IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友化学株式会社の特許一覧

特許7514183多孔質セラミックス積層体及びその製造方法
<>
  • 特許-多孔質セラミックス積層体及びその製造方法 図1
  • 特許-多孔質セラミックス積層体及びその製造方法 図2
  • 特許-多孔質セラミックス積層体及びその製造方法 図3
  • 特許-多孔質セラミックス積層体及びその製造方法 図4
  • 特許-多孔質セラミックス積層体及びその製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】多孔質セラミックス積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/85 20060101AFI20240703BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20240703BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240703BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240703BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240703BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C04B41/85 C
C04B38/00 303Z
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020553116
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2019039844
(87)【国際公開番号】W WO2020080225
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018194512
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奈須 義総
(72)【発明者】
【氏名】中山 篤
(72)【発明者】
【氏名】魚江 康輔
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-045691(JP,A)
【文献】特開平11-292653(JP,A)
【文献】特開昭56-051245(JP,A)
【文献】特開2002-309300(JP,A)
【文献】ナ,化学大辞典6 テトナニヌネノ ,第1版,共立出版株式会社,1961年07月15日,669頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80-41/91
C04B 38/00-38/10
B01D 69/00、69/12、71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1多孔質層と、前記第1多孔質層の上に接して又は空気を介して積層された第2多孔質層とを有する多孔質セラミックス積層体であって、
前記第2多孔質層の一部は、前記第1多孔質層の上に接して積層されており、
前記第1多孔質層及び前記第2多孔質層はいずれも金属酸化物を含み、
前記第1多孔質層は、前記金属酸化物として、SiO とAl を含み、前記第2多孔質層は、前記金属酸化物として、Al を含み、
前記第2多孔質層の平均細孔径Dbに対する前記第1多孔質層の平均細孔径Daの比Da/Dbが30以上60以下であり、
前記多孔質セラミックス積層体の形状が円筒形であり、前記多孔質セラミックス積層体の軸方向に垂直な断面で切断し、前記第2多孔質層の表面の合計長さが前記第1多孔質層の平均細孔径の100倍以上となるように画像を取得して、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層との距離が1μm未満である部分の割合を測定する際に、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層との距離が1μm未満である部分の割合が5%以上70%以下である、多孔質セラミックス積層体。
【請求項2】
前記第1多孔質層の平均細孔径Daが1.5μm以上600μm以下である請求項1に記載の多孔質セラミックス積層体。
【請求項3】
前記第1多孔質層と前記第2多孔質層との距離が1μm未満である部分の割合が5%以上50%以下である、請求項1に記載の多孔質セラミックス積層体。
【請求項4】
前記第1多孔質層は、前記金属酸化物として、SiO 及びAl を含み、
前記第2多孔質層は、前記金属酸化物として、Al を含み、
前記第1多孔質層と前記第2多孔質層の両方に接し、かつ、SiO 及びAl を含む領域を含む、請求項1~3のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体の製造方法であって、
前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に、撥水剤又は撥油剤を塗布する工程、
前記撥水剤又は前記撥油剤が塗布された前記第1多孔質層の表面に、前記第2多孔質層に含まれる前記金属酸化物と溶剤と増粘剤とを含むスラリーを塗布する工程、及び、
前記スラリーが塗布された前記第1多孔質層を95℃以上1600℃以下で熱処理する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質セラミックス積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質セラミックスは、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、ガス分離膜等、気体、液体等の流体の分離、濃縮、濾過等の機能を有する膜として、様々な分野で利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、無機質支持体と、前記支持体を被覆する1層以上の無機質被覆層から成るセラミック多孔質非対称膜であって、前記支持体を被覆する1層以上の無機質被覆層のうちの少なくとも1層として、薄層状の無機多孔質体を含むセラミック多孔体が開示されている。特許文献1では、平均細孔径が11.0又は14.2μmの多孔質支持体に、平均粒子径が3又は5μmのアルミナを含むスラリー膜を製膜し、焼成して、前記多孔質支持体上に多孔質層を形成している。また、特許文献2には、支持層と、その支持層の内面或いは外面に形成される多孔質層からなる非対称膜が開示されている。特許文献2では、平均粒子径5μmのアルミナ粒子やその他の無機物質の粒子を用いて連通気孔径1~2μmの支持層を作成し、平均粒径0.5μmのアルミナ微粉末が分散した液を用いて前記支持層の表面に多孔質層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-292653号公報
【文献】特開昭62-186908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔質セラミックスを用いて、流体の分離等を行う場合、分離等の機能を十分に発揮しつつ、前記セラミックス多孔体中に流体が流れやすいこと、すなわち流体の圧力損失が小さいことが重要であるが、前記特許文献1及び2では、流体の圧力損失を低減することが難しいと考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、流体の圧力損失を低減できる多孔質セラミックス積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成した本発明は以下の通りである。
[1]第1多孔質層と、前記第1多孔質層の上に接して又は空気を介して積層された第2多孔質層とを有する多孔質セラミックス積層体であって、
前記第2多孔質層の一部は、前記第1多孔質層の上に接して積層されており、
前記第1多孔質層及び前記第2多孔質層はいずれも金属酸化物を含み、
前記第2多孔質層の平均細孔径Dbに対する前記第1多孔質層の平均細孔径Daの比Da/Dbが10以上であり、
前記第1多孔質層と前記第2多孔質層との距離が1μm未満である部分の割合が70%以下である、多孔質セラミックス積層体。
[2]前記Da/Dbが30以上である、[1]に記載の多孔質セラミックス積層体。
[3]前記第1多孔質層と前記第2多孔質層との距離が1μm未満である部分の割合が50%以下である、[1]又は[2]に記載の多孔質セラミックス積層体。
[4]前記第1多孔質層は、前記金属酸化物として、金属酸化物A及び前記金属酸化物Aの融点よりも高い融点を有する金属酸化物Bを含み、
前記第2多孔質層は、前記金属酸化物として、前記金属酸化物Aの融点よりも高い融点を有する金属酸化物Cを含み、
前記第1多孔質層と前記第2多孔質層の両方に接し、かつ、前記金属酸化物A及び前記金属酸化物Cを含む領域を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体の製造方法であって、
前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に、撥水剤又は撥油剤を塗布する工程、
前記撥水剤又は前記撥油剤が塗布された前記第1多孔質層の表面に、前記第2多孔質層に含まれる前記金属酸化物と溶剤と増粘剤とを含むスラリーを塗布する工程、及び、
前記スラリーが塗布された前記第1多孔質層を熱処理する工程を含む、方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多孔質セラミックス積層体は、気体、液体等の流体の圧力損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の好ましい態様における多孔質セラミックス積層体の断面を表す模式図である。
図2】実施例1の断面SEM観察像を示す図面代用写真である。
図3】比較例1の断面SEM観察像を示す図面代用写真である。
図4】実施例2におけるLc及びLdの解析要領を示す図面代用写真である。
図5】実施例2において、第1多孔質層と第2多孔質層の両方に接し、かつ、金属酸化物A及び金属酸化物Cを含む領域を捉えた断面SEM観察像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らが検討した結果、第1多孔質層と、前記第1多孔質層の上に接して又は空気を介して積層された第2多孔質層とを有する多孔質セラミックス積層体であって、前記第2多孔質層の一部は、前記第1多孔質層の上に接して積層されており、前記第1多孔質層及び前記第2多孔質層はいずれも金属酸化物を含み、前記第2多孔質層の平均細孔径Dbに対する前記第1多孔質層の平均細孔径Daの比Da/Dbが10以上、好ましくは30以上であり、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層との距離が1μm未満である部分の割合が70%以下、好ましくは50%以下である、多孔質セラミックス積層体が、流体の圧力損失を低減できることを見出した。
【0011】
本発明の多孔質セラミックス積層体は、前記第1多孔質層と、前記第1多孔質層の上に接して又は空気を介して積層された第2多孔質層とを有する。前記第2多孔質層の一部は、前記第1多孔質層の上に接して積層されている。すなわち、前記第2多孔質層の一部は、前記第1多孔質層の上に接して積層されており、前記第2多孔質層のその他の部分は、空気を介して前記第1多孔質層の上に積層されている。
【0012】
本発明の多孔質セラミックス積層体では、前記第2多孔質層の平均細孔径Dbに対する前記第1多孔質層の平均細孔径Daの比Da/Dbが10以上である。このように、DaとDbの差を大きくすることが、本発明の多孔質セラミックス積層体を透過する流体の圧力損失を低減するために重要である。前記比Da/Dbは、好ましくは30以上、60以下であり、より好ましくは33以上、60以下であり、更に好ましくは35以上、60以下であり、一層好ましくは40以上、60以下である。なお、前記特許文献1では、平均粒子径が3又は5μmのアルミナを含むスラリーを用いて、前記多孔質支持体上に前記多孔質層を形成しており、前記アルミナの粒子径から考えて、前記多孔質層の平均細孔径は1μm程度と考えられ、前述した通り、前記多孔質支持体の平均細孔径は11.0又は14.2μmである。従って、前記特許文献1における前記多孔質層の平均細孔径に対する前記支持体の平均細孔径の比は、最大でも14程度であると考えられる。また、特許文献2では、前記支持層の連通気孔径が1~2μmであり、前記多孔質層の気孔径が0.2μmであるため、前記多孔質層の気孔径に対する前記支持層の連通気孔径の比は最大でも10である。
【0013】
前記比Da/Dbが前記範囲である限り、Da及びDbのそれぞれの値は限定されないが、Daは例えば1.5μm以上、600μm以下であり、好ましくは5μm以上、300μm以下であり、より好ましくは9μm以上、60μm以下であり、Dbは例えば0.01μm以上、10μm以下であり、好ましくは0.05μm以上、5μm以下であり、より好ましくは0.15μm以上、1μm以下であり、更に好ましくは0.25μm以上、1μm以下である。
【0014】
本発明の多孔質セラミックス積層体では、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層との距離が1μm未満である部分(以下、近接箇所とも呼ぶ)の割合が70%以下、好ましくは、50%以下である。前記近接箇所の割合を所定以下とすることも、流体の圧力損失を低減するために重要である。前記近接箇所の割合の算出方法は以下の通りである。まず、本発明の多孔質セラミックス積層体を、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層の積層方向に平行な断面で観察する。前記断面において、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層との距離が1μm未満である部分の割合を測定する。前記距離は、前記第1多孔質層の表面から、前記第1多孔質層の表面と最も近い第2多孔質層の表面までの距離である。すなわち、前記断面において、前記第1多孔質層との距離が1μm未満である前記第2多孔質層の表面の合計長さをLc、前記第1多孔質層との距離が1μm以上である前記第2多孔質層の表面の合計長さをLdとしてそれぞれ測定し、LcとLdの合計に対するLcの割合を求める。図1に、本発明の好ましい態様における前記断面の模式図を示す。図1において、1は前記第1多孔質層、2は前記第2多孔質層、3は空気、4は前記第2多孔質層2の積層方向、5は前記第1多孔質層1と前記第2多孔質層2の距離を示し、5の長さは1μmであり、6は前記第1多孔質層1と前記第2多孔質層2の距離が1μm未満である範囲、7は前記第1多孔質層1と前記第2多孔質層2の距離が1μm以上である範囲、8は前記第1多孔質層と前記第2多孔質層の両方に接し、かつ、前記金属酸化物A及び前記金属酸化物Cを含む領域を示す。以下、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層の両方に接し、かつ、前記金属酸化物A及び前記金属酸化物Cを含む領域を「第3の領域」と呼ぶ。前記第1多孔質層1と前記第2多孔質層2との距離が1μm未満である範囲6において、太い実線で示した前記第2多孔質層2の表面の長さの合計がLcに当たり、前記第1多孔質層1と前記第2多孔質層2との距離が1μm以上である範囲7において、通常の実線で示した前記第2多孔質層2の表面の長さの合計がLdに当たる。本発明の多孔質セラミックス積層体が、第3の領域を含む場合には、前記第3の領域に接する前記第1多孔質層と前記第2多孔質層との距離は0とみなす。本発明の多孔質セラミックス積層体では、前記近接箇所の割合、すなわち、LcとLdの合計に対するLcの割合は70%以下、好ましくは50%以下であり、より好ましくは45%以下であり、更に好ましくは40%以下であり、一層好ましくは30%以下であり、特に好ましくは15%以下である。LcとLdの合計に対するLcの割合は、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層の接着強度の観点から、5%以上が好ましく、より好ましくは8%以上であり、更に好ましくは10%以上である。
【0015】
前記断面では、前記第2多孔質層の表面の合計長さが、前記第1多孔質層の平均細孔径の100倍以上となるように画像を取得して、LcとLdの合計に対するLcの割合を測定すればよい。
【0016】
前記第1多孔質層の厚みは、例えば500μm以上、3000μm以下であり、好ましくは1400μm以上、2800μm以下である。前記第2多孔質層の厚みは、例えば3μm以上、30μm以下であり、好ましくは3μm以上、15μm以下であり、より好ましくは3μm以上、10μm以下である。前記第2多孔質層は、前記第1多孔質層の少なくとも片側面に積層されていればよく、前記第1多孔質層の片側面のみに積層されていることが好ましい。本発明の多孔質セラミックス積層体の形状は特に限定されず、平面状、円筒状、又はハニカム状であってもよく、円筒状であることが好ましい。本発明の多孔質セラミックス積層体が円筒状である場合、前記第2多孔質層は、前記第1多孔質層の外周面又は内周面のいずれに積層されていてもよく、前記第1多孔質層の外周面のみ又は内周面のみに積層されていることが好ましく、前記第1多孔質層の外周面のみに前記第2多孔質層が積層されていることがより好ましい。
【0017】
前記第1多孔質層及び前記第2多孔質層はいずれも金属酸化物を含む。なお、本発明において、金属とは、Si、Ge等の半金属を含む意味で用いる。前記第1多孔質層は、前記金属酸化物として、金属酸化物A及び前記金属酸化物Aの融点よりも高い融点を有する金属酸化物Bを含むことが好ましく、前記第2多孔質層は、前記金属酸化物として、前記金属酸化物Aの融点よりも高い融点を有する金属酸化物Cを含むことが好ましい。前記金属酸化物B及び前記金属酸化物Cは同一であってもよく異なっていてもよい。
【0018】
前記第1多孔質層が前記金属酸化物として前記金属酸化物A及び前記金属酸化物Bを含み、前記第2多孔質層が前記金属酸化物として前記金属酸化物Cを含む本発明の多孔質セラミックス積層体は、第3の領域を含むことが好ましい。前記第3の領域によって、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層との接着強度が向上する。後記する実施例の方法で測定した第3の領域の個数は2個以上、40個以下であり、2個以上、20個以下が好ましく、より好ましくは5個以上、20個以下であり、更に好ましくは、7個以上、12個以下である。
【0019】
前記第3の領域の気孔率は、通常、前記第1多孔質層の気孔率より小さく、また前記第3の領域の平均細孔径は、通常、前記第1多孔質層の平均細孔径より小さい。また、前記第3の領域の気孔率は、通常、前記第2多孔質層の気孔率より小さく、また前記第3の領域の平均細孔径は、通常、前記第2多孔質層の平均細孔径より小さい。
【0020】
前記金属酸化物Aは融点が95℃以上、1600℃以下であることが好ましい。前記金属酸化物Aとしては、具体的には、B23、SiO2、GeO2、Al23、V25、As25、Sb25、ZrO2、TiO2、ZnO、PbO、ThO2、BeO、CdO、Ta25、Nb25、WO3、ScO2、La23、Y23、SnO2、Ga23、In23、PbO2、MgO、Li2O、BaO、CaO、SrO、Na2O、K2O、Rb2O、HgO、Cs2O、Ag2O、TeO2、Tl2O等が挙げられ、好ましくはSiO2が挙げられる。つまり、前記金属酸化物Aは、前記した酸化物の少なくとも1種を構成成分とするものが挙げられ、特に前記した酸化物の少なくとも1つを構成成分とするガラスであることが好ましく、特に石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミナケイ酸塩ガラス等のケイ素の酸化物(特にSiO2)を含むガラスであることが好ましい。前記金属酸化物B及び前記金属酸化物Cは、同一であっても異なっていてもよく、いずれも融点が2000℃以上、2800℃以下であることが好ましい。前記金属酸化物B及び前記金属酸化物Cとしては、具体的には、Al23、ZrO2、MgO、Cr23、Y23等が挙げられ、好ましくはAl23が挙げられる。
【0021】
本発明の多孔質セラミックス積層体における前記第2多孔質層表面の表面粗さRaは、前記第1多孔質層の表面粗さ、前記第2多孔質層を構成する金属酸化物の粒径等により変化するが、例えば0.5μm以上、7μm以下であり、好ましくは1μm以上、5μm以下である。なお、前記第2多孔質層を積層する前の前記第1多孔質層の表面粗さRaは、例えば5μm以上、15μm以下であり、好ましくは7μm以上、10μm以下である。本発明の多孔質セラミックス積層体における前記第2多孔質層表面の表面粗さは、前記第2多孔質層を積層する前の前記第1多孔質層の表面粗さよりも小さくできる。
【0022】
本発明の多孔質セラミックス積層体は、流体の圧力損失を低減することができる。本発明の多孔質セラミックス積層体は、実用上十分なパーミアンス、すなわち後記する実施例で評価されるパーミアンスを3.0×10-63/(m2・sec・Pa)にできることはもとより、好ましくは7.0×10-63/(m2・sec・Pa)以上とすることができる。前記パーミアンスは、好ましくは0.8×10-53/(m2・sec・Pa)以上であり、より好ましくは1.0×10-53/(m2・sec・Pa)以上であり、例えば5.0×10-53/(m2・sec・Pa)以下である。
【0023】
本発明の多孔質セラミックス積層体では、上述の通り、前記第2多孔質層の平均細孔径Dbに対する、前記第1多孔質層の平均細孔径Daの比Da/Dbが10以上であり、好ましくは30以上である。通常、このような大きな平均細孔径の差を有する2つの層を積層させようとすると、大きな平均細孔径を有する第1多孔質層の細孔内に、第2多孔質層の構成成分が取り込まれるため、第2多孔質層を第1多孔質層の上に平滑な層状に形成することが難しい。
【0024】
本発明の多孔質セラミックス積層体の製造方法は、前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に、撥水剤又は撥油剤を塗布する工程、前記撥水剤又は前記撥油剤が塗布された前記第1多孔質層の表面に、前記第2多孔質層に含まれる前記金属酸化物と溶剤と増粘剤を含むスラリーを塗布する工程、及び前記スラリーが塗布された前記第1多孔質層を熱処理する工程を含む。本発明の方法によれば、前記スラリーが前記第1多孔質層の細孔内に取り込まれることがないため、大きな平均細孔径を有する第1多孔質層の上に、小さな平均細孔径を有する第2多孔質層を積層することができる。
【0025】
前記撥水剤又は前記撥油剤は、撥水及び撥油の少なくとも一方の機能を有していればよく、撥水及び撥油の両方の機能を有する撥水撥油剤であってもよい。前記撥水剤又は前記撥油剤としては、パラフィン系撥水撥油剤、フッ素系撥水撥油剤、ポリシロキサン系撥水撥油剤等が挙げられる。前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に、前記撥水剤又は前記撥油剤の塗布する方法は特に限定されず、スプレーコート、ディップコート、バーコート、吸引コート、超音波噴霧、刷毛塗り、スキージ塗布、拭き付け塗布等が挙げられる。
【0026】
前記溶剤としては、水、有機系溶剤等が挙げられる。前記第2多孔質層に含まれる金属酸化物は、好ましくは前記金属酸化物Cを含む。前記金属酸化物のスラリー中の濃度は、例えば2質量%以上、15質量%以下であり、好ましくは4質量%以上、13質量%以下である。前記第2多孔質層が複数種の金属酸化物を含む場合には、前記濃度は複数種の金属酸化物の合計濃度を意味する。前記第2多孔質層に含まれる金属酸化物の平均粒径は、例えば0.1μm以上、50μm以下である。
【0027】
前記増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。前記増粘剤のスラリー中の濃度は、例えば0.5質量%以上、5質量%以下であり、好ましくは1質量%以上、3質量%以下である。
【0028】
前記撥水剤又は前記撥油剤が塗布された前記第1多孔質層の表面に、前記スラリーを、塗布する方法は特に限定されず、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法、スリットコート法、刷毛塗り等が挙げられる。
【0029】
前記熱処理の温度は、例えば95℃以上であり、好ましくは265℃以上であり、より好ましくは500℃以上であり、更に好ましくは1000℃以上である。前記熱処理の温度は例えば1600℃以下であり、好ましくは1400℃以下である。前記熱処理の温度が前記金属酸化物Aの軟化温度以上であることが好ましく、具体的には、前記熱処理の温度が1000℃以上、1500℃以下であることが好ましく、1100℃以上、1400℃以下であることがより好ましい。前記熱処理の温度が前記金属酸化物Aの軟化温度以上であることによって、前記熱処理において、前記金属酸化物Aを含む溶融物が前記第1多孔質層から前記第2多孔質層へ部分的に流れ込む現象が生じうる。その結果、前記熱処理後に得られる本発明の多孔質セラミックス積層体において、部分的に第3の領域が形成される。前記熱処理の温度での保持時間は、例えば30分以上、10時間以下であり、好ましくは1時間以上、8時間以下であり、より好ましくは3時間以上、7時間以下である。
【0030】
本発明の多孔質セラミックス積層体は、精密濾過膜として用いることができる。本発明の多孔質セラミックス積層体における前記第2多孔質層の上に、さらに機能膜を積層することで、前記機能膜が積層された本発明の多孔質セラミックス積層体は、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、ガス分離膜等の膜の基材としても用いることができる。
【0031】
本願は、2018年10月15日に出願された日本国特許出願第2018-194512号に基づく優先権の利益を主張するものである。2018年10月15日に出願された日本国特許出願第2018-194512号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
下記実施例及び下記比較例で得られたセラミックス積層体は以下の方法で評価した。
【0034】
(1)パーミアンスの測定
円筒形の多孔質セラミックス積層体試料の外側から空気を1.0m3/hの一定流速で流し、前記試料の内側から空気を透過させた。前記試料の透過前後の圧力差を測定した。測定した結果を用いて、下記式によってパーミアンスを算出した。
【0035】
【数1】
【0036】
(2)Lc及びLdの測定、及び第3の領域の確認
円筒形の多孔質セラミックス積層体を、軸方向に垂直な断面で切断し、切断面が観察できるように樹脂に埋め込み、研磨して、走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)にて観察した。前記第2多孔質層の、前記第1多孔質層側表面の合計長さが円周方向に2mm以上となるように画像を取得し、前記第2多孔質層の、前記第1多孔質層側表面のうち、前記第1多孔質層との距離が1μm未満である範囲の合計長さLcと、前記第1多孔質層との距離が1μm以上である範囲の合計長さLdをそれぞれ測定し、LcとLdの合計に対するLcの割合を算出した。また、前記SEMの観察像の前記した2mmの範囲に何箇所の第3の領域が存在するかをカウントした。
【0037】
(3)細孔径の測定
多孔質セラミックス積層体試料を120℃で4時間乾燥した後、オートポアIV9520(micromeritics社製)を用いて、水銀圧入法により測定した。第2多孔質層を積層する前の第1多孔質層、及び、下記実施例の多孔質セラミックス積層体試料を測定すると、横軸を細孔径とするlog微分細孔容積分布において、第2多孔質層を積層する前の第1多孔質層では1つのピークが観測され、下記実施例の多孔質セラミックス積層体では2つのピークが観測された。第2多孔質層を積層する前の第1多孔質層で観測されたピーク位置をDaとした。下記実施例の多孔質セラミックス積層体で観測された2つのピークのうち、低細孔径側のピーク位置をDbとした。
【0038】
(4)表面粗さの測定方法
多孔質セラミックス積層体試料の235μm×220μmの外周面を、KEYENCE社製レーザー顕微鏡VK-9510を用いて、10倍の対物レンズで、Z方向0.5μmピッチで測定し、算術平均表面粗さRaを測定した。なお、下記実施例における第2多孔質層を積層させる前の第1多孔質層表面の表面粗さRaは9.3μmであった。
【0039】
(5)膜強度の評価
多孔質セラミックス積層体試料の外周面に5mm×5mmのサイズのスリーエム社製スコッチメンディングテープを貼り付けて剥がした際に、際だって剥離が見られなかったものを○とし、際だった剥離が見られたものを×とした。
【0040】
(6)第2多孔質層の膜厚の測定
円筒形の多孔質セラミックス積層体を、軸方向に垂直な断面で切断し、切断面が観察できるように樹脂に埋め込み、研磨して、走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)にて観察した。前記第2多孔質層の前記第1多孔質層の、前記第1多孔質層側表面に該当する線が円周方向に250μm以上となるように画像を取得し、第2多孔質層の面積を求め、円周方向の長さで割ることにより膜厚を算出した。
【0041】
実施例1~4
第1多孔質層として、アルミナとSiO2を含む萩ガラス社製アルミナ基材A-12を用いた。前記基材A-12の形状は、内径が8.6mm、外径が11.5mm、長さが5cmの円筒形であった。株式会社コロンブス製の撥水撥油スプレー「AMEDAS」を前記基材A-12の外周面にスプレー塗布し、乾燥させた。前記撥水撥油スプレーはフッ素樹脂と石油系炭化水素を含む。次に、住友化学株式会社製のアルミナ粉末AKP-3000と、増粘剤として信越化学工業株式会社製のヒドロキシプロピルメチルセルロース65SH-30000を、表1に記載した濃度で水に混合してスラリーを用意した。なお、前記アルミナ粉末AKP-3000の平均粒径は0.7μmであった。前記基材A-12の内周面に前記スラリーが入り込まないように、前記基材A-12の上端及び下端を封止して、前記スラリーで前記基材A-12をディップコートした。その後、前記外周面に前記スラリーが塗布された前記基材A-12を1200℃で3時間熱処理した。
【0042】
比較例1
撥水撥油スプレーを塗布することなく前記基材A-12をそのまま前記実施例1と同じスラリーでディップコートしたこと及び熱処理温度を1100℃にしたこと以外は、実施例1と同様にした。
【0043】
実施例5
第一多孔質層として細孔径が4.8μmのものを用いたこと、及び、スラリーの増粘剤濃度が1.5重量%であること以外は、実施例1と同様にした。
【0044】
比較例2
撥水撥油スプレーを塗布していないこと以外は、実施例5と同様にした。
【0045】
比較例3
第一多孔質層として細孔径が1.8μmのものを用いた以外は、実施例5と同様にした。
【0046】
結果を表1に示す。また、図2に実施例1の断面SEM観察像を示し、図3に比較例1の断面SEM観察像を示し、図4には実施例2におけるLc及びLdの解析要領を示し、図5には実施例2における第3の領域を捉えた断面SEM観察像を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
図2に示すように、第1多孔質層である前記基材A-12に撥水撥油スプレーを塗布してから前記スラリーでディップコートした実施例1では、前記第1多孔質層の上に、アルミナで構成される第2多孔質層が形成されていた。一方、撥水撥油スプレーを用いなかった比較例1では、図3に示すように、前記第1多孔質層の細孔の奥の方までアルミナが取り込まれており、前記第1多孔質層の上に第2多孔質層を形成することができなかった。また、図4は、実施例2における第1多孔質層及び第2多孔質層の積層方向に平行な断面を示しており、前記第2多孔質層の、前記第1多孔質層側表面のうち、前記第1多孔質層との距離が1μm未満である範囲を黒色の実線で示し、前記第1多孔質層との距離が1μm以上である範囲を白色の実線で示している。前記黒色の実線で示した範囲は、図1において6と示した範囲に相当し、前記白色の実線で示した範囲は、図1において7と示した範囲に相当する。図4に示す要領で測定したLcとLdから求められるLc/(Lc+Ld)の割合は、実施例1~5では70%以下であり、多孔質セラミックス積層体に空気を流したときのパーミアンスが3.0×10-63/(m2・sec・Pa)以上、好ましくは7.0×10-63/(m2・sec・Pa)以上であった。また、図5に示す通り、実施例2では、白の実線で囲まれた箇所で前記第1多孔質層中のガラス成分が溶融して前記第2多孔質層中に染み出して固化し、第3の領域が形成されている様子が観察され、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層が良好に接着しており、このことは表1に示した膜強度の結果とも整合している。また、比較例2は、Lc/(Lc+Ld)の割合が70%を超えていたため、比較例3はDa/Dbの値が10よりも小さく、且つLc/(Lc+Ld)の割合が70%を超えていたため、いずれもパーミアンスの値が低下した。
【符号の説明】
【0049】
1 第1多孔質層
2 第2多孔質層
3 空気
4 第2多孔質層の積層方向
5 第1多孔質層1と第2多孔質層2の距離
6 第1多孔質層1と第2多孔質層2の距離が1μm未満である範囲
7 第1多孔質層1と第2多孔質層2の距離が1μm以上である範囲
8 第3の領域
図1
図2
図3
図4
図5