(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6568 20140101AFI20240704BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20240704BHJP
H01M 10/625 20140101ALN20240704BHJP
H01M 10/613 20140101ALN20240704BHJP
【FI】
H01M10/6568
H01M10/6556
H01M10/625
H01M10/613
(21)【出願番号】P 2020000950
(22)【出願日】2020-01-07
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・パッケージング
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】野口 雅之
(72)【発明者】
【氏名】南谷 広治
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-061690(JP,A)
【文献】特開2015-143107(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159233(WO,A1)
【文献】特開2018-138834(JP,A)
【文献】特開2004-060986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/6568
H01M 10/6556
H01M 10/625
H01M 10/613
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換媒体が流通する中空状の熱交換流路が設けられ、かつ厚さ方向のスペーサとしての機能を有する流路形成シートと、
金属箔層の内面側に樹脂製のシーラント層が積層されたラミネート材によって構成され、かつ前記流路形成シートの表裏面にそれぞれ接合一体化された表裏両側の被覆シートと、
前記熱交換流路に対し熱交換媒体を流出入させるための出入口とを備え、
前記流路形成シートは、金属ラミネート材、樹脂コート金属材のいずれかによって構成され、
前記金属ラミネート材は、金属シートないし金属フィルムの両面に合成樹脂シートないし合成樹脂フィルムを接着積層したものであり、樹脂コート金属材は、金属シートないし金属フィルムの両面に合成樹脂をコートしたものであり、
前記被覆シートにおけるシーラント層がポリプロピレン樹脂によって構成されるとともに、
前記流路形成シートにおける少なくとも表裏面が、ポリプロピレン樹脂によって構成されていることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記被覆シートのシーラント層は、2層以上の積層体によって構成されている請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記被覆シートのシーラント層は、融点が10℃以上異なる低融点層と高融点層とを含み、
前記低融点層が前記高融点層に対し内面側に配置されている請求項1または2に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属箔層に樹脂層が積層されたラミネート材を利用して製作される熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやパーソナルコンピュータ等の電子機器における小型高性能化に伴い、電子機器のCPU回りの発熱対策も重要となり、機種によっては水冷式冷却器やヒートパイプを組み込んで、CPU等の電子部品に対する熱負荷を軽減するとともに、筐体内に熱をこもらせないようにして、熱による悪影響を回避する技術が従来から多く提案されている。
【0003】
また電気自動車やハイブリッド車に搭載される電池モジュールは、大容量の充電あるいは放電を繰り返し連続して行うために電池パックの発熱が大きくなる。このため電池モジュールにおいても上記の電子機器と同様に、水冷式冷却器やヒートパイプを組み込んで、熱による悪影響を回避する技術が提案されている。
【0004】
さらにシリコンカーバイト(SiC)製等のパワーモジュールも発熱対策として冷却板やヒートシンクを組み付ける等の対策も提案されている。
【0005】
ところで、上記のスマートフォンやパーソナルコンピュータのような電子機器では筐体の厚さが薄く、その薄い筐体内における限られたスペースに多数の電子部品や冷却器が組み込まれるため、冷却器自体も薄型のものが用いられることになる。
【0006】
従来において、小型の電子機器に組み込まれるヒートパイプ等の薄型の冷却器は一般的に、アルミニウム等の伝熱性が高い金属を加工して得られた複数の金属加工部品をろう付けや拡散接合等で接合することにより製作するようにしている(特許文献1~3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-59693号公報
【文献】特開2015-141002号公報
【文献】特開2016-189415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の小型電子機器用冷却器は、各構成部品が鋳造や鍛造等の塑性加工や、切削等の除去加工等の金属加工(機械加工)によって製作されているため、面倒で制約も厳しく、特に薄型化に限界があり、現行以上の薄型化を図ることは困難であるという課題があった。
【0009】
その上さらに、上記従来の冷却器は、各構成部品を接合する際に難易度が高いろう付けや拡散接合等の金属加工(金属間接合)を用いて製作する必要があり、製作が困難であるばかりか、生産効率が低下してコストも増大してしまうという課題があった。
【0010】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、面倒な金属加工を用いる必要がなく、効率良く簡単に製作できて生産性の向上およびコストの削減を図りつつ、熱交換性能の向上および薄型化を図ることができる熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0012】
[1]熱交換媒体が流通する中空状の熱交換流路が設けられ、かつ厚さ方向のスペーサとしての機能を有する流路形成シートと、
金属箔層の内面側に樹脂製のシーラント層が積層されたラミネート材によって構成され、かつ前記流路形成シートの表裏面にそれぞれ接合一体化された表裏両側の被覆シートと、
前記熱交換流路に対し熱交換媒体を流出入させるための出入口とを備え、
前記被覆シートにおけるシーラント層がポリプロピレン樹脂によって構成されるとともに、
前記流路形成シートにおける少なくとも表裏面が、ポリプロピレン樹脂によって構成されていることを特徴とする熱交換器。
【0013】
[2]前記被覆シートのシーラント層は、2層以上の積層体によって構成されている前項1に記載の熱交換器。
【0014】
[3]前記被覆シートのシーラント層は、融点が10℃以上異なる低融点層と高融点層とを含み、
前記低融点層が前記高融点層に対し内面側に配置されている前項1または2に記載の熱交換器。
【発明の効果】
【0015】
発明[1]の熱交換器によれば、被覆シートのシーラント層と流路形成シートの表裏面とが耐薬品性および耐熱性に優れたポリプロピレン樹脂によって構成されているため、特殊な溶剤等が含有されたクーラント(冷媒)等の熱交換媒体を使用しても、あるいは高温環境下で使用しても、接着性を十分に維持できて、熱交換媒体の液漏れ等の不具合を確実に防止でき、良好な熱交換性能を長期間維持できて、十分な耐久性を確保することができる。また本発明の熱交換器は、熱交換流路が形成された流路形成シートの表裏両面に、ラミネート材によって構成される被覆シートを接着するだけで簡単に製作することができ、生産効率を向上させることができる。さらに本発明の熱交換器においては、流路形成シートと被覆シートとを熱融着等の樹脂接着によって一体化するものであるため、ろう付け接合等の難易度が高くて面倒な金属加工を用いる必要がなく、一層簡単に製作でき、生産性を一層向上させることができる。また熱交換流路内を流通する熱交換媒体と、被覆シートの外面に配置された熱交換対象部材との間で熱交換が行われるため、十分な熱交換性能を得ることができる。さらに本発明の熱交換器は、流路形成シートに被覆シートを積層して組み付けるものであるため、薄型化を確実に図ることができる。
【0016】
発明[2]の熱交換器によれば、被覆シートのシーラント層が積層体によって構成されているため、シーラント層に様々な特性を付与することができる。
【0017】
発明[3]の熱交換器によれば、被覆シートのシーラント層が、融点の温度差10℃以上異なる低融点層および高融点層を含んでいるため、厳しい熱融着条件において、低融点層が多く溶融したとしても、高融点側の層(高融点層)が残存する。このため、熱融着層の肉厚減少による被覆シートの金属箔層の露出を防止でき、その金属箔層と熱交換媒体との接触を防止できて、剥がれや変質を確実に防止できて、安定した熱交換性能を長期的に維持できて、耐久性を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1はこの発明の第1実施形態である熱交換器としての熱交換パネルを示す斜視図である。
【
図2】
図2は第1実施形態の熱交換パネルを分解して示す斜視図である。
【
図4】
図4は第1実施形態の熱交換パネルにおいてジョイントパイプが取り付けられた状態を示す斜視図である。
【
図5】
図5(a)(b)はこの発明に適用可能な流路構成の変形例を示す図であって、
図1のA-A線断面に相当する断面図である。
【
図6】
図6はこの発明に適用可能な被覆シートの変形例を示す斜視図である。
【
図7】
図7はこの発明の第2実施形態である熱交換器としての熱交換パネルを分解して示す斜視図である。
【
図8】
図8はこの発明の第3実施形態である熱交換器としての熱交換パネルを示す斜視図である。
【
図9】
図9は第3実施形態の熱交換パネルを分解して示す斜視図である。
【
図10】
図10は第3実施形態の熱交換パネルに適用された流路形成シートを分解して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1はこの発明の第1実施形態である熱交換器としての熱交換パネルPを示す斜視図、
図2は第1実施形態の熱交換パネルPを分解して示す斜視図、
図3は
図1のA-A線断面図である。なお本実施形態においては、発明の理解を容易にするため、
図1の奥行き方向を「縦方向」とし、
図1の左右方向を「横方向」とし、
図1の上下方向を「厚さ方向」として説明する。さらに
図1~
図3においては、発明の理解を容易にするため、厚さ方向の寸法を縦横方向の寸法と比較して誇張して示している。
【0020】
図1~
図3に示すように本実施形態の熱交換パネルPは、平面視矩形状の流路形成シート1と、流路形成シート1の表裏面に積層される表裏両側の被覆シート2とを備えている。なお本実施形態においては、
図1の上側を表側とし、下側を裏側として説明する。もっとも本発明においては、表側および裏側は、特に区別されるものではなく、いずれを表側または裏側としても良い。例えば
図1および
図2の上側を表側、下側を裏側としても良いし、下側を表側、上側を裏側としても良い。
【0021】
流路形成シート1は、レーザ加工等によって、表裏に貫通するようにU字状にくり抜かれて、中空状の熱交換流路15が形成されている。
【0022】
流路形成シート1は、厚さ方向のスペーサとしての機能を備えており、熱交換パネルPにおける厚さ方向への収縮変形や膨張変形等を防止して、所定の厚みを確保できるようになっている。
【0023】
流路形成シート1はその少なくとも表面および裏面が、後に詳述するようにポリプロピレン樹脂によって構成する必要がある。
【0024】
流路形成シート1の素材としては例えば、合成樹脂シート、金属ラミネート材、樹脂コート金属材等を用いることができる。金属ラミネート材とは、金属シートないし金属フィルムの両面に合成樹脂シートないし合成樹脂フィルムを接着積層したものである。樹脂コート金属材とは、金属シートないし金属フィルムの両面に合成樹脂をコートしたものである。合成樹脂シートとしては、既述した通り、ポリプロピレン樹脂製のシートを用いることができる。金属ラミネート材としては、アルミニウムシートないしアルミニウムフィルムの両面に、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムないしシートが接着剤によって貼り付けられたものを例示することができる。樹脂コート金属材としては、アルミニウムシートないしアルミニウムフィルムの両面に、ポリプロピレン樹脂がコーティングされたもの等を例示することができる。
【0025】
流路形成シート1としては、厚さが0.1mm~5mmのもの、好ましくは0.1mm~2mmのものを好適に用いることができる。
【0026】
被覆シート2は、ラミネート材(ラミネートシート)によって構成されている。
図3に示すように本実施形態においてこのラミネート材としては、金属箔層21と、その金属箔層21の一面(内面)に接着剤を介して積層された樹脂フィルムないし樹脂シート製のシーラント層(熱融着層)22と、金属箔層21の他面(外面)に接着剤を介して積層された樹脂フィルムないし樹脂シート製の保護層23とを備えている。なお本実施形態において、「箔」という用語は、フィルム、薄板、シートも含む意味で用いられている。
【0027】
金属箔層21としては、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔や、ニッケルメッキ加工した銅箔、ニッケルと銅からなるクラッドメタル(クラッド箔)を好適に用いることができる。なお本実施形態において「アルミニウム」「銅」「ニッケル」という用語は、それらの合金も含む意味で用いられている。
【0028】
金属箔層21は、伝熱層とも称されるものであり、厚さが8μm~300μmのものを用いるのが好ましい。
【0029】
また本実施形態において金属箔層21は、化成処理等の表面処理を施しておくことにより、金属箔層21の腐食防止や、樹脂との接着性の向上等を図ることができ、より一層耐久性を向上させることができる。
【0030】
化成処理は、例えば次のような処理を施す。すなわち、脱脂処理を行った金属箔の表面に、下記の1)~3)のうちのいずれかの水溶液を塗工した後、乾燥することにより、化成処理を施す。
【0031】
1)リン酸と、クロム酸と、フッ化物の金属塩及びフッ化物の非金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液。
【0032】
2)リン酸と、アクリル系樹脂、キトサン誘導体樹脂及びフェノール系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、クロム酸及びクロム(III)塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液。
【0033】
3)リン酸と、アクリル系樹脂、キトサン誘導体樹脂及びフェノール系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、クロム酸及びクロム(III)塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、フッ化物の金属塩及びフッ化物の非金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液。
【0034】
上記化成皮膜は、クロム付着量(片面当たり)として0.1mg/m2~50mg/m2に設定するのが好ましく、特に2mg/m2~20mg/m2に設定するのがより一層好ましい。
【0035】
シーラント層22としては、後に詳述するようにポリプロピレン樹脂のシートないしフィルムによって構成する必要がある。このシーラント層22は、厚みが20μm~5000μmのものを用いるのが良い。
【0036】
保護層23としては、延伸ポリエステル(PET、PBT)等のポリエステル樹脂、延伸ポリアミド(ONy)等のポリアミド樹脂等のシートないしフィルムを好適に用いることができる。この保護層23の厚みは、6μm~100μmのものを好適に用いることができる。
【0037】
保護層23は、ラミネート材の金属箔層21の保護、ひいては熱交換パネルPの保護を行うものであり、保護層23が存在することによって、金属箔層21が直接外部にさらされるのを防止でき、例えば結露による悪影響が及ぶのを回避できて、熱交換パネルPの耐候性を向上できて、優れた耐久性を得ることができる。
【0038】
なお本実施形態の被覆シート2において、保護層23は必ずしも形成する必要はなく、保護層23を省略することも可能である。もっとも、既述したように耐久性等を考慮すると、保護層23を形成するのが好ましい。
【0039】
また本実施形態の被覆シート2は、既述した通り少なくとも金属箔層21と、シーラント層22とが含まれていれば良いが、言うまでもなくラミネート材を、上記実施形態のように3層21~23で構成しても良いし、4層以上で構成するようにしても良い。
【0040】
また被覆シート2としてのラミネート材を構成する金属箔層21、シーラント層22および保護層23の各層間を接着するための接着層としては、厚みが1μm~5μmのウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、オレフィン系接着剤等を好適に用いることができる。
【0041】
以上の構成の2枚の被覆シート2の各内面側であるシーラント層22が、流路形成シート1の表面および裏面に積層された状態で、熱融着によって、シーラント層22と、流路形成シート1の表裏を構成する樹脂とが接合一体化されて、
図1に示すように熱交換パネルPが組み付けられる。この熱交換パネルPにおいては、流路形成シート1における熱交換流路15の表裏両面側の開口面が、表裏両側の被覆シート2によって閉塞されることによって、熱交換流路15が扁平チューブ状に形成される。
【0042】
なお表裏両側の被覆シート2のうち、表側の被覆シート2における熱交換流路15の両端部に対応する部分には、表裏方向に貫通する2つの円形の出入口3が形成されている。
【0043】
また本実施形態においては
図4に示すように、熱交換パネルPの一対の出入口3にそれぞれジョイントパイプ4を取り付けるようにしても良い。
【0044】
ジョイントパイプ4は、硬質合成樹脂の成形品によって構成されている。本実施形態においてジョイントパイプ4は、円筒状のパイプ本体41と、そのパイプ本体41の一端外周に外側に突出するように一体成形されたフランジ部42とを備えている。
【0045】
ジョイントパイプ4の素材としては、被覆シート2の保護層23を構成する樹脂と同種の熱融着樹脂によって構成するのが好ましい。
【0046】
このジョイントパイプ4のフランジ部42が、熱交換パネルPの被覆シート2における保護層23の出入口外周縁部に熱融着されることにより、ジョイントパイプ4が熱交換パネルPに組み付けられる。この状態においては、ジョイントパイプ4におけるパイプ本体41のパイプ孔が出入口3を介して熱交換流路15内に連通接続されている。
【0047】
なお本発明においてジョイントパイプ4を取り付ける場合、ジョイントパイプ4に必ずしもフランジ部42を形成する必要はなく、ジョイントパイプをパイプ本体(パイプ部材)のみによって構成するようにしても良い。この場合には、パイプ部材の一端面を熱融着して被覆シート2等の取付位置に取り付けるようにすれば良い。
【0048】
次に、流路形成シート1と、被覆シート2のシーラント層22とを構成するポリプロピレン樹脂の詳細について説明する。
【0049】
ポリプロピレン樹脂には、プロピレンのみを重合したホモポリマーがあり、このホモポリマーは、剛性、耐熱性、耐薬品性等に優れている。ホモポリマーの中にゴム相で覆われたポリエチレンが分散して混入された構造を持っているブロックコポリマーは、ホモポリマーよりも、耐寒性、耐衝撃性等が改良されている。ホモポリマーに少量のエチレンを共重合したランダムコポリマーは、ホモポリマーの透明性、耐衝撃性等を改良したものであり、比較的低温でも熱融着が可能であり、ヒートシール性に優れている特徴がある。
【0050】
これらのポリプロピレン樹脂を押出し機で成膜し、未延伸ポリプロピレンフィルムを生産する時は、ホモポリマー、ブロックポリマー、ランダムポリマーをそれぞれ単独で成膜して、ホモPP単層フィルム、ブロックPP単層フィルム、ランダムPP単層フィルムとする場合や、共押出し機で成膜し、3層(ランダムPP/ブロックPP/ランダムPP)の共押しフィルムや、3層(ランダムPP/ホモPP/ランダムPP)の共押しフィルムのような多層フィルムとする場合がある。
【0051】
また、上記のようなポリプロピレン樹脂を用いたコーティング剤を、ロールコート法等で、金属箔層21の表面に塗布・乾燥して、金属箔層21の表面にポリプロピレン樹脂層(シーラント層)22を形成することも可能である。
【0052】
また、本実施形態の熱交換器を冷却器と想定した場合は、LLCと呼ばれるエチレングリコールに防錆剤、酸化抑制剤を添加したロングライフクーラントと水とを混合し、例えばLLC:水=3:7~6:4の比率で混合したものを熱交換媒体(冷却液)として使用する場合が多くなっている。このLLCを含む熱交換媒体を長期間使用したときに、60℃以下の温度領域では影響は少ない。しかしながら、60℃を超える高温領域で長期間使用すると、LLCと接触している熱交換器の流路形成シート1の外表面やシーラント層22が、仮にポリエチレン樹脂によって構成されている場合は、高温環境でエチレングリコール等の溶剤の影響を受け、熱融着層としてのポリエチレン樹脂が膨潤したり、ポリエチレン樹脂のシール強度が低下し、熱交換性能が低下する可能性がある。
【0053】
このように流路形成シート1やシーラント層22が、仮にポリエチレン樹脂やポリエチレン成分を多く含む樹脂によって構成されている場合には、60℃を超える高温領域で、熱交換媒体の溶剤等の影響を受け、熱融着層の膨潤、シール強度低下が起こる可能性が高くなる。
【0054】
そこで本実施形態においては、LLC等の熱交換媒体に接触する熱交換器の流路形成シート1やシーラント層22の材料として、既述した通り耐熱性、耐溶剤性のあるポリプロピレン樹脂を選択し、これにより良好な熱交換性能を長期間維持することが可能となる。
【0055】
また本実施形態において、流路形成シート1やシーラント層22として、少なくとも融点が10℃以上異なる2層以上の層を有するポリプロピレン多層フィルムを採用すると、厳しい熱融着条件において、低融点側の層(低融点層)が多量に溶融したとしても、高融点側の層(高融点層)が残存する。このため、流路形成シート1やシーラント層22の肉厚減少による被覆シート2の金属箔層21の露出を防止でき、熱交換器の腐食を確実に防止することができる。
【0056】
さらに本実施形態においては、流路形成シート1やシーラント層22として用いられるポリプロピレン樹脂の中でも、エラストマー成分が含有されていないランダムPPやホモPPを用いるのが好ましく、熱融着による密封性を考慮すると、シール性に優れるランダムPPを用いるのがより一層好ましい。
【0057】
さらに流路形成シート1やシーラント層22を構成するポリプロピレン樹脂は、少なくとも2層以上の多層フィルム(積層体)が好ましく、特に多層フィルムは、融点が10℃以上異なるポリプロピレン樹脂層を含まれているのが好ましい。
【0058】
以上の構成の熱交換パネルPは、電池等を冷却対象部材(熱交換対象部材)として冷却する冷却器として用いられる。すなわち一方のジョイントパイプ4のパイプ本体41に、熱交換媒体(冷媒)としての冷却液(冷却水、不凍液等)Lを流入するための流入管が連結されるとともに、他方のジョイントパイプ4のパイプ本体41に、冷却液Lを流出するための流出管が連結される。そして熱交換パネルPにおける表面および裏面の少なくともいずれか一方に、冷却対象部材としての電池を接触配置した状態で、熱交換パネルPにおける流入管および一方のジョイントパイプ4を介して一方の出入口3から冷却液Lを流入して、その冷却液Lを熱交換パネルPの熱交換流路15に流通させて、他方の出入口3から他方のジョイントパイプ4および流出管を介して流出させる。これにより熱交換パネルP内を循環する冷却液Lと電池との間で被覆シート2を介して熱交換されることにより、電池が冷却されるものである。
【0059】
本実施形態の熱交換パネルPは、その使用形態は特に限定されるものではなく、1枚だけで使用することもできるし、2枚以上で使用することもできる。1枚での使用は、既述した通り、熱交換パネルPの表裏面に熱交換対象部材を接触させて使用するものである。2枚で使用する場合には、例えば2枚の熱交換パネルPによって熱交換対象部材を挟み込むように配置して使用することができる。さらに2枚以上で使用する場合、熱交換パネルPと熱交換対象部材とを交互に重ね合わせるように配置して使用することもできる。
【0060】
以上のように本実施形態の熱交換パネルPによれば、被覆シート2の内面側に設けられたシーラント層22が、耐薬品性および耐熱性に優れたポリプロピレン樹脂によって構成されているため、特殊な溶剤等が含有されたクーラント(冷媒)等の熱交換媒体を使用しても、あるいは60℃を超える高温領域で使用しても、接着性を十分に維持できて、熱交換媒体の液漏れ等の不具合を確実に防止でき、良好な熱交換性能を長期間維持できて、十分な耐久性を確保することができる。
【0061】
また本実施形態において、被覆シート2のシーラント層22として、融点の温度が10℃以上異なる低融点層および高融点層を含み、かつ高融点層に対し低融点層が熱交換媒体と接触する側に配置される場合には、厳しい熱融着(ヒートシール)条件において、低融点層が多く溶融したとしても、高融点側の層(高融点層)が残存する。このため、シーラント層22の肉厚減少による外包体1の金属箔層(伝熱層)21の露出を回避することができ、金属箔層21が熱交換媒体に接触するのを防止できて、熱交換器の腐食を確実に防止することができる。その上さらに、シーラント層22と流路形成シート1との接着性も向上し、流路形成シート1および被覆シート2の接着部において、剥がれや変質を防止できて、安定した熱交換性能をより長期的に維持できて、より一層耐久性を向上させることができる。
【0062】
また本実施形態においては、樹脂シート等によって構成される流路形成シート1の表裏両面に、ラミネート材によって構成される被覆シート2を熱融着するだけで簡単に製作することができ、生産効率を向上させることができる。
【0063】
また本実施形態においては、流路形成シート1と被覆シート2とを熱融着して接合一体化するものであるため、ろう付け接合等の難易度が高くて面倒な金属加工を用いる必要がなく、一層簡単に製作でき、生産効率を一層向上させることができる。
【0064】
さらに流路形成シート1用のシート部材や、被覆シート2用のラミネート材を、レーザ加工やカッター等を用いて加工すれば、流路形成シート1や被覆シート2を形成することができるため、本実施形態の熱交換パネルPの各構成部品自体も簡単に製作でき、より一層生産効率を向上させることができる。
【0065】
また熱交換流路15を通過する冷却液Lと、電池等の熱交換対象部材との間で行われる熱交換は、薄い被覆シート2を介して行われるため、効率良く熱交換できて、十分な冷却性能(熱交換性能)を得ることができる。
【0066】
また本実施形態の熱交換パネルPは、流路形成シート1の両面に、被覆シート2を積層して組み付けるものであるため、薄型化および軽量化を確実に図ることができる。
【0067】
さらに本実施形態の熱交換パネルPは、流路形成シート1および被覆シート2等の構成部品の形状や大きさを簡単に変更することができ、熱交換パネルP自体の形状や大きさも簡単に変更することができる。このため例えば、熱交換パネルPの設置位置等に合わせて、形状や大きさを自在に調整できるため、設計の自由度が増し、汎用性も向上させることができる。
【0068】
さらに本実施形態の熱交換パネルPにおいては、流路形成シート1が厚さ方向のスペーサとして機能するものであるため、厚さ方向の圧縮、膨張変形、特に圧縮変形を有効に防止でき、使用状況にかかわらず終始安定した形態を維持することができる。このため熱交換流路15を流通する冷却液Lにおいて優れた流動特性を確実に維持できるとともに、被覆シート2の熱交換対象部材に対する接触不良を確実に防止できて、熱交換性能をより一層向上させることができる。
【0069】
また本実施形態においては、流路形成シート1の熱交換流路15が表裏両面において開放されているため、その開放面に配置される被覆シート2に直接冷却液Lが接触することにより、冷却液Lと熱交換対象部材との間でより一層効率良く熱交換できて、熱交換性能をより一層向上させることができる。
【0070】
また本実施形態においては、既述した通り流路形成シート1と被覆シート2とを十分な接着強度で取り付けることができるため、例えば内圧に対する強度も十分に確保でき、被覆シート2の部分剥離やその剥離による液漏れ等を確実に防止でき、良好な動作信頼性を確保しつつ、耐久性を向上させることができる。
【0071】
さらに本実施形態においては、ジョイントパイプ4を構成する樹脂と、被覆シート2の外面を構成する保護層23とを同種の樹脂によって構成する場合、ジョイントパイプ4を被覆シート2に十分な接着強度で取り付けることができ、ジョイントパイプ4の接着不良や液漏れ等をより確実に防止することができる。
【0072】
また本実施形態の熱交換パネルPによれば、ジョイントパイプ4を取り付けているため、冷却水流出入用の外管との接続を簡単かつスムーズに行うことができる。
【0073】
なお
図3に示すように上記実施形態では、熱交換パネルPの熱交換流路15が、流路形成シート1を厚さ方向に貫通するように形成されているが、それだけに限られず、
図5(a)に示すように本発明においては、熱交換流路15を、流路形成シート1の表裏面のうち片面だけが開放された溝状に形成するように形成しても良いし、
図5(b)に示すように熱交換流路15を、流路形成シート1の表裏面に開放されずにトンネル状に形成するようにしても良い。
【0074】
また上記実施形態では、被覆シート2として、表面側および裏面側の2枚の被覆シート2を用いる場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、表裏両側の被覆シートを1枚のシート部材によって構成することも可能である。例えば
図6に示すように、表側被覆シート部(表側被覆シート2)と、裏側被覆シート部(裏側被覆シート2)とが連設されたシート部材を準備し、そのシート部材を連設部において折り返すことによって、表側被覆シート部を表側被覆シート2とし、裏側被覆シート部を裏側被覆シート2として構成する。これにより1枚のシート部材によって表裏両側の被覆シートを構成することができる。
【0075】
また上記実施形態においては、表裏の各被覆シート2をそれぞれ1枚のシート部材によって構成する場合を例に挙げて説明しているが、それだけに限られず、本発明においては、表裏の各被覆シート2を、複数のシート片を継ぎ合わせて複数枚のシート片によって構成するようにしても良い。
【0076】
また上記実施形態においては、流路形成シート1を1枚のシート部材によって形成する場合を例に挙げて説明しているが、それだけに限られず、本発明においては、流路形成シート1を複数枚のシート部材によって構成するようにしても良い。例えば流路形成シート1を縦方向および/または横方向に継ぎ合わせた複数枚のシート片(シート材)によって構成しても良いし、後述の第3実施形態のように、流路形成シート1を厚さ方向に重ね合わせた複数枚のシート材によって構成しても良い。
【0077】
また上記実施形態においては、一対の出入口3を表面(または裏面)等の片面に形成する場合を例に挙げて説明しているが、それだけに限られず、本発明においては、一対の出入口3のうち、一方の出入口3を表面側に形成し、他方の出入口3を裏面側に形成するようにしても良い。要は熱交換パネルPの使用状況に応じて、出入口の位置を適宜決定すれば良い。もっとも本発明においては、熱交換パネルPの出入口3の数は2つに限られず、3つ以上形成するようにしても良い。
【0078】
また上記実施形態においては、熱交換流路15を表面視状態でU字状に形成する場合を例に挙げて説明したが、本発明において、熱交換流路15の形状は限定されるものではない。例えば熱交換流路15を、流路形成シート1の縦方向一端から他端にかけて延びるようなI字状に形成したり、蛇行状、波状、つづら折り状に形成したり、渦巻状に形成するようにしても良い。
【0079】
<第2実施形態>
図7はこの発明の第2実施形態である熱交換器としての熱交換パネルPを示す分解斜視図である。同図に示すように、流路形成シート1に形成される熱交換流路15は、その両端部が流路形成シート1の縦方向の一端縁まで形成されており、縦方向の外側に向けて開放されている。そしてその縦方向外側に向けて開放された開放面が出入口3として構成されている。なお本第2実施形態において、表裏面側の被覆シート2には出入口が形成されていない。
【0080】
この第2実施形態の熱交換パネルPにおいては、流路形成シート1の端面に設けられた一対の出入口3のうち、一方の出入口3から冷却液L等の熱交換媒体が流入され、その冷却液Lが熱交換流路15を通って他方の出入口3から流出されるものである。
【0081】
この第2実施形態の熱交換パネルPにおいて他の構成は、上記第1実施形態の熱交換パネルPと実質的に同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して、重複説明は省略する。
【0082】
この第2実施形態の熱交換パネルPにおいても、上記第1と同様の効果を得ることができる。
【0083】
なおこの第2実施形態においては、一対の出入口3を共に縦方向の一端縁に形成する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明おいては、一方の出入口3を縦方向の一端縁に形成し、他方の出入口3を縦方向の他端縁に形成するようにしても良いし、一方の出入口3を縦方向のいずれかの端縁に形成し、他方の出入口3を横方向のいずれかの端縁に形成するようにしても良いし、一方の出入口3を横方向のいずれかの端縁に形成し、他方の出入口を横方向のいずれかの端縁に形成するようにしても良い。
【0084】
さらに本発明においては、一方の出入口3を流路形成シート1の端面に形成し、他方の出入口3を上記第1実施形態のように被覆シート2に形成するようにしても良い。
【0085】
<第3実施形態>
図8はこの発明の第3実施形態である熱交換器としての熱交換パネルPを示す斜視図、
図9はその熱交換パネルPを分解して示す斜視図、
図10はその熱交換パネルPに適用された流路形成シート11を分解して示す斜視図である。
【0086】
これらの図に示すように、本第3実施形態の熱交換パネルPにおける流路形成シート1は、中間シート材1cと、その中間シート材1cの表面側に積層される表側シート材1aと、中間シート材1cの裏面側に積層される裏側シート材1bとの3枚のシート材によって構成されている。
【0087】
各シート材1a~1cには、上記実施形態と同様なU字状の熱交換流路15に対応して、中空状のU字状流路部15a~15cが形成されており、3枚のシート材1a~1cが重ね合わされることにより、各流路部15a~15cも重ね合わされて、中空状の熱交換流路15が形成されるように構成されている。
【0088】
各シート材1a~1cには、その縦方向の一端縁における流路部15a~15cに対応する部分が縦方向の外側に突出するように形成されて、一対の出入口用突出片11a~11cがそれぞれ形成されている。
【0089】
シート材1a~1cのうち、中間シート材1cにおける各出入口用突出片11cには、縦方向に延びるように延長流路部16cがそれぞれ形成されている。各延長流路部16cは、その一端側が流路部15cの両端部に連通接続されており、流路部15cおよび延長流路部16c間を冷却水Lが移動できるように構成されている。
【0090】
また表側シート1aにおける一対の出入口用突出片11cには、中間シート1cの各延長流路部16cに対応して出入口3がそれぞれ形成されている。
【0091】
そして3枚のシート材1a~1cが積層された状態で、熱融着によって各シート1a~1c間が接合一体化されて、流路形成シート1が形成されている。
【0092】
なお本実施形態においては、既述した通り3枚のシート材1a~1cの流路部15a~15cによって1本の熱交換流路15が形成されている。また3枚のシート材1a~1cの重ね合わされた各出入口用突出片11a~11cによって、出入口用突出部11が形成されている。さらに各出入口3は、各延長流路部16cを介して熱交換流路15の両端部にそれぞれ連通接続されている。
【0093】
ここで本実施形態において、各シート材1a~1cのうち、少なくとも表裏のシート材1a,1bの素材を、既述したようなポリプロピレン樹脂によって構成すれば良い。言うまでもなく全てのシート材1a~1cをポリプロピレン樹脂によって構成しても良いし、表裏のシート材1a,1bの表裏面をポリプロピレン樹脂によって構成しても良い。
【0094】
以上の構成の流路形成シート1の表裏両面に上記と同様に、出入口が形成されていない被覆シート2が熱融着されることにより、本第3実施形態の熱交換パネルPが形成される。
【0095】
なおこの熱交換パネルPにおいては必要に応じて、一対の出入口用突出部11の出入口3に、上記第1実施形態と同様なジョイントパイプ4を取り付けるようにしても良い。
【0096】
この第3実施形態において他の構成は、上記実施形態と同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して重複説明は省略する。
【0097】
この第3実施形態の熱交換パネルPは、上記実施形態の熱交換パネルPと同様に使用することができる。すなわち一方の出入口用突出部11の出入口3から冷却液L等の熱交換媒体が流入され、その冷却液Lが延長流路部16cを介して熱交換流路15に流入され、その冷却液Lが熱交換流路15を通って他方の出入口用突出部11の延長流路部16cを介して出入口3から流出されるものである。
【0098】
こうして熱交換流路15内を循環する冷却液Lと、表裏の被覆シート2に接触配置される電池等の熱交換対象部材との間で熱交換されるものである。
【0099】
この第3実施形態の熱交換パネルPにおいても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。その上さらに、本第3実施形態においては、流路形成シート1に出入口用突出部11を形成して、その出入口用突出部11に出入口3を形成するようにしているため、熱交換対象部材に対し、出入口3を離間して配置し易くなる。このため熱交換対象部材の形状や大きさ等にかかわらず、出入口3に流入管や流出管等の外管を簡単に取り付けることができるようになり、汎用性をさらに向上させることができる。
【0100】
なお上記実施形態においては、本発明の熱交換器(熱交換パネル)を自動車用等の電池パックの冷却器として用いる場合を例に挙げて説明したが、本発明においては、電池パックの冷却器以外の冷却器に適用できるとともに、熱交換流路内に加熱用の熱交換媒体(熱媒)を流通させることにより、加熱器として適用することもできる。具体的には、自動車用電池パックの加熱用の熱交換器、自動車の電動機、産業機械、家電、情報端末等の電力駆動機器の主電力を制御するための電力用半導体素子(パワーモジュール)の冷却用の熱交換器、パーソナルコンピュータのCPU(中央演算処理装置)の冷却用の熱交換器、家庭用または業務用蓄電池の冷却/加熱用の熱交換器、パーソナルコンピュータの電池パック(電池モジュール)の冷却用の熱交換器、液晶テレビ、有機ELテレビ、プラズマテレビのディスプレイの冷却用の熱交換器や、床暖房設備、寒冷地域での屋根、通路、道路等の融雪設備の熱交換器としても用いることができる。
【実施例】
【0101】
1.被覆シート材および流路形成シート材の準備
<実施例1>
被覆シート材:PET12/接着剤/AL120/接着剤/CPP40
CPP:3層(ランタ゛ムPP/フ゛ロックPP/ランタ゛ムPP)共押フィルム
流路形成シート材:厚さ0.8mmのPPシート
PPシート:3層(ランタ゛ムPP/フ゛ロックPP/ランタ゛ムPP)のシート
実施例1の被覆シート用の材料(被覆シート材)として、厚さ120μmのAl箔からなる金属箔層21と、その金属箔層21の内面側に接着剤を介して積層され、かつ厚さ40μmのCPPフィルムからなるシーラント層22と、金属箔層21の外面側に接着剤を介して積層され、かつ厚さ12μmのPETフィルムからなる保護層23とを備えたラミネート材を準備した。このラミネート材のシーラント層22を構成するCPPは、3層(ランダムPP/ブロックPP/ランダムPP)の共押フィルムである。ランダムPPの融点は140℃であり、ブロックPPの融点は160℃である。
【0102】
実施例1の流路形成シート用の材料(流路形成シート材)として、厚さ0.8mmのPPシートを準備した。このPPシートは、3層(ランダムPP/ブロックPP/ランダムPP)の共押フィルムである。
【0103】
<実施例2>
被覆シート材:PET12/接着剤/AL120/接着剤/CPP40(ホモPP単層フィルム)
流路形成シート材:厚さ0.8mmのPPシート(ホモPPシート)
被覆シート材として、シーラント層22がホモPP単層フィルムを使用し、流路形成シート材として、ホモPPシート製のものを使用し、それ以外は上記実施例1と同様に、実施例2の被覆シート材および流路形成シート材を作製した。なおホモPPの融点は165℃である。
【0104】
<比較例1>
被覆シート材:PET12/接着剤/AL120/接着剤/LLDPE40
流路形成シート材:厚さ0.8mmのLLDPEシート
被覆シート材として、シーラント層22がLLDPEフィルムを使用し、流路形成シートとして、LLDPEシート製のものを使用し、それ以外は上記実施例1と同様に、比較例1の被覆シート材および流路形成シート材を準備した。なおLLDPEの融点は120℃である。
【0105】
2.熱交換パネルの作製
図1~
図4に示す上記実施形態の熱交換パネルに準拠して、以下のように実施例1,2および比較例1の熱交換パネルを作製した。
【0106】
実施例1,2および比較例1の被覆シート材(ラミネート材)を、縦120mm×横90mmに切断して、表側被覆シートと裏側被覆シートとを作製した。さらに一方の被覆シート(表側被覆シート)における縦方向の端部に、横方向に並設するように直径φ8mmの円形の孔を形成して、一対の出入口3,3を形成した。
【0107】
さらに実施例1,2および比較例1の流路形成シート材を、同じサイズ(縦120mm×横90mm)に切断した後、ファイバーレーザー機を用いて、U字状の熱交換流路15を表裏間で貫通するように形成し、流路形成シート1を作製した。
【0108】
各流路形成シート1の表面側および裏面側に、上記各被覆シートをその内面側のシーラント層21を重ね合わせるように配置して、未接着の積層体を作製した。この際、一対の出入口3,3を有する表側被覆シート2は、その出入口3,3を流路形成シート1の熱交換流路15における両端部に対応して配置した。
【0109】
上記未接着の積層体を、厚さ5mmの2枚のアルミニウム板の間に挟み込んで、180℃に設定された恒温槽内で10分間放置した後、恒温槽から取り出して、冷却されたことを確認してから、アルミニウム板の間から取り出した。この熱処理により、表裏の被覆シート2のシーラント層22と流路形成シートの表裏面とを熱融着して熱交換パネルを作製した。
【0110】
続けて、内径φ8mm、外径φ11mm、長さ10mmのポリプロピレンチューブによって構成されるジョイントパイプ(フランジ部無し)の一端側をバーナーで炙り、溶融したことを確認してから、その溶融側端部を表側被覆シート2における一対の出入口3,3の周縁部に押し付けて熱融着して、実施例1,2および比較例1のジョイントパイプ付き熱交換パネルを作製した。
【0111】
3.冷却性能の評価
アルミニウムブロックで作製した模擬セル(縦100mm×横90mm×厚さ10mm)を恒温槽で80℃に加熱し、その加熱した模擬セルを、実施例1,2および比較例1の熱交換パネルの上(表側被覆シート2の表面中央上)に載置した。その状態で、各熱交換パネルに対し、市販のLLC:水(水道水)=6:4に調整した熱交換媒体(冷却液)を、水温21℃、流量0.3L/minで循環させて模擬セルを冷却した。そして実施例1,2および比較例1の各熱交換パネル毎に、模擬セルにおける上面中央温度を所定の経過時間毎に測定し、その上さらに試験後に、目視にて液漏れの確認を行った。その結果を表1に示す。
【0112】
なお、LLC(ロングライフクーラント)とは、主成分がエチレングリコールで、各種金属(鉄、アルミニウム、銅系)に対する防錆添加剤が混入された不凍液である。
【0113】
【0114】
表1を参照すると、実施例1~3および比較例1の熱交換器はいずれも所定の冷却性能(熱交換性能)を備え、さらに液漏れもなかった。
【0115】
4.シール強度の評価
実施例1,2および比較例1の被覆シート2および流路形成シート1から、幅15mm×長さ150mmの短冊状試験片(被覆シート片および流路形成シート片)を切り出して作製した。
【0116】
実施例1,2および比較例1毎に、被覆シート片の熱融着層と流路形成シート片を、200℃×2sec×2MPaGのシール条件でヒートシール(熱融着)した。このヒートシール時には、シールバーへの付着防止のため、流路形成シート材片側にはPETフィルムを間に挟んで実施した。
【0117】
ヒートシールした実施例1,2および比較例1の被覆シート片および流路形成シート片(シール片)を、70℃に保温した試験液(LLC:水=6;4に調整した液)に、1~2週間浸漬した。
【0118】
そして各シール片毎に、試験液に浸漬前、浸漬1週間後、浸漬2週間後において、島津製作所製ストログラフ(AGS-5kNX)を使用して、速度100mm/分でT型剥離させた時の剥離強度を策定した。その結果を表2に示す。
【0119】
【0120】
表2から明らかなように、ポリエチレン樹脂同士が融着された比較例1のシール片は、シール強度の低下が認められたが、ポリプロピレン樹脂同士が融着された実施例1,2のシール片は、シール強度の低下が認められず、十分な接着強度を備えているのが判る。
【産業上の利用可能性】
【0121】
この発明の熱交換器は、スマートフォンやパーソナルコンピュータ等のCPU回りや電池回りの発熱対策、液晶TV、有機ELTV、プラズマTV等のディスプレイ回りの発熱対策、自動車のパワーモジュール回りや電池回りの発熱対策、スーパーコンピュータ等の定置発熱機の発熱対策に用いられる冷却器の他、床暖房や融雪等の吸熱対策に用いられる加熱器等に利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1:流路形成シート
15:熱交換流路
2: 被覆シート
21:金属箔層
22:シーラント層
3:出入口
L:冷却液(熱交換媒体)
P:熱交換パネル(熱交換器)