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特許7513481結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性向上方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240702BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240702BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20240702BHJP
   C08L 59/00 20060101ALI20240702BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240702BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/013
C08K5/12
C08L59/00
C08L67/02
C08L77/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020165488
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057306
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】坂田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】松崎 流成
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-234046(JP,A)
【文献】特開2000-336258(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100727(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/035657(WO,A1)
【文献】特開2018-165317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂から選択される少なくとも1つを含む(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に、
(B)芳香族多価カルボン酸エステルを1~15質量部と、
(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂5~100質量部及び(C-2)寸法精度向上用充填剤0~150質量部を含む(C)寸法精度向上剤を(C-1)と(C-2)の合計で5~250質量部と、
を配合することにより、(A)結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる、方法。
【請求項2】
(B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、オレフィン系エラストマー、及びジエン系エラストマーから選択される少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(A)結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる方法であり、
ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂から選択される少なくとも1つを含む(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に、
(B)芳香族多価カルボン酸エステルを1~15質量部と、
(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂5~100質量部及び(C-2)寸法精度向上用充填剤0~150質量部を含む(C)寸法精度向上剤を(C-1)と(C-2)の合計で5~250質量部と、
を配合することを含み、
(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂、及びポリフェニレンエーテル樹脂から選択される1以上からなる、
方法。
【請求項5】
(A)結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の使用であって、
(A)結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂から選択される少なくとも1つを含み、
(C)寸法精度向上剤が、(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂及び(C-2)寸法精度向上用充填剤を含み、かつ
(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対する使用量が、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが1~15質量部、(C)寸法精度向上剤が(C-1)5~100質量部及び(C-2)0~150質量部の合計で5~250質量部である、使用。
【請求項6】
(B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、オレフィン系エラストマー、及びジエン系エラストマーから選択される少なくとも1つを含む、請求項又はに記載の使用。
【請求項8】
(A)結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の使用であって、
(A)結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂から選択される少なくとも1つを含み、
(C)寸法精度向上剤が、(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂及び(C-2)寸法精度向上用充填剤を含み、
(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂、及びポリフェニレンエーテル樹脂から選択される1以上からなり、かつ
(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対する使用量が、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが1~15質量部、(C)寸法精度向上剤が(C-1)5~100質量部及び(C-2)0~150質量部の合計で5~250質量部である、使用。
【請求項9】
(A)結晶性熱可塑性樹脂のための耐アルカリ溶液性向上剤であって、
(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤を含有し、
(A)結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂から選択される少なくとも1つを含み、
(C)寸法精度向上剤が、(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂及び(C-2)寸法精度向上用充填剤を含み、かつ
(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが1~15質量部、(C)寸法精度向上剤が(C-1)5~100質量部及び(C-2)0~150質量部の合計で5~250質量部となる量で用いられる、耐アルカリ溶液性向上剤。
【請求項10】
(B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、請求項に記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
【請求項11】
(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、オレフィン系エラストマー、及びジエン系エラストマーから選択される少なくとも1つを含む、請求項又は10に記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
【請求項12】
(C)寸法精度向上剤がシリコーン系化合物を含有しない、又はシリコーン系化合物の含有量が(C)寸法精度向上剤の5質量%以下である、請求項から11のいずれか一項に記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
【請求項13】
(A)結晶性熱可塑性樹脂のための耐アルカリ溶液性向上剤であって、
(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤を含有し、
(A)結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂から選択される少なくとも1つを含み、
(C)寸法精度向上剤が、(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂及び(C-2)寸法精度向上用充填剤を含み、
(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂、及びポリフェニレンエーテル樹脂から選択される1以上からなり、かつ
(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが1~15質量部、(C)寸法精度向上剤が(C-1)5~100質量部及び(C-2)0~150質量部の合計で5~250質量部となる量で用いられる、耐アルカリ溶液性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を成形してなる熱可塑性樹脂成形品は、その賦形性や加工性から今日幅広い用途に用いられている。洗剤、漂白剤、融雪剤等のアルカリ溶液に接触する環境で用いられる熱可塑性樹脂成形品は、アルカリ溶液と反応して経時的に品質が低下してしまうことを防ぐために、アルカリ溶液に対する長期耐久性に優れることが求められている。特に、ネジ締め、金属圧入、かしめ等により過大な歪みがかかった状態で使用される熱可塑性樹脂成形品や、薄肉部及び/又は成形時の溶融樹脂流動の合流界面であるウェルド部等の応力割れが発生しやすい部分を有する熱可塑性樹脂成形品は、アルカリ溶液と接触する環境で用いられると上記部分でクラック等がより発生しやすくなってしまうため、耐アルカリ溶液性がより求められており、一般的に非晶性熱可塑性樹脂と比べ耐薬品性が優れる結晶性熱可塑性樹脂が用いられている。
この結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性をさらに向上させる技術として、結晶性熱可塑性樹脂にシリコーン系化合物及び/又はフッ素系化合物を配合する技術がある(例えば、特許文献1)。しかしながら、シリコーン系化合物を含有する結晶性熱可塑性樹脂の成形品は、例えば電気電子部品の接点部分等に用いられると熱や火花等によって表面に二酸化ケイ素が形成され接点不良が発生してしまう場合がある。
一方、結晶性熱可塑性樹脂には、加工性等を考慮して可塑剤や離型剤等が添加されることがある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第00/78867号パンフレット
【文献】国際公開第2011/058992号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる方法を提供することを第1の課題とする。本発明は、結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための芳香族多価カルボン酸エステル及び寸法精度向上剤の使用を提供することを第2の課題とする。本発明は、結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性向上剤を提供することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、シリコーン系化合物を用いなくとも結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させることができる方法について鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、結晶性熱可塑性樹脂の添加剤として一般的に用いられる芳香族多価カルボン酸エステルを配合することで結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を高めることができることを見出した。
本発明者はさらに研究を進め、芳香族多価カルボン酸エステルに加えて、少なくとも非晶性アロイ樹脂を含む寸法精度向上剤を配合することで、高温環境下等での使用により芳香族多価カルボン酸エステルがブリードアウトすることをも抑制し、結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を長期的に維持できることを見出した。
本発明は、以下の実施形態を有する。
[1]ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂から選択される少なくとも1つを含む(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に、(B)芳香族多価カルボン酸エステルを1~15質量部と、(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂5~100質量部及び(C-2)寸法精度向上用充填剤0~150質量部を含む(C)寸法精度向上剤を(C-1)と(C-2)の合計で5~250質量部と、を配合することにより、(A)結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる、方法。
[2](B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、[1]に記載の方法。
[3](C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、オレフィン系エラストマー、及びジエン系エラストマーから選択される少なくとも1つを含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4](A)結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の使用であって、(A)結晶性熱可塑性樹脂がポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂から選択される少なくとも1つを含み、(C)寸法精度向上剤が(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂及び(C-2)寸法精度向上用充填剤を含み、かつ(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対する使用量が、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが1~15質量部、(C)寸法精度向上剤が(C-1)5~100質量部及び(C-2)0~150質量部の合計で5~250質量部である、使用。
[5](B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、[4]に記載の使用。
[6](C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、オレフィン系エラストマー、及びジエン系エラストマーから選択される少なくとも1つを含む、[4]又は[5]に記載の使用。
[7](A)結晶性熱可塑性樹脂のための耐アルカリ溶液性向上剤であって、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤を含有し、(A)結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂から選択される少なくとも1つを含み、(C)寸法精度向上剤が、(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂及び(C-2)寸法精度向上用充填剤を含み、かつ(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが1~15質量部、(C)寸法精度向上剤が(C-1)5~100質量部及び(C-2)0~150質量部の合計で5~250質量部となる量で用いられる、耐アルカリ溶液性向上剤。
[8](B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、[7]に記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
[9](C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、オレフィン系エラストマー、及びジエン系エラストマーから選択される少なくとも1つを含む、[7]又は[8]に記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
[10](C)寸法精度向上剤がシリコーン系化合物を含有しない、又はシリコーン系化合物の含有量が(C)寸法精度向上剤の5質量%以下である、[7]から[9]のいずれかに記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる方法を提供することができる。本発明によれば、結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための芳香族多価カルボン酸エステル及び寸法精度向上剤の使用を提供することができる。本発明によれば、結晶性熱可塑性樹脂用耐アルカリ溶液性向上剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している。
【0008】
[耐アルカリ溶液性向上方法]
本実施形態に係る耐アルカリ溶液性向上方法は、(A)結晶性熱可塑性樹脂に(B)芳香族多価カルボン酸エステル並びに、(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂及び(C-2)寸法精度向上用充填剤からなる(C)寸法精度向上剤を配合することにより、(A)結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる方法である。
「耐アルカリ溶液性」は、アルカリ溶液に長期間接触した場合でも品質が低下しにくい性質のことであり、本明細書では、試験片を23℃で水酸化ナトリウム水溶液中に50時間以上浸漬した後にクラックが発生しない場合に、耐アルカリ溶液性に優れているという。
【0009】
((A)結晶性熱可塑性樹脂)
(A)結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を挙げることができ、これらから選択される1種以上の結晶性熱可塑性樹脂を用いることができる。(A)結晶性熱可塑性樹脂は、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、及びポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂以外の樹脂成分を含んでいてもよいが、その含有量は好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり。特に好ましくは0.1質量%以下である。
【0010】
((B)芳香族多価カルボン酸エステル)
(B)芳香族多価カルボン酸エステルは、芳香族環に2個以上のエステル基(アルコキシカルボキシル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)を有する芳香族化合物であればよく、例えば、以下の式Iで示される化合物を挙げることができる。
【0011】
φ-(COOR)n ・・・I
式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい。φは、-COORで置換されている水素原子以外の水素原子は他の置換基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。例えば、φは、-COORで置換されている水素原子以外の水素原子のうちの1以上が-OH及び/又は-NHで置換されている構成にすることもできる。(A)結晶性熱可塑性樹脂との相溶性の点から、nが3以上(例えば3~6又は3~4)であることが好ましい。これらの(B)芳香族多価カルボン酸エステルは一種または二種以上を併用することができる。
【0012】
6-12アレーン環としては、ベンゼン、ナフタレン環等を挙げることができる。芳香族多価カルボン酸エステル成分の多価カルボン酸としては、例えば、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、これらの酸無水物など)、芳香族トリカルボン酸(トリメリット酸又はその酸無水物など)、芳香族テトラカルボン酸(ピロメリット酸又はその酸無水物)などを挙げることができる。
【0013】
アルキルエステル(-COOR)を構成するアルキル基としては、例えば、ブチル,t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、トリイソデシルル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-20アルキル基などを挙げることができる。好ましいアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状C3-16アルキル基,特に直鎖状又は分岐鎖状C4-14アルキル基である。
シクロアルキルエステル基を構成するシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が例示できる。
アラルキルエステル基を構成するアラルキル基としては、ベンジル基などのC6-12アリール-C1-4アルキル基を挙げることができる。
【0014】
代表的な(B)芳香族多価カルボン酸エステルとしては、トリメリット酸トリC4-20アルキルエステル(トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリイソデシルなど)、トリメリット酸トリC5-10シクロアルキルエステル(トリメリット酸トリシクロヘキシルなど)、トリメリット酸トリアラルキル(トリメリット酸トリベンジルなど)、トリメリット酸ジアルキル モノアラルキル(トリメリット酸ジ(2-エチルヘキシル)モノベンジル)、ピロメリット酸テトラC4-20アルキルエステル(ピロメリット酸テトラブチル、ピロメリット酸テトラオクチル、ピロメリット酸テトラ2-エチルヘキシル、ピロメリット酸テトライソデシルなど)、ピロメリット酸テトラアラルキル(ピロメリット酸テトラベンジルなど)、ピロメリット酸ジアルキル ジアラルキル(ピロメリット酸ジ(2-エチルヘキシル)ジベンジルなど)などが例示できる。なお、カルボン酸エステルは異なるエステル基(アルコキシカルボキシル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)を有する混合エステルであってもよい。
【0015】
(B)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して1~15質量部であり、2~12質量部であることが好ましく、3~10質量部であることがより好ましい。(B)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量を(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して1質量部以上にすることで、耐アルカリ溶液性をより向上させることができる。(B)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量を結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して15質量部以下にすることで、アルカリ溶液に対する長期耐久性をより発揮することができるとともに、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが成形品表面に染み出すなどの不具合が発生することを抑制することができる。一実施形態において、(B)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して4~7質量部である。
【0016】
((C)寸法精度向上剤)
本実施形態においては、(A)結晶性熱可塑性樹脂を使用することから、成形時の冷却固化過程における結晶化に伴う成形収縮や、成形品の使用環境における後収縮などにより、成形品に反り等の変形が発生しうる。このような変形は成形品に歪(応力)を生じさせ、耐アルカリ溶液性の低下を促進させる原因となりうるため、耐アルカリ溶液性の向上を図る上では成形品の変形抑制も重要となる。そこで、本実施形態に係る方法では成形品の変形を抑制し耐アルカリ溶液性を向上させるため、(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂及び/又は(C-2)寸法精度向上用充填剤からなる(C)寸法精度向上剤が添加される。
【0017】
(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂としては、成形時や熱処理時の収縮率及び/又は線膨張係数が小さいのみならず、(A)結晶性熱可塑性樹脂として用いる各樹脂(ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂)との加工温度が近く、相溶性の良い樹脂を好ましく用いることができる。このような(C-1)寸法精度向上用アロイ樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂(ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体等)、ウレタン系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、エラストマー(オレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、コアシェル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、シリコーン系エラストマー等)及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、オレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマーから選択される1種以上を用いる場合、(B)芳香族多価カルボン酸エステルのブリードアウトを抑制する効果も得られるため特に好ましい。なお、これらの(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂と(A)結晶性熱可塑性樹脂との親和性を向上させるために、公知の相溶化剤を併用しても良い。
【0018】
ポリカーボネート樹脂は、主鎖にカーボネート結合を有する高分子を意味し、通常、ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの重縮合、又はジヒドロキシ化合物と炭酸エステルとのエステル交換反応により得られる。ポリカーボネートとしては、脂肪族、脂環族および芳香族ポリカーボネートのいずれであってもよい。好ましいポリカーボネートには、芳香族ポリカーボネート、特に、ビスフェノールA型ポリカーボネートなどのビスフェノール型ポリカーボネートが含まれる。
ポリエチレンテレフタレート樹脂は、少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数2のアルキレングリコール(エチレングリコール)またはそのエステル形成誘導体を含むグリコール成分とを重縮合反応して得られるポリエチレンテレフタレート系樹脂であり、ホモPET樹脂に限らず、エチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75~95モル%程度)含有する共重合体(共重合PET)樹脂であってよい。
スチレン系樹脂としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合のいずれの方法で製造されたものを用いても良いが、寸法精度向上の観点では塊状重合により製造されたものを用いることがより好ましい。
【0019】
ポリフェニレンエーテル樹脂としては、ポリフェニレンエーテルの他に、変性ポリフェニレンエーテルを挙げることができる。環状オレフィン系樹脂としては、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)等を挙げることができる。
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EP共重合体)、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPD共重合体)、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、EP共重合体およびEPD共重合体から選択された少なくとも一種の単位を含む共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体(エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等)などが含まれる。好ましいオレフィン系エラストマーには、EP共重合体、EPD共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体が含まれ、特にエチレンエチルアクリレートが好ましい。これらのオレフィン系エラストマーは単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0020】
ジエン系エラストマーとしては、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体等を挙げることができる。
コアシェル系エラストマーは、コア層がゴム成分(軟質成分)、シェル層が硬質成分で構成されるポリマーであり、コア層のゴム成分としてはアクリル系ゴム等を用いるものである。コア層に用いるゴム成分は、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満(例えば-10℃以下)であるのが好ましく、-20℃以下(例えば-180℃以上-25℃以下)であるのがより好ましく、-30℃以下(例えば-150℃以上-40℃以下)であるのが特に好ましい。
【0021】
ゴム成分としてアクリル系ゴムを用いる場合、アルキルアクリレート等のアクリル系モノマーを主成分として重合して得られる重合体が好ましい。アクリル系ゴムのモノマーとして用いるアルキルアクリレートは、ブチルアクリレート等のアクリル酸のC1~C12のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸のC2~C6のアルキルエステルがより好ましい。
【0022】
アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、共重合体でもよい。アクリル系ゴムがアクリル系モノマーの共重合体である場合、アクリル系モノマー同士の共重合体でも、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体であってもよい。アクリル系ゴムが共重合体である場合、アクリル系ゴムは架橋性モノマーを共重合したものであってもよい。
【0023】
シェル層には、ビニル系重合体が好ましく用いられる。ビニル系重合体は、例えば、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも一種の単量体を重合あるいは共重合させて得られる。かかるコアシェル系エラストマーのコア層とシェル層は、グラフト共重合によって結合されていてもよい。このグラフト共重合化は、必要な場合には、コア層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、コア層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤として、シリコーン系ゴムを使用する場合は、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいはチオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0024】
ポリエステル系エラストマーとしては、ハードセグメントとソフトセグメントにいずれもポリエステル系単位構造を有するエステル-エステル型と、ソフトセグメントをポリエーテル系単位構造としたエステル-エーテル型の、いずれも好ましく用いることができるが、耐熱性面では前者、寸法精度面では後者が、それぞれより好ましい。
【0025】
(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂の添加量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、5~100質量部であり、10~90質量部または15~80質量部であってもよい。一実施形態において、(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂の添加量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、12~45質量部である。
ただし、非晶性樹脂は結晶性樹脂に比べ一般的に耐薬品性が劣り、多量に添加することで組成物としての耐アルカリ溶液性を悪化させるおそれがあるため、寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂の含有量は、本実施形態に係る方法を用いて得られた樹脂組成物全体に対し、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
(C-2)寸法精度向上用充填剤としては、有機系充填剤、無機系充填剤、金属系充填剤及びこれらの組み合わせのいずれも用いることができるが、樹脂成形品の加工温度範囲や使用温度範囲における収縮率や線膨張係数の小さい、無機系充填剤、金属系充填剤が好ましく、金属部材と組み合わせる絶縁部材として用いる成形品においては、絶縁性を確保する意味で無機系充填剤を用いることが特に好ましい。
【0027】
(C-2)寸法精度向上用充填剤の形状としては、繊維状充填剤、板状充填剤、球状充填剤、粉状充填剤、曲面状充填剤、不定形充填剤及びこれらの組み合わせのいずれも用いることができるが、反り変形を低減するには、異方性の小さい充填剤であることが好ましいため、板状充填剤、球状充填剤、粉状充填剤等、特にアスペクト比が1に近い充填剤を用いることがより好ましい。一方、ガラス繊維等の繊維状充填剤を用いる場合、引張強度等の機械的特性の向上効果は大きいが、繊維状充填剤の配向に起因して、反りの原因となる収縮率の異方性が大きくなる傾向にあるため、繊維状充填剤としては、ミルドファイバやウィスカ等の短繊維や、断面が繭型や長円形・楕円形といった扁平形状(例えば断面の長径÷短径の比が1.3~10)の繊維といった、断面アスペクト比が比較的大きいものを用いることがより好ましい。
【0028】
板状充填剤の具体例としては、板状タルク、マイカ、ガラスフレーク、金属片及びこれらの組み合わせ等を挙げることができ、球状充填剤の具体例としては、ガラスビーズ、ガラスバルーン、球状シリカ及びこれらの組み合わせ等を挙げることができ、粉状充填剤としてはガラス粉、タルク粉、石英粉末、石英粉末、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイト、炭化珪素、窒化珪素、金属粉、無機酸金属塩(炭酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、スズ酸亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)の粉末、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等)の粉末、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、アルミナ水和物(ベーマイト)等)の粉末、金属硫化物(硫化亜鉛、硫化モリブデン、硫化タングステン等)の粉末、及びこれらの組み合わせ等を挙げることができる。なお、金属腐食性の観点では、これら(C-2)寸法精度向上用充填剤中に含まれる遊離無機酸の含有量がそれぞれ0.5質量%以下のものであることが好ましい。
【0029】
(C-2)寸法精度向上用充填剤のサイズについては、反り低減効果と機械的特性や流動性等とのバランスを考慮して適宜選択することができる。例えばタルクとしては、JIS Z8825に準拠し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した体積平均粒子径が1~10μmのタルク、またはJIS K5101に準拠して測定した嵩比重が0.4~1.5の圧縮微粉タルクを好適に用いることができ、マイカとしては、JIS Z8825に準拠し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した体積平均粒子径が10~60μmのマイカを好適に用いることができる。
【0030】
これらの(C-2)寸法精度向上用充填剤は、無機化合物および/または有機化合物で表面処理(表面被覆)されていてもよく、表面処理に用いられる無機化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、ジルコニア、水酸化ジルコニウム、ジルコニア水和物、酸化セリウム、酸化セリウム水和物、水酸化セリウム等のアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、セリウム等の無機酸化物、水酸化物が好ましく挙げられる。また、これらの無機化合物は水和物であってもよい。これらの中でも、水酸化アルミニウム、シリカが好ましく、シリカを用いる場合は、SiO2・nH2Oで表されるシリカ水和物であることが特に好ましい。また、表面処理に用いられる有機化合物としては、エポキシ化合物やアミン化合物が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ、ノボラック型エポキシ等のエポキシ化合物およびモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジクロルヘキシルアミン等のアミン化合物がより好ましい化合物として例示することができる。
【0031】
なお、(C-2)寸法精度向上用充填剤として、ゼオライトやメソポーラスシリカなどのような、多孔質のものを用いると、(B)芳香族多価カルボン酸エステルがこれに吸着される場合がある。これにより成形品からの(B)芳香族多価カルボン酸エステルのブリードアウトが抑制されうるが、一方、樹脂成形品全体への(B)芳香族多価カルボン酸エステルの分散が阻害されることにより、耐アルカリ溶液性の向上効果が低下するおそれがあるため、その場合は、反り低減効果と耐アルカリ溶液性及びブリードアウトのバランスを見ながら添加量を適宜調整すればよい。
【0032】
(C-2)寸法精度向上用充填剤の添加量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、0~150質量部であり、5~120質量部または10~100質量部であってもよい。(C-2)寸法精度向上用充填剤の添加量は、反り低減効果と機械的特性や流動性等とのバランスを考慮して適宜選択することができる。一実施形態において、(C-2)寸法精度向上用充填剤の添加量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、0~69質量部である。一実施形態において、(C-2)寸法精度向上用充填剤の添加量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、50~69質量部である。
【0033】
上述の(C-1)寸法精度向上用アロイ樹脂及び/又は(C-2)寸法精度向上用充填剤からなる(C)寸法精度向上剤の添加量は、(C-1)寸法精度向上用アロイ樹脂と(C-2)寸法精度向上用充填剤の合計として、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、5~250質量部であり、10~200質量部または15~150質量部であってもよい。一実施形態において、(C)寸法精度向上剤の添加量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、合計45~106質量部である。
【0034】
(その他の配合剤)
本実施形態に係る耐アルカリ溶液性向上方法において、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、(A)結晶性熱可塑性樹脂に、酸化防止剤、耐候安定剤、分子量調整剤、流動性改善剤、耐加水分解性改善剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、染料や顔料といった着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、有機充填剤、着色剤等の添加剤をさらに配合することができる。なお、上記した(B)芳香族多価カルボン酸エステルは可塑剤としても作用することができるので、通常は可塑剤を添加する必要はないが、必要に応じて脂肪族カルボン酸エステル等の他の可塑剤を含有することができる。この場合の可塑剤の含有量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01~10質量部とすることができる。
【0035】
本実施形態に係る耐アルカリ溶液性を向上させる方法によれば、シリコーン系化合物を用いなくとも(A)結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させることができるので、特に本実施形態に係る方法を用いて得られた樹脂組成物を電気電子部品用途に使用する場合、シリコーン系化合物に由来する二酸化ケイ素層の生成による接点不良を抑制できる。この点から、シリコーン系化合物の配合量は、本実施形態に係る方法を用いて得られた樹脂組成物全体に対して1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。シリコーン系化合物を配合しない構成とすることもできる。シリコーン系化合物としては、例えば、シリコーンオイルとして知られている、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等のシリコーン樹脂;シリコーン樹脂をアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の変性用樹脂と反応させた変性シリコーン等を挙げることができる。
【0036】
(配合方法)
(A)結晶性熱可塑性樹脂に、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤、並びに必要に応じて添加する配合剤を配合する方法は、特に限定されず、従来の樹脂組成物調製方法や成形方法として一般に用いられる設備と方法を用いて容易に調製できる。例えば、1)樹脂成分及び他の各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り混み押出してペレットを調製し、しかる後成形する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体として、これ以外の成分と混合して添加する方法は、これらの成分の均一配合を図る上で好ましい方法である。
【0037】
押出機により練り込みペレット化する場合、押出機中での樹脂温度(加工温度)は、用いる(A)結晶性熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜設定すればよいが、熱分解による機械的特性の低下の観点及び、(A)結晶性熱可塑性樹脂と(B)芳香族多価カルボン酸エステルを十分に反応させて耐アルカリ溶液性を発現させる観点から、好ましくは150~320℃、さらに好ましくは180~280℃となるように押出機シリンダー温度を設定することができる。なお、(A)結晶性熱可塑性樹脂としてポリアセタール樹脂を用いる場合は、シリンダー温度を170~220℃(特に180~210℃)とすることが好ましく、ポリアミド樹脂及び/又はポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合は240~300℃(特に250~280℃)とすることが好ましい。
【0038】
上記方法は、本実施形態に係る方法を用いて得られた結晶性熱可塑性樹脂組成物からなる、80mm×10mm×厚さ1mmの長手方向の略中央部にウェルドを有する試験片を、常時1.0%の曲げ歪みがウェルド部に加わるようにたわませた状態で、23℃で水酸化ナトリウム溶液中に50時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための方法であることが好ましく、70時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための方法であることがより好ましく、100時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための方法であることがさらに好ましく、200時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための方法であることが特に好ましい。
【0039】
(樹脂成形品)
上記方法により(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤が配合された(A)結晶性熱可塑性樹脂は、耐アルカリ溶液性に優れているので、その成形品は、耐アルカリ溶液性が求められる用途に広く用いることができる。例えば、自動車用部品、電気電子部品等のうち、洗剤や融雪剤等のアルカリ性溶液と接触する部品として好適に用いることができる。樹脂成形品を得る方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、上記方法により芳香族多価カルボン酸エステルが配合された樹脂を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0040】
[(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の使用]
本実施形態に係る(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の使用は、(A)結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の使用である。上記使用は、上記試験片を、常時1.0%の曲げ歪みがウェルド部に加わるようにたわませた状態で、23℃で水酸化ナトリウム溶液中に50時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための使用であることが好ましく、70時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための使用であることがより好ましく、100時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための使用であることがさらに好ましく、200時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための使用であることが特に好ましい。(A)結晶性熱可塑性樹脂並びに(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の種類等については上記のとおりであるからここでは記載を省略する。(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の使用量についても、上記した(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の配合量と同様である。
【0041】
[耐アルカリ溶液性向上剤]
本実施形態に係る耐アルカリ溶液性向上剤は、(A)結晶性熱可塑性樹脂に配合して用いられるためのものであり、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤を含有する。
【0042】
耐アルカリ溶液性向上剤中の(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の合計含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上、又は90質量%以上とすることができ、芳香族多価カルボン酸エステルのみからなるように構成することもできる。耐アルカリ溶液性向上剤は、上記した(A)結晶性熱可塑性樹脂に配合してもよいその他の配合剤を含有していてもよい。その配合量は、特に限定されず、例えば、合計50質量%未満、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下にすることができる。
【0043】
耐アルカリ溶液性向上剤中の各成分の含有量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂に対して上記した配合量になる量で容易に使用できるように、好ましくは以下の範囲である。
耐アルカリ溶液性向上剤中の(B)芳香族多価カルボン酸エステルの含有量は、好ましくは0.1~50質量%であり、より好ましくは1~30質量%であり、さらに好ましくは3~15質量%である。
耐アルカリ溶液性向上剤中の(C)寸法精度向上剤の含有量は、好ましくは50~99.9質量%であり、より好ましくは70~99質量%であり、さらに好ましくは85~97質量%である。
(C)寸法精度向上剤中の(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂の含有量は、好ましくは3~100質量%であり、より好ましくは5~95質量%であり、さらに好ましくは10~90質量%である。
(C)寸法精度向上剤中の(C-2)寸法精度向上用充填剤の含有量は、好ましくは0~97質量%であり、より好ましくは5~95質量%であり、さらに好ましくは10~90質量%である。
【0044】
本実施形態に係る耐アルカリ溶液性向上剤は、シリコーン系化合物を用いなくとも(A)結晶性熱可塑性樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させることができるので、シリコーン系化合物を含有しない、又はシリコーン系化合物の含有量が5質量%未満であるように構成することができる。
【0045】
上記耐アルカリ溶液性向上剤は、上記試験片を、常時1.0%の曲げ歪みがウェルド部に加わるようにたわませた状態で、23℃で水酸化ナトリウム溶液中に50時間以上浸漬した後にクラックを発生させない耐アルカリ溶液性向上剤であることが好ましく、70時間以上浸漬した後にクラックを発生させない耐アルカリ溶液性向上剤であることがより好ましく、100時間以上浸漬した後にクラックを発生させない耐アルカリ溶液性向上剤であることがさらに好ましく、200時間以上浸漬した後にクラックを発生させない耐アルカリ溶液性向上剤であることが特に好ましい。
【0046】
(A)結晶性熱可塑性樹脂並びに(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)寸法精度向上剤の種類等については上記のとおりであるからここでは記載を省略する。耐アルカリ溶液性向上剤の使用量は、耐アルカリ溶液性向上剤中の(B)芳香族多価カルボン酸エステルの量が(A)結晶性熱可塑性樹脂に対して上記した配合量になる量とすることができる。
【実施例
【0047】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0048】
各実施例及び比較例において、表1に示す(A)結晶性熱可塑性樹脂、(B)芳香族多価カルボン酸エステル、及び(C)寸法精度向上剤を、必要に応じて用いる配合剤とともに、表1に示す量(質量部)でドライブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)を用いてシリンダー温度260℃で溶融混練し、ペレット状の樹脂組成物を得た。
使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0049】
(1)(A)結晶性熱可塑性樹脂
PBT:ポリプラスチックス(株)製、ポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度:0.77dL/g、末端カルボキシル基量:28meq/kg)
PA:宇部興産(株)製、ポリアミド6「UBEナイロン1015B」
(2)(B)芳香族多価カルボン酸エステル
ピロメリット酸エステル:ADEKA(株)製、ピロメリット酸混合直鎖アルキルエステル「アデカサイザーUL-100」
(比較成分1)芳香族モノカルボン酸エステル:(株)ダイセル製、ポリカプロラクトンジベンゾエート「PLACCEL BCL2」
(比較成分2)脂肪族多価カルボン酸エステル:日油(株)製、ペンタエリスリトールジステアレート「ユニスターH476」
(3)(C-1)寸法精度向上用非晶性アロイ樹脂
PC:帝人(株)製、ポリカーボネート樹脂「パンライトL-1225W」
PET:帝人(株)製、ポリエチレンテレフタレート樹脂「TRN-8550FF」
AS:Ningbo LG Yongxing Chemical社製、アクリロニトリル-スチレン樹脂「80HF」
PPE:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、変性ポリフェニレンエーテル樹脂「ユピエースPX-100L」
EEA:(株)NUC製、エチレン-エチルアクリレート共重合体「NUC-6570」
EO:ダウ・ケミカル日本(株)製、エチレン-オクテン共重合体「ENGAGE 8440」
EGMA-g-BAMMA:日油(株)製、エチレン-グリシジルメタクリレート-graft-(ブチルアクリレート-メチルメタクリレート)共重合体「モディパー A4300」
コアシェル:ダウ・ケミカル日本(株)製、グリシジル基含有コアシェルポリマー「パラロイドEXL2314」
PEsエラストマー:東洋紡(株)製、ポリエステルエラストマー「ペルプレン S2001」
(4)(C-2)寸法精度向上用充填剤
円形断面ガラス繊維:日本電気硝子(株)製「ECS03T-127」(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
扁平断面ガラス繊維:日東紡(株)製「CSG3PA830」(長径28μm、短径7μmの長円形断面(長径÷短径比=4)、平均繊維長3mm)
ガラスフレーク:日本板硝子(株)製、マイクログラス「フレカ REFG-301」
タルク:松村産業(株)製「クラウンタルクPP」
(5)その他の配合剤
難燃剤:ブロモケム・ファーイースト(株)製、ポリペンタブロモベンジルアクリレート(PBBPA)「FR-1025」
難燃助剤:日本精鉱(株)製、三酸化アンチモン「PATOX-M」
【0050】
<評価>
(耐アルカリ溶液性)
樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度250℃、金型温度70℃、射出時間20秒、冷却時間10秒で、試験片成形用金型(縦80mm、横80mm、厚み1mmの平板成形用金型で、平板の一主面の略中央部に相当する位置にピンを設置することにより、平板の一辺の側面中央部に設けた幅2mm×厚み1mmのサイドゲートから樹脂を充填する際に、平板の一主面上にウェルドが発生するようにしたもの)を用いて射出成形し、ウェルド付平板成形品を製造した。得られたウェルド付平板成形品を、長手方向の略中央部がウェルドとなるよう、幅10mm、長さ80mmの短冊状に切削して試験片を準備した。この試験片をたわませた状態で治具に固定し、常時1.0%の曲げ歪みがウェルド部に加わるようにした。この状態のまま、治具ごと10%の水酸化ナトリウム溶液中に浸漬し、周辺温度23℃にて静置し、浸漬開始から72時間後、120時間後及び240時間後の時点で、試験片にクラックが発生するか否かを目視観察した。
評価は、実施例及び比較例のペレットについて3個ずつの試験片を用いて行い、以下の基準で評価した。結果を表1~2に示す。
◎(優):3個の試験片のうちいずれもクラックが発生していない
〇(良):3個の試験片のうち1個のみクラックが発生している
△(可):3個の試験片のうち2個にクラックが発生している
×(不可):3個の試験片の全てにクラックが発生している
【0051】
(低反り性)
樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度260℃、金型温度60℃、射出圧力60MPa、射出速度17mm/s、射出時間10秒、冷却時間10秒で、縦120mm、横120mm、厚み2mmの正方形の平板形状の試験片を成形し、平面度を測定した。平面度は、試験片の突き出しピン跡がない側の面を上に定盤上に静置し、正方形の1つの角を起点(0mm×0mm)として、10mm×10mm、10mm×60mm、10mm×110mm、60mm×10mm、60mm×60mm、60mm×110mm、110mm×10mm、110mm×60mm、110mm×110mmの9点をミツトヨ製CNC画像測定機で測定し、最高点と最低点の高さの差から求めた。平面度が5mm以下の場合を○、5~10mmの場合を△、10mm以上の場合を×として評価した結果を表1に示す。
【0052】
(耐ブリード性)
樹脂組成物のペレットを用いて、上記の耐アルカリ溶液性試験で使用した成形品と同様の成形条件にて、評価用試験片(8cm×8cm×厚み3mmの平板)を作製し、東洋精機製作所社製ギアオーブンにて、110℃で20時間放置した後、目視にて成形品表面の染み出しの状態を観察した。以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
◎(優):染み出しなし
〇(良):ごく僅かな浸み出しあり
△(可):若干の染み出しあり
×(不可):顕著な染み出しあり


【表1】