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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】魚類の体内リズム診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20240708BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240708BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240708BHJP
   A01K 61/00 20170101ALI20240708BHJP
【FI】
G01N1/04 H
G01N1/04 W
C12N15/11 Z
C12Q1/68
A01K61/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022155989
(22)【出願日】2022-09-29
(65)【公開番号】P2024049643
(43)【公開日】2024-04-10
【審査請求日】2024-01-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「資源循環型共生社会実現に向けた農水一体型サステイナブル陸上養殖のグローバル拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】福永 耕大
(72)【発明者】
【氏名】竹村 明洋
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-073006(JP,A)
【文献】特開2005-205281(JP,A)
【文献】特開2011-215020(JP,A)
【文献】特開2008-073306(JP,A)
【文献】Biological Rhythm Research,2020年04月20日,Vol.53, No.3,pp.445-454
【文献】Environmental Science & Technology Letters,2019年,Vol.6, No.9,pp.538-544
【文献】Fish & Shellfish Immunology,2015年,Vol.44, No.1,pp.307-315
【文献】Frontiers in Environmental Science,2022年02月04日,Vol.10, No.836640,pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
A01K 61/00-61/95
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼育水に浮遊する魚類の浮遊粘液を、
繊維が絡み合わされた繊維の塊であるフェルト状繊維体によって絡めとって採取し、
採取した浮遊粘液に含まれるmRNAを定量的に解析する
ことを特徴とする魚類の体内リズム診断方法。
【請求項2】
飼育水に浮遊する魚類の浮遊粘液を、
繊維が絡み合わされた繊維の塊であるポリエステルフェルトによって絡めとって採取し、
採取した浮遊粘液に含まれるmRNAを定量的に解析する
ことを特徴とする魚類の体内リズム診断方法。
【請求項3】
飼育水に浮遊する魚類の浮遊粘液を、
繊維が絡み合わされた繊維の塊であるポリエステルフェルトによって絡めとって採取し、
浮遊粘液が絡みついた前記ポリエステルフェルトを、
底部に抽出試薬が貯留し、逆止弁が取り付けられたサンプリングチューブ内で、逆止弁を通過させ、
浮遊粘液が絡みついた前記ポリエステルフェルトから飼育水を除去して、
採取した浮遊粘液に含まれるmRNAを定量的に解析する
ことを特徴とする魚類の体内リズム診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類を飼育する飼育水中から環境RNAに含まれる魚類のmRNAを解析することで、魚類の体内リズムを非侵襲的に診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類の体内リズムを判断する方法として、組織内の時計遺伝子であるmRNAを定量する方法が知られている。
多くの体内リズムは、時計遺伝子のおよそ24時間周期の変動によって作られており、mRNAを定量することで体内リズムを推測できる。
しかし、魚類の体内リズムを診断する方法は、診断する魚類に麻酔をかけ、安楽死させた後、魚類の体内の遺伝子の発現量を測定する手法が一般的であり、実験者の作業負担が大きいことや動物倫理の観点などから、改善が求められていた。
【0003】
そこで、本発明者は、魚類を飼育する飼育水に含まれる時計遺伝子per2のmRNAを定量PCR法によって測定することで、非侵襲的に魚類の体内リズムを判断する方法を着想した。
そして、ヤイトハタを飼育する飼育水中の時計遺伝子per2のmRNA量を6時間置きに測定したところ、ヤイトハタのmRNA量は、昼に多く、夜に少ない発現変動を示した(図1)。
この結果は、ヤイトハタの各末梢組織におけるper2遺伝子の発現変動と一致していることから、ヤイトハタを飼育する飼育水中の環境RNAは、ヤイトハタの体内リズムを反映することを裏付けている。
したがって、魚類を飼育する飼育水中から環境RNAに含まれる魚類のmRNAを定量する方法は、魚類を飼育する飼育水を採取するだけの簡便な操作のみで行うことができ、魚類の生体に触れる必要がない非侵襲的な診断方法であることから、従来方法に比べて、実験者の作業負担が少なく、動物福祉を遵守した優れた手法であるといえる。
【0004】
このような環境RNAを定量的に解析する方法として、特許文献1に、水環境に含まれる環境RNAから、水環境に生存する生物種の個体数やバイオマス量を定量的に評価する生態系調査方法が開示されている。
環境RNAは、環境DNAと比べて、輸送される距離が短くなると予想され、サンプリングする場所付近に実際に存在する種のみを正確に検出できる可能性が高く、生態系調査方法には適している。
また、当該文献記載の発明も、直接、生物種を捕獲することなく、水環境に生息する生物種の調査が可能であり、非侵襲的な検出が可能である。
そして、当該文献には、環境RNAの抽出は、海、河川、湖、池、沼、養殖場、水槽などの表層や深部の水を採取したり、それらの底部の泥を採取したりすることによって水環境サンプルを得ること、さらに、水環境サンプルを濾過した後、濾液に含まれるRNA又はDNAを、フェノール/クロロホルム法、AGPC(acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法、または市販のRNA又はDNA抽出試薬等を用いてRNA又はDNAを抽出する方法が開示されている。
【0005】
しかし、当該文献に記載されている、水環境サンプルを得て、水環境サンプルを濾過し、濾液に含まれるRNA又はDNAを抽出する方法は、養殖槽などの飼育密度が高い環境下では、実施が困難である。
つまり、養殖槽は、利益効率を重視し、一般的に飼育密度が高くなりがちだが、それゆえに、飼育水中には、排泄物や残餌などの多くの夾雑物が含まれている。
このような養殖水をサンプルとして使用した場合、濾過フィルターが簡単に詰まってしまい、濾液に含まれるRNA又はDNAを抽出することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-108593公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するため、養殖槽などの飼育密度が高い環境下でも、排泄物や残餌などの夾雑物ができるだけ含まれないサンプル(飼育水)を得ることで、魚類を飼育する飼育水から環境RNAに含まれる魚類のmRNAを解析して、魚類の体内リズムを非侵襲的に診断する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる魚類の体内リズム診断方法は、
飼育水に浮遊する魚類の浮遊粘液を、
ポリエステルフェルトによって採取し、
浮遊粘液が含まれるポリエステルフェルトを、
底部に抽出試薬が貯留し、逆止弁が取り付けられたサンプリングチューブ内で、逆止弁を通過させ、
浮遊粘液が含まれるポリエステルフェルトから飼育水を除去して、
採取した浮遊粘液に含まれるmRNAを定量的に解析する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
従来方法に比べて、単純な操作でありながら、魚類に直接触れることなく、魚類の体内リズムを診断することができる。
また、濾過式の方法に比べて、低コストで実施でき、特に、ポリエステルフェルトを使用してRNAを収集する場合、手綱、綿棒を使用する場合に比べて、RNAの収量が多く、分析の成功率も高い体内リズム診断方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】飼育水中に含まれるヤイトハタのper2遺伝子のmRNA量の1日における発現変動を表したグラフ
図2】飼育水に浮遊する浮遊粘液を撮影した図面代用写真
図3】ポリエステルフェルトを撮影した図面代用写真
図4】1試行で収集できるRNA量を、濾過式手法と非濾過式手法(濾過材別)で比較したグラ
図5】浮遊粘液から抽出したRNAをRT-PCR法により遺伝子発現を解析した図面代用写真
図6】RT-PCR法によって増幅させたDNAの遺伝子配列をシーケンス解析した図面代用写真
図7】抽出試薬が一体化した体内リズム診断用容器の一実施例とその使用例を示した図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施例にかかる魚類の体内リズム診断方法では、解析する対象として、魚類を養殖する養殖槽内の水面に浮かぶ浮遊粘液(図2)を採取した。
浮遊粘液は、本願発明において、「魚類の体表から体外に放出された、水面に浮遊する粘液」を意味する用語として使用する。
また、本実施例では、魚類を養殖する養殖槽内の水から浮遊粘液を採取したが、養殖ではなく、単に魚類を飼育するだけの飼育槽内の水から浮遊粘液を採取しても、同じように良好な結果を得られるため、本願発明における「養殖槽」は「飼育槽」を含む意味で使用し、「飼育水」は両槽内に貯留する水の意味で使用する。
【0012】
また、本実施例では、浮遊粘液を採取するため、フェルト状繊維体として、ポリエステルフェルト1を用いた(図3)。
フェルト状繊維体は、本願発明において、「繊維が絡み合わされた繊維の塊」を意味する用語として使用する。
フェルト状繊維体は、繊維が絡み合わされた状態で繊維の塊を構成していることで、飼育水から浮遊粘液のみを確実に絡めとることができる。
【0013】
フェルト状繊維体は、抽出試薬内で溶解しなければ、どのような繊維でも用いることができ、例えば、石油系の繊維であれば好適に利用できる。
特に、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)を主成分とするポリエステル系樹脂繊維またはポリプロピレンを主成分とするポリプロピレン系樹脂繊維は、軽量で扱いやすく、飼育水から浮遊粘液のみを絡めとるのに適している。
そこで、本実施例では、フェルト状繊維体として、ポリエステル系樹脂繊維が絡み合わされた塊であるポリエステルフェルトを使用した。
【0014】
ポリエステルフェルトから飼育水を除去した後、ポリエステルフェルトをRLTバッファー(350μl、QIAGEN社、オランダ)を含んだ5mlチューブに入れた。
5mlチューブを転倒混和(室温、20分)した後に、遠心処理(25度、8,000g、1分)によってポリエステルフェルトと上澄みを容器の底に集めた。
上澄みのみを1.5mlマイクロチューブに移し、70%エタノール(400μl)を加えてピペッティングで十分に混合した。
得られた試料をRNeasy Mini Spin Columns(QIAGEN)に移し、販売元のプロトコールに従って、環境RNAを精製し、ヌクレアーゼフリー水(30μl)で溶出した。
【0015】
一般的に、排泄物や残餌が多く含まれる養殖槽内の飼育水を使用する場合、濾過時間が長くなってしまい、mRNAの採取に多くの時間を要する。
しかし、本実施例のように、ポリエステルフェルトを用いて養殖槽内の飼育水から浮遊粘液のみを採取することで、飼育水を濾過する必要がなくなり、従来であれば、濾過時間を含めて約60分かかっていたサンプリングの採取時間を、約 5分にまで大幅に軽減することができた。
また、濾過式の方法に比べて、低コストで実施できることも利点として挙げられる。
さらに、ポリエステルフェルトを使用してRNAを収集する方法は、手綱、綿棒を使用する場合に比べて、RNAの収量が多く(図4)、分析の成功率も高いことが分かった。
【0016】
図5は、浮遊粘液から抽出したRNAをRT-PCR法により遺伝子発現を解析した図面代用写真である。図中上部のMucus(浮遊粘液)サンプルにおいて、ヤイトハタのper2遺伝子(mgPer2)の明瞭な発現が見られた。
図6は、RT-PCR法によって増幅させたDNAの遺伝子配列をシーケンス解析した図面代用写真である。
本実施例によって得られたDNA断片は、ヤイトハタと同じアカハタ属のタマカイの遺伝子と高い相同性を示した。
【0017】
また、魚類の体内リズムを診断するに際して、ポリエステルフェルトから飼育水を除去するため、抽出試薬が一体化された容器を使用できる。
本実施例では、底部に抽出試薬を貯留させたサンプリングチューブの中段の位置に逆止弁を配置した構成からなる体内リズム診断用容器を使用した(図7)。
フェルト状繊維体を、当該容器に入れた後、逆止弁を通過させることで、フェルト状繊維体に含まれる飼育水が除去される。
また、逆止弁があることで、浮遊粘液が付着したフェルト状繊維体のみを、当該容器の底部に貯留する抽出試薬に落とすことができる(図7)。
体内リズム診断用容器として使用するサンプリングチューブは、密閉できる構造のものを使用すれば、異物混入を避けることができ、極めて簡単な手順で扱うことができる。
【符号の説明】
【0018】
1 ポリエステルフェルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7