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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】核酸分析用フローセル及び核酸分析装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240705BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 35/00 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 21/05 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/34
G01N37/00 101
G01N35/08 A
G01N35/00 F
G01N21/64 Z
G01N21/05
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022570772
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047668
(87)【国際公開番号】W WO2022137281
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】海老根 典子
(72)【発明者】
【氏名】田村 輝美
(72)【発明者】
【氏名】奈良原 正俊
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-12082(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151738(WO,A1)
【文献】特開2012-143205(JP,A)
【文献】特開2010-48756(JP,A)
【文献】特開2010-112748(JP,A)
【文献】特開2006-119128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
G01N 37/00
G01N 21/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸試料が流入される流路を有する流路形成体と、前記流路に流入された前記核酸試料中の核酸を吸着させる領域を有する流路形成体支持部材と、を備える核酸分析用フローセルにおいて、
前記流路形成体支持部材は、
前記核酸を吸着させる核酸吸着領域と、
前記核酸吸着領域と分離し、蛍光粒子が吸着される蛍光粒子吸着領域と、
を有し、
前記蛍光粒子吸着領域には、前記蛍光粒子吸着領域に特異的に吸着するブロッキング物質が吸着されていることを特徴とする核酸分析用フローセル。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸分析用フローセルにおいて、
前記流路形成体支持部材は、前記流路形成体を間に挟んで支持するカバー板と、ベース板とからなり、前記核酸吸着領域及び前記蛍光粒子吸着領域は、前記カバー板の前記流路形成体に対向する面に形成されていることを特徴とする核酸分析用フローセル。
【請求項3】
請求項2に記載の核酸分析用フローセルにおいて、
前記ブロッキング物質は、カルボン酸化合物であることを特徴とする核酸分析用フローセル。
【請求項4】
請求項2に記載の核酸分析用フローセルにおいて、
前記ブロッキング物質は、リン酸化合物であることを特徴とする核酸分析用フローセル。
【請求項5】
請求項2に記載の核酸分析用フローセルにおいて、
前記カバー板は、蛍光を透過する材質からなることを特徴とする核酸分析用フローセル。
【請求項6】
請求項2に記載の核酸分析用フローセルにおいて、
前記蛍光粒子吸着領域には、無機酸化物が堆積されていることを特徴とする核酸分析用フローセル。
【請求項7】
請求項2に記載の核酸分析用フローセルにおいて、
前記ベース板に、前記核酸試料を前記流路に流入する液体流入口と、前記核酸試料を前記流路から流出する液体流出口とが形成され、前記蛍光粒子吸着領域は、前記液体流入口と対向して配置されることを特徴とする核酸分析用フローセル。
【請求項8】
核酸分析用フローセルと、励起光源と、蛍光検出部と、送液ユニットと、動作制御及び蛍光画像分析を行うデータ処理制御部と、を備える核酸分析装置において、
前記核酸分析用フローセルは、核酸試料が流入される流路を有する流路形成体と、前記流路に流入された前記核酸試料中の核酸を吸着させる領域を有する流路形成体支持部材と、を備え、
前記流路形成体支持部材は、
前記核酸を吸着させる核酸吸着領域と、
前記核酸吸着領域と分離し、蛍光粒子が吸着される蛍光粒子吸着領域と、
を有し、前記蛍光粒子吸着領域には、前記蛍光粒子吸着領域に特異的に吸着するブロッキング物質が吸着されていることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸分析装置において、
前記蛍光検出部は対物レンズを有し、前記蛍光検出部は前記対物レンズを介して前記蛍光粒子吸着領域を撮像し、前記データ処理制御部は、撮像された前記蛍光粒子吸着領域の画像を用いて、蛍光粒子の粒子数、粒子間距離、蛍光画像コントラスト、蛍光信号強度を分析し、前記蛍光粒子吸着領域の画像取得時の前記対物レンズの位置により、前記励起光源及び前記蛍光検出部の動作が正常であるか否かを判断することを特徴とする核酸分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸分析用フローセル及び核酸分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAの塩基配列を解析するための装置として、DNAシーケンサが知られている。DNAシーケンサは、DNA断片を変性させて1本鎖にし、これを型として蛍光標識を付けた核酸を1塩基ずつ順次伸長させ、顕微鏡による蛍光観察でDNAの塩基配列を順次解析する装置である。
【0003】
解析を行うには、一部又は全体が透明な材質の板、例えば、ガラス板に流路を設けたフローセルを用意し、その流路内に、変性させて一本鎖とされたDNA断片のクローンのコロニーを複数生成させる。この流路に対して、DNAを構成する4種類のヌクレオチド(A,T,G,C)を識別可能にする蛍光色素が付加されたヌクレオチドを流す。
【0004】
このとき、このヌクレオチドには次の塩基の伸長を阻害する官能基が付加されている。伸長反応により取り込まれた蛍光色素を識別した後、新たな試薬を流して伸長を阻害する官能基を離脱させる。フローセルの流路には、1本鎖化されたDNA断片の数μmサイズのコロニーが複数設けられており、前述の伸長反応と離脱反応のサイクルを繰り返すことで、1本鎖されたDNA断片が2本鎖に復元していく過程を蛍光顕微鏡観察し、DNA塩基配列を逐次読み取る。
【0005】
次世代シーケンサによる遺伝子検査では、検体不良、判定不能症例が一定数存在することが報告されている。なお、遺伝子検査は、検体採取・保管、前処理、シーケンシング、データ解析、結果の審議、判定と、検体採取から判定までのプロセスが多段階である。判定不能症例の原因究明のため、次世代シーケンサ単体での装置動作保証が必要である。
【0006】
特許文献1には、標準遺伝子を用いた遺伝子検査全体に関する品質評価方法が示されている。シーケンサで標準遺伝子を測定し、シーケンサが出力した情報を解析し、解析の結果得られる、例えば、遺伝子配列中の各塩基の正確さ、各遺伝子のクラスターの近接度合を遺伝子検査の指標とする。
【0007】
特許文献2には、シーケンサの構成のうち、励起光照射および蛍光光検出部の検査のために使用されるデバイスにいて記載されている。既知のフォトンエネルギーおよび既知の蛍光を発光する材料を備えており、シーケンサにおいて、励起光照射および蛍光検出部の調整および検査に使用される。
【0008】
また、既知のフォトンエネルギーおよび既知の励起光を発光する材料の形状が、微小蛍光粒子であっても、励起光照射および蛍光検出部の調整および検査が実施できることが記載されている。
【0009】
特許文献3には、サンプル固定層からの核酸試料のはがれを防止するため、核酸試料もしくは担体とサンプル固定層が結合する領域以外の領域を覆うブロッキング層が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2019-080501号公報
【文献】米国特許出願公開第2018/0195961号
【文献】特開2012-132778公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に記載の方法では、標準遺伝子をシーケンサの計測エリアに配置させることが必要であり、計測エリアのうち、検査対象の遺伝子に使用する面積を減少させ、装置スループットを低下させるという課題がある。
【0012】
また、上記特許文献2に記載の方法では、既知のフォトンエネルギーの励起光を発光する材料の形状が蛍光粒子の場合、公知例では、エポキシ、ポリマー、その他の材料で封入されると示されている。このため、蛍光粒子の周囲は、試薬と異なる物質である。検査対象の遺伝子を計測時、検査対象の周囲は試薬である。照射光が蛍光物質の周囲部材にも入射するため、基準蛍光物質の周囲の光学特性(透過率、反射率等)の違いにより、取得した画像に対し、例えば、信号量の補正が必要になり、データ処理が煩雑になる課題がある。
【0013】
また、上記特許文献3に記載の方法は、検査対象のサンプルとその他の物質の2種類の担体を、ある区画1にサンプルのみ、区画2にその他の物質のみ、とそれぞれ分けて配置することができない。このため、検査対象の遺伝子に使用する領域にも既知のフォトンエネルギーの励起光を発光する材料を配置することになり、検査対象の遺伝子に使用する面積を減少させ、装置スループットを低下させるという課題を解決できない。
【0014】
本発明の目的は、スループットを低下させること無く、かつ、データ処理の煩雑化を抑制可能な核酸分析用フローセル及び核酸分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明は、次の様に構成される。
【0016】
核酸試料が流入される流路を有する流路形成体と、前記流路に流入された前記核酸試料中の核酸を吸着させる領域を有する流路形成体支持部材と、を備える核酸分析用フローセルにおいて、前記流路形成体支持部材は、前記核酸を吸着させる核酸吸着領域と、前記核酸吸着領域と分離し、蛍光粒子が吸着される蛍光粒子吸着領域と、を有し、前記蛍光粒子吸着領域には、前記蛍光粒子吸着領域に特異的に吸着するブロッキング物質が吸着されている。
【0017】
核酸分析用フローセルと、励起光源と、蛍光検出部と、送液ユニットと、動作制御及び蛍光画像分析を行うデータ処理制御部と、を備える核酸分析装置において、前記核酸分析用フローセルは、核酸試料が流入される流路を有する流路形成体と、前記流路に流入された前記核酸試料中の核酸を吸着させる領域を有する流路形成体支持部材と、を備え、前記流路形成体支持部材は、前記核酸を吸着させる核酸吸着領域と、前記核酸吸着領域と分離し、蛍光粒子が吸着される蛍光粒子吸着領域と、を有し、前記蛍光粒子吸着領域には、前記蛍光粒子吸着領域に特異的に吸着するブロッキング物質が吸着されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スループットを低下させること無く、かつ、データ処理の煩雑化を抑制可能な核酸分析用フローセル及び核酸分析装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】本発明の実施例1である核酸分析用フローセル説明するための図である。
図1B図1AのA-A線に沿った断面図である。
図1C図1AのB-B線に沿った断面図である。
図2】本発明の実施例1である核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図3】本発明の実施例1である核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図4A】本発明の実施例1核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図4B図4AのC-C線に沿った断面図である。
図5】本発明の実施例1の核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図6A】本発明の実施例1の核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図6B図6AのD-D線に沿った断面図である。
図7】本発明の実施例1の核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図8】本発明の実施例1の核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図9】本発明の実施例1の核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図10】本発明の実施例1の核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図11】本発明の実施例1の核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図12】本発明の実施例1の核酸分析用フローセル製造方法の一例を説明するための図である。
図13】本発明の実施例2の核酸分析装置の構成例を説明するための図である。
図14】本発明の実施例2の核酸分析装置の制御系統の一例を説明する図である。
図15】本発明の実施例2の核酸分析装置の制御フローの一例を説明するための図である。
図16】本発明の実施例2の核酸分析装置の制御フローの一例を説明するための図である。
図17】本発明の実施例2の核酸分析装置の制御フローの一例を説明するための図である。
図18】本発明の実施例2の核酸分析装置の制御フローの一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、シーケンサの励起光照射および蛍光検出部の検査に使用するデバイスとして、装置スループットを低下させず、蛍光粒子の計測結果に対し、周辺物質についての補正が不要で、検査対象の遺伝子と異なる区画に蛍光粒子が配置されることを同時に実現する核酸分析用フローセル、および前述の核酸分析用フローセルを搭載する核酸分析装置を完成させた。
【0021】
本発明は、流路内の蛍光物質を測定するフローセルであって、流路内に試料のみを測定する領域と、測定試料とは異なる蛍光粒子のみが存在する領域を備え、前記蛍光粒子のみの領域には、測定試料が付着しないブロッキング層が積層されていることを特徴としたフローセルを提供する。
【0022】
本発明は、フローセルの流路内で、計測で使用しない位置に蛍光粒子が固定されたフローセルである。既知のフォトンエネルギーで蛍光を発する蛍光粒子を固定する。前述の蛍光粒子の蛍光を撮像した輝度画像より、シーケンサの励起光照射および蛍光検出部の動作確認ができる。核酸の計測でも同様に、蛍光の輝度画像を用いるため、核酸の計測と同条件で動作確認ができる。
【0023】
蛍光粒子のみが存在する領域にカルボン酸化合物、リン酸化合物、またはそれらの塩等からなるブロッキング層を積層する。前述のブロッキング層の存在により、蛍光粒子のみが存在する領域に、検査対象の遺伝子(核酸)は吸着されない。
【0024】
よって、流路内の同一平面上に蛍光粒子のみが存在する領域と核酸のみが存在する領域を形成することができる。また、蛍光粒子を流路内に配置できるため、蛍光粒子を撮像するとき、流路に試薬を充填し、撮像対象の蛍光粒子の周辺物質を試薬とすることができる。
【0025】
つまり、検査対象の核酸を検査するときと周辺物質を同一にできる。よって、蛍光粒子の蛍光の輝度画像を動作確認に用いる場合、周囲物質の差を考慮するための補正を不要にすることができる。
【0026】
また、蛍光粒子のみが存在する領域および計測対象のみが存在する領域はブロッキング層で覆われており、反応液が送液されても、蛍光粒子および計測対象が固定面からはがれにくい。
【0027】
蛍光粒子は、フローセル流路構造のうち、液体流入部および液体流出部付近に配置する。液体流入部および液体流出部付近は、反応液の流量が不均一になる位置であり、計測に用いない領域である。このため、計測対象を配置する領域を減らすことなく、装置動作確認できる。
【0028】
また、本発明は、前述のフローセルを使用して、流路内の蛍光物質の画像を取得する装置であって、前記蛍光粒子の蛍光画像を撮像し、前記画像を用いて、蛍光粒子の粒子数、粒子間距離、蛍光画像コントラスト、蛍光信号強度を測定し、さらに、または、前記の蛍光画像取得時の対物レンズ位置により、機器の動作が正常であるか否かを判断する核酸分析装置を提供する。
【0029】
動作確認用の蛍光粒子と計測対象が同一流路内に配置されたフローセルを使用する。これによって、シーケンス中、ユーザがフローセルを交換するという介在なしに、核酸分析装置が自動で光学系の動作確認をすることができる。
【0030】
また、動作確認用の蛍光粒子と計測対象の高さ方向の位置が同一である。このため、動作確認用の蛍光粒子の蛍光画像撮像のため合焦する対物レンズ高さと計測対象の蛍光画像撮像のため合焦する対物レンズ高さが同じである。このため、合焦する対物レンズ高さを光学系の動作確認の指標に使用できる。
【0031】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【実施例
【0032】
(実施例1)
図1Aは、本発明の実施例1による核酸分析用フローセル11を示す図である。また、図1Bは、図1AのA―A線に沿った断面図であり、図1Cは、図1AのB―B線に沿った断面図である。
【0033】
核酸分析用フローセル11は、カバー板12、スペーサ13、ベース板14を備える。核酸分析用フローセル11は、内部の空洞部に、検査対象の遺伝子15および装置動作確認用蛍光粒子16を配置する。検査対象の遺伝子15および装置動作確認用の蛍光粒子16は、カバー板12、もしくはベース板14の片方、もしくはその両方の空洞側に固定される。
【0034】
図2はカバー板12に核酸が吸着する面である核酸の吸着面(核酸吸着領域)22と蛍光粒子16が吸着する面23が積層された状態を示す。カバー板12は、蛍光を透過し得るガラス、アクリル樹脂などの樹脂製の材質からなる。核酸の吸着面(核酸吸着領域)22および蛍光粒子の吸着面(蛍光粒子吸着領域)23は、スパッタリングもしくは蒸着法により、酸素を含む官能基が特異的に吸着することが知られている無機酸化物を堆積させる。無機酸化物の例には、ジルコニア、アルミナがある。核酸吸着領域22および蛍光粒子の吸着領域23は同じ物質を用いてもよい。または、核酸吸着領域22および蛍光粒子の吸着領域23で異なる物質を用いてもよい。
【0035】
核酸の吸着領域22と蛍光粒子16の吸着領域23とは互いに分離している。
【0036】
また、蛍光粒子16が吸着する領域23は、核酸分析用フローセル11を組み立てたとき、核酸試料や試薬が流路73に流入する液体流入部(後述する液体流入口81)もしくは核酸試料や試薬が流路73から流出する液体流出部(後述する液体排出口82)に対向する位置に配置する。具体的には、試薬の流量が不均一になり、核酸の計測に用いない位置に配置する。
【0037】
図3は、図2のカバー板12が蛍光粒子16の懸濁液31へ浸漬された状態を示す。なお、蛍光粒子16の吸着領域23にのみ懸濁液が浸漬される。蛍光粒子16には、官能基が結合されており、官能基を介して蛍光粒子16が吸着領域23に固定される。官能基として、リン酸、カルボン酸などが挙げられる。
【0038】
図4Aは、図3で示した懸濁液からカバー板12を引き上げた状態を示す。図4Bは、図4AのC-C線に沿った断面図である。蛍光粒子16の吸着領域23に蛍光粒子16が固定されている。
【0039】
図5は、図4Aで示したカバー板12がブロッキング物質52の懸濁液51に浸漬される状態を示す。ブロッキング物質52には、カルボン酸化合物、リン酸化合物、またはそれらの塩等を用いて形成する。これらの化合物は、蛍光粒子16の吸着面23に特異的に吸着する。
【0040】
図6Aは、図5で示したカバー板12について、ブロッキング物質52の懸濁液から引き上げた状態を示す。図6Bは、図6AのD-D線に沿った断面図である。蛍光粒子の吸着領域23において、蛍光粒子16が吸着していない領域は、ブロッキング物質52で覆われる。官能基として、リン酸、カルボン酸などを有する物質が、ブロッキング物質52で覆われた箇所に浸漬したとしても、ブロッキング物質52で覆われた箇所に、リン酸、カルボン酸などの官能基を有する物質は固定されない。
【0041】
図7は、図6Aに示したカバー板12を用いたフローセルの構成を示す。カバー板12の蛍光粒固定面71に蛍光粒子16が固定されている。スペーサ13は中央部がくり抜かれた構造とする。スペーサー13は流路形成体である。くり抜かれた部分は、フローセルに組み立てたとき、液体が通過する領域である流路73になる。例えば、スペーサ13は両面接着テープでよい。ベース板14は、2箇所の貫通孔を有する板である。2つの貫通孔は、フローセル外部からの液体流入口とフローセル外部への液体排出口として使用する。カバー板12に形成された核酸92が吸着する面(核酸吸着領域)22及び蛍光粒子16が吸着する面(蛍光粒子吸着領域)23がスペーサ13(流路形成体)に対向するように構成される。
【0042】
図8は、図7で示した構成品を組み立てた後の状態を示す。液体流入口81から流入した液体は、液体排出口82から排出される。また、液体流入口81と液体排出口82との間に形成された流路73を液体が通過するとき、核酸の吸着面22、および蛍光粒子16の吸着領域23に接液できる構造である。
【0043】
図9は、図8に示した核酸分析用フローセル11に計測対象の核酸92を含む核酸試料液体を送液する状態を示す。計測対象の核酸試料とは、シーケンシング反応をさせ、塩基配列を測定する核酸である。計測対象の核酸には官能基が結合されており、官能基が核酸の吸着領域22に吸着し、官能基を介して計測対象の核酸がカバー板12の核酸の吸着領域22に吸着される。官能基として、リン酸、カルボン酸などが挙げられる。蛍光粒子16の吸着領域23には、ブロッキング物質52が形成されているため、計測対象の核酸は固定されない。
【0044】
図10は、図9の核酸分析用フローセル11に緩衝液101を送液する状態を示す。緩衝液101の送液により、核酸が吸着する領域22に吸着せず、流路内に浮遊する核酸を核酸分析用フローセル11外に排出する。
【0045】
図11は、図10の核酸分析用フローセル11にブロッキング物質52の懸濁液をフローセル11に送液する状態を示す。ブロッキング物質52には、カルボン酸化合物、リン酸化合物、またはそれらの塩を用いて形成する。これらの化合物は、蛍光粒子の吸着領域23に特異的に吸着する。
【0046】
図12は、図11の核酸分析用フローセル11に緩衝液101を送液する状態を示す。緩衝液101の送液により、核酸の吸着領域22に吸着せず、流路内に浮遊しているブロッキング物質52を核酸分析用フローセル11外に排出する。
【0047】
本発明の実施例1における核酸分析用フローセル11を用いたDNAシーケンサの光学系の動作確認において、計測で使用しない位置に配置した蛍光粒子16を用いて、DNAシーケンサの励起光照射および蛍光検出部の動作を確認することができ、装置スループットの低下を抑制することができる。
【0048】
また、蛍光粒子16の周辺物質を計測対象の核酸と同一の試薬とすることができ、異物質だった際に必要な信号量補正が不要で、データ処理を簡便にできる。
【0049】
また、検査対象のサンプルとその他の物質を、ある一つの区画にサンプルのみ、他の区画にその他のみ、とそれぞれ分けて配置することにより、計測で使用しない位置に蛍光粒子16を配置することができる。
【0050】
つまり、本発明の実施例1によれば、DNAシーケンサのスループットを低下させること無く、かつ、データ処理の煩雑化を抑制可能な核酸分析用フローセル11を実現することができる。
【0051】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0052】
図13は、実施例2によるDNAシーケンサ(核酸分析装置)の構成例を示す。xy方向に駆動するステージ131上のヒータ機能を備えた温調ユニット132に接するように核酸分析用フローセル133が配置されている。
【0053】
核酸分析用フローセル133は、実施例1の核酸分析用フローセル11と同等の構成である。
【0054】
核酸分析用フローセル133に対し、励起光光源および蛍光検出ユニット134がz方向に駆動し、核酸の蛍光標識もしくは装置動作確認用蛍光粒子の蛍光画像を取得する。
【0055】
温調ユニット132は、温度センサを備えており、温調ユニット132の温度調整が仕様内であるか検査し、核酸分析用フローセル133に与える熱量を管理する。核酸分析用フローセル133に接続される配管には、試薬・洗浄液槽135から試薬・洗浄液を吸引し、廃液ユニット136へ吐出する送液ユニット137を備える。また、廃液ユニット136には、廃液の重量を測定する重量センサを備え、廃液の重量が仕様以内であることを検査し、核酸分析用フローセル133に仕様を満足する液量が送液されていることを管理する。
【0056】
図14は、DNAシーケンサの制御系の系統図を示す。DNAシーケンサの操作者は、タッチパネル201よりシーケンサを操作し、操作に従い、タッチパネル201にUI画面が表示される。また、UI表示、シーケンサの駆動系の制御、および蛍光画像分析等のデータ処理のためデータ処理PC(動作制御及び蛍光画像分析を行うデータ処理制御部)202を備える。駆動系の制御として、例えば、励起光源138および蛍光検出部139の対物レンズのz移動、励起光源138の励起光ON/OFF、蛍光検出部139による蛍光検出の制御を行う。また、励起光源138及び蛍光検出部139を有する励起光源および蛍光検出ユニット134を備える。
【0057】
また、ステージ131及び温調ユニット132のステージxy移動および核酸分析用フローセル133の温調を行うステージ移動及び温調部140を備える。また、送液ユニット137の液体吸引・吐出を行う送液ユニット制御部141を備える。また、廃液ユニット136の廃液重量測定を行う廃液ユニット制御部142を備える。
【0058】
図15は、DNAシーケンサについて、処理の全体フローを示す。なお、図15において、実線で示したステップは、装置による逐次処理であり、破線で示したステップは、操作者による操作である。
【0059】
アイドル状態(ステップS301)のDNAシーケンサにおいて、操作者により、シーケンシング開始が選択されると(ステップS302)、以下の逐次処理を装置が自動で行う。
【0060】
まず、駆動系のイニシャライズ(原点復帰)処理をする(ステップS303)。次に、核酸分析用フローセル133を用いて、DNAシーケンサの光学系の動作確認処理をする(ステップS304)。光学系の動作確認処理において実施される判定処理の結果、仕様を満足していると、送液性能の確認(ステップS305)、フローセル温調性能の確認(ステップS307)をする。
【0061】
ステップS305において、送液性能は、前述の重量計により、廃液の重量を測定し、送液量が仕様内かを判定する。送液性能確認の結果、仕様外であれば、送液系のエラーをユーザーインターフェースへ出力し(ステップS306)、仕様外の状態でシーケンシング処理をしない。
【0062】
ステップS307において、核酸分析用フローセル133の温度調整性能の確認は、前述の温度センサにより、温調ユニット132のフローセル接触部の温度を測定し、仕様内であるか判定する。フローセル温調確認の結果が仕様外であれば、温調系のエラーを出力し(ステップS308)、仕様外の状態でシーケンシング処理をしない。
【0063】
光学系、送液、およびフローセル温度調整の動作確認の結果、全てが仕様内であれば、シーケンシング処理を行う(ステップS309)。シーケンシング処理後、光学系の動作確認を行う(ステップS310)。シーケンシングの前後で光学系の動作確認処理を行い、シーケンシング中に正常動作していたとみなす。
【0064】
図16は、図15における、光学系の動作確認処理(ステップS304)についてのフローチャートを示す。
【0065】
光学系の動作検査処理がスタートすると、例えば、核酸分析用フローセル133が搭載されているステージ131が移動し、撮像位置へ移動する(ステップS401)。撮像位置は、核酸分析用フローセル133の装置動作確認領域である蛍光粒子16の吸着領域23である。励起光光源および蛍光検出ユニット134の蛍光検出部139は、対物レンズを有し、吸着領域23を対物レンズを介して撮像できるように対物レンズを移動してオートフォーカスする(ステップS402)。焦点が合ったとき(蛍光粒子吸着領域の画像取得時)の対物レンズのz位置をデータ処理部であるデータ処理PC202に格納する(ステップS403)。
【0066】
対物レンズのz位置を判定し(ステップS404)、仕様外であれば、エラーを出力し(ステップS405)、アイドル状態に遷移する(ステップS406)。ステップS404において、仕様内であれば、画像センサで、2次元の輝度情報を撮像する(ステップS407)。2次元の輝度情報を用いて、画像コントラストを計算し、計算値をデータ処理部へ格納する(ステップS408)。
【0067】
画像コンストラスト値の判定を行い(ステップS409)、画像コントラストが、仕様外であれば、エラー出力する(ステップS410)。そして、画像保存(ステップS411)した後、アイドル状態へ遷移する(ステップS412)。
【0068】
ステップS409において、コントラスト値が仕様内であれば、撮像した画像を用いて、粒子数をカウントし、カウント数を格納する(ステップS413)。カウント数の判定を行い(ステップS414)、カウント値が仕様外であれば、エラー出力し(ステップS415)、画像を保存する(ステップS416)。その後、アイドル状態に遷移する(ステップS417)。
【0069】
ステップS414において、粒子数が仕様内であれば、撮像した画像を用いて、粒子間の距離を計算し、計算値を格納する(ステップS418)する。粒子間距離の判定を行い(ステップ419)、計算値が仕様外であれば、エラーを出力し(ステップS420)、画像を保存する(ステップS421)。その後、アイドル状態へ遷移する(ステップS422)。ステップS419において、粒子間距離が仕様内であれば、光学系の動作確認を終了する。
【0070】
図17は、図15における、シーケンシング処理(ステップS309)のフローチャートを示す。シーケンシング処理がスタート(ステップS501)すると、核酸分析用フローセル133への試薬送液及びフローセル温調処理(ステップS503)、並びに撮像処理(ステップS504)を設定サイクル数の回数繰り返し(ステップS501)、塩基配列を特定する。
【0071】
図18は、図17における、撮像処理(ステップS504)のフローチャートを示す。撮像処理がスタートすると、例えば、核酸分析用フローセル133が搭載されているステージ131が移動し、撮像位置へ移動する(ステップS5041)。撮像位置は、核酸分析用フローセル133の核酸計測領域(核酸の吸着領域22)である。装置は、撮像できるようにオートフォーカスする(ステップS5042)。焦点が合ったときの対物レンズのz位置をデータ処理部202に格納する(ステップS5043)。
【0072】
次に、対物レンズのz位置を判定し(ステップS5044)、仕様外であれば、エラーを出力し(ステップS5045)、アイドル状態に遷移する(ステップS5046)。
【0073】
ステップS5044において、仕様内であれば、図16のステップS407と同様に、撮像する(ステップS5047)。2次元の輝度情報を用いて、画像コントラストを計算し、計算値をデータ処理部へ格納する(ステップS5048)。
【0074】
次に、画像コントラスト値の判定を行い(ステップS5049)、画像コントラスト値が仕様外であれば、エラー出力する(ステップS5051)。そして、画像を保存する(ステップS5051)。その後、アイドル状態に遷移する(ステップS5052)。
【0075】
ステップS5049において、画像コントラスト値が仕様内であれば、画像データの解析をし、輝度データから塩基配列への変換処理を行う(ステップS5053)。
【0076】
本発明の実施例2によれば、核酸計測用フローセル133の蛍光粒子32を用いて、励起光照射および蛍光検出部の動作を確認することができ、装置スループットの低下を抑制することができる。
【0077】
また、蛍光粒子16の周辺物質を計測対象の核酸と同一の試薬とすることができ、異物質だった際に必要な信号量補正が不要で、データ処理を簡便にできる。
【0078】
つまり、本発明の実施例2によれば、スループットを低下させること無く、かつ、データ処理の煩雑化を抑制可能な核酸分析装置を実現することができる。
【0079】
なお、カバー板12とベース板14とは、流路形成体(スペーサ13)を間に挟んで支持する流路形成体支持部材と総称することができる。流路形成体支持部材は、カバー板12とベース板14とから形成される。

【0080】
ここで、本発明の他の実施例として、以下の核酸分析装置のシーケンシング処理方法がある。
【0081】
核酸分析用フローセル133への試薬送液及びフローセル温調処理、並びに撮像処理を設定サイクル数の回数繰り返し、塩基配列を特定する核酸分析装置のシーケンシング処理方法において、対物レンズを介して蛍光粒子吸着領域23を撮像するステップと、撮像された蛍光粒子吸着領域23の画像を用いて、蛍光粒子の粒子数、粒子間距離、蛍光画像コントラスト、蛍光信号強度を分析するステップと、蛍光粒子吸着領域23の画像取得時の対物レンズの位置により、励起光源138及び蛍光検出部139の動作が正常であるか否かを判断するステップとを備える。
【符号の説明】
【0082】
11、133・・・核酸分析用フローセル、12・・・カバー板、13・・・スペーサ(流路形成体)、14・・・ベース板、15・・・検査対象の遺伝子、16・・・蛍光粒子、22・・・核酸が吸着する面(核酸吸着領域)、23・・・蛍光粒子が吸着する面(蛍光粒子吸着領域)、31・・・蛍光粒子の懸濁液、51・・・ブロッキング物質の懸濁液、52・・・ブロッキング物質、71・・・蛍光粒子固定面、73・・・流路、81・・・液体流入口、82・・・液体排出口、92・・・核酸、101・・・緩衝液、131・・・ステージ、132・・・温調ユニット、134・・・励起光光源および蛍光検出ユニット、135・・・試薬・洗浄液槽、136・・・廃液ユニット、137・・・送液ユニット、138・・・励起光源、139・・・蛍光検出部、140・・・ステージ移動及び温調部、141・・・送液ユニット制御部、142・・・廃液ユニット制御部、201・・・タッチパネル、202・・・データ処理PC(動作制御及び蛍光画像分析を行うデータ処理制御部)
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18