(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】乳化殺菌物及びその製造方法、乳化物の殺菌方法
(51)【国際特許分類】
A23L 11/00 20210101AFI20240704BHJP
【FI】
A23L11/00 Z
(21)【出願番号】P 2020157737
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020021823
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(73)【特許権者】
【識別番号】317006214
【氏名又は名称】株式会社Mizkan
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】森下 義高
(72)【発明者】
【氏名】小宮 裕介
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-146555(JP,A)
【文献】特開2002-034503(JP,A)
【文献】特開昭61-063260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 11/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化物を加熱殺菌して得られる乳化殺菌物の製造方法であって、
前記乳化物は、原料として、豆乳、油脂及び食酢を含み、
前記
豆乳に由来する大豆蛋白質を、酸度(酢酸換算)1.0質量%以下となるような食酢の存在下で
加熱変性する第1工程と、
前記第1工程後に、前記原料の全てが含まれた混合物を乳化する第2工程と、
前記第2工程後に、得られた乳化物を加熱殺菌する第3工程と、を備え、
前記第1工程の終了時における第1混合物において、下記S
21
及び下記S
11
から導かれる数値から、2≦S
21
/S
11
≦15を充足することを特徴とする乳化殺菌物の製造方法。
S
21
:第1混合物に含まれる、酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質との合計量に対する、大豆蛋白質の質量割合(質量%)
S
11
:第1混合物に含まれる、酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質との合計量に対する、酸度(酢酸換算)の質量割合(質量%)
【請求項2】
乳化物を加熱殺菌して得られる乳化殺菌物の製造方法であって、
前記乳化物は、原料として、豆乳、油脂及び食酢を含み、
前記
豆乳に由来する大豆蛋白質を、酸度(酢酸換算)1.0質量%以下となるような食酢の存在下で
加熱変性する第1工程と、
前記第1工程後に、前記原料の全てが含まれた混合物を乳化する第2工程と、
前記第2工程後に、得られた乳化物を加熱殺菌する第3工程と、を備え、
前記乳化殺菌物が、下記S
13
、下記S
23
及び下記S
33
から導かれる数値から、2≦S
23
/S
13
≦15及び/又は70≦S
33
/S
13
≦120を充足することを特徴とする乳化殺菌物の製造方法。
S
13
:乳化殺菌物に含まれる酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、酸度(酢酸換算)の質量割合(質量%)
S
23
:乳化殺菌物に含まれる酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、大豆蛋白質量の質量割合(質量%)
S
33
:乳化殺菌物に含まれる酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、油脂の質量割合(質量%)
【請求項3】
前記乳化殺菌物がキサンタンガムを含まない請求項1又は2に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項4】
前記乳化殺菌物が乳化物(但し、大豆を1価又は2価の塩類を含有する水溶液又は熱水溶液を用いて抽出しかつ有機酸を添加してpHを3.5~6.0、塩濃度をイオン強度0.2~4.0に調整し加熱処理された豆乳を水相部として油を乳化した弱酸性乳化物を除く)を加熱殺菌して得られる、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項5】
前記乳化物は、原料としてさらに穀物粉を含み、
前記第3工程における加熱温度が、前記第1工程における加熱温度よりも高い温度である、請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程における加熱温度が、80℃以上である請求項1
乃至5のうちのいずれか1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程における加熱温度が、60℃以上100℃以下である請求項1
乃至5のうちのいずれか1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項8】
前記乳化物が、穀物粉を含む請求項1乃至
7のうちのいずれか
1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項9】
前記穀物粉が、米粉である請求項
8に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項10】
前記乳化物を100質量%とした場合に、前記穀物粉が0.9質量%以下である請求項
8又は9に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項11】
前記油脂は、前記第2工程でのみ配合する請求項1乃至
10のうちのいずれか
1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項12】
前記乳化物を100質量%とした場合に、大豆蛋白質が、1.1質量%以上2.7質量%以下である請求項1乃至
11のうちのいずれか
1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項13】
前記乳化物を100質量%とした場合に、前記油脂が10質量%以上55質量%以下である請求項1乃至
12のうちのいずれか
1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項14】
前記乳化殺菌物における目開き425μmのメッシュ非通過物が15質量%以下である請求項1乃至
13のうちのいずれか
1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項15】
前記乳化殺菌物の酸度(酢酸換算)が0.6質量%以下である請求項1乃至
14のうちのいずれか
1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項16】
25℃にてNo.3ロータを用いたB型粘度計により12rpmで測定される前記乳化殺菌物の粘度が1000cp以上である請求項1乃至
15のうちのいずれか
1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項17】
前記乳化殺菌物のBrixが2以上30以下である請求項1乃至
16のうちのいずれか
1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項18】
前記乳化殺菌物のpHが3.0以上5.0以下である請求項1乃至
17のうちのいずれか
1項に記載の乳化殺菌物の製造方法。
【請求項19】
請求項1乃至
18のうちのいずれか
1項に記載の乳化殺菌物の製造方法により得られたことを特徴とする乳化殺菌物。
【請求項20】
豆乳、油脂及び食酢を含む乳化物が加熱殺菌された乳化殺菌物であって、
酸度(酢酸換算)が1.0質量%以下となる量の前記食酢の存在下で
、前記豆乳に由来する大豆蛋白を加熱
変性した加熱
変性豆乳を含
み、
前記乳化殺菌物が、下記S
13
、下記S
23
及び下記S
33
から導かれる数値から、2≦S
23
/S
13
≦15及び/又は70≦S
33
/S
13
≦120を充足することを特徴とする乳化殺菌物。
S
13
:乳化殺菌物に含まれる酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、酸度(酢酸換算)の質量割合(質量%)
S
23
:乳化殺菌物に含まれる酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、大豆蛋白質量の質量割合(質量%)
S
33
:乳化殺菌物に含まれる酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、油脂の質量割合(質量%)
【請求項21】
前記乳化殺菌物が、キサンタンガムを含まない請求項20に記載の乳化殺菌物。
【請求項22】
前記乳化物殺菌物が、豆乳、油脂及び食酢を含む乳化物(但し、大豆を1価又は2価の塩類を含有する水溶液又は熱水溶液を用いて抽出しかつ有機酸を添加してpHを3.5~6.0、塩濃度をイオン強度0.2~4.0に調整し加熱処理された豆乳を水相部として油を乳化した弱酸性乳化物を除く)が加熱殺菌された、請求項20又は21に記載の乳化殺菌物。
【請求項23】
前記乳化殺菌物における目開き425μmのメッシュ非通過物が15質量%以下である請求項
20乃至22のうちのいずれか1項に記載の乳化殺菌物。
【請求項24】
乳化物を加熱殺菌する方法であって、
前記乳化物は、原料として、豆乳、油脂及び食酢を含み、
加熱殺菌した乳化物の酸度(酢酸換算)が1.0質量%以下となる量の前記食酢の存在下で、前記豆乳
に由来する大豆蛋白を加熱
変性する第1工程と、
前記第1工程後に、前記原料の全てが含まれた混合物を乳化する第2工程と、
前記第2工程後に、得られた乳化物を加熱殺菌する第3工程と、を備え、
前記第1工程の終了時における第1混合物において、下記S
21
及び下記S
11
から導かれる数値から、2≦S
21
/S
11
≦15を充足することを特徴とする乳化物の殺菌方法。
S
21
:第1混合物に含まれる、酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質との合計量に対する、大豆蛋白質の質量割合(質量%)
S
11
:第1混合物に含まれる、酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質との合計量に対する、酸度(酢酸換算)の質量割合(質量%)
【請求項25】
乳化物を加熱殺菌する方法であって、
前記乳化物は、原料として、豆乳、油脂及び食酢を含み、
加熱殺菌した乳化物の酸度(酢酸換算)が1.0質量%以下となる量の前記食酢の存在下で、前記豆乳
に由来する大豆蛋白を加熱
変性する第1工程と、
前記第1工程後に、前記原料の全てが含まれた混合物を乳化する第2工程と、
前記第2工程後に、得られた乳化物を加熱殺菌する第3工程と、を備え、
前記加熱殺菌した乳化物が、下記S
13
、下記S
23
及び下記S
33
から導かれる数値から、2≦S
23
/S
13
≦15及び/又は70≦S
33
/S
13
≦120を充足することを特徴とする乳化物の殺菌方法。
S
13
:殺菌乳化物に含まれる酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、酸度(酢酸換算)の質量割合(質量%)
S
23
:殺菌乳化物に含まれる酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、大豆蛋白質量の質量割合(質量%)
S
33
:殺菌乳化物に含まれる酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、油脂の質量割合(質量%)
【請求項26】
前記乳化物がキサンタンガムを含まない請求項24又は25に記載の乳化物の殺菌方法。
【請求項27】
前記乳化物が、大豆を1価又は2価の塩類を含有する水溶液又は熱水溶液を用いて抽出しかつ有機酸を添加してpHを3.5~6.0、塩濃度をイオン強度0.2~4.0に調整し加熱処理された豆乳を水相部として油を乳化した弱酸性乳化物を除く乳化物である、請求項24乃至26のうちのいずれか1項に記載の乳化物の殺菌方法。
【請求項28】
前記乳化物は、原料としてさらに穀物粉を含み、
前記第3工程における加熱温度が、前記第1工程における加熱温度よりも高い温度である請求項24乃至27のうちのいずれか1項に記載の乳化物の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化殺菌物及びその製造方法、乳化物の殺菌方法に関する。更に詳しくは、豆乳、油脂及び食酢を含んだ乳化殺菌物及びその製造方法、豆乳、油脂及び食酢を含んだ乳化物の殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりから、食品分野では、乳成分として植物由来原料を利用する要望が増えている。例えば、豆乳と油脂とを用いて乳化物を得ようとする試みがある。このような試みとして下記特許文献1~3が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭59-146555号公報
【文献】特開2002-034503号公報
【文献】特開2018-042520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、豆乳を用いた乳化組成物の製造方法が開示されている。具体的には、マヨネーズ様調味料やクリームチーズ様食品を製造する方法の開示がある(第3頁右下欄~第4頁右下欄)。一方で、特許文献1には、加熱殺菌に関する記載はなく、加熱殺菌に伴って生じる問題やその対策についての記載はない。
上記特許文献2には、マヨネーズ様調味料を製造する方法が開示されている(段落[0023]~[0028])。更に、特許文献2には、「乳化工程で得られた乳化物は加熱殺菌し、冷却される。加熱殺菌の条件は65~85℃、40~60分程度である」(段落[0018])との記載がある。一方で、特許文献2には、加熱殺菌を行うと問題を生じることや、その対策については記載及び示唆がない。
【0005】
また、上記特許文献3には、ホイップドクリームやコーヒーホワイトナー等に利用できる豆乳を用いた水中油型乳化物を製造する方法が開示されている(段落[0055]~[0141])。しかしながら、加熱殺菌については、種々の例のうち、比較例9においてのみ「袋に入れてボイル殺菌(85℃、60分)」したと記載されている(段落[0133])。一方で、特許文献3には、加熱殺菌を行うと問題を生じることや、その対策については記載及び示唆がない。
実際のところ、豆乳を用いた乳化物に対して加熱殺菌を行うと、加熱殺菌に伴って粗粒物が生成され、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を実現できないという問題を生じている。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、豆乳を用いた乳化物において、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を得ようとする場合に、加熱殺菌により生じる食感阻害を抑制又は防止できる乳化殺菌物の製造方法及び乳化物の殺菌方法を提供することを目的とする。更に、このようにして得られ乳化殺菌物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、乳成分として豆乳を利用し、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を有する乳化物を得ようとした。ところが、豆乳と食酢と油脂とを含んだ乳化物は離水しやすく扱い難いものであった。更に、常法により得られる乳化物を加熱殺菌すると、加熱に伴って粗粒物を生じてしまい、目的とする滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感が阻害されることを知見した。そこで、この粗粒物による食感阻害を解消するため、種々の方法の検討を行った。その結果、食酢の存在下で豆乳を加熱する工程(第1工程)を設けたうえで、必要な成分を混合した混合物を乳化し(第2工程)、その後、加熱殺菌(第3工程)した場合には、上記問題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、以下に示される。
[1]本発明の乳化殺菌物の製造方法は、乳化物を加熱殺菌して得られる乳化殺菌物の製造方法であって、
前記乳化物は、原料として、豆乳、油脂及び食酢を含み、
前記食酢の存在下で、前記豆乳を加熱する第1工程と、
前記第1工程後に、前記原料の全てが含まれた混合物を乳化する第2工程と、
前記第2工程後に、得られた乳化物を加熱殺菌する第3工程と、を備えることを特徴とする。
[2]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記第1工程における加熱温度を80℃以上にすることができる。
[3]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記第3工程における加熱温度と実質的に同じであるか、又は、前記第1工程における加熱温度を、前記第1工程における加熱温度を越えない温度にすることができる。
[4]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記第1工程における加熱温度を60℃以上100℃以下にすることができる。
[5]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記乳化物が、穀物粉を含むものとすることができる。
[6]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記油脂は、前記第2工程でのみ配合することができる。
[7]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記乳化物を100質量%とした場合に、大豆蛋白質を、1.1質量%以上2.7質量%以下にすることができる。
[8]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記乳化物を100質量%とした場合に、前記油脂を10質量%以上55質量%以下にすることができる。
[9]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記乳化殺菌物における目開き425μmのメッシュ非通過物を15質量%以下にすることができる。
[10]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記乳化殺菌物の酸度(酢酸換算)を0.1質量%以上1.0質量%以下にすることができる。
[11]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、25℃にてNo.3ロータを用いたB型粘度計により12rpmで測定される前記乳化殺菌物の粘度を1000cp以上にすることができる。
[12]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記乳化殺菌物のBrixを2以上30以下にすることができる。
[13]本発明の乳化殺菌物の製造方法では、前記乳化殺菌物のpHを3.0以上5.0以下にすることができる。
[14]本発明の乳化殺菌物は、前記本発明の乳化殺菌物の製造方法により得られたことを特徴とする。
[15]本発明の乳化殺菌物は、豆乳、油脂及び食酢を含む乳化物が加熱殺菌された乳化殺菌物であって、
前記食酢の存在下で加熱された加熱豆乳を含むことを特徴とする。
[16]本発明の乳化殺菌物では、前記乳化殺菌物における目開き425μmのメッシュ非通過物を15質量%以下にすることができる。
[17]本発明の乳化物の殺菌方法は、乳化物を加熱殺菌する方法であって、
前記乳化物は、原料として、豆乳、油脂及び食酢を含み、前記食酢の存在下で、前記豆乳を加熱する第1工程と、
前記第1工程後に、前記原料の全てが含まれた混合物を乳化する第2工程と、
前記第2工程後に、得られた乳化物を加熱殺菌する第3工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の乳化殺菌物の製造方法によれば、加熱殺菌による食感阻害を抑制又は防止しながら、豆乳を用いた乳化物において滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を実現できる。
本発明の乳化殺菌物によれば、加熱殺菌による食感阻害を抑制又は防止しながら、豆乳を用いた乳化物において滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を実現できる。
本発明の乳化物の殺菌方法によれば、加熱殺菌による食感阻害を抑制又は防止しながら、豆乳を用いた乳化物において滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]乳化殺菌物の製造方法
本発明の乳化殺菌物の製造方法は、原料として、豆乳、油脂及び食酢を含んだ乳化物を加熱殺菌して得られる乳化殺菌物の製造方法であって、
食酢の存在下で豆乳を加熱する第1工程と、
第1工程後に、原料の全てが含まれた混合物を乳化する第2工程と、
第2工程後に、得られた乳化物を加熱殺菌する第3工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本方法において「第1工程」は、食酢の存在下で豆乳を加熱する工程である。即ち、少なくとも食酢と豆乳とを含んだ混合物(以下、単に「第1混合物」ともいう)を加熱する工程である。
この第1混合物は、第1工程の完了までに食酢を含むことができればよい。即ち、予め食酢が含まれた豆乳を加熱することにより第1工程を行ってもよいし、豆乳が含まれない食酢を加熱しながら、食酢に豆乳を加えることにより第1工程を行ってもよいし、食酢が含まれない豆乳を加熱しながら、豆乳に食酢を加えることによって第1工程を行ってもよい。
また、予め食酢が含まれた豆乳を加熱して第1工程を行う場合には、乳化殺菌物に含まれることとなる食酢の全量が予め含まれた第1混合物を加熱してもよいし、乳化殺菌物に含まれることとなる食酢の一部のみが含まれた第1混合物を加熱し、第1工程以降に他部の食酢を添加してもよいし、乳化殺菌物に含まれることとなる食酢の一部のみが含まれた第1混合物を加熱し、第1工程内において食酢の全量を添加してもよい。
これらのなかでは、第1工程完了前に、食酢の全量が第1混合物に含まれていることが好ましい。これにより、第1工程以降にも食酢を配合する場合と比べて、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を有する乳化殺菌物を得ることができる。
【0012】
第1工程で用いる食酢には、どのような食酢を用いてもよい。食酢には、醸造酢及び合成酢が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
このうち、醸造酢は、通常、穀物類、果汁類、芋類、糖蜜類、醸造アルコール等を原料とし、酢酸発酵を利用して得られた酢である。例えば、穀物酢(米酢、玄米酢、黒酢、粕酢、麦芽酢、はと麦酢、モルト酢、大豆酢等)、果実酢(りんご酢、ぶどう酢、レモン酢、カボス酢、梅酢、ワイン酢、バルサミコ酢、シェリー酢、シャンパン酢等)、酒精酢、中国酢等が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、合成酢には、氷酢酸及び/又は酢酸の希釈液、この希釈液を調味した液等が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
尚、食酢は、第1混合物において、原料時の状態を維持しているか否かを問わない。同様に、後述する第2混合物、後述する殺菌前乳化物、及び、後述する乳化殺菌物においても同様に、原料時の状態を維持しているか否かを問わない。
【0013】
また、第1工程で用いる豆乳には、どのような豆乳を用いてもよい。豆乳は、通常、擦り潰した含水大豆を煮てなる混合物から濾別された濾液、又は、この濾液を含んだ液状物である。より具体的には、含水大豆を擦り潰して第1流状物を得た後、第1流状物に水を加えて煮詰めて第2流状物を得る。その後、第2流状物を濾過して得られる濾液、又は、この濾液を含んだ液状物である。
この豆乳の調製に利用される含水大豆には、大豆を水に浸漬して膨潤させた物や、大豆を蒸煮して得られた物が含まれる。更に、含水大豆として用いる大豆は、丸大豆、大豆破砕物、大豆粉砕物等のいずれでもよく、これらの混合物であってもよい。
また、原料としての豆乳には、無調整豆乳(大豆たん白質含有率が3.8%以上の豆乳)、調整豆乳(大豆たん白質含有率が3.0%以上の豆乳)、豆乳飲料(大豆たん白質含有率が0.9%以上の豆乳)が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更には、無調整豆乳、調整豆乳及び/又は豆乳飲料の水分を低減した流状物も含まれる。
尚、豆乳は、第1混合物において、原料時の状態を維持しているか否かを問わない。同様に、後述する第2混合物、後述する殺菌前乳化物、及び、後述する乳化殺菌物においても同様に、原料時の状態を維持しているか否かを問わない。
【0014】
第1工程で加熱する第1混合物には、前述の通り、食酢と豆乳とが含まれればよいが、例えば、第1工程の終了時における第1混合物において、第1混合物に含まれる、酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質との合計量に対する、酸度(酢酸換算)の質量割合をS11質量%とし、大豆蛋白質の質量割合をS21質量%とした場合に、S21/S11は、1.1≦S21/S11≦27であることが好ましく、2≦S21/S11≦15がより好ましく、3≦S21/S11≦10が更に好ましい。
尚、第1工程で用いる第1混合物には、乳化殺菌物に含まれる豆乳全量が含まれてもよいが、一部のみ含まれてもよい。即ち、例えば、乳化殺菌物に含まれる大豆蛋白質量をP3(g)とし、第1混合物に含まれる大豆蛋白質量をP1(g)とした場合、0.5<P1/P3≦1とすることができ、0.6≦P1/P3≦0.9とすることができる。
【0015】
尚、上述の通り、本明細書では、便宜的に、対象物(第1混合物、第2混合物、殺菌前乳化物、乳化殺菌物等)に含まれる全種類の酸を総称して「酸度」と表現する。即ち、「酸度」は、対象物に含まれる酸であって、後述の酸度測定手順により測定される酸の全種類を含む意味である。また、その含有量である「酸度(酢酸換算)」は、後述の酸度測定手順により測定される酸の全量が酢酸であるとみなした質量割合(質量%)である。
更には、第1工程完了時における第1混合物のpHは限定されないものの、例えば、5.0以下とすることができる。一方、pHは3.0以上にすることができる。
【0016】
第1工程における加熱温度T1は限定されないが、60℃以上(更には70℃以上)であることが好ましい。この温度T1を60℃以上(更には70℃以上)にすることで、第3工程における加熱殺菌時に粗粒物を生じることを防止又は抑制できる。即ち、第2工程前(乳化前)に豆乳に由来する大豆蛋白質を食酢の存在下で加熱変性させることができる。より具体的には、第1工程における加熱は、その過程で、60℃以上(更には70℃未満)で加熱することがあってもよいが、60℃以上(更には70℃以上)で加熱する時間を有することが好ましい。即ち、上述の温度T1は、第1工程における最高到達温度T1であるといえる。この温度T1で加熱する時間は限定されないが、60秒以上であることが好ましく、120秒以上がより好ましく、240秒以上が更に好ましい。この温度T1で加熱する時間の上限は限定されないが、通常、3600秒超とすることは不要である。即ち、3600秒以下(60分以下)とすることができる。更には、加熱時間は、600秒以下にすることができ、420秒以下にすることが好ましい。
【0017】
一方で、第1工程における加熱時の温度T1は120℃以下とすることが好ましい。温度T1が120℃を超えて高いと乳化物の風味が損なわれる場合がある。この温度T1は、更に、60℃以上100℃以下とすることができ、更に75℃以上100℃以下とすることができる。また、所望により、60℃以上80℃以下とすることができるし、80℃以上98℃以下(更には85℃以上95℃以下)とすることができる。これらの温度範囲では、第3工程における加熱殺菌時に粗粒物を生じることをより効果的に防止又は抑制することができ、より滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感の乳化殺菌物を実現できる。
尚、これらの温度範囲においても、前述の加熱時間を確保することが望ましい。
また、種々条件によって、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を実現しつつも、僅かな油分の分離を生じる場合や、得られる乳化殺菌物の粘度低下を生じる場合が有り得る。このような場合は、上記温度T1のなかでも、特に60℃以上100℃以下の温度範囲を選択することが好ましい。この態様については後述する。
【0018】
また、第1工程における加熱温度T1は、第3工程における加熱殺菌温度T3と実質的に同じか、又は、第3工程における加熱殺菌温度T3よりも低いことが好ましい。即ち、第1工程における温度T1は、第3工程における加熱殺菌時の温度T3と実質的に同じであるか、それよりも低いことが好ましい。より具体的には、-5≦T1-T3(℃)≦50であることが好ましい。温度T1と温度T3との差異をこの範囲に留めることにより、第3工程において粗粒物が発生することをより効果的に防止又は抑制でき、より滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感の乳化殺菌物を実現できる。この温度差は、更に、-3≦T1-T3(℃)≦40がより好ましく、-2≦T1-T3(℃)≦30が更に好ましい。
【0019】
更に、第1混合物には、食酢と豆乳とが含まれていればよく、油脂は含有させてもよく、含有しなくてもよいが、第3工程において粗粒物が発生することを防止又は抑制し、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感の乳化殺菌物を得る目的においては、第1混合物(第1工程で加熱する混合物)に、油脂は含有されないか、含有されても少ないことが好ましい。より具体的には、第1混合物に含まれる酸度(酢酸換算)の全量を100質量部とした場合に、第1混合物に含まれる油脂は0質量部であるか、又は、100質量部以下であることが好ましい。
【0020】
原料としての油脂(食用油脂)には、どのような油脂を用いてもよい。油脂には、植物性油脂及び動物性油脂が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。このうち、植物性油脂としては、菜種油(キャノーラ油及び非キャノーラ油を含む)、大豆油、紅花油(サフラワー油)、コーン油、ひまわり油、こめ油(米糠油)、綿実油、ヤシ油(パーム核油)、パーム油、オリーブ油、ごま油、椿油、エゴマ油、アマニ油、アボカドオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、各種ナッツオイル(落花生油、アーモンドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル)、サラダ油等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。他方、動物性油脂としては、豚脂(ラード)、牛脂、鶏脂、羊脂、魚油、鯨油等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
これらのなかでも、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を得るという観点から、常温(25℃)において液状を呈する植物性油脂が好ましく、更には、風味、香りなどの観点から、菜種油、大豆油、パーム油、サラダ油が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
尚、油脂は、第1混合物に含まれる場合、第1混合物において原料時の状態を維持しているか否かを問わない。同様に、後述する第2混合物、後述する殺菌前乳化物、及び、後述する乳化殺菌物においても同様に、原料時の状態を維持しているか否かを問わない。
【0022】
第1工程で加熱する第1混合物には、前述の通り、食酢と豆乳とが含まれればよいが、油脂が含まれる場合には、第1工程の終了時の第1混合物において、第1混合物に含まれる、酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、酸度(酢酸換算)の質量割合をS11質量%とし、油脂の質量割合をS31質量%とした場合に、S31/S11は、0<S31/S11≦550であることが好ましく、10≦S31/S11≦200がより好ましく、50≦S31/S11≦150が更に好ましい。
【0023】
本方法において「第2工程」は、原料の全てが含まれた混合物(以下、単に「第2混合物」ともいう)を乳化する工程である。
この第2混合物は、第2工程の完了までに用いる豆乳、食酢及び油脂の全量を含むことができればよい。即ち、結果として、第2工程の終了までに、得られる乳化物に豆乳、食酢及び油脂の全量が含まれればよい。
尚、この第2工程を経て得られる乳化物は、殺菌前の乳化物であるため、第3工程を経て得られる乳化殺菌物と区別するために、以下、「殺菌前乳化物」ともいう。
【0024】
従って、例えば、(1)第1工程の完了までに必要な豆乳、食酢及び油脂の全量が含まれた第1混合物が形成されており、この第1混合物を、そのまま第2混合物として用いて第2工程の乳化を行うことができる。
また、(2)第1工程を経て豆乳と食酢との全量が含まれた第1混合物(油脂が含まれない)が形成されており、この第1混合物に油脂の全量を添加して第2混合物を形成し、この第2混合物を第2工程で乳化することができる。
更に、(3)第1工程を経て豆乳と食酢との全量が含まれた第1混合物(油脂が含まれない)が形成されており、この第1混合物を第2混合物として用いて、第2工程の乳化を開始し、乳化過程で油脂を添加して、第2工程の完了までに殺菌前乳化物内に油脂全量が含まれた状態にすることができる。
本方法では、上記(1)~(3)のなかでは、(2)又は(3)が好ましい。即ち、本方法では、油脂は第2工程でのみ配合することが好ましい。
【0025】
第2工程を経て得られる殺菌前乳化物に含まれる豆乳、食酢及び油脂は限定されない。例えば、殺菌前乳化物に含まれる、酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、酸度(酢酸換算)の質量割合をS12質量%とし、大豆蛋白質量の質量割合をS22質量%とし、油脂の質量割合をS32質量%とした場合に、S22/S12は、1.1≦S22/S12≦27とすることができ、3≦S22/S12≦15とすることができ、5≦S22/S12≦10とすることができる。更に、S32/S12は、10≦S32/S12≦550とすることができ、25≦S32/S12≦500とすることができ、50≦S32/S12≦150とすることができる。
【0026】
第2工程における乳化は、どのように行ってもよい。即ち、乳化により殺菌前乳化物を得ることができればよく、その方法及び利用する装置は限定されないが、例えば、第2工程では、乳化を行うために、乳化機、撹拌機、ミキサ(ホモミキサ等を含む)、ホモジナイザ(高圧ホモジナイザ、超音波ホモジナイザ、高速ホモジナイザ等を含む)、ブレンダ、ミル(媒体撹拌ミル、コロイドミル、ロールミル、ジェットミル、ハンマーミル、容器駆動ミルを含む)、磨砕機等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0027】
尚、上記のうち、乳化機としては、キャビトロン CD-1000型(ユーロテック社製)が挙げられる。また、ブレンダとしては、ブラウンマルチクイック(ハンドブレンダ)Type 4199(デロンギ社製)が挙げられる。また、媒体撹拌ミルには、湿式媒体撹拌ミルが含まれる。更に、湿式媒体撹拌ミルには、ビーズミル及びボールミルが含まれる。容器駆動ミル(回転ミル)には、転動式、振動式、遊星式等の各種の容器駆動ミルが含まれる。また、ジェットミルには、例えば、品名「スターバースト」のような衝突機構を利用した装置が含まれる。
【0028】
本方法において「第3工程」は、第2工程により得られた殺菌前乳化物を加熱殺菌する工程である。
第3工程における加熱殺菌温度T3は限定されないが、75℃以上であることが好ましい。この温度T3を75℃以上にすることで、乳化物を十分に殺菌することができる。より具体的には、第3工程における加熱殺菌は、その過程で、75℃未満で加熱殺菌することがあってもよいが、75℃以上で加熱殺菌する時間を有することが好ましい。即ち、上述の温度T3は、第3工程における最高到達温度T3であるといえる。この温度T3で加熱殺菌する時間(温度T3を維持する時間)は限定されず、温度に依存して変動するが、1秒以上であることが好ましく、10秒以上がより好ましく、30秒以上が更に好ましい。温度T3で加熱する時間は、更に、180秒以上が好ましく、420秒以上がより好まし。温度T3で加熱する時間の上限は限定されないが、通常、3600秒超とすることは不要である。即ち、3600秒以下(60分以下)とすることができる。更には、加熱殺菌する時間は、1200秒以下にすることができ、900秒以下にすることが好ましい。
【0029】
一方で、第3工程における加熱殺菌時の温度T3は120℃以下とすることが好ましい。温度T3が120℃を超えて高いと、凝集物ができることが多くなる傾向にあり、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を得るという観点からは、食感が低下する傾向にある。この温度T3は、更に、75℃以上100℃以下が好ましく、80℃以上98℃以下がより好ましく、85℃以上95℃以下が更に好ましい。これら好ましい温度範囲では、乳化物を十分に殺菌しつつも、加熱殺菌時に粗粒物を生じることをより効果的に防止又は抑制することができ、より滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感の乳化殺菌物を実現できる。尚、これらの好ましい温度範囲においても、前述の通りの好ましい加熱時間を確保することが望ましい。
【0030】
また、前述の通り、第3工程における温度T3は、第1工程における温度T1と実質的に同じか、又は、第1工程における温度T1よりも高いことが好ましい。即ち、第3工程における加熱殺菌時の温度T3は、第1工程における加熱時の温度T1と実質的に同じであるか、それよりも高いことが好ましい。より具体的には、-5≦T1-T3(℃)≦50であることが好ましい。温度T3と温度T1との差異をこの範囲に留めることにより、第3工程において、乳化物を十分に殺菌しつつも、粗粒物が発生することをより効果的に防止又は抑制でき、より滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感の乳化殺菌物を実現できる。この温度差は、更に、-3≦T1-T3(℃)≦40がより好ましく、-2≦T1-T3(℃)≦30が更に好ましい。
尚、第3工程において、加熱殺菌は、個装前に行ってもよいが、個装した後、個装品に対して行うことができる。
【0031】
本方法では、第1工程、第2工程及び第3工程の各工程以外に、更に他の工程を設けることができる。他の工程としては、充填工程、梱包工程、移送工程等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0032】
更に、本方法では、第1工程、第2工程及び第3工程の各工程において、豆乳、食酢及び油脂以外にも、他の成分を配合することができる。
他の成分としては、果汁が挙げられる。果汁としては、適度な酸味と糖分とを有する果汁が好ましく、具体的には、ぶどう(黒系品種(巨峰、ピオーネ、ナガノパープル、藤稔、スチューベン)、白系品種(シャインマスカット、翠峰、ナイアガラ、アレキサンドリア)等を含む)、みかん、りんご、桃、いちご、梨、バナナ、メロン、キウイ、レモン、パイナップル、グレープフルーツ、カシス、アセロラ、ブルーベリー、アプリコット、グアバ、プラム、マンゴー、パパイヤ、ライチ等の果物に由来する果汁が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0033】
果汁を配合する場合、第1工程で配合してもよいし、第2工程で配合してもよいし、第3工程で配合してもよいし、その他の工程を備える場合にはその他工程で配合してもよい。これらのなかでは、第1工程で配合することが好ましい。加熱殺菌時に粗粒物を生じることをより効果的に防止又は抑制し、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感の乳化殺菌物を実現できる。
【0034】
更に、果汁以外の他成分としては、塩類が挙げられる。塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。塩類を配合する場合、塩類そのものを用いてもよいが、塩類を含有する成分を用いてもよい。塩類を含有する成分は限定されないが、例えば、精製海水、岩塩等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0035】
塩類を配合する場合、第1工程で配合してもよいし、第2工程で配合してもよいし、第3工程で配合してもよいし、その他の工程を備える場合にはその他工程で配合してもよい。これらのなかでは、第1工程で配合することが好ましい。これにより、加熱殺菌時に粗粒物を生じることをより効果的に防止又は抑制し、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感の乳化殺菌物を実現できる。
【0036】
更に、果汁及び塩類以外の他成分としては、穀物粉が挙げられる。穀物粉は、澱粉の添加を目的として配合する成分である。穀物粉としては、穀物(未加工穀物)を粉末化したもの、穀物の加工物を粉末化したもの、更には、これらの粉末化したものの加工物が含まれる。
また、上述の穀物は、澱粉を含む植物由来物である。本発明においては、この植物には、イネ科植物、マメ科植物、イモ科植物等を含むものとする。従って、穀物としては、米(うるち米及びもち米を含む)、トウモロコシ、小麦、サツマイモ、ジャガイモ、タピオカ等を挙げることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。即ち、穀物粉としては、米粉(新粉、上新粉、上用粉、餅粉、白玉粉等が含まれる)、とうもろこし粉(コーンミール、コーンパウダ、コーンスターチ、コーングリッツ等が含まれる)、小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉、全粒粉等が含まれる)、馬鈴薯粉(馬鈴薯澱粉、ジャガイモパウダー)、サツマイモ粉(サツマイモ澱粉)、タピオカ粉(タピオカ澱粉)、澱粉(由来穀物を問わない澱粉)等が含まれる。
【0037】
また、上述の加工としては、膨化処理、糊化処理(α化処理)、加熱処理、焙焼処理、漂白処理、化学処理等が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、化学処理には、酢酸化、リン酸化、エーテル化、架橋等が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
即ち、加工穀物粉としては、加工米粉(寒梅粉、みじん粉、道明寺、落雁粉、上南粉等が含まれる)、加工トウモロコシ澱粉、加工小麦粉澱粉、加工馬鈴薯澱粉、加工サツマイモ澱粉、加工タピオカ澱粉等が挙げられる。
【0038】
上述のなかでは、加工穀物粉を好適に用いることができ、なかでも、糊化処理と同時又は糊化処理後に加熱処理が施された穀物粉を好適に用いることができる。これらの加工穀物粉は、再度膨潤の必要性がないからである。
【0039】
穀物粉を配合する場合、第1工程で配合してもよいし、第2工程で配合してもよいし、第3工程で配合してもよいし、その他の工程を備える場合にはその他工程で配合してもよい。穀物粉の配合により、加熱殺菌による食感阻害を抑制又は防止しながら、豆乳を用いた乳化物において滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を実現できる。
更に、穀物粉を配合する場合、その配合量(乳化殺菌物に含まれる穀物粉の量)は限定されないが、例えば、乳化殺菌物全体を100質量%とした場合に、0.05質量%以上1.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上0.9質量%以下が更に好ましい。
【0040】
その他、本方法では、例えば、野菜類、果実類などの固形物、糖類(例えばブドウ糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖等)、糖アルコール(例えばキシリトール、エリスリトール、マルチトール等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リノシール酸エステル、キラヤ抽出物、ダイズサポニン、チャ種子サポニン、ショ糖脂肪酸エステル等)、人工甘味料(例えばスクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK等)、ミネラル(例えばカルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの塩類等)、香料、pH調整剤(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び酢酸等)、シクロデキストリン、酸化防止剤(例えばビタミンE、ビタミンC、茶抽出物、生コーヒー豆抽出物、クロロゲン酸、香辛料抽出物、カフェ酸、ローズマリー抽出物、ビタミンCパルミテート、ルチン、ケルセチン、ヤマモモ抽出物、ゴマ抽出物等)、着色料、増粘安定剤等を配合できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0041】
一方で、本方法では、食品添加物の利用を排除又は低減できる。例えば、前述した特許文献3は、豆乳を用いた水中油型乳化物は、乳化剤、日持ち向上剤及びタンパク質変性防止剤等の食品添加物を用いて実現されているが、近年は、食品添加物の低減を求める要求が大きくなっているという事情が存在する。この点、本方法による乳化殺菌物では、豆乳を用いた乳化物でありながら、乳化剤、日持ち向上剤及びタンパク質変性防止剤等の食品添加物を利用することなく製造することができる。その他にも、人口甘味料、pH調整剤、増粘安定剤等の食品添加物を配合しないものとすることができる。即ち、本方法によれば、上述するような食品添加物を実質的に含有しない乳化殺菌物にできる。具体的には、乳化殺菌物全体を100質量%とした場合に、乳化剤、日持ち向上剤、タンパク質変性防止剤、人口甘味料、pH調整剤及び増粘安定剤の合計含有量を1質量%以下又は0質量%に抑制することができる。
【0042】
本方法により得られる乳化殺菌物の酸度(酢酸換算)は限定されないが、0.1%質量以上1.0質量%以下にすることができる。この酸度は、更に、0.15質量%以上0.8%質量以下にすることができ、0.2質量%以上0.6質量%以下にすることができ、0.21質量%以上0.5質量%以下にすることができる。尚、酸度は、醸造酢の日本農林規格第4条に準拠して滴定法で測定される。
【0043】
本方法により得られる乳化殺菌物のpHは限定されないが、3.0以上5.0以下にすることができる。このpHは、更に、3.5以上4.9以下にすることができ、4.0以上4.8以下にすることができる。尚、pHの測定方法には特に制限はないが、ガラス電極法により測定するのが簡便であり、測定可能な機器としてLAQUA(堀場製作所製)が挙げられる。
【0044】
本方法により得られる乳化殺菌物のBrixは限定されないが、2以上30以下にすることができる。このBrixは、更に、2.5以上25.0以下にすることができ、3.0以上23.0以下にすることができ、3.1以上20.0以下にすることができる。尚、Brixの測定法には特に制限はないが、糖度計による測定が簡便であり、測定可能な機器としてPR201-R(アタゴ製)が例示できる。
【0045】
本方法により得られる乳化殺菌物の粘度は限定されないが、25℃にてNo.3ロータを用いたB型粘度計により12rpmで測定される粘度において1000cp以上にすることができる。この粘度は、更に、2000cp以上10000cp以下にすることができ、3000cp以上9000cp以下にすることができ、4500cp以上8000cp以下にすることができる。
【0046】
本方法により得られる乳化殺菌物は、前述の通り、加熱殺菌されていながら、豆乳を用いた乳化物において、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を得ることができる。とりわけ、加熱殺菌により生じる粗粒物の含有を防止又は抑制できる。この粗粒物の具体的形態は限定されないが、例えば、目開き425μmのメッシュ非通過物が挙げられる。そして、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感とは、このような粗粒物が認められない又は少ないことにより達成できる。具体的には、本方法による乳化殺菌物では、乳化殺菌物全体を100質量%とした場合に、目開き425μmのメッシュ非通過物を、15質量%以下(下限は0質量%)にすることができる。このメッシュ非通過物は、更に12質量%以下にすることができ、10質量%以下にすることができる。
このメッシュ非通過物の割合は下記方法により測定できる。即ち、乳化殺菌物又はその希釈物を自然落下させて、目開き425μmのメッシュに通過させた後、当該メッシュ上に残存された凝集物(即ち、メッシュ非通過物)の質量を測定し、乳化殺菌物の全質量に対するメッシュ非通過物の質量割合を算出する。
【0047】
前述の通り、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感を実現しつつも、僅かな油分の分離を生じる場合や、得られる乳化殺菌物の粘度低下を生じる場合には、下記〈1〉及び/又は下記〈2〉を行うことによって、上記問題を解消できる。
〈1〉第1工程における加熱温度T1を60℃以上100℃以下にする。
前述の通り、第1工程における温度T1は60℃以上120℃以下にでき、そのなかでも、温度T1は60℃以上100℃以下にすることができる。これは、例えば、第2工程で得られた殺菌前乳化物を、第3工程へ供するまでに時間を要する場合に有効となり得る。より具体的には、第2工程の完了後、4時間以上、さらに8時間以上経過された殺菌前乳化物に対して加熱殺菌を行う場合に、第1工程における加熱温度T1を60℃以上100℃以下にすることで、乳化殺菌物における軽度の油分分離や、得られる乳化殺菌物に粘度低下を防止できる。即ち、より好ましい乳化殺菌物を得ることができる。この温度T1は、更に、63℃以上85℃以下にすることができ、更には、65℃以上75℃以下にすることができる。
【0048】
尚、上記の通り、殺菌前乳化物を第3工程へ供するまでに時間を要する場合に加えて、この際、撹拌(特に継続的な撹拌)やポンプによる流動を行うことも、軽度の油分分離や粘度低下の誘発因子になると考えられる。このような、殺菌前乳化物を第3工程へ供するまでに時間を要する環境や、撹拌・流動を伴う環境は、よりスケールの大きな生産において生じがちである。また、第3工程を終えた直後は、油分分離や粘度低下を生じなくとも、数日~1週間の期間を経て生じる場合がある。このような潜在的な油分分離や粘度低下の状態を形成の抑制に対しても、上記〈1〉及び/又は〈2〉は有効である。
【0049】
第2工程で得られた殺菌前乳化物を、第3工程へ供するまでに時間を要する態様(B)である場合と、第2工程で得られた殺菌前乳化物を、第3工程へ供するまでに時間を要さない態様(A)である場合と、を比較すると、態様(B)である場合の方が、第1工程における温度T1をより低くした方がよい効果を奏する傾向が認められる。その理由は定かではないが、例えば、豆乳蛋白質への過剰な熱負荷による乳化状態への悪影響が長時間保管する態様では顕著に発露すると考えることができる。
尚、前述した通り、温度T1が60℃以上100℃以下であるとは、60℃以上100℃以下の温度域で加熱する時間を有することを意味し、第1工程における最高到達温度は100℃以下となる。温度T1を課す時間は限定されず、前記と同様の加熱時間を採用できる。
【0050】
第1工程における温度T1を60℃以上100℃以下にする場合、通常、温度T1は第3工程における加熱殺菌温度T3よりも低い温度とした方が、より好ましい性状の乳化殺菌物を得ることができる傾向にある。即ち、例えば、5≦T3-T1(℃)≦50とすることができる。温度T1と温度T3との差異をこの範囲に留めることにより、第3工程において粗粒物が発生することをより効果的に防止又は抑制でき、より滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感の乳化殺菌物を実現できる。この温度差は、更に、8≦T3-T1(℃)≦35がより好ましく、12≦T3-T1(℃)≦27が更に好ましい。
【0051】
〈2〉乳化物が穀物粉を含むように操作する。
前述したように、本方法では穀物粉を利用できるが、穀物粉は第1工程~第3工程及びそれ以外の種々の工程のいずれにおいて配合されてもよいが、少なくとも、第3工程における加熱殺菌対象物である乳化物(殺菌前乳化物)に穀物粉が含まれていることが好ましく、特に第2工程において配合することが好ましい。
殺菌前乳化物に含まれる穀物粉の種類は限定されず、前述の各種穀物粉をそのまま利用でき、更には、膨化処理及び糊化処理の両方が施された米粉、サツマイモ粉、タピオカ粉等を好適に用いることができることも同様である。
【0052】
殺菌前乳化物に穀物粉が含まれる場合、その含有量(殺菌前乳化物に含まれる穀物粉の量)は限定されないが、通常、乳化殺菌物における含有量と同じである。従って、前述した乳化殺菌物に含まれる穀物粉の質量割合と同様に、殺菌前乳化物全体を100質量%とした場合に、0.05質量%以上1.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上0.9質量%以下が更に好ましい。
【0053】
上記〈1〉及び〈2〉は、いずれか一方のみを行ってもよいし、両方を行ってもよい。これらを行うことによる効果は前述の通り、特に、第2工程で得られた殺菌前乳化物を、第3工程へ供するまでに時間を要する場合に有効である。即ち、第2工程と第3工程との間に、乳化前殺菌物を加熱殺菌することなくおく第4工程を備える場合に、上記〈1〉及び/又は〈2〉を行うことが好ましい。第4工程は、殺菌前乳化物に対して加熱殺菌を行わない工程であればよく、その他の処理は行ってもよく、行わなくてもよい。第4工程としては、殺菌前乳化物を静置する工程、殺菌前乳化物を養生する工程、殺菌前乳化物を冷却する工程、殺菌前乳化物を撹拌する工程等を例示することができる。
【0054】
[2]乳化殺菌物
本発明の乳化殺菌物は、豆乳、油脂及び食酢を含む乳化物が加熱殺菌された乳化殺菌物であって、食酢の存在下で加熱された加熱豆乳を含むことを特徴とする。
この加熱豆乳は、具体的には、前述の製造方法における第1工程を経て得られた第1混合物に相当する。従って、加熱豆乳は、更に、油脂を含むことができる。
また、この加熱豆乳は、その後、油脂と共に乳化された後、加熱殺菌されて本発明の乳化殺菌物に含有されることとなる。
即ち、本発明の乳化殺菌物は、前述した本発明の乳化殺菌物の製造方法により得ることができる。
【0055】
乳化殺菌物に配合される豆乳、油脂及び食酢は、前述した製造方法における各成分をそのまま利用できる。そして、本発明の乳化殺菌物に含まれる酸度(酢酸換算)と大豆蛋白質と油脂との合計量に対する、酸度(酢酸換算)の質量割合をS13質量%とし、大豆蛋白質量の質量割合をS23質量%とし、油脂の質量割合をS33質量%とした場合に、S23/S13は、1.1≦S23/S13≦27であることが好ましく、2≦S23/S13≦15がより好ましく、3≦S22/S12≦10が更に好ましい。更に、S33/S13は、10≦S33/S13≦550であることが好ましく、25≦S33/S13≦500がより好ましく、50≦S33/S13≦150が更に好ましく、70≦S33/S13≦120が特に好ましい。
【0056】
本乳化殺菌物には、豆乳、食酢、油脂及び穀物粉以外に、他の成分を配合することができる。他の成分としては、果汁及び塩類等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これら果汁及び塩類等としては、前述した製造方法における各成分をそのまま利用できる。また、その好ましい配合も同様である。
更に、従前の糖類等の他成分も同様に含有できる。但し、本乳化殺菌物では、前述の製造方法における場合と同様に、食品添加物の利用を排除又は低減できる。
本乳化殺菌物の酸度(酢酸換算)は限定されないが、0.1%以上1.0%以下にすることができることも前述の製造方法における場合と同様であり、好ましい範囲も同様である。
本乳化殺菌物のpHは限定されないが、3.0以上5.0以下にすることができることも前述の製造方法における場合と同様であり、好ましい範囲も同様である。
本乳化殺菌物のBrixは限定されないが、2以上30以下にすることができることも前述の製造方法における場合と同様であり、好ましい範囲も同様である。
本乳化殺菌物の粘度は限定されないが、25℃にてNo.3ロータを用いたB型粘度計により12rpmで測定される粘度において1000cp以上(通常、10000cp以下)にすることができることも前述の製造方法における場合と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0057】
尚、本乳化殺菌物は、豆乳、油脂及び食酢を含む乳化物が加熱殺菌された乳化殺菌物であって、食酢の存在下で加熱された加熱豆乳を含む。そして、これにより、従来の豆乳を用いた乳化殺菌物に比べて滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感が得られる。しかしながら、この食感は人間の主観に依拠する指標であるため、定量化が困難である。また、本乳化殺菌物には大豆蛋白のような複雑な天然物に由来する成分やその加熱変性物が含まれ、乳化過程では、微細化された状態ともなり得る。このような成分を分析、特定することは現在の分析機器をもってしても不可能であり、上述の特定の食感という効果との相関を知ることはできない。従って、本乳化殺菌物について、本願発明の効果に寄与する成分やその構造を特定する等して、本発明の乳化殺菌物を構造又は特性により直接特定することは、およそ実際的ではなく、不可能・非実際的事情が存する。
【0058】
[3]乳化物の殺菌方法
本発明の乳化物の殺菌方法は、乳化物を加熱殺菌する方法であって、
乳化物は、原料として、豆乳、油脂及び食酢を含み、食酢の存在下で、豆乳を加熱する第1工程と、
第1工程後に、原料の全てが含まれた混合物を乳化する第2工程と、
第2工程後に、得られた乳化物を加熱殺菌する第3工程と、を備えることを特徴とする。
【0059】
本殺菌方法において、原料である豆乳、油脂及び食酢については、前記本製造方法における各々をそのまま利用できる。また、これらの配合についても同様である。更に、豆乳、食酢、油脂及び穀物粉以外に、他の成分を配合することができる。他の成分としては、果汁及び塩類等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これら果汁及び塩類等としては、前述した製造方法における各成分をそのまま利用できる。また、その好ましい配合も同様である。
また、第1工程、第2工程、第3工程の各工程及びその詳細についても前述した製造方法における各々と同様である。
更に、従前の糖類等の他成分も同様に含有できる。但し、本乳化殺菌物では、前述の製造方法における場合と同様に、食品添加物の利用を排除又は低減できる。
本殺菌方法により得られる乳化殺菌物については、前述した本乳化殺菌物と同様である。
【0060】
本乳化殺菌物、本製造方法により得られる乳化殺菌物、本殺菌方法により得られる乳化殺菌物は、どのような容器に収容してもよいが、樹脂製容器、樹脂製袋、ガラス製瓶、金属製缶、及び紙容器などの各種の容器に充填して提供することができる。また、前述の通り、第3工程(加熱殺菌)は、このような容器に充填した後、行うこともできる。
【0061】
また、本乳化殺菌物、本製造方法により得られる乳化殺菌物、本殺菌方法により得られる乳化殺菌物は、特に調味液としての利用に適する。特に適度な粘度を有するため、展着性に優れた調味液して利用できる。具体的には、ドレッシング、ディップソース、マヨネーズ等の各種調味液として好適に利用できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、調味対象としては、納豆、サラダ、グラノーラ、麺類、シリアル、パン、果実等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
[1]乳化殺菌物の調製
以下に示す手順により、実施例a1~a5、比較例b1~b2の乳化殺菌物を調製した。
(1)第1混合物の調製
下記に示す豆乳、塩類、食酢、果汁の各々を、下記表1に示す配合となるように、この順に混合して、第1混合物を得た。
但し、実施例a5については、第1混合物に全原料(豆乳、塩類、食酢、果汁及び油脂)を混合した。また、比較例1は第1工程を行わなかったため、第1混合物を調製していない。
【0064】
豆乳:無調整豆乳(大豆蛋白質3.8質量%)
塩類:食塩(並塩)
食酢:リンゴ酢(酸度(酢酸換算)10質量%)
果汁:ぶどう果汁(Brix66)
【0065】
(2)第1工程
上記(1)で得られた第1混合物400gを金属製の鍋に入れた状態で、ガスコンロを用いて加熱し、内容物の温度が表1に示す第1工程における加熱温度(最高到達温度T1)に到達した後、5分間維持して加熱を終了した。
但し、比較例b1では、第1工程を行っていない。
【0066】
(3)第2混合物の調製
上記(2)で得られた加熱済みの第1混合物に、表1に示す配合となるように下記に示す油脂を加えて、第2混合物を得た。
油脂:キャノーラ油
但し、実施例a5は、第1混合物において油脂を配合しているため、第2混合物の調製課程では油脂を配合していない。また、比較例b1では、加熱してない第1混合物に油脂を配合して、第2混合物を得た。
【0067】
(4)第2工程
上記(3)で得られた第2混合物を金属製の鍋に入れた状態で、ハンドブレンダ(ブラウンマルチクイック Type 4199)でミキシング(13600rpm、1分)して乳化させて殺菌前乳化物を得た。
【0068】
(5)第3工程
上記(4)で得られた殺菌前乳化物をナイロンパウチに充填し、ナイロンパウチに充填した乳化物の中心温度が表1に記載する殺菌温度(加熱殺菌温度、最高到達温度T3)になるように、温水に10分間浸漬して加熱殺菌を行って、実施例a1~a5及び比較例b1~b2の乳化殺菌物を得た。
【0069】
【0070】
[2]乳化殺菌物の評価
(1)大豆蛋白質量の測定
下記手順により、大豆蛋白質量を測定し、その結果を表2に示した。
測定は、燃焼法(改良デュマ法)の常法に準じてまずは全窒素量を測定した。測定機器は全窒素測定装置スミグラフNCH-22A(住化分析センター製)を用いた。大豆蛋白質量は、日本食品標準成分表2010の一般成分の窒素-蛋白質換算係数の大豆の区分に準じて全窒素量に5.71を乗算することで算出を行った。
【0071】
(2)酸度(酢酸換算)の測定
下記手順により、酸度を測定し、その結果を表2に示した。
自動滴定装置COM-1600(平沼産業社)を用いて、各乳化殺菌物5mlを0.5Mの水酸化ナトリウムでpH8.2になるまで中和滴定した後、滴定量を以下の式で酢酸酸度%(w/v)に換算した。更に、算出した酢酸酸度%(w/v)に乳化殺菌物の比重を考慮し、質量%に換算した値を酸度(酢酸換算)と規定した。
酢酸酸度%(w/v)=0.03×(T-B)×F/V×100
T:各乳化殺菌物における0.5mol/L水酸化ナトリウム標準溶液の滴定量(ml)
B:空試験における0.5mol/L水酸化ナトリウム標準溶液の滴定量(ml)
F:0.5mol/L水酸化ナトリウム標準溶液のファクター
V:乳化殺菌物採取量(ml)0.03:0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液1mlに相当する酢酸の重量(g)
【0072】
(3)pHの測定
ガラス電極法により、乳化殺菌物のpHを測定してその結果を表2に示した。
測定にはpHメータ F-51(堀場製作所製)を用いた。
【0073】
(4)Brixの測定
乳化殺菌物を糖度計(PR201-R(アタゴ製))で測定することによりBrix値の測定を行った。その結果を表2に示した。
【0074】
(5)粘度の測定
下記手順により、粘度を測定し、その結果を表2に示した。
No.3ロータを装着したBII型粘度計(BMII(東機産業株式会社製))を用い、ロータ回転数12rpmで測定される乳化殺菌物(25℃)の粘度を測定した。
【0075】
(6)目開き425μmのメッシュ非通過物量の測定
下記手順により、目開き425μmのメッシュに対する非通過物量を測定し、その結果を表2に示した。
乳化殺菌物1質量部あたり4質量部の水を加えて攪拌した希釈液を自然落下させて、目開き425μmのメッシュに通過させた後、当該メッシュ上に残存された凝集物(即ち、メッシュ非通過物)の質量を測定し、乳化殺菌物の全質量に対するメッシュ非通過物の質量割合を算出した。
尚、上記メッシュとして、サイズ55(直径49~54mmの急須に適合)、深さ34mm、目開き425μm(40メッシュ)の規定を満たす茶こし(18-8急須用茶こしアミ(タケコシ製))を利用した。また、メッシュサイズの規格はJIS Z8801に準拠した。
【0076】
(7)官能評価
試験前に、官能検査員全員で標準サンプル評価を行い、評価基準の各スコアについて標準化を行った上で、3名によって客観性のある官能検査を行った。評価は下記1~5に示す5段階の基準に従った。
また、評価は5段階の評点の中から、各検査員が自らの評価と最も近い数字をどれか1つ選択する方式で行った。評価結果の集計は、3名のスコアの算術平均値として算出し、小数点以下を四捨五入した。この結果を表2に示した。
実施例の試料は、両評価項目がいずれも3点以上と優れていたが、比較例の試料は少なくとも評価項目の1つが2点以下であった。
【0077】
乳化殺菌物の滑らかさ
5:乳化物特有のきわめて滑らかな食感が感じられ非常に好ましい。
4:乳化物特有の滑らかさが感じられ好ましい。
3:乳化物特有の滑らかさがわずかに感じられて許容範囲。
2:ダマになった凝集物によるぼそぼそした食感がやや感じられて好ましくない。
1:ダマになった凝集物によるぼそぼそした食感が明らかに感じられて非常に好ましくない。
【0078】
乳化殺菌物のもったり感
5:乳化物特有のもったり感が特に適切で非常に好ましい。
4:乳化物特有のもったり感が感じられ好ましい。
3:乳化物特有のもったり感がわずかに感じられて許容範囲。
2:乳化物特有のもったり感がほとんど感じられず好ましくない。
1:全体に液体状で乳化物特有のもったり感が全くなく非常に好ましくない。
【0079】
尚、本明細書で述べる「もったりとした」や「もったり感」とは、例えば、摂食した際の舌の上から徐々にコクが消えていくような食感であると換言することができる。このような食感は、単に乳化殺菌物が適度な粘度であれば達成されるものではない。即ち、同じ粘度の乳化殺菌物同士を比較しても、例えば、乳化の度合いが低ければ、もったり感は、低く不十分なものとなる。
【0080】
また、官能評価の検査員には、事前に下記の下記A)及びB)の識別訓練を実施した。
A)五味(甘味:砂糖の味、酸味:酒石酸の味、旨み:グルタミン酸ナトリウムの味、塩味:塩化ナトリウムの味、苦味:カフェインの味)について、各成分の閾値に近い濃度の水溶液を各1つずつ作製し、これに蒸留水2つを加えた計7つのサンプルから、それぞれの味のサンプルを正確に識別する味質識別試験。
B)濃度がわずかに異なる5種類の食塩水溶液、酢酸水溶液の濃度差を正確に識別する濃度差識別試験。
識別訓練を実施した上で、特に成績が優秀であり、商品開発経験があり、食品の味や食感といった品質についての知識が豊富で、各官能検査項目に関して絶対評価を行うことが可能な検査員を選抜して行った。また、評価試験前に、検査員全員で標準サンプル評価を行い、評価基準の各スコアについて標準化を行った上で、3名によって客観性のある官能検査を行った官能評価結果は実施例の試料はいずれも3点以上であり、滑らか且つもったりとしたクリーミーな食感が感じられた。
【0081】
【0082】
[3]乳化殺菌物の調製(2)
以下に示す手順により、実施例a6~a13の乳化殺菌物を調製した。
(1)第1混合物の調製
上記[1]の実施例a1と同様に、豆乳、塩類、食酢、果汁の各々を、下記表3に示す配合となるように、この順に混合して、第1混合物を得た。
【0083】
(2)第1工程
上記(1)で得られた第1混合物400gを金属製のジョッキ(容量1L)に入れて、湯を張った金属製鍋内で当該ジョッキを湯浴し、表3に示す第1工程における加熱温度(最高到達温度T1)に到達した後、5分間維持して加熱を終了した。尚、湯浴に際しては、金属製パドルを用いて300回転/分の速度で攪拌して内容物の温度を均一に維持した。
【0084】
(3)第2混合物の調製
上記(2)で得られた加熱済みの第1混合物に、表3に示す配合となるように油脂及び穀物粉を加えて、第2混合物を得た。尚、油脂は、実施例a1で用いたものと同様である。一方、各穀物粉は、以下を用いた。
穀物粉A:α化米粉
穀物粉B:米粉(非α化)
穀物粉C:α化コーンスターチ
【0085】
(4)第2工程
上記(3)で得られた第2混合物を金属製のジョッキに入れた状態で、実施例a1と同様にして乳化させて殺菌前乳化物を得た。
【0086】
(5)第4工程
上記(4)までに得られた殺菌前乳化物を、第2工程の乳化に使用したジョッキを樹脂製ラップで密封し、インキュベーター内に温度40℃で24時間放置した。
【0087】
(6)第3工程
上記(5)までに得られた殺菌前乳化物100gを、金属製ジョッキ(容量200g)に分注した後、湯を張った金属製鍋内で当該ジョッキを湯浴し、表3に記載した殺菌温度及び時間で加熱殺菌を行って、実施例a6~a13の乳化殺菌物を得た。
【0088】
【0089】
[4]乳化殺菌物の評価
態様(B)における乳化殺菌物の評価は、上記手順に従って調整した実施例a6~a13の乳化殺菌物を50ml容のプラスチック製チューブ(50ml ポリプロピレンコニカルチューブ(Product Number 352098 Corning社製、Falconブランド))に分注した後、冷蔵室内に4℃で1週間静置してから評価を行った。尚、実施例a6~a13は、調整直後の油分分離及び低粘度化は認められない。
【0090】
(1)粘度の測定
前述の[2](5)と同様に粘度の測定を行い、結果を表4に示した。
(2)官能評価1
前述の[2](7)と同様に「乳化殺菌物の滑らかさ」及び「乳化殺菌物のもったり感」の評価を行い、結果を表4に示した。
【0091】
(3)官能評価2
以下の要領により、油分の分離を評価した。
試験前に、官能検査員全員で標準サンプル評価を行い、評価基準の各スコアについて標準化を行った上で、3名によって客観性のある官能検査を行った。評価は下記1~5に示す5段階の基準に従った。
また、評価は5段階の評点の中から、各検査員が自らの評価と最も近い数字をどれか1つ選択する方式で行った。評価結果の集計は、3名のスコアの算術平均値として算出し、小数点以下を四捨五入した。この結果を表4に示した。
【0092】
油分の分離
5:油分分離が認められず乳化状態が維持されており非常に好ましい。
4:チューブ底面の油分の分離が5mm以内でありほぼ乳化状態が維持されており好ましい。
3:チューブ底面の油分の分離が20mm以内であり許容範囲
2:チューブ底面の油分の分離が25mmを超え乳化が崩れている。
1:チューブ底面の油分の分離が30mmを超え大きく乳化が崩れている。
【0093】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の乳化殺菌物は、食品分野において広く利用される。更に、生活者の食生活にかかわる行為の簡便性、快適性、健康性の向上が期待される。