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特許7513493難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇抑制剤、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇抑制剤、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240702BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240702BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L63/00 Z
C08K5/19
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020179524
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070453
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 樹
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-194184(JP,A)
【文献】特開平06-256628(JP,A)
【文献】特開平09-059495(JP,A)
【文献】特開2002-128998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸末端基が35meq/kg以下のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、エポキシ系樹脂(B)0.5質量部以上10質量部以下と、第4級アンモニウム塩(C)と、難燃剤(D)とを含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であり、第4級アンモニウム塩(C)を構成する第4級アンモニウムカチオンNR の4つのRは、それぞれ炭素原子数1~10の、アルキル基、アリール基、アラルキル基のいずれか又はそれらの組み合わせである、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
前記第4級アンモニウム塩(C)を構成する前記4つのRの炭素原子数の合計が30以下である、請求項1に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記第4級アンモニウム塩(C)を構成する前記4つのRの炭素原子数の合計が26以下である、請求項2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
前記第4級アンモニウム塩(C)を構成する前記4つのRの炭素原子数の合計が22以下である、請求項3に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
前記第4級アンモニウム塩(C)を構成するアニオンが臭化物イオンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
前記第4級アンモニウム塩(C)がテトラブチルアンモニウムブロミド及び/又はベンジルトリメチルアンモニウムブロミドである、請求項1から5のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
前記第4級アンモニウム塩(C)の含有量が、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し0.1質量部以上3.0質量部以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品。
【請求項9】
第4級アンモニウム塩を含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエポキシ系樹脂と難燃剤とを含有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇抑制剤であり、前記第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムカチオンNR の4つのRのうち、3つがメチル基であり、他1つがアルキル基、アリール基、アラルキル基から選択される炭素原子数6以上10以下の官能基である、粘度上昇抑制剤。
【請求項10】
前記第4級アンモニウム塩がベンジルトリメチルアンモニウムブロミドである、請求項9に記載の粘度上昇抑制剤。
【請求項11】
第4級アンモニウム塩を含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエポキシ系樹脂と難燃剤とを含有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解抑制剤であり、第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムカチオンNR の4つのRは、それぞれ炭素原子数1~10の、アルキル基、アリール基、アラルキル基のいずれか又はそれらの組み合わせである、加水分解抑制剤。
【請求項12】
前記第4級アンモニウム塩を構成する前記第4級アンモニウムカチオンNR の4つのRの炭素原子数の合計が30以下である、請求項11に記載の加水分解抑制剤。
【請求項13】
前記第4級アンモニウム塩を構成する前記第4級アンモニウムカチオンNR の4つのRの炭素原子数の合計が26以下である、請求項12に記載の加水分解抑制剤。
【請求項14】
前記第4級アンモニウム塩を構成する前記第4級アンモニウムカチオンNR の4つのRの炭素原子数の合計が22以下である、請求項13に記載の加水分解抑制剤。
【請求項15】
前記第4級アンモニウム塩を構成するアニオンが臭化物イオンである、請求項11から14のいずれか一項に記載の加水分解抑制剤。
【請求項16】
前記第4級アンモニウム塩がテトラブチルアンモニウムブロミド及び/又はベンジルトリメチルアンモニウムブロミドである、請求項11から15のいずれか一項に記載の加水分解抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇抑制剤、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」とも呼ぶ)樹脂は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的特性、及び成形加工性などの種々の特性に優れるため、多くの用途に利用されている。
【0003】
具体的な用途としては、各種自動車用電装部品(各種コントロールユニット、各種センサー、イグニッションコイルなど)、各種電気電子部品(コネクター類、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品など)、その他、家電等各種電機・電器の部品(筐体、絶縁部材など)等が挙げられ、これらの用途においては漏電等による火災を防止するため、使用する材料に難燃性が要求されることから、各種の難燃剤を添加した難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物として用いられている。
【0004】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂はポリエステル樹脂であり、耐加水分解性の改善は耐久性向上に不可欠である。そのため、エポキシ系樹脂やカルボジイミドの添加等による難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐加水分解性の改良は従来から検討されている(特許文献1)。
【0005】
カルボジイミドは耐加水分解性の改善効果が非常に良好ではあるが、有毒なイソシアネートが発生する問題があり、エポキシ系樹脂の場合、耐加水分解性の改善効果が十分でなかったり、PBTのカルボン酸末端とエポキシ基が反応し粘度が上昇したりする場合がある。
【0006】
なお、エポキシ系樹脂と開環触媒を組み合わせることは従来からよく知られている(特許文献2)。しかしながら、この文献において実際に開環触媒としての効果が示されているのはステアリン酸カルシウムのみである。
【0007】
また、特許文献3には開環触媒が多数例示されている。4級アンモニウム塩としてはテトラブチルアンモニウムブロミドなどの記載はあるものの、特にステアリン酸ナトリウムが好ましいとの記載があり、4級アンモニウム塩の実際の評価はされてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第WO2011/058992号パンフレット
【文献】特開平11-236492号公報
【文献】特開平8-157701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐加水分解性の改善効果に優れた難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、成形品、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇抑制剤、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、カルボン酸末端基が35meq/kg以下のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、エポキシ系樹脂(B)0.5質量部以上10質量部以下と、第4級アンモニウム塩(C)と、難燃剤(D)とを含有する、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、上記の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品、第4級アンモニウム塩を含有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇抑制剤、第4級アンモニウム塩を含有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解抑制剤により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の(1)~(18)に関する。
(1)カルボン酸末端基が35meq/kg以下のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、エポキシ系樹脂(B)0.5質量部以上10質量部以下と、第4級アンモニウム塩(C)と、難燃剤(D)とを含有する、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であり、第4級アンモニウム塩(C)を構成する第4級アンモニウムカチオンNR の4つのRは、それぞれ炭素原子数1~15の、アルキル基、アリール基、アラルキル基のいずれか又はそれらの組み合わせである、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(2)前記第4級アンモニウム塩(C)を構成する前記4つのRの炭素原子数が、いずれも1~10である、(1)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(3)前記第4級アンモニウム塩(C)を構成する前記4つのRの炭素原子数の合計が30以下である、(1)または(2)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(4)前記第4級アンモニウム塩(C)を構成する前記4つのRの炭素原子数の合計が26以下である、(3)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(5)前記第4級アンモニウム塩(C)を構成する前記4つのRの炭素原子数の合計が22以下である、(4)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(6)前記第4級アンモニウム塩(C)を構成するアニオンが臭化物イオンである、(1)から(5)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(7)前記第4級アンモニウム塩(C)がテトラブチルアンモニウムブロミド及び/又はベンジルトリメチルアンモニウムブロミドである、(1)から(6)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(8)前記第4級アンモニウム塩(C)の含有量が、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し0.1質量部以上3.0質量部以下である、(1)から(7)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(9)(1)から(8)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品。
(10)第4級アンモニウム塩を含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエポキシ系樹脂と難燃剤とを含有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇抑制剤であり、前記第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムカチオンNR の4つのRのうち、3つがメチル基であり、他1つがアルキル基、アリール基、アラルキル基から選択される炭素原子数6以上の官能基である、粘度上昇抑制剤。
(11)前記第4級アンモニウム塩がベンジルトリメチルアンモニウムブロミド又はドデシルトリメチルアンモニウムブロミドである、(10)に記載の粘度上昇抑制剤。
(12)第4級アンモニウム塩を含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエポキシ系樹脂と難燃剤とを含有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解抑制剤であり、前記第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムカチオンNR の4つのRは、それぞれ炭素原子数1~15の、アルキル基、アリール基、アラルキル基のいずれか又はそれらの組み合わせである、加水分解抑制剤。
(13)前記第4級アンモニウム塩を構成する前記4つのRの炭素原子数が、いずれも1~10である、(12)に記載の加水分解抑制剤。
(14)前記第4級アンモニウム塩を構成する前記4つのRの炭素原子数の合計が30以下である、(12)または(13)に記載の加水分解抑制剤。
(15)前記第4級アンモニウム塩を構成する前記4つのRの炭素原子数の合計が26以下である、(14)に記載の加水分解抑制剤。
(16)前記第4級アンモニウム塩を構成する前記4つのRの炭素原子数の合計が22以下である、(15)に記載の加水分解抑制剤。
(17)前記第4級アンモニウム塩を構成するアニオンが臭化物イオンである、(12)から(16)のいずれかに記載の加水分解抑制剤。
(18)前記第4級アンモニウム塩がテトラブチルアンモニウムブロミド及び/又はベンジルトリメチルアンモニウムブロミドである、(12)から(17)のいずれかに記載の加水分解抑制剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐加水分解性の改善効果に優れた難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、成形品、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇抑制剤、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。
【0014】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0015】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は35meq/kg以下であるが、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0016】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.2dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上0.9dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0017】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0020】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0021】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0022】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の全質量の20~90質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~70質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
(エポキシ系樹脂)
本発明におけるエポキシ系樹脂を構成するエポキシ系化合物としては、例えば、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等の芳香族エポキシ化合物を挙げることができる。エポキシ化合物は、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。エポキシ当量は、150~1500g/当量(g/eq)であることが好ましい。
【0024】
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物におけるエポキシ系樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上10質量部以下であるが、0.5質量部以上8質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上6質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがさらに好ましく、0.5質量部以上4質量部以下であることが特に好ましい。
【0025】
(第4級アンモニウム塩)
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含有される第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムカチオンは、分子式NR で表される正電荷を持った多原子イオンである。4つのRはそれぞれ炭素原子数1~15の、アルキル基、アリール基、アラルキル基のいずれか又はそれらの組み合わせである。
【0026】
4つのRの炭素原子数はいずれも1~10であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~7であることがさらに好ましく、2~4であることが特に好ましく、4(ブチル基)であることが最も好ましい。なお、4つのRの炭素原子数は互いに異なっていてもよい。また、4つのRの炭素原子数の合計は30以下であることが好ましく、26以下であることがより好ましく、22以下であることがさらに好ましく、18以下であることが特に好ましく、16以下であることが最も好ましい。
【0027】
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含有される第4級アンモニウム塩を構成するアニオンは、1価の負電荷を有している。そのアニオンは、ハロゲン化物イオンであることが好ましく、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンからなる群から選択されるイオンであることがより好ましく、塩化物イオン、臭化物イオンからなる群から選択されるイオンであることがさらに好ましく、臭化物イオンであることが特に好ましい。
【0028】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含有される特に好ましい第4級アンモニウム塩として、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミドが挙げられる。
【0029】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含有される第4級アンモニウム塩の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し0.1質量部以上3.0質量部以下であることが好ましく、0.15質量部以上2.0質量部以下であることがより好ましく、0.2質量部以上1.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0030】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇抑制剤)
また、第4級アンモニウム塩として、NR で表される第4級アンモニウムカチオンの4つのRのうち、3つがメチル基であり、他1つがアルキル基、アリール基、アラルキル基から選択される炭素原子数6以上の官能基であるものを用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエポキシ系樹脂を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇抑制剤とすることが可能である。本発明の粘度上昇抑制剤として好ましい第4級アンモニウム塩としては、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミドが挙げられる。
【0031】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解抑制剤)
さらに、第4級アンモニウム塩として、NR で表される第4級アンモニウムカチオンの4つのRが、それぞれ炭素原子数1~15の、アルキル基、アリール基、アラルキル基のいずれか又はそれらの組み合わせであるものを用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエポキシ系樹脂を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解抑制剤とすることが可能である。
【0032】
本発明の難燃剤(D)としては、ハロゲン系難燃剤及び/又はリン系難燃剤を用いることが好ましく、ハロゲン系難燃剤としては、ベンゼン環の水素原子の1つ以上が臭素原子で置換された構造を含む臭素系芳香族難燃剤であることがより好ましい。具体的には臭素化アクリレート系重合体、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン、臭素化フタルイミド、臭素化ポリフェニレンエーテル等が挙げられ、臭素化アクリレート系重合体及び/又は臭素化エポキシ化合物であることがさらに好ましい。
【0033】
臭素化アクリレート系重合体としては、下記一般式(I)で表されるものが挙げられる。
【0034】
【化1】
【0035】
式中のXは少なくとも1つ以上が臭素である。Xの数は、一構成単位中1~5であるが、難燃化の効果から3~5であることが好ましい。平均重合度mは10~2000であり、好ましくは15~1000の範囲である。平均重合度が低いものは、熱安定性が悪化し、2000を超えると、これを添加した難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形加工性を悪化させる。また、上記臭素化アクリレート系重合体は1種又は2種以上混合使用してもよい。
【0036】
一般式(I)で表される臭素化アクリレート系重合体は臭素を含有するベンジルアクリレートを単独で重合することによって得られるが、類似構造のベンジルメタクリレート等を共重合させてもよい。臭素含有ベンジルアクリレートとしては、ペンタブロモベンジルアクリレート、テトラブロモベンジルアクリレート、トリブロモベンジルアクリレート、又はその混合物が挙げられる。
【0037】
中でも、ペンタブロモベンジルアクリレートが好ましい。また、共重合可能な成分であるベンジルメタクリレートとしては、上記したアクリレートに対応するメタクリレートが挙げられる。
【0038】
さらにはビニル系モノマーとの共重合も可能であり、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類、スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸又はその無水物、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。
【0039】
また、架橋性のビニル系モノマー、キシリレンジアクリレート、キシリレンジメタクリレート、テトラブロムキシリレンジアクリレート、テトラブロムキシリレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼンも使用できる。これらはベンジルアクリレートやベンジルメタクリレートに対し等モル量以下、好ましくは0.5倍モル量以下が使用される。
【0040】
上記の臭素化アクリレート系重合体の製造法の一例を示すと、臭素化アクリルのモノマーを溶液重合あるいは、塊状重合にて所定の重合度に反応させる方法が挙げられる。溶液重合の場合、溶媒としてクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族化合物を用いないことが好ましい。
【0041】
また、溶液重合の際の溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテルや、メチルエチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテル及びジオキサンなどの非プロトン性溶媒が好ましい。ただし、本発明においては後述の通り、樹脂組成物としてプロトン性化合物を含む場合があるため、重合溶媒としてプロトン性化合物を含むものを用いることもできる。
【0042】
上記の臭素化アクリレート系重合体は、残留ポリアクリル酸ナトリウム等の反応副生成物を除去するために、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液にて洗浄されることが好ましい。アルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液はアルカリ(土類)金属塩を水に投入することで容易に得られるが、塩化物イオン、リン酸イオン等を含まないアルカリ(土類)金属である水酸化物(例えば水酸化カルシウム)が最適である。
【0043】
アルカリ(土類)金属塩として、例えば水酸化カルシウムを用いる場合、水酸化カルシウムは一般に20℃において100gの水中に0.126g程度可溶であり、水溶液濃度は溶解度までであれば特に規定はない。また、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液による洗浄の手法も特に限定されず、臭素化アクリレート系重合体を適当な時間、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液に浸漬させる等の手法で良い。
【0044】
上記、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液による洗浄処理を終えた臭素化アクリレート系重合体は、一般的に温水抽出分中の乾固分が100ppm以下のものとなり、このような臭素化アクリレート系重合体を用いる場合、その成形品表面に異物を発生させることが殆どなくなる。
【0045】
臭素化エポキシ化合物としては、エポキシ化合物として1分子中にエポキシ基を1つ以上含有する芳香族エポキシ化合物(ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物など)を用い、数平均分子量が1000以上20000以下であるものを好ましく用いることができる。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形性の観点からは、数平均分子量は2000以上15000以下であることがより好ましく、3000以上10000以下であることがさらに好ましい。
【0046】
上記のエポキシ化合物のエポキシ当量は30,000g/当量(g/eq)以上であることが好ましく、32,000g/eq以上であることがより好ましく、34,000g/eq以上であることがさらに好ましく、36,000g/eq以上であることがよりさらに好ましく、36,500g/eq以上であることが特に好ましい。
【0047】
エポキシ当量をこの範囲にすることにより、本発明における難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形時に、当該組成物が押出機や成形機のスクリューに付着することを抑制できる。これによりスクリュー付着物の成形品への混入を低減できるため、得られる成形品の外観を良好なものとすることができる。
【0048】
また、上記の臭素化エポキシ化合物として、末端をブロモフェノール(トリブロモフェノール等)などで封止したものを使用すれば、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性の低下を抑制できるため好ましい。
【0049】
臭素化ポリカーボネートとしては、具体的には例えば、臭素化ビスフェノールA、特にテトラブロモビスフェノールAから得られる、臭素化ポリカーボネートであることが好ましい。その末端構造は、フェニル基、4-t-ブチルフェニル基や2,4,6-トリブロモフェニル基等が挙げられ、特に、末端基構造に2,4,6-トリブロモフェニル基を有するものが好ましい。
【0050】
臭素化ポリカーボネートにおける、カーボネート繰り返し単位数の平均は適宜選択して決定すればよいが、通常、2~30である。カーボネート繰り返し単位数の平均が小さいと、溶融時に(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量低下を引き起こす場合がある。逆に大きすぎても溶融粘度が高くなり、成形性が悪化する場合がある。よってこの繰り返し単位数の平均は、中でも3~15、特に3~10であることが好ましい。
【0051】
臭素化ポリカーボネートの分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、好ましくは、粘度平均分子量で1,000~20,000、中でも2,000~10,000であることが好ましい。
【0052】
上記臭素化ビスフェノールAから得られる臭素化ポリカーボネートは、例えば、臭素化ビスフェノールAとホスゲンとを反応させる通常の方法で得ることができる。末端封鎖剤としては芳香族モノヒドロキシ化合物が挙げられ、これはハロゲン又は有機基で置換されていてもよい。
【0053】
臭素化ポリスチレンは、ポリスチレンを臭素化するか、または、臭素化スチレンモノマーを重合することによって製造するかのいずれであってもよいが、臭素化スチレンを重合したものは遊離の臭素(原子)の量が少ないので好ましい。なお、臭素化ベンゼンが結合するビニル基の水素原子はメチル基で置換されていてもよい。
【0054】
また、臭素化ポリスチレンは、他のビニルモノマーが共重合された共重合体であってもよい。この場合のビニルモノマーとしてはスチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、ブタジエン及び酢酸ビニル等が挙げられる。また、臭素化ポリスチレンは単一物あるいは構造の異なる2種以上の混合物として用いてもよく、単一分子鎖中に臭素数の異なるスチレンモノマー由来の単位を含有していてもよい。
【0055】
臭素化ポリスチレンの具体例としては、例えば、ポリ(4-ブロモスチレン)、ポリ(2-ブロモスチレン)、ポリ(3-ブロモスチレン)、ポリ(2,4-ジブロモスチレン)、ポリ(2,6-ジブロモスチレン)、ポリ(2,5-ジブロモスチレン)、ポリ(3,5-ジブロモスチレン)、ポリ(2,4,6-トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5-トリブロモスチレン)、ポリ(2,3,5-トリブロモスチレン)、ポリ(4-ブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,4-ジブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,5-ジブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,4,6-トリブロモ-α-メチルスチレン)及びポリ(2,4,5-トリブロモ-α-メチルスチレン)等が挙げられ、ポリ(2,4,6-トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5-トリブロモスチレン)及び平均2~3個の臭素基をベンゼン環中に含有するポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレンが特に好ましく用いられる。
【0056】
臭素化フタルイミドとしては、例えばN,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)エタン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)プロパン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ブタン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジエチルエーテル、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジプロピルエーテル、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジブチルエーテル、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジフェニルスルフォン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジフェニルケトン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジフェニルエーテル等が挙げられる。中でも、N,N’-エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)が好ましい。
【0057】
リン系難燃剤としては、リン原子を有する化合物である限り、特に制限されないが、例えば、有機リン系難燃剤、無機リン系難燃剤が挙げられる。有機リン系難燃剤としては、リン酸エステル(リン酸トリフェニル等の芳香族リン酸エステル等)、リン酸エステルアミド、ホスホニトリル化合物((ポリ)フェノキシホスファゼン等)、有機ホスホン酸化合物(メタンホスホン酸ジフェニルやフェニルホスホン酸ジエチル等のホスホン酸エステル等)、有機ホスフィン酸化合物(ホスフィン酸メチル等)、ホスフィンオキシド(トリフェニルホスフィンオキシド、トリクレジルホスフィンオキシド等)が挙げられる。
【0058】
無機リン系難燃剤としては、赤リン、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸(メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等)、ポリ亜リン酸(メタ亜リン酸、ピロ亜リン酸等)等の非縮合又は縮合(亜)リン酸塩(カルシウム等の金属塩等)等が挙げられる。
【0059】
本発明に用いられる難燃剤(D)は、当該難燃剤自体である上記の化合物以外に、不純物として、重合時の溶媒や難燃剤の分解物に由来するハロゲン化芳香族化合物を含有しうるが、そのような不純物である、難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。
【0060】
難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量は、例えば、難燃剤を粉砕した試料を、ヘッドスペース中で加熱処理した際の発生ガスを、ガスクロマトグラフにより測定し、ハロゲン化芳香族化合物に由来するガス発生量から求めることができる。
【0061】
また、本発明において上記の難燃剤(D)を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、前述の不純物である、難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量が、0.5ppm未満であることが好ましく、0.3ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。
【0062】
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の、難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量が上記範囲であることにより、当該難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いたインサート成形品において、金属端子の腐蝕を抑制することができる。このような難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物の含有量は、例えば、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を粉砕した試料を、ヘッドスペース中で加熱処理した際の発生ガスを、ガスクロマトグラフにより測定し、ハロゲン化芳香族化合物に由来するガス発生量から求めることができる。
【0063】
本発明に用いられる難燃剤(D)は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(180℃、1時間加熱)により測定されるプロトン性化合物を、10~1000ppm含有することが好ましい。
【0064】
本発明においてプロトン性化合物とは、プロトン(水素イオン)供与性を有する化合物のことをいう。このプロトン性化合物は、難燃剤の重合溶媒に由来するものが一例として挙げられ、中でもアルコキシアルコールが好ましく、C1-20アルコキシC1-20アルコール及び/又はC1-20ジアルコキシC1-20アルコールがより好ましい。
【0065】
1-20アルコキシC1-20アルコールとしては、メトキシC1-20アルコールや、C1-20アルコキシエタノールがさらに好ましく、メトキシエタノールが特に好ましい。C1-20ジアルコキシC1-20アルコールとしては、3,3-ジエトキシプロパノールが好ましい。
【0066】
また本発明においてプロトン性化合物としては、難燃剤(D)の原料に由来するものも挙げられる。なお、本発明においてプロトン性化合物としては、難燃剤(D)の原料に由来するものよりも、重合溶媒に由来するものの方が好ましい。
【0067】
本発明において難燃剤(D)に含有されるプロトン性化合物の量は、上述の通り難燃剤(D)中、10~1000ppmであることが好ましいが、100~800ppmであることがより好ましく、300~500ppmであることがさらに好ましい。
【0068】
難燃剤(D)に含有されるプロトン性化合物の量が10ppm未満であると、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性の改善効果が得にくくなる。また、難燃剤(D)に含有されるプロトン性化合物の量が1000ppmを超えると、コンパウンド時にガスの発生量が増加し、ペレット化の際にストランド切れが発生しやすくなる。
【0069】
また、本発明の難燃剤(D)中のトルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選択される有機溶媒の含有量の合計は50ppm以下であることが好ましい。当該有機溶媒の含有量の合計は40ppm以下であることがより好ましく、30ppm以下であることがさらに好ましく、20ppm以下であることがよりさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましく、8ppm以下であることが最も好ましい。
【0070】
難燃剤(D)中の上記有機溶媒の含有量をこの範囲にすることにより、本発明において難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形する際に、押出機や成形機のスクリューへの付着物の発生を低減することができ、その混入による成形品の外観の悪化を抑制することができる。
【0071】
本発明における難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃剤(D)として臭素系難燃剤を用いる場合は、難燃助剤としてアンチモン化合物を含むことが好ましい。難燃助剤としてのアンチモン化合物の代表的なものとしては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、(ピロ)アンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。また、難燃剤(D)としてリン系難燃剤を用いる場合は、難燃助剤として、メラミンシアヌレート等の窒素系化合物を含むことが好ましい。さらに、燃焼した樹脂が滴下することによる延焼を防ぐ目的で、ポリテトラフルオロエチレン等の滴下防止剤をあわせて使用することも好ましい。
【0072】
上記の難燃剤(D)の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に対する添加量の範囲は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して難燃剤(D)3~50質量部の範囲であり、10~40質量部の範囲が好ましい。
【0073】
難燃助剤を含有させる場合は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して1~30質量部の範囲が好ましい。
【0074】
(充填剤)
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には必要に応じて充填剤が使用される。このような充填剤は、機械的強度、耐熱性、寸法安定性、電気的性質等の性能に優れた性質を得るためには配合することが好ましく、特に剛性を高める目的で有効である。これは目的に応じて繊維状、粉粒状又は板状の充填剤が用いられる。
【0075】
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維などが挙げられる。なお、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの高融点の有機質繊維状物質も使用することができる。
【0076】
粉粒状充填剤としては、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイトなどの珪酸塩(タルクを除く)、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素等が挙げられる。
【0077】
また、板状無機充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。
【0078】
充填剤の種類は特に限定されず、1種又は複数種以上の充填剤を添加することができる。特に、ガラス繊維、ガラスフレークを使用することが好ましい。
【0079】
充填剤の添加量は特に規定されるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物100質量部に対して200質量部以下が好ましい。充填剤を過剰に添加した場合は成形性に劣り靭性の低下が見られる。
【0080】
(その他の成分)
本発明の実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の物質、例えば、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、離型剤、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を配合することが可能である。
【0081】
(成形品)
本発明の実施形態の成形品は、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなるものである。成形方法は特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。例えば、(1)各成分を混合して、一軸又は二軸の押出機により混練し押出してペレットを調製した後、成形する方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して成形に供し、所定の組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法などで製造できる。なお、ペレットは、例えば、脆性成分(ガラス系補強材など)を除く成分を溶融混合した後に、脆性成分を混合することにより調製してもよい。また、熱可塑性樹脂からなる他の成形品の成形方法もまた、特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。
【0082】
成形品は、前記樹脂組成物を溶融混練し、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、ガスインジェクションモールディングなどの慣用の方法で成形してもよいが、通常、射出成形により成形される。なお、射出成形時の金型温度は、通常40~90℃、好ましくは50~80℃、さらに好ましくは60~80℃程度である。
【0083】
成形品は、着色剤を含んでいてもよい。前記着色剤としては、無機顔料[カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料など]、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。カーボンブラックの平均粒子径は、通常、10~1000nm、好ましくは10~100nm程度であってもよい。着色剤の割合は、成形品全体に対して0.1~10重量%、好ましくは0.3~5重量%(例えば、0.3~3重量%)程度である。
【0084】
[実施例]
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
<材料>
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)
・(A-1)PBT:ポリプラスチックス社製、末端カルボキシル基量12meq/kg、固有粘度0.87dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂
・(A-2)PBT:ポリプラスチックス社製、末端カルボキシル基量23meq/kg、固有粘度0.69dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂
(B)エポキシ系樹脂
・エポキシ樹脂:三菱ケミカル社製、エピコートJER1004K
(C)第4級アンモニウム塩
・(C-1)テトラブチルアンモニウムブロミド
・(C-2)テトラエチルアンモニウムブロミド
・(C-3)テトラプロピルアンモニウムブロミド
・(C-4)テトラペンチルアンモニウムブロミド
・(C-5)テトラヘキシルアンモニウムブロミド
・(C-6)テトラヘプチルアンモニウムブロミド
・(C-7)テトラオクチルアンモニウムブロミド
・(C-8)テトラブチルアンモニウムクロリド
・(C-9)テトラブチルアンモニウムヨージド
・(C-10)テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート
・(C-11)ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド
・(C-12)ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド
・(C-13)ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド
・(C-14)ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド
・(C’-1)セチルジメチルエチルアンモニウムブロミド
・(C’-2)ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド
・(C’-3)フェニルボロン酸
・(C’-4)ステアリン酸カルシウム
・(C’-5)ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート
(D)難燃剤
・(D-1)臭素化アクリレート系重合体(溶媒にエチレングリコールモノメチルエーテルを使用して重合したポリペンタブロモベンジルアクリレート(難燃剤以外のハロゲン化芳香族化合物含有量8ppm、プロトン性化合物としてメトキシエタノール20ppm含有))
・(D-2)臭素化エポキシ化合物(エポキシ当量36800g/eq、有機溶媒量5ppm、重量平均分子量約18000の臭素化エポキシ化合物)
・(D-3)臭素化ポリカーボネート(帝人株式会社製、ファイヤーガード7500)
・(D-4)臭素化ポリスチレン(フォロ社製、パイロチェック68PB)
・(D-5)臭素化フタルイミド(アルベマール日本社製、エチレンビステトラブロモフタルイミド、SAYTEX BT-93W)
(充填剤)
・ガラス繊維:日本電気硝子製、チョップドストランド ECS03T―127
(その他の成分)
・難燃助剤:日本精鉱株式会社製、三酸化アンチモン PATOX-M
・滴下防止剤:旭硝子株式会社製、ポリテトラフルオロエチレン フルオンCD-076
・酸化防止剤:BASFジャパン社製、イルガノックス1010
・滑剤:理研ビタミン社製、ジグリセリン脂肪酸エステル リケマールB74
【0086】
<評価方法>
(実施例1~21、比較例1~14、参考例15)
各成分を表1~3に示す割合で混合した後、日本製鋼所製TEX-30を用いて、シリ
ンダー温度260℃、吐出量15kg/h、スクリュー回転数130rpmで溶融混練し
て押出し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるペレットを得て、以下の各特
性の評価を行った。
(溶融粘度)
得られたペレットを140℃で3時間乾燥させた後、東洋精機製キャピログラフを用い
、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度260
℃、滞留時間9分にて、せん断速度1000sec-1での溶融粘度(Pa・s)を測定
した。溶融粘度が150Pa・s以下のものを◎、150Pa・s超200Pa・s以下
のものを○、200Pa・s超のものを×として判定した結果を表1~3に示す。
【0087】
(耐加水分解性)
得られたペレットを140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、ISO3167に準拠した1Aタイプの引張試験片を作製し、得られた試験片について、ISO527-1,2に準拠し、引張強さの測定を行った。
【0088】
次いで、同様にして作製した別の引張試験片を、プレッシャークッカー試験(121℃×100%Rh×203kPa×75hr、100hr、120hr)にて処理した後、ISO527-1,2に準拠し、引張強さの測定を行い、未処理品の引張強さに対する比率からそれぞれの強度保持率(%)を算出した。強度保持率が80%以上のものを◎、50%以上80%未満のものを○、30以上50%未満のものを△、30%未満のものを×として判定した結果を表1~3に示す。
【0089】
(難燃性)
得られたペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度250℃、金型温度70℃にて射出成形し、UL94に準拠し、125mm×13mm×厚さ1/32インチの短冊状試験片を作製して燃焼性を評価した。燃焼性がV-0を満たすものを○、満たさないものを×として判定した結果を表1~3に示す。
【0090】

【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
表1~3に示した通り、各実施例ではPCT処理後においても、高い引張強さ保持率を有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が得られていた。特に比較例2~10との対比から、各実施例ではPCT処理100hr後または120hr後において顕著な優位性が見られることが確認された。これは、本発明の特定の第4級アンモニウム塩が、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエポキシ系樹脂と難燃剤とを含有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の加水分解性を向上させていることを示している。
【0094】
また、表1、3の実施例16、19、21に示した通り、第4級アンモニウム塩のカチオンを構成する4つのRのうち、3つがメチル基、他1つがアルキル基、アリール基、アラルキル基から選択される炭素原子数6以上の官能基である場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエポキシ系樹脂と難燃剤を含有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度上昇を抑制しつつ、PCT100hr後または120hr後においても、高い引張強さ保持率を示していた。