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  • 特許-非水電解液二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20240705BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240705BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20240705BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20240705BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20240705BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240705BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240705BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240705BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20240705BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240705BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/131
H01M4/133
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/587
H01M10/0525
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M50/414
H01M50/417
H01M50/42
H01M50/423
H01M50/426
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/457
H01M50/489
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023060953
(22)【出願日】2023-04-04
(62)【分割の表示】P 2018206788の分割
【原出願日】2018-11-01
(65)【公開番号】P2023076607
(43)【公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】有瀬 一郎
(72)【発明者】
【氏名】倉金 孝輔
(72)【発明者】
【氏名】村上 力
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107848(JP,A)
【文献】特開2017-226122(JP,A)
【文献】特開2016-162517(JP,A)
【文献】特開2013-120710(JP,A)
【文献】特開2008-086990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラーと樹脂とを含む多孔質層、正極板、および負極板を備え、
前記多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に積層されており、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムは、一軸延伸フィルムであり、
前記正極板および前記負極板を直径15.5mmの円盤状に加工し、濃度1MのLiPFのエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート溶液に浸して測定したときの、正極活物質の界面障壁エネルギーと負極活物質の界面障壁エネルギーとの和が5000J/mol以上であり、
前記多孔質層は、下記式(1)で表される値が、0.10~0.42の範囲にあり、
前記LiPFのエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート溶液における、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネートの体積比は3/5/2であることを特徴とする、非水電解液二次電池。
|1-T/M|・・・(1)
(式(1)中、Tは、TDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す)
【請求項2】
前記正極板は遷移金属を含み、前記負極板は黒鉛を含む、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記多孔質層に含まれる前記樹脂は、ポリオレフィン、(メタ)アクリレート系樹脂、含フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂および水溶性ポリマーからなる群より選択される1種類以上である、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記ポリアミド系樹脂がアラミド樹脂である、請求項3に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池等の非水電解液二次電池は、現在、パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末等の機器に用いる電池として広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン電池を搭載する機器では充電器や電池パックに多種類の電気的保護回路を設け、電池を正常、安全に作動させる対策を施しているが、例えば、これら保護回路の故障や誤作動により、リチウムイオン電池が充電され続けると、発熱を伴う正負極表面での電解液の酸化還元分解や、正極活物質の分解による酸素放出、さらには負極における金属リチウムの析出が起こり、最終的に熱暴走状態に陥ることで、場合によって電池の発火や破裂を引き起こす危険がある。
【0004】
このような危険な熱暴走状態に至る前に電池を安全に停止させるため、現在ほとんどのリチウムイオン電池には、何らかの不具合で電池内部温度が上昇すると約130℃~140℃で多孔質基材に開いている細孔が閉塞するシャットダウン機能を有するポリオレフィンを主成分とする多孔質基材が、セパレータとして使用されている。
【0005】
一方、ポリオレフィンを主成分とする多孔質基材は、耐熱性が低いために、シャットダウン機能が作動する温度以上に曝されることで溶融し、その結果、電池内部で短絡が生じ、電池の発火や爆発を生じる虞があった。そこで、前記多孔質基材の耐熱性を改善する目的で、前記多孔質基材の少なくとも一面に、フィラーと、樹脂とを含む多孔質層を積層させたセパレータの開発が進められている。
【0006】
そのようなセパレータの一例として、特許文献1には、微粒子としてベーマイト(板状粒子)を含有する多孔質層で形成された電池用セパレータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-4438号公報(2006年1月10日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述のような従来技術には、ハイレートサイクル後の充電回復容量に関して改善の余地があった。
本発明の一態様は前記の問題点に鑑みてなされたものであり、ハイレートサイクル後の充電回復容量が良好に維持されている非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を包含している:
<1>無機フィラーと樹脂とを含む多孔質層、正極板、および負極板を備え、
前記正極板および前記負極板を直径15.5mmの円盤状に加工し、濃度1MのLiPFのエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート溶液に浸して測定したときの、正極活物質の界面障壁エネルギーと負極活物質の界面障壁エネルギーとの和が5000J/mol以上であり、
前記多孔質層は、下記式(1)で表される値が、0.10~0.42の範囲にあることを特徴とする、非水電解液二次電池。
|1-T/M|・・・(1)
(式(1)中、Tは、TDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
<2>前記多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に積層されている、<1>に記載の非水電解液二次電池。
<3>前記正極板は遷移金属を含み、前記負極板は黒鉛を含む、<1>または<2>に記載の非水電解液二次電池。
<4>前記多孔質層に含まれる前記樹脂は、ポリオレフィン、(メタ)アクリレート系樹脂、含フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂および水溶性ポリマーからなる群より選択される1種類以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池。
<5>前記ポリアミド系樹脂がアラミド樹脂である、<4>に記載の非水電解液二次電池。
<1a>
無機フィラーと樹脂とを含む多孔質層、正極板、および負極板を備え、
前記多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に積層されており、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムは、一軸延伸フィルムであり、
前記正極板および前記負極板を直径15.5mmの円盤状に加工し、濃度1MのLiPFのエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート溶液に浸して測定したときの、正極活物質の界面障壁エネルギーと負極活物質の界面障壁エネルギーとの和が5000J/mol以上であり、
前記多孔質層は、下記式(1)で表される値が、0.10~0.42の範囲にあり、
前記LiPFのエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート溶液における、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネートの体積比は3/5/2であることを特徴とする、非水電解液二次電池。
|1-T/M|・・・(1)
(式(1)中、Tは、TDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す)
<2a>
前記正極板は遷移金属を含み、前記負極板は黒鉛を含む、<1a>に記載の非水電解液二次電池。
<3a>
前記多孔質層に含まれる前記樹脂は、ポリオレフィン、(メタ)アクリレート系樹脂、含フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂および水溶性ポリマーからなる群より選択される1種類以上である、<1a>または<2a>に記載の非水電解液二次電池。
<4a>
前記ポリアミド系樹脂がアラミド樹脂である、<3a>に記載の非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、ハイレートサイクル後の充電回復容量が良好に維持されている非水電解液二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】無機フィラーを含む多孔質層における、無機フィラーの配向性が大きい場合(左図)および無機フィラーの配向性が小さい場合(右図)の、当該多孔質層の構造を表す模式図である。
図2】スクラッチ試験における、装置およびその操作を示す図である。
図3】スクラッチ試験の結果から作成したグラフにおける、臨界荷重および臨界荷重までの距離を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0013】
〔1.本発明の一態様に係る非水電解液二次電池〕
本発明の一態様に係る非水電解液二次電池は、無機フィラーと樹脂とを含む多孔質層、正極板、および負極板を備え、
前記正極板および前記負極板を直径15.5mmの円盤状に加工し、濃度1MのLiPFのエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート溶液に浸して測定したときの、正極活物質の界面障壁エネルギーと負極活物質の界面障壁エネルギーとの和が5000J/mol以上であり、
前記多孔質層は、下記式(1)で表される値が、0.10~0.42の範囲にある。
|1-T/M|・・・(1)
(式(1)中、Tは、TDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)。
【0014】
界面障壁エネルギーの和が前述の範囲にある正極板および負極板の組み合わせによれば、充放電サイクルの過程において、正極活物質層内および負極活物質層内の活物質表面におけるイオンおよび電荷の移動が均一化される。そのため、活物質全体の反応性が適度かつ均一になり、活物質層内の構造変化や活物質自体の劣化が抑制される。
【0015】
スクラッチ試験の結果が前述の範囲にある多孔質層には、均一かつ緻密な構造を有している。そのため、このような多孔質層中では、リチウムイオンの分布の均一性が維持される。
【0016】
以上の部材を選択することによって、本発明の一態様に係る非水電解液二次電池は、ハイレートサイクル後の充電回復容量が良好に維持されるという、新たな効果を得るに至った。この効果は、(i)多孔質層中のリチウムイオンの分布が均一であること、ならびに(ii)充放電サイクルにおける活物質の膨脹・収縮に対して、活物質層の構成材間の密着性、および活物質層の構成材と集電箔との密着性が良好に維持されること、に起因すると考えられる。すなわち、前述の特徴点を組み合わせた結果、充放電サイクルに伴う電極劣化が抑制される。そのため、ハイレートサイクル後の充電回復容量が良好に維持されると推定される。
【0017】
一例において、ハイレートサイクル後の充電回復容量は、以下の手順で測定される。なお、以下の説明において、「1C」とは、1時間率の放電容量による定格容量を、1時間で放電する電流値を意味する。「CC-CV充電」とは、所定の電圧に到達するまで一定の電流で充電し、その後、前記所定の電圧が維持されるように電流を低下させながら充電する充電方法を意味する。「CC放電」とは、一定の電流を維持しながら、所定の電圧に達するまで放電する放電方法を意味する。
【0018】
1.(初期充放電)組み立ての完了した非水電解液二次電池に、(i)電圧範囲:2.7~4.1V、充電電流値:0.2CでCC-CV充電を行い(終止電流条件:0.02C)、次いで(ii)放電電流値:0.2CでCC放電を行う。この充放電サイクルは、25℃にて実施する。前記のサイクルを1サイクルとして、4サイクルの初期充放電を行う。この充放電サイクルは、25℃にて実施する。
【0019】
2.(ハイレートサイクル試験)(i)電圧範囲:2.7~4.1V、充電電流値:1CでCC-CV充電を行い(終止電流条件:0.02C)、次いで(ii)放電電流値:10CでCC放電を行う。前記のサイクルを1サイクルとして、100サイクルの充放電を行う。この充放電サイクルは、55℃にて実施する。
【0020】
3.(充電回復容量試験)(i)電圧範囲:2.7~4.1V、充電電流値:1CでCC-CV充電を行い(終止電流条件:0.02C)、次いで(ii)放電電流値:0.2CでCC放電を行う。前記のサイクルを1サイクルとして、3サイクルの充放電を行う。この充放電サイクルは、55℃にて実施する。本工程における3サイクル目の充電容量を、「ハイレートサイクル後の充電回復容量」とする。
【0021】
ここで、電回復容量試験とは、充放電サイクル後の非水電解液二次電池を低いレート(0.2C)で放電させ、当該非水電解液二次電池の容量を完全に放電させた後に、充電容量をより正確に確認する試験方法である。この試験により、非水電解液二次電池自体の充電性能の劣化程度、特に電極の充電性能の劣化程度が確認できる。
【0022】
本発明の一態様に係る非水電解液二次電池のハイレートサイクル後の充電回復容量は、14mAh以上が好ましく、14.5mAh以上がより好ましい。
【0023】
〔2.正極板および負極板〕
[正極板]
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池における正極板は、前記正極板および後述する負極板を直径15.5mmの円盤状に加工し、濃度1MのLiPFのエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート溶液に浸して測定したときの、界面障壁エネルギーの和が5000J/mol以上であれば特に限定されない。例えば、正極活物質層として、正極活物質、導電剤および結着剤を含む正極合剤を正極集電体上に担持したシート状の正極板が、このような正極板に含まれる。なお、正極板は、正極集電体の両面上に正極合剤を担持してもよく、正極集電体の片面上に正極合剤を担持してもよい。
【0024】
前記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、遷移金属酸化物が好ましく、当該遷移金属酸化物として、例えば、V、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。前記リチウム複合酸化物のうち、平均放電電位が高いことから、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等のα-NaFeO型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネル等のスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物がより好ましい。当該リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでいてもよく、複合ニッケル酸リチウムがさらに好ましい。
【0025】
さらに、Ti、Zr、Ce、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、前記少なくとも1種の金属元素の割合が0.1~20モル%となるように当該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル特性に優れるのでさらにより好ましい。中でもAlまたはMnを含み、かつ、Ni比率が85%以上、さらに好ましくは90%以上である活物質が、当該活物質を含む正極板を備える非水電解液二次電池の高容量での使用におけるサイクル特性に優れることから、特に好ましい。
【0026】
前記導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。前記導電剤は、1種類のみを用いてもよく、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いる等、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
前記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、およびポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。尚、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0028】
正極合剤を得る方法としては、例えば、正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧して正極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にして正極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0029】
前記正極集電体としては、例えば、Al、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられ、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0030】
シート状の正極板の製造方法、即ち、正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、例えば、正極合剤となる正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にして正極合剤を得た後、当該正極合剤を正極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の正極合剤を加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0031】
正極活物質の粒径は、例えば、体積当たりの平均粒径(D50)によって表される。正極活物質の体積当たりの平均粒径は、通常、0.1~30μm程度の値となる。正極活物質の体積当たりの平均粒径(D50)は、レーザー回折式粒度分布計(島津製作所製、商品名:SALD2200)を用いて測定することができる。
【0032】
正極活物質のアスペクト比(長軸径/短軸径)は、通常、1~100程度の値となる。正極活物質のアスペクト比は、無機フィラーを平面上に配置した状態で、配置面の垂直上方から観察したSEM像において、厚み方向に重なりあわない粒子100個の、短軸の長さ(短軸径)と長軸の長さ(長軸径)との比の平均値として表す方法を用いて測定することができる。
【0033】
正極活物質層の空隙率は、通常、10~80%程度の値となる。正極活物質層の空隙率(ε)は、正極活物質層の密度ρ(g/m)、正極活物質層を構成する物質(例えば正極活物質、導電剤、結着剤など)の各々の質量組成(重量%)b、b、・・・b、および当該物質の各々の真密度(g/m)をc、c、・・・cから、下記式に基づいて算出することができる。ここで、前記物質の真密度には、文献値を用いてもよいし、ピクノメーター法を用いて測定された値を用いてもよい。
ε=1-{ρ×(b/100)/c+ρ×(b/100)/c+・・・ρ×(b/100)/c}×100。
【0034】
正極活物質層に占める正極活物質の割合は、通常、70重量%以上である。
【0035】
集電体上に正極活物質を含む正極合剤を塗工する塗工ライン速度は10~200m/分の範囲であり、塗工時の塗工ライン速度は、正極活物質を塗工する装置を適宜設定することにより、調節できる。
【0036】
[負極板]
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池における負極板は、前記正極板および前記負極板を直径15.5mmの円盤状に加工し、濃度1MのLiPFのエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート溶液に浸して測定したときの、界面障壁エネルギーの和が5000J/mol以上であれば特に限定されない。例えば、負極活物質層として、負極活物質、導電剤および結着剤を含む負極合剤を負極集電体上に担持したシート状の負極板が、このような負極板に含まれる。なお、負極板は、負極集電体の両面上に負極合剤を担持してもよく、負極集電体の片面上に負極合剤を担持してもよい。
【0037】
シート状の負極板には、好ましくは前記導電剤、および、前記結着剤が含まれる。
【0038】
前記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料;正極板よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物;アルカリ金属と合金化するAl、Pb、Sn、Bi、Siなどの金属、アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の金属間化合物(AlSb、MgSi、NiSi)、リチウム窒素化合物(Li3-xN(M:遷移金属))等が挙げられる。前記負極活物質のうち、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いために正極板と組み合わせた場合に大きなエネルギー密度が得られることから、黒鉛を含むものが好ましく、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料がより好ましい。また、黒鉛とシリコンの混合物であってもよく、その黒鉛を構成するCに対するSiの比率が5%以上である負極活物質が好ましく、10%以上である負極活物質がより好ましい。
【0039】
負極合剤を得る方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧して負極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0040】
前記負極集電体としては、例えば、Cu、Ni、ステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0041】
シート状の負極板の製造方法、即ち、負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、例えば、負極合剤となる負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得た後、当該負極合剤を負極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の負極合剤を加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。前記ペーストには、好ましくは前記導電剤、および、前記結着剤が含まれる。
【0042】
負極活物質の体積当たりの平均粒径(D50)は、通常、0.1~30μm程度の値となる。
【0043】
負極活物質のアスペクト比(長軸径/短軸径)は、通常、1~10程度の値となる。
【0044】
負極活物質層の空隙率は、通常、10~60%程度の値となる。
【0045】
負極活物質層に占める活物質の割合は、通常、70重量%以上であり、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0046】
集電体上に負極活物質を含む負極合剤を塗工する塗工ライン速度は10~200m/分の範囲であり、塗工時の塗工ライン速度は、負極活物質を塗工する装置を適宜設定することにより、調節できる。
【0047】
前記負極活物質の粒径、アスペクト比、空隙率、負極活物質層に占める割合、および塗工ロール速度の決定方法は、[正極板]で説明した方法と同じである。
【0048】
[界面障壁エネルギーの和]
本発明の一実施形態における正極板および負極板を直径15.5mmの円盤状に加工し、濃度1MのLiPFのエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート溶液に浸して測定したときの、界面障壁エネルギーの和は5000J/mol以上である。前記界面障壁エネルギーの和は、5100J/mol以上であることが好ましく、5200J/mol以上であることがより好ましい。
【0049】
界面障壁エネルギーの和を5000J/mol以上とすることにより、活物質層内の活物質表面における、イオンおよび電荷の移動は均一化され、結果として活物質層全体の反応性が適度であり、かつ均一になる。これにより、活物質層内の構造変化や活物質自体の劣化が抑制されると考えられる。
【0050】
逆に、界面障壁エネルギーの和が5000J/molより小さい場合は、活物質層内の反応性が不均一になることにより、活物質層内の局所的な構造変化や、部分的な活物質の劣化(ガスの発生等)を生じると考えられる。
【0051】
以上の理由により、界面障壁エネルギーの和が5000J/mol以上である正極板および負極板の組み合わせを用いることによって、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、ハイレートサイクル後の充電回復容量が良好に維持される、という効果を奏するようになる。
【0052】
界面障壁エネルギーの和の上限は、特に限定されない。ただし、過剰に高い界面障壁エネルギーの和は、活物質表面でのイオンおよび電荷の移動を阻害し、結果として充放電に伴う活物質の酸化還元反応が生じにくくなるので、好ましくない。一例として、界面障壁エネルギーの和の上限は、15,000J/mol程度である。
【0053】
前記に説明した、界面障壁エネルギーの和は、以下の手順に従って正極活物質の界面障壁エネルギーと負極活物質の界面障壁エネルギーの和として測定・算出される。
(1)正極板および負極板を、直径15mmの円盤状に切断する。併せて、ポリオレフィン多孔質フィルムを直径17mmの円盤状に切断し、これをセパレータとする。
(2)エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジエチルカーボネート(DEC)が、体積比で3/5/2である混合溶媒を調製する。前記混合溶媒に、LiPFを1mol/Lとなるように溶解させて、電解液を調製する。
(3)CR2032型の電槽に、底側から順に、負極板、セパレータ、正極板、SUS板(直径:15.5mm、厚み:0.5mm)、ウェーブワッシャーを積層する。その後、電解液を注液し、蓋を閉めて、コイン電池を作製する。
(4)作製したコイン電池を恒温槽内に設置する。交流インピーダンス装置(FRA 1255B、ソーラトロン社製)およびセルテストシステム(1470E)を用いて、周波数:1MHz~0.1Hz、電圧振幅:10mVの条件で、ナイキストプロットを測定する。なお、恒温槽の温度は、50℃、25℃、5℃または-10℃とする。
(5)得られたナイキストプロットの半円弧(または扁平円の弧)の直径から、各温度における、正極板および負極板の電極活物質界面上の抵抗r+rを求める。ここで、抵抗r+rは、正極および負極のイオン移動に伴う抵抗と、正極および負極の電荷移動に伴う抵抗の和である。この半円弧は完全に2つの円弧に分離されている場合もあるし、二つの円が重なりあった扁平円の場合もある。下記の式(2)および式(3)に従って、正極活物質の界面障壁エネルギーと負極活物質との界面障壁エネルギーの和を算出する。
【0054】
k=1/(r+r2)=Aexp(-Ea/RT) ・・・式(2)
ln(k)=ln{1/(r+r)}=ln(A)-Ea/RT ・・・式(3)Ea:正極活物質と負極活物質との界面障壁エネルギーの和(J/mol)
k:移動定数
+r:抵抗(Ω)
A:頻度因子
R:気体定数=8.314J/mol/K
T:恒温槽の温度(K)。
【0055】
ここで、式(3)は、式(2)の両辺の自然対数を取った式である。式(3)において、ln{1/(r+r)}は、1/Tの一次関数となっている。したがって、式(3)に、それぞれの温度における抵抗の値を代入した点をプロットし、当該プロットから最小二乗法によって得られる近似直線の傾きから、Ea/Rが求められる。この値に、気体定数Rを代入すれば、界面障壁エネルギーの和Eaを算出できる。
【0056】
なお、頻度因子Aは、温度変化によって変動しない固有の値である。この値は、電解液バルクのリチウムイオンのモル濃度などに依存して決定される。式(3)に即すると、頻度因子Aは、(1/T)=0の場合のln(1/r)の値であり、前記近似直線に基づいて算出することができる。
【0057】
界面障壁エネルギーの和は、例えば、正極活物質と負極活物質との粒径比によって制御することができる。正極活物質と負極活物質との粒径比、(負極活物質の粒径/正極活物質の粒径)の値は、好ましくは6.0以下である。(負極活物質の粒径/正極活物質の粒径)の値が大きくなり過ぎると、界面障壁エネルギーの和が小さくなり過ぎる傾向にある。
【0058】
〔3.多孔質層〕
本発明の一実施形態において、多孔質層は、非水電解液二次電池を構成する部材として、 本発明の一実施形態において、多孔質層は、非水電解液二次電池を構成する部材として、ポリオレフィン多孔質フィルムと、正極板および負極板の少なくともいずれか一方との間に配置され得る。前記多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に形成され得る。或いは、前記多孔質層は、正極板および負極板の少なくともいずれか一方の活物質層上に形成され得る。或いは、前記多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムと、正極板および負極板の少なくともいずれか一方との間に、これらと接するように配置されてもよい。ポリオレフィン多孔質フィルムと正極板および負極板の少なくともいずれか一方との間に配置される多孔質層は1層でもよく2層以上であってもよい。多孔質層は、樹脂を含む絶縁性の多孔質層であることが好ましい。
【0059】
ポリオレフィン多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層される場合には、当該多孔質層は、好ましくは、ポリオレフィン多孔質フィルムにおける正極板と対向する面に積層される。より好ましくは、当該多孔質層は、正極板と接する面に積層される。
【0060】
本発明の一実施形態における多孔質層は、無機フィラーと、樹脂とを含む。多孔質層は、内部に多数の細孔を有し、これら細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体或いは液体が通過可能となった層である。また、本発明の一実施形態における多孔質層が後述する非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する部材として使用される場合、前記多孔質層は、当該積層セパレータの最外層として、電極と接する層となり得る。
【0061】
本発明の一実施形態における多孔質層に用いられる樹脂は、電池の電解液に不溶であり、また、その電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。
【0062】
多孔質層に用いられる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン;(メタ)アクリレート系樹脂;含フッ素樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;ゴム類;融点またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂;水溶性ポリマー;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。
【0063】
上述の樹脂のうち、ポリオレフィン、(メタ)アクリレート系樹脂、含フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂および水溶性ポリマーが好ましい。
【0064】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、及びエチレン-プロピレン共重合体等が好ましい。
【0065】
含フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フッ化ビニル共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等、並びに、前記含フッ素樹脂の中でもガラス転移温度が23℃以下である含フッ素ゴムを挙げることができる。
【0066】
ポリアミド系樹脂としては、芳香族ポリアミドおよび全芳香族ポリアミドなどのアラミド樹脂が好ましい。
【0067】
アラミド樹脂としては、具体的には、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(メタベンズアミド)、ポリ(4,4’-ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2-クロロパラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6-ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、メタフェニレンテレフタルアミド/2,6-ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等が挙げられる。このうち、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)がより好ましい。
【0068】
ポリエステル系樹脂としては、ポリアリレートなどの芳香族ポリエステルおよび液晶ポリエステルが好ましい。
【0069】
ゴム類としては、スチレン-ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニル等を挙げることができる。
【0070】
融点又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂としては、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド等を挙げることができる。
【0071】
水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等を挙げることができる。
【0072】
なお、多孔質層に用いられる樹脂としては、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
前記樹脂の中でも、多孔質層が正極板に対向して配置される場合には、電池作動時の酸化劣化による、非水電解液二次電池のレート特性や抵抗特性等の各種性能を維持し易いため、含フッ素樹脂が好ましい。
【0074】
本発明の一実施形態における多孔質層は、無機フィラーを含む。その含有量の下限値は、前記フィラーと、本発明の一実施形態における多孔質層を構成する樹脂との総重量に対して、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。一方、本発明の一実施形態における多孔質層における、無機フィラーの含有量の上限値は、99重量%以下であることが好ましく、98重量%以下であることがより好ましい。前記フィラーの含有量が、50重量%以上であることが耐熱性の観点から好ましく、前記フィラーの含有量が、99重量%以下であることがフィラー間の密着性の観点から好ましい。無機フィラーを含有することで、前記多孔質層を含むセパレータの滑り性や耐熱性を向上し得る。無機フィラーとしては、非水電解液に安定であり、かつ、電気化学的に安定なフィラーであれば特に限定されない。電池の安全性を確保する観点からは、耐熱温度が150℃以上のフィラーが好ましい。
【0075】
前記無機フィラーは、特に限定されないが、通常、絶縁性フィラーである。前記無機フィラーは、好ましくは、アルミニウム元素、亜鉛元素、カルシウム元素、ジルコニウム元素、ケイ素元素、マグネシウム元素、バリウム元素、およびホウ素元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む無機物であり、好ましくはアルミニウム元素を含む無機物である。また、無機フィラーは、好ましくは前記元素の酸化物を含む。
【0076】
具体的には、無機フィラーとして、チタン酸化物、アルミナ(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ジルコニア(ZrO)、シリカ、マグネシア、酸化バリウム、酸化ホウ素、マイカ、ワラストナイト、アタパルジャイト、ベーマイト(アルミナ1水和物)などを挙げることができる。前記無機フィラーとしては、1種類のフィラーを単独で使用してもよく、2種類以上のフィラーを組み合わせて使用してもよい。
【0077】
本発明の一実施形態における多孔質層における無機フィラーは、アルミナおよび板状フィラーを含むことが好ましい。前記板状フィラーとしては、上で挙げた元素の酸化物のうち、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、マイカおよびベーマイトからなる群より選ばれる1以上のフィラーを挙げることができる。
【0078】
前記無機フィラーの体積平均粒子径は、良好な接着性と滑り性の確保、および積層体の成形性の観点から、0.01μm~10μmの範囲であることが好ましい。その下限値としては0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。その上限値としては5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0079】
前記無機フィラーの形状は、任意であり、特に限定されない。前記無機フィラーの形状は、粒子状であり得、例えば、球形状;楕円形状;板状;棒状;不定形状;繊維状;ピーナッツ状および/またはテトラポット状のように球状や柱状の単一粒子が熱融着した形状;の何れでもよい。電池の短絡防止の観点から、前記無機フィラーは、板状の粒子、および/または、凝集していない一次粒子であることが好ましく、イオン透過の観点からは、多孔質中の粒子が最密充填され難く、粒子間に空隙が形成され易い、瘤、へこみ、くびれ、隆起もしくは膨らみを有する、樹枝状、珊瑚状、もしくは房(ふさ)状などの不定形状;繊維状;ピーナッツ状および/またはテトラポット状のように単一粒子が熱融着した形状;が好ましく、特に、ピーナッツ状および/またはテトラポット状のように球状や柱状の単一粒子が熱融着した形状が、さらに好ましい。
【0080】
フィラーは、多孔質層の表面に微細な凹凸を形成することで滑り性を向上させ得るものであるが、フィラーが板状の粒子および/または凝集していない一次粒子である場合には、フィラーによって多孔質層の表面に形成される凹凸がより微細になり、多孔質層と電極との接着性がより良好となる。
【0081】
本発明の一実施形態における多孔質層に含まれる、無機フィラーを構成する酸化物の酸素原子質量百分率は、10%~50%であることが好ましく、20%~50%であることがより好ましい。本発明において、「酸素原子質量百分率」とは、酸化物全体の総質量に対する、当該酸化物中の酸素原子の質量の比を百分率で表したものを意味する。例えば、酸化亜鉛の場合、亜鉛の原子量:65.4、酸素の原子量:16.0より酸化亜鉛(ZnO)の分子量が65.4+16.0=81.4であることから、酸化亜鉛中の酸素原子質量百分率は16.0/81.4×100=20(%)である。
【0082】
前記酸化物の酸素原子質量百分率が上述の範囲であることは、後述する多孔質層の製造方法にて使用する塗工液中の溶媒または分散媒と、前記無機フィラーとの親和性を好適に保ち、前記無機フィラー間を適切な距離に保つことにより、塗工液の分散性を良好にすることができ、その結果、「多孔質層表面のTD/MD比」を適切な規定範囲に制御することができる面において好ましい。
【0083】
本発明の一実施形態における多孔質層に含まれる、無機フィラー自体のアスペクト比は、無機フィラーを平面上に配置した状態で、配置面の垂直上方から観察したSEM像において、厚み方向に重なりあわない粒子100個の、短軸の長さ(短軸径)と長軸の長さ(長軸径)との比の平均値として表される。前記無機フィラー自体のアスペクト比は、1~10であることが好ましく、1.1~8であることがより好ましく、1.2~5であることがさらに好ましい。無機フィラー自体のアスペクト比が上述の範囲であることによって、後述する方法にて本発明の一実施形態における多孔質層を形成した際に、得られる多孔質層において、当該フィラーの配向性や、多孔質層表面におけるフィラーの分布の均一性を好ましい範囲に制御することができる。
【0084】
本発明の一実施形態における多孔質層は、上述の無機フィラーおよび樹脂以外のその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、例えば、界面活性剤やワックス、バインダー樹脂などを挙げることができる。また、前記その他の成分の含有量は、多孔質層全体の重量に対して、0重量%~50重量%であることが好ましい。
【0085】
本発明の一実施形態における多孔質層の平均膜厚は、電極との接着性および高エネルギー密度を確保する観点から、多孔質層一層当たり、0.5μm~10μmの範囲であることが好ましく、1μm~5μmの範囲であることがより好ましい。
【0086】
多孔質層の単位面積当たりの目付は、多孔質層の強度、膜厚、重量およびハンドリング性を考慮して適宜決定することができる。多孔質層の単位面積当たりの目付は、多孔質層一層当たり、0.5~20g/mであることが好ましく、0.5~10g/mであることがより好ましい。
【0087】
多孔質層の単位面積当たりの目付をこれらの数値範囲とすることにより、非水電解液二次電池の重量エネルギー密度および体積エネルギー密度を高くすることができる。多孔質層の目付が前記範囲を超える場合には、非水電解液二次電池が重くなる傾向がある。
【0088】
多孔質層の空隙率は、充分なイオン透過性を得ることができるように、20~90体積%であることが好ましく、30~80体積%であることがより好ましい。また、多孔質層が有する細孔の孔径は、1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。細孔の孔径をこれらのサイズとすることにより、非水電解液二次電池は、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0089】
[多孔質層表面のTD/MD比]
本発明の一実施形態における多孔質層は、以下の式(1)で表される値が、0.10~0.42の範囲であることが好ましく、0.10~0.30の範囲であることがより好ましい。
|1-T/M|・・・(1)
(式(1)中、Tは、TDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す)。
【0090】
上述のスクラッチ試験により測定された、TDにおける臨界荷重までの距離(T)と、MDにおける臨界荷重までの距離(M)との割合(以下、単に「式(1)」とも称する)は、多孔質層における無機フィラーの配向性を表す指標である。ここで、前記配向性が高い場合(異方性)と、前記配向性が低い場合(等方性)である場合の、多孔質層における無機フィラーの様態の模式図を図1に示す。図1の左図が、無機フィラーを含む多孔質層における、無機フィラーの配向性が大きく異方性を示す場合の当該多孔質層の構造を表す模式図であり、図1の右図が、無機フィラーの配向性が小さく等方性を示す場合の当該多孔質層の構造を表す模式図である。
【0091】
上記式(1)にて表される値は、スクラッチ試験における臨界荷重までの距離の異方性を示す値であり、その値がゼロに近いほど、上記臨界荷重までの距離が等方性であることを示す。
【0092】
本発明における「スクラッチ試験」とは、図2に示すように、圧子に一定の荷重をかけ、測定対象の多孔膜の表層を厚み方向に圧縮変形(=圧子を押し込んだ状態)させた状態で水平方向に多孔膜を移動させたときの、ある圧子移動距離における発生応力を測定する試験であり、具体的には、以下に示す方法にて実施される:
(1)測定対象の多孔質層を積層した積層多孔質フィルムを20mm×60mmに裁断した後、当該裁断した積層多孔質フィルムを、30mm×70mmのガラス製プレパラート上に水性糊にて貼合し、25℃の温度下にて一昼夜乾燥させることにより、試験用サンプルを作製する。なお、上記貼合のときは、積層多孔質フィルムとガラス製プレパラートとの間に気泡が入らないようにする。
(2)工程(1)にて作製された試験用サンプルを、マイクロスクラッチ試験装置に設置し、当該試験装置におけるダイヤモンド圧子を、当該試験用サンプル上に、0.1Nの大きさの垂直荷重をかけたままの状態にて、当該試験装置におけるテーブルを、積層多孔質フィルムのTDに向けて、5mm/minの速さにて、10mmの距離を移動させ、その間の、上記ダイヤモンド圧子と当該試験用サンプルとの間に発生する応力(摩擦力)を測定する。
(3)工程(2)にて測定された応力の変位と、上記テーブルの移動距離との関係を示す曲線グラフを作成し、当該曲線グラフから、図3に示すように、TDにおける、臨界荷重値および、臨界荷重に至るまでの距離を算出する。
(4)上記テーブルの移動方向をMDに変更して、上述の工程(1)~(3)を繰り返して行い、MDにおける、臨界荷重値および、臨界荷重に至るまでの距離を算出する。
【0093】
なお、上記スクラッチ試験における、上述した条件以外の測定条件等に関しては、JIS R 3255に記載の方法と同様の条件にて実施される。
【0094】
上記スクラッチ試験にて算出される臨界荷重値までの距離は、(a)積層多孔質フィルム表層の塑性変形容易性の指標、(b)測定面と反対の面へのせん断応力の伝達性の指標となる。上記臨界荷重値までの距離が長いことは、測定対象の積層多孔質フィルムにおいて、(a’)表層部が塑性変形し難く、(b’)測定面と反対の面へのせん断応力の伝達性が低い(応力が伝わり難い)ことを示す。
【0095】
なお、TD方向、MD方向における臨界荷重までの距離は、以下に示す積層多孔質フィルムの構造因子に強く影響を受けると考えられる。
(i)積層多孔質フィルムにおけるMDへの樹脂の配向状態
(ii)積層多孔質フィルムにおけるTDへの樹脂の配向状態
(iii)積層多孔質フィルムの厚み方向におけるMD方向、TD方向に配向した樹脂の接触状態。
【0096】
上述の式(1)が0.42より大きい場合には、多孔質層内部構造の異方性が過度に高い構造となり、多孔質層内部のイオン透過流路長が長くなり、その結果、前記多孔質層を組み込んだ非水電解液二次電池において、多孔質層のイオン透過抵抗が増加し、当該非水電解液二次電池におけるセパレータの抵抗が増加する。一方、上述の式(1)が0.10未満である場合には、多孔質層の構造が、過度に高い等方性を有する構造となっていると考えられる。多孔質層の構造が過度に高い等方性を有するときには、当該多孔質層を組み込んだ非水電解液二次電池において、電池作動時の多孔質層の電解液受入能力が過度に高くなる傾向がある。その結果、多孔質層と接し、当該多孔質層へ電解液を供給するセパレータ基材および電極の電解液供給能力が非水電解液二次電池全体の電解液の流れを律速することになり、結果として、当該非水電解液二次電池におけるセパレータの抵抗が増加する。
【0097】
[中心粒径(D50)]
本発明の一実施形態における多孔質層は、無機フィラーの中心粒径(D50)が0.1μm~11μmの範囲であることが好ましく、0.1μm~10μmの範囲であることがより好ましく、0.1μm~5μmの範囲であることがさらに好ましく、0.5μmであることが特に好ましい。
【0098】
無機フィラーの中心粒径を測定する方法は、特に限定されないが、例えば、実施例に記載の方法で測定される。
【0099】
無機フィラーの中心粒径が11μmより大きい場合には、耐熱層の膜厚が増加してムラが発生し、多孔質層のイオン透過にもムラが生じることとなり、その結果、前記多孔質層を組み込んだ非水電解液二次電池におけるセパレータの抵抗が増加する傾向がある。一方、無機フィラーの中心粒径が0.1μm未満である場合には、塗料粘度が高くなり、ダイラタンシー性を発現し、塗工性能不良となり、多孔質層への塗工ムラが発生することがある。また、無機フィラーの中心粒径が小さいため、無機フィラーを結着のために要するバインダー量が増加する。その結果、前記多孔質層を組み込んだ非水電解液二次電池において、多孔質層のイオン透過抵抗が増加し、当該非水電解液二次電池におけるセパレータの抵抗が増加する。
【0100】
[BET比表面積]
本発明の一実施形態における多孔質層は、無機フィラーの単位面積当たりのBET比表面積が100m/g以下であることが好ましく、50m/g以下であることがより好ましく、10m/g以下であってもよい。
【0101】
無機フィラーの単位面積当たりのBET比表面積を測定する方法は、特に限定されないが、例えば、以下の(1)~(3)に示す工程からなる方法を挙げることができる。
(1)80℃で8時間の真空乾燥により、フィラーの前処理を行う工程。
(2)定容法により、窒素による吸着脱離等温線を測定する工程。
(3)BET法により、フィラーの比表面積を算出する工程。
【0102】
なお、フィラーの比表面積の測定において、前処理を行う装置および測定装置は、特に限定されないが、例えば、前処理を行う装置としてBELPREP-vacII(マイクロトラック・ベル株式会社製)を、測定装置としてBELSORP-mini(マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用することができる。
【0103】
また、フィラーの比表面積を測定する際の測定条件は、特に限定されることなく、当業者により適宜設定され得る。
【0104】
無機フィラーの単位面積当たりのBET比表面積が100m/gより大きい場合には、BET比表面積の増大によりフィラー給油性が増大し、それに伴い多孔質層の塗料性状が低下し、塗工性不良となり、その結果、前記多孔質層を組み込んだ非水電解液二次電池におけるセパレータの抵抗が高くなる傾向がある。
【0105】
[多孔質層の製造方法]
本発明の一実施形態における多孔質層の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、基材上に、以下に示す工程(1)~(3)の何れかの1つの工程を用いて、前記無機フィラーと、前記樹脂とを含む多孔質層を形成する方法を挙げることができる。以下に示す工程(2)および工程(3)の場合においては、前記樹脂を析出させた後にさらに乾燥させ、溶媒を除去することによって、製造され得る。工程(1)~(3)における塗工液は、前記無機フィラーが分散しており、かつ、前記樹脂が溶解している状態であってもよい。なお、前記溶媒は、樹脂を溶解させる溶媒であるとともに、樹脂または無機フィラーを分散させる分散媒であるとも言える。
【0106】
(1)前記無機フィラーおよび前記樹脂を含む塗工液を、基材上に塗工し、前記塗工液中の溶媒を乾燥除去することによって多孔質層を形成させる工程。
【0107】
(2)前記無機フィラーおよび前記樹脂を含む塗工液を、前記基材の表面に塗工した後、その基材を前記樹脂に対して貧溶媒である、析出溶媒に浸漬することによって、前記樹脂を析出させ、多孔質層を形成する工程。
【0108】
(3)前記無機フィラーおよび前記樹脂を含む塗工液を、前記基材の表面に塗工した後、低沸点有機酸を用いて、前記塗工液の液性を酸性にすることによって、前記樹脂を析出させ、多孔質層を形成する工程。
【0109】
前記基材には、後述するポリオレフィン多孔質フィルムの他に、その他のフィルム、正極板および負極板などを用いることができる。
【0110】
前記溶媒は基材に悪影響を及ぼさず、前記樹脂を均一かつ安定に溶解し、前記無機フィラーを均一かつ安定に分散させる溶媒であることが好ましい。前記溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトンおよび水等が挙げられる。
【0111】
前記析出溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコールまたはt-ブチルアルコールを用いることが好ましい。
【0112】
前記工程(3)において、低沸点有機酸としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、酢酸等を使用することができる。
【0113】
また、本発明の一実施形態における多孔質層の配向性、すなわち、「多孔質層表面のTD/MD比」を制御する方法として、以下に示すように、多孔質層の製造に使用する、前記無機フィラーおよび前記樹脂を含む塗工液の固形分濃度、並びに、前記塗工液を基材上に塗工する際の塗工せん断速度を調節することを挙げることができる。
【0114】
前記塗工液の好適な固形分濃度は、フィラーの種類などによって変化し得るが、一般には、20重量%より大きく40重量%以下であることが好ましい。前記固形分濃度が上述の範囲であることは、前記塗工液の粘度を適切に保ち、その結果、「多孔質層表面のTD/MD比」を上述の好適な範囲に制御することができるため好ましい。
【0115】
前記塗工液を基材上に塗工する際の塗工せん断速度は、フィラーの種類などによって変化し得るが、一般には、2s-1以上であることが好ましく、4s-1~50s-1であることがより好ましい。
【0116】
ここで、例えば、前記無機フィラーとして、ピーナッツ状および/またはテトラポット状のように球状や柱状の単一粒子が熱融着した形状、球形状、楕円形状、板状、棒状、または、不定形状の形状を有する無機フィラーを用いた場合、前記塗工せん断速度を大きくすると、高せん断力が無機フィラーにかかるため、異方性が高くなる傾向がある。一方、前記塗工せん断速度を小さくするとせん断力が無機フィラーにかからないため、等方的に配向する傾向がある。
【0117】
一方、前記無機フィラーが繊維径の長いワラストナイトのような長繊維径無機フィラーである場合には、前記塗工せん断速度を大きくすると、長繊維どうしが絡みあう、あるいはドクターブレードの刃に長繊維がひっかかるためばらばらの配向になり、異方性が低くなる傾向がある。一方、前記塗工せん断速度を小さくすると、長繊維が互いおよびドクターブレードの刃にひっかからないので、配向しやすくなり、異方性は高くなる傾向がある。
【0118】
〔4.非水電解液二次電池用積層セパレータ〕
本発明の一実施形態における非水電解液二次電池は、ポリオレフィン多孔質フィルムを備えていてもよい。以下では、ポリオレフィン多孔質フィルムを単に「多孔質フィルム」と称することがある。前記多孔質フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とし、その内部に連結した細孔を多数有しており、一方の面から他方の面に気体および液体を通過させることが可能となっている。前記多孔質フィルムは、単独で非水電解液二次電池用セパレータとなり得る。また、上述の多孔質層が積層された非水電解液二次電池用積層セパレータの基材ともなり得る。
【0119】
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面上に、前記多孔質層が積層されてなる積層体を、本明細書において、「非水電解液二次電池用積層セパレータ」または「積層セパレータ」とも称する。また、本発明の一実施形態における非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムの他に、接着層、耐熱層、保護層等のその他の層をさらに備えていてもよい。
【0120】
多孔質フィルムに占めるポリオレフィンの割合は、多孔質フィルム全体の50体積%以上であり、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましい。また、前記ポリオレフィンには、重量平均分子量が5×10~15×10の高分子量成分が含まれていることがより好ましい。特に、ポリオレフィンに重量平均分子量が100万以上の高分子量成分が含まれていると、非水電解液二次電池用セパレータの強度が向上するのでより好ましい。
【0121】
熱可塑性樹脂である前記ポリオレフィンとしては、具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンおよび1-ヘキセン等の単量体を重合してなる、単独重合体または共重合体が挙げられる。前記単独重合体としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンを挙げることができる。また、前記共重合体としては、例えばエチレン-プロピレン共重合体を挙げることができる。
【0122】
このうち、過大電流が流れることをより低温で阻止することができるため、ポリエチレンがより好ましい。なお、この過大電流が流れることを阻止することをシャットダウンともいう。前記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。このうち、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンがさらに好ましい。
【0123】
多孔質フィルムの膜厚は、4~40μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましく、6~15μmであることがさらに好ましい。
【0124】
多孔質フィルムの単位面積当たりの目付は、強度、膜厚、重量およびハンドリング性を考慮して適宜決定することができる。ただし、非水電解液二次電池の重量エネルギー密度および体積エネルギー密度を高くすることができるように、前記目付は、4~20g/mであることが好ましく、4~12g/mであることがより好ましく、5~10g/mであることがさらに好ましい。
【0125】
多孔質フィルムの透気度は、ガーレ値で30~500sec/100mLであることが好ましく、50~300sec/100mLであることがより好ましい。多孔質フィルムが前記透気度を有することにより、充分なイオン透過性を得ることができる。多孔質フィルムに上述の多孔質層を積層させた非水電解液二次電池用積層セパレータの透気度は、ガーレ値で30~1000sec/100mLであることが好ましく、50~800sec/100mLであることがより好ましい。非水電解液二次電池用積層セパレータは、前記透気度を有することにより、非水電解液二次電池において、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0126】
多孔質フィルムの空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止する機能を得ることができるように、20~80体積%であることが好ましく、30~75体積%であることがより好ましい。また、多孔質フィルムが有する細孔の孔径は、充分なイオン透過性を得ることができ、かつ、正極板および負極板への粒子の入り込みを防止することができるように、0.3μm以下であることが好ましく、0.14μm以下であることがより好ましい。
【0127】
[ポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法]
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法は特に限定されるものではない。例えば、ポリオレフィン系樹脂と、無機充填剤および可塑剤等の孔形成剤と、任意で酸化防止剤等を混練した後に押し出すことで、シート状のポリオレフィン樹脂組成物を作製する。適当な溶媒にて当該孔形成剤を当該シート状のポリオレフィン樹脂組成物から除去した後、当該孔形成剤が除去されたポリオレフィン樹脂組成物を延伸することで、ポリオレフィン多孔質フィルムを製造することができる。
【0128】
上記無機充填剤としては、特に限定されるものではなく、無機フィラー、具体的には炭酸カルシウム等が挙げられる。上記可塑剤としては、特に限定されるものではなく、流動パラフィン等の低分子量の炭化水素が挙げられる。
【0129】
具体的には、以下に示すような工程を含む方法を挙げることができる。
(A)超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリエチレンと、炭酸カルシウムまたは可塑剤等の孔形成剤と、酸化防止剤とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、
(B)得られたポリオレフィン樹脂組成物を一対の圧延ローラで圧延し、速度比を変えた巻き取りローラで引っ張りながら段階的に冷却し、シートを成形する工程、
(C)得られたシートの中から適当な溶媒にて孔形成剤を除去する工程、
(D)孔形成剤が除去されたシートを適当な延伸倍率にて延伸する工程。
【0130】
[非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法]
本発明の一実施形態における非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法としては、例えば、上述の「多孔質層の製造方法」において、前記塗工液を塗布する基材として、上述のポリオレフィン多孔質フィルムを使用する方法を挙げることができる。
【0131】
〔5.非水電解液〕
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池に含まれ得る非水電解液は、一般に非水電解液二次電池に使用される非水電解液であれば特に限定されない。前記非水電解液としては、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、Li10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩およびLiAlCl等が挙げられる。前記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0132】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、カーバメート類および含硫黄化合物、並びにこれらの有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒等が挙げられる。前記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0133】
〔6.非水電解液二次電池の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池を製造する方法として、例えば、前記正極、非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極をこの順で配置して非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉する方法を挙げることができる。
【0134】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0135】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0136】
〔各種物性の測定方法〕
以下の製造例および比較例に係る非水電解液二次電池の各種物性を、以下の方法で測定した。
【0137】
(1)膜厚(単位:μm)
ポリオレフィン多孔質フィルムおよび多孔質層の膜厚は、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機(VL-50)を用いて測定した。多孔質層の膜厚は、各々の積層体において多孔質層が形成されている部分の膜厚から、多孔質層が形成されていない部分の膜厚を引いた値とした。
【0138】
(2)スクラッチ試験
臨界荷重値、および臨界荷重までの距離のTD/MD比を以下に示すスクラッチ試験にて測定した。以下に記載する以外の測定条件等は、JIS R 3255と同様の条件等にして、測定を行った。また、測定装置は、マイクロスクラッチ試験装置(CSEM Instruments社製)を使用した。
(1)実施例、比較例にて製造された多孔質層を積層した積層多孔質フィルムを20mm×60mmに裁断した後、当該裁断した積層多孔質フィルムを、30mm×70mmのガラス製プレパラート上に、水で5倍希釈したアラビックヤマト水性液状糊(ヤマト株式会社製)を目付1.5g/m程度に少量で薄く全面に塗布したセパレータに貼合し、25℃の温度下にて一昼夜乾燥させることにより、試験用サンプルを作製した。なお、上記貼合のときは、積層多孔質フィルムとガラス製プレパラートとの間に気泡が入らない様にした。
(2)工程(1)にて作製された試験用サンプルを、マイクロスクラッチ試験装置(CSEM Instruments社製)に設置した。当該試験装置におけるダイヤモンド圧子(頂角120゜、先端半径0.2mmの円錐状)を、当該試験用サンプル上に、0.1Nの大きさの垂直荷重をかけたままの状態にて、当該試験装置におけるテーブルを、積層多孔質フィルムのTDに向けて、5mm/minの速さにて、10mmの距離を移動させ、その間の、上記ダイヤモンド圧子と当該試験用サンプルとの間に発生する応力(摩擦力)を測定した。
(3)工程(2)にて測定された応力の変位と、上記テーブルの移動距離との関係を示す曲線グラフを作成し、当該曲線グラフから、TDにおける、臨界荷重値および、臨界荷重に至るまでの距離を算出した。
(4)上記テーブルの移動方向をMDに変更して、上述の工程(1)~(3)を繰り返して行い、MDにおける、臨界荷重値および、臨界荷重に至るまでの距離を算出した。
【0139】
(3)界面障壁エネルギーの和
〔2〕の[界面障壁エネルギーの和]の項目にて説明した方法に基づき、界面障壁エネルギーの和を測定した。
【0140】
(4)100サイクル後の充電回復容量
〔1〕にて説明した方法に基づき、100サイクル後の充電回復容量を測定した。
【0141】
〔実施例1〕
[多孔質層、積層多孔質フィルムの作製]
(ポリオレフィン多孔質フィルムの作製)
ポリオレフィンとして、ポリエチレンを用いてポリオレフィン多孔質フィルムを作製した。具体的には、超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学株式会社製)70重量部と、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞株式会社製)30重量部とを混合して混合ポリエチレンを得た。得られた混合ポリエチレン100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.1重量部、およびステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに、全体積に占める割合が38体積%となるように、平均粒子径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加えた。この組成物を粉末のまま、ヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練することにより、ポリエチレン樹脂組成物を得た。次いで、このポリエチレン樹脂組成物を、表面温度が150℃に設定された一対のロールにて圧延することにより、シートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%を配合)に浸漬させることで、炭酸カルシウムを溶解して除去した。続いて、当該シートを105℃で6倍に延伸することにより、ポリエチレン製のポリオレフィン多孔質フィルム1を作製した。ポリオレフィン多孔質フィルム1は、空隙率:53%、目付:7g/m、膜厚:16μmであった。
【0142】
(塗工液の調製)
無機フィラーとして、酸素原子質量百分率が20%である六角板状酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、商品名:XZ-100F)を用いた。前記無機フィラーの粒子径は、D10=0.2μm、D50=0.4μm、D90=2.1μmであった。また、前記無機フィラーの比表面積は7.3m/gであった。
【0143】
無機フィラーの体積基準の粒度分布の算出は、島津製作所製 レーザー回折式粒度分布計SALD2200を使用して、D10、D50、D90を測定することにより行った(D50、D10、D90とは、それぞれ、体積基準による積算分布が50%になる値の粒子径、10%になる値の粒子径、90%になる値の粒子径のことである)。無機フィラーの比表面積は、定容法を用いて窒素による吸着脱離等温線を測定し、BET法から算出した。
【0144】
結着剤として、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(アルケマ株式会社製;商品名「KYNAR2801」)を用いた。
【0145】
無機フィラー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体および溶媒(関東化学株式会社製 N-メチル‐2-ピロリジノン)を、下記割合となるように混合した。すなわち無機フィラー90重量部に対してフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体10重量部混合すると共に、得られる混合液における固形分(無機フィラーおよびフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)の濃度が37重量%となるように溶媒を混合した。得られた混合液を薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス(株)製フィルミク(登録商標))で攪拌・混合して、均一な塗工液1を得た。
【0146】
(多孔質層および非水電解液二次電池用積層セパレータの作製)
得られた塗工液1を、ポリオレフィン多孔質フィルム1の片面に、ドクターブレード法により、塗工せん断速度3.9s-1にて塗工し、塗膜を形成させた。その後、前記塗膜を、65℃にて20分間かけて乾燥させることで、多孔質層を形成させた。このようにして、非水電解液二次電池用積層セパレータ1を得た。多孔質層の目付は7g/mであり、厚みは4μmであった。
【0147】
[非水電解液二次電池の作製]
(正極板)
正極合剤(LiNi0.5Mn0.3Co0.2/導電剤/PVDF(重量比:92/5/3))が、正極集電体(アルミニウム箔)の片面に積層された正極板を得た。LiNi0.5Mn0.3Co0.2の体積基準の平均粒径(D50)は、5μmであった。前記正極板を、正極活物質層が積層された部分の大きさが45mm×30mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が積層されていない部分が残るように切り取って、正極板1を得た。正極板1の正極活物質層の厚さは、38μmであった。
【0148】
(負極板)
負極合剤(天然黒鉛/スチレン-1,3-ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1))が、負極集電体(銅箔)の片面に積層された負極板を得た。天然黒鉛の体積基準の平均粒径(D50)は、15μmであった。前記負極板を、負極活物質層が積層された部分の大きさが50mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が積層されていない部分が残るように切り取って、負極板1を得た。負極板1の負極活物質層の厚さは、38μmであった。
【0149】
(非水電解液二次電池の組み立て)
正極板1、負極板1および非水電解液二次電池用積層セパレータ1を使用して、以下に示す方法にて非水電解液二次電池を製造した。
【0150】
ラミネートパウチ内で、正極板1、非水電解液二次電池用積層セパレータ1および負極板1を、この順に積層することにより、非水電解液二次電池用部材1を得た。このとき、正極板1の正極活物質層における主面の全部が、負極板1の負極活物質層における主面の範囲に含まれるように(主面に重なるように)、正極板1および負極板1を配置した。また、非水電解液二次電池用積層セパレータ1の多孔質層側の面を、正極板1の正極活物質層に対向させた。
【0151】
続いて、非水電解液二次電池用部材1を、予め作製していた、アルミニウム層とヒートシール層とが積層されてなる袋に入れ、さらにこの袋に、非水電解液を0.23mL注入した。前記非水電解液は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートを3:5:2(体積比)で混合してなる混合溶媒に、LiPFを1mol/Lとなるように溶解することにより、調製した。そして、袋内を減圧しつつ、当該袋をヒートシールすることにより、非水電解液二次電池1を作製した。
【0152】
その後前述の方法にて、非水電解液二次電池1の電池特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0153】
〔実施例2〕
[非水電解液二次電池の作製]
以下の変更点の他は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池用積層セパレータ2を得た。
・無機フィラーの原料として、球状アルミナ(住友化学株式会社製、商品名AA03)および合成雲母(株式会社和光純薬製、商品名:非膨潤性合成雲母)を用いた。これらの原料を50重量部ずつ、乳鉢で混合した混合物(酸素原子質量百分率45%)を無機フィラーとした。前記無機フィラーの粒子径は、D10=0.5μm、D50=4.2μm、D90=11.5μmであった。また、前記無機フィラーの比表面積は4.5m/gであった。
・無機フィラー90重量部に対して、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を10重量部混合すると共に、得られる混合液における固形分(無機フィラーおよびフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)の濃度が30重量%となるように溶媒を混合して塗工液2を調製した。
・塗工液2を、ポリオレフィン多孔質フィルム1の片面に、塗工せん断速度7.9s-1にて塗工した。
【0154】
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに、非水電解液二次電池用積層セパレータ2を使用して、実施例1と同様に非水電解液二次電池2を作製した。その後前述の方法にて、非水電解液二次電池2の電池特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0155】
〔実施例3〕
[非水電解液二次電池の作製]
以下の変更点の他は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池用積層セパレータ3を得た。
・無機フィラーとして、酸素原子質量百分率42%であるワラストナイト(林化成株式会社製、商品名:ワラストナイト VM-8N)を用いた。前記無機フィラーの粒子径は、D10=2.4μm、D50=10.6μm、D90=25.3μmであった。また、前記無機フィラーの比表面積は1.3m/gであった。
・無機フィラー90重量部に対して、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を10重量部混合すると共に、得られる混合液における固形分(無機フィラーおよびフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)の濃度が40重量%となるように溶媒を混合して、塗工液3を調製した。
・塗工液3を、ポリオレフィン多孔質フィルム1の片面に、塗工せん断速度7.9s-1にて塗工した。
【0156】
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに、非水電解液二次電池用積層セパレータ3を使用して、実施例1と同様に非水電解液二次電池3を作製した。その後前述の方法にて、非水電解液二次電池3の電池特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0157】
〔実施例4〕
[非水電解液二次電池用積層セパレータの作製]
以下の変更点の他は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池用積層セパレータ4を得た。
・無機フィラーの原料として、αアルミナ(住友化学株式会社製、商品名:AKP3000)および六角板状酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、商品名:XZ-1000F)を用いた。そして、αアルミナを99重量部、六角板状酸化亜鉛を1重量部、乳鉢で混合した混合物(酸素原子質量百分率47%)を、無機フィラーとした。前記無機フィラーの粒子径は、D10=0.4μm、D50=0.8μm、D90=2.2μmであった。また、前記無機フィラーの比表面積は4.5m/gであった。
・無機フィラー90重量部に対して、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を10重量部混合すると共に、得られる混合液における固形分(無機フィラーおよびフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)の濃度が40重量%となるように溶媒を混合して塗工液4を調製した。
・塗工液4を、ポリオレフィン多孔質フィルム1の片面に、塗工せん断速度39.4s-1にて塗工した。
【0158】
[非水電解液二次電池の作製]
(正極板)
正極合剤(LiCoO/導電剤/PVDF(重量比:100/5/3))が、正極集電体(アルミニウム箔)の片面に積層された正極板を得た。前記正極板を、正極活物質層が積層された部分の大きさが45mm×30mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が積層されていない部分が残るように切り取って、正極板2を得た。正極板2の正極活物質層の厚さは、38μmであった。
【0159】
(非水電解液二次電池の組み立て)
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに非水電解液二次電池用積層セパレータ4を使用し、正極板1の代わりに正極板2を使用して、実施例1と同様に非水電解液二次電池4を作製した。その後前述の方法にて、非水電解液二次電池4の電池特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0160】
〔比較例1〕
[非水電解液二次電池の作製]
以下の変更点の他は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池用積層セパレータ5を得た。
・無機フィラーとして、酸素原子質量百分率71%であるホウ砂(和光純薬製)を用いた。前記無機フィラーの粒子径は、D10=6.3μm、D50=27μm、D90=111μmであった。また、前記無機フィラーの比表面積は2.5m/gであった。
・無機フィラー90重量部に対して、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を10重量部混合すると共に、得られる混合液における固形分(無機フィラーおよびフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)の濃度が40重量%となるように溶媒を混合して塗工液5を調製した。
・塗工液5を、ポリオレフィン多孔質フィルム1の片面に、塗工せん断速度7.9s-1にて塗工した。
【0161】
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに、非水電解液二次電池用積層セパレータ5を使用して、実施例1と同様に非水電解液二次電池5を作製した。その後前述の方法にて、非水電解液二次電池5の電池特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0162】
〔比較例2〕
[非水電解液二次電池の作製]
(負極板)
負極合剤(人造球晶黒鉛/導電剤/PVDF(重量比85/15/7.5))が、負極集電体(銅箔)の片面に積層された負極板を得た。前記負極板を、負極活物質層が積層された部分の大きさが50mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が積層されていない部分が残るように切り取って、負極板2を得た。負極板2の負極活物質層の厚さは、36μmであった。
【0163】
(非水電解液二次電池の組み立て)
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに非水電解液二次電池用積層セパレータ4を使用し、負極板1の代わりに負極板2を使用して、実施例1と同様に非水電解液二次電池7を作製した。その後前述の方法にて、非水電解液二次電池6の電池特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0164】
【表1】
【0165】
(結果)
表1より、(i)多孔質層表面のスクラッチ試験の要件、および(ii)界面障壁エネルギーの和の要件、の2つを充足する非水電解液二次電池は、サイクル後の充電回復容量が良好であった。一方、前記条件を1つでも満たさない非水電解二次電池は、サイクル後の充電回復容量に劣っていた。
【0166】
〔参考例:界面障壁エネルギーの制御〕
正極活物質と負極活物質との粒径比を調節した正極板および負極板を作製し、界面障壁エネルギーの和を測定した。具体的には、実施例1とは同じ組成のままで、活物質の粒径を以下のように変更した、正極板および負極板を作製した。この正極板および負極板を用いて、界面障壁エネルギーを測定した結果を表2に示す。
【0167】
【表2】
【0168】
(結果)
実施例1における正極板および負極板と、参考例における正極板および負極板とは、組成が一致している。しかし、正極活物質と負極活物質との粒径比((負極活物質の粒径/正極活物質の粒径)の値)は、実施例1では3であったのに対し、参考例では24.7であった。そして、界面障壁エネルギーの和は、実施例1では9069J/molであったのに対し、参考例では4228J/molに過ぎなかった。
【0169】
この実験結果から、界面障壁エネルギーの和を制御するためには、例えば、正極活物質と負極活物質との粒径比を調節することが有効であることが示された。もちろん、界面障壁エネルギーの和の制御は、他の方法によっても成しうるものである。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の一態様に係る非水電解液二次電池は、ハイレートサイクル後の充電回復容量が良好に維持されている。そのため、パーソナルコンピュータ、携帯電話および携帯情報端末などに用いる電池、ならびに、車載用電池として好適に利用することができる。
図1
図2
図3