(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】二酸化炭素の固定化方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240704BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240704BHJP
B01D 53/81 20060101ALI20240704BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20240704BHJP
【FI】
B01D53/14 100
B01D53/62 ZAB
B01D53/81
B09B3/70
(21)【出願番号】P 2019024659
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2022-01-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】王 佃超
(72)【発明者】
【氏名】野口 貴文
(72)【発明者】
【氏名】野崎 隆人
(72)【発明者】
【氏名】肥後 康秀
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】宮澤 尚之
【審判官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-59050(JP,A)
【文献】特開平5-184864(JP,A)
【文献】特開平5-212278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/00
B01J20/00
C01B32/50
B09B33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント質硬化体に、400~500℃の温度を有する二酸化炭素含有ガスを接触させて、上記二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を、上記セメント質硬化体に固定化する接触工程を含む二酸化炭素の固定化方法であって、
上記二酸化炭素含有ガスは、炭酸ガスの割合が、体積分率の値として、5%以上のもので
あり、
上記接触工程の前、及び、上記接触工程中に、上記二酸化炭素含有ガスに水分を供給しないことを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
上記二酸化炭素含有ガスが、工場の排ガスである請求項
1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
上記セメント質硬化体が、再生骨材、コンクリートもしくはモルタルからなる建材の廃材、セメントペースト硬化体の廃材、または、レディーミクストコンクリートで発生するスラッジである請求項1
又は2に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項4】
上記セメント質硬化体が、50mm以下の寸法を有する粒状物の形態を有するものである請求項1~
3のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素含有ガス(例えば、工場の排ガス)中の二酸化炭素を固定化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガスに含まれている二酸化炭素を固定化して、大気中への二酸化炭素の排出量を削減するための種々の技術が、知られている。
例えば、特許文献1に、組成としてCaOおよび/またはCa(OH)2を含む固体粒子の集合体に、CO2を含む排ガスを接触させて、排ガス中のCO2を固体粒子にCaCO3として固定することにより、排ガス中のCO2濃度を低減させることを特徴とする排出炭酸ガスの削減方法が、記載されている。該方法によれば、工業プロセス等で発生した排ガス中のCO2を効率的に吸収・除去して、CO2の大気中への排出量を削減することができる。
【0003】
特許文献2に、廃コンクリートを破砕して得た材料を集積し、水分供給して撹拌することで湿潤状態とし、該湿潤状態の材料に、排熱を伴う排気ガスを供給して前記材料を乾燥させ、再度水分供給・材料撹拌と排ガス供給とからなる交互工程を繰り返すことで、前記材料中に前記排気ガス中の二酸化炭素を固定化させることを特徴とする二酸化炭素の固定化方法が、記載されている。該方法によれば、排熱を伴う排ガス中の二酸化炭素の固定化を、廃コンクリートの再生砂を用いて早期に実現することができる。
【0004】
特許文献3に、コンクリート構造物の表面に、水、セメント、混和材料、骨材を含有するコンクリート組成物を硬化して得られ、表層部に空隙を有し、該表層部において大気中の二酸化炭素を固定化する二酸化炭素固定化成型体を備えてなる二酸化炭素固定化コンクリート構造物が、記載されている。該構造物によれば、大気中の二酸化炭素を効果的に固定化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-197810号公報
【文献】特開2009-90198号公報
【文献】特開2008-75391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、二酸化炭素含有ガス(例えば、工場の排ガス)中の二酸化炭素を、簡易にかつ低コストで、しかも効率的に十分な量で固定化することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント質硬化体に二酸化炭素含有ガスを接触させる際に、二酸化炭素含有ガスとして、350℃以上の温度を有するものを用いれば、例えば300℃の温度を有するものを用いた場合に比べて、セメント質硬化体に、二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素を効率的に十分な量で固定化させうることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下の[1]~[5]を提供するものである。
[1] セメント質硬化体に、350℃以上の温度を有する二酸化炭素含有ガスを接触させて、上記二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を、上記セメント質硬化体に固定化する接触工程を含むことを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
[2] 上記接触工程の前、及び、上記接触工程において、上記二酸化炭素含有ガスに水分を供給しない、上記[1]に記載の二酸化炭素の固定化方法。
[3] 上記二酸化炭素含有ガスは、炭酸ガスの割合が、体積分率の値として、5%以上のものである、上記[1]または[2]に記載の二酸化炭素の固定化方法。
[4] 上記二酸化炭素含有ガスが、工場の排ガスである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定化処理方法。
[5] 上記セメント質硬化体が、再生骨材、コンクリートもしくはモルタルからなる建材の廃材、セメントペースト硬化体の廃材、または、レディーミクストコンクリートで発生するスラッジである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、セメント質硬化体に二酸化炭素含有ガス(例えば、工場の排ガス)を接触させる際に、二酸化炭素含有ガスとして、350℃以上の温度を有するものを用いているので、例えば300℃の温度を有するものを用いた場合に比べて、セメント質硬化体に、二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素を効率的に十分な量で固定化することができる。そして、二酸化炭素を固定化することによって、大気中への二酸化炭素の排出量を大きく削減することができる。
また、本発明の方法によれば、セメント質硬化体との接触前または接触中に、二酸化炭素含有ガスに水分を供給して、二酸化炭素含有ガス中の水分量を増大させ、二酸化炭素の固定化を促進させるという操作を行わなくても、セメント質硬化体に二酸化炭素を効率的に十分な量で固定化することができるので、二酸化炭素含有ガスに水分を供給するための手段を設ける必要がなく、低コストで本発明の方法を実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の二酸化炭素の固定化方法は、セメント質硬化体に、350℃以上の温度を有する二酸化炭素含有ガスを接触させて、二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を、セメント質硬化体に固定化する接触工程を含むものである。
本明細書中、セメント質硬化体は、セメント及び水を含む組成物が硬化してなるものを意味し、具体的には、コンクリートからなる硬化体、モルタルからなる硬化体、及び、セメントペーストからなる硬化体のいずれかを意味する。
また、本明細書中、「セメント質硬化体」の語は、完全に硬化した硬化体の他、半硬化の硬化体(換言すると、硬化が進行中のもの)を包含するものとする。
セメント質硬化体としては、廃棄物の利用促進の観点から、再生使用されるセメント硬化体が好ましく用いられる。
再生使用されるセメント質硬化体の例としては、再生骨材や、コンクリートもしくはモルタルからなる建材の廃材や、セメントペースト硬化体の廃材や、レディーミクストコンクリートで発生するスラッジ(完全に硬化したもの、または、脱水処理後の半硬化状態のスラッジ)等が挙げられる。
セメント質硬化体は、二酸化炭素含有ガスとの接触面積を大きくして、固定化される二酸化炭素の量を増大させるために、好ましくは、粒状物の形態を有するものである。
該粒状物の寸法は、好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下、さらに好ましくは30mm以下、さらに好ましくは20mm以下、特に好ましくは10mm以下である。ここで、粒状物の寸法とは、その粒状物の最大寸法(例えば、断面が楕円の形状である場合、長軸の寸法)をいう。
【0011】
本明細書中、二酸化炭素含有ガスは、炭酸ガス(気体であるCO2)を含むガスを意味する。
二酸化炭素含有ガスの例としては、工場の排ガス等が挙げられる。
工場の排ガスとしては、セメント工場の排ガスや、石炭火力発電所の排ガスや、塗装工場における排気処理で発生する排ガス等が挙げられる。
また、工場の排ガスとしては、工場の排ガスから分離及び回収してなる高純度化したガスを用いることもできる。
二酸化炭素含有ガス中の炭酸ガスの割合は、体積分率の値として、好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、特に好ましくは7%以上である。該割合が5%以上であると、固定化される二酸化炭素の量が大きくなり、大気中への二酸化炭素の排出量の削減の効果が大きくなることから、好ましい。
【0012】
本発明で用いる二酸化炭素含有ガス中の水分量は、特に限定されないが、炭酸化のために二酸化炭素含有ガス中の水分量を高めなくても、温度を350℃以上に調整するだけで、例えば300℃に温度を定めた場合に比べて炭酸化率を増大させうるという本発明の効果(特に、水分の供給手段が不要であること)の観点からは、「JIS Z 8808:2013 排ガス中のダスト濃度の測定方法」の「7 排ガス中の水分量の測定」に記載された方法で測定した水分量の値として、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下である。
該水分量は、二酸化炭素含有ガス中の水蒸気の割合であり、体積分率(単位:%)を意味する。
【0013】
本発明において、二酸化炭素含有ガスは、温度が350℃以上であるという条件を満たすものである。
上記温度は、二酸化炭素の固定化の促進の観点からは、好ましくは400℃以上、より好ましくは450℃以上、特に好ましくは500℃以上である。
上記温度は、非常に高温の二酸化炭素含有ガスの入手の困難性の観点からは、好ましくは1,500℃以下、より好ましくは1,200℃以下、特に好ましくは900℃以下である。
【0014】
本発明で用いる二酸化炭素含有ガスの好ましい実施形態例の一つとして、水蒸気、炭酸ガス、及び不活性ガスを含むガスが挙げられる。
不活性ガスの例としては、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
二酸化炭素含有ガス中の不活性ガスの割合は、体積分率の値として、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、特に好ましくは20%以上である。該割合が5%以上であると、このような二酸化炭素含有ガスの入手が容易であることなどから、好ましい。
【0015】
本発明で用いる二酸化炭素含有ガスの他の成分(水蒸気、炭酸ガス及び不活性ガス以外の成分)の例としては、一酸化炭素、炭化水素類、窒素酸化物、硫黄酸化物等が挙げられる。これら他の成分の例示物は、通常、工場の排ガス等に含まれているものである。
二酸化炭素含有ガス中の他の成分の割合は、体積分率の値として、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下である。該割合が30%以下であると、このような二酸化炭素含有ガスの入手が容易であることなどから、好ましい。
【実施例】
【0016】
以下、実施例によって本発明を説明する。ただし、本発明は、実施例によって限定されるものではなく、特許請求の範囲に包含される限りにおいて種々の実施形態を採り得るものである。
【0017】
[実施例1]
(1)セメント質硬化体からなる供試体の作製
早強ポルトランドセメント100質量部と、水70質量部を混合して、セメントペーストを得た後、このセメントペーストを型枠内に充填して、50日間、水で満たした密封容器内で養生して、供試体であるセメントペースト硬化体(寸法:10mm×10mm×2mm)を作製した。
【0018】
(2)二酸化炭素含有ガスとの接触
作製した供試体(セメントペースト硬化体)を、管状電気炉(品番:KTF433、製造元:光洋サーモシステム社)内のアルミナボート上に載置した。次いで、表1に記載された組成を有する二酸化炭素含有ガスを、管状電気炉内に供給し、500℃の温度雰囲気下で60分間、供試体を二酸化炭素含有ガスと接触させて加熱処理した。
なお、実施例1~2及び比較例1における二酸化炭素含有ガスとしては、水分を供給していないものを用いた。管状電気炉にも、水分を供給するための手段は、設けなかった。
また、表1中、「二酸化炭素含有ガスの組成(%)」の欄中の値は、体積分率(%)を表す。「水蒸気」の値は、「JIS Z 8808:2013 排ガス中のダスト濃度の測定方法」の「7 排ガス中の水分量の測定」に記載された方法で測定した水分量(%)を表す。
【0019】
(3)炭酸化率の算出
前記(2)の加熱処理後の供試体(セメントペースト硬化体)について、示差熱・熱重量同時測定装置(TG-DTA)を用いて、480℃から800℃までの質量の減少から、炭酸カルシウムの割合(単位:質量%)を求めた。
ここで、炭酸カルシウムの割合(単位:質量%)は、TG-DTAによる測定後(1000℃に達するまで加熱して測定)の供試体の質量に対する炭酸カルシウムの質量比(換言すると、[炭酸カルシウムの質量]×100/[供試体の質量」;単位:%)を意味する。
なお、TG-DTAにおける480℃から800℃までの質量の減少は、供試体(セメントペースト硬化体)に含まれている炭酸カルシウムが脱炭酸したこと(換言すると、CaCO3がCaOに変化したこと)を示す。つまり、該質量の減少の程度(CO2量)に基いて、脱炭酸前の炭酸カルシウム(CaCO3)の量を算出することができる。
【0020】
一方、未水和セメント中の主要鉱物(エーライト、ビーライト、C3A、C4AF)が完全に炭酸化された場合、未水和セメント100質量%に対する炭酸カルシウムの質量の比(以下、「炭酸カルシウムの理論質量比」ともいう。)は、理論上、113質量%と算出される。
ここで、炭酸カルシウムの理論質量比は、以下の式で表される。
炭酸カルシウムの理論質量比(%)=「未水和セメント中の主要鉱物(エーライト、ビーライト、C3A、C4AF)が完全に炭酸化された場合における炭酸カルシウムの質量」×100÷「未水和セメントの質量」
なお、C3Aは、アルミネート相(3CaO・Al2O3)を意味し、C4AFは、フェライト相(4CaO・Al2O3・Fe2O3)を意味する。
したがって、炭酸化率(%)は、以下の式によって算出することができる。
炭酸化率(%)=「TG-DTAによる測定後(1000℃に達するまで加熱して測定)の供試体の質量に対する炭酸カルシウムの質量比(%)」×100÷「炭酸カルシウムの理論質量比(113%)」
この式を用いて算出した炭酸化率を、表1に示す。
【0021】
[実施例2~4、比較例1]
管状電気炉内の温度、及び、二酸化炭素含有ガスの組成を、表1に記載されているとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
なお、実施例3~4において、二酸化炭素含有ガスとしては、水分を供給して、表1に記載のとおりに水分量(表1中の「水蒸気」参照)を増大させたものを用いた。
以上の結果を表1に示す。
【0022】
【0023】
表1から、実施例1~2では、二酸化炭素含有ガスの温度が350℃以上であるため、比較例1に比べて、炭酸化率の値が大きく、二酸化炭素を効率的に十分な量で固定化していることがわかる。実施例3~4でも、二酸化炭素含有ガスの温度が350℃以上であるため、炭酸化率の値が大きく、二酸化炭素を効率的に十分な量で固定化していることがわかる。
特に、実施例1~2では、二酸化炭素含有ガスとして、水分を供給しないもの(換言すると、水分供給手段を用いて水分量を増大させるという操作を行わなかったもの)を用いているにもかかわらず、実施例3~4(水分を供給して水分量を増大させた二酸化炭素含有ガスを用いた実験例)に比べて同程度の炭酸化率を得ていることがわかる。