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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】量子ドット発光素子及び表示装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/115 20230101AFI20240703BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20240703BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20240703BHJP
   C09K 11/56 20060101ALI20240703BHJP
   C09K 11/70 20060101ALI20240703BHJP
   C07D 401/14 20060101ALI20240703BHJP
   H10K 50/12 20230101ALI20240703BHJP
   H10K 59/00 20230101ALI20240703BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240703BHJP
【FI】
H10K50/115
H05B33/14 Z
C09K11/88
C09K11/56
C09K11/70
C07D401/14
H10K50/12
H10K59/00
H10K85/60
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020170127
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2021093520
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019223805
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有希子
(72)【発明者】
【氏名】本村 玄一
(72)【発明者】
【氏名】都築 俊満
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-119831(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109705667(CN,A)
【文献】国際公開第2019/069780(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/057968(WO,A1)
【文献】特開2016-197601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 99/00
H05B 33/00 - 33/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、発光層と、陽極と、を具え、前記発光層が、前記陰極と前記陽極との間に位置する量子ドット発光素子であって、
前記発光層が、量子ドットと、下記構造式(1-2)
【化1】
で示される化合物と、を含有し、
前記発光層は、前記量子ドットと、上記構造式(1-2)で示される化合物とを一括で成膜した混合層であることを特徴とする、量子ドット発光素子。
【請求項2】
前記量子ドットが、半導体結晶の微粒子であるコアと、前記コアの表面を被覆するシェルと、前記シェルの表面に形成されたリガンドと、を具え、
前記コアが、CdSe、CdS、InP、ZnSe、ZnTe、又はZnSeTeを含む、請求項に記載の量子ドット発光素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット発光素子及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置に用いる発光素子として、高色純度発光のものが求められている。例えば、超高精細度テレビジョン(UHDTV)においては、赤・緑・青の三原色がスペクトル軌跡上に位置した広色域表色系を用いることが、ITU-R勧告BT.2020に規定されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、半導体ナノ結晶からなる量子ドットを発光材料として用いた電界発光素子(量子ドット発光素子)が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献2参照)。量子ドットは、結晶粒径を変えることにより発光色を制御でき、粒径分布を均一にすることにより発光スペクトルの半値幅(FWHM)を小さくできる。量子ドットは、FWHMが小さい利点を生かして、表示装置用の色純度の高い発光材料として利用できる可能性がある。
【0004】
量子ドットを発光素子に応用する研究開発として、FWHMが30nm以下、外部量子効率で約15%を実現した例がある(例えば、非特許文献3参照)。また、InPやCuInZnSを主成分として用いた量子ドットを、発光素子の発光材料として用いることが報告されている(例えば、非特許文献4、5参照)。
【0005】
一方、発光素子に用いられる電子輸送材料は、これまでにも多数報告されており、例えば、下記に示すTmPyPBやTPBi等が一般的に用いられる。
【化1】
【0006】
また、リン光を利用する有機EL素子に適した電子輸送材料として、高い三重項エネルギー及び深い最低非占有分子軌道(LUMO)レベルを有する電子輸送材料が報告されている(例えば、非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4948747号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Recommendation ITU-R BT.2020-2(2015)
【文献】シラサキら(Y.Shirasaki et.al),ネイチャー・フォトニクス(Nature Photonics),7,13(2013)
【文献】Y.ヤンら(Y.Yang et al.),ネイチャー・フォトニクス(Nature Photonics),9,259(2015)
【文献】J.リムら(J.Lim et al.),ケミストリー・オブ・マテリアルズ(CHEMISTRY OF MATERIALS),23,4459(2011)
【文献】Z.リウら(Z.Liu et al.),オーガニック・エレクトロニクス(Organic Electronics),36,97(2016)
【文献】S.Suら(S.Su et al.),アドバンスト・マテリアルズ(Advanced Materials),22,3311(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、量子ドットを発光素子に応用する研究開発が進められているが、従来の量子ドットを用いた発光素子においては、発光性能に改善の余地があり、特には、駆動電圧を低くし、発光効率を向上させることが要求されている。
【0010】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、駆動電圧が低く、高い発光効率を示す量子ドット発光素子を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる量子ドット発光素子を具え、発光特性に優れた表示装置を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、量子ドット発光素子の発光層に、量子ドットと共に、1,3,5-トリアジン骨格を有する下記一般式(1)で示される化合物を含有させることで、高い発光効率を確保しつつ、低い駆動電圧を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0012】
本発明の量子ドット発光素子は、陰極と、発光層と、陽極と、を具え、前記発光層が、前記陰極と前記陽極との間に位置する量子ドット発光素子であって、
前記発光層が、量子ドットと、下記一般式(1):
【化2】
[一般式(1)中のR1は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、炭素数5~30の芳香族炭化水素基、及び、炭素数3~30の芳香族複素環基からなる群から選択される置換基、或いは、該置換基が複数連結した基であり、該置換基中の水素原子は他の置換基で更に置換されていても、未置換でもよく、隣り合う置換基は一体となって環を形成していてもよい。]で示される化合物と、を含有することを特徴とする。
かかる本発明の量子ドット発光素子は、駆動電圧が低く、高い発光効率を示す。
【0013】
本発明の量子ドット発光素子の好適例においては、前記一般式(1)で示される化合物が、下記一般式(2):
【化3】
[一般式(2)中のR2は、それぞれ独立に、炭素数5~30の二価の芳香族炭素環、及び、炭素数3~30の二価の芳香族複素環からなる群から選択される環構造であり、R3は、それぞれ独立に、炭素数5~30の一価の芳香族炭素環、及び、炭素数3~30の一価の芳香族複素環からなる群から選択される環構造であり、前記環構造中の水素原子は他の置換基で更に置換されていても、未置換でもよく、隣り合う環構造は一体となって更に環を形成していてもよく、nは、それぞれ独立に0~3の整数である。]で示される化合物ある。一般式(2)で示される化合物は、量子ドットへの電子注入に適したLUMOレベル、及び、量子ドットからの正孔ブロックに適したHOMOレベルを有するため、量子ドット発光素子の駆動電圧を更に低くしつつ、発光効率を向上させることができ、また、一般式(2)で示される化合物は、有機溶媒への溶解性にも優れる。
【0014】
本発明の量子ドット発光素子の他の好適例においては、前記一般式(1)で示される化合物が、下記構造式(1-1)又は構造式(1-2):
【化4】
で示される化合物である。構造式(1-1)又は構造式(1-2)で示される化合物は、電子移動度が高く、量子ドットへの電子注入に適したLUMOレベル、及び、量子ドットからの正孔ブロックに適したHOMOレベルを有するため、量子ドット発光素子の駆動電圧を更に低くしつつ、発光効率を更に向上させることができる。
【0015】
本発明の量子ドット発光素子の他の好適例においては、前記量子ドットが、半導体結晶の微粒子であるコアと、前記コアの表面を被覆するシェルと、前記シェルの表面に形成されたリガンドと、を具え、
前記コアが、CdSe、CdS、InP、ZnSe、ZnTe、又はZnSeTeを含む。この場合、量子ドット発光素子の駆動電圧を更に低くしつつ、発光効率を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の表示装置は、上記の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。かかる本発明の表示装置は、発光特性に優れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、駆動電圧が低く、高い発光効率を示す量子ドット発光素子を提供することができる。
また、本発明によれば、かかる量子ドット発光素子を具え、発光特性に優れた表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の量子ドット発光素子の一例を説明するための断面模式図である。
図2】量子ドットの構造の一例を示した模式図である。
図3】実施例1、実施例2、比較例1の量子ドット発光素子における印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図4】実施例1、実施例2、比較例1の量子ドット発光素子における電流密度と電力効率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の量子ドット発光素子及び表示装置を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0020】
<<量子ドット発光素子>>
本発明の量子ドット発光素子は、陰極と、発光層と、陽極と、を具え、前記発光層が、前記陰極と前記陽極との間に位置する量子ドット発光素子であって、前記発光層が、量子ドットと、上記一般式(1)で示される化合物と、を含有することを特徴とする。なお、前記発光層において、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物とは、均一に分布していても、均一に分布していなくてもよく、量子ドットからなる層と、一般式(1)で示される化合物からなる層とに分離していてもよい。ここで、量子ドットからなる層と、一般式(1)で示される化合物からなる層とに分離している場合、量子ドットからなる層と、一般式(1)で示される化合物からなる層との積層構造が発光層に相当する。
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決し、発光効率が高く、駆動電圧の低い発光素子を実現するために、量子ドット発光素子に着目して、鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、発光素子として、陰極と陽極との間に、量子ドットと、1,3,5-トリアジン骨格を有する上記一般式(1)で示される化合物とを含む発光層を具えていればよいことを見出した。
一般式(1)で示される化合物は、1,3,5-トリアジン骨格が最低非占有分子軌道(LUMO)レベルを深くすることに寄与する。このため、一般式(1)で示される化合物は、陰極から量子ドットへの電子注入性を向上させることができる。従って、量子ドットと、1,3,5-トリアジン骨格を有する上記一般式(1)で示される化合物とを含有する発光層を有する発光素子では、駆動電圧が低くなる。
また、一般式(1)で示される化合物は、深い最高占有分子軌道(HOMO)レベルを有することから、高い正孔ブロック性を有する。このため、一般式(1)で示される化合物は、正孔が量子ドットから陰極側へ流れることを防ぎ、発光効率を向上させることができる。
そのため、本発明の量子ドット発光素子は、駆動電圧が低く、高い発光効率を示す。
【0022】
次に、本発明の量子ドット発光素子の一態様を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の量子ドット発光素子の構造の一例を示した概略図である。図1に示す量子ドット発光素子1は、基板2上に、陰極3、電子注入層4、電子輸送層5、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8及び陽極9を、この順に積層した構成を有する。なお、図1に示す量子ドット発光素子1は、下部に配置した陰極3側より電子を注入し、上部に配置した陽極9より正孔を注入する構成となっているが、本発明の量子ドット発光素子は、これに限定されるものではなく、上下を逆転した構造であってもよい。
【0023】
<基板>
前記基板2は、当該基板2側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明な材料からなることが好ましい。かかる透明な材料としては、ガラス、プラスチックフィルム等を例示することができる。ここで、プラスチックフィルムの材質としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、基板2の材料は、必ずしも透明な材料である必要はない。基板2として、不透明基板を用いる場合、該不透明基板としては、例えば、着色したプラスチックフィルム基板、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板等が挙げられる。
また、基板2として、例えば、プラスチックフィルム等の可撓性基板を用い、その上に量子ドット発光素子を形成した場合には、画像表示部を容易に変形することのできるフレキシブル量子ドット発光素子とすることができる。
前記基板2の平均厚さは、特に限定されるものではないが、0.01~30mmが好ましく、0.01~10mmがより好ましい。
【0024】
<陰極>
前記陰極3は、基板2側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明で導電性の高い材料からなることが好ましい。陰極3としては、例えば、インジウム-錫-酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛-酸化物(IZO)等の導電性透明酸化物を用いることができる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、陰極3の材料は、必ずしも透明な材料である必要はないため、陰極3として、金属電極を用いてもよい。該金属電極に用いる金属としては、Ca、Mg、Al、Sn、In、Cu、Ag、Au、Pt等が挙げられる。
前記陰極3の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、50~200nmが更に好ましい。
【0025】
<電子注入層>
前記電子注入層4は、陰極3からの電子注入を容易にする目的で用いる。該電子注入層4の材料としては、無機材料、或いは電子注入性の低分子材料又は高分子材料からなる有機材料を用いることができる。電子注入層4の材料として、より具体的には、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化タンタル(Ta23)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化アルミニウム(Al23)等の金属酸化物が好ましく、これらの中でも、電子注入性の観点から、酸化亜鉛、酸化チタンが更に好ましく、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0026】
電子注入層4の形成には、ナノ粒子を用いることが好ましい。該ナノ粒子の粒径は、1nm~100nmが好ましく、1nm~10nmが更に好ましく、1nm~5nmがより一層好ましい。好ましくは、酸化亜鉛ナノ粒子等の金属酸化物のナノ粒子をスピンコート法によって成膜した薄膜を、電子注入層4として用いることができる。
前記電子注入層4の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0027】
<電子輸送層>
前記電子輸送層5は、陰極3から注入した電子を発光層6まで輸送するために用いる。適切なLUMOレベルを有する電子輸送層5を、陰極3又は電子注入層4と、発光層6との間に設けると、陰極3又は電子注入層4から電子輸送層5への電子注入障壁が緩和され、電子輸送層5から発光層6への電子注入障壁が緩和される。また、電子輸送層5に用いられる材料が適切な最高被占有分子軌道(HOMO)レベルを有する場合、発光層6で再結合せずに対極へ流出する正孔が阻止される。その結果、発光層6内に正孔が閉じ込められて、発光層6内での再結合効率が高められる。
なお、電子輸送層5は、電子注入障壁が問題とならず、発光層6の電子輸送能が十分に高い場合には、省略される場合がある。
【0028】
前記電子輸送層5の材料としては、例えば、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3”-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2”-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBi)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2’-ヒドロキシフェニル)ピリジン]ベリリウム(Bepp2)、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)等に代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、ホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも電子輸送層5の材料として、TmPyPBのようなピリジン誘導体や、一般式(1)で示される化合物を用いることが好ましい。
前記電子輸送層5の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0029】
<発光層>
前記発光層6は、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物と、を含む。なお、発光層6は、必要に応じて、他の化合物を含んでもよいし、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物のみから形成されていてもよい。
【0030】
「量子ドット」
該発光層6では、陽極9から注入された正孔と陰極3から注入された電子とが再結合し、量子ドットからの発光が得られる。発光層6の発光色は、発光層6に含まれる量子ドットの結晶粒径や種類(材質)によって変化させることができる。ここで、量子ドットの結晶粒径は、所望の発光色に応じて選択でき、例えば、1~10nmが好ましい。該量子ドットは、半導体微粒子からなるコアと呼ばれる中心部分と、コアの表面(又は後述するシェルの表面)を覆うリガンドと呼ばれる有機物と、からなることが好ましい。
【0031】
前記量子ドットのコア部分を構成する半導体の例としては、II-VI族の化合物、II-V族の化合物、III-VI族の化合物、III-V族の化合物、IV-VI族の化合物、I-III-VI族の化合物、II-IV-VI族の化合物、及びII-IV-V族の化合物、例えば、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnSeTe、CdS、CdSe、CdTe、InN、InP、InAs、InSb、CuInS等が挙げられる。これらの中でも、量子ドットのコアとしては、合成の容易さ、所望の波長の発光を得るための粒径及び/又は粒径分布の制御のし易さ、発光の量子収率の観点から、CdSe、CdS、InP、ZnSe、ZnSeTeが好ましい。なお、コア部分を構成する半導体において、各元素の比率は、化学量論的であってもよいし、化学量論的でなくてもよい。
【0032】
前記量子ドットは、コアの周りを取り囲むようにシェルと呼ばれる一層または複数層の半導体層を有してもよい。ここで、シェル部分を構成する半導体も、コア部分を構成する半導体と同様の組成の半導体を用いることができる。量子ドットのシェルは、被覆するコアに用いられる半導体に応じて選択することが好ましく、シェルとしては、コアよりも大きなバンドギャップを有する半導体を用いることが好ましい。この場合、コアの励起エネルギーが、シェルによって効率よくコア内に閉じ込められる。具体的には、例えば、コアがCdSe、CdS、InPからなる場合、シェルには、より大きなバンドギャップを有するZnS、ZnSeを用いることが好ましい。なお、シェル部分を構成する半導体において、各元素の比率は、化学量論的であってもよいし、化学量論的でなくてもよい。
【0033】
前記量子ドットにおいては、半導体表面を安定化すると共に、半導体微粒子の凝集を抑制するため、半導体微粒子表面をリガンドとよばれる有機配位子によりキャッピングを行うことが好ましい。キャッピングするためのリガンド部分に親油性の長鎖アルキル基等が含まれると有機溶剤に対しての溶解性が向上し、量子ドットを有機溶媒に溶解させた量子ドット溶液を調製することができる。前記リガンド(有機配位子)としては、炭化水素基の結合したアミン、炭化水素基の結合したカルボン酸、炭化水素基の結合したホスフィン、炭化水素基の結合した酸化ホスフィン、炭化水素基の結合したチオール等が挙げられる。前記炭化水素基は、親油性の鎖状炭化水素基であることが好ましい。親油性の鎖状炭化水素基の結合したアミンとしては、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したカルボン酸としては、オレイン酸等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したホスフィンとしては、トリオクチルホスフィン等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合した酸化ホスフィンとしては、トリ-n-オクチルホスフィンオキシド等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したチオールとしては、ドデカンチオール等が挙げられる。
【0034】
図2に、本発明の量子ドット発光素子に好適に用いることができる量子ドットの構造の一例を示す。図2に示す量子ドット10は、コア11と、コア11の周りを取り囲むシェル12と、シェル12の表面を覆うリガンド13と、を具える。該量子ドット10は、化学的安定性が高く、凝集が生じ難い。また、該量子ドット10は、溶液として調製し易く、スピンコート法等によって成膜し易いという利点がある。
【0035】
「一般式(1)で示される化合物」
本実施形態では、前記量子ドットと、1,3,5-トリアジン骨格を有する下記一般式(1)で示される化合物とを含有する発光層6を用いる。
【化5】
【0036】
一般式(1)中のR1は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、炭素数5~30の芳香族炭化水素基、及び、炭素数3~30の芳香族複素環基からなる群から選択される置換基、或いは、該置換基が複数連結した基であり、該置換基中の水素原子は他の置換基で更に置換されていても、未置換でもよく、隣り合う置換基は一体となって環を形成していてもよい。
【0037】
一般式(1)中のR1に関して、炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基等が挙げられ、炭素数1~10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられ、炭素数1~10のアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ノニルチオ基等が挙げられ、炭素数1~10のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、ノニルアミノ基等が挙げられ、炭素数2~10のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられ、炭素数7~20のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基等が挙げられ、炭素数5~30の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、2,6-キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、ピリジルフェニル基、フェナンスレニル基等が挙げられ、炭素数3~30の芳香族複素環基としては、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジン基等が挙げられる。また、一般式(1)中のR1は、上記の置換基が複数連結した基であってもよく、連結する複数の置換基は、同一であっても、異なってもよい。
【0038】
上記一般式(1)で示される化合物の中でも、下記一般式(2)で示される化合物が好ましい。一般式(2)で示される化合物は、量子ドットへの電子注入に適したLUMOレベル、及び、量子ドットからの正孔ブロックに適したHOMOレベルを有するため、一般式(2)で示される化合物を用いることで、量子ドット発光素子の駆動電圧を更に低くしつつ、発光効率を更に向上させることができる。
【化6】
【0039】
一般式(2)中のR2は、それぞれ独立に、炭素数5~30の二価の芳香族炭素環、及び、炭素数3~30の二価の芳香族複素環からなる群から選択される環構造であり、R3は、それぞれ独立に、炭素数5~30の一価の芳香族炭素環、及び、炭素数3~30の一価の芳香族複素環からなる群から選択される環構造であり、前記環構造中の水素原子は他の置換基で更に置換されていても、未置換でもよく、隣り合う環構造は一体となって更に環を形成していてもよく、nは、それぞれ独立に0~3の整数である。
ここで、芳香族炭素環は、炭素原子で環が形成され、芳香族性を示す環構造であり、芳香族複素環は、炭素原子とヘテロ原子で環が形成され、芳香族性を示す環構造であり、環を形成する炭素原子(及びヘテロ原子)には、水素原子や各種置換基が結合する。なお、芳香族複素環のヘテロ原子としては、窒素原子、硫黄原子、酸素原子等が挙げられる。また、一価及び二価の芳香族炭素環は、単環でも、縮合環でもよく、また、一価及び二価の芳香族複素環も、単環でも、縮合環でもよい。
【0040】
一般式(2)中のR2に関して、炭素数5~30の二価の芳香族炭素環(芳香族炭素環基)としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基等が挙げられ、炭素数3~30の二価の芳香族複素環(芳香族複素環基)としては、ピリジンジイル基、ピラジンジイル基、ピリミジンジイル基、ピリダジンジル基、トリアジンジイル基等が挙げられる。R2としては、炭素数5~30の二価の芳香族炭素環(芳香族炭素環基)の中では、フェニレン基が特に好ましく、また、炭素数3~30の二価の芳香族複素環(芳香族複素環基)の中では、ピリジンジイル基が特に好ましい。
【0041】
一般式(2)中のR3に関して、炭素数5~30の一価の芳香族炭素環(芳香族炭素環基)としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、フェナンスレニル基等が挙げられ、炭素数3~30の一価の芳香族複素環(芳香族複素環基)としては、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジン基等が挙げられる。これらの中でも、R3としては、炭素数3~30の一価の芳香族複素環(芳香族複素環基)が好ましく、ピリジル基が特に好ましい。
【0042】
一般式(2)中のnは、それぞれ独立に0~3の整数であり、即ち、一般式(2)で示される化合物は、1,3,5-トリアジン骨格中の3つの炭素原子のそれぞれに、芳香族炭素環及び/又は芳香族複素環が1~4個結合した構造を有する。一般式(2)で示される化合物は、nが3以下であるため、有機溶媒への溶解性に優れ、取り扱い易い。一般式(2)中のnは、好ましくは、1又は2である。nが1以上の場合、LUMOレベルが更に深くなり、陰極から量子ドットへの電子注入性が更に向上する。また、nが2以下の場合、有機溶媒への溶解性が更に向上する。
【0043】
上記一般式(1)中のR1、並びに、上記一般式(2)中のR2及びR3に関して、前記置換基及び前記環構造中の水素原子は他の置換基で更に置換されていても、未置換でもよく、また、隣り合う置換基は一体となって環を形成していてもよい。前記置換基及び前記環構造中の水素原子の置換基(即ち、前記「他の置換基」)としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;塩化メチル基、臭化メチル基、ヨウ化メチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ヒドロキシ基;チオール基;ニトロ基;シアノ基;アミノ基;アゾ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~40のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基などのアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基等の炭素数2~20のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基、フェニルアセチニル等の炭素数2~20のアルキニル基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基;エチニルオキシ基、フェニルアセチルオキシ基等のアルキニルオキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基、ピレニルオキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロフェニル基等のパーフルオロ基及び更に長鎖のパーフルオロ基;ジフェニルボリル基、ジメシチルボリル基、ビス(パーフルオロフェニル)ボリル基、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラニル基等のボリル基;アセチル基、ベンゾイル基等のカルボニル基;アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等のスルフィニル基;メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等のスルホニル基;アルキルスルホニルオキシ基;アリールスルホニルオキシ基;ホスフィノ基;ジエチルホスフィニル基、ジフェニルホスフィニル基等のホスフィニル基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基等のシリル基;シリルオキシ基;スタニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよいフェニル基、2,6-キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、フェナンスレニル基等のアリール基(置換されていてもよい芳香族炭化水素環基);ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよい、チエニル基、フリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基等のヘテロ環基(置換されていてもよい芳香族複素環基);カルボキシル基;カルボン酸エステル;エポキシ基;イソシアノ基;シアネート基;イソシアネート基;チオシアネート基;イソチオシアネート基;カルバモイル基;N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジエチルカルバモイル基等のN,N-ジアルキルカルバモイル基;ホルミル基;ニトロソ基;ホルミルオキシ基;等が挙げられる。
【0044】
上記一般式(1)で示される化合物の中でも、下記構造式(1-1)又は構造式(1-2)で示される化合物が特に好ましい。下記構造式(1-1)又は構造式(1-2)で示される化合物は、電子移動度が高く、量子ドットへの電子注入に適したLUMOレベル、及び、量子ドットからの正孔ブロックに適したHOMOレベルを有するため、構造式(1-1)又は構造式(1-2)で示される化合物を用いることで、量子ドット発光素子の駆動電圧を更に低くしつつ、発光効率を更に向上させることができる。
【化7】
【0045】
上述のように、前記発光層6において、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物とは、均一に分布していても、均一に分布していなくてもよく、量子ドットからなる層と、一般式(1)で示される化合物からなる層とに分離していてもよい。
また、発光層6を形成する際には、量子ドットと一般式(1)で示される化合物とを一括で成膜した混合層としてもよいし、別々に積層して、2層構成としてもよい。
【0046】
前記発光層6における、量子ドットと、一般式(1)で示される化合物と、の質量比(量子ドット/一般式(1)で示される化合物)は、特に限定れるものではないが、1/10~10/1の範囲が好ましく、1/5~5/1の範囲が更に好ましい。量子ドットと一般式(1)で示される化合物との質量比が上記の範囲内であれば、量子ドット発光素子の駆動電圧を低減する効果、及び発光効率を向上させる効果が更に向上する。
【0047】
前記発光層6の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0048】
<正孔輸送層>
前記正孔輸送層7は、陽極9から注入した正孔を発光層6まで輸送するために用いる。正孔輸送層7を構成する材料としては、正孔輸送性の無機材料あるいは有機材料を用いることができる。正孔輸送層7を構成する材料は、好ましくは正孔輸送性の有機材料であり、例えば、2,2’-ビス(N-カルバゾイル)-9,9’-スピロビフルオレン(CFL)、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、4,4’,4”-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔輸送性の観点から、2,2’-ビス(N-カルバゾイル)-9,9’-スピロビフルオレン(CFL)、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)が好ましい。
前記正孔輸送層7の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmであることが好ましく、20~100nmが更に好ましい。
【0049】
<正孔注入層>
前記正孔注入層8は、陽極9からの正孔注入を容易にするために形成する。正孔注入層8には、有機材料、無機材料いずれも用いることができる。正孔注入層8に用いる代表的な材料としては、三酸化モリブデン(MoO3)、酸化バナジウム(V25)、酸化ルテニウム(RuO2)、酸化レニウム、酸化タングステン、酸化マンガン等の金属酸化物が挙げられる。また、正孔注入層8に用いる有機材料としては、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)、ヘキサフルオロテトラシアノナフトキノジメタン(F6-TNAP)、2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン(HAT-CN)等が挙げられる。正孔注入層8には、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔注入層8に用いる材料としては、正孔注入性の観点から、三酸化モリブデンが好ましい。
前記正孔注入層8の平均厚さは、特に限定されるものではないが、1~500nmが好ましく、3~50nmが更に好ましい。
【0050】
<陽極>
前記陽極9の材料としては、仕事関数が比較的大きい金属が好ましい。仕事関数の大きい金属を用いることにより、陽極から有機層への正孔注入障壁を低くすることができ、正孔を注入させ易くすることができる。陽極9に用いる金属としては、例えば、Al、Au、Pt、Ni、W、Cr、Mo、Fe、Co、Cu等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、陽極9に透明な材料を用いると、上部電極から光を取り出すトップエミッション型素子とすることができる。
前記陽極9の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、30~150nmが更に好ましい。
【0051】
上述した電子注入層4、電子輸送層5、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8は、それぞれ1層ずつでもよいし、それぞれの層が複数の役割を受け持つ構造となっていてもよい。また、例えば、一つの層で、正孔注入層と正孔輸送層を兼用したりすることも可能である。また、陽極9、正孔注入層8、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層5、電子注入層4、陰極3の各層の間に、他の層を有する構造となっていてもよい。
【0052】
<各層の形成方法>
前記陰極3、電子注入層4、電子輸送層5、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の形成方法は、特に限定されるものではなく、真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の方法を用いることができる。また、これらの方法を用いて、前記陰極3、電子注入層4、電子輸送層5、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の厚さを、目的に応じて適宜調整することができる。また、これらの方法は、各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていてもよい。
以上により、図1に示される量子ドット発光素子1が完成する。
【0053】
<<表示装置>>
本発明の表示装置は、上述の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。本発明の表示装置は、上述した駆動電圧が小さく、発光効率の高い量子ドット発光素子を具えるため、発光特性に優れる。本発明の表示装置は、上述した量子ドット発光素子の他に、表示装置に一般に用いられる他の部品を具えることができる。
【実施例
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
<量子ドットの合成>
J.カクら(J.Kwak et al.),ナノ・レターズ(Nano Letters),12,2362-2366(2012)に開示されている方法に従って、緑色発光を示す量子ドットCdSe/ZnS(コア/シェル型の量子ドット)を合成した。具体的な合成方法を以下に示す。
0.257gの酸化カドミウム、7.34gの酢酸亜鉛、30.13gのオレイン酸、150mlのオクタデセンをフラスコに投入した。減圧下、150℃で30分加熱後、アルゴンにてリークし、アルゴンフロー下で280℃まで昇温した(溶液1)。0.079gのセレン、1.122gの硫黄を20mlのトリオクチルホスフィンに溶解させた溶液を用意し、溶液1に投入した。280℃で10分間混合した後、室温まで冷やした(溶液2)。この溶液2にエタノールを加えて、析出物を遠心分離で回収した。回収物をクロロホルムに分散させて、濃度を20mg/mlとなるように調整した。
【0056】
<酸化亜鉛ナノ粒子の合成>
J.カクら(J.Kwak et al.),ナノ・レターズ(Nano Letters),12,2362-2366(2012)に開示されている方法に従って、酸化亜鉛ナノ粒子を合成した。具体的な方法を以下に示す。
6.7mmolの酢酸亜鉛を55mlのメタノールに溶解させ、0.12mol/lの溶液を得た。8.6mmolの水酸化カリウムを25mlのメタノールに溶解させ、0.34mol/lの溶液を得た。窒素雰囲気下で、酢酸亜鉛メタノール溶液を60℃に加熱し、撹拌しながら水酸化カリウムメタノール溶液を滴下し、2時間反応させると液は白濁状態となった。得られた白濁液から遠心分離により回収した酢酸亜鉛をメタノールで洗い、最終的にブタノールに再分散させて、20mg/mlの酸化亜鉛ナノ粒子ブタノール分散液を得た。
【0057】
<量子ドット発光素子の作製>
電子輸送層5を省略した以外は、図1に示す構造と同様の構造の量子ドット発光素子を次のようにして作製した。
まず、ガラス基板にITOからなる透明電極(陰極、厚さ:100nm)を形成し、これをライン状にパターニングした。
次に、電子注入層として前項にて合成した酸化亜鉛ナノ粒子の層を形成した。酸化亜鉛ナノ粒子は、スピンコート法によって成膜し、130℃で30分間加熱した(電子注入層、厚さ:30nm)。
次に、前項にて合成した量子ドットCdSe/ZnSと、下記構造式(1-1):
【化8】
で示される化合物と、を質量比1:1で、クロロホルムに溶解させたクロロホルム溶液を調製し、スピンコート法によって成膜した(発光層、厚さ:35nm)。窒素雰囲気下、100℃にて30分間加熱した。
次に、基板を真空蒸着成膜装置に入れ、真空蒸着法によって、下記式(7-1):
【化9】
で示される構造式を有する材料からなる正孔輸送層を成膜した(厚さ:40nm)。
続いて、真空蒸着により、三酸化モリブデンからなる正孔注入層(厚さ:10nm)、アルミニウムからなる電極(陽極、厚さ:60nm)を成膜した。
なお、図1には示していないが、量子ドット発光素子は、窒素ガスで満たされたグローブボックス中で、封止用ガラスの周縁部に紫外線硬化樹脂を塗布した後、量子ドット発光素子を形成した前記基板の周縁部に貼り合せて、封止を行った。
【0058】
(実施例2)
上記実施例1と同様に量子ドットCdSe/ZnS、酸化亜鉛ナノ粒子の合成を実施した。これらの材料を用いて実施例1と同様に量子ドット発光素子を作製した。このときに、発光層として、前項にて合成した量子ドットCdSe/ZnSと、下記構造式(1-2):
【化10】
で示される化合物と、を質量比1:1で、クロロホルムに溶解させたクロロホルム溶液をスピンコート法によって成膜したものを用いた。
【0059】
(比較例1)
上記実施例1と同様に量子ドットCdSe/ZnS、酸化亜鉛ナノ粒子の合成を実施した。これらの材料を用いて実施例1と同様に量子ドット発光素子を作製した。このときに、発光層として、前項にて合成した量子ドットCdSe/ZnSと、下記構造式(6-1):
【化11】
で示される化合物と、を質量比1:1で、クロロホルムに溶解させたクロロホルム溶液をスピンコート法によって成膜したものを用いた。
【0060】
(比較例2)
上記実施例1と同様に量子ドットCdSe/ZnS、酸化亜鉛ナノ粒子の合成を実施した。これらの材料を用いて実施例1と同様に量子ドット発光素子を作製した。このときに、発光層として、前項にて合成した量子ドットCdSe/ZnSと、下記構造式(6-2):
【化12】
で示される化合物と、を質量比1:1で、クロロホルムに溶解させたクロロホルム溶液をスピンコート法によって成膜したものを用いた。
【0061】
<実験1>
ガラス材料からなる基板上に、真空蒸着法により、上記構造式(1-1)で示される化合物からなる厚み50nmの薄膜を形成した。
【0062】
<実験2>
ガラス材料からなる基板上に、真空蒸着法により、上記構造式(1-2)で示される化合物からなる厚み50nmの薄膜を形成した。
【0063】
<実験3>
ガラス材料からなる基板上に、真空蒸着法により、上記構造式(6-1)で示される化合物からなる厚み50nmの薄膜を形成した。
【0064】
<実験4>
ガラス材料からなる基板上に、真空蒸着法により、上記構造式(6-2)で示される化合物からなる厚み50nmの薄膜を形成した。
【0065】
<エネルギーレベルの評価>
(HOMOレベルの測定)
実験1-4で作製した薄膜のHOMOレベルを、理研計器社製の大気中光電子分光装置「AC-3」を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0066】
(LUMOレベルの測定)
実験1-4で作製した薄膜の紫外可視吸収スペクトルを、島津製作所社製の紫外可視近赤外分析光度計「UV-3100」を用いて測定し、吸収スペクトルの立ち上がりから算出したエネルギーギャップを、前記方法で測定したHOMOレベルから引くことで、LUMOレベルを測定した。その結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、構造式(1-1)及び構造式(1-2)で示される化合物のLUMOレベルは、構造式(6-1)で示される化合物のLUMOレベルよりも深い。また、構造式(1-1)及び構造式(1-2)で示される化合物のHOMOレベルは、構造式(6-2)で示される化合物のHOMOレベルよりも深い。
【0069】
<素子特性の評価>
(電圧-輝度特性の測定)
上記の実施例1、実施例2、及び比較例1の量子ドット発光素子のITO電極側に負、アルミニウム電極側に正となるようにケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。その結果を図3に示す。
【0070】
図3に示すように、実施例1及び実施例2の量子ドット発光素子では、比較例1の量子ドット発光素子と比較して、印加電圧が同じである場合に高い輝度が得られており、駆動電圧が低かった。これは、実施例1で使用した構造式(1-1)で示される化合物及び実施例2で使用した構造式(1-2)で示される化合物が、比較例1で使用した構造式(6-1)で示される化合物と比較して、LUMOレベルが深いため、陰極から発光層中の量子ドットへの電子注入が促進されたためであると推定される。
【0071】
(電流密度-電力効率特性の測定)
実施例1、実施例2、及び比較例1の量子ドット発光素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電流密度と電力効率との関係を調べた。その結果を図4に示す。
【0072】
図4に示すように、実施例1及び実施例2の量子ドット発光素子では、比較例1の量子ドット発光素子と比較して、電流密度が同じである場合に高い電力効率が得られている。これは、実施例1で使用した構造式(1-1)で示される化合物及び実施例2で使用した構造式(1-2)で示される化合物が、比較例1で使用した構造式(6-1)で示される化合物と比較して、LUMOレベルが深いためであると推定される。
【0073】
(外部量子効率の測定)
実施例1、実施例2、及び比較例2の量子ドット発光素子について、それぞれ最大外部量子効率を測定した。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すように、実施例1及び実施例2の量子ドット発光素子の外部量子効率は、比較例2の量子ドット発光素子の外部量子効率よりも高い値を示した。これは、実施例1で使用した構造式(1-1)で示される化合物及び実施例2で使用した構造式(1-2)で示される化合物が、比較例2で使用した構造式(6-2)で示される化合物と比較して、HUMOレベルが深いためであると推定される。
【0076】
以上の結果から、量子ドットと一般式(1)で示される化合物とを含む発光層を用いた量子ドット発光素子が、低い駆動電圧と、高い発光効率とを示すことが分かる。
【符号の説明】
【0077】
1:量子ドット発光素子
2:基板
3:陰極
4:電子注入層
5:電子輸送層
6:発光層
7:正孔輸送層
8:正孔注入層
9:陽極
10:量子ドット
11:コア
12:シェル
13:リガンド
図1
図2
図3
図4