IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽ホールディングス株式会社の特許一覧

特許7514058感光性フィルム積層体およびその硬化物、並びに電子部品
<>
  • 特許-感光性フィルム積層体およびその硬化物、並びに電子部品 図1
  • 特許-感光性フィルム積層体およびその硬化物、並びに電子部品 図2
  • 特許-感光性フィルム積層体およびその硬化物、並びに電子部品 図3
  • 特許-感光性フィルム積層体およびその硬化物、並びに電子部品 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】感光性フィルム積層体およびその硬化物、並びに電子部品
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/027 20060101AFI20240703BHJP
   G03F 7/11 20060101ALI20240703BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20240703BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20240703BHJP
   H01L 23/08 20060101ALI20240703BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240703BHJP
【FI】
G03F7/027
G03F7/11 501
G03F7/004 512
H05K3/28 D
H05K3/28 F
H01L23/08 A
B32B7/023
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019051146
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2019185033
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2018069669
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】荒井 康昭
(72)【発明者】
【氏名】舟越 千弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和也
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-198747(JP,A)
【文献】特開2017-198745(JP,A)
【文献】特開2017-198746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/027
G03F 7/11
G03F 7/004
H05K 3/28
H01L 23/08
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持フィルム、感光性組成物により形成されてなる感光性フィルムと、保護フィルムと、を順に備えた感光性フィルム積層体であって、
前記感光性組成物は、アルカリ現像性樹脂と、固形分換算で前記アルカリ現像性樹脂100質量部に対して0質量部超70質量部以下の無機フィラーとを含み、
前記感光性フィルム積層体から前記保護フィルムを、前記感光性フィルム表面の垂直方向に2.5秒/cmの速度ではく離して、前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に1分間放置後の前記感光性フィルム表面の算術平均表面粗さをRa1、
前記感光性フィルム積層体から前記保護フィルムを、前記感光性フィルム表面の垂直方向に2.5秒/cmの速度ではく離して、前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に180分間放置後の、前記感光性フィルム表面の算術平均表面粗さをRa2、
とした場合に、下記式:
Ra1≧0.10μm かつ 0.40≦Ra2/Ra1<1.00
を満たし、
前記感光性フィルム積層体から前記保護フィルムを、前記感光性フィルム表面の垂直方向に2.5秒/cmの速度ではく離して、前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に1分間放置後の前記感光性フィルム表面の最大高さをRy1、
前記感光性フィルム積層体から前記保護フィルムを、前記感光性フィルム表面の垂直方向に2.5秒/cmの速度ではく離して、前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に180分間放置後の、前記感光性フィルム表面の最大高さをRy2、
とした場合に、下記式:
Ry1≧1.00μm かつ 0.30≦Ry2/Ry1<1.00
を満たし、
前記感光性フィルムと接する面側の前記保護フィルム表面の算術平均表面粗さRa´が0.10μm以上であり、
前記感光性フィルムと接する面側の前記保護フィルム表面の最大高さRy´が1.00μm以上である
ことを特徴とする、感光性フィルム積層体。
【請求項2】
前記感光性組成物が光硬化性化合物を含む、請求項1に記載の感光性フィルム積層体。
【請求項3】
前記感光性組成物がさらに光重合開始剤を含む、請求項1または2に記載の感光性フィルム積層体。
【請求項4】
中空構造を有する電子部品における前記中空構造を構成する蓋部または壁部の形成に用いられる、請求項1~のいずれか一項に記載の感光性フィルム積層体。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の感光性フィルム積層体の感光性フィルムを硬化させて得られることを特徴とする、硬化物。
【請求項6】
請求項に記載の硬化物を有することを特徴とする、電子部品。
【請求項7】
壁部および蓋部からなる中空構造を有し、前記壁部および蓋部のいずれかまたは両方が前記硬化物からなる、請求項に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性フィルム積層体に関し、より詳細には、中空構造を有する電子部品において、当該中空構造の形成に好適に使用できる感光性フィルム積層体およびその硬化物、並びに電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高機能化への要求は益々高まっており、そこで用いられる電子部品にも小型化、薄型化、複合機能化が一層求められている。このかなでも、CMOS、CCDセンサーに代表されるイメージセンサーや、機械的要素と電子回路要素とを半導体微細加工技術により一つの基板上に集積するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を適用したジャイロセンサー、表面弾性波(SAW)フィルタに代表される、単結晶ウエハ表面に電極パターンや微細構造を形成して特定の電気的機能を発揮する素子のパッケージ等の微細電子部品の開発が注目されている。これらの微細電子部品においては、センサー素子のアクティブ面(可動部分)に他の物体が接触しないように、また湿気や埃などからセンサー素子を保護するために中空構造を形成し、その中にセンサー等を配置した構造としている。
【0003】
上記したような電子部品は、従来、無機材料の加工・接合により中空構造体が形成されていた。しかしながら、製造コストの低減やより一層の小型化の希求があり、無機材料に代えて感光性樹脂等によって中空構造を形成する手法が検討され始めており、例えば、永久レジストを積層し、フォトリソグラフィ技術により壁部(壁面)や蓋部を形成して中空構造とすることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】再表2009/151050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したSAWフィルタ等の中空構造を有する電子部品は、搭載基板への実装を行うために、圧電基板の配線電極と電気的接続を行った外部端子や外部電極を有するパッケージ構造として製造される。その際、中空構造を形成する壁部や蓋部の近接部において、外部配線との接続信頼性を得るために、めっき法等によって内部導体を形成することが行われる。また、素子の保護と共に取扱い性を向上させるために、トランスファーモールド法等によって中空構造や近接部が樹脂封止される。
【0006】
しかしながら、永久レジストにより中空構造を形成した場合、近接部に内部導体を形成するとめっき等の剥がれが生じる現象が確認された。
【0007】
したがって、本発明は、SAWフィルタ等の中空構造を有する電子部品において、中空構造の近接部におけるめっき等の剥がれを抑制することができる、中空構造の形成に適した感光性フィルム積層体を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、前記感光性フィルム積層体を用いて形成された硬化物および、中空構造を有する電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した中空構造を樹脂の使用により形成する手法としては、感光性フィルムを何層か積層して露光、現像により壁部を形成しておき、壁部の上端に別の感光性フィルムを載置して、所定形状となるように露光、現像して蓋部を形成し、感光性樹脂を熱硬化させることで中空構造を形成することができる。本発明者等は、上記課題に対して鋭意検討したところ、上記のように感光性フィルムを使用して中空構造を形成した場合、中空構造を構成する壁部や蓋部に現像工程で使用した現像液が僅かに残存しており、この現像液が界面から滲み出すことにより、めっき等との密着性が阻害され、剥がれやすくなることを見出した。さらに検討を進めた結果、保護フィルムを備えた感光性フィルム積層体において、保護フィルムを剥離して感光性フィルム表面を露出させた後の当該表面形態の経時変化が特定の範囲である感光性フィルム積層体を中空構造の形成に使用することにより、めっき等との密着性が阻害されるのを抑制し、高品質な中空構造を有する電子部品を製造できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の感光性フィルム積層体は、支持フィルム、感光性組成物により形成されてなる感光性フィルムと、保護フィルムと、を順に備えた感光性フィルム積層体であって、
前記感光性フィルム積層体から前記保護フィルムをはく離して前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に1分間放置後の前記感光性フィルム表面の算術平均表面粗さをRa1、
前記感光性フィルム積層体から前記保護フィルムをはく離して前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に180分間放置後の、前記感光性フィルム表面の算術平均表面粗さをRa2、
とした場合に、下記式:
Ra1≧0.10μm かつ 0.40≦Ra2/Ra1<1.00
を満たすことを特徴とする。
【0010】
本発明の実施態様において、前記感光性フィルム積層体から前記保護フィルムをはく離して前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に1分間放置後の前記感光性フィルム表面の最大高さをRy1、
前記感光性フィルム積層体から前記保護フィルムをはく離して前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に180分間放置後の、前記感光性フィルム表面の最大高さをRy2、
とした場合に、下記式:
Ry1≧1.00μm かつ 0.30≦Ry2/Ry1<1.00
を満たすことが好ましい。
【0011】
また、本発明の実施態様において、前記感光性組成物が光硬化性化合物を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明の実施態様において、前記感光性組成物がさらに光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0013】
また、本発明の実施態様において、感光性フィルム積層体は、中空構造を有する電子部品における前記中空構造を構成する蓋部または壁部の形成に用いられることが好ましい。
【0014】
また、本発明の別の態様による硬化物は、上記感光性フィルム積層体の感光性フィルムを硬化させて得られることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の別の態様による電子部品は上記硬化物を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の別の態様による電子部品は、壁部および蓋部からなる中空構造を有し、前記壁部および蓋部のいずれかまたは両方が上記硬化物からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、中空構造を有する電子部品において、中空構造の近接部におけるめっきや等の剥がれを抑制することができる、中空構造の形成に適した感光性フィルム積層体を提供することができる。また、本発明の別の態様によれば、前記感光性フィルム積層体を用いて形成された硬化物および電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例4および実施例5で作製した試験基板の作製手順を示す模式断面図である。
図2】実施例4および実施例5で作製した試験基板の作製手順を示す模式断面図である。
図3】実施例4および実施例5で作製した試験基板の作製手順を示す模式断面図である。
図4】実施例4および実施例5で作製した試験基板の作製手順を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<感光性フィルム積層体>
本発明による感光性フィルム積層体は、支持フィルム、感光性組成物により形成されてなる感光性フィルムと、保護フィルムと、を順に備える。以下、本発明の感光性フィルム積層体を構成する各構成要素について説明する。なお、特段の記載がない限り、本明細書において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、その上限と下限の数値を含む範囲(即ち、その下限以上、その上限以下の範囲)を意味する。
【0020】
[支持フィルム]
本発明による感光性フィルム積層体を構成する支持フィルムは、感光性フィルムを支持するものであり、当該機能を達成できれば公知のものであれば特に制限なく使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム等の熱可塑性樹脂からなるフィルムを好適に使用することができる。また、前記熱可塑性樹脂フィルムを使用する場合、フィルムを成膜する際の樹脂中にフィラーを添加(練り込み処理)したり、マットコーティング(コーティング処理)したり、フィルム表面をサンドブラスト処理のようなブラスト処理をしたり、あるいはヘアライン加工、またはケミカルエッチング等の処理を施したものであってもよい。これらの中でも、耐熱性、機械的強度、取扱性等の観点から、ポリエステルフィルムを好適に使用することができる。支持フィルムは単層でもよく、2層以上が積層されていてもよい。
【0021】
上記したような熱可塑性樹脂フィルムは、強度を向上させる目的で、一軸方向または二軸方向に延伸されたフィルムを使用することが好ましい。
【0022】
支持フィルムの厚さは、特に制限されるものではないが概ね10μm以上3,000μm以下の範囲で用途に応じて適宜選択される。
【0023】
[感光性フィルム]
本発明による感光性フィルム積層体を構成する感光性フィルムは、感光性組成物により形成される。すなわち、支持フィルムの一方の面に、後述する各成分を含む感光性組成物を塗布し、乾燥させて形成することができる。感光性フィルムは、露光、現像により所定の形状とした後に感光性組成物を硬化させることにより硬化物となる。そのため、感光性フィルム積層体から保護フィルムを剥離して感光性フィルムの表面を露出させた状態では、感光性組成物は未硬化の状態であるため、感光性フィルムの表面形態は経時的に変化する。本発明においては、感光性フィルムの表面形態の経時変化と、めっき等の剥がれとの間に何らかの関係があることを見出したものであり、以下のような条件を満足する感光性フィルム積層体とすることにより、電子部品の中空構造を感光性フィルム積層体を使用して形成すれば、めっき等との密着性が阻害されるのを抑制し、高品質な中空構造を有する電子部品を実現できるものである。
【0024】
本発明においては、感光性フィルム積層体から前記保護フィルムをはく離して前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に1分間放置後の前記感光性フィルム表面の算術平均表面粗さをRa1、
前記感光性フィルム積層体から前記保護フィルムをはく離して前記感光性フィルム表面を露出させ、20℃、相対湿度42%の環境下に180分間放置後の、前記感光性フィルム表面の算術平均表面粗さをRa2、
とした場合に、下記式:
Ra1≧0.10μm かつ 0.40≦Ra2/Ra1<1.00
を満たすことが重要である。保護フィルムを剥離した際の感光性フィルムが所定の算術平均表面粗さの凹凸表面を有する場合、凹凸表面は徐々に平坦な状態となる傾向があり、経時的に表面形態が変化する。本発明においては、この表面形態の経時的変化に着目し、特定の表面形態変化に留まる感光性フィルムを用いることにより、中空構造の近接部におけるめっき等の剥がれを抑制することができる。
【0025】
本発明において、保護フィルムを剥離した後の保護フィルムと接していた面の感光性フィルムの算術平均表面粗さRa1は0.10μm以上であり、0.15μm以上が好ましく、0.20μm以上であることがより好ましい。また上限を設ける場合、1.00μm下が好ましく、0.80μm以下がより好ましく、0.60μm以下がさらに好ましい。なお、Ra1は、保護フィルムをはく離して前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に1分間放置して測定した値と定義する。
【0026】
また、めっき等の剥がれをより一層抑制する観点からは、保護フィルムを剥離した後の保護フィルムと接していた面の感光性フィルムの最大高さRy1は、1.00以上が好ましく、1.20μm以上がより好ましく、1.40μm以上がさらに好ましい。また上限を設ける場合、5.00μm以下が好ましく、4.00μm以下がより好ましく、3.00μm以下がさらに好ましい。なお、Ry1は、保護フィルムをはく離して前記感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に1分間放置して測定した値と定義する。
【0027】
感光性フィルム表面の経時的な形状変化は、保護フィルムを剥離した直後の算術平均表面粗さ(即ち、Ra1)に対する、所定時間経過後の算術平均表面粗さの比により評価することができる。本発明においては、感光性フィルム積層体から保護フィルムをはく離して感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に180分間放置した後の、保護フィルムと接していた面の感光性フィルムの算術平均表面粗さをRa2とした場合に、0.40≦Ra2/Ra1<1.00を満たす感光性フィルム積層体であれば、中空構造の近接部におけるめっき等の剥がれを抑制することができる。この理由は定かではないが以下のように考えられる。すなわち、保護フィルムを備えた感光性フィルム積層体において、保護フィルムを剥離して感光性フィルム表面を露出させた後の一定の粗さを有する当該表面形態が経時により徐々に変化していき、かかる変化の割合が一定であると、壁材の場合は下地と蓋材の場合は壁材との密着の程度がより適当なものとなり、現像の際に用いた残存する現像液が中空構造周辺部へ侵入するのを防ぎ、その結果、残存する現像液に起因するめっき等の剥がれを抑止することができたものと推測される。しかしながら、あくまでも推測の域であり、必ずしもこの限りではない。なお、本発明において、保護フィルムを剥離して感光性フィルム表面を露出させた状態で180分間、放置する場所としては、イエローランプ下であるものとする。
【0028】
感光性フィルム表面の経時的な形状変化は、適度な形状変化から剥がれをより抑制する観点より、0.50≦Ra2/Ra1≦0.95が好ましく、0.60≦Ra2/Ra1≦0.90がより好ましい。
【0029】
また、感光性フィルム積層体から保護フィルムをはく離して感光性フィルム表面を露出させ、23℃、相対湿度42%の環境下に180分間放置後の、保護フィルムと接していた面の感光性フィルムの最大高さをRy2とした場合に、0.30≦Ry2/Ry1<1.00を満たす感光性フィルム積層体であれば、より一層、めっき等の剥がれを抑制することができる。なお、本発明において、保護フィルムを剥離して感光性フィルム表面を露出させた状態で180分間、放置する場所としては、イエローランプ下であるものとする。
【0030】
感光性フィルム表面の経時的な形状変化は、適度な形状変化から剥がれをより抑制する観点より、0.35≦Ry2/Ry1≦0.80が好ましく、0.40≦Ry2/Ry1≦0.70がより好ましい。
【0031】
また、感光性フィルムにおける支持フィルムと接する面の算術表面粗さRa´´や最大高さRy´´も上記保護フィルムと接する面の算術表面粗さRaや最大高さRyと同様の範囲や変化率にあることが好ましい。特に保護フィルムが無く、支持フィルム、感光性組成物により形成されてなる感光性フィルムと、を順に備えた感光性フィルム積層体である場合に有効である。かかる場合、支持フィルムは後述するような保護フィルムと同様の材料や厚さであることが好ましい。
【0032】
なお、本発明において、上記した「算術平均表面粗さRa」および「最大高さRy」は、JIS B0601-1994に準拠した測定装置にて測定された値を意味する。以下、具体的な測定方法について説明しておく。算術平均表面粗さRaおよび最大高さRyは、形状測定レーザーマイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス製VK-X100)を使用して測定することができる。形状測定レーザーマイクロスコープ(同VK-X100)本体(制御部)および、VK観察アプリケーション(株式会社キーエンス製VK-H1VX)を起動させた後、x-yステージ上に測定する試料(感光性フィルム)を載置する。顕微鏡部(株式会社キーエンス製VK-X110)のレンズレボルバーを回して倍率10倍の対物レンズを選択し、VK観察アプリケーション(同VK-H1VX)の画像観察モードで、大まかにピント、明るさを調節する。x-yステージを操作して、試料表面の測定したい部分が、画面の中心に来るように調節する。倍率10倍の対物レンズを倍率50倍に替え、VK観察アプリケーション(同VK-H1VX)の画像観察モードのオートフォーカス機能で、試料の表面にピントを合わせる。VK観察アプリケーション(同VK-H1VX)の形状測定タブの簡単モードを選択し、測定開始ボタンを押して、試料の表面形状の測定を行い、表面画像ファイルを得ることができる。VK解析アプリケーション(株式会社キーエンス製VK-H1XA)を起動して、得られた表面画像ファイルを表示させた後、傾き補正を行う。なお、試料の表面形状の測定における観察測定範囲(横)は270μmとする。線粗さウインドウを表示させ、パラメータ設定領域で、JIS B0601-1994を選択した後、測定ラインボタンから水平線を選択し、表面画像内の任意の場所に水平線を表示させ、OKボタンを押すことによって、算術平均表面粗さRaと最大高さRyの数値を得る。さらに、表面画像内の異なる4か所で水平線を表示させ、それぞれの算術平均表面粗さRaと最大高さRyの数値を得る。得られた5つの数値の平均値をそれぞれ算出し、試料表面の算術平均表面粗さRaと最大高さRy値とする。なお、上記した算術平均表面粗さRaおよび最大高さRyの測定においては、露光等による硬化工程前の状態にある感光性フィルムを測定試料として用いるものとする。本発明のように積層体として感光性フィルムに保護フィルムが積層されている場合は、基材へのラミネート前に保護フィルムを剥離した状態にある測定試料を用いるものとする。この場合、保護フィルムを剥離して感光性フィルムを露出させた直後(1分)および180分後に試料表面の「算術平均表面粗さRa」と「最大高さRy」の測定を行うものとする。なお、本発明における測定環境としては、温度23℃、相対湿度42%とする。
【0033】
感光性フィルムの表面形態を上記した特定の算術平均表面粗さRaおよび最大高さRyの範囲とするには、公知慣用の手法を適用することができるが、なかでも、前記のような表面形態に形成することの容易さの観点から、後述するような保護フィルムにおいて、算術平均表面粗さRaおよび最大高さRyを調整したものを用いて感光性フィルムを形成することができる。また、特定の算術平均表面粗さRaおよび最大高さRyを有する保護フィルムを貼着した後に当該保護フィルムを剥離し、次いで異なる算術平均表面粗さRaおよび最大高さRyを有する別の保護フィルムを感光性フィルム表面に貼着して感光性フィルム表面の粗さを調整してもよい。
【0034】
また、保護フィルムを剥離した後の感光性フィルムの表面形態の経時変化は、感光性フィルムを構成する硬化前の感光性組成物中に含まれる成分の種類や配合量によって調整することができる。例えば、溶解性パラメータ(SP値)の異なる材料を配合したり、ガラス転移温度(Tg)や重量平均分子量の適当な材料を用いたり、フィラーを適宜用いることにより調整することができるが、これらに限られるものではない。本発明において、感光性フィルムを形成する感光性組成物は、その組成に特に制限はないが、光硬化性化合物、光重合開始剤、熱架橋材、無機フィラーなどが含まれていてもよい。以下、感光性組成物を構成する各成分について説明する。
【0035】
[光硬化性化合物]
本発明の感光性フィルム積層体に使用される感光性組成物は、紫外線等の電離放射線の照射により硬化する成分が含まれ、一例として光硬化性化合物が挙げられる。光硬化性化合物は、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物であり、化合物は樹脂、オリゴマー、モノマーいずれも含まれる。このような光硬化性化合物としては、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルキレンオキサイド誘導体のモノまたはジ(メタ)アクリレート類;ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート等の多価アルコールまたはこれらのエチレンオキサイドあるいはプロピレンオキサイド付加物の多価(メタ)アクリレート類;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのポリエトキシジ(メタ)アクリレート等のフェノール類のエチレンオキサイドあるいはプロピレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート類;グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどのグリジジルエーテルの(メタ)アクリレート類;およびメラミン(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレートおよびそれらの混合物を総称する用語で、他の類似の表現についても同様である。
【0036】
また、上記した以外にも、アミド結合および2以上の少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性化合物、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物等のウレタンモノマーまたはウレタンオリゴマー等が挙げられる。
【0037】
さらに、光硬化性化合物は、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等にアクリル酸やメタクリル酸等の不飽和カルボン酸を反応させてカルボキシル基含有感光性樹脂とすることができる。このようなカルボキシル基含有感光性樹脂は、光照射により重合ないし架橋して硬化することができ、さらにカルボキシル基が含まれることにより溶剤現像のみならず、アルカリ現像性とすることができる点で好ましい。特に弱アルカリ性、具体的にはpH7.0以上12.0以下の現像液に対しても、優れた現像性とすることができる点で好ましい。
【0038】
カルボキシル基含有感光性樹脂の具体例としては、以下に列挙するような化合物(オリゴマーまたはポリマーのいずれでもよい)が挙げられる。
(1)2官能またはそれ以上の多官能(固形)エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を反応させ、側鎖に存在する水酸基に無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などの2塩基酸無水物を付加させたカルボキシル基含有感光性樹脂、
(2)2官能(固形)エポキシ樹脂の水酸基を、さらにエピクロロヒドリンでエポキシ化した多官能エポキシ樹脂に、(メタ)アクリル酸を反応させ、生じた水酸基に2塩基酸無水物を付加させたカルボキシル基含有感光性樹脂、
(3)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物に、1分子中に少なくとも1個のアルコール性水酸基と1個のフェノール性水酸基を有する化合物と、(メタ)アクリル酸などの不飽和基含有モノカルボン酸とを反応させ、得られた反応生成物のアルコール性水酸基に対して、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、アジピン酸などの多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂、
(4)ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ノボラック型フェノール樹脂、ポリ-p-ヒドロキシスチレン、ナフトールとアルデヒド類の縮合物、ジヒドロキシナフタレンとアルデヒド類との縮合物などの1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物と、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドとを反応させて得られる反応生成物に、(メタ)アクリル酸などの不飽和基含有モノカルボン酸を反応させ、得られる反応生成物に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂、
(5)1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物とエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート化合物とを反応させて得られる反応生成物に、不飽和基含有モノカルボン酸を反応させ、得られる反応生成物に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂、
(6)脂肪族ジイソシアネート、分岐脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物と、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、アクリル系ポリオール、ビスフェノールA系アルキレンオキサイド付加体ジオール、フェノール性ヒドロキシル基およびアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物などのジオール化合物の重付加反応によるウレタン樹脂の末端に、酸無水物を反応させてなる末端カルボキシル基含有感光性ウレタン樹脂、
(7)ジイソシアネートと、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸などのカルボキシル基含有ジアルコール化合物と、ジオール化合物との重付加反応によるカルボキシル基含有ウレタン樹脂の合成中に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの分子中に1つの水酸基と1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を加え、末端(メタ)アクリル化したカルボキシル基含有感光性ウレタン樹脂、
(8)ジイソシアネートと、カルボキシル基含有ジアルコール化合物と、ジオール化合物との重付加反応によるカルボキシル基含有ウレタン樹脂の合成中に、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの等モル反応物など、分子中に1つのイソシアネート基と1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を加え、末端(メタ)アクリル化したカルボキシル基含有感光性ウレタン樹脂、
(9)多官能オキセタン樹脂に、アジピン酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸などのジカルボン酸を反応させ、生じた1級の水酸基に、2塩基酸無水物を付加させたカルボキシル基含有ポリエステル樹脂に、さらにグリシジル(メタ)アクリレート、α-メチルグリシジル(メタ)アクリレートなどの1分子中に1つのエポキシ基と1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を付加してなるカルボキシル基含有感光性樹脂、
(10)上述した(1)~(9)のいずれかのカルボキシル基含有感光性樹脂に、1分子中に環状エーテル基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物を付加させたカルボキシル基含有感光性樹脂、
(11)(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸と、スチレン、α-メチルスチレン、低級アルキル(メタ)アクリレート、イソブチレンなどの不飽和基含有化合物との共重合により得られるカルボキシル基含有樹脂に対し、3,4-エポキシシクロヘキシルメタアクリレート等の一分子中に環状エーテル基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させたカルボキシル基含有感光性樹脂、等が挙げられる。なお、ここで(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレートおよびそれらの混合物を総称する用語で、以下他の類似の表現についても同様である。
【0039】
上記した光硬化性化合物の重量平均分子量は、樹脂骨格により異なるが、一般的に2,000~200,000であることが好ましい。重量平均分子量が2,000以上であることにより、タックフリー性能や解像度を向上させることができる。さらに塗膜表面の経時による状態変化が適度なものとなり、下地との密着性をより改善することができる。また、重量平均分子量が200,000以下であることにより、現像性や貯蔵安定性を向上させることができる。より好ましい重量平均分子量は、4,000~150,000であり、さらに好ましくは、5,000~100,000である。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法(ポリスチレン標準)により測定することができる。
【0040】
光硬化性化合物の配合量は、組成物中に後述する熱架橋材も含有する場合、固形分換算で、光硬化性化合物と熱架橋材の合計量を100質量部としたときに、50~90質量部であることが好ましい。光硬化性化合物の配合量を上記範囲内とすることで、より強度のある中空構造を形成することができる。また、塗膜表面の経時による状態変化が適度なものとなり、下地との密着性をより改善することができる。
【0041】
[熱架橋材]
熱架橋材を加えることにより、感光性フィルムの耐熱性が向上することが期待できる。熱架橋材は、1種を単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。熱架橋材としては、公知のものをいずれも用いることができる。例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン誘導体、ベンゾグアナミン誘導体等のアミノ樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、シクロカーボネート化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、エピスルフィド樹脂、ビスマレイミド、カルボジイミド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のノボラック樹脂等の公知の熱硬化成分を使用できる。これらのなかでも、感光性組成物の硬化物と基板との密着性の観点から、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。
【0042】
熱架橋材の配合量は、組成物中に前述した光硬化性化合物も含有する場合、固形分換算で、光硬化性化合物と熱架橋材の合計量を100質量部としたときに、10~40質量部であることが好ましい。熱架橋材の配合量を上記範囲とすることで、より強度のある中空構造を形成することができる。また、熱架橋材の配合量を40質量部以下とすることで光硬化性化合物の割合が増えるため解像度がより向上する。
【0043】
熱架橋材としてエポキシ樹脂等を使用する場合には、さらにエポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤が含まれていてもよい。硬化剤としては、例えばアミン類、イミダゾール類、多官能フェノール類、酸無水物、イソシアネート類、およびこれらの官能基を含むポリマー類があり、必要に応じてこれらを複数用いても良い。
【0044】
[光重合開始剤]
光重合開始剤としては、具体的には例えば、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のビスアシルフォスフィンオキサイド類;2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィン酸メチルエステル、2-メチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ピバロイルフェニルフォスフィン酸イソプロピルエステル、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のモノアシルフォスフィンオキサイド類;フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィン酸エチル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のヒドロキシアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインn-プロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾインアルキルエーテル類;ベンゾフェノン、p-メチルベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、メチルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-1-プロパノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル)-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、N,N-ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン類;チオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アントラキノン、クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノン、2-アミノアントラキノン等のアントラキノン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;エチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、2-(ジメチルアミノ)エチルベンゾエート、p-ジメチル安息香酸エチルエステル等の安息香酸エステル類;1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル類;ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニル)チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(2-(1-ピル-1-イル)エチル)フェニル]チタニウム等のチタノセン類;フェニルジスルフィド2-ニトロフルオレン、ブチロイン、アニソインエチルエーテル、アゾビスイソブチロニトリル、テトラメチルチウラムジスルフィド等を挙げることができる。
【0045】
光重合開始剤の配合量は、組成物中に前述した光硬化性化合物を含有する場合、光硬化性化合物100質量部に対して、固形分換算で、0.1~10質量部であることが好ましい。光重合開始剤の配合量を上記の範囲とすることで、より解像性が向上する。
【0046】
上記した光重合開始剤と併用して、光開始助剤または増感剤を用いてもよい。光開始助剤または増感剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物、ケタール化合物、ベンゾフェノン化合物、3級アミン化合物、およびキサントン化合物などを挙げることができる。これらの化合物は、光重合開始剤として用いることができる場合もあるが、光重合開始剤と併用して用いることが好ましい。また、光開始助剤または増感剤は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
なお、これら光重合開始剤、光開始助剤、および増感剤は、特定の波長を吸収するため、場合によっては感度が低くなり、紫外線吸収剤として機能することがある。しかしながら、これらは組成物の感度を向上させることだけの目的に用いられるものではない。必要に応じて特定の波長の光を吸収させて、表面の光反応性を高め、露光、現像した際の形状の精度を向上させることができる。
【0048】
[フィラー]
感光性組成物にフィラーを配合することにより、塗膜の硬度や耐熱性等を上げることができるとともに、感光性フィルムの表面形態の経時的変化を調整することができる。このようなフィラーとしては、公知の無機または有機フィラーが使用できるが、無機フィラーであることが好ましい。無機フィラーとしては、硫酸バリウム、シリカ、マイカ、ハイドロタルサイト、タルク、金属酸化物、水酸化アルミ等の金属水酸化物等が挙げられる。これらのなかでも、シリカ、マイカが好ましい。シリカは球状シリカ、不定形シリカ等が挙げられる。
【0049】
感光性組成物には、必要に応じて、上記した以外のその他の樹脂、熱ラジカル発生剤、重合禁止剤、接着助剤、有機溶剤などを加えてもよい。
【0050】
例えば、その他の樹脂を配合することにより、耐熱性を向上させることができる。その他の樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリオキサゾールおよびそれらの前駆体、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のノボラック樹脂、ポリアミドイミド、ポリアミド、フェノキシ樹脂、ポリエーテルスルホンなどが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
また、ポリイミド樹脂はアルカリ可溶性としてもよい。具体的には、イミド基の他にカルボキシル基や酸無水物基などのアルカリ可溶性基を有するものである。アルカリ可溶基の導入には公知慣用の手法を用いることができる。例えば、カルボン酸無水物成分とアミン成分およびイソシアネート成分のいずれか少なくとも1種とを反応させて得られる樹脂が挙げられる。イミド化は熱イミド化で行っても、化学イミド化で行ってもよく、またこれらを併用して製造することができる。
【0052】
また、熱ラジカル発生剤を配合することにより、光硬化性化合物を低温にて短時間で硬化させることができる。熱ラジカル発生剤としては、例えば、パーオキサイド、アゾ化合物等が挙げられる。
【0053】
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、フェノチアジンなどが挙げられる。また、接着助剤としては、例えば、γ-グリシドキシシラン、アミノシラン、γ-ウレイドシラン等のシランカップリング剤などが挙げられる。
【0054】
感光性フィルムは、支持フィルムの一方の面に、上記した感光性組成物を塗布し、乾燥させて形成することができる。感光性組成物の塗布性を考慮して、感光性組成物を有機溶剤で希釈して適切な粘度に調整し、コンマコーター、ブレードコーター、リップコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、リバースコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、バーコーター、ロールコーター、コンマコーター、スリットダイコーター、スピンコーター等で支持フィルムの一方の面に均一な厚さに塗布し、乾燥により有機溶剤を揮発させて、タックフリーの塗膜を得ることができる。塗布膜厚については特に制限はないが、一般に、乾燥後の膜厚で、0.5~500μmの範囲で適宜選択される。中空構造の壁部や蓋部を形成する材料として使用する観点からは、1~300μmの範囲であることが好ましい。
【0055】
使用できる有機溶剤としては、特に制限はないが、例えば、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、エステル類、アルコール類、脂肪族炭化水素、石油系溶剤などが挙げることができる。より具体的には、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテートなどのエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤、その他N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトンなどである。このような有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0056】
有機溶剤の揮発乾燥は、熱風循環式乾燥炉、IR炉、ホットプレート、コンベクションオーブンなど(蒸気による空気加熱方式の熱源を備えたものを用い乾燥機内の熱風を向流接触せしめる方法およびノズルより支持体に吹き付ける方式)を用いて行うことができる。揮発乾燥条件としては、温度は60~120℃、時間は1~60分の範囲で適宜選択される。
【0057】
[保護フィルム]
本発明による感光性フィルム積層体は、上記した感光性フィルムの表面に塵等が付着するのを防止するとともに取扱性を向上させる目的で、さらには、感光性フィルム表面の算術平均表面粗さRaを調整する目的で、感光性フィルムの支持フィルムとは反対の面に保護フィルムが設けられている。
【0058】
保護フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、表面処理した紙等を用いることができるが、特にポリプロピレンフィルムであることが好ましい。また、保護フィルムと感光性フィルムとの接着力が、感光性フィルムとの接着力よりも小さくなるような材料を選定することが好ましい。また、感光性フィルム積層体の使用時に、保護フィルムを剥離し易くするため、保護フィルムの感光性フィルムと接する面に上記したような離型処理を施してもよい。
【0059】
保護フィルムの厚さは、特に制限されるものではないが概ね10~200μmの範囲で用途に応じて適宜選択される。
【0060】
本発明において、感光性フィルムと接する面側の保護フィルム表面の算術平均表面粗さRa´が0.10μm以上であるような保護フィルムを用いることが好ましい。また、感光性フィルムと接する面側の保護フィルム表面の算術平均表面粗さRy´が1.00μm以上であるような保護フィルムを使用することがより好ましい。このような表面形態を有する保護フィルムを使用することにより、0.10μm以上の算術平均表面粗さRaを有する感光性フィルムを形成しやすくなり、さらには1.00μm以上の算術平均表面粗さRyを有する感光性フィルムを形成しやすくなる。保護フィルムの算術平均表面粗さRa´は、0.15μm以上であることがより好ましく、0.20μm以上であることがさらに好ましい。また上限を設ける場合、1.00μm以下であることが好ましく、0.80μm以下であることがより好ましく、0.60μm以下であることがより好ましい。
【0061】
また、感光性フィルムと接する面側の保護フィルムの最大高さRy´は、1.20μm以上であることがより好ましく、1.40μm以上であることがさらに好ましい。また上限を設ける場合、5.00μm以下であることが好ましく、4.00μm以下であることがより好ましく、3.00μm以下であることがさらに好ましい。ここで、算術平均表面粗さRa´および最大高さRy´のそれぞれ意味するところやその具体的な測定方法については、前述した[感光性フィルム]で説明するところである。なお、保護フィルムの算術平均表面粗さRa´と感光性フィルムの算術平均表面粗さRa、保護フィルムの最大高さRy´と感光性フィルムの最大高さRyはそれぞれ必ずしも一致するものではないが、適宜調整することにより、感光性フィルムの算術平均表面粗さRaおよび最大高さRyを、上述したような特定の範囲内とすることができる。
【0062】
上記したような算術平均表面粗さRa´および最大高さRy´を有する保護フィルムの調整方法としては特に限定されるものではなく、例えば、保護フィルムの樹脂中にフィラーを添加する場合に、フィラーの粒径や添加量を調整することが挙げられるが、保護フィルム表面をブラスト処理したり、あるいはヘアライン加工、マットコーティング、またはケミカルエッチング等により、表面を所定の形態にすることができる。
【0063】
<硬化物>
本発明の感光性フィルム積層体を用いて硬化物が形成される。かかる硬化物の一例として、壁部と蓋部とを備えた中空構造体を、本発明の感光性フィルム積層体を用いて形成する方法について説明する。
【0064】
[壁部の形成方法]
まず、感光性フィルム積層体を用いて壁部を形成する。具体的には、感光性フィルム積層体から保護フィルムを剥離して、感光性フィルムを基板等の被着体上に積層する積層工程と、感光性フィルムの所定部分にマスクを介して光照射して露光部を光硬化させる露光工程と、感光性フィルムの光硬化した以外の箇所を現像液を用いて除去する現像工程と、感光性フィルムの光硬化した箇所を光ないし熱により硬化させて硬化物を形成する本硬化工程とを経て、所望の壁部を形成することができる。以下、各工程について説明する。
【0065】
積層工程においては、感光性フィルム積層体から保護フィルムを剥離し、露出した感光性フィルム面側を基板上に積層する。積層は、熱圧着による接着等により行うことができる。被着体である基板としては、例えば、シリコンウェハ、ガラス基板、セラミックス基板、アルミニウムベース基板、ステンレス基板、ガラエポ基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板等が挙げられる。熱圧着の方法としては、熱プレス処理、ロールラミネート処理、真空ロールラミネート、真空プレス処理、ダイヤフラム式真空ラミネートなどが挙げられる。熱圧着温度は、基板への密着性、埋め込み性の点、および熱圧着時での感光性組成物の硬化が進まずに良好な解像性を維持する観点から20~150℃であることが好ましく、35~100℃であることがより好ましく、40~85℃であることがさらに好ましい。また、ラミネート圧は0.005~10MPaであることが好ましく、より好ましくは0.005~3MPaである。
【0066】
次に、露光工程を実施する。露光としては、ネガ型とポジ型とがあるが、ネガ型が好ましい。ネガ型の場合、基板上に積層した感光性フィルム積層体に、壁部の形状となるような所望パターンを有するネガマスクを介して光照射し、感光性フィルムの露光部を光硬化させる。ここで、露光に用いられる活性光線としては、紫外線、可視光線、電子線、X線等が挙げられる。これらの中でも特に、紫外線、可視光線が好ましい。また、フォトマスクを介して、超高圧水銀灯のi線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)を用いるマスク露光が好ましい。また、波長405nmのレーザーを用いて感光性フィルムにマスクレスで直描する方法も挙げられる。本工程では、感光性フィルム積層体を構成する支持フィルムは、露光前に剥離してもよいし、露光後に剥離してもよい。また、露光前に、支持フィルムを剥離して、または、剥離せずに、オーブンまたはホットプレートを用いて、40℃~150℃の温度で5秒~60分間の加熱処理を施してもよい。また、露光後に、支持フィルムを剥離して、または、剥離せずに、オーブンまたはホットプレートを用いて、40~150℃の温度で5秒~60分間の加熱処理を施してもよい。
【0067】
次に、感光性フィルムの光硬化した以外の箇所(未露光部)を有機溶剤系またはアルカリ水溶液系の現像液を用いて除去することにより壁部のパターンを形成する。
【0068】
現像液としては、N-メチルピロリドン、エタノール、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、γ―ブチロラクトン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、メチルアミルケトン(2-ヘプタノン)、酢酸ブチル等の有機溶剤を使用することができる。また、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)などのアルカリ水溶液を使用することができる。これらの中でも、現像速度の点から、溶剤現像である場合、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートを用いることが好ましい。 一方、アルカリ現像である場合、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であることが好ましい。
【0069】
現像方法としては、感光性フィルムへ現像液をスプレーする、現像液に浸漬する、あるいは浸漬しながら超音波をかけるなどが挙げられる。
【0070】
また、現像後、必要に応じて、水や、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコールや、n-ブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテルアセテート等でリンスすることが好ましい。リンス方法としては、感光性フィルム面へ現像液をスプレーする、現像液に浸漬する、あるいは浸漬しながら超音波をかけるなどが挙げられる。
【0071】
次いで、感光性フィルムの光硬化した箇所(露光部)を光ないし熱により硬化させて壁部を形成する。現像後の硬化(キュア)は、熱により硬化させる場合には、温度を選択して段階的に昇温しながら1~2時間実施することが好ましい。熱硬化の温度は120~400℃、時間は60~120分の範囲で適宜選択される。温度は一定温度に固定でも段階的な昇温であってもよい。硬化の際は、窒素、アルゴンなどの不活性気体中で加熱処理することが好ましい。最終加熱温度は150~350℃であることが好ましい。また、熱硬化の前後あるいは熱硬化に代えて光硬化を行ってもよい。
【0072】
壁部を形成するための感光性フィルムの膜厚は1~3,000μmが好ましく、5~1,000μmがより好ましく、10~500μmがさらに好ましく、20~200μmが特に好ましく、20~100μmが最も好ましい。感光性フィルムの厚さが1μm以上であれば、壁部の形状を維持しやすく、モールド時の高温高圧条件下でも大きな変形が起こりにくい。また、厚さが3,000μm以下の厚さであれば、露光時の感光性フィルムの光透過性が阻害されにくい。なお、感光性フィルムを重ね合わせる積層工程を繰り返すことで、壁部の厚みを増してもよい。また、硬化工程を経て形成される壁部の最終的な膜厚も1~3,000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、10~200μmがさらに好ましい。
【0073】
[蓋部の形成]
上述した形成方法により形成される感光性フィルムの硬化物からなる壁部は、十分な膜厚を有しており、セラミック基板、Si基板、ガラス基板、金属基板などを壁部の上端に蓋として被せることで、中空構造を形成することもできるが、感光性フィルム積層体を用いて蓋部を形成してもよい。以下、感光性フィルム積層体を用いて蓋部を形成する方法について説明する。
【0074】
上記のようにして形成した壁部の上端に、保護フィルムを剥離した感光性フィルム積層体を積層し、露光、および必要に応じて現像を行い、光硬化した感光性フィルムを硬化させることにより蓋部を形成し、中空構造体することができる。感光性フィルム積層体を用いて蓋部を形成する際は、必ずしも現像工程を経る必要はないが、例えば、複数の中空構造デバイスを同時に一括で製造する際に、中空デバイスの蓋部に相当する大きさだけをマスクを通して露光した後、その周辺の未露光部分を現像することによって、個片に分割することができる。
【0075】
感光性フィルム積層体の積層、露光、現像および硬化は、上述した壁部の形成と同様に行うことができる。ここで、壁部と蓋部を形成する積層体の積層時の接着は、熱圧着により行うことができる。熱圧着方法としては、例えば、熱プレス処理、ロールラミネート処理、真空ロールラミネート、真空プレス処理、ダイヤフラム式真空ラミネートなどが挙げられるが、なかでもロールラミネート処理が好ましい。熱圧着温度は、被着体への密着性、埋め込み性の観点から20℃以上が好ましい。また、熱圧着時に、感光性樹脂成分の硬化が進み、露光、現像におけるパターン形成の解像度が悪化することを防ぐ観点から、熱圧着温度は150℃以下が好ましい。すなわち、熱圧着温度は、基板への密着性、埋め込み性の点、および熱圧着時での感光性組成物の硬化が進まずに良好な解像性を維持する観点から20~150℃であることが好ましく、35~100℃であることがより好ましく、40~85℃であることがさらに好ましい。また、ラミネート圧は0.005~10MPaであることが好ましく、より好ましくは0.005~3MPaである。
【0076】
感光性フィルム積層体を構成する支持フィルムは、露光前に剥離してもよいし、露光後に剥離してもよいし、感光性フィルムの硬化後に剥離してもよいが、蓋部となる感光性フィルムの硬化物を壁部のみで支える状態となることより、安定性の観点から露光後の剥離や硬化後の剥離が好ましい。また、露光前に、支持フィルムを剥離して、または、剥離せずに、オーブンまたはホットプレートを用いて、40~150℃の温度で5秒~60分の加熱処理を施してもよい。また、露光後に、支持フィルムを剥離して、または、剥離せずに、オーブンまたはホットプレートを用いて、40~150℃の温度で5秒~60分の加熱処理を施してもよい。さらに現像や硬化については、壁部および蓋部一括で行ってもよい。蓋部を形成する硬化膜の引張弾性率は、2.0GPa以上であることが好ましい。
【0077】
蓋部を形成するための感光性フィルムの膜厚は1~3,000μmが好ましく、5~1,000μmがより好ましく、10~500μmがさらに好ましく、20~200μmが特に好ましく、20~100μmが最も好ましい。硬化工程を経て形成される蓋部の最終的な膜厚は、10μm~3,000μmが好ましい。蓋部の厚さが、10μm以上であれば、中空構造の形状を維持しやすく、モールド時の高温高圧条件下でも大きな変形が起こりにくい。また、3,000μm以下の厚さであれば、露光時の感光性フィルムの光透過性が阻害されにくい。なお、感光性フィルムを重ね合わせる積層工程を繰り返すことで、蓋部の厚みを増してもよい。
【0078】
なお、本発明においては、壁部は本発明の感光性フィルム積層体を用いないで形成し、蓋部のみを本発明の感光性フィルム積層体を用いて形成することもできるが、壁部のパターンおよび蓋部の双方が本発明の感光性フィルム積層体を用いると、両者間の接着性がより優れるとともに、中空構造の近接部におけるめっき等の剥がれを抑制することができる。
【0079】
本発明によれば、SAWフィルタ等の中空構造を有する電子部品において、壁部や蓋部を本発明の感光性フィルム積層体を用いて形成することにより、中空構造の近接部におけるめっき等の剥がれを抑制することができる。また、中空構造内は壁部および蓋部によって防湿され、かつ、高温においても中空構造が保持されるため、SAWフィルタ、CMOS・CCDセンサー、MEMS等の中空構造を必要とする電子部品に適用可能であり、電子部品の小型化、低背化、高機能化に有用である。本発明の感光性フィルム積層体は、特にSAWフィルタの中空構造の壁部または蓋部形成用として適しており、中空構造の近接部におけるめっき等の剥がれを抑制した信頼性の高い電子部品が得られるという点で特に適している。 また、本発明はソルダーレジストやめっきレジスト、エッチングレジスト、層間絶縁材等のプリント配線板用途としても用いてもよい。
【0080】
<SAWフィルタおよびその製造方法>
本発明の感光性フィルム積層体を用いて、壁部および蓋部を有する中空構造体を形成する方法について説明したが、中空構造を有する電子部品の一例として、表面弾性波(SAW)フィルタおよびその製造方法について、以下説明する。
【0081】
まず、櫛型電極が形成された基板上に、本発明の感光性フィルム積層体から保護フィルムを剥離して感光性フィルム面を積層する。感光性フィルム積層体の積層は、上述した壁部の形成方法で記載した方法と同様の方法を用いることができる。
【0082】
次に、感光性フィルム積層体を積層した後、必要に応じて所望のパターンを有するネガマスクを介して感光性フィルムの所定部分に光照射し、露光部を光硬化する。露光は、上述した壁部の形成方法で記載した方法と同様の方法を用いることができる。
【0083】
続いて、感光性フィルムの露光部以外の箇所、すなわち、未露光部を現像液を用いて除去することにより所望パターンを形成した後、感光性フィルムの露光部を光ないし熱により硬化させ、硬化物からなる壁部を形成する。なお、露光、現像、硬化の各工程は、上述した壁部の形成方法と同様の方法を用いることができる。
【0084】
なお、後述するように本発明の感光性フィルム積層体をSAWフィルタの中空構造の蓋部の形成に用いる場合は、壁部は本発明の感光性フィルム積層体を用いる方法以外の方法で形成されていてもよい。
【0085】
上記のようにして形成した壁部の上端に、蓋部を設けて中空構造を形成する。ここで、蓋部は、本発明の感光性フィルム積層体から保護フィルムを剥離し、感光性フィルム面を、壁部の上端に貼り付けてから、露光、現像、硬化して蓋部を形成することができる。蓋部と壁部との接着は、例えば、ロールラミネーターを用いた熱圧着による接着等により行うことができる。
【0086】
なお、蓋部は、本発明の感光性フィルム積層体以外の材料、例えば、公知の永久レジストやセラミック等の封止用基板等で構成されたものであってもよい。ただし、蓋部は、耐湿熱性に優れ、且つ、吸水率の低い材料で構成されていることが好ましい。この場合は少なくとも、本発明の感光性フィルム積層体を用いて形成された壁部を、SAWフィルタの中空構造形成用の壁部として用いる。
【0087】
上記のようにして壁部および蓋部の形成を行った後、電極と基板の内部および電極の反対側表面に配線されている導体との電気的接続を行うために、めっきの形成および金属ボールの搭載等が行われてもよい。
【0088】
壁部の形成時において、壁部内部には内部導体を形成するための穴が露光、現像により形成されていてもよい。その後、支持フィルム上に積層された感光性フィルムを前記壁部に積層して、マスクを介して露光を行う。マスクは、内部導体を形成するための穴の径に相当する部分のみ光が透過しないように遮蔽されているため、それ以外の箇所が光硬化した蓋部を形成する。蓋部の未露光部分は、先に形成された壁部内部の穴と完全に貫通させるために、現像を行った後、デスミア処理等を行うことにより、パターニングを行う。また、蓋部のパターニングはレーザーを用いてもよい。レーザーとしては、YAGレーザー、炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー等の公知のものを使用することができる。露光またはレーザー照射は、壁部の厚さ、壁部の内部に形成される内部導体の形状および蓋部表面配線パターンの形状に応じて、適宜選択して使用することができる。
【0089】
さらに、めっき法等によって、壁部および蓋部の内部に形成された穴に内部導体を形成すると共に、蓋部の表面に配線を形成する。本発明においては、壁部および蓋部の内部に形成された穴には、めっき法だけではなく、金属ペーストや金属粉体を含有する樹脂ペーストを用いて導体充填法によって内部導体を形成することもできる。これらの工程を経て、基板上の櫛型電極に配線されている導体は、蓋部の表面に形成された配線用導体と電気的な接続が行われる。最後に、蓋部の表面にリフロー等によって金属ボールを搭載して、中空構造を有する電子部品であるSAWフィルタを得ることができる。
【0090】
さらに、SAWフィルタは、封止材により封止されてもよい。封止材で封止される場合は一般的に以下の工程で行うが、これに限定されるものではない。 まず、SAWフィルタを成形金型にセットする。次いで、成形機のポットに固形状の封止材タブレットをセットする。 さらに、金型温度150~180℃の条件で封止材を溶融し、圧力をかけて金型に流し込む(モールド)。最後に30~120秒間加圧して封止材が熱硬化後に金型を開き、成形品を取り出すことで、SAWフィルタの封止が完了する。
【0091】
通常、封止材による封止は、金属ボールが搭載される前に行われ、封止後に、基板の封止された面を反対面に金属ボールがリフローによって搭載される。しかし、金属ボールが搭載された後に、封止材による封止が行われてもよい。封止材で封止されたSAWフィルタは、1個のみならず複数個製造することもできる。この場合は、一つの基板上に形成した複数個のSAWフィルタを封止材で封止後、個片に切断することによって得ることができる。具体的には、まず、一つの基板に多数個のSAWフィルタを作製して、本発明の感光性フィルム積層体等を用いて壁部および蓋部を形成する。その後、封止材で一括に封止して、切断等の方法によって個片に分けてSAWフィルタを得ることができる。
【0092】
以上のように、SAWフィルタの製造工程において、本発明の感光性フィルム積層体を用い壁部および蓋部を有する中空構造を形成できる。本発明の感光性フィルム積層体は、上述したように、経時的な表面形態の変化が特定の範囲内であるため、中空構造の近接部のめっき等の剥がれが抑制されたSAWフィルタを実現することができる。また、中空構造内は、本発明の感光性フィルム積層体を用いて形成された壁部および蓋部により周囲と隔離されて防湿できるため、アルミ電極の腐食を抑制することができる。また、感光性フィルムの硬化物は高温で高い弾性率を有するため、封止樹脂モールド時の温度と圧力においても中空構造を維持することができるという利点がある。
【実施例
【0093】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」および「%」とあるのは、相対湿度に関する%を除き、特に断りのない限り全て質量基準である。また、下記の実施例における作業は、室温(23℃)、相対湿度42%、イエローランプ下にて行った。
【0094】
<合成例1>
<カルボキシル基含有樹脂の合成>
攪拌装置、還流管をつけた2Lフラスコ中に、分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物として、2官能ビスフェノール-A型エポキシ樹脂(日本化薬社製RE-310S、エポキシ当量:183.5g/当量)を367.0部、エチレン性不飽和基を有するモノカルボン酸化合物としてアクリル酸(分子量:72.06)を144.1部、熱重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテルを1.02部、および反応触媒としてトリフェニルフォスフィンを1.53部仕込み、98℃の温度で反応液の酸価が0.5mgKOH/g以下になるまで反応させ、エポキシカルボキシレート化合物(理論分子量:511.1)を得た。
次いで、この反応液に、反応用溶媒としてカルビトールアセテートを445.93部、熱重合禁止剤として2-メチルハイドロキノンを0.70部、カルボキシル基を有するジオール化合物としてジメチロールプロピオン酸(分子量:134.1)を118.8部加え、60℃に昇温させた。この溶液に、ジイソシアネート化合物としてイソホロンジイソシアネート(分子量:222.29)209.6部を反応温度が65℃を超えないように徐々に滴下した。滴下終了後、温度を80℃に上昇させ、赤外吸収スペクトル測定法により、2250cm-1付近の吸収がなくなるまで6時間反応させた。この溶液に、多塩基酸無水物として無水コハク酸(分子量:100.1)36.7部、カルビトールアセテート43.0部を添加した。添加後、温度を95℃に昇温し、6時間反応させて、重量平均分子量が10,000のカルボキシル基含有ポリエステルウレタン樹脂65重量%を含むカルボキシル基含有感光性樹脂ワニス1を得た。酸価を測定したところ、66.61mgKOH/g(固形分酸価:102.5mgKOH/g)であった。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法(ポリスチレン標準)により定法に従って測定した。
【0095】
<合成例2>
<カルボキシル基含有樹脂の合成>
温度計、窒素導入装置兼アルキレンオキサイド導入装置および撹拌装置を備えたオートクレーブに、ノボラック型クレゾール樹脂(アイカ工業株式会社製ショーノールCRG951、OH当量:119.4)119.4gと、水酸化カリウム1.19gとトルエン119.4gとを仕込み、撹拌しつつ系内を窒素置換し、加熱昇温した。次に、プロピレンオキサイド63.8gを徐々に滴下し、125~132℃、0~4.8kg/cmで16時間反応させた。その後、室温まで冷却し、この反応溶液に89%リン酸1.56gを添加混合して水酸化カリウムを中和し、不揮発分62.1%、水酸基価が182.2g/eq.であるノボラック型クレゾール樹脂のプロピレンオキサイド反応溶液を得た。得られたノボラック型クレゾール樹脂は、フェノール性水酸基1当量当りアルキレンオキサイドが平均1.08モル付加しているものであった。
得られたノボラック型クレゾール樹脂のアルキレンオキサイド反応溶液293.0gと、アクリル酸43.2gと、メタンスルホン酸11.53gと、メチルハイドロキノン0.18gとトルエン252.9gとを、撹拌機、温度計および空気吹き込み管を備えた反応器に仕込み、空気を10ml/分の速度で吹き込み、撹拌しながら、110℃で12時間反応させた。反応により生成した水は、トルエンとの共沸混合物として、12.6gの水が留出した。その後、室温まで冷却し、得られた反応溶液を15%水酸化ナトリウム水溶液35.35gで中和し、次いで水洗した。その後、エバポレーターにてトルエンをジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート118.1gで置換しつつ留去し、ノボラック型アクリレート樹脂溶液を得た。次に、得られたノボラック型アクリレート樹脂溶液332.5gおよびトリフェニルフォスフィン1.22gを、撹拌器、温度計および空気吹き込み管を備えた反応器に仕込み、空気を10ml/分の速度で吹き込み、撹拌しながら、テトラヒドロフタル酸無水物62.3gを徐々に加え、95~101℃で6時間反応させて、酸価88mgKOH/gの、不揮発分71%としてカルボキシル基含有感光性樹脂ワニス2を得た。
【0096】
<合成例3>
<カルボキシル基含有樹脂の合成>
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製、EOCN-104S、エポキシ当量220g/eq)220部(1当量)、カルビトールアセテート140.1部、およびソルベントナフサ60.3部をフラスコに仕込み、90℃に加熱・攪拌し、溶解した。
得られた溶液を一旦60℃まで冷却し、アクリル酸72部(1モル)、メチルハイドロキノン0.5部、トリフェニルフォスフィン2部を加え、100℃に加熱し、約12時間反応させ、酸価が0.2mgKOH/gの反応物を得た。これにテトラヒドロ無水フタル酸80.6部(0.53モル)を加え、90℃に加熱し、約6時間反応させ、固形分の酸価85mgKOH/g、固形分64.9%のカルボキシル基含有感光性樹脂ワニス3を得た。
【0097】
<合成例4>
<カルボキシル基含有樹脂の合成>
フェノールノボラック型エポキシ樹脂のEPPN-201(日本化薬株式会社製、エポキシ当量=190)190部を撹拌機及び還流冷却器の付いた四つ口フラスコに入れ、カルビトールアセテート184部を加え、加熱溶解した。次に、重合禁止剤としてメチルハイドロキノン0.46部と、反応触媒としてトリフェニルフォスフィン1.38部を加えた。この混合物を95~105℃に加熱し、アクリル酸72部(1当量)を徐々に滴下し、16時間反応させた。得られた反応生成物(水酸基:1当量)を、80~90℃まで冷却し、こはく酸無水物50部(0.5当量)を加え、8時間反応させ、冷却後、取り出した。このようにして、不揮発分65%、固形物の酸価89mgKOH/g、固形分65.0%のカルボキシル基含有感光性樹脂ワニス4を得た。
【0098】
<感光性組成物の調製>
下記表1に示す内容および割合(質量部)にて配合し、各成分が均一となるよう混練して、感光性組成物1~4を調製した。なお、表1中の*1~*22は、以下の成分を表す。
*1 メチル化メラミン樹脂、株式会社三和ケミカル製
*2 フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、大阪ガスケミカル株式会社製
*3 ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製)
*4 ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製)
*5 フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製)
*6 ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC株式会社製)
*7 合成例1(配合量は固形分量)
*8 合成例2(配合量は固形分量)
*9 合成例3(配合量は固形分量)
*10 合成例4(配合量は固形分量)
*11 アミドイミド構造を有するアルカリ可用性感光性樹脂(固形分20%、ニッポン高度紙工業株式会社製)
*12 ジペンタエリスリトールのアクリレート、共栄社化学株式会社製
*13 ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールのアクリレート、共栄社化学株式会社製
*14 トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、新中村化学工業株式会社製
*15 オキシムエステル系光重合開始剤(エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム))、BASFジャパン株式会社製
*16 ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド(IGM Resins社製)
*17 2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製)
*18 球状シリカ、株式会社アドマテックス製
*19 平均粒径100nmの球状シリカ粒子
*20 C.I.Pigment Blue 15:3
*21 C.I.Pigment Yellow 147
*22 Paliogen Red K3580(BASFジャパン社製)
【0099】
【表1】
【0100】
<保護フィルムの作製>
作製例1
重量平均分子量(Mw)3.0×10、分子量分布(Mw/Mn)5.0、アイソタクチック成分分率が95.0%であるポリプロピレン樹脂ペレットを押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイにより押出し、表面温度を150℃に保持した金属ドラムに巻きつけて製膜し、厚さ約225μmのキャスト原反シートを作製した。続いてこの未延伸キャスト原反シートを120℃の温度で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、次いでテンターにて160℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ12μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム1を得た。この二軸延伸ポリプロピレンフィルム1を保護フィルム1とする。
【0101】
作製例2
重量平均分子量(Mw)3.1×10、分子量分布(Mw/Mn)5.5、アイソタクチック成分分率が93.0%であるポリプロピレン樹脂ペレットを、を押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイにより押出し、表面温度を150℃に保持した金属ドラムに巻きつけて製膜し、厚さ約225μmのキャスト原反シートを作製した。続いてこの未延伸キャスト原反シートを200℃の温度で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、次いでテンターにて160℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ15μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム2を得た。この二軸延伸ポリプロピレンフィルム2を保護フィルム2とする。
【0102】
作製例3
重量平均分子量(Mw)3.0×10、分子量分布(Mw/Mn)5.0、アイソタクチック成分分率が95.0%であるポリプロピレン樹脂ペレットを押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイにより押出し、表面温度を100℃に保持した金属ドラムに巻きつけて製膜し、厚さ約225μmのキャスト原反シートを作製した。続いてこの未延伸キャスト原反シートを120℃の温度で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、次いでテンターにて160℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ12μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム3を得た。この二軸延伸ポリプロピレンフィルム3を保護フィルム3とする。
【0103】
<支持フィルム>
支持フィルム1として、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラーT60)を用いた。
【0104】
<感光性フィルム積層体の作製>
実施例1
上記のようにして得られた保護フィルム1の算術平均表面粗さRa´および最大高さRy´の測定を、以下のようにして測定したところ、Ra´は0.18μmであり、最大高さRy´は1.28μmであった。
【0105】
算術平均表面粗さRa´およびRy´の測定には、形状測定レーザーマイクロスコープ(株式会社キーエンス製VK-X100)を使用した。形状測定レーザーマイクロスコープ(同VK-X100)本体(制御部)および、VK観察アプリケーション(株式会社キーエンス製VK-H1VX)を起動させた後、x-yステージ上に測定する保護フィルム(感光性フィルムと接する方の面を上部とする)を乗せた。顕微鏡部(株式会社キーエンス製VK-X110)のレンズレボルバーを回して倍率10倍の対物レンズを選択し、VK観察アプリケーション(同VK-H1VX)の画像観察モードで、大まかにピント、明るさを調節した。x-yステージを操作して、試料表面の測定したい部分が、画面の中心に来るように調節した。倍率10倍の対物レンズを倍率50倍に替え、VK観察アプリケーション(同VK-H1VX)の画像観察モードのオートフォーカス機能で、試料の表面にピントを合わせた。VK観察アプリケーション(同VK-H1VX)の形状測定タブの簡単モードを選択し、測定開始ボタンを押して、試料の表面形状の測定を行い、表面画像ファイルを得た。VK解析アプリケーション(株式会社キーエンス製VK-H1XA)を起動して、得られた表面画像ファイルを表示させた後、傾き補正を行った。
【0106】
なお、試料の表面形状の測定における観察測定範囲(横)は270μmとした。線粗さウインドウを表示させ、パラメータ設定領域で、JIS B0601-1994を選択した後、測定ラインボタンから水平線を選択し、表面画像内の任意の場所に水平線を表示させ、OKボタンを押すことによって、算術平均表面粗さRa´および最大高さRy´の数値を得た。更に表面画像内の異なる4か所で水平線を表示させ、それぞれの算術平均表面粗さRa´および最大高さRy´の数値を得た。得られた5つの数値の平均値をそれぞれ算出し、試料表面の算術平均表面粗さRa´値および最大高さRy´値とした。なお、測定は、室温(23℃)、相対湿度42%の環境下で行った。
【0107】
続いて、上記のようにして得られた700部の感光性組成物1に対し、メチルエチルケトンを300部の割合で加えて希釈し、攪拌機で15分間撹拌して塗工液を得た。この塗工液を、支持フィルム1上にスリットダイコーターを用いて均一に塗布し、80℃の温度で15分間乾燥し、乾燥後の厚み25μmの感光性フィルム1を作製した。次いで、感光性フィルム1上に、保護フィルム1を、前記保護フィルム1の算術平均表面粗さRa´および最大高さRy´の測定面が前記感光性フィルム1表面と接するようにロールラミネーターにて貼り合わせて、支持フィルム/感光性フィルム/保護フィルムの3層からなる感光性フィルム積層体1(感光性フィルムの厚さが25μm)を作製した。なお、前記ロールラミネーターによるラミネート条件としては、ロール温度40~60℃、ロール圧0.2~0.4MPaの範囲で適宜調整した。
【0108】
<試験基板の作製>
上記のようにして得られた感光性フィルム積層体1を用いて試験基板を作製した。試験基板の作製手順を、図面を参照しながら説明する。
まず、感光性フィルム積層体1から保護フィルムを、他の2層(支持フィルム/感光性フィルム)に対して90°の角度、かつ2.5秒/cmの速度で剥離して感光性フィルムを露出させ、準備したシリコンウェハの表面に、感光性フィルムの露出面を貼り合わせ、ロールラミネーターを用いて加熱ラミネートを行い、シリコンウェハと感光性フィルムとを密着させた。なお、前記ロールラミネーターによるラミネート条件としては、ロール温度60℃、ロール圧0.25MPaであった。
【0109】
次に、感光性フィルムに接する支持フィルム上から、
(i)格子サイズ150μm角および50μm角の開口パターンを有するネガマスク(図1参照)、または
(ii)格子サイズ150μm角および100μm角の開口パターンを有するネガマスク(図示せず)
を介して各実施例および各比較例についてメタルハライドランプにより表2に記載するパターン開口および露光量の組合せで感光性フィルムを露光した後、支持フィルムを剥離して感光性フィルムを露出させた。
【0110】
その後、露出した感光性フィルムの露出表面に対し、実施例1~3および比較例1~2についてはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)に23℃で1分間の浸漬を行い、また実施例4については1wt%NaCO水溶液、30℃、2MPa、60秒現像を、実施例5については1wt%NaCO水溶液、30℃、2MPa、300秒現像をそれぞれ行った。現像後の各試験基板はいずれも現像液が残存しないよう水洗を十分に行った。なお、1wt%NaCO水溶液のpHを確認したところ、11.6であった。
【0111】
続いて、各試験基板を120℃で30分加熱して感光性フィルムを硬化させて、格子状に150μm角に開口した周囲に、
(i)中心に50μm角のパターン開口を有する幅150μmの壁部に相当する硬化膜パターン(図2参照)、または
(ii)中心に100μm角のパターン開口を有する幅300μmの壁部に相当する硬化パターン(図示せず)
を得た。
【0112】
さらに、感光性フィルム積層体1から保護フィルムを剥離して感光性フィルムを露出させ、上記で得られた壁部に相当する硬化膜パターン上に、感光性フィルムの露出面を貼り合わせ、加熱ラミネートを行った。なお、ラミネートは、感光性フィルム上に1.0kgのおもりで加重しながら80℃で5分の加熱により行った。
【0113】
次に、壁部に相当する硬化膜パターン上に貼り合わせた感光性フィルム積層体の支持フィルム側から、
(i)格子サイズ50μm角の開口パターンを有するネガマスク(図3参照)、または
(ii)格子サイズ100μm角の開口パターンを有するネガマスク(図示せず)
を介して各実施例および各比較例についてメタルハライドランプにより表2に記載するパターン開口および露光量の組合せで感光性フィルムを露光した後、支持フィルムを剥離して感光性フィルムを露出させた。なお、貼り合わせた感光性フィルム積層体を介して、
(i)壁部の50μm角のパターン開口とネガマスクの格子サイズ50μm角のパターン開口とが重なるようにして(図3参照)、または
(ii)壁部の100μm角のパターン開口と、ネガマスクの格子サイズ100μm角のパターン開口とが重なるようにして(図示せず)、
露光を行った。その後、露出した感光性フィルムの露出表面に対し、実施例1~3および比較例1~2についてはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)に23℃で1分間の浸漬を行い、また実施例4については1wt%NaCO水溶液、30℃、2MPa、60秒現像を、実施例5については1wt%NaCO水溶液、30℃、2MPa、300秒現像をそれぞれ行った。現像後の各試験基板はいずれも現像液が残存しないよう水洗を十分に行った。
【0114】
続いて、各試験基板を200℃で60分加熱して感光性フィルムを硬化させて、蓋部に相当する硬化膜パターンを形成することにより、壁部および蓋部からなる中空構造を有する試験基板を作製した。得られた試験基板は、内部に櫛型電極は無いが、壁部の上端が蓋部で覆われており、当該蓋部および壁部の接合部には、
(i)50μm角のパターン開口(図4参照)、または
(ii)100μm角のパターン開口(図示せず)
が形成された中空構造を有するものであった。
【0115】
実施例2
実施例1において、感光性組成物1に代えて感光性組成物2を使用し、且つ保護フィルム1に代えて保護フィルム2を使用した以外は、実施例1と同様にして試験基板を作製した。なお、保護フィルム2の算術平均表面粗さRa´および最大高さRy´の測定を、上記と同様にして測定したところ、Ra´は0.46μm、最大高さRy´は1.37μmであった。なお、保護フィルム2はロール状であり、その巻き取り内側面を測定した。
【0116】
実施例3
実施例1において、保護フィルム1に代えて保護フィルム2を使用した以外は、実施例1と同様にして試験基板を作製した。
【0117】
実施例4
実施例2において、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)による現像に代えて1wt%NaCO水溶液、30℃、2MPa、60秒現像を行った以外は、実施例2と同様にして試験基板を作製した。
【0118】
実施例5
実施例4において、感光性組成物2に代えて感光性組成物3を使用し、且つ1wt%NaCO水溶液、30℃、2MPa、300秒現像を行った以外は、実施例4と同様にして試験基板を作製した。
【0119】
比較例1
実施例2において、感光性組成物2に代えて感光性組成物4を使用した以外は、実施例2と同様にして試験基板を作製した。
【0120】
比較例2
実施例1において、保護フィルム1に代えて保護フィルム3を使用した以外は、実施例1と同様にして試験基板を作製した。なお、保護フィルム3の算術平均表面粗さRa´および最大高さRy´の測定を、上記と同様にして測定したところ、Ra´は0.07μm、最大高さRy´は0.98μmであった。なお、保護フィルム3はロール状であり、その巻き取り内側面を測定した。
【0121】
<算術平均表面粗さRaおよび最大高さRyの測定>
実施例1~5および比較例1~2に用いられた各感光性フィルム積層体(35mm×20mm)を、清浄なガラス基板(76mm×26mm×1.1mmt)表面に、ガラス基板と感光性フィルムの支持フィルム側とが接するように両面テープ(KZ-12、株式会社ニトムズ製)を用いて貼り合わせ、ガラス基板と感光性フィルム積層体とを密着させた。
その後、感光性フィルム積層体の保護フィルムを、ガラス基板に対して90°の角度、かつ2.5秒/cmの速度で剥離して感光性フィルムを露出させた。保護フィルム剥離直後(1分経過後)の露出した感光性フィルム表面の算術平均表面粗さRa1および最大高さRy1を前記保護フィルム剥離直後から5分以内に測定した。Ra1およびRy1の測定は以下のようにして行った。
【0122】
露出した感光性フィルム表面の「算術平均表面粗さRa」は、保護フィルム表面の算術平均表面粗さRa´の測定と同じ装置を用い、試料を保護フィルムに代えて、露出した感光性フィルムを貼り合せた基板(露出した感光性フィルム表面を上部とする)とした以外は上記と同様にして測定を行った。また、露出した感光性フィルム表面の「最大高さRy」も、支持フィルム表面の最大高さRy´の測定と同じ装置を用い、試料を保護フィルムに代えて、露出した感光性フィルムを貼り合せた基板(露出した感光性フィルム表面を上部とする)とした以外は上記と同様にして測定を行った。測定した各感光性フィルム表面の「算術平均表面粗さRa1」および「最大高さRy1」は、表2に示されるとおりであった。
【0123】
また、各測定試料を、前記保護フィルム剥離により感光性フィルム表面を露出させた状態のままで、測定環境下(室温(23℃)、相対湿度42%)に、イエローランプ下で180分間放置した後、上記と同様にして、露出した感光性フィルム表面の算術平均表面粗さRaおよび最大高さRyを測定した。測定した各感光性フィルム表面の「算術平均表面粗さRa2」および「最大高さRy2」は、表2に示されるとおりであった。
【0124】
<めっき密着性評価>
上記のようにして作製した実施例1~5および比較例1~2の各試験基板に対し無電解銅めっきを行った。めっき条件は以下のとおりとした。
・無電解銅めっき液:メルプレート CU-390(メルテックス株式会社製)
・めっき液温度:80℃
・めっき時間:1時間
・めっき膜厚:2.0μm
・pH:13.0(室温)
めっき処理後、無電解めっき膜が形成された各試験基板を室温の純水で5分間水洗した後、80℃で乾燥した。得られた各試験基板の壁部と無電解めっき膜との境界の断面部分を光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察した。評価基準は以下のとおりとした。
◎:隙間が発生せず、密着に問題無し
○:隙間が若干発生しているが、密着に問題無し
×:隙間が発生し、密着に問題有り
評価結果は、下記の表2に示されるとおりであった。
【0125】
【表2】
【0126】
表2の結果からも明らかなように、感光性フィルム表面の算術平均表面粗さをRa1が0.1μm以上であり、かつRa2/Ra1が0.40以上1.00未満である感光性フィルム積層体を用いて中空構造を形成した試験基板1~5(実施例1~5)は、壁部および蓋部のめっきとの密着性が高く、高品質な中空構造を有する電子部品が得られることがわかる。
一方、感光性フィルム表面の算術平均表面粗さRa1が0.1μm未満である感光性フィルム積層体を用いて中空構造を形成した試験基板7(比較例2)は、Ra2/Ra1が0.40以上1.00未満であっても、壁部および蓋部のめっきとの密着性が不十分であることがわかる。
また、感光性フィルム表面の算術平均表面粗さRa1が0.1μm以上であっても、Ra2/Ra1が0.40以上1.00未満の範囲にない感光性フィルム積層体を用いて中空構造を形成した試験基板6(比較例1)も、壁部および蓋部のめっきとの密着性が不十分であることがわかる。
図1
図2
図3
図4