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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用負極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20240704BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240704BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240704BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20240704BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01G11/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020027178
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021131991
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣野 友紀
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/150511(WO,A1)
【文献】特開2004-335195(JP,A)
【文献】特表2015-502026(JP,A)
【文献】国際公開第2007/063765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の被覆粒子からなる蓄電デバイス用負極材料であって、
それぞれの被覆粒子が、コア粒子と、このコア粒子の表面の一部又は全部を覆いかつ炭素系材料からなる被覆層とを有しており、
このコア粒子が、一部のOがSiに置換しているSiO相のマトリクスと、このマトリクスに分散する複数のSi相とを有しており、
上記SiO相に置換によって導入されたSiの平均結晶子サイズが5nm以下であり、
上記Si相の平均結晶子サイズが10nm以上20nm以下であり、
X線回折における、SiOのメインピークである(101)面の回折ピーク強度Iと、Siのメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIとの比(I/II)が、0以上1.09以下であり、
上記回折ピーク強度IIの半値幅が0.50°以上2.00°以下である負極材料。
【請求項2】
上記被覆層の材質が、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブからなる群より選択された1又は2以上である請求項1に記載の負極材料。
【請求項3】
上記被覆層の含有率が10.0質量%以下である請求項1又は2に記載の負極材料。
【請求項4】
上記コア粒子の表面の50面積%以上が上記被覆層で覆われている請求項1から3のいずれかに記載の負極材料。
【請求項5】
その平均粒子径D50が1.0μm以上12.0μm以下である請求項1から4のいずれかに記載の負極材料。
【請求項6】
多数の粒子からなる蓄電デバイス用負極材料であって、
それぞれの粒子が、一部のOがSiに置換しているSiO相のマトリクスと、このマトリクスに分散する複数のSi相とを有しており、
上記SiO相に置換によって導入されたSiの平均結晶子サイズが5nm以下であり、
上記Si相の平均結晶子サイズが10nm以上20nm以下であり、
X線回折における、SiOのメインピークである(101)面の回折ピーク強度Iと、Siのメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIとの比(I/II)が、0以上1.09以下であり、
上記回折ピーク強度IIの半値幅が0.50°以上2.00°以下である負極材料。
【請求項7】
その平均粒子径D50が1.0μm以上12.0μm以下である請求項6に記載の負極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池、全固体リチウムイオン二次電池、ハイブリットキャパシタ等の、充電時及び放電時にリチウムイオンの移動を伴う蓄電デバイスの、負極に適した材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、携帯音楽プレーヤー、携帯端末等が急速に普及している。これらの携帯機器は、リチウムイオン二次電池を有している。電気自動車及びハイブリッド自動車も、リチウムイオン二次電池を有している。さらに、家庭用の定置蓄電デバイスとして、リチウムイオン二次電池及びハイブリットキャパシタが用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池では、放電時に負極がリチウムイオンを吸蔵する。リチウムイオン二次電池の充電時には、負極からリチウムイオンが放出される。負極は、集電体と、この集電体の表面に固着された活物質とを有している。
【0004】
負極における活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス等の炭素系材料が用いられている。この炭素系材料の、リチウムイオンに対する理論上の容量は、372mAh/gにすぎない。容量の大きな活物質が望まれている。
【0005】
負極における活物質として、Siが注目されている。Siは、リチウムイオンと反応する。この反応により、化合物が形成される。典型的な化合物は、Li22Siである。この反応により、大量のリチウムイオンが負極に吸蔵される。Siは、負極の蓄電容量を高めうる。
【0006】
Siを含む活物質層がリチウムイオンを吸蔵すると、前述の化合物の生成により、この活物質層が膨張する。活物質の膨張率は、約400%である。活物質層からリチウムイオンが放出されると、この活物質層が収縮する。膨張と収縮との繰り返しにより、活物質が集電体から脱落する。この脱落は、蓄電容量を低下させる。膨張と収縮との繰り返しにより、活物質間の導電性が阻害されることもある。Siを含む従来のリチウムイオン二次電池負極の寿命は、長くない。
【0007】
Si酸化物の蓄電容量は、Siの蓄電容量に比べると小さいが、炭素系材料の蓄電容量に比べると十分大きい。さらに、Si酸化物がリチウムイオンを吸蔵するときの体積変化は、Siのそれと比べて小さい。サイクル寿命の観点から、リチウムイオン二次電池へのSi酸化物の適用が、検討されている。
【0008】
Si酸化物がリチウムイオンを吸蔵すると、反応によってケイ酸リチウムが生成する。この反応は、不可逆的である。このケイ酸リチウムは、初期容量可逆率の低下を招く。さらに、ケイ酸リチウムが多量に生成されて被膜が形成されると、この被膜が抵抗となり、サイクル中の容量低下を引き起こす。
【0009】
特表2019-508842公報には、その組成がSi、Si化合物、金属酸化物、Si酸化物及び炭素系材料からなる負極材料が開示されている。この負極材料では、これらの材料の複合により、蓄電容量と低膨張率とが両立されうる。この負極材料では、炭素系材料が、初期容量可逆率及びサイクル寿命に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2019-508842公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のリチウムイオン二次電池では、大きな蓄電容量、長いサイクル寿命、及び十分な初期容量可逆率の全てを満たすことはできない。同様の問題は、リチウムイオン二次電池以外の、様々な蓄電デバイスにおいても、生じている。
【0012】
本発明の目的は、蓄電容量、サイクル寿命及び初期容量可逆率に優れた蓄電デバイスが得られる、負極材料の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る蓄電デバイス用負極材料は、多数の被覆粒子からなる。それぞれの被覆粒子は、コア粒子と、このコア粒子の表面の一部又は全部を覆いかつ炭素系材料からなる被覆層とを有する。このコア粒子の材質は、一部のOがSiに置換しているSiO相のマトリクスと、このマトリクスに分散する複数のSi相とを有する合金である。置換によってSiO相に導入されたSiの平均結晶子サイズは、5nm以下である。Si相の平均結晶子サイズは、10nm以上20nm以下である。X線回折における、SiOのメインピークである(101)面の回折ピーク強度Iと、Siのメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIとの比(I/II)は、0以上1.09以下である。回折ピーク強度IIの半値幅は、0.50°以上2.00°以下である。
【0014】
好ましくは、被覆層の材質は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブからなる群より選択された1又は2以上である。
【0015】
好ましくは、被覆層の含有率は、10.0質量%以下である。好ましくは、コア粒子の表面の50面積%以上が、被覆層で覆われる。
【0016】
好ましくは、コア粒子における、SiO相の含有率は40.0質量%以上87.8質量%以下であり、Si相の含有率は12.2質量%以上60.0質量%以下である。
【0017】
好ましくは、負極材料の平均粒子径D50は、1.0μm以上12.0μm以下である。
【0018】
本発明に係る他の蓄電デバイス用負極材料は、多数の粒子からなる。それぞれの粒子の材質は、一部のOがSiに置換しているSiO相のマトリクスと、このマトリクスに分散する複数のSi相とを有する合金である。このSiO相に置換によって導入されたSiの平均結晶子サイズは、5nm以下である。このSi相の平均結晶子サイズは、10nm以上20nm以下である。X線回折における、SiOのメインピークである(101)面の回折ピーク強度Iと、Siのメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIとの比(I/II)は、0以上1.09以下である。回折ピーク強度IIの半値幅は、0.50°以上2.00°以下である。好ましくは、粒子における、SiO相の含有率は40.0質量%以上87.8質量%以下であり、Si相の含有率は12.2質量%以上60.0質量%以下である。好ましくは、負極材料の平均粒子径D50は、1.0μm以上12.0μm以下である。
【0019】
本発明に係る負極材料の製造方法は、
(1)その材質がSiである原料と、その材質がSiOである原料とを、準備する工程、
(2)これらの原料をミリングに供し、SiO相の一部のOをSiに置換して、合金を得る工程、
及び
(3)上記合金を熱処理に供する工程
を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る負極材料が用いられた蓄電デバイスでは、微細Siと微結晶Siとが主として蓄電容量及び初期容量可逆率に寄与し、SiO相が主としてサイクル寿命に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る負極材料のコア粒子の金属組織の一部が示されたTEM写真である。
図2図2は、図1の金属組織のマトリクスが示されたTEM写真である。
図3図3は、図1の負極材料のコア粒子の粉末X線回折の結果が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0023】
本実施形態は、リチウムイオン二次電池の負極材料である。このリチウムイオン二次電池は、充放電時にリチウムイオンの移動を伴う蓄電デバイスの一例である。リチウムイオン二次電池の負極は、集電体、活物質、導電材及び結着材を有している。活物質、導電材及び結着材が混ざり合った状態で、これらが集電体に付着している。導電材は、活物質の導電性を補助する。結着材は、活物質粒子を他の活物質粒子に固着させる。結着材はさらに、活物質粒子を集電体に固着させる。この活物質として、本発明に係る負極材料が用いられうる。
【0024】
負極材料は、多数の被覆粒子(Covered Particle)からなる。多数の被覆粒子の集合は、粉末である。これらの被覆粒子の材質は、合金である。以下、「被覆粒子」が単に「粒子」と称されることがある。
【0025】
それぞれの被覆粒子は、コア粒子と、被覆層とを有している。図1に、コア粒子の金属組織のTEM写真が示されている。図1には、複数のSi相(微結晶Si)と、SiO相とが示されている。これらのSi相は、SiO相のマトリクス中に分散している。図2は、図1の金属組織のマトリクスが示されたTEM写真である。図2には、微細Siが示されている。この微細Siは、SiO相の一部のOに置換することでSiO相に導入されたSiである。後に詳説されるように、微細Siの結晶子サイズは、Si相(微結晶Si)の結晶子サイズよりも小さい。
【0026】
合金が、Si相及びSiO相と共に、他の相を含んでもよい。好ましくは、この合金は、Si相及びSiO相のみからなる。好ましくは、この合金の組成はSi及びOを含み、残部は不可避的不純物である。
【0027】
それぞれのSi相は、微細である。このリチウムイオン電池では、Si相は、マトリクスを介して電解液と通電している。Si相は、電気的に孤立していない。Si相は、リチウムイオンと反応する。この反応により、化合物が形成される。典型的な化合物は、Li22Siである。この反応により、大量のリチウムイオンがSi相に吸蔵される。Si相は、負極の蓄電容量を高めうる。
【0028】
リチウムイオンの吸蔵により、Si相は膨張する。リチウムイオンは、Si相から離脱しうる。この離脱により、Si相は収縮する。Si相の膨張又は収縮によって生じた応力は、SiO相によって緩和される。この緩和は、Si相の電気的孤立を抑制する。この緩和は、集電体からの粒子の脱落を抑制する。この負極は、サイクル寿命に優れる。
【0029】
SiO相がリチウムイオンと反応すると、不可逆的化合物であるケイ酸リチウムが生成する。本発明に係る負極材料は、Siが一部のOに置換しているので、SiO相におけるOの量が少ない。従って、ケイ酸リチウムの生成が抑制される。このリチウムイオン二次電池は、初期容量可逆率に優れる。
【0030】
SiO相がリチウムイオンと反応すると、置換によってSiO相に導入されたSi(微細Si)が、リチウムイオンと結合する。この結合により、リチウムイオンが負極に吸蔵される。置換によって導入されたSiは、負極の蓄電容量を高めうる。
【0031】
置換によって導入されたSi(微細Si)がリチウムイオンと反応するとき、SiO相の膨張が生じる。リチウムイオンが離脱するとき、SiO相の収縮が生じる。膨張又は収縮によって生じた応力は、微細Siの周囲に存在する、O-Si-O結合により、緩和される。この緩和は、微細Siの電気的孤立を抑制する。この緩和は、集電体からの粒子の脱落を抑制する。この負極は、サイクル寿命に優れる。
【0032】
この負極材料では、微結晶Siと微細Siとの両方が、リチウムイオンと反応する。これにより、充放電時の応力が抑制されつつ、優れた蓄電容量が達成されうる。
【0033】
Si相からなる従来の負極では、Si相の界面が電解液と接触し、電解液の分解反応が起こる。この反応により、SEIが形成される。その後のSi相の膨張及び収縮により、SEIが剥離する。さらに、SEIが再度形成され、しかも、膨張時及び収縮時の割れで新たに現れた界面でも新たなSEIが形成される。従来の負極では、過剰かつ不均一なSEIが発生する。このSEIの生成は、電池の内部抵抗増加、及び電解液の枯渇を引き起こす。本発明に係る負極材料では、Si相は、マトリクス中に分散しているので、電解液とはあまり接触しない。この負極では、SEIの形成が抑制されうる。この負極は、サイクル寿命に優れる。
【0034】
微結晶Siの平均結晶子サイズは、10nm以上20nm以下が好ましい。平均結晶子サイズが10nm以上である負極では、微結晶Siが蓄電容量に寄与しうる。この観点から、平均結晶子サイズは12nm以上がより好ましく、13nm以上が特に好ましい。平均結晶子サイズが20nm以下である負極では、充放電時の応力が抑制される。この観点から、平均結晶子サイズは18nm以上がより好ましく、17nm以上が特に好ましい。無作為に抽出された10カ所にて結晶子サイズが測定され、平均が算出される。
【0035】
微細Siの平均結晶子サイズは、5nm以下が好ましい。平均結晶子サイズが5nm以下である負極では、充放電時の応力が抑制される。この観点から、平均結晶子サイズは4nm以上がより好ましく、3nm以上が特に好ましい。無作為に抽出された10カ所にて結晶子サイズが測定され、平均が算出される。
【0036】
結晶子サイズは、後述される粉末X線回折により確認されうる。回折スペクトルにおいて、結晶子サイズが小さいほど、ブロードな回折ピークが観測される。粉末X線回折分析で得られるピークの半値幅から、下記のScherrerの式が用いられて、結晶子サイズが求められ得る。
D = (K × λ) / (β × cosθ)
この数式において、Dは結晶子の大きさ(オングストローム)を表し、KはScherrerの定数を表し、λはX線管球の波長を表し、βは結晶子の大きさによる回折線の拡がりを表し、θは回折角を表す。
【0037】
コア粒子におけるSiO相の含有率は、40.0質量%以上87.8質量%以下が好ましい。この含有率が40.0質量%以上である負極材料では、充放電時の応力が抑制される。従ってこの負極は、サイクル寿命に優れる。この観点から、この含有率は45.0質量%以上がより好ましく、50.0質量%以上が特に好ましい。この含有率が87.8質量%以下である負極材料は、蓄電容量に優れる。この観点から、この含有率は80.0%質量%がより好ましく、75.0質量%以下が特に好ましい。
【0038】
コア粒子におけるSi相の含有率は、12.2質量%以上60.0質量%以下が好ましい。この含有率が12.2質量%以上である負極材料は、蓄電容量に優れる。この観点から、この含有率は15.0質量%以上がより好ましく、17.0質量%以上が特に好ましい。この含有率が60.0質量%以下である負極材料は、充放電時の応力が抑制される。従ってこの負極は、サイクル寿命に優れる。この観点から、この含有率は57.0%質量%がより好ましく、55.0質量%以下が特に好ましい。
【0039】
SiO相における、Siへの置換がなされる前の段階でのO原子の総数に対する、置換によってSiO相に導入されたSi原子の数の比率は、5%以上が好ましく、8%以上がより好ましく、10%以上が特に好ましい。
【0040】
図3は、図1の負極材料の粉末X線回折の結果が示されたグラフである。図3において、横軸は2θ(deg.)であり、縦軸は強度(a.u.)である。図3には、SiOのメインピークである(101)面の回折ピーク強度I、及びSiのメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIが示されている。
【0041】
このX線回折では、X線源として波長が1.54059オングストロームのCuKα線が用いられる。測定は、2θが20°以上80°以下の範囲でなされる。これにより、回折スペクトルが得られる。この回折スペクトルから、回折ピーク強度Iと回折ピーク強度IIとが選定される。
【0042】
回折ピーク強度Iと回折ピーク強度IIとの比(I/II)は、1.09以下が好ましい。比(I/II)がこの範囲内である負極材料では、SiO相がサイクル寿命に十分に寄与し、Si相が蓄電容量及び初期容量可逆率に十分に寄与しうる。この観点から、比(I/II)は1.05以下がより好ましく、1.00以下が特に好ましい。比(I/II)は、0以上である。
【0043】
回折ピーク強度IIの半値幅Aは、好ましくは、下記数式を満たす。
0.50 ≦ A ≦ 2.00
換言すれば、この半値幅Aは、0.50°以上2.00°以下が好ましい。半値幅Aが0.50°以上である負極材料では、Si相の割れが抑制される。さらにこの負極材料では、充放電時の応力が抑制される。従ってこの負極は、サイクル寿命に優れる。この観点から、半値幅Aは0.65以上がより好ましく、0.70以上が特に好ましい。半値幅Aが2.00°以下である負極材料では、Si相の結晶性が低すぎない。この負極材料では、リチウムイオンのSi相までのパスの数が過大でない。従って、このパスのわずかな遮断では、性能が大幅には低下しない。さらにこの負極材料では、Si結晶サイズが多少ばらついても、局所的な電極膨張が生じにくい。この負極は、サイクル寿命に優れる。これらの観点から、半値幅Aは1.50°以下がより好ましく、1.30°以下が特に好ましい。半値幅Aは、X線回折のチャートにおいて、強度がピークの最大値IIの半分であるときの、そのピークの幅である。
【0044】
被覆層の電気伝導度は、コア粒子のそれよりも高い。被覆層は、多数の微粉から形成される。これらの微粉は、コア粒子の表面に付着する。被覆層は、コア粒子の表面の一部又は全部を覆う。被覆層を有する負極材料は、初期容量可逆率及びサイクル寿命に優れる。この負極材料は、特にレート特性に優れる。
【0045】
被覆層は、コア粒子と電解液との直接の接触を抑制する。従ってこの被覆層は、Siと電解液との反応を抑制する。この負極では、抵抗被膜の形成が抑制され、かつ電解液の枯渇が抑制される。この負極は、サイクル寿命に優れる。
【0046】
さらに被覆層は、コア粒子の膨張又は収縮によって生じる応力を緩和する。被覆層を有する負極材料は、サイクル寿命に優れる。
【0047】
被覆層の材料として、炭素系材料が例示される。好ましい炭素系材料として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、他のカーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ及び非晶質炭素の粉末が例示される。アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブの粉末が、特に好ましい。2以上の粉末が、併用されてもよい。これらの炭素系材料に含まれるCと、コア粒子に含まれるSiとの反応は、実質的には生じていない。
【0048】
コア粒子の表面における、被覆層で覆われた部分の面積の比率Ccは、50%以上が好ましい。この負極材料は、導電性に優れる。さらにこの負極材料では、Siと電解液との反応が抑制される。この観点から、この比率Ccは55面積%以上がより好ましく、60面積%以上が特に好ましい。
【0049】
蓄電容量の観点から、被覆粒子における被覆層の含有率Pcは、10.0質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、7.0質量%以下が特に好ましい。初期容量可逆率及びサイクル寿命の観点から、含有率Pcは2.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、4.0質量%以上が特に好ましい。
【0050】
負極材料の粉末の平均粒子径D50は、1.0μm以上12.0μm以下が好ましい。平均粒子径D50が1.0μm以上である負極材料では、被覆粒子の表層でのSEI形成量が抑制される。従って、抵抗が増加しにくく、電解液が不足しにくい。この負極材料は、サイクル寿命に優れる。この観点から、平均粒子径D50は1.2μm以上がより好ましく、1.5μm以上が特に好ましい。平均粒子径D50が12.0μm以下である負極材料では、リチウムイオンの吸蔵時及び放出時の体積変化によるクラックが抑制される。この負極材料は、サイクル寿命に優れる。この観点から、平均粒子径D50は10.0μm以下がより好ましく、8.0μm以下が特に好ましい。
【0051】
平均粒子径D50は、粉末の体積の累積カーブにおいて、累積体積が50%であるときの粒子直径である。平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置により測定される。
【0052】
以下、本発明に係る負極材料の製造方法の一例が説明される。この製造方法は、
(1)その材質がSiである原料と、その材質がSiOである原料とを、準備する工程、
(2)これらの原料をミリングに供し、SiO相の一部のOをSiに置換して、合金を得る工程、
及び
(3)上記合金を熱処理に供する工程
を含む。
【0053】
ミリングに供されるSi原料は、アトマイズ法、溶融法、還元法等によって製作されうる。Si原料の性状は、粉末状、フレーク状、塊状等である。ミリングに供されるSiO原料は、液相合成法、気相合成法、溶融法等によって製作されうる。SiO原料の性状は、粉末状、フレーク状、塊状等である。これらの原料が、メディアと共にポットに投入される。メディアの材質として、ジルコニア、SUS304及びSUJ2が例示される。ポットの材質として、ジルコニア、SUS304及びSUJ2が例示される。このポットの内部が不活性ガスで満たされて、このポットが密閉される。このポットがミリング装置に載せられて、攪拌がなされる。ミリング法として、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、アトライタ及び振動ボールミルが例示される。ミリングにより、Si相及びSiO相の結晶性が低下する。ミリングの高エネルギーにより、SiOの一部のOがSiに強制的に置換され、粉末状の合金が得られる。過剰のミリングは、SiO相の消失を招来する。適量の置換がなされ、適量のSiO相が残存するように、ミリングの条件が調整される。
【0054】
この合金が、熱処理に供される。この熱処理では、粉末が高温雰囲気に保持され、その後に徐冷(炉冷)される。熱処理温度は、700℃以上1050℃以下が好ましい。熱処理温度が700℃以上であるとき、Si相及びSiO相の結晶性が高められる。従って、1.09以下である比(I/II)が達成されうる。この観点から、熱処理温度は750℃以上がより好ましく、800℃以上が特に好ましい。熱処理温度が1050℃以下であるとき、Si相及びSiO相の結晶性が過大ではない。従って、1.09以下である比(I/II)と、0.5°以上2.0°以下である半値幅Aとが達成されうる。この観点から、熱処理温度は1000℃以下がより好ましく、950℃以上が特に好ましい。
【0055】
熱処理温度での保持時間は、0.5h以上1.5h以下が好ましい。保持時間が0.5h以上であるとき、Si相及びSiO相の結晶性が高められる。従って、1.09以下である比(I/II)が達成されうる。この観点から、保持時間は0.7h以上が特に好ましい。保持時間が1.5h以下であるとき、Si相及びSiO相の結晶性が過大ではない。従って、1.09以下である比(I/II)と、0.5°以上2.0°以下である半値幅Aとが達成されうる。この観点から、保持時間は1.3h以下が特に好ましい。
【0056】
アルゴンガス雰囲気において、混合物が保持されることが好ましい。窒素ガス雰囲気又は真空雰囲気において、混合物が保持されもよい。
【0057】
熱処理後に、粉末の粒度分布が調整されてもよい。ミリング、ジェットミル、分級等により、粒度分布が調整されうる。ミリングとして、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、アトライタ及び振動ボールミルが例示される。
【0058】
熱処理により、コア粒子が得られる。このコア粒子に、被覆層が被覆される。被覆の手段として、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、アトライタ、振動ボールミル、メカノケミカル、CVD及びPVDが例示される。コア粒子の炭化により、被覆がなされてもよい。
【0059】
本発明に係る負極材料が用いられた負極は、蓄電容量、サイクル寿命及び初期容量可逆率に優れる。この負極は、
(1)集電体
及び
(2)この集電体の表面に固着された多数の被覆粒子
を備える。それぞれの被覆粒子は、コア粒子と、このコア粒子の表面の一部又は全部を覆いかつ炭素系材料からなる被覆層とを有する。このコア粒子の材質は、一部のOがSiに置換しているSiO相のマトリクスと、このマトリクスに分散する複数のSi相とを有する合金である。SiO相に置換によって導入されたSiの平均結晶子サイズは5nm以下である。Si相の平均結晶子サイズは、10nm以上20nm以下である。X線回折における、SiOのメインピークである(101)面の回折ピーク強度Iと、Siのメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIとの比(I/II)は、0以上1.09以下である。回折ピーク強度IIの半値幅は、0.50°以上2.00°以下である。
【0060】
本発明に係る負極材料が用いられた蓄電デバイスは、蓄電容量、サイクル寿命及び初期容量可逆率に優れる。この蓄電デバイスは、
(1)正極
及び
(2)負極
を備える。この負極は、
(2-1)集電体
及び
(2-2)この集電体の表面に固着された多数の被覆粒子
を有する。それぞれの被覆粒子は、コア粒子と、このコア粒子の表面の一部又は全部を覆いかつ炭素系材料からなる被覆層とを有する。このコア粒子の材質は、一部のOがSiに置換しているSiO相のマトリクスと、このマトリクスに分散する複数のSi相とを有する合金である。SiO相に置換によって導入されたSiの平均結晶子サイズは5nm以下である。Si相の平均結晶子サイズは、10nm以上20nm以下である。X線回折における、SiOのメインピークである(101)面の回折ピーク強度Iと、Siのメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIとの比(I/II)は、0以上1.09以下である。回折ピーク強度IIの半値幅は、0.50°以上2.00°以下である。
【0061】
蓄電デバイス用負極材料が、被覆層を有さない粒子からなってもよい。この粒子の材質、金属組織、サイズ等の仕様は、前述のコア粒子の仕様と同等である。
【実施例
【0062】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0063】
[実施例1]
アトマイズにより、Si粉末を得た。液相合成法により、SiO粉末を得た。所定量のSi粉末及び所定量のSiO粉末を、SUS304製のポットに投入し、ポットの内部を窒素ガスで満たした。このポットをボールミル装置に設置して粉末を攪拌し、コア粒子を得た。このコア粒子に所定条件の熱処理を施した。さらに、このコア粒子の表面の70%をアセチレンブラックの微粉で覆って被覆層を形成し、実施例1の負極材料を得た。この負極材料の特性が、下記の表1に示されている。
【0064】
[実施例2-35及び比較例36-46]
ポットに投入する2種の粉末の比率、攪拌時間、熱処理条件及び被覆層の仕様を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例2-35及び比較例36-46の負極材料を得た。
【0065】
[評価]
負極材料、導電材(アセチレンブラック又はケッチェンブラック)、結着材(ポリイミド又はポリフッ化ビニリデン)及び分散液(N-メチルピロリドン)を混合し、スラリーを得た。このスラリーを、集電体である銅箔の上に塗布した。このスラリーを、真空乾燥機で減圧乾燥した。乾燥温度は、ポリイミドが結着材である場合は200℃以上であり、ポリフッ化ビニリデンが結着材である場合は160℃以上であった。この乾燥によって溶媒を蒸発させ、活物質層を得た。この活物質層及び銅箔を、ロールにて押圧した。この活物質層及び銅箔をコイン型セルに適した形状に打ち抜き、負極を得た。
【0066】
電解液として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒を準備した。両者の質量比は、3:7であった。さらに、支持電解質として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を準備した。この支持電解質の量は、電解液の1リットルに対して1モルである。この支持電解質を、電解液に溶解させた。
【0067】
コイン型セルに適した形状のセパレータ及び正極を、準備した。この正極は、リチウム箔から打ち抜いた。減圧下で電解液にセパレータを浸漬し、5時間放置して、セパレータに電解液を充分に浸透させた。
【0068】
コイン型セルに負極、セパレータ及び正極を組み込んだ。コイン型セルに電解液を充填した。なお、電解液は、露点管理された不活性雰囲気中で取り扱われる必要がある。従って、セルの組み立ては、不活性雰囲気のグローブボックスの中で行った。
【0069】
コイン型セルにて、25℃の温度と0.3Cの定電流定電圧の条件下で、正極と負極との電位差が0.010Vとなるまで充電を行った。その後、電位差が1.5Vとなるまで、0.3Cの定電流条件下で放電を行った。この充電及び放電の初期効率(初期放電容量/初期充電容量×100)を測定した。この充電及び放電を、50サイクル繰り返した。初期の放電容量Y及び50サイクルの充電及び放電を繰り返した後の放電容量Zを測定した。さらに、放電容量Yに対する放電容量Zの比率(維持率)を算出した。この結果が、下記の表1-3に示されている。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
表1-3に示されるように、各実施例の負極材料では、75.0%以上の初期効率が達成されている。各実施例の負極材料の初期放電容量は、グラファイトのそれである372mAh/gよりも大きい。さらに、各実施例の負極材料では、50.0%以上の維持率が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明された負極は、リチウムイオン二次電池のみならず、全固体リチウムイオン二次電池、ハイブリットキャパシタ等の、種々の蓄電デバイスにも適用されうる。
図1
図2
図3