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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】複合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20240705BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20240705BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C01B33/18 C
B01J20/10 C
B01J20/28 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020129586
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2021024779
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2019139358
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第36回エアロゾル科学・技術研究討論会予稿集(USB)、発表番号B204、p.197-p.198において公開、発行者:日本エアロゾル学会、発行日:令和1年9月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第36回エアロゾル科学・技術研究討論会において口頭発表(発表番号B204)、広島大学、開催日:令和1年9月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 18th Asian Pacific Confederation of Chemical Engineering Congress(APCChE2019)にて口頭発表(発表番号D305)、札幌コンベンションセンター、開催日:令和1年9月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 http://www3.scej.org/meeting/85a/abst/T302.pdf(化学工学会第85年会の国際シンポジウム(International Chemical Engineering Symposia 2020)予稿集(WEB予稿集)において公開(発表番号T302)、掲載日:令和2年3月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.european-mrs.com/cellulose-electronics-and-photonics-new-challenge-materials-new-opportunity-devices-iii-emrs(2020 Spring meeting-European Materials Research Society予稿集(WEB予稿集)において公開(発表番号:T.T.2.04.4))、掲載日:令和2年2月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://doi.org/10.1016/j.msec.2019.110033 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0928493119312561(Materials Science & Engineering:C,Vol.105,2019,110033)において公開、掲載日:令和1年7月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://doi.org/10.1016/j.apt.2020.05.021 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0921883120302247(Advanced Powder Technology,Vol.31,2020,pp.2932-2941において公開、掲載日:令和2年6月9日(日本時間)
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 武大
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 賀之
(72)【発明者】
【氏名】荻 崇
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-510787(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026425(WO,A1)
【文献】特開2008-222502(JP,A)
【文献】特開2009-162537(JP,A)
【文献】藤原 健成 et al.,愛媛県産業研究所研究報告,日本,2016年,No.54,p.16-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
JSTPlus/JST7580/JSTchina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性シリカ粒子の外部表面および/または内部表面に第1成分としてカチオン性有機化合物が吸着し、前記第1成分の表面に第2成分としてアニオン性官能基を持つ微細繊維状セルロースが吸着してなり、
前記多孔性シリカ粒子は、
(A)平均粒子径が100nm以上5μm以下であること、および、
(B)表面の平均孔径が50nm以上600nm以下であること、
を満たす、複合体。
【請求項2】
前記多孔性シリカ粒子は、更に、
(C)純水中におけるゼータ電位が-50mV以上-1mV以下であること、
を満たす、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記微細繊維状セルロースは、
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下であること、
(b)セルロースI型結晶構造を有すること、および、
(c)平均アスペクト比が2以上5000以下であること、
を満たす、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
前記カチオン性有機化合物が含窒素化合物を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
前記含窒素化合物が、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)およびアルキルトリメチルアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
前記微細繊維状セルロースが前記アニオン性官能基としてカルボキシ基を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
前記複合体は、純水中におけるゼータ電位が-100mV以上-1mV以下であり、平均粒子径が0.5μm以上10μm以下であり、BET値が3m/g以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項8】
平均粒子径が100nm以上5μm以下であり、かつ、表面の平均孔径が50nm以上600nm以下である多孔性シリカ粒子の外部表面および/または内部表面に第1成分としてカチオン性有機化合物を吸着させ、次いで、前記第1成分の表面に第2成分としてアニオン性官能基を持つ微細繊維状セルロースを吸着させる、複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性シリカ粒子と微細繊維状セルロースを含む複合体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、数nm~数μmのナノ粒子、マイクロ粒子、ナノ繊維等が様々な分野で研究、応用されている。ナノ粒子やナノ繊維の性質や効果は、その大きさがナノサイズであることや表面積が大きいことに起因しており、新たな特性や効果を発現する可能性が指摘されている。しかしながら、ナノ粒子やナノ繊維はナノサイズであるがゆえの悪影響(ナノリスク)が懸念されていることや、付着性や凝集性が著しく高いため、取り扱いにくいという課題がある。一方、マイクロ粒子はその大きさがマイクロサイズであることから、ナノ粒子に比べ凝集性は緩和されるものの、ナノ粒子が有する特性や効果が失われるという問題がある。
【0003】
ナノ粒子およびマイクロ粒子が有する利点を両立し、上記課題を克服する方法として、マイクロサイズの粒子にナノサイズの孔を形成した多孔性シリカ粒子を用いることが提案されている(特許文献1参照)。該多孔性シリカ粒子は、外部表面だけでなく内部表面を有するため、マイクロサイズの粒子径でありながら表面積を稼ぐことができ、またナノ粒子特有の凝集課題を克服できる。しかしながら、生理活性物質の吸着剤として用いる場合、十分な性能を発現するには至っていない。
【0004】
また、負または正の電荷を有する多孔性粒子を用い、前記多孔性粒子の外部表面および内部表面に、前記多孔性粒子とは反対の電荷を有する成分を被覆し、さらにその外側に別の親水性の機能性ポリマーの被覆を行うことが提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、十分な性能を発現するには至っていない。
【0005】
一方、ナノ繊維、例えばカーボンナノチューブ、銀ナノワイヤー、微細繊維状セルロースは、樹脂材料の補強材、産業資材、電子材料、生命科学など、幅広い分野への応用が検討されている。例えば、微細繊維状セルロースであるTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)は、カルボキシ基を多数有する、繊維径が数nmかつ高アスペクト比を有する、セルロースI型結晶構造を有する、および水媒体中で安定に分散する、などの特徴を有することから、研究や応用事例が報告されている。
【0006】
TOCN等の微細繊維状セルロースの生化学分野での研究や応用として、タンパク質などの生理活性物質と微細繊維状セルロースとの相互作用による吸着の検討事例が報告されている(特許文献3参照)。しかしながら、微細繊維状セルロースを生理活性物質の吸着剤として用いる場合、微細繊維状セルロースが水媒体中でナノサイズを保ったまま分散していることや高い親水性を有する微細繊維状セルロースは濃度によりゲル状態を形成するため、微細繊維状セルロースと被吸着物とを分離しにくいことや微細繊維状セルロースを回収、再利用しにくいという課題がある。
【0007】
なお、特許文献4及び特許文献5には、電荷を有するシリカ粒子に静電的引力により有機分子や多糖を吸着した複合粒子を用いることが示されているが、シリカ粒子の形態が多孔性であることは規定されておらず、また、シリカ粒子に微細繊維状セルロースを吸着させることも記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭63-162518号公報
【文献】特開平02-90943号公報
【文献】特許第6159737号公報
【文献】特開2008-222502号公報
【文献】特開2009-162537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態は、多孔性シリカ粒子と微細繊維状セルロースとを組み合わせることにより、例えば生理活性物質用の吸着剤としての機能を高めることができる複合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る複合体は、多孔性シリカ粒子の外部表面および/または内部表面に第1成分としてカチオン性有機化合物が吸着し、前記第1成分の表面に第2成分としてアニオン性官能基を持つ微細繊維状セルロースが吸着してなるものである。
【0011】
本発明の実施形態に係る複合体の製造方法は、多孔性シリカ粒子の外部表面および/または内部表面に第1成分としてカチオン性有機化合物を吸着させ、次いで、前記第1成分の表面に第2成分としてアニオン性官能基を持つ微細繊維状セルロースを吸着させるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態であると、多孔性シリカ粒子と微細繊維状セルロースとを組み合わせることにより、例えば生理活性物質用の吸着剤としての機能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】多孔性シリカ粒子、カチオン性ポリマー表面処理粒子、および実施例の複合体についてのSEM画像
図2】実施例の複合体についてのFT-IRの測定結果を示すグラフ
図3】実施例の複合体についてのTGの測定結果を示すグラフ
図4】比較例のTGの測定結果を示すグラフ
図5】実施例の複合体へのリゾチームの吸着実験での攪拌時間と吸着率との関係を示すグラフ
図6】実施例3の複合体についてリゾチーム溶液濃度の違いによるリゾチーム吸着実験の結果を示すグラフ
図7】実施例3の複合体へのリゾチームの吸着の再使用実験結果を示すグラフ
図8】実施例3の複合体へ吸着したリゾチームの脱離の再使用実験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る複合体は、多孔性シリカ粒子と、該多孔性シリカ粒子の外部表面および/または内部表面に吸着した第1成分としてのカチオン性有機化合物と、該第1成分の表面に吸着した第2成分としての微細繊維状セルロースとを含むものである。そのため、該複合体は、微細繊維状セルロースがカチオン性有機化合物を介して多孔性シリカ粒子の表面に担持された構造を持つ、多孔性シリカ粒子と微細繊維状セルロースとの粒子状複合体である。
【0015】
(1)多孔性シリカ粒子
多孔性シリカ粒子としては、表面に開口する孔を持つシリカ粒子が用いられ、より好ましくは表面から内部を貫通する細孔を持つものが用いられる。多孔性シリカ粒子としては、負に帯電しているもの、即ち負のゼータ(ζ)電位を持つアニオン性の多孔性シリカ粒子が好ましく用いられる。多孔性シリカ粒子が負のゼータ電位を持つことにより、その粒子表面にカチオン性有機化合物を静電的引力により吸着させることができる。ここで、ゼータ電位とは、電気二重層のすべり面での電位のことであり、界面動電位とも称される。
【0016】
多孔性シリカ粒子としては、下記条件(A)~(C)を満たすものが好ましい。
(A)平均粒子径が100nm以上5μm以下であること。
(B)表面の平均孔径が50nm以上600nm以下であること。
(C)純水中におけるゼータ電位が-50mV以上-1mV以下であること。
このようなマイクロサイズの粒子にナノサイズの孔を形成した多孔性シリカ粒子を用いることにより、マイクロサイズ粒子の外部表面だけでなく、ナノサイズの孔による内部表面を得ることができる。また、マイクロサイズの粒子径であるため、ナノ粒子であることによる凝集などの問題を解決することができる。
【0017】
上記(A)の多孔性シリカ粒子の平均粒子径は、好ましくは300nm以上であり、より好ましくは600nm以上であり、更に好ましくは1μm以上であり、1.2μm以上でもよい。また、平均粒子径は、より好ましくは4μm以下であり、3μm以下でもよい。
【0018】
上記(B)の平均孔径は、粒子表面での孔径(開口径)であり、好ましくは100nm以上であり、より好ましくは300nm以上であり、更に好ましくは450nm以上である。また、平均孔径は550nm以下であることが好ましい。
【0019】
上記(C)のゼータ電位は、より好ましくは-40mV以上であり、-35mV以上でもよい。また、ゼータ電位は、より好ましくは-10mV以下であり、-20mV以下でもよい。
【0020】
多孔性シリカ粒子のBET値(BET法による窒素吸着比表面積)は、特に限定されず、例えば10~1000m/gでもよく、50~500m/gでもよく、100~300m/gでもよい。
【0021】
多孔性シリカ粒子の製造方法は、特に限定されない。例えば、コロイダルシリカなどのシリカ粒子を有機微粒子とともに水中に分散させ、得られた水分散液を超音波ネブライザーなどの噴霧器を用いて噴霧(エアロゾル化)し焼成炉などで熱処理(有機微粒子の熱分解)を行うことにより、多孔性シリカ粒子を調製することができる。
【0022】
(2)カチオン性有機化合物
カチオン性有機化合物は、多孔性シリカ粒子の表面に吸着する成分であり、多孔性セルロース粒子が負のゼータ電位を持つ場合、静電的引力によって粒子表面に吸着する。カチオン性有機化合物は、多孔性シリカ粒子の外部表面および/または内部表面に対し、その全面に吸着されてもよく、一部分に吸着されてもよい。
【0023】
本明細書において、多孔性シリカ粒子の「内部表面」とは、多孔性シリカ粒子の孔内の表面(内壁)であり、「外部表面」とは、多孔性シリカ粒子の外側に露出した表面である。「吸着」とは、静電的引力、ファンデルワールス力または疎水性相互作用により密着ないし一体化することである。「静電的引力」とは、正電荷と負電荷間に働くクーロン力をいう。
【0024】
カチオン性有機化合物としては、特に限定されず、有機ポリマーでもよく、ポリマーではない低分子の有機化合物でもよい。好ましくはカチオン性の有機ポリマーであり、すなわちカチオン性有機化合物としてはカチオン性ポリマーが好ましい。カチオン性ポリマーの分子量は、特に限定されるものではなく、例えば、重量平均分子量(Mw)で1000~100万でもよく、1万~50万でもよい。
【0025】
本発明における重量平均分子量は高速液体クロマトグラフを使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、Gel Permeation Chromatography)法により測定することができる。重量平均分子量の算出は、ポリエチレングリコール(PEG)を既知の分子量標準物質として用いて較正曲線を求め、その較正曲線をもとに換算することにより、算出することができる。また、溶離液は0.4mol/L塩化ナトリウム水溶液を使用し、検出器はRIを用いる。カラムはAsahipak GS-220HGおよびAsahipak GS-620HG(昭和電工(株)製)を用い、カラム温度は30℃とし、流速は1.0mL/分とする。
【0026】
カチオン性有機化合物としては、含窒素化合物を用いることが好ましい。含窒素化合物としては、例えば、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、及び第4級アンモニウム基からなる群から選択される少なくとも一種のカチオン性基を有する有機化合物が挙げられる。第1~3級アミノ基には、その酸中和物である塩も含まれる。また、第4級アンモニウム基は、第4級アンモニウムカチオンでも、第4級アンモニウム塩でもよい。
【0027】
低分子量の含窒素化合物の例としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。アルキルトリメチルアンモニウム塩としては、例えば、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドなどの長鎖アルキル基(例えば炭素数8以上のアルキル基)を持つアルキルトリメチルアンモニウムブロマイドが挙げられるが、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、ブチルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミドなどのように炭素数7以下のアルキル基を持つものでもよい。ジアルキルジメチルアンモニウム塩としては、例えば、ジブチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロミド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロミド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩としては、ドデシルベンジルジメチルアンモニウム塩、テトラデシルベンジルジメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルベンジルジメチルアンモニウム塩が挙げられる。
【0028】
カチオン性ポリマーとしては、第1~3級アミノ基、第4級アンモニウム基などのカチオン性基を有するポリマーが挙げられ、カチオン性基を持つモノマーの単独重合体でもよく、カチオン性基を持つモノマーと他のモノマーとの共重合体でもよく、また、カチオン性基を持つモノマーを2種以上用いた共重合体でもよい。
【0029】
具体的には、第4級アンモニウム基を持つカチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、側鎖末端に第4級アンモニウム基を持つ(メタ)アクリル系ポリマー、その他の側鎖に第4級アンモニウム基を持つビニルポリマーなどが挙げられる。ここで、(メタ)アクリル系ポリマーとは、アクリル系ポリマー及び/又はメタクリル系ポリマーを意味する。ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)としては、例えば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)が挙げられる。側鎖末端に第4級アンモニウム基を持つ(メタ)アクリル系ポリマーとしては、例えば、ポリ(N,N,N-トリメチルアンモニウムエチルアクリレートクロリド)、ポリメタクリル酸コリンなどが挙げられる。その他の第4級アンモニウム基を持つビニルポリマーとしては、例えば、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0030】
第1~3級アミノ基を持つカチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ピリジル基含有ポリマー、側鎖末端に第1~3級アミノ基を有する(メタ)アクリル系ポリマー、ポリアニリン、酸処理ゼラチン、塩基性アミノ酸のポリマー、塩基性タンパク質、塩基性多糖類、ポリアミドアミンデンドリマー(カチオニックデンドリマー)、及びそれらの塩などが挙げられる。ポリアリルアミン塩としては、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩が挙げられる。ピリジル基含有ポリマーとしては、例えば、ポリビニルピリジン、ポリビニルエチルピリジン、ポリ(パラ-メチルピリジニウムビニレン)、及びそれらの塩などが挙げられる。側鎖末端に第1~3級アミノ基を有する(メタ)アクリル系ポリマーとしては、例えば、ポリ(N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)及びその塩などが挙げられる。塩基性アミノ酸のポリマーとしては、例えば、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリアルギニン、及びそれらの塩などが挙げられる。塩基性タンパク質としては、例えば、プロタミンが挙げられる。塩基性多糖類としては、例えば、キトサンが挙げられる。
【0031】
以上例示したカチオン性有機化合物は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0032】
一実施形態において、カチオン性有機化合物としての含窒素化合物は、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)およびアルキルトリメチルアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0033】
多孔性シリカ粒子へのカチオン性有機化合物の吸着量は、カチオン性有機化合物で表面処理された粒子が正のゼータ電位を持つように吸着していれば特に限定されない。カチオン性有機化合物で表面処理後の粒子におけるカチオン性有機化合物の含有量(後述する複合体におけるカチオン性有機化合物の含有量も同じ。)は、多孔性シリカ粒子の質量に対して(即ち多孔質シリカ粒子の質量を100質量%として)、例えば、0.01~10質量%でもよく、0.1~5質量%でもよい。
【0034】
なお、カチオン性有機化合物で表面処理後の粒子100質量%における水の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、0.01~30質量%でもよく、0.1~20質量%でもよく、1~10質量%でもよい。
【0035】
カチオン性有機化合物で表面処理後の粒子のゼータ電位は、特に限定されるものではなく、例えば、純水中におけるゼータ電位が+1mV以上+100mV以下でもよい。該ゼータ電位は、より好ましくは+10mV以上であり、更に好ましくは+20mV以上であり、+30mV以上でもよい。また、該ゼータ電位は、+80mV以下であることが好ましく、+60mV以下でもよい。
【0036】
カチオン性有機化合物で表面処理後の粒子の平均粒子径および平均孔径は、特に限定されない。例えば、平均粒子径は、100nm以上5μm以下でもよく、下限は300nm以上でもよく、600nm以上でもよく、1μm以上でもよく、1.2μm以上でよく、上限は4μm以下でもよく、3μm以下でもよい。平均孔径は、50nm以上600nm以下でもよく、下限は100nm以上でもよく、300nm以上でもよく、450μm以上でもよく、上限は550nm以下でもよい。
【0037】
(3)微細繊維状セルロース
微細繊維状セルロースは、カチオン性有機化合物からなる第1成分の表面に吸着する成分であり、アニオン性官能基を持つため、静電的引力によって第1成分の表面に吸着する。微細繊維状セルロースは、カチオン性有機化合物からなる第1成分の層の表面全体に吸着されてもよく、一部分に吸着されてもよい。そのため、多孔性シリカ粒子の外部表面に対してカチオン性有機化合物の層を介して微細繊維状セルロースの層が形成されてもよく、多孔性シリカ粒子の内部表面に対してカチオン性有機化合物の層を介して微細繊維状セルロースの層が形成されてもよく、これら外部表面と内部表面の双方で形成されてもよい。なお、微細繊維状セルロースの繊維長が多孔性シリカの孔径よりも大きい場合、多孔性シリカ粒子の孔の開口部に跨がるように微細繊維状セルロースが吸着してもよい。
【0038】
微細繊維状セルロースとしては、下記条件(a)~(c)を満たすものが好ましい。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下であること。
(b)セルロースI型結晶構造を有すること。
(c)平均アスペクト比が2以上5000以下であること。
これらの条件を満たすことにより、微細繊維状セルロースが多孔性シリカ粒子の内部空間に入りやすくなり、外部表面だけでなく、内部表面にも吸着しやすくなる。
【0039】
上記(a)の数平均繊維径は、より好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは30nm以下であり、10nm以下でもよい。数平均繊維径は、次のようにして測定することができる。
【0040】
すなわち、固形分率で0.05~0.1質量%の微細繊維状セルロースの水分散体を調製し、その水分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。また、観察用試料は、例えば2質量%ウラニルアセテートでネガティブ染色してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径の相加平均を数平均繊維径とする。
【0041】
上記(b)のセルロースI型結晶構造を有することは、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0042】
上記(c)の平均アスペクト比は、より好ましくは50以上であり、更に好ましくは100以上であり、200以上でもよい。平均アスペクト比は、より好ましくは1000以下であり、500以下でもよい。平均アスペクト比は、次のようにして測定することができる。
【0043】
すなわち、先に述べた方法に従い数平均繊維径を算出する。また、同様の観察画像から微細繊維状セルロースの数平均繊維長を算出する。詳細には、繊維の始点から終点までの長さ(繊維長)を最低10本目視で読み取る。なお、枝分かれしている繊維については、その繊維の最も長い部分の長さを繊維長とする。このようにして得られた繊維長の相加平均を算出し、数平均繊維長とする。これらの値を用いて平均アスペクト比を下記式に従い算出する。
平均アスペクト比=数平均繊維長(nm)/数平均繊維径(nm)
【0044】
微細繊維状セルロースの持つアニオン性官能基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、カルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基についても、同様に、酸型だけでなく、塩型も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。
【0045】
微細繊維状セルロースにおけるアニオン性官能基の量は、特に限定されず、例えば、微細繊維状セルロースの乾燥質量あたり、0.5~3.0mmol/gでもよく、1.5~2.0mmol/gでもよい。アニオン性官能基の量は、例えば、カルボキシ基の場合、0.1~1質量%の濃度に調製した微細繊維状セルロース含有スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン基についても公知の方法で測定すればよい。
アニオン性官能基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/微細繊維状セルロース質量(g)〕
【0046】
一実施形態において、微細繊維状セルロースとしては、アニオン性官能基としてカルボキシ基を有することが好ましい。カルボキシ基を含有する微細繊維状セルロースとしては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロース微細繊維や、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロース微細繊維が挙げられる。
【0047】
酸化セルロース微細繊維としては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性されたものが挙げられる。該酸化セルロース微細繊維は、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化されたセルロース微細繊維は、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)と称されている。なお、酸化セルロース微細繊維は、カルボキシ基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよい。
【0048】
微細繊維状セルロースは、解繊処理を行うことにより得てもよい。解繊処理は、アニオン性官能基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理は、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、セルロース繊維の水分散液を処理することにより行うことができ、微細繊維状セルロースの水分散液を得ることができる。
【0049】
カチオン性有機化合物で表面処理した多孔性シリカ粒子への微細繊維状セルロースの吸着量は、特に限定されない。微細繊維状セルロースを吸着させてなる複合体における微細繊維状セルロースの含有量は、多孔性シリカ粒子の質量に対して(即ち多孔性シリカ粒子の質量を100質量%として)、例えば、1~2000質量%でもよく、5~1000質量%でもよく、10~500質量%でもよく、15~200質量%でもよい。
【0050】
該複合体100質量%における水の含有量は、特に限定されるものではなく、0.01~30質量%でもよく、0.1~20質量%でもよく、1~10質量%でもよい。
【0051】
(4)複合体
本実施形態に係る複合体は、上記多孔性シリカ粒子の表面にカチオン性有機化合物が吸着し、該カチオン性有機化合物の表面に微細繊維状セルロースが吸着してなる粒子状複合体である。ベースとなる担体が多孔性シリカ粒子であることから、ナノ粒子とマイクロ粒子が有する利点を両立しやすいと考えられる。かかる多孔性シリカ粒子にカチオン性有機化合物を介して微細繊維状セルロースを担持させるので、複合体のゼータ電位の絶対値を増大させやすくなると考えられ、そのため、タンパク質などの生理活性物質との相互作用を向上させて、生理活性物質の吸着剤としての機能を高めることができる。また、微細繊維状セルロースを多孔性シリカ粒子に担持させるので、例えば生理活性物質の吸着剤として用いたときに、回収および再生が可能となり、また、複合体の水中での凝集を抑制して分散性を向上することができる。
【0052】
一実施形態において複合体は、下記条件(ア)~(ウ)を満たすことが好ましい。
(ア)純水中におけるゼータ電位が-100mV以上-1mV以下であること。
(イ)平均粒子径が0.5μm以上10μm以下であること。
(ウ)BET値が3m/g以上であること。
これらの条件を満たすことにより、タンパク質の吸着剤としての使用に更に適したものとなり、等電点の異なる種々のタンパク質を吸着させることができる。
【0053】
上記(ア)のゼータ電位は、より好ましくは-20mV以下であり、更に好ましくは-30mV以下であり、-50mV以下でもよい。該ゼータ電位は、より好ましくは-80mV以上であり、-70mV以上でもよい。
【0054】
上記(イ)の平均粒子径は、好ましくは0.8μm以上であり、より好ましくは1.2μm以上であり、1.5μm以上でもよい。また、平均粒子径は、より好ましくは5μm以下であり、3μm以下でもよい。
【0055】
上記(ウ)のBET値(BET法による窒素吸着比表面積)は、より好ましくは10m/g以上であり、更に好ましくは30m/g以上である。また、BET値の上限は大きいほど好ましいため特に限定されないが、例えば200m/g以下でもよく、150m/g以下でもよい。
【0056】
(5)複合体の製造方法
実施形態に係る複合体は、多孔性シリカ粒子の外部表面および/または内部表面に第1成分としてカチオン性有機化合物を吸着させ、次いで、該第1成分の表面に第2成分として微細繊維状セルロースを吸着させることにより製造することができる。
【0057】
例えば、溶媒として水を用いて、多孔性シリカ粒子と水溶性のカチオン性有機化合物を添加し、混合攪拌することにより、多孔性シリカ粒子にカチオン性有機化合物を吸着させることができる。そのため、例えば遠心分離して過剰のカチオン性有機化合物を除去し、更に沈殿物を水で洗浄することにより、カチオン性有機化合物を吸着させた多孔性シリカ粒子が得られる。
【0058】
得られた表面処理済みの多孔性シリカ粒子を、微細繊維状セルロースの水分散液に添加し、混合攪拌することにより、多孔性シリカ粒子の表面に存在するカチオン性有機化合物に、アニオン性官能基を持つ微細繊維状セルロースを静電的引力によって吸着させることができる。次いで、この撹拌後の水分散液を、例えば噴霧乾燥などにより乾燥させることで、微細繊維状セルロースが担持された複合体が得られる。
【0059】
(6)用途
実施形態に係る複合体は、正の電荷を持つ種々の物質を吸着させることができるため、正の電荷を持つ物質用の吸着剤として用いることができる。そのため、タンパク質などの生理活性物質用の吸着剤として用いることができ、より詳細には、等電点が7よりも大きい生理活性物質用の吸着剤として好適に用いられる。具体的には、生理活性物質用吸着剤として、例えばタンパク質などの生理活性物質の精製、分離を行うことができ、また、カラムクロマトグラフィーの充填剤として生理活性物質の精製に利用でき、繰り返し使用可能である。
【0060】
生理活性物質としては、特に限定されず、例えば、タンパク質、ホルモン、核酸(DNA、RNA)、糖、糖鎖、ビタミン、ペプチドなどが挙げられる。タンパク質としては、例えば、酵素、抗体、レセプターなどが挙げられる。
【実施例
【0061】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0062】
1.測定方法
(1)微細繊維状セルロースの数平均繊維径
微細繊維状セルロースの数平均繊維径を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM-1400)を用いて観察した。すなわち、試料を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2質量%ウラニルアセテート水溶液でネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、数平均繊維径を算出した。
【0063】
(2)微細繊維状セルロースの平均アスペクト比
数平均繊維径の測定と同様に調製した観察用試料を用いて、先に述べた方法に従い、微細繊維状セルロースの数平均繊維長を算出した。そして、上記数平均繊維径と数平均繊維長の値を用いて平均アスペクト比を上記式に従い算出した。
【0064】
(3)微細繊維状セルロースの結晶構造
X線回折装置(リガク社製、RINT-Ultima3)を用いて、試料の回折プロファイルを測定し、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークが見られる場合は結晶構造(I型結晶構造)が「あり」と評価し、ピークが見られない場合は「なし」と評価した。
【0065】
(4)微細繊維状セルロースのカルボキシ基量
試料0.25gを水に分散させた水分散体60mLを調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、先に述べた方法に従い、カルボキシ基量を求めた。
【0066】
(5)平均粒子径
多孔性シリカ粒子、カチオン性ポリマー表面処理粒子、および複合体についての各平均粒子径は、DLS(動的光散乱式粒径分布測定装置)から得られる体積粒径の累積分布関数において累積度数が全体の50%になる時の体積粒径の値であり、Malvern社製の「Zetasizer nano zs」を用いて動的光散乱法により測定した。試料濃度は、0.2mg/mLとし、溶媒として純水を用いた。
【0067】
(6)平均孔径
多孔性シリカ粒子およびカチオン性ポリマー表面処理粒子についての平均孔径は、SEM(走査型電子顕微鏡:S-5000、日立ハイテクノロジーズ社製、20kVの条件)により、倍率5千~2万倍で写真を撮影して、その中の粒子から任意に50個以上の粒子を選定し、それらの粒子径を測定し、その平均値を示した。
【0068】
(7)ゼータ電位
多孔性シリカ粒子、カチオン性ポリマー表面処理粒子、および複合体についての各ゼータ電位は、Malvern社製の「Zetasizer nano zs」を用いて、pH7.0の純水中で0.2mg/mLとし、温度25℃の条件により測定した。
【0069】
(8)BET値
多孔性シリカ粒子および複合体のBET値は、77Kでの窒素吸着等温線を容量測定器(ベル社製、BELSORP28SA)で測定した。
【0070】
(9)FT-IRの測定
複合体の化学組成をFT-IR((株)島津製作所製、FT-IR8700)で分析した。
【0071】
(10)TG(熱重量測定)
熱重量分析装置として島津製作所(株)製、TGA-50/50Hを用いた。まず、測定に供する試料質量を測定し、次に、試料をアルミ製オープン型サンプルパンに入れ、窒素雰囲気下、200mL/分で30℃から600℃まで10℃/分で昇温し、熱重量測定を行った。カチオン性ポリマーと微細繊維状セルロースは、多孔性シリカ粒子に比べ、燃焼温度が低く、600℃付近までに全て燃焼し、排出される。そのため、試験後の試料質量は、試験前の試料質量に比べ、カチオン性ポリマーと微細繊維状セルロースと試料中に含まれる水の質量だけ減少する。そこで、カチオン性ポリマー表面処理粒子におけるカチオン性ポリマー及び水の含有量と、複合体における微細繊維状セルロース及び水の含有量を次のようにして求めた。
【0072】
i)カチオン性ポリマー表面処理粒子におけるカチオン性ポリマーと水の含有量
カチオン性ポリマー表面処理粒子を測定対象として熱重量測定を行った。水の含有量mは、測定開始温度から150℃における減量率(質量%)を測定することにより得た。カチオン性ポリマーの含有量Wは、上記のとおり、多孔性シリカ粒子100質量%に対する量であり、カチオン性ポリマー表面処理粒子の150℃における減量率m(質量%)と熱重量測定後の減量率m(質量%)とを用いて下記式により算出される。
【数1】
【0073】
ii)複合体における微細繊維状セルロースと水の含有量
複合体を測定対象として熱重量測定を行った。水の含有量mは、測定開始温度から150℃における減量率(質量%)を測定することにより得た。微細繊維状セルロースの含有量Wは、上記のとおり、多孔性シリカ粒子100質量%に対する量であり、複合体の150℃における減量率m(質量%)及び熱重量測定後の減量率m(質量%)と、上記m及びmを用いて下記式により算出される。
【数2】
【0074】
2.実施例1~3の多孔性シリカ粒子の調製
(1)原料
・コロイダルシリカ:PL-3(扶桑化学工業(株)製、平均粒子径:35nm、濃度:20%、純水中におけるゼータ電位:-29mV)
・PMMA粒子:ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子(積水化成品工業(株)製、平均粒子径:503nm、純水中におけるゼータ電位:-39mV)
【0075】
(2)操作
コロイダルシリカを50質量部、純水を250質量部、および、PMMA粒子を10質量部計量し、5分間混合後、超音波分散(IKA社製,T10 ULTRA-TURRAX S0004)を1時間行い、分散液を調製した。続いて、分散液は超音波ネブライザー(0.8MHz,NE-U17,オムロンヘルスケア(株)製)により噴霧し、入口側から順に180℃、220℃、340℃および450℃の設定温度に並べられた焼成炉に通し、PMMA粒子を熱分解して多孔性シリカ粒子を調製した。
【0076】
(3)測定結果
得られた多孔性シリカ粒子についての測定結果は以下の通りである。
・純水中におけるゼータ電位:-29mV
・平均粒子径:1.51μm
・平均孔径:500nm
・BET値:176m/g
【0077】
3.実施例1~3のカチオン性ポリマーの多孔性シリカ粒子への表面処理
(1)原料
・ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)20%水溶液:シグマアルドリッチ製、重量平均分子量:100,000~200,000)
【0078】
(2)操作
上記2.で調製した多孔性シリカ粒子4質量部、純水1000質量部、およびポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)10質量部を、室温で15分間撹拌後、遠心分離を行った。遠心分離後の沈殿物は純水を用いて2回洗浄し、室温で乾燥することにより、カチオン性ポリマーによって表面処理された粒子(カチオン性ポリマー表面処理粒子)を得た。
【0079】
(3)測定結果
得られた表面処理粒子についての測定結果は以下の通りである。
・平均粒子径:1.5μm
・平均孔径:500nm
・純水中におけるゼータ電位:+40mV
・カチオン性ポリマーの含有量W:2.7質量%
・水の含有量:5.6質量%
【0080】
4.実施例1~3のカチオン性ポリマーによる表面処理粒子へのTOCNの担持
(1)原料
・TOCN:TEMPO酸化セルロースナノファイバー(レオクリスタI-2SX、第一工業製薬株式会社製、セルロース濃度:2質量%、セルロースI型結晶構造:「あり」、数平均繊維径:4nm、平均アスペクト比:280、カルボキシ基量:1.9mmol/g)
【0081】
(2)操作
TOCNと純水を室温で5分間混合し、濃度0.2質量%のTOCN分散液を調製した。続いて、TOCN分散液をマイクロ波処理した(四国計測工業(株)、2.45GHz,1kW)。マイクロ波処理した分散液に、カチオン性ポリマー表面処理粒子を下記表1に示す仕込み比で添加し、50℃で2時間、800rpmで撹拌した。続いて、噴霧乾燥(BUCHI(株)製、ミニスプレードライヤー B-290(噴霧乾燥器)、乾燥温度:180℃、流速:30mL/min)を行うことにより、上記粒子にTOCNを吸着させてなる複合体を調製した。
【0082】
(3)測定結果
得られた複合体について、平均粒子径、ゼータ電位、BET値、および微細繊維状セルロース(TOCN)の含有量を測定した結果を下記表1に示す。また、複合体、多孔性シリカ粒子、およびカチオン性ポリマー表面処理粒子についてのSEM画像を図1に、FT-IRの測定結果を図2に、TGの測定結果を図3にそれぞれ示す。なお、図4に、比較例1の多孔性シリカ粒子と、該多孔性シリカ粒子にカチオン性ポリマーを表面処理したカチオン性ポリマー表面処理粒子についてのTGの測定結果を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
5.実施例4の複合体の調製
(1)原料
・コロイダルシリカ:PL-3(扶桑化学工業(株)製、平均粒子径:35nm、濃度:20%、純水中におけるゼータ電位:-29mV)
・PMMA粒子:ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子(積水化成品工業(株)製、平均粒子径:500nm、純水中におけるゼータ電位:-39mV)
【0085】
(2)多孔性シリカ粒子の調製
コロイダルシリカを10質量部、純水を480質量部、および、PMMA粒子を10質量部計量し、5分間混合後、超音波分散(IKA社製,T10 ULTRA-TURRAX S0004)を1時間行い、分散液を調製した。続いて、分散液は噴霧乾燥(BUCHI(株)製、ミニスプレードライヤー B-290(噴霧乾燥器)、乾燥温度:200℃、流速:30mL/min)を行うことにより、PMMA粒子を熱分解して多孔性シリカ粒子を調製した。
【0086】
得られた多孔性シリカ粒子についての測定結果は以下の通りである。
・純水中におけるゼータ電位:-16mV
・平均粒子径:5.0μm
・平均孔径:500nm
【0087】
(3)カチオン性ポリマーの多孔性シリカ粒子への表面処理とカチオン性ポリマーによる表面処理粒子へのTOCNの担持
上記(2)により得られた平均粒子径が5.0μm、平均孔径が500nmの多孔性シリカ粒子を用いること以外は、実施例3と同様の方法によりカチオン性ポリマーの多孔性シリカ粒子への表面処理を行い、続いて、カチオン性ポリマーによる表面処理粒子へのTOCNの担持を行うことにより、複合体を調製した。得られた複合体について、平均粒子径、ゼータ電位、BET値を測定した結果を下記表2に示す。
【0088】
6.実施例5の複合体の調製
(1)原料
・コロイダルシリカ:PL-3(扶桑化学工業(株)製、平均粒子径:35nm、濃度:20%、純水中におけるゼータ電位:-29mV)
・PMMA粒子:ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子(積水化成品工業(株)製、平均粒子径:100nm、純水中におけるゼータ電位:-39mV)
【0089】
(2)多孔性シリカ粒子の調製
平均粒子径が100nmのPMMA粒子を用いること以外は、実施例1と同様の方法により多孔性シリカ粒子を調製した。
【0090】
得られた多孔性シリカ粒子についての測定結果は以下の通りである。
・純水中におけるゼータ電位:-29mV
・平均粒子径:1.4μm
・平均孔径:75nm
【0091】
(3)カチオン性ポリマーの多孔性シリカ粒子への表面処理とカチオン性ポリマーによる表面処理粒子へのTOCNの担持
上記(2)により得られた平均粒子径が1.4μm、平均孔径が75nmの多孔性シリカ粒子を用い、実施例3と同様の方法によりカチオン性ポリマーの多孔性シリカ粒子への表面処理を行った後、カチオン性ポリマーによる表面処理粒子へのTOCNの担持を行うことにより、複合体を調製した。得られた複合体について、平均粒子径、ゼータ電位、BET値を測定した結果を下記表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
図2(FT-IRスペクトル)に示すように、比較例1の多孔性シリカ粒子に対し、実施例1~3のカチオン性ポリマー表面処理粒子では1000cm-1付近のピークにC-N結合に基づく膨らみがあり、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の吸着が確認された。また、実施例1~3では、1100cm-1付近のC-Oに基づくピークおよび1700cm-1付近の-COO-Naに基づくピークからTOCNの吸着が確認された。実施例4、5のカチオン性ポリマー表面処理粒子においても、図2と同様のFT-IRスペクトルが確認された。
【0094】
表1に示すように、TOCNを吸着させた実施例1~3の複合体であると、比較例1の多孔性シリカ粒子に対して、ゼータ電位の絶対値が大きかった。図3(TG分析結果)にも示されるように、TOCNの仕込み量が増えるに従って熱分解による減量が大きく、TOCNの吸着量が多くなっていることが確認された。表1に示されるように、TOCNの仕込み量の違いによるゼータ電位の違いはほとんどみられなかったが、TOCNの仕込み量が多くなるほど、複合体の平均粒子径が大きくなっていた。
【0095】
表2に示すように、TOCNを吸着させ、平均粒子径または平均孔径を変えた実施例4、5の複合体であると、比較例1の多孔性シリカ粒子に対して、ゼータ電位の絶対値が大きかった。
【0096】
7.複合体へのリゾチームの吸着実験
(1)原料
・リゾチーム、ニワトリ卵白由来:MPバイオメディカル製(ゼータ電位:7.8mV、大きさ:4.5×3.0×3.0nm、等電点:11)
【0097】
(2)操作
リン酸緩衝液に溶解した0.4g/Lのリゾチーム溶液50mLに、上記4で調製した実施例1~5の複合体10mgを加え、振とう機を用いて120分間撹拌した後、遠心分離(8000rpm,5分間)を行った。遠心分離後の上清について、紫外可視近赤外分光法(281nm)により、吸光度を測定し、別途作成した検量線との比較により、上清中の遊離のタンパク質量(C)を定量し、その結果から、リゾチームの吸着率を算出した。リゾチームの吸着率は、投入したリゾチーム質量(C)に対する吸着したリゾチーム(タンパク質)質量の比率として、次式より算出した。
リゾチームの吸着率A(%)=(1-C/C)×100
【0098】
また、投入したリゾチーム質量(C)から上清中のタンパク質量(C)を差し引くことでリゾチームの吸着量(mg)を求めて、リゾチームの吸着容量を測定した。リゾチームの吸着容量は、投入した吸着剤の単位質量当たりの、リゾチームの吸着量として次式より算出した。
リゾチームの吸着容量(mg/g)=リゾチームの吸着量(mg)/投入した吸着剤の質量(g)
【0099】
また、実施例1~3については、攪拌時間を5分、10分、20分、30分、45分、60分、75分、120分に変更し、その他は上記と同様にして吸着実験を行い、リゾチームの吸着率を測定した。また、比較例1として多孔性シリカ粒子についても、実施例と同様にリゾチームの吸着実験を行った。
【0100】
(3)測定結果
結果は表1、表2および図5に示すとおりであり、TOCNを吸着させた実施例1~5の複合体であると、比較例1の多孔性シリカ粒子に対して、リゾチームの吸着率及び吸着容量が顕著に向上していた。また、TOCNの吸着量が多いほど、リゾチームの吸着率が高く、吸着速度も速くなっており、吸着容量も大きかった。
【0101】
8.リゾチーム溶液濃度と吸着容量との関係
実施例3の複合体について、100mg/L、200mg/L、400mg/L、または800mg/Lのリゾチーム溶液を用いること以外は、上記7と同様の方法により吸着実験を行い、リゾチームの吸着容量を測定した。
【0102】
結果は図6に示す通りであり、リゾチーム溶液の濃度が高いほど、リゾチームの吸着容量が向上しており、実施例3の複合体では、リゾチーム溶液濃度が400mg/L程度で吸着容量がほぼ飽和に達していた。
【0103】
9.吸着と脱離の再使用実験
実施例3の複合体について、上記7と同様の方法(但し、攪拌時間は30分)により、吸着実験を行い、上清中の遊離のタンパク質を定量して、リゾチームの吸着率を算出した。また、遠心分離後の下層の残渣(吸着処理後の残渣)に1MのNaOH水溶液(pH13)を5mL添加し攪拌した後に、遠心分離を行い(10000rpm,5分間)、その上清について、紫外可視近赤外分光法(281nm)により、吸光度を測定し、別途作成した検量線との比較により、上清中の遊離のタンパク質量(D)を定量し、その結果からリゾチームの脱離率を算出した。リゾチームの脱離率は、投入したリゾチーム質量(C)に対し、吸着剤から脱離したリゾチーム(タンパク質)質量(上清中の遊離のタンパク質量(D))の比率として算出した。
リゾチームの脱離率(%)=D/C×100
【0104】
NaOH水溶液で処理し遠心分離した後の下層の残渣(脱離処理後の残渣)に対し、純水を用いた洗浄と遠心分離を行い、複合体を吸着剤として再生した。上記の吸着処理と脱離処理の操作を再び行い、2回目のリゾチームの吸着率と脱離率を算出した。この操作を、10回まで行い、それぞれの回数のリゾチームの吸着実験における上清中の遊離のタンパク質量(C)とリゾチームの脱離処理における上清中の遊離のタンパク質量(D)を定量し、リゾチームの吸着率と脱離率を算出した。
X回操作後のリゾチームの吸着率=(1-C/C)×100
X回操作後のリゾチームの脱離率=D/C×100
【0105】
結果は図7に示す通りであり、リゾチームを容易に吸着および脱離させることができ、リゾチームの吸着剤として回収および再生を行うことができた。また、吸着および脱離を10回繰り返しても、吸着率と脱離率の低下がなく、繰り返し使用性に優れていた。
【0106】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8