(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット、積層膜の製造方法および、磁気記録媒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240702BHJP
G11B 5/65 20060101ALI20240702BHJP
G11B 5/851 20060101ALI20240702BHJP
H01F 10/16 20060101ALI20240702BHJP
H01F 41/18 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C23C14/34 A
G11B5/65
G11B5/851
H01F10/16
H01F41/18
(21)【出願番号】P 2022116631
(22)【出願日】2022-07-21
(62)【分割の表示】P 2019512701の分割
【原出願日】2018-08-16
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2017180829
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】清水 正義
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】増田 愛美
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-252310(JP,A)
【文献】国際公開第2011/016365(WO,A1)
【文献】特開2014-074219(JP,A)
【文献】特開2010-176727(JP,A)
【文献】特開2012-102399(JP,A)
【文献】特開2001-026860(JP,A)
【文献】特開2006-299401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
G11B 5/62- 5/82
G11B 5/84- 5/858
H01F 10/00-10/32
H01F 41/14-41/34
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分としてCo及びPtを含有し、Coの含有量に対するPtの含有量のモル比が5/100~45/100であり、TiとNbとOをすべて含む相を有し、前記相は固溶体相及び/又は複合酸化物相を含み、Crを3.6mol%以下で含有し、又は、Crを含有しないスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Tiの含有量が、TiO
2換算で0.5mol%~15mol%である請求項
1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
金属酸化物成分として、さらに、SiO
2及びB
2O
3のうちの少なくとも一種の金属酸化物を含有し、Nb
2O
5を含む金属酸化物の合計含有量が20vоl%~40vоl%である請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
Coの含有量に対するPtの含有量のモル比が15/100~35/100である請求項1~3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
Ptを2mol%~25mol%で含有してなる請求項1~4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
金属成分として、さらに、Cr及び/又はRuを0.5mol%~20mol%で含有してなる請求項1~5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
Ruを含有する下地層上に、又は、金属成分としてCoとCr及びRuからなる群から選択される一種以上の金属とを含有するスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより下地層上に形成した中間層上に、請求項1~6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより、磁性層を形成することを含む、積層膜の製造方法。
【請求項8】
前記積層膜が、Ruを含有する下地層と、前記下地層上に直接的に、又は、金属成分としてCoとCr及びRuからなる群から選択される一種以上の金属とを含有する中間層を介して間接的に形成されて、金属成分としてCo及びPtを含有し、Coの含有量に対するPtの含有量のモル比が5/100~45/100である磁性層とを有する積層膜であって、前記磁性層が、TiとNbとOをすべて含む相を有する請求項7に記載の積層膜の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の積層膜の製造方法で製造される積層膜を用いて磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属成分としてCo及びPtを含有し、たとえば垂直磁気記録媒体の中間層上への磁性層等の形成に用いて好適なスパッタリングターゲット、積層膜の製造方法、積層膜および磁気記録媒体に関するものであり、特に、ハードディスクドライブの高密度化に寄与することのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブでは、記録面に対して垂直方向に磁気を記録する垂直磁気記録方式が実用化され、この方式は、それまでの面内磁気記録方式に比べて高密度の記録が可能であることから広く採用されている。
【0003】
垂直磁気記録方式の磁気記録媒体は、概して、アルミニウムやガラス等の基板上に密着層、軟磁性層、Seed層、Ru層などの下地層、中間層、磁性層および保護層等を順次に積層して構成されるものである。このうち、磁性層は下部に、Coを主成分としたCo‐Pt系合金等に、SiO2やその他の金属酸化物が分散したグラニュラ膜が存在し、高い飽和磁化Msと磁気異方性Kuを有する。また、磁性層の下方側に積層される中間層は、Co-Cr-Ru系合金等に、同様の金属酸化物が分散した組織構造からなるものであり、非磁性とするため比較的多くのRuやCr等を含有させる場合がある。
【0004】
このような磁性層及び中間層では、非磁性材料となる上記の金属酸化物が、垂直方向に配向するCo合金等の磁性粒子の粒界へ析出して、磁性粒子間の磁気的な相互作用が低減され、それによるノイズ特性の向上および、高い記録密度を実現している。
なお一般に、磁性層や中間層等の各層は、所定の組成ないし組織を有するスパッタリングターゲットを用いて、基板上へスパッタリングすることにより製膜して形成する。この種の技術として従来は、特許文献1に記載されたもの等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハードディスクドライブの高密度化を実現するには、熱安定性の確保のための磁気異方性Kuの増大と、高分解能化のための磁性粒子の高い磁気的分離性が求められる。
【0007】
しかるに、上述したような飽和磁化Msが高い磁性層では、磁性粒子間の交換結合が強固であることから、磁性粒子どうしの磁気的分離性に乏しい。ここで、磁気的分離性を向上させるべく金属酸化物を多く添加すると、磁性粒子内に金属酸化物が入り込んで磁性粒子の結晶性が悪化し、それに伴って飽和磁化Msおよび磁気異方性Kuが低下する。
【0008】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、その目的とするところは、磁気記録媒体の磁性層における磁気異方性を大きく低下させることなしに、磁性粒子間の磁気的分離性を向上させることのできるスパッタリングターゲット、積層膜の製造方法、積層膜および磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は鋭意検討の結果、磁性層及び中間層の磁性材料であるCo合金に分散させる非磁性材料の金属酸化物として、これまで用いられていたSiO2等に加えて又はそれに代えて、Nb2O5を用いることにより、金属酸化物の含有量をそれほど増大させなくとも、磁性粒子間の磁気的分離性を有意に改善できるとの知見を得た。また、これにより、Co‐Ptを主体とする磁性層の高い飽和磁化Msと高い磁気異方性Kuを維持できることを見出した。さらにNb2O5とTiO2を両方含有すると、磁気的分離性を維持しながらより一層高いMsとKuが得られることを見出した。
これは、Nb2O5の適度なCoとの濡れ性と一部のOが欠損しても安定な酸化物になれるため磁性粒子内に酸化物が入り込むことなく磁性粒子の周りに均一な幅で粒界が形成できることによるものと考えられるが、この発明は、このような理論に限定されるものではない。
【0010】
このような知見に基づき、この発明のスパッタリングターゲットは、金属成分としてCo及びPtを含有し、Coの含有量に対するPtの含有量のモル比が5/100~45/100であり、TiとNbとOをすべて含む相を有するものである。
【0011】
ここにおいて、この発明のスパッタリングターゲットでは、Nbの含有量が、Nb2O5
換算で0.5mol%~5mol%であることが好ましい。Tiの含有量が、TiO2
換算で0.5mol%~15mol%であることが好ましい。
【0012】
この発明のスパッタリングターゲットでは、金属酸化物成分として、さらに、SiO2及びB2O3のうちの少なくとも一種の金属酸化物を含有し、Nb2O5を含む金属酸化物の合計含有量が20vоl%~40vоl%であることが好ましい。
【0013】
なお、この発明のスパッタリングターゲットでは、Coの含有量に対するPtの含有量のモル比が15/100~35/100であることが好ましい。
この発明のスパッタリングターゲットは、Ptを2mol%~25mol%で含有することが好ましい。
【0014】
なお、この発明のスパッタリングターゲットは、金属成分として、さらに、Cr及び/又はRuを0.5mol%~20mol%で含有するものとすることができる。
【0015】
この発明の積層膜の製造方法は、Ruを含有する下地層上に、又は、金属成分としてCoとCr及びRuからなる群から選択される一種以上の金属とを含有するスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより下地層上に形成した中間層上に、上記のいずれかのスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより、磁性層を形成することを含むものである。
【0016】
この発明の積層膜は、Ruを含有する下地層と、前記下地層上に直接的に、又は、金属成分としてCoとCr及びRuからなる群から選択される一種以上の金属とを含有する中間層を介して間接的に形成されて、金属成分としてCo及びPtを含有し、Coの含有量に対するPtの含有量のモル比が5/100~45/100である磁性層とを有する積層膜であって、前記磁性層が、TiとNbとOをすべて含む相を有するものである。
【0017】
この発明の磁気記録媒体は、上記の積層膜を備えるものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、金属酸化物成分として、少なくともNb2O5、好ましくはNb2O5とともにTiO2を含有することにより、磁性粒子間の良好な磁気的分離性と、高い磁気異方性Kuを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例で製造した積層膜の層構成を示す模式図である。
【
図2】実施例におけるPt/Cо比率に対する飽和磁化Msの変化を示すグラフである。
【
図3】実施例におけるPt/Cо比率に対する磁気異方性Kuの変化を示すグラフである。
【
図4】実施例におけるPt/Cо比率に対する磁化曲線の傾きαの変化を示すグラフである。
【
図5】実施例におけるターゲットのSEM/EDSマッピングイメージである。
【
図6】実施例におけるターゲットのXRDを用いた結晶構造の同定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態のスパッタリングターゲットは、金属成分としてCo及びPtを含有し、Coの含有量に対するPtの含有量のモル比が5/100~45/100であり、金属酸化物成分としてNb2O5または、Nb2O5とTiO2を含有することを特徴とするものである。
より具体的には、CoとPtとの合金に、Nb2O5を含む金属酸化物が分散した組織構造を有する。TiO2とNb2O5を両方含有する場合には、金属酸化物としてTiO2とNb2O5の固溶体が分散した組織構造を有する。
【0021】
このスパッタリングターゲットは、特に、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体の中間層上に位置する磁性層の形成に用いることが好ましい。この場合、当該スパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した磁性層では、上記の金属成分が磁性粒子を構成するとともに、Nb2O5を含む金属酸化物が非磁性材料となって、垂直方向に配向する磁性粒子の周囲に均一に分布して、磁性粒子間の磁気的な相互作用が有効に低減される。
【0022】
(組成)
スパッタリングターゲットの金属成分は、主としてCoからなり、それに加えてPtを含む。特に金属成分は、Ptを含有するCo合金である。
【0023】
Ptの含有量は、2mol%~25mol%とすることが好ましい。Ptの合計含有量が多すぎると磁気異方性が低下したり、磁性粒子の結晶性が落ちるおそれがあり、この一方で、Ptの合計含有量のCoに対する割合が少なすぎると磁気異方性が不十分となる懸念がある。
【0024】
Ptは、Coの含有量に対するモル比が5/100~45/100となる量で含有されるものとする。これはすなわち、Ptの含有量の、Coの含有量に対するモル比が5/100未満また45/100を超えると、磁気異方性が低下するからである。この観点から、Ptの含有量の、Coの含有量に対するモル比は、15/100~35/100であることがより一層好ましい。なお、Coが多すぎると磁気異方性が低下することが懸念され、この一方で、Coが少なすぎると飽和磁化と磁気異方性が低下する可能性がある。
【0025】
この発明の実施形態のスパッタリングターゲットは、金属成分としてさらに、Cr及び/又はRuを0.5mol%~20mol%で含有することができる。このような金属をさらに含有することにより、磁性粒子の結晶性を維持したまま飽和磁化と磁気異方性を調整することができるという利点がある。なお、このような金属の多くは通常、金属成分として含まれるが、後述する製造時の焼結で酸化されることによって、一部が金属酸化物として含まれることもある。
【0026】
そして、この発明のスパッタリングターゲットは、金属酸化物成分として、少なくともNb2O5を含有する。Nb2O5は、従来のスパッタリングターゲットで主たる金属酸化物としていたSiO2等に比して、Coとの濡れ性が適度に良くなり、一部の酸素が欠損しても安定な酸化物になることから、Nb2O5を含有させることにより、磁気異方性を維持しながら磁性粒子の分離性を向上することができる。さらにNb2O5とTiO2を両方含有することにより磁気的分離性を維持しながらより高いMsとKuが得られる。
【0027】
Nb2O5の含有量は、0.5mol%~5mol%とすることが好適である。これはすなわち、Nb2O5の含有量が少ない場合は、上述した効果を十分に得ることができない可能性があり、この一方で、Nb2O5の含有量が多い場合は、磁気異方性が低下するおそれがあるからである。それ故に、Nb2O5の含有量は、0.5mol%~3mol%とすることがより一層好ましい。
【0028】
TiO2を含有する場合は、0.5mol%~15mol%とすることが好適である。TiO2の含有量が少ない場合は、上述した効果を十分に得ることができない可能性があり、この一方で、TiO2の含有量が多い場合は、酸化物体積が増加して磁気異方性が低下するおそれがあるからである。
さらに、スパッタリングターゲットは、TiとNbとOをすべて含む相を有することがより一層好ましい。このような相としては、TiO2にNbが混ざった、またはNb2O5にTiが混ざった固溶体相や、TiNb2O7、TiNb6O17等の複合酸化物相を挙げることができる。また、この時一部の酸素が欠損していても良い。Ti、Nb、Oの混ざった相は、例えばSEM/EDSを用いた元素マッピングにより同一箇所からのNb、Ti、Oの強度信号により確認することができる。また、X線を用いたXRD評価により固溶体相や複合酸化物相を確認することもできる。
【0029】
また、この発明の実施形態のスパッタリングターゲットは、金属酸化物成分として、Nb2O5のとTiO2の他、SiO2、B2O3等の金属酸化物を含有することもできる。
Nb2O5以外の上記のような金属酸化物を含有する場合、Nb2O5を含むすべての金属酸化物の合計含有量は、20vоl%~40vоl%であることが好ましい。金属酸化物の合計含有量が20vоl%未満であると、磁性粒子の分離が不十分となることが懸念され、この一方で40vоl%を上回ると、飽和磁化が低下する可能性がある。この理由から、金属酸化物の合計含有量は、25vоl%~35vоl%であることがさらに好適である。
【0030】
(スパッタリングターゲットの製造方法)
上述したスパッタリングターゲットは、粉末焼結法を用いて製造することができ、その具体例としては以下のとおりである。
【0031】
はじめに、金属粉末として、Co粉末と、Pt粉末と、必要に応じてさらに上述した他の金属の粉末を用意する。金属粉末は、単元素のみならず合金の粉末であってもよく、その粒径が1μm~10μmの範囲内のものであることが、均一な混合を可能にして偏析と粗大結晶化を防止できる点で好ましい。金属粉末の粒径が10μmより大きい場合は、後述の酸化物粒子が均一に分散しないことがあり、また、1μmより小さい場合は、金属粉末の酸化の影響でスパッタリングターゲットが所望の組成から外れたものになるおそれがある。
【0032】
また、酸化物粉末として、少なくともNb2O5粉末と、必要に応じて、TiO2粉末、SiO2粉末及びB2O3粉末からなる群から選択される少なくとも一種の粉末を用意する。酸化物粉末は粒径が1μm~30μmの範囲のものとすることが好ましい。それにより、上記の金属粉末と混合して加圧焼結した際に、金属相中に酸化物粒子をより均一に分散させることができる。酸化物粉末の粒径が30μmより大きい場合は、加圧焼結後に粗大な酸化物粒子が生じることがあり、この一方で、1μmより小さい場合は、酸化物粉末同士の凝集が生じることがある。
【0033】
次いで、上記の金属粉末及び酸化物粉末を、所望の組成になるように秤量し、ボールミル等の公知の手法を用いて混合するとともに粉砕する。このとき、混合・粉砕に用いる容器の内部を不活性ガスで充満させて、原料粉末の酸化をできる限り抑制することが望ましい。これにより、所定の金属粉末と酸化物粉末とが均一に混合した混合粉末を得ることができる。
【0034】
その後、このようにして得られた混合粉末を、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気下で加圧して焼結させ、円盤状等の所定の形状に成型する。ここでは、ホットプレス焼結法、熱間静水圧焼結法、プラズマ放電焼結法等の様々な加圧焼結方法を使用することができる。なかでも、熱間静水圧焼結法は焼結体の密度向上の観点から有効である。
【0035】
焼結時の保持温度は、700~1500℃の温度範囲とし、特に800℃~1400℃とすることが好ましい。そして、この範囲の温度に保持する時間は、1時間以上とすることが好適である。
また焼結時の加圧力は、好ましくは10MPa~40MPa、より好ましくは25MPa~35MPaとする。
それにより、金属相中に酸化物粒子をより均一に分散させることができる。
【0036】
上記の加圧焼結により得られた焼結体に対し、旋盤等を用いてで所望の形状にする切削その他の機械加工を施すことにより、スパッタリングターゲットを製造することができる。
【0037】
(積層膜)
積層膜は、少なくとも、下地層と、下地層上に形成された磁性層とを有するものである。
より詳細には、下地層は、Ruを含有するものであり、一般にはRuからなり、又はRuを主成分とする層である。
【0038】
下地層と磁性層の間に中間層を設けることができる。中間層は、金属成分として、Coと、Cr及びRuからなる群から選択される一種以上の金属とを含有し、前記Cr及びRuからなる群から選択される一種以上の金属の含有量の、Coの含有量に対するモル比が1/2以上である。また中間層は、金属酸化物成分として、Nb2O5、TiO2、SiO2、B2O3、CoO、Co3O4、Cr2O3、Ta2O5、ZnO及びMnOからなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましく、なかでもNb2O5を含有することがより一層好ましい。
【0039】
また、中間層は、Nb2O5の含有量が5mol%~15mol%または、他の金属酸化物を含む場合はNb2O5の含有量が2mol%~5mol%であるものとすることができる。中間層は、Nb2O5以外の上述した金属酸化物をさらに含有し、Nb2O5を含む金属酸化物の合計含有量が30vоl%以上であるものとすることができる。
中間層のCo含有量は15mol%~60mol%とすることができ、Cr及びRuの合計含有量は30mol%~60mol%とすることができる。その他、中間層は、金属成分として、さらに、Ptを2mol%~25mol%で含有するものとすることができる。
【0040】
磁性層は、金属成分としてCo及びPtを含有し、Coの含有量に対するPtの含有量のモル比が5/100~45/100、好ましくは15/100~35/100であり、金属酸化物成分としてNb2O5を含有することが好ましい。磁性層がNb2O5を含有することにより、磁性粒子の磁気的分離性を向上させることができる。さらにNb2O5とTiO2の両方を含有すると、磁気的分離性を維持しながらMs、Kuを増加することができる。
この磁性層は、上述したスパッタリングターゲットを用いて、中間層上にスパッタリングにより製膜することにより形成することができる。
【0041】
したがって、磁性膜は、上記のスパッタリングターゲットと同様に、Nb2O5の含有量が0.5mol%~5mol%であること、TiO2を含有する場合はTiO2の含有量が0.5mol%~15mol%であること、金属酸化物成分としてさらにSiO2及びB2O3からなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物を含有する場合は、Nb2O5を含む金属酸化物の合計含有量が20vоl%~40vоl%であること、Ptを2mol%~25mol%で含有すること、金属成分としてさらにCr及び/又はRuを0.5mol%~20mol%で含有することがそれぞれ好ましい。
【0042】
(積層膜の製造方法)
積層膜の各層は、それらの各層に応じた組成及び組織を有するスパッタリングターゲットを用いて、マグネトロンスパッタリング装置等で成膜することにより形成することができる。
ここで、積層膜の中間層は、下地層上に、金属成分としてCoとCr及びRuからなる群から選択される一種以上の金属とを含有するスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより成膜することで形成する。
【0043】
また積層膜の磁性層は、中間層上に、先述したスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより成膜して形成することができる。
【0044】
(磁気記録媒体)
磁気記録媒体は、上述したような、下地層と、下地層上に形成された中間層と、中間層上に形成された磁性層とを有する積層膜を備えるものである。磁気記録媒体は通常、アルミニウムやガラス等の基板上に軟磁性層、下地層、中間層、磁性層および保護層等を順次に形成することにより製造される。
【実施例】
【0045】
次に、この発明のスパッタリングターゲットを試作し、それを用いて製膜した磁性層による効果を確認したので、以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0046】
各種のスパッタリングターゲットを用いて、
図1に示す層構成の積層膜を製造した。
ここで、
図1に「Mag」として示す磁性層は、表1に示すように組成の異なる各スパッタリングターゲットにより形成し、かかる磁性層を有する積層膜における磁性層の飽和磁化Ms、磁気異方性Ku、保磁力における磁化曲線の傾きαをそれぞれ測定した。
【0047】
なおここで、飽和磁化Ms、磁化曲線の傾きαは玉川製作所製の試料振動型磁力計(VSM)により測定し、玉川製作所製磁気トルク計(TRQ)により磁気異方性Kuを測定した。また、酸化物の体積率は、原料粉の密度、重量からターゲット全体の体積と酸化物の体積を見積りこれらの比により算出した。
表1中、「効果」の項における「×」はαの低減効果が無かったこと、「〇」はαの低減効果があったこと、「◎」は顕著なαの低減効果があったことをそれぞれ意味する。
【0048】
【0049】
表1に示す結果より、Nb2O5を含有する発明例1~26では、比較的高い飽和磁化Ms及び磁気異方性Kuを維持しつつ、磁化曲線の傾きαが有効に低減されていることが解かる。これに対し、Nb2O5を含有しない比較例1~15では、磁化曲線の傾きαが低減されなかった。
【0050】
また表1の発明例1~12及び比較例1~12について、Pt/Cо比率に対する飽和磁化Ms、磁気異方性Ku及び磁化曲線の傾きαの各変化を確認した。それらを
図2~4のそれぞれにグラフで示す。
なお参考までに、ターゲットのSEM/EDSマッピングイメージと、XRDを用いたターゲットの結晶構造の同定結果の二つのグラフ(それぞれ発明例19及び18に対応する。)を、
図5及び6にそれぞれ示す。
【0051】
以上より、この発明によれば、磁気記録媒体の磁性層における磁気異方性を大きく低下させずに、磁性粒子間の磁気的分離性を向上できることが示唆された。