(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】粉末状香辛料組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20240704BHJP
A23L 23/10 20160101ALI20240704BHJP
【FI】
A23L27/00 A
A23L23/10
(21)【出願番号】P 2019180006
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-06-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】北川 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕美子
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-117361(JP,A)
【文献】特開2009-011269(JP,A)
【文献】特開2009-011314(JP,A)
【文献】特開昭62-262967(JP,A)
【文献】特開平07-284380(JP,A)
【文献】特開平08-023914(JP,A)
【文献】特開2015-019589(JP,A)
【文献】特開平05-308918(JP,A)
【文献】特開平08-116910(JP,A)
【文献】特開平08-047378(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102914(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/061524(WO,A1)
【文献】特開2000-050795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香辛料及び油脂を含
み水が添加されていない混合物の加熱処理物と、澱粉分解物とを含む、粉末状香辛料組成物であって、
前記香辛料の含有量が、前記組成物の全質量に対して30質量%以上であり、
前記油脂の含有量が、前記組成物の全質量に対して20質量%以上50質量%未満である、粉末状香辛料組成物(ただし、ポリオールを含むものを除く)。
【請求項2】
前記澱粉分解物が、デキストリンを含む、請求項1に記載の粉末状香辛料組成物。
【請求項3】
前記澱粉分解物が、多孔性デキストリンを含む、請求項1又は2に記載の粉末状香辛料組成物。
【請求項4】
前記香辛料が、カレーパウダーを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末状香辛料組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末状香辛料組成物を含む調味料。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末状香辛料組成物を含む食品。
【請求項7】
香辛料と、油脂とを含む混合物を、品温100℃以上で加熱して、加熱処理物を調製する工程と、
前記加熱処理物を冷却する工程と、
冷却した前記加熱処理物に澱粉分解物を添加する工程と、
を含む、粉末状香辛料組成物の製造方法であって、
前記香辛料の含有量が、前記組成物の全質量に対して30質量%以上であり、
前記油脂の含有量が、前記組成物の全質量に対して20質量%以上50質量%未満である、製造方法(ただし、前記粉末状香辛料組成物がポリオールを含む場合を除く)。
【請求項8】
前記澱粉分解物が、デキストリンを含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記澱粉分解物が、多孔性デキストリンを含む、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記香辛料が、カレーパウダーを含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状香辛料組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の製造工程においては、原料に何らかの加工を施した仕掛品を適宜使用して、最終的な製品を製造することがある。例えば、特許文献1には、嗜好品飲料及びスープ類の調理素材又は添加物として使用することのできる粉末油脂が記載されており、当該粉末油脂は、油脂及びデキストリンを含み、その油脂含量は46~86質量%であることなどが記載されている。また、特許文献2には、香辛料及び油脂などを加熱撹拌した後に、デキストリンなどの他の原料を添加してペースト状調味料を調製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-191655号公報
【文献】特開2019-122268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カレー等の製品の製造に使用する香辛料として、従来は油脂の比率が高く油脂によって固形状やフレーク状に固まった仕掛品を使用していたが、この仕掛品を使用するためには、まず油脂の融点よりも高い温度で溶解し、均一になるまで撹拌してから計量して使用する必要があった。これに対し、粉末状の仕掛品であれば、上記のような溶解が不要になり、利便性が向上すると考えられる。しかし、油脂の比率の高い仕掛品を粉砕して粉末状にした場合、その表面に油脂がにじみ出てしまい、粉砕物同士の接着などによるハンドリングの低下が生じた。そこで、本発明は、油脂のにじみ出しが抑制された粉末状香辛料組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、香辛料及び油脂を含む加熱処理物に澱粉分解物を配合することにより、調製された香辛料組成物において油脂のにじみ出しを抑制できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す粉末状香辛料組成物及びその製造方法を提供するものである。
〔1〕香辛料及び油脂を含む加熱処理物と、澱粉分解物とを含む、粉末状香辛料組成物であって、
前記香辛料の含有量が、前記組成物の全質量に対して30質量%以上であり、
前記油脂の含有量が、前記組成物の全質量に対して20質量%以上である、粉末状香辛料組成物。
〔2〕前記油脂の含有量が、前記組成物の全質量に対して50質量%未満である、前記〔1〕に記載の粉末状香辛料組成物。
〔3〕前記澱粉分解物が、デキストリンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の粉末状香辛料組成物。
〔4〕前記澱粉分解物が、多孔性デキストリンを含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の粉末状香辛料組成物。
〔5〕前記香辛料が、カレーパウダーを含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の粉末状香辛料組成物。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の粉末状香辛料組成物を含む調味料。
〔7〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の粉末状香辛料組成物を含む食品。
〔8〕香辛料と、油脂とを含む混合物を、品温100℃以上で加熱して、加熱処理物を調製する工程と、
前記加熱処理物を冷却する工程と、
冷却した前記加熱処理物に澱粉分解物を添加する工程と、
を含む、粉末状香辛料組成物の製造方法であって、
前記香辛料の含有量が、前記組成物の全質量に対して30質量%以上であり、
前記油脂の含有量が、前記組成物の全質量に対して20質量%以上である、製造方法。
〔9〕前記油脂の含有量が、前記組成物の全質量に対して50質量%未満である、前記〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕前記澱粉分解物が、デキストリンを含む、前記〔8〕又は〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕前記澱粉分解物が、多孔性デキストリンを含む、前記〔8〕~〔10〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔12〕前記香辛料が、カレーパウダーを含む、前記〔8〕~〔11〕のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、香辛料及び油脂を含む加熱処理物に澱粉分解物を配合することにより、油脂のにじみ出しが抑制された粉末状香辛料組成物を調製することができる。したがって、操作性の良好な粉末状香辛料組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の粉末状香辛料組成物は、香辛料及び油脂を含む加熱処理物と、澱粉分解物とを含んでいる。本明細書に記載の「加熱処理物」とは、前記香辛料及び前記油脂を混合して加熱処理することにより調製された組成物のことをいう。前記香辛料を前記油脂の中で加熱することで、各香辛料に特有の加熱香が発生し得る。前記香辛料としては、当技術分野で通常採用されるものを特に制限されることなく採用することができ、1種類の香辛料を単独で使用してもよく、複数種の香辛料を混合した混合香辛料を使用してもよい。前記香辛料としては、例えば、カレーパウダー、ガーリックパウダー、コリアンダー、クミン、キャラウェー、タイム、セージ、胡椒、唐辛子、マスタード、ターメリック、フェヌグリーク、クローブ、及びパプリカなどを使用してもよい。前記香辛料の含有量は、前記粉末状香辛料組成物の全質量に対して約30質量%以上であり、好ましくは約50質量%~約70質量%である。
【0008】
本明細書に記載の「油脂」とは、食用に供される天然油脂又は加工油脂などのことをいう。前記油脂としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記油脂は、バター、牛脂、及び豚脂などの動物油脂、マーガリン、パーム油、綿実油、及びコーン油などの植物油脂、これらの硬化油脂、並びにこれらの混合油脂などからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。前記油脂の含有量は、前記粉末状香辛料組成物の全質量に対して約20質量%以上であり、好ましくは約30質量%以上である。前記油脂をこのような量で配合することで、香辛料を効率よく加熱することが可能となり、加熱香を向上させることができる。また、ある態様では、前記油脂の含有量は、約50質量%未満であってもよい。前記油脂をこのような量で配合することで、前記油脂のにじみ出しがより少ない粉末状香辛料組成物を調製することができる。
【0009】
本明細書に記載の「澱粉分解物」とは、生澱粉を化学的又は酵素的な処理によって低分子化することによって得られる食品原料のことをいう。前記澱粉分解物としては、当技術分野で通常使用されているものを特に制限されることなく採用することができる。例えば、前記澱粉分解物は、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、多孔性デキストリン、還元デキストリン、及び還元マルトデキストリンなどであってもよい。前記澱粉分解物の含有量は、特に制限されないが、例えば、前記粉末状香辛料組成物の全質量に対して約5質量%~約25質量%であってもよく、好ましくは約10質量%~約20質量%である。前記澱粉分解物をこのような量で配合することで、前記油脂のにじみ出しをより効果的に抑制する一方、前記香辛料の風味への影響がより少ないバランスの優れた粉末状香辛料組成物を調製することができる。特定の理論に拘束されるものではないが、前記澱粉分解物は、その立体構造中に前記油脂を抱き込むことができるため、前記粉末状香辛料組成物の粉末表面に前記油脂がにじみ出すことを抑えることができると考えられる。さらに、前記澱粉分解物が前記油脂を抱き込むことにより、前記粉末状香辛料組成物の水分散性が向上する。なお、前記澱粉分解物のデキストロース当量(DE)は、特に制限されない。
【0010】
本発明の粉末状香辛料組成物は、各種原料を適宜配合して、当技術分野で通常使用される任意の方法により調製することができる。前記粉末状香辛料組成物の粒径は、特に制限されないが、例えば、前記粉末状香辛料組成物は、目開きが4.0mmの篩を通過する大きさになるように、粉砕機などによって粉砕されていてもよい。また、前記粉末状香辛料組成物は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の調味料、食品原料、及び/又は添加剤をさらに含有してもよい。そして、前記粉末状香辛料組成物においては、前記油脂のにじみ出しが抑制され、粉末粒子同士の接着が抑制されており、取り扱い性が向上しているため、前記粉末状香辛料組成物は、調味料や食品の原料、例えば、カレーやシチュー、ハヤシ、チャウダー、スープ、及び鍋などを調理するためのルウ(固形ルウ、フレークルウ、粉末ルウ、及びペースト状ルウなど)、また、ラーメンやうどん、そば、パスタ、及び鍋などの粉末スープ、さらに、スナック菓子やシーズニングなどの製造に使用される原料として好適に利用できる。そのため、ある態様では、本発明は、前記粉末状香辛料組成物を含む調味料又は食品にも関している。
【0011】
また別の態様では、本発明は、粉末状香辛料組成物の製造方法にも関しており、当該製造方法は、香辛料と、油脂とを含む混合物を、品温100℃以上で加熱して、加熱処理物を調製する工程と、
前記加熱処理物を冷却する工程と、
冷却した前記加熱処理物に澱粉分解物を添加する工程と、
を含んでおり、前記香辛料の含有量が、前記組成物の全質量に対して30質量%以上であり、前記油脂の含有量が、前記組成物の全質量に対して20質量%以上である。前記澱粉分解物を添加する際の品温は、当該澱粉分解物の立体構造が損なわれない限り特に制限されないが、例えば、添加時の品温は、約95℃以下であってもよく、好ましくは約85℃以下である。
【0012】
ある態様では、本発明の製造方法は、前記加熱処理物及び前記澱粉分解物の混合物を粉砕する工程をさらに含んでもよい。前記粉砕工程における粉砕の程度は、特に制限されないが、例えば、前記粉末状香辛料組成物が、目開きが4.0mmの篩を通過する大きさになるように、粉砕機などによって粉砕してもよい。また、本発明の製造方法は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の調味料、食品原料、及び/又は添加剤を添加する工程をさらに含んでもよい。
【0013】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
〔製造例1〕
カレーパウダー及び油脂を、後掲の表1に記載の量で混合して品温125℃になるまで加熱(約60分)し、加熱処理物を調製した。当該加熱処理物を冷却し、品温が80℃になったときに、実施例についてはデキストリン又は多孔性デキストリンを添加し、比較例については何も添加しないか小麦粉を添加した後、品温10℃まで冷却してフレーク状の香辛料組成物を調製した。そして、このフレーク状の香辛料組成物を、目開きが4.0mmの篩を通過する大きさになるように粉砕機で粉砕して、実施例1及び2並びに比較例1~3の粉末状香辛料組成物を調製した。
【0015】
〔試験例1〕
実施例1及び2並びに比較例1~3の粉末状香辛料組成物を室温で30分間放置し、油のにじみ出しの有無を目視によって観察した。また、そのときの各粉末状香辛料組成物の加熱香の有無を4名のパネラーにより評価した。結果を表1に示す。
【0016】
【0017】
デキストリン又は多孔性デキストリンを含む実施例1及び2の粉末状香辛料組成物においては、製造後30分経っても油脂のにじみ出しが観察されず、特に多孔性デキストリンを含む実施例2の粉末状香辛料組成物ではサラサラの粉末形状が極めて良好に維持されていた。一方、デキストリン類を含まない比較例1~3の香辛料組成物においては、油脂のにじみ出しが観察され、粉末粒子同士が付着していた。小麦粉ではデキストリン類の代わりにはならなかった。また、実施例1及び2並びに比較例1及び2の粉末状香辛料組成物においては、香ばしい加熱香が感じられたが、油脂の配合量が少なすぎる比較例3の香辛料組成物では、加熱が十分に行えず加熱香が弱かった。
【0018】
〔製造例2〕
実施例1の粉末状香辛料組成物を使用し、以下のとおりフレーク状のカレールウを製造した。
牛脂30質量部、及び小麦粉25質量部を加熱釜に投入して加熱撹拌し、加熱釜内の原料の品温を50分かけて120℃まで昇温して、小麦粉ルウを製造した。この小麦粉ルウに、風味原料17質量部、砂糖10質量部、食塩10質量部、実施例1の粉末状香辛料組成物8質量部を添加して加熱撹拌した。各種原料を添加した後の品温は80℃だった。加熱釜内の原料の品温を20分かけて100℃まで上昇させた後、65℃以下まで冷却し、フレーク製造装置(特許第3962262号を参照)を使用して、実施例3のフレーク状のカレールウを製造した。
【0019】
〔試験例2〕
実施例3のカレールウを使用してカレーを調理し、加熱香の様子を4名のパネラーにより評価した。このカレーにおいては、カレーパウダーの加熱香が良好に感じられた。
【0020】
以上より、香辛料及び油脂を含む加熱処理物に澱粉分解物を配合することにより、調製された香辛料組成物において油脂のにじみ出しを抑制できることが分かった。したがって、操作性の良好な粉末状香辛料組成物を提供することが可能となる。