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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240702BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240702BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240702BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240702BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01L29/78 652G
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 658A
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L29/78 658E
H01L29/78 655A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022122100
(22)【出願日】2022-07-29
(65)【公開番号】P2024018648
(43)【公開日】2024-02-08
【審査請求日】2024-05-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500216466
【氏名又は名称】住重アテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】坂根 仁
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正史
(72)【発明者】
【氏名】原田 俊太
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0165090(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0165151(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0277793(US,A1)
【文献】国際公開第2016/114057(WO,A1)
【文献】特開2021-145111(JP,A)
【文献】国際公開第2020/080295(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/120999(WO,A1)
【文献】特開2017-168776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 29/06
H01L 29/739
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる基板と、前記基板の第1面上の第1導電型の半導体層とを備える半導体装置に前記半導体層の上から水素イオンを照射して、1μm以上の厚さにわたって水素濃度が1015/cmを超える高濃度水素領域を形成することを備え、
前記高濃度水素領域の少なくとも一部は、前記第1導電型の半導体層内に形成されることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記高濃度水素領域の少なくとも一部は、前記第1面から5μm以内に形成されることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1導電型の半導体層は、前記基板上のバッファ層と、前記バッファ層上の前記バッファ層よりも低不純物濃度である前記第1導電型のドリフト層とを備え、
前記高濃度水素領域の少なくとも一部は、前記バッファ層に形成されることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記高濃度水素領域の少なくとも一部は、前記基板と前記バッファ層の界面に形成されることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1導電型の半導体層は、前記基板上のバッファ層と、前記バッファ層上の前記バッファ層よりも低不純物濃度である前記第1導電型のドリフト層とを備え、
前記高濃度水素領域の少なくとも一部は、前記ドリフト層に形成されることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1導電型の半導体層は、前記基板上のバッファ層と、前記バッファ層上の前記バッファ層よりも低不純物濃度である前記第1導電型のドリフト層とを備え、
前記高濃度水素領域は、前記バッファ層および前記ドリフト層にわたって形成されることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記高濃度水素領域における水素濃度のピーク値は、1016/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記高濃度水素領域における水素濃度は、1020/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記水素イオンのドーズ量は、1012/cm以上であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記水素イオンのドーズ量は、1016/cm以下であることを特徴とする請求項9に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記半導体層に前記第1導電型とは異なる第2導電型の不純物のイオンを照射することと、
前記第2導電型の不純物を活性化させるために1500℃以上の温度でアニールすることと、をさらに備え、
前記水素イオンの照射は、前記1500℃以上の温度でアニールする前に実行されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記基板の第1面とは反対側の第2面に金属電極層を形成することと、
前記金属電極層を450℃以上800℃以下の温度でアニールすることと、をさらに備え、
前記水素イオンの照射は、前記450℃以上800℃以下の温度でアニールする前に実行されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
水素濃度が10 15 /cm 以下となる前記高濃度水素領域の下端は、前記基板内または前記半導体層内に位置する、請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
水素濃度が10 15 /cm 以下となる前記高濃度水素領域の下端は、前記基板内に位置する、請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
水素濃度が10 15 /cm 以下となる前記高濃度水素領域の下端は、前記バッファ層内に位置する、請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
水素濃度が10 15 /cm 以下となる前記高濃度水素領域の下端は、前記ドリフト層内に位置する、請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】
炭化珪素からなる基板と、
前記基板上に設けられる第1導電型の半導体層と、
1μm以上の厚さにわたって水素濃度が1015/cmを超える高濃度水素領域と、を備え、
前記高濃度水素領域の少なくとも一部は、前記第1導電型の半導体層内に形成され
水素濃度が10 15 /cm 以下となる前記高濃度水素領域の下端は、前記基板内または前記半導体層内に位置することを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代のパワー半導体装置に用いる材料として、炭化珪素(SiC)が注目されている。例えば、SiC基板上にエピタキシャル層が形成され、エピタキシャル層内にトランジスタ構造が形成される。SiC半導体装置では、電流印加時にエピタキシャル層中の積層欠陥に注入キャリアがトラップされて積層欠陥エネルギーが低下し、積層欠陥の拡張につながることが知られている。積層欠陥の拡張は、順方向電圧の上昇につながるために課題視されている。
【0003】
積層欠陥の拡張を抑制するため、エピタキシャル層内にプロトンを照射してライフタイムキラーを生成し、注入キャリアが積層欠陥にトラップされる前にキャリアの再結合を促進する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-102493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ライフタイムキラーの生成によって積層欠陥の拡張を抑制しようとする場合、キャリアの十分な再結合を促進するために、深さ方向に広範囲にライフタイムキラーを生成する必要がある。エピタキシャル層の膜厚を大きくしたり、深さ方向に広範囲にプロトンを照射したりする必要があり、製造コストの増加につながる。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、SiC半導体装置の電流印加時における積層欠陥の拡張を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の半導体装置の製造方法は、炭化珪素からなる基板と、基板の第1面上の第1導電型の半導体層とを備える半導体装置に水素イオンを照射して、1μm以上の厚さにわたって水素濃度が1015/cmを超える高濃度水素領域を形成することを備える。高濃度水素領域の少なくとも一部は、第1導電型の半導体層内に形成される。
【0008】
本発明の別の態様は、半導体装置である。この半導体装置は、炭化珪素からなる基板と、基板上に設けられる第1導電型の半導体層と、1μm以上の厚さにわたって水素濃度が1015/cmを超える高濃度水素領域と、を備える。高濃度水素領域の少なくとも一部は、第1導電型の半導体層内に形成される。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある態様によれば、SiC半導体装置の電流印加時における積層欠陥の拡張を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る半導体装置の構成例を模式的に示す断面図である。
図2】水素イオン照射後の半導体装置の水素濃度の一例を示すグラフである。
図3】比較例および実施例における高濃度水素領域の厚さと積層欠陥の拡張有無を示す表である。
図4】高濃度水素領域の形成位置の別の例を模式的に示す図である。
図5】半導体装置の製造工程を模式的に示す断面図である。
図6】半導体装置の製造工程を模式的に示す断面図である。
図7】半導体装置の製造工程を模式的に示す断面図である。
図8】半導体装置の製造工程を模式的に示す断面図である。
図9】半導体装置の製造工程を模式的に示す断面図である。
図10】半導体装置の製造工程を模式的に示す断面図である。
図11】半導体装置の製造工程を模式的に示す断面図である。
図12】実施の形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下の説明において参照する図面において、各構成部材の大きさや厚みは説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の寸法や比率を示すものではない。
【0013】
本実施の形態の概要を説明する。本実施の形態は、炭化珪素(SiC)からなる基板と、基板の第1面上に設けられる第1導電型の半導体層と、を備えるSiC半導体装置に関する。このようなSiC半導体装置では、基板と半導体層の界面近傍に存在する積層欠陥が電流印加時に拡張し、順方向電圧の上昇につながることが課題視されている。
【0014】
本実施の形態では、基板と半導体層の界面近傍に水素イオンを照射し、積層欠陥を縁取る部分転位に水素を固着させ、電流印加時における積層欠陥の拡張を抑制する。部分転位に水素を固着させることにより、積層欠陥に注入キャリアがトラップされて積層欠陥エネルギーが低下することを抑制できる。
【0015】
本発明者らの知見によれば、水素イオンの照射によって、1μm以上の厚さにわたって水素濃度が1015/cmを超える高濃度水素領域を形成することにより、積層欠陥の拡張を抑制できる。1μm以上の厚さにわたって高濃度水素領域を形成することにより、基板と半導体層の界面近傍に存在する積層欠陥を縁取る部分転位に十分な量の水素を固着させることができ、積層欠陥の拡張を好適に抑制できる。
【0016】
図1は、実施の形態に係る半導体装置10の構成例を模式的に示す断面図である。半導体装置10は、SiC半導体装置であり、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)である。半導体装置10は、基板12と、バッファ層14と、ドリフト層16と、ベース領域18と、ソース領域20と、ベースコンタクト領域22と、ゲート絶縁膜24と、ゲート電極26と、層間絶縁膜28と、ソース電極30と、ドレイン電極32とを備える。
【0017】
基板12は、第1導電型(例えばn型)または第2導電型(例えばp型)の炭化珪素(SiC)からなるSiC基板である。基板12は、例えば、n型SiC基板であり、n型不純物として例えば窒素(N)がドープされている。基板12の第1導電型または第2導電型の不純物濃度は、1.0×1018/cm以上であり、例えば2.0×1018/cm以上5.0×1019/cm以下である。基板12は、第1面12aと、第1面12aとは反対側の第2面12bとを備える。第1面12aは、例えば、(0001)Si面である。
【0018】
バッファ層14は、基板12の第1面12a上にエピタキシャル成長される第1導電型のSiC半導体層である。バッファ層14は、例えば、n型SiC層であり、n型不純物として例えば窒素(N)がドープされている。バッファ層14の第1導電型の不純物濃度は、基板12の第1導電型または第2導電型の不純物濃度よりも低く、ドリフト層16の第1導電型の不純物濃度よりも高い。バッファ層14の第1導電型の不純物濃度は、例えば1.0×1016/cm以上1.0×1018/cm以下である。バッファ層14の厚さは、1.0μm以上5.0μm以下であり、例えば1.5μm以上3.0μm以下であり、例えば2.0μmである。
【0019】
ドリフト層16は、バッファ層14上にエピタキシャル成長される第1導電型のSiC半導体層である。ドリフト層16は、例えばn型SiC層であり、n型不純物として例えば窒素(N)がドープされている。ドリフト層16の第1導電型の不純物濃度は、バッファ層14の第1導電型の不純物濃度よりも低い。ドリフト層16の第1導電型の不純物濃度は、例えば1.0×1015/cm以上1.0×1017/cm以下である。ドリフト層16の厚さは、バッファ層14の厚さよりも大きい。ドリフト層16の厚さは、5.0μm以上50μm以下であり、例えば7.5μm以上15μm以下であり、例えば10μmである。
【0020】
ベース領域18は、ドリフト層16の上に設けられる第2導電型のSiC半導体領域である。ベース領域18は、例えばp型であり、p型不純物として例えばアルミニウム(Al)がドープされている。ベース領域18は、例えばドリフト層16に第2導電型の不純物イオンを照射することにより形成される。ベース領域18の第2導電型の不純物濃度は、ドリフト層16の第1導電型の不純物濃度より大きい。ベース領域18の第2導電型の不純物濃度は、例えば1.0×1016/cm以上1.0×1018/cm以下である。
【0021】
ソース領域20は、ベース領域18の上に設けられる第1導電型のSiC半導体領域である。ソース領域20は、ゲート絶縁膜24に隣接して設けられる。ソース領域20は、例えばn型であり、n型不純物として例えば窒素(N)がドープされている。ソース領域20は、例えばドリフト層16に第1導電型の不純物イオンを照射することにより形成される。ソース領域20の第1導電型の不純物濃度は、ドリフト層16より大きい。ソース領域20の第1導電型の不純物濃度は、1.0×1018/cm以上であり、例えば2.0×1018/cm以上5.0×1019/cm以下である。
【0022】
ベースコンタクト領域22は、ベース領域18の上に設けられる第2導電型のSiC半導体領域である。ベースコンタクト領域22は、ゲート絶縁膜24から離れて設けられる。ベースコンタクト領域22は、例えばp型であり、p型不純物として例えばアルミニウム(Al)がドープされている。ベースコンタクト領域22は、例えばドリフト層16に第2導電型の不純物イオンを照射することにより形成される。ベースコンタクト領域22の第2導電型の不純物濃度は、ベース領域18の第2導電型の不純物濃度より大きい。ベースコンタクト領域22の第2導電型の不純物濃度は、例えば1.0×1017/cm以上1.0×1019/cm以下である。
【0023】
ゲート絶縁膜24は、ゲートトレンチ34の内壁面に設けられる。ゲート絶縁膜24は、ドリフト層16、ベース領域18およびソース領域20に隣接するように設けられる。ゲートトレンチ34は、ソース領域20の上面20aから基板12に向けて掘り下げられるように形成される。ゲートトレンチ34は、ソース領域20およびベース領域18を貫通してドリフト層16の上部に到達するように形成される。ゲート絶縁膜24は、酸化物材料で形成され、例えばSiOで形成される。
【0024】
ゲート電極26は、ゲート絶縁膜24(ゲートトレンチ34)の内側を埋めるように設けられる。ゲート電極26は、例えば、リン(P)、窒素(N)などのn型不純物がドープされた多結晶シリコンで形成される。
【0025】
層間絶縁膜28は、ゲート絶縁膜24およびゲート電極26の上に設けられる。層間絶縁膜28は、任意の絶縁性材料で形成される。
【0026】
ソース電極30は、ソース領域20、ベースコンタクト領域22および層間絶縁膜28の上に設けられる。ソース電極30は、ソース領域20の上面20aおよびベースコンタクト領域22の上面22aに接触する。ソース電極30は、例えばクロム(Cr)やニッケル(Ni)などの金属材料で形成される。ソース電極30は、異なる金属材料の複数の金属層を積層させた金属多層膜で形成されてもよい。ソース電極30は、半導体装置10の表面に形成される表面金属電極層である。
【0027】
ドレイン電極32は、基板12の第2面12bに設けられる。ドレイン電極32は、基板12の第2面12bに接触する。ドレイン電極32は、例えばクロム(Cr)やニッケル(Ni)などの金属材料で形成される。ドレイン電極32は、異なる金属材料の複数の金属層を積層させた金属多層膜で形成されてもよい。ドレイン電極32は、半導体装置10の裏面に形成される裏面金属電極層である。
【0028】
半導体装置10の製造工程において、半導体装置10に水素イオンが照射され、1μm以上の厚さにわたって水素濃度が1015/cmを超える高濃度水素領域40が形成される。高濃度水素領域40の少なくとも一部は、第1導電型の半導体層であるバッファ層14またはドリフト層16に形成される。図1の例では、高濃度水素領域40の全体がバッファ層14に形成されており、高濃度水素領域40の上端42および下端44がバッファ層14に位置する。
【0029】
図2は、水素イオン照射後の半導体装置10の水素濃度の一例を示すグラフである。図2は、水素イオン照射のエネルギーを960keVとし、ドーズ量を1.0×1013/cmとした場合を示す。図2の例において、水素濃度が1015/cmを超える高濃度水素領域40の厚さ範囲は、約1.9μmである。図2の例において、高濃度水素領域40は、約1.1μmの厚さ範囲46において、水素濃度が1016/cmを超える。図2の例において、高濃度水素領域40における水素濃度のピーク値は、1.1×1017/cm程度である。このような高濃度水素領域40をバッファ層14に形成することにより、半導体装置10の電流印加時における積層欠陥の拡張を抑制できる。
【0030】
積層欠陥の拡張の有無は、X線トポグラフィ法またはフォトルミネッセンス法により確認することができる。まず、電流印加前の半導体装置10に存在する積層欠陥の位置をX線トポグラフィまたはフォトルミネッセンスによって確認し、電流印加後に積層欠陥が拡張しているか否かをX線トポグラフィまたはフォトルミネッセンス法によって観察することができる。なお、電流印加によって注入キャリアを発生させるのではなく、紫外光を照射することによってキャリアを発生させ、積層欠陥の拡張有無を確認することもできる。
【0031】
図3は、比較例および実施例における高濃度水素領域40の厚さと積層欠陥の拡張有無を示す表である。図3は、水素イオンを照射するドーズ量を1.0×1010/cm~1.0×1016/cmの範囲で変化させたときの積層欠陥の拡張有無をまとめたものである。高濃度水素領域40の厚さが1μm未満となる比較例1、2では、積層欠陥の拡張が確認された。一方、高濃度水素領域40の厚さが1μm以上となる実施例1~5では、積層欠陥の拡張が確認されなかったため、積層欠陥の拡張を抑制できることが分かった。
【0032】
なお、ドーズ量を1.0×1016/cmより多くした場合においても積層欠陥の拡張を抑制できると考えられる。しかしながら、ドーズ量を1.0×1016/cmより多くすることは、生産性の観点から好ましくない。
【0033】
図4(a)~図4(d)は、高濃度水素領域40a~40dの形成位置の別の例を模式的に示す図である。
【0034】
図4(a)に示す高濃度水素領域40aは、基板12およびバッファ層14にわたって形成されており、基板12とバッファ層14の界面である第1面12aにまたがって形成される。高濃度水素領域40aの上端42aは、バッファ層14に位置し、高濃度水素領域40aの下端44aは、基板12に位置する。高濃度水素領域40aの少なくとも一部は、基板12およびバッファ層14に形成される。
【0035】
図4(b)に示す高濃度水素領域40bは、基板12、バッファ層14およびドリフト層16にわたって形成される。高濃度水素領域40bは、基板12とバッファ層14の界面である第1面12aにまたがって形成され、かつ、バッファ層14とドリフト層16の界面36にまたがって形成される。高濃度水素領域40bの上端42bは、ドリフト層16に位置し、高濃度水素領域40bの下端44bは、基板12に位置する。高濃度水素領域40bの少なくとも一部は、基板12、バッファ層14およびドリフト層16に形成される。
【0036】
図4(c)に示す高濃度水素領域40cは、バッファ層14およびドリフト層16にわたって形成される。高濃度水素領域40cは、バッファ層14とドリフト層16の界面36にまたがって形成される。高濃度水素領域40cの上端42cは、ドリフト層16に位置し、高濃度水素領域40cの下端44cは、バッファ層14に位置する。高濃度水素領域40bの少なくとも一部は、バッファ層14およびドリフト層16に形成される。
【0037】
図4(d)に示す高濃度水素領域40dは、ドリフト層16のみに形成される。高濃度水素領域40dの上端42dおよび下端44dは、ドリフト層16に位置する。
【0038】
高濃度水素領域40、40a~40dは、基板12の第1面12aに近い位置に形成されることが好ましい。高濃度水素領域40、40a~40dの少なくとも一部は、基板12の第1面12aから5μm以内に形成されることが好ましい。高濃度水素領域40、40a~40dの上端42、42a~42dまたは下端44、44a~44dは、基板12の第1面12aから5μm以内に位置することが好ましい。高濃度水素領域40、40a~40dの上端42、42a~42dまたは下端44、44a~44dは、基板12の第1面12aから4μm以内、3μm以内または2μm以内に形成されてもよい。
【0039】
高濃度水素領域40、40a~40dの水素濃度は、半導体装置10の製造工程に含まれるアニール処理によって事後的に低下する可能性がある。例えば、水素イオンの照射後にアニール処理が実行される場合、アニール処理によって水素が拡散して水素濃度が低下しうる。このとき、積層欠陥を縁取る部分転位に固着した水素は、アニール処理後であっても固着した状態を維持する。つまり、アニール処理によって拡散する水素は、積層欠陥を縁取る部分転位に固着しておらず、積層欠陥の拡張抑制に寄与しないと考えられる。本実施の形態によれば、半導体装置10の完成時におけるバッファ層14またはドリフト層16における水素濃度が1.0×1015/cm以下であっても、水素イオン照射後のバッファ層14またはドリフト層16における水素濃度が1μm以上の厚さにわたって1.0×1015/cmを超えていれば、積層欠陥の拡張を抑制できる。
【0040】
なお、水素イオン照射後にアニール処理を実行しない場合、半導体装置10のバッファ層14またはドリフト層16における水素濃度が1.0×1015/cmを超えた状態を維持する可能性がある。この場合、水素イオンの照射によって高濃度水素領域40、40a~40dを形成できているため、積層欠陥の拡張を抑制できる。
【0041】
つづいて、半導体装置10の製造方法について説明する。図5図11は、半導体装置の製造工程を模式的に示す断面図である。
【0042】
まず、図5に示すように、基板12の第1面12a上にバッファ層14を形成し、バッファ層14上にドリフト層16を形成する。バッファ層14およびドリフト層16は、化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition)などの任意のエピタキシャル成長法を用いて形成できる。バッファ層14およびドリフト層16の成長温度は、例えば1500℃以上1700℃以下である。
【0043】
次に、図6に示すように、ドリフト層16の上から水素イオン50を照射し、バッファ層14に高濃度水素領域40を形成する。水素イオン50の照射は、任意のイオン照射装置を用いて実行できる。例えば、サイクロトロン方式やバンデグラフ方式のイオン照射装置を用いて水素イオン50を照射できる。水素イオン50は、基板12の第2面12b(裏面)から照射されてもよい。
【0044】
次に、図7に示すように、ドリフト層16の上から第2導電型の不純物となる第2不純物イオン52を照射し、ベース領域18およびベースコンタクト領域22を形成する。第2不純物イオン52は、例えばアルミニウムイオンである。ベース領域18は、ドリフト層16の全面に第2不純物イオン52を照射することによって形成できる。ベースコンタクト領域22は、ベースコンタクト領域22となる領域以外をマスクした状態で、第2不純物イオン52を照射することによって形成できる。
【0045】
次に、図8に示すように、ドリフト層16の上から第1導電型の不純物となる第1不純物イオン54を照射し、ソース領域20を形成する。第1不純物イオン54は、例えば窒素イオンである。ソース領域20は、ソース領域20となる領域以外(例えばベースコンタクト領域22)をマスクした状態で、第1不純物イオン54を照射することによって形成できる。
【0046】
つづいて、ベース領域18、ソース領域20およびベースコンタクト領域22に注入した第1導電型または第2導電型の不純物を活性化するために第1温度でアニール処理を実行する。第1温度は、1500℃以上であり、例えば1600℃以上1800℃以下である。第1温度でアニール処理をすることにより、水素イオン50の照射によってバッファ層14に形成される格子欠陥を回復させることができる。また、第1温度でアニール処理をすることにより、拡張欠陥を縁取る部分転位に固着していない水素が拡散し、高濃度水素領域40の水素濃度が1×1015/cm以下に低下しうる。
【0047】
次に、図9に示すように、ゲートトレンチ34を形成する。例えば、ゲートトレンチ34を形成する領域以外にマスクを形成し、マスクの開口領域においてソース領域20、ベース領域18およびドリフト層16をドライエッチングすることにより、ゲートトレンチ34を形成できる。
【0048】
つづいて、ゲートトレンチ34の内壁面にゲート絶縁膜24を形成する。ゲート絶縁膜24は、例えば、ゲートトレンチ34の内壁面を700℃~1000℃程度の温度で熱酸化することにより形成できる。つづいて、ゲート絶縁膜24の内側にゲート電極26を形成する。ゲート電極26は、CVDなどの任意の技術を用いて形成できる。
【0049】
次に、図10に示すように、ソース領域20、ベースコンタクト領域22、ゲート絶縁膜24およびゲート電極26の上に層間絶縁膜28を形成する。層間絶縁膜28は、CVDなどの任意の技術を用いて形成できる。つづいて、基板12の第2面12bにドレイン電極32(裏面金属電極層)を形成する。ドレイン電極32は、スパッタリング法や蒸着法などの任意の成膜技術を用いて形成できる。
【0050】
ドレイン電極32の形成後、ドレイン電極32を第2温度でアニールし、ドレイン電極32を基板12の第2面12bにオーミック接触させる。第2温度は、450℃以上であり、例えば600℃以上800℃以下である。
【0051】
次に、図11に示すように、層間絶縁膜28の一部を除去し、ソース領域20の上面20aおよびベースコンタクト領域22の上面22aを露出させる。つづいて、図1に示されるソース電極30(表面金属電極層)を形成する。ソース電極30は、スパッタリング法や蒸着法などの任意の成膜技術を用いて形成できる。
【0052】
ソース電極30の形成後、ソース電極30を第3温度でアニールし、ソース電極30をソース領域20およびベースコンタクト領域22にオーミック接触させる。第3温度は、300℃以上であり、例えば350℃以上500℃以下である。
【0053】
以上の工程により、図1の半導体装置10ができあがる。
【0054】
図12は、実施の形態に係る半導体装置10の製造方法の一例を示すフローチャートである。まず、基板12の第1面12a上に第1導電型の半導体層(例えば、バッファ層14およびドリフト層16)を形成する(S10)。次に、水素イオン50を照射して、1μm以上の厚さにわたって水素濃度が1015/cmを超える高濃度水素領域40を形成する(S12)。第2導電型の不純物のイオン52を照射してベース領域18およびベースコンタクト領域22を形成し(S14)、第1導電型の不純物のイオン54を照射してソース領域20を形成する(S16)。
【0055】
つづいて、半導体装置10を1500℃以上の第1温度でアニールし(S18)、ベース領域18、ソース領域20およびベースコンタクト領域22の不純物を活性化させる。次に、ゲートトレンチ34を形成し、ゲートトレンチ34内にゲート絶縁膜24およびゲート電極26を形成する(S20)。次に、ゲート電極26上に層間絶縁膜28を形成する(S22)。
【0056】
つづいて、基板12の第2面12bに裏面金属電極層(ドレイン電極32)を形成し、450℃以上の第2温度でアニールする(S24)。次に、層間絶縁膜28の一部を除去し(S26)、層間絶縁膜28の上に表面金属電極層(ソース電極30)を形成し、300℃以上の第3温度でアニールする(S28)。
【0057】
本実施の形態によれば、1μm以上の厚さにわたって水素濃度が1015/cmを超える高濃度水素領域40が形成されるように水素イオン50を照射することにより、積層欠陥の拡張を抑制できる。特に、バッファ層14やドリフト層16に存在する積層欠陥が上方に拡張することを抑制し、積層欠陥がベース領域18、ソース領域20およびベースコンタクト領域22に到達することを抑制できる。これにより、半導体装置10の通電使用に伴う性能低下を抑制できる。
【0058】
本実施の形態によれば、水素イオン50の照射後に1500℃以上の第1温度でアニール処理を実行することにより、水素イオン50の照射によってバッファ層14やドリフト層16などに形成される格子欠陥を回復させることができる。これにより、格子欠陥に起因するキャリアのライフタイムの減少を抑制することができ、デバイス特性への影響を抑制できる。
【0059】
図12のフローにおいて、S12~S16の工程の順序を入れ替えてもよい。例えば、S14の第2不純物イオン52の照射後に、S12の水素イオン50の照射を実行してもいし、S16の第1不純物イオン54の照射後に、S12の水素イオン50の照射を実行してもよい。また、S16の第1不純物イオン54の照射後に、S14の第2不純物イオン52の照射を実行してもよい。
【0060】
図12のフローにおいて、S18の第1温度のアニール処理後にS12の水素イオン50の照射を実行してもよい。この場合、S24の第2温度のアニール処理によって、水素イオン50の照射によって生じた格子欠陥を回復させることができる。S12の水素イオン50の照射工程は、S18とS20の間に実行してもよいし、S20とS22の間に実行してもよいし、S22とS24の間に実行してもよい。
【0061】
図12のフローにおいて、S24の第2温度のアニール処理後にS12の水素イオン50の照射を実行してもよい。この場合、S12の水素イオン50の照射工程は、S24とS26の間に実行してもよいし、S26とS28の間に実行してもよい。この場合、S28のアニール処理の第3温度が低いため、高濃度水素領域40に注入された水素の拡散が抑制される。この場合、半導体装置10の完成時において、高濃度水素領域40における水素濃度が1.0×1015/cmを超えた状態を維持してもよい。
【0062】
図12のフローにおいて、S22~S28の工程の順序を入れ替えてもよい。例えば、S24の裏面金属電極層(ドレイン電極32)の形成後に、S22の層間絶縁膜28の形成を実行してもよい。その他、S24の裏面金属電極層(ドレイン電極32)の形成工程は、S26の工程後であってもよいし、S28の工程後であってもよい。
【0063】
上述の実施の形態では、半導体装置10がMOSFETである場合について示した。本実施の形態は、基板、バッファ層およびドリフト層の積層構造を備えていれば、MOSFET以外のSiC半導体装置にも適用可能である。例えば、半導体装置10は、接合型電界効果トランジスタ(JFET)、バイポーラトランジスタ(BJT)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)などのトランジスタであってもよいし、ショットキーバリアダイオード、PINダイオードなどのダイオードであってもよい。
【0064】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0065】
10…半導体装置、12…基板、12a…第1面、12b…第2面、14…バッファ層、16…ドリフト層、40…高濃度水素領域。
図1
図2
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