(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】常温硬化型ハードコート組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/16 20060101AFI20240704BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240704BHJP
【FI】
C09D183/16
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2021078996
(22)【出願日】2021-05-07
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】兼子 達朗
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-157528(JP,A)
【文献】特開2003-183016(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0119506(US,A1)
【文献】特開平09-175868(JP,A)
【文献】特開2020-194888(JP,A)
【文献】特開2012-007119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/16
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温硬化型ハードコート組成物であって、
(A)下記式(1)で示される構造を有するポリシラザン化合物、
【化1】
(式中、R
1は水素原子
、及び
メチル基から選ばれる基であり、同一であっても異なっていてもよい。ただし、1分子中に少なくとも1つはSi-H結合を含む。また、式中R
2は
メチル基であ
る。)
(B)アルコキシシラン化合物
として、アミノプロピルトリメトキシシラン又はアミノプロピルトリエトキシシラン、
を少なくとも含み、前記ポリシラザン化合物中のSi-H結合の数[a]に対する前記アルコキシシラン化合物中のアルコキシ基の数[b]の比が、
[b]/[a]=1.5~3
の範囲内にあるものであることを特徴とする常温硬化型ハードコート組成物。
【請求項2】
前記常温硬化型ハードコート組成物において、前記ポリシラザン化合物がメチルポリシラザンであることを特徴とする請求項1に記載の常温硬化型ハードコート組成物。
【請求項3】
前記常温硬化型ハードコート組成物において、前記アルコキシシラン化合物がアミノプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の常温硬化型ハードコート組成物。
【請求項4】
前記常温硬化型ハードコート組成物において、さらにチタンもしくはアルミニウム原子を含む化合物から選択される縮合硬化触媒を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の常温硬化型ハードコート組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温硬化型ハードコート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートやアクリル樹脂などを代表するプラスチックはガラスに比べて靭性、軽量性、加工成形性に優れているため、ガラスを使用していた部材をプラスチックに置き換える試みが各分野において顕著になってきている。ガラスは可視光の透過性が良いため住宅の窓を始め、反対側の様子を確認するための部材として広く使用されている。しかし、ガラスは硬いため傷が入りにくい利点がある一方で脆いために強い衝撃により割れ、場合によっては破片が飛散し、重大な怪我を引き起こすことが良く知られている。この欠点を補うために飛散防止フィルムをガラスで挟み込んだ構造の飛散防止ガラスなども良く知られている。しかし、飛散防止ガラスはガラスが飛散しにくいだけで衝撃による割れの改善はされていない。また、ガラスは成形温度が非常に高く、プラスチックに比べて加工性が悪いため意匠を凝らしたデザインに加工するためには非常に高価な加工費が必要になる。このため汎用品として安価に量産化することが難しい問題点もある。
【0003】
一方でガラス代替材料として普及しているポリカーボネートやアクリル樹脂などのプラスチック材料は上記の点ではガラスに比べて利点がある。しかし、ガラスに比べると表面硬度が低く、簡単に傷が入ってしまうという実用上の重大な欠点が存在する。例えば、屋外で使用する場合は車による飛び石、人が直接触る場所では爪によるひっかき傷が容易に入ってしまう。
【0004】
この問題を解決するためにプラスチック材料の表面を硬いハードコート層で覆い、表面硬度を上げて傷つきにくくする手法が用いられてきた。このようなガラス代替材料としての使用を目的とした透明ハードコートについていくつか報告されている。例えば、トップコートにシリカ微粒子を混ぜたエポキシ系シラン、アクリル系シラン、アルコキシシランなどからなるハードコート層を使用したものが報告されている(例えば、特許文献1)。しかし、この方法は加熱硬化工程が必須であり、屋外などで施工することは難しく現実的ではない。また、トップコートに鱗片状の金属酸化物微粒子を使用する方法(例えば、特許文献2)が報告されているが、この方法では硬化のためにマイクロ波などのエネルギ-線の照射工程があり屋外での塗工が難しいことや、硬化後の硬度が不十分である問題がある。
【0005】
硬度の向上のためにトップコート層にCVDによる緻密なシリカを形成する方法も報告されている(例えば、特許文献3)。しかし、CVDによるシリカ膜の形成もバッチ生産であったり、数百℃の高温が必要だったりするため屋外塗工の用途においては生産性が低く現実的ではない。
【0006】
また、高硬度の塗膜を形成する手法としてポリシラザンを加水分解してガラス化させる方法がある。硬化後に完全なシリカガラスになるペルヒドロポリシラザンは塗膜硬度も十分高く、硬化触媒を添加すれば常温でも硬化させることが可能である(例えば、特許文献4~特許文献6)。しかし、硬化時の体積収縮(硬化収縮)が大きいためクラックが入らないように塗工すると膜厚が約1μm以下となってしまう。基材の硬度が高い場合は問題ないが、プラスチック材のような比較的柔らかい材料の上に塗工した場合、硬化収縮により基材が陥没してしまうことで塗膜本来の硬度が出ない問題がある。この問題を解決するために、メチル基などの有機基を導入した有機ポリシラザンを用いることで硬化収縮を低減できるため、有機基の導入量に応じて限界膜厚が大きく向上し、厚膜化することで基材の陥没も低減することが可能になる。しかし、有機基を導入したポリシラザンはペルヒドロポリシラザンに比べて安定で、硬化触媒を添加しても常温で硬化させることは難しい。有機ポリシラザン構造中にアミン化合物を付加することで比較的低温で硬化させることもできるが、硬度が不十分でポリカーボネートなどのプラスチック上ではハードコートとしての効果が薄い。
【0007】
そこで、上記の課題を解決するために屋外での塗工を想定して常温付近で硬化し、ガラスのように可視光透過性に優れ、かつ、硬化後にはプラスチック材料を屋外で使用するのに十分な硬度が発現する常温硬化型ハードコート組成物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-066886号公報
【文献】特開2013-170209号公報
【文献】国際公開第2017/115819号
【文献】特開2012-007119号公報
【文献】特開2002-053688号公報
【文献】特開2000-071380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、屋外での作業性に優れて、常温で硬化し、プラスチック基材の表面硬度を向上させるガラス代替材料用の常温硬化型ハードコート組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明では、常温硬化型ハードコート組成物であって、
(A)下記式(1)で示される構造を有するポリシラザン化合物、
【化1】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、及び炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、同一であっても異なっていてもよい。ただし、1分子中に少なくとも1つはSi-H結合を含む。また、式中R
2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、及び炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
(B)アルコキシシラン化合物、
を少なくとも含み、前記ポリシラザン化合物中のSi-H結合の数[a]に対する前記アルコキシシラン化合物中のアルコキシ基の数[b]の比が、
[b]/[a]=1.5~3
の範囲内にあるものである常温硬化型ハードコート組成物を提供する。
【0011】
このような常温硬化型ハードコート組成物であれば、屋外での作業性に優れて、常温で硬化し、プラスチック基材の表面硬度を向上させるガラス代替材料用の常温硬化型ハードコート組成物となる。
【0012】
また、本発明では、前記常温硬化型ハードコート組成物において、前記ポリシラザン化合物がメチルポリシラザンであることが好ましい。
【0013】
このような常温硬化型ハードコート組成物であれば、脱水素反応の速度が適切であり、硬化速度が適切なものとなるため好ましい。
【0014】
また、本発明では、前記常温硬化型ハードコート組成物において、前記アルコキシシラン化合物のアルコキシ基がメトキシ基であることが好ましい。
【0015】
このような常温硬化型ハードコート組成物であれば、アルコキシ基の加水分解速度が適切であり、硬化速度がより適切なものとなるため好ましい。
【0016】
また、本発明では、前記常温硬化型ハードコート組成物において、前記アルコキシシラン化合物がアミノプロピルトリメトキシシランであることが好ましい。
【0017】
このような常温硬化型ハードコート組成物であれば、硬化後の塗膜の透明性や硬化速度がさらに適切なものとなるため好ましい。
【0018】
また、本発明では、前記常温硬化型ハードコート組成物において、さらにチタンもしくはアルミニウム原子を含む化合物から選択される縮合硬化触媒を含むものであることが好ましい。
【0019】
このような常温硬化型ハードコート組成物であれば、ヒドロキシ基の脱水縮合反応が促進されるため好ましい。
【発明の効果】
【0020】
上記のように、本発明の常温硬化型ハードコート組成物は、常温で硬化し、プラスチック材の表面硬度を十分に上げることが可能であり、屋外での作業性に優れて、プラスチック基材の表面硬度を向上させるガラス代替材料用の常温硬化型ハードコート組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述のように、屋外での作業性に優れて常温で硬化し、プラスチック基材の表面硬度を向上させるガラス代替用の常温硬化型ハードコート組成物の開発が求められていた。
【0022】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、(A)下記式(1)で示される構造を有するポリシラザン化合物、(B)アルコキシシラン化合物、を少なくとも含み、前記ポリシラザン化合物中のSi-H結合の数[a]に対する前記アルコキシシラン化合物中のアルコキシ基の数[b]の比([b]/[a])が、1.5~3の範囲内にあるものである常温硬化型ハードコート組成物であれば、屋外での作業性に優れて常温で硬化し、プラスチック基材の表面硬度を向上させるガラス代替用の常温硬化型ハードコート組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
即ち、本発明は、常温硬化型ハードコート組成物であって、
(A)下記式(1)で示される構造を有するポリシラザン化合物、
【化2】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、及び炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、同一であっても異なっていてもよい。ただし、1分子中に少なくとも1つはSi-H結合を含む。また、式中R
2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、及び炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
(B)アルコキシシラン化合物、
を少なくとも含み、前記ポリシラザン化合物中のSi-H結合の数[a]に対する前記アルコキシシラン化合物中のアルコキシ基の数[b]の比が、
[b]/[a]=1.5~3
の範囲内にあるものであることを特徴とする常温硬化型ハードコート組成物である。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の常温硬化型ハードコート組成物は、(A)下記式(1)で示される構造を有するポリシラザン化合物、(B)アルコキシシラン化合物、を少なくとも含み、前記ポリシラザン化合物中のSi-H結合の数[a]に対する前記アルコキシシラン化合物中のアルコキシ基の数[b]の比([b]/[a])が、1.5~3の範囲内にあるものである。以下各成分について説明する。また、常温とはJIS Z 8703:1993に記載されているように5~35℃の範囲の温度条件下にあることを示す。
【化3】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、及び炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、同一であっても異なっていてもよい。ただし、1分子中に少なくとも1つはSi-H結合を含む。また、式中R
2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、及び炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
【0026】
[(A)成分:ポリシラザン化合物]
本発明におけるポリシラザン化合物は、下記式(1)で示される構造を有するポリシラザンである。
【化4】
【0027】
前記式(1)におけるR1は水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、及び炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、同一であっても異なっていてもよい。ただし、1分子中に少なくとも1つはSi-H結合を含む。また、式中R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、及び炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、同一であっても異なっていてもよい。分子中にSi-H結合が存在しない場合、硬化しても硬い膜にならず常温硬化型ハードコート組成物としての使用は難しい。
【0028】
この構造中のSi-H結合は比較的安定であり、R1、R2部分が全て水素基であるペルヒドロポリシラザンに比べて反応性に乏しい。ペルヒドロポリシラザンであれば常温でも容易に脱水素反応が進行し、脱水素触媒を添加すれば更に短時間で反応が進行する。しかし、水素原子が結合したSi原子にメチル基やエチル基などの有機基が存在すると安定化し、常温では脱水素反応がほとんど進行しなくなる。そこで、常温で有機ポリシラザンの脱水素反応を進行させる方法について種々検討した結果として、アルコキシシラン化合物を添加する方法を見出したのである。このとき、Si-H結合から効率的に脱水素反応させるにはアルコキシ基の量が重要であり、前記ポリシラザン化合物中のSi-H結合の数[a]に対する前記アルコキシシラン化合物中のアルコキシ基の数[b]の比([b]/[a])が1.5~3の範囲内である必要がある。1.5未満ではSi-Hの脱水素反応が十分に進行しない。また、3より大きいと硬化後の塗膜の硬度が十分に高い値を維持できない。好ましい範囲としては[b]/[a]が1.7~2.5の範囲内である。
【0029】
ポリシラザン化合物としては、R1、R2が上記のものであれば特に限定されないが、常温での脱水素反応速度の観点から、好ましくはメチルポリシラザンである。
【0030】
[(B)成分:アルコキシシラン化合物]
本発明で用いるアルコキシシラン化合物はアルコキシ基を有したシラン化合物であれば特に制約はない。アルコキシ部分が常温で加水分解しヒドロキシ基になり、ヒドロキシ基とポリシラザンのSi-H結合が反応することで常温硬化させることが可能になる。そのため分子内にあらかじめヒドロキシ基を含むアルコキシシラン化合物は、含んでもよいが、多すぎると混合時にポリシラザンと反応してしまうため少ない方が好ましく、含まないことがより好ましい。
【0031】
また、アルコキシ基の種類は特に制限がないが、一般的にメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基の順に加水分解速度が遅くなるため硬化速度の観点から適切なものを選択することが好ましい。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
その中でもポリシラザンとの反応性や硬化後の塗膜の透明性などの観点からアミノプロピルトリメトキシシランやアミノプロピルトリエトキシシランが好ましく、さらに硬化速度の観点からアミノプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0032】
[縮合硬化触媒]
本発明の常温硬化型ハードコート組成物は屋外環境などの加熱処理などが適用できない場合にも常温で硬化するものであるが、硬化時間の短縮を目的として縮合硬化触媒を添加することが可能である。縮合硬化触媒はヒドロキシ基の脱水縮合反応を促進させる効果があれば特に制約はないが、チタンもしくはアルミニウム原子を含む化合物から選択される縮合硬化触媒を含むものがより好ましい。
【0033】
具体的には、トリエトキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム、ジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム、ジ(エチルアセトアセテート)モノブトキシアルミニウム、エチルアセトアセテートジ(イソプロポキシ)アルミニウム、三塩化アルミニウム、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラ(2-エチルヘキソキシド)チタン、四塩化チタン、テトラキス(2,4-ペンタンジオナト)チタニウム、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、塩化亜鉛、酢酸亜鉛などの金属化合物、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、シュウ酸などの有機酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基、ピリジン、トリエチルアミンなどの有機塩基などが挙げられる。その中でも硬化速度が適切で、硬化後も可視光領域で無色透明な塗膜を得られるジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウムやジ(エチルアセトアセテート)モノブチレートアルミニウムが特に好ましい。
【0034】
硬化速度が遅すぎる場合、硬度が十分に高くなるまでに長期間の静置が必要になる。また、硬化速度が速すぎると硬化時に発生するアルコールなどの脱離成分が塗膜外に抜けにくくなりボイドが発生する。適切な硬化速度とするためには、縮合硬化触媒の添加量を調整すればよい。縮合硬化触媒の添加量は使用するアルコキシシランやポリシラザンの種類によって異なるがポリシラザン化合物とアルコキシシラン化合物の合計100質量部に対して0.001~0.5質量部添加することが好ましい。この範囲内であれば硬化速度と塗膜外観がどちらも優れている。
【0035】
このように、(A)成分のR1及びR2の選択により脱水素反応の進行を調整し、(B)成分のアルコキシ基の選択により加水分解速度を調整し、(C)成分の縮合硬化触媒の選択により脱水縮合反応を適切に促進できる。本発明では、(A)、(B)成分、必要に応じて(C)成分を適切に組み合わせることで、硬化反応をコントロールし、屋外での作業性に優れて、常温で硬化し、プラスチック基材の表面硬度を向上させるガラス代替材料用の常温硬化型ハードコート組成物となる。
【0036】
[添加物]
本発明で使用する常温硬化型ハードコート組成物には必要に応じて溶剤やフィラーなどを添加することができる。添加物は使用するポリシラザン化合物やアルコキシシラン化合物と馴染みが良く、塗膜が透明になれば特に制約はない。フィラーとしては例えば、ヒュームドシリカ、ヒュームド二酸化チタン、ヒュームドアルミナ等の補強性無機充填剤、溶融シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、酸化亜鉛等の非補強性無機充填剤や紫外線反射剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系等の紫外線吸収剤、アルケニル基、アルコキシシリル基、エポキシ基から選ばれる官能性基を少なくとも2種、好ましくは2種又は3種含有するオルガノシロキサンオリゴマー、オルガノオキシシリル変性イソシアヌレート化合物およびその加水分解縮合物などの接着助剤、ジメチルシリコーンやフェニルシリコーンなどのシリコーンオイルが挙げられる。また、溶剤(希釈溶剤)として1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、β-ミルセンなどのアルケン化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどのシクロアルカン化合物、シクロヘキセンなどのシクロアルケン化合物、p-メンタン、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテンなどのテルペン化合物、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、アセト酢酸エチル、カプロン酸エチルなどのエステル化合物、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどのアルキルエーテル化合物、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、ビス(2-エトキシエチル)エーテル、ビス(2-ブトキシエチル)エーテルなどのグリコールエーテル化合物などが挙げられ任意の割合で添加できる。
【0037】
[塗膜の形成方法]
本発明の常温硬化型ハードコート組成物は、そのままコーティング組成物として使用できる。前記常温硬化型ハードコート組成物を塗布する方法としては、例えば、チャンバードクターコーター、一本ロールキスコーター、リバースキスコーター、バーコーター、リバースロールコーター、正回転ロールコーター、ブレードコーター、ナイフコーターなどのロールコート法やスピンコート法、ディスペンス法、ディップ法、スプレー法、転写法、スリットコート法等が挙げられる。また、上記の塗布方法を用いることができない場合には、任意の布や紙などに前記常温硬化型ハードコート組成物を染み込ませ、手で基材に塗布する拭き上げ塗装方法を用いることもできる。
【0038】
塗布対象となる基材としては、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、樹脂基板、樹脂フィルム等が挙げられ、基材の表面保護が必要な場合であれば特に材質の制約はない。塗膜の厚さは、基材の使用目的などにより異なるが、一般的には、硬化膜厚で0.1~100μm、好ましくは10~50μmとすることができる。本発明では、硬化時の体積収縮(硬化収縮)が小さいため厚膜化できる。
【0039】
こうして常温硬化型ハードコート組成物の塗布により塗膜を形成した後、該塗膜の硬化のため塗膜を静置することが好ましい。この工程は、塗膜中に含まれる溶媒の除去と、ポリシラザン化合物やアルコキシシラン化合物の加水分解、脱水縮合、脱水素縮合、脱アンモニア縮合などの硬化反応を促進させることを目的とするものである。
【0040】
前記静置工程は、室温(25℃)で行ってもよいし、可能であれば加熱してもよい。加熱する場合は、50~150℃が好ましい。静置工程を行う時間は、温度、湿度などの条件によって適宜最適化されるが、少なくとも指触乾燥状態になるまで静置することが望ましい。
【0041】
「指触乾燥状態」とは、JIS 5600-1-1:1999に記載されているように、塗面の中央に指先で軽く触れて、指先が汚れない状態を指す。目安としては、23℃×50%RHで1時間以内に指触乾燥状態になることが好ましく、前記条件で24時間以内に完全に硬化していることがより好ましい。このような条件で指触乾燥状態となれば、屋外での作業性に優れるため好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例で部は質量部を示す。また、常温とはJIS Z 8703:1993に記載されたように5~35℃の範囲の温度条件下にあることを示す。
【0043】
また、下記実施例1~6及び比較例1~7で得られた各組成物に対して以下の評価を行った。
【0044】
[外観]
目視で塗膜の外観を評価した。
【0045】
[鉛筆硬度]
鉛筆硬度の測定は鉛筆硬度試験器(ペパレス製作所製)を用い、JIS K 5600-5-4:1999に従い750g荷重で行った。
【0046】
[実施例1]
ポリシラザン化合物としてメチルポリシラザンを50部、アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリメトキシシランを100部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.15部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Aを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Aを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると無色透明であった。また、塗膜の上から鉛筆硬度を測定すると8Hであった。
【0047】
[実施例2]
ポリシラザン化合物としてメチルポリシラザンを50部、アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリエトキシシランを125部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.15部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Bを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Bを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると無色透明であった。また、塗膜の上から鉛筆硬度を測定すると8Hであった。
【0048】
[実施例3]
ポリシラザン化合物としてメチルポリシラザンを50部、アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリメトキシシランを75部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.13部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Cを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Cを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると無色透明であった。また、塗膜の上から鉛筆硬度を測定すると8Hであった。
【0049】
[実施例4]
ポリシラザン化合物としてメチルポリシラザンを50部、アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリメトキシシランを150部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.2部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Dを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Dを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると無色透明であった。また、塗膜の上から鉛筆硬度を測定すると8Hであった。
【0050】
[実施例5]
ポリシラザン化合物としてメチル/ジメチル共重合ポリシラザン(共重合比50:50)を50部、アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリメトキシシランを50部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.07部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Eを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Eを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると無色透明であった。また、塗膜の上から鉛筆硬度を測定すると8Hであった。
【0051】
[実施例6]
ポリシラザン化合物としてメチルポリシラザンを50部、アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリメトキシシラン100部を混合し、縮合硬化触媒を加えずに常温硬化型ハードコート組成物Fを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Fを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると無色透明であった。また、塗膜の上から鉛筆硬度を測定すると6Hであった。
【0052】
[比較例1]
ポリシラザン化合物としてメチルポリシラザンを50部、アミノプロピルトリメチルシランを100部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.15部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Gを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Gを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると無色透明であったが塗膜は硬化していなかった。
【0053】
[比較例2]
ポリシラザン化合物としてメチルポリシラザンを50部、アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリメトキシシランを50部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.1部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Hを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Hを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると無色透明であった。また、塗膜の上から鉛筆硬度を測定するとHであった。
【0054】
[比較例3]
ポリシラザン化合物としてメチルポリシラザンを50部、アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリメトキシシランを200部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.25部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Iを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Iを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると白濁し、部分により凹凸が発生していた。また、塗膜の上から鉛筆硬度を測定すると2Hであった。
【0055】
[比較例4]
ペルヒドロポリシラザンを50部、アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリメトキシシランを200部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.25部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Jを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Jを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると白濁していた。また、塗膜の上から鉛筆硬度を測定するとHであった。
【0056】
[比較例5]
ポリシラザン化合物としてジメチルポリシラザンを50部、アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリメトキシシランを100部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.15部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Kを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Kを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると無色透明であったが、塗膜は硬化していなかった。
【0057】
[比較例6]
ポリシラザン化合物としてジメチルポリシラザンを50部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.15部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Lを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Lを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると無色透明であったが、塗膜は硬化していなかった。
【0058】
[比較例7]
アルコキシシラン化合物としてアミノプロピルトリメトキシシランを100部、縮合硬化触媒としてジブトキシ(2-オキソ-5-オキサ-3-ヘプテン-4-イルオキシ)アルミニウム(ホープ製薬株式会社:ケロープEB-2)0.15部を混合し、常温硬化型ハードコート組成物Mを得た。この常温硬化型ハードコート組成物Mを厚さ2mmのポリカーボネート板に50μmの厚みで塗布し、25℃(常温)、40%RHで12時間静置した。その後、塗膜の外観を確認すると白濁し、塗膜は剥離して鉛筆硬度の測定はできなかった。
【0059】
【0060】
表1の結果から、実施例1~6および比較例1,2,5,6では常温静置12時間後に塗膜の外観が無色透明あった。しかし、比較例1,5および6では塗膜が硬化しておらず、指で触ると塗膜に跡が残った。また、比較例3,4および7では塗膜の外観が白濁していた。比較例3および7はアルコキシ基の量が多すぎるためアルコキシ基同士の自己縮合が起こり、分子が3次元的に成長して塗膜の均一性が下がったことが白濁の原因であると考えられる。逆に、比較例4では炭化水素基を有さないペルヒドロポリシラザンの脱水素反応が早すぎるため不均一な塗膜になったと推測される。
【0061】
次に、鉛筆硬度では実施例1~5で8H、実施例6で6Hであった。縮合硬化触媒が入っていない実施例6でも常温で硬化し、十分な硬さを発現している。基材で使用したポリカーボネート板の鉛筆硬度が2Bであるため、本発明の常温硬化型ハードコート組成物を塗工することにより常温で飛躍的に表面硬度を向上させることが確認できた。
【0062】
一方、比較例2および4では鉛筆硬度がH、比較例3では2Hであり、多少の向上は見られるが使用環境によっては表面硬度が不十分である。更に比較例3および4は塗膜の外観が白濁しており、ポリカーボネートやアクリルのような透明な材質のものには使用できない。特にガラス代替材料としての使用を目的とした場合には外観が不適合である。また、比較例1および5~7では塗膜が未硬化であったり基材から剥離していたりしたため鉛筆硬度は未評価とした。
【0063】
以上の結果より実施例1~6では常温12時間で十分に硬化し、塗膜外観が無色透明、かつ、ポリカーボネート上で塗膜の鉛筆硬度が6H以上の常温硬化型ハードコート組成物を得ることができた。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。