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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】加熱装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
G03G15/20 555
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020190838
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079949
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】白倉 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】足立 知哉
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-113364(JP,A)
【文献】特開2012-181476(JP,A)
【文献】特開2015-219343(JP,A)
【文献】特開2020-024348(JP,A)
【文献】特開2020-016731(JP,A)
【文献】特開2020-126137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接触する複数の回転体と、
通電により発熱する抵抗発熱体と前記抵抗発熱体が設けられた基材とを有し、前記複数の回転体のうちの少なくとも1つを加熱する加熱源と、
前記加熱源の温度を検知する温度センサと、
を備える加熱装置であって、
前記複数の回転体のうちの少なくとも1つの温度が、前記温度センサによって検知される前記加熱源の検知温度と、前記加熱源に供給される供給電力とから算出され、
前記加熱源は、前記回転体の算出温度に基づいて制御され
前記回転体の算出温度をT、前記加熱源の検知温度をTh、前記加熱源に供給される供給電力をW、前記加熱源の検知温度変化量をΔTh、所定の係数をa1、a2とした場合、下記の式(1)を用いて算出される前記回転体の算出温度Tが、所定の上限値を超える場合、又は所定の下限値を下回る場合に、前記加熱源の目標温度を変更することを特徴とする加熱装置。
【数1】
【請求項2】
前記所定の係数a1、a2は、前記回転体同士が接触するニップ部を通過するシートのサイズ及び厚さのうち少なくとも一方に基づいて決定される請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記電力Wは、前記加熱源の検知温度Thが検知されるタイミングよりも前に供給される電力である請求項1又は2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記加熱源は、前記回転体同士が接触するニップの位置において少なくとも1つの前記回転体の内周面に接触するように配置され、
前記温度センサは、前記ニップ部を通過する最小幅シートの通過幅領域内であって、前記加熱源の前記ニップ部側とは反対側に配置される請求項1から3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記温度センサは、前記加熱源に対して接触するように配置される請求項1から4のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の加熱装置と、
前記加熱源に供給される供給電力を検知する供給電力検知部と、
前記温度センサによって検知される前記加熱源の検知温度と、前記供給電力検知部によって検知される供給電力とから、前記複数の回転体のうちの少なくとも1つの温度を算出する温度算出部と、
前記温度算出部によって算出される前記回転体の算出温度に基づいて前記加熱源を制御する加熱源制御部と、
を備えることを特徴とする画像形成装置
【請求項7】
前記温度算出部によって算出される前記回転体の算出温度とあらかじめ設定された所定の上限値及び所定の下限値と比較し、前記回転体の算出温度が、前記所定の上限値を超える場合、又は前記所定の下限値を下回る場合に、前記加熱源の目標温度を補正する目標温度補正部を備え、
前記加熱源制御部は、前記目標温度補正部によって補正される前記目標温度に基づいて前記加熱源を制御する請求項6に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ又は複写機などの画像形成装置が備える加熱装置として、例えば、熱によって用紙にトナーを定着する定着装置が知られている。
【0003】
この種の定着装置においては、用紙に対するトナーの定着性を良好に確保するため、用紙を挟んで加熱するローラ及びベルトなどの回転体の温度が所定の目標温度に維持されるように制御されている。
【0004】
例えば、用紙が一対の回転体の間を通過すると、用紙が回転体から熱を奪うことにより、回転体の温度が低下する。そのため、特許文献1(特開2020-71454号公報)においては、用紙によって奪われる回転体の熱量に相当する剥奪電力と、加熱源を制御温度に維持するための維持電力とを合わせた合計電力を、加熱源に供給する方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、定着装置などの加熱装置において、用紙などの加熱対象物を適正に加熱するには、加熱対象物に熱を付与する回転体の温度を検知し、検知された温度に基づいて加熱源の発熱量を制御することが好ましい。一方で、回転体の温度を適正温度に維持するために回転体の温度を検知する温度センサを設けると、製造コストが高くなったり、装置が大型化したりする問題がある。このため、回転体の温度を検知する温度センサを用いずに、回転体の温度を適正に維持したい要望がある。
【0006】
しかしながら、従来の加熱装置において、回転体の温度を検知する温度センサを用いずに、回転体の温度を適正に維持することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、互いに接触する複数の回転体と、通電により発熱する抵抗発熱体と前記抵抗発熱体が設けられた基材とを有し、前記複数の回転体のうちの少なくとも1つを加熱する加熱源と、前記加熱源の温度を検知する温度センサと、を備える加熱装置であって、前記複数の回転体のうちの少なくとも1つの温度が、前記温度センサによって検知される前記加熱源の検知温度と、前記加熱源に供給される供給電力とから算出され、前記加熱源は、前記回転体の算出温度に基づいて制御され、前記回転体の算出温度をT、前記加熱源の検知温度をTh、前記加熱源に供給される供給電力をW、前記加熱源の検知温度変化量をΔTh、所定の係数をa1、a2とした場合、下記の式(1)を用いて算出される前記回転体の算出温度Tが、所定の上限値を超える場合、又は所定の下限値を下回る場合に、前記加熱源の目標温度を変更することを特徴とする加熱装置。
【数1】
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転体の温度を検知する温度センサを用いなくても回転体の温度を適正に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
図2】本実施形態に係る定着装置の概略構成図である。
図3】本実施形態に係るヒータの平面図である。
図4】前記ヒータの分解斜視図である。
図5】前記ヒータにコネクタが接続された状態を示す斜視図である。
図6】前記ヒータを制御する制御装置のブロック図である。
図7】定着ベルトの算出温度、適正温度範囲、上限値及び下限値の関係を説明するための図である。
図8】前記ヒータの制御方法を示すフローチャートである。
図9】温度センサの好ましい配置を説明するための図である。
図10】本発明を適用可能な他のヒータの平面図である。
図11】本発明を適用可能な他の定着装置の概略構成図である。
図12】本発明を適用可能なさらに別の定着装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材及び構成部品などの構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付す。このため、一度説明した構成要素については、その説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【0012】
図1に示す画像形成装置100は、画像形成部200と、転写部300と、定着部400と、記録媒体供給部500と、記録媒体排出部600と、を備えている。
【0013】
画像形成部200には、4つのプロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkと、露光装置6と、が設けられている。各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、画像形成装置本体に対して着脱可能な作像ユニットである。各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色のトナー(現像剤)を収容している以外、基本的に同じ構成である。具体的に、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、感光体2と、帯電部材3と、現像装置4と、クリーニング部材5と、を備えている。
【0014】
感光体2は、表面に画像を担持する像担持体である。本実施形態においては、感光体2として、ドラム状の感光体(感光体ドラム)が用いられている。また、感光体2として、ベルト状の感光体(感光体ベルト)を用いることも可能である。帯電部材3は、感光体2の表面を帯電させる部材である。本実施形態においては、帯電部材として、感光体2の表面に接触するローラ状の帯電部材が用いられている。ただし、帯電部材は、接触式のものに限らず、コロナ帯電などの非接触式のものでもよい。現像装置4は、感光体2の表面に現像剤としてのトナーを供給して可視画像(トナー画像)を形成する装置である。クリーニング部材5は、感光体2の表面に残留するトナー及びその他の異物を除去する部材である。クリーニング部材5としては、感光体2の表面に接触するブレード状の部材又はローラ状の部材などが用いられる。
【0015】
転写部300には、用紙などの記録媒体に画像を転写する転写装置8が設けられている。記録媒体は、普通紙、厚紙、薄紙、コート紙、ラベル紙、又は封筒などの紙製のシートのほか、OHPなどの樹脂製のシートであってもよい。転写装置8は、中間転写ベルト11と、4つの一次転写ローラ12と、二次転写ローラ13と、を有している。中間転写ベルト11は、複数のローラによって張架された無端状のベルト部材である。各一次転写ローラ12は、中間転写ベルト11を介して感光体2に接触している。これにより、中間転写ベルト11と各感光体2との間に、中間転写ベルト11と各感光体2とが接触する一次転写ニップが形成されている。一方、二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11を介して中間転写ベルト11を張架する複数のローラの1つに接触している。これにより、中間転写ベルト11との間には、二次転写ニップが形成されている。
【0016】
定着部400には、用紙に画像を定着させる定着装置9が設けられている。定着装置9の詳しい構成については後述する。
【0017】
記録媒体供給部500には、記録媒体としての用紙Pを収容する給紙カセット14と、給紙カセット14から用紙Pを送り出す給紙ローラ15と、が設けられている。
【0018】
記録媒体排出部600には、用紙を画像形成装置外に排出する一対の排紙ローラ17と、排紙ローラ17によって排出された用紙を載置する排紙トレイ18と、が設けられている。
【0019】
次に、図1を参照しつつ本実施形態に係る画像形成装置100の印刷動作について説明する。
【0020】
画像形成装置100において印刷動作が開始されると、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkの感光体2及び中間転写ベルト11が回転を開始する。また、給紙ローラ15が、回転を開始し、給紙カセット14から用紙Pを送り出す。送り出された用紙Pは、一対のタイミングローラ16に接触して一旦停止される。
【0021】
各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkにおいては、まず、帯電部材3が、感光体2の表面を均一な高電位に帯電する。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント画像情報に基づいて、露光装置6が、各感光体2の表面(帯電面)に露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して各感光体2の表面に静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4がトナーを供給し、各感光体2上にトナー画像が形成される。各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達すると、回転する中間転写ベルト11上に順次重なり合うように転写される。かくして、中間転写ベルト11上にフルカラーのトナー画像が形成される。なお、画像形成装置100は、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkのいずれか一つを使用して単色画像を形成したり、いずれか2つ又は3つのプロセスユニットを用いて2色又は3色の画像を形成したりすることもできる。また、感光体2から中間転写ベルト11へトナー画像が転写された後は、クリーニング部材5によって各感光体2上の残留トナーなどが除去され、各感光体2は次の静電潜像の形成に備える。
【0022】
中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送され、タイミングローラ16によって搬送されてきた用紙P上に転写される。そして、用紙Pは定着装置9へ搬送され、定着装置9によってトナー画像が用紙Pに定着される。その後、用紙Pは排紙ローラ17によって排紙トレイ18へ排出され、一連の印刷動作が終了する。
【0023】
続いて、本実施形態に係る定着装置9の構成について説明する。
【0024】
図2に示すように、本実施形態に係る定着装置9は、定着ベルト20と、加圧ローラ21と、ヒータ22と、ヒータホルダ23と、ステー24と、温度センサ19と、を備えている。
【0025】
定着ベルト20は、用紙Pの未定着トナー担持面側(画像形成面側)に配置され、未定着トナーを用紙Pに定着させる定着部材として機能する回転体(第1回転体)である。本実施形態に係る定着ベルト20は、その両端の内側に挿入される一対の回転支持部材によって、いわゆるフリーベルト方式で(少なくとも非回転時においては張力が付与されない状態で)支持される。定着ベルト20は、例えば、ポリイミドから成る基材を有する。基材の材料は、ポリイミドに限らず、PEEKなどの耐熱性樹脂、ニッケル、又はSUSなどの金属材料であってもよい。また、耐久性を高めると共に離型性を確保するため、基材の外周面に、PFA又はPTFEなどのフッ素樹脂から成る離型層が設けられてもよい。さらに、基材と離型層との間に、ゴムなどから成る弾性層が設けられてもよい。また、基材の内周面に、ポリイミド又はPTFEなどから成る摺動層が設けられてもよい。
【0026】
加圧ローラ21は、定着ベルト20とは別の回転体(第2回転体)であって、定着ベルト20の外周面に対向するように配置された対向部材である。加圧ローラ21は、金属製の芯金と、芯金の外周面に設けられたシリコーンゴムなどから成る弾性層と、弾性層の外周面に設けられたフッ素樹脂などから成る離型層と、を有している。
【0027】
定着ベルト20と加圧ローラ21は、バネなどの付勢部材によって互いに加圧(圧接)されている。これにより、定着ベルト20と加圧ローラ21との間にニップ部Nが形成されている。また、加圧ローラ21には、画像形成装置本体に設けられた駆動源から駆動力が伝達される。このため、加圧ローラ21が回転駆動すると、その駆動力がニップ部Nにおいて定着ベルト20に伝達され、定着ベルト20が従動回転する。そして、図2に示すように、未定着画像を担持する用紙Pが、回転する定着ベルト20と加圧ローラ21との間(ニップ部N)に進入すると、定着ベルト20と加圧ローラ21によって用紙Pが搬送されながら加熱及び加圧される。これにより、用紙P上の未定着画像が用紙Pに定着される。
【0028】
ヒータ22は、定着ベルト20を加熱する加熱源である。本実施形態では、ヒータ22が、板状の基材50と、基材50上に設けられた第1絶縁層51と、第1絶縁層51上に設けられた導体層52と、導体層52を被覆する第2絶縁層53と、を有している。また、導体層52には、通電により発熱する抵抗発熱体60が含まれている。
【0029】
本実施形態においては、ヒータ22による定着ベルト20の加熱効率を高めるため、ヒータ22が定着ベルト20の内周面に直接接触するように配置されている。また、ヒータ22は、定着ベルト20に対して非接触又は低摩擦シートなどを介して間接的に接触してもよい。また、定着ベルト20に対するヒータ22の接触箇所として、定着ベルト20の外周面を選択することも可能である。ただし、その場合、ヒータ22と定着ベルト20との接触によって定着ベルト20の外周面に傷が生じ、これに起因して定着品質が低下する虞がある。そのため、ヒータ22の接触箇所は、定着ベルト20の外周面よりも内周面であることが好ましい。
【0030】
ヒータホルダ23は、定着ベルト20の内側に配置されて、ヒータ22を保持する加熱源保持部材である。ヒータホルダ23は、ヒータ22の熱によって高温になりやすいため、耐熱性の材料によって形成されることが好ましい。特に、ヒータホルダ23が、LCP又はPEEKなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂によって形成される場合は、ヒータホルダ23の耐熱性を確保しつつ、ヒータ22からヒータホルダ23への伝熱が抑制されるので、定着ベルト20を効率良く加熱できる。
【0031】
ステー24は、定着ベルト20の内側に配置されて、ヒータ22及びヒータホルダ23を支持する支持部材である。ステー24がヒータホルダ23のニップ部N側の面とは反対の面を支持することにより、加圧ローラ21の加圧力によるヒータホルダ23の撓みが抑制される。これにより、定着ベルト20と加圧ローラ21との間に均一な幅のニップ部Nが形成される。ステー24は、その剛性を確保するため、SUS又はSECCなどの鉄系金属材料によって形成されることが好ましい。
【0032】
温度センサ19は、ヒータ22の温度を検知する温度検知部材である。温度センサ19としては、サーモパイル、サーモスタット、サーミスタ、又はNCセンサなどの公知の温度センサを適用可能である。また、温度センサ19は、ヒータ22に対して接触するように配置される接触型の温度センサでもよいし、ヒータ22に対して間隔をあけて対向するように配置される非接触型の温度センサでもよい。本実施形態においては、温度センサ19がヒータ22のニップN側とは反対側の面に接触するように配置されている。
【0033】
図3は、本実施形態に係るヒータの平面図、図4は、当該ヒータの分解斜視図である。
【0034】
図3及び図4に示すように、ヒータ22は、板状の基材50を有している。基材50の上には、第1絶縁層51と、導体層52と、第2絶縁層53と、が積層されている。基材50は、定着ベルト20の長手方向又は加圧ローラ21の回転軸方向である図3中の矢印Z方向へ長手状に伸びるように配置される。
【0035】
基材50は、例えば、ステンレス(SUS)、鉄、又はアルミニウムなどの金属材料によって形成される。また、基材50の材料は、金属材料に限らず、セラミック、又はガラスなどであってもよい。基材50がセラミックなどの絶縁材料によって形成される場合は、基材50と導体層52との間の第1絶縁層51を省略できる。一方、金属材料は、急速加熱に対する耐久性に優れ、加工もしやすいため、ヒータの低コスト化を図るのに好適である。金属材料の中でも、特にアルミニウム又は銅は、熱伝導性が高く、温度ムラが発生しにくい点で好ましい。また、ステンレスは、アルミニウム又は銅と比べて基材50を安価に製造できる。
【0036】
導体層52は、抵抗発熱体60のほか、電極部61と、給電線(導電部)62と、を有している。抵抗発熱体60は、基材50の長手方向(矢印Z方向)に伸び、長手方向と交差する方向に2つ並んで配置されている。また、各抵抗発熱体60は、基材50の長手方向の一端側(図3における左端側)に設けられた2つの電極部61に対し、複数の給電線62を介して接続されている。詳しくは、各抵抗発熱体60の一端(図3における左端)が、それぞれ給電線62を介して異なる電極部61に電気的に接続され、さらに、各抵抗発熱体60の他端(図3における右端)同士が、別の給電線62を介して互いに電気的に接続されている。
【0037】
抵抗発熱体60は、例えば、銀パラジウム(AgPd)及びガラス粉末などを調合したペーストを基材50上にスクリーン印刷し、その後、当該基材50を焼成することによって形成される。抵抗発熱体60の材料としては、前述の材料以外に、銀合金(AgPt)又は酸化ルテニウム(RuO)などの抵抗材料が用いることができる。
【0038】
電極部61及び給電線62は、抵抗発熱体60よりも小さい抵抗値の導体によって形成される。具体的に、電極部61及給電線62は、銀(Ag)又は銀パラジウム(AgPd)などの材料を基材50上にスクリーン印刷することによって形成される。
【0039】
また、図3に示すように、各抵抗発熱体60の全体及び各給電線62の少なくとも一部は、第2絶縁層53によって覆われ、絶縁性が確保されている。一方、各電極部61は、給電部材としての後述のコネクタが接続される部分であるため、第2絶縁層53によって覆われておらず露出している。
【0040】
第1絶縁層51及び第2絶縁層53は、例えば、耐熱性ガラスなどの絶縁性を有する材料によって形成される。具体的に、各絶縁層51,53の材料としては、セラミック又はポリイミドなどが用いられる。また、第1絶縁層51及び第2絶縁層53が設けられる基材50の面とは反対側の面に、第3絶縁層が設けられていてもよい。
【0041】
本実施形態においては、抵抗発熱体60が、基材50のニップ部N側に配置されているため、抵抗発熱体60の熱が基材50を介さずに定着ベルト20に伝わり、定着ベルト20を効率良く加熱できる。また、抵抗発熱体60が、基材50のニップ部N側とは反対側に配置されてもよい。ただし、その場合は、抵抗発熱体60の熱が基材50を介して定着ベルト20に伝わるため、基材50は窒化アルミニウムなどの熱伝導率の高い材料により形成されることが好ましい。
【0042】
図5は、ヒータにコネクタが接続された状態を示す斜視図である。
【0043】
図5に示すように、コネクタ70は、樹脂製のハウジング71と、複数のコンタクト端子72と、を有している。各コンタクト端子72は、板バネなどの導電性を有する弾性部材である。各コンタクト端子72は、ハウジング71に設けられている。また、各コンタクト端子72には、それぞれ給電用のハーネス73が接続されている。
【0044】
図5に示すように、コネクタ70は、ヒータ22及びヒータホルダ23を一緒に挟むようにして取り付けられる。これにより、ヒータ22及びヒータホルダ23は、コネクタ70によって保持される。また、この状態で、各コンタクト端子72の先端(接触部72a)が、対応する電極部61に弾性的に接触(圧接)することにより、各コンタクト端子72と各電極部61とが電気的に接続される。この状態で、画像形成装置本体に設けられた電源から各抵抗発熱体60へ給電可能な状態となり、コネクタ70を介して各抵抗発熱体60へ電力が供給されると、各抵抗発熱体60が発熱する。
【0045】
ところで、本実施形態に係る定着装置9においては、万が一、ヒータ22が過剰に温度上昇しそうになったとしても、温度センサ19によってヒータ22の温度を検知できるため、ヒータ22の過剰な温度上昇を未然に防止することが可能である。
【0046】
一方で、画像定着品質を良好に維持する観点からすると、定着ベルト20の温度を適正に維持するために、一般的には定着ベルト20の温度を検知可能な温度センサが設けられていることが好ましい。しかしながら、ヒータ22の温度を検知する温度センサ19に加えて、定着ベルト20の温度を検知する温度センサを用いることは、定着装置の高コスト化又は大型化につながる。
【0047】
また、別の対策として、定着ベルト20の温度を検知する温度センサによってヒータ22の温度上昇を間接的に検知する方法もある。ただし、定着ベルト20のニップ部Nに対向する位置には加圧ローラ21が配置されているため、温度センサはニップ部N以外の位置(例えば、ニップ部Nとはベルト回転方向に180°反対側の位置)に配置されなければならない制約がある。従って、万が一、定着ベルト20の回転が停止した状態で、ヒータ22の温度が過剰に上昇すると、ニップ部Nの熱が定着ベルト20によって回転方向に運ばれないため、温度センサによってはヒータ22の温度上昇を応答性良く検知できない問題がある。
【0048】
斯かる事情から、本実施形態においては、ニップ部Nにおける温度上昇を応答性良く検知できるように、ヒータ22の温度を検知する温度センサ19を用いている。しかしながら、その場合、定着ベルト20の温度を検知できない問題がある。
【0049】
そこで、本実施形態に係る定着装置及び画像形成装置においては、定着ベルト20の温度を直接検知する温度センサを用いなくても定着ベルト20の温度を適正に維持できるように、以下のような構成を採用している。
【0050】
まず、図6に基づいて、本実施形態に係る制御装置の構成について説明する。
【0051】
図6に示すように、制御装置30は、供給電力検知部31と、温度算出部32と、記憶部33と、目標温度補正部34と、加熱源制御部35と、を有している。制御装置30は、例えば、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などを有するマイクロコンピュータである。制御装置30は、定着装置に設けられていてもよいし、画像形成装置本体に設けられていてもよい。
【0052】
供給電力検知部31は、ヒータ22に供給される供給電力を検知する部分である。
【0053】
温度算出部32は、温度センサ19によって検知されるヒータ22の検知温度と、供給電力検知部31によって検知される供給電力などから、定着ベルト20の温度を算出する部分である。具体的に、温度算出部32は、下記式(1)を用いて定着ベルト20の温度を算出する。
【0054】
【数1】
【0055】
上記式(1)において、Tは定着ベルト20の算出温度、Thはヒータ22の検知温度、Wはヒータ22に供給される供給電力、ΔThはヒータ22の検知温度変化量、a1及びa2は所定の係数である。検知温度変化量ΔThは、あるタイミングにおいて検知される検知温度Th(n)から、これより1つ前のタイミング(例えば、0.1秒前)において検知される検知温度Th(n-1)を減算して得られる値である。
【0056】
ここで、定着ベルト20の温度を算出するための要素として、ヒータ22に供給される供給電力Wを用いるのは、ヒータ22に供給される電力が定着ベルト20の温度上昇に影響を与えるからである。すなわち、供給電力Wの大きさによってヒータ22の発熱量が変化し、その発熱量の変化によって定着ベルト20に付与される熱量が変化する。また、ヒータ22に電力が供給されてから、その電力の影響が定着ベルト20の温度に反映されるまでには多少の時間差があるので、供給電力Wは、検知温度Thが検知されるタイミングよりも少し前のタイミングにおいて検知される電力であることが好ましい。
【0057】
また、上記式(1)中の各係数a1,a2は、定着ベルト20の温度に影響を与えるその他の要素によって決定される係数である。例えば、定着ベルト20の温度は、ニップ部を通過する用紙によって奪われる熱量の影響を受けるので、本実施形態においては、各係数a1,a2が、用紙のサイズ(A3又はA4など)と、用紙の厚さ(普通紙、厚紙、又は薄紙など)に基づいて決定されている。なお、各係数a1,a2は、用紙のサイズ及び厚さのいずれか一方の情報のみに基づいて決定されてもよいし、用紙のサイズ及び厚さ以外の要素に基づいて決定されてもよい。各係数a1,a2は、式(1)を用いて算出される定着ベルト20の温度(算出温度)と、定着ベルト20の実際の温度(実測温度)とを比較し、算出温度と実測温度の平均誤差が小さくなるように決定される。
【0058】
記憶部33は、あらかじめ決定された上記(1)の各係数a1,a2を記憶する部分である。本実施形態の場合、記憶部33は、用紙のサイズ及び厚さに基づいて決定された複数種類の各係数a1,a2をあらかじめ記憶している。
【0059】
目標温度補正部34は、定着ベルト20の算出温度に基づいてヒータ22の目標温度を補正(変更)する部分である。本実施形態においては、目標温度補正部34が、定着ベルト20の算出温度を所定の上限値及び所定の下限値と比較し、定着ベルト20の算出温度が、所定の上限値を超える場合、又は所定の下限値を下回る場合に、ヒータ22の目標温度を補正する。
【0060】
所定の上限値及び所定の下限値は、定着ベルト20の温度を適正温度の範囲内に維持するための閾値である。すなわち、図7に示す温度域Aを、良好な定着画像を得るための定着ベルトの適正温度範囲とすると、上限値α及び下限値βは、定着ベルトの算出温度Bが適正温度範囲Aから外れないように、適正温度範囲Aよりも狭い温度域内において設定される。また、定着ベルトの算出温度Bには算出誤差が含まれるので、上限値α及び下限値βは、少なくともその算出誤差分の余裕をもって設定される。
【0061】
加熱源制御部35は、定着ベルト20の算出温度に基づいてヒータ22を制御する部分である。すなわち、加熱源制御部35は、定着ベルト20の算出温度に基づいて目標温度補正部34がヒータ22の目標温度を補正した場合、補正された目標温度に基づいてヒータ22を制御する。具体的に、加熱源制御部35は、ヒータ22の目標温度に基づいてヒータ22へ供給される電力の大きさ、及び単位時間(制御周期)あたりのヒータ22への通電時間の割合(デューティ)などを変更することにより、ヒータ22の発熱量を制御する。
【0062】
続いて、図6のブロック図及び図8のフローチャートを参照しつつ、本実施形態に係る定着装置の制御方法について説明する。
【0063】
図8に示すように、本実施形態においては、ヒータ22への通電が開始されると、まず、ヒータ22の温度が所定の目標温度に到達するまで、後述の制御(図8のStep2以降の制御)とは異なる制御によってヒータ22が制御される(図8のStep1)。そして、ヒータ22の温度が所定の目標温度に到達すると、温度算出部32が、温度センサ19によって検知されるヒータ22の検知温度と、供給電力検知部31によって検知される供給電力から、上記式(1)を用いて定着ベルト20の温度を算出する(図8のStep2)。また、このとき、温度算出部32は、記憶部33によって記憶されている各係数a1,a2の中から、プリンタドライバなどにより設定された用紙のサイズ及び厚さに対応した係数a1,a2を読み出し、式(1)に適用して温度を算出する。
【0064】
次に、目標温度補正部34が、算出された定着ベルト20の算出温度をあらかじめ設定された所定の上限値及び所定の下限値と比較する(図8のStep3)。その結果、図7中の符号Xで示す箇所ように、定着ベルト20の算出温度Bが所定の上限値αを超える場合、あるいは、同図中の符号Yで示す箇所のように、定着ベルト20の算出温度Bが所定の下限値βを下回る場合は、ヒータ22の目標温度を補正する(図8のStep4)。すなわち、定着ベルト20の算出温度Bが所定の上限値αを超える場合は、ヒータ22の目標温度を下げ、反対に、定着ベルト20の算出温度Bが所定の下限値βを下回る場合は、ヒータ22の目標温度を上げる。そして、加熱源制御部35が、補正後の目標温度に基づいてヒータ22を制御する。一方、定着ベルト20の算出温度が、所定の上限値を超えない場合、又は所定の下限値を下回らない場合は、ヒータ22の目標温度を変更せず(図8のStep5)、変更が無い目標温度に基づいて加熱源制御部35がヒータ22を制御する。
【0065】
その後、印刷ジョブが終了するまで、上述の定着ベルト20の温度算出工程からヒータ22の目標温度補正工程までの制御(図8のStep2~Step5)が繰り返し行われる(図8のStep6)。
【0066】
以上のように、本実施形態においては、温度算出部32が、ヒータ22の温度情報に加え、供給電力の情報も用いて定着ベルト20の温度を算出することにより、定着ベルト20の温度を的確に予測することが可能である。このように、本実施形態によれば、定着ベルト20の温度を検知する温度センサを用いなくても定着ベルト20の温度を的確に予測できるため、装置の低コスト化及び小型化を図りつつ、定着ベルト20の温度(実測値)を適正に維持できる。
【0067】
さらに、本実施形態においては、温度算出部32が、用紙のサイズ及び厚さに基づいて決定される各係数a1,a2を用いて定着ベルト20の温度を算出するので、より高精度な温度の予測が可能である。
【0068】
また、定着ベルト20の温度を精度良く算出するには、図9に示すように、温度センサ19が、最小通紙幅領域(最小幅シートの通過幅領域)Wp内に配置されることが好ましい。ここで、「最小通紙幅領域」とは、画像形成装置において通紙可能な最小幅の用紙(シート)が通過する幅領域である。また、「幅領域」とは、用紙面(シート面)と平行で通紙方向(シート通過方向)とは交差又は直交する方向をいう。
【0069】
また、本実施形態においては、温度センサ19がヒータ22のニップN側とは反対側の面に接触するように配置されているため(図2参照)、ヒータ22の温度を正確に検知でき、定着ベルト20の温度を精度良く算出することが可能である。
【0070】
なお、本発明は、上述の定着装置に適用される場合に限らない。
【0071】
例えば、定着装置が備えるヒータは、図3に示すようなヒータ22に限らず、図10に示すような複数の抵抗発熱体60が基材50の長手方向(矢印Z方向)に配列されたヒータ22であってもよい。図10に示す例においては、両端の各抵抗発熱体60と、両端以外の各抵抗発熱体60とが、それぞれ異なる電極部61に接続されているため、用紙サイズに応じて独立して発熱可能である。また、ヒータは、定着ベルト20のほか、加圧ローラ21を加熱するものであってもよい。
【0072】
また、本発明は、図11に示すような定着装置9、又は図12に示すような定着装置9にも適用可能である。
【0073】
図11に示す定着装置9は、図2に示す定着装置とは異なり、用紙Pを通過させる定着用のニップ部N1と、ヒータ22によって定着ベルト20を加熱する加熱用のニップ部N2が、それぞれ別の位置に設定されている。具体的には、定着ベルト20の回転方向における互いに180°反対側に、ヒータ22とニップ形成部材90が配置されている。そして、ヒータ22及びニップ形成部材90に対して、回転体としての異なる加圧ローラ91,92が定着ベルト20を介して押し当てられ、定着用のニップ部N1と加熱用のニップ部N2とが形成されている。
【0074】
図12に示す定着装置9は、ローラ93の両側にそれぞれベルト94,95が配置された例である。この場合も、図11に示す例と同様、定着用のニップ部N1と、加熱用のニップ部N2が、それぞれ別の位置に設定されている。すなわち、図の右側における一方のベルト94がニップ形成部材90によって中央のローラ93に押し当てられ、図の左側における他方のベルト95がヒータ22によって中央のローラ93に押し当てれれることにより、各ニップ部N1,N2が形成されている。
【0075】
図11又は図12に示すような定着装置9においては、上述の実施形態に係る定着装置と同様に、ヒータ22が配置される箇所においてベルト20又はベルト95の温度を直接検知する温度センサを配置できない制約がある。そのため、このような定着装置9においては、本発明の構成を適用することが好ましい。すなわち、ヒータ22の温度を検知する温度センサを配置し、ヒータ22の検知温度と供給電力とに基づいて図11に示されるベルト20又は図12に示されるローラ93の温度を算出する。これにより、ベルト20又はローラ93の温度を検知する温度センサを用いなくてもベルト20又はローラ93の温度を予測でき、定着ベルト20又はローラ93の温度を適正に維持できるようになる。なお、本発明において算出される温度は、ヒータによって直接的に加熱される回転体の温度に限らない。本発明によれば、ヒータによって直接的には加熱されない回転体(例えば、図12に示されるローラ93)の温度を算出することも可能である。
【0076】
また、本発明は、画像形成装置が備える加熱装置の一例である定着装置に適用される場合に限らない。本発明は、例えば、インクジェット式の画像形成装置に搭載され、用紙を加熱して用紙上のインク(液体)を乾燥させる乾燥装置(加熱装置)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
9 定着装置(加熱装置)
19 温度センサ
20 定着ベルト(第1回転体)
21 加圧ローラ(第2回転体)
22 ヒータ(加熱源)
30 制御装置
31 供給電力検知部
32 温度算出部
33 記憶部
34 目標温度補正部
35 加熱源制御部
50 基材
60 抵抗発熱体
100 画像形成装置
N、N1、N2 ニップ部
P 用紙(シート)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0078】
【文献】特開2020-71454号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12