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  • 特許-圧電素子およびその製造方法 図1
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  • 特許-圧電素子およびその製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】圧電素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/80 20230101AFI20240704BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20240704BHJP
   H10N 30/01 20230101ALI20240704BHJP
   H10N 30/074 20230101ALI20240704BHJP
   H04R 17/02 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
H10N30/80
H10N30/30
H10N30/01
H10N30/074
H04R17/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020114145
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012349
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-137297(JP,A)
【文献】特開2014-179572(JP,A)
【文献】特開2012-253087(JP,A)
【文献】特表2014-515214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/80
H10N 30/30
H10N 30/01
H10N 30/074
H04R 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が固定され、他端が自由端となる圧電膜からなる振動板と、前記圧電膜を挟んで配置された一対の電極とを備えた圧電素子において、
前記振動板は、前記圧電膜の一部が、前記振動板の振動方向の反りを緩和する、応力緩和領域となり、
該応力緩和領域は、イオン注入領域であることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
請求項1記載の圧電素子において、
前記振動板は、キャビティを有する支持基板に支持された圧電膜が、該圧電膜を貫通するスリットにより区画されており、
前記応力緩和領域は、前記振動板の前記自由端側に配置していることを特徴とする圧電素子。
【請求項3】
一端が固定され、他端が自由端となる圧電膜からなる振動板と、前記圧電膜を挟んで配置された一対の電極とを備えた圧電素子の製造方法において、
支持基板上に前記圧電膜を積層形成する工程と、
前記圧電膜を挟んで配置された前記一対の電極を形成する工程と、
少なくとも一端が前記支持基板に固定され他端が自由端となるように前記圧電膜を区画し、前記振動板を形成する工程と、
前記振動板の振動方向の反りが生じている前記振動板の前記圧電膜の一部に、イオンを注入し、前記反りを緩和する応力緩和領域を形成する工程と、を含むことを特徴とする圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電素子およびその製造方法に関し、特に高感度、低雑音となる圧電型MEMSマイクロフォン等に利用可能な圧電素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に需要が拡大しているスマートフォンには、小型、薄型で、組立のハンダリフロー工程の高温処理耐性を有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いたマイクロフォンが多く使われている。さらにMEMSマイクロフォンに限らず、その他のMEMS素子が様々な分野で急速に普及してきている。
【0003】
この種のMEMS素子の多くは、音響圧力等による振動板の変位を対向する固定板との容量変化としてとらえ、電気信号に変換して出力する容量素子である。しかし容量素子は、振動板と固定板との間隙の空気の流動によって生じる音響抵抗のために、信号雑音比の改善が限界になりつつある。そこで、圧電材料からなる薄膜(圧電膜)で構成される単一の振動板の歪みにより音響圧力等を電圧変化として取り出すことができる圧電素子が注目されている。
【0004】
従来の圧電素子は、圧電膜に図3に示すような所望の形状のスリット1を形成して片持ち梁構造の振動板2を形成している。図3(a)では四角形の2枚の振動板2が、図3(b)では三角形の4枚の振動板2がそれぞれ形成されている。この種の圧電素子は、例えば特許文献1に開示されている。
【0005】
図4は圧電素子の断面図である。図4に示すようにシリコン基板からなる支持基板3上に絶縁膜4を介して多層構造の圧電膜5a、5bが支持固定され、圧電膜5aは電極6aと電極6bにより、圧電膜5bは電極6bと電極6cによりそれぞれ挟み込まれた構造となっている。支持基板3にはキャビティ7が形成されており、スリット1により区画された圧電膜および電極は、一端が支持基板3に固定され、他端が自由端となる振動板2を構成している。
【0006】
このような圧電素子では、振動板2が音響圧力等を受けると圧電膜5aが歪み、その内部に分極が起こり、電極6aに接続する配線金属8aと、電極6bに接続する配線金属8bから電圧信号を取り出すことが可能となる。同様に圧電膜5bが歪むとその内部に分極が起こり、電極6cに接続する配線金属8aと、電極6bに接続する配線金属8bから電圧信号を取り出すことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5936154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このような片持ち梁構造の圧電膜5a、5bは、スリット1を形成することで残留応力が解放されて反りが生じ、スリット1の開口幅が広がってしまう。スリット1の開口幅が設計値以上となった圧電素子をマイクロフォンとして使用すると、音響抵抗が低下し、低周波領域の感度低下等の特性劣化を招いてしまう。本発明はこのような課題を解決し、圧電膜の残留応力の影響を抑制するとともに、特性劣化を抑制することができる圧電素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、一端が固定され、他端が自由端となる圧電膜からなる振動板と、前記圧電膜を挟んで配置された一対の電極とを備えた圧電素子において、前記振動板は、前記圧電膜の一部が、前記振動板の振動方向の反りを緩和する、応力緩和領域となり、該応力緩和領域は、イオン注入領域であることを特徴とする。
【0010】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の圧電素子において、前記振動板は、キャビティを有する支持基板に支持された圧電膜が、該圧電膜を貫通するスリットにより区画されており、前記応力緩和領域は、前記振動板の前記自由端側に配置していることを特徴とする。
【0012】
本願請求項に係る発明は、一端が固定され、他端が自由端となる圧電膜からなる振動板と、前記圧電膜を挟んで配置された一対の電極とを備えた圧電素子の製造方法において、支持基板上に前記圧電膜を積層形成する工程と、前記圧電膜を挟んで配置された前記一対の電極を形成する工程と、少なくとも一端が前記支持基板に固定され他端が自由端となるように前記圧電膜を区画し、前記振動板を形成する工程と、前記振動板の振動方向の反りが生じている前記振動板の前記圧電膜の一部に、イオンを注入し、前記反りを緩和する応力緩和領域を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の圧電素子は、圧電膜の一部に応力緩和領域を備えることで反りの無い振動板とすることができ、音響圧力等が効率的に振動板2に伝わり大きな出力信号を得ることが可能となる。
【0015】
特に圧電膜をスリットで区画した構成の振動板では、反りの無い振動板とすることで、スリットの開口幅が設計通りとなり、所望の特性の圧電素子とすることが可能となる。このような圧電素子を音響トランスデューサとして使用した場合、音響抵抗を高く維持することができるため、低周波領域の感度低下や信号雑音比の低減を抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の圧電素子の製造方法は、圧電膜にイオンを注入することで応力緩和領域を形成することができ、簡便で制御性の良い方法である。特に注入条件を変更することで、応力緩和領域を所望の応力とすることができるので、反りの程度に合わせた振動板の反りの緩和を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図2】本発明の実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。
図3】従来の圧電素子の説明図である。
図4】従来の圧電素子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る圧電素子は、振動板の一部を応力緩和領域とし、反りの無い振動板を備えた圧電素子としている。以下、本発明の実施例について製造工程に従い詳細に説明する。
【実施例
【0019】
本発明の圧電素子は、図3に示すような所望の形状のスリット1を形成した片持ち梁構造の振動板を備えた圧電素子となる。
【0020】
まず、シリコン基板からなる支持基板3上に絶縁膜4を介して電極となる金属膜を形成して通常のフォトリソグラフ法により電極6aを形成し、電極6aおよび絶縁膜4上に圧電膜5aを形成する。次に、圧電膜5a上に電極となる金属膜を形成して通常のフォトリソグラフ法により電極6bを形成し、電極6bおよび圧電膜5a上に圧電膜5bを形成する。次に、圧電膜5b上に電極となる金属膜を形成して通常のフォトリソグラフ法により電極6cを形成する。その後、電極6aと電極6cに接続する配線金属8aと電極6bに接続する配線金属8bを形成する。
【0021】
圧電膜5b、5aの一部をエッチング除去し、スリット1を形成する。また支持基板3と絶縁膜4の一部を除去することで、キャビティ7を形成する。この状態で圧電膜5a、5bは、支持基板3および絶縁膜4上に一端が支持された振動板2となる。以上の形成方法は、従来の圧電素子の製造方法と同一である。
【0022】
一般的に圧電膜は残留応力を有しているため、図1に示すように自由端を有する振動板2には反りが発生する場合がある。図1に示すように振動板2がキャビティ7と逆側に反っている場合、圧電膜5bは圧電膜5aより圧縮応力が大きいことになる。そこで振動板2の反りを緩和するため、具体的には圧電膜5bの圧縮応力を小さくするため、図2に示す矢印方向から振動板2の表面にイオンを注入し、応力緩和領域9を形成する。この応力緩和領域9が形成された振動板2(圧電膜5b)の表面は、イオンの注入により圧電膜の結晶性が乱れ圧縮応力が緩和される。結晶性の乱れが回復することは望ましくないので、イオンの注入後、加熱処理は行わないのが好ましい。このように応力緩和領域9を形成することで、振動板2の反りはなくなる。
【0023】
この応力緩和領域9の形成は、例えば、集束イオンビーム装置を用いて、イオン種としてガリウム(Ga)を、加速エネルギー30keV、電流30nAの条件で行う。30μm程度の反りの発生している振動板2の自由端側の圧電膜表面に対して、上記条件でイオンを注入することで反りが緩和されることが確認できた。このとき、振動板2の自由端側は圧電素子からの信号出力に対する寄与が小さく、この領域に応力緩和領域9を形成しても圧電素子の出力信号には何ら問題はないことも確認できた。
【0024】
当然ながら、圧電膜の残留応力の大きさによって振動板2の反りの程度は変わる。そこで、加速エネルギー、電流、注入時間、注入領域、走査方向等のイオンの注入条件を振動板2の反りの程度に応じて適宜設定すればよい。振動板2の反りの程度に応じて、イオンの注入を複数回繰り返して行うことも効果的である。
【0025】
なお応力緩和領域9は、図1に示すように圧電膜5bの表面の一部に形成される場合に限定されず、圧電膜5b全体、あるいは圧電膜5bと圧電膜5aの両方に形成することも可能である。
【0026】
また図1に示す例では、圧電膜5bの表面側から応力緩和領域9を形成する場合について説明したが、キャビティ7側から圧電膜5aに応力緩和領域9を形成することも可能である。
【0027】
このように応力緩和領域9を備える構成とすると、振動板2の反りが緩和され、設計通通りのスリット幅とすることができ、圧電素子の特性劣化を抑える効果が大きくなる。
【0028】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。例えば、注入するイオンはガリウムに限定されない。また多層構造の圧電膜に限るものでもない。
【符号の説明】
【0029】
1: スリット、2:振動板、3:支持基板、4:絶縁膜、5a、5b:圧電膜、6a、6b、6c:電極、7:キャビティ、8a、8b:配線金属、9:応力緩和領域
図1
図2
図3
図4