(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】複合基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
H01L21/02 B
(21)【出願番号】P 2023072352
(22)【出願日】2023-04-26
(62)【分割の表示】P 2020067086の分割
【原出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】秋山 昌次
(72)【発明者】
【氏名】丹野 雅行
(72)【発明者】
【氏名】白井 省三
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-343359(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163729(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/220721(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163722(WO,A1)
【文献】特開2020-036212(JP,A)
【文献】特開2010-135805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板またはサファイア基板である支持基板と、応力緩和介在層と、酸化物単結晶薄膜とが順に積層された複合基板の製造方法であって、
支持基板の貼り合わせ面に
、前記支持基板と酸化物単結晶基板との間の熱膨張係数を有する応力緩和介在層を形成するステップ
であって、前記応力緩和介在層がSiN、AlN、Al
2
O
3
、Y
2
O
3
、TiO
2
又はZrO
2
からなる、ステップと、
前記支持基板と前記酸化物単結晶基板とを、前記応力緩和介在層が両基板の間に介在するように貼り合わせて接合体を得るステップであって
、前記酸化物単結晶基板の貼り合わせ面に対してイオン注入処理を行ってから貼り合わせて前記接合体を得るステップと、
前記接合体の前記酸化物単結晶基板を薄化して酸化物単結晶薄膜とするステップと
を含む複合基板の製造方法。
【請求項2】
支持基板と、介在層と、応力緩和介在層と、酸化物単結晶薄膜とが順に積層された複合基板の製造方法であって、
支持基板の貼り合わせ面に介在層を形成するステップと、
前記介在層の上に応力緩和介在層を形成するステップと、
前記介在層および前記応力緩和介在層を形成した支持基板と酸化物単結晶基板とを、前記介在層および前記応力緩和介在層が両基板の間に介在するように貼り合わせて接合体を得るステップと、
前記接合体の前記酸化物単結晶基板を薄化して酸化物単結晶薄膜とするステップと
を含み、熱膨張係数の比較において、前記介在層<前記応力緩和介在層<前記酸化物単結晶薄膜の順に大きい複合基板の製造方法。
【請求項3】
前記介在層が、SiO
2、SiON又はSiNを含む請求項2に記載の複合基板の製造方法。
【請求項4】
前記介在層を化学的気相成長法(CVD法)又は物理的気相成長法(PVD法)で形成する請求項2又は3に記載の複合基板の製造方法。
【請求項5】
前記応力緩和介在層が、SiN、SiC、AlN、Al
2O
3、Y
2O
3、TiO
2又はZrO
2を含む請求項
2又は3に記載の複合基板の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物単結晶薄膜が、タンタル酸リチウム(LT)又はニオブ酸リチウム(LN)を含む請求項1
又は2に記載の複合基板の製造方法。
【請求項7】
前記応力緩和介在層を化学的気相成長法(CVD法)又は物理的気相成長法(PVD法)で形成する請求項1
又は2に記載の複合基板の製造方法。
【請求項8】
前記接合体の前記酸化物単結晶基板の薄化を、研削、研磨又はこれらの組み合わせによって行う請求項1
又は2に記載の複合基板の製造方法。
【請求項9】
前記酸化物単結晶基板の貼り合わせ面に対してイオン注入処理を行い、前記酸化物単結晶基板の内部にイオン注入層を形成するステップを更に含み、
前記接合体の前記酸化物単結晶基板の薄化を、前記接合体から、酸化物単結晶薄膜として前記イオン注入層を残して前記酸化物単結晶基板の残りの部分を剥離することによって行う請求項
2又は3に記載の複合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の機能性材料(半導体、酸化物単結晶等)の応用範囲を拡大するために異種の基板を貼り合せて、より高性能化する開発が盛んに行われている。半導体の分野ではSilicon on Insulator(SOI)などが知られており、また酸化物単結晶の分野では、タンタル酸リチウム(LiTaO3;略号「LT」)やニオブ酸リチウム(LiNbO3;略号「LN」)等の酸化物単結晶基板をサファイア等に貼り合せ、この酸化物単結晶基板を薄化することで温度特性を向上させることが報告されている。
【0003】
また、機能性薄膜と支持基板との間に分離を目的とした介在層を設けることも行われている。介在層の材質としては、具体的にはSiO2のように絶縁性が高く、高周波損失が少なく(低誘電損失)、加工(平坦化)が容易な材料が良く用いられる。介在層には上記特性を満たすために金属酸化物が選択される事が多い(SiO2の他、TiO2、Ta2O5、Nb2O5、ZrO2など)。このようにして介在層を用いた複合基板(例えば、LT on SiO2 on Si基板)は活性層が薄いが故に、優れた高周波特性(低高周波ロス、リニアリティーの向上、クロストークの低減)などの優れた特性を有することが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した異種の基板を貼り合わせた複合基板も欠点を有する。一般に支持基板として用いられるシリコン、ガラス、サファイアと比較し、酸化物単結晶の熱膨張係数は極めて大きい(例えば、LTやLNは15~16ppm程度)。一方のシリコン、ガラス、サファイアなどは、それぞれ2.5ppm、0.5ppm、7.5ppm程度となっている。この為に、実際に酸化物単結晶層on支持基板を用いたデバイスを実際の環境下で高温・低温に晒すと、酸化物単結晶層に大きなストレスが掛かり、界面からマイクロクラックが伸長し、次第に酸化物単結晶層を破壊し、特性を劣化させるという問題が発生する。これは、温度特性を向上させるために、低膨張係数を有する支持基板上に酸化物単結晶薄膜を積層する構造自体に起因するものである。
【0005】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、高温・低温に晒しても、クラックが生じずに、特性の劣化を防ぐことができる複合基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、支持基板と、応力緩和介在層と、酸化物単結晶薄膜とが順に積層された複合基板の製造方法であって、支持基板と酸化物単結晶基板の間に、前記支持基板と前記酸化物単結晶基板との間の熱膨張係数を有する応力緩和介在層を形成するステップと、前記支持基板と前記酸化物単結晶基板とを、前記応力緩和介在層が両基板の間に介在するように貼り合わせて接合体を得るステップと、前記接合体の前記酸化物単結晶基板を薄化して酸化物結晶薄膜とするステップとを含む。
【0007】
また、本発明の複合基板の製造方法は、別の態様として、支持基板と、介在層と、応力緩和介在層と、酸化物単結晶薄膜とが順に積層された複合基板の製造方法であって、熱膨張係数の比較において、前記介在層<前記応力緩和介在層<前記酸化物単結晶薄膜の順に大きくなるように、貼り合せ法を用いて製造する。
【0008】
前記介在層は、SiO2、SiON又はSiNを含むことが好ましい。
【0009】
前記介在層は、化学的気相成長法(CVD法)又は物理的気相成長法(PVD法)で形成することが好ましい。
【0010】
前記応力緩和介在層は、SiN、SiC、AlN、Al2O3、Y2O3、TiO2又はZrO2を含むことが好ましい。
【0011】
前記酸化物単結晶基板は、タンタル酸リチウム(LT)又はニオブ酸リチウム(LN)を含むことが好ましい。
【0012】
前記応力緩和介在層は、化学的気相成長法(CVD法)又は物理的気相成長法(PVD法)で形成することが好ましい。
【0013】
前記接合体の前記酸化物単結晶基板の薄化は、研削、研磨又はこれらの組み合わせによって行ってもよい。
【0014】
または、前記酸化物単結晶基板の貼り合わせ面に対してイオン注入処理を行い、前記酸化物単結晶基板の内部にイオン注入層を形成するステップを更に含んでもよく、前記接合体の前記酸化物単結晶基板の薄化を、前記接合体から、酸化物単結晶薄膜として前記イオン注入層を残して前記酸化物単結晶基板の残りの部分を剥離することによって行ってもよい。
【0015】
更に、本発明は、別の態様として、支持基板と、応力緩和介在層と、酸化物単結晶薄膜とが順に積層された複合基板であって、前記応力緩和介在層が、前記支持基板と前記酸化物単結晶薄膜との間の熱膨張係数を有する。
【0016】
また、本発明の複合基板は、別の態様として、支持基板と、介在層と、応力緩和介在層と、酸化物単結晶薄膜とが順に積層された複合基板であって、前記応力緩和介在層が、前記介在層と前記酸化物単結晶薄膜との間の熱膨張係数を有する。
【0017】
前記介在層は、SiO2、SiON又はSiNを含むことが好ましい。
【0018】
前記応力緩和介在層は、SiN、SiC、AlN、Al2O3、Y2O3、TiO2又はZrO2を含むことが好ましい。
【0019】
前記酸化物単結晶基板は、タンタル酸リチウム(LT)又はニオブ酸リチウム(LN)を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
このように本発明によれば、酸化物単結晶薄膜と支持基板との間に、熱膨張係数が酸化物単結晶薄膜よりも小さく、且つ支持基板よりも大きい材料の応力緩和介在層を介在させることで、温度が変化した際に酸化物単結晶薄膜の界面に掛かるストレスが軽減され、クラックが生じずに、特性の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る複合基板の一実施の形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明に係る複合基板に用いる代表的な素材の各熱膨張係数を示すグラフである。
【
図3】本発明に係る複合基板の別の実施の形態を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明に係る複合基板の製造方法の一実施の形態を説明する模式的なフロー図である。
【
図5】本発明に係る複合基板の製造方法の別の実施の形態を説明する模式的なフロー図である。
【
図6】本発明に係る複合基板の製造方法の更に別の実施の形態を説明する模式的なフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る複合基板およびその製造方法の実施形態について説明するが、本発明の範囲は、これに限定されるものではない。
【0023】
本実施形態の複合基板10は、
図1に示すように、支持基板2と、応力緩和介在層3と、酸化物単結晶薄膜1とが順に積層されたものである。
【0024】
酸化物単結晶薄膜1としては、圧電体単結晶が好ましく、例えば、リチウムと、タンタルまたはニオブ等の金属元素と、酸素とからなる化合物が好ましい。このような化合物としては、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO3;略号「LT」)やニオブ酸リチウム(LiNbO3;略号「LN」)がある。酸化物単結晶薄膜1の厚さは、例えば、0.1~30μmが好ましい。
【0025】
支持基板2としては、複合基板に通常用いられる絶縁性の基板であれば特に限定されないが、例えば、シリコン基板、ガラス基板、サファイア基板等がある。支持基板2は、ウェーハの形状で用いられてもよい。ウェーハのサイズは、例えば、直径2~12インチで、板厚100~2,000μmが好ましい。
【0026】
応力緩和介在層3としては、熱膨張係数が酸化物単結晶薄膜1よりも小さく、且つ熱膨張係数が支持基板2よりも大きい材料を用いる。このような熱膨張係数を有する材料の層を酸化物単結晶薄膜1と支持基板2との間に介在させることで、温度が変化した際に酸化物単結晶薄膜1の界面に掛かるストレスが軽減され、劣化を防げることができることから、この層を本発明では「応力緩和介在層」と呼称する。
【0027】
複合基板に用いる代表的な素材の各熱膨張係数を
図2に示す。これらのうち、SiN、SiC、AlN、Al
2O
3、Y
2O
3、TiO
2、ZrO
2の熱膨張係数が、酸化物単結晶薄膜1のLTやLNの熱膨張係数と、支持基板2のシリコンやガラスの熱膨張係数との間に位置することから、応力緩和介在層3の材料として好ましい。応力緩和介在層3の厚さは、例えば、0.1~5.0μmが好ましい。
【0028】
また、本発明は、
図1に示す複合基板10の構成に限定されず、例えば、
図3に示す構成にしてもよい。この別の実施形態の複合基板20は、
図3に示すように、支持基板2と、介在層4と、応力緩和介在層3と、酸化物単結晶薄膜1とが順に積層されたものである。
【0029】
介在層4としては、複合基板に通常用いられる介在層の材料でよいが、酸化物単結晶薄膜1の熱膨張係数よりも小さく、且つ応力緩和介在層3の熱膨張係数よりも大きい材料を用いる。このような材料としては、例えば、SiO2、SiON、SiN等がある。このような材料の介在層4であれば、上述したように応力緩和介在層3によって、温度が変化した際に酸化物単結晶薄膜1の界面に掛かるストレスを軽減し、劣化を防ぐことができる。換言すれば、この別の実施形態の複合基板20では、応力緩和介在層3は、熱膨張係数が酸化物単結晶薄膜1よりも小さく、且つ熱膨張係数が介在層4よりも大きい材料を用いることなる。
【0030】
次に、本実施形態の複合基板の製造方法について説明する。
図4に示すように、酸化物単結晶基板1Aを準備するステップ(
図4中の(a))と、支持基板2を準備するステップ(
図4中の(b))と、酸化物単結晶基板1と支持基板2に応力緩和介在層3を形成するステップ(
図4中の(c))と、応力緩和介在層3を介して酸化物単結晶基板1と支持基板2を貼り合わせるステップ(
図4中の(d))と、貼り合わせによって得た接合体4から酸化物単結晶基板を薄化して、複合基板10を得るステップ(
図4中の(e))を含む。以下、各ステップについて詳細に説明する。但し、以下の述べる方法はあくまで一例であり、どちらの基板にどのように応力緩和介在層3を成膜し、どの面で貼り合せるかは任意である。
【0031】
ステップ(a)において準備する酸化物単結晶基板1Aは、
図1の複合基板10の酸化物単結晶薄膜1になる基板である。酸化物単結晶については上述したので、ここでは説明を省略する。酸化物単結晶基板1は、ウェーハの形状で用いられてもよい。ウェーハのサイズは、特に限定されないが、例えば、直径2~8インチとしてもよく、板厚100~1000μmとしてもよい。
【0032】
ステップ(b)で準備する支持基板2は、
図1の複合基板10の支持基板2であり、既に上述したので、ここでは説明を省略する。
【0033】
酸化物単結晶基板1の貼り合わせ面および支持基板2の貼り合わせ面は、応力緩和介在層3を介して貼り合せを行うので、酸化物単結晶基板1や支持基板2の貼り合わせ面は必ずしも鏡面で有る必要は無い。
【0034】
次に、
図4のステップ(c)に示すように、酸化物単結晶基板1の貼り合わせ面および支持基板2の貼り合わせ面に、応力緩和介在層3a、3bを形成する。応力緩和介在層3の材料については既に上述したので、ここでは説明を省略する。
【0035】
応力緩和介在層3を形成する方法としては、例えば、化学的気相成長法(CVD法)や物理的気相成長法(PVD法)などがある。CVD法としては、例えば、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法などがある。PVD法としては、例えば、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などがある。これらCVD法やPVD法などによって窒化ケイ素膜等を形成する公知の成膜条件を用いて、酸化物単結晶基板1や支持基板2の貼り合わせ面に応力緩和介在層3を形成することができる。
【0036】
なお、
図4のステップ(c)には、酸化物単結晶基板1と支持基板2の両方の貼り合わせ面に応力緩和介在層3a、3bを形成するように記載しているが、本発明はこれに限定されず、例えば、酸化物単結晶基板1の貼り合わせ面に応力緩和介在層3aを形成するのみでも、支持基板2の貼り合わせ面に応力緩和介在層3bを形成するのみでも、同様の効果を得ることができる。繰り返しになるが、どちらの基板にどのように応力緩和介在層3を成膜し、どの面で貼り合せるかは全くの任意であり、本発明の効果に影響を与えない。
【0037】
そして、
図4のステップ(d)に示すように、応力緩和介在層3を介して酸化物単結晶基板1と支持基板2を貼り合わせて接合体4を得る。なお、貼り合わせる前に、酸化物単結晶基板1と支持基板2の両方の貼り合わせ面に、表面活性化処理を行う。表面活性化処理としては、貼り合わせ面を活性化できるものであれば特に限定されないが、例えば、プラズマ活性化処理、真空イオンビーム法、オゾン水処理法、UVオゾン処理法などが挙げられる。表面活性化処理の雰囲気は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス、又は酸素、それら単独または組み合わせて使用することができる。
【0038】
このように応力緩和介在層3を介して貼り合わせた酸化物単結晶基板1と支持基板2の接合体4に、熱処理を施してもよい。これにより接合強度を上げることができる。
【0039】
そして、
図4のステップ(e)に示すように、接合体4の酸化物単結晶基板1Aを薄化する。これにより、支持基板2上に応力緩和介在層3を介して酸化物単結晶薄膜1が形成された複合基板10を得ることができる。
【0040】
図4を用いて複合基板10の製造方法について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、上述したステップを前後させたり、他のステップを新たに組み入れたりする等の多くの改変を採用することができる。例えば、
図5に示す複合基板10の製造方法にしてもよい。
【0041】
図5に示すように、この別の実施の形態の複合基板の製造方法は、酸化物単結晶基板1Aを準備するステップ(
図5中の(a))と、酸化物単結晶基板1Aをイオン注入処理Xするステップ(
図5中の(a1))と、これによって酸化物単結晶基板1にイオン注入層1Xを形成するステップ(
図5中の(a2))と、支持基板2を準備するステップ(
図5中の(b))と、酸化物単結晶基板1Aと支持基板2に応力緩和介在層3を形成するステップ(
図5中の(c))と、応力緩和介在層3を介して酸化物単結晶基板1Aと支持基板2を貼り合わせるステップ(
図5中の(d))と、貼り合わせによって得た接合体4から酸化物単結晶基板の一部1bを剥離して、複合基板10を得るステップ(
図5中の(e))を含む。以下、新たに加えたステップについて詳細に説明する。但し、この方法はあくまで一例であり、どちらの基板にどのように応力緩和介在層3を成膜し、どの面で貼り合せるかは任意である。
【0042】
ステップ(a1)では、酸化物単結晶基板1Aの貼り合わせ面に対してイオン注入処理Aを行う。これにより、ステップ(a2)に示すように、酸化物単結晶基板1Aの貼り合わせ面に、イオン注入層1Xが形成される。イオン注入処理の条件として、例えば、水素原子イオン(H+)の場合、注入量は、5.0×1016atom/cm2~2.75×1017atom/cm2が好ましい。5.0×1016atom/cm2未満だと、後の工程でイオン注入層の脆化が起こり難い。2.75×1017atom/cm2を超えると、イオン注入時にイオン注入した面においてマイクロキャビティが生じ、ウェーハ表面に凹凸が形成され所望の表面粗さが得られ難くなる。また、水素分子イオン(H2
+)であれば、注入量は、2.5×1016atoms/cm2~1.37×1017atoms/cm2が好ましい。
【0043】
また、イオンの加速電圧は、50KeV~200KeVが好ましい。加速電圧を調整することで、イオン注入の深さを変えることができる。イオン注入層1Xの厚みは、100nm~2,000nmとすることが好ましい。このイオン注入層1Xの厚みが、得られる複合基板10の酸化物単結晶薄膜1の厚みにほぼ相当する。
【0044】
そして、
図5のステップ(e)では、接合体4から、応力緩和介在層3側にイオン注入層1Xを残して酸化物単結晶基板の一部1aを剥離する。これにより、支持基板2上に応力緩和介在層3を介してイオン注入層(酸化物単結晶薄膜)1が形成された複合基板10を得ることができる。なお、この剥離に際し、楔状の刃(図示省略)等で機械的に衝撃を与えてもよい。
【0045】
また、
図3に示す複合基板20の製造方法の一実施の形態を
図6に示す。
図6に示す複合基板の製造方法は、酸化物単結晶基板1Aを準備するステップ(
図6中の(a))と、支持基板2を準備するステップ(
図6中の(b))と、支持基板2上に介在層4を形成するステップ(
図6中の(b1))と、酸化物単結晶基板1Aと介在層上4に応力緩和介在層3を形成するステップ(
図6中の(c))と、応力緩和介在層3を介して酸化物単結晶基板1Aと介在層4を有する支持基板2を貼り合わせるステップ(
図6中の(d))と、貼り合わせによって得た接合体4から酸化物単結晶基板1Aを研削・研磨等で薄化して、複合基板20を得るステップ(
図6中の(e))を含む。以下、新たに加えたステップについて詳細に説明する。但し、この方法はあくまで一例であり、どちらの基板にどのように介在層4、応力緩和介在層3を成膜し、どの面で貼り合せるかは任意である。
【0046】
図6のステップ(b1)に示すように、支持基板2の貼り合わせ面に介在層4を形成する。介在層4の材料については既に上述したので、ここでは説明を省略する。介在層4を形成する方法としては、例えば、化学的気相成長法(CVD法)や物理的気相成長法(PVD法)などがある。CVD法としては、例えば、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法などがある。PVD法としては、例えば、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などがある。これらCVD法やPVD法などによってシリコン酸化膜等を形成する公知の成膜条件を用いて、支持基板2の貼り合わせ面に介在層4を形成することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
直径150mmのシリコン基板にタンタル酸リチウム(LT)基板を貼り合せる際に、シリコン基板とLT基板との間にSiN、SiC、AlN、Al2O3、Y2O3、TiO2、ZrO2の各材料を用いた応力緩和介在層を介在させて貼り合せて接合体とした。応力緩和介在層はCVD法によってシリコン基板上に形成した。また、シリコン基板とLT基板の貼り合せ面は予めプラズマ活性化処理を施した。そして、この接合体のLT基板を研削・研磨で6μmまで薄化して複合基板を作製した。
【0049】
このようにして得られた複合基板について、熱衝撃試験を行った。試験条件は、-60℃の低温室と170℃の高温室間を移動させ、それぞれの温度での滞留時間は10分とした。この試験には冷熱衝撃装置(エスペック社製、TSE-12-A)を用いた。これを10サイクル施した後、複合基板を取り出して、クラックの有無を基板検査装置(クラボウ社製、BB-Master)で観察した。複合基板の5箇所を観察し、一箇所でもクラックがあった場合は、その複合基板に関しては試験を中止とし、クラックが無い場合は熱衝撃試験を続行した。試験結果として、クラックが発見された際のサイクル数を表1に示す(LT on Si)。なお、表1中の応力緩和介在層の各材料におけるカッコ内の数字は、その材料の熱膨張係数(ppm)である。
【0050】
【0051】
この結果から、応力緩和介在層を介在させた複合基板は、いずれの場合も応力緩和介在層のない複合基板よりも信頼性が向上していることが分かる。これは応力緩和介在層に用いたいずれの材料も熱膨張係数が支持基板のシリコン(2.5ppm)よりも高く、LT(15ppm)よりも低いため、応力緩和の効果があったものと考えられる。
【0052】
[実施例2]
シリコン基板に代えてサファイア基板を用いた点を除いて、実施例1と同様に複合基板を作製したとともに、実施例1と同様の条件で熱衝撃試験を行った。その結果を表1に示す(LT on サファイア)。この結果から、応力緩和介在層を介在させた複合基板は、応力緩和介在層がサファイア(7.5ppm)よりも熱膨張係数が大きい材料の場合に限り、信頼性向上の効果があったことが分かる。
【0053】
[実施例3]
シリコン基板に代えてガラス基板を用いた点を除いて、実施例1と同様に複合基板を作製したとともに、実施例1と同様の条件で熱衝撃試験を行った。その結果を表1に示す(LT on ガラス)。この結果から、応力緩和介在層を介在させた複合基板は、いずれの場合も信頼性が向上していることが分かる。これは用いた応力緩和介在層の各材料の熱膨張係数がガラス(0.5ppm)よりも高く、LTよりも低いため、応力緩和の効果があったものと考えられる。
【0054】
[実施例4]
シリコン基板と応力緩和介在層との間に、厚さ約1.0μmのSiO2の介在層を介在させた点を除いて、実施例1と同様に複合基板を作製したとともに、実施例1と同様の条件で熱衝撃試験を行った。なお、介在層はCVD法によってシリコン基板上に形成し、応力緩和介在層は介在層上に形成した。その結果を表2に示す(LT on SiO2 on Si)。
【0055】
【0056】
この結果から介在層とLT薄膜との間に応力緩和介在層を介在させた複合基板は、いずれの場合も応力緩和介在層のない複合基板よりも信頼性が向上していることが分かる。これは用いた応力緩和介在層の各材料の熱膨張係数が介在層であるSiO2(0.6ppm)よりも高く、LTよりも低いため、応力緩和の効果があったものと考えられる。
【0057】
[実施例5]
シリコン基板に代えてサファイア基板を用いた点を除いて、実施例4と同様に複合基板を作製したとともに、実施例1と同様の条件で熱衝撃試験を行った。その結果を表2に示す(LT on SiO2 on サファイア)。この結果から、介在層とLT薄膜との間に応力緩和介在層を介在させた複合基板は、応力緩和介在層がサファイアよりも熱膨張係数が大きい材料の場合に限り、信頼性向上の効果があったことが分かる。
【0058】
[実施例6]
酸化物単結晶基板としてLT基板に代えてニオブ酸リチウム(LN)基板を用いた点を除いて、実施例1~5と同様に複合基板を作製したとともに、実施例1と同様の条件で熱衝撃試験を行った。なお、熱膨張係数は、LNが16ppmで、LTが15ppmである。その結果、LN薄膜を備えた複合基板でも、LT薄膜を備えた複合基板と同じ傾向の結果が得られた。
【0059】
[実施例7]
介在層としてSiO2に代えてSiON、SiNの各材料を用いた点を除いて、実施例4、5と同様に複合基板を作製したとともに、実施例1と同様の条件で熱衝撃試験を行った。なお、熱膨張係数は、SiONが約2.0ppmで、SiNが2.8ppmである。その結果、応力緩和介在層が、介在層よりも熱膨張係数が大きい材料の場合に限り、程度の差はあっても信頼性向上の効果があることが認められた。
【0060】
[実施例8]
貼り合わせ面への処理をプラズマ活性化処理に代えて真空イオンビーム法、オゾン水処理法、UVオゾン処理法の各処理法を行った点を除いて、実施例1~5と同様に複合基板を作製したとともに、実施例1と同様の条件で熱衝撃試験を行った。その結果は、実施例1~5とほぼ同じであり、応力緩和の効果は、貼り合わせ面への処理法に依存しないことがわかった。
【0061】
[実施例9]
接合体における研削・研磨によるLT基板の薄化に代えて、LT基板の貼り合せ面に予め水素イオンを注入し、貼り合せ後の接合体において注入界面に沿って剥離を行うことでLT基板の薄化を行った点を除いて、実施例1、2と同様に複合基板を作製したとともに、実施例1と同様の条件で熱衝撃試験を行った。なお、LT薄膜の厚さは0.8μmであった。その結果は、実施例1、2と同じ傾向であり、応力緩和の効果は、LT基板の薄化の方法に依存しないことがわかった。
【0062】
[実施例10]
介在層、応力緩和介在層の各成膜法としてCVD法に代えてPVD法を行った点を除いて、実施例1、4と同様に複合基板を作製したとともに、実施例1と同様の条件で熱衝撃試験を行った。その結果は、実施例1、4と同じ傾向であり、応力緩和の効果は、介在層、応力緩和介在層の成膜法に依存しないことがわかった。
【符号の説明】
【0063】
1 酸化物単結晶薄膜
1A 酸化物単結晶基板
1X イオン注入層
2 支持基板
3 応力緩和介在層
4 介在層
10、20 複合基板