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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】GPRC5Dに結合する抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240702BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240702BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240702BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12P21/02 C
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P37/02
【請求項の数】 43
(21)【出願番号】P 2020542386
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2019052962
(87)【国際公開番号】W WO2019154890
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】18156014.5
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フェルティヒ, ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】クライン, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ローレンツ, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】シュイ, ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナスコーニ, マリー-ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】ブジョツェク, アレクサンダー
【審査官】三谷 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/090329(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/150447(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/017786(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPRC5Dに結合する抗体であって、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、
(i)VHが、配列番号13のアミノ酸配列を含み、VLが、配列番号14のアミノ酸配列を含むか;あるいは
(ii)VHが、配列番号15のアミノ酸配列を含み、VLが、配列番号16のアミノ酸配列を含むか;あるいは
(iii)VHが、配列番号48のアミノ酸配列を含み、VLが、配列番号53のアミノ酸配列を含むか;あるいは
(iv)VHが、配列番号49のアミノ酸配列を含み、VLが、配列番号52のアミノ酸配列を含むか;あるいは
(v)VHが、配列番号57のアミノ酸配列を含み、VLが、配列番号64のアミノ酸配列を含むか;あるいは
(vi)VHが、配列番号58のアミノ酸配列を含み、VLが、配列番号63のアミノ酸配列を含む、
抗体。
【請求項2】
IgG抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
IgG1抗体である、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
完全長抗体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
Fv分子、scFv分子、Fab分子及びF(ab’)分子の群より選択される抗体断片である、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
多重特異性抗体である、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
(a)GPRC5Dである第1の抗原に結合し、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む第1の抗原結合部分;及び
(b)第2の抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含み、
(i)第1の抗原結合部分のVHが、配列番号13のアミノ酸配列を含み、第1の抗原結合部分のVLが、配列番号14のアミノ酸配列を含むか;あるいは
(ii)第1の抗原結合部分のVHが、配列番号15のアミノ酸配列を含み、第1の抗原結合部分のVLが、配列番号16のアミノ酸配列を含むか;あるいは
(iii)第1の抗原結合部分のVHが、配列番号48のアミノ酸配列を含み、第1の抗原結合部分のVLが、配列番号53のアミノ酸配列を含むか;あるいは
(iv)第1の抗原結合部分のVHが、配列番号49のアミノ酸配列を含み、第1の抗原結合部分のVLが、配列番号52のアミノ酸配列を含むか;あるいは
(v)第1の抗原結合部分のVHが、配列番号57のアミノ酸配列を含み、第1の抗原結合部分のVLが、配列番号64のアミノ酸配列を含むか;あるいは
(vi)第1の抗原結合部分のVHが、配列番号58のアミノ酸配列を含み、第1の抗原結合部分のVLが、配列番号63のアミノ酸配列を含み、
第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分が、抗体又はその抗原結合断片である、
二重特異性抗原結合分子。
【請求項8】
第2の抗原がCD3である、請求項7に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項9】
第2の抗原がCD3εである、請求項8に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項10】
第2の抗原結合部分が、配列番号29のHCDR1、配列番号30のHCDR2及び配列番号31のHCDR3を含むVHと、配列番号32のLCDR1、配列番号33のLCDR2及び配列番号34のLCDR3を含むVLとを含む、請求項8又は9に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項11】
第2の抗原結合部分のVHが、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含み、第2の抗原結合部分のVLが、配列番号36のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項12】
第1及び/又は第2の抗原結合部分がFab分子である、請求項7から11のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項13】
第2の抗原結合部分が、Fab軽鎖とFab重鎖の、可変ドメインVLとVH、又は定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、請求項7から12のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項14】
Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられている、請求項13に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項15】
第1の抗原結合部分が、定常ドメインにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)Fab分子である、請求項7から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項16】
第1及び第2の抗原結合部分が、互いに融合している、請求項7から15のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項17】
第1及び第2の抗原結合部分が、ペプチドリンカーを介して、互いに融合している、請求項16に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項18】
第1及び第2の抗原結合部分がそれぞれFab分子であり、(i)第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しているか、又は(ii)第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している、請求項7から17のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項19】
第3の抗原結合部分を含み、第3の抗原結合部分が、抗体又はその抗原結合断片である、
、請求項7から18のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項20】
第3の抗原結合部分が第1の抗原結合部分と同一である、請求項19に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項21】
第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む、請求項7から20のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項22】
第1、第2及び、存在する場合、第3の抗原結合部分がそれぞれFab分子であり;
(i)第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、かつ、第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しているか、又は(ii)第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、かつ、第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており;
第3の抗原結合部分は、存在する場合、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している、
請求項21に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項23】
FcドメインがIgG Fcドメインである、請求項21又は22に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項24】
FcドメインがIgG Fcドメインである、請求項23に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項25】
FcドメインがヒトFcドメインである、請求項21から24のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項26】
Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸残基が、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸残基で置き換えられ、それにより第1のサブユニットのCH3ドメインの中に、第2のサブユニットのCH3ドメインの中の空洞内に配置可能な隆起が生成され、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸残基が、アラニン、セリン、スレオニン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸残基で置き換えられ、それにより第2のサブユニットのCH3ドメインの中に、第1のサブユニットのCH3ドメインの中の隆起を配置可能な空洞が生成される、請求項21から25のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項27】
Fcドメインが、Fc受容体への結合を低減させ、かつ/又はエフェクター機能を低下させる1つ以上のアミノ酸置換を含む、請求項21から26のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
【請求項28】
請求項1から27のいずれか一項に記載の抗体又は二重特異性抗原結合分子をコードする1又は複数の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項29】
請求項28に記載のポリヌクレオチドを含む1又は複数のベクター。
【請求項30】
発現ベクターである、請求項29に記載の1又は複数のベクター。
【請求項31】
請求項28に記載のポリヌクレオチド又は請求項29若しくは30に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項32】
GPRC5Dに結合する抗体の生産方法であって、請求項31に記載の宿主細胞を、抗体の発現に適した条件下で培養する工程を含む、方法。
【請求項33】
抗体を回収する工程をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項32又は33に記載の方法によって生産される、GPRC5Dに結合する抗体。
【請求項35】
請求項1から27のいずれか一項又は請求項34に記載の抗体又は二重特異性抗原結合分子と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物。
【請求項36】
医薬としての使用のための、請求項35に記載の薬学的組成物。
【請求項37】
疾患の治療における使用のための、請求項35に記載の薬学的組成物。
【請求項38】
疾患ががん又は自己免疫疾患である、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項39】
疾患が多発性骨髄腫である、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項40】
疾患の治療のための医薬の製造における、請求項1から27のいずれか一項又は請求項34に記載の抗体又は二重特異性抗原結合分子の使用。
【請求項41】
個体における疾患を治療するための医薬であって、請求項1から27のいずれか一項又は請求項34に記載の抗体又は二重特異性抗原結合分子を薬学的に許容される形態で含む組成物の治療的有効量を含む、医薬。
【請求項42】
前記疾患ががん又は自己免疫疾患である、請求項41に記載の医薬。
【請求項43】
前記疾患が多発性骨髄腫である、請求項41に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、例えばT細胞を活性化させるための二重特異性抗原結合分子を含むGPRC5Dに結合する抗体に関する。加えて、本発明は、このような抗体をコードするポリヌクレオチドと、このようなポリヌクレオチドを含むベクターおよび宿主細胞とに関する。本発明はさらに、この抗体を生産するための方法、および疾患の治療にそれらを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州と米国では、毎年約75000人の新規患者が発生している多発性骨髄腫(MM)は、最も一般的な血液学的悪性腫瘍の1つであり、高いアンメットメディカルニーズがある。多発性骨髄腫は、非機能的なモノクローナル免疫グロブリンを分泌する高分化型の形質細胞によって特徴付けられる。短期的には、レナリドマイドおよびポマリドマイドなどの免疫調節薬、ならびにカルフィルゾミブまたはボルテゾミブなどのプロテアソーム阻害剤は、多発性骨髄腫の第一選択治療の中心であり続ける可能性がある(Moreau, P. and S.V. Rajkumar, multiple myeloma-translation of trial results into reality. Lancet, 2016. 388(10040): p. 111-3)。しかし、これらの薬物は、罹患した細胞、例えば罹患した形質細胞(PC)を特異的に標的としない。多発性骨髄腫の形質細胞を選択的に枯渇させる努力がなされてきた。形質細胞を特異的にマークする表面タンパク質の欠如が、多発性骨髄腫に対する抗体または細胞療法の開発を妨げた。これまでのところ、例えばダラツムマブ(抗CD38)やエロツズマブ(抗CD319)に代表されるような生物製剤の成功例はほとんどない。そして、これらの2つの分子は形質細胞によって一意に発現されるのではないことに注意が必要だ。そこで、Gタンパク質共役受容体クラスCグループ5メンバーD(GPRC5D)など、多発性骨髄腫の形質細胞からの新規標的がRNA配列を用いて同定された。GPRC5Dは、多発性骨髄腫の形質細胞によって発現される特定の表面タンパク質である。GPRC5Dは患者の予後と腫瘍負荷に関連していることが報告されている(Atamaniuk, J., et al., Overexpression of G protein-coupled receptor 5D in the bone marrow is associated with poor prognosis in patients with multiple myeloma. Eur J Clin Invest, 2012. 42(9): p. 953-60; およびCohen, Y., et al., GPRC5D is a promising marker for monitoring the tumor load and to target multiple myeloma cells. Hematology, 2013. 18(6): p. 348-51)。
【0003】
GPRC5Dは、ヒトおよびヒトのがんにおけるリガンドまたは機能が知られていないオーファン受容体である。GPRC5Dをコードする遺伝子は、染色体12p13.3上に位置し、3つのエクソンを含み、全長は約9.6kbである(Brauner-Osborne, H., et al., Cloning and characterization of a human orphan family C G-protein coupled receptor GPRC5D. Biochim Biophys Acta, 2001. 1518 (3 ; -48)。大きな最初のエクソンは7回膜貫通ドメインをコードする。GPRC5Dの生物学はほとんど不明である。GPRC5Dが動物の毛包におけるケラチン形成に関与していることが示されている(Gao, Y., et al., Comparative Transcriptome Analysis of Fetal Skin Reveals Key Genes Related to Hair Follicle Morphogenesis in Cashmere Goats. PLoS One, 2016. 11(3): p. e0151118; ならびにInoue, S., T. NambuおよびT. Shimomura, The RAIG family member, GPRC5D, is associated with hard-keratinized structures. J Invest Dermatol, 2004. 122 (3 ; -73)。
【0004】
国際公開第2018/017786号は、GPRC5D特異的抗体または抗原結合断片を開示している。
【0005】
がん、特に多発性骨髄腫を治療するための追加の薬物の必要性がある。このために特に有用な薬物には、GPRC5Dに結合する抗体、特に標的細胞上のGPRC5Dと、T細胞上の活性化T細胞抗原(CD3など)とに結合する二重特異性抗体が含まれる。このような抗体がその標的の両方に同時結合することにより、標的細胞とT細胞の間に一時的な相互作用が生じ、任意の傷害性T細胞を活性化させ、続いて標的細胞を溶解させる。
【0006】
本発明は、ヒトGPRC5Dに特異的に結合する二重特異性抗体を含む新規抗体を提供する。特に、GPRC5Dを標的とする本発明によるT細胞二重特異性抗体は、多発性骨髄腫を治療する効力を有する。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、予期しなかった改善された特性を有する、GPRC5Dに結合する新規の抗体を開発した。さらに、本発明者らは、新規のGPRC5D抗体を組み込んだ、GPRC5Dと活性化T細胞抗原とに結合する二重特異性抗原結合分子を開発した。
【0008】
第1の態様では、本発明はGPRC5Dに結合する抗体を提供し、該抗体は、(i)配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);(ii)配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)、(iii)配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);(iv)配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);または(v)配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。あるいは、該抗体は、(I)配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のHCDR2および配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR2および配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);または(II)配列番号7の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号8のHCDR 2および配列番号9のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2および配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含んでもよい。一実施態様では、(i)VHは、配列番号13の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号14の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(ii)VHは、配列番号15の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号16の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(iii)VHは、配列番号48の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号53の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(iv)VHは、配列番号49の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号52の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(v)VHは、配列番号57の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号64の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(vi)VHは、配列番号58の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号63の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含む。別の実施態様では、(i)VHは配列番号13のアミノ酸配列を含み、かつ、VLは配列番号14のアミノ酸配列を含み;または(ii)VHは配列番号15のアミノ酸配列を含み、かつ、VLは配列番号16のアミノ酸配列を含み;または(iii)VHは配列番号48のアミノ酸配列を含み、かつ、VLは配列番号53のアミノ酸配列を含み;または(iv)VHは配列番号49のアミノ酸配列を含み、かつ、VLは配列番号52のアミノ酸配列を含み;または(v)VHは配列番号57のアミノ酸配列を含み、かつ、VLは配列番号64のアミノ酸配列を含み;または(vi)VHは配列番号58のアミノ酸配列を含み、かつ、VLは配列番号63のアミノ酸配列を含む。別の実施態様において、抗体は、IgG、特にIgG1抗体である。一実施態様において、抗体は完全長抗体である。別の実施態様では、抗体は、Fv分子、scFv分子、Fab分子およびF(ab’)分子の群より選択される抗体断片である。一実施態様において、抗体は多重特異性抗体である。
【0009】
さらなる態様では、本発明は、(a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、ここで、第1の抗原はGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分は(i)配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);(ii)配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)、(iii)配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);(iv)配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);または(v)配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。あるいは、第1の抗原結合部分は、(I)配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のHCDR2および配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR2および配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);または(II)配列番号7の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号8のHCDR 2および配列番号9のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2および配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)と、(b)第2の抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含んでもよい。一実施態様では、(i)第1の抗原結合部分のVHは、配列番号13の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、第1の抗原結合部分のVLは、配列番号14の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(ii)第1の抗原結合部分のVHは、配列番号15の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、第1の抗原結合部分のVLは、配列番号16の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(iii)配列番号48の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号53の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(iv)VHは、配列番号49の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号52の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(v)第1の抗原結合部分のVHは、配列番号57の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号64の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(vi)第1の抗原結合部分のVHは、配列番号58の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号63の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含む。ある実施態様では、(i)第1の抗原結合部分のVHは配列番号13のアミノ酸配列を含み、かつ、第1の抗原結合部分のVLは配列番号14のアミノ酸配列を含み;または(ii)第1の抗原結合部分のVHは配列番号15のアミノ酸配列を含み、かつ、第1の抗原結合部分のVLは配列番号16のアミノ酸配列を含み;または(iii)第1の抗原結合部分のVHは配列番号48のアミノ酸配列を含み、かつ、第1の抗原結合部分のVLは配列番号53のアミノ酸配列を含み;または(iv)第1の抗原結合部分のVHは配列番号49のアミノ酸配列を含み、かつ、第1の抗原結合部分のVLは配列番号52のアミノ酸配列を含み;または(v)第1の抗原結合部分のVHは配列番号57のアミノ酸配列を含み、かつ、第1の抗原結合部分のVLは配列番号64のアミノ酸配列を含み;または(vi)第1の抗原結合部分のVHは配列番号58のアミノ酸配列を含み、かつ、第1の抗原結合部分のVLは配列番号63のアミノ酸配列を含む。別の実施態様において、第2の抗原はCD3、特にCD3εである。ある実施態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号29のHCDR1、配列番号30のHCDR2および配列番号31のHCDR3を含むVHと、配列番号32のLCDR1、配列番号33のLCDR2および配列番号34のLCDR3を含むVLとを含む。別の実施態様において、第2の抗原結合部分のVHは、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含み、第2の抗原結合部分のVLは、配列番号36のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。別の実施態様において、第2の抗原結合部分のVHは、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含み、第2の抗原結合部分のVLは、配列番号36のアミノ酸配列を含む。
【0010】
ある実施態様では、第1および/または第2の抗原結合部分は、Fab分子である。これは、第1の抗原結合部分がFab分子あっても、第2の抗原結合部分がFab分子あっても、第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分がFab分子あってもよいことを意味する。別の実施態様において、第2の抗原結合部分は、可変ドメインVLおよびVHまたは定常ドメインCLおよびCH1、特にFab軽鎖およびFab重鎖の可変ドメインVLおよびVHが互いによって置き換えられているFab分子である。別の実施態様において、第1の抗原結合部分は、定常ドメインにおいて、124位のアミノ酸が、リジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸が、リジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)(Kabatによる番号付け)によって独立に置換されており、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)、Fab分子である。別の実施態様では、第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分が、任意選択的にペプチドリンカーを介して、互いに融合される。別の実施態様では、第1および第2の抗原結合部分は各々、Fab分子であり、(i)第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しているか、または(ii)第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。別の実施態様において、二重特異性抗原結合分子は第3の抗原結合部分を含む。別の実施態様において、第3の抗原部分は第1の抗原結合部分と同一である。別の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む。別の実施態様では、第1、第2および、存在する場合、第3の抗原結合部分は各々、Fab分子であり、ここで、(i)第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、かつ、第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しているか、または(ii)第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、かつ、第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しているかのいずれかであり;また、第3の抗原結合部分(存在する場合)がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。別の実施態様において、Fcドメインは、IgG、特にIgGFcドメインである。さらなる別の実施態様において、FcドメインはヒトFcドメインである。別の実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸残基が、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部の空洞内に配置可能な隆起が生成されており、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸残基が、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部の隆起を配置可能な空洞が生成されている。別の実施態様において、Fcドメインは、Fc受容体への結合および/またはエフェクター機能を低下させる1または複数のアミノ酸置換を含む。これは、Fc受容体への結合が低下しても、エフェクター機能が低下しても、Fc受容体への結合とエフェクター機能が低下してもよいことを意味する。
【0011】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の抗体または二重特異性抗原結合分子をコードする、1または複数の単離されたポリヌクレオチドを提供する。さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載のポリヌクレオチドを含む1または複数のベクター、特に発現ベクターを提供する。別の態様では、本発明は、本明細書に記載のポリヌクレオチドまたは本明細書に記載のベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかの実施態様では、宿主細胞は真核細胞、特に哺乳動物の細胞である。
【0012】
本発明の別の態様では、GPRC5Dに結合する抗体の生産方法が提供され、この方法は、a)抗体の発現に適した条件下で、本明細書に記載の宿主細胞を培養する工程と、b)任意選択的に抗体を回収する工程とを含む。別の態様では、本発明は、本明細書に記載の方法によって生産される、GPRC5Dに結合する抗体を提供する。本発明の別の態様は、本明細書に記載の抗体または二重特異性抗原結合分子と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物に関する。本発明の別の態様は、医薬としての使用のための、本明細書に記載の抗体もしくは二重特異性抗原結合分子、または本明細書に記載の薬学的組成物に関する。本発明の別の態様は、疾患の治療における使用のための、本明細書に記載の抗体もしくは二重特異性抗原結合分子、または本明細書に記載の薬学的組成物に関する。ある実施態様では、疾患は、がん、特に多発性骨髄腫である。あるいは、疾患は、全身性紅斑性狼瘡および/または関節リウマチなどの自己免疫疾患である。
【0013】
本発明はさらに、疾患、特に多発性骨髄腫の治療のための医薬の製造における、本明細書に記載の抗体または二重特異性抗原結合分子の使用を提供する。
あるいは、疾患は、全身性紅斑性狼瘡および/または関節リウマチなどの自己免疫疾患である。
【0014】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の抗体または二重特異性抗原結合分子を含む治療有効量の組成物を薬学的に許容される形態で個体に投与することを含む、個体における疾患、特にがん、より具体的には多発性骨髄腫を治療する方法に関する。あるいは、疾患は、全身性紅斑性狼瘡および/または関節リウマチなどの自己免疫疾患である。上記実施態様のいずれにおいても、個体は好ましくは哺乳動物、特にヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A-F】本発明の二重特異性抗原結合分子の例示的な構成。(図1A図2D)「1+1のCrossMab」分子の図。(図1B図1E)別の順序でCrossfabおよびFab成分を有する(「反転型」)「2+1のIgG Crossfab」分子の図。(図1C図1F)「2+1のIgG Crossfab」分子の図。
図1G-N】本発明の二重特異性抗原結合分子の例示的な構成。(図1G図1K)別の順序でCrossfabおよびFab成分を有する(「反転型」)「1+1のIgG Crossfab」分子の図。(図1H図1L)「1+1のIgG Crossfab」分子の図。(図1I図1M)2つのCrossFabを有する「2+1のIgG Crossfab」分子の図。(図1J図1N)2つのCrossFabを有し、かつ、別の順序でCrossfabおよびFab成分を有する(「反転型」)「2+1のIgG Crossfab」分子の図。
図1O-V】本発明の二重特異性抗原結合分子の例示的な構成。(図1O図1S)「Fab-Crossfab」分子の図。(図1P図1T)「Crossfab-Fab」分子の図。(図1Q図1U)「(Fab)-Crossfab」分子の図。(図1R図1V)「Crossfab-(Fab)」分子の図。
図1W-Z】本発明の二重特異性抗原結合分子の例示的な構成。(図1W図1Y)「Fab-(Crossfab)」分子の図。(図1X図1Z)「(Crossfab)-Fab」分子の図。黒い点:ヘテロダイマー化を促す、Fcドメイン内の任意選択的修飾。++,--:任意選択的にCH1およびCLドメインに導入された反対電荷のアミノ酸。CrossFab分子は、VH領域とVL領域の交換を含むように描かれているが、CH1およびCLドメインに電荷の改変が導入されていない実施態様では、代替的にCH1とCLドメインの交換を含む場合がある。
図2】RNAseqによる形質細胞とB細胞上の腫瘍標的の遺伝子発現分析。
図3】本発明の5E11二重特異性抗原結合分子の例示的な構成。黒い点:ヘテロダイマー化を促す、Fcドメイン内の任意選択的修飾。++,--:任意選択的にCH1およびCLドメインに導入された反対電荷のアミノ酸。
図4】二重特異性抗原結合分子5F11-TCB(図4A)おおよび5E11-TCB(図4B)およびコントロール抗体ET150-5-TCB(図4C)の、多発性骨髄腫細胞株AMO-1、L636、NCI-H929、RPMI-8226、OPM-2およびWSU-DLCL2への結合分析。
図5】多発性骨髄腫細胞株AMO-1(図5A)、NCI-H929(図5B)、RPMI-8226(図5C)およびL363(図5D)に対する、GPRC5D-TCBを介したT細胞の細胞傷害性の分析。コントロール細胞株は、WSU-DL CL2である(図5E)。試験した分子:5E11-TCB 5F11-TCB。コントロール分子:DP47-TCB(非標的化)およびET150-5-TCB。
図6】CD25およびCD69を上方制御している多発性骨髄腫細胞株NCI-H929およびネガティブコントロール細胞株WSU-DLCL2を用いた、GPRC5D-TCB活性化T細胞関与の分析。
図7】GPRC5D-TCB活性化T細胞の、細胞株AMO-1(図7A)、NCI-H929(図7B)、RPMI-8226(図7C)、L363(図7D)およびWSU-DLCL2(図7E)における多発性骨髄腫上方制御CD25、ならびに細胞株AMO-1(図7F)、NCI-H929(図7G)、RPMI-8226(図7H)、L363(図7I)およびWSU-DLCL2(図7J)における多発性骨髄腫上方制御CD69との関与の分析。
図8】蛍光共焦点顕微鏡による抗体の局在および内在化の可視化(図8A)と膜対細胞質のシグナル強度の分析(図8B)。
図9】ヒト、カニクイザルおよびマウスGPRC5Dに対する異なる抗GPRC5D抗体の結合を、ヒトGPRC5D(クローン12)またはカニクイザルGPRC5D(クローン13)、マウスGPRC5D(クローン4)またはヒトGPRC5A(クローン30)のいずれかを用いて、ELISAによち評価した。
図10】20時間の共培養中に、GPRC5DまたはBCMAを標的とする異なるT細胞二重特異性分子によって誘導された、種々の多発性骨髄腫(MM)細胞株のT細胞媒介性溶解(E:T=10:1、ヒト汎T細胞)。SDと共に2回分が示されている。
図11】健常なドナーからの未処理骨髄細胞と同種異系汎ヒトT細胞の約20時間の共培養(E:T=10:1、ヒト汎T細胞)の間にGPRC5DまたはBCMAを標的とする異なるT細胞二重特異性分子(図11Aの5E11-TCB;図11Bの5F11-TCB;図11Cの10B10-TCB;図11DのBCMA-TCB;図11EのBCMA-TCB;図11FのDP47-TCB)によって誘導されたT細胞の活性化。描かれているのは、1の代表的なドナーからのFACSドットプロットであり、CD4 T細胞(上段)またはCD8 T細胞(下段)上の活性化マーカーCD69の上方制御を、すべてのCD4またはCD8 T細胞間での陽性細胞パーセントとして示している。
図12】同種異系汎ヒトT細胞と健康なドナーからの未処理骨髄細胞の約20時間の共培養(E:T=10:1、ヒト汎T細胞)の間にGPRC5DまたはBCMAを標的とする異なるT細胞二重特異性分子によって誘導されたT細胞の活性化。描かれているのは、50nMのTCB(図12A)または5nM(図12B)いずれかの選択された固定用量での、CD8 T細胞上の活性化マーカーCD69の上方制御を示す、評価されたドナー4名全員のサマリーである。
図13】NCI-H929腫瘍細胞を移植したヒト化NSGマウスのモデルにおける経時的な腫瘍成長速度によって示した、GPRC5Dを標的とする異なるT細胞二重特異性分子(図13Aの5F11-TCB;図13BのBCMA-TCB;図13CのB72-TCB;図13Dのビヒクル)により誘導されたin vivo有効性。プロットされているのはスパイダーグラフで、各線は1頭のマウスを表している。
図14】OPM-2腫瘍細胞を移植したヒト化NSGマウスのモデルにおける経時的な腫瘍成長速度によって示した、GPRC5Dを標的とする異なるT細胞二重特異性分子(図14Aの5F11-TCB;図14Bの5E11-TCB;図14CのB72-TCB;図14Dのビヒクル)により誘導されたin vivo有効性。プロットされているのはスパイダーグラフで、各線は1頭のマウスを表している。
図15】発光によって決定された、およそ16時間のインキュベーションの後のPGLALA-CAR-Jの活性化。これは、GPRC5D発現多発性骨髄腫細胞株L-363へのGPRC5D IgG(図15Aの5F11-IgG;図15Bの5E11-IgG)の結合と、これらのIgG分子のFc部分においてTCRに対して向けられたPGLALA突然変異を発現するように遺伝的に操作されたJurkat-NFATレポーター細胞へのPGLALA修飾Fcドメインの結合の同時結合の際に誘導される。SDと共に2回分が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書の用語は、以下で特に定義されない限り、当技術分野で一般に使用されるように使用される。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「抗原結合分子」は、その最も広い意味で、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。抗原結合分子の例は、免疫グロブリンおよび誘導体(例えばその断片)である。
【0018】
用語「二重特異性」とは、抗原結合分子が少なくとも2つの異なる抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。典型的には、二重特異性抗原結合分子は2つの抗原結合部位を含み、そのそれぞれは異なる抗原決定基に特異的である。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、2つの抗原決定基、特に2つの別個の細胞上に発現する2つの抗原決定基に同時に結合することができる。
【0019】
本明細書で使用する用語「価」は、抗原結合分子中の特定数の抗原結合部位の存在を意味する。したがって、「抗原への一価の結合」という用語は、抗原結合分子中の抗原に特異的な1つの(かつ、1つを超えない)抗原結合部位の存在を意味する。
【0020】
「抗原結合部位」は、抗原との相互作用を提供する抗原結合分子の部位、すなわち、1または複数のアミノ酸残基を指す。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補性決定領域(CDR)由来のアミノ酸残基を含む。天然免疫グロブリン分子は典型的には2つの抗原結合部位を有し、Fab分子は典型的には単一の抗原結合部位を有する。
【0021】
本明細書で使用する場合、「抗原結合部分」という用語は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。一実施態様において、抗原結合部分は、それが付着している実体(例えば第2の抗原結合部分)を、標的部位、例えば抗原決定基を持つ特定の種類の腫瘍細胞に向けることができる。別の実施態様では、抗原結合部分は、その標的抗原、例えばT細胞受容体複合抗原を介して、シグナル伝達を活性化することができる。抗原結合部分は、本明細書でさらに定義される抗体およびその断片を含む。特定の抗原結合部分には、抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖可変領域とを含む、抗体の抗原結合ドメインが含まれる。一部の実施態様では、抗原結合部分は、後述でさらに定義される、当技術分野で既知の抗体定常領域を含む。有用な重鎖定常領域には、α、δ、ε、γまたはμの5つのアイソタイプのいずれかが含まれる。有用な軽鎖定常領域には、κとλの2つのアイソタイプ:のいずれかが含まれる。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「抗原決定基」は、「抗原」および「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分が結合し、抗原結合部分-抗原複合体を形成するポリペプチド高分子上の部位(例えば、アミノ酸の連続ストレッチまたは非連続的アミノ酸の異なる領域で構成される立体配座構造)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上、ウイルス感染細胞の表面上、他の疾患細胞の表面上、免疫細胞の表面上に見出されるか、または血清中および/もしくは細胞外マトリックス(ECM)中に遊離して見出され得る。特に断らない限り、本明細書において抗原と呼ばれるタンパク質(例えばGPRC5D、CD3)は、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)およびげっ歯類(例えばマウスおよびラット)等の哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来のタンパク質の任意の天然形態を指す。特定の実施態様では、抗原はヒトタンパク質である。本明細書において特定のタンパク質が言及される場合、その用語は、「完全長」、未処理のタンパク質だけではなく、細胞内でのプロセシングから生じる任意の形態のタンパク質を包含する。その用語はまた、天然に存在するタンパク質の変異体、例えば、スプライス変異体または対立遺伝子変異体を包含する。抗原として有用な例示的ヒトタンパク質は、CD3、特にCD3のエプシロンサブユニット(ヒト配列についてはUniProt no.P07766(バージョン185)、NCBI RefSeq no.NP_000724、配列番号40;またはカニクイザル[Macaca fascicularis]配列についてはUniProt no.Q95LI5(バージョン69)、NCBI GenBank no.BAB71849.1、配列番号41参照)またはGPRC5D(ヒト配列についてはUniProt no.Q9NZD1(バージョン115);NCBI RefSeq no.NP_061124.1、配列番号45参照)である。特定の実施態様では、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は、様々な種由来のCD3またはGPRC5D抗原の中で、保存されたCD3またはGPRC5Dのエピトープに結合する。特定の実施態様では、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子はヒトGPRC5Dに結合する。
【0023】
「特異的結合」とは、結合が抗原について選択的であり、望ましくないまたは非特異的な相互作用とは区別可能であることを意味する。抗原結合部分の、特定の抗原決定基への結合能は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)または当業者によく知られた他の技術、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えばBIAcore計器上での解析)(Liljeblad et al., Glyco J 17, 323-329 (2000))、および古典的結合アッセイ(Heeley, Endocr Res 28, 217-229 (2002))により測定することができる。一実施態様では、抗原結合部分の無関係なタンパク質への結合の程度は、例えばSPRによって測定した場合、抗原結合部分の抗原への結合の約10%未満である。特定の実施態様では、抗原に結合する抗原結合部分、または抗原結合部分を含む抗原結合分子は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば10-8M以下、例えば10-8Mから10-13M、例えば10-9Mから0-13M)の解離定数(K)を有する。
【0024】
「親和性」は、分子(例えば受容体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えばリガンド)との間の非共有結合的相互作用の総和の強度を指す。本明細書で使用する場合、特に断らない限り、「結合親和性」は、結合対(例えば、抗原結合部分と抗原、または受容体とそのリガンド)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、通常、解離定数(Kd)によって表され、この解離定数(K)は、解離速度定数と会合速度定数(それぞれ、koffおよびkon)の比である。したがって、速度定数の比が同じでままである限り、同等の親和性は異なる速度定数を含み得る。親和性は、本明細書に記載したものを含む、当技術分野で既知の十分に確立された方法によって測定することができる。特に親和性を測定する方法としては、表面プラズモン共鳴(SPR)がある。
【0025】
「結合の低減」、例えばFc受容体への結合の低減は、例えばSPRによって測定した場合の、各相互作用に対する親和性の低下を指す。簡潔には、この用語は、親和性のゼロ(または分析方法の検出限界未満)への低下、すなわち相互作用の完全な消失も含む。逆に、「結合増大」は、各相互作用に対する親和性の増大を指す。
【0026】
本明細書において使用される「活性化T細胞抗原」は、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の表面上に発現される抗原決定基を指し、抗原結合分子との相互作用時にT細胞の活性化を誘導することができる。具体的には、抗原結合分子と活性化T細胞抗原との相互作用は、T細胞受容体複合体のシグナル伝達カスケードを誘発することによりT細胞活性化を誘導することができる。特定の実施態様では、活性化T細胞抗原は、CD3、特にCD3のエプシロンサブユニットである(ヒト配列についてはUniProt no.P07766(バージョン144)、NCBI RefSeq no.NP_000724.1、配列番号40を;またはカニクイザル[Macaca fascicularis]配列についてはUniProt no.Q95LI5(バージョン49)、NCBI GenBank no.BAB71849.1、配列番号41を参照)。
【0027】
本明細書で使用される「T細胞活性化」は、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子放出、細胞傷害活性、および活性化マーカーの発現より選択される、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の1または複数の細胞応答を指す。T細胞活性化を測定するための適切なアッセイは、当技術分野で既知であり、本明細書に記載されている。
【0028】
本明細書で使用される「標的細胞抗原」は、標的細胞、例えばがん細胞または腫瘍間質の細胞などの腫瘍中の細胞の表面上に存在する抗原決定基を指す。特定の実施態様では、標的細胞抗原は、GPRC5D、特に配列番号45によるヒトGPRC5Dである。
【0029】
本明細書で使用される場合、Fab分子などに関して使用される「第1の」、「第2の」または「第3の」という用語は、各タイプの部分が2つ以上存在するとき、区別するために便宜上使用される。このような用語の使用は、明示的に記載されていない限り、二重特異性抗原結合分子の特定の順序または配向を付与することを意図しているのではない。
【0030】
「融合した」とは、成分同士(例えばFab分子とFcドメインサブユニット)が、ペプチド結合により、直接または1以上のペプチドリンカーを介して結合されていることを意味する。
【0031】
「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖のVHおよびCH1ドメイン(「Fab重鎖」)と軽鎖のVLおよびCLドメイン(「Fab軽鎖」)とからなるタンパク質を指す。
【0032】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも称される)とは、Fab重鎖と軽鎖の可変ドメインまたは定常ドメインが交換されている(すなわち互いによって置き換えられている)Fab分子を意味し,すなわちクロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVLおよび重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端方向)から構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVHおよび軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端方向)から構成されるペプチド鎖とを含む。簡潔には、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖を、本明細書では(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ぶ。逆に、Fab軽鎖とFab重鎖の定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖可変ドメインVHを含むペプチド鎖を、ここでは(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ぶ。
【0033】
これに対して、「従来の」Fab分子とは、天然フォーマットのFab分子、すなわち重鎖の可変ドメインおよび定常ドメイン(N末端からC末端方向に、VH-CH1)からなる重鎖と、軽鎖の可変ドメインおよび定常領域(N末端からC末端方向に、VL-CL)からなる軽鎖を含むFab分子を意味する。
【0034】
用語「免疫グロブリン分子」は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合している2つの軽鎖および2つの重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に、各重鎖は可変重鎖ドメインまたは重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)を有し、それに続いて重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2、CH3)を有する。同様に、N末端からC末端に、各軽鎖は可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)を有し、それに続いて軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインを有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)またはμ(IgM)と呼ばれる5種類のうちの1つに割り当てることができ、そのうちのいくつかはサブタイプ、例えばγ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、α(IgA)およびα(IgA)にさらに分類することできる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる2種類のうちの1つに割り当てることができる。免疫グロブリンは、本質的に、免疫グロブリンのヒンジ領域を介して結合された2つのFab分子とFcドメインからなる。
【0035】
本明細書における用語「抗体」は最も広い意味で用いられ、様々な抗体構造を包含し、限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および、所望の抗原結合活性を示す限り、抗体断片を含む。
【0036】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味し、すなわち、あり得る変異体抗体、例えば天然に生じる変異を含むかまたはモノクローナル抗体調製物の生産時に発生するもの(通常、このような変異体は少量存在している)を除き、集団を構成する個々の抗体は同一であり、かつ/または同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対して向けられた異なる抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して向けられたものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の製造を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含むがこれらに限定されない様々な技術によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのこれらの方法およびその他の例示的な方法は本明細書に記載されている。
【0037】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から分離されたものであり、すなわちその自然環境には存在しないものである。精製のレベルは特に求められない。例えば、単離された抗体は、その天然または自然の環境から取り除くことができる。宿主細胞に発現された組換え生産抗体は、本発明のために単離されたとみなされ、任意の適切な技術により分離、画分化または部分的もしくは実質的に精製された天然または組換え抗体も同様である。したがって、本発明の抗体および二重特異性抗原結合分子は、単離されている。いくつかの実施態様において、抗体は、例えば電気泳動法(例えばSDS-PAGE、等電点電気泳動法(IEF)、キャピラリー電気泳動法)またはクロマトグラフィー(例えばイオン交換または逆相HPLC)法により決定した場合、95%または99%を上回る純度に精製される。抗体純度の評価法の総説としては、例えばFlatman et al., J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007)を参照のこと。
【0038】
用語「完全長抗体」、「インタクトな抗体」および「全抗体」は、本明細書では互換的に使用され、天然抗体構造と実質的に同様の構造を有する抗体を指す。
【0039】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部分を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例には、限定されないが、Fv、Fab、Fab‘、Fab’-SHは、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖状抗体、単鎖抗体分子(例えばscFv)、および単一ドメイン抗体が含まれる。特定の抗体断片の総説については、Hudson et al. Nat. Med. 9:129-134 (2003)を参照されたい。scFv断片の総説については、例えば、Pluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer-Verlag, New York), pp. 269-315 (1994);ならびに国際公開第93/16185号;ならびに米国特許第5571894号および第5587458号を参照。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、かつ、in vivo半減期を増加させたFabおよびF(ab’)断片の議論については、米国特許第5869046号を参照のこと。ダイアボディは、二価または二重特異性の2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、EP第404097号;国際公開第1993/01161号;Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003); およびHollinger et al., Proc Natl Acad Sci USA 90, 6444-6448 (1993)を参照のこと。トリアボディおよびテトラボディもHudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003)に記載されている。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全部もしくは一部または軽鎖可変ドメインの全部もしくは一部を含む抗体断片である。特定の実施態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(マサチューセッツ州ウォルサムのDomantis社;例えば、米国特許第6248516号参照)。抗体断片は、インタクトな抗体のタンパク質消化、および本明細書に記載されているような組換え宿主細胞(例えば大腸菌またはファージ)による生産を含むがこれらに限定されない様々な技術で作製することができる。
【0040】
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部または全部に特異的に結合し、かつ、抗原の一部または全部に相補的な領域を含む抗体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1または複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)により提供され得る。特に、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0041】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体の抗原への結合に関与する、抗体重鎖または軽鎖のドメインを指す。通常、天然抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH、VL)は類似の構造を有し、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)から成る。例えば、Kindt et al., Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007)を参照されたい。抗原結合特異性を付与するには、単一のVHまたはVLドメインで十分である。可変領域配列に関して本明細書で使用される「Kabat番号付け」は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)によって規定された番号付けシステムを指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、重鎖および軽鎖のすべての定常領域およびドメインのアミノ酸位置は、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)に記載されていて、本明細書では「Kabatによる番号付け」または「Kabat番号付け」と呼ばれるKabat番号付けシステムに従って番号付けされる。具体的には、Kabat番号付けシステム(Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の647-660頁参照)は、カッパおよびラムダアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用され、また、本明細書では「Kabat EUインデックスによる番号付け」と呼ぶことによってこの場合さらに明確化されるKabat EUインデックス番号付けシステム(661-723頁参照)が、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2およびCH3)に使用される。
【0043】
本明細書で使用される「超可変領域」または「HVR」という用語は、抗体可変ドメインの各領域のうち、配列が超可変である領域を指し(「相補性決定領域」または「CDR」;重鎖可変領域/ドメインのCDR はHCDR1、HCDR2、HCDR3と略記され;軽鎖可変領域/ドメインのCDRは、例えばLCDR1、LCDR2、LCDR3と略記される)、かつ/または構造的に画定されるループ(「超可変ループ」)を形成し、かつ/または抗原接触残基(「抗原コンタクト」)を含有する。抗体は通常、VHに3つ(H1、H2、H3)およびVLに3つ(L1、L2、L3)、計6つのHVRを含む。本明細書での例示的HVRには、以下が含まれる。
(a)アミノ酸残基26-32(L1)、50-52(L2)、91-96(L3)、26-32(H1)、53-55(H2)、および96-101(H3)に生じる超可変ループ((Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)、および95-102(H3)に生じるCDR(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c)アミノ酸残基27c-36(L1)、46-55(L2)、89-96(L3)、30-35b(H1)、47-58(H2)、および93-101(H3)に生じる抗原コンタクト(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに
(d)HVRアミノ酸残基46-56(L2)、47-56(L2)、48-56(L2)、49-56(L2)、26-35(H1)、26-35b(H1)、49-65(H2)、93-102(H3)、および94-102(H3)を含む(a)、(b)および/または(c)の組み合わせ。
【0044】
他に断らない限り、可変ドメイン内のHVR残基および他の残基(例えばFR残基)は、本明細書ではKabatら前掲書に従って番号付けされている。
【0045】
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、FR4で構成される。したがって、HVRおよびFR配列は、一般にVH(またはVL)に以下の順序で現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0046】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基とヒトFR由来のアミノ酸残基とを含むキメラ抗体を指す。特定の実施態様において、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、HVR(例えばCDR)のすべてまたは実質的にすべてが、 非ヒト抗体のものに対応し、FRのすべてまたは実質的にすべてが、ヒト抗体のものに対応する。このような可変ドメインを、本明細書では「ヒト化可変領域」と呼ぶ。ヒト化抗体は、場合によって、ヒト抗体由来の抗体定常領域の少なくとも一部を含んでよい。いくつかの実施態様において、ヒト化抗体のいくつかのFR残基は、例えば、抗体特異性または親和性を回復または改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)由来の対応する残基で置換される。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化型」は、ヒト化を遂げた抗体を指す。本発明により包含される「ヒト化抗体」の他の形態は、特にC1q結および/またはFc受容体(FcR)結合に関して本発明による特性をもたらすように定常領域が追加的に修飾されているものまたは元の抗体から変更されているものである。
【0047】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞により産生された抗体の、またはヒト抗体レパートリーを利用する非ヒト源に由来する抗体のアミノ酸配列、あるいは他のヒト抗体をコードする配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。特定の実施態様では、ヒト抗体は、非ヒトトランスジェニック哺乳動物、例えばマウス、ラットまたはウサギに由来する。特定の実施態様では、ヒト抗体は、ハイブリドーマ細胞株に由来する。ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体または抗体断片も、本明細書においてヒト抗体またはヒト抗体断片とみなされる。
【0048】
抗体または免疫グロブリンの「クラス」は、その重鎖が保有する定常ドメインまたは定常領域の種類を指す。抗体には5つの主要なクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG、IgG、IgG、IgG、IGA、およびIgAに分けることができる。免疫グロブリンの様々なクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。
【0049】
本明細書の用語「Fcドメイン」または「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指すのに使用される。この用語は、天然配列Fc領域および変異体Fc領域を含む。IgG重鎖のFc領域の境界はわずかに変動するが、ヒトIgG重鎖のFc領域は通常、Cys226からまたはPro230から、重鎖のカルボキシル末端までと定義される。しかしながら、宿主細胞によって産生された抗体は、重鎖のC末端から1つまたは複数、特に1つまたは2つのアミノ酸の翻訳後切断を受けることがある。したがって、完全長重鎖をコードする特異的な核酸分子の発現により、宿主細胞によって生産される抗体は、完全長重鎖を含むことも、完全長重鎖の切断された変異体(本明細書では「切断された変異型重鎖」とも呼ぶ)を含むこともある。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)とリジン(K447、Kabat EUインデックスによる番号付け)である場合に当てはまる。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)またはC末端グリシン(Gly446)とリジン(K447)は、存在してもしなくてもよい。Fcドメイン(または本明細書において定義されるFcドメインのサブユニット)を含む重鎖のアミノ酸配列は、本明細書では、特に断らない限り、C末端グリシン-リジンジペプチドを有さないものとして示される。本発明の一実施態様では、本発明による抗体または二重特異性抗原結合分子に含まれる、本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖は、追加のC末端グリシン-リジンジペプチド(G446およびK447、KabatのEUインデックスによる番号付け)を含む。本発明の一実施態様では、本発明による抗体または二重特異性抗原結合分子に含まれる、本明細書に特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖は、追加のC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによる番号付け)を含む。本明細書に記載の薬学的組成物などの本発明の組成物は、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子の集団を含む。抗体または二重特異性抗原結合分子の集団は、完全長重鎖を有する分子および切断された変異型重鎖を有する分子を含み得る。抗体または二重特異性抗原結合分子の集団は、完全長重鎖を有する分子と切断された変異型重鎖を有する分子との混合物からなることができ、この場合抗体または二重特異性抗原結合分子の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%が、切断された変異型重鎖を有する。本発明の一実施態様では、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子の集団を含む組成物は、追加的なC末端グリシン-リジンジペプチド(G446およびK447、KabatのEUインデックスによる番号付け)を有する、本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む抗体または二重特異性抗原結合分子を含む。本発明の一実施態様では、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子の集団を含む組成物は、追加的なC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによる番号付け)を有する、本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む抗体または二重特異性抗原結合分子を含む。本発明の一実施態様では、このような組成物は、本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子;追加のC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによる番号付け)を有する、本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子;および追加のC末端グリシン-リジンジペプチド(G446およびK447、KabatのEUインデックスによる番号付け)を有する、本明細書に特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子から構成される抗体または二重特異性抗原結合分子の集団を含む。本明細書に別途指定のない限り、Fc領域または定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991(上記も参照)に記載されている、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。本明細書において使用されるFcドメインの「サブユニット」は、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドの一方、すなわち、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含み、安定な自己会合能を有するポリペプチドを指す。例えば、IgGFcドメインのサブユニットは、IgG CH2およびIgG CH3定常ドメインを含む。
【0050】
「Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾」は、Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドの同一のポリペプチドとの会合によるホモダイマーの形成を低減または防止する、ペプチド骨格の操作またはFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。本明細書で使用される会合を促進する修飾は、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニット(すなわちFcドメインの第1および第2のサブユニット)の各々に対して行われる別々の修飾を特に含み、この修飾は、2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するために、互いに対して相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、これらFcドメインサブユニットの一方または両方の構造または電荷を、それらの会合がそれぞれ立体的にまたは静電気的に望ましいものになるように変化させる。したがって、(ヘテロ)二量体化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間に起こり、これらは、サブユニットの各々に融合したさらなる成分(例えば抗原結合部分)が同じでないという意味で同一ではない可能性がある。いくつかの実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。特定の実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットの各々に、別個のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
【0051】
用語「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指し、抗体のアイソタイプによって異なる。抗体エフェクター機能の例には、C1q結合および補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、サイトカイン分泌、抗原提示細胞による免疫複合体媒介抗原取り込み、細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方制御、およびB細胞の活性化が含まれる。
【0052】
本明細書で使用する場合、「操作する、操作された、操作」という用語は、ペプチド骨格の任意の操作、または天然もしくは組換えポリペプチドもしくはその断片の翻訳後修飾を含むと考えられる。操作には、アミノ酸配列、グリコシル化パターン、または個々のアミノ酸の側鎖基の修飾と、これらの手法の組合せが含まれる。
【0053】
本明細書で使用される用語「アミノ酸変異」は、アミノ酸の置換、削除、挿入および修飾を包含することを意味する。最終的なコンストラクトが所望の特性、例えば、Fc受容体への結合の減少、または別のペプチドとの会合の増加を有することを条件として、置換、削除、挿入および修飾の任意の組み合わせを行って、最終的なコンストラクトに到達することができる。アミノ酸配列の削除および挿入には、アミノ酸のアミノ末端および/またはカルボキシ末端の削除および挿入が含まれる。特定のアミノ酸変異はアミノ酸の置換である。例えばFc領域の結合特性を変化させる目的で、非保存的アミノ酸置換、すなわち1つのアミノ酸を異なる構造および/または化学特性を有する別のアミノ酸に置き換えることが特に好ましい。アミノ酸置換には、非天然アミノ酸による置換、または20の標準アミノ酸の天然アミノ酸誘導体(例えば4-ヒドロキシプロリン、3-メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5-ヒドロキシリジン)による置換が含まれる。アミノ酸変異体は、当技術分野でよく知られている遺伝学的方法または化学的方法を用いて生成することができる。遺伝学的方法には、部位特異的変異誘発、PCR、遺伝子合成等が含まれる。化学修飾のような遺伝子工学以外の方法でアミノ酸の側鎖基を修飾する方法も有用であると考えられる。本明細書では、同じアミノ酸変異を示すのに様々な表記を使用することができる。例えば、Fcドメインの329位のプロリンからグリシンへの置換は、329G、G329、G329、P329GまたはPro329Glyと示される。
【0054】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、最大の配列同一性パーセントを得るように配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入した後の、いかなる保存的置換も配列同一性の一部とみなさない、参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である、候補配列のアミノ酸残基の百分率と定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアライメントは、当分野の技術範囲内にある様々な方法、例えばBLAST、BLAST-2、Clustal W、Megalign(DNASTAR)ソフトウェアまたはFASTAプログラムパッケージ等の一般に入受可能なコンピュータソフトウェアを使用して得ることができる。当業者であれば、比較する配列の全長にわたって最大のアライメントを得るのに必要な任意のアルゴリズムを含めた、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。ただし、本明細書において、アミノ酸配列同一性%値は、BLOSUM50比較マトリックスを備えたFASTAパッケージバージョン36.3.8c以降のggsearchプログラムを使用して生成される。FASTAプログラムパッケージはW. R. PearsonおよびD. J. Lipman (1988), 「Improved Tools for Biological Sequence Analysis」, PNAS 85:2444-2448; W. R. Pearson (1996) 「Effective protein sequence comparison」 Meth. Enzymol. 266:227- 258;ならびにPearson et. al. (1997) Genomics 46:24-36によって作成されたもので、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down.shtmlから一般に入手可能である。代替的には、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiからアクセスできるパブリックサーバーを使い、ggsearch(global protein:protein)プログラムおよびデフォルトオプション(BLOSUM50;open:-10;ext:-2;Ktup=2)を使用して(ローカルではなく)グローバルアライメントを実行することで、これらの配列を比較することも可能である。アミノ酸の同一性パーセントは、出力アライメントヘッダーに示される。
【0055】
用語「ポリヌクレオチド」は、単離された核酸分子またはコンストラクト、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、ウイルス由来のRNA、またはプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、通常のホスホジエステル結合または非通常の結合(例えばペプチド核酸(PNA)に見られるようなアミド結合)を構成し得る。用語「核酸分子」は、ポリヌクレオチド中に存在する、任意の1または複数の核酸セグメント、例えばDNAまたはRNA断片を指す。
【0056】
「単離された」核酸分子またはポリヌクレオチドとは、天然環境から取り出された核酸分子、DNAまたはRNAを意図する。例えば、ベクターに含有されるポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドは、本発明においては単離されたとみなされる。単離されたポリヌクレオチドのさらなる例には、異種宿主細胞内に維持される組換えポリヌクレオチド、または溶液中の(一部または大半が)精製されたポリヌクレオチドが含まれる。単離されたポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド分子を通常含む細胞に含まれるポリヌクレオチド分子を含むが、そのポリヌクレオチド分子が染色体外に、または天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在している。単離されたRNA分子には、本発明のin vivoまたはin vitroのRNA転写物、ならびにプラス鎖およびマイナス鎖型ならびに二本鎖型が含まれる。さらに、本発明の単離されたポリヌクレオチドまたは核酸には、合成により生産されたこのような分子が含まれる。また、ポリヌクレオチドまたは核酸は、プロモーター、リボソーム結合部位または転写ターミネーター等の調節エレメントを含んでも含まなくてもよい。
【0057】
「例えば本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子」をコードする単離されたポリヌクレオチド(または核酸)」は、抗体重鎖および軽鎖(またはその断片)をコードする1または複数のポリヌクレオチド分子を指し、これには、単一のベクターまたは別々のベクター中のこのようなポリヌクレオチド分子(複数可)、および宿主細胞中の1または複数の位置に存在するこのような核酸分子(複数可)が含まれる。
【0058】
用語「発現カセット」とは、標的細胞内の特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメントを用いて、組換えまたは合成により生成されたポリヌクレオチドを指す。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルスまたは核酸断片に組み込むことができる。発現ベクターの組換え発現カセット部分には、数ある配列の中でも特に、転写される核酸配列およびプロモーターが典型的に含まれる。特定の実施態様では、発現カセットは、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子またはその断片をコードするポリヌクレオチド配列を含む。
【0059】
用語「ベクター」または「発現ベクター」は、細胞内に作動可能に連結されている特定の遺伝子の発現を導入および誘導するために使用されるDNA分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造物としてのベクター、および導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを包含する。本発明の発現ベクターは、発現カセットを含む。発現ベクターは、大量の安定なmRNAの転写を可能にする。発現ベクターが細胞内部に入ると、遺伝子によってコードされるリボ核酸分子またはタンパク質が、細胞転写および/または翻訳機構により生産される。一実施態様では、本発明の発現ベクターは、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列またはその断片を含む発現カセットを含む。
【0060】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」および「宿主細胞培養物」は、互換的に使用され、外因性の核酸が導入された細胞を、このような細胞の子孫も含め、指す。宿主細胞は、「形質転換体」および「形質転換された細胞」を含み、これには初代形質転換細胞と、継代の数に関係なく、それに由来する子孫が含まれる。子孫は、核酸含量が親細胞と完全に同じでなくてもよく、突然変異を含んでもよい。本明細書には、最初に形質転換された細胞においてスクリーニングまたは選択されたものと同じ機能または生物活性を有する突然変異子孫が含まれる。宿主細胞は、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子を生成するために使用することができる任意の種類の細胞系である。宿主細胞には、培養細胞、例えばいくつか例を挙げると、HEK細胞、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、YO骨髄腫細胞、P3X63マウス骨髄腫細胞、PER細胞、PER.C6細胞またはハイブリドーマ細胞等の哺乳動物の培養細胞、酵母細胞、昆虫細胞および植物細胞が含まれ、さらには、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物または培養された植物もしくは動物組織内部に含まれる細胞も含まれる。
【0061】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFcドメインによる関与に続いて、受容体保有細胞を刺激してエフェクター機能を実行するシグナル伝達事象を誘発するFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体には、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)およびFcαRI(CD89)が含まれる。
【0062】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)は、免疫エフェクター細胞により抗体でコートされた標的細胞の溶解を招く免疫機構である。標的細胞は、Fc領域を含む抗体またはその誘導体が通常Fc領域のN末端にあるタンパク質部分を介して特異的に結合する細胞である。本明細書で使用される場合、用語「ADCCの低減」は、上で定義したADCCの機構により、標的細胞を取り囲む培地中の所定の抗体濃度で、所定の時間内に溶解される標的細胞の数の減少、および/またはADCCの機構により、所定の時間内に所定の数の標的細胞の溶解を達成するために必要な、標的細胞を取り囲む培地中の抗体濃度の上昇のいずれかとして定義される。ADCCの低減は、同じ標準的な生産、精製、製剤化および保存方法(これらは当業者には既知である)を用いて、同じタイプの宿主細胞によって生産された同じ抗体であるが操作されていない抗体によって媒介されるADCCと比較している。例えば、FcドメインにADCCを低減させるアミノ酸置換を含む抗体により媒介されるADCCの低減は、Fcドメインにこのアミノ酸置換をFcドメインに含まない同じ抗体によって媒介されるADCCと比較している。ADCCを測定するための適切なアッセイは、当技術分野でよく知られている(例えば、国際公開第2006/082515号または同第2012/130831号参照)。
【0063】
「有効量の」薬剤は、それが投与される細胞または組織の生理的変化をもたらすために必要な量を指す。
【0064】
薬剤、例えば薬学的組成物の「治療的有効量」とは、所望の治療的または予防的結果を得るのに必要な投与量および期間での有効な量を指す。薬剤の治療的有効量は、疾患の有害作用を、例えば除去し、低下させ、遅延させ、最小化し、または妨げる。
【0065】
「個体」または「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、限定されないが、家畜動物(例えばウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えばヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えばマウスおよびラット)が含まれる。特に、個体または対象はヒトである。
【0066】
用語「薬学的組成物」は、中に含有される活性成分の生物学的活性を有効にすることができるような形態であり、組成物が投与される対象にとって許容できない毒性を有する追加の成分を含まない調製物を指す。
【0067】
「薬学的に許容される担体」は、薬学的組成物中の活性成分以外の成分であり、対象に対して非毒性である成分を指す。薬学的に許容される担体には、限定されないが、バッファー、賦形剤、安定剤または保存剤が含まれる。
【0068】
本明細書において用いられる場合、「治療」(および「治療する」などの文法的変形)は、治療されている個体の疾病の自然経過を変えようと試みる臨床的介入を指し、予防のためにまたは臨床病理の過程において実施することができる。治療の望ましい効果には、限定されないが、疾患の発症または再発を予防すること、症状の緩和、疾患の直接的または間接的な病理学的帰結の縮小、転移の予防、疾患の進行の速度を遅らせること、疾患状態の改善または緩和、および寛解または予後の改善が含まれる。いくつかの実施態様では、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は、疾患の発症を遅延させるかまたは疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0069】
「添付文書」という用語は、治療製品の商品包装に通例含まれる説明書を指すのに用いられ、適応症、用法、用量、投与、併用療法、当該治療製品の使用に関する禁忌および/または注意事項についての情報を含む。
【0070】
実施態様の詳細な説明
本発明は、GPRC5D、特にヒトGPRC5Dに結合する抗体および二重特異性抗原結合分子を提供する。加えて、この分子は、生産可能性のみならず、治療的用途にとって好ましい他の特性、例えば有効性および/または安全性に関する特性も有する。
【0071】
GPRC5D抗体
第1の態様では、本発明はGPRC5Dに結合する抗体を提供し、該抗体は、(i)配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);(ii)配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)、(iii)配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);(iv)配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL);または(v)配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0072】
いくつかの実施態様において、抗体はヒト化抗体である。一実施態様において、VHはヒト化VHであり、かつ/またはVLはヒト化VLである。一実施態様において、抗体は、上記実施態様のいずれかにおけるCDRを含み、かつ、アクセプターヒトフレームワーク、例えばヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークをさらに含む。
【0073】
特定の実施態様では、(i)VHは、配列番号13の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号14の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(ii)VHは、配列番号15の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号16の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(iii)VHは、配列番号48の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号53の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(iv)VHは、配列番号49の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号52の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(v)VHは、配列番号57の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号64の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み;または(vi)VHは、配列番号58の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含み、かつ、VLは、配列番号63の配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸を含む。
【0074】
特定の実施態様では、抗体は、(i)配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVHと、配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVLとを含み;または(ii)配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVHと、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVLとを含み;または(iii)配列番号48のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVHと、配列番号53のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVLとを含み;または(iv)配列番号49のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVHと、配列番号52のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVLとを含み;または(v)配列番号57のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVHと、配列番号64のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVLと含み;または(vi)配列番号58のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVHと、配列番号63のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVLと含む。
【0075】
別の実施態様において、抗体は、IgG、特にIgG1抗体である。一実施態様において、抗体は完全長抗体である。別の実施態様では、抗体は、Fv分子、scFv分子、Fab分子およびF(ab’)分子の群より選択される抗体断片である。一実施態様において、抗体は多重特異性抗体である。
【0076】
特定の実施態様では、少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するVHまたはVL配列は、参照配列に対して置換(例えば保存的置換)、挿入または削除を含むが、その配列を含む抗体は、GPRC5Dへの結合能を保持する。ある実施態様では、配列番号13において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号14において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号15において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号16において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号48において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号53において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号49において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号52において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号57において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号64において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号58において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されており、かつ/または配列番号63において、合計1から10のアミノ酸が置換、挿入および/もしくは削除されている。
【0077】
特定の実施態様において、置換、挿入または削除は、HVRの外側の(すなわちFR内の)領域で生じる。任意選択的に、抗体は、その配列の翻訳後修飾を含めて、配列番号13にVH配列を、および/または配列番号14にVL配列含む。任意選択的に、抗体は、その配列の翻訳後修飾を含めて、配列番号15にVH配列を、および/または配列番号16にVL配列含む。任意選択的に、抗体は、その配列の翻訳後修飾を含めて、配列番号448にVH配列を、および/または配列番号53にVL配列含む。任意選択的に、抗体は、その配列の翻訳後修飾を含めて、配列番号49にVH配列を、および/または配列番号52にVL配列含む。任意選択的に、抗体は、その配列の翻訳後修飾を含めて、配列番号57にVH配列を、および/または配列番号64にVL配列含む。任意選択的に、抗体は、その配列の翻訳後修飾を含めて、配列番号58にVH配列を、および/または配列番号63にVL配列含む。
【0078】
一実施態様において、抗体は、配列番号13および配列番号15の群より選択されるアミノ酸配列を含むVHと、配列番号14のアミノ酸配列を含むVLとを含む。
【0079】
一実施態様において、抗体は、配列番号13および配列番号12の群より選択されるVH配列と、配列番号16のVL配列とを含む。
【0080】
特定の実施態様では、抗体は、配列番号13のアミノ酸配列を含むVHと配列番号14のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、抗体は、配列番号13のVH配列と配列番号14のVL配列とを含む。
【0081】
特定の実施態様では、抗体は、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHと配列番号16のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、抗体は、配列番号15のVH配列と配列番号16のVL配列とを含む。
【0082】
特定の実施態様では、抗体は、配列番号48のアミノ酸配列を含むVHと配列番号53のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、抗体は、配列番号48のVH配列と配列番号53のVL配列とを含む。
【0083】
特定の実施態様では、抗体は、配列番号49のアミノ酸配列を含むVHと配列番号52のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、抗体は、配列番号49のVH配列と配列番号52のVL配列とを含む。
【0084】
特定の実施態様では、抗体は、配列番号57のアミノ酸配列を含むVHと配列番号64のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、抗体は、配列番号57のVH配列と配列番号64のVL配列とを含む。
【0085】
特定の実施態様では、抗体は、配列番号58のアミノ酸配列を含むVHと配列番号63のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、抗体は、配列番号58のVH配列と配列番号63のVL配列とを含む。
【0086】
一実施態様において、抗体は、ヒト定常領域を含む。一実施態様において、抗体は、ヒト定常領域を含む免疫グロブリン分子、特にヒトCH1、CH2、CH3および/またはCLドメインを含むIgGクラスの免疫グロブリン分子である。ヒト定常ドメインの例示的配列は、配列番号37および38(それぞれヒトカッパおよびラムダのCLドメイン)、ならびに配列番号39(ヒトIgG1重鎖定常ドメインCH1-CH2-CH3)に示されている。いくつかの実施態様では、抗体は、配列番号37または配列番号39のアミノ酸配列、特に配列番号38のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む。いくつかの実施態様では、抗体は、配列番号39のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含む。特に、重鎖定常領域は、本明細書に記載されるように、Fcドメインにおけるアミノ酸変異を含み得る。
【0087】
一実施態様において、抗体はモノクローナル抗体である。
【0088】
一実施態様において、抗体は、IgG、特にIgG抗体である。一実施態様において、抗体は完全長抗体である。
【0089】
一実施態様において、抗体は、Fcドメイン、特にIgG Fcドメイン、さらに詳細にはIgG1 Fcドメインを含む。一実施態様において、FcドメインはヒトFcドメインである。抗体のFcドメインは、本発明の二重特異性抗原結合分子のFcドメインに関して本明細書に記載される特徴のいずれかを、単独でまたは組み合わせて組み込むことができる。
【0090】
別の実施態様では、抗体は、Fv分子、scFv分子、Fab分子およびF(ab’)分子の群より選択される抗体断片、特にFab分子である。別の実施態様では、抗体断片は、ダイアボディ、トリアボディまたはテトラボディである。
【0091】
さらなる態様では、上記実施態様のいずれかによる抗体は、以下のセクションに記載される特徴のいずれかを、単独でまたは組み合わせて組み込むことができる。
【0092】
グリコシル化変異体
特定の実施態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増大または低減させるように修飾される。抗体へのグリコシル化部位の付加または削除は、1または複数のグリコシル化部位が作成または除去されるようにアミノ酸配列を変更することにより、簡便に達成することができる。
【0093】
抗体がFc領域を含む場合、それに結合するオリゴ糖を変化させてもよい。哺乳動物細胞によって産生された天然抗体は、典型的には、Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN結合によって通常結合している分岐状の二分岐オリゴ糖を含む。例えばWright et al. TIBTECH 15:26-32 (1997)を参照。オリゴ糖には、様々な炭水化物、例えばマンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトースおよびシアル酸の他、二分岐オリゴ糖構造の「幹」においてGlcNAcに結合したフコースが含まれ得る。いくつかの実施態様において、本発明の抗体におけるオリゴ糖の修飾は、特定の改善された特性を有する抗体変異体を作製するためになされ得る。
【0094】
一実施態様において、非フコシル化オリゴ糖、すなわちFc領域に(直接的にまたは間接的に)結合したフコースを欠くオリゴ糖構造を有する抗体変異体が提供される。このような非フコシル化オリゴ糖(「アフコシル化された」オリゴ糖とも呼ばれる)は特に、二分岐オリゴ糖構造の幹の第1のGlcNAcに結合したフコース残基を欠くN-結合型オリゴ糖である。一実施態様においては、天然抗体または親抗体と比較して、Fc領域における非フコシル化オリゴ糖の割合が増加している抗体変異体が提供される。例えば、非フコシル化オリゴ糖の割合は、少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約60%、少なくとも約80%、または約100%(すなわちフコシル化オリゴ糖は存在しない)であってもよい。非フコシル化オリゴ糖のパーセンテージは、例えば国際公開第2006/082515号に記載されているように、MALDI-TOF質量分析法で測定された、Asn297に結合したすべてのオリゴ糖(例えば複合体、ハイブリッドおよび高マンノース構造)の合計に対する、フコース残基を欠くオリゴ糖の(平均)量である。Asn297とは、Fc領域内のおよそ297位(Fc領域残基のEU番号付け)に位置するアスパラギン残基を指すが、Asn297は、抗体のわずかな配列変異に起因して、297位から上流または下流におよそ±3アミノ酸、すなわち294位から300位の間に位置する場合もある。Fc領域における非フコシル化オリゴ糖の割合が増加したこのような抗体は、FcγRIIIa受容体結合の改善および/またはエフェクター機能の改善、特にADCC機能の改善を有し得る。例えば、米国特許公開第2003/0157108号;同第2004/0093621号を参照のこと。
【0095】
フコシル化が低下した抗体を産生できる細胞株の例には、タンパク質のフコシル化が欠損しているLec13 CHO細胞(Ripka et al. Arch. Biochem. Biophys. 249:533-545 (1986);米国特許出願公開第2003/0157108号;および国際公開第2004/056312号、特に実施例11)およびノックアウト細胞株、例えばアルファ-1、6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞(例えばYamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87:614-622 (2004); Kanda, Y. et al., Biotechnol. Bioeng., 94(4):680-688 (2006);および国際公開第2003/085107号を参照)、またはGDP-フコース合成もしくは輸送タンパク質の活性が低下もしくは停止されている細胞(例えば米国特許第2004259150号、同第2005031613号、同第2004132140号、同第2004110282号参照)が含まれる。
【0096】
さらなる実施態様では、二分されたオリゴ糖を有する抗体変異体、例えば、抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている抗体変異体が提供される。このような抗体変異体は、上述のように、低下したフコシル化および/または改善されたADCC機能を有し得る。このような抗体変異体の例は、例えばUmana et al., Nat Biotechnol 17, 176-180 (1999); Ferrara et al., Biotechn Bioeng 93, 851-861 (2006); 国際公開第99/54342号、国際公開第2004/065540号、国際公開第2003/011878号に記載されている。
【0097】
Fc領域に結合したオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を持つ抗体変異体も提供される。そのような抗体変異体は、改善されたCDC機能を有し得る。このような抗体変異体の例は、例えば国際公開第1997/30087号;同第1998/58964号;および同第1999/22764号に記載されている。
【0098】
システイン操作抗体変異体
特定の実施態様では、システイン操作抗体、例えば、抗体の1または複数の残基がシステイン残基で置換されている「チオMab」を作製することが望ましい。特定の実施態様では、置換された残基は、抗体のアクセス可能な部位に生じる。これらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基は、それによって抗体のアクセス可能な部位に配置され、本明細書でさらに説明するように、薬物部分またはリンカー-薬物部分などの他の部分に抗体をコンジュゲートして、イムノコンジュゲートを作成するために使用できる。システイン操作抗体は、例えば米国特許第7521541号、同第830930号、同第7855275号、同第9000130号または国際公開第2016040856号に記載のように生成され得る。
【0099】
抗体誘導体
特定の実施態様において、本明細書で提供される抗体は、当技術分野で知られ、容易に入手可能な追加の非タンパク質部分を含むようにさらに修飾することができる。抗体の誘導体化に適した部分には水溶性ポリマーが含まれるが、これに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例には、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマー)およびデキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、プロリプロピレン(prolypropylene)オキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、ならびにこれらの混合物が含まれる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドはその水中での安定性のために製造上の利点を有し得る。ポリマーは任意の分子量のものであってよく、分岐でも未分岐でもよい。抗体に結合するポリマーの数は変化してもよく、1を超えるポリマーが結合する場合、それらは同じ分子でも異なる分子でもよい。一般的に、誘導体化に使用されるポリマーの数および/または種類は、改善されるべき抗体の特定の特性または機能、その抗体誘導体が限定条件の下での治療に使用されるかどうかなどを含めた(ただし、これらに限定されない)考慮事項に基づいて決定することができる。
【0100】
別の実施態様において、放射線への曝露によって選択的に加熱され得る非タンパク質部分と抗体とのコンジュゲートが提供される。一実施態様では、非タンパク質部分はカーボンナノチューブである(Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005)。放射線は、任意の波長であってよく、通常の細胞に害を与えないが抗体-非タンパク質部分の近位細胞が死滅する温度に非タンパク質部分を加熱する波長を含むがこれに限定されない。
【0101】
イムノコンジュゲート
本発明はまた、細胞傷害性剤、化学療法剤、薬物、成長阻害剤、毒素(例えばタンパク毒素、細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素的に活性な毒素またはこれらの断片)または放射性同位体等、1または複数の治療剤にコンジュゲート(化学的に結合)した、本明細書に記載の抗GPRC5D抗体を含むイムノコンジュゲートを提供する。
【0102】
一実施態様において、イムノコンジュゲートは、抗体が上述の1または複数の治療剤にコンジュゲートしている抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。抗体は、典型的には、リンカーを用いて1または複数の治療剤に接続される。治療剤および薬物ならびにリンカーの例を含むADC技術の概要は、Pharmacol Review 68:3-19 (2016)に明記されている。
【0103】
別の実施態様において、イムノコンジュゲートは、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、(緑膿菌からの)外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、シナアブラギリタンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウタンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP-S)、ニガウリ阻害剤、クルシン、クロチン、サポンソウ阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(エノマイシン)、およびトリコテセン(tricothecene)を含む(ただし、これらに限定されない)酵素的に活性な毒素またはその断片にコンジュゲートしている、本明細書に記載の抗体を含む。
【0104】
別の実施態様では、イムノコンジュゲートは、放射性原子にコンジュゲートして放射性コンジュゲートを形成する、本明細書に記載の抗体を含む。種々の放射性同位体が、放射性コンジュゲートの生産のために利用可能である。例には、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212、およびLuの放射性同位体が含まれる。検出のために用いられるとき、放射性コンジュゲートは、シンチグラフ検査用の放射性原子、例えばtc99mまたはI123、または核磁気共鳴(NMR)イメージング(磁気共鳴イメージング、mriとしても知られる)のためのスピン標識、例えば、ここでもヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガンまたは鉄等を含む。
【0105】
抗体と細胞傷害性剤とのコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCl)、活性エステル(例えばジスクシンイミジルスベレート)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えばビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えばビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトルエン2,6-ジイソシアネート)、および二活性フッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。例えば、リシンイムノトキシンは、Vitetta et al., Science 238:1098 (1987)に記載されているようにして調製することができる。炭素-14-標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、放射性ヌクレオチドの抗体へのコンジュゲーションのための例示的キレート剤である。国際公開第94/11026号を参照。リンカーは、細胞内で細胞傷害性薬物の放出を容易にする「切断可能なリンカー」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカーまたはジスルフィド含有リンカー(Chari et al., Cancer Res.52:127-131 (1992);米国特許第5208020号)が使用され得る。
【0106】
本明細書のイムノコンジュゲートまたはADCは、限定されないが、(例えば米国イリノイ州ロックフォードのPierce Biotechnology社から)市販されている、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、およびスルホ-SMPB、およびSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート)を含むがこれらに限定されない架橋試薬を用いて調製されたコンジュゲートを明確に意図している。
【0107】
多重特異性抗体
特定の実施態様では、本明細書に提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位、すなわち異なる抗原上の異なるエピトープまたは同じ抗原上の異なるエピトープに対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。特定の実施態様では、多重特異性抗体は、3つ以上の結合特異性を有する。特定の実施態様では、結合特異性の1つはGPRC5Dに対するものであり、他の(2つ以上の)特異性は、他の任意の抗原に対するものである。特定の実施態様では、二重特異性抗体は、GPRC5Dの2つ(以上)の異なるエピトープに結合することができる。多重特異性(例えば二重特異性)抗体を使用して、細胞傷害性剤または細胞をGPRC5Dを発現する細胞に局在化させることもできる。多重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片として調製することができる。
【0108】
多重特異性抗体を作製するための技術には、限定されないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein and Cuello, Nature305: 537 (1983)参照)および「ノブ・イン・ホール」技術(例えば米国特許第5731168号およびAtwell et al., J. Mol. Biol. 270:26 (1997)を参照)が含まれる。また、多重特異抗体は、抗体のFc-ヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果を操作すること(例えば国際公開第2009/089004号参照);2つ以上の抗体または断片を架橋すること(例えば米国特許第4676980号およびBrennan et al., Science, 229: 81 (1985)を参照);ロイシンジッパーを使用して二重特異性抗体を生産すること(例えばKostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)および国際公開第2011/034605号参照);共通軽鎖の技術を使用して軽鎖の誤対合問題を回避すること(例えば国際公開第98/50431号参照);「ダイアボディ」技術を使用して、二重特異性抗体断片を作製すること(例えばHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)参照);および一本鎖Fv(sFv)ダイマーを使用すること(例えばGruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)参照);例えばTutt et al. J. Immunol.147: 60 (1991)に記載されているように三重特異性抗体を調製することによって作製することもできる。
【0109】
例えば「オクトパス抗体」またはDVD-Igなど、3つ以上の抗原結合部位を有する操作抗体も本明細書に含まれる(例えば国際公開第2001/77342号および同第2008/024715号を参照)。3つ以上の抗原結合部位を有する多重特異性抗体の他の例は、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号、および国際公開第2013/026831号に見出すことができる。二重特異性抗体またはその抗原結合断片には、GPRC5Dおよび別の異なる抗原、またはGPRC5Dの2つの異なるエピトープに結合する抗原結合部位を含む「二重作用性FAb」または「DAF」も含まれる(例えば米国特許出願公開第2008/0069820号および国際公開第2015/095539号参照)。
【0110】
多重特異性抗体は、同じ抗原特異性の1つ以上の結合アームにドメインクロスオーバーを持つ非対称の形で、すなわちVH/VLドメインを(例えば国際公開第2009/080252号および同第2015/150447号参照)、CH1/CLドメインを(例えば国際公開第2009/080253号参照)、または完全なFabアームを(例えば国際公開第2009/080251号、同第2016/016299号参照、また、Schaefer et al, PNAS, 108 (2011) 1187-1191およびKlein at al., MAbs 8 (2016) 1010-20も参照)を交換することによっても提供され得る。非対称Fabアームは、荷電または非荷電アミノ酸変異をドメイン界面に導入して、正しいFab対合を誘導することによっても操作され得る。例えば、国際公開第2016/172485号を参照のこと。
【0111】
多重特異性抗体の種々のさらなる分子フォーマットが、当技術分野で既知であり、本明細書に含まれる(例えば、Spiess et al., Mol Immunol 67 (2015) 95-106参照)。
【0112】
本明細書にも含まれる特定のタイプの多重特異性抗体は、標的細胞を死滅させるためのT細胞の再標的化のために、T細胞受容体(TCR)複合体の活性化不変成分、例えばCD3と、標的細胞(例えば標的細胞)上の表面抗原とに同時結合するように設計された二重特異性抗体である。したがって、特定の実施態様では、本明細書に提供される抗体は、多重特異性抗体、特に結合特異性の一方がGPRC5Dに対するものであり、他方がCD3に対するものである二重特異性抗体である。
【0113】
このために有用であり得る二重特異性抗体フォーマットの例には、限定されないが、2つのscFv分子が可動性リンカーにより融合している、いわゆる「BiTE」(二重特異性T細胞エンゲージャー)分子(例えば国際公開第2004/106381号、同第2005/061547号、同第2007/042261号および同第2008/119567号、Nagorsen and Baeuerle, Exp Cell Res 317, 1255-1260 (2011));ダイアボディ(Holliger et al., Prot Eng 9, 299-305 (1996))およびその誘導体、例えばタンデムダイアボディ(「TandAb」;Kipriyanov et al., J Mol Biol 293, 41-56 (1999));ダイアボディフォーマットに基づくがさらなる安定化のためのC末端ジスルフィド架橋を特徴とする「DART」(二重親和性再標的化)分子(Johnson et al., J Mol Biol 399, 436-449 (2010))、ならびに全ハイブリッドマウス/ラットIgG分子である、いわゆるトリオマブ(triomab)(Seimetz et al., Cancer Treat Rev 36, 458-467 (2010)に概説)が含まれる。本明細書に含まれる特定のT細胞二重特異性抗体フォーマットは、国際公開第2013/026833号、同第2013/026839号、国際公開第2016/020309号;Bacac et al., Oncoimmunology 5(8) (2016) e1203498に記載されている。
【0114】
GPRC5Dと第2の抗原とに結合する二重特異性抗原結合分子
本発明は、二重特異性抗原結合分子、すなわち2つの異なる抗原決定基 (第1および第2の抗原)に特異的に結合することのできる少なくとも2つの抗原結合部分を含む抗原結合分子も提供する。
【0115】
本発明の特定の実施態様によれば、二重特異性抗原結合分子に含まれる抗原結合部分はFab分子 (すなわち、それぞれが可変および定常ドメインを含む重鎖および軽鎖から構成される抗原結合ドメイン)である。一実施態様において、第1および/または第2の抗原結合部分はFab分子である。一実施態様では、前記Fab分子はヒト分子である。特定の実施態様では、前記Fab分子はヒト化されている。また別の実施態様では、前記Fab分子はヒト重鎖および軽鎖定常ドメインを含む。
【0116】
好ましくは、抗原結合部分の少なくとも1つはクロスオーバーFab分子である。このような修飾は、異なるFab分子由来の重鎖と軽鎖との誤対合を減少させ、それにより組換え生産において本発明の二重特異性抗原結合分子の収率および純度を向上させる。本発明の二重特異性抗原結合分に有用な特定のクロスオーバーFab分子では、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメイン(それぞれVLとVH)が交換されている。しかしながら、このようなドメイン交換によっても、二重特異性抗原結合分子の調製は、誤対合した重鎖と軽鎖間の、いわゆるベンズ・ジョーンズ型の相互作用に起因する特定の副生成物を含み得る(Schaefer et al, PNAS, 108 (2011) 11187-11191参照)。異なるFab分子由来の重鎖と軽鎖の誤対合をさらに減少させ、したがって所望の二重特異性抗原結合分子の純度と収率を向上させるために、反対の電荷を帯びる荷電アミノ酸を、第1の抗原(GPRC5D)に結合するFab分子(複数可)または第2の抗原(例えばCD3などの活性化T細胞抗原)のいずれかに結合するFab分子のCH1およびCLドメインの特定のアミノ酸位置に導入することができる。これについては後述する。電荷改変(charge modification)は、二重特異性抗原結合分子に含まれる従来のFab分子(複数可)(例えば図1A-C、G-Jに示すような)または二重特異性抗原結合分子に含まれるVH/VLクロスオーバーFab分子(複数可)(例えば図1D-F、K-Nに示すような)のいずれかにおいて行われる(ただし両方で行われることはない)。特定の実施態様では、電荷改変は、二重特異性抗原結合分子に含まれる従来のFab分子(複数可)(特定の実施態様において第1の抗原、すなわちGPRC5Dに結合するもの)において行われる。
【0117】
本発明による特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1の抗原(すなわちGPRC5D)と,第2の抗原(例えば活性化T細胞抗原、特にCD3)とに同時結合することができる。一実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、GPRC5Dと活性化T細胞抗原とに同時結合することにより、T細胞と標的細胞を架橋することができる。さらに特定の実施態様では、このような同時結合は、標的細胞、特にGPRC5D発現腫瘍細胞の溶解をもたらす。一実施態様では、このような同時結合は、T細胞の活性化をもたらす。他の実施態様では、このような同時結合は、活性化マーカーの増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子放出、細胞傷害活性、および発現の群から選択される、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の細胞応答をもたらす。一実施態様では、GPRC5Dへの同時結合を含まない、活性化T細胞抗原、特にCD3への二重特異性抗原結合分子の結合は、T細胞の活性化をもたらさない。
【0118】
一実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、T細胞の細胞傷害活性を標的細胞へ再方向付けする(re-directing)ことができる。特定の実施態様では、前記再方向付けは、標的細胞によるMHC媒介性ペプチド抗原提示および/またはT細胞の特異性とは無関係である。
【0119】
特に、本発明の実施態様のいずれかによるT細胞は、細胞傷害性T細胞である。いくつかの実施態様では、T細胞はCD4またはCD8 T細胞、特にCD8 T細胞である。
【0120】
第1の抗原結合部分
本発明の二重特異性抗原結合分子は、GPRC5D(第1の抗原)に結合する少なくとも1つの抗原結合部分、特にFab分子を含む。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、GPRC5Dに結合する2つの抗原結合部分、特にFab分子を含む。このような特定の実施態様では、これら抗原結合部分の各々は、同じ抗原決定基に結合する。さらに特定の実施態様では、これら抗原結合部分のすべては同一であり、すなわちそれらは、本明細書に記載されるような(存在すれ場合)CH1およびCLドメイン内に同じアミノ酸置換を含む同じアミノ酸配列を含む。一実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、GPRC5Dに結合する2つ以下の抗原結合部分、特にFab分子を含む。
【0121】
特定の実施態様では、GPRC5Dに結合する抗原結合部分(複数可)は、従来のFab分子である。このような実施態様では、第2の抗原に結合する抗原結合部分(複数可)は、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわちFab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVLまたは定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いによって置き換えられているFab分子である。
【0122】
代替的実施態様では、GPRC5Dに結合する抗原結合部分(複数可)は、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわちFab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVLまたは定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いによって置き換えられているFab分子である。このような実施態様では、第2の抗原に結合する抗原結合部分(複数可)は、従来のFab分子である。
【0123】
GPRC5D結合部分は、二重特異性抗原結合分子を標的部位へと、例えばGPRC5Dを発現する特定のタイプの腫瘍細胞へと方向付けることができる。
【0124】
科学的に明らかに不合理または不可能でない限り、二重特異性抗原結合分子の第1の抗原結合部分は、GPRC5Dに結合する抗体に関して本明細書に記載される特徴のいずれかを、単独でまたは組み合わせて組み込むことができる。
【0125】
したがって、一態様において、本発明は、(a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、第1の抗原結合部部分、および(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。一態様において、本発明は、(a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、第1の抗原結合部部分、および(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。別の態様において、本発明は、(a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、第1の抗原結合部部分、およに(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。別の態様において、本発明は、(a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号96のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、第1の抗原結合部部分、および(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。一態様において、本発明は、(a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、第1の抗原結合部部分、および(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。別の態様において、本発明は、(a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のHCDR2および配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR2および配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、第1の抗原結合部部分、およに(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。別の態様において、本発明は、(a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号7の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号8のHCDR2および配列番号9のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2および配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、第1の抗原結合部部分、および(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分を含む、二重特異性抗原結合分子を提供する。
【0126】
いくつかの実施態様では、第1の抗原結合部分はヒト化抗体(に由来するもの)である。一実施態様において、VHはヒト化VHであり、かつ/またはVLはヒト化VLである。一実施態様において、第1の抗原結合部分は、上記いずれかの実施態様におけるCDRを含み、さらにはアクセプターヒトフレームワーク、例えばヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークを含む。
【0127】
一実施態様において、第1の抗原結合部分のVHは、配列番号13、配列番号15、配列番号48、配列番号49、配列番号57および配列番号58の群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含み、第1の抗原結合部分のVLは、配列番号14、配列番号16、配列番号52、配列番号53、配列番号63および配列番号64の群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0128】
一実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号13、配列番号15、配列番号48、配列番号49、配列番号57および配列番号58の群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVH配列と、配列番号14、配列番号16、配列番号52、配列番号53、配列番号63および配列番号64の群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVL配列とを含む。
【0129】
一実施態様において、第1の抗原結合部分は、配列番号13、配列番号15、配列番号48、配列番号49、配列番号57および配列番号58の群より選択されるアミノ酸配列を含むVHと、配列番号14、配列番号16、配列番号52、配列番号53、配列番号63および配列番号64の群より選択されるアミノ酸配列を含むVLとを含む。
【0130】
一実施態様において、第1の抗原結合部分は、配列番号13、配列番号15、配列番号48、配列番号49、配列番号57および配列番号58の群より選択されるVH配列と、配列番号14、配列番号16、配列番号52、配列番号53、配列番号63および配列番号64の群より選択されるVL配列とを含む。
【0131】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号13のアミノ酸配列を含むVHと、配列番号14のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号13のVH配列と配列番号14のVL配列とを含む。
【0132】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHと配列番号16のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号15のVH配列と配列番号16のVL配列とを含む。
【0133】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号48のアミノ酸配列を含むVHと、配列番号53のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号48のVH配列と配列番号53のVL配列とを含む。
【0134】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号49のアミノ酸配列を含むVHと配列番号52のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号49のVH配列と配列番号52のVL配列とを含む。
【0135】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号57のアミノ酸配列を含むVHと配列番号64のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号57のVH配列と配列番号64のVL配列とを含む。
【0136】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号58のアミノ酸配列を含むVHと配列番号63のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号58のVH配列と配列番号63のVL配列とを含む。一実施態様において、第1の抗原結合部分は、ヒト定常領域を含む。一実施態様において、第1の抗原結合部分は、ヒト定常領域、特にヒトCH1および/またはCLドメインを含むFab分子である。ヒト定常ドメインの例示的配列は、配列番号37および38(それぞれヒトカッパおよびラムダのCLドメイン)、ならびに配列番号39(ヒトIgG重鎖定常ドメインCH1-CH2-CH3)に示されている。いくつかの実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号37または配列番号38のアミノ酸配列、特に配列番号37のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む。特に、軽鎖定常領域は、本明細書の「電荷改変」の項に記載されるアミノ酸変異を含み得、かつ/またはクロスオーバーFab分子にある場合は1つ以上の(特に2つの)N末端アミノ酸の削除もしくは置換を含み得る。いくつかの実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号39のアミノ酸配列に含まれるCH1ドメイン配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含む。特に、重鎖定常領域(具体的にはCH1ドメイン)は、本明細書の「電荷改変」の項に記載されるアミノ酸変異を含み得る。
【0137】
第2の抗原結合部分
本発明の二重特異性抗原結合分子は、第2の抗原(GPRC5Dとは異なる)に結合する少なくとも1つの抗原結合部分、特にFab分子を含む。
【0138】
特定の実施態様では、第2の抗原に結合する抗原結合部分は、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわちFab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVLまたは定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いによって置き換えられているFab分子である。このような実施態様では、第1の抗原(すなわちGPRC5D)に結合する抗原結合部分(複数可)は、好ましくは従来のFab分子である。二重特異性抗原結合分子に含まれるGPRC5Dに結合する複数の抗原結合部分、特にFab分子が存在する実施態様では、第2の抗原に結合する抗原結合部分は、好ましくはクロスオーバーFab分子であり、GPRC5Dに結合する抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0139】
代替的な実施態様では、第2の抗原に結合する抗原結合部分は従来のFab分子である。このような実施態様では、第1の抗原(すなわちGPRC5D)に結合する抗原結合部分(複数可)は、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわちFab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVLまたは定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いによって置き換えられているFab分子である。二重特異性抗原結合分子に含まれる第2の抗原に結合する複数の抗原結合部分、特にFab分子が存在する実施態様では、GPRC5Dに結合する抗原結合部分は、好ましくはクロスオーバーFab分子であり、第2の抗原に結合する抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0140】
いくつかの実施態様では、第2の抗原は活性化T細胞抗原(「活性化T細胞抗原結合部分」または「活性化T細胞抗原結合Fab分子」とも呼ばれる)である。特定の一実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、活性化T細胞抗原への特異的結合能を有する1つ以下の抗原結合部分を含む。一実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、活性化T細胞抗原への一価の結合を提供する。
【0141】
特定の実施態様では、第2の抗原はCD3、特にヒトCD3(配列番号40)またはカニクイザルCD3(配列番号41)、最も特にはヒトCD3である。一実施態様において、第2の抗原結合部分は、ヒトおよびカニクイザルのCD3に交差反応性である(すなわち特異的に結合する)。いくつかの実施態様では、第2の抗原は、CD3のエプシロンサブユニット(CD3エプシロン)である。
【0142】
一実施態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号29のHCDR1、配列番号30のHCDR2、配列番号31のHCDR3、配列番号32のLCDR1、配列番号33のLCDR2および配列番号34のLCDR3を含む。
【0143】
一実施態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号29のHCDR1、配列番号30のHCDR2および配列番号31のHCDR3を含むVHと、配列番号32のLCDR1、配列番号33のLCDR2および配列番号34のLCDR3を含むVLとを含む。
【0144】
いくつかの実施態様では、第2の抗原結合部分はヒト化抗体(に由来するもの)である。一実施態様において、VHはヒト化VHであり、かつ/またはVLはヒト化VLである。一実施態様において、第2の抗原結合部分は、上記いずれかの実施態様におけるCDRを含み、さらにはアクセプターヒトフレームワーク、例えばヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークをさらに含む。
【0145】
一実施態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVH配列を含む。一実施態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号36のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVL配列を含む。
【0146】
一実施態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVH配列と、配列番号36のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVL配列とを含む。
【0147】
一実施態様において、第2の抗原結合部分のVHは、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含み、第2の抗原結合部分のVLは、配列番号36のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0148】
一実施態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号35のアミノ酸配列を含むVHと配列番号36のアミノ酸配列を含むVLとを含む。
【0149】
一実施態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号35のVH配列と配列番号36のVL配列とを含む。
【0150】
一実施態様において、第2の抗原結合部分は、ヒト定常領域を含む。一実施態様において、第2の抗原結合部分は、ヒト定常領域、特にヒトCH1および/またはCLドメインを含むFab分子である。ヒト定常ドメインの例示的配列は、配列番号37および38(それぞれヒトカッパおよびラムダのCLドメイン)、ならびに配列番号39(ヒトIgG重鎖定常ドメインCH1-CH2-CH3)に示されている。いくつかの実施態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号37または配列番号38のアミノ酸配列、特に配列番号37のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む。特に、軽鎖定常領域は、本明細書の「電荷改変」の項に記載されるアミノ酸変異を含み得、かつ/またはクロスオーバーFab分子にある場合は1つ以上の(特に2つの)N末端アミノ酸の削除もしくは置換を含み得る。いくつかの実施態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号39のアミノ酸配列に含まれるCH1ドメイン配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含む。特に、重鎖定常領域(具体的にはCH1ドメイン)は、本明細書の「電荷改変」の項に記載されるアミノ酸変異を含み得る。
【0151】
いくつかの実施態様では、第2の抗原結合部分は、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1、特に可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である(すなわち、このような実施態様によれば、第2の抗原結合部分は、Fab軽鎖とFab重鎖の可変または定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子である)。このような一実施態様では、第1の(および存在する場合は第3の)抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0152】
一実施態様では、第2の抗原(例えばCD3などの活性化T細胞抗原)に結合する1つ以下の抗原結合部分が、二重特異性抗原結合分子中に存在する(すなわち二重特異性抗原結合分子は第2の抗原への一価の結合を提供する)。
【0153】
電荷改変
本発明の二重特異性抗原結合分子は、それに含まれるFab分子にアミノ酸置換を含むことができ、これは、その結合アームの1つ(または3つ以上の抗原結合Fab分子を含む分子の場合、2つ以上)にVH/VL交換を有するFabベースの二重/多重特異性抗原結合分子の生産の際に生じ得る、マッチしない重鎖との軽鎖の誤対合(ベンズ・ジョーンズ型副生成物)を減少させるのに特に有効である(参照によりその全体が本明細書に援用されるPCT出願番号国際公開第2015/150447号、特にその実施例も参照されたい)。望ましくない副産物、特に結合アームの1つにVH/VLドメイン交換を有する二重特異性抗原結合分子において生じるベンズ・ジョーンズ型副生成物と比較した場合の所望の二重特異性抗原結合分子の比率は、CH1およびCLドメイン内の特定のアミノ酸位置に反対の電荷を有する荷電アミノ酸を導入することに(本明細書では時に「電荷改変」と呼ばれることもある)より改善され得る。
【0154】
したがって、二重特異性抗原結合分子の第1および第2の抗原結合部分の両方がFab分子であり、抗原結合部分の一方(特に第2の抗原結合部分)において、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているいくつかの実施態様では、
i)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸が正に帯電したアミノ酸により置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸または213位のアミノ酸が負に帯電したアミノ酸により置換されているか(Kabat EUインデックスによる番号付け);あるいは
ii)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸が正に帯電したアミノ酸により置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸または213位のアミノ酸が負に帯電したアミノ酸により置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0155】
二重特異性抗原結合分子は、i)およびii)に記載の修飾の両方を含むことはない。VH/VL交換を有する抗原結合部分の定常ドメインCLとCH1は、互いによって置き換えられない(すなわち交換されないまま)。
【0156】
さらに特定の実施態様では、
i)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸または213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されているか(Kabat EUインデックスによる番号付け);あるいは
ii)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸または213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0157】
このような一実施態様では、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸または213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0158】
さらなる実施態様では、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0159】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0160】
さらに特定の実施態様では、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0161】
さらに特定の実施態様では、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、かつ、123位のアミノ酸がアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0162】
特定の実施態様では、上記実施態様によるアミノ酸置換が第1の抗原結合部分の定常ドメインCLと定常ドメインCH1で行われる場合、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLはカッパアイソタイプのものである。
【0163】
代替的に、上記実施態様によるアミノ酸置換が第1の抗原結合部分の定常ドメインCLと定常ドメインCH1の代わりに、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLと定常ドメインCH1で行われてもよい。このような特定の実施態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプのものである。
【0164】
したがって、一実施態様において、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLでは124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、かつ、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1では147位のアミノ酸または213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0165】
さらなる実施態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0166】
また別の実施態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0167】
一実施態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0168】
別の実施態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、かつ、123位のアミノ酸がアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0169】
特定の実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分、ならびに
(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分
を含み;
第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0170】
特定の実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分、ならびに
(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられている第2の抗原結合部分
を含み;
第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0171】
特定の実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分、ならびに
(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられている第2の抗原結合部分
を含み;
第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0172】
特定の実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号96のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分、ならびに
(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられている第2の抗原結合部分
を含み;
第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0173】
特定の実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分、ならびに
(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられている第2の抗原結合部分
を含み;
第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0174】
特定の実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のHCDR2および配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR2および配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分、ならびに
(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられている第2の抗原結合部分
を含み;
第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0175】
特定の実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号7の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号8のHCDR2および配列番号9のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2および配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分、ならびに
(b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられている第2の抗原結合部分
を含み;
第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、かつ、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatによる番号付け)(特定の実施態様では、独立に、リジン(K)またはアルギニン(R)により)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、かつ、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立に置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0176】
二重特異性抗原結合分子のフォーマット
本発明による二重特異性抗原結合分子の成分は、様々な構成で互いに融合することができる。例示的構成を図1A-Zに示す。
【0177】
特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子に含まれる抗原結合部分はFab分子である。このような実施態様では、第1、第2、第3(など)の抗原結合部分は、本明細書において、それぞれ第1、第2、第3(など)のFab分子と呼ばれることがある。
【0178】
一実施態様において、二重特異性抗原結合分子の第1および第2の抗原結合部分は、任意選択的にペプチドリンカーを介して、互いに融合している。特定の実施態様では、第1および第2の抗原結合部分はそれぞれFab分子である。このような一実施態様では、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。別のこのような実施態様では、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。(i)第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しているか、または(ii)第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している実施態様では、これに加えて、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖とが、任意選択的にペプチドリンカーを介して、互いに融合していてもよい。
【0179】
GPRC5Dのような標的細胞抗原に特異的に結合することができる単一の抗原結合部分(例えばFab分子)を有する二重特異性抗原結合分子(例えば図1A、1D、1G、1H、1K、1Lに示すような)は、特に高親和性抗原結合部分の結合に続いて標的細胞抗原の内在化が予想される場合に有用である。このような場合、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分の存在は、標的細胞抗原の内在化を増進させ、それによりその利用可能性を低下させる。
【0180】
しかしながら、他の場合には、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分(例えばFab分子)を含む二重特異性抗原結合分子(図1B、1C、1E、1F、1I、1J、1Mまたは1Nに示される例を参照)を有することは、例えば標的部位への標的化を最適化するため、または標的細胞抗原の架橋を可能にするために有利であろう。
【0181】
したがって、特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第3の抗原結合部分を含む。
【0182】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、第1の抗原,すなわちGPRC5Dに結合する。一実施態様では、第3の抗原結合部分はFab分子である。
【0183】
一実施態様において、第3の抗原部分は第1の抗原結合部分と同一である。
【0184】
科学的に明らかに不合理または不可能でない限り、二重特異性抗原結合分子の第3の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分および/またはGPRC5Dに結合する抗体に関して本明細書に記載される特徴のいずれかを、単独でまたは組み合わせて組み込むことができる。
【0185】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
【0186】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
【0187】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
【0188】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号96のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
【0189】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
【0190】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のHCDR2および配列番号4のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号5の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号6のLCDR2および配列番号7のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
【0191】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、配列番号7の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号8のHCDR2および配列番号9のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2および配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
【0192】
いくつかの実施態様では、第3の抗原結合部分はヒト化抗体(に由来するもの)である。一実施態様において、VHはヒト化VHであり、かつ/またはVLはヒト化VLである。一実施態様において、第3の抗原結合部分は、上記いずれかの実施態様におけるCDRを含み、アクセプターヒトフレームワーク、例えばヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークをさらに含む。
【0193】
一実施態様において、第3の抗原結合部分のVHは、配列番号13、配列番号15、配列番号48、配列番号49、配列番号57および配列番号58の群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含み、第3の抗原結合部分のVLは、配列番号14、配列番号16、配列番号52、配列番号53、配列番号63および配列番号64の群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0194】
一実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号13、配列番号15、配列番号48、配列番号49、配列番号57および配列番号58の群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVH配列と、配列番号14、配列番号16、配列番号52、配列番号53、配列番号63および配列番号64の群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるVL配列とを含む。
【0195】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、配列番号13、配列番号15、配列番号48、配列番号49、配列番号57および配列番号58の群より選択されるアミノ酸配列を含むVHと、配列番号14、配列番号16、配列番号52、配列番号53、配列番号63および配列番号64の群より選択されるアミノ酸配列を含むVLとを含む。
【0196】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、配列番号13、配列番号15、配列番号48、配列番号49、配列番号57および配列番号58の群より選択されるVH配列と、配列番号14、配列番号16、配列番号52、配列番号53、配列番号63および配列番号64の群より選択されるVL配列とを含む。
【0197】
特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号13のアミノ酸配列を含むVHと配列番号14のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号13のVH配列と配列番号14のVL配列とを含む。
【0198】
特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHと配列番号16のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号15のVH配列と配列番号16のVL配列とを含む。
【0199】
特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号48のアミノ酸配列を含むVHと配列番号53のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号48のVH配列と配列番号53のVL配列とを含む。
【0200】
特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号49のアミノ酸配列を含むVHと配列番号52のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号49のVH配列と配列番号52のVL配列とを含む。
【0201】
特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号57のアミノ酸配列を含むVHと配列番号64のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号57のVH配列と配列番号64のVL配列とを含む。
【0202】
特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号58のアミノ酸配列を含むVHと配列番号63のアミノ酸配列を含むVLとを含む。特定の実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号58のVH配列と配列番号63のVL配列とを含む。
【0203】
一実施態様において、第3の抗原結合部分は、ヒト定常領域を含む。一実施態様において、第3の抗原結合部分は、ヒト定常領域、特にヒトCH1および/またはCLドメインを含むFab分子である。ヒト定常ドメインの例示的配列は、配列番号37および38(それぞれヒトカッパおよびラムダのCLドメイン)、ならびに配列番号39(ヒトIgG重鎖定常ドメインCH1-CH2-CH3)に示されている。いくつかの実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号37または配列番号38のアミノ酸配列、特に配列番号37のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む。特に、軽鎖定常領域は、本明細書の「電荷改変」の項に記載されるアミノ酸変異を含み得、かつ/またはクロスオーバーFab分子にある場合は1つ以上の(特に2つの)N末端アミノ酸の削除もしくは置換を含み得る。いくつかの実施態様では、第3の抗原結合部分は、配列番号39のアミノ酸配列に含まれるCH1ドメイン配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含む。特に、重鎖定常領域(具体的にはCH1ドメイン)は、本明細書の「電荷改変」の項に記載されるアミノ酸変異を含み得る。
【0204】
特定の実施態様では、第3および第1の抗原結合部分はそれぞれFab分子であり、第3の抗原結合部分は第1の抗原結合部分と同一である。したがって、このような実施態様では、第1および第3の抗原結合部分は、同じ重鎖および軽鎖アミノ酸配列を含み、同じドメイン構成を有する(すなわち従来のまたはクロスオーバー))。さらに、このような実施態様では、第3の抗原結合部分は、存在する場合、第1の抗原結合部分と同じアミノ酸置換を含む。例えば、本明細書に「電荷改変」として記載されるアミノ酸置換は、第1の抗原結合部分および第3の抗原結合部分の各々の定常ドメインCLおよび定常ドメインCH1において行われる。代替的に、前記アミノ酸置換は、(特定の実施態様ではFab分子でもある)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLおよび定常ドメインCH1において行われてもよいが、第1の抗原結合部分および第3の抗原結合部分の定常ドメインCLおよび定常ドメインCH1では行われない。
【0205】
第1の抗原結合部分と同様に、第3の抗原結合部分は特に従来のFab分子である。ただし、第1および第3の抗原結合部分がクロスオーバーFab分子である(かつつ、第2の抗原結合部分が従来のFab分子である)実施態様も考慮される。したがって、特定の実施態様では、第1および第3の抗原結合部分はそれぞれ従来のFab分子であり、第2の抗原結合部分は本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわちFab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVLまたは定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いによって置き換えられているFab分子である。他の実施態様において、第1および第3の抗原結合部分はそれぞれクロスオーバーFab分子であり、第2の抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0206】
第3の抗原結合部分が存在する場合、特定の実施態様では、第1および第3の抗原部分はGPRC5Dに結合し、第2の抗原結合部分は第2の抗原、特に活性化T細胞抗原、さらに具体的にはCD3、最も具体的にはCD3エプシロンに結合する。
【0207】
特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む。Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットは、安定した会合をすることができる。
【0208】
本発明による二重特異性抗原結合分子は、異なる構成を有することができる、すなわち第1、第2の(および任意選択的に第3の)抗原結合部分は、互いに、およびFcドメインに、異なる方法で融合することができる。これらの成分は互いに直接、または好ましくは1つ以上の適切なペプチドリンカーを介して融合することができる。Fab分子の融合先がFcドメインのサブユニットのN末端である場合、融合は、典型的には免疫グロブリンのヒンジ領域を介している。
【0209】
いくつかの実施態様では、第1および第2の抗原結合部分はそれぞれFab分子であり、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1または第2のサブユニットのN末端に融合している。このような実施態様では、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に、またはFcドメインの他方のサブユニットのN末端に融合している。特定のこのような実施態様では、前記第1の抗原結合部分は従来のFab分子であり、第2の抗原結合部分は本明細書に記載のクロスオーバーFab分子、すなわちFab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVLまたは定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いによって置き換えられているFab分子である。他のこのような実施態様では、前記第1のFab分子はクロスオーバーFab分子であり、第2のFab分子は従来のFab分子である。
【0210】
一実施態様において、第1および第2の抗原結合部分はそれぞれFab分子であり、第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1または第2のサブユニットのN末端に融合しており、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1および第2のFab分子と、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ以上のペプチドリンカーから本質的になり、第1のFab分子はFab重鎖のC末端において第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1または第2のサブユニットのN末端に融合している。このような構成は、図1Gおよび1Kに模式的に示されている(これらの例における第2の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子である)。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖と第2のFab分子のFab軽鎖は、さらに互いに融合していてもよい。
【0211】
別の実施態様では、第1および第2の抗原結合部分はそれぞれFab分子であり、第1および第2の抗原結合部分はそれぞれFab重鎖のC末端においてFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1および第2のFab分子と、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ以上のペプチドリンカーから本質的になり、第1および第2のFab分子はそれぞれ、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。このような構成は、図1Aおよび1Dに模式的に示されている(これらの例では第2の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合部分は従来のFab分子である)。第1および第2のFab分子は、直接、またはペプチドリンカーを介して間接的にFcドメインに融合することができる。特定の実施態様では、第1および第2のFab分子はそれぞれ、免疫グロブリンのヒンジ領域を介してFcドメインに融合している。特定の実施態様では、免疫グロブリンのヒンジ領域は、特にFcドメインがIgGのFcドメインである場合、ヒトIgGヒンジ領域である。
【0212】
いくつかの実施態様では、第1および第2の抗原結合部分はそれぞれFab分子であり、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1または第2のサブユニットのN末端に融合している。このような実施態様では、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に、または(上述のように)Fcドメインの他方のサブユニットのN末端に融合している。特定のこのような実施態様では、前記第1の抗原結合部分は従来のFab分子であり、第2の抗原結合部分は本明細書に記載のクロスオーバーFab分子、すなわちFab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVLまたは定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いによって置き換えられているFab分子である。他のこのような実施態様では、前記第1のFab分子はクロスオーバーFab分子であり、第2のFab分子は従来のFab分子である。
【0213】
一実施態様において、第1および第2の抗原結合部分はそれぞれFab分子であり、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1または第2のサブユニットのN末端に融合しており、第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1および第2のFab分子と、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ以上のペプチドリンカーから本質的になり、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端において第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1または第2のサブユニットのN末端に融合している。このような構成は、図1Hおよび1Lに模式的に示されている(これらの例では第2の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合部分は従来のFab分子である)。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖と第2のFab分子のFab軽鎖は、さらに互いに融合していてもよい。
【0214】
いくつかの実施態様では、第3の抗原結合部分、特に第3のFab分子が、Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第1または第2のサブユニットのN末端に融合している。特定のこのような実施態様では、前記第1および第3のFab分子はそれぞれ従来のFab分子であり、第2のFab分子は本明細書に記載れるクロスオーバーFab分子、すなわちFab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVLまたは定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いによって置き換えられているFab分子である。他のこのような実施態様では、前記第1および第3のFab分子はそれぞれクロスオーバーFab分子であり、第2のFab分子は従来のFab分子である。
【0215】
特定のこのような実施態様では、第2および第3の抗原結合部分は、それぞれFab重鎖のC末端においてFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しており、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。特定の一実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1、第2および第3のFab分子と、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ以上のペプチドリンカーから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端において第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。このような構成は、図1Bおよび1E(これらの例では第2の抗原結合部分はVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1および第3の抗原結合部分は従来のFab分子である)と、図1Jおよび1N(これらの例では第2の抗原結合部分は従来のFab分子であり、第1および第3の抗原結合部分はVH/VLクロスオーバーFab分子である)に模式的に示されている。第2および第3のFab分子は、直接またはペプチドリンカーを介してFcドメインに融合することができる。特定の実施態様では、第2および第3のFab分子はそれぞれ、免疫グロブリンのヒンジ領域を介してFcドメインに融合している。特定の実施態様では、免疫グロブリンのヒンジ領域は、特にFcドメインがIgGのFcドメインである場合、ヒトIgGヒンジ領域である。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖と第2のFab分子のFab軽鎖とは、さらに互いに融合していてもよい。
【0216】
別のこのような実施態様では、第1および第3の抗原結合部分は、それぞれFab重鎖のC末端においてFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しており、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1、第2および第3のFab分子と、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ以上のペプチドリンカーから本質的になり、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端において第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。このような構成は、図1Cおよび1F(これらの例では第2の抗原結合部分はVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1および第3の抗原結合部分は従来のFab分子である)と、図1Iおよび1M(これらの例では第2の抗原結合部分は従来のFab分子であり、第1および第3の抗原結合部分はVH/VLクロスオーバーFab分子である)に模式的に示されている。第1および第3のFab分子は、直接またはペプチドリンカーを介してFcドメインに融合することができる。特定の実施態様では、第1および第3のFab分子はそれぞれ、免疫グロブリンのヒンジ領域を介してFcドメインに融合している。特定の実施態様では、免疫グロブリンのヒンジ領域は、特にFcドメインがIgGのFcドメインである場合、ヒトIgGヒンジ領域である。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖と第2のFab分子のFab軽鎖とは、さらに互いに融合していてもよい。
【0217】
Fab分子がFab重鎖のC末端において免疫グロブリンのヒンジ領域を介してFcドメインの各サブユニットのN末端に融合している二重特異性抗原結合分子の構成においては、2つのFab分子、ヒンジ領域およびFcドメインは、本質的に免疫グロブリン分子を形成する。特定の実施態様では、免疫グロブリン分子はIgGクラスの免疫グロブリンである。さらに特定の実施態様では、免疫グロブリンはIgGサブクラスの免疫グロブリンである。別の実施態様では、免疫グロブリンはIgGサブクラスの免疫グロブリンである。さらなる特定の実施態様では、免疫グロブリンはヒト免疫グロブリンである。他の実施態様では、免疫グロブリンは、キメラ免疫グロブリンまたはヒト化免疫グロブリンである。一実施態様において、免疫グロブリンはヒト定常領域、特にヒトFc領域を含む。
【0218】
本発明の二重特異性抗原結合分子のいくつかでは、第1のFab分子のFab軽鎖と第2のFab分子のFab軽鎖は、任意選択的にペプチドリンカーを介して、互いに融合している。第1および第2のFab分子の構成に応じて、第1のFab分子のFab軽鎖は、そのC末端において第2のFab分子のFab軽鎖のN末端に融合しているか、または第2のFab分子のFab軽鎖は、そのC末端において第1のFab分子のFab軽鎖のN末端に融合している。第1および第2のFab分子のFab軽鎖の融合はさらに、マッチしないFab重鎖とFab軽鎖の誤対合を減少させ、また本発明のいくつかの二重特異性抗原結合分子の発現に必要なプラスミドの数を減少させる。
【0219】
抗原結合部分は、直接または、1つ以上のアミノ酸、典型的には約2-20のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して、Fcドメインに、または互いに融合していてもよい。ペプチドリンカーは当分野において既知であり、本願明細書に記載されている。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば(GS)、(SG、(GS)または(SGペプチドリンカーが含まれる。「n」は通常1から10、典型的には2から4の整数である。一実施態様では、前記ペプチドリンカーは、少なくとも5のアミノ酸長を、一実施態様では5から100、さらなる実施態様では10から50のアミノ酸長を有する。一実施態様では、前記ペプチドリンカーは、(GxS)または(GxS)[式中、G=グリシン、S=セリン、(x=3、n=3,4,5または6、m=0,1,2または3)または(x=4、n=2,3,4または5、m=0,1,2または3)]であり、一実施態様では、x=4、n=2または3であり、さらなる実施態様ではx=4、n=2である。一実施態様では、前記ペプチドリンカーは(GS)である。第1および第2のFab分子のFab軽鎖を互いに融合させるのに特に特に適切なペプチドリンカーは(GS)である。第1および第2のFab分子のFab重鎖を接続するのに適切な例示的ペプチドリンカーは、配列(D)-(GS)(配列番号43および44)を含む。別の適切なこのようなリンカーは、配列(GS)を含む。加えて、リンカーは免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含むことができる。Fab分子は、特にFcドメインのサブユニットのN末端に融合している場合、追加のペプチドリンカーの有無に関わらず、免疫グロブリンヒンジ領域またはその一部を介して融合され得る。
【0220】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有しており(すなわち第2のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含んでいる)、ひいてはカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインのサブユニットと共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))と、第1のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))とを含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0221】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有しており(すなわち第2のFab分子がクロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられている)、ひいてはカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2)-CH2-CH3(-CH4))と、第1のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインのサブユニットと共有するポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))とを含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0222】
いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第2のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第1のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいてはFcドメインのサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1)-VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))を含む。他の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1のFab分子のFab重鎖が第2のFab分子のFab軽鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第2のFab分子のFab軽鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第2のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいてはFcドメインのサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(1)-CH1(2)-VL(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))を含む。
【0223】
これらの実施態様のいくつかでは、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有する第2のFab分子のクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチド(VH(2)-CL(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。これらの実施態様のその他では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドとカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2)-VL(1)-CL(1))、または、必要に応じて、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドが、第2のFab分子のFab重鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(1)-CL(1)-VH(2)-CL(2))をさらに含む。
【0224】
これらの実施態様による二重特異性抗原結合分子は、(i)Fcドメインのサブユニットポリペプチド(CH2-CH3(-CH4))、または(ii)第3のFab分子のFab重鎖がFcドメインのサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-CH2-CH3(-CH4))と、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))とをさらに含み得る。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0225】
いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第2のFab分子が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第1のFab分子のFab重鎖とカルボキシ端末ペプチド結合を共有し、ひいてはFcドメインのサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2)-VH(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))を含む。他の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1のFab分子のFab重鎖が、第2のFab分子のFab重鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第2のFab分子が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいてはFcドメインのサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-VH(2)-CL(2)-CH2-CH3(-CH4))を含む。
【0226】
これら実施態様のいくつかでは、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有する第2のFab分子のクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CH1(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。これらの実施態様のその他では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドとカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2)-VL(1)-CL(1))、または、必要に応じて、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドが、第2のFab分子のFab重鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(1)-CL(1)-VL(2)-CH1(2))をさらに含む。
【0227】
これらの実施態様による二重特異性抗原結合分子は、(i)Fcドメインのサブユニットポリペプチド(CH2-CH3(-CH4))、または(ii)第3のFab分子のFab重鎖がFcドメインのサブユニットとカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-CH2-CH3(-CH4))と、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))とをさらに含み得る。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0228】
特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子はFcドメインを含まない。特定のこのような実施態様では、前記第1のFab分子と、存在する場合第3のFab分子は、各々が従来のFab分子であり、第2のFab分子は本明細書に記載のクロスオーバーFab分子、すなわちFab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVLまたは定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いによって置き換えられているFab分子である。他のこのような実施態様では、前記第1のFab分子と、存在する場合第3のFab分子は、各々がクロスオーバーFab分子であり、第2のFab分子は従来のFab分子である。
【0229】
このような一実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1および第2の抗原結合部分と、任意選択的に1つ以上のペプチドリンカーから本質的になり、第1および第2の抗原結合部分は共にFab分子であり、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。このような構成は、図1Oおよび1Sに模式的に示されている(これらの例では第2の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合部分は従来のFab分子である)。
【0230】
別のこのような実施態様では、二重特異性抗原結合分子は第1および第2の抗原結合部分と、任意選択的に1つ以上のペプチドリンカーから本質的になり、ここで第1および第2の抗原結合部分は共にFab分子であり、第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。このような構成は、図1Pおよび1Tに模式的に示されている(これらの例では第2の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合部分は従来のFab分子である)。
【0231】
いくつかの実施態様では、第1のFab分子はFab重鎖のC末端において第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合し、二重特異性抗原結合分子は、第3の抗原結合部分、特に第3のFab分子をさらに含み、前記第3のFab分子はFab重鎖のC末端において第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。特定のこのような実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1、第2および第3のFab分子と、任意選択的に1つ以上のペプチドリンカーかり本質的になり、ここで第1のFab分子はFab重鎖のC末端において第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第3のFab分子はFab重鎖のC末端において第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。このような構成は、図1Qおよび1U(これらの例では、第2の抗原結合ドメインがVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1および抗原結合部分の各々が従来のFab分子である)、または図1Xおよび1Z(これらの例では、第2の抗原結合ドメインが従来のFab分子であり、第1および第3の抗原結合部分の各々がVH/VLクロスオーバーFab分子である)。
【0232】
いくつかの実施態様では、第2のFab分子はFab重鎖のC末端において第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、二重特異性抗原結合分子は、第3の抗原結合部分、特に第3のFab分子をさらに含み、前記第3のFab分子はFab重鎖のN末端において第1のFab分子のFab重鎖のC末端に融合している。特定のこのような実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1、第2および第3のFab分子と、任意選択的に1つ以上のペプチドリンカーから本質的になり、第2のFab分子はFab重鎖のC末端において第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第3のFab分子はFab重鎖のN末端において第1のFab分子のFab重鎖のC末端に融合している。このような構成は、図1Rおよび1V(これらの例では、第2の抗原結合ドメインがVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1および抗原結合部分の各々が従来のFab分子である)、または図1Wおよび1Y(これらの例では、第2の抗原結合ドメインが従来のFab分子であり、第1および第3の抗原結合部分の各々がVH/VLクロスオーバーFab分子である)。
【0233】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第1のFab分子のFab重鎖が、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(すなわち第2のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-VL(2)-CH1(2))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。
【0234】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第2のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第1のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2)-VH(1)-CH1(1))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。
【0235】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第2のFab分子が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第1のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2)-VH(1)-CH1(1))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。
【0236】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第2のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第1のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2)-VH(1)-CH1(1))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。
【0237】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab重鎖が、第1のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第2のFab分子のFab軽鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(すなわち第2のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-VH(1)-CH1(1)-VL(2)-CH1(2))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0238】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab重鎖が、第1のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第2のFab分子のFab重鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(すなわち第2のFab分子が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-VH(1)-CH1(1)-VH(2)-CL(2)を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0239】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第2のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第1のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第3のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2)-VH(1)-CH1(1)-VH(3)-CH1(3))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0240】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第2のFab分子が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第1のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第3のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2)-VH(1)-CH1(1)-VH(3)-CH1(3))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が第2のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0241】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖が、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第1のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第1のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第3のFab分子のFab軽鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第3のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(すなわち第3のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(2)-CH1(1)-VL(2)-CH1(2)-VL(3)-CH1(3))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域が、第1のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab重鎖可変領域が第3のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(3)-CL(3))をさらに含む。
【0242】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第2のFab分子のFab重鎖が、第1のFab分子のFab重鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第1のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第1のFab分子が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいて第3のFab分子のFab重鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第3のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有する(すなわち第3のFab分子が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-VH(1)-CL(1)-VH(3)-CL(3))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域が、第1のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab軽鎖可変領域が第3のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(3)-CH1(3))をさらに含む。
【0243】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab軽鎖可変領域が、第3のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第3のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第1のFab分子のFab軽鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第1のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第1のFab分子が、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第2のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(3)-CH1(3)-VL(1)-CH1(1)-VH(2)-CH1(2))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域が、第1のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab重鎖可変領域が第3のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(3)-CL(3))をさらに含む。
【0244】
特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab重鎖可変領域が、第3のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第3のFab分子が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第1のFab分子のFab重鎖可変領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し、ひいては第1のFab分子のFab軽鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有し(すなわち第1のFab分子が、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、ひいては第2のFab分子のFab重鎖とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VH(3)-CL(3)-VH(1)-CL(1)-VH(2)-CH1(2))を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域が、第1のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、第3のFab分子のFab軽鎖可変領域が第3のFab分子のFab重鎖定常領域とカルボキシ末端ペプチド結合を共有するポリペプチド(VL(3)-CH1(3))をさらに含む。
【0245】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0246】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0247】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0248】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号96のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0249】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0250】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のHCDR2および配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR2および配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0251】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号7の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号8のHCDR2および配列番号9のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2および配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0252】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0253】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0254】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0255】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号96のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0256】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0257】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のHCDR2および配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR2および配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0258】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号7の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号8のHCDR2および配列番号9のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2および配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH、または定常ドメインCLとCH1が互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0259】
本発明による二重特異性抗原結合分子の様々な構成のすべてにおいて、本明細書に記載されるアミノ酸置換は、存在する場合、第1および(存在する場合)第3の抗原結合部分/Fab分子のCH1およびCLドメイン、または第2の抗原結合部分/Fab分子のCH1およびCLドメインに存在し得る。好ましくは、そのような置換は、第1および(存在する場合)第3の抗原結合部分/Fab分子のCH1およびCLドメインに存在する。本発明の概念によれば、本発明に記載されるアミノ酸置換が第1(および存在する場合第3)の抗原結合部分/Fab分子において行われる場合、そのようなアミノ酸置換は第2の抗原結合部分/Fab分子においては行われない。逆に、本明細書に記載されるアミノ酸置換が第2の抗原結合部分/Fab分子で行われる場合、そのようなアミノ酸置換は第1(および存在する場合第3)の抗原結合部分/Fab分子においては行われない。アミノ酸置換は、特に、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH1が互いによって置き換えられているFab分子を含む二重特異性抗原結合分子において行われる。
【0260】
特に本明細書に記載されるアミノ酸置換が第1(および存在する場合第3)の抗原結合部分/Fab分子において行われる、本発明による二重特異性抗原結合分子の特定の実施態様では、第1(および存在する場合第3)のFab分子の定常ドメインCLはカッパアイソタイプのものである。特に本明細書に記載されるアミノ酸置換が第2の抗原結合部分/Fab分子で行われる、本発明による二重特異性抗原結合分子の他の実施態様では、第2の抗原結合部分/Fab分子の定常ドメインCLはカッパアイソタイプのものである。いくつかの実施態様では、第1(および存在する場合第3)の抗原結合部分/Fab分子の定常ドメインCLおよび第2の抗原結合部分/Fab分子の定常ドメインCLはカッパアイソタイプのものである。
【0261】
一実施態様において、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);かつ、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0262】
一実施態様において、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);かつ、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0263】
一実施態様において、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);かつ、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0264】
一実施態様において、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号96のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);かつ、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0265】
一実施態様において、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);かつ、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0266】
一実施態様において、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のHCDR2および配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR2および配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);かつ、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0267】
一実施態様において、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号7の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号8のHCDR2および配列番号9のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2および配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);かつ、
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0268】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0269】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0270】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0271】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号96のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0272】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0273】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のHCDR2および配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR2および配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0274】
特定の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号7の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号8のHCDR2および配列番号9のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2および配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1の抗原に結合し、第1の抗原結合部分と同一である第3の抗原結合部分;ならびに
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
ここで、
(i)a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合しているか、または
(ii)b)の第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてa)の第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、a)の第1の抗原結合部分およびc)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてd)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0275】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号84のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0276】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号83の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号85のHCDR2および配列番号86のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号87の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号88のLCDR2および配列番号89のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0277】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0278】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号91のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号96のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0279】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号90の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号92のHCDR2および配列番号93のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号94の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号95のLCDR2および配列番号97のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0280】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のHCDR2および配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR2および配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0281】
別の実施態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分であって、第1の抗原がGPRC5Dであり、第1の抗原結合部分が、配列番号7の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号8のHCDR2および配列番号9のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2および配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むFab分子である、第1の抗原結合部分;
b)活性化T細胞抗原、特にCD3、さらに具体的にはCD3エプシロンである第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
ここで、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
a)の第1の抗原結合部分およびb)の第2の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0282】
上記実施態様のいずれによっても、二重特異性抗原結合分子の成分(例えばFab分子、Fcドメイン)は、直接または、本明細書に記載されているかもしくは当技術分野で既知である様々なリンカー、特に1つ以上のアミノ酸、典型的には約2-20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して融合され得る。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば(GS),(SG,(GS)またはG(SGペプチドリンカーが含まれ、ここでnは通常1から10、典型的には2から4の整数である。
【0283】
特定の実施態様では、本発明は、
a)GPRC5Dである第1の抗原に結合する、第1および第3の抗原結合部分であって、各々配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む(従来の)Fab分子である、第1および第3の抗原結合部分;
b)CD3である第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、配列番号35のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号36のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含み、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
d)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
a)の第1および第3の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1および第3の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
さらに、a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびa)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0284】
特定の実施態様では、本発明は、
a)GPRC5Dである第1の抗原に結合する、第1および第3の抗原結合部分であって、各々配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む(従来の)Fab分子である、第1および第3の抗原結合部分;
b)CD3である第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、配列番号35のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号36のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含み、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって置き換えられているFab分子である、第2の抗原結合部分;
c)第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、
a)の第1および第3の抗原結合部分の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)(最も特にはアルギニン(R)によって)、a)の第1および第3の抗原結合部分の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
さらに、a)の第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてb)の第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、b)の第2の抗原結合部分およびa)の第3の抗原結合部分が各々、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合している。
【0285】
本発明のこの態様による一実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、366位のスレオニン残基がトリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、407位のチロシン残基がバリン残基で置き換えられ(Y407V)、任意選択的に366位のスレオニン残基がセリン残基で置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられる(L368A)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0286】
本発明のこの態様によるさらなる実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいてさらに、354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられる(S354C)か、または356位のグルタミン酸残基がシステイン残基で置き換えられ(E356C)(特に354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられる)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいてさらに、349位のチロシン残基がシステイン残基で置き換えられる(Y349C)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0287】
本発明のこの態様によるまた別の実施態様では、Fcドメインの第1および第2のサブユニットの各々において、234位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられ(L234A)、235位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられ(L235A)、329位のプロリン残基がグリシン残基で置き換えられる(P329G)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0288】
本発明のこの態様によるまた別の実施態様では、FcドメインはヒトIgG Fcドメインである。
【0289】
特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、配列番号17の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号18の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号19の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、および配列番号20の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。さらに特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、配列番号17のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号18のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号19のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および配列番号20のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。
【0290】
別の特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、配列番号21の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号22の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号23の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、および配列番号24の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。さらに特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、配列番号21のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号22のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号23のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および配列番号24のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。
【0291】
Fcドメイン
特定の実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む。二重特異性抗原結合分子に関連して本明細書に記載されるFcドメインの特徴は、本発明の抗体に含まれるFcドメインに等しく当てはまる。
【0292】
二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖からなる。例えば、免疫グロブリン G(IgG)分子のFcドメインはダイマーであり、その各サブユニットはCH2およびCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む。Fcドメインの2つのサブユニットは、互いに安定に会合することができる。一実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、多くて1つのFcドメインを含む。
【0293】
一実施態様において、二重特異性抗原結合分子のFcドメインはIgG Fcドメインである。特定の一実施態様では、FcドメインはIgGのFcドメインである。別の実施態様では、FcドメインはIgGのFcドメインである。さらに特定の実施態様では、Fcドメインは、S228位(Kabat EUインデックス番号付け)にアミノ酸置換を、特にアミノ酸置換S228Pを含む、IgGのFcドメインである。このアミノ酸置換は、IgG抗体のin vivoでのFabアーム交換を減少させる(Stubenrauch et al., Drug Metabolism and Disposition 38, 84-91 (2010)参照)。さらなる特定の一実施態様では、FcドメインはヒトFcドメインである。さらに特定の実施態様では、FcドメインはヒトIgG Fcドメインである。ヒトIgG Fc領域の例示的配列は、配列番号42に提示されている。
【0294】
ヘテロダイマー化を促すFcドメインの修飾
本発明による二重特異性抗原結合分子は複数の異なる抗原結合部分を含み、これらはFcドメインの2つのサブユニットの一方または他方に融合することができ、したがってFcドメインの2つのサブユニットは通常、2つの非同一のポリペプチド鎖に含まれている。これらポリペプチドの組換え共発現とそれに続く二量体化は、2つのポリペプチドの複数の可能な組み合わせをもたらす。したがって、組換え生産における二重特異性抗原結合分子の収率および純度を改善するためには、二重特異性抗原結合分子のFcドメインに所望のポリペプチドの会合を促す修飾を導入することが有利であろう。
【0295】
すなわち、特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促す修飾を含んでいる。ヒトIgGのFcドメインの2つのサブユニット間でタンパク質-タンパク質相互作用が最大である部位は、FcドメインのCH3ドメイン内にある。したがって、一実施態様では、前記修飾はFcドメインのCH3ドメイン内で行われる。
【0296】
ヘテロダイマー化を実施するために、FcドメインのCH3ドメインにおける修飾のための複数の手法が存在し、それらについては例えば国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、EP第1870459号、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012058768号、国際公開第2013157954号、国際公開第2013096291号に詳細な記載がある。典型的には、そのような手法のすべてにおいて、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインおよびFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインは共に、各CH3ドメイン(またはそれを含む重鎖)がそれ自体ともはやホモダイマー化することがないが、相補的に操作された他のCH3ドメインとヘテロダイマー化するように(よって第1と第2のCH3ドメインがヘテロダイマー化し、2つの第1のCH3ドメイン間または2つの第2のCH3ドメイン間にホモダイマーが形成されないように)相補的に操作される。重鎖ヘテロダイマー化の改善のためのこれら様々な手法は、重鎖/軽鎖誤対合およびベンズ・ジョーンズ型副生成物を減少させる二重特異性抗原結合分子における重鎖-軽鎖修飾(例えば1つの結合アームにおけるVHとVLの交換/置き換えおよびCH1/CL界面における、反対の電荷を有する荷電アミノ酸の置換の導入)と組み合わせた様々な代替法として考慮される。
【0297】
特定の実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する前記修飾は、いわゆる「ノブ・イントゥー・ホール」修飾であり、Fcドメインの2つのサブユニットの一方に「ノブ」修飾を、Fcドメインの2つのサブユニットの他方に「ホール」修飾を含む。
【0298】
「ノブ・イントゥー・ホール」技術は、例えば米国特許第5731168号;同第7695936号;Ridgway et al., Prot Eng 9, 617-621 (1996)および Carter, J Immunol Meth 248, 7-15 (2001)に記載されている。一般に、この方法は、隆起(「ノブ」)を第1のポリペプチドの界面に導入し、対応する空洞(「ホール」)を第2のポリペプチドの界面に導入することを伴い、その結果隆起が空洞内に配置されて、ヘテロ二量体形成を促進し、かつ、ホモ二量体形成を妨げることができるようになる。隆起は、第1のポリペプチドの界面からの小さなアミノ酸側鎖をより大きな側鎖(例えばチロシンまたはトリプトファン)で置き換えることにより構築される。大きなアミノ酸側鎖をより小さなもの(例えばアラニンまたはスレオニン)で置き換えることにより、隆起と同一または類似のサイズの代償的な空洞が第2のポリペプチドの界面に作られる。
【0299】
このように、特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子のFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部の空洞内に配置可能な隆起が生成され、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部の隆起を配置可能な空洞が生成される。
【0300】
好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)およびトリプトファン(W)からなる群より選択される。
【0301】
好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)およびバリン(V)からなる群より選択される。
【0302】
隆起および空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を、例えば部位特異的突然変異誘発により、またはペプチド合成により変化させることにより作製することができる。
【0303】
特定の実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニット(「ノブ」サブユニット)(のCH3ドメイン)において、366位のスレオニン残基がトリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニット(「ホール」サブユニット)(のCH3ドメイン)において、407位のチロシン残基がバリン残基で置き換えられる(Y407V)。一実施態様では、Fcドメインの第2のサブユニットにおいてさらに、366位のスレオニン残基がセリン残基で置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられる(L368A)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0304】
またさらなる実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいてさらに、354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられる(S354C)か、または356位のグルタミン酸残基がシステイン残基で置き換えられ(E356C)(特に354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられる)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいてさらに、349位のチロシン残基がシステイン残基によって置き換えられる(Y349C)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。これら2つのシステイン残基の導入により、Fcドメインの2つのサブユニット間にジスルフィド架橋が形成され、さらにダイマーを安定させる(Carter, J Immunol Methods 248, 7-15 (2001))。
【0305】
特定の実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換S354CおよびT366Wを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換Y349C、T366S、L368AおよびY407Vを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0306】
特定の実施態様では、第2の抗原(例えば活性化T細胞抗原)に結合する抗原結合部分は、(任意選択的に、GPRC5Dに結合する第1の抗原結合部分および/またはペプチドリンカーを介して)Fcドメインの第1のサブユニット(「ノブ」修飾を含む)に融合する。理論に縛られることを望まないが、活性化T細胞抗原などの第2の抗原に結合する抗原結合部分の、Fcドメインのノブ含有サブユニットへの融合は、活性化T細胞抗原に結合する2つの抗原結合部分を含む抗原結合分子の生成を(さらに)最小化するであろう(2つのノブ含有ポリペプチドの立体的衝突)。
【0307】
ヘテロダイマー化を実施するためのCH3修飾の他の技術が、本発明による代替法として考慮されており、例えば国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、EP第1870459号、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012/058768号、国際公開第2013/157954号、国際公開第2013/096291号に記載されている。
【0308】
一実施態様では、EP第1870459号に記載されたヘテロダイマー化手法が代替的に使用される。この手法は、Fcドメインの2つのサブユニット間のCH3/CH3ドメイン界面内の特定のアミノ酸位置に反対の電荷を有する荷電アミノ酸の導入に基づいている。本発明の二重特異性抗原結合分子の1つの好ましい実施態様は、(Fcドメインの)2つのCH3ドメインの一方におけるアミノ酸変異R409D;K370EおよびFcドメインのCH3ドメインの他方におけるアミノ酸変異D399K;E357K(Kabat EUインデックスによる番号付け)である。
【0309】
別の実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内にアミノ酸変異T366Wを、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内にアミノ酸変異T366S、L368A、Y407Vを含み、さらにはFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内にアミノ酸変異R409D;K370Eを、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内にアミノ酸変異D399K;E357K(Kabat Euインデックスによる番号付け)を含む。
【0310】
別の実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異S354C、T366W、およびFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vを含むか、または前記二重特異性抗原結合分子は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異Y349C、T366W、およびFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異S354C、T366S、L368A、Y407Vと、さらにFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異R409D;K370EおよびFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異D399K;E357K(すべてKabat Euインデックスによる番号付け)を含む。
【0311】
一実施態様では、国際公開第2013/157953号に記載されたヘテロダイマー化手法が代替的に使用される。一実施態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Kを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異L351D(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。さらなる実施態様では、第1のCH3ドメインはさらなるアミノ酸変異L351Kを含む。さらなる実施態様では、第2のCH3ドメインは、Y349E、Y349DおよびL368Eより選択されるアミノ酸変異(好ましくはL368E)(Kabat Euインデックスによる番号付け)をさらに含む。
【0312】
一実施態様では、国際公開第2012/058768号に記載されたヘテロダイマー化手法が代替的に使用される。一実施態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異T366A、K409Fを含む。さらなる実施態様では、第2のCH3ドメインは、T411、D399、S400、F405、N390またはK392の位置に、例えばa)T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411EまたはT411W、b)D399R、D399W、D399YまたはD399K、c)S400E、S400D、S400RまたはS400K、d)F405I、F405M、F405T、F405S、F405VまたはF405W、e)N390R、N390KまたはN390D、f)K392V、K392M、K392R、K392L、K392FまたはK392Eから選択される、さらなるアミノ酸変異(Kabat Euインデックスによる番号付け)を含む。さらなる実施態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異T366V、K409Fを含む。さらなる実施態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Aを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異T366A、K409Fを含む。さらなる実施態様では、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異K392E、T411E、D399RおよびS400R(Kabat Euインデックスによる番号付け)をさらに含む。
【0313】
一実施態様では、例えば368および409からなる群より選択される位置(Kabat EUインデックスによる番号付け)にアミノ酸修飾を用いる、国際公開第2011/143545号に記載されたヘテロダイマー化の手法が代替的に使用される。
【0314】
一実施態様では、上述のノブ・イントゥー・ホール技術をやはり使用する、国際公開第2011/090762号に記載のヘテロダイマー化手法が代替的に使用される。
【0315】
一実施態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Wを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Aを含む。一実施態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Yを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407T(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0316】
一実施態様では、二重特異性抗原結合分子またはそのFcドメインはIgGサブクラスであり、国際公開第2010/129304号に記載されたヘテロダイマー化手法が代替的に使用される。
【0317】
代替的な一実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促す修飾は、例えば、国際公開第2009/089004号に記載されているような静電ステアリング効果を媒介する修飾を含む。一般に、この方法は、ホモ二量体形成は静電的に不利になるがヘテロ二量体化が静電的に有利になるように、2つのFcドメインサブユニットの界面の1つ以上のアミノ酸残基を荷電アミノ酸残基によって置き換えることを伴う。このような一実施態様では、第1のCH3ドメインは、負に帯電したアミノ酸でのK392またはN392のアミノ酸置換(例えばグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)、好ましくはK392DまたはN392D)を含み、第2のCH3ドメインは、正に帯電したアミノ酸でのD399、E356、D356またはE357のアミノ酸置換(例えばリジン(K)またはアルギニン(R)、好ましくはD399K、E356K、D356KまたはE357K、さらに好ましくはD399KおよびE356K)を含む。さらなる実施態様では、第1のCH3ドメインは、負に帯電したアミノ酸でのK409またはR409のアミノ酸置換(例えばグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)、好ましくはK409DまたはR409D)をさらに含む。さらなる実施態様では、第1のCH3ドメインは、負に帯電したアミノ酸(例えばグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D))でのK439および/またはK370のアミノ酸置換(すべてKabat EUインデックスによる番号付け)を追加的にまたは代替的に含む。
【0318】
またさらなる実施態様では、国際公開第2007/147901号に記載されたヘテロダイマー化手法が代替的に使用される。一実施態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異K253E、D282KおよびK322Dを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異D239K、E240KおよびK292Dを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0319】
さらに別の実施態様では、国際公開第2007/110205号に記載されたヘテロダイマー化手法を代替的に使用することができる。
【0320】
一実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換K392DおよびK409Dを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換D356KおよびD399K(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0321】
Fc受容体の結合および/またはエフェクター機能を低減させるFcドメインの修飾
Fcドメインは、二重特異性抗原結合分子(または抗体)に望ましい薬物動態特性を付与し、そのような特性には、標的組織中への良好な蓄積に寄与する長い血清半減期、および望ましい組織-血液分配比が含まれる。しかしながら、同時に、Fcドメインは、好ましい抗原保有細胞へではなく、Fc受容体を発現する細胞への二重特異性抗原結合分子(または抗体)の望ましくない標的化をもたらし得る。さらには、Fc受容体シグナル伝達経路の共活性化は、活性化T細胞特性(例えば、第2の抗原結合部分が活性化T細胞抗原に結合する二重特異性抗原結合分子の実施態様において)および二重特異性抗原結合分子の長い半減期と組み合わせて、サイトカイン放出をもたらす可能性があり、その結果、サイトカイン受容体の過剰な活性化および全身投与時の重篤な副作用が生じる。T細胞以外の(Fc受容体を有する)免疫細胞の活性化は、例えばNK細胞によってT細胞が破壊される可能性があるため、二重特異性抗原結合分子(特に、第2の抗原結合部分が活性化T細胞抗原に結合する二重特異性抗原結合分子)の有効性を低下させる可能性さえある。
【0322】
したがって、特定の実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、天然のIgGのFcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下および/またはエフェクター機能の低下を呈する。このような一実施態様では、Fcドメイン(または前記Fcドメインを含む二重特異性抗原結合分子)は、天然のIgG Fcドメイン(または天然のIgG Fcドメインを含む二重特異性抗原結合分子)と比較して、50%未満、好ましくは20%未満、さらに好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満の、Fc受容体に対する結合親和性を呈し、かつ/または、天然のIgG Fcドメイン(または天然のIgGFcドメインを含む二重特異性抗原結合分子)と比較して、50%未満、好ましくは20%未満、さらに好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満の、エフェクター機能を呈する。一実施態様では、Fcドメイン(または前記Fcドメインを含む二重特異性抗原結合分子)は、Fc受容体に実質的に結合しない、かつ/またはエフェクター機能を誘導しない。特定の実施態様では、Fc受容体はFcγ受容体である。一実施態様において、Fc受容体はヒトFc受容体である。一実施態様において、Fc受容体は活性化Fc受容体である。特定の一実施態様では、Fc受容体は活性化ヒトFcγ受容体であり、さらに具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRIまたはFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。一実施態様では、エフェクター機能は、CDC、ADCC、ADCPおよびサイトカイン分泌の群から選択される1つまたは複数である。特定の一実施態様では、エフェクター機能はADCCである。一実施態様では、Fcドメインは、天然IgG Fcドメインと比較して実質的に同様の、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性を呈する。FcRnに対する実質的に同様の結合は、Fcドメイン(または前記Fcドメインを含む二重特異性抗原結合分子)が天然IgG Fcドメイン(または天然IgG Fcドメインを含む二重特異性抗原結合分子)の約70%、特に約80%を上回る、さらには特に約90%を上回る、FcRnに対する結合親和性を呈するとき、達成される。
【0323】
特定の実施態様では、Fcドメインは、非操作型Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性が低下し、かつ/またはエフェクター機能が低下するように操作される。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、FcドメインのFc受容体に対する結合親和性および/またはエフェクター機能を低下させる1つ以上のアミノ酸変異を含む。典型的には、同じ1つ以上のアミノ酸変異がFcドメインの2つのサブユニットの各々に存在する。一実施態様では、アミノ酸変異はFcドメインのFc受容体に対する結合親和性を低下させる。一実施態様では、アミノ酸変異は、FcドメインのFc受容体に対する結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1、または少なくとも10分の1低下させる。FcドメインのFc受容体に対する結合親和性を低下させる複数のアミノ酸変異が存在する実施態様では、これらアミノ酸変異の組合せにより、FcドメインのFc受容体に対する結合親和性が、少なくとも10分の1、少なくとも20分の1、または少なくとも50分の1低下し得る。一実施態様では、操作されたFcドメインを含む二重特異性抗原結合分子は、非操作型Fcドメインを含む二重特異性抗原結合分子と比較して、20%未満、特に10%未満、さらに特には5%未満のFc受容体に対する結合親和性を呈する。特定の一実施態様では、Fc受容体はFcγ受容体である。いくつかの実施態様では、Fc受容体はヒトFc受容体である。いくつかの実施態様では、Fc受容体は活性化Fc受容体である。特定の実施態様では、Fc受容体は活性化ヒトFcγ受容体であり、より具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRIまたはFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。好ましくは、これら受容体の各々への結合は低減する。いくつかの実施態様では、補体成分に対する結合親和性、特にC1qに対する結合親和性も低減する。一実施態様では、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性は低減しない。FcRnに対する実質的に同様の結合、すなわち、前記受容体に対するFcドメインの結合親和性の保存は、Fcドメイン(または前記Fcドメインを含む二重特異性抗原結合分子)がFcドメインの非操作型形態(またはFcドメインの前記非操作型形態を含む二重特異性抗原結合分子)のFcRnに対する結合親和性の約70%を上回る親和性を呈するとき、達成される。Fcドメイン、または前記Fcドメインを含む本発明の二重特異性抗原結合分子は、約80%超、場合によっては約90%超のこのような親和性を呈し得る。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、非操作型Fcドメインと比較してエフェクター機能が低下するように操作される。エフェクター機能の低下には、限定されないが、補体依存性細胞傷害(CDC)の低減、抗体依存性T細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の低減、抗体依存性細胞貪食(ADCP)の低減、サイトカイン分泌の低減、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込みの低減、NK細胞への結合の低減、マクロファージへの結合の低減、単球への結合の低減、多形核細胞への結合の低減、アポトーシスを誘導する直接的シグナル伝達の低減、標的結合抗体の架橋の低減、樹状細胞成熟の低減、またはT細胞プライミングの低減のうちの1または複数が含まれ得る。一実施態様では、エフェクター機能の低下は、CDCの低減、ADCCの低減、ADCPの低減、およびサイトカイン分泌の低減からなる群より選択される1または複数である。特定の一実施態様では、エフェクター機能の低下はADCCの低減である。一実施態様では、低減したADCCは、非操作型Fcドメイン(または非操作型Fcドメインを含む二重特異性抗原結合分子)によって誘導されるADCCの20%未満である。
【0324】
一実施態様では、FcドメインのFc受容体に対する結合親和性および/またはエフェクター機能を低下させるアミノ酸の変異は、アミノ酸置換である。一実施態様では、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331およびP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。さらに具体的な実施態様では、Fcドメインは、L234、L235およびP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。いくつかの実施態様では、Fcドメインは、アミノ酸置換L234AおよびL235Aを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。そのような一実施態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。一実施態様において、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含む。さらに具体的な実施態様では、アミノ酸置換は、P329AまたはP329G、特にP329Gである(Kabat EUインデックスによる番号付け)。一実施態様において、Fcドメインは、P329位に、ならびにE233、L234、L235、N297およびP331より選択される位置にさらなるアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。さらに具体的な実施態様では、さらなるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297DまたはP331Sである。特定の実施態様では、Fcドメインは、P329、L234およびL235位にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。さらに特定の実施態様では、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235AおよびP329G (「P329G LALA」、「PGLALA」 または「LALAPG」)を含む。具体的には、特定の実施態様では、Fcドメインの各サブユニットは、アミノ酸置換L234A、L235AおよびP329Gを含み (Kabat EUインデックス番号付け)、すなわちFcドメインの第1および第2のサブユニットの各々では、234位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられており(L234A)、235位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられており(L235A)、329位のプロリン残基がグリシン残基で置き換えられている(P329G)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0325】
そのような実施態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。アミノ酸置換の「P329G LALA」の組み合わせは、参照によりその全体が本明細書に援用される国際公開第2012/130831号に記載のように、ヒトIgG FcドメインのFcγ受容体(および補体)結合をほぼ完全に無効にする。国際公開第2012/130831号には、このような変異体Fcドメインを調製する方法、およびFc受容体結合またはエフェクター機能といったその特性を決定する方法も記載されている。
【0326】
IgG抗体は、IgG抗体と比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下およびエフェクター機能の低下を呈する。よって、いくつかの実施態様では、本発明の二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、IgGのFcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。一実施態様では、IgG Fcドメインは、S228位におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228Pを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。一実施態様では、IgGFcドメインは、Fc受容体に対するその結合親和性および/またはそのエフェクター機能をさらに低下させるために、L235位におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換L235Eを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。別の実施態様では、IgG Fcドメインは、P329位におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換P329Gを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。特定の実施態様では、IgG Fcドメインは、S228、L235およびP329位におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228P、L235EおよびP329Gを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。このようなIgG Fcドメインの突然変異体およびそれらのFcγ受容体結合特性は、国際公開第2012/130831号に記載されており、これは参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0327】
特定の実施態様では、天然のIgG Fcドメインと比較してFc受容体に対する結合親和性の低下および/またはエフェクター機能の低下を呈するFcドメインは、アミノ酸置換L234A、L235Aおよび任意選択的にP329Gを含むヒトIgG Fcドメインであるか、またはアミノ酸置換S228P、L235E、および任意選択的にP329Gを含むヒトIgG Fcドメインである(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0328】
特定の実施態様ではFcドメインのNグリコシル化は排除されている。このような一実施態様では、FcドメインはN297位におけるアミノ酸置換、特にアスパラギンをアラニン(N297A)またはアスパラギン酸(N297D)により置き換えるアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0329】
上記および国際公開第2012/130831号において記載されているFcドメインに加えて、Fc受容体結合および/またはエフェクター機能の低下を有するFcドメインには、Fcドメイン残基238、265、269、270、297、327および329の1または複数の置換を有するものも含まれる(米国特許第6737056号)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。このようなFc突然変異体には、残基265および297のアラニンへの置換を有する、いわゆる「DANA」Fc突然変異体を含め、アミノ酸265、269、270、297および327位のうちの2つ以上において置換を有するFc突然変異体が含まれる(米国特許第7332581号)。
【0330】
変異体Fcドメインは、当技術分野で周知の遺伝学的または化学的方法を用いるアミノ酸の削除、置換、挿入または修飾により調製することができる。遺伝学的方法には、DNAコード配列の部位特異的突然変異、PCR、遺伝子合成等が含まれ得る。ヌクレオチドの正しい変化は、例えば配列決定により検証することができる。
【0331】
Fc受容体への結合は、例えばELISAにより、またはBIAcore器具(GEヘルスケア)などの標準的な器具を用いる表面プラズモン共鳴(SPR)により容易に決定することができ、このようなFc受容体は組換え発現により得ることができる。代替的に、Fcドメイン、またはFcドメインを含む二重特異性抗原結合分子のFc受容体に対する結合親和性は、特定のFc受容体を発現することが知られている細胞株、例えばFcγIIIa受容体を発現するヒトNK細胞を用いて評価してもよい。
【0332】
Fcドメイン、またはFcドメインを含む二重特異性抗原結合分子のエフェクター機能は、当技術分野で既知の方法により測定することができる。目的の分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイの例が、米国特許第5500362号;Hellstrom et al. Proc Natl Acad Sci USA 83, 7059-7063 (1986) およびHellstrom et al., Proc Natl Acad Sci USA 82, 1499-1502 (1985);米国特許第5821337号;Bruggemann et al., J Exp Med 166, 1351-1361 (1987)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ法を用いてもよい(例えばフローサイトメトリー用のACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(カリフォルニア州マウンテンビューのCellTechnology社);およびCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(ウィスコンシン州マディソンのPromega)参照)。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。代替的または追加的に、目的の分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al., Proc Natl Acad Sci USA 95, 652-656 (1998)に開示されているような動物モデルにおいて、in vivoで評価することができる。
【0333】
いくつかの実施態様では、補体成分への、特にC1qFcドメインへの結合が低減する。したがって、Fcドメインがエフェクター機能が低下するように操作されているいくつかの実施態様では、前記エフェクター機能の低下はCDCの低下を含む。C1q結合アッセイは、Fcドメイン、またはFcドメインを含む二重特異性抗原結合分子がC1qに結合できるかどうかと、それによりCDC活性を有するかどうかを決定するために実施することができる。例えば、国際公開第2006/029879号および国際公開第2005/100402号のC1qおよびC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996); Cragg, et al., Blood 101:1045-1052 (2003);およびCragg, and Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)。
【0334】
FcRn結合、およびin vivoでのクリアランス/半減期の決定も、当分野で既知の方法を用いて行うことができる(例えば、Petkova, S.B. et al.、Int’l. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006);国際公開第2013/120929号を参照)。
【0335】
ポリヌクレオチド
本発明はさらに、本明細書に記載の抗体または二重特異性抗原結合分子をコードする単離されたポリヌクレオチドまたはその断片を提供する。いくつかの実施態様において、前記断片は抗原結合断片である。
【0336】
本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドは、抗体または二重特異性抗原結合分子全体をコードする単一のポリヌクレオチドとして、または共発現される複数(例えば2以上)のポリヌクレオチドとして発現させてもよい。共発現されるポリヌクレオチドによりコードされたポリペプチドは、例えばジスルフィド結合または他の手段を介して会合し、機能性抗体または二重特異性抗原結合分子を形成することができる。例えば、抗体または二重特異性抗原結合分子の軽鎖部分は、抗体または二重特異性抗原結合分子の重鎖を含む抗体または二重特異性抗原結合分子の部分とは別個のポリヌクレオチドによってコードされ得る。共発現されるとき、重鎖ポリペプチドは軽鎖ポリペプチドと会合して抗体または二重特異性抗原結合分子を形成する。別の例では、2つのFcドメインサブユニットの一方および任意選択的に1つ以上のFab分子(の一部)を含む抗体または二重特異性抗原結合分子の部分は、2つのFcドメインサブユニットの他方および任意選択的にFab分子(の一部)を含む抗体または二重特異性抗原結合分子の部分とは別のポリヌクレオチドによってコードされ得る。共発現されるとき、Fcドメインサブユニットは会合してFcドメインを形成する。
【0337】
いくつかの実施態様では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書に記載の本発明による抗体または二重特異性抗原結合分子全体をコードする。他の実施態様では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書に記載の本発明による抗体または二重特異性抗原結合分子に含まれるポリペプチドをコードする。
【0338】
特定の実施態様では、ポリヌクレオチドまたは核酸はDNAである。他の実施態様では、本発明のポリヌクレオチドはRNA、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)の形態のRNAである。本発明のRNAは、単鎖でも二本鎖でもよい。
【0339】
組換え法
本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は、例えば固相ペプチド合成(例えばメリフィールド固相合成法)または組換え生産によって得ることができる。組換え生産の場合、例えば上述の通り、抗体または二重特異性抗原結合分子(断片)をコードする1つ以上のポリヌクレオチドが単離され、宿主細胞内でのさらなるクローン化および/または発現のために1つ以上のベクターに挿入される。このようなポリヌクレオチドは、一般的な手順を使用して容易に単離および配列決定することができる。一実施態様において、本発明のポリヌクレオチドの1または複数を含むベクタ-、好ましくは発現ベクターが提供される。当業者によく知られている方法を使用して、適切な転写/翻訳制御シグナルとともに、抗体または二重特異性抗原結合分子(断片)のコード配列を含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法には、in vitroでの組換えDNA技術、合成技術およびin vivoでの組換え/遺伝子組換えが含まれる。例えば、Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y. (1989); およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and Wiley Interscience, N.Y (1989)に記載される技術を参照。発現ベクターはプラスミド、ウイルスの一部であっても、または核酸断片であってもよい。発現ベクターは、抗体または二重特異性抗原結合分子(断片)をコードするポリヌクレオチド(すなわちコード化領域)が、プロモーターおよび/または他の転写もしくは翻訳制御エレメントと機能的に関連付けられてクローン化される発現カセットを含む。本発明で使用される場合、「コード化領域」は、アミノ酸に翻訳されるコドンからなる核酸の一部である。「終止コドン」(TAG、TGAまたはTAA)はアミノ酸に翻訳されないが、存在する場合にはコード化領域の一部と考えられ、しかし、任意の隣接配列、例えばプロモーター、リボソーム結合部位、転写ターミネーター、イントロン、5’および3’非翻訳領域等はコード化領域の一部ではない。2つ以上のコード化領域が、単一のポリヌクレオチドコンストラクト、例えば単一のベクター上に、または別々のポリヌクレオチドコンストラクトの中、例えば別の(異なる)ベクター上に存在することができる。さらに、任意のベクターは、単一のコード化領域を含んでいてもよいし、2つ以上のコード化領域を含んでいてもよく、例えば本発明のベクターは、タンパク質分解性切断を介して翻訳後または翻訳と同時に最終タンパク質中に分離された1または複数のポリペプチドをコードしてもよい。加えて、本発明のベクター、ポリヌクレオチドまたは核酸は、本発明の抗体もしくは二重特異性抗原結合分子(断片)またはその変異体もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチドに融合しているかまたは融合していないかのいずれかである異種コード化領域をコードし得る。異種コード領域には、限定されないが、例えば分泌シグナルペプチドまたは異種性機能ドメインなどの特殊なエレメントまたはモチーフが含まれる。機能的関連付けとは、ポリペプチドなどの遺伝子産物のコード化領域が、遺伝子産物の発現を調節配列の影響下または制御下に置くような方法で、1つまたは複数の調節配列と関連している場合である。2つのDNA断片(ポリペプチドをコードする領域とそれに関連するプロモーターなど)は、プロモーター機能の誘導が、所望の遺伝子産物をコードするmRNAの転写をもたらす場合、および2つのDNA断片間の連結の性質が、遺伝子産物の発現を指示する発現制御配列の能力を妨げないか、または転写されるDNAテンプレートの能力を妨げない場合、「機能的に関連している」という。したがって、プロモーター領域は、プロモーターがその核酸の転写をもたらすことができる場合に、ポリペプチドをコードする核酸に機能的に関連しているであろう。プロモーターは所定の細胞においてのみDNAの実質的な転写を導く細胞特異的プロモーターであってもよい。プロモーター以外に、他の転写調節エレメント、例えばエンハンサー、オペレーター、リプレッサーおよび転写終結シグナルが、細胞特異的転写を指示するポリヌクレオチドと機能的に関連し得る。適切なプロモーターおよび他の転写制御領域は本明細書に開示されている。様々な転写調節領域が当業者に知られている。これらには、限定されないが、脊椎動物細胞において機能する転写制御領域、例えば、限定されないが、サイトメガロウイルス由来のプロモーターおよびエンハンサーセグメント(例えばイントロン-Aと連動した最初期プロモーター)、サルウイルス40(例えば初期プロモーター)、およびレトロウイルス(例えばラウス肉腫ウイルスなど)が含まれる。他の転写制御領域は、脊椎動物の遺伝子由来のもの、例えばアクチン、熱ショックタンパク質、ウシ成長ホルモンおよびウサギ-βグロビン、ならびに、真核細胞における遺伝子発現を制御することができる他の配列を含む。さらなる適切な転写制御領域には、組織特異的プロモーターおよびエンハンサー、ならびに誘導性プロモーター(例えばプロモーター誘導性テトラサイクリン)が含まれる。同様に、様々な翻訳調節エレメントが当業者に知られている。これらには、限定されないが、リボソーム結合部位、翻訳開始および終結コドン、ならびにウイルス系由来のエレメント(特に、CITE配列とも呼ばれる、配列内リボソーム進入部位(IRES))が含まれる。発現カセットは、例えば、複製起点および/またはレトロウイルスの長末端反復配列(LTR)もしくはアデノ随伴ウイルス(AAV)の末端反転型配列(ITR)などの染色体組み込みエレメントといった他の特徴を含んでいてもよい。
【0340】
本発明のポリヌクレオチドおよび核酸コード領域は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの分泌を指示する分泌またはシグナルペプチドをコードする追加のコード領域と関連していてもよい。例えば、抗体または二重特異性抗原結合分子の分泌が望まれる場合、シグナル配列をコードするDNAが、本発明の抗体もしくは二重特異性抗原結合分子またはその断片をコードする核酸の上流に配置されてもよい。シグナル仮説によると、哺乳類細胞によって分泌されるタンパク質は、成長中のタンパク質鎖の粗面小胞体を横切る排出輸送が開始されると成熟タンパク質から切断されるシグナルペプチドまたは分泌リーダー配列を有する。当業者は、脊椎動物細胞によって分泌されるポリペプチドが通常、ポリペプチドの分泌型または「成熟」型を生産するために翻訳されたポリペプチドから切断されるポリペプチドのN末端に融合されたシグナルペプチドを有することを認識している。特定の実施態様では、天然のシグナルペプチド、例えば免疫グロブリン重鎖もしくは軽鎖シグナルペプチドが使用されるか、またはそれに機能的に関連している、ポリペプチドの分泌を指示する能力を保持するその配列の機能的誘導体が使用される。あるいは、異種哺乳動物シグナルペプチド、またはその機能的誘導体が使用され得る。例えば、野生型リーダー配列は、ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)またはマウスβ-グルクロニダーゼのリーダー配列で置換されていてもよい。
【0341】
後の精製を容易にするために、または抗体もしくは二重特異性抗原結合分子の標識化を補助するために使用できる短タンパク質配列(例えばヒスチジンタグ)をコードするDNAは、ポリヌクレオチドをコードする抗体もしくは二重特異性抗原結合分子(断片)内または末端に含まれてもよい。
【0342】
さらなる実施態様では、本発明の1または複数のポリヌクレオチドを含む宿主細胞が提供される。特定の実施態様では、本発明の1または複数のベクターを含む宿主細胞が提供される。ポリヌクレオチドおよびベクターは、ポリヌクレオチドおよびベクターそれぞれに関連して本明細書に記載される特徴のいずれかを単独でまたは組み合わせて組み込むことができる。そのような一実施態様において、宿主細胞は、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子(の一部)をコードする1または複数のポリヌクレオチドを含む1または複数のベクターを含む(例えばそのようなベクターで形質転換またはトランスフェクトされている)。本明細書で使用される用語「宿主細胞」は、本発明の抗体もしくは二重特異性抗原結合分子またはその断片を生成するように操作できるいずれかの種類の細胞系を指す。抗体または二重特異性抗原結合分子の複製および発現補助に適切な宿主細胞は当分野でよく知られている。このような細胞は特定の発現ベクターで適切にトランスフェクトまたは形質導入することができ、大量のベクター含有細胞を、臨床適用のための十分な量の抗体または二重特異性抗原結合分子を得るために、大規模発酵槽での播種用に増殖させることができる。適切な宿主細胞には、原核生物微生物、例えば大腸菌、または種々の真核生物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、昆虫細胞などが含まれる。例えば、特に、グリコシル化が必要でない場合には、ポリペプチドは細菌中で生産することができる。発現の後、ポリペプチドは可溶性画分において細菌細胞のペーストから単離することができ、さらに精製することができる。原核生物に加えて、糸状菌または酵母菌などの真核微生物は、そのグリコシル化経路が「ヒト化」されており、部分的または完全なヒトグリコシル化パターンを有するポリペプチドの産生を結果として生じる菌類および酵母菌株を含む、ポリペプチドコード化ベクターのための適切なクローン化または発現宿主である。Gerngross, Nat Biotech 22, 1409-1414 (2004),およびLi et al., Nat Biotech 24, 210-215 (2006)を参照。(グリコシル化)ポリペプチドの発現に適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物と脊椎動物)からも得られる。無脊椎動物細胞の例には、植物および昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウイルス株が同定されており、これらは特にヨトウガ細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞と併せて使用することができる。植物細胞培養物を宿主として利用することもできる。例えば、米国特許第5959177号、第6040498号、第6420548号、第7125978号および第6417429号(トランスジェニック植物における抗体生産のためのPLANTIBODIESTM技術を記載)を参照。脊椎動物細胞も宿主として用いることができる。例えば、懸濁液中で増殖するように適合されている哺乳動物細胞株は、有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS-7)で形質転換されたサル腎臓CV1株、ヒト胚腎臓株(例えばGraham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977)に記載の293または293T細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスのセルトリ細胞(例えばMather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980)に記載のTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頚癌細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝細胞(HepG2)、マウス乳腺腫瘍細胞(MMT060562)、TRI細胞(例えばMather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982)に記載)、MRC5細胞、およびFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、dhfrCHO細胞(Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;ならびにYO、NS0、P3X63およびSp2/0等の骨髄腫細胞株が含まれる。タンパク質生産に適した特定の哺乳動物宿主細胞株の総説については、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), p. 255-268 (2003)を参照。宿主細胞には、培養細胞、例えばいくつか挙げると、哺乳動物の培養細胞、酵母細胞、昆虫細胞、細菌細胞および植物細胞が含まれ、さらにはトランスジェニック動物、トランスジェニック植物または培養植物もしくは動物組織内部に含まれる細胞も含まれる。一実施態様において、宿主細胞は、真核生物細胞、好ましくは哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞、またはリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。
【0343】
これらの系において外来遺伝子を発現する標準的な技術が当技術分野で知られている。抗体などの抗原結合ドメインの重鎖または軽鎖のいずれかを含むポリペプチドを発現している細胞は、発現の産物が重鎖および軽鎖の両方を有する抗体となるように、抗体鎖の他方も発現するよう操作することができる。
【0344】
一実施態様において、本発明による抗体または二重特異性抗原結合分子を生産する方法が提供され、この方法は、抗体または二重特異性抗原結合分子の発現に適した条件下で、本明細書に与えられるように、抗体または二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を培養することと、任意選択的に宿主細胞(または宿主細胞培地)から抗体または二重特異性抗原結合分子を回収することとを含む。
【0345】
本発明の二重特異性抗原結合分子(または抗体)の成分は、遺伝的に互いに対して融合することができる。二重特異性抗原結合分子は、その成分が互いに直接的に、またはリンカー配列を介して間接的に融合するように、設計することができる。リンカーの組成および長さは、当技術分野で周知の方法に従って決定することができ、有効性について試験することができる。二重特異性抗原結合分子の異なる成分間のリンカー配列の例は、本明細書に提供される。必要に応じて、融合の個々の成分を分離するための切断部位を取り込むために、追加的配列、例えばエンドペプチダーゼ認識配列も含めることができる。
【0346】
本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は通常、少なくとも、抗原決定基に結合することのできる抗体可変領域を含む。可変領域は、天然または非天然の抗体およびその断片の一部を形成することができ、かつ、そのような抗体および断片に由来し得る。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を生産する方法は、当技術分野で周知である(例えばHarlow and Lane, “Antibodies, a laboratory manual”, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988参照)。天然には存在しない抗体は、固相ペプチド合成を使用して構築することができ、(例えば米国特許第4186567号に記載のように)組換え的に生産することも、または例えば可変重鎖および可変軽鎖を含むコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって得ることができる(例えばMcCaffertyの米国特許第5969108号を参照)。
【0347】
あらゆる動物種の抗体、抗体断片、抗原結合ドメインまたは可変領域を、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子に用いることができる。本発明において有用な非限定的抗体、抗体断片、抗原結合ドメインまたは可変領域は、マウス、霊長類またはヒト起源のものであり得る。抗体または二重特異性抗原結合分子がヒトでの使用を意図する場合、抗体の定常領域がヒトに由来する抗体のキメラ形態を使用することができる。ヒト化または完全ヒト形態の抗体も、当分野でよく知られている方法に従って調製され得る(例えばWinterの米国特許第5565332号を参照)。ヒト化は、様々な方法によって達成することができ、それら方法には、限定されないが、(a)非ヒト(例えばドナー抗体)のCDRを、重要なフレームワーク残基(例えば、良好な抗原結合親和性または抗体機能を保持するために重要であるもの)を保持しているか否かを問わず、ヒト(例えばレシピエント抗体)のフレームワーク領域および定常領域の上にグラフトすること、(b)非ヒト特異性決定領域(SDRまたはa-CDR;抗体-抗原相互作用に重要な残基)のみをヒトフレームワーク領域および定常領域上にグラフトすること、または(c)非ヒト可変ドメイン全体を移植するが、表面残基の置き換えによってヒト様切片で「クローキング」することが含まれる。ヒト化抗体およびそれらの製造方法は、例えばAlmagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)にて総説されており、さらに、例えばRiechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); Queen et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA86:10029-10033 (1989)、米国特許第5821337号、第7527791号、第6982321号および第7087409号、Kashmiri et al., Methods 36:25-34 (2005)(特異性決定領域(SDR)のグラフティングを記述)、Padlan, Mol. Immunol.28:489-498 (1991)(「リサーフェシング」を記述)、Dall’Acqua et al., Methods 36:43-60 (2005)(「FRシャッフリング」を記述)、ならびにOsbourn et al., Methods 36:61-68 (2005)およびKlimka et al., Br. J. Cancer, 83:252-260 (2000)(FRシャッフリングに対する「誘導選択」アプローチを記述)に記載されている。ヒト化に用いることのできるヒトフレームワーク領域には、限定されないが、「ベストフィット」法を用いて選択されるフレームワーク領域(例えばSims et al., J. Immunol. 151:2296 (1993)を参照);軽鎖または重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えばCarter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);およびPresta et al., J. Immunol., 151:2623 (1993)を参照);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域またはヒトの生殖細胞系フレームワーク領域(例えばAlmagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)を参照);およびFRライブラリーのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例えばBaca et al., J. Biol. Chem. 272:10678-10684 (1997)およびRosok et al., J. Biol. Chem. 271:22611-22618 (1996)を参照)が含まれる。
【0348】
ヒト抗体は、当技術分野において既知の様々な技術を用いて生産することができる。ヒト抗体は、van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 368-74 (2001)およびLonberg, Curr. Opin. Immunol. 20:450-459 (2008)に概説されている。ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答してインタクトなヒト抗体またはヒト可変領域を有するインタクトな抗体を生産するように改変されたトランスジェニック動物に、免疫原を投与することによって調製することができる。このような動物は、典型的には内因性免疫グロブリン遺伝子座を置換するか、または染色体外に存在するかもしくは動物の染色体にランダムに組み込まれているヒト免疫グロブリン遺伝子座のすべてまたは一部を含む。このようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、通常は不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の総説については、Lonberg, Nat. Biotech.23:1117-1125 (2005)を参照。例えばXENOマウスTM技術を記載している米国特許第6075181号および同第6150584号、HuMab(登録商標)技術を記載している米国特許第5770429号、K-M マウス(登録商標)技術を記載している米国特許第7041870号、およびVelociマウス(登録商標)技術を記載している米国特許出願公開第2007/0061900号も参照されたい。このような動物により生成されるインタクトな抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることにより、さらに改変され得る。
【0349】
ヒト抗体は、ハイブリドーマに基づく方法によって作製することもできる。ヒトモノクローナル抗体の生産のためのヒト骨髄腫およびマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株が記述されている。(例えばKozbor J. Immunol., 133: 3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, p. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);およびBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991)を参照)また、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術により生成されるヒト抗体もLi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)に記載されている。さらなる方法は、例えば、米国特許第7189826号 (ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の生産を記載)およびNi, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載)に記載されるものを含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)は、Vollmers and Brandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005)およびVollmers and Brandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)にも記載されている。
【0350】
ヒト抗体は、本明細書に記載されるように、ヒト抗体ライブラリーからの単離によって生成されてもよい。
【0351】
本発明に有用な抗体は、所望の活性(複数可)を有する抗体のコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。コンビナトリアルライブラリーをスクリーニングするための方法は、例えば、Lerner et al. in Nature Reviews 16:498-508 (2016)に総説がある。例えば、ファージディスプレイライブラリーを作成して所望の結合特性を有する抗体のそのようなライブラリーをスクリーニングするための種々の方法が、当技術分野で既知である。このような方法は、例えばFrenzel et al. in mAbs8:1177-1194 (2016); Bazan et al., Human Vaccines and Immunotherapeutics8:1817-1828 (2012)およびZhao et al.. Critical Reviews in Biotechnology 36:276-289 (2016)、ならびにHoogenboom et al., Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O’Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001)およびMarks and Bradbury, Methods in Molecular Biology 248:161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003)に総説がある。
【0352】
特定のファージディスプレイ法において、VHおよびVL遺伝子のレパートリーを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により個別にクローン化し、ファージライブラリーにランダムに再結合させ、その後、Winter et al., Annual Review of Immunology 12: 433-455 (1994)に記載されるように、抗原結合ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは通常、抗体断片を、単鎖Fv(scFv)断片またはFab断片のいずれかとして表示する。免疫化された供給源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要なしに、免疫原に対して高親和性の抗体を提供する。代替的に、GriffithsらによるEMBO Journal 12: 725-734 (1993)に記載されるように、ナイーブレパートリーを(例えばヒトから)クローン化して、免疫化無しで、広範囲の非自己抗原および自己抗原に対して抗体の単一起源を提供することができる。最後に、HoogenboomおよびWinterによるJournal of Molecular Biology 227: 381-388 (1992)によって記載されているように、幹細胞から再配列されていないV遺伝子セグメントをクローン化し、ランダム配列を含むPCRプライマーを用いて可変性に富むCDR3領域をコードし、in vitroでの再配列を達成することにより、ナイーブライブラリーを合成的に作成することもできる。ヒト抗体ファージライブラリーを記載している特許公報には、例えば米国特許第5750373号、同第7985840号、同第7785903号および同第8679490号、ならびに米国特許出願公開第2005/0079574号、同第2007/0117126号および同第2007/0292936号が含まれる。所望の活性(複数可)を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングするための当技術分野で既知の方法のさらなる例には、リボソームおよびmRNAディスプレイ、ならびに細菌、哺乳動物細胞、昆虫細胞または酵母細胞での抗体ディスプレイおよび選択のための方法が含まれる。酵母表面ディスプレイのための方法は、例えばScholler et al., Methods in Molecular Biology 503:135-56 (2012)およびCherf et al., Methods in Molecular biology1319:155-175 (2015)、ならびにZhao et al., Methods in Molecular Biology 889:73-84 (2012)に総説されている。リボソームディスプレイのための方法は、例えば、He et al., Nucleic Acids Research 25:5132-5134 (1997) およびHanes et al. , PNAS 94:4937-4942 (1997)に記載されている。
【0353】
本明細書で記載のように調製される抗体または二重特異性抗原結合分子は、当分野で知られている技術、例えば高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー等によって精製され得る。特定のタンパク質を精製するために使用される実際の条件は、一部には正味荷電、疎水性、親水性等の要因に依存し、当業者に明らかであろう。アフィニティークロマトグラフィー精製では、抗体または二重特異性抗原結合分子が結合する抗体、リガンド、受容体または抗原が使用され得る。例えば、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子のアフィニティークロマトグラフィー精製では、プロテインAまたはプロテインGを伴うマトリックスが使用され得る。逐次的なプロテインAまたはGアフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを使用して、本質的に実施例に記載されている抗体または二重特異性抗原結合分子を単離することができる。抗体または二重特異性抗原結合分子の純度は、ゲル電気泳動、高圧液体クロマトグラフィーなどを含む様々な周知の分析方法のいずれかによって決定され得る。
【0354】
アッセイ
本明細書で提供される抗体または二重特異性抗原結合分子が、当技術分野で既知の様々なアッセイによって、その物理的/化学的性質および/または生物学的活性を同定し、スクリーニンし、または特徴付けることができる。
【0355】
アフィニティーアッセイ
Fc受容体または標的抗原に対する抗体または二重特異性抗原結合分子の親和性は、例えば、BIAcore機器(GEヘルスケア)などの標準器具と、組換え発現により得られるような受容体または標的タンパク質とを用いて表面プラズモン共鳴(SPR)により決定することができる。代替的に、異なる受容体または標的抗原に対する抗体または二重特異性抗原結合分子の結合は、特定の受容体または標的抗原を発現する細胞株を用いて、例えばフローサイトメトリー(FACS)により、評価することができる。結合親和性を測定するための具体的な説明的かつ例示的な実施態様は、以下に記載される。
【0356】
一実施態様によれば、Kは、25℃でBIACORE(登録商標)T100マシン(GEヘルスケア)を用いる表面プラズモン共鳴により測定される。
【0357】
Fc部分とFc受容体との相互作用を分析するために、Hisタグを付した組換えFc受容体を抗ペンタHis抗体(Qiagen)でCM5チップ上に固定化して捕捉し、二重特異性コンストラクトを分析物として使用する。簡単に言うと、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、GEヘルスケア)を、供給業者の指示書に従ってN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。抗Penta-His抗体を、10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)で40μg/mlに希釈した後、5μl/minの流量で注入して、およそ6500応答単位(RU)の結合タンパク質を達成する。リガンドの注入後、未反応群をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入する。その後、Fc受容体を4または10nMで60秒間捕捉する。反応速度測定のため、抗体または二重特異性抗原結合分子の4倍の連続希釈液(500nMから4000nMの間の範囲)を、25℃のHBS-EP(GEヘルスケア、10mMのHEPES、150mMのNaCl、3mMのEDTA、0.05%Surfactant P20、pH7.4)に流量30μl/minで120秒間注入する。
【0358】
標的抗原に対する親和性を決定するため、抗体または二重特異性抗原結合分子を、抗Penta-His抗体について記載したように、活性化CM5-センサーチップ表面上に固定化された抗ヒトFab特異性抗体(GEヘルスケア)で捕捉する。結合したタンパク質の最終的な量は、約12000RUである。抗体または二重特異性抗原結合分子は、300nMで90秒間捕捉される。標的抗原を、30μl/minの流量で250-1000nMの濃度範囲で180秒間フローセルに通過させる。解離を180秒間モニターする。
【0359】
バルク屈折率の差異は、基準フローセルで取得される応答を差し引くことにより修正される。定常応答を使用して、ラングミュア結合等温線の非線形カーブフィッティングにより解離定数Kを得た。会合センサーグラムおよび解離センサーグラムを同時にフィッティングすることによる単純な一対一ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)T100 Evaluation Softwareバージョン1.1.1)を用いて、会合速度(kon)と解離速度(koff)を算出する。平衡解離定数(K)はkoff/kon比として算出される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999)を参照のこと。
【0360】
活性のアッセイ
本発明の二重特異性抗原結合分子(または抗体)の生物活性は、実施例に記載される様々なアッセイにより測定することができる。生物活性には、例えば、T細胞の増殖の誘導、T細胞中のシグナル伝達の誘導、T細胞中の活性マーカーの発現の誘導、T細胞によるサイトカイン分泌の誘導、腫瘍細胞などの標的細胞の溶解の誘導、および腫瘍後退の誘導および/または生存率の改善が含まれる。
【0361】
組成、製剤、および投与の経路
さらなる態様において、本発明は、例えば下記の治療法のいずれかに使用される、本明細書で提供される抗体または二重特異性抗原結合分子のいずれかを含む薬学的組成物を提供する。一実施態様では、薬学的組成物は、本明細書で提供される抗体または二重特異性抗原結合分子のいずれかと、薬学的に許容される担体とを含む。別の実施態様において、薬学的組成物は、本明細書で提供される抗体または二重特異性抗原結合分子のいずれかと、例えば以下に記載されるような少なくとも1の追加的治療剤を含む。
【0362】
さらには、in vivoでの投与に適した形態の、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子を生産する方法が提供され、この方法は、(a)本発明による抗体または二重特異性抗原結合分子を得ること、および(b)少なくとも1の薬学的に許容される担体とともに抗体または二重特異性抗原結合分子を製剤化することを含み、それにより、抗体または二重特異性抗原結合分子の調製物がin vivo投与用に製剤化される。
【0363】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体中に溶解または分散された抗体または二重特異性抗原結合分子の治療的有効量を含む。「薬学的または薬理学的に許容される」という語句は、用いられる用量および濃度でレシピエントに対して一般に無毒である、すなわち、例えばヒトなどの動物に必要に応じて投与されたとき、副作用、アレルギーまたは他の有害な反応を生じない分子実体および組成物を指す。抗体または二重特異性抗原結合分子と、任意選択的に追加的な活性成分とを含む薬学的組成物の調製物は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed.Mack Printing Company, 1990(参照により本明細書に援用される)によって例示されているように、本開示内容の見地から当業者には既知であろう。さらに、動物(例えば、ヒト)への投与のために、調製物は、FDA Office of Biological Standardsまたは他の国の対応する官庁によって必要とされる無菌状態、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たさねばならない。好ましい組成物は、凍結乾燥製剤または水溶液である。本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」には、当技術者に既知のように、あらゆる溶媒、バッファー、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存料(例えば抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、防腐剤、抗酸化剤、タンパク質、薬物、薬物安定剤、ポリマー、ゲル、結合剤、賦形剤、分解剤、潤滑剤、甘味料、香料、染料、それらの類似物質および組合せが含まれる(例えば、参照により本明細書に援用されるRemington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed.Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329を参照)。従来の担体が有効成分と適合しない場合を除いて、治療または医薬組成物におけるその使用が企図される。
【0364】
本発明のイムノコンジュゲート(および任意の追加の治療剤)は、非経口、肺内および鼻腔内を含む任意の適切な手段により投与することができ、また、局所治療が望まれるのであれば、病巣内投与であってもよい。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与が含まれる。投薬は、その投与が短期かまたは長期かに部分的に依存して、任意の適切な経路、例えば、静脈内または皮下注射などの注射により行うことができる。
【0365】
非経口組成物には、注射による投与、例えば皮下、皮内、病巣内、静脈内、動脈内、筋肉内、髄腔内または腹腔内注射用に設計されたものが含まれる。注射の場合、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は、水溶液、好ましくはハンクス液、リンゲル液または生理食塩水バッファー(physiological saline buffer)などの生理的に適合性のバッファー中で製剤化され得る。該溶液は、懸濁剤、安定剤および/または分散剤等の調合剤を含有することができる。代替的には、抗体または二重特異性抗原結合分子は、使用前に、適切なビヒクル、例えば発熱性物質除去蒸留水で構成するための粉末形態であってもよい。無菌の注射可能な溶液は、必要量の本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子を、必要に応じて以下に列挙する他の様々な成分を含む適切な溶媒中に取り込むことにより調製される。滅菌状態は、例えば滅菌濾過膜を通す濾過により容易に達成することができる。分散体は通常、塩基性分散媒および/または他の成分を含有する滅菌ビヒクルに、様々な滅菌活性成分を取り込むことにより調製される。無菌の注射可能な溶液、懸濁液またはエマルジョンを調製するための無菌の粉末の場合、好ましい調製方法は、事前に滅菌濾過された液体培地から活性成分の粉末と任意の所望の追加的成分とを生じる真空乾燥または凍結乾燥技術である。必要に応じて、液体培地を適切に緩衝し、注射前にまず、その液体希釈剤を十分な生理食塩水またはグルコースで等張にする必要がある。組成物は、製造および貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌および真菌といった微生物の汚染作用から保護されなければならない。エンドトキシンの汚染は、安全量(例えばタンパク質1mgあたり0.5ng未満)で、最小限に保たれなければならない。薬学的に許容される適切な担体には、限定されないが;リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸のようなバッファー;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチオルベンジルアンモニウムクロライド;ヘキサメトニウムクロライド;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン;マンノサッカライド、ジサッカライド、およびグルコース、マンノースまたはデキストリンを含む他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。水性注射懸濁液には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール,
デキストランなどの懸濁液の粘度を上昇させる化合物が含有されていてよい。任意選択的に、懸濁液は、適切な安定剤、または化合物の溶解度を上昇させて高濃度の溶液の調製を可能にする薬剤も含有することができる。加えて、活性化合物の懸濁液は、適切な油性注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒またはビヒクルには、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチル(ethyl cleat)もしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームが含まれる。
【0366】
活性成分は、例えばコアセルベーション技術または界面重合法によって調製されたマイクロカプセル(例えばそれぞれ、ヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセルまたはゼラチン-マイクロカプセル、ポリ-(メチルメタクリレート)(poly-(methylmethacylate))マイクロカプセル)に、コロイド薬物送達系(例えばリポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)に、またはマクロエマルジョンに封入することができる。これらの技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(18th Ed. Mack Printing Company, 1990)に開示されている。徐放性製剤が調製されてもよい。徐放性調製物の適切な例には、ポリペプチドを含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスが含まれ、そのマトリックスは、成形品、例えばフィルムまたはマイクロカプセルの形態である。特定の実施態様では、例えばモノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、またはそれらの組合せなど、吸収を遅らせる薬剤を組成物において使用することにより、注射可能な組成物の長期吸収をもたらすことができる。
【0367】
上記の組成物に加えて、抗体または二重特異性抗原結合分子は、デポー製剤として製剤化することもできる。このような長時間作用型の製剤は、埋め込み(例えば皮下または筋肉内)により、または筋肉内注射により投与することができる。したがって、例えば、抗体または二重特異性抗原結合分子は、適切なポリマー性または疎水性物質(例えば、許容可能なオイル中のエマルジョンとしての)またはイオン交換樹脂を用いて、または難溶性の誘導体として、例えば難溶性の塩として製剤化することができる。
【0368】
本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子を含む薬学的組成物は、一般的な混合、溶解、乳化、カプセル化、封入、または凍結乾燥方法により製造することができる。薬学的組成物は、1種以上の生理的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはタンパク質の薬学的に使用可能な調製物への加工を容易にする補助剤を使用して、従来の方法で製剤化できる。適した製剤は、選択される投与経路に応じて決まる。
【0369】
抗体または二重特異性抗原結合分子は、遊離酸または遊離塩基の、天然または塩の形態の組成物に製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、遊離酸または遊離塩基の生物活性を実質的に保持する塩である。これらには、酸付加塩、例えば、タンパク質性組成物の遊離アミノ基で形成されたもの、または例えば塩酸もしくはリン酸といった無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸もしくはマンデル酸といった有機酸で形成されたものが含まれる。また、遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムもしくは水酸化第二鉄等の無機塩基;またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンもしくはプロカイン等の有機塩基に由来し得る。薬学的塩は、対応する遊離塩基形態より、水性および他のプロトン性溶媒に溶け易い。
【0370】
治療的方法および組成物
本明細書において提供されるいずれの抗体または二重特異性抗原結合分子も、治療法に使用することができる。本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は、例えばがんの治療において、免疫療法薬剤として使用されてもよい。
【0371】
治療法において使用される場合、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は、医療実施基準に合致するように製剤化、調薬および投与される。この観点において考慮すべき要因は、治療される特定の障害、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤送達部位、投与方法、投与日程および医療従事者が知る他の要因を包含する。
【0372】
一態様では、医薬としての使用のための本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子が提供される。さらなる態様では、疾患の治療において使用される本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子が提供される。特定の実施態様では、治療法において使用される本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子が提供される。一実施態様では、本発明は、必要とする個体の疾患の治療に使用される、本明細書に記載の抗体または二重特異性抗原結合分子を提供する。特定の実施態様では、本発明は、疾患を有する個体の治療法における使用のための抗体または二重特異性抗原結合分子を提供し、該方法は、該個体に治療的有効量の抗体または二重特異性抗原結合分子を投与することを含む。特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性疾患である。特定の一実施態様では、疾患はがんである。特定の実施態様では、該方法は、該個体に少なくとも1種の追加の治療剤(例えば、治療される疾患ががんであれば抗がん剤など)の治療的有効量を投与することをさらに含む。さらなる実施態様では、本発明は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解の誘導における使用のための、本明細書に記載の抗体または二重特異性抗原結合分子を提供する。特定の実施態様では、本発明は、標的細胞の溶解を誘導するために抗体または二重特異性抗原結合分子の有効量を該個体に投与することを含む、個体における標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法における使用のための抗体または二重特異性抗原結合分子を提供する。上記いずれの実施態様による「個体」も、哺乳動物、好ましくはヒトである。特定の実施態様では、治療される疾患は、特に全身性紅斑性狼瘡および/または関節リウマチである。自己反応性形質細胞による病原性自己抗体の産生は自己免疫疾患の特徴である。したがって、GPRC5Dを使用して自己免疫疾患の自己反応性形質細胞を標的とすることができる。
【0373】
さらなる態様では、本発明は、医薬の製造または調製における本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子の使用を提供する。一実施態様では、医薬は、必要とする個体の疾患の治療を目的とするものである。さらなる実施態様において、本医薬は、治療的有効量の医薬を疾患を有する個体に投与することを含む、疾患を治療する方法における使用のためのものである。特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性疾患である。特定の実施態様では、疾患はがんである。一実施態様では、本方法は、少なくとも1種の追加の治療剤、例えば、治療される疾患ががんであれば抗がん剤の治療的有効量を個体に投与することをさらに含む。さらなる実施態様では、医薬は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導するためのものである。またさらなる実施態様では、医薬は、標的細胞の溶解を誘導するために医薬の有効量を個体に投与することを含む、個体の標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法における使用のためのものである。上記いずれの実施態様による「個体」も、哺乳動物、好ましくはヒトとすることができる。
【0374】
さらなる態様において、本発明は、疾患を治療するための方法を提供する。一実施態様では、本方法は、そのような疾患を有する個体に治療的有効量の本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子を投与することを含む。一実施態様では、薬学的に許容される形態の本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子を含む組成物が、前記個体に対して投与される。特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性疾患である。特定の実施態様では、疾患はがんである。特定の実施態様では、本方法は、少なくとも1種の追加の治療剤、例えば、治療される疾患ががんであれば抗がん剤の治療的有効量を個体に投与することをさらに含む。上記いずれの実施態様による「個体」も、哺乳動物、好ましくはヒトとすることができる。
【0375】
さらなる態様では、本発明は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法を提供する。一実施態様では、方法は、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の存在下で、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子と標的細胞を接触させることを含む。さらなる態様において、個体の標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法が提供される。このような一実施態様では、方法は、標的細胞の溶解を誘導するために、有効量の抗体または二重特異性抗原結合分子を個体に投与することを含む。一実施態様において、「個体」はヒトである。
【0376】
特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性障害、特にがんである。がんの非限定的な例には、前立腺がん、脳のがん、頭部および頸部のがん、膵臓がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、血液がん、皮膚がん、扁平上皮癌、骨のがん、および腎臓がんが含まれる。本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子を用いて治療され得る他の細胞増殖性疾患には、限定されないが、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、神経系(中枢および末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸部、および泌尿生殖器系に位置する腫瘍が含まれる。前がん性の状態または病変およびがん転移も含まれる。特定の実施態様では、がんは、腎臓がん、膀胱がん、皮膚がん、肺がん、結腸直腸がん、乳がん、脳がん、頭頸部がん、および前立腺がんからなる群より選択される。一実施態様において、がんは前立腺がんである。抗体または二重特異性抗原結合分子は多くの場合、治癒をもたらさず、部分的恩恵をもたらすだけであり得ることは、当業者には容易に認識される。いくつかの実施態様では、いくらかの恩恵を有する生理的変化も治療的に有益と考えられる。したがって、いくつかの実施態様では、生理的変化をもたらす抗体または二重特異性抗原結合分子の量は、「有効量」または「治療的有効量」と考えられる。治療を必要とする対象、患者または個体は、一般的には哺乳動物であり、具体的にはヒトである。
【0377】
いくつかの実施態様では、有効量の本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子が細胞に投与される。他の実施態様では、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子の治療的有効量が、疾患の治療のために個体に投与される。
【0378】
疾患の予防または治療のために、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子の(単独で使用されるか、または1種以上の他の追加的治療剤との組み合わせで使用されるときの)適切な投与量は、治療される疾患の種類、投与経路、患者の体重、抗体または二重特異性抗原結合分子の種類、疾患の重症度および経過、抗体または二重特異性抗原結合分子が予防または治療のいずれの目的で投与されるか、直前または同時に行われる治療的介入、患者の病歴および抗体または二重特異性抗原結合分子に対する応答、ならびに主治医の裁量に応じて決定されるであろう。投与の責任を負う施術者は、いずれにしろ、組成物中の活性成分の濃度および個別の対象に適切な用量を決定する。本明細書では、様々な時点での単回または複数回の投与、ボーラス投与、およびパルス注入を含むがこれらに限定されない様々な投与スケジュールが企図されている。
【0379】
抗体または二重特異性抗原結合分子は、患者に対して、単回、または一連の治療にわたって適切に投与される。疾患の種類および重症度に応じて、例えば1回以上の別々の投与によるか、連続注入によるかに関わらず、約1μg/kg‐15mg/kg(例えば0.1mg/kg‐10mg/kg)の抗体または二重特異性抗原結合分子が患者への投与のための初期候補用量となり得る。典型的な1日の投与量は、上記要因に応じて約1μg/kgから100mg/kg以上の範囲である。数日以上にわたる反復投与の場合、状態にもによるが、一般的には疾患症状の望まれる抑制が起こるまで治療を継続することになる。抗体または二重特異性抗原結合分子の1つの例示的な投与量は、約0.005mg/kg‐約10mg/kgの範囲であろう。他の非限定的実施例では、投与量はまた、一回の投与につき、体重1kgあたり約1マイクログラム、体重1kgあたり約5マイクログラム、体重1kgあたり約10マイクログラム、体重1kgあたり約50マイクログラム、体重1kgあたり約100マイクログラム、体重1kgあたり約200マイクログラム、体重1kgあたり約350マイクログラム、体重1kgあたり約500マイクログラム、体重1kgあたり約1ミリグラム、体重1kgあたり約5ミリグラム、体重1kgあたり約10ミリグラム、体重1kgあたり約50ミリグラム、体重1kgあたり約100ミリグラム、体重1kgあたり約200ミリグラム、体重1kgあたり約350ミリグラム、体重1kgあたり約500ミリグラム、体重1kgあたり約1000mg以上、およびそこから導出可能な任意の範囲を含み得る。本明細書に列挙される数字から導出可能な範囲の非限定的な例では、上記の数字に基づいて、体重1kgあたり約5mg‐体重1kgあたり約100mg、体重1kgあたり約5マイクログラム‐体重1kgあたり約500ミリグラム等の範囲が投与され得る。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、5.0mg/kgまたは10mg/kg(またはこれらのいずれかの組み合わせ)のうちの1または複数の用量を患者に投与してよい。このような用量は断続的に、例えば毎週または3週毎に(例えば患者が約2‐約20回、または例えば約6回用量の抗体または二重特異性抗原結合分子を受けるように)投与してもよい。初期の高負荷用量の後、1回以上の低用量を投与することができる。しかしながら、他の用量レジメンも有用であり得る。この治療法の進行は、従来の技術およびアッセイにより容易にモニターされる。
【0380】
本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は、通常、意図された目的を達成するために有効な量で使用される。疾患状態を治療または予防するための使用のために、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子、またはその薬学的組成物は、治療的有効量で投与または適用される。治療的有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示内容を踏まえると十分に当業者の能力の範囲内である。
【0381】
全身投与の場合、治療的に有効な用量は、まずは細胞培養アッセイのようなin vitroアッセイに基づいて推定することができる。次いで、動物モデルにおいてある用量を配合し、細胞培養で決定されたIC50を含む血中濃度範囲を得ることができる。このような情報は、ヒトにおいて有用な用量をさらに正確に決定するために使用することができる。
【0382】
初期投与量は、in vivoデータ、例えば動物モデルから、当技術分野で周知の技術を用いて推定することもできる。当業者であれば、動物データに基づいて、ヒトへの投与を容易に最適化することができるであろう。
【0383】
投与の量および間隔は、治療効果を維持するのに十分な抗体または二重特異性抗原結合分子の血漿レベルを提供するために個別に調整される。注射による投与のための通常の患者への投与量は、約0.1‐50mg/kg/日、典型的には約0.5‐1mg/kg/日の範囲である。治療的に有効な血漿レベルは、複数用量を毎日投与することにより達成することができる。血漿中のレベルは、例えばHPLCにより測定することができる。
【0384】
局所投与または選択的取り込みの場合、抗体または二重特異性抗原結合分子の有効な局所濃度は血漿濃度に関連していなくともよい。当業者であれば、過度の実験をしなくとも、治療的に有効な局所投与量を最適化することができるであろう。
【0385】
本明細書に記載される抗体または二重特異性抗原結合分子の治療的に有効な用量は、通常、実質的な毒性なしで治療的恩恵を提供する。抗体または二重特異性抗原結合分子の毒性および治療有効性は、細胞培養物または実験動物における標準の薬学的手順により決定することができる。細胞培養アッセイおよび動物実験を使用して、LD50(集団の50%にとって致死的な用量)およびED50(集団の50%で治療的に有効な用量)を決定することができる。毒性と治療効果の間の用量比は治療指数であり、比率LD50/ED50で表すことができる。大きな治療指数を呈する抗体または二重特異性抗原結合分子が好ましい。一実施態様では、本発明による抗体または二重特異性抗原結合分子は高い治療指数を呈する。細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータは、ヒトにおける使用に適した一定範囲の投与量を配合する際に使用することができる。投与量は、好ましくは、ほとんどまたは全く毒性がないED50を含む血中濃度の一定範囲内にある。投与量は、種々の要因、例えば、用いられる投与形態、使用される投与経路、対象の状態などに応じてこの範囲内で変動し得る。正確な配合、投与経路および用量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択され得る(例えば、本明細書に参照により全文が援用されるFingl et al., 1975, in: The Pharmacological Basis of Therapeutics, Ch. 1, p. 1参照)。
【0386】
本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子を用いて治療される患者の主治医には、毒性、臓器不全などのために、いつどのようにして投与を終了、中断または調整するかが分かるであろう。逆に、主治医は、臨床応答が十分でなかった場合には、治療レベルを上げるように調整することも分かっているであろう(毒性を除く)。対象となる障害の管理において投与される用量の大きさは、治療される状態の重症度、投与経路などによって変動するであろう。例えば、状態の重症度は、部分的には標準の予後評価方法により評価される。さらに、用量および恐らくは投薬頻度も、個々の患者の年齢、体重および応答に応じて変化するであろう。
【0387】
その他の薬剤および治療
本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は、治療において、1種以上の他の薬剤との組み合わせで投与され得る。例えば、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は、少なくとも1種の追加的治療剤と共投与され得る。用語「治療剤」は、そのような治療を必要とする個体の症状または疾患を治療するために投与されるあらゆる薬剤を包含する。このような追加的な治療剤は、治療される特定の適応症に適した任意の活性成分、好ましくは、相互に悪影響を及ぼさない相補的な活性を有する活性成分を含んでもよい。特定の実施態様では、追加的治療剤は、免疫調節剤、細胞増殖抑制剤、細胞接着の阻害剤、細胞傷害性剤、細胞アポトーシスの活性剤、またはアポトーシス誘導因子に対する細胞の感受性を増大させる薬剤である。特定の実施態様では、追加的治療剤は、抗がん剤、例えば微小管破壊因子、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレーター、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤, 受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化因子、または抗血管新生剤である。
【0388】
このような他の薬剤は、意図した目的に有効な量で組み合わされて適切に存在する。このような他の薬剤の有効量は、使用される抗体または二重特異性抗原結合分子の量、障害または治療の種類、および上述した他の要因によって決まる。抗体または二重特異性抗原結合分子は、一般的に、本明細書に記載されるものと同じ投与量および投与経路で、または本明細書に記載された投与量の約1%‐99%、または経験的に/臨床的に妥当であると判断される任意の投与量および任意の経路で使用される。
【0389】
上記のこうした併用療法は、併用投与(2種以上の治療剤が同一または別個の組成物に含まれる場合)および別個の投与を包含し、この場合、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子の投与は、追加の治療剤および/またはアジュバントの投与の前に、投与と同時に、および/または投与の後に実施することができる。本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子は、放射線療法と組み合わせて使用してもよい。
【0390】
製造品
本発明の他の態様では、上述した疾患の治療、予防および/または診断に有用な材料を含有する製造品が提供される。製造品は、容器と、容器に貼られているかまたは付随しているラベルまたは添付文書とを備える。好適な容器には、例えば瓶、バイアル、シリンジ、IV輸液バッグ等が含まれる。該容器は、例えばガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。容器は、状態の治療、予防および/または診断に効果的である、単独のまたは別の組成物と併用の組成物を収容し、滅菌のアクセスポートを有し得る(例えば、容器は皮下注射針で穿孔可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも1種の活性剤は、本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子である。ラベルまたは添付文書は、組成物が選択された状態の治療のために使用されることを示している。さらに、製造品は、(a)本発明の抗体または二重特異性抗原結合分子を含む組成物を中に収容する第1の容器;および(b)さらなる細胞傷害性またはその他の治療剤を含む組成物を中に収容する第2の容器を備え得る。本発明の本実施態様における製造品は、組成物が特定の状態を治療するために使用できることを示す添付文書をさらに備えてもよい。代替的にまたは追加的に、製造品は、薬学的に許容されるバッファー、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液およびデキストロース溶液を含む第2(または第3)の容器をさらに含んでもよい。製造品は、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針およびシリンジを含む、商業的観点および使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含むことができる。
【0391】
診断および検出のための方法と組成物
特定の実施態様では、本明細書において提供される抗GPRC5D抗体のいずれもが、生物学的試料中のGPRC5Dの存在を検出するために有用である。本明細書において使用される「検出」という用語は、定量的または定性的検出を包含する。特定の実施態様では、生物学的試料は細胞または組織、例えば前立腺組織を含む。
【0392】
一実施態様では、診断または検出の方法における使用のための抗GPRC5D抗体が提供される。さらなる態様では、生物学的試料におけるGPRC5Dの存在を検出する方法が提供される。特定の実施態様では、該方法は、生物学的試料を、抗GPRC5D抗体のGPRC5Dへの結合を許容する条件下で本明細書に記載される抗GPRC5D抗体と接触させること、および抗GPRC5D抗体とGPRC5Dの間に複合体が形成されているかどうかを検出することを含む。このような方法は、in vitro法でもin vivo法でもよい。一実施態様では、例えばGPRC5Dが患者の選択のためのバイオマーカーである場合、抗GPRC5D抗体を使用して、抗GPRC5D抗体を用いる療法に適した対象を選択する。
【0393】
本発明の抗体を用いて診断され得る例示的な疾患には、がん、特に前立腺がんが含まれる。
【0394】
特定の実施態様では、標識化抗GPRC5D抗体が提供される。標識には、限定されないが、(例えば蛍光標識、発色団標識、高電子密度標識、化学発光標識、放射性標識等の)直接検出される標識または部分、および、例えば酵素反応または分子間相互作用を介して間接的に検出される酵素またはリガンドなどの部分が含まれる。例示的な標識には、限定されないが、ラジオアイソトープ32P、14C、125I、H、および131I、フルオロフォア、例えば希土類キレートまたはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシェフェラーゼ、例えばホタルルシェフェラーゼおよび細菌ルシェフェラーゼ(米国特許第4737456号)、ルシェフェリン、2,3-ジヒドロフタルジネジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖オキシダーゼ(例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、およびグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、色素前駆体(例えばHRP、ラクトペルオキシダーゼまたはマイクロペルオキシダーゼ等)を酸化させるため過酸化水素を利用し、酵素とカップリングさせた複素環式オキシダーゼ(例えばウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼ)、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定な遊離ラジカル等が含まれる。
【0395】
本発明のさらなる態様は、可変重鎖領域(VL)を含むGPRC5Dに結合する抗体(10B10)に関し、VLは、配列番号81のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含み得る。抗体は軽鎖可変領域(VL)を含み得、VLは配列番号82のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。抗体はVHとVLを含み得、VLは配列番号81のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含み、VLは配列番号82のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。好ましくは、抗体は、配列番号81のアミノ酸配列を含むVHと配列番号82のアミノ酸配列を含むVLとを含む。
【0396】
本発明のさらなる態様は、抗体(10B10-TCB)に関する。抗体は第1の軽鎖を含み得、第1の軽鎖は配列番号67のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。抗体は第2の軽鎖を含み得、第2の軽鎖は配列番号68のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。抗体は第1の重鎖を含み得、第1の重鎖は配列番号69のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。抗体は第2の重鎖を含み得、第2の重鎖は配列番号70のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む。好ましい実施態様では、配列番号67のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号68のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖、配列番号69のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、および配列番号70のアミノ酸配列を含む第2の重鎖を含む。
【0397】
【実施例
【0398】
以下は、本発明の方法および組成物の実施例である。上に提供された一般的な説明を前提として、他の様々な実施態様が実施され得ることが理解される。
【0399】
実施例1
腫瘍標的の発現
正常な形質細胞を上回る多発性骨髄腫の差次的遺伝子発現を確認するために、多発性骨髄腫(MM)患者由来の試料10個と健常ドナーの骨髄由来の形質細胞(PC)10個を対してRNAseqを実施した。製造業者の指示書に従ってRNeasy Microキット(Qiagen)を使用し、RNAを抽出した。RNA抽出中に、RNaseフリーのDNaseセット(Qiagen)を使用して、ゲノムDNAを除去した。抽出したRNAの品質は、Agilent Eukaryote Total RNA picoチップ(Agilent Technologies)で制御した。SMARTer ultra low RNA kit for Illumina sequencing(Clontech)を使用して、製造業者の指示書に従い、1.6ngの全RNAからcDNAを調製し、増幅した。その後、増幅された1ngのcDNAを、製造業者の指示書に従い、Nextera XTライブラリー調製(Illumina)に供した。シーケンシングライブラリーを、Kapa Library Quantificationキット(Kapa Biosystems)を用いて定量し、High Sensitivityチップ(Agilent Technologies)を用いたBioanalyzerで電気泳動により品質管理した。ライブラリーは、HiSeq2500シーケンサー(Illumina)で、バージョン4クラスター生成キットとバージョン4シーケンシング試薬(Illumina)を使用して、2x50サイクルでシーケンスされた。
【0400】
B細胞成熟抗原(BCMA)は、悪性形質細胞上に発現する細胞表面タンパク質であり、そのため多発性骨髄腫の標的として認識されている(Tai YT & Anderson KC, Targeting B-cell maturation antigen in multiple myeloma, Immunotherapy. 2015 Nov; 7(11): 1187-1199)。RNAseq技術を用いた詳細な分析により、多発性骨髄腫患者の形質細胞において、GPRC5DがBCMAと同様に高発現していることが示された(図2)。さらに重要なことには、多発性骨髄腫患者の形質細胞と正常な形質細胞との間のGPRC5Dの発現の差は約20倍である。対照的に、多発性骨髄腫患者の形質細胞と正常な形質細胞との間のBCMAの発現の差はわずか2倍であった。GPRC5Dの全体的な発現は、SLAM7、CD138、CD38等の他の既知の多発性骨髄腫標的分子の発現よりもはるかに高い。さらに、GPRC5Dは、正常なナイーブまたはメモリーB細胞ではほとんど発現していない。
【0401】
実施例2
GPRC5Dバインダーの生成とT細胞二重特異性(TCB)抗体の調製
GPRC5Dバインダーは、ラットのDNA免疫化、それに続くハイブリドーマの生成、スクリーニング、およびハイブリドーマのシーケンシングに続いてによって生成された。特異的結合のスクリーニングは、GPRC5Dを発現する形質転換体への結合によってELISAで測定した。2つのGPRC5Dバインダーを同定し、以下では5E11(配列番号13および14)および5F11(配列番号15および16)と呼ぶ。特異的なバインダーが同定されると、IgGはT細胞二重特異性抗体に変換された。バインダーをT細胞二重特異性抗体に変換する原理は当技術において例示され、例えば、参照により全体が本明細書に援用される国際公開第2014/131712号に記載されている。T細胞二重特異性抗体は、図3に示すように、2つのGPRC5D結合部分と1つのCD3結合部分(抗GPRC5D/抗CD3 T細胞二重特異性抗体)を含む。以下の抗GPRC5D/抗CD3 T細胞二重特異性抗体を調製した:i)5E11-TCB(配列番号17、18、19および20);ii)5F11-TCB(配列番号21、22、23および24);iii)ET150-5-TCB(配列番号25、26、27および28);iv)B72-TCB(配列番号73、74、75および76);およびv)BCMA-TCB(配列番号77、78、79および80)。ET150-5 GPRC5D結合部分は、国際公開第2016/090329号に記載されている。用語「ET-150-5」は、本明細書において、「ET150-5「という用語と同義に使用され、逆もまた同様である。ネガティブコントロールとして、非標的化DP47-TCBが準備された。DP47-TCBは、CD3にのみ結合し、GPRC5Dには結合しない非標的化T細胞二重特異性抗体である。DP47-TCBは、参照により全体が本明細書に援用される国際公開第2014/131712号に記載されている。B72-TCBは、国際公開第2018/0117786号の表23に開示されているGCDB72抗体に由来し、GCDB72のGPRC5D結合部分を含む。B72-TCBは、クロスマブ1+1フォーマット(配列番号:73、74、75および76)で生成された。BCMA-TCBは、国際公開第2016/166629号に由来し、そこに開示されているA02_Rd4_6nM_C01のGPRC5D結合部分を含む。BCMA-TCBは、クロスマブ2+1フォーマット(配列番号77、78、79および80)で生成された。
【0402】
実施例3
多発性骨髄腫細胞株へのT細胞二重特異性抗体の結合
GPRC5Dへの結合を測定するために、本発明者らは、報告されている多発性骨髄腫細胞株でFACSに基づく結合アッセイを行った(Lombardi et al., Molecular characterization of human multiple myeloma cell lines by integrative genomics: insights into the biology of the diseas; Genes Chromosomes Cancer. 2007 Mar;46(3):226-38.)。細胞株AMO-1、L363およびOPM-2を、20%熱不活化ウシ胎児血清(FBS、Gibco)および1%(FBS、Gibco)および1%100X(Gibco)を補充したRPMI 1640+グルタマックス培地(Gibco)で培養した。細胞株WSU-DLCL2(ネガティブコントロール)を、10%FBSのみを補充した同じ培地で培養した。細胞株NCI-H929およびRPMI-8226も、50μMメルカプトエタノール(Gibco)と1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco)を補充した同じ培地で培養した。これらの細胞株を75cmフラスコ(TPP)中で週に2回の継代で培養した。
【0403】
異なる抗ヒトGPRC5D-TCB抗体(5E11-TCB、5F11-TCBおよびET150-5 TCB)の結合を間接染色を用いて評価した。細胞を、0.2倍の段階希釈を使用して10μg/ml‐0.00064μg/mlの範囲の抗ヒトGPRC5D-TCBコンストラクト5E11-TCB、5F11-TCBまたはET150-5 TCBと一緒に、または100μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS;Gibco)中でコンストラクトなしで4℃で1時間インキュベートした。細胞をPBSで1:800に希釈したLive blue色素(Life Technologies)で4℃で20分間染色した後、フローサイトメトリー染色バッファー(eBioscience)で1/300に希釈したPEコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG(Fcγ断片特異的)(Jackson Laboratories)で染色し、4℃で30分間インキュベートした。フローサイトメトリー取得は、カスタム設計されたBD Biosciences Fortessa上で実施し、FlowJoソフトウェア(オレゴン州アシュランドのTree Star)とGraphPad Prismソフトウェアを使用して解析した。
【0404】
図4A-Cは、5E11-TCBと5F11-TCBの両方が、試験した多発性骨髄腫細胞株のすべてに用量依存的に結合することを示している。対照的に、ET150-5-TCBは、試験した細胞株に非常に弱く結合する。抗GPRC5D-TCBによって観察されたWSU-DLCL2細胞(非ホジキンリンパ腫のGPRC5D細胞株)への結合はなかった。
【0405】
実施例4
抗GPRC5D-TCB媒介性T細胞傷害性
抗GPRC5D-TCB抗体の機能性を測定するために、in-vitroT細胞毒性アッセイを実施した。簡潔に言うと、AMO-1、L363およびOPM-2細胞株を、20%熱不活化ウシ胎児血清(FBS;Gibco)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン100X(PS;Gibco)を補充したRPMI 1640+グルタマックス培地(Gibco)で培養した。細胞株WSU-DLCL2を、10%FBSのみを補充した同じ培地で培養した。細胞株NCI-H929およびRPMI-8226を、50μMメルカプトエタノール(Gibco)と1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco)を補充した同じ培地で培養した。これらの細胞株を75cmフラスコ(TPP)中で週に2回の継代で培養した。
【0406】
この細胞株を、10%FBS(Gibco)+1%PS(Gibco)を補充したIMDM培地(Gibco)中でヒト汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)を用いて、PBMC(Blutspende Schlierenのバフィーコート)から単離した3.105同種異系T細胞と一緒に、標的:エフェクター比率1:10で共培養した。抗ヒトGPRC5D-TCB抗体(5E11-TCB、5F11-TCB、ET150-5 TCBまたはDP47-TCB)を、0.1倍の段階希釈で1μg/ml‐0.000001μg/mlの範囲または0μg/mlの様々な濃度で共培養物に添加した。5%COを用いて37℃で20時間インキュベートした後、ウェルあたり75μlの上清を、ウェルあたり25μlのCytoTox-Glo Cytotoxicity Assay(Promega)を含む96ウェルホワイトプレート(Greiner bio-one)に移した。室温で15分間インキュベートした後、PerkinElmer EnVisionで発光を取得し、GraphPad PrismおよびXLフィットソフトウェアを使用して分析した。データは、LDH放出の発光シグナルとしてプロットされる。
【0407】
図5A-Eは、5E11-TCBと5F11-TCBの両方が多発性骨髄腫細胞株、特にNCI-H929(図5B)、RPMI-8226(図5C)、L363(図5D)、AMO-1(図5A)において強いT細胞傷害性を媒介したことを示しているが、ネガティブコントロール株WSU-DLCL2(図5E)において、死滅は全く観察されなかった。対照的に、ET150-5-TCBは、試験した多発性骨髄腫細胞株において、ごくわずかまたは有意に低い死滅を媒介した。表1は、図5A-Eに示されているデータから導出されたEC50値をまとめたものである。EC50値は、滴定されたTCBに対してシグナルの生データをプロットすることにより、ExcelのXLfitアドオン機能を使用して計算された。
【0408】
【0409】
実施例5
抗GPRC5D-TCB媒介T細胞活性化
抗GPRC5D-TCBの作用様式を機械論的に扱うために、抗GPRC5D-TCBの存在下での標的多発性骨髄腫細胞株との共培養後のT細胞の活性化を測定した。実施例4および図5A-Eに記載の実験と同様に、この細胞株を、10%FBS(Gibco)+1%PS(Gibco)を補充したIMDM培地(Gibco)中でヒト汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)を用いて、PBMC(Blutspende Schlierenのバフィーコート)から単離した3.105同種異系T細胞と一緒に、標的:エフェクター比率1:10で共培養した。抗ヒトGPRC5D-TCB抗体(5E11-TCB、5F11-TCB、ET150-5-TCBまたはDP47-TCB)を、0.1倍の段階希釈で1μg/ml‐0.000001μg/mlの範囲または0μg/mlの様々な濃度で共培養物に添加した。5%COを用いて37℃で20時間インキュベートした後、細胞を染色してT細胞の活性化を評価した。細胞を、まず、PBS(Gibco)で1:800に希釈したLive blue色素(Life Technologies)で4℃で20分間染色した。その後、細胞を、AF700抗ヒトCD4(クローンOKT4)、BV711抗ヒトCD8(クローンSK1)、BV605抗ヒトCD25(クローンBC96)、APC-Cy7抗ヒトCD69(クローンFN50)(すべてBioLegend製)、およびPE-Cy5.5抗ヒトCD3(クローンSK7;eBioscience)をフローサイトメトリーバッファー(eBioscience)中で4℃で30分間染色した。フローサイトメトリー取得は、カスタム設計されたBD Biosciences Fortessa上で実施し、FlowJoソフトウェア(オレゴン州アシュランドのTree Star)とGraphPad Prismソフトウェアを使用して解析した。
【0410】
図6は、活性化マーカーCD25およびCD69を上方制御することにより、5F11-TCBがNCI-H929細胞との共培養物においてT細胞活性化を誘導することを示しているが、コントロール(例えば非標的化DP47-TCBおよびTCBなし)はT細胞活性化を誘導しなかった。別のネガティブコントロールとして、5F11-TCB処理T細胞をWSU-DLCL2細胞と共培養したところ、T細胞も活性化されなかった。これらの活性化プロファイルは、本発明者らが試験した複数の細胞株、例えばAMO-1、NCI-H929、RPMI-8226、L363(図7A-J)で一貫していた。殺傷力の低さと一致して、ET150-5-TCBは、試験した最高濃度の1mg/kgを除いて、T細胞の活性化を誘導しなかった。
【0411】
実施例6
抗GPRC5D-TCBの局在化と内在化
NCI-H929細胞をCMFDA(Invitrogen)で染色し、24ウェルプレート中のポリ-L-リジン(Sigma)コーティングされたラウンドカバースリップ上に播種した。抗体(5E11-IgG、5E11-TCB、5F11-IgG、5F11-TCB)を2.5のモル比でAlexa Fluor 647スクシンイミジルエステル(InVitrogen、カタログ#A201106)で標識した。細胞を、37℃で一晩接着させた後、蛍光標識抗体(Alexa Fluor 647標識-5E11-IgG、-5E11-TCB、-5F11-IgG、-5F11-TCB)を、異なる持続時間および温度(氷上30分、37℃で1時間、37℃で3時間で増殖培地に直接添加した。冷たいPBS(Lonza)を使用して、反応を停止させ、各時点後に未結合の抗体を洗い流した。その後、細胞をCytofix(BD)で4℃で20分間固定し、PBSで2回洗浄した。その後、カバースリップを動かし、フルオロマウントG(eBioscience)を使用してスライドガラスにマウントし、イメージング前に4℃で一晩暗所に保管した。蛍光共焦点顕微鏡法を、60倍油浸(oil)対物レンズを備えたツァイス製の倒立型LSM 700を使用して実施した。画像は、顕微鏡に接続されたZenソフトウェア(ツァイス)を使用して収集し、IMARISソフトウェア(Bitplane)上で可視化した。図8Aは、4℃または37℃ですべての抗体が多発性骨髄腫細胞株の表面(原形質膜)を染色したことを示している。抗体が細胞によって内在化される場合、37℃で培養すると、細胞質に蛍光染色が現れる。GPRC5D細胞株によるGPRC5D結合IgGまたはGPRC5D結合TCBの内在化は全く観察されなかった。それはさらに、細胞の膜と細胞質で画定された細胞の対象領域の強度和を適用することによって確認された(3時間)。膜対細胞質のシグナル比の解析および定量には、IMARISソフトウェアを使用した。図8Bは、異なる抗体でのインキュベーションの3時間後に、膜対細胞質の強度の比は約4で変化しておらず、つまり、蛍光シグナルは細胞質ではなく表面に集中していることを示している。
【0412】
実施例7
GPRC5Dバインダーの特性評価:ELISAによる組換え細胞結合
ヒトGPRC5DまたはカニクイザルGPRC5DまたはマウスGPRC5DまたはヒトGPRC5Aのいずれかを発現する安定トランスフェクトされたCHOクローンを使用して、潜在的なリード候補抗体のIgGとしての結合を分析した。詳細には、新鮮な培地を使用して、10個の細胞(生存率≧98%)を384ウェルマイクロタイタープレート(BD Poly D-Lysin、#356662、容量:25μl/ウェル)に播種した。37℃で一晩インキュベーションした後、抗体の25μl/ウェル希釈液を4°Cで2時間細胞に添加した(1xPBSで15x1:3希釈、アッセイ濃度は30μg/mlから開始)。90μl/ウェルPBST(10xPBS、ロシュ、#11666789001+0,1%Tween20)を用いた1回の洗浄工程の後、室温(RT)で10分間、50μl/ウェル0.05%グルタルアルデヒド(シグマ カタログ番号G5882、1xPBS中)の添加によって細胞を固定した。90μl/ウェルのPBSTを使用してさらに3回洗浄した後、検出用に二次抗体を追加した:ヒト抗体の場合は、ブロッキングバッファー(1xPBS(ロッシュ#11666789001)+2%BSA(ウシ血清アルブミン画分V、脂肪酸不含、ロッシュ#10735086001)+0,05%Tween20)で1:2000に希釈したヤギ抗ヒトIg κ鎖抗体HRPコンジュゲート(Millipore #AP502P)を使用した。ラット抗体の場合、ヤギ抗ラットIgG1抗体HRPコンジュゲート(Bethyl #A110-106P)、ヤギ抗ラットIgG2a抗体HRPコンジュゲート(Bethyl #A110-109P)およびヤギ抗ラットIgG2b抗体HRPコンジュゲート(Bethyl #A110-111P)の混合物を、ブロッキングバッファー(25μl/ウェル)中で各抗体を1:10000に希釈して使用した。RTで1時間インキュベートし、90μl/ウェルPBSTを用いて3回の追加洗浄工程を行った後、25μl/ウェルTMB基質(ロシュ 注文番号1183503301)を10分間添加し、最終ODまでの発色を370nm/492nmでの測定により決定した。
【0413】
試験したすべての抗体は、pM範囲のEC50値(アビディティを反映)でヒトGPRC5Dへの正の結合を示した。ラットIgG 10B10および07A04のみが、カニクイザルGPRC5Dを発現するCHO細胞に対して、ヒト型の受容体と同等のEC50値で交差反応性を示した(図9)。カニクイザルの交差反応性は他のすべての抗体でも検出されたが、10B10と07A04と比較して低いレベルであった(図9)。マウスGPRC5Dを発現するCHO細胞への有意な結合は検出されず、また、ヒト型GPRC5Aを発現するCHO細胞への結合は全く検出されなかった(図9)。結合のEC50値を表2にまとめる。
【0414】
【0415】
実施例8
GPRC5Dバインダー:組換えGPRC5D-TCBはMM細胞株におけるT細胞の細胞傷害性を媒介する。
GPRC5D-TCBまたは他の標的化TCBの機能性を比較するために、複数のMM細胞株を用いてin vitro T細胞細胞傷害性アッセイを行った。MOLP-2(図10B)、AMO-1(図10C)、EJM(図10D)およびNCI-H929(図10G)。簡潔に言うと、細胞株を、20%熱不活化ウシ胎児血清(FBS;Gibco)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン100X(PS;Gibco)を補充したRPMI 1640+グルタマックス培地(Gibco)で培養した。MOLP-2は、グルタマックス1X(Gibco)を補充したこの培地で培養した。OPM-2(図10A)、RPMI-8226(図10E)およびL-363(図10F)細胞株を、10%FBSのみを補充したこの培地で培養した。NCI-H929は、50μMメルカプトエタノール(Gibco)、1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco)およびグルタマックス1X(Gibco)を補充したこの培地で培養した。EJMは、IMDM(Gibco)+10%FBS(Gibco)および1%PS(Gibco)で培養した。すべての細胞株を75cmフラスコ(TPP)中で週に2回の継代で培養した。
【0416】
細胞株を、10%FBS(Gibco)+1%PS(Gibco)を補充したRPMI培地(Gibco)中で、ヒト汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)を用いて、PBMC(Blutspende Schlierenのバフィーコート)から単離した0.3百万個の同種異系T細胞と一緒に、エフェクター対ターゲット比10対1で共培養した。抗ヒトGPRC5D TCBコンストラクト(5E11-TCB、5F11-TCB、10B10-TCB、B72-TCB、BCMA-TCB、DP47-TCB)を、1/10に段階希釈して12.5nMから0.0000125nMまでの異なる濃度で添加し、未処理試料と比較した。5%COを用いて37℃で20時間インキュベーションした後、ウェルあたり75μlの上清を、ウェルあたり25μlのCytoTox-Glo細胞傷害性アッセイ(Promega)を含む96ウェルホワイトプレート(Greiner bio-one)に移した。室温で15分間インキュベートした後、PerkinElmer EnVisionで発光を取得し、GraphPad PrismおよびXLフィットソフトウェアを使用して分析した。データは、LDH放出の発光シグナルとしてプロットされた(図10)。図10A-Gは、5E11-TCBおよび5F11-TCBの両方が、MM細胞株においてBCMA-TCB、10B10-TCBおよびB72-TCBよりもより強いT細胞細胞傷害性を媒介したことを示すデータを要約している。TCB媒介死滅のEC50を表3に示す。これは、異なるドナーT細胞(n=2またはn=3)を用いた異なる実験からの平均として計算した。
【0417】
【0418】
実施例9
正常なヒト骨髄細胞におけるin vitroでのT細胞活性化
4の異なる健常ドナーの新鮮な未処理の骨髄(Lonza #1M-105、ロット0000739254;0000739255;0000739256および0000734008)をサンプリングの1日または2日後に処理した。室温で5分間、BD Pharm Lissisバッファー(BD#555899;滅菌水で1倍)を用いて迅速な赤血球溶解を行った後、細胞を126gおよび443gでそれぞれ遠心分離およびバッファー交換により2回洗浄した。細胞を計数し、RPMI 1640グルタマックス+20%HIウシ胎児血清+2%ヒト血清+1%ペニシリン/ストレプトマイシン(すべてGibco製)に300000細胞/mLで再懸濁し、96ウェルプレート丸底(TPP)のウェルごとに100μLの細胞懸濁液を播種した。50μLの培地、または段階希釈1/10で200nM(4X)から20pMまでのB72-TCB、5F11-TCB、5E11-TCB、BCMA-TCB、10B10-TCBもしくはDP47-TCBを補充した培地をウェルごとに添加した。最後に、正常なドナーPBMCからの汎T細胞(Miltenyi Biotec、#130-096-535)を用いて単離した同種異系T細胞50μLを6Mio/mL(エフェクターT対正常な骨髄標的細胞比10:1)で添加した。加湿インキュベーターで37℃で一晩インキュベートした後、細胞をPBSで一度洗浄し、PBSで1/800に希釈した50μLのLive blue (Invitrogen、#L23105)4℃で20分間染色した。洗浄後、細胞をFACsバッファー(PBS1X、2%ウシ胎児血清、1%0.5mのEDTA(PH8)、0.25%NaNアジ化ナトリウム(20%))で希釈した以下の混合抗体と一緒に4℃で30分間インキュベートした:1/100に希釈したCD25 BV605、CD69 APC-Cy7、BCMA BV421、CD38 BV510、CD138 FITC、FcRH5 PEと、1/300に希釈したCD8 BV711、CD3 PE-Cy5およびCD4 AlexaFluor 700(すべてBioLegend製)、ならびにGPRC5D AlexaFluor 647(内製、クローン5E11 IgG)。洗浄後、細胞を100μLのFACsバッファーに再懸濁し、Fortessa(BD Biosciences)で取得した。
【0419】
図11A-Fに示すデータは、B72-TCBが正常な骨髄においてT細胞の非特異的活性化(CD69の上方制御により測定)を誘発したが、他の試験したTCBでは誘発しなかったことを示している。示されているように、B72-TCBによって誘発された非特異的活性化は濃度依存効果であり、5nmよりも50nmで顕著だった(図12Aおよび12B)。
【0420】
実施例10
TCBのin vivo有効性
有効性研究では、異なるTCBコンストラクト(GPRC5D 5F110-TCB、5E11-TCB、BCMA-TCB、B72-TCB)を、多発性骨髄腫を有する完全ヒト化NSGマウスにおける腫瘍退縮に関して比較した。NCI-H929細胞はもともとATCCから、OPM-2細胞はDSMZから取得された。両方の細胞株を増殖させた。細胞を、10%FCSおよび2mMのL-グルタミン、10mMのHEPES、1mMのピルビン酸ナトリウムを含むRPMIで培養した。この細胞を、5%COの水飽和雰囲気下で37℃で培養した。動物あたり2.5x10個のNCI-H929および5x10個のOPM-2細胞を、RPMI細胞培養液(Gibco)およびGFRマトリゲル(1:1、総体積100ul)中の動物の右側腹部に生存率>95.0%で皮下注射した。
【0421】
実験開始時に4-5週齢のメスのNSG(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ)マウス(フランス、リヨンのチャールス・リバー社で飼育)を、専用のガイドライン(GV-Solas;Felasa;TierschG)に従って、12時間明/12時間暗を1日サイクルとした特定の病原体がない条件下で維持した。実験研究プロトコールが地方自治体により審査および承認された(ROB-55.2-2532.Vet_03-16-10)。動物は、到着後1週間、新しい環境への馴致および観察のために維持された。継続的な健康モニタリングが定期的に実施された。
【0422】
プロトコールに従い、雌NSGマウスに15mg/kgのブスルファンをi.p.(腹腔内)注射し、続いて翌日臍帯血から単離された1x10個のヒト造血幹細胞をi.v.注射した。幹細胞注射後の16-20週目に、マウスを出血させ、血液をフローサイトメトリーで分析し、ヒト化の成功についてフローサイトメトリーで分析した。効率的に生着させたマウスを、それらのヒトT細胞の頻度に応じて異なる処置群(n=10/群)にランダム化した。この時、上述のようにマウスに腫瘍細胞を皮下注射し、腫瘍の大きさが約200mmに達したときに、化合物またはPBS(ビヒクル)で週1回処置した。すべてのマウスに、異なる用量のTCB分子を静脈内注射した(図13A-Dおよび14A-Dを参照)。
【0423】
適切な量の化合物を得るために、原液をヒスチジンバッファー(20mMヒスチジン、140mM NaCl、pH6.0)で希釈した。腫瘍の成長をノギスを使用して週に2回測定し、腫瘍体積を以下のように計算した。
:(W/2)xL(W:幅,L:長さ)
【0424】
化合物を4回注射した後、試験を終了してすべてのマウスを処分し、腫瘍を外植して重量を測定した。
【0425】
図13A-Dは、NCl-H929注射を受けた全動物における、処置後の腫瘍成長動態を示す。5F11-TCBは、1mg/kgまたは0.1mg/kgのいずれかで全動物において完全な腫瘍寛解を誘導した(図13A)のに対し、B72-TCBは、1mg/kgで使用した場合には部分的な腫瘍寛解のみを誘導し、0.1mg/kgでは効果がなかった(図13C)。BCMA-TCBもまた、1mg/kgで部分的な腫瘍寛解を誘導した(図13B)。
【0426】
図14A-Dは、OPM-2注射を受けた全動物における、処置後の腫瘍成長動態を示す。5F11-TCB(図14A、上部パネル)および5E11-TCB(図14B、上部パネル)は、0.1mg/kgで大部分の動物に完全な腫瘍寛解を誘導したのに対し、B72-TCB(図14C、上部パネル)は0.1mg/kgでは腫瘍の成長を抑制する力がより弱かった。0.01 mg/kgでは、5F11-TCB(図14A、下のパネル)と5E11-TCB(図14B、下のパネル)は、B72-TCB(図14C、下のパネル)と比較して、腫瘍の成長を阻害する力がより強かった。
【0427】
実施例11
抗GPRC5D抗体のヒト化
マウスの入力配列(可変部分にトリミングされている)について、ヒトのV領域およびJ領域配列のBLASTpデータベースを検索することにより、適切なヒトアクセプターフレームワークを同定した。ヒトアクセプターフレームワークの選択のための選択基準は、配列の相同性、同一または類似のCDR長、およびヒト生殖細胞の推定頻度だけでなく、VH-VLドメイン界面での特定のアミノ酸の保存でもあった。生殖細胞の同定工程に続いて、マウス入力配列のCDRをヒトアクセプターフレームワーク領域にグラフトした。これらの初期CDRグラフトと親抗体との間の各アミノ酸の違いが、それぞれの可変領域の構造的完全性に影響を与える可能性があるかどうかについて評価され、親配列への「逆突然変異」が適切と思われる場合はいつでも導入された。構造評価は、BIOVIA Discovery Studio Environmentバージョン17R2を使用して実装された社内の抗体構造相同性モデリングプロトコ-ルを使用して作成された、親抗体とヒト化変異体の両方のFv領域相同性モデルに基づいていた。いくつかのヒト化変異体では、「正突然変異」、すなわち、親バインダーの所定のCDR位置に存在する元のアミノ酸を、ヒトアクセプター生殖細胞の同等の位置にあるアミノ酸に変更するアミノ酸交換が含まれていた。目的は、ヒト化変異体の全体的なヒト特性を(フレームワーク領域を超えて)高め、免疫原性リスクをさらに低減することである。
【0428】
社内で開発されたin silicoツールを用いて、対になったVHとVLのヒト化変異体のVH-VLドメイン配向を予測した(参照によりその全体が援用される国際公開第2016/062734号の通り)。結果を、親バインダーの予測されたVH-VLドメイン配向と比較して、元の抗体と形状が近いフレームワークの組み合わせを選択した。合理的なのは、結合特性に有害な影響を与える可能性のある2つのドメインのペアリングの破壊的な変化をもたらす可能性のあるVH-VL界面領域において起こり得るアミノ酸交換を検出することである。
【0429】
GPRC5Dバインダー5E11のためのアクセプターフレームワークの選択とその適合
アクセプターフレームワークを、次の表4に従って選択した。
【0430】
【0431】
ポストCDR3フレームワーク領域は、ヒトIGHJ生殖細胞IGHJ302(DAFDIWGQGTMVTVSS)およびヒトIGKJ生殖細胞IGKJ501(ITFGQGTRLEIK)から適合させた。アクセプターフレームワークに関連する部分は太字で示されている。
【0432】
構造的考慮事項に基づいて、ヒトアクセプターフレームワークから親バインダーのアミノ酸への逆突然変異が、5E11ヒト化変異体の特定の位置に導入された(表5および6)。さらに、いくつかの位置が、親バインダーのCDR中のアミノ酸がヒトアクセプター生殖細胞に見られるアミノ酸で置換される正突然変異の有望な候補として識別された。変更の詳細を下の表に示す。
【0433】
注:逆突然変異には接頭辞bが付き、正突然変異にはfが付く。例えばbS49Aは、49位におけるセリンからアラニンへの逆突然変異(ヒト生殖細胞系アミノ酸から親抗体アミノ酸)を指す。残基のインデックスはすべて指数はKabat番号付けで示す。
【0434】
【0435】
【0436】
GPRC5Dバインダー5F11のためのアクセプターフレームワークの選択とその適合
アクセプターフレームワークを、次の表7に従って選択した。
【0437】
【0438】
ポストCDR3フレームワーク領域は、ヒトIGHJ生殖細胞IGHJ302(DAFDIWGQGTMVTVSS)およびヒトIGKJ生殖細胞IGKJ201(YTFGQGTKLEIK)から適合させた。アクセプターフレームワークに関連する部分は太字で示されている。
【0439】
構造的考慮事項に基づいて、ヒトアクセプターフレームワークから親バインダーのアミノ酸への逆突然変異が、5F11ヒト化変異体の特定の位置に導入された(表8および9)。さらに、いくつかの位置が、親バインダーのCDR中のアミノ酸がヒトアクセプター生殖細胞に見られるアミノ酸で置換される正突然変異の有望な候補として識別された。変更の詳細を下の表に示す。
【0440】
注:逆突然変異には接頭辞bが付き、正突然変異にはfが付く。例えばbA93Tは、93位におけるセリンからスレオニンへの逆突然変異(ヒト生殖細胞系アミノ酸から親抗体アミノ酸)を指す。残基のインデックスはすべて指数はKabat番号付けで示す。
【0441】
【0442】
【0443】
ELISAによるヒト化変異体の特性評価
GPRC5DバインダーのVHおよびVLドメインのヒト化変異体の特性評価のために、上記のELISAプロトコールを使用した(実施例7を参照)。データを、5E11のヒト化変異体については表10に、5F11のヒト化変異体については表11にまとめた。表12は、親5E11のCDR配列、ならびに親5E11および選択したヒト化変異体のCDR配列を示す。
【0444】
【0445】
【0446】
【0447】
【0448】
【0449】
実施例12
選択した抗GPRC5D IgGの異なるヒト化変異体の存在下でのCAR-J細胞のin vitro活性化
異なるヒト化抗GPRC5D IgGがPGLALA-CAR-Jエフェクター細胞を活性化する能力を、以下で説明するように評価した。GPRC5Dを発現する多発性骨髄腫標的細胞L363(Diehl et al., Blut 36: 331-338 (1978))を、PCT出願番号PCT/EP第2018/086038号およびPCT出願番号PCT/EP第2018/086067号で開示されているように、IgG分子のFc部分において抗PGLALA-CAR-Jエフェクター細胞(TCRに対して向けられたPGLALA(P329G L234A L235A)突然変異を発現し、NFATプロモーターを含むJurkat-NFATヒト急性リンパ性白血病レポーター細胞株)と一緒に共培養した。L363細胞およびPGLALA-CAR-J細胞上のGPRC5DにIgG分子が同時に結合すると、NFATプロモーターが活性化され、活性なホタルルシフェラーゼの発現をもたらす。
【0450】
アッセイのために、ヒト化IgG変異体をRPMI 1640培地(グルタマックス、15%HIウシ胎児血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含む;すべてGIBCO社製)で希釈し、丸底96ウェルプレートに移した(最終濃度範囲0.2pg/ml‐10μg/ml)。最終的なエフェクター(抗PGLALA-CAR-J)対標的(L363)細胞の比率が5:1になるように、ウェルあたり20000個のL363細胞と抗PGLALA-CAR-Jエフェクター細胞を添加し、ウェルあたり200μlの最終容量を得た。細胞を、加湿したインキュベーター内で約16時間37℃でインキュベートした。インキュベーション時間の終わりに、100μl/ウェルの上清を白い平底の96ウェルプレート(Costar)に移し、別の100μl/ウェルのONE-Gloルシフェラーゼ基質(Promega)と一緒に5分間インキュベートした後、PerkinElmer Envisionを使用して発光を読み取った。行データ(row data)を、GraphPad Prismを用いてIgG濃度に対する相対発光シグナル(RLU)としてプロットし、EC50はXLフィットソフトウェアを用いて計算した。
【0451】
図15A-Bおよび表13に示すように、評価したすべてのGPRC5D IgGは、GPRC5D発現標的細胞および抗PGLALA-CAR-J細胞への同時結合により、CAR-J活性化を誘導する。抗GPRC5Dバインダー5F11および5E11の両方について、ヒト化前の親抗体と比較して、同様のEC50値または改善されたEC50値を有するヒト化変異体が同定された。バインダー5F11については、最も強い活性化は、分子P1AE5741によって誘導され得る(図15A)。バインダー5E11については、最も強い活性化は分子P1AE5730およびP1AE5723によって誘導され得た(図15B)。
【0452】
【0453】
前述の発明は明確な理解のために例示および実例によって幾分詳細に説明されているが、これらの説明および実例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書に引用されるすべての特許および科学文献の開示内容は、その全体が出典明示により本明細書に援用される。
図1A-F】
図1G-N】
図1O-V】
図1W-Z】
図2
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【配列表】
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