1
又は2に記載の親水膜の製造方法。
【請求項4】
前記コロナ放電処理の放電量は400W・分/m
2以上である、請求項
3に記載の親水膜の製造方法。
【請求項5】
前記シリコーン系離型剤を含む層の膜厚は0.05μm以上5μm以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の親水膜の製造方法。
【請求項6】
前記対象物は樹脂フィルムである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の親水膜の製造方法。
【請求項7】
前記親水膜を形成する工程は、シリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、パターン化した親水領域を形成する工程である、請求項1に記載の親水膜の製造方法。
【請求項8】
前記親水膜を形成する工程は、シリコーン系離型剤を含む層をマスクを介して放電処理し、パターン化した親水領域を形成する工程である、請求項1に記載の親水膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水膜の製造方法及びパターン形成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
親水膜は、一般的には水の接触角が20°以下である極めて水に濡れやすい膜である。親水膜の形成前後で水との接触面積を増大でき、対象物の表面を大きく改質できる。このような表面改質技術は、各種用途に幅広く応用されている。
【0003】
特許文献1には、超撥水性から超親水性に変化する複合材料が記載されている。具体的には、微細な凹凸構造を有し、水の接触角が150°以上の撥水性を有する複合材料に光を照射することにより、水の接触角が10°以下の超親水性面を形成する方法が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の方法では、被処理面をまず凹凸化処理し、さらに光触媒無機コーティング剤を含むゾルゲル膜前駆体を塗布した後、加熱処理により加水分解・重縮合を進行させて超撥水膜を形成する。超撥水膜にフォトマスクを介してパターン露光することにより、パターン化された超親水性部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、被処理面をまず凹凸化処理する工程を要し、さらに超撥水膜を形成するために複雑な工程を要する。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、親水膜を複雑な工程を経ることなく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を採用した。
[1]対象物の被処理面に、水の接触角が20°以下である親水膜を製造する方法であって、前記被処理面にシリコーン系離型剤を塗布し、シリコーン系離型剤を含む層を形成する工程と、前記シリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、前記親水膜を形成する工程と、を有する、親水膜の製造方法。
[2]前記親水膜は水の接触角が10°以下の超親水膜である、[1]に記載の親水膜の製造方法。
[3]前記放電処理はコロナ放電処理である、[1]又は[2]に記載の親水膜の製造方法。
[4]前記コロナ放電処理の放電量は400W・分/m2以上である、[3]に記載の親水膜の製造方法。
[5]前記シリコーン系離型剤を含む層の膜厚は0.05μm以上5μm以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の親水膜の製造方法。
[6]前記対象物は樹脂フィルムである、[1]~[5]のいずれか1つに記載の親水膜の製造方法。
[7]対象物の被処理面に親水領域と、前記親水領域よりも水の接触角が大きい領域とを備えるパターン形成体の製造方法であって、前記親水領域は、水の接触角が20°以下であり、前記被処理面に、パターン化したシリコーン系離型剤を含む層を形成する工程と、前記パターン化したシリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、前記親水領域を形成する工程と、を有する、パターン形成体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、親水膜を複雑な工程を経ることなく製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態に基づき、本発明を説明する。
【0011】
本明細書において、「親水膜」とは、水の静的接触角が20°以下の膜を意味する。
本明細書において、「超親水膜」とは、水の静的接触角が10°以下の膜を意味する。
本明細書において、「撥水膜」とは、水の静的接触角が100°以上の膜を意味する。
本明細書において、「親水領域」とは、水の静的接触角が20°以下の領域を意味する。
本明細書において、「超親水領域」とは、水の静的接触角が10°以下の領域を意味する。
本明細書において、「撥水領域」とは、水の静的接触角が100°以上の領域を意味する。
【0012】
<親水膜の製造方法>
本実施形態は、対象物の被処理面に水の接触角が20°以下である親水膜を製造する方法である。
本実施形態の製造方法は、被処理面にシリコーン系離型剤を塗布し、シリコーン系離型剤を含む層を形成する工程と、シリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、前記親水膜を形成する工程と、をこの順で備える。
【0013】
≪親水膜の製造方法1≫
本実施形態の製造方法は、被処理面にシリコーン系離型剤を塗布し、所定パターン形状のシリコーン系離型剤を含む層を形成する工程と、シリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、前記親水膜を形成する工程と、をこの順で備える。
以下、各工程について説明する。
【0014】
[所定パターン形状のシリコーン系離型剤を含む層を形成する工程]
まず、対象物の被処理面にシリコーン系離型剤を含む層を形成する。シリコーン系離型剤を含む層は、撥水膜である。シリコーン系離型剤を含む層は、対象物の被処理面にシリコーン系離型剤を塗布し、その後にシリコーン系離型剤を硬化させて形成する。
本実施形態に用いるシリコーン系離型剤に関する説明は後述する。
【0015】
対象物は、シリコーン系離型剤を含む層が形成可能であり、かつ放電処理が可能である材料であれば特に限定されない。本実施形態においては、対象物は後述する樹脂フィルムまたは金属箔であることが好ましい。
【0016】
以下、対象物が樹脂フィルムである場合を例に、所定パターン形状のシリコーン系離型剤を含む層を形成する工程について説明する。
【0017】
樹脂フィルムの表面に所定パターン形状を形成するようにシリコーン系離型剤を塗布する方法としては、樹脂フィルムの表面にシリコーン系離型剤を、インクジェット印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷などを用いて塗布する方法が挙げられる。ここで、「樹脂フィルムの表面」とは、樹脂フィルムの一方の面であって、親水膜を形成する面を意味する。
【0018】
樹脂フィルムの表面の全面に所定パターン形状のシリコーン系離型剤を含む層を形成することにより、後述の放電処理により、シリコーン系離型剤を塗布したパターン部分のみが親水膜に改質する。パターンが未形成の部分は、樹脂フィルムの表面の濡れ性が維持される。このため、対象物の被処理面に親水領域と、親水性領域よりも水の接触角が大きい領域とが形成される。本明細書において、親水性領域よりも水の接触角が大きい領域を「撥水領域」と記載する場合がある。また、親水性膜よりも水の接触角が大きい膜を「撥水膜」と記載する場合がある。
【0019】
シリコーン系離型剤を樹脂フィルムに塗布した後、シリコーン系離型剤を硬化させ、シリコーン系離型剤を含む層を形成する。
シリコーン系離型剤の硬化方法は、加熱硬化、紫外線硬化、電子線硬化、加熱と紫外線照射の併用などの方法が挙げられる。本実施形態においては、シリコーン系離型剤の種類に合わせて、適した方法を選択して採用すればよい。
【0020】
シリコーン系離型剤を含む層の厚みは、0.05μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0021】
(水の接触角の測定)
本実施形態において水の接触角は、シリコーン系離型剤を含む層又は後述の親水膜における水の静的接触角(単位:°)である。
静的接触角の測定には、例えば協和界面科学株式会社製 DropMaster DMo-701SAの接触角計が使用できる。
【0022】
[所定パターンのシリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、親水膜を形成する工程]
本実施形態において、前記工程により得られたシリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、親水膜を形成する。シリコーン系離型剤を含む層を放電処理することにより、撥水性のシリコーン系離型剤を含む層を親水膜に変化させることができる。
【0023】
本実施形態において、親水膜は超親水膜であることが好ましい。
【0024】
本実施形態においては、シリコーン系離型剤を含む層の表面が親水膜に変化している。「シリコーン系離型剤を含む層の表面」とは、シリコーン系離型剤を含む層の一方の面であって、シリコーン系離型剤を含む層が樹脂フィルムに接する面とは反対側の面を意味する。
【0025】
本実施形態においてシリコーン系離型剤を含む層は、シリコーン系離型剤を含む層のすべてが親水膜に変化していてもよく、シリコーン系離型剤を含む層の表面が親水膜に変化していてもよい。シリコーン系離型剤を含む層の表面が親水膜に変化する場合は、つまり、樹脂フィルム、シリコーン系離型剤を含む層及び親水膜がこの順で積層した状態となる。
【0026】
本実施形態において、放電処理はコロナ放電処理、アーク放電処理又はプラズマ処理が好ましく、なかでもコロナ放電処理がより好ましい。
【0027】
本実施形態において、コロナ放電処理をする場合、親水膜の水の接触角をより低減する観点から、放電量は400W・分/m2以上であることが好ましく、450W・分/m2以上がより好ましく、500W・分/m2以上がさらに好ましい。
【0028】
本実施形態の親水膜の製造方法によれば、シリコーン系離型剤を含む層を放電処理することにより、撥水膜を親水膜に変化させることができる。
【0029】
≪親水膜の製造方法2≫
本実施形態の製造方法は、被処理面にシリコーン系離型剤を塗布し、被処理面の全面にシリコーン系離型剤を含む層を形成する工程と、シリコーン系離型剤を含む層をマスクを介して放電処理し、前記親水膜を形成する工程と、をこの順で備える。
以下、各工程について説明する。
【0030】
[被処理面の全面にシリコーン系離型剤を含む層を形成する工程]
以下、対象物が樹脂フィルムである場合を例に、被処理面の全面にシリコーン系離型剤を含む層を形成する工程について説明する。
本実施形態において、樹脂フィルムの表面の全面にシリコーン系離型剤を塗布する場合、シリコーン系離型剤を樹脂フィルムの表面に、メイヤーバー工法、グラビア工法、リバースロール工法、エアーナイフ工法、多段ロール工法などを用いて塗布する方法が挙げられる。
【0031】
[シリコーン系離型剤を含む層をマスクを介して放電処理し、親水膜を形成する工程]
本実施形態においては、マスクを介して放電処理を行う以外は前記親水膜の製造方法1の親水膜を形成する工程と同様の方法により本工程を実施する。
所定パターンのマスクを介してシリコーン系離型剤を含む層を放電処理することにより、マスクをしない部分には親水膜が形成される。また、マスクをした部分には親水膜が形成されず、シリコーン系離型剤の濡れ性が維持される。
【0032】
本実施形態においては、マスクの方法や材質は放電を阻害又は軽減できる方法又は材質であれば特に限定されない。
シリコーン系離型剤を含む層の一部をマスクする方法としては、プロテクトフィルムのようなプラスチックフィルムを貼付してもよく、塗料をコーティングすることによりマスクしてもよい。
本実施形態においては、放電によるエネルギーを完全に遮断する観点から、アルミニウム等の金属箔をマスクの材質とすることが好ましい。
【0033】
<パターン形成体の製造方法>
本実施形態は、対象物の被処理面に親水領域と、前記親水領域よりも水の接触角が大きい領域とを備えるパターン形成体の製造方法である。
本実施形態のパターン形成体の製造方法は、被処理面に、パターン化したシリコーン系離型剤を含む層を形成する工程と、パターン化したシリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、親水領域を形成する工程と、をこの順で有する。
【0034】
[シリコーン系離型剤を含む層を形成する工程]
本工程は、対象物の被処理面に、パターン化したシリコーン系離型剤を含む層を形成する工程である。
例えば対象物が樹脂フィルムである場合、樹脂フィルムの表面にシリコーン系離型剤を、所定パターン形状を形成する態様で塗布する。
シリコーン系離型剤を塗布する方法としては、インクジェット印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷などを用いて塗布する方法が挙げられる。
【0035】
[親水領域を形成する工程]
本工程は、パターン化したシリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、親水領域を形成する工程である。親水領域を形成する工程に関する説明は、前記本実施形態の親水膜の製造方法における「シリコーン系離型剤を含む層を放電処理し、親水膜を形成する工程」の説明と同様である。
【0036】
以下、本実施形態に用いる材料についてそれぞれ説明する。
【0037】
(対象物)
対象物は、シリコーン系離型剤を含む層が形成可能であり、かつ放電処理が可能であれば特に限定されない。
対象物の材質は、例えば樹脂フィルム、金属箔、ガラス、セラミック等が挙げられる。本実施形態においては、対象物は樹脂フィルムまたは金属箔であることが好ましい。
【0038】
・樹脂フィルム
樹脂フィルムは、用途に合わせて選定すればよいが、ポリエステル樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、ポリオレフィン樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、アセテート樹脂フィルム、ポリフェニレンサルファイド樹脂フィルムなどが挙げられる。
【0039】
中でも、光学特性や耐熱特性などの特性面や価格面、外観の品位などの面から、ポリエステル樹脂フィルムが好適である。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレートとポリエチレンテレフタレートの共重合体、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。これらの中でも、コストや光学特性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)が特に好ましい。
【0040】
・金属箔
金属箔としては、金箔、銀箔、銅箔、ステンレス箔、アルミ箔などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
(シリコーン系離型剤)
シリコーン系離型剤は、付加反応型、縮合反応型、カチオン重合型、ラジカル重合型などの、公知のシリコーン系離型剤が使用できる。
【0042】
付加反応型シリコーン系離型剤として市販されている製品には、例えば、KS-776A、KS-776L、KS-847、KS-847T、KS-779H、KS-837、KS-778、KS-830、KS-774、KS-3565、X-62-2829、KS-3650、KNS-3051、KNS-320A、KNS-316、KNS-3002、X-62-1387(信越化学工業(株)製)、SRX-211、SRX-345、SRX-357、SD7333、SD7220、SD7223、LTC-300B、LTC-350G、LTC-310、LTC-750A、SP-7025、SP-7248S、SP-7015、SP-7259、LTC-1006L、LTC-1056L(東レダウコーニング(株)製)、TPR-6722、TPR-6721、TPR-6702、TPR-6700、TPR-6600、SL6625(モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製)などが挙げられる。
【0043】
縮合反応型として市販されている製品には、例えば、SRX-290、SYLOFF-23(東レダウコーニング(株)製)、YSR-3022(モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製)などが挙げられる。
【0044】
カチオン重合型として市販されている製品には、例えば、TPR-6501、TPR-6502、TPR-6500、UV9300、UV9315、UV9430(モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製)、X62-7622、X-62-7660、X-62-7655(信越化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0045】
ラジカル重合型として市販されている製品には、例えば、KF-2005、X62-7205(信越化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0046】
シリコーン系離型剤は、1種類を単独で使用してもよいし、複数の品種を混合して使用してもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0048】
<実施例1>
膜厚50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に、シリコーン系離型剤をワイヤーバーにより塗布した。シリコーン系離型剤はLTC-310(ダウ・東レ株式会社製)を用いた。
その後、150℃で加熱してシリコーン系離型剤を硬化させ、膜厚が0.1μmのシリコーン離型剤を含む層を形成した。
【0049】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、シリコーン離型剤を含む層の水の静的接触角を測定したところ、107°である撥水膜であった。
【0050】
次に、シリコーン離型剤を含む層に800W・分/m2の放電量のコロナ放電処理を行った。これにより、シリコーン系離型剤を含む層の表面を超親水膜に変化させ、超親水膜を製造した。
【0051】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、超親水膜の水の静的接触角を測定したところ、6°であった。
【0052】
<実施例2>
シリコーン系離型剤として、LTC-750(ダウ・東レ株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、親水膜を製造した。
【0053】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、シリコーン離型剤を含む層の水の静的接触角を測定したところ、107°の撥水膜であった。
【0054】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、親水膜の水の静的接触角を測定したところ、9°であった。
【0055】
<実施例3>
シリコーン系離型剤として、X62-7622(信越化学社製)を用い、実施例1と同様の方法にフィルム上に塗布し、100℃で加熱して溶剤を乾燥させた後に、メタルハライドランプを用い200mJ/cm2のUV照射によりシリコーン系離型剤を硬化させ、膜厚が0.1μmのシリコーン離型剤を含む層を形成した。
【0056】
次に、シリコーン離型剤を含む層に800W・分/m2の放電量のコロナ放電処理を行った。これにより、シリコーン系離型剤を含む層の表面を超親水膜に変化させ、超親水膜を製造した。
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、シリコーン離型剤を含む層の水の静的接触角を測定したところ、107°の撥水膜であった。
【0057】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、親水膜の水の静的接触角を測定したところ、5°であった。
【0058】
<実施例4>
膜厚50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面の全面に、シリコーン系離型剤をワイヤーバーにより塗布した。シリコーン系離型剤はLTC-310(ダウ・東レ株式会社製)を用いた。
その後、150℃で加熱してシリコーン系離型剤を硬化させ、膜厚が0.1μmのシリコーン離型剤を含む層を形成した。
【0059】
次に、シリコーン離型剤を含む層の一部をアルミニウム箔によりマスクした。
【0060】
次に、マスクを介してシリコーン離型剤を含む層に800W・分/m2の放電量のコロナ放電処理を行った。これにより、マスクを施していない放電処理部のシリコーン系離型剤を含む層の表面を超親水膜に変化させ、超親水膜を製造した。
その後、アルミニウム箔を除去した。
【0061】
その後、霧吹きを用いて水滴の濡れ性を目視で評価した。その結果、マスクを施した部分は水がはじかれて水滴状として残った。
一方、マスクしなかった部分(コロナ放電した部分)は水が濡れ広がって水の膜を形成し、水滴として残存できなかった。
【0062】
<比較例1>
シリコーン系離型剤の代わりに、アミノアルキド系樹脂剥離剤テスファイン303(日立化成株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、超親水膜を製造した。
【0063】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、テスファイン303を含む層の水の静的接触角を測定したところ、105°であった。
【0064】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、親水膜の水の静的接触角を測定したところ、56°であった。
【0065】
<比較例2>
シリコーン系離型剤の代わりに、長鎖アルキル系剥離剤ピーロイル1050(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、親水膜を製造した。
【0066】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、ピーロイル1050を含む層の水の静的接触角を測定したところ、110°であった。
【0067】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、親水膜の水の静的接触角を測定したところ、60°であった。
【0068】
<比較例3>
膜厚50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に、800W・分/m2の放電量のコロナ放電処理を行った。
【0069】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、放電処理前のポリエチレンテレフタレートフィルムの水の静的接触角を測定したところ、66°であった。
【0070】
協和界面科学株式会社製の接触角計を用い、放電処理後のポリエチレンテレフタレートフィルムの水の静的接触角を測定したところ、36°であった。
【0071】
上述の通り、実施例1~4は、シリコーン離型剤を含む層にコロナ放電処理を実施することにより、撥水性から超親水性又は親水性に、樹脂フィルムの表面を複雑な工程を経ることなく大きく改質することができた。
一方、シリコーン離型剤以外を用いた比較例1及び2、およびシリコーン離型剤もその他の剥離剤も用いていない比較例3は、水の静的接触角が20°を超えており、親水膜を形成することができなかった。