(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】エキシマレーザ装置、及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/00 20060101AFI20240704BHJP
H01S 3/134 20060101ALI20240704BHJP
H01S 3/137 20060101ALI20240704BHJP
H01S 3/225 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
H01S3/00 G
H01S3/134
H01S3/137
H01S3/225
(21)【出願番号】P 2023036182
(22)【出願日】2023-03-09
(62)【分割の表示】P 2019557733の分割
【原出願日】2017-12-05
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105212
【氏名又は名称】保坂 延寿
(72)【発明者】
【氏名】石田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】守屋 正人
(72)【発明者】
【氏名】河野 夏彦
(72)【発明者】
【氏名】浅山 武志
(72)【発明者】
【氏名】草間 高史
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-271498(JP,A)
【文献】特開2007-142052(JP,A)
【文献】特表2009-505116(JP,A)
【文献】特開2007-294550(JP,A)
【文献】特開2003-243752(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0141182(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102155997(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/30
G01J 3/00 - 4/04
G01J 7/00 -9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光のフリンジ波形をイメージセンサで計測するエタロン分光器と、
前記フリンジ波形の全面積のうち第1の割合を占める部分の全幅を前記レーザ光の第1のスペクトル線幅として算出すると共に、基準計測器によって計測された前記レーザ光の第2のスペクトル線幅と、前記第1のスペクトル線幅との相関を示す相関関数に基づいて、前記第1のスペクトル線幅を較正するコントローラであって、
前記フリンジ波形を、前記イメージセンサの複数のチャンネルに対応した複数の分割波長区間に分割し、前記複数の分割波長区間のそれぞれの分割面積を算出して積算することにより、前記第1の割合の面積を算出する、前記コントローラと、
を備える、エキシマレーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記イメージセンサは、1次元状に配列された複数のフォトダイオードを含むラインセンサであり、
前記チャンネルは前記フォトダイオードである。
【請求項3】
請求項1に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記相関関数は、少なくとも2つの定数を含む多項式又は指数関数である。
【請求項4】
請求項1に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記相関関数は、波長依存を較正する係数を含む。
【請求項5】
請求項1に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記相関関数は、スペクトル非対称性依存を較正する係数を含む。
【請求項6】
請求項1に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記コントローラは、
前記フリンジ波形の第1の端部から積算された面積が前記フリンジ波形の全面積のうち第2の割合となる第1の波形位置と、前記フリンジ波形の第2の端部から積算された面積が前記第2の割合となる第2の波形位置とを特定し、
前記フリンジ波形における前記第1の波形位置と前記第2の波形位置との間の面積を前記第1の割合の面積とみなして、前記第1のスペクトル線幅を算出する。
【請求項7】
請求項1に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記第1の割合は、前記フリンジ波形の全面積の95%である。
【請求項8】
請求項1に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記コントローラは、
前記相関関数の更新処理を繰り返し行う。
【請求項9】
レーザ光のフリンジ波形をイメージセンサで計測するエタロン分光器と、
前記フリンジ波形の全面積のうち95%を占める部分の全幅を前記レーザ光の第1のスペクトル線幅として算出すると共に、基準計測器によって計測された前記レーザ光の第2のスペクトル線幅と、前記第1のスペクトル線幅との相関を示す相関関数に基づいて、前記第1のスペクトル線幅を較正するコントローラであって、
前記フリンジ波形を、前記イメージセンサの複数のチャンネルに対応した複数の分割波長区間に分割し、前記複数の分割波長区間のそれぞれの分割面積を算出して積算することにより、前記95%を占める部分の面積を算出する、前記コントローラと、
を備える、エキシマレーザ装置。
【請求項10】
請求項9に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記イメージセンサは、1次元状に配列された複数のフォトダイオードを含むラインセンサであり、
前記チャンネルは前記フォトダイオードである。
【請求項11】
請求項9に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記相関関数は、少なくとも2つの定数を含む多項式又は指数関数である。
【請求項12】
請求項9に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記相関関数は、波長依存を較正する係数を含む。
【請求項13】
請求項9に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記相関関数は、スペクトル非対称性依存を較正する係数を含む。
【請求項14】
請求項9に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記コントローラは、
前記フリンジ波形の第1の端部から積算された面積が前記フリンジ波形の全面積のうち第2の割合となる第1の波形位置と、前記フリンジ波形の第2の端部から積算された面積が前記第2の割合となる第2の波形位置とを特定し、
前記フリンジ波形における前記第1の波形位置と前記第2の波形位置との間の面積を前記95%を占める部分の面積とみなして、前記第1のスペクトル線幅を算出する。
【請求項15】
請求項9に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記コントローラは、
前記相関関数の更新処理を繰り返し行う。
【請求項16】
レーザ光のフリンジ波形をイメージセンサで計測するエタロン分光器と、
前記フリンジ波形の全面積のうち第1の割合を占める部分の全幅を前記レーザ光の第1のスペクトル線幅として算出すると共に、基準計測器によって計測された前記レーザ光の第2のスペクトル線幅と、前記第1のスペクトル線幅との相関を示す相関関数に基づいて、前記第1のスペクトル線幅を較正するコントローラであって、
前記フリンジ波形を、前記イメージセンサの複数のチャンネルに対応した複数の分割波長区間に分割し、前記複数の分割波長区間のそれぞれの分割面積を算出して積算することにより、前記第1の割合の面積を算出するように構成され、
前記フリンジ波形から求まる第1のスペクトル波形を前記エタロン分光器の装置関数によってデコンボリューション処理することによって第2のスペクトル波形を算出し、算出された前記第2のスペクトル波形に基づいて、第3のスペクトル線幅を算出し、
前記相関関数に基づいて較正された後の前記第1のスペクトル線幅と、前記第3のスペクトル線幅との関係に基づいて、前記相関関数の更新処理を行うように構成された、
前記コントローラと、
を備える、エキシマレーザ装置。
【請求項17】
請求項16に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記イメージセンサは、1次元状に配列された複数のフォトダイオードを含むラインセンサであり、
前記チャンネルは前記フォトダイオードである。
【請求項18】
請求項16に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記相関関数は、少なくとも2つの定数を含む多項式又は指数関数である。
【請求項19】
請求項16に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記相関関数は、波長依存を較正する係数を含む。
【請求項20】
請求項16に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記相関関数は、スペクトル非対称性依存を較正する係数を含む。
【請求項21】
請求項16に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記コントローラは、
前記フリンジ波形の第1の端部から積算された面積が前記フリンジ波形の全面積のうち第2の割合となる第1の波形位置と、前記フリンジ波形の第2の端部から積算された面積が前記第2の割合となる第2の波形位置とを特定し、
前記フリンジ波形における前記第1の波形位置と前記第2の波形位置との間の面積を前記第1の割合の面積とみなして、前記第1のスペクトル線幅を算出する。
【請求項22】
請求項16に記載のエキシマレーザ装置であって、
前記第1の割合は、前記フリンジ波形の全面積の95%である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エキシマレーザ装置、及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体露光装置(以下、「露光装置」という)においては、半導体集積回路の微細化および高集積化につれて、解像力の向上が要請されている。このため、露光用光源から放出される光の短波長化が進められている。一般的に、露光用光源には、従来の水銀ランプに代わってガスレーザ装置が用いられる。たとえば、露光用のガスレーザ装置としては、波長248nmの紫外線のレーザ光を出力するKrFエキシマレーザ装置、ならびに波長193nmの紫外線のレーザ光を出力するArFエキシマレーザ装置が用いられる。
【0003】
次世代の露光技術としては、露光装置側の露光用レンズとウエハとの間が液体で満たされる液浸露光が実用化されている。この液浸露光では、露光用レンズとウエハとの間の屈折率が変化するため、露光用光源の見かけの波長が短波長化する。ArFエキシマレーザ装置を露光用光源として液侵露光が行われた場合、ウエハには水中における波長134nmの紫外光が照射される。この技術をArF液浸露光(又はArF液浸リソグラフィー)という。
【0004】
KrFエキシマレーザ装置およびArFエキシマレーザ装置の自然発振幅は、約350~400pmと広い。そのため、KrF及びArFレーザ光のような紫外線を透過する材料で投影レンズを構成すると、色収差が発生してしまう場合がある。その結果、解像力が低下し得る。そこで、ガスレーザ装置から出力されるレーザ光のスペクトル線幅を、色収差が無視できる程度となるまで狭帯域化する必要がある。そのため、ガスレーザ装置のレーザ共振器内には、スペクトル線幅を狭帯域化するために、狭帯域化素子(エタロン、グレーティング等)を有する狭帯域化モジュール(Line Narrow Module:LNM)が備えられる場合がある。以下では、スペクトル線幅が狭帯域化されるレーザ装置を狭帯域化レーザ装置という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-271498号公報
【文献】特開昭63-29758号公報
【文献】米国特許第7256893号明細書
【文献】米国特許第7304748号明細書
【文献】米国特許第7684046号明細書
【文献】米国特許第7639364号明細書
【概要】
【0006】
本開示のエキシマレーザ装置は、レーザ光のフリンジ波形を計測するエタロン分光器と、エタロン分光器の計測結果に基づいて得られるスペクトル空間のうち第1の割合の面積を求め、求められた第1の割合の面積に基づいてレーザ光の第1のスペクトル線幅を算出すると共に、基準計測器によって計測されたレーザ光の第2のスペクトル線幅と、第1のスペクトル線幅との相関を示す相関関数に基づいて、第1のスペクトル線幅を較正するコントローラとを備える。
【0007】
本開示の電子デバイスの製造方法は、レーザ光のフリンジ波形を計測するエタロン分光器と、エタロン分光器の計測結果に基づいて得られるスペクトル空間のうち第1の割合の面積を求め、求められた第1の割合の面積に基づいてレーザ光の第1のスペクトル線幅を算出すると共に、基準計測器によって計測されたレーザ光の第2のスペクトル線幅と、第1のスペクトル線幅との相関を示す相関関数に基づいて、第1のスペクトル線幅を較正するコントローラとを備えるレーザシステムによってレーザ光を生成し、レーザ光を露光装置に出力し、電子デバイスを製造するために、露光装置によって感光基板上にレーザ光を露光することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
【
図1】
図1は、比較例に係るレーザ装置の一構成例を概略的に示す。
【
図2】
図2は、スペクトル線幅の一例としてのFWHMの概要を示す。
【
図3】
図3は、スペクトル線幅の一例としてのE95の概要を示す。
【
図4】
図4は、比較例に係るレーザ装置に適用されるスペクトル計測器の一構成例を概略的に示す。
【
図5】
図5は、
図4に示したスペクトル計測器によって計測されるスペクトル線幅の一例を模式的に示す。
【
図6】
図6は、
図4に示したスペクトル計測器による計測結果に基づいて、真のスペクトル波形を算出する方法の一例を模式的に示す。
【
図7】
図7は、比較例に係るレーザ装置におけるスペクトル線幅の計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施形態1に係るレーザ装置におけるスペクトル線幅の計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、比較例に係るレーザ装置によるスペクトル線幅の算出方法と実施形態1によるスペクトル線幅の算出方法とを模式的に比較して示す。
【
図12】
図12は、実施形態1に係るレーザ装置における、フリンジ波形に基づくスペクトル空間の面積の算出方法の一例を模式的に示す。
【
図13】
図13は、実施形態1に係るレーザ装置における、フリンジ波形に基づくE95の算出方法の第1の例を模式的に示す。
【
図14】
図14は、実施形態1に係るレーザ装置における、フリンジ波形に基づくE95の算出方法の第2の例を模式的に示す。
【
図15】
図15は、スペクトル線幅の算出に用いる較正関数の一例を概略的に示す。
【
図16】
図16は、実施形態2に係るレーザ装置におけるスペクトル線幅の計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、半導体デバイスの製造に用いられる露光装置の一構成例を概略的に示す。
【実施形態】
【0009】
<内容>
<1.比較例>(
図1~
図8)
1.1 構成
1.2 動作
1.3 課題
<2.実施形態1>(較正関数を用いてスペクトル線幅を算出する例)(
図9~
図15)
2.1 構成
2.2 動作
2.3 作用・効果
<3.実施形態2>(較正関数の更新を行う例)(
図16~
図17)
3.1 構成
3.2 動作
3.3 作用・効果
<4.実施形態3>(電子デバイスの製造方法)(
図18)
<5.その他>
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。
なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
<1.比較例>
[1.1 構成]
図1は、比較例に係るレーザ装置101の一構成例を概略的に示している。
【0012】
比較例に係るレーザ装置101は、レーザ光としてパルスレーザ光Lpを露光装置4に向けて出力するエキシマレーザ装置である。
【0013】
比較例に係るレーザ装置101は、レーザ制御部2と、狭帯域化モジュール(LNM)10と、レーザチャンバ20と、波長制御部16と、波長ドライバ15と、パルスパワーモジュール(PPM)28とを備える。また、レーザ装置101は、ビームスプリッタ31,32と、パルスエネルギ計測器33と、波長計測器34Bと、スペクトル線幅計測器34Aと、ビームスプリッタ37と、高反射ミラー38と、E95可変部60と、E95ドライバ74とを備える。
【0014】
E95可変部60と狭帯域化モジュール10はレーザ共振器を構成している。レーザチャンバ20は、レーザ共振器の光路上に配置されている。
【0015】
露光装置4は、露光装置制御部5を備えている。露光装置4とレーザ制御部2との間には、各種目標データと発光トリガ信号Strとを露光装置制御部5からレーザ制御部2に送信する信号ラインが設けられている。各種目標データには、目標パルスエネルギEtと目標波長λtと目標スペクトル線幅Δλtとが含まれている。
【0016】
レーザチャンバ20は、ウインドウ21,22と、一対の放電電極23,24とを含む。また、レーザチャンバ20は、図示しない電気絶縁部材を含む。一対の放電電極23,24は、レーザチャンバ20内に紙面に対して垂直な方向で対向している。一対の放電電極23,24の長手方向がレーザ共振器の光路と一致するように配置されている。
【0017】
ウインドウ21,22は、一対の放電電極23,24間で増幅されたレーザ光が通過するように配置されている。レーザチャンバ20内には、レーザガスとして、例えば、Arガスと、F2ガスと、Xeガスと、Neガスとが供給される。また例えば、Krガスと、F2ガスと、Neガスとが供給される。レーザガスにはさらに、Heが含まれてもよい。
【0018】
パルスパワーモジュール28は、スイッチ29を含んでいる。パルスパワーモジュール28は、一対の放電電極23,24間に高電圧を印加するための電源である。一対の放電電極23,24のうち一方の放電電極23は、スイッチ29がオンになると一対の放電電極23,24間に高電圧が印加されるように、スイッチ29に接続されている。一対の放電電極23,24のうち他方の放電電極24は、接地されたレーザチャンバ20に接続されている。
【0019】
狭帯域化モジュール10は、グレーティング11と、プリズム12と、プリズム12を回転させる回転ステージ14とを含む。プリズム12は、複数、例えば2つのプリズムを含んでいる。
【0020】
プリズム12は、レーザチャンバ20から出力されたレーザ光のビームがプリズム12でビーム拡大されてグレーティング11に所定の角度で入射するように配置されている。
【0021】
回転ステージ14は、プリズム12が回転した時に、グレーティング11へのビームの入射角度が変化するように配置されている。グレーティング11は、ビームの入射角度と回折角度とが同じ角度となるようにリトロー配置されている。
【0022】
ビームスプリッタ31は、E95可変部60から出力されたパルスレーザ光Lpの光路上に配置されている。ビームスプリッタ32は、ビームスプリッタ31で反射されたパルスレーザ光Lpの光路上に配置されている。ビームスプリッタ32は、反射光がパルスエネルギ計測器33に入射し、透過光がビームスプリッタ37に入射するように配置されている。
【0023】
パルスエネルギ計測器33は、図示しない集光レンズと光センサとを含む。光センサは紫外光に耐性がある高速のフォトダイオードであってもよい。パルスエネルギ計測器33で計測されたパルスエネルギEのデータDeは、レーザ制御部2、波長制御部16、及びスペクトル計測部70に送信される。レーザ制御部2は、パルスエネルギEのデータDeに基づいて、レーザチャンバ20内の一対の放電電極23,24間に印加する電圧を制御する。
【0024】
スペクトル線幅計測器34A、及び波長計測器34Bはそれぞれ、後述するように、例えばエタロン分光器であってもよい。
【0025】
レーザ制御部2と波長制御部16との間には、波長制御を行うための目標波長λtのデータをレーザ制御部2から波長制御部16に送信する信号ラインが設けられている。
【0026】
波長計測器34Bは、後述するエタロン分光器の原理に則って、波長λを計測する。
【0027】
波長ドライバ15と狭帯域化モジュール10の回転ステージ14との間には、回転ステージ14の回転ステージ角度θを制御するためのステージ角度制御信号を、波長ドライバ15から回転ステージ14に送信する信号ラインが設けられている。回転ステージ14の回転ステージ角度θは、E95可変部60から出力されるレーザ光の波長λが目標波長λtとなるように、波長ドライバ15を介して波長制御部16によって制御される。波長制御部16は、波長計測器34Bで検出された波長λと目標波長λtとに基づいて、回転ステージ角度θを制御する。
【0028】
スペクトル線幅計測器34Aは、後述するエタロン分光器の原理に則って、スペクトル計測部70においてスペクトル線幅Δλを算出するためのフリンジ波形を計測する。
【0029】
スペクトル計測部70は、演算部71と、カウンタ72と、記憶部73とを含んでいる。記憶部73は、スペクトル線幅Δλの算出に関する各種データを記憶する。演算部71は、スペクトル線幅計測器34Aの計測結果に基づいてスペクトル線幅Δλの算出を行う。カウンタ72は、発光トリガ信号Strのカウントを行う。あるいは、カウンタ72は、パルスエネルギ計測器33において計測されたパルスエネルギEのデータDeをカウントすることで、発光トリガ信号Strのカウントとしてもよい。
【0030】
レーザ制御部2とスペクトル計測部70との間には、スペクトル計測部70で算出されたスペクトル線幅Δλのデータをスペクトル計測部70からレーザ制御部2に送信する信号ラインが設けられている。
【0031】
E95可変部60は、例えばシリンドリカル凹レンズからなるレンズ61と、例えばシリンドリカル凸レンズからなるレンズ62とを含む。また、E95可変部60は、レンズ61,62の間隔を調整する図示しないリニアステージと、リニアステージのステージ位置を調節するアクチュエータとを含む。
【0032】
E95可変部60は、レンズ61,62の間隔を調整することによって、レーザ光のスペクトル線幅Δλを調整することが可能となっている。レンズ62は、一方の面が平面であって、この平面に、レーザ光の一部を反射し、一部を透過する部分反射膜(PR膜)36がコートされている。部分反射膜36がコートされていることにより、レンズ62はOC(出力結合器:outcoupler)としての出力結合ミラーの機能を兼ねている。なお、レンズ62に部分反射膜36をコートせずに、別途、出力結合ミラーを配置してもよい。
【0033】
E95可変部60によるレンズ61,62の間隔は、E95可変部60から出力されるレーザ光のスペクトル線幅Δλが目標スペクトル線幅Δλtとなるように、E95ドライバ74を介してレーザ制御部2によって制御される。レーザ制御部2は、目標スペクトル線幅Δλtと、スペクトル線幅計測器34Aの計測結果に基づいて算出されたスペクトル線幅Δλとに基づいて、E95ドライバ74を介してレンズ61,62の間隔を制御する。
【0034】
(スペクトル線幅)
図2は、スペクトル線幅Δλの一例としてのFWHMの概要を示している。
図3は、スペクトル線幅Δλの一例としてのE95の概要を示している。
図2及び
図3において、横軸は波長λ、縦軸は光の強度を示す。
【0035】
スペクトル線幅Δλとは、レーザ光のスペクトル波形の光量閾値における全幅である。本明細書では、光量ピーク値に対する各光量閾値の相対値を線幅閾値Thresh(0<Thresh<1)ということにする。
【0036】
図2に示すように、例えば光量ピーク値の半値を線幅閾値0.5という。なお、線幅閾値0.5におけるスペクトル波形の全幅を特別に半値全幅、又はFWHM(Full Width at Half Maximum)という。
【0037】
また、本明細書では、
図3に示すように、全スペクトルエネルギのうち波長λ
0を中心として95%を占める部分のスペクトル波形の全幅をスペクトル純度という。このスペクトル純度となるスペクトル線幅Δλを、本明細書では、E95という。スペクトル純度に関し、スペクトル波形をg(λ)とすると、下記(1)式が成り立つ。
【0038】
【0039】
(スペクトル線幅計測器34A、及び波長計測器34Bの具体例)
E95可変部60において、出力結合ミラーを兼ねるレンズ62から出力されたパルスレーザ光Lpは、ビームスプリッタ31とビームスプリッタ32とによって一部がパルスエネルギEを検出するためのサンプル光として、パルスエネルギ計測器33に入射する。
【0040】
一方、ビームスプリッタ32を透過した光は、ビームスプリッタ37によって、さらに2つの方向に分離される。ビームスプリッタ37を透過した光は、波長計測器34Bに入射する。ビームスプリッタ37を反射した光は、高反射ミラー38によって、スペクトル線幅計測器34Aに向けて反射される。
【0041】
スペクトル線幅計測器34A、及び波長計測器34Bはそれぞれ、例えば
図4に示したスペクトル計測器34で構成されている。
【0042】
図4には、スペクトル計測器34を、エタロン分光器とした場合の構成例を模式的に示している。
【0043】
図4に示した構成例では、スペクトル計測器34は、拡散素子341と、モニタエタロン342と、集光レンズ343と、イメージセンサ344とを含んでいる。イメージセンサ344は、複数のフォトダイオードアレイが1次元上に配列されたラインセンサであってもよい。集光レンズ343の焦点距離をfとする。
【0044】
スペクトル計測器34では、パルスレーザ光Lpが、まず、拡散素子341に入射する。拡散素子341は、入射した光を散乱させる。この散乱光は、モニタエタロン342に入射する。モニタエタロン342を透過した光は、集光レンズ343に入射し、集光レンズ343の焦点面上に干渉縞(フリンジ)を生成する。
【0045】
イメージセンサ344は、集光レンズ343の焦点面に配置されている。イメージセンサ344は、焦点面上の干渉縞を検出する。この干渉縞の半径rの2乗は、パルスレーザ光Lpの波長λと比例関係にある。そのため、検出した干渉縞からパルスレーザ光Lpのスペクトルプロファイルとしてのスペクトル線幅Δλと中心波長とを検出し得る。
【0046】
スペクトル計測器34の一例としてのスペクトル線幅計測器34Aによる計測結果は、スペクトル計測部70に送信される。スペクトル計測部70は、スペクトル線幅計測器34Aによって計測されたフリンジ波形に基づいて、スペクトル線幅Δλを算出する。
【0047】
また、スペクトル計測器34の他の一例としての波長計測器34Bによる計測結果は、波長制御部16に送信される。波長制御部16は、波長計測器34Bによって計測されたフリンジ波形に基づいて、波長λを算出する。
【0048】
干渉縞の半径rと波長λとの関係は、以下の(A)式で近似され得る。
λ=λc+αr2 ......(A)
ただし、
α:比例定数、
r:干渉縞の半径、
λc:干渉縞の中央の光強度が最大となった時の波長
とする。
【0049】
図5は、
図4に示したスペクトル計測器34によって計測されるスペクトル線幅Δλの一例を模式的に示している。
【0050】
上記(1)式から、干渉縞を光強度と波長λの関係のスペクトル波形に変換した後、E95をスペクトル線幅Δλとして計算してもよい。また、スペクトル波形の半値全幅をスペクトル線幅Δλとしてもよい。
【0051】
[1.2 動作]
レーザ制御部2は、露光装置4から各種目標データを読み込む。各種目標データには、目標パルスエネルギEtと目標波長λtと目標スペクトル線幅Δλtとが含まれている。
【0052】
レーザ制御部2は、露光装置4から送信された発光トリガ信号Strに同期して、パルスパワーモジュール28のスイッチ29にオン信号を送信する。これにより、レーザチャンバ20において、一対の放電電極23,24間に高電圧が印加され、一対の放電電極23,24間の放電領域においてレーザガスが絶縁破壊して、放電が生成される。その結果、レーザチャンバ20内においてレーザガスが励起され、レーザ共振器を構成する狭帯域化モジュール10とE95可変部60のレンズ62に形成された出力結合ミラーとの間でレーザ発振が起こる。出力結合ミラーからは、レーザ発振による狭帯域化されたパルスレーザ光Lpが出力される。
【0053】
出力結合ミラーから出力されたパルスレーザ光Lpは、ビームスプリッタ31とビームスプリッタ32とによって一部がパルスエネルギEを検出するためのサンプル光として、パルスエネルギ計測器33に入射する。パルスエネルギ計測器33では、出力結合ミラーから出力されたパルスレーザ光LpのパルスエネルギEを検出する。パルスエネルギ計測器33は、検出したパルスエネルギEのデータDeを、レーザ制御部2に送信する。
【0054】
一方、ビームスプリッタ32を透過した光は、ビームスプリッタ37によって、さらに2つの方向に分離される。ビームスプリッタ37を透過した光は、波長計測器34Bに入射し、波長計測器34Bによって波長λが検出される。ビームスプリッタ37を反射した光は、高反射ミラー38によって、スペクトル線幅計測器34Aに向けて反射され、スペクトル線幅計測器34Aによってスペクトル線幅Δλを算出するためのフリンジ波形が検出される。
【0055】
レーザ制御部2は、波長制御部16に目標波長λtのデータを送信する。波長制御部16は、波長計測器34Bによって計測された波長λに基づいて、目標波長λtとなるように、波長ドライバ15を介して回転ステージ14の回転角度を制御することによって、狭帯域化モジュール10のプリズム12のプリズム角度を制御する。
【0056】
スペクトル計測部70は、スペクトル線幅計測器34Aによって計測されたフリンジ波形に基づいてスペクトル線幅Δλを算出し、算出されたスペクトル線幅Δλのデータをレーザ制御部2に送信する。
【0057】
レーザ制御部2は、スペクトル計測部70によって算出されたスペクトル線幅Δλに基いて、目標スペクトル線幅Δλtとなるように、E95ドライバ74を介して、E95可変部60のレンズ61,62の間隔を制御する。その結果、レンズ62に形成された出力結合ミラーから出力されるパルスレーザ光Lpのスペクトル線幅Δλは、目標スペクトル線幅Δλtに近づき得る。
【0058】
(スペクトル線幅の計測)
スペクトル計測部70では、以下のようなスペクトル線幅Δλの計測を行う。
【0059】
スペクトル計測部70は、スペクトル線幅計測器34Aによって計測された複数のパルスのスペクトル波形を積算回数Niに亘って積算する。積算回数Niは、積算パルス数の回数である。スペクトル計測部70は、積算により得られた積算波形Oiに基づいてスペクトル線幅Δλを算出する。この際、スペクトル計測部70は、Na個の積算波形Oiを平均化する。Naは、積算波形Oiの平均回数である。NiとNaの組み合わせ(Ni,Na)は、例えば、Niが8で、Naが5であってもよい((Ni,Na)=(8,5))。また、NiとNaの組み合わせ(Ni,Na)は、例えば、Niが5で、Naが8であってもよい((Ni,Na)=(5,8))。
【0060】
図7及び
図8は、比較例に係るレーザ装置101におけるスペクトル計測部70によるスペクトル線幅Δλの計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。
【0061】
まず、スペクトル計測部70は、記憶部73から、積算回数Niと平均回数Naとのデータを読み込む(ステップS401)。
【0062】
次に、スペクトル計測部70は、発光トリガカウンタであるカウンタ72のカウンタ値NをN=0にリセットする(ステップS402)。発光トリガカウンタは、発光トリガ信号Strをカウントするカウンタである。
【0063】
次に、スペクトル計測部70は、露光装置4からの発光トリガ信号Strを計測できたか否かを判定する(ステップS403)。スペクトル計測部70は、発光トリガ信号Strの計測ができていないと判定した場合(ステップS403;N)には、ステップS403の処理を繰り返す。
【0064】
発光トリガ信号Strの計測ができたと判定した場合(ステップS403;Y)には、次に、スペクトル計測部70は、スペクトル線幅計測器34Aによって、スペクトルの生波形Orを計測する(ステップS404)。スペクトルの生波形Orは、スペクトル線幅計測器34Aによって計測されるフリンジ波形である。この際、スペクトル計測部70は、発光トリガカウンタのカウンタ値NをN+1に設定する。
【0065】
次に、スペクトル計測部70は、発光トリガカウンタのカウンタ値NがNiの倍数であるか否かを判定する(ステップS405)。スペクトル計測部70は、カウンタ値NがNiの倍数ではないと判定した場合(ステップS405;N)には、ステップS404の処理に戻る。
【0066】
カウンタ値NがNiの倍数であると判定した場合(ステップS405;Y)には、次に、スペクトル計測部70は、Ni個の生波形Orを積算し、積算波形Oiを生成する(ステップS406)。
【0067】
次に、スペクトル計測部70は、発光トリガカウンタのカウンタ値NがNiとNaとの積(Ni・Na)と同じ(N=Ni・Na)であるか否かを判定する(ステップS407)。スペクトル計測部70は、N=Ni・Naではないと判定した場合(ステップS407;N)には、ステップS404の処理に戻る。
【0068】
N=Ni・Naであると判定した場合(ステップS407;Y)には、次に、スペクトル計測部70は、Na個の積算波形Oiを平均した平均波形Oaを生成する(
図8のステップS408)。
【0069】
次に、スペクトル計測部70は、平均波形Oaをスペクトル空間にマッピングし、スペクトル波形O(λ)を生成する(ステップS409)。
【0070】
ここで、以上のように生成されたスペクトル波形O(λ)は、スペクトル線幅計測器34Aの装置関数I(λ)の影響を受けて変形したスペクトル波形となる。従って、スペクトル波形O(λ)から直接的にスペクトル線幅Δλを求めたとしても、それはレーザ光の真のスペクトル波形T(λ)から得られるスペクトル線幅Δλとは異なる。正確なスペクトル線幅制御を行うためには、レーザ光の真のスペクトル波形T(λ)を求める必要がある。
【0071】
真のスペクトル波形T(λ)を装置関数I(λ)でコンボリューション積分した結果がスペクトル波形O(λ)であるならば、理論上はスペクトル波形O(λ)を装置関数I(λ)でデコンボリューション処理すれば真のスペクトル波形T(λ)が得られる。デコンボリューション処理はフーリエ変換やヤコビ法、ガウス・ザイデル法等の反復処理により行われる。
【0072】
図6に、
図4に示したスペクトル線幅計測器34Aとしてのスペクトル計測器34による計測結果に基づいて、真のスペクトル波形を算出する方法の一例を模式的に示す。
【0073】
まず、あらかじめ、スペクトル計測器34によって、例えば193nmのコヒーレント光のスペクトル波形を計測して、記憶部73に記憶する(ステップS11)。コヒーレント光源はスペクトル線幅Δλが充分に狭いため、δ(デルタ)関数とみなすことができる。従って、ここで計測されたスペクトル波形はスペクトル計測器34の装置関数I(λ)の実測値とみなすことができる。
【0074】
一方、スペクトル計測器34の計測結果に基づいて、上述のように狭帯域化されたレーザ光のスペクトル波形O(λ)が得られる(ステップS12)。装置関数I(λ)を用いてスペクトル波形O(λ)のデコンボリューション処理を行う(ステップS13)と、真のスペクトル波形T(λ)を求めることができる。
【0075】
そこで、スペクトル計測部70は、ステップS409においてスペクトル波形O(λ)を生成した後、スペクトル線幅計測器34Aの装置関数I(λ)のデータを記憶部73から読み出す(ステップS410)。次に、スペクトル計測部70は、以下の式のように、デコンボリューション処理により、真のスペクトル波形T(λ)を計算する(ステップS411)。*は、コンボリューション積分を表す記号であり、*-1は、デコンボリューション処理を表す。
T(λ)=O(λ)*-1I(λ)
【0076】
なお、デコンボリューション処理とは、以下の演算処理である。
関数fと関数gのコンボリューション積分h=f*gは、以下の式(2)で表される。式(2)の関係を満たすような関数fを推定する演算処理が、関数hと関数gのデコンボリューション処理であり、f=h*-1gと表される。
【0077】
【0078】
次に、スペクトル計測部70は、真のスペクトル波形T(λ)からE95を計算し、レーザ制御部2に、E95のデータをスペクトル線幅Δλとして送信する(ステップS412)。その後、スペクトル計測部70は、ステップS402の処理に戻る。
【0079】
[1.3 課題]
以上のように、比較例に係るレーザ装置101では、スペクトル線幅Δλの計測の際には、スペクトル計測部70が、スペクトル線幅計測器34Aによって計測されたNi個のスペクトルの生波形Orを積算して積算波形Oiを算出すると共に、Na個の積算波形Oiを平均化して平均波形Oaを生成する。スペクトル計測部70は、平均波形Oaをスペクトル空間にマッピングし、スペクトル波形O(λ)を生成する。その後、スペクトル波形O(λ)と装置関数I(λ)とのデコンボリューション処理を行って真のスペクトル波形T(λ)を算出する。スペクトル計測部70は、真のスペクトル波形T(λ)に基づいて、スペクトル線幅ΔλとしてE95を算出する。
【0080】
このように比較例に係るレーザ装置101では、スペクトル線幅Δλの算出の際にデコンボリューション処理を行うため、処理に時間が掛かり、スペクトル線幅Δλの計測速度と、スペクトル線幅Δλの制御速度とを上げることが困難である。その結果、スペクトル線幅Δλの安定性を向上させることが困難となる。
【0081】
<2.実施形態1>(較正関数を用いてスペクトル線幅を算出する例)
次に、本開示の実施形態1に係るレーザ装置について説明する。なお、以下では上記比較例に係るレーザ装置101の構成要素と略同じ部分については、同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0082】
[2.1 構成]
実施形態1に係るレーザ装置の基本的な構成は、上記比較例に係るレーザ装置101と略同様である。ただし、以下で説明するように、スペクトル計測部70によるスペクトル線幅Δλを算出する動作が部分的に異なっている。
【0083】
実施形態1に係るレーザ装置において、スペクトル計測部70は、スペクトル線幅計測器34Aの計測結果に基づいて得られるスペクトル空間のうち第1の割合の面積を求め、求められた第1の割合の面積に基づいてレーザ光の第1のスペクトル線幅を算出する。ここで、スペクトル線幅ΔλとしてE95を算出する場合、第1の割合は95%である。第1のスペクトル線幅は、後述するスペクトル線幅E95rawである。
【0084】
スペクトル計測部70は、第1のスペクトル線幅を、較正関数F(x)に基づいて較正する。スペクトル計測部70は、較正関数F(x)に基づいて較正することによって得られたスペクトル線幅Δλを、レーザ制御部2へ送信する。ここで、較正関数F(x)に基づいて較正することによって得られたスペクトル線幅Δλは、後述するスペクトル線幅E95calibである。
【0085】
スペクトル計測部70の記憶部73は、あらかじめ、例えば後述する
図15に示すような較正関数F(x)を記憶している。較正関数F(x)は、あらかじめ、基準計測器によって計測されたレーザ光の第2のスペクトル線幅を計測し、その計測された第2のスペクトル線幅と第1のスペクトル線幅との相関を示す相関関数である。基準計測器としては、外部のスペクトル計測器を用いる。外部のスペクトル計測器は、
図4のようにエタロンを備えた分光器でもよいし、回折格子を備えた分光器でもよい。
【0086】
[2.2 動作]
図9及び
図10は、実施形態1に係るレーザ装置におけるスペクトル線幅Δλの計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。実施形態1に係るレーザ装置では、
図7及び
図8に示したスペクトル線幅Δλの計測動作に代えて、
図9及び
図10に示す計測動作を実施する。なお、
図9及び
図10では、
図7及び
図8のフローチャートにおけるステップと同様の処理を行うステップには同一のステップ番号を付している。
【0087】
まず、スペクトル計測部70は、記憶部73から、積算回数Niと較正関数F(x)とのデータを読み込む(ステップS401A)。
【0088】
その後、スペクトル計測部70は、
図7のステップS402~S407と同様の処理を行い、Ni個の生波形Orを積算した積算波形Oiを生成する。なお、積算回数Niが1の場合は、積算処理は行う必要はない。
【0089】
次に、積算波形Oiからスペクトル空間の面積を求め、スペクトル空間の面積からスペクトル線幅E95rawを算出する(
図10のステップS421)。スペクトル空間の面積は、後述する
図12のようにして求めることができる。スペクトル線幅E95rawは、上述の第1のスペクトル線幅である。
【0090】
次に、スペクトル計測部70は、較正関数F(x)を使用して、スペクトル線幅E95rawからスペクトル線幅E95calibを算出する(ステップS422)。
【0091】
次に、スペクトル計測部70は、算出されたスペクトル線幅E95calibをE95とし、スペクトル線幅ΔλとしてE95のデータをレーザ制御部2に送信する(ステップS423)。その後、スペクトル計測部70は、ステップS402の処理に戻る。
【0092】
図11に、
図7及び
図8に示した比較例に係るレーザ装置101によるスペクトル線幅Δλの算出方法と
図9及び
図10に示した実施形態1に係るレーザ装置によるスペクトル線幅Δλの算出方法とを模式的に比較して示す。
【0093】
図11の(A)は、比較例に係るレーザ装置101によるスペクトル線幅Δλの算出方法の概略を示している。
【0094】
比較例に係るレーザ装置101では、スペクトル計測部70は、スペクトル線幅計測器34Aによって計測されたNi個のフリンジ波形(生波形Or)の積算、平均化を行い、平均波形Oaを生成する。次に、スペクトル計測部70は、平均波形Oaのうち1つの平均波形Oaを選択して、スペクトル空間にマッピングし、スペクトル波形O(λ)を生成する。その後、スペクトル計測部70は、スペクトル波形O(λ)と装置関数I(λ)とのデコンボリューション処理を行って真のスペクトル波形T(λ)を算出する。スペクトル計測部70は、真のスペクトル波形T(λ)に基づいて、スペクトル線幅ΔλとしてE95を算出する。
【0095】
図11の(B)は、実施形態1に係るレーザ装置によるスペクトル線幅Δλの算出方法の概略を示している。
【0096】
実施形態1に係るレーザ装置では、スペクトル計測部70は、スペクトル線幅計測器34Aによって計測されたNi個のフリンジ波形(生波形Or)を積算した積算波形Oiを生成する。次に、スペクトル計測部70は、積算波形Oiのうち1つの積算波形Oiに基づいて、スペクトル線幅E95′(E95raw)を算出する。次に、スペクトル計測部70は、較正関数F(x)を使用して、スペクトル線幅E95′を較正し、スペクトル線幅E95(E95calib)を算出する。
【0097】
このように、実施形態1に係るレーザ装置では、比較例に係るレーザ装置101と比較して、スペクトル線幅計測器34Aによって計測されたフリンジ波形に基づくスペクトル空間へのマッピング処理とデコンボリューション処理とを行わずに、スペクトル線幅E95を算出する。
【0098】
図12に、実施形態1に係るレーザ装置における、フリンジ波形に基づくスペクトル空間の面積の算出方法の一例を模式的に示す。
【0099】
実施形態1に係るレーザ装置では、スペクトル線幅計測器34Aによって計測されたフリンジ波形をスペクトル空間へマッピングせずに、
図12で示したように、以下の式(3)及び(4)を用いてスペクトル空間の全体の面積Sを算出する。
【0100】
【0101】
【0102】
スペクトル線幅計測器34Aは、
図4に示したようにイメージセンサ344を含んでいる。イメージセンサ344は、複数のラインセンサを含んでいる。複数のラインセンサはチャンネル(ch:整数)順に並べられている。チャンネルは、イメージセンサ344における各ラインセンサの位置に相当する。
図12において、横軸はイメージセンサ344におけるラインセンサのチャンネルChを示す。縦軸はフリンジ波形の強度を示す。
【0103】
スペクトル計測部70は、式(3)及び(4)によって、フリンジ波形を、複数の分割波長区間(mavi-mavi+1)に分割し、複数の分割波長区間のそれぞれの矩形、及び台形状の分割面積を算出して積算することにより、スペクトル空間の全体の面積Sを算出する。分割波長区間(mavi-mavi+1)は、2つのChi,Chi+1間の波長に相当する。
【0104】
スペクトル計測部70は、式(3)及び(4)によって求められたスペクトル空間の全体の面積Sから、全体の面積Sの95%の幅であるスペクトル線幅E95rawを算出する。
【0105】
図13に、実施形態1に係るレーザ装置における、フリンジ波形に基づくスペクトル線幅E95(E95raw)の算出方法の第1の例を模式的に示す。
図14に、実施形態1に係るレーザ装置における、フリンジ波形に基づくスペクトル線幅E95(E95raw)の算出方法の第2の例を模式的に示す。
図13及び
図14において、横軸はスペクトル線幅計測器34Aのイメージセンサ344におけるラインセンサのチャンネルChを示す。縦軸はフリンジ波形の強度を示す。
【0106】
図13及び
図14において、フリンジ波形の両端のうち第1の端部をLch、第2の端部をRchとする。また、フリンジ波形のピーク位置をpchとする。
【0107】
スペクトル線幅E95rawを算出する場合、フリンジ波形のスペクトル空間の全体の面積Sの第1の割合として95%となる面積を算出する。95%となる面積は、スペクトル空間の全体の面積Sのうち5%となる面積の位置を特定することで算出できる。
【0108】
スペクトル計測部70は、フリンジ波形の第1の端部Lchから積算された面積がスペクトル空間の全体の面積Sのうち第2の割合となる第1の波形位置L95と、フリンジ波形の全体の面積Sのうち第2の端部Rchから積算された面積が第2の割合となる第2の波形位置R95とを特定する。ここで、スペクトル線幅E95rawを算出する場合、第2の割合は2.5%である。スペクトル空間の全体の面積Sのうち2.5%の面積は、0.025Sとなる。これにより、スペクトル空間の全体の面積Sのうちフリンジ波形の両端部の2.5%×2=5%となる面積の位置を特定することができる。
【0109】
スペクトル計測部70は、フリンジ波形における第1の波形位置L95と第2の波形位置R95との間の面積を、スペクトル空間の全体の面積Sのうち95%の面積とみなして、スペクトル線幅E95rawを算出する。
【0110】
スペクトル計測部70は、フリンジ波形のうち中央位置を基準とする所定範囲内にある部分の面積を、スペクトル空間の全体の面積Sとする。ここで、所定範囲とは、例えば
図13及び
図14に示した±0.38次の範囲である。0.38次は、0.5pmに相当する。
【0111】
図13は、フリンジ波形のピーク位置を、フリンジ波形の中央位置として、スペクトル線幅E95rawを算出した例を示している。
【0112】
図14は、フリンジ波形の半値全幅(FWHM)から求まる波長中心としての中央位置rmを、フリンジ波形の中央位置として、スペクトル線幅E95rawを算出した例を示している。半値全幅の中央位置rmは、半値全幅の両端位置をr1,r2として、以下の式により求めることができる。
rm
2=(r1
2+r2
2)/2
【0113】
また、フリンジ波形の中央位置を、フリンジ波形の重心に相当する位置として、スペクトル線幅E95rawを算出してもよい。
【0114】
図15に、スペクトル線幅Δλの算出に用いる較正関数F(x)の一例を概略的に示す。
【0115】
図15において、横軸は実施形態1に係るレーザ装置において内部計測されたE95であり、上述のスペクトル線幅E95rawに相当する。縦軸は外部のスペクトル計測器によって外部計測されたE95である。
【0116】
較正関数F(x)は、例えばax+bのようなa,bを定数とする1次式でもよいし、2次式、または3次式でもよいしさらに高次の関数であってもよい。さらに、ax2+bx2+cのようなa,b,cを定数とする多項式であってもよい。または、aebxのようなa,bを定数とする指数関数であってもよい。
【0117】
また、較正関数F(x)には、波長依存についても較正する係数が含まれていてもよい。例えば、波長をWLとし、a,b,cを定数として較正関数F(x)が、以下のような関数であってもよい。
F(E95,WL)=a・WL+b・E95+c
【0118】
また、較正関数F(x)には、スペクトル非対称性依存についても較正する係数が含まれていてもよい。例えば、スペクトル非対称性をAsymとし、a,b,cを定数として較正関数F(x)が、以下のような関数であってもよい。
F(E95,Asym)=a・Asym+b・E95+c
【0119】
その他の動作は、上記比較例に係るレーザ装置101と略同様であってもよい。
【0120】
[2.3 作用・効果]
実施形態1のレーザ装置によれば、スペクトル線幅ΔλであるE95の算出の際に、マッピング処理とデコンボリューション処理とを実施しないため、スペクトル線幅Δλの計測速度と、スペクトル線幅Δλの制御速度とが向上する。その結果、スペクトル線幅Δλの安定性を向上させることができる。また、較正関数F(x)による較正によって、十分な計測精度を保つことができる。
【0121】
<3.実施形態2>(較正関数の更新を行う例)
次に、本開示の実施形態2に係るレーザ装置について説明する。なお、以下では上記比較例、又は実施形態1に係るレーザ装置の構成要素と略同じ部分については、同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0122】
[3.1 構成]
実施形態2に係るレーザ装置の基本的な構成は、上記比較例に係るレーザ装置101と略同様である。ただし、以下で説明するように、スペクトル計測部70によるスペクトル線幅Δλを算出する動作が部分的に異なっている。
【0123】
[3.2 動作]
実施形態2に係るレーザ装置では、実施形態1に係るレーザ装置と同様にして、スペクトル計測部70が、較正関数F(x)を用いて、スペクトル線幅ΔλとしてE95を算出する。実施形態2に係るレーザ装置では、さらに、スペクトル計測部70が、較正関数F(x)を更新する処理を行う。
【0124】
スペクトル計測部70は、フリンジ波形から求まる第1のスペクトル波形をデコンボリューション処理することによって第2のスペクトル波形を算出し、算出された第2のスペクトル波形に基づいて、第3のスペクトル線幅を算出する。ここで、第1のスペクトル波形は、後述する
図17のステップS426で生成されるスペクトル波形O(λ)である。第2のスペクトル波形は、後述する
図17のステップS428で計算される真のスペクトル波形T(λ)である。第3のスペクトル線幅は、後述する
図17のステップS429で計算されるスペクトル線幅E95decoである。
【0125】
スペクトル計測部70は、較正関数F(x)に基づいて較正された後の第1のスペクトル線幅と、第3のスペクトル線幅との関係に基づいて、較正関数F(x)の更新処理を行う。スペクトル計測部70は、較正関数F(x)の更新処理を、定期的に繰り返し行う。具体的には、以下の処理を行う。
【0126】
図16及び
図17は、実施形態2に係るレーザ装置におけるスペクトル線幅Δλの計測動作の流れの一例を示すフローチャートである。実施形態2に係るレーザ装置では、
図7及び
図8に示したスペクトル線幅Δλの計測動作に代えて、
図9及び
図10に示す計測動作を実施する。なお、
図16及び
図17では、
図7及び
図8のフローチャートにおけるステップと同様の処理を行うステップには同一のステップ番号を付している。
【0127】
まず、スペクトル計測部70は、記憶部73から、積算回数Niと平均回数Naと較正関数F(x)とのデータを読み込む(ステップS401B)。
【0128】
その後、スペクトル計測部70は、
図7のステップS402~S406と同様の処理を行い、Ni個の生波形Orを積算した積算波形Oiを生成する。
【0129】
次に、積算波形Oiからスペクトル空間の面積を求め、スペクトル空間の面積からスペクトル線幅E95rawを算出する(
図17のステップS421)。スペクトル空間の面積は、上述の実施形態1と同様、
図12のようにして求めることができる。スペクトル線幅E95rawは、上述の第1のスペクトル線幅である。
【0130】
次に、スペクトル計測部70は、較正関数F(x)を使用して、スペクトル線幅E95rawからスペクトル線幅E95calibを算出する(ステップS422)。
【0131】
次に、スペクトル計測部70は、算出されたスペクトル線幅E95calibをE95とし、スペクトル線幅ΔλとしてE95のデータをレーザ制御部2に送信する(ステップS423)。
【0132】
次に、スペクトル計測部70は、発光トリガカウンタのカウンタ値NがNiとNaとの積(Ni・Na)と同じ(N=Ni・Na)であるか否かを判定する(ステップS424)。スペクトル計測部70は、N=Ni・Naではないと判定した場合(ステップS407;N)には、ステップS403の処理に戻る。
【0133】
N=Ni・Naであると判定した場合(ステップS407;Y)には、次に、スペクトル計測部70は、ステップS425~S428の処理を行う。ステップS425~S428の処理は、
図7のステップS408~S411と同様である。
【0134】
次に、スペクトル計測部70は、真のスペクトル波形T(λ)からスペクトル線幅E95decoを計算する。続いて、スペクトル計測部70は、ステップS422,S423で算出されたE95(E95calib)とスペクトル線幅E95decoとの関係から較正関数F(x)を更新して記憶部73に記憶する(ステップS429)。その後、スペクトル計測部70は、ステップS402の処理に戻る。
【0135】
なお、以上の説明では、較正関数F(x)の更新を、カウンタ値Nごとに毎回、実施する場合について説明したが、カウンタ値Nの2倍(2N)ごと、3倍(3N)ごとのように、E95の算出の何回かに1度のみの実施でもよい。
【0136】
その他の動作は、上記比較例に係るレーザ装置101、又は上記実施形態1に係るレーザ装置と略同様であってもよい。
【0137】
[3.3 作用・効果]
実施形態2のレーザ装置によれば、実施形態1と同様にして較正関数F(x)を用いたスペクトル線幅Δλの算出を行うので、スペクトル線幅Δλの計測速度と、スペクトル線幅Δλの制御速度とが向上する。その結果、スペクトル線幅Δλの安定性を向上させることができる。さらに、定期的に較正関数F(x)を更新するため、スペクトル線幅Δλの計測の精度をより高めることができる。
【0138】
<4.実施形態3>(電子デバイスの製造方法)
上記実施形態1または2に係るレーザ装置は、半導体デバイス等の電子デバイスの製造方法に適用可能である。以下、具体例を説明する。
【0139】
図18は、半導体デバイスの製造に用いられる露光装置4の一構成例を概略的に示している。
【0140】
図18において、露光装置4は、照明光学系40と投影光学系41とを含む。
【0141】
照明光学系40は、レーザシステム1から入射したレーザ光によって、レチクルステージRTのレチクルパターンを照明する。なお、レーザシステム1として、上記実施形態1ないし3に係るレーザ装置を適用可能である。
【0142】
投影光学系41は、レチクルを透過したレーザ光を、縮小投影してワークピーステーブルWT上に配置された図示しないワークピースに結像させる。
【0143】
ワークピースはフォトレジストが塗布された半導体ウエハ等の感光基板である。
【0144】
露光装置4は、レチクルステージRTとワークピーステーブルWTとを同期して平行移動させることにより、レチクルパターンを反映したレーザ光をワークピースに露光する。
【0145】
以上のような露光工程を利用して半導体デバイスを製造する。以上のような露光工程によって半導体ウエハにデバイスパターンを転写することで半導体デバイスを製造することができる。
【0146】
<5.その他>
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図している。従って、特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかである。また、本開示の実施形態を組み合わせて使用することも当業者には明らかである。
【0147】
本明細書及び特許請求の範囲全体で使用される用語は、明記が無い限り「限定的でない」用語と解釈されるべきである。たとえば、「含む」又は「含まれる」という用語は、「含まれるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。また、不定冠詞「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。また、「A、B及びCの少なくとも1つ」という用語は、「A」「B」「C」「A+B」「A+C」「B+C」又は「A+B+C」と解釈されるべきである。さらに、それらと「A」「B」「C」以外のものとの組み合わせも含むと解釈されるべきである。