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特許7515939微小物体の集積方法、および、それを用いた微小物体の検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】微小物体の集積方法、および、それを用いた微小物体の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20240708BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20240708BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20240708BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
G01N21/17 A
G01N21/27 B
G01N21/41 102
G01N21/64 F
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023518686
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2022019417
(87)【国際公開番号】W WO2022234830
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021079294
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、「低侵襲ハイスループット光濃縮システムの開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願,令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、創発的研究支援事業、「バイオミメティック電極による外場誘導型エコシステムの創成」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 琢也
(72)【発明者】
【氏名】床波 志保
(72)【発明者】
【氏名】叶田 雅俊
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/218347(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/159706(WO,A1)
【文献】特開2018-194550(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0293731(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0316480(US,A1)
【文献】Damage-free light-induced assembly of intestinal bacteria with a bubble-mimetic substrate,COMMUNICATIONS BIOLOGY,2021年03月22日,4:385,pp. 1-7, pp. S1-S10,doi: 10.1038/s42003-021-01807-w
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 33/48-G01N 33/98
G01N 35/00-G01N 35/10
G01N 37/00
G01N 15/00-G01N 15/1492
G01N 25/00-G01N 25/72
G02B 21/00-G02B 21/36
B01J 19/00-B01J 19/32
C12M 1/00-C12M 1/42
C12Q 1/00-C12Q 1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580 (JDreamIII)
ACS PUBLICATIONS
Nature
JJAP
APEX
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中に分散した複数の微小物体を集積する、微小物体の集積方法であって、
光熱変換領域に接触するように前記液体試料を準備するステップと、
前記光熱変換領域の吸収波長域に含まれる波長を有する光を前記光熱変換領域に照射することによって、前記光の照射領域にバブルを発生させて前記バブルの周囲に前記複数の微小物体を集積するステップとを含み、
前記光熱変換領域は、
前記光を熱に変換する第1の材料を有する第1の薄膜と、
複数の非貫通孔が前記第1の薄膜上に周期的に配列された構造体と、
前記光を熱に変換する第2の材料を有し、前記構造体の少なくとも一部分に配置された第2の薄膜とを含み、
前記複数の非貫通孔および前記照射領域のサイズは、前記光熱変換領域を上面視した場合に、前記複数の非貫通孔のうちの少なくとも2つの非貫通孔の全体が前記照射領域に含まれるように定められている、微小物体の集積方法。
【請求項2】
前記複数の非貫通孔は、周期的に2次元配列された格子点の位置に配置され、
前記複数の非貫通孔および前記照射領域のサイズは、少なくとも1つの単位格子の格子点の位置に配置されたすべての非貫通孔の全体が前記照射領域に含まれるように定められている、請求項1に記載の微小物体の集積方法。
【請求項3】
前記複数の非貫通孔は、ハニカム状に配置され、
前記複数の非貫通孔および前記照射領域のサイズは、少なくともハニカム格子の格子点の位置に配置された6つの非貫通孔の全体が前記照射領域に含まれるように定められている、請求項2に記載の微小物体の集積方法。
【請求項4】
前記複数の非貫通孔の各々は、内壁面がボウル型構造を形成する窪みである、請求項1に記載の微小物体の集積方法。
【請求項5】
前記ボウル型構造は、半球状よりも深い球欠状の窪みである、請求項4に記載の微小物体の集積方法。
【請求項6】
前記第2の薄膜は、
前記ボウル型構造の外部に配置された第3の薄膜と、
前記ボウル型構造の内部に配置された第4の薄膜とを含む、請求項5に記載の微小物体の集積方法。
【請求項7】
前記複数の非貫通孔の各々の孔径は、前記光の中心波長よりも小さい、請求項1に記載の微小物体の集積方法。
【請求項8】
前記集積するステップは、前記光の照射停止後に前記バブルが収縮するまで待機するステップをさらに含む、請求項1に記載の微小物体の集積方法。
【請求項9】
前記光熱変換領域は、前記光熱変換領域を上面視した場合に半透明に構成され、
前記集積するステップは、前記光熱変換領域の下面から前記光を照射するステップをさらに含む、請求項1に記載の微小物体の集積方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の微小物体の集積方法と、
前記光を照射した前記液体試料からの光を受光器により検出するステップと、
前記受光器からの信号に基づいて、前記液体試料中における前記複数の微小物体を検出するステップとを含む、微小物体の検出方法。
【請求項11】
前記受光器は、カメラを含み、
前記複数の微小物体を検出するステップは、
前記カメラにより撮影された画像から前記複数の微小物体の集積面積を算出するステップと、
前記複数の微小物体の濃度と前記複数の微小物体の集積面積との間に予め求められた相関関係を参照することによって、算出された前記集積面積から前記液体試料に含まれる前記複数の微小物体の濃度を算出するステップとを含む、請求項10に記載の微小物体の検出方法。
【請求項12】
前記複数の微小物体は、複数のウイルス、複数のタンパク質、複数の抗体、ならびに、各々がタンパク質および抗体を含む複数の複合体のうちの少なくとも1つを含み、
前記検出方法は、前記複数の微小物体を集積するステップに先立ち、
前記複数の微少物体のうちの対応する微少物体と特異的に結合するホスト物質により各々が修飾された複数の微粒子を含む他の液体試料を前記光熱変換領域に接触するように準備するステップと、
前記光を前記光熱変換領域に照射することによって、前記光の照射領域に前記バブルを発生させて前記バブルの周囲に前記複数の微粒子を集積するステップとをさらに含む、請求項11に記載の微小物体の検出方法。
【請求項13】
前記受光器は、反射光を測定可能に構成された分光器を含み、
前記複数の微小物体を検出するステップは、前記分光器により前記複数の微小物体の集積位置における反射スペクトルを測定するステップを含む、請求項10に記載の微小物体の検出方法。
【請求項14】
前記検出するステップは、
前記反射スペクトルのピークシフト量または反射率変化量を算出するステップと、
前記複数の微小物体の濃度と前記ピークシフト量または前記反射率変化量との間に予め求められた相関関係を参照することによって、算出された前記ピークシフト量または前記反射率変化量から前記液体試料に含まれる前記複数の微小物体の濃度を算出するステップとを含む、請求項13に記載の微小物体の検出方法。
【請求項15】
前記複数の微小物体は、
所定波長の蛍光を発する複数の第1の物体と、
前記所定波長とは異なる波長の蛍光を発し、前記複数の第1の物体よりも小さい複数の第2の物体とを含み、
前記受光器は、蛍光を測定可能に構成された分光器を含み、
前記複数の微小物体を検出するステップは、
前記分光器により前記複数の微小物体の集積位置における蛍光スペクトルを測定するステップと、
前記蛍光スペクトルに基づいて、前記液体試料に含まれる前記複数の第1の物体と前記複数の第2の物体との比率を算出するステップとを含む、請求項10に記載の微小物体の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微小物体の集積方法、および、それを用いた微小物体の検出方法に関し、より特定的には、液体試料中に分散した複数の微小物体を集積する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-194550号公報(特許文献1)は、試料に含まれる可能性がある被検出物質を検出光により検出する、被検出物質の検出キットを開示する。この検出キットは、基板と、第1~第3の薄膜とを備える。第1の薄膜は、金属からなり、基板上に配置されている。第2の薄膜は、各々の内壁面がボウル型構造を形成する複数の窪みを有し、第1の薄膜上に配置されている。第3の薄膜は、金属からなり、ボウル型構造内の少なくとも一部分に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-194550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体試料中に分散した微小物体を、たとえ微小物体の含有量が微量であっても集積可能であることが望ましい。一方、集積される微小物体への熱的なダメージ低減等の観点からは、できるだけ低い出力の光を用いて微小物体を集積可能であることが望ましい。このように、微量の微小物体を低出力の光を用いて集積する、言い換えると微小物体を高効率に集積する技術に対する要望が存在する。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の1つの目的は、液体試料中に分散した複数の微小物体を高効率に集積することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様において、微小物体の集積方法は、液体試料中に分散した複数の微小物体を集積する。微小物体の集積方法は、第1および第2のステップを含む。第1のステップは、光熱変換領域に接触するように液体試料を準備するステップである。第2のステップは、光熱変換領域の吸収波長域に含まれる波長を有する光を光熱変換領域に照射することによって、光の照射領域にバブルを発生させてバブルの周囲に複数の微小物体を集積するステップである。光熱変換領域は、第1の薄膜と、構造体と、第2の薄膜とを含む。第1の薄膜は、光を熱に変換する第1の材料を有する。構造体には、複数の非貫通孔が第1の薄膜上に周期的に配列されている。第2の薄膜は、光を熱に変換する第2の材料を有し、構造体の少なくとも一部分に配置されている。複数の非貫通孔および照射領域のサイズとは、光熱変換領域を上面視した場合に、複数の非貫通孔のうちの少なくとも2つの非貫通孔の全体が照射領域に含まれるように定められている。
【0007】
本開示の他の一態様において、微小物体の検出方法は、上記微小物体の集積方法と、光を照射した液体試料からの光を受光器により検出するステップと、受光器からの信号に基づいて、液体試料中における複数の微小物体を検出するステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、液体試料中に分散した複数の微小物体を高効率に集積できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る微小物体の検出システムの全体構成の一例を示す図である。
図2】実際に製造した検出キットの画像を示す図である。
図3】検出キットの斜視図である。
図4図3のIV-IV線に沿う検出キットの断面図である。
図5】底部の拡大図である。
図6】実施の形態1における検出キットの製造方法の概略工程図である。
図7】ナノボウル基板におけるボウル領域の画像を示す図である。
図8】マイクロボウル基板のSEM像を示す図である。
図9】ナノボウル基板のSEM像を示す図である。
図10】微小物体の集積メカニズムを説明するための図である。
図11】実施の形態1における微小物体の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
図12】マイクロバブルの発生のし易さの検討結果の一例を示す図である。
図13】ボウル型構造のサイズとレーザスポットのサイズとの間の関係を説明するための図である。
図14】実施の形態1に係る微小物体の検出システムの全体構成の他の一例を示す図である。
図15】ポリスチレンビーズの集積結果の蛍光像を示す図である。
図16】サンプル中のポリスチレンビーズの濃度を算出するための検量線の一例を示す図である。
図17】大腸菌の集積結果の蛍光像を示す図である。
図18】本実施の形態における擬似ウイルスナノ粒子の検出手法を説明するための概念図である。
図19】擬似ウイルスナノ粒子を含む分散液を用いた場合の擬似ウイルスナノ粒子の集積結果の蛍光像を示す図である。
図20】擬似ウイルスナノ粒子を含まない分散液を用いた場合の対照ナノ粒子の集積結果の蛍光像を示す図である。
図21】サンプル中の擬似ウイルスナノ粒子の濃度を算出するための検量線の一例を示す図である。
図22】実施の形態1における微小物体の検出方法の処理手順の他の一例を示すフローチャートである。
図23】レーザ光の照射停止後における微小物体の集積メカニズムを説明するための図である。
図24】バブル収縮処理を実施した場合の様々な濃度における微小物体の集積結果の蛍光像を示す図である。
図25】バブル収縮処理を実施した場合のサンプル中の微小物体の濃度を算出するための検量線の第1例を示す図である。
図26】バブル収縮処理を実施した場合のサンプル中の微小物体の濃度を算出するための検量線の第2例を示す図である。
図27】バブル収縮処理を実施した場合のサンプル中の微小物体の濃度を算出するための検量線の第3例を示す図である。
図28】検出キットの反射スペクトルの測定結果の一例を示す図である。
図29】測定対象とされた検出キットの画像を示す図である。
図30図29に示したサンプルの反射スペクトルの測定結果を示す図である。
図31】サンプルに微小物体が含有されている場合の検出キットの反射スペクトルの測定領域を示す図である。
図32】サンプルに微小物体が含有されている場合の検出キットの反射スペクトルの測定結果の一例を示す図である。
図33】実施の形態2における微小物体の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
図34】第1および第2のサンプルの各々を単独で使用した場合のボウル領域の画像および蛍光像を示す図である。
図35】マイクロ粒子およびナノ粒子の両方を含む混合サンプルにおけるボウル領域の画像および蛍光像を示す図である。
図36】反射スペクトルの反射率変化量から微小物体の濃度を算出するための検量線の一例を示す図である。
図37】微小物体の集積面積から微小物体の濃度を算出するための検量線の一例を示す図である。
図38】第1および第2のサンプルの各々を単独で使用した場合のボウル領域の画像および蛍光像を示す図である。
図39】マイクロ粒子およびナノ粒子の両方を含む混合サンプルにおけるボウル領域の画像および蛍光像を示す図である。
図40図39に示したボウル領域を自然乾燥後に直上から観察したSEM像である。
図41図39に示したボウル領域を自然乾燥後に検出キットの主面に対して45°の角度で観察したSEM像である。
図42】様々な混合サンプルの蛍光スペクトルの測定結果の一例を示す図である。
図43】実施の形態3における微小物体の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
図44】実施の形態4における検出キットの製造方法の概略工程図である。
図45図44に示した製造方法によって製造された検出キットの画像を示す図である。
図46】透過型の検出キットの透過スペクトルの測定結果の一例を示す図である。
図47】透過型の検出キットにおけるレーザスポットの画像を示す図である。
図48】透過型の検出キットによるナノ粒子の集積結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<用語の説明>
本開示および実施の形態において、「ナノメートルオーダー」には、1nmから1000nm(=1μm)までの範囲が含まれる。「マイクロメートルオーダー」には、1μmから1000μm(=1mm)までの範囲が含まれる。したがって、「ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲」には、1nmから1000μmまでの範囲が含まれる。「ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲」は、典型的には数nm~数百μmの範囲を示し、好ましくは100nm~100μmの範囲を示し、より好ましくは数百nm~数十μmの範囲を示し得る。
【0011】
本開示および実施の形態において、「微小物体」との用語は、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲のサイズを有する物体を意味する。微小物体の形状は特に限定されず、たとえば球形、楕円球形、ロッド形(棹形)である。微小物体が楕円球形の場合、楕円球の長軸方向の長さおよび短軸方向の長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。微小物体がロッド形の場合、ロッドの幅および長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。
【0012】
微小物体の例としては、金属ナノ粒子、金属ナノ粒子集合体、金属ナノ粒子集積構造体、半導体ナノ粒子、有機ナノ粒子、樹脂ビーズ、PM(Particulate Matter)などが挙げられる。「金属ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する金属粒子である。「金属ナノ粒子集合体」とは、複数の金属ナノ粒子が凝集することによって形成された集合体である。「金属ナノ粒子集積構造体」とは、たとえば複数の金属ナノ粒子が相互作用部位を介して基材(樹脂ビーズなど)の表面に固定され、互いに隙間を設けて、金属ナノ粒子の直径以下の間隔で配置された構造体である。「半導体ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する半導体粒子である。「有機ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する有機化合物からなる粒子である。「樹脂ビーズ」とは、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲のサイズを有する樹脂からなる粒子である。「PM」とは、マイクロメートルオーダーのサイズを有する粒子状物質である。PMの例としては、PM2.5、SPM(Suspended Particulate Matter)などが挙げられる。
【0013】
微小物体は生体由来の物質(生体物質)であってもよい。より具体的には、微小物体は、たとえば、細胞、微生物(細菌、真菌など)、生体高分子(タンパク質、核酸、脂質、多糖類など)、抗原(アレルゲンなど)、抗体、ウイルスを含み得る。
【0014】
本開示および実施の形態において、単位格子は、正方格子、長方格子、斜方格子、面心長方格子、六方格子(下記のハニカム状に相当)を含み得る。単位格子の複数の格子点の各々の位置には非貫通孔が形成される。「ハニカム状」との用語は、複数の正六角形が2次元方向に六方格子状(ハチの巣状)に配列された形状を意味する。複数の正六角形の各々には非貫通孔が形成される。「非貫通孔」とは、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲の開口を有する孔である。非貫通孔の形状は特に限定されず、円柱形、角柱形、球形(たとえば半球形または半楕円球形)等の任意の形状を含み得る。
【0015】
本開示および実施の形態において、「マイクロバブル」との用語は、マイクロメートルオーダーの気泡を意味する。
【0016】
本開示および実施の形態において、可視域とは、360nm~760nmの波長域を意味する。近赤外域とは、760nm~2μmの波長域を意味する。
【0017】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。以下の説明では、x方向およびy方向は水平方向を表す。x方向とy方向とは互いに直交する。z方向は鉛直方向を表す。重力の向きはz方向下方である。z方向上方を「上方」と略し、z方向下方を「下方」と略す場合がある。
【0018】
[実施の形態1]
<検出システムの全体構成>
図1は、実施の形態1に係る微小物体の検出システム100の全体構成の一例を示す図である。検出システム100は、xyz軸ステージ1と、調整機構2と、レーザ光源3と、レンズ31と、照明光源4と、対物レンズ5と、撮影機器6と、レンズ61と、分光光度計7と、レンズ71と、ダイクロイックミラー81と、ハーフミラー82,83と、コントローラ9とを備える。
【0019】
xyz軸ステージ1は、検出キット10を設置可能に構成されている。検出キット10にはサンプルが保持される。サンプルは、微小物体(樹脂ビーズ、ウイルスなど)を含有する可能性がある液体試料である。検出キット10の構成については図2図5にて詳細に説明する。
【0020】
調整機構2は、コントローラ9からの指令に従って、xyz軸ステージ1と対物レンズ5との相対的な位置関係を調整する。本実施の形態では対物レンズ5の位置が固定されている。そのため、xyz軸ステージ1のx方向、y方向およびz方向の位置調整により、xyz軸ステージ1と対物レンズ5との相対的な位置関係が調整される。なお、調整機構2としては、たとえば、顕微鏡に付属のサーボモータおよび焦準ハンドルなどの駆動機構(図示せず)を用いることができるが、調整機構2の具体的な構成は特に限定されない。調整機構2は、対物レンズ5の位置を調整できるように構成されていてもよい。
【0021】
レーザ光源3は、コントローラ9からの指令に従って、連続波(CW:Continuous Wave)のレーザ光(L1で示す)を発する。レーザ光の波長は、金属薄膜211,113(後述)の吸収波長域に含まれる波長であり、たとえば近赤外域の波長(後述の例では800nm、1064nm)である。レーザ光は、レンズ31により平行光(コリメート光)に調整された後にダイクロイックミラー81へと伝搬する。
【0022】
ダイクロイックミラー81は、レンズ31と対物レンズ5との間に配置されている。ダイクロイックミラー81は、レーザ光源からのレーザ光の波長域(たとえば近赤外域)の光を反射する。その一方で、ダイクロイックミラー81は、上記の波長域外(たとえば可視域)の光を透過する。ダイクロイックミラー81により反射されたレーザ光は、対物レンズ5へと伝搬する。
【0023】
照明光源4は、コントローラ9からの指令に従って、検出キット10上のサンプルを照らすための白色光(L2で示す)を発する。1つの実施例として、ハロゲンランプを照明光源4として用いることができる。照明光源4は、白色光を平行光に変換するための光学系を含んでもよい。白色光は、ハーフミラー82へと伝搬する。
【0024】
ハーフミラー82は、照明光源4とダイクロイックミラー81との間に配置されている。ハーフミラー82は、照明光源4からの白色光のうちの半分を透過し、残り半分を反射する。ハーフミラー82により反射された白色光は、ダイクロイックミラー81を透過して対物レンズ5へと伝搬する。
【0025】
対物レンズ5は、レーザ光源3からのレーザ光を集光して検出キット10に照射するために用いられる。また、対物レンズ5は、照明光源4からの白色光を集光して検出キット10に照射するためにも用いられる。さらに、対物レンズ5は、検出キット10により反射された白色光を取り込むためにも用いられる。対物レンズ5により取り込まれた白色光は、ダイクロイックミラー81およびハーフミラー82を透過してハーフミラー83へと向かう。
【0026】
ハーフミラー83は、ハーフミラー82とレンズ61との間、かつ、ハーフミラー82とレンズ71との間に配置されている。ハーフミラー83は、検出キット10から対物レンズ5に取り込まれた白色光のうちの半分を透過し、残り半分を反射する。ハーフミラー83を透過した白色光は、レンズ61により集光されて撮影機器6へと導かれる。一方、ハーフミラー83により反射された白色光は、レンズ71により集光されて分光光度計7へと導かれる。
【0027】
撮影機器6は、コントローラ9からの指令に従って、検出キット10上のサンプルを撮影し、撮影された画像をコントローラ9に出力する。撮影機器6により撮影される画像は、静止画であっても動画であってもよい。撮影機器6には、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを含むカメラを用いることができる。
【0028】
分光光度計7は、コントローラ9からの指令に従って検出キット10の反射スペクトルを測定し、その測定結果をコントローラ9に出力する。分光光度計7は、たとえば回折格子と、受光素子と、シャッタと、スリット(いずれも図示せず)とを含む。分光光度計7に入射した光は、スリットを通過後、回折格子に到達する。回折格子において、入射光は、その波長に応じた方向に反射する。受光素子の表面は複数の単位領域に区切られている。回折格子により反射された光は、受光素子の複数の単位領域のうち波長に応じた単位領域に入射する。そして、各単位領域での強度値に基づいて反射スペクトルが取得される。
【0029】
分光光度計7は、金属薄膜211,113の吸収波長域よりも広い波長域(たとえば可視域から近赤外域までの波長域)で反射スペクトルを測定可能であることが好ましい。また、分光光度計7の波長分解能は、より小さいほど好ましい。分光光度計7の波長分解能は、たとえば10nm以下、5nm以下、2nm以下または1nm以下であるが、これに限定されない。
【0030】
コントローラ9は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ91と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ92と、各種信号が入手される入出力ポート93とを含む。コントローラ9は、検出システム100内の各機器(調整機構2、レーザ光源3、照明光源4、撮影機器6および分光光度計7)を制御する。また、コントローラ9は、撮影機器6により撮影された画像または分光光度計7により測定された反射スペクトルに基づいて、サンプルに含有された微小物体を検出する。この検出手法については後述する。
【0031】
なお、図1に示す検出システム100の光学系は一例に過ぎない。検出システム100の光学系は、レーザ光源3からのレーザ光および照明光源4からの白色光を対物レンズ5へと導くとともに、検出キット10からの白色光を撮影機器6および分光光度計7へと導くことが可能であれば、これに限定されない。たとえば、照明光源4は、xyz軸ステージ1よりも下方に配置されてもよい。その場合、照明光源4から、照明光源4よりも上方に位置する検出キット10および撮影機器6に向けて白色光が照射される。検出システム100の光学系は、ダイクロイックミラー81およびハーフミラー82,83に代えてまたは加えて他の光学部品(フィルタ、光ファイバなど)を含んでもよい。
【0032】
<検出キットの構成>
図2は、実際に製造した検出キット10の画像を示す図である。図3は、検出キット10の斜視図である。図4は、図3のIV-IV線に沿う検出キット10の断面図である。図2図4を参照して、検出キット10は、サンプルを保持するように構成された容器である。検出キット10の形状は特に限定されないが、この例では平板状である。検出キット10は、底部11と、頂部12と、側部13とを含む。
【0033】
底部11は、サンプルの下方に配置されてサンプルを保持する。底部11の詳細な構成については図5にて説明する。
【0034】
頂部12は、基板110上に保持されたサンプルを上方から覆う。頂部12の材料には、レーザ光および白色光に対して透明な材料(ガラス、石英、シリコーンなど)が用いられる。図2の例では頂部12にカバーガラスが用いられている。
【0035】
側部13は、底部11から垂直方向(z方向)に延在し、底部11と頂部12との間に配置されている。側部13は、底部11に対して頂部12を固定するとともに、底部11と頂部12との間の距離を設定値に維持するために設けられる。この例では側部13には両面テープが用いられているが、他の材料(樹脂、ゴム、ガラス、石英、シリコーンなど)を用いてもよい。
【0036】
頂部12を設けて底部11と頂部12との間にサンプルを挟みこむことにより、マイクロバブル(後述)を安定的に発生させたり、反射スペクトルのノイズを低減したりすることができる。ただし、頂部12を非設置としてもよい。その場合、側部13も省略可能である。
【0037】
図5は、底部11の拡大図である。底部11は、基板110と、金属薄膜211と、導電性ポリマー膜112と、金属薄膜113とを含む。
【0038】
基板110は、検出キット10がサンプルを保持するための機械的強度を与える。基板110の材料には、金属薄膜211を固定可能な材料(ガラス、石英、シリコーンなど)を用いることができる。この例では、ガラスボトムディッシュ中央のガラス部分が基板110として用いられる。
【0039】
金属薄膜211は、金属からなり、基板110上に配置された薄膜である。金属薄膜211の厚み(膜厚)は、ナノメートルオーダーであり、たとえば数十ナノメートル程度である。金属薄膜211の材料には、レーザ光源3からのレーザ光(本実施の形態では近赤外光)により表面プラズモン共鳴を起こす材料が用いられる。実施の形態1では、金薄膜が金属薄膜211として形成される。
【0040】
金属薄膜211が金薄膜である場合、金薄膜表面の自由電子は表面プラズモンを形成し、レーザ光によって振動する。これにより分極が生じる。この分極のエネルギーは、自由電子と原子核との間のクーロン相互作用により格子振動のエネルギーに変換される。その結果、金薄膜は熱を発生させる。以下では、この効果を「光発熱効果」とも称する。金属薄膜211は、本開示に係る「第1の薄膜」に相当する。
【0041】
導電性ポリマー膜112は、導電性ポリマーからなり、金属薄膜211上に配置された膜である。導電性ポリマー膜112の厚みは、金属薄膜211と同様に、ナノメートルオーダーであり、たとえば数十ナノメートル~数百ナノメートル程度である。導電性ポリマー膜112の材料としては、ポリチオフェン系、ポリアセチレン系、ポリアニリン系、ポリピロール系などの公知の各種材料を用いることができる。この例ではポリピロールが採用される。導電性ポリマー膜112は、本開示に係る「構造体」に相当する。
【0042】
金属薄膜113は、金属からなり、導電性ポリマー膜112上に配置された薄膜である。金属薄膜113の厚みもナノメートルオーダーであり、たとえば数十ナノメートル程度である。金属薄膜113の材料にも、レーザ光源3からのレーザ光により光発熱効果を生じ得る材料(本実施の形態では金)が用いられる。金属薄膜113は、本開示に係る「第2の薄膜」に相当する。
【0043】
底部11には、複数の非貫通孔Pが周期的(規則的)に配置されている。非貫通孔Pのサイズは、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲である。より詳細に説明すると、導電性ポリマー膜112は複数の窪みを有する。複数の窪みの内壁面の各々は、球欠状の窪みである「ボウル型構造」を形成している。図5に示す例では、ボウル型構造の径は、金属薄膜211の直上に位置する最下部から球の中央部(直径部分)にかけて単調に増加し、かつ、中央部から開口部にかけて単調に減少する。しかし、ボウル型構造の径は、最下部から開口部にかけて単調に増加してもよい(後述する図6(C)参照)。
【0044】
金属薄膜113は、ボウル型構造の外部(上部外側)に配置されているとともに、ボウル型構造の内部(底面付近)に配置されている。ボウル型構造の外部に配置された金属薄膜に参照符号113Aを付し、ボウル型構造の内部に配置された金属薄膜に参照符号113Bを付して区別する。金属薄膜113Aは、複数の開口を有するシャンプーハットのような形状である。金属薄膜113A,113Bは、本開示に係る「第3の薄膜」および「第4の薄膜」にそれぞれ相当する。
【0045】
なお、図5には球欠状の窪みが示されているが、窪みの形状は、これに限定されるものではない。窪みは、たとえばロッド状(円柱状、角柱状など)、錐形状(円錐状、角錐状)であってもよい。さらに、窪みは、球欠状、ロッド状および錐形状を組み合わせた形状であってもよい。たとえば、窪みは、最下部から上方に向けて径が増大する球欠状または錐形状であって、かつ、開口部付近では径が一定の柱状であってもよい。
【0046】
金属薄膜211,113の材料は金に限定されるものではなく、光発熱効果を生じ得る金以外の金属元素(たとえば銀、白金)または金属ナノ粒子集積構造体(たとえば金ナノ粒子もしくは銀ナノ粒子を用いた構造体)などであってもよい。あるいは、金属薄膜211,113の材料は、レーザ光の波長域における光吸収性が高い金属以外の材料であってもよい。そのような材料としては、黒体に近い材料(たとえばカーボンナノチューブ黒体)が挙げられる。金属薄膜211の材料(第1の材料)と金属薄膜113の材料(第2の材料)とは互いに異なってもよい。
【0047】
<検出キットの製造>
図6は、実施の形態1における検出キット10の製造方法の概略工程図である。図6(A)を参照して、まず、基板110上に金属薄膜111が形成される。より詳細には、たとえば超音波洗浄機(図示せず)を用いて基板110が洗浄される。その後、たとえばイオンスパッタリング法によって基板110上に金属薄膜111が形成される。金属薄膜111の形成手法には、真空蒸着法または無電解メッキ法などの他の薄膜形成手法を用いてもよい。
【0048】
続いて、樹脂ビーズ(図6(B)にBで示す)が分散した分散液が金属薄膜211上に滴下される。樹脂ビーズの材料は、たとえばポリスチレン、アクリル、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレンである。樹脂ビーズの粒子径は、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲である。本実施の形態では、粒子径1.0μmまたは500nmのポリスチレンビーズを用いた。
【0049】
その後、金属薄膜211上に滴下された分散液を室温にて所定時間(たとえば24時間)だけ自然乾燥させる。そうすると、複数の樹脂ビーズが自己組織化により単層状かつ周期的に金属薄膜211上に配列する。分散液の乾燥が完了すると、水平方向(金属薄膜211の主面方向)に数ミリメートル~十数ミリメートルの範囲で樹脂ビーズの単層膜が形成される。
【0050】
続いて図6(C)に示すように、樹脂ビーズの単層膜の隙間を埋め、かつ、各樹脂ビーズの表面の一部が露出するように、導電性ポリマー膜112が形成される。この例では、導電性ポリマー膜112はポリピロール膜である。ポリピロール膜は、たとえば電解重合法を用いて形成できる。電解重合時間を適宜設定することで、導電性ポリマー膜112の高さ(すなわち、ボウル型構造の高さ)hを所望の値とすることが可能である。
【0051】
導電性ポリマー膜112の生成後、樹脂ビーズは除去される(図6(D)参照)。導電性ポリマー膜112の材料よりも樹脂ビーズの材料を溶解しやすい溶剤を用いて樹脂ビーズを選択的に溶解することで樹脂ビーズを除去できる。導電性ポリマー膜112がポリピロール膜であり、かつ、樹脂ビーズがポリスチレンビーズである場合、検出キット10をクロロホルム溶液に必要な時間(たとえば1分間)浸すことにより、樹脂ビーズを除去可能である。樹脂ビーズの除去が完了すると、導電性ポリマー膜112には、樹脂ビーズを鋳型とするボウル型構造が形成される。
【0052】
なお、自己組織化により配列された樹脂ビーズを鋳型としてナノボウル型構造を形成することは一実施例である。本開示に係る「複数の非貫通孔」は、たとえばリソグラフィーにより形成されたものであってもよい。
【0053】
最後に、導電性ポリマー膜112上に金属薄膜113がさらに形成される(図6(E)参照)。金属薄膜113は、金属薄膜211と同様にイオンスパッタリング法により形成できる。金属薄膜113の形成に真空蒸着法または無電解メッキ法を用いてもよい。金属薄膜113の厚みは、薄い(たとえば数十nm程度)ことが望ましい。
【0054】
なお、図2に示した検出キット10の例では、まず、ガラスボトムディッシュの底面に位置するガラス部分(基板110に相当)に金属薄膜211(金薄膜)がイオンスパッタリングにより形成される。続いて、金属薄膜211上に導電性ポリマー膜112(ポリピロール膜)が電解重合により形成される。その後、当該ガラス部分がガラスボトムディッシュから取り外され、導電性ポリマー膜112上に金属薄膜113(金薄膜)がイオンスパッタリングによりさらに形成される。そして、当該ガラス部分がスライドガラス上に設置されている。
【0055】
粒子径1.0μmのポリスチレンビーズを用いた場合、直径約1.0μmのボウル型構造が形成される。一方、粒子径500nmのポリスチレンビーズを用いた場合、直径約500nmのボウル型構造が形成される。以下、直径約1.0μmのボウル型構造が周期的に配列された検出キットを「マイクロボウル基板」と称する。直径約500nmのボウル型構造が周期的に配列された検出キットを「ナノボウル基板」と称する。また、底部11のうちボウル型構造が周期的に配列された領域を「ボウル領域」とも称する。ボウル領域は、本開示に係る「光熱変換領域」に相当する。ボウル型構造の直径を「ボウル径φ」とも記載する。
【0056】
図7は、ナノボウル基板におけるボウル領域の画像を示す図である。ボウル領域は構造色を発現する。このことからもボウル領域が微細な周期構造を有することが分かる。
【0057】
図8は、マイクロボウル基板のSEM(Scanning Electron Microscope)像を示す図である。図9は、ナノボウル基板のSEM像を示す図である。図8および図9より、ボウル領域ではボウル型構造がハニカム状に配列していることが確認された。ただし、ボウル型構造がハニカム状に配列されていることは周期的な配列の一実施例である。本開示に係る「複数の非貫通孔」は、二次元格子状に配置されていることが好ましく、たとえば、正方格子状、長方格子状、斜方格子状または面心長方格子状に配置され得る。たとえばリソグラフィー技術を用いる場合、本開示に係る「複数の非貫通孔」は、典型的には正方格子または長方格子状(いわゆるマトリックス状)に配列され得る。
【0058】
<集積メカニズム>
図10は、微小物体の集積メカニズムを説明するための図である。ボウル領域へのレーザ光の照射を開始すると、レーザ光の照射領域(以下、「レーザスポット」とも称する)での金属薄膜113の光発熱効果により、レーザスポット近傍が局所的に加熱される((A)参照)。そうすると、レーザスポット近傍のサンプルの分散媒(この例では水)が沸騰するなどしてレーザスポットにマイクロバブル(MBで示す)が発生する((B)参照)。マイクロバブルは時間の経過とともに成長する。
【0059】
レーザ光の照射に伴い、分散媒中にはマイクロバブルに加えて、規則的な熱対流が定常的に発生する。熱対流の方向は、(C)に矢印で示すように、一旦マイクロバブルに向かい、その後、マイクロバブルから遠ざかる方向である。熱対流が発生する理由は以下のように説明できる。熱対流は、浮力対流とマランゴニ対流とに分類される。
【0060】
レーザスポットに近いほど分散媒の温度は高くなる。つまり、光照射により分散媒中に温度勾配が生じる。この温度勾配に起因して浮力対流が発生する。より詳細には、マイクロバブルが生じた領域の上方に存在する分散媒が加熱により相対的に希薄となり浮力によって上昇する。それとともに、マイクロバブルの水平方向に存在する相対的に低温の分散媒がマイクロバブルに向けて流入する。
【0061】
また、一般に、気泡表面に生じる界面張力は気泡表面における分子密度に依存し、分子密度が高いほど界面張力は小さくなる。本実施の形態における分子密度は、分散媒を構成する分子の密度に加えて、微小物体の密度にも影響される。そのため、マイクロバブルと周囲の分散媒との間の気液界面に微小物体の密度の勾配が存在する場合、微小物体の密度が高い領域(通常、下方の領域)は、界面張力が釣り合うように、微小物体の密度が低い領域(上方の領域)の方向に引っ張られる。このときの気液界面の動きが液体内部(バルク)に伝わり、マランゴニ対流が発生する。なお、マランゴニ対流は密度勾配に依存する一方で重力には依存しない。
【0062】
微小物体は、熱対流(浮力対流および/またはマランゴニ対流)によってマイクロバブルに向けて輸送され、マイクロバブルによって捕捉される。より詳細には、マイクロバブルとボウル領域との間には、熱対流の流速が略ゼロとなる領域である「よどみ領域」が生じる。熱対流によって輸送された微小物体がよどみ領域に捕捉される結果、微小物体がレーザスポット近傍に集積される((D)参照)。このように、マイクロバブルは、微小物体を堰き止める「ストッパ」として機能することで微小物体の集積サイトとなる。このメカニズムに従って、サンプル中に分散した微小物体をレーザスポット近傍に濃縮して集積する作用を「光濃縮」とも呼ぶことができる。
【0063】
<検出フロー>
実施の形態1においては、微小物体をレーザスポットに集積するのに加えて、レーザスポットへの微小物体の集積量に基づいて、サンプルに含有される微小物体の濃度を算出できる。
【0064】
図11は、実施の形態1における微小物体の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、予め定められた条件成立時(たとえば測定者による操作を受け付けたとき)に図示しないメインルーチンから呼び出されて実行される。各ステップは、基本的にはコントローラ9によるソフトウェア処理により実現されるが、コントローラ9内に配置されたハードウェア(電気回路)により実現されてもよい。以下、ステップをSと略す。
【0065】
S101において、サンプルがボウル領域上に準備された検出キット10がxyz軸ステージ1上に設置される。この処理は測定者が手動で行ってもよいが、検出キット10を送り出す機構(図示せず)を設けることにより自動化することも可能である。また、サンプルをディスペンサ等を用いてボウル領域上に滴下できる。
【0066】
S102において、コントローラ9は、所定出力のレーザ光を所定時間だけ出力するようにレーザ光源3を制御する。レーザ光の出力(レーザ出力)およびレーザ光の照射時間(レーザ照射時間)は、事前に実施した実験またはシミュレーションの結果に基づき、検出キット10の仕様(金属薄膜211,113の材料、膜厚など)、微小物体の特性(想定濃度、サイズなど)に応じた値に定められる。レーザ光の照射により、図10にて説明した集積メカニズムに従って微小物体がレーザスポットに集積される。
【0067】
S103において、コントローラ9は、白色光を照射するように照明光源4を制御しつつ、集積サイトとなるボウル領域の画像(たとえば静止画)を撮影するように撮影機器6を制御する。動画を撮影する場合には、コントローラ9は、レーザ光の照射開始に先立って白色光の照射を開始するように照明光源4を制御してもよい。コントローラ9は、ボウル領域の撮影終了後には照明光源4に白色光の照射を停止させてもよい。
【0068】
S104において、コントローラ9は、撮影機器6により撮影された画像に微小物体の集積体が観察されるかどうかを判定する。微小物体の集積体が観察されなかった場合(S104においてNO)、コントローラ9は、サンプルには微小物体が含有されていない(サンプル中の微小物体の濃度が検出限界を下回っている)と判定する(S108)。
【0069】
一方、微小物体の集積体が観察された場合(S104においてYES)、コントローラ9は、微小物体がサンプルに含有されていると判定する(S105)。この場合、コントローラ9は、微小物体が集積された領域の面積(集積面積)を算出する(S106)。コントローラ9は、たとえば、微小物体が集積された領域をパターン認識の画像処理技術を用いて抽出することで、その領域の面積を算出できる。さらに、コントローラ9は、予め求められた検量線(後述)を参照することで、S106にて算出された集積面積から、サンプルに含有される微小物体の濃度を算出する(S107)。S107またはS108の処理が終了すると、コントローラ9は、処理をメインルーチンへと戻す。
【0070】
<マイクロバブルの発生>
以上のような微小物体の検出システム100および検出方法の実用化を促進するためには、微小物体を高効率に集積可能であることが望ましい。本発明者らは鋭意検討の結果、マイクロバブルの発生のし易さがボウル型構造のサイズに依存することを見出した。この知見を利用することで微小物体を高効率に集積することが可能になる。
【0071】
図12は、マイクロバブルの発生のし易さの検討結果の一例を示す図である。横軸は、レーザ出力(対物レンズ5を通過した後のレーザ光の出力)を表す。縦軸は、マイクロバブルの発生確率を表す。レーザ光の波長は1064nmとした。レーザ照射時間は5秒とした。レーザ出力を1mW~10mWの間で1mWずつ変化させた。各レーザ出力で10回の測定を行い、マイクロバブルが発生した回数からマイクロバブルの発生確率を算出した。
【0072】
マイクロボウル基板およびナノボウル基板のいずれにおいても、レーザ出力を3mW以上に設定することで、おおよそ80%以上の確率でマイクロバブルを発生させることができた。特に、レーザ出力が2~5mWの範囲では、ナノボウル基板ではマイクロボウル基板と比べて、マイクロバブルの発生確率が高かった。レーザ出力を高くした場合、確実にマイクロバブルを発生させて微小物体を集積できる反面、集積された微小物体に熱的なダメージが加えられる可能性がある。また、レーザ出力が高いレーザ光源ほど大型になる傾向がある。ナノボウル基板では、低いレーザ出力でマイクロバブルを発生させて微小物体を集積可能であるため、微小物体への熱的なダメージを低減できるとともにレーザ光源3を小型化できる。
【0073】
レーザ出力が等しい条件下では、ナノボウル基板を用いた場合の方がマイクロボウル基板を用いた場合と比べて、マイクロバブルの発生確率が高い。その理由は以下のように説明される。
【0074】
図13は、ボウル型構造のサイズとレーザスポットのサイズとの間の関係を説明するための図である。本実施の形態においては、レーザスポットの直径(スポット径)Dは非常に小さく、ボウル径φ(=500nm,1.0μm)と同程度である。一例として、スポット径Dは2.16μmであった。なお、図13の例では簡略化のため、レーザスポットが真円である場合を想定したが、レーザスポットの形状は真円以外(たとえば楕円)であってもよい。
【0075】
マイクロボウル基板では、極めて少数のボウル型構造しかレーザスポットに含まれない。具体的には、レーザ光の中心に位置する1つのボウル型構造は、その全体がレーザスポットに含まれるものの、その中心のボウル型構造の周囲に位置する6つのボウル型構造は部分的にしかレーザスポットに含まれない。すなわち、マイクロボウル基板のボウル領域を上面視した場合、レーザスポットに全体が含まれるボウル型構造の個数は1個だけである。
【0076】
これに対し、ナノボウル基板においては、少なくとも2つのボウル型構造の全体がレーザスポットに含まれる。さらに、スポット径D=2.16μmに対してボウル径φ=500nmである場合には、少なくとも、レーザ光の中心に位置する1つのボウル型構造に加えて、その中心のボウル型構造の周囲に位置する6つのボウル型構造もレーザスポットに含まれる。言い換えると、少なくともハニカム格子の格子点の位置に配置された6つのボウル型構造の全体がレーザスポットに含まれる。よって、ナノボウル基板においてレーザスポットに全体が含まれるボウル型構造の個数は7個以上である。
【0077】
数式を用いて別の観点から説明する。レーザスポットに含まれるボウル型構造の個数Nは、スポット径Dおよびボウル径φを用いて下記式(1)のように算出される。ここでの個数Nとは、レーザスポットに半分だけ含まれるボウル型構造については0.5個と算出するなど、レーザスポットに含まれる割合に応じた少数点以下の個数についても足し合わせた値である。
【0078】
【数1】
【0079】
マイクロボウル基板では、スポット径D=2.16μm、ボウル径φ=1.0μmを代入すると、N=4.2である。一方、ナノボウル基板では、スポット径D=2.16μm、ボウル径φ=500nmを代入すると、N=16.9である。つまり、ナノボウル基板ではマイクロボウル基板と比べて4倍以上の個数のボウル型構造がレーザスポットに含まれる。
【0080】
マイクロボウル基板のボウル型構造とナノボウル基板のボウル型構造とが相似形であると仮定する。そうすると、マイクロボウル基板における各ボウル型構造の体積と、ナノボウル基板における各ボウル型構造の体積との体積比は8:1である。レーザスポット内のボウル型構造の合計体積比は、各ボウル型構造の体積比(8:1)と、レーザスポット内のボウル型構造の個数比(4.2:16.9)とを掛け合わせることで算出され、2:1である。つまり、ナノボウル基板へのレーザ光の照射に伴って加熱される部分の体積は、マイクロボウル基板へのレーザ光の照射に伴って加熱される部分の体積の約半分である。
【0081】
ナノボウル基板とマイクロボウル基板とに同じ出力のレーザ光を照射した場合、金属薄膜113の厚みが同一であれば、各基板に与えられる熱量は等しい。ナノボウル基板ではマイクロボウル基板と比べて、与えられる熱量が等しい一方で、加熱される部分の体積は約半分で済むため、高効率にボウル型構造内部の光加熱が実現される。したがって、ナノボウル基板ではマイクロボウル基板と比べて、マイクロバブルが発生しやすくなると考えられる。
【0082】
ナノボウル基板ではマイクロボウル基板と比べてマイクロバブルが発生しやすい理由をマイクロバブルの発生メカニズムを考慮して、より詳細に検討する。マイクロバブルの発生メカニズムは以下のように考えられる。図5にて説明したように、ボウル型構造の外部(上部外側)には金属薄膜113Aが配置され、ボウル型構造の内部には金属薄膜113Bが配置されている。また、レーザ光の照射開始前のボウル型構造の内部には、分散媒である水以外に空気が残存している。レーザ光の照射を開始すると、ボウル型構造の内部の金属薄膜113Bの光発熱効果により残存空気が膨張する。そうすると、残存空気がボウル型構造から出てくることで分散媒中にマイクロバブルの核が生成される。レーザ光の照射を継続すると、ボウル型構造の外部の金属薄膜113Aおよび/または内部の金属薄膜113Bの光発熱効果により分散媒が加熱されて沸騰することで、水蒸気が生成される。そして、マイクロバブルの核に、その近傍で生成された水蒸気が付着することでマイクロバブルが成長する。
【0083】
ナノボウル基板においてマイクロバブルが発生しやすい3つの理由が考えられる。第1の理由は以下の熱力学的考察に基づく。ボウル型構造内の残存空気が理想気体であると仮定する。残存空気の内圧をpと記載する。残存空気の体積(=ボウル型構造の体積)をVと記載する。残存空気を構成する気体分子のモル数をnと記載する。残存空気の温度をTと記載する。残存空気の内部エネルギーをUと記載する。レーザ光の照射により光加熱された金属薄膜113から残存空気に与えられる熱量をdQと記載する。
【0084】
分散媒の蒸発は無視して残存空気のみのエネルギー保存則を考えた場合、光加熱前の状態方程式はpV=nRT∝U(Rは気体定数)である。そのため、定圧過程である場合、残存空気の体積Vは内部エネルギーUに比例する。残存空気の膨張初期の時点では体積変化量dV≒0であるから、熱力学第一法則dU=dW+dQより、dW=-pdV≒0となる。そのため、残存空気の内部エネルギーUの変化量dU≒dQである。レーザスポット内の金属薄膜113の面積が等しく、かつ、初期温度Tおよび熱量の変化dQが等しい場合、ボウル型構造の体積Vが小さいほど、残存空気に含まれる分子数nが少ないので、各分子に与えられる熱量dQ/nが大きい。このことは、ボウル型構造の体積Vが小さいナノボウル基板の方がマイクロボウル基板と比べて、単位体積当たりの熱量変化dQ/Vが大きいことを意味している。状態方程式からdQ/Vは内圧pに比例する。したがって、ナノボウル基板の方がマイクロボウル基板と比べて、レーザ光の照射に伴って残存空気の内圧pが上昇しやすい。内圧pが高くなると、残存空気が膨張してボウル型構造から出てきやすくなる。よって、ナノボウル基板ではマイクロバブルの核が生成されやすいと考えられる。
【0085】
なお、ナノボウル基板のボウル型構造が小さいことは、ナノボウル基板の撥水性の向上にも寄与しており、それにより、光加熱前のボウル型構造の内部に残存空気が保持されやすくなっている(言い換えると、光加熱しないと、ボウル型構造から残存空気が出てきにくくなっている)可能性もある。
【0086】
第2の理由は、ナノボウル基板ではレーザスポットに含まれるナノボウル構造の個数が多いため、多数の核が生成され得るためである。第3の理由は、ナノボウル基板では金属薄膜113Aと金属薄膜113Bとの間の距離が近い分だけ、水蒸気が核に付着しやすくなり得るためである。
【0087】
[実施の形態1の実施例]
様々な微小物体の集積結果について説明する。これらの実施例では以下のシステム構成を採用し、白色光照射下での画像(光学顕微鏡像)の撮影に代えて蛍光像の撮影を実施した。
【0088】
図14は、実施の形態1に係る微小物体の検出システムの全体構成の他の一例を示す図である。検出システム101は、照明光源に代えて励起光源4Aを備える点、および、蛍光フィルタ62をさらに備える点において、実施の形態1に係る検出システム100(図1参照)と異なる。
【0089】
励起光源4Aは、コントローラ9からの指令に従って、検出キット10上のサンプルに含まれる蛍光色素を励起するための励起光(L3で示す)を発する。励起光源4Aは、単色光を発する光源(LED(Light Emitting Diode)など)であってもよいし、広帯域の光を発する、分光器付きの光源(水銀ランプなど)であってもよい。励起光源4Aは、励起光を平行光に変換するための光学系を含んでもよい。
【0090】
蛍光フィルタ62は、撮影機器6の前段に配置されている。蛍光フィルタ62は、サンプルに含まれる蛍光色素から発せられる蛍光の波長域の光を透過させる一方で、その波長域外の光は遮断する。検出システム101の上記以外の構成は、検出システム100の対応する構成と基本的に同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。
【0091】
<ポリスチレンビーズの集積>
まず、ナノボウル基板を用いてポリスチレンビーズを集積し、集積されたポリスチレンビーズの集積面積からサンプル中のポリスチレンビーズの濃度を算出した例について説明する。この例では蛍光染色されたポリスチレンビーズ(蛍光ビーズ)を使用した。ポリスチレンビーズの直径は100nmであった。このサイズは、ウイルスのサイズと同程度である。たとえば新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)の直径は、50nm~200nm程度である。
【0092】
ポリスチレンビーズの初期濃度(集積前の濃度)が互いに異なる3つのサンプルを準備した。それらのサンプル中のポリスチレンビーズの初期濃度は、4.55×1010[particles/mL]、4.55×10[particles/mL]、4.55×10[particles/mL]であった。各サンプルの体積は20μLであった。レーザ光の波長は1064nmであった。レーザ出力は10mWであった。レーザ照射時間は90秒間であった。
【0093】
図15は、ポリスチレンビーズの集積結果の蛍光像を示す図である。ポリスチレンビーズの初期濃度が高いほど、蛍光を発する領域の面積が広く、かつ、蛍光の強度も高いことが観察された。
【0094】
図16は、サンプル中のポリスチレンビーズの濃度を算出するための検量線の一例を示す図である。横軸は、サンプル中のポリスチレンビーズの初期濃度を表す。縦軸は、ポリスチレンビーズの集積面積を表す。エラーバーは測定回数=3での標準偏差を表す。
【0095】
図16より、上記3つのサンプルの集積面積が同一直線上に位置することが分かる。したがって、この直線で表される正の相関関係を検量線として事前実験により求めてコントローラ9のメモリ92に格納しておく。コントローラ9は、検量線を参照することで、ポリスチレンビーズの集積面積からポリスチレンビーズの初期濃度を算出できる。
【0096】
<細菌の集積>
細菌の集積結果について説明する。この例では大腸(Escherichia coli)を使用した。大腸菌は棹菌であり、短径0.7μm、長径2~4μm程度のサイズを有する。大腸菌の濃度は4.0×108[cells/mL]であった。レーザ出力は5mWであった。レーザ照射時間は60秒であった。レーザ波長は800nmであった。大腸菌を蛍光染色した。
【0097】
図17は、大腸菌の集積結果の蛍光像を示す図である。図17には3つのサンプルにおける大腸菌の集積結果が示されている。蛍光色素としてはSYTO9(登録商標)またはPI(Propidium Iodide)を用いた。SYTO9は、生存している細菌(生菌)と死滅した細菌(死菌)との両方を染色する。SYTO9を外部から励起すると、緑色の蛍光を発する。一方、PIは、死菌のみを染色する。PIを外部から励起すると、赤色の蛍光を発する。
【0098】
SYTO9を用いた上段の蛍光像(SYTO9像)と、PIを用いた下段の蛍光像(PI像)とを解析することによって、集積された大腸菌の生存率を算出できる。生存率とは、下記式(1)に示すように、集積された全大腸菌数に対する生菌数の比率を意味する。集積された大腸菌数は大腸菌の集積面積に通常は比例するので、集積面積を数に読み替えることができる。
【0099】
生存率=生菌数/(生菌数+死菌数)×100 ・・・(1)
SYTO9像を画像解析すると、全大腸菌(生菌および死菌)の集積面積は、サンプル1では1870.92μmであり、サンプル2では1616.67μmであり、サンプル3では1463.64μmであった。PI像を画像解析すると、死菌の集積面積は、サンプル1では167.13μmであり、サンプル2では78.99μmであり、サンプル3では131.75μmであった。これから、サンプル1~3における大腸菌の生存率は、91.07%、95.11%、91.00%とそれぞれ算出された。平均生存率は92.39%であった。このように、本実施の形態によれば、大部分の細菌を生きたまま集積できる。
【0100】
<擬似ウイルスの集積>
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を模したナノ粒子である「擬似ウイルスナノ粒子」(Virus-mimicking NPs(nanoparticles))の集積結果について説明する。
【0101】
図18は、本実施の形態における擬似ウイルスナノ粒子の検出手法を説明するための概念図である。3種類の分散液A,B,Cを用いて2通りの測定を実施した。第1の測定は、分散液Aと分散液Bとを用いた測定である。第2の測定は、分散液Aと分散液Cとを用いた測定である。第2の測定は、第1の測定に対する対照実験として実施される。
【0102】
新型コロナウイルスは、その表面にスパイクタンパク質(S-protein)を有する。スパイクタンパク質は、外側に位置するS1部位と、内側に位置するS2部位とを含む。分散液Aは特異結合ナノ粒子SBを含む。特異結合ナノ粒子SBとは、ストレプトアビジン(Streptavidin)により修飾されたポリスチレン粒子である。当該ストレプトアビジンは、スパイクタンパク質のS1部位に特異的に結合するビオチン化された抗体(本開示に係る「ホスト物質」に相当)により修飾されている。
【0103】
分散液Bは擬似ウイルスナノ粒子Vを含む。擬似ウイルスナノ粒子Vは、S1部位が外側に位置するようにスパイクタンパク質により修飾されたポリスチレン粒子である。一方、分散液Cは、擬似ウイルスナノ粒子VMに代えて対照ナノ粒子を含む。対照ナノ粒子は、単にストレプトアビジンにより修飾されただけのポリスチレン粒子である。すなわち、対照ナノ粒子はスパイクタンパク質では修飾されていない。
【0104】
3種類全ての分散液A、B,Cにおいて、コアとなるポリスチレン粒子の直径は100nmであった。擬似ウイルスナノ粒子VMおよび対照ナノ粒子のコアとしては赤色を発する蛍光色素(micromerR(登録商標)-redF)により染色された蛍光ビーズを用いた。分散液Aにおける特異結合ナノ粒子SBの濃度は1.9×1012[particles/mL]であった。分散液Bにおける擬似ウイルスナノ粒子VMの濃度は1.9×10、1.9×1010または1.9×1011[particles/mL]であった。分散液Cにおける対照ナノ粒子の濃度は1.9×10、1.9×1010または1.9×1011[particles/mL]であった。
【0105】
測定手順について説明する。まず、5μLの分散液Aを検出キット10(マイクロボウル基板またはナノボウル基板)上に滴下する。そして、レーザ光の分散液Aへの照射により、特異結合ナノ粒子SBを光濃縮する。これにより、検出キット10上に特異結合ナノ粒子SBが集積される(図18(A)参照)。特異結合ナノ粒子SBが集積された領域は、擬似ウイルスナノ粒子VMと特異的に結合することで擬似ウイルスナノ粒子VMを捕捉する「トラップサイト」として機能する。分散液Aの分散媒はエアダスタ(図示せず)により除去される。続いて、5μLの分散液Bを検出キット10上に滴下する。レーザ光の分散液Bへの照射により、擬似ウイルスナノ粒子VMを光濃縮する。これにより、特異結合ナノ粒子SBが集積された領域に擬似ウイルスナノ粒子VMがさらに集積される(図18(B)参照)。その後、検出キット10の表面が洗浄される。そして、蛍光像が撮影される。第2の測定では分散液Bに代えて分散液Cが用いられる点以外は上記手順と同じである。
【0106】
図19は、擬似ウイルスナノ粒子NBを含む分散液Bを用いた場合(第1の測定)の擬似ウイルスナノ粒子VMの集積結果の蛍光像を示す図である。図20は、擬似ウイルスナノ粒子NBを含まない分散液Cを用いた場合(第2の測定)の対照ナノ粒子の集積結果の蛍光像を示す図である。レーザ出力は10mWであった。レーザ照射時間は60秒であった。レーザ波長は800nmであった。レーザ光のビームウエストが検出キット10の底部11よりも10μm下方に位置するように、検出キット10の位置を調整機構2により調整した。
【0107】
濃度1.9×1010[particles/mL]では、擬似ウイルスナノ粒子VMを含む場合には蛍光が観察された一方で、擬似ウイルスナノ粒子VMを含まない場合には蛍光はほとんど観察されなかった。より高い濃度1.9×1011[particles/mL]では、擬似ウイルスナノ粒子VMを含まない場合にもわずかに蛍光が観察された。しかし、擬似ウイルスナノ粒子VMを含まない場合の蛍光面積は、擬似ウイルスナノ粒子VMを含む場合(右下参照)の蛍光面積と比べると著しく小さかった。
【0108】
このように、本実施の形態によれば、擬似ウイルスナノ粒子(すなわち新型コロナウイルス)を特異的に検出できるとともに、擬似ウイルスナノ粒子の濃度の違いを蛍光面積により定量化できる。したがって、以下のように3種類(またはそれ以上)の濃度での擬似ウイルスナノ粒子の集積結果から検量線を作成することにより、サンプル中の擬似ウイルスナノ粒子の濃度を定量可能である。
【0109】
図21は、サンプル中の新型コロナウイルスの濃度を算出するための検量線の一例を示す図である。横軸は、サンプル中の擬似ウイルスナノ粒子の初期濃度を表す。縦軸は、擬似ウイルスナノ粒子の集積面積を表す。エラーバーは測定回数=3での標準偏差を表す。図21には対照実験の結果も併せて示されている。
【0110】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した患者からの直径5μmの飛沫には、10個~1000個の新型コロナウイルスが含まれるとされている(N.leung, et al, Nat Med, Lett., 26, 676-680(2020)参照)。直径5μmの飛沫に含まれる新型コロナウイルスが10個である場合、新型コロナウイルスの濃度は1.52×1011[particles/mL]である。この濃度は、今回検出に成功した濃度範囲1.9×1010~1.9×1011[particles/mL]内に含まれている。したがって、図19図21に示す測定結果は、飛沫程度の極微量のサンプルからであっても新型コロナウイルスを検出できる可能性を示唆したものであると言える。
【0111】
この例では高濃度ほど標準偏差が大きい。その理由としては、高濃度ほど集積構造が大きく、その分だけ、検出キット10の表面洗浄時に集積構造も洗浄されてバラつきが起きやすい可能性が考えられる。一方、低濃度では標準偏差が比較的小さい。よって、感染初期のような低濃度であってもウイルスを高感度に検出できる可能性がある。
【0112】
なお、ここでは新型コロナウイルスを例に説明したが、本実施の形態は他のウイルスにも適用可能である。また、ウイルスに代えてまたは加えて、タンパク質、抗体、ならびに、タンパク質および抗体を含む複合体などにも適用できる。
【0113】
<マイクロバブルの収縮>
さらなる低濃度での微少物体の検出を可能にするための方法について説明する。
【0114】
図22は、実施の形態1における微小物体の検出方法の処理手順の他の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、S102とS103との間にS102Aの処理を含む点において、図11に示したフローチャートと異なる。S102にてレーザ光を出力して光濃縮を行った後、コントローラ9は、レーザ光の照射を停止し、所定時間だけ待機する(S102A)。その後、コントローラ9は、撮影機器6を制御して集積サイトの画像を撮影する(S103)。
【0115】
図23は、レーザ光の照射停止後における微小物体の集積メカニズムを説明するための図である。図23には図10(D)の後に生じるメカニズムが図示されている。レーザ光の照射停止時、熱対流によって輸送された微少物体の一部がマイクロバブルの上側表面に吸着している(図23(E)参照))。レーザ光の照射停止後、時間の経過とともにマイクロバブルは収縮する(図23(F)参照))。マイクロバブルが収縮するに従ってマイクロバブルの上側表面の位置が下がる。それに伴い、マイクロバブルの上側表面に吸着している微少物体も下方に移動する。よって、マイクロバブルが消失すると、マイクロバブルの上側表面に吸着していた微少物体がマイクロバブルが存在していた位置に集積される(図23(G)参照)。このようにマイクロバブルの収縮を利用して微少物体の集積を促進する処理を以下、「バブル収縮処理」とも称する。
【0116】
図24は、バブル収縮処理を実施した場合の様々な濃度における微小物体の集積結果の蛍光像を示す図である。6種類の異なる濃度のサンプルを準備した。微少物体としては、黄緑色の蛍光を発する蛍光ビーズ(Polysciences社製Fluoresbrite YG)を使用した。蛍光ビーズの直径は100μmであった。ナノボウル基板を使用した。レーザ出力は100mWであった。レーザ照射時間は30秒であった。レーザ波長は800nmであった。レーザ光のビームウエストがナノボウル基板の底部よりも10μm下方に位置するように、ナノボウル基板の位置を調整機構2により調整した。レーザ照射停止後の待機時間は60秒であった。
【0117】
図24より、最も低濃度である4.55×10[particles/mL]であっても蛍光ビーズが集積されていることが分かる。この濃度は、バブル収縮処理を実施しない場合に蛍光ビーズを集積可能な下限濃度4.55×10[particles/mL]の約100の1である。つまり、バブル収縮処理を実施することで、バブル収縮処理を実施しない場合と比べて、微少物体を集積可能な下限濃度が2桁低くなる。これは、微少物体の検出感度がバブル収縮処理により2桁向上する可能性を示している。
【0118】
図25は、バブル収縮処理を実施した場合のサンプル中の微小物体の濃度を算出するための検量線の第1例を示す図である。横軸は微少物体(蛍光ビーズ)の濃度を表す。縦軸は微少物体の集積面積を表す。
【0119】
図25では、各濃度における集積面積のプロットが、一次関数を用いたカーブフィッティングにより得られた直線状の検量線から外れていることが分かる。その理由の1つは、バブル収縮処理により微少物体の集積量が増加した場合、微少物体が立体構造をとるためである。微少物体が立体的に集積される場合、微少物体の集積が進むに従って集積面積が線形に増加するわけではない。そこで、微少物体の濃度と集積濃度との間の相関関係のプロットの仕方を工夫することが考えられる。
【0120】
図26は、バブル収縮処理を実施した場合のサンプル中の微小物体の濃度を算出するための検量線の第2例を示す図である。図27は、バブル収縮処理を実施した場合のサンプル中の微小物体の濃度を算出するための検量線の第3例を示す図である。図26および図27の横軸は、微少物体の濃度を常用対数表示で表す。図26の縦軸は微少物体の集積面積を表す。図27の縦軸は、微少物体の集積面積の3/2乗値を表す。3/2乗とは、面積を体積に擬似的に変換する操作である。
【0121】
図25図27を比較すると、片対数プロットである図26において最も直線性が高い検量線が得られていることが分かる。このように、定量しようとする微少物体の集積量に応じて適切なプロットの仕方を採用することで、直線性が高い検量線を作成できる。
【0122】
以上のように、実施の形態1においては、サンプル中に分散した複数の微小物体を集積するのにマイクロボウル基板に代えてナノボウル基板が用いられる。ナノボウル基板に配置されたナノボウル型構造のサイズは極めて小さい。具体的には、各ナノボウル型構造のボウル径φはレーザ光のスポット径Dよりも十分に小さく、複数のナノボウル型構造がレーザスポットに含まれる。また、ボウル径φは、レーザ光の波長(1064nm、800nmなど)よりも小さいことが望ましい。このような条件下では金属薄膜113の表面積増大に伴う光発熱効果の増強が顕著になる。したがって、レーザ出力が低くてもマイクロバブルを高確率で発生させることができる。よって、実施の形態1によれば、サンプル中に分散した複数の微小物体を高効率に集積できる。また、微小物体の集積時間を短縮することで、サンプル中の微小物体を迅速に検出することも可能になる。
【0123】
[実施の形態2]
実施の形態2においては、検出キット10の反射スペクトルに基づいて微小物体を検出する構成について説明する。微小物体の検出システムの全体構成は、図1に示した構成と同様であるため、説明は繰り返さない。以下の測定例では、検出キット10としてナノボウル基板およびマイクロボウル基板に加えて、金属薄膜211(金薄膜)は形成されているもののボウル型構造は非形成の平坦基板をさらに用いた。
【0124】
図28は、検出キット10の反射スペクトルの測定結果の一例を示す図である。サンプルには空気または水を用いた。サンプルに微小物体は含有されていない。
【0125】
平坦基板では、サンプルの種類(空気または水)に応じて反射スペクトルの強度は変化するものの、反射スペクトルの形状は類似していた。一方、マイクロボウル基板では、反射スペクトルの強度に加えて反射スペクトルの形状も変化した。具体的には反射スペクトルのピークシフトが観測された。ナノボウル基板では、マイクロボウル基板と比べて、反射スペクトルの強度および形状の変化がより顕著であった。サンプルには微小物体が含有されていないため、図28に示すピークシフトはボウル型構造に配置された金属薄膜113の局在表面プラズモンに由来するものと考えられる。
【0126】
図29は、測定対象とされた検出キット10の画像を示す図である。この例では、検出キット10にはナノボウル基板を用いた。サンプルには空気、水およびエタノールを用いた。サンプルに微小物体は含有されていない。図29に示すように、ナノボウル基板の色がサンプルの種類に応じて変化することが目視により確認された。
【0127】
図30は、図29に示したサンプルの反射スペクトルの測定結果を示す図である。図30には、マイクロボウル基板を用いた反射スペクトルの測定結果も併せて示されている。
【0128】
マイクロボウル基板では、サンプルが空気である場合の反射スペクトルのピーク波長と、サンプルが水である場合の反射スペクトルのピーク波長との間の差異(ピークシフト量)は、約20nmであった。一方、ナノボウル基板におけるピークシフト量は、約120nmであった。すなわち、ナノボウル基板におけるピークシフト量は、マイクロボウル基板におけるピークシフト量の約6倍も大きかった。これは、ナノボウル基板を用いることでサンプル間の屈折率の違いを高感度に検出可能であることを意味している。実際、水の屈折率(1.33)とエタノールの屈折率(1.36)との間にはわずかな違いしか存在しないが、サンプルが水である場合とサンプルがエタノールである場合との間で反射スペクトルのピークシフトを検出できた。
【0129】
水または液体をサンプルとしてナノボウル基板に滴下して反射スペクトルを測定した後、サンプルを除去してから反射スペクトルを再度測定した場合、サンプル滴下前(すなわちサンプルが空気の場合)と同等の測定結果が得られた。マイクロボウル基板についても同様であった。これらの結果は、ナノボウル基板およびマイクロボウル基板が繰り返し使用可能であることを示している。
【0130】
図31は、サンプルに微小物体が含有されている場合の検出キット10の反射スペクトルの測定領域を示す図である。図32は、サンプルに微小物体が含有されている場合の検出キット10の反射スペクトルの測定結果の一例を示す図である。検出キット10にはナノボウル基板を用いた。微小物体としては粒子径100nmのポリスチレンビーズを用いた。分散媒には水を用いた。ポリスチレンビーズの濃度は4.55×1010[particles/mL]であった。サンプル体積は20μLであった。図31において円で囲まれた領域が反射スペクトルの測定領域である。図32に示すように、微小物体が含まれるサンプルにおいても反射スペクトルの長波長シフトが確認された。
【0131】
ポリスチレンビーズの濃度4.55×1010[particles/mL]は、前述した飛沫に含まれる新型コロナウイルスの濃度と同程度である。したがって、図32に示す測定結果は、反射スペクトルを用いる場合にも、飛沫程度の極微量のサンプルから新型コロナウイルスを検出できる可能性を示唆したものである。
【0132】
図33は、実施の形態2における微小物体の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。S201において、サンプルがボウル領域上に準備された検出キット10がxyz軸ステージ1上に設置される。
【0133】
S202において、コントローラ9は、白色光を照射するように照明光源4を制御する。そして、コントローラ9は、レーザ光の照射に先立ち、ボウル領域のうちレーザ光を照射しようとする領域の反射スペクトルを分光光度計7から取得する。
【0134】
S203において、コントローラ9は、所定出力のレーザ光を所定時間だけ出力するようにレーザ光源3を制御する。これにより微小物体がレーザ光の照射領域(レーザスポット)に集積される。微小物体の集積後、レーザ光の照射は停止される。
【0135】
S204において、コントローラ9は、レーザスポットの反射スペクトルを分光光度計7から取得する。反射スペクトルの取得後は白色光の照射を終了できる。
【0136】
S205において、コントローラ9は、S203にて取得された反射スペクトルとS204にて取得された反射スペクトルとを比較することで、反射スペクトルの変化の有無を判定する。コントローラ9は、所定量以上のピークシフトが検出された場合に反射スペクトルの変化ありと判定できる。あるいは、コントローラ9は、特定の波長において、所定量以上の反射率変化が検出された場合に反射スペクトルの変化ありと判定できる。反射スペクトルの変化が検出されなかった場合(S205においてNO)、コントローラ9は、サンプルには微小物体が含まれていないと判定する(S208)。
【0137】
一方、反射スペクトルの変化が検出された場合(S205においてYES)、コントローラ9は、ピークシフト量から、サンプルに含有される微小物体の濃度を算出する(S207)。あるいは、コントローラ9は、反射率変化量から、サンプルに含有される微小物体の濃度を算出してもよい。これらの処理も図15等にて説明した検量線と同様に、ピークシフト量または反射率変化量と微小物体の濃度との間の検量線を事前に求めておくことにより実現される。具体的な測定結果については後述する実施例(図34図37参照)にて説明する。S207またはS208の処理が終了すると、コントローラ9は、処理をメインルーチンへと戻す。
【0138】
実施の形態1,2に係る検出システム100,101は、撮影機器6および分光光度計7の両方を備える(図1参照)。しかし、実施の形態1のように微小物体の集積面積に基づいて微小物体を検出する場合には、分光光度計7が設けられていなくてもよい。一方、実施の形態2のようにボウル領域の反射スペクトルに基づいて微小物体を検出する場合には、撮影機器6が設けられていなくてもよい。ただし、撮影機器6および分光光度計7の両方を備えるシステム構成とすることで、微小物体の検出に使用する手法(集積面積/反射スペクトル)を適宜選択できる。また、2つの手法を併用することも可能になる。
【0139】
[実施の形態2の実施例]
図34は、微少物体の集積前後における反射スペクトルの変化の一例を示す図である。微小物体としては粒子径100nmのポリスチレンビーズを用いた。分散媒には水を用いた。ポリスチレンビーズの濃度は4.55×1010[particles/mL]であった。図34に示すように、580nm付近から640nm付近へのピーク波長の明確なシフトが確認された。
【0140】
図35は、反射スペクトルのピークシフト量から微小物体の濃度を算出するための検量線の一例を示す図である。図36は、反射スペクトルの反射率変化量から微小物体の濃度を算出するための検量線の一例を示す図である。図37は、微小物体の集積面積から微小物体の濃度を算出するための検量線の一例を示す図である。図35図37において、横軸は微小物体の濃度を表す。図35縦軸はピークシフト量を表す。ピーク波長としては、反射スペクトルをガウスフィッティングした場合の反射率が最大になる波長を採用した。図36の縦軸は反射率変化量を表す。この例では波長650nmにおける反射率の集積前後での変化量を反射率変化量として採用した。図37の縦軸は微小物体の集積面積を表す。
【0141】
図35図37より、ピークシフト量、反射率変化量、微小物体の集積面積の3つの指標のいずれにおいても、3回の測定結果がよく直線状に乗っており、決定係数Rが1に近いことが分かる。したがって、上記3つの指標のいずれであっても、サンプルに含有される微小物体を定量的に検出可能であることが示されたと言える。
【0142】
以上のように、実施の形態2においては、実施の形態1と同様にナノボウル基板が用いられる。これにより、サンプル中に分散した複数の微小物体を高効率に集積できる。また、実施の形態2では、微小物体の集積面積に代えてボウル領域の反射スペクトルが用いられる。その場合でも、サンプル中に分散した複数の微小物体を迅速に検出したり、サンプル中の微小物体の含有量を定量したりできる。
【0143】
[実施の形態3]
実施の形態3においては、複数種類の微小物体が混合されたサンプルにおける微小物体の含有量を定量する構成について説明する。以下の測定例では、蛍光ビーズを含有するサンプルを用いた。ビーズ以外の各種微小物体も蛍光色素により標識可能である。
【0144】
以下に説明する最初の測定例では2種類のサンプルを準備した。第1のサンプルは、青色の蛍光を発する蛍光ビーズ(Polysciences社製Fluoresbrite BB)を含む。この蛍光ビーズの材料はポリスチレンであり、粒子径は1.0μmであった。以下、粒子径1.0μmの蛍光ビーズを「マイクロ粒子」とも称する。第1のサンプルに含まれるマイクロ粒子の濃度は4.55×10[particles/mL]であった。第2のサンプルは、黄緑色の蛍光を発する蛍光ビーズ(Polysciences社製Fluoresbrite YG)を含む。この蛍光ビーズの材料はポリスチレンであり、粒子径は100nmであった。以下、粒子径100nmの蛍光ビーズを「ナノ粒子」とも称する。第2のサンプルに含まれるナノ粒子の濃度は4.55×1010[particles/mL]であった。
【0145】
図38は、第1および第2のサンプルの各々を単独で使用した場合のボウル領域の画像および蛍光像を示す図である。レーザ出力は10mWであった。レーザ照射時間は90秒であった。レーザ波長は800nmであった。図38より、第1のサンプルを単独で使用した場合にマイクロ粒子がボウル領域に集積されること、および、第2のサンプルを単独で使用した場合にナノ粒子がボウル領域に集積されることが確認された。
【0146】
図39は、マイクロ粒子およびナノ粒子の両方を含む混合サンプルにおけるボウル領域の画像および蛍光像を示す図である。図40は、図39に示したボウル領域を自然乾燥後に直上から観察したSEM像である。図41は、図39に示したボウル領域を自然乾燥後に検出キット10の主面に対して45°の角度で観察したSEM像である。マイクロ粒子とナノ粒子との個数比は1:1000であった。この場合、混合サンプルに含まれるマイクロ粒子の体積の総和(=各マイクロ粒子の体積×マイクロ粒子の個数)とナノ粒子の体積の総和(=各ナノ粒子の体積×ナノ粒子の個数)との比は1:1である。レーザ出力は10mWであった。レーザ照射時間は90秒であった。レーザ波長は1064nmであった。
【0147】
図39に示す蛍光像より、第1および第2のサンプルを混合した場合にマイクロ粒子およびナノ粒子の両方がボウル領域に集積されることを確認できた。また、ボウル領域の中心部にはナノ粒子がマイクロ粒子よりも高密度に集積されていることも観察された。このことから微小物体の集積場所が微小物体のサイズに依存することが分かる。
【0148】
図42は、様々な混合サンプルの蛍光スペクトルの測定結果の一例を示す図である。この例では5種類のサンプル(第3~第7のサンプル)を準備した。第3のサンプルに含まれる蛍光ビーズは、黄緑色の蛍光を発するナノ粒子である(Polysciences社製Fluoresbrite YG)である。第4のサンプルに含まれる蛍光ビーズは、黄橙色の蛍光を発するマイクロ粒子である(Polysciences社製Fluoresbrite NYO)である。第5のサンプルは、上記2種類の蛍光ビーズ(YGおよびNYO)をYG:NYO=4:1の体積比で含むサンプルである。第6のサンプルは、上記2種類の蛍光ビーズをYG:NYO=1:1の体積比で含むサンプルである。第7のサンプルは、上記2種類の蛍光ビーズをYG:NYO=1:4の体積比で含むサンプルである。各サンプルについて、ボウル領域内の異なる3つの場所の蛍光スペクトルを測定した。
【0149】
図42に示すように、サンプル毎に蛍光スペクトルの形状が大きく異なった。これは、第5~第7のサンプルのようにマイクロ粒子とナノ粒子とが混合されていてもマイクロ粒子を選択的に検出したりナノ粒子を選択的に検出したりできることを意味している。また、蛍光スペクトルの形状に基づいてマイクロ粒子とナノ粒子との含有比(体積比)を求めることが可能であることも分かる。
【0150】
図43は、実施の形態3における微小物体の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。S301において、サンプルがボウル領域上に準備された検出キット10がxyz軸ステージ1上に設置される。
【0151】
S302において、コントローラ9は、所定出力のレーザ光を所定時間だけ出力するようにレーザ光源3を制御する。これにより微小物体がレーザスポットに集積される。
【0152】
S303において、コントローラ9は、励起光を照射するように励起光源4Aを制御しつつ、レーザスポットにおける蛍光スペクトルを分光光度計7から取得する。
【0153】
S304において、コントローラ9は、蛍光スペクトルの形状を既知のスペクトル形状と比較することで、サンプルに含有される微小物体の含有比を算出する。既知のスペクトルとは、図42にて説明したような蛍光スペクトルを事前に測定したものである。S304の処理が終了すると、コントローラ9は、処理をメインルーチンへと戻す。
【0154】
以上のように、実施の形態3においては、実施の形態1,2と同様にナノボウル基板が用いられる。これにより、サンプル中に分散した複数の微小物体を高効率に集積できる。さらに、実施の形態3では、ボウル領域の蛍光スペクトルが測定される。これによっても実施の形態2と同様に、サンプル中に分散した複数の微小物体を迅速に検出できる。特に、蛍光スペクトルを用いることで、複数種類の微小物体が混合されたサンプルにおいて微小物体の種類毎(サイズ毎)の含有量を定量できる。これにより、たとえばサンプルが検出対象とする微小物体以外に夾雑物を含む場合であっても、検出対象とする微小物体を選択的に定量することが可能になる。
【0155】
[実施の形態4]
実施の形態4においては透過型の検出キットの製造方法について説明する。
【0156】
図44は、実施の形態4における検出キットの製造方法の概略工程図である。図44(A)を参照して、この例では上方が開口された円筒状の容器であるガラスボトムディッシュ21が準備される。ガラスボトムディッシュ21は、ガラスボトムディッシュ21の底面中央に設けられたウェル(測定ホール)22と、ウェル22の周囲のディッシュ部23とを含む。
【0157】
まず、イオンスパッタリング法、真空蒸着法、無電解メッキ法などによってガラスボトムディッシュ21の内面(上面)全体に金属薄膜211が形成される(図44(B)参照)。たとえば厚さ50nmの金薄膜を形成できる。
【0158】
続いて図44(C)に示すように、ウェル22に形成された金属薄膜211が除去される。たとえば、エタノールを含ませた綿棒24を接触させることによって金属薄膜211を除去できる。このとき、ウェル22の外周(ディッシュ部23に繋がる端の領域)とディッシュ部23との間の電気的な接続(金属薄膜211の導通)が維持されるように、ウェル22の外周の金属薄膜211を残すことが望ましい。
【0159】
図44(D)において、ガラスボトムディッシュ21の内面全体に金属薄膜212が追加的に形成される。2回目に形成される金属薄膜212の厚みは、1回目に形成される金属薄膜211の厚みよりも薄いことが望ましい。この例では、1回目では厚さ50nmの金薄膜が形成されるのに対し、2回目では厚さ10nmの金薄膜が形成される。
【0160】
その後、樹脂ビーズ(Bで示す)が分散した分散液がウェル22に形成された金属薄膜212上に滴下される。樹脂ビーズのサイズおよび材料は図6での説明と同様である。たとえば直径500nmのポリスチレンビーズを用いることができる。分散液を室温にて自然乾燥させると、複数の樹脂ビーズが自己組織化により単層状かつ周期的に金属薄膜212上に配列する(図44(E)参照)。これにより、樹脂ビーズの単層膜がウェル22に形成される。なお、自己組織化に代えてリソグラフィーなどの他の手法を用いてもよい。
【0161】
図44(F)において、樹脂ビーズの単層膜の隙間を埋め、かつ、各樹脂ビーズの表面の一部が露出するように、導電性ポリマー膜213が形成される。たとえば図6での説明と同様に、30秒の電解重合によりポリピロール膜213を形成できる。
【0162】
その後、ガラスボトムディッシュ21(ディッシュ部23)からウェル22が剥離される(図44(G)参照)。たとえば、ピンセット(図示せず)を用いて物理的な力を印加することによって、ガラスボトムディッシュ21からウェル22を剥離できる。
【0163】
そして、電性ポリマー膜213の材料よりも樹脂ビーズの材料を溶解しやすい溶剤を用いて樹脂ビーズを選択的に溶解することによって、樹脂ビーズが除去される(図44(H)参照)。たとえば、クロロホルム溶液に1分間浸すことにより樹脂ビーズを除去できる。
【0164】
最後に、導電性ポリマー膜213上に金属薄膜214がさらに形成される(図44(I)参照)。この処理にもイオンスパッタリング法、真空蒸着法、無電解メッキ法などを用いることができる。3回目に形成される金属薄膜214の厚みは、たとえば10nmである。これにより、透過型の検出キット20が完成する。
【0165】
図45は、図44に示した製造方法によって製造された検出キット20の画像を示す図である。図45からは、検出キット20が半透明であるため、検出キット20を持つ指(右上参照)が透けて見えることが分かる。このように、実施の形態4において製造される検出キット20は透過型である。
【0166】
図46は、透過型の検出キット20の透過スペクトルの測定結果の一例を示す図である。サンプルには空気または水(微小物体は非含有)を用いた。空気および水のいずれにおいても透過スペクトルを測定できた。2つの透過ペクトルの形状は同様であった。サンプルが水である場合には、サンプルが空気である場合と比べて、透過スペクトルの強度が全体的に低くなった。
【0167】
透過型の検出キット20におけるレーザ照射結果について説明する。前述の例と同様に、粒子径100nmのナノ粒子(黄緑色の蛍光を発する蛍光ビーズ)を使用した。ナノ粒子の濃度は4.55×1011[particles/mL]であった。
【0168】
図47は、透過型の検出キット20におけるレーザスポットの画像を示す図である。実施の形態1にて示した全体構成図(図1参照)では、下方に位置する検出キット10の表面(おもてめん)に向けて、上方からレーザ光が照射されている。図示しないが、この例では透過型の特徴を活かし、上方に位置する検出キット20の裏面(下面)に向けて、下方からレーザ光を照射した。レーザ出力は15mW、10mWまたは5mWに設定した。レーザ照射時間は60秒であった。レーザ波長は800nmであった。
【0169】
図47に示すように、レーザ出力が5mWであってもマイクロバブルが発生することが確認された。これは、透過型の検出キット20を用いて下方から上方への照射を行う場合、実施の形態1のように非透過型(反射型)の検出キット10を用いて上方から下方への照射を行う場合と比べて、低いレーザ出力でもマイクロバブルが発生する可能性を示唆するものである。また、検出対象の種類(付着細胞など)によっては下方からの方が上方からよりも観察しやすいとのメリットも存在する。
【0170】
図48は、透過型の検出キット20によるナノ粒子の集積結果を示す図である。この例でも上方に位置する検出キット20に向けて、下方からレーザ光を打ち上げるように照射した。レーザ出力は10mWに設定した。レーザ照射時間は60秒であった。レーザ波長は800nmであった。図48に示すように、透過型の検出キット20を用いてもナノ粒子を光濃縮して蛍光像により検出できることを確認できた。
【0171】
以上のように、実施の形態4においては透過型の検出キット20が製造される。透過型の検出キット20を用いることで、上方から表面(おもてめん)へのレーザ照射に加えて、下方から裏面へのレーザ照射によっても微小物体を集積することが可能になる。
【0172】
[付記]
最後に本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0173】
(付記1)
液体試料中に分散した複数の微小物体を集積する、微小物体の集積方法であって、
光熱変換領域に接触するように前記液体試料を準備するステップと、
前記光熱変換領域の吸収波長域に含まれる波長を有する光を前記光熱変換領域に照射することによって、前記光の照射領域にバブルを発生させて前記バブルの周囲に前記複数の微小物体を集積するステップとを含み、
前記光熱変換領域は、
前記光を熱に変換する第1の材料を有する第1の薄膜と、
複数の非貫通孔が前記第1の薄膜上に周期的に配列された構造体と、
前記光を熱に変換する第2の材料を有し、前記構造体の少なくとも一部分に配置された第2の薄膜とを含み、
前記複数の非貫通孔および前記照射領域のサイズは、前記光熱変換領域を上面視した場合に、前記複数の非貫通孔のうちの少なくとも2つの非貫通孔の全体が前記照射領域に含まれるように定められている、微小物体の集積方法。
【0174】
(付記2)
前記複数の非貫通孔は、周期的に2次元配列された格子点の位置に配置され、
前記複数の非貫通孔および前記照射領域のサイズは、少なくとも1つの単位格子の格子点の位置に配置されたすべての非貫通孔の全体が前記照射領域に含まれるように定められている、付記1に記載の微小物体の集積方法。
【0175】
(付記3)
前記複数の非貫通孔は、ハニカム状に配置され、
前記複数の非貫通孔および前記照射領域のサイズは、少なくともハニカム格子の格子点の位置に配置された6つの非貫通孔の全体が前記照射領域に含まれるように定められている、付記2に記載の微小物体の集積方法。
【0176】
(付記4)
前記複数の非貫通孔の各々は、内壁面がボウル型構造を形成する窪みである、付記1~3のいずれか1項に記載の微小物体の集積方法。
【0177】
(付記5)
前記ボウル型構造は、半球状よりも深い球欠状の窪みである、付記4に記載の微小物体の集積方法。
【0178】
(付記6)
前記第2の薄膜は、
前記ボウル型構造の外部に配置された第3の薄膜と、
前記ボウル型構造の内部に配置された第4の薄膜とを含む、付記5に記載の微小物体の集積方法。
【0179】
(付記7)
前記複数の非貫通孔の各々の孔径は、前記光の中心波長よりも小さい、付記1~6のいずれか1項に記載の微小物体の集積方法。
【0180】
(付記8)
前記集積するステップは、前記光の照射停止後に前記バブルが収縮するまで待機するステップをさらに含む、付記1~7のいずれか1項に記載の微小物体の集積方法。
【0181】
(付記9)
前記光熱変換領域は、前記光熱変換領域を上面視した場合に半透明に構成され、
前記集積するステップは、前記光熱変換領域の下面から前記光を照射するステップをさらに含む、付記1~8のいずれか1項に記載の微小物体の集積方法。
【0182】
(付記10)
付記1~9のいずれか1項に記載の微小物体の集積方法と、
前記光を照射した前記液体試料からの光を受光器により検出するステップと、
前記受光器からの信号に基づいて、前記液体試料中における前記複数の微小物体を検出するステップとを含む、微小物体の検出方法。
【0183】
(付記11)
前記受光器は、カメラを含み、
前記複数の微小物体を検出するステップは、
前記カメラにより撮影された画像から前記複数の微小物体の集積面積を算出するステップと、
前記複数の微小物体の濃度と前記複数の微小物体の集積面積との間に予め求められた相関関係を参照することによって、算出された前記集積面積から前記液体試料に含まれる前記複数の微小物体の濃度を算出するステップとを含む、付記10に記載の微小物体の検出方法。
【0184】
(付記12)
前記複数の微小物体は、複数のウイルス、複数のタンパク質、複数の抗体、ならびに、各々がタンパク質および抗体を含む複数の複合体のうちの少なくとも1つを含み、
前記検出方法は、前記複数の微小物体を集積するステップに先立ち、
前記複数の微小物体のうちの対応する微小物体と特異的に結合するホスト物質により各々が修飾された複数の微粒子を含む他の液体試料を準備するステップと、
前記光熱変換領域に接触するように前記他の液体試料を準備するステップと、
前記光熱変換領域の吸収波長域に含まれる波長を有する光を前記光熱変換領域に照射することによって、前記光の照射領域にバブルを発生させて前記バブルの周囲に前記複数の微粒子を集積するステップとをさらに含む、付記11に記載の微小物体の検出方法。
【0185】
(付記13)
前記受光器は、反射光を測定可能に構成された分光器を含み、
前記複数の微小物体を検出するステップは、前記分光器により前記複数の微小物体の集積位置における反射スペクトルを測定するステップを含む、付記10に記載の微小物体の検出方法。
【0186】
(付記14)
前記検出するステップは、
前記反射スペクトルのピークシフト量または反射率変化量を算出するステップと、
前記複数の微小物体の濃度と前記ピークシフト量または前記反射率変化量との間に予め求められた相関関係を参照することによって、算出された前記ピークシフト量または前記反射率変化量から前記液体試料に含まれる前記複数の微小物体の濃度を算出するステップとを含む、付記13に記載の微小物体の検出方法。
【0187】
(付記15)
前記複数の微小物体は、
所定波長の蛍光を発する複数の第1の物体と、
前記所定波長とは異なる波長の蛍光を発し、前記複数の第1の物体よりも小さい複数の第2の物体とを含み、
前記受光器は、蛍光を測定可能に構成された分光器を含み、
前記複数の微小物体を検出するステップは、
前記分光器により前記複数の微小物体の集積位置における蛍光スペクトルを測定するステップと、
前記蛍光スペクトルに基づいて、前記液体試料に含まれる前記複数の第1の物体と前記複数の第2の物体との比率を算出するステップとを含む、付記10に記載の微小物体の検出方法。
【0188】
(付記16)
液体試料に含まれる可能性がある被検出物質を検出するための検出キットの製造方法であって、
基板の上面に第1の金属薄膜を形成するステップと、
前記第1の金属薄膜のうち前記上面の所定領域に形成された金属薄膜を除去するステップと、
前記所定領域を含む前記上面に第2の金属薄膜を形成するステップと、
前記所定領域に形成された前記第2の金属薄膜上に複数の微粒子を周期的に配列させるステップと、
前記複数の微粒子の各々の表面の一部が露出するように導電性薄膜を形成するステップと、
前記複数の微粒子を溶液により除去することで前記導電性薄膜に複数の窪みを形成するステップと、
前記複数の窪みの各々の少なくとも一部分に第3の金属薄膜を形成するステップとを含む、被検出物質の検出キットの製造方法。
【0189】
(付記17)
液体試料中に分散した複数の微小物体を集積する、微小物体の集積方法であって、
付記16に記載の製造方法に従って製造された検出キットを準備するステップと、
前記検出キットの表面(おもてめん)に配置された光熱変換領域に接触するように前記液体試料を準備するステップと、
前記光熱変換領域の吸収波長域に含まれる波長を有する光を前記検出キットの裏面から前記光熱変換領域に照射することによって、前記光の照射領域にバブルを発生させて前記バブルの周囲に前記複数の微小物体を集積するステップとを含む、微小物体の集積方法。
【0190】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0191】
本開示は、液体試料中に分散した各種微小物体(たとえば、PM2.5などの有害微粒子、マイクロプラスチックもしくはナノプラスチックなどの環境負荷物質、または、様々な細菌もしくはウイルス)を高効率に集積することで微小物体を高感度かつ迅速に検出する態様で利用可能である。本開示は、液体試料に微小物体が含まれるか否かの判定、および/または、液体試料中の微小物体の濃度の特定にも利用できる。本開示は、たとえば新型コロナウイルス感染症の検査にも有効に利用され得る。
【符号の説明】
【0192】
1 xyz軸ステージ、2 調整機構、3 レーザ光源、31 レンズ、4 照明光源、4A 励起光源、5 対物レンズ、6 撮影機器、61 レンズ、62 蛍光フィルタ、7 分光光度計、71 レンズ、81 ダイクロイックミラー、82,83 ハーフミラー、9 コントローラ、91 プロセッサ、92 メモリ、93 入出力ポート、10 検出キット、11 底部、12 頂部、13 側部、110 基板、111,113 金属薄膜、112 導電性ポリマー膜、20 透過型の検出キット、21 ガラスボトムディッシュ、22 ウェル、23 ディッシュ部、24 綿棒、211,212,214 金属薄膜、213 導電性ポリマー膜、100,101 検出システム。
図1
図2
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